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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W0137
管理番号 1387670 
総通号数
発行国 JP 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2022-08-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-07-08 
確定日 2022-08-04 
異議申立件数
事件の表示 登録第6402375号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて,次のとおり決定する。 
結論 登録第6402375号商標の商標登録を維持する。
理由 第1 本件商標
本件登録第6402375号商標(以下「本件商標」という。)は,「ナノソリューションAg+」の文字及び記号を標準文字で表してなり,令和2年12月9日に登録出願,第1類「化学品」及び第37類「建設工事」を指定商品及び指定役務として,同3年4月19日に登録査定され,同年6月15日に設定登録されたものである。

第2 申立人商標
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が,本件商標に係る登録異議申立ての理由において引用する商標(以下「申立人商標」という。)は,別掲のとおり,「ナノソリューションAg+」(決定注:末尾の「+」の記号は,「Ag」の右肩部に小さく表されている。以下,申立人商標について同じ。)の文字及び記号からなるものである。

第3 登録異議の申立ての理由
申立人は,本件商標は商標法第4条第1項第16号,同項第7号及び同項第15号に該当するものであるから,その登録は,同法第43条の2第1号により取り消されるべきものである旨申立て,その理由を以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第14号証を提出した。
1 商標法第4条第1項第16号について
(1)指定商品及び指定役務について
本件商標の指定商品及び指定役務は,第1類「化学品」及び第37類「建設工事」である(甲1,甲2)。
(2)標章について
本件商標の構成中,「ナノ」は単位の「nano」を表し,10億分の1を意味し,「ソリューション」は英文字の「solution」を表し,「溶液,溶体,液体」を表す(英辞郎on the WEB)。また,「Ag」は「銀」を表す文字である。そして,「+」は英文字の「plus」を表し,「1.プラス(アルファ)の,さらにその上の,2.《電気》正の,陽(性)の,3.〜以上の,〜強の」という意味や「1.プラス,プラス記号,正数,2.付け加えること[もの],付加物,追加物,3.さらに良いこと[もの]」という意味を有する(英辞郎on the WEB)。
(3)品質誤認について
本件商標は,「ナノソリューションAg+」であり,「Ag+」は銀イオンを表し,「Ag」は「銀」を表している。
しかしながら,指定商品第1類は,「化学品」で登録されており,銀又は銀イオンが使用されていない化学品に使用された場合,銀又は銀イオンが使用さているものとして,取引者・需要者は商品の品質を誤認して購入等するおそれがあり,品質誤認が生じる。
また,指定役務第37類は,「建設工事」で登録されており,銀又は銀イオンが使用されていない建設工事で使用された場合,銀又は銀イオンが使用されているものとして,取引者・需要者は役務の質を誤認するおそれがあり,品質誤認が生じる。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第16号に該当する。
2 商標法第4条第1項第7号について
(1)本件商標は,後述する経緯のとおり,申立人が被申立人に卸していた商品名である申立人商標と同一又は類似する商標であり,申立人は,本件商標に関して被申立人よりも密接な関係を有する者であり,その経緯から被申立人の行為は社会の一般道徳観念に反する行為である。
そして,後述するとおり,申立人と本件商標に関して共同出願する旨を合意しておきながら,申立人の許諾を得ることなく勝手に被申立人単独で出願したものであり,被申立人の行為は,著しく社会的妥当性を欠く行為であり,ひょう窃的行為である。
したがって,本件商標は,第4条第1項第7号に該当する。
(2)経緯
ア 申立人と被申立人との関係
