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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない W09
審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない W09
管理番号 1380009 
審判番号 無効2020-890015 
総通号数 264 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2021-12-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2020-02-12 
確定日 2021-10-29 
事件の表示 上記当事者間の登録第6173665号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第6173665号商標(以下「本件商標」という。)は、「LEXIN」の文字を標準文字で表してなり、令和元年5月23日に登録出願、第9類「バイク用無線通信機」を指定商品として、同年7月18日に登録査定、同年8月23日に設定登録されたものである。

第2 請求人商標
請求人が本件審判の請求において引用する商標は、「LEXIN」の文字からなる商標(以下「請求人商標」という。)であり、請求人の業務に係る「バイク用無線通信機」(以下「請求人商品」という。)に使用していると主張するものである。

第3 請求人の主張
請求人は、本件商標はその登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする旨の審決を求め、その理由を審判事件請求書、審判事件反駁書及び弁駁書(二)において、要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第80号証(枝番号を含む。なお、枝番号の全てを表示するときは、枝番号を省略する。)を提出した。
1 請求の理由(要点)
本件商標は、商標法第4条第1項第19号及び同項第7号に該当し、同法第46条第1項第1号により、その登録は無効にすべきものである。
2 利害関係
請求人の兄弟会社であるLEXIN Electronics Co.,Limited(以下「本兄弟会社」という。)は、2008年に香港でカーオーディオシステムのOEMメーカーとして設立された(甲1)。その後、個人住宅オートメーション製品のOEMに移行し、さらに2010年に最初のヘルメットBluetoothキットをリリースして、バイク用無線通信機市場に参入した。2010年からの数年間、本兄弟会社は別のブランドのOEMメーカーを務めていたが、2015年、請求人商標を使用した請求人商品の販売を開始した(甲2)。請求人は、本兄弟会社の兄弟会社として、請求人商品の販売を担うため、米国カリフォルニア州で2016年に設立され(甲3)、以降本兄弟会社に代わって米国Amazon.com(以下「米国アマゾン」という。)での販売を行っている。
請求人は、請求人商標と同一の商標について米国で2018年5月1日登録出願し、2019年10月22日商標登録を受けた(甲4)。また、本兄弟会社は2015年7月から日本で請求人商品の販売を開始した(甲5、甲50の2)。請求人の設立後は、本兄弟会社を日本における請求人商品の総販売代理店とした(甲6)。現段階ではAmazon.co.jp(以下「日本アマゾン」という。)を中心としたECビジネスに集中して、日本でのブランド認識を高めている。
請求人は、本兄弟会社を通じて、日本において請求人商品を日本アマゾンで販売していたところ、2019年11月25日に日本アマゾンから「登録商標番号:6173665」の権利を侵害しているとの申立てを被請求人から受けたので出品を削除するとの連絡を受けた(甲7)。
請求人から日本アマゾンに、本兄弟会社が請求人の日本における総販売代理店であることの証明書(甲6)を2019年11月26日付で提出したことで出品が一度は再開されたが、再度、同年12月13日に日本アマゾンから「登録商標番号:6173665」の権利を侵害しているとの申立てを被請求人から受けたので出品を削除するとの連絡を受けた(甲8)。
よって、請求人は、本件商標の存否について利害関係を有する者である。
3 無効原因
(1)商標法第4条第1項第19号の該当性について
ア 売上について
請求人商品は、米国において、2015年から、米国アマゾンなどのインターネット通販により販売されている(甲9)。
請求人商品の売上げは、米国において、米国アマゾンから出力・集計したデータによると、米国アマゾンだけでも、2015年に259,089ドル、2016年に394,333ドル、2017年に409,444ドル、2018年には854,447ドル、2019年には1,327,249ドルであり、日本において、日本アマゾンから出力・集計したデータによると、日本アマゾンだけでも、2015年に5,577,880円、2016年に67,382,521円、2017年に107,017,431円、2018年には111,792,250円、2019年には205,096,199円である(甲10)。
イ 利用者数について
請求人商品の販売数量は、米国において、米国アマゾンから出力・集計したデータによると、米国アマゾンだけでも、2015年に6,654、2016年に9,825、2017年に12,470、2018年には16,482、2019年には20,228であり、日本において、日本アマゾンから出力・集計したデータによると、日本アマゾンだけでも、2015年に1,525、2016年に8,848、2017年に16,654、2018年には19,018、2019年には28,558である(甲10)。
また、上記の数量が販売されていることからすれば、請求人商品は請求人のストアサイトを閲覧し商品の購入を検討している者はさらに多いといえる。
ウ メディア紹介等について
(ア)請求人は、米国のオートバイ団体MotoAmericaがプロモートするレース大会の出場レーサーのスポンサーである。請求人商標はオートバイやレーシングウェアに記載されている(甲11)。また、MotoAmericaのFacebookのフォロワーは152,730人(甲12)、インスタグラムのフォロワーは105,000人(甲13)いて、請求人商標の記載されたオートバイが写っているほか、MotoAmericaのレースは米国フォックス・スポーツ等でテレビ放映されている(甲14)。
(イ)請求人商品は、米国の米国アマゾンのパワースポーツBluetoothヘッドセットのベストセラーのランキングで4位、5位、24位、32位、50位に入っている(甲15)。
(ウ)請求人は、米国で行われるバイク用品の博覧会である、IMS Expo(国際モーターサイクルショー博覧会)のロングビーチ(甲16の1、2)・ニューヨーク(甲16の3、4)・シカゴ(甲16の5)、AIMExpoのラスベガス(甲17の1?4)等に請求人商品を出品している。IMS Expoでは数十万の訪問者等が会場を訪れ(甲18の1、2)、AIMExpoの博覧会では4日で数千人以上の業者や消費者がブースを訪れる(甲19)。
(エ)以上のように、米国国内の売上高、購入した者・購入を検討した者の数及びメディア紹介等の状況からすれば、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人商標は、米国における需要者の間において、請求人の販売するバイク用無線通信機を表示するものとして広く認識されたものである。
(オ)請求人商品は、日本のバイクマガジンのモトチャンプ2019年4月号で紹介されている(甲20)。モトチャンプの発行部数は250,000部である(甲21)。
(力)請求人商品は日本の日本アマゾンのバイク用通信機器の売れ筋ランキングで1、7、10、30位に入っている(甲22)。
なお、請求人商品をそのまま日本アマゾンに表示すると、日本アマゾンから「登録商標番号:6173665」の権利を侵害しているとして出品を削除されるので、請求人は、本兄弟会社を通じて、やむをえず日本アマゾンには請求人商品の写真の請求人商標部分を隠した状態で表示している(甲22)。しかし、それでは、日本アマゾンが請求人商品の主要な販売経路であることからして、請求人商標の出所表示機能が高められることはない。
したがって、請求人としては、本件商標が無効とされて、請求人商標の商標出願・登録ができる必要がある。
(キ)請求人商品は、Youtubeで多数紹介されている。そのうちのいくつかの再生回数をみると、それぞれ3.3万回、3.2万回、2.5万回、2万回、2万回、1.8万回ある(甲23)。
(ク)以上のように、日本国内の売上高、購入した者・購入を検討した者の数及びメディア紹介等の状況からすれば、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人商標は、日本における需要者の間において、請求人が(本兄弟会社を通じて)販売するバイク用無線通信機を表示するものとして広く認識されたものである。
エ 請求人商標と本件商標とが同一又は類似であること
本件商標は、「LEXIN」の欧文字からなるのに対し、請求人商標も、「LEXIN」の欧文字からなるものであるから、本件商標と請求人商標とは、同一又は極めて類似性の高いものである。
不正の目的があること
(ア)被請求人の販売状況
被請求人は、日本アマゾン及び楽天にストアを有しているが、日本アマゾンのストアでは2019年12月21日、2020年1月26日現在のいずれにおいても、商品の中に本件商標を使用したバイク用無線通信機は販売されておらず(甲24)、楽天のストアでは2019年12月20日、2020年1月26日現在のいずれにおいても何も販売されていない(甲25)。
すなわち、被請求人は、日本国内において、本件商標を使用したバイク用無線通信機を販売していない。
(イ)外国及び日本での対応状況
請求人は、請求人商標と同一の商標について、2018年5月1日米国で登録出願し、2019年10月22日商標登録された(甲4)。
本兄弟会社の大株主であるペンヤオ氏は、2017年に日本で「LEXIN ELECTRONICS DESIGN FOR BIKE」の文字を含む図形商標を第9類及び第12類につき登録出願し、いずれも2018年に商標登録された(甲26)。
請求人は、2019年7月頃、日本で請求人商標を登録出願しようとしたが、すでに2019年5月23日に被請求人により登録出願されていることがわかった。
(ウ)被請求人による請求人商標の認識等
請求人は、米国カリフォルニアの法人であるのに対し、被請求人は日本法人である。
そして、請求人は、販売する請求人商品を、本件商標の登録出願・登録時である2019年には、米国国内の米国アマゾンにおいて1,327,249ドルを売り上げているだけでなく、日本国内の日本アマゾンにおいて205,096,199円を売り上げている(甲10)。
被請求人は、日本アマゾンに自らもストアを有している(甲24)。
これらのことからすれば、被請求人は、当然に請求人商標を知って本件商標の登録出願を行ったと考えられる。
(エ)本件商標の観念
本件商標は、バイク用無線通信機において、その商品の品質等を示すものではなく、一般的に採択されるものではない。
また、被請求人は、日本法人であって、上記のような名前を有するものでもない。
そのため、被請求人が偶然に「LEXIN」なる商標を登録出願することはありえない。
そして、被請求人は、日本において日本アマゾンを経由して請求人に対して、2度にわたり、請求人商品の出品を削除するよう要求した(甲7、甲8)。
被請求人は、おびただしい数の商標を、自ら出願し、登録を得て(甲27の1)、被請求人及びその代表者は、登録を得た商標の一部を、商標売買サイトに転売目的で出品している(甲27の2)。
さらに、被請求人は、2020年1月14日には、代理人弁理士を通じて、請求人に対して本件商標の買取りを要求してきた(甲28)。
これらのことは、被請求人が事業の目的ではなく、いまだ本件商標が日本において登録出願されていないことを奇貨として、我が国において本件商標を高値で請求人に売却する目的、又は請求人の日本参入を阻止ないし困難にする目的、又は本件商標の顧客吸引力を希釈化若しくはこれに便乗し不当な利益を得る目的等不正の目的があったといえ、本件商標は、不正の目的で登録出願されたものである。
カ 以上より、本件商標は、米国及び日本における需要者の間に広く認識された請求人商標と同一又は類似するものであって、不正の目的の下で登録出願されたものであるから、商標法第4条第1項第19号に該当する。
(2)商標法第4条第1項第7号について
本件商標は、上記のような不正の目的の下で登録出願されており、国際及び国内商道徳に反するものであって、公正な取引秩序を乱すおそれがあるばかりでなく、国際及び国内の信義に反し公の秩序を害するものであるから、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあるものであるといえ、商標法第4条第1項第7号に該当する。
4 答弁書に対する反駁及び主張の補充
