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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2013890034 審決 商標
無効2014890025 審決 商標
無効2012890070 審決 商標
不服200919186 審決 商標
無効2011890101 審決 商標

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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X29
管理番号 1247985 
審判番号 無効2011-890023 
総通号数 145 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2012-01-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-03-31 
確定日 2011-11-14 
事件の表示 上記当事者間の登録第5365326号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5365326号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
登録第5365326号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)に示すとおりの構成からなり、平成22年3月18日に登録出願、第29類「加工野菜及び加工果実,豆」及び第30類「菓子及びパン,穀物の加工品」を指定商品として、同年9月17日に登録査定、同年11月5日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が本件商標を商標法第4条第1項第11号に該当するとして引用する登録商標は、以下のとおりであり、いずれも現に有効に存続しているものである。
1 登録第1905805号商標(以下「引用A商標」という。)は、「Glico」の欧文字を書してなり、昭和59年7月31日に登録出願、第30類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、同61年10月28日に設定登録、その後、平成8年12月24日及び同18年9月26日の2回にわたり商標権の存続期間の更新登録がなされ、指定商品については、同年10月18日に、第30類「菓子,パン」とする指定商品の書換登録がなされたものである。
2 登録第1972047号商標(以下「引用B商標」という。)は、「Glico」の欧文字を書してなり、昭和59年7月31日に登録出願、第32類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、同62年7月23日に設定登録、その後、平成9年7月18日及び同19年4月3日の2回にわたり商標権の存続期間の更新登録がなされ、指定商品については、同年7月25日に、後記に記載のとおりの商品とする指定商品の書換登録がなされたものである。
3 登録第2469574号商標(以下「引用C商標」という。)は、「グリコ」の片仮名を書してなり、平成元年6月13日に登録出願、第30類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、同4年10月30日に設定登録、その後、同14年10月1日に商標権の存続期間の更新登録がなされ、指定商品については、同年10月23日に、第30類「菓子,パン」とする指定商品の書換登録がなされたものである。
4 登録第2656196号商標(以下「引用D商標」という。)は、「グリコ」の片仮名を書してなり、平成4年1月20日に登録出願、第32類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、同6年4月28日に設定登録、その後、同16年3月30日に商標権の存続期間の更新登録がなされ、指定商品については、同年4月21日に、後記に記載のとおりの商品とする指定商品の書換登録がなされたものである。
5 登録第2656197号商標(以下「引用E商標」という。)は、別掲(2)に示すとおりの構成からなり、平成4年1月20日に登録出願、第32類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、平成6年4月28日に設定登録、その後、同16年3月30日に商標権の存続期間の更新登録がなされ、指定商品については、同年4月21日に、後記に記載のとおりの商品とする指定商品の書換登録がなされたものである。