申立人は,令和2年7月3日に代表取締役をM(以下「M氏」という。)として,設立された「1.光触媒酸化チタンコーティング剤とそれを利用した製品の販売及び施工,2.空気触媒剤とそれを利用した製品の販売及び施工,3.消毒・殺菌・消臭剤とそれを利用した製品の販売及び施工,4.光触媒製品の開発及び開発支援事業,5,光触媒コーティング工事請負業」などを目的とする企業である(甲3)。
一方,被申立人は,令和2年7月7日に,代表取締役社長をT(以下「T氏」という。)とし,代表取締役専務をM氏として,設立された「1.光触媒,空気触媒に関する製品の販売,施工及びメンテナンス,2.建物の外装,内装,車両等に対する光触媒溶液の塗布業務」等を目的とする企業である(甲4)。なお,M氏は令和3年2月5日に退任している(甲4)。
そして,本件商標に係る商品(以下「本件商品」という。)は,酸化チタンを含む光触媒だけでなく,銀イオンも混在させて,光が弱い又は光がない状態であっても除菌・殺菌等することができる商品であり,光触媒メーカーTが,申立人に対して,本件商品を納品し,申立人が申立人商標という商品名(OEM商品)で,被申立人に安価な価格で卸していた。
申立人から被申立人への請求書(甲5)の項目には申立人商標が記載されており,申立人商標に係る商品(以下「申立人商品」という。)は,遅くとも令和2年8月31日時点において,申立人の商品として被申立人に卸されていたことがわかる(甲5)。
また,令和2年10月22日の申立人のSNSでの投稿には,申立人の商品が掲載されており,その商品名は申立人商標である(甲5の2)。このことからも申立人商品が申立人の商品であることがわかる。
イ T氏の問題行動及び職務放棄
令和2年10月にタクシー業界の大手ヤサカグループや,都タクシー株式会社,西都交通株式会社の光触媒コーティングを行うなど事業は順調に伸びていたが,このあたりからT氏が問題行動を起こすようになってきた。
T氏は被申立人において,代表取締役社長という立場であると共に,経理関係を任されていたが,同年11月以降から共同経営者のM氏に経理情報を見せないようになった。
同年12月,M氏の反対があったにも関わらず,T氏は大規模な展示会に出展することを強行し,M氏の同意なく勝手に契約をしてきた。展示会場では,T氏は代表取締役としてはふさわしくない行動をし,一部の加盟店はT氏の行動に激怒し,複数の加盟店からM氏に対し「代表取締役をT氏からM氏に交代してほしい。」と言われるほどであった。
加盟店からのクレームに対して,M氏は,自分が代表取締役になれば,今自分が行っている業務の遂行できないと考え,T氏にその内容を伝え,T氏に改善を要求した。
令和3年1月20日,T氏はM氏にLINEで覚書(甲6)を送り,「これ(覚書)に同意しないと私(T氏)は仕事しないから。」と言い,その後携帯電話に何度も連絡するも繋がらない状態となり音信不通となった。
覚書(甲6)の内容は,一切正当性もなく,T氏及び被申立人にしか利のない内容であり,真の狙いとしては,M氏を被申立人から追い出し,被申立人が,商品元である光触媒メーカーTと直接取引を行い,申立人を下請企業として利用したいという思惑が読み取れるものであり,M氏が到底同意できるような内容の覚書ではなかった。
ウ M氏の被申立人からの退任
上記イで述べたように,T氏はM氏との連絡を遮断し,M氏はT氏と連絡が取れない状態であったため,被申立人の顧問弁護士が間に入り,顧問弁護士がT氏に対してM氏と協議するように促したが,顧問弁護士の提案を無視し,T氏は一向にM氏と協議しようとしなかった。
M氏はT氏との協議は不可能と考え,これ以上T氏の業務の妨害が続くと,加盟店からの陳述書(甲7〜甲9)のとおり,加盟店が営業できなくなり,既に「受注する」として進んでいる話も消えてしまう可能性があり,加盟店への影響が取り返しのつかないことになってしまうため,M氏は,「加盟店第一」という信念のもと,T氏とのトラブルを終了させるため,自ら被申立人を辞意することにした。
エ T氏と加盟店とのトラブル
T氏は,M氏との連絡を遮断しただけでなく,フリーダイヤルを止め,また,加盟店からの連絡にも応じなかったため,加盟店ともトラブルになっていた(甲7〜甲9)。
オ M氏が退任後の被申立人が使用する申立人商標に関して
M氏が被申立人を退任した後は,申立人から被申立人に対して,本件商品である申立人商品は販売していないから,被申立人が現在使用している本件商品である申立人商品は,過去に申立人が被申立人に販売した在庫分か,別の光触媒かということになる。
