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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W41
管理番号 1387686 
総通号数
発行国 JP 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2022-08-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-01-05 
確定日 2022-08-04 
異議申立件数
事件の表示 登録第6457570号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第6457570号商標の商標登録を維持する。
理由 第1 本件商標
本件登録第6457570号商標(以下「本件商標」という。)は、「健康美容食育指導士」の文字を標準文字で表してなり、令和元年7月8日に登録出願、第41類に属する別掲1のとおりの役務を指定役務として、同3年9月16日に登録すべき旨の審決がなされ、同年10月18日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が、本件商標に係る登録異議申立ての理由において引用する登録第5036106号商標(以下「引用商標」という。)は、「食育指導士」の文字を標準文字で表してなり、平成16年11月17日に登録出願、第41類に属する別掲2のとおりの役務を指定役務として、同19年3月30日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。

第3 登録異議の申立ての理由
申立人は、本件商標は商標法第4条第1項第11号、同項第15号及び同項第19号に該当するものであるから、同法第43条の2第1号により取り消されるべきものである旨申し立て、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第71号証を提出した。
1 商標法第4条第1項第11号について
(1)引用商標の周知性について
申立人の引用商標は、申立人の使用によって周知著名なものとなっている。以下、引用商標の周知著名性について詳述する。
ア 申立人について
申立人は、平成16年(2004年)5月、未来を担う子供達及びその保護者、日本経済を担う成人に対し、食の啓蒙活動及び食育に関する知識の普及活動を行い、健康な社会の基盤作りに寄与することを目的に「NPO法人日本食育協会」を設立し(甲3、甲4)、また、現在までに全国の12府県に食育協会を設置している(甲5)。申立人は、公共団体が主催する食育をテーマにしたイベントヘの出展、食育グリーンツアーやメタボ予防食育教室等を開催し、講演だけでなく実際に体験しながら、多様化する日本の食生活において食と健康に関する正しい知識を取得できるような取り組みを行っている(甲6)。また、「食育指導士」の資格認定機関である申立人は、例えば、WHO(世界保健機関)で世界60か国以上の国と地域で食と健康に関する疫学調査を行ってきた京都大学の家森幸男名誉教授が理事長を務める「NPO法人世界健康フロンティア研究会」が開催する「世界健康フォーラム」を2008年から現在に至るまで14年にわたって後援し、支持してきたといった実績を残している(甲7、甲8)。
イ 引用商標の使用開始時期
申立人は、食と健康についての正しい知識を持ち、食育の指導ができる人材を認定するために民間資格を作り出し、この資格を付与して、食や健康に関する知識を普及するために、商標「食育指導士」(商標登録第5036104号、同第5036105号、同第5036106号)を平成17年(2005年)から現在に至るまで、長年に亘り継続して使用している(甲2、甲9、甲10、甲34)。
ウ 資格の取得方法及び事業規模
「食育指導士」の資格は、食育指導士養成講習会にて取得することができ、講習会は全国各地で定期的に開催されている。一日の講習会を通して資格を取得することができ、気軽に受験しやすく、親しみやすい資格になっている。また、大学や専門学校においても「食育指導士」の資格を取得することができるように支援し、資格の取得を目指す学生に講習を受講する機会を設ける等により、さらに資格が取得しやすく、より多くの人に身近なものとなっている(甲11〜甲25)。
近年の事業報告書によると、今日の多様化する日本の食生活において「食と健康」に関する正しい知識を身につけ、食育を通して子どもからお年寄りまであらゆる世代の人々に、その意義を啓蒙普及できる人材(食育指導士)を育成し、食育啓蒙普及を図るための食育指導士育成事業だけでも毎年2000万円以上の事業費用が費やされている(甲26〜甲29)。