(1)本件商標が無効とされるべきでない理由について
ア 請求人商標及び請求人商品について
請求人は、請求人商標を、その販売するバイク用無線通信機(いわゆるインカム)である請求人商品に付して使用している。
被請求人は、請求人商標及び請求人商品において、被請求人は「請求人が、具体的に、どの商品について、どのような商標を付して使用しているか、不明である。」及び「その結果、被請求人は・・・請求人商標の著名性や、被請求人商標との類否等について、検討することができない。」等と主張する。
しかし、被請求人自身、「請求人が、具体的に、どの商品について、どのような商標を付して使用しているか」非常に明確に認識しているのである。
上記2で述べたように、請求人は、本兄弟会社を通じて、日本において請求人商品を日本アマゾンで販売していたところ、2019年11月25日に日本アマゾンから「登録商標番号:6173665」の権利を侵害しているとの申立てを被請求人から受けたので出品を削除するとの連絡を受けた(甲7)。また、再度、同年12月13日に日本アマゾンから「登録商標番号:6173665」の権利を侵害しているとの申立てを被請求人から受けたので出品を削除するとの連絡を受けた(甲8)。甲第7号証及び甲第8号証で出品を削除された商品は、ASIN:(Amazonが策定した、商品識別用の10桁の番号コードのこと。Amazonで取り扱われる全商品のうち、書籍以外の商品すべてに与えられている。)はB07C4HGKR6であり、請求人における商品名はLX-R6である(甲29の1、2)。被請求人が日本アマゾンに甲第7号証及び甲第8号証の申立てをしたときには、ASIN:をB07C4HGKR6と特定した上で、それが「登録商標番号:6173665」の権利を侵害していると申立てているのである(甲29の3)。これは、被請求人において、「請求人が、具体的に、どの商品について、どのような商標を付して使用しているか」非常に明確に認識しているからにほかならない。
なお、甲第29号証の1においては、1ページ目の最初の商品の写真には「LEXIN」の文字が付されていないが、5ページ目の商品の写真においては、「LEXIN」の文字が付されている(甲29の2と同じ写真)が、これは、上記2においても述べたように、請求人商品をそのまま日本アマゾンに表示すると、被請求人の申立てにより、日本アマゾンから「登録商標番号:6173665」の権利を侵害しているとして出品を削除されるので、請求人は、やむをえず日本アマゾンには請求人商品の写真の請求人商標部分を隠した状態で表示しているのであり、甲第22号証についても同様である。甲第22号証の1(ASIN:B07DR936VQ、商品番号 LX-B4FM)は甲第15号証の32、甲第22号証の11(ASIN: B07C4SLXRM、商品番号 LX-R6)は甲第15号証の50、甲第22号証の30(ASIN:B07FK9GM5V、商品番号 LX-B4FM)は甲第15号証の32に、それぞれ対応しており、甲第15号証においては、米国アマゾンのもので被請求人からの申立てなどもないため、各商品にどのようにLEXIN商標が付されて使用されているか見て取ることができる。
被請求人は、日本アマゾンに甲第7号証及び甲第8号証の申立てをした後も、度々日本アマゾンに対し同様の申立て等を繰り返している。被請求人は、答弁書を特許庁に提出する前にも、2020年2月12日、同月13日に日本アマゾンに対し、請求人のASIN:B07DR936VQ(甲22の1)、B07FK9GM5V(甲22の30)の商品が、「登録商標番号:6173665」の権利を侵害しているとの申立てを行い、請求人は、被請求人から当該申立てを受けたので出品を削除するとの連絡を日本アマゾンより受け、出品を停止された(甲30)。被請求人のかかる行為により、請求人は甚大な経済的損失を蒙っており、請求人は被請求人に対して、2020年2月14日と同月26日の二回にわたり警告書を発している(甲31)。
被請求人は、答弁書を特許庁に提出した後も、2020年6月8日に、日本アマゾンに対し、請求人のASIN:B07DR936VQ、 B07C4SLXRM、B07FK9GM5Vの商品について、被請求人代理人が請求人の代理人と協議中であるとの虚偽(請求人も請求人代理人も、被請求人代理人と協議をしていない)の連絡をし、請求人は、被請求人から当該連絡を受けたので出品を削除するとの連絡を日本アマゾンより受け、再び出品を停止された(甲32)。
なお、請求人のASIN:B07DR936VQ、 B07C4SLXRM、B07FK9GM5Vの各商品は、現在日本アマゾンにおいて表示されなくなっているが、それは被請求人が2020年2月20日と同年6月8日に日本アマゾンに対して上記の申立て等を行った結果、日本アマゾンからこれらの商品の出品が削除されたままであるためである。
このように、被請求人は、請求人のASIN:B07DR936VQ、B07C4SLXRM、B07FK9GM5V等の商品につき、「どのような商標を付して使用しているか」非常に明確に認識しているのである。
イ 商標の類否について
請求人商品に付される商標は、米国商標登録第5888142号(甲4)に係るものと同じものであり、したがって、本件商標はこれと類似している。
ウ 請求人商標の著名性について
請求人商品は、インカムと呼ばれる、バイク用無線通信機であり、オートバイのツーリング等の場面でヘルメットに組み込んで使用される(甲36)。
したがって、日常使用の一般的商品ではなく、その需要者はオートバイでのツーリング等ができる、大型二輪、普通二輪及び原付の免許保有者にほぼ限定される。警察庁の令和元年版運転免許統計によれば、大型二輪の免許保有者は22,204人、普通二輪の免許保有者は136,436人、原付の免許保有者は1,091,761人であり(甲37)、合計しても1,250,401人である。そして、日本自動車工業会の2017年度二輪車市場動向調査によれば、インカムの所有意向があるのは、そのうちの8%程度である(甲38)。これら大型二輪、普通二輪及び原付の免許保有者のうちのインカムの所有意向がある者8%(10万人程度)を需要者として捉え、周知性を検討すべきことになる。
この点、日本自動車工業会の2019年度二輪車市場動向調査によれば、二輪愛好者の間での、二輪車の楽しみ方に関する情報源としては、二輪車専門誌やWEB、口コミとSNSが多い。二輪車専門誌を情報源とする人は30%、WEBは15%、バイク仲間の投稿は10%程度である(甲39)。バイク用インカムの需要者も、これらのものを情報源としていると考えられる。
請求人がすでに提出した証拠にも、二輪車専門誌(甲20)、米国アマゾン及び日本アマゾンにおける請求人商品のランキング(甲15、甲22)、Youtube動画(甲23)などがある。
二輪車専門誌モトチャンプ(甲20)は、2019年4月号なので、本件商標の登録出願直前のものであるところ、二輪愛好者の間で二輪車専門誌を情報源とする人が30%いる中で、モトチャンプの発行部数は250,000部もあり(甲21)、これは請求人商品が本件商標の登録出願当時に周知性を具備していたことを証明する。
米国アマゾンにおける請求人商品のランキング(甲15、甲40)についていえば、請求人商品は、インカムと呼ばれる、バイク用無線通信機であり、オートバイのツーリング等の場面でヘルメットに組み込んで使用される(甲33)ものであるので、分類としては、「パワースポーツ Bluetooth ヘッドセット」あるいは「ヘルメット Bluetooth ヘッドセット」に該当するものということができる。そして、2020年6月18日現在においては、LX-B4FMは、「パワースポーツ Bluetooth ヘッドセット」の分類では第1位、「パワースポーツ ヘルメット コミュニケーション」の分類では第2位を獲得している。そして、米国アマゾンは米国全体のオンライン小売売上の49.1%を占める(甲41、2018年現在)。そのような米国のオンライン小売最大手で請求人商品がランキングの最上位を占めていることは、請求人商品が米国で周知性を具備していることを証明する。
日本アマゾンにおける請求人商品のランキング(甲22)についても、請求人商品のカテゴリーがバイク用通信機器となっているのは適切である。そして、ランキングで、請求人の「ASIN:B07DR936VQ 商品番号LX-B4FM」は1位、「ASIN: B07C4SLXRM 商品番号LX-R6」は11位、「ASIN:B07FK9GM5V 商品番号LX-B4FM」は30位を占めている。そして、日本の電子商取引市場における企業別のシェアはアマゾンが20.2%を占め、第一位である(甲42、2016年現在)。そのような日本の電子商取引の最大手で請求人のインカムがランキングの最上位を占めていることは、請求人商品が日本で周知性を具備していることを証明する。
Youtube動画(甲23)については、再生回数がそれぞれ3.3万回、3.2万回、2.5万回、2万回、2万回、1.8万回ある。大型二輪、普通二輪及び原付の免許保有者のうちのインカムの所有意向がある者が8%(10万人)程度であることに鑑みると、これだけの再生回数があることは、請求人商品が日本で周知性を具備していることを証明する。
エ 売上げ及び利用数について
請求人は、甲第10号証に係る各年度における米国アマゾン及び日本アマゾンでの対象商品ごとの小売りの売上金額並びに購入者数及び購入者所在県の内訳データを保有している。
しかし、上記3でも述べたとおり、被請求人には、いまだ本件商標が日本において登録出願されていなかったことを奇貨として、本件商標を出願登録し、我が国において本件商標を高値で請求人に売却する目的、又は請求人の日本参入を阻止ないし困難にする目的、又は本件商標の顧客吸引力を希釈化若しくはこれに便乗し不当な利益を得る目的等不正の目的がある。
現に、被請求人には、そのような不正の目的で商標の登録を受けた過去がある。このような状況において、当該内訳を公開した結果、被請求人が当該内訳のデータを悪用した場合には、請求人はさらに甚大な経済的及び信用上の損失を蒙るおそれがある。
不正の目的について
(ア)被請求人の販売状況について(商標法第4条第1項第10号該当性)
a 被請求人の運営するインターネットショッピングサイトにおける本件商標を付したインカムの販売
被請求人は、自ら運営するインターネットショッピングサイトにおいて、本件商標を付した商品を販売しているとして、乙第2号証の1及び2を証拠として提出している。
確かに、乙第2号証の1及び2の下の方にあるURLを検索すると、乙第2号証の1及び2のようなページは出現する。しかし、そこで表示されている商品は、FODSPORTSというメーカーのインカムであり、日本アマゾンにおいてはFODSPORTS製品として表示された上で販売されているものである(甲43)。
被請求人は、その運営するインターネットショッピングサイトの乙第2号証の1の商品ページの商品表記の箇所の冒頭に、FODSPORTSでなくLEXINと記載して、全体としては「LEXIN 防水 インカム バイク用 4人同時通話 FMラジオ搭載 最大通話距離 1.2km Bluetooth」と表示している。
被請求人がこのような表示をしているのは、請求人が上記3で「被請求人は、日本国内において、本件商標を使用したバイク用無線通信機を販売していない」と述べたのを覆し、「自ら運営するインターネットショッピングサイトにおいて、本件商標を付した商品を販売している」という事実を見せかけるためである。このようなことは、自ら運営するインターネットショッピングサイトであれば、いかようにでも簡単にできてしまう。
LEXINという請求人商標は、請求人が登録を得ていないものの、上述のとおり請求人の商標として周知性を備えている。しかるに、請求人商品のうち日本アマゾンで特にランキングの高い3つが、被請求人が日本アマゾンに対して申立て等を行った結果、日本アマゾンから出品を削除されてしまっている。
このような状況で、被請求人がこのように請求人のものではないインカム商品の表示に「LEXIN」という商標を付して使用すると、一層容易に、需要者において誤認混同が生じ、請求人商標に化体している請求人の信用が害されてしまう。請求人としてはこのようなことは決して容認できないことであり、だからこそ、本件商標の登録は無効とされなければならない。
b 楽天市場における、被請求人による、本件商標を付したインカムの販売
被請求人は、乙第2号証の1及び2の自ら運営するインターネットショッピングサイト以外でも、本件商標を付したインカム商品を販売している。
