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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
異議2016900226 審決 商標
無効2018890005 審決 商標
異議2020900163 審決 商標
異議2021900137 審決 商標
無効2020890074 審決 商標

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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W43
審判 全部申立て  登録を維持 W43
審判 全部申立て  登録を維持 W43
管理番号 1380133 
異議申立番号 異議2021-900162 
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2021-12-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-04-22 
確定日 2021-11-05 
異議申立件数
事件の表示 登録第6351656号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第6351656号商標の商標登録を維持する。
理由 1 本件商標
本件登録第6351656号商標(以下「本件商標」という。)は、「OKURA CLUB&HOTELS」の文字を標準文字で表してなり、令和2年8月24日に登録出願、第43類「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ,飲食物の提供」を指定役務として、同3年2月1日に登録査定、同月12日に設定登録されたものである。

2 登録異議申立人が引用する商標
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が、登録異議の申立ての理由において、引用する商標は次の(1)及び(2)とおりである(以下、これらをまとめて「引用商標」という。)。
(1)商願2020-95427(以下「引用商標1」という。)
商標の態様:Okura(標準文字)
登録出願日:令和2年8月3日
指定役務 :第43類「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ,飲食物の提供,会議室の貸与,展示施設の貸与」
(2)商願2020-95428(以下「引用商標2」という。)
商標の態様:オークラ(標準文字)
登録出願日:令和2年8月3日
指定役務 :第43類「宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ,飲食物の提供,会議室の貸与,展示施設の貸与」
なお、引用商標1に係る出願は、現在審査に係属中であり、引用商標2は、令和3年8月30日付けで拒絶査定されたものである。

3 登録異議の申立ての理由
申立人は、本件商標は、商標法第8条第1項、同法第4条第1項第8号及び同項第15号に該当するものであるから、同法第43条の2第1号により、その登録は取り消されるべきであると申し立て、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第19号証(枝番号を含む。)を提出した。
(1)商標法第8条第1項について
ア 本件商標は、「OKURA CLUB&HOTELS」の文字を標準文字で表してなるところ、視覚上、「OKURA」と「CLUB&HOTELS」とに分離され、語頭に配された「OKURA」の欧文字が着目されやすいことは明白である。
また、「CLUB」の文字は、「社交場、会員制のバーや娯楽場」程度の意味合いを有する英単語であるが、本件商標の指定役務(以下「本件指定役務」という。)との関係では、宿泊施設や同一ブランドのホテルグループの名称又は略称と「クラブ(CLUB)」の文字を単に組み合わせてなる表示が、クラブハウスやクラブラウンジ等の提供を含む、上質な客室設備やサービスの提供のための会員制度を指称する際に多用されているといった実情がある(甲4)。
さらに、「HOTELS」の文字は、本件指定役務との関係で「(複数の)ホテル」を意味する普通名称であることに加え、「&」の記号は、取引上、類型的に普通に採択される記号であり、これらはいずれも本件指定役務の分野で広く一般的に用いられていることは周知の事実であることをも鑑みると、「CLUB&HOTELS」の文字及び記号を普通に用いられる方法で書してなる本件商標中の「CLUB&HOTELS」の要素は、その指定役務との関係で自他役務識別機能を発揮するとはいい難いものである。