また、12府県に設置されている食育協会も地域に根差した活動を精力的に行っている。例えば、静岡県食育協会の「静岡県食育実践推進事業」は、令和2年(2020年)度から、厚生労働省の地域の健康増進支援事業に採択され、補助金を得て事業を行っている。その事業では、例えば、食育指導士等によるオンライン講演会が開催されている。また、令和3年(2021年)度は「食育情報提供の子育て相談会」を開催し、食育指導士等の専門家が子育てに関する情報提供を行うことはもちろん、参加者の感想や今後の要望を伺い、地域の子育て環境のサポートを行っている(甲30〜甲33)。
エ 資格に関して
資格について紹介している様々なウェブサイトにおいて、保育士や栄養士、介護士等の資格を取得している人が自らのスキルアップのために役立つ資格として「食育指導士」が紹介されている(甲6、甲34〜甲40)。また、保育士試験の必須科目である「子どもの食と栄養」で使用されてきた書籍には、申立人が食育講座を開催し、その講座において食育劇等を行っていることや、福島県郡山市にある4つの「食育保育園」では「食育指導士」が勤務を行い、調理実習を介した食育を実践していること等が紹介されている(甲41)。そのため、これらの資格を取得している人にとってもなじみ深い資格であるといえる。
また、本件商標の拒絶査定で引用されている情報からもわかるとおり、北海道新聞や北國新聞、熊本日日新聞といった全国各地の地方紙に限らず、朝日新聞のような全国紙においても「食育指導士」が取り上げられている(甲42)。この結果、これまでに3万人以上の人たちが「食育指導士」の資格を取得している(甲43)。平成17年(2005年)からは「食育指導士」の更なる知識向上と指導リーダーを担う育成のための「上級食育指導士」の育成をも行っている(甲43)。
オ 資格取得者による使用
現在では、申立人の上記取り組み以外にも、「食育指導士」の資格取得者による食育に関する講演、大学や高校での講義、セミナーが全国各地で開催されているだけでなく、SNS等での情報の発信、テレビや新聞等のメディアヘの登場、コラムの執筆等、「食育指導士」を目にする機会がこれまで以上に増えてきている(甲44〜甲62)。

以上詳述したとおり、申立人が所有する引用商標「食育指導士」は需要者及び取引者の間で周知著名なものとなっているものといえる。
なお、本件の審査では、拒絶査定をするに当たり、調査の上、引用商標は周知性を有するものと判断されているのに対し、拒絶査定不服審判においては、単に職権調査でそのようなことは認められないと判断されたが、どこをどのように調査されたのか全く不明である。
(2)本件商標と引用商標の類否について
本件商標は、「健康」という語と、「美容」という語と、「食育指導士」という語を結語して一連に書してなるものである。
ところで、本願商標の構成中、「健康」という語は、「身体に悪いところがなく心身が健やかなこと。達者。丈夫。壮健。」等の意味を有する語として、「美容」という語は、「容貌・容姿・髪型を美しくすること。」等の意味を有する語として一般の辞書に載録されており、それぞれ広く知られている。また、本件商標の構成中、「健康」及び「美容」の語が「食育指導士」の目的を表す語であることが明らかであるから、本件商標の構成において、該文字部分は「食育指導士」の語の修飾的役割を果たしているにすぎないものである。そして、「健康」及び「美容」という語は、インターネット情報によると、「知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催」等を取り扱う分野で広く一般に使用されている実情があることから(甲63〜甲66)、該文字部分は本件商標権者の業務に係る役務の質を表しているにすぎず、自他役務の識別力を有しない若しくは識別力が極めて弱い部分であるといえる。
また、本件商標と引用商標の指定役務における需要者及び取引者は一般消費者を含むものであり、注意力がそれほど高いとはいえず、上記(1)で述べたとおり、引用商標は平成17年(2005年)から使用された結果、引用商標は我が国において周知著名なものとなっていることからすると、本件商標に接する需要者及び取引者にとっては、おのずと「食育指導士」の文字部分が強く記憶に残り、本件商標の構成中、「健康美容」の文字部分に比べ、「食育指導士」の文字部分が強く支配的な印象を与えるというべきである。
したがって、本件商標から生じる「ケンコウビヨウショクイクシドウシ」という称呼は15音と非常に冗長であることをも考慮すると、本件商標の構成中、「健康」及び「美容」の文字部分を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているということはできないから、本件商標から「食育指導士」の文字部分を要部として分離・抽出し、該文字部分のみを引用商標と比較し、商標の類否判断を行うことが許されるというべきである。