このような経緯から判断すると,本件商標の登録の経緯は,著しく社会的妥当性を欠くものであり,本件商標に関して登録を認めることは,商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないものである。
また,被申立人による本件商標の登録は,社会の一般道徳観念に反する行為であり,「ナノソリューション」及び申立人商標をなす用語等につき,被申立人よりもより密接な関係を有する者である申立人の利益を害するものであり,被申立人の本件商標の商標登録は,ひょう窃的行為というべきである。
(3)本件商標の商標登録出願に関して
ア 被申立人のT氏による共同出願違反及び警告
M氏とT氏との令和2年12月8日のメッセージアプリでのやり取りでは(甲10),M氏から「商標ですが,僕の名前も入れておいて 商標権の保有者を複数名の連名で登録することは可能です。があります。1.の場合,その出願に係る商標権は,その出願人全員の共有という形態で登録され,その全員が商標権を行使できることとなります。それぞれの持分を他人に譲渡する場合には,他の商標権者の同意が必要となります。」とT氏にメッセージを送り,T氏はこれに対して,「了解」と送っている。
ここで,「僕の名前も入れておいて」の「僕の名前」とは申立人のことであり,文章の意味としては,「商標ですが,僕の名前(申立人)も入れておいて商標権の保有者を複数名の連名(被申立人と申立人)で登録することは可能です。があります。1.の場合,その出願に係る商標権は,その出願人全員(被申立人と申立人)の共有という形態で登録され,その全員(被申立人と申立人)が商標権を行使できることとなります。・・・」ということになる。
これは,T氏からの「了解」という返事の後に,M氏の「ナノソリューション(申立人)でもつかえるかね!」という文章からも理解できる。
しかしながら,T氏は,申立人と被申立人との共同出願をすることに関して了承しておきながら,被申立人単独で本件商標に関して商標登録出願をしたが,本件商標に関して単独出願をしたことに関して,M氏に報告や確認もなかった。
被申立人が単独で商標登録出願をするということであれば,M氏は商標登録出願を認めることはなく,T氏がひょう窃的に商標登録出願をしたものであり,M氏が,本件商標の商標登録出願が被申立人単独で行われていることを知ったのは,M氏が被申立人を退任した後であった。
さらに,被申立人は申立人に対して,通知書(甲11,甲12)を送付している。
被申立人は,「貴社(申立人)は,通知会社(被申立人)出願にかかる商標と同一の表記・称呼である「ナノソリューションAg+」の商品名で,光触媒製品の販売を行っています。貴社の上記販売行為は,通知会社出願中の商標である「ナノソリューションAg+」を通知会社の許可なく使用するもので,需要者等に対して混同を生じさせる行為であり,通知会社に対し業務上の損失を与えうる行為です。よって,通知会社は,貴社に対し,「ナノソリューションAg+」ないしこれに類似する商標の使用を直ちにやめるよう本書をもって警告します。」と主張し(甲11),また,被申立人は「通知会社(被申立人)は,貴社(申立人)に対し,令和3年5月10日付け「通知書」をもって,「ナノソリューションAg+」ないしこれに類似する商標の使用を直ちにやめるように警告済みです。にもかかわらず,現時点(同年6月11日)においてもなお,貴社ホームページにおいて,「このナノソリューションAg+は,相手を選ばず養成も不要で施工。耐久性に優れ,しかも価格が安いという,他の酸化チタン製品と比較すると大きな優位性を有しています。お客様の業務効率化や満足度の向上という視点でシステムを活用した仕組み作りを行いました。」などと掲載されています。・・・そして,当該ページには,下鴨神社様において,写真撮影当時通知会社に所属していた貴社代表取締役M氏が,通知会社の業務として,通知会社の商品である「ナノソリューションAg+」を施工している状況の写真が掲載されています。これらは,通知会社の製品である「ナノソリューションAg+」の出所混同を生じさせ得る行為といえ,通知会社に損害を生じさせ得るものです。通知会社は,貴社に対し,上記ウェブサイト上から直ちにこれら記載を削除するとともに,通知会社の商品の施工状況の写真や通知会社の取引先の写真を削除するよう本書をもって警告します。」と主張し(甲12),上記(2)で述べた経緯があるにも関わらず,被申立人は申立人に対して警告してきている。
なお,下鴨神社への光触媒の施工は,令和2年12月10日に行われ,この受注は,申立人と被申立人が共同で請け負ったものであるが,これはM氏が被申立人の知名度を上げるために,あえて共同請負としただけであり,下鴨神社との契約は,申立人のみで被申立人は,下鴨神社と契約はしていない。