そして、本件商標にあっては、その構成上、「OKURA」の文字と「CLUB&HOTELS」の要素とを常に一体として把握しなければならないとする特段の事由は存在しないばかりか、「CLUB&HOTELS」の要素は本件指定役務との関係で独占適応性が極めて低いことから、「OKURA」の文字のみが強く支配的な印象を与え、自他役務識別機能を発揮する要部として取引者及び需要者をして認識され、当該要素に照応した「オークラ」の称呼のみをもって本件商標が実際の商取引に資されることも少なくないといい得るものである。
イ 引用商標1は、「Okura」の文字を、また、引用商標2は「オークラ」の文字をそれぞれ標準文字で表してなり、引用商標からは「オークラ」の称呼が自然に生じるものである。
してみれば、本件商標と引用商標は、「オークラ」の称呼を共通にする、称呼上類似する商標といえる。
そして、本件指定役務と引用商標の指定役務は、同一又は類似のものである。
したがって、引用商標に係る商標登録出願の日が本件商標に係る商標登録出願の日に先立つものであることも考慮すると、本件商標は、引用商標との関係において、商標法第8条第1項の規定に違反して登録されたものである。
(2)商標法第4条第1項第8号について
ア 申立人について
申立人である株式会社ホテルオークラ(以下「ホテルオークラ」という。)は、1958年12月11日に大成観光株式会社として創立され、1987年1月1日に商号変更がなされた、東京都港区に所在する、我が国有数のホテル関連事業を営む法人である(甲5)。
申立人の事業内容は、主に、ホテル資産の所有及びホテル事業会社の所有・管理、チェーンホテルに対する運営受託及び技術指導、ホテル関連事業会社の所有・管理、ホテル事業(開発及び改善)に関するコンサルティングとなっている(甲6)。
イ 「オークラ/Okura」の著名性について
(ア)申立人は、1962年5月20日に「ホテルオークラ東京」を開業し、1973年の別館の開業を経て、2019年に改称された「The Okura Tokyo」の運営にも当然に携わっており(甲5)、さらには、子会社である株式会社オークラ ニッコー ホテルマネジメントを介して、複数のブランドの下に多数のホテル運営にも関与している。
株式会社オークラ ニッコー ホテルマネジメントが展開するホテルには、「ホテルオークラ札幌」、「ホテルオークラ東京ベイ」、「オークラ アカデミアパーク ホテル」、「オークラ千葉ホテル」、「The Okura Tokyo」、「ホテルオークラ新潟」、「オークラアクトシティホテル浜松」、「京都ホテルオークラ」、「ホテルオークラ神戸」、「ホテルオークラ福岡」及び「ホテルオークラJRハウステンボス」といった「オークラ/Okura」の名称を冠したものが多数含まれている(甲7、甲18)。
そして、このような「オークラ/Okura」の名称を冠したホテルは国内のみにとどまらず、「オークラ ガーデンホテル上海」、「ホテルオークラマカオ」、「オークラ プレステージ台北」、「オークラ プレステージ台中(2022年開業予定)」、「ホテルオークラマニラ(2021年開業予定)」、「ホテルオークラマニラ(ベイショア)(2023年開業予定)」、「オークラ プレステージサイゴン(2023年開業予定)」、「オークラプレステージ プノンペン(2023年開業予定)」、「オークラ プレステージバンコク」、「オークラ プレステージヤンゴン(2021年開業予定)」及び「ホテルオークラ アムステルダム」といった海外でも展開されており、これらの「オークラ/Okura」の名称を冠した国内外の一群の宿泊関連施設で、オークラグループが形成されている(甲17)。
(イ)オークラグループで中核をなすのが「The Okura Tokyo(旧ホテルオークラ東京)」であるが、同ホテルは、それまでの前近代的なホテル事業を最新の近代的なものに脱皮させ、国際的な超一流のホテルとして世界の人々をもてなすことを目指して、ベストA.C.S.(A:Accommodation C:Cuisine S:Service=最高の設備、最高の料理、最高のサービス)の理念のもと、1962年5月20日に開業し、それ以来、国内外の多くの宿泊客に利用され、1989年の大喪の礼では13か国の国家元首・5国際機関代表の宿泊の受け入れ、1990年の即位の礼でも15か国の国家元首・1国際機関代表の宿泊の受け入れも行っている(甲5)。