そうすると、本件商標からは「食育指導士」の文字部分に相応した「ショクイクシドウシ」の称呼を生じ、上記(1)の「食育指導士」の周知性を考慮すると、「食育の指導を行う専門家」という観念が生じる。
これに対し、引用商標は、「食育指導士」の文字を一連に横書きにしてなり、これより「ショクイクシドウシ」の称呼が生じ、「食育の指導を行う専門家」という観念が生じる。
これに関し、御庁の審決例において、結合商標の類否に関する複数の裁判例(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決、最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決、最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決)を参照した上で、「商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められないときには、その構成部分の一部を抽出し、当該部分だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することが許される場合があり、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などには、商標の構成部分の一部だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することも許される」として、類否判断を行っている(甲67)。
また、同じ役務区分における過去の御庁の審査例においても、商標「上級食育指導士」が、引用商標「食育指導士」と類似するとして、その登録を拒絶するとされている(甲68)。
上記商標「上級食育指導士」は、その構成中、「上級」の語が、「上位の等級。」等の意味を有する語として広く知られているから、自他役務の識別力を有しない若しくは識別力が極めて弱い部分であると認定され、その構成中「食育指導士」の文字部分が要部として分離・抽出され、引用商標「食育指導士」と類似すると判断されたものと思料する。
以上より、本件商標の要部は「食育指導士」であり、本件商標と引用商標からは「ショクイクシドウシ」の称呼を生じ、「食育の指導を行う専門家」を想起させるものとして共通の観念を有することから、商標自体が類似し、また、両商標は同一又は類似の指定役務を指定しており、その指定役務が抵触していることから、相紛れるおそれがある類似の商標というべきである。
2 商標法第4条第1項第15号について
まず、本件商標と引用商標の混同を生じさせるおそれの有無について検討すると、本件商標と引用商標の類似性の程度については、上記1(2)のとおり相当程度高いものである。そして、引用商標の周知著名性については、上記1(1)のとおり、申立人が各種講習やシンポジウムなどを通して引用商標を長年に亘り使用を続け、また「食育指導士」の資格取得者がセミナーや料理教室を開催するといったように、「食育指導士」が広く使用された結果、本件商標の登録出願時には既に、食と健康についての民間資格として「食育指導士」は申立人の商標として周知著名な商標となっており、現在も継続して使用されている。また、引用商標の独創性の程度については、「食育」、「指導」及び「士」の語がいずれも一般の辞書に載録されているとしても、全体として一種の造語を表してなるものであるため、独創性の程度が低いとはいえない。さらに、両商標の指定役務の関連性や需要者及び取引者の共通性については、本件商標と引用商標の指定役務が同一又は類似であることから、役務の質等も同一であり、その需要者及び取引者は共通であるというべきである。そして、上記1(2)でも述べたとおり、本件商標の指定役務の需要者及び取引者は一般消費者を含むものであるから、需要者及び取引者の通常の注意力はさほど高いものではない。
これに関し、「混同を生ずるおそれ」の有無については、「当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきである。」と判示されている(最高裁平成10年(行ヒ)第85号同12年7月12日第二小法廷判決・裁判集民事54巻6号1848頁参照)。
以上を総合すると、本件商標の指定役務について、本件商標を本件商標権者が使用した場合、これに接した需要者及び取引者は、本件商標の構成中の「食育指導士」の文字部分に注目し、申立人の周知著名な引用商標を想起、連想する。その結果、あたかも申立人が付与する民間資格であるかの如く、その役務の出所について混同を生じさせるか、あるいは申立人と組織的又は経済的に何らかの関係のある事業者の業務に係る役務であるかの如く、その役務の出所について混同を生じさせるものである。
3 商標法第4条第1項第19号について