これは,下鴨神社からの支払いが,申立人にのみ直接支払われ,被申立人には支払われていないことからも明らかである。
甲第13号証は,下鴨神社への請求書及び申立人の通帳の入金記録である。当該請求書からもわかるように,申立人から被申立人に対して,下鴨神社の施工について請求書を発行しておらず,申立人から下鴨神社に対して直接請求書を発行している。
また,本件商品である申立人商品は,上記(2)の経緯で述べているように,申立人の商品であって,被申立人の商品ではない。
そして,被申立人の代表者であるT氏は,申立人と共同出願するという約束を無視してひょう窃的に被申立人単独で本件商標の商標登録出願をしている。
したがって,被申立人の本件商標の取得行為は,社会の一般道徳観念に反する行為である。
イ 申立人が「ナノソリューション」及び申立人商標に関して密接な関係を有する者であること
本件商標は,標準文字から構成されるものであり,本件商品である申立人商品を表している。
上記(2)アで述べたように,本件商品は,光触媒メーカーTから,申立人が本件商品を納品してもらい,申立人商標を商品名とした商品(OEM商品)を,被申立人に卸していた。
申立人から被申立人への請求書(甲5)や,SNSへの投稿(甲5の2),及びその名称(商品名)からも本件商標が申立人と密接な関係を有することは明らかであり,本件商標を登録し,これを権利行使等の排他的に使用することは,当該商標をなす用語である「ナノソリューション」及び申立人商標に関して,被申立人よりもより密接な関係を有する者である申立人の利益を害する行為であり,被申立人の行為はひょう窃的行為である。
(4)まとめ
以上のことから,被申立人が本件商標を取得する行為は,社会の一般道徳観念に反する行為であり,本件商標や「ナノソリューション」及び申立人商標に関して,被申立人よりもより密接な関係を有する者である申立人の利益を害する行為であり,被申立人の行為はひょう窃的行為である。
そして,上述した経緯から被申立人が本件商標を取得する行為は,著しく社会的妥当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないものである。
したがって,本件商標は商標法第4条第1項第7号に該当する。
3 商標法第4条第1項第15号について
(1)商標について
ア 本件商標の指定商品及び指定役務と申立人の業務に係る商品について
本件商標の指定商品及び指定役務は,第1類「化学品」及び第37類「建設工事」である。
一方,申立人商品は,光触媒である薬剤であり,また,申立人の会社名は「ナノソリューション株式会社」であり,申立人は,本件商標の出願前から申立人商標及び「ナノソリューション」を使用している。
そして,申立人は,申立人商品を使用して光触媒コーティングの施工を行っている。
また,上記2(2)の経緯のとおり,被申立人と申立人の関係は,申立人が被申立人に,申立人商品を卸していたという関係である(現在は被申立人へは卸していない。)。
したがって,本件商標の指定商品及び指定役務と,申立人商品又は申立人の業務内容(役務の内容)との間の性質,用途又は目的における関連性の程度は高いといえる。
イ 標章について
本件商標と申立人商標とは実質的に同一といえる程度に類似し,類似性は高いといえる。
そして,申立人は,光触媒メーカーTから仕入れた商品に,申立人の社名からとって申立人商標を商品名にした。「ナノソリューション」という文字は造語であって,申立人商標も造語であり,独創性は高いといえる。
(2)取引者及び需要者の共通性並びに取引の実情について
上記2(2)で述べたとおり,本件商品は,光触媒メーカーTから,申立人が本件商品を納品してもらい,申立人商標を商品名とした商品(OEM商品)を,被申立人に卸していた。
申立人が本件商品に申立人商標を名称としてつけ,被申立人に卸していたことは,申立人から被申立人への請求書(甲5)から明らかである。
現在,申立人は被申立人に対して本件商品である申立人商品を卸しておらず,現在及び今後,被申立人が使用する光触媒コーティングの薬剤である「ナノソリューションA+」(以下「被申立人商品」という。)は,その中身に関して,申立人が今まで卸していた申立人商品とは効能等も全く異なる別の商品となる。
甲第14号証は,申立人から被申立人へ卸していた申立人商品の殺菌効力試験結果及びウイルス不活性試験結果である。
現在又は今後の被申立人商品は,甲第14号証に示すエビデンスと同じ効果を奏することはなく,また,申立人商品で光触媒コーティングを行ったヤサカグループ,都タクシー株式会社,西都交通株式会社,エムケイ株式会社,下鴨神社等でコーティング作業を行ったものとは,その中身や効果が全く異なる。