また、同ホテルは、宿泊施設としてのみならず、1964年IMF国際会議の開催、1977年IMC総会の開催、2012年IMF・世界銀行年次総会の主要会場の提供といった国際的な会議の会場や、各種発表会の会場や婚礼場等としても広く利用されており、さらには、スタッフの熟練性や提供されるサービスの質が高く評価され、1964年東京オリンピック大会における選手村への食堂関係者の派遣、1974年第1回迎賓館運営担当、1974年沖縄海洋博覧会でのエリザベス英国女王主催の英国大使館での夜会担当、1998年長野オリンピックでの「スポンサー・ホスピタリティ・ビレッジ」の飲食サービス担当、2000年九州・沖縄サミットの「アメニテイセンター」などでの飲食サービス担当、2007年北海道洞爺湖サミットでの接遇担当、2010年日本APEC首脳晩餐会での料理・サービスの技術支援等といった、ホテル施設外での様々な国際的活動も活発に行っている(甲5)。
このような「ホテルオークラ東京(現The Okura Tokyo)」の運営に携わるスタッフや施設により提供される高水準のサービスは、瞬く間に高く評価され、開業から僅か20年で延べ客数が300万人を超え、また、国内外の数多のVIPにも利用されるに至っている(甲8)。
(ウ)その結果、「ホテルオークラ東京(現The Okura Tokyo)」は、1981年には「インスティテューション・インベスター」誌の世界のベストホテル第2位に、1985年には「EUROMONEY」誌のホテルランキング第1位に、1986年には日経ビジネス誌の「日本の社長、会長が選んだザ・ホテルベスト10」第1位に、1992年ないし1994年には日経ビジネス誌の「トップが選ぶホテルランキング第1位(3年連続)に、1995年と1996年には「EUROMONEY」誌の世界のベストホテルランキング第3位(1995年)、第2位(1996年)にそれぞれ選出されるといった形で、国際的な超一流ホテルとしての名声は国内外に響き渡っている(甲5)。
そして、今日においても、オークラグループ全体としての売上は依然として高水準で堅調に推移するとともに、「The Okura Tokyo」を筆頭とするオークラグループの各ホテルで提供されるサービスも好評を博しており、各種媒体で非常に高い評価を得ている(甲9?甲11)。
(エ)このように国際的に高い名声を誇る「The Okura Tokyo」を中心とするオークラグループがホテル業界全体に与える影響力は多大なものであって、その動向は常に注目を浴び、多くの新聞雑誌の媒体でも当然に取り上げられているものであり、その一例が甲第11号証となるが、同書証からは、「ホテルオークラ東京/The Okura Tokyo」及びオークラグループが、「オークラ/Okura」の略称をもって広く表記されていることに加え、例えば、甲第12号証のように、帝国ホテルやホテルニューオータニとともにいわゆる「ホテル御三家」として併記される場合においても、「ホテルオークラ東京/The Okura Tokyo」のみが「オークラ」といった略称で表現されているといった事実が確認できる。
すなわち、これらの書証からは、「オークラ/Okura」は、「ホテルオークラ東京/The Okura Tokyo」又はオークラグループを指称する略称として需要者にも広く浸透していることが容易に理解できるものである。
ウ 小括
以上の点を総合的に勘案すると、その開業から現在に至るまで約59年もの間、ベストA.C.S.を理念としてたゆまぬ努力と高いクオリティのサービスを提供し続け、国際的な超一流のホテルとして世界の人々をもてなすことに成功した、我が国を代表する「ホテルオークラ東京/The Okura Tokyo」が、数多くあるホテルの中でも突出した評価と名声を長きにわたって得続けている著名なホテルであることは疑いようのない事実であり、そして、これを運営等する申立人の略称たる「オークラ/Okura」、同ホテルの略称たる「オークラ/Okura」、並びに、同ホテルを中心とする、申立人及びその子会が展開する「オークラ/Okura」の名称を冠したホテルから構成されるオークラグループの略称たる「オークラ/Okura」も、当然に需要者に認知されているばかりか、その程度は非常に高く、これらはいずれも周知を超越した著名な略称と捉えられて然るべきである。
したがって、申立人、その業務に係るホテルの名称又はそのホテルグループの著名な略称「オークラ/Okura」と同視される「OKURA」の欧文字が包含されていることが一見して明らかであり、かつ、その商標登録することにつき申立人の承諾を得ていない本件商標は、商標法第4条第1項第8号に違反して登録されたものである。
(3)商標法第4条第1項第15号について
ア 本件商標について
本件商標は、「OKURA CLUB&HOTELS」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中の「OKURA」が独立して看取され、「オークラ」の称呼をもって実際の商取引に資されることも少なくないことは前述のとおりである。
イ 混同のおそれについて