本件商標は、その指定役務を使用した場合の出所について、申立人の商標「食育指導士」と混同を生じさせるおそれまではなくとも、申立人の商標「食育指導士」が持つ役務についての指標力を稀釈化させ、あるいはその名声を毀損する意図の下に出願されたものであることは明らかである。
本件商標権者は、以前は「フードファスティングマイスター」という資格を付与していたが、現在では名称を変更し、「健康美容食育指導士」という資格を付与している。そして、この「健康美容食育指導士」という名称で資格の付与を開始したのは、本件商標の登録出願時である令和元年(2019年)以降と非常に最近のことである(甲69〜甲71)。そして、その資格の取得方法も、本件商標権者が主催する講習を受講した上で検定試験に合格することにより資格を取得できる点や、食に関する正しい知識を身に付けることを目的としているといった点において、申立人の「食育指導士」やその上位の資格である「上級食育指導士」の資格の取得方法と共通する部分が非常に多い。また、申立人が引用商標「食育指導士」を食と健康についての民間資格として長年に亘り使用し続けた結果、本件商標の登録出願の時点において、引用商標が需要者及び取引者の間で既に周知著名であったことから、本件商標権者は、本件商標の登録出願の時点において、引用商標の存在を充分に認識していたか、あるいは認識することができたはずである。したがって、本件商標と引用商標が、たとえ役務の出所について混同を生じさせないものであっても、本件商標権者からは少なからず申立人が築き上げた指標力にただ乗りし、あるいは、信用を毀損しようとするといったような不正の意図がうかがえる。
そうすると、上記の事情に加え、健康と美容と食育のスペシャリスト資格であると紹介しているホームページ上の記載や、現実の使用状態等を鑑みると、本件商標は、不正の目的で用いる意図の下に出願されたものといえる。
また、本件商標と引用商標は、共に「ショクイクシドウシ」の称呼を生じさせる類似の商標であることは上記1(2)のとおりである。
以上より、本件商標は、日本国内で全国的に知られている商標と類似の商標について、出所の混同のおそれまではなくとも出所表示機能を稀釈化させ、その名声等を毀損させる目的をもって出願されたものである。
4 むすび
本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同項第15号及び同項第19号に違反して登録されたものであり、取り消されるべきである。

第4 当審の判断
1 引用商標の周知性について
(1)申立人提出の各甲号証、同人の主張及び職権調査によれば、以下のとおりである。
ア 申立人は、食育活動を普及、啓蒙する目的で2004年に設立されたNPO法人であり、2021年12月現在で、12府県に食育協会を設置した(甲4、甲5)。
イ 申立人は、2005年より、食の健康の知識を持って、食育指導を行う人材に与える資格試験を実施しており、当該資格を表すものとして、「食育指導士」の文字を使用している(甲34)。
ウ 「食育指導士」の資格は、認定団体が開催する講習会に参加し、試験に合格することで取得することができる、2年ごとに更新の必要のある資格であり、遅くとも2021年12月までに3万人以上の者が当該資格を取得した(甲34、甲43)。
エ 「食育指導士」は、複数の大学(短期大学を含む。)及び専門学校のウェブサイトにおいて、当該学校の食物栄養学科や保育科等で取得可能な資格の一つとして紹介されている(甲11〜甲25)。
オ 申立人の事業報告書によれば、申立人に係る「食育指導士育成事業」の事業費は、平成28年(2016年)度で22,106千円、平成29年(2017年)度で21,999千円、平成30年(2018年)度で21,873千円、令和元年(2019年)度で30,742千円であった(甲26〜甲29)。
カ また、各府県の食育協会において、「食育指導士」の有資格者によるオンライン食育講演会や子育て相談等が行われている例があることがうかがえる(甲32、甲33)。
キ 「食育指導士」は、各種資格について紹介するウェブサイト(甲6、甲34〜甲40)において、他の資格とともに紹介されているほか、ウェブサイト上に掲載された個人のプロフィール(甲48〜甲50、甲52、甲59〜甲62)及びSNS(甲55〜甲57)等に記載があることが確認できる。
ク 申立人は、「食育指導士」が全国各地の地方紙に限らず、全国紙においても取り上げられている旨主張し、証拠として本件商標に係る拒絶査定の書面(甲42)を挙げているが、当審において職権により調査したところ、本件商標の登録出願時以前に、「食育指導士」が申立人の業務に係るものとして記載されている新聞記事は、上記拒絶査定において挙げられているものを含め、全国紙4件(いずれも地方版)、地方紙16件、専門紙2件である。