6 登録第2671736号商標(以下「引用F商標」という。)は、別掲(2)に示すとおりの構成からなり、平成4年1月20日に登録出願、第30類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、同6年6月29日に設定登録、その後、同16年3月30日に商標権の存続期間の更新登録がなされ、指定商品については、同年4月21日に、第30類「菓子,パン」とする指定商品の書換登録がなされたものである。

第3 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第23号証(枝番を含む。)を提出した。
1 理由の根拠条文
本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同第15号に該当するにもかかわらず登録されたものであるから、商標法第46条第1項の規定により無効にすべきものである。
2 審判請求の利益
請求人は、大正10年栄養菓子「グリコ」を創製して以来、その商号の一部である「グリコ」の称呼が生じる「グリコブランド」を取引者、需要者へ浸透を図るべく、商品パッケージをはじめ、「菓子」のTVCM等において、当初は欧文字「GLICO」を、その後は欧文字「glico」を請求人が販売する「菓子」を始めとする「栄養調整食品」や「スポーツサプリメント」、「カレールウ」、「レトルト食品」等の商品名と共に必ず使用することで「Glico」「glico」による「グリコブランド」を取引者、需要者に浸透を図るというブランド戦略を取ってきている。
そして、請求人は菓子事業ばかりではなく、事業内容の多角化の見地から本件商標の指定商品が含まれる「加工果実」や「穀物の加工品」の分野においても「グリコブランド」の商品の製造・販売を行ってきているところであり、本件商標の各指定商品についても著名ブランドである「グリコ」につき複数の登録商標を所有している。
かかる状況下において、本件商標がその指定商品について使用された場合には、本件商標は、請求人の所有する各登録商標と類似することから、その商品の出所につき混同を生じるおそれがある。
さらに、請求人は、「菓子」以外にも「栄養調整食品」や「健康食品」等の、グループ企業である「グリコ栄養食品株式会社」が「食品原料や畜産加工品」等の、「グリコ乳業株式会社」が「乳製品・飲料」等の、「アイクレオ株式会社」が「育児用粉ミルク」等の製造・販売を行うことで、グリコグループは、乳児を初めとして全年齢を対象とした食品を取り扱う総合食品メーカーグループを形成しており(甲第2号証)、「グリコブランド」は、かかる総合食品グループの冠ブランドとしての著名性を獲得しているものである。
そして、請求人グループは、本件商標の指定商品が属する分野において、この「グリコブランド」を冠した多くの商品ラインナップを有しており、請求人の「グリコブランド」は、「菓子」をも含んだ各種食品の著名なブランド名であることから、本件商標をその指定商品に使用した場合には、請求人が「菓子」を中心に築いてきている著名ブランドの指標力を希釈化する恐れがある。
したがって、請求人は、本件審判を請求することにつき利害関係を有する。
3 無効理由
(1)商標法第4条第1項第11号について
ア 引用各商標について
引用商標は、上記第2記載のとおりであり、請求人は、引用商標の商標権者である(甲第3号証ないし同第8号証)。
イ 指定商品の同一性
本件商標の指定商品は、第29類「加工野菜及び加工果実」、第30類「菓子、パン、穀物の加工品」であるところ、引用各商標の指定商品中には、これら各指定商品が全部又は一部含まれている。
したがって、本件商標の指定商品と引用商標の指定商品とは同一のものである。
ウ 商標の類似性
(ア)請求人のブランド名が本件商標の指定商品中の「菓子」「加工果実」「穀物の加工品」が属する分野についても良く知られていることについて
請求人は上述したように、創製菓子メーカーとして事業を開始し、この「菓子事業」を中核事業とし、この菓子をも含む各種食品事業の商品に引用各商標に代表される「グリコブランド」を積極的に使用した結果、「グリコブランド」は、食品一般において著名性を獲得している。
このことは、特許庁の審決においても顕著な事実であるとされている(甲第9号証の1ないし同第9号証の3)。
すなわち、請求人は、その企業理念として良く知られている「おいしさと健康」を実現するために、「菓子類」は勿論のこと、「毎日果実」(甲第10号証の1)、「バランスオン」(甲第10号証の2)、「おからだから」(甲第10号証の3)、といったいわゆる「栄養調整製品」を積極的に製造・販売し、グループ会社である「グリコ栄養食品株式会社」が、「ラーメンのめん」について「麺好亭」シリーズの製造・販売を行い(甲第11号証)、これらの商品のいずれにも「グリコブランド」が表示されている。