してみれば,ヤサカグループ,都タクシー株式会社,西都交通株式会社,エムケイ株式会社,下鴨神社等で行った光触媒のコーティングと同様の効果を期待する需要者・取引者及び加盟店に対して,出所混同を生じさせるおそれがある。
したがって,本件商標をその指定商品又は指定役務に使用したときに当該商品又は役務が申立人の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがあり,いわゆる狭義の混同が生じるおそれがある。
また,M氏は,申立人で代表取締役をしており,現在は退任しているが以前は被申立人の代表取締役専務をしていたということ,申立人が,申立人商品を被申立人に卸していたということから考慮すると,指定商品又は指定役務に係る商品又は役務が,申立人との間に系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがあり,いわゆる広義の混同が生じるおそれがある。
3 まとめ
以上のことから,本件商標と申立人商標とは類似し,その類似性の程度が高いこと,申立人商標の識別力及び独創性が高いこと,指定商品及び指定役務は,申立人商標の使用商品と同一又は類似の商品及び役務であり,需要者も共通することに照らすと,本件商標を上記指定商品又は指定役務に使用したときは,その商品が申立人又は申立人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であると誤信されるおそれがある。
そうすると,本件商標は,申立人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標であるといえるから,商標法第4条第1項第15号に該当する。

第4 当審の判断
1 本件商標の周知性について
申立人提出の甲各号証及び同人の主張によれば,以下のとおりである。
(1)申立人は,令和2年7月3日に設立され,「1.光触媒酸化チタンコーティング剤とそれを利用した製品の販売及び施工,2.空気触媒剤とそれを利用した製品の販売及び施工,3.消毒・殺菌・消臭剤とそれを利用した製品の販売及び施工,4.光触媒製品の開発及び開発支援事業,5,光触媒コーティング工事請負業」などを行っている大阪府に所在する企業であり,代表取締役はM氏である(甲3)。
(2)申立人は,遅くとも令和2年8月31日時点で,申立人商品を被申立人に卸しており,令和2年8月31日付けの請求書(件名:光触媒販売,仕入れ)により,被申立人に対し,「ナノソリューションAg+Sスタンダード」(決定注:「+」の記号は「g」の文字の右上に小さく表されている。)等を摘要として記載し,支払請求を行っている(甲5,申立人の主張)。
(3)申立人は,SNSにおける申立人のページにおいて,令和2年10月22日付けで「nano solution AG+」の記載がある商品「光触媒コーティング剤」の商品パッケージ写真を掲載している(甲5の2)。
(4)以上によれば,少なくとも令和2年8月31日付け請求書に対応する申立人商品の取引が,申立人と被申立人との間で行われたことがうかがえ,申立人は,同年10月22日に,申立人商品の商品パッケージをSNSの申立人のページに掲載している。
しかしながら,申立人商品及び当該商品を使用した役務についての販売数量,売上高,市場シェアなどの販売実績や広告宣伝の方法等,その周知性を客観的に判断するための具体的な証拠の提出はないから,本件商標の登録出願時及び登録査定時における申立人商標の周知性の程度を推し量ることはできない。
そのほか,申立人の提出に係る甲各号証を総合してみても,申立人商標が,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,我が国の取引者,需要者の間で,申立人の業務に係る商品を表示するものとして広く認識されていたと認めるに足りる事実は見いだせない。
したがって,申立人から提出された証拠によっては,申立人商標が,我が国において,申立人の業務に係る商品を表示するものとして,需要者の間に広く認識され,本件商標の登録出願時及び登録査定時に周知性を獲得していたとは認めることができない。
2 申立人と被申立人の関係について
申立人提出の甲各号証及び同人の主張によれば,以下のとおりである。
(1)被申立人は,申立人と共に申立人商品の販売及び当該商品を用いた役務を行っていたものの,業務の行い方等に関し,T氏とM氏は互いに不満があり,被申立人は,被申立人の業務運営について,申立人との間で合意するための覚書を2021年1月付けで作成し,申立人に送付したものの,合意には至っていない(甲6,申立人の主張)。