(2)上記(1)によれば、申立人は、本件商標の登録出願時前の2005年から「資格試験の実施」を行っており、当該資格の名称として、「食育指導士」の文字を使用していること、「食育指導士」の有資格者数が遅くとも2021年12月までで3万人以上であること、申立人が平成28年度以降、「食育指導士育成事業」を行っており、各府県の食育協会において、「食育指導士」による講演会や子育て相談が行われていること、大学等の学校や資格を紹介するウェブサイト等において「食育指導士」の記載がみられることがうかがえる。
しかしながら、「食育指導士」の有資格者数や、「食育指導士育成事業」の事業費については、その数や費用の多寡について比較するための客観的な証拠はない。
また、各府県において食育指導士により行われた講演会や子育て相談については、その参加人数が明らかでない。
さらに、大学等の学校のウェブサイトや、各種資格を紹介するウェブサイトにおいては、「食育指導士」が資格の一つとして他の資格とともに紹介されているにすぎず、それ以外のウェブサイトにおいても、記事に登場する人物の紹介文中に「食育指導士」の有資格者であることが記載されているなど、「食育指導士」の文字が目立つ態様で掲載されているものではない。
加えて、本件商標の登録出願時以前に、「食育指導士」が申立人の業務に係るものとして紹介されている新聞記事は、全国紙の地方版4件、地方紙16件であるところ、これが特段多いものともいえず、また、その多くは、「食育指導士」が特に際立って記載されているものでもない。
してみれば、これらの証拠をもって、「食育指導士」の文字からなる引用商標が、申立人の業務に係る役務を表示するものとして、我が国の需要者の間において周知であったということはできない。
なお、引用商標の外国における使用について、申立人による主張はないし、その事実を証明する証拠の提出もない。
その他、引用商標が、本件商標の登録出願時及び登録査定時に、我が国又は外国において、申立人の業務に係る役務を表示するものとして、周知性を獲得していたと認めるに足りる証拠も見いだすことはできない。
したがって、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る役務を表示する商標として、我が国又は外国における需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。
2 商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)本件商標について
本件商標は、上記第1のとおり、「健康美容食育指導士」の文字を標準文字で表してなるところ、構成中の「健康」の文字は「身体に悪いところがなく心身がすこやかなこと。」、「美容」の文字は「容貌・容姿・髪型を美しくすること。」、「食育」の文字は「食材・食習慣・栄養など、食に関する教育。」、「指導」の文字は「目的に向かって教えみちびくこと。」、「士」の文字は「一定の資格・役割をもった者。」(いずれも株式会社岩波書店 広辞苑第七版)の意味を有する語として、それぞれ一般に親しまれた語であることから、本件商標は全体として、「健康と美容に関する食育を指導する資格を有する者」程の意味合いを理解させるものというのが相当である。
また、本件商標の構成文字に相応して生じる「ケンコービヨーショクイクシドーシ」の称呼も、やや冗長ではあるものの、よどみなく一連に称呼し得るものである。
そして、上記1のとおり、「食育指導士」の文字は、申立人の取扱いに係る役務を表示するものとして、需要者の間に広く認識されている商標と認めることはできないものであって、他に「食育指導士」の文字部分が、取引者、需要者に対し、役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認めるに足りる事情、及び、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認めるに足りる事情は、いずれも見いだせない。
そうすると、本件商標は、その構成文字に相応して「ケンコービヨーショクイクシドーシ」の称呼のみを生じ、「健康と美容に関する食育を指導する資格を有する者」の観念を生じるものである。
(2)引用商標について
引用商標は、上記第2のとおり、「食育指導士」の文字を標準文字で表してなるところ、構成中の「食育」の文字は「食材・食習慣・栄養など、食に関する教育。」の、「指導」の文字は「目的に向かって教えみちびくこと。」の、「士」の文字は「一定の資格・役割をもった者。」の意味を有する語として一般に親しまれた語であるから、引用商標は全体として、「食育を指導する資格を有する者」程の意味合いを理解させるものというのが相当である。
そうすると、引用商標は、その構成文字に相応して「ショクイクシドーシ」の称呼を生じ、「食育を指導する資格を有する者」の観念を生じるものである。
(3)本件商標と引用商標との類否について