そして、これらの商品のいずれも「スーパーマーケット」のみならず「コンビニエンスストアー」等で販売されている食品である点では、本件商標の各指定商品とは、用途、販売方法、需要者においてかなり密接な関係に有するものであって、「グリコブランド」は、「菓子」をも含んだ本件商標の各指定商品が属する分野においても著名性を獲得している。
(イ)商標の類否判断に当たっての引用商標の著名性について
商標の類否は、対比される両商標がその商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるかどうかによって決定されるべきものであり、かかる判断に際しては、当該商品の取引の実情が考慮されるべきである。そして、引用商標が極めて高い著名性を獲得しているという事実は、商品の出所混同のおそれを増幅させる可能性のある事情といえるから、かかる事実についても、商標の類否判断において参酌されるべき取引の実情にあたるというべきである。
(ウ)本件商標と引用A商標、引用B商標、引用E商標及び引用F商標との類否について
a はじめに
上述したように、請求人は、ブランド戦略として、商品「菓子」等につき著名性を獲得している「グリコブランド」を表示する商標を、1992年4月以前まではゴシック体「Glico」から成る引用A商標及び引用B商標を、それ以後は筆記体からなる引用E商標及び引用F商標を、上述した請求人(グループ企業をも含む)の提供にかかる商品の商品名と共に必ず商品パッケージに付して販売することで、当該著名ブランドにつき「菓子」のみならず「加工果実」や「穀物の加工品」をも含んだ「食品」全般についても訴求を図っている(甲第12号証の1及び同第12号証の2)。
b 本件商標と引用A商標及び引用B商標とが類似することについて
(a)本件商標について
本件商標は、欧文字「Crico」とその下に白と黒とで塗り分けられている棒状の図形が配された構成から成っているが、かかる棒状図形に比して欧文字部分「Crico」が大書されており、かつ「Crico」がこの棒状図形の上に表示されていることから、本件商標に接した取引者、需要者は、一見して欧文字部分「Crico」のみを認識すると考えることが、商取引の経験則に合致している。
したがって、本件商標の場合、その構成要素中の欧文字部分「Crico」が、単独で識別力を発揮するものである。
(b)称呼類似について
本件商標の要部である欧文字「Crico」からは、これをローマ字読みした「クリコ」の称呼が生ずる。
これに対し、引用A商標及び引用B商標を構成する欧文字「Glico」からは、同じくローマ字読みの称呼「グリコ」が生じる。
称呼「クリコ」と称呼「グリコ」とは、3音構成中の2音「リコ」を共通にし、相違音である「ク」と「グ」についても母音(u)を共通にし、奥舌面を軟口蓋に接し発する清音と濁音との差にすぎず、例え、両差異音が、語頭に位置していてもその差は僅かで紛らわしいものであって、全体に及ぼす影響は、わずかなものである。
したがって、両称呼をそれぞれ一連に称呼するときは、同音数からなり、共に3音であって、両称呼の全体の語調、語感において一層紛らわしいものとなるから、本件商標と引用A商標及び引用B商標は、称呼上類似の商標である。
かかる請求人の主張と同様の判断を下している幾つかの審決例を甲第13号証の1ないし同第13号証の6として提出する。
しかも、この称呼上の近似性は、引用A商標及び引用B商標から生じる称呼「グリコ」自体が、本件商標の各指定商品であるいわゆる「菓子」「加工果実」「穀物の加工品」が属する業界において十分に認識されていることと相まって、称呼「クリコ」は、称呼「グリコ」に近似するものである。
(c)外観類似について
本件商標の欧文字部分「Crico」と引用商標A及び引用商標Bを構成する欧文字「Glico」とを比較すると、両者とも最初の1文字が、欧文字の大文字であり、かつ、その他の欧文字が、小文字から成っており、かかる小文字部分「ico」の部分が共通し、かつ、開口部の下顎の上端に小さな鈎状のものがあるか否かの微細な差異のみで外形が極めて近似している「C」と「G」以外、相違するのは「r」と「l」にすぎず、これら相違文字の綴りも極めて近似しているものであるから、本件商標と引用A商標及び引用B商標とは、外観上相紛らわしいものである。
このように、本件商標を構成する「Crico」が、造語であることから、本件商標に接した取引者、需要者は称呼、外観を中心に認識するものであり、本件商標が、称呼上及び外観上引用A商標及び引用B商標と近似することから、本件商標は、引用A商標及び引用B商標と類似する。
c 本件商標が引用C商標及び引用D商標と類似することについて
引用C商標及び引用D商標は、いずれも片仮名文字「グリコ」から構成されているもので有り、称呼「グリコ」が生じ、称呼「グリコ」と本件商標の構成要素中の「Crico」から生じる称呼「クリコ」とは、上述したように称呼上極めて近似したものである。