(2)申立人の代表取締役であるM氏は,被申立人の取締役専務でもあり,一部業務を協働して行うような関係にあったが,互いに不満を募らせ,令和3年2月5日に被申立人の取締役専務を退任している(甲4,申立人の主張)。
(3)T氏に対して不満を持っているという取引業者が3者おり,当該取引業者は令和3年6月24日付けで,それぞれの不満の内容を記載した陳述書を作成している(甲7〜甲9)。
(4)被申立人は,申立人から被申立人に送付された令和3年4月19日付けの「通知書」に対し,当該通知書に記載されていた被請求人による本件商標の使用に対する警告に関しては応じられない旨及び,申立人による申立人商標の使用行為を中止するように警告する旨を記載した同3年5月10日付け「通知書」を申立人に送付している(甲11)。
(5)被申立人は,本件商標の登録査定を受け,登録料の納付をした後に,令和3年6月14日付けで,再度,申立人による申立人商標の使用行為を中止するように警告する旨を記載した「通知書」を申立人に送付している(甲12)。
(6)以上によれば,申立人と被申立人は,申立人が申立人商品を被申立人に卸し,被申立人が当該商品を用いて顧客に施工するという関係にあり,一部業務について申立人商標と同一又は類似の商標を用いて,協働で行うような関係にもあったものの,その業務遂行の過程で,考え方の違い等から,T氏とM氏は互いに不満を募らせ,M氏が被申立人における取締役専務を退任したり,本件商標及び申立人商標を巡り互いに使用中止をせまる警告をし合ったりするなど,申立人と被申立人の関係は業務を共に行うことが困難な程度に悪化していたことが認められる。
3 商標法第4条第1項第16号該当性について
商標法第4条第1項第16号は、「商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標」は登録することはできない旨規定しているところ,「商品の品質の誤認を生ずるかどうかは、その商標の外観,称呼,観念等から判断して,その指定商品について,その商品が現実に有する品質と異なるものであるかのように需要者をして誤認されるおそれがあるかに照らして判断すべきである。」と判示されているところである(知財高裁平成17年(行ケ)第10783号 平成18年2月15日判決参照)。
以上を踏まえて,本件商標をみると,本件商標は,前記第1のとおり,「ナノソリューションAg+」の文字及び記号を横書きしてなるところ,その構成各文字は,同じ書体,同じ大きさで,等間隔に外観上まとまりよく一体的に表されているものであり,また,その構成全体から生ずる「ナノソリューションエージープラス」の称呼はやや冗長であるものの,無理なく一連に称呼し得るものである。
そして,本件商標の構成中,「ナノ」の文字は「10億分の1を表す単位の接頭辞。」を,「ソリューション」の文字は「問題などの解決。解法。」の意味を有する語であり,また,「Ag」の文字は「金属元素の一種。」である「銀」の元素記号と同一の文字であって,「+」の記号が「加号又は性のまずの符号。すなわち「+」」の意味を有する記号である(いずれも「広辞苑第七版」株式会社岩波書店)が,これらを結合した「ナノソリューションAg+」の文字及び記号全体として,特定の意味合いを想起させるものではないから,本件商標は,一種の造語として理解されるものとみるのが相当である。
また,本件商標の構成中の「Ag」文字部分が「銀」の意味を有するとしても,本件商標は,その外観,称呼,観念は上記のとおりであるから,需要者をして,「Ag」及び「Ag+」の文字及び記号が商品の品質及び役務の質等を具体的に表示するものとして直ちに認識されるとはいい難い。
してみれば,本件商標は,その構成全体をもって,特定の意味合いを想起することのない一体不可分の造語として認識されるというのが相当であるから,その構成文字全体に相応して,「ナノソリューションエージープラス」の称呼のみを生じ,特定の観念を生じないものである。
そうすると,本件商標は,その構成全体をもって,特定の意味合いを想起させることのない一体不可分の一種の造語として認識し把握されるものであり,商品の品質及び役務の質等を表示するものとして認識し把握されるとはいえないから,本件商標は,その指定商品及び指定役務について使用しても商品の品質及び役務の質の誤認を生ずるおそれはないものというのが相当である。