被請求人は、楽天市場で請求人の請求人商品であるインカム商品を販売している。まず、請求人は、LX-R6を日本アマゾンで2018年4月11日にASIN:B07C4HGKR6で登録し、以後販売していて、2020年6月17日現在その販売価格は5、399円である(甲44の1)。前述のとおり、被請求人は日本アマゾンに対してLX-R6をASIN:B07C4HGKR6と特定した上で「登録商標番号:6173665」の権利を侵害していると申立てをし(甲7、甲8)、請求人による販売を停止させた(甲29の3)。そのようなことをしつつ、被請求人は楽天市場の自己のストアで、LX-R6を、商品表記の箇所に、「LEXIN インカム バイクインカム 6riders インカムバイク 高音質 バイク用インカム バイクインカム bluetooth バイク用品 バイク無線機インカム 日本語の取り扱い書付く ACアダプターは付かない」「商品番号TLB07C4HGKR6」と表示して販売しているが、その販売価格は21,800円で、請求人の販売価格より著しく高額である。商品番号のうちのTL以降の部分は、請求人のLX-R6のASIN:をそっくり冒用している。また、同商品サイトの2ページ目には左側に3枚写真がある(甲44の2)が、これらはいずれも請求人が著作権を有するものであって(甲44の3)、請求人から被請求人にこれらの写真の利用を許諾したこともない。
また、請求人はLX-B4を日本アマゾンで2018年10月18日にASIN:B07JBN7GF6で登録して以後販売していて、2020年6月17日現在その販売価格は6,000円である(甲45の1)。しかるに、被請求人は楽天市場の自己のストアでLX-B4を、商品表記の箇所に、「LEXIN バイクインカム 本体LX-B4FM パーツ付かない」「商品番号OXB07JBN7GF6」と表示して販売しているが、その販売価格は30,000円で、請求人の販売価格より著しく高額である。商品番号のうちのOX以降の部分は、請求人のLX-B4のASIN:をそっくり冒用している。また、同商品サイトの2ページ目には左側にライダーの写った写真が1枚ある(甲45の2)が、これも請求人が著作権を有するものであって(甲45の3)、請求人から被請求人にこれらの写真の利用を許諾したこともない。
さらに、請求人はLX-FT4を日本アマゾンで2018年10月29日にASIN:B07K19XKK6で登録して以後販売していて、2020年6月17日現在その販売価格は13,999円である(甲46の1)。被請求人は楽天市場における商品ページの商品表記の箇所に、「【2019最新版】LEXIN LX-FT4 4riders インカム バイク4人同時通話バイク用インカム FMラジオ放送インターコム3色変更可能 バイク 無線 長通話時間 bluetooth インカム モーターサイクル用インカム」「商品番号SAB07Kl9XKK6」と表示して販売しているが、その販売価格は68,540円で、請求人の販売価格より著しく高額である。商品番号のうちのSA以降の部分は、請求人のLX-FT4のASIN:をそっくり冒用している。また、同商品サイトの1ページ目には左側に上から6枚写真がある(甲46の2)が、これらもいずれも請求人が著作権を有するものであって(甲46の3)、請求人から被請求人にこれらの写真の利用を許諾したこともない。
被請求人は、他人の知的財産権を尊重し保護する意識が極めて希薄といわざるを得ない。被請求人による、かかる請求人の写真やASIN:を冒用しての、本件商標を付した請求人商品であるインカムの、著しい高値での販売行為は、需要者において(例えば、請求人が楽天市場ではそのような著しい高値で販売しているというような)誤認混同を生み、請求人商標に化体している請求人の信用が害されてしまう。
(イ)小括
被請求人により、本件商標が登録出願され、上記(ア)a及びbの態様でインカム商品に使用されていることは、請求人がすでに上記3で主張した商標法第4条第1項第19号及び同項第7号のみならず、同項第10号にも該当する。
カ 外国及び日本での対応状況について
請求人は、中国の兄弟会社を介して、中国の知的財産権代理人との間で、2019年7月19日に委託代理協議書を締結し、日本で「LEXIN」商標の登録申請をするよう委託した(甲47)。しかし、本件商標は2019年8月23日に被請求人に登録されてしまった。
キ 被請求人による本件商標の認識について
被請求人は、被請求人代理人とともに、すでに日本において日本アマゾンで販売されている商品でありながら、商標の登録出願のなされていないものがないかを頻繁に探り、そのような商品があれば、その販売者に先んじて、その商品の属する類を指定商品として、当該商標の登録出願を行うということを繰り返して来たものである。また、いったん当該商標が登録されると、被請求人は、被請求人代理人を介して、当該商品が、当該登録商標権を侵害するものであると、日本アマゾンへ申告し、当該商品の販売を停止させるのである。そして、当該販売者の商品が国内参入するのを阻止したり、販売停止により経済的打撃を受けた販売者に当該登録商標を売りつけようとしたりするなどしており、まさに不当な利益を得る目的でかかる商標の登録出願をしているのである。
本件においては、請求人商品の日本アマゾンでの販売は2015年7月から開始されていたところ、被請求人は本件商標を登録後、被請求人は本件商標を請求人に売りつけようとしたが、本件審判請求がなされ、本件商標を請求人に売りつけられないことが明らかになると、今度は上記オ(ア)a及びbの態様で本件商標を付したインカム商品をネット販売し、さらには2020年6月8日に、日本アマゾンに対し、請求人のASIN:B07DR936VQ、 B07C4SLXRM、B07FK9GM5Vの商品について、被請求人代理人が請求人の代理人と協議中であるとの虚偽の連絡をし、その結果日本アマゾンからこれらの商品の出品が削除された。これにより、請求人は我が国への参入を妨げられている。被請求人これら一連の行為は、不当な利益を得る目的での商標の登録出願にほかならない。
ク 被請求人による商標登録出願について
被請求人のホームページによれば、その資本金は300万円である。これに対し、被請求人が例に挙げるトヨタ自動車株式会社の資本金は6,354億円(2019年3月末現在)、アイリスオーヤマ株式会社の資本金は1億円である。これらの企業との資本金の金額の差からすれば、被請求人による78件の商標登録出願は、おびただしく多いというべきである。
被請求人は、登録出願した商標7つを用いて、事業を行っていると主張して、乙第4号証を提出した。乙第4号証の中には、楽天市場のページもあったが、請求人代理人が2020年6月13日に訪問すると、楽天市場の「WES STORE」のページの内容がすっかりなくなって、請求人がすでに提出済みの、甲第25号証の1ないし6と同様、物が販売されていない状態となっていた(甲49)。
仮に、被請求人が登録出願した商標のうち7つを用いているとしても、残りの71の商標については、それらを用いて事業を行っていないのである。
ケ 被請求人登録商標の一部売買について
被請求人代理人は、甲第28号証のEメールの中で「さもなければ、当方は貴方がもうこの商標には関心がないものと結論付け、商標を取得することに関心のある他の当事者との交渉を開始します」と述べている。被請求人が登録した商標の一部を商標売買サイトに転売目的で出品していることは、請求人のような立場の者に、同サイトで商標を転売されてしまうのではないかとの恐れを覚えさせ、商標の高値での譲渡を誘発しかねないものであり、不正の目的の達成を助長するものといえる。
そもそも、かくもおびただしい数の商標を登録した上で、自らはそれらのほとんどを事業に用いることなく、取引の対象として利得せむとすることは、商標法が商標の登録を認めて保護をする趣旨・目的に反しているのではないであろうか。被請求人が主張するような商標法上の権利は、請求人のような立場の者を犠牲にして保護されるべきものなのであろうか。
コ 本件商標の買い取りについて
請求人から被請求人に対し、商標の買い取りを希望したことはない。
被請求人が接触してきたというJessieは、上記カで言及した、請求人が日本で「LEXIN」商標の登録申請をするよう委託した、中国の知的財産権代理人の従業員である(乙5の1などにみられる、zhongzhenip.comは、同社のEメールのドメインである。zhongzhenは中珍の中国語読み)。同社と締結した委託代理協議書での同社への委託事項は、請求人のために、商標登録出願書類の作成、提出するに関する手続きと登録料の支払手続を行うことと、申請中の関連事項について直ちに請求人と疎通し、進展状況を見守ることであり、商標の譲受やその交渉は委託事項に含まれてない。また、請求人はJessieに商標の譲受やその交渉を授権したこともない。Jessieから被請求人代理人への本件商標を買い取りたい旨の連絡は、あくまでJessieが独断で行ったものである。
JackyがWeChatで被請求人代理人にコンタクト依頼をしたのは、Jackyが事情をよく了解しないまましたものである。Jackyから被請求人側へ本件商標の買い取り希望を伝えたことはない。
5 上申書に対する弁駁及び主張の補充
(1)請求人の使用商標について
請求人は、日本アマゾンで、本兄弟会社を日本における総販売代理店として(甲6)、2015年7月30日より、請求人米国商標と同じ商標を付した、甲第50号証の2にある請求人商品を、「Amazon.co.jpのページ」欄に記載されたページにて販売している。甲第50号証の2にある請求人商品のうち、日本アマゾンで販売されているLX-R6、LX?B2、LXB4FM、LX-FT4 (いずれもバイク用無線通信機)は、それぞれ米国アマゾンで売られているのと同じものである。
請求人米国商標は、欧文字を標準文字で表してなるものであり、甲第50号証の2の請求人商品は、被請求人が挙げる甲第6号証あるいは甲第11号証に表されているのと字体やデザインが同様の商標が付されている。
しかし、以下にみるように、甲第50号証の2の請求人商品に付された商標は、請求人米国商標と同一又は類似している。
しかるところ、甲第50号証の2の請求人商品に付された商標も請求人米国商標もいずれも「LEXIN」の欧文字からなり、それらの間の字体やデザインの多少の違いによっても、取引者に外観、観念、呼称等によって取引者に与える印象、記憶、連想等は類似したものであり、また、甲第50号証の2の請求人商品は請求人が本兄弟会社を日本における総販売代理店として販売している(甲6)という取引の実情もあるため、「両商標が同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生じるおそれがある」、すなわち、いずれも請求人のものだと認識されるものといえる。
そして、本件商標も、請求人米国商標同様、欧文字を標準文字で表してなるものであるところ、現に、被請求人代理人は、2019年11月26日に自ら日本アマゾンにてLX-R6(ASIN:B07C4SLXRM)、LX-B4FM(ASIN:B07DR936VQ)、LX-B4FM 2機セット(ASIN:B07FK9GM5V)を購入し(甲51)、さらには2020年2月12日、同13日、同17日に日本アマゾンに対し、請求人のASIN:B07FK9GM5V、B07DR936VQ、 B07C4SLXRMの各商品が、「登録商標番号:6173665」の権利を侵害しているとの申立てを行っている(乙13)のであるから、被請求人及び被請求人代理人自らが、請求人米国商標及び本件商標が、甲第50号証の2の請求人商品に付された商標と同一又は類似したものであることを、当然の前提としているのである。
以上より、本件商標、請求人米国商標及び甲第50号証の2の請求人商品に付された、「LEXIN」の欧文字よりなる商標は、いずれも同一又は類似したものである。
(2)商標法第4条第1項第19号の「不正の目的」について
ア 被請求人によるおびただしい数の外国の他人の商標の登録出願が意味するもの
被請求人の商標出願には、商標法第4条第1項第19号(以下、単に「19号」という場合がある。)の「不正の目的」があり、その程度は極めて高い。被請求人は、被請求人の答弁書によると78個、請求人が把握しているだけでも76個の商標を登録出願している。
そのうちの少なくとも71個は、外国の他人(とりわけ中国系企業)が、外国の他人の商標を表示した商品を、日本アマゾンで出品開始した後に、被請求人が同一又は類似の商標の登録出願をしているのである(甲52)。しかも、答弁書によれば被請求人は自らが登録出願した商標のうち7個しか用いていない。その7個は短期間販売しただけで既に販売を終了しており、販売日等の販売実態を明らかにする証拠もないという。
日本アマゾンに出品している外国の他人の商標と同一又は類似した商標を、同一人が、かくもたくさん、偶然の一致で出願することはありえない。これは、外国の他人により日本アマゾンに出品されていて、商標登録出願がなされていない商品を、被請求人が頻繁に探り、一握りの弁理士ら(甲52)とともに、それを出願することを繰り返しているのにほかならない。
実際、記録上も明らかなところでは、被請求人及び被請求人代理人は、本件において、2020年2月12日、同13日及び同17日に日本アマゾンに対し、請求人のASIN:B07FK9GM5V、B07DR936VQ、B07C4SLXRMの各商品が、「登録商標番号:6173665」の権利を侵害しているとの申立てを行って出品停止を要求している(甲54)。
このように、本件において、被請求人は、請求人が日本アマゾンにその商品の出品を停止されることにより甚大な経営上の打撃を被ることを承知の上で、本件商標の登録の後「不正の目的」をもって、日本アマゾンに請求人商品の出品の停止を要求したのである。