そして、本件商標の各指定商品の取引者、需要者は、広く一般消費者も含まれるものであり、これらの者が、例えば、陳列棚に添付された表示札や多数の商品とともに掲載された宣伝広告チラシの記載によって、商品の同一性を識別するに際しては、称呼が極めて重要な要素であることから、取引者、需要者による取引の実情を考慮すれば、外観及び観念に比して称呼を重視すべきことは明らかである(同旨:知財高裁平成20(行ケ)第10411号)(甲第14号証)。
したがって、引用C商標及び引用D商標と近似した称呼が生じる本件商標を付した商品と引用C商標及び引用D商標を付した商品とは、その出所について誤認混同を生じるおそれがあり、両商標は、類似するものである。
d 本件商標と引用E商標及び引用F商標とが類似することについて
引用E商標及び引用F商標は、現在、請求人(請求人のグループ企業をも含む)が提供する菓子は勿論のこと、「加工果実」や「穀物の加工品」といった全ての食品に使用されており、引用E商標及び引用F商標に接した取引者、需要者は、その使用商品が「菓子」の場合は当然のこととして、「加工果実」や「穀物の加工品」といった食品についても、請求人の著名ブランドを表示する商標であると認識するものである。
(a)外観類似について
引用E商標及び引用F商標と本件商標の要部を構成する「Crico」とは、5文字構成中の3文字である「i」「c」「o」が共通しており、本件商標の各指定商品が属する分野中の「菓子」は勿論のこと、その他の「加工果実」や「穀物の加工品」といった食品の分野においても、かなり知られている「glico」ブランドとは、外観上紛らわしいものである。
(b)称呼類似について
上述したように、引用E商標及び引用F商標から生じる称呼「グリコ」と本件商標の要部である「Crico」から生じる称呼「クリコ」とは、極めて近似しており、両称呼は類似する。
そして上記cでも述べたように、本件商標に接した取引者、需要者は、称呼を中心に認識するものであり、称呼において近似する本件商標は、引用E商標及び引用F商標と類似する。
e 判決例
上述の請求人の請求理由は独自なものではなく、引用商標の著名性を考慮すれば商標の類似性が高まる旨判断した判決例がある(甲第15号証及び同第16号証)。
エ まとめ
以上より、本件商標と引用各商標とは類似するものであって、その指定商品「加工果実」「菓子及びパン」「穀物の加工品」においても、引用各商標の指定商品と類似するものであるから、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものである。
(2)商標法第4条第1項第15号について
ア 引用商標について
請求人は、指定商品「菓子」につき、「グリコ」の称呼が生じる登録商標を数多く所有しているが、以下の各登録商標を商標法第4条第1項第15号に関する引用商標として提示する。
商標登録第1905805号商標(引用A商標)「GLICO」(甲第3号証)
商標登録第2469574号商標(引用C商標)「グリコ」(甲第5号証)
商標登録第2671736号商標(引用F商標)「glico」(甲第8号証)
これらの引用各商標は、請求人のハウスマークであり、かつ、創造標章である。
イ 請求人が展開している商品「菓子」についての引用商標のブランド戦略について
請求人は、1922年2月11日に大阪の三越百貨店で栄養菓子「グリコ」の販売を開始して以来、中核となる菓子事業を始め、冷菓事業、健康食品事業等で製造・販売される各種食品の商品のいずれの商品パッケージにも、その書体は時代によって異なるが(現在は、甲第4号証の商標が使用されている。)、必ず個々の商品名と共に称呼「グリコ」が生じる登録商標を表示してきており(甲第17号証の1ないし同第17号証の5)、請求人の提供に係る数多くの商品「菓子」等のTVCMにおいても、そのTVCMの終わりには必ず「glico」の文字が表示されかつ特徴のあるアクセントで「グ」「リ」「コ」と称呼されている(甲第18号証)。
そして、請求人がこれまでに提供している菓子等の各種食品分野の商品のTVCMの数は膨大であって、このことは、請求人のTVCMのタレントの数が、現在及び過去を含めても170名以上にのぼることからも伺えるところであり、これらタレントの中には、例えば、「綾瀬はるか」「井上真央」「小栗旬」「岡田准一」といったその時々の旬な女優、俳優が多く含まれている(甲第19号証)ことからも、グリコのTVCMは、年齢を越えて広く国民一般に親しまれているといっても過言ではない。
さらに、請求人が設置している、大阪市中央区の道頓堀川に架かる戎橋脇の西日本最大級のネオンサイン及び渋谷駅・ハチ公口・スクランブル交差点北東のビル2階部分に設置されている「グリコビジョン」(甲第20号証)は有名であるが、これらのいずれにも請求人の著名ブランドである「glico」が表示されていることは、全国的に著名な事実である。