本件商標と引用商標とを比較すると、両商標はそれぞれ上記(1)及び(2)のとおりの構成からなるところ、その文字数は9文字と5文字と異なる上、その構成文字をみても、語頭の「健康美容」の文字の有無において相違するから、両者は外観上判然と区別し得る。
また、本件商標から生じる「ケンコービヨーショクイクシドーシ」の称呼と、引用商標から生じる「ショクイクシドーシ」の称呼を比較すると、両者は音数及び音構成において明らかに相違し、明瞭に聴別できる。
さらに、本件商標が「健康と美容に関する食育を指導する資格を有する者」の観念を生じるのに対し、引用商標は「食育を指導する資格を有する者」の観念を生じるものであるから、両者は観念においても相違する。
そうすると、本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれのないものであるから、両者は非類似の商標というのが相当である。
(4)小括
上記(3)のとおり、本件商標と引用商標とは非類似の商標であるから、本件商標の指定役務が引用商標の指定役務と同一又は類似するとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)本件商標と引用商標の類似性の程度について
本件商標と引用商標は、上記2(3)のとおり、非類似の商標であって、別異の商標というべきものであるから、類似性の程度が高いとはいえないものである。
(2)引用商標の周知性について
引用商標は、上記1のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る役務を表示するものとして、我が国の需要者の間に広く認識されているものとはいえない。
(3)役務の関連性及び需要者の共通性について
上記1によれば、引用商標は、役務「資格試験の実施」について使用されるものというのが相当であるところ、本件商標の指定役務は、これと類似する役務を含むものであるから、役務の関連性を有し、需要者を共通にする場合があるものである。
(4)引用商標の独創性について
引用商標は、上記2のとおり、それぞれ成語である「食育」、「指導」及び「士」の文字を組み合わせたにすぎないものであるから、独創性が高いとはいえない。
(5)引用商標が申立人のハウスマークであるかについて
引用商標は、申立人のハウスマークではない。
(6)小括
上記(1)ないし(5)を総合的に判断すれば、本件商標の指定役務と引用商標に係る役務が関連性を有し、需要者を共通にするものであるとしても、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る役務を表示するものとして、我が国における需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできず、本件商標と引用商標の類似性の程度も高いとはいえないものであり、さらに、引用商標は、申立人のハウスマークでもなく、独創性が高いともいえないものである。
そうすると、本件商標権者が、本件商標をその指定役務について使用しても、取引者・需要者が、申立人若しくは引用商標を連想又は想起することはなく、その役務が申立人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その役務の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。
その他、本件商標が出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情は見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第19号該当性について
上記1のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る役務を表示するものとして、我が国又は外国における需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。
また、上記2のとおり、本件商標と引用商標とは、非類似の商標であって、別異の商標である。
そして、申立人が提出した甲各号証を総合してみても、本件商標権者が、申立人に係る引用商標の名声と信用にフリーライドする意図など、不正の目的をもって、剽窃的に本件商標を出願し、登録を受けたと認めるに足る具体的事実を見いだすこともできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
5 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同項第15号及び同項第19号のいずれにも該当するものでなく、その登録は、同条第1項の規定に違反してされたものではないから、同法第43条の3第4項の規定により、その登録を維持すべきである。