イ 被請求人代理人の2020年1月14日の請求人に向けたEメールの「不正の目的」について
反駁書において明らかにしたように、被請求人代理人に接触してきたというJessieに、請求人から本件商標の譲受やその交渉を委託したことはない。
また、「さもなければ、当方は貴方がもうこの商標には関心がないものと結論付け、商標を取得することに関心のある他の当事者との交渉を開始します」と記載しているのは、自らは将来的に使用する意思がないことを表明するとともに、速やかに交渉に応じないと他に転売してしまうと請求人に時間的及び金銭的プレッシャーを加える意図の現れである。
このように、被請求人代理人が当該Eメールを発したのは、まさに極めて程度の高い「不正の目的」の現れである。
ウ 被請求人代理人の令和2年4月22日付け日本アマゾン宛「ご連絡」の「不正の目的
被請求人及び被請求人代理人は、令和2年4月22日付けで日本アマゾンに対して、書面で連絡したこと(乙13)が、自らの不正の目的の免罪符になるかのように述べている。しかし、それは決して被請求人及び被請求人代理人の「不正の目的」の免罪符となるものではない。
確かに、被請求人は通知書に、「現段階で、貴社に対して、侵害者商品の出品停止を、再度依頼することはしないことにしました」と記載はしている。
しかし、仔細に見ると、その上に「あくまで一般論ですが、ECショッピングモールにおいて、商標権侵害の事実が存在するときに、運営者がその事実を知りながら違法状態を継続したときには、出品者のみならず、運営者の侵害責任も問われることとされています。」と書いてあり、さらに下では「ASIN:B07FK9GM5V、B07DR936VQ、B07C4SLXRMの3商品について、貴社が出品再開の御判断をされた根拠をお知らせくださるようお願い申し上げます。具体的には、貴社御自身の御判断によるものであるか、侵害者あるいはその代理人からの要求があったのか等、出品再開に至る経緯をお知らせくださるようお願い申し上げます。」と要求している(乙13)。
忘れてならないのは、被請求人代理人は日本アマゾンの規約と運用に通じており、商標権侵害について「アマゾンにその判断能力がない」ため「独白の基準」で運用していることもよくわかっていることである。被請求人及び被請求人代理人は、日本アマゾンに出品再開の判断根拠を知らせるよう迫っても、日本アマゾンが適切に回答できないことを見越しているのである。
このように、日本アマゾンへの「ご通知」の上記文言は、自らの商標登録出願が本件無効審判手続で19号違反とされても責任を追及されるリスクを下げるため自分からは「貴社に対して、侵害者商品の出品停止を、再度依頼することはしないことにしました」といいつつ、日本アマゾンには出品再開によって「運営者の侵害責任も問われる」ことになりかねないと思わせることで、日本アマゾンのイニシアティブで出品停止をするように仕向けようとする、巧妙な「不正な目的」の企みなのである。
こうして、被請求人及び被請求人代理人は、日本アマゾンに、「本件について協議中」というような、商標権侵害の問題が解決していないことを示す事実を伝えれば、日本アマゾンが請求人の出品を再度停止させる、下地を作ったのである。
エ 被請求人と請求人とは協議中ではなかったのに、被請求人及び被請求人代理人が「不正の目的」をもって日本アマゾンに虚偽の通知をしたために、請求人の出品が再度停止されたこと
請求人代理人からの2020年2月14日及び同年2月26日付通知書では、請求人は、被請求人に「本件申立てのすべてにつき、直ちにnoticedispute@amazon.co.jp宛てに申立ての撤回依頼を送信するとともに、本通知書受領後1週間以内に貴社のとられた措置につき書面にてご報告ください。また、今後は本件申立てに類似する行為はお止めください。」と要求した(甲31の1、2)。そして、請求代理人からの当該通知書に対し、被請求人代理人は令和2年2月25日付け回答書において請求人に対して「貴社のご要求には、お応えすることができません。」と回答しているのであるから(乙12)、被請求人側は明確に、請求人の要求に応じて日本アマゾンに請求人の出品の再開依頼をすることを拒否したのであり、もはや協議状態にはない。
したがって、協議中だったというのは、明らかに虚偽である。
そして、日本アマゾンは請求人の出品を再開していたのに、「権利者様の代理人より出品者と本件について協議中である旨の連絡を受け取ったため、再度下記ASINの出品を停止させていただきます。」と記載されている(乙14の1)。これからして、被請求人代理人が日本アマゾンに「本件について協議中」である旨の虚偽の連絡を行ったがために、再度請求人の出品が停止させられたものであることは明確である。
また、請求人代理人からの2020年2月14日及び同月26日の通知書で、出品停止により実際に発生していた損害額等を具体的に告げられていた(甲31の1、2)のであるから、これは、かかる虚偽の連絡が、さらに請求人に甚大な経済的打撃を負わせることを承知の上でなされたことを意味する。
これもまた、極めて程度の高い「不正の目的」の現れ以外のなにものでもない。
(3)商標法第4条第1項第19号周知性
これまで見てきたように、被請求人の「不正の目的」の程度は極めて高いのであるから、周知性の要件は、商標法第4条第1項第10号における日本国内における需要者の間に広く認識されている商標の認識の程度(周知性の要件)よりも、低くてよいこととされてしかるべきである。
ア 需要者、所有意向
請求人製品の「バイク用無線通信機」は、あくまで二輪自動車の利用者(所有者)を需要者のベースとするものである。弁駁書において、請求人は、需要者のベースが、大型二輪、普通二輪及び原付の免許保有者にほぼ限定されると考えていた。
しかし、被請求人がこれは誤りだと主張しており、また、昨今は、二輪運転者の高齢化が進んで、2019年には平均が54.7歳にも達しており(甲73の1)、免許を保有していても実際には運転しない人が増えているとみられることから、需要者のベースを二輪車の保有台数とするのが適切と判断した。その2019年の数は、二輪車全体で10,539,849台、原付第二種以上で5,436,454台であった(甲73の2)。そして、2017年度の二輪車市場動向調査ではインカムの所有意向は8%であった(甲38)が、2018年度は二輪車市場動向調査がなされず(甲74)、2019年度の二輪車市場動向調査ではインカムの所有意向の数字は示されていない(甲73)。2017年度のインカムの所有意向は8%であり(甲38)、2019年度の二輪車市場動向調査の結果をみると一番多いものでもライティングウェアの13%である(甲73)から、2019年度のインカムの所有意向は、二輪車の保有者の8%から12%の間程度であったろうと推認される。
そうすると、2019年度においては、インカムの所有意向は、二輪車の保有者全体では843,187人から1,264,781人程度、原付第二種以上では434,916人から652,374人程度であったと推計される。
イ 請求人の日本事業の内容・売上・市場シェア
請求人は、 2015年7月に日本で請求人米国商標と同じ商標「LEXIN」をブランド名とする「バイク用無線インカム」を日本アマゾンにて発売開始し(甲50の2)、現在に至るまで5年半近くにわたって「LEXIN」ブランドを冠して営業を行ってきている。
日本アマゾンで請求人の「バイク用無線インカム」はLX?R6やLX?B4FMが次々とベストセラーとなり、「LEXIN」ブランドの売上規模は「バイク用無線インカム」としては大きなものになっており、 2015年は5,577,880円、2016年は67,382,521円、 2017年は107,017,431円、 2018年は111,792,250円、本件商標の登録出願・登録時である2019年は205,096,199円と、年間売上が2億円を超えるほどのブランドに成長している(甲10、甲75の1?4)。
請求人の「バイク用無線インカム」の主力商品の2018年と2019年の注文数・売上は以下のとおりである。
それぞれの項目は、「型番」、「2018年の注文数及び売上」、「2019年の注文数及び売上」であり、「LX-R6」は、約7,000個、約3,800万円、約4,000個、約2,200万円である。「LX-R6DP 2機セット」は、約2,500個、約2,800万円、約1,000個、約1,000万円」である。「LX-B4FM」は、約2,600個、約2,100万円、約14,000個、約1億2,200万円である。「LX?B4FMDP 2機セット」は、約300個、約400万円、約2,300個、3,700万円である。
日本の「バイク用無線インカム」の市場シェアに関する資料で公表され、入手可能なものはない。しかし、日本の「バイク用無線インカム」の市場における請求人の「バイク用無線インカム」のシェアは、周知性の判断において意義を有すると考えられるので、入手可能な合理的な資料をもとに、これを推計する。
甲第76号証の1は、2015年当時の二輪車用品の市場規模に関する資料である。このうち、「ツーリング」と書かれている項目が、「バイク用無線インカム」に関する数字であり、2015年当時の「バイク用無線インカム」の市場規模は、98億4600万円程度であった。これは2015年の資料であるが、二輪車保有台数は年々減少しており、2015年と比べると2019年は約8.2%減少している(甲73の2)。
したがって、「バイク用無線インカム」の市場規模も、2015年以降、縮小こそすれ、拡大することはなかったと推定される。
そこで、2019年度における「バイク用無線インカム」の市場規模も98億円程度であることを前提とすると、請求人の2019年の売上は205, 096,199円(4製品の2019年の売上だけを合算しても、191, 748,905円)であったので、売上ベースでは、請求人の「バイク用無線インカム」の市場シェアは約2%である。
しかし、周知性という観点からは、売上より、どれだけの人が商品を手にしたか、即ち販売個数で市場シェアを捉える方が適切である。販売個数ベースについても、「バイク用無線インカム」の市場シェアの資料はない。この点、「バイク用無線インカム」の市場シェアの高い機種は、価格が高く2ないし3万円は当たり前でそれ以上もある(甲76の2)のに対し、請求人製品は、それらより相当低い1万円以下の価格で、実用性は十分である(甲77の5)ことから、シェアを伸ばしてきているものである。
甲第76号証の3の、市場シェアの高い機種についてみると、1位のサインハウス社のB+COM SB6Xが圧倒的な国内シェアを持っていて(甲76の4)価格は35,830円、2位のB+COM SB6X ペアユニットは2個組みであるので除外し、3位のデイトナ社のDT-01は20,791円である。請求人以外の「バイク用無線インカム」の価格の平均は不明であるので、B+COM SB6Xの価格とDT?01の価格を平均した28,311円を、請求人以外の「バイク用無線インカム」の価格の平均と仮定する。これを前提とすると、請求人以外の「バイク用無線インカム」の販売個数は、339,232個となる。また、便宜上、請求人の「バイク用無線インカム」の価格の平均を、請求人の「バイク用無線インカム」の中で圧倒的なシェアを占めるLX?B4FMの価格である8,599円と仮定する。これを前提とすると、請求人のバイク用無線インカムの販売個数は、22,793個となる。以上を前提とすると、2019年の販売個数ベースの請求人製品の市場シェアは、6%程度ということになる。なお、すでに見たように、2019年度においては、インカムの所有意向は、原付第二種以上では434,916人から652,374人程度であったと推計された。請求人の「バイク用無線インカム」の販売個数と請求人以外の「バイク用無線インカム」の販売個数の推計を合わせると、362,025個になるが、これは原付第二種以上のインカムの所有意向の下限(434,916)に近く、(所有意向を有する人が全員実際に購入するわけではないことからしても)合理的な数字とみることができる。
ウ 日本アマゾンでのランキング
日本アマゾンにおいて、請求人の「バイク用無線インカム」は、本件商標の登録出願前の2018年9月当時はLX-R6がバイク用通信機器のベストセラー(甲77の1)に、本件商標の登録出願と登録の間の2019年7月当時はLX-B4FMがバイク用通信機器の売上ナンバー1になっていた(甲77の2)。
また、本件商標登録の約2か月後の2019年10月にもLX-B4FMはAmazon1番人気の商品であった(甲77の3)。本件商標の登録出願と登録の間の2019年6月当時にLX-B4FMを購入した需要者によっても、LX-B4FMが「amazonでベストセラー商品になっていた」と認識されている(甲77の4)。
さらに、バイク用通信機器の2019年12月30日のランキングで、請求人のASIN:B07DR936VQ商品番号LX-B4FMは1位、ASIN:B07C4SLXRM商品番号LX-R6は11位、ASIN:B07FK9GM5V商品番号LX-B4FMは30位を占めていた(甲22)。このように、バイク用通信機器のような商材については、ECサイトのリーチは相当大きいとみることができる。