(ア)上述のように、「オークラ/Okura」は、申立人の業務に係る「The Okura Tokyo」のホテルの名称、あるいは、申立人及びその子会社が運営展開する「オークラ/Okura」の名称を冠したホテルから構成されるオークラグループの名称の略称として著名であり、当然に、申立人及びその子会社の業務に係る宿泊関係に使用される商標としても極めて周知性の高いものであり、これらの点を十分に踏まえた上で、本件商標がその指定役務に使用された場合、申立人に係る業務との関係で混同を生ずるか否か検討し、商標法第4条第1項第15号該当性を判断すべきである。
(イ)商標法第4条第1項第15号の適用に当たっては、混同を生ずるおそれがある対象が当該他人の使用する商標であるかは全く問題とならず、商標法上の商標としては認められないものの、商品等との関係で周知著名な当該他人の名称や略称、又はブランドの名称等も当然にその対象に含み,かつ出願商標の採択の必要性、取引の実情等を多角的に十分に勘案した上で同号の該当性を判断するのが、規定中の文言及び立法趣旨からも妥当である。
(ウ)このような状況において、「The Okura Tokyo」のホテルの名称、又は、オークラグループの名称の略称たる「オークラ/Okura」の著名性について改めて触れると、これらが1962年から現在に至るまで「宿泊施設の提供」を中心とする宿泊に関連する事業について我が国の取引者、需要者の間に広く認識されており、その程度は非常に高いとともに、各種新聞雑誌等を介して一般公衆にも十分な認知が図られていることから、著名な標章といい得るものである。
(エ)本件商標は、「OKURA CLUB&HOTELS」の文字を標準文字で表してなるものであるところ、「OKURA」の文字と「CLUB&HOTELS」の要素との間にはハイフン(決定注:「空白」の誤記と認める。)が配されているとともに、全体の外観・称呼が極めて冗長であることから、本件商標が視覚上、「OKURA」の欧文字が着目されやすい。 さらに、「CLUB&HOTELS」は、本件商標の指定役務との関係で極めて記述的であって自他役務識別力を発揮し難いものであることをも考慮すると、簡易迅速を尊ぶ取引の場において、本件商標にあっては、語頭に配された「OKURA」の文字が需要者の目を惹くと容易に理解できるものである。
そうすると、申立人の業務に係る著名な標章たる「オークラ/Okura」と一致する要素を構成中に含んでいると実際の取引において一見して把握される本件商標に関し、指定役務等との関係で出所の混同のおそれのないことが明白であると認められるに足るその他の特段の事由も存在しないものである。
(オ)このような著名な標章に、単に「CLUB&HOTELS」程度の独創性のない、非常に平易で記述的な英単語・記号を付して構成される商標の登録を認めるとするのであれば、申立人及び関連会社が50年以上の歳月で多大な労力と費用を掛けて育て上げ、その著名性を守り続け、ホテル業界全体を牽引する代表的なホテル(グループ)として確固たる地位を築きあげ、既に我が国のホテル産業の歴史を語る上でも重要な位置づけをなすといっても過言ではないオークラグループの地位が簡単に脅かされかねず、同グループのブランド保護に関連してこれまで巨額の費用を投じた申立人の経済的損失は推し量れないものであり、商標法が産業財産権保護法としての性格を有するという見地からも批判のそしりを免れないものである。
本件では、「オークラ/Okura」の文字が非常に強い顧客吸引力を発揮するに至り、申立人及びその関連会社の運営展開するホテルグループの一つとして、多角的な面から需要者・取引者に広く認知されているものであり、このような異議申立人の長年にわたる努力の結果得られた業務上の信用を保護するとともに、「オークラ/Okura」の文字を冠した名称に接した需要者において、オークラグループが提供するのと同程度のサービスが受けられるといった誤認を生じさせないことが商標法制定の趣旨といえるものである。
(カ)上述のことをまとめると、「オークラ/Okura」は申立人の業務に係る「The Okura Tokyo」の略称として既に計り知れないほどの名声を獲得しており、需要者への認知度等からも、宿泊産業における著名な標章の一つであることは疑いようのないものである。
また、ホテル業界では、均一した質のサービスの提供を保証するホテルグループの名称として、同一の名称を含むブランド展開をするといった手法が広く使用されていることも相まって、「オークラ/Okura」は、オークラグループの略称としても、広く認識されるに至っている。
そして、「オークラ/Okura」の文字を構成中に有するオークラグループの下に展開される各ホテルは、「オークラ/Okura」の著名性にあやかってその認知度が格段に高まると考えられ、このような標章が同グループの新規ホテルに与える影響力は甚大で、又その顧客吸引力は計り知れないものであり、同グループに属するホテルの提供に際して付される「オークラ/Okura」の標章に化体した業務上の信用もとてつもなく大きいものである。