よって、結論のとおり決定する。
別掲
別掲1 本件商標の指定役務
第41類「資格付与のための資格試験の実施及び資格の認定・資格の付与,栄養・食事に関する知識の教授,料理に関する知識の教授,フィットネスの教授,通信講座を通じて行われる栄養・食事・調理の分野における教育の提供,その他の技芸・スポーツ又は知識の教授,健康・フィットネス・食・栄養に関するセミナー・講習会・研修会・講演会の企画・運営又は開催,料理に関するセミナー・講習会・研修会・講演会の企画・運営又は開催,その他のセミナーの企画・運営又は開催,食に関する電子出版物の提供,料理に関する電子出版物の提供,その他の電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,図書の貸与,書籍の制作,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),文章の執筆,放送番組の制作,映像機器・音声機器等の機器であって放送番組の制作のために使用されるものの操作,興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。),映画・演芸・演劇・音楽又は教育研修のための施設の提供,ネガフィルムの貸与,ポジフィルムの貸与,写真の撮影,通訳,翻訳,レコード又は録音済み磁気テープの貸与,録画済み磁気テープの貸与,運動施設の提供,娯楽施設の提供,映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,映画の上映・制作又は配給,音響用又は映像用のスタジオの提供,楽器の貸与,スポーツの興行の企画・運営又は開催」

別掲2 引用商標の指定役務
第41類「食生活に関する知識の教授,健康に関する知識の教授,栄養補助食品に関する知識の教授,その他の知識の教授,食生活に関する知識の教授に関する情報の提供,健康に関する知識の教授に関する情報の提供,栄養補助食品に関する知識の教授に関する情報の提供,その他の知識の教授に関する情報の提供,セミナーの企画・運営又は開催,通訳,翻訳,技芸・スポーツの教授,当せん金付証票の発売,献体に関する情報の提供,献体の手配,動物の調教,植物の供覧,動物の供覧,電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,美術品の展示,庭園の供覧,洞窟の供覧,書籍の制作,映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,映画の上映・制作又は配給,演芸の上演,演劇の演出又は上演,音楽の演奏,放送番組の制作,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),放送番組の制作における演出,映像機器・音声機器等の機器であって放送番組の制作のために使用されるものの操作,スポーツの興行の企画・運営又は開催,興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。),競馬の企画・運営又は開催,競輪の企画・運営又は開催,競艇の企画・運営又は開催,小型自動車競走の企画・運営又は開催,音響用又は映像用のスタジオの提供,運動施設の提供,娯楽施設の提供,映画・演芸・演劇・音楽又は教育研修のための施設の提供,興行場の座席の手配,映画機械器具の貸与,映写フィルムの貸与,楽器の貸与,運動用具の貸与,テレビジョン受信機の貸与,ラジオ受信機の貸与,図書の貸与,レコード又は録音済み磁気テープの貸与,録画済み磁気テープの貸与,ネガフィルムの貸与,ポジフィルムの貸与,おもちゃの貸与,遊園地用機械器具の貸与,遊戯用器具の貸与,書画の貸与,写真の撮影,カメラの貸与,光学機械器具の貸与」

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異議決定日 2022-07-25 
出願番号 2019094168 
審決分類 T 1 651・ 261- Y (W41)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 小松 里美
特許庁審判官 小林 裕子
鈴木 雅也
登録日 2021-10-18 
登録番号 6457570 
権利者 一般社団法人 分子整合医学美容食育協会
商標の称呼 ケンコービヨーショクイクシドーシ、ケンコービヨーショクイクシドー、ケンコービヨーショクイク、ビヨーショクイクシドーシ、ショクイクシドーシ、ケンコービヨー、ビヨーショクイク、ケンコー 
代理人 特許業務法人北斗特許事務所 
代理人 久門 享 
代理人 久門 保子 

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