以上のとおり、請求人のバイク用通信機器は、日本アマゾンでベストセラーとなっており、バイク用無線通信機器の需要者の間で「LEXIN」ブランドの知名度は高いものになっているといえる。
周知性に関する個別の証拠資料
(ア)雑誌等への掲載
a @DIME(小学館:甲77の5)
小学館の唯一の「バイヤーズガイド」サイトである、@DIMEの2019年3月13日付けの「安くても実用性は十分!1万円で買えるバイク用インカムおすすめ3選」と題した記事で、安いインカムの中でも5000円代で買えて、機能も充実しているBluetooth搭載のインカムとして紹介されている。
なお、@DIMEは、ページビュー数14,000,000PV/月、ユニークユーザー数3,000,000UU/月を有する(甲77の6)。
b モトチャンプ(三栄:甲20の1?3)
「即買いITEM」特集のLX-B4FMについての記事
2019年4月号、本件商標の登録出願(2019年5月23日)直前のものである。
なお、二輪愛好者の間で二輪車専門誌を情報源とする人が30%いる(甲39)中で、モトチャンプの発行部数は250,000部もある。
c 小括
日本の大手出版社の1つである小学館の唯一の「バイヤーズガイド」サイトや、発行部数250,000部を誇る二輪車専門誌に掲載され、需要者の間で広く知られているといえる。
(イ)ネット上でのバイク用通信機器(インカム)に関するランキング等
a gooランキング(甲77の3)
gooランキングにおいては、「インカムの人気おすすめランキング15選【楽しいツーリングに!】」との記事において、請求人商品のうちLX-B4FMは第1位に、LX-R6は第15位にランクインしている。また、コメント欄には、「まず、試しにインカムを使ってみたい方におすすめのLX-B4FM。現在Amazon1番人気の商品です。価格と性能のバランスが良く、4人までのグループ通話が可能。音質に強いこだわりがなければ十分な性能。インカムでのツーリングコミュニケーションを楽しむのにまず試して欲しい、コストパフォーマンスの良いモデルです。」と紹介されており、請求人商品が人気商品であることがわかる。
この記事は2019/10/31更新であり、本件商標登録の約2か月後の2019年10月にLX-B4FMはAmazon1番人気の商品であったことを示しており、周知性の認定のための十分に有意な証拠といえる。
なお、本ウェブサイトは、google検索エンジンにおいて「インカムランキング」と検索すると、2番目に表示されているウェブサイトであり(甲77の7)、多くの人が閲覧しているウェブサイトであるといえる。
b mybestバイクインカムおすすめ情報サービスでのランキング(甲77の8)
mybestバイクインカムおすすめ情報サービスにおいては、「バイク用インカムのおすすめ人気ランキング10選【仲間とのツーリングに!】」との記事において、Amazon・楽天・Yahoo!ショッピングなど、各ECサイトの売れ筋ランキング(2020年3月12日現在)をもとに順位付けしたランキングで、請求人商品のうちLX-B4FMは第1位に、LX?R6は第4位にランクインしている。
また、コメント欄には、「バイクインカムの専門メーカー『LEXIN』による製品」と紹介されている。
本件商標登録の約半年後のランキングであるが、請求人のLX-B4FMとLX-R6が一貫して人気商品であることを示している。
なお、本ウェブサイトは、google検索エンジンにおいて「インカムランキング」と検索すると、1番目に表示されているウェブサイトであり(甲77の7)、多くの人が閲覧しているウェブサイトであるといえる。
c おすすめexciteでのランキング(甲77の9)
おすすめexciteにおいては、「【2019年最新版】バイクインカムのおすすめ人気ランキング15選」との記事において、請求人商品のうちLX-B4FMは第1位に、LX-R6は第2位にランクインしている。
また、コメント欄には、「比較的リーズナブルな価格なので、初めて使用される方にもおすすめのバイクインカムです。通話も行えて素晴らしいといった、ロコミが挙がっていました。」等と紹介されており、請求人商品が人気商品であることがわかる。
この記事は公開日2019/10/15であり、本件商標登録の約1か月半後の2019年10月前半にLX-B4FMが非常に人気のある商品であったことを示しており、周知性の認定のための十分に有意な証拠といえる。
d enyでのランキング(甲77の2)
「暮らしに寄り添ったモノ選びメディア」enyにおいては、「【2019年最新版】バイク用インカムの選び方とおすすめ人気ランキング10選【ツーリング時も会話や音楽を楽しもう!】」との記事において、請求人商品のLX-B4FMが第1位にランキングされている。
また、コメント欄には、「こちらは、amazonの『バイク用通信機器』カテゴリーで売り上げナンバー1を誇る商品です」等と紹介されており、請求人商品が人気商品であることがわかる。この記事は2019年7月12日のものであり、本件商標の登録出願と登録の間の時期にLX-B4FMが人気の一番人気の商品であったことを示している。
e EsuproMagazineのランキング
「デキる男」を応援するマガジン、EsuproMagazineにおいては、「格安中華製から最高峰のビーコムまで!バイク用インカムおすすめ10選」との記事においては、請求人商品LX-B4FMとLX-R6が選ばれている(甲77の1)。
また、コメント欄には、LX-R6について「Amazonのバイク用インカムのベストセラー商品で、先に紹介した『LX-B4FM』の前世代に当たるモデルです。」、「なお、Amazonのベストセラー商品なだけあって、ネット上にインフレ記事が多数ありますので、多少の問題はググればクリアできます。」等と紹介されており、請求人商品が人気商品であることがわかる。
この記事は2018年9月18日のものであり、本件商標の登録出願以前の時期にLX-R6がAmazonのベストセラー商品となっていたことを示している。
f 小括
以上のとおり、請求人商品は、本件商標の登録出願及び登録の前、途中及び後に、バイク用通信機器(インカム)のランキングに関して掲載した複数のウェブサイトにおいて最上位にランキングされており、「LEXIN」ブランドの知名度は極めて高いものになっているといえる。
なお、これらのランキングをみても、購入先として実店舗を紹介しているものはなく、バイク用通信機器(インカム)の需要者は主としてECサイトから購入しているものと推認される。
(ウ)Youtubeでの紹介
LX?R6のYoutubeは、アップされた時期から、2019/12/18までは約3年経っている一方、本件商標の登録出願までは2年半程度だったので、20,313回に2. 5/3を乗じて、本件商標の登録出願当時の視聴回数は、16,928回程度であったと推測される。上記のうち、LX-B4FMのYoutubeは、アップされた時期から、2019/12/18までは約1年半経っている一方、本件商標の登録出願までは1年程度だったので、31,651回に1/1. 5を乗じて、本件商標の登録出願当時の視聴回数は、21,101回程度であったと推測される。
なお、被請求人自身、商標登録6256357号の審査の過程で提出した2019年2月28日付け意見書において、インターネットサイトは、和文の表記をしてこそ、日本人向けのサイトとなる旨の主張をしている。上記のYoutubeも和文の標記をしているので、日本人向けのものであり、いずれも日本人により視聴されたものと推定される。
(エ)小括
以上より、請求人の5年半近くにわたる大々的な営業及び販売活動に加え、数多くのメディアにおける「LEXIN」商標の表示の結果、「LEXIN」商標はバイク用通信機器の需要者の間において非常に有名で目立った存在となっている。そのため、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の「LEXIN」商標がバイク用通信機器の需要者の間で周知となっていたことは明らかである。
以上からして、被請求人の19号の「不正の目的」の程度が極めて高いことに応じて低下した19号の周知性を充足していることはもちろん、商標法第4条第1項第10号における日本国内における需要者の間に広く認識されている商標の認識の程度(周知性の要件)と同程度の周知性も充足しているものと評価できる。
よって、本件商標は、需要者の間に広く認識された本件表示と同一又は類似するものであって、不正の目的の下で登録出願されたものであるから、商標法第4条第1項第19号に該当する。
(4)商標法第4条第1項7号該当性
本件商標の登録出願も、商標法の先願主義を悪用し、同一人が大量の悪意の商標出願をして、多数の外国の他人に「大迷惑」(財産上の損害、信用の喪失その他の有形・無形の損害を含む。)を蒙らせ、特許庁の職員の事務処理量のいわれなき増大ひいては税金の無駄遣いをもたらす、著しく程度の高い「不正の目的」スキームの中でなされた、もはや知財高裁平成20年6月26日判決のいう、私的領域内の「当事者同士の私的な問題」の枠組みにおさまるものではなく、「『公の秩序や善良の風俗を害する』特段の事情がある例外的な場合」に該当し、「当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない」ものなので、商標法第4条第1項第7号に該当する。
6 まとめ
以上を要するに、請求人は、以下(1)及び(2)の理由に基づき、本件商標の登録を無効とすることを請求する。
(1)請求人の請求人商標である「LEXIN」は、本件商標の登録出願時及び登録時において、米国及び日本における需要者の間に広く認識されていた。本件商標はこれと同一又は類似であり、かつ、不正の目的の下で登録出願されたものであるから、商標法第4条第1項第19号に該当する。
(2)本件商標は、不正の目的の下に登録出願されており、国際及び国内商道徳に反するものであって、公正な取引秩序を乱すものであるばかりではなく、国際及び国内の信義に反し公の秩序を害するものであるから、公の秩序又は善良の風俗を害する恐れがあるものといえ、商標法第4条第1項第7号に該当する。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を答弁書及び上申書において、要旨以下のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第16号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 本件商標が無効とされるべきでない理由
(1)請求人商標及び請求人商品について
請求人は、「LEXIN」を使用したバイク用無線通信機を販売している旨主張し、甲第2号証を提出した。しかしながら、同証拠あるいは他の提出証拠によっても、請求人が、具体的にどの商品について、どのような商標を付して使用しているか不明である。
例えば、甲第5号証には、「製造元リファレンス」として「LX-R6SP」の記載があり、また、甲第9号証翻訳では、「モデル」として「LX-R6」の記載がある。これらは商品型番と推測されるが、これら複数種類の商品が、それぞれ具体的にどのような商品であって、商標がどのような態様で使用されているか、何ら示されていない。
その結果、被請求人は、審判請求書にて請求人商標及び請求人商品とされる商品が何なのか、特定できない。仮に、請求人商品が複数の商品の総称であるとしても、その外縁が不明であるため、請求人商標の著名性や、被請求人商標との類否について、検討することができない。
したがって、本件無効審判の請求は、商標法第4条第1項第19号及び、同項第7号の該当性について、検討することができないものであるから、不適法である。
以下、答弁書を提出するにあたり、文脈に応じて、請求人商品及び使用商標を、推測しながら主張する。
(2)商標法第4条第1項第l9号該当性について
ア 商標の類否について
上記第3の3(1)エの記載によれば、請求人商標は「LEXIN」であるとされ、仮にそうであるならば、その使用態様によるものの、一般には、これが本件商標と類似することがあることを、認めざるを得ない。例えば、請求人商品に付される商標が、米国商標登録第5888142号(甲4)に係るものであるならば、本件商標が、これと類似することを認めるが、異なる態様によるものであるならば、その具体的構成等が示されなければ、類否を判断することはできない。
イ 請求人商標の著名性について
(ア)売上について
甲第10号証によれば、日本及び米国における、何らかの商品の売上が示されているが、これらがどの商品についての売上であるか不明である。また、仮に、これが請求人商標を付した何らかの商品の、米国アマゾン及び日本アマゾンの小売の売上データであるとしても、同商品のシェア等が不明であるから、金額の多寡を推し量ることはできない。
そもそも、甲第10号証の表は、対象商品が不明であるばかりでなく、売上金額を裏付ける帳簿等の提出もないものであるから、客観的な資料ではない。このような情報に基づいては、請求人商標の著名性は、証明されない。
(イ)利用者数について
上記第3の3(1)イの「利用者数」とは、請求人商品の、年間購入者数であると推測される。