ウ 小括
上述の点に加え、申立人にあっては、1963年に「オークラクラブ」を、また、1971年には「Okura Club International」なる会員制クラブを発足させたばかりか、現在も「オークラサロン」なるサロンを運営しており、さらに、館内の意匠を紹介した冊子「オークラLegend」も発行しており(甲5、甲13?甲15)、宿泊施設の提供やその関連サービスの提供に際して、略称たる「オークラ/Okura」を含む標章を多用していることは周知の事実である。
また、申立人自らも「オークラ」の略称を用いて自己を指称していること(甲16、甲17)及び本件商標は実際には「OKURA」の文字を不可解な程に顕著に表して使用されているといった事実がうかがえること(甲19)をも鑑みると、申立人の業務に係る「The Okura Tokyo」の著名な標章及び著名なオークラグループを指称する「オークラ/Okura」の文字を包含していることが苦もなく理解される本件商標が付された本件指定役務が実際の商取引に資された場合、これに接した需要者、取引者は、オークラグループを容易に想起又は連想し、当該役務はオークラグループ、あるいはこれらと経済的・組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務、あるいはオークラグループに属する新たなホテルに係る役務であるかのごとく、役務の出所について混同を生ずるおそれがあることは明らかであることから、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものである。

4 当審の判断
(1)引用商標の周知性について
ア 申立人の提出に係る甲各号証及び申立人の主張によれば、以下の事実が認められる。
(ア)申立人は、1958年12月11日に大成観光株式会社として創立され、1987年1月1日に現商号に変更し、その事業を「ホテル資産の所有及びホテル事業会社の所有・管理,チェーンホテルに対する運営受託及び技術指導,ホテル関連事業会社の所有・管理,ホテル事業(開発および改善)に関するコンサルティング」を主な内容とする法人である(甲5、甲6)。
(イ)申立人は、1962年5月20日に本館(ホテルオークラ東京)を開業し、1973年にその別館を開業して、2019年10月1日からは「The Okura Tokyo」の運営に携わっており、さらには、関連企業(株式会社オークラ ニッコー ホテルマネジメント)を介して、ホテルの名称に「オークラ」、「Okura」を含むホテルの運営にも関与している(甲5?甲7、甲17、甲18)。
(ウ)申立人の「The Okura Tokyo」は、通常の宿泊客の受入れのほかに、各国の国家元首・国際機関代表の宿泊や国際的な会議、各種発表会や婚礼場等の会場としても利用されている(甲5、甲8)。
(エ)「ホテルオークラ東京(現The Okura Tokyo)」は、「インスティテューション・インベスター」、「EUROMONEY」、「日経ビジネス」といった雑誌において、1981年から1996年の間に6回行われたホテルのランキングでは、上位3位内に選出された(甲5)。
(オ)「週刊ホテルレストラン」(2020年11月6日、同月20日及び同月27日付)によれば、「総売上高から見た日本のベスト300ホテル」、「ホテルブライダルランキング(婚礼部門の売上高ランキング)」、「総売上高から見た日本のベスト300ホテル」において、申立人の運営する「The Okura Tokyo」が第6位又は第7位にランクインされていることが記載されている(甲9)。その他の雑誌(週刊ダイヤモンド(2001年、2016年)、週刊東洋経済(2014年))にも「ホテルオークラ」に関する記載があり、15件の新聞記事(2018年6月?2021年1月)にも「ホテルオークラ東京」や「ホテルオークラ札幌」に関する記事が掲載されている(甲11)。
(カ)申立人の第77期事業報告書(2019年4月1日?2020年3月31日)(甲10)には、第75期から第77期までの売上高、経常利益等の記載はあるものの、当該報告書から引用商標を使用した申立人の業務に係る役務(以下「申立人使用役務」という。)に係る売上がどの程度であったかを示す記載は見いだせず、また、我が国における申立人使用役務の市場シェアについては、これを示す主張及び証拠の提出はない。
(キ)オークラグループのウェブサイト(甲5?甲7、甲14)及び新聞・雑誌の記事(甲9、甲11、甲12)において、オークラグループを指標する語として「オークラ」の文字が記載されているものの、いずれも「The Okura Tokyo」、「Hotel Okura」、「ホテルオークラ」等、ホテル名を表す他の文字とともに用いられているものであり、「OKURA」及び「オークラ」の文字のみが単独でオークラグループの略称として用いられているとはいえない。