その他,本件商標について,商品の品質及び役務の質の誤認を生ずるおそれのあるものとする事情は見いだせない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第16号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第15号該当性について
申立人商標は,上記1のとおり,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,申立人の業務に係る商品及び役務であることを表示するものとして需要者の間に広く認識されていると認めることはできないものであるから,本件商標と申立人商標とが,類似するものであるとしても,商標権者が本件商標をその指定商品又は指定役務について使用しても,取引者,需要者をして申立人商標を連想又は想起させることはなく,その商品又は役務が申立人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように,その商品又は役務の出所について混同を生ずるおそれはないと判断するのが相当である。
その他,本件商標が出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情は見いだせない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当しない。
5 商標法第4条第1項第7号該当性について
(1)商標法第4条第1項第7号の趣旨
ア 商標の登録出願が適正な商道徳に反して社会的妥当性を欠き,その商標の登録を認めることが商標法の目的に反することになる場合には,その商標は商標法第4条第1項第7号にいう商標に該当することもあり得ると解される。しかし,同号が「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」として,商標自体の性質に着目した規定となっていること,商標法の目的に反すると考えられる商標の登録については同法第4条第1項各号に個別に不登録事由が定められていること,及び,商標法においては,商標選択の自由を前提として最先の出願人に登録を認める先願主義の原則が採用されていることを考慮するならば,商標自体に公序良俗違反のない商標が商標法第4条第1項第7号に該当するのは,その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限られるものというべきである(東京高裁 平成14年(行ケ)第616号 平成15年5月8日判決言渡)。
イ 当該出願人が本来商標登録を受けるべき者であるか否かを判断するに際して,先願主義を採用している日本の商標法の制度趣旨や,国際調和や不正目的に基づく商標出願を排除する目的で設けられた商標法第4条第1項第19号の趣旨に照らすならば,それらの趣旨から離れて,同法第4条第1項第7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域にまで拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは,商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになるので,特段の事情のある例外的な場合を除くほか,許されないというべきである。
そして,特段の事情があるか否かの判断に当たっても,出願人と,本来商標登録を受けるべきと主張する者との関係を検討して,例えば,本来商標登録を受けるべきであると主張する者(中略)が,自ら速やかに出願することが可能であったにもかかわらず,出願を怠っていたような場合や,契約等によって他者からの登録出願について適切な措置を採ることができたにもかかわらず,適切な措置を怠っていたような場合(中略)は,出願人と本来商標登録を受けるべきと主張する者との間の商標権の帰属等をめぐる問題は,あくまでも,当事者同士の私的な問題として解決すべきであるから,そのような場合にまで,「公の秩序や善良な風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合と解するのは妥当でない(知財高裁 平成19年(行ケ)第10391号 平成20年6月26日判決言渡)。
(2)本件商標の商標法第4条第1項第7号該当性
本件商標は,その構成自体が非道徳的,卑わい,差別的,きょう激若しくは他人に不快な印象を与えるような構成態様でもなく,本件商標をその指定商品及び指定役務について使用することが,公正な取引秩序を乱し,社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反するということもできないし,特定の国,若しくはその国民を侮辱し,又は,国際信義に反するということもできず,他の法律によってその使用が禁止されているものでもない。