しかしながら、例えば、日本及び米国それぞれにおける、年間購入者数(甲10の「Orders」)の最大人数である、「28,558人」及び「20,228人」(いずれも2019年)をみても、これらが両国においてどれだけ多いのかは、日本アマゾン及び米国アマゾンそれぞれでの全購入者数や、少なくとも同種の商品の購入者数と比較して初めて判断できるものである。
請求人は、これらの情報を一切開示していないのだから、上記購入者数によって、請求人商標の著名性が証明されることはない。
(ウ)メディア紹介等について(上記第3の3(1)ウへの反論)
a 請求人は、米国のオートバイ団体MotoAmericaがプロモートするレース大会の出場レーサーのスポンサーである旨主張し、甲第11号証を提出した。
しかしながら、同証拠は、レーシングスーツを着た搭乗者の背景に「LEXIN」等の商標を付したテントが認められるにすぎず、これによっては、前記事実はなんら証明されない。
さらに、MotoAmericaのインスタグラムに請求人商標が付されたオートバイが写っている旨主張されるが、甲第12号証によれば、請求人商標が写っている写真は一枚が掲載されたのみであり、その広告効果は極めて限定的である。
b 請求人は、請求人商標が、米国アマゾンのパワースポーツBluetoothヘッドセットのベストセラーランキングで、4位、5位、24位、32位、50位に入ったことを主張し、甲第15号証を提出した。
しかしながら、同証拠は、2020(令和2)年1月24日に出力されたものであり、同日のランキングであると思料されることから、本件商標の登録出願時及び登録時の経過後の情報にすぎず、本件無効審判において、請求人商標の著名性を証明する証拠とはならない。
c 請求人は、米国で開催される、IMS Expo及びAIME Expoの展示会に、請求人商品を出品した旨主張し、甲第16号証の1ないし5、甲第18号証の1及び2、甲第19号証を提出した。
確かに、各証拠によって、これらの展示会にそれぞれ一度出品した事実は認められ得る。
しかしながら、IMS Expoでは数十万人の訪問者が会場を訪れると主張するが、甲第18号証の1及び2によっても、2005年から2006年にかけて、約60万人が参加したことを示唆するにすぎず、2016年以降に販売されたという、請求人商品が出品された展示会(そもそも、請求人がいつこれらの展示会に出品したか不明である)における参加者数は、明らかではない。また、AIME Expoについては、数千人の参加者が見込まれると述べる広告(甲19)が提出されたのみであり、実際の参加者数は不明である。また、3億人以上の人口を有する米国において、わずか数千人が参加する展示会に出品したところで、広告効果が極めて限定的であることは、明らかである。
d 以上の事実に鑑みれば、請求人商標が、本件商標の登録出願時及び登録時において、米国において著名性を獲得していたと結論付ける証拠は、何ら存在しない。
e 請求人は、日本のバイクマガジンのモトチャンプ2019年4月号に、記事が掲載された事実を主張し、甲第20号証の1ないし3を提出し、また、同雑誌の発行部数が250,000部であることを主張し、甲第21号証を提出した。
しかしながら、25万部発行される雑誌に一度記事が掲載された事実のみでは、我が国における著名性の獲得を証明することはできない。特に当該記事では、請求人商品は誌面の片面1/4ページ程度のスペースで紹介されているにすぎず、しかも、その内容は、「ボタンの配置や大きさがグローブをした状態だと操作しづらかった。ボタン2つ同時押しといった操作時は特にその印象が強い。音質や機能がいいだけにちょっと惜しい。」という否定的なもので、この記事掲載の事実をもって、請求人商標が我が国の需要者の間で著名となったとはいえない。
f 請求人は、請求人商標が、日本アマゾンのバイク用通信機器の売れ筋ランキングで、1位、7位、10位、30位に入ったことを主張し、甲第22号証を提出した。
しかしながら、このランキングは、2019年(令和元年)12月30日に出力されたものであり、同日のランキングであると思料されることから、本件商標の登録出願時及び登録時の経過後の情報にすぎず、本件無効審判において、請求人商標の著名性を証明する証拠とはならない。
g 請求人は、請求人商品が、YouTubeで紹介されている事実を主張し、甲第23号証の1ないし6を提出した。
しかしながら、同証拠によれば、これらの動画はいずれも、わずか、2ないし3万回ずつ再生されたにすぎない。しかも、いずれの証拠も、画面がキャプチャされた日時は、2020年(令和2年)1月I7日であり(証拠説明書)、本件商標の登録出願時及び登録時の経過後の情報にすぎず、これら時点での再生回数は不明である。加えて、各動画がアップロードされた時期、公開されている期間、視聴された日時等も、一切不明であるから、このような事実によって、請求人商標が、我が国において著名であることを証明することはできない。
不正の目的について
(ア)被請求人の販売状況について
請求人は、被請求人が、日本アマゾン及び楽天市場に出店しているにもかかわらず、本件商標を付した商品を販売していない事実を挙げ、被請求人が、日本国内において、本件商標を付したバイク用無線通信機を販売していないと結論付ける。
しかしながら、被請求人は、自ら運営するインターネットショッピングサイトにおいて、本件商標を付した商品を販売している(乙2の1、2)。日本アマゾン及び楽天市場で販売していない事実のみをもって、被請求人が本件商標を使用していないとする請求人の主張は、失当である。
(イ)外国及び日本での対応状況について
ペンヤオ氏が、2017年に日本で「LEXIN ELECTRONICS DESIGN FOR BIKE」の文字を含む図形商標を、第9類及び第12類について登録出願し、いずれも登録を受けた事実については認める。
しかしながら、これは、本件商標とは非類似の商標の登録の事実にすぎず、本件無効審判とは無関係である。
一方で、請求人がその後、本件商標と同一の商標の登録出願を試みたが、被請求人により登録出願されていることを知り、これを諦めた事実については、不知である。
(ウ)被請求人による本件商標の認識について
a 請求人は、被請求人が、請求人商標を知ってこれと類似する商標を登録出願した旨主張するが、なんら客観的証拠を提出しておらず、請求人の勝手な想像にすぎない。
b 請求人は、被請求人が、日本アマゾンにおける、請求人の出品を削除した事実を主張し、甲第7号証及び甲第8号証を提出した。被請求人は、この事実を認める。これは、正当な商標権の行使(商標法第25条、商標法第37条第1号)であり、なんら非難される理由はない。
c 請求人は、被請求人が、おびただしい数の商標を登録出願したと主張し、甲第27号証の1を提出した。
しかしながら、甲第27号証の1にあるとおり、被請求人が登録出願(登録済みのものを含む。)した商標は、78件にとどまり、おびただしい数の登録出願をしたとはいえない。
被請求人が事業活動を行う中で、78件の商標登録出願を行ったことに特段不自然な点はなく、現に、被請求人は、本件無効審判請求日以前より、商標を用いて、事業を行っている(乙4の1?12)。
d 請求人はさらに、被請求人が登録した商標の一部を、商標売買サイトに転売目的で出品していると主張し、甲第27号証の2を提出した。被請求人は、この事実を認める。
物権の一種である商標権について、請求人には使用・収益・処分の権限があるのであり、事業活動を継続する中で不要となった商標権を処分することに、なんら非難される理由はない。
そもそも、甲第27号証の2から明らかであるとおり、被請求人が、本件商標を転売しようとしている事実はなく、被請求人は、所有する本件商標以外の商標を譲渡しようとしているにすぎない。この事実は、本件無効審判とはなんら関係がない。
請求人は、被請求人が、本件商標を最初から転売する目的で登録したと主張するが、上記述べたとおり、被請求人は、本件商標を自ら使用し、転売を試みてもいないのであるから、そのような事実は存在しない。
e 請求人は、被請求人が、代理人を通じて、請求人に対して、本件商標の買い取りを要求してきた旨主張し、甲第28号証を提出した。
しかしながら、このような事実は存在しない。そもそも、商標の買い取りを希望してきたのは、請求人である。
令和元年11月28日に、請求人の関係者と思われる人物から、代理人弁理士宛てに、商標権を買い取りたい旨、2通のEメールにて連絡があった(乙5の1?4)。同年12月1日に、Skypeを通じて直接話を聞きたい旨、同代理人より連絡した(乙5の5)ところ、WeChatを通じてコンタクトをするよう案内があり(乙5の6)、その後、同年12月6日に、WeChatでフレンド登録することに成功した(乙5の7)。これ以降、約10日間の期間に、WeChatにて、上記関係者(Jessie)より複数回連絡があったが、被請求人代理人は、同月17日まで、これらに気付くことができなかった(乙5の7)。またこの間に、Jessieの上司と思われる、Jackyなる人物から、同じくWeChat上でコンタクト依頼があったが、これにも気付くことができず、フレンド登録可能期間を経過してしまい、もはや登録することはできなかった。
令和元年12月17日にJessieからのメッセージに気付き、返信をしたが、Jessieから回答を得ることはできなかった。また同年12月22日に、Jackyからのコンタクト依頼があったことに気付き、同日に、Jackyに直接コンタクト依頼を送信した(乙5の9)が、承認されることはなかった。同時に、再度Jackyからコンタクト依頼を送ってもらえるように、Jessieに依頼したが、返信を得ることはできなかった(乙5の7)。その後、3週間以上にわたり連絡を得ることがなかったため、被請求人代理人は、WeChat経由での連絡を諦め、令和2年1月17日に、Eメールにて、いまだ買い取りの意思を有するかどうか、確認をとったものが、甲第28号証である(乙5の10)。
商標を譲り受けたいという者がある状態では、被請求人は、商標権を十分に活用できない。また、商標権の譲受を希望する他の者が現れたときには、先にコンタクトをしてきた請求人を交えて交渉することは当然であり、長期間にわたり請求人に連絡が取れない状況は、被請求人にとって不利益をもたらしていた。
このような事実の下、買い取りの意思の有無を確認するためのEメールを送信したのであり、この事実をもって、被請求人が請求人に商標の買い取りを要求したということはできない。
エ 小活
上記述べたとおり、本件商標が、請求人商標と類似するかについては、検討することができない。
仮にこれらが類似するとしても、請求人商標は、本件商標の登録出願時及び登録時に、米国あるいは日本国内において、著名なものとはなっていなかった。
被請求人は、自らの事業活動の一環として本件商標を登録出願し、登録を受けたものである。
そして、自己が有する商標権に基づく権利行使の一環として、類似商標を付した商品の販売を、日本アマゾンで停止させたものであり、これは、不正の目的をもって商標登録出願されたことの根拠とはならない。また、被請求人が、本件商標以外の商標の出願や登録を行っている事実や、それらの一部を売買しようとしている事実は、本件無効審判とは何ら関係がない。
請求人は、自ら商標権の買取りを申し出たにもかかわらず、その後本件無効審判を請求することに舵を切り、被請求人との連絡を絶ち、被請求人が確認の目的で送信したEメールを証拠として提出することで、被請求人が商標権の買取りを要求しているかのような心証を、審判官に与えようとしている。これは、本件無効審判の攻撃防御において、誠実な態度とはいえない。
以上の事実に鑑みれば、本件商標が、商標法第4条第1項第19号に該当することはない。
(3)商標法第4条第1項第7号該当性について
前記のとおり、本件商標は不正の目的で登録出願されたものではないのだから、国際及び国内商道徳に反することもないので、本件商標は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標ではない。
ゆえに、本件商標が、商標法第4条第1項第7号に該当することはない。
2 反駁書に対する答弁及び主張の補充
(1)反駁書の有効性について
反駁書では、本件商標が、商標法第4条第1項第10号(以下、単に「10号」ということがある。)に該当する旨が主張された。しかしながら、この主張は審判請求時にはなされていなかったものであるから、請求の理由の要旨を変更する違法な補正に該当する(商標法第56条第1項で準用する特許法第132条の2第1項)。
したがって、反駁書は、その効力を有しないか少なくとも、10号についての主張は、本件無効審判において、審理の対象とされるべきではない。
(2)請求人の使用商標について
被請求人は、答弁書にて、請求人商品及びこれについて使用されている商標が不明であることを指摘した.これに対して、請求人は、反駁書にて、米国において請求人商品に付される商標は、米国商標登録第5,888,142号(甲4:以下「請求人米国商標」という。)に係るものと同じものである旨を述べた。