イ 上記アにおいて認定した事実によれば、以下のとおり判断できる。
(ア)申立人は、1962年にホテルを開業して以来、通常の宿泊客、国家行事における各国元首の宿泊のほか、国際会議、各種発表会や婚礼場として利用されていることや、日本のホテルランキングの上位にランキングされていることから、「ホテルオークラ東京」及び「The Okura Tokyo」の文字は、申立人使用役務を表示するものとして需要者の間においてある程度知られていることがうかがえる。
しかしながら、我が国における引用商標を使用した申立人使用役務に係る売上高や市場占有率(市場シェア)については、これを示す主張及び証拠の提出はないし、また、我が国における引用商標を使用した申立人使用役務の広告・宣伝の期間、回数、地域及び規模等の広告実績が定量的に確認できる客観的な資料も提出されていないことから、引用商標が申立人使用役務に使用された事実を客観的・具体的に把握することができないといわざるを得ないから、本件商標の登録出願時及び登録査定時における引用商標の周知性の程度を特定できない。
その他、申立人の提出に係る甲各号証を総合してみても、引用商標が、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国の取引者、需要者の間で、申立人の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたと認めるに足りる事実は発見できない。
以上を総合勘案すると、引用商標が、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る役務を表示するものとして、我が国の需要者の間に広く認識されているものと認めることはできない。
(イ)申立人及びグループホテルの略称としての「OKURA」及び「オークラ」の著名性について
上記ア(キ)によれば、オークラグループのウェブサイトにおいて、「OKURA」及び「オークラ」の文字を表示していることはうかがい知れるものの、「OKURA」及び「オークラ」の文字のみが単独で申立人及びグループホテルの略称を表示したものとして、一般に認識されていることを認め得る証左は発見できない。
そうすると、「OKURA」及び「オークラ」の文字が、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人、申立人の業務に係るホテルの名称又はそのホテルグループ(以下「申立人ら」という。)の略称として著名となっていたと認めることはできない。
(2)商標法第8条第1項該当性について
ア 本件商標について
本件商標は、「OKURA CLUB&HOTELS」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成は、「OKURA」の文字と「CLUB&HOTELS」の文字との間に一文字程度の空白を有するものの、同じ大きさ、同じ書体をもって、まとまりよく一体的に表されているものである。
また、本件商標の構成全体から生じる「オークラクラブアンドホテルズ」の称呼は、格別冗長なものではなく、よどみなく一連に称呼し得るものである。
そうすると、本件商標は、まとまりよく一体的な構成であって、「CLUB&HOTELS」の文字部分を省略し、「OKURA」の文字部分のみをもって取引に資されるとはいい難いこと及びその構成文字のいずれかが強く支配的な印象を有するとすべき特段の事情も見いだせないことから、一連一体の一種の造語として認識し把握されるものとみるのが自然である。
さらに、本件商標の構成中の「OKURA」の文字部分のみが独立して認識されるとみるべき特段の事情は見いだせない。
したがって、本件商標は、その構成文字全体に相応して、「オークラクラブアンドホテルズ」の称呼のみを生じ、一種の造語であるから、特定の観念を生じないものである。
イ 引用商標
引用商標1は、「Okura」の文字を、また、引用商標2は、「オークラ」の片仮名をそれぞれ標準文字で表してなるところ、これらの文字は、一般的な辞書等に載録されていないものであって、特定の意味合いを想起させることのない一種の造語として理解されるものである。
したがって、引用商標は、その構成文字に相応して、「オークラ」の称呼を生じ、特定の観念は生じないものである。
ウ 本件商標と引用商標との類否
本件商標と引用商標とを比較すると、外観においては、それぞれ上記ア及びイのとおりの構成であるから、両者は、その構成文字の字数が異なることに加え、「CLUB&HOTELS」の文字及び記号の有無という明らかな差異を有しているから、外観上、明確に区別し得るものである。