また、請求人は、ネット時代に対応してグリコブランドの「菓子等」の各種商品を、グリコネットショップで通信販売を展開し(甲第21号証)、さらに請求人は、バラエティショップ「ぐりこ・や」を東京、横浜、浜名湖、名古屋、彦根、大阪、博多等、全国に17店舗を展開しており(甲第22号証)、「ぐりこ・や」では、同店舗でしか手に入らない請求人の復刻版の各種商品等を販売することで、「グリコブランド」訴求の一助としている。
かかる請求人の多年に渡る「グリコブランド」戦略の展開の結果、「グリコブランド」は、我が国において「菓子」を中心とした各種食品分野において、トップクラスのブランドとしての確固たる地位を築いているものであり、さらに、請求人が、2010年12月4日から2011年2月までの2ヵ月間にわたり、北海道から沖縄県までの全国47都道府県(権利者の住所地が属する宮城県も含まれる。)を赤色のグリコワゴン車が縦断して行われた、「おいしさと健康」を届けるキャンペーン「日本横断グリコワゴン」を展開することで(甲第23号証)、「グリコブランド」は、さらに、日本の津々浦々にまで浸透することとなり、その著名性はさらに高くなった。
このような、商品「菓子」「栄養調整食品」等を中心とした、請求人による「グリコブランド」の訴求活動及びグリコというコーポレートブランドの訴求活動を通じて、引用各商標は、「グリコブランド」を表象する商標として、本件商標の登録出願時及び査定時において、著名性を有しており、かつ、現在に至り、その著名性がさらに高まっている。
このことは、「グリコ」の文字から成る請求人所有の登録商標が、旧類の各類にわたって、防護標章がなされている事実からも裏付けられるばかりではなく、甲第8号証の1の拒絶査定不服審判事件及び同第8号証の2の異議審判事件を通じて、公権的にも認められているところである。
ウ 引用各商標と本件商標との類似性
前記において述べたとおり、本件商標と引用各商標とは、類似するものであり、取引者、需要者は、両者から共通した印象ないしはイメージを感受するものである。加えて、引用商標を構成する「Glico」「グリコ」「glico」は、いずれも特定の観念を生じさせない造語であり、独創性の高い商標である。このように、造語より構成される創造商標については、一般に強い識別力が認められ、他人がその商標と類似するような商標を使用した場合には、既成語から構成される商標よりも、需要者に対する印象、記憶、連想作用等から、出所の混同が生ずる幅は広いというべきである。
エ 引用各商標を使用する商品と本件商標の指定商品との関連性
請求人は、「おいしさと健康」というキーワードの下、「菓子」にも分類される幾種類もの「栄養調整食品」を市場に提供しており、この「栄養調整食品」と「加工果物」とは、その素材を共通にする場合が多いばかりではなく、いずれの商品も、特に「コンビニ」等の店舗では同じ棚に或いは近傍の棚置かれている等、両商品は、その生産部門、販売部門、原材料、用途及び需要者層などにおいて一致する関連性の高い商品である。
次に、「穀物の加工品」については、請求人のグループ企業である「グリコ栄養食品株式会社」が、「ラーメンその他の穀物の加工品」を販売しているところである。
そして、商品「菓子」、「加工果実」及び「穀物の加工品」のいずれも食品の範ちゅうに入ることからも明らかなように、いずれの商品の需要者層も、子供から老人に至るまでの幅広い一般消費者であり、その注意力が必ずしも高くない者を含んでいることから、商品の出所につき混同する可能性が高いものである。
オ 本件商標が請求人の引用各商標のシリーズ商標であるかの如く誤認されることについて
いわゆる「レールデュタン判決(最高裁(三小)平10年(行ヒ)85号)」で提示されているように、本号に規定する「『混同を生ずるおそれの有無』は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきである。」とされており、上記イないしエ並びに請求人が、引用各商標、特に現在では甲第7号証の商標をシリーズ商標と共に使用していること、さらには、請求人のグループ企業名の多くに「グリコ」が含まれていることから、本件商標は、引用各商標との関係で、本号にいう「他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標」に該当するものである。
したがって、本件商標がその指定商品に使用された場合には、それがあたかも請求人の「グリコブランド」商標に係る個別商品であるか、または、これと何らかの関連性を有する商品であるかの如く誤認され、或いは、その商品の出所について、組織的又は経済的に請求人と何らかの関係がある者の商品であるかの如く混同されるおそれがあるものである。
カ 請求人の著名な「グリコブランド」の信用力の希釈化