しかしながら、請求人米国商標は、「LEXIN」の欧文字を標準文字で表してなるものであるところ(乙6)、例えば、甲第6号証あるいは甲第11号証に表される商標は、明らかにその構成態様が請求人米国商標とは異なり、かつ、実際の請求人商品にどのような態様の商標が付されているか.請求人は、一切明らかにしない。確かに、甲第15号証等では、不鮮明ではあるものの、一部請求人商品と思料される商品に「LEXIN」等の文字が付されていることが看取できるが、請求人米国商標とは異なる書体やデザインが用いられており、請求人米国商標と同じものを付しているとする請求人の言と一致しないことに加えて、そもそも、請求人商品は、同証拠等に散見されるものの、それらがすべてであるか、あるいは同証拠らに現れない他の商品も含まれるのか、後者の場合、それらはどのような商品で、どのような商標が付されているのか、一切不明であるから、被請求人は、本件商標と請求人商標との類否を検討することができないし、どのような商品が販売等されているかがわからないのだから、請求人商標の周知著名性を検討することもできない。
また、請求人は、日本国内で販売等される請求人商品及びそれらに付される商標について、被請求人が日本アマゾン上で請求人商品の出品を削除したのだから、請求人商品及びそれに付された商標を認識しているはずである旨主張する。
しかしながら、請求人自らが述べるとおり、被請求人が認識しているのは、ASINがそれぞれ、B07C4SLXRM、B07DR936VQ、B07FK9GM5Vである3商品についてのみであり、請求人がこれら以外にどのような商品を販売しているのか(あるいはしていないのか)、販売している場合、それらがどのような商品であり、どのような商標が付されているのか、被請求人は知る由もないし、請求人は、本件無効審判手続において、これらを一切明らかにしないのであるから、上述のとおり、被請求人は、請求人の商品及び商標を認識することができない。
仮に日本で販売される請求人商品が前記3商品のみであるとしても、これらの商品(米国で販売される商品についても同様である)の詳細や、付されている商標が把握できないことに加えて、これらの商品の製造主が請求人であることの立証もないのであるから、特許庁は、本件無効審判において、商標の類否や周知著名性、不正の目的の有無等を検討できないはずである。
したがって、本件無効審判の請求は、請求の理由の有無について審理検討することができない違法なものであるから、却下されるべきである。
(3)周知性・著名性について
周知性及び著名性の用語の定義について
被請求人は、請求人が用いる用語の定義に従ったときに、請求人商標が「周知性を満たすが著名性は満たさない」ことを主張するものではなく、同定義に従った場合でも、そもそも周知性を満たさない(10号にも19号にも該当しない)ことを主張するものである。
周知性(10号)と周知著名性(19号)の関係について
10号は、商標が他人に登録されたときに、需要者に出所混同をきたすほどに周知となっているかを問題とするのに対して、19号は、商標が不正の目的で登録されたときに、先願主義の下、出願を怠っていた者を救済する必要が認められるほど周知著名となっているかを問題とする点で差異があり、実務上、似たような基準で判断されることが多いということにすぎない。19号に該当するか否かは、周知著名度と不正の目的の判断要素を総合的に勘案して判断されるものであり、この点において、10号の周知性判断とは、基準が異なるのである。19号は、本質的に不正の目的でなされた出願及び登録を排除するための規定であり、その上で、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り(商標法第1条)、かつ、先願主義(商標法第8条)とのバランスを図る観点から、周知著名性要件によってその対象を限定しようとするものである。
以下、上記基準に従い、請求人商標の周知性及び周知著名性を検討する。
ウ 請求人商標の周知性及び周知著名性について
(ア)請求人商品の需要者は、米国・日本ともに、全国民である。
(イ)周知性及び周知著名性の判断における地理的範囲は、米国及び日本ともに、全国である。
(ウ)モトチャンプ誌に小さく一度だけ記事掲載された事実をもって、請求人商標が日本における周知性及び周知著名性を獲得することはできない。
(エ)YouTube動画の再生回数等の情報は、請求人商標の登録出願及び登録から長期間経過後の情報にすぎず、これをもって請求人商標の周知性及び周知著名性を証明することはできない。
(オ)米国アマゾンでのランキング情報は、本件商標の登録出願及び登録から長期間経過後の情報にすぎず、これをもって請求人商標の周知性及び周知著名性を証明することはできない。そもそも、米国アマゾンで販売するのみでは、米国民の約4.9%にしかリーチできないのだから、ランキング結果をもって、米国における請求人商標の周知性及び周知著名性を証明することはできない。
(カ)日本アマゾンでのランキング情報は、本件商標の登録出願及び登録から長期間経過後の情報にすぎず。これをもって請求人商標の周知性及び周知著名性を証明することはできない。そもそも、日本アマゾンで販売するのみでは、日本国民の約1%にしかリーチできないのだから、ランキング結果をもって、日本における請求人商標の周知性及び周知著名性を証明することはできない。
(キ)売上等データの開示が、インカメラ手続によりなされることは、許されない。
(ク)以上検討したとおり、請求人商標は、米国及び日本のいずれにおいても、本件商標の登録出願時及び(又は)登録時において、周知性及び周知著名性を獲得していなかった。
したがって、本件商標登録は、商標法第4条第1項第10号及び同項第19号のいずれにも、該当しない。
請求人商標が周知性及び周知著名性を具備しない限り、本件商標が10号にも19号にも該当することはないが、請求人が不正の目的(19号)について述べるので、念の為にこれについても反論する。
不正の目的について
(ア)被請求人は、日本アマゾンにおいて、請求人商品の出品を停止させた(1回目:甲7、甲8)についは、事実である。
(イ)被請求人は、日本アマゾンにおいて、請求人商品の出品を停止させた(2回目:甲32)については、事実ではない。2回目の削除申立てをしていない(乙13)。
(ウ)上記2回目の出品停止の際に、被請求人は、請求人代理人と交渉をしたと、日本アマゾンに虚偽の連絡をしたことについては、事実ではない。協議した事実が存在するのだから、これを連絡することは虚偽の連絡には当たらない(乙12)。
(エ)被請求人は、商標転売サイトに出品している(甲27の)について、事実であるが、本件商標は出品しておらず、本件無効審判とは無関係である。
(オ)被請求人は、請求人に対して、商標を売りつけようとした(甲28)については、そのような事実は存在しない。
(カ)被請求人は、商標を売りつけることに失敗したため、本件商標を使用し始めたについては、事実ではない。被請求人は、本件商標を付した商品を遅くとも令和元年12月1日から販売している(乙11の1、2)。
(キ)被請求人の他の商標登録が、無効審決や取消決定を得ていることについては、事実であるが、いずれも本件無効審判とは事案を異にするものであり、本件無効審判とは無関係である。
このように、請求人の主張のうち、本件無効審判に関連して事実であるのは、被請求人が、本件無効審判請求前に、日本アマゾンにおいて、請求人商品の出品を1度停止させたことのみである。これらの事実に鑑みれば、本件商標が、不正の目的の下に出願されたとする証左は、何もない。本件商標登録出願は、不正の目的でなされたものではない。
(4)まとめ
ア 商標法第4条第1項第7号について
本件商標は、その登録出願の過程に何らの問題もなく、公の秩序又は善良の風俗を害することはないのだから、商標法第4条第1項第7号に該当することはない。
イ 商標法第4条第1項第10号について
請求人商標は、本件商標の登録出願時又は登録時において、需要者に出所混同を生じさせるほど周知な商標とはなっていなかった。
したがって、本件商標が、商標法第4条第1項第10号に該当することはない。
ウ 商標法第4条第1項第19号について
本件商標は、不正の目的で登録出願されたものではない。仮に、日本アマゾンで請求人商品の出品を1度停止させた行為が不正の目的に該当するとしても(もっとも、このような正当な商標権の行使が不正の目的に該当しないことはいうまでもない。)、その程度は極めて低く、本件商標が19号に該当するためには、極めて高い周知著名性が要求されることになるが、請求人商標は、本件商標の登録出願時及び登録時において、それを備えていなかった。
したがって、本件商標が、商標法第4条第1項第19号に該当することはない。
3 まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第10号及び同項第19号のいずれにも該当することはない。

第5 当審の判断
1 利害関係について
本件審判の請求に関し、当事者において利害関係の有無について争いがあることから、まず、この点について判断する。
請求人は、出品していた日本アマゾンより、商標番号6173665の商標権を侵害している可能性があるという申立てを権利者から受け、請求人の出品を一部削除させられる通知を受けているものである(甲7、甲8、甲30の1)。
そして、この商標番号は、本件商標と同じ登録番号であるから、本件商標の商標権者であるWES株式会社によるものであると認められる。
そうすると、請求人は、本件商標の存在により何らかの不利益を被る立場にあるということができるから、請求人は、本件商標の請求をすることについて法律上の利益を有するものといわなければならない。
したがって、本件審判の請求は、その請求を不適法なものとして却下することはできない。
2 請求人商標の周知性について
(1)提出した甲各号証及び請求人の主張によれば、以下のとおりである。
ア 請求人について
LEXIN Electronics Co.,Limited(本兄弟会社)は請求人の兄弟会社であって、2008年(平成20年)に香港でカーオーディオシステムのOEMメーカーとして設立された。本兄弟会社による、請求人商標を使用したバイク用無線通信機(請求人商品)の販売の開始時期は2015年(平成27年)であり(甲1、甲2)、我が国における販売開始時期は、同年7月である(甲5)。
請求人は、2016年(平成28年)米国カリフォルニア州に設立(甲3)され、請求人商品を米国米国アマゾンで販売している。
イ 請求人商標及び請求人商品について
請求人商標は、請求人により米国で2018年(平成30年)5月1日登録出願され、2019年(令和元年)10月22日商標登録された(甲4)。
なお、請求人商品は、インカムと呼ばれる、バイク用無線通信機であり、オートバイのツーリング等の場面でヘルメットに組み込んで使用されるものであることがうかがえる(甲50、甲69)。
ウ 売上について
請求人が提出した甲第10号証は、2015年(平成27年)から2019年(令和元年)まで5年間の米国及び日本における請求人商品の売上げ、販売数量を示しているものであるが、他社との比較ができないため、この数字の多寡について評価することはできない。また、請求人が提出した甲第75号証は、2016年(平成28年)から2019年(令和元年)までの請求人の4年間の日本における日本アマゾンの売上げの内訳であり、日付・時間、注文番号、数量等を示しているものであるが、これらも他社との比較ができないため、この数字の多寡について評価することはできない。
エ 市場シェアについて
請求人が提出した甲第76号証の1は、「二輪車用品のマーケットサイズ」と題された表(出典:株式会社デイトナ)であり、「分類」の項に「ツーリング」、「シェア」の項に「6.6%」の記載があり、これがバイク用無線インカムに関する数字であり、請求人の主張によれば、2015年(平成27年)当時のバイク用無線インカムの市場規模は、98億4600万円程度であったとして、2019年度(令和元年度)におけるバイク用無線インカムの市場規模も98億円程度とすると、請求人の2019年の売上は約2億1千万円であったから、売上ベースでは、請求人のバイク用無線インカムの市場シェアは約2%であると試算している。
また、請求人は、周知性という観点からは、売上より、どれだけの人が商品を手にしたか、すなわち販売個数で市場シェアを捉える方が適切であるとして、甲第76号証の2、甲第76号証の3及び甲第77号証の5の証拠から、2019年の販売個数ベースの請求人製品の市場シェアは、6%程度と試算している。
しかしながら、「二輪車用品のマーケットサイズ」に記載された「ツーリング」のシェアが「6.6%」と記載されているが、このツーリングの内容は不明であり、具体的にどのような商品が含まれているのか不明であるから、バイク用無線インカムに関する数字と認められない。
また、2019年(令和元年)の市場規模も2015年(平成27年)の市場規模と同等であるとする根拠が示されていない。
さらに、仮に請求人の主張する請求人のバイク用無線インカムの市場シェア主張のとおりであるとしても、この数字が全体に占める割合はわずかであると評価せざるを得ないものであり、請求人のバイク用無線インカムは、当該市場において周知であると認めることはできない。
オ 雑誌等について