次に、称呼においては、本件商標から生じる「オークラクラブアンドホテルズ」の称呼と、引用商標から生じる「オークラ」の称呼とは、その構成音数及び音構成が明らかに相違するものであるから、両称呼は、それぞれを一連に称呼しても、互いに聞き誤るおそれはなく、称呼上、明瞭に聴別し得るものである。
さらに、観念においては、両者はともに特定の観念を生じないものであるから、観念上、比較できない。
以上よりすれば、本件商標と引用商標とは、観念において比較できないとしても、外観において明確に区別し得るものであって、称呼においても明瞭に聴別し得るものであるから、これらが需要者に与える印象、記憶、連想等を総合してみれば、両商標は、相紛れるおそれのない非類似の商標というのが相当である。
エ 小括
してみれば、本件商標と引用商標とは、たとえ、本件商標の指定役務と引用商標の指定役務が同一又は類似のものであるとしても、両商標は、類似しない商標である。
したがって、本件商標は、商標法第8条第1項に該当しない。
(3)商標法第4条第1項第15号該当性について
引用商標は、上記(1)イのとおり、我が国において、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る役務を表示するものとして我が国の需要者の間に広く認識されているものとは認めることができない。
さらに、上記(2)ウのとおり、本件商標と引用商標とは、非類似の商標であって別異の商標と判断するのが相当である。
してみれば、本件商標は、商標権者がこれをその指定役務について使用しても、取引者、需要者をして引用商標を連想又は想起させることはなく、その役務が申立人又は同人のグループ会社と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかのように、その役務の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。
その他、本件商標が出所の混同を生ずるおそれがあるというべき事情は見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
(4)商標法第4条第1項第8号該当性について
商標法第4条第1項第8号の趣旨は、人の氏名、名称、略称等に対する人格的利益を保護することにあるところ、商標中に他人の略称等が存在すると客観的に把握できず、当該他人を想起、連想できないのであれば、他人の人格的利益が毀損されるおそれはないと考えられるから、他人の略称等を「含む」商標に該当するかどうかを判断するに当たっては、単に物理的に「含む」状態をもって足りるとするのではなく、その部分が他人の略称等として客観的に把握され、当該他人を想起・連想させるものであることを要すると解される(平成24年(行ケ)第10360号 知的財産高等裁判所平成25年4月18日判決言渡)。
しかしながら、「Okura」及び「オークラ」の文字は、上記(1)イ(イ)のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人らの略称として著名となっていたと認めることはできない。
そうすると、本件商標は、その構成中に「OKURA」の文字を含むとしても、本件商標を申立人らの略称を含むものと認識し、把握されることはなく、本件商標は、他人の著名な略称を含む商標であるとは認められない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に該当しない。
(5)まとめ
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第8条第1項及び同法第4条第1項第8号、同項第15号のいずれにも違反してされたものとはいえず、他に同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定により、その登録を維持すべきである。
よって、結論のとおり決定する。

別掲
異議決定日 2021-10-27 
出願番号 商願2020-104434(T2020-104434) 
審決分類 T 1 651・ 271- Y (W43)
T 1 651・ 4- Y (W43)
T 1 651・ 23- Y (W43)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小林 智晴 
特許庁審判長 小松 里美
特許庁審判官 榎本 政実
小俣 克巳
登録日 2021-02-12 
登録番号 商標登録第6351656号(T6351656) 
権利者 株式会社大倉
商標の称呼 オークラクラブアンドホテルズ、オークラクラブホテルズ、オークラクラブ、オークラ、オクラ、クラブアンドホテルズ、クラブホテルズ、クラブ 
代理人 田中 尚文 

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