被請求人が本件商標をその指定商品について使用する行為は、請求人が永年に亘る莫大な宣伝広告費用と営業努力によって培ってきた「グリコ」「Glico」「glico」が有する信用力(ブランド価値)にただ乗りするものであり、かかる信用力(ブランド価値)を希釈化させるものであるから、競業秩序の維持の観点からも容認されるべきでない。
キ まとめ
以上より、本件商標「Crico」をその指定商品について使用するとそれがあたかも請求人の「グリコブランド」商標に係る個別商品であるか、または、これと何らかの関連性を有する商品であるかの如く誤認され、或いは、その商品の出所について、組織的又は経済的に請求人と何らかの関係を有する者の業務に係る商品、関連商品やシリーズ商品であるかの如く誤信し、その出所について混同するおそれが有る。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものである。
(3)結論
(1)及び(2)に述べたところから、本件商標は商標法第4条1項第11号又は第15号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定によりその登録は無効とすべきである。

第4 被請求人の主張
被請求人は、何ら答弁していない。

第5 当審の判断
1 請求人使用商標の周知、著名性
請求人は、本件商標の登録出願時よりも遙か以前から、「Glico」の文字を書してなる引用A商標、「グリコ」の文字を書してなる引用C商標及び別掲(2)に示す引用F商標(以下、これらを「請求人使用商標」という。)を菓子類に継続的に使用していること、また、前記商標を表示した商品について、テレビコマーシャル等を通じて、大々的かつ継続的に宣伝広告を行っていることは、証拠(甲第9号証、同第18号証ないし同第23号証)に徴するまでもなく、顕著な事実といえる。
そして、請求人使用商標は、請求人のハウスマークとして使用されているものであり、また、菓子にとどまることなく、各種食品にも使用され(甲第2号証、甲第10号証ないし同第12号証)、さらに、「グリコ」の文字が、請求人の多数の関連会社の名称の一部にも用いられている(甲第2号証)。
そうとすると、請求人使用商標は、永年の継続的使用の結果、我が国において「菓子」を中心とした各種食品分野において、ブランドとしての地位を確立しているといい得るものである。
しかして、請求人使用商標は、本件商標の登録出願時及び査定時において、菓子業界はもとより、食品を取り扱う業界にあって、「グリコ」の称呼のもと、請求人を表示する商標として、需要者の間に広く認識されるに至っており、また、一般にも広く知られ著名な商標となっていたと認め得るものである。
2 本件商標と請求人使用商標の類似性
請求人使用商標は、引用A商標が「Glico」の文字を書してなり、引用C商標が「グリコ」の文字を書してなり、引用F商標が別掲(2)に示すとおり、筆記体の「Glico」の文字を書してなるところ、いずれも、その構成文字に相応して「グリコ」の称呼を生じることが明らかであり、また、特定の意味合いを表さない造語として看取されるものである。
また、請求人使用商標は、請求人由来の独創性の高い標章ということができるものである。
これに対して、本件商標は、別掲(1)に示すとおり、「Crico」の文字とその下部に濃い灰色と薄い灰色とで塗り分けられた横に細長い形の図形とを配した構成からなるものであるところ、当該文字と図形とは、一体不可分に結合したものとは認められず、また、当該文字は、図形に比して大書されており、上段に位置し、視覚上も強く支配的な印象を与えるものであって、独立して自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものである。
したがって、本件商標は、「Crico」の文字に相応して「クリコ」の称呼を生じるものである。また、当該文字は、特定の意味合いを表す文字ではないから、本件商標は、特定の観念を生じさせないものである。
しかして、本件商標から生じる「クリコ」の称呼と請求人使用商標から生じる「グリコ」の称呼とを比較すると、両者は、3音構成中の2音「リ」及び「コ」を共通にし、第1音「ク」と「グ」が相違するものの、その相違音「ク」と「グ」は、母音(u)を共通にし、後舌面を軟口蓋に接し発する清音と濁音との微差にすぎず、両差異音が語頭に位置するとしても、称呼全体に及ぼす影響は僅かなものである。したがって、両称呼をそれぞれ一連に称呼するときは、全体の語調、語感において紛らわしいものであるから、本件商標と請求人使用商標とは、称呼において類似するものである。
また、本件商標中の「Crico」の欧文字と引用A商標の「Glico」の欧文字を比較してみると、先頭の2文字において差異はあるものの、欧文字綴り全体においては、近似した印象を与えるものといえる。
以上のとおり、本件商標は、請求人使用商標とその称呼において紛らわしいものである上、その構成欧文字において、引用A商標の構成欧文字(「Glico」)と文字綴りで近似するところがあり、かつ、ともに観念を生じさせないことから、観念の違いによってその差異を認識して明確に区別することができるものではない。