また,申立人商標は,上記2(1)のとおり,申立人の業務に係る商品及び役務を表示するものとして,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,需要者の間に広く認識されていたものとは認めることはできないから,本件商標は,これをその指定商品及び指定役務に使用することが,申立人商標の周知性による信用及び顧客吸引力に便乗するものということはできないし,ひょう窃的な行為ということもできない。
そして,上記2によれば,申立人と被申立人は,かつては申立人商標と同一又は類似の商標を使用して,一部業務を協働して行うような関係にあったが,互いに対する不満を募らせ,M氏が被申立人における取締役専務を退任し,本件商標及び申立人商標を巡って警告し合うなど,申立人と被申立人が協働して業務を遂行することが困難な程度に関係が悪化していたことが認められるものの,本件商標に関して,申立人と被申立人の間に何らかの契約があったという事実は認めることができない。
また,申立人は,令和2年7月3日に会社を設立し,遅くとも同年8月31日時点において,申立人商品を卸していたというのであるから,申立人商標について,自ら速やかに登録出願し,商標権の権利を取得する機会は十分にあったにも関わらず,出願を怠っていたといわざるを得ないものであって,申立人自ら登録出願しなかった責めを被申立人に求める具体的な事情も見いだせない。さらに,申立人が速やかに申立人商標を登録出願することが不可能であったことをうかがわせるような証拠もない。
そうすると,被申立人が本件商標を登録することが,社会の一般的道徳観念に反する行為であるということはできないし,また,このような申立人と商標権者との間の商標権の帰属等をめぐる問題は,当事者同士の私的な問題として解決すべきであるから,上記(1)イにいう「「公の秩序や善良の風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合」には該当しないというべきである。
そのほか,本件商標が,公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標と認めるに足りる具体的事実や特段の事情は見いだせない。
なお,申立人は,被申立人と申立人との間でやりとりが行われたメッセージアプリのスクリーンショットとされるもの(甲10)を示し,申立人と被申立人は,申立人商標を共同で登録出願する約束をしていた旨主張しているが,甲第10号証におけるメッセージの相手先が誰なのかは明確ではないし,メッセージ中の「商標」がいかなるものを指すのかについての記載もないため,甲第10号証をもってしては,被申立人と申立人の間で,本件商標を共同で登録出願する等,本件商標の登録出願に関する契約があったとは認めることができない。
以上のとおり,申立人商標が申立人に係る商品について周知性を獲得していたと認めるに足りる証拠はなく,かつ,本件商標がその商標登録に至る出願の経緯において著しく社会的妥当性を欠くものがあったと認めることは困難というべきである。
したがって,本願商標は,商標法第4条第1項第7号に該当しない。
6 むすび
以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第7号,同項第15号及び同項第16号のいずれにも違反して登録されたものではないから,同法第43条の3第4項の規定に基づき,その登録を維持すべきものである。
よって,結論のとおり決定する。

別掲

別掲 申立人商標



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異議決定日 2022-07-26 
出願番号 2020158181 
審決分類 T 1 651・ 22- Y (W0137)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 佐藤 淳
特許庁審判官 鈴木 雅也
須田 亮一
登録日 2021-06-15 
登録番号 6402375 
権利者 テックメディカルnano株式会社
商標の称呼 ナノソリューションエイジイプラス、ナノソリューションエイジイ、ナノソリューション 
代理人 本田 史樹 
代理人 椿 豊 

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