してみれば、外観、称呼及び観念を総合して、時と所を異にして両者をみた場合、本件商標と請求人使用商標とは、称呼において取り違えられるおそれが強いものであり、両商標の類似性の程度は、決して低いものということはできない。
3 本件商標の指定商品と他人の業務に係る商品との間の性質、用途又は目的における関連性の程度
本件商標の指定商品は、上記第1に記載のとおり、「加工野菜及び加工果実,豆」及び「菓子及びパン,穀物の加工品」であるところ、請求人使用商標は、菓子に主として使用されているものであるが、菓子以外にも「即席カレー」や「即席中華めん」など各種食料品について使用されているものである(甲第2号証、同第10号証ないし同第12号証)。
しかして、本件商標の指定商品は、請求人使用商標が使用されている商品と同一又は類似する商品であるか、あるいは、共に一般的な飲食料品であって、販売場所や流通経路を同じくする同一事業者が取り扱うことの多い、互いに関連性の高い商品というべきものである。
4 商品の取引者及び需要者の共通性
本件商標の指定商品と請求人使用商標が使用されている商品の需要者は、共に幼児等の年少者をも含め、老若男女からなる一般的な消費者であって、両者の取引者及び需要者は、共通するということができる。
5 出所の混同のおそれについて
本件商標と請求人使用商標との類似性の程度、請求人使用商標の周知著名性及び独創性の程度や、本件商標の指定商品と他人の業務に係る商品との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、本件商標の指定商品の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断すると、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、本件商標をその指定商品に使用した場合、当該商品に接する需要者が請求人に係る菓子に使用されて著名な「Glico」を想起して、請求人あるいは同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如く誤信し、商品の出所について混同するおそれがある商標ということができる。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当するものである。
別掲 別掲
(1)本件商標

(色彩については原本を参照。)


(2)引用E商標及び引用F商標



後記
引用B商標、引用D商標及び引用E商標の指定商品
第29類
「食肉,卵,食用魚介類(生きているものを除く。),冷凍野菜,冷凍果実,肉製品,加工水産物(「かつお節・寒天・削り節・食用魚粉・とろろ昆布・干しのり・干しひじき・干しわかめ・焼きのり」を除く。),かつお節,寒天,削り節,食用魚粉,とろろ昆布,干しのり,干しひじき,干しわかめ,焼きのり,加工野菜及び加工果実,油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆,加工卵,カレー・シチュー又はスープのもと,お茶漬けのり,ふりかけ,なめ物,たんぱくあるいはアミノ酸を主成分とする粉末状・顆粒状・タブレット状・丸薬状・ゲル状・ゼリー状・固形状の加工食品」
第30類
「コーヒー豆,穀物の加工品,アーモンドペースト,ぎょうざ,サンドイッチ,しゅうまい,すし,たこ焼き,肉まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,べんとう,ホットドッグ,ミートパイ,ラビオリ,イーストパウダー,こうじ,酵母,ベーキングパウダー,即席菓子のもと,酒かす,糖類を主成分とする粉末状・顆粒状・タブレット状・丸薬状・ゲル状・ゼリー状・固形状の加工食品」
第31類
「食用魚介類(生きているものに限る。),海藻類,野菜(「茶の葉」を除く。),茶の葉,糖料作物,果実,コプラ,麦芽」
第32類
「飲料用野菜ジュース」


審理終結日 2011-09-14 
結審通知日 2011-09-20 
審決日 2011-10-04 
出願番号 商願2010-26034(T2010-26034) 
審決分類 T 1 11・ 271- Z (X29)
最終処分 成立  
前審関与審査官 薩摩 純一 
特許庁審判長 芦葉 松美
特許庁審判官 渡邉 健司
井出 英一郎
登録日 2010-11-05 
登録番号 商標登録第5365326号(T5365326) 
商標の称呼 クリコ 
代理人 黒川 朋也 
代理人 工藤 莞司 
代理人 長谷川 芳樹 
代理人 浜田 廣士 

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