バイクマガジン「モトチャンプ」(2019年(平成31年)4月号発行:甲20の1?3)に請求人のバイク用無線インカムが掲載されたことはうかがえるものの、その掲載回数は1回のみであるから、「モトチャンプ」の発行部数は25万部であるとしても、このことをもって請求人商標が周知であると認めることはできない。
また、「@DIME」のウェブサイト(甲77の5)には、「安くても実用性は十分!1万円で買えるバイク用インカムおすすめ3選」と題した2019年3月13日付けの記事に、請求人のバイク用無線インカムが掲載されたものの、その掲載回数は1回のみであるから、「@DIME」がページビュー数14,000,000PV/月、ユニークユーザー数3,000,000/月(甲77の6)を有するとしても、このことをもって請求人商標が周知であると認めることはできない。
カ その他
請求人がスポンサーである米国オートバイ団体MotoAmericaのFacebookのフォロワーが約15万人、インスタグラムのフォロワーが約10万人であって、それらに請求人商標を付したオートバイが写っていること、MotoAmericaのレーシングが米国フォックス・スポーツ等でテレビ放映されること、米国アマゾンでのヘッドセットのランキングで請求人商品が上位にランクされていること、米国で行われるバイク用品の博覧会で請求人商品が出品されたこと、日本アマゾンのバイク用通信機器の売れ筋ランキングで請求人商品が上位にランクされていること、請求人商品がYoutubeに多数紹介され、そのうちのいくつかの再生回数が2ないし3万回あること等、請求人商品の広告宣伝が行われたことはうかがえるものの、これらがいつの時点における広告宣伝であるかが不明であり、本件商標の登録出願時及び登録査定時前の事実であるか確認できない。
また、請求人は、米国アマゾンにおける請求人商品のランキング(甲15、甲40)についていえば、請求人商品は、2020年(令和2年)6月18日現在においては、LX-B4FMは、「パワースポーツ Bluetooth ヘッドセット」の分類では第1位、「パワースポーツ ヘルメット コミュニケーション」の分類では第2位を獲得しており、米国アマゾンは米国全体のオンライン小売売上の49.1%を占める(2018年(平成30年)現在。甲41)米国のオンライン小売最大手であって、請求人商品がランキングの最上位を占めていること、また、日本アマゾンにおける請求人商品のランキング(甲22)についても、請求人の商品番号LX-B4FMは1位、商品番号LX-R6は11位、商品番号LX-B4FMは30位を占めており、日本の電子商取引市場における企業別のシェアはアマゾンが20.2%を占め、第1位である(甲42、2016年(平成28年)現在)日本の電子商取引の最大手であって、請求人のインカムがランキングの最上位を占めていることからすれば、請求人商品が米国及び日本で周知性を具備している旨主張し、さらに、別のインターネット通販サイトでは、2018年(平成30年)9月18日の「格安中華製から最高峰のビーコンまで!バイク用インカムおすすめ10選」(甲77の1)には、「LEXIN バイクインカム 6riders LX-6R」の商品が「amazonのベストセラー商品だけあって」と記載され、2019年7月12日の「バイク用インカムのおすすめ人気ランキング10選」(甲77の2)には、「LX-B4FM」が1位で「amazonの『バイク用通信機器』カテゴリーで売り上げナンバー1」と記載され、2019年(令和元年)10月31日の「インカムの人気ランキング15選」(甲77の3)には、「15位」、「LEXIN LX-R6」と記載されていると主張する。
しかしながら、甲第41号証及び甲第42号証によれば、米国及び日本におけるアマゾンのオンライン小売規模(甲78)が大きいことはうかがえるものの、これと上記ランキングが一時的に上位を獲得されていることを併せて、周知性を具備していたとする請求人の主張は推測の範囲をでないものであり、また、別のインターネット通販サイトにおいて、「amazonのベストセラー商品」や「amazonの『バイク用通信機器』カテゴリーで売り上げナンバー1」と記載されていても、これらをもって、請求人商標の客観的な周知性を推しはかるものとはいえないものであり、さらに、請求人が提出する甲第15号証、甲第22号証、甲第40号証及び甲第77号証の1ないし3は、2018年(平成30年)9月18日、2019年(令和元年)7月12日、同年10月31日、同年12月30日、2020年(令和2年)1月24日及び同年6月18日のうち、本件商標の登録査定前の日付は、2019年(令和元年)7月12日までのわずか3回のみで、これ以外は、請求人商標が、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品を表示するものとして、我が国及び米国の需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。
その他、請求人が提出した甲各号証を総合してみても、請求人商標が、請求人の業務に係る商品を表示するものとして、我が国及び米国の需要者の間に広く認識されていたと認めるに足る証左は見いだせない。
(2)以上のとおり、請求人が提出した証拠によっては、請求人商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品(バイク用無線通信機)を表示するものとして、我が国及び米国をはじめとする外国の需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。
3 本件商標と請求人商標との類否について
本件商標は、上記第1のとおり、「LEXIN」の欧文字を標準文字で表してなり、請求人商標は、上記第2のとおり、「LEXIN」の欧文字からなるものであるから、両商標は、いずれも「レキシン」の称呼を生じるものであり、また、外観については、欧文字のつづりを同じくするものであるから、同一又は類似のものである。
そして、観念については、両商標は構成文字を同一にするものであるから、生じる観念に異なるところはない。
そうすると、本件商標と請求人商標とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても相紛れるおそれのある類似の商標というべきである。
4 本件商標の指定商品と請求人商品との類否について
本件商標の指定商品は、上記第1のとおり、「バイク用無線通信機」であり、請求人の使用商品も上記第2のとおり、「バイク用無線通信機」であるから、本件商標の指定商品と請求人商品とは同一の商品である。
5 商標法第4条第1項第19号該当性について
(1)商標法第4条第1項第19号該当性
上記3のとおり、本件商標と請求人商標とは、同一又は類似の商標であるとしても、上記2のとおり、請求人商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、請求人の業務に係る商品を表示するものとして、我が国及び外国の需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできないものである。
そうすると、請求人商標が需要者の間に広く認識されていた商標であることを前提に、本件商標は不正の利益を得る目的をもって使用されるとする請求人の主張は、その前提を欠くものである。
また、他に本件商標の登録出願時及び登録査定時において、商標権者が不正の目的をもって本件商標を使用するものであると認めるに足りる客観的な証拠は見いだすことができない。
(2)不正の目的についての請求人の主張について
ア 請求人は、「2度にわたる日本アマゾンからの請求人商品の出品を削除する旨の書面」(甲7、甲8、2019年(令和元年)11月25日及び同年12月13日受信)、「商標売買サイト」のウェブページ(甲27の2、2019年(令和元年)12月21日印刷)及び「2020年(令和2年)1月14日に本件商標の買い取りを要求する書面」(甲28、日付の記載なし)を提出して、被請求人が偶然に「LEXIN」なる商標を登録出願することはありえず、おびただしい数の商標を、自ら登録出願し、登録を得て、被請求人及びその代表者が、登録を得た商標の一部を転売目的で出品したり、代理人を通じて、請求人に対して買い取りの要求をしてきたりしている旨主張している。
もっとも、請求人が主張するように、たとえ、偶然に「LEXIN」なる商標を登録出願することがありえず、2度にわたり請求人商品の出品を削除するよう要求してきて、また、登録を得た商標の一部を商標売買サイトに転売目的で出品したり、さらに、本件商標について買い取りの要求をしたりする行動があったとしても、本件商標の採択が、不正の目的をもってした登録出願であることについての具体的な証拠は見いだせず、2度にわたる請求人商品の出品を削除する要求をしたこと、登録を得た商標の一部について商標売買サイトに転売目的で出品すること、本件商標の買い取りを要求することについては、いずれも本件商標の登録出願及び登録査定後の行動であって、これをもって、被請求人が、不正の目的をもって、本件商標を使用するものであるとはいえない。
イ 請求人は、LX-R6を日本アマゾンで2018年(平成30年)4月11日にASIN:B07C4HGKR6で登録し、販売していて、2020年(令和2年)6月17日現在その販売価格は5,399円である(甲44の1)。被請求人は楽天市場の自己のストアで、LX-R6を、商品表記の箇所に、「LEXIN インカム バイクインカム ・・・」、「商品番号TLB07C4HGKR6」と表示して販売しているが、その販売価格は21,800円で、請求人より高額である。商品番号のうちのTL以降の部分は、請求人のLX-R6のASIN:をそっくり冒用している。また、同商品サイトの2ページ目には左側に3枚写真がある(甲44の2)が、これらはいずれも請求人が著作権を有するものであって(甲44の3)、請求人から被請求人にこれらの写真の利用を許諾したこともない。
また、被請求人は、LX-B4やLX-FT4のインカムについても、上記と同じような行為を行っており、請求人のLX-B4やLX-FT4のASIN:をそっくり冒用し、請求人の販売価格より高額で発売している。さらに、請求人が著作権を有する写真も、許諾なしに使用している(甲45の1ないし3、甲46の1ないし3)。被請求人のかかる行為は、誤認混同を生み、請求人商標に化体している請求人の信用が害されてしまう旨主張している。
しかしながら、請求人が日本アマゾンで販売するLX-R6、LX-B4及びLX-FT4の商品登録情報において、各商品の「Amazon.co.jpでの取り扱い開始日」に「2018/4/11」、「2018/10/10」及び「2018/10/29」の記載があり、これらの商品が2018年(平成30年)4月以降順次販売されていた状況はうかがえるものの、請求人商標は、上記1のとおり周知性が認められないものであるから、被請求人がASIN:番号をそっくりに冒用している等の被請求人の行為は、 本件商標の登録出願及び登録査定後のことであって、これをもって、被請求人が、不正の目的をもって、本件商標を使用するものであるとはいえない。
ウ 請求人は、被請求人は代理人とともに、日本アマゾンで販売されている商品でありながら、商標の登録出願のなされていないものがないかを探り、そのような商品があれば、その販売者に先んじて、その商品の商標の登録出願を行うということを繰り返し、いったん当該商標が登録されると、被請求人は、代理人を介して、当該商品が、商標権を侵害するものであると、日本アマゾンへ申告し、販売を停止させ、当該販売者の商品が国内参入するのを阻止したり、販売停止させたり、当該登録商標を売りつけようとしたりするなど、まさに不当な利益を得る目的でかかる商標の登録出願をしてきている旨主張している。
しかしながら、請求人が主張するこれらの被請求人の行動は、あくまでも請求人の推測によるものであり、これを裏付ける客観的な証拠の提出はないから、これをもって、被請求人が、不正の目的をもって、登録出願したものとは認められない。
エ 請求人は、被請求人が本件商標登録後、本件商標を請求人に売りつけようとしたが、売りつけられないことが明らかになると、本件商標を付したインカム商品をネット販売し、2020年(令和2年)6月8日に、日本アマゾンに対し、請求人商品について、被請求人代理人が請求人の代理人と協議中であるとの虚偽の連絡をし、出品が削除された。これにより、請求人は我が国への参入を妨げられている。被請求人これら一連の行為は、不当な利益を得る目的での商標の登録出願にほかならない旨主張している。
しかしながら、請求人商標の周知性は、上記1のとおり認められないものであり、請求人が主張する本件商標登録後の不当な利益を得る目的との被請求人の行動は、これをもって、被請求人が不正の目的をもって、登録出願したものとはいえない。
したがって、これらの請求人の主張を採用することはできない。
(3)小活
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
6 商標法第4条第1項第7号該当性について
(1)商標法第4条第1項第7号該当性の判断については、以下の判示がある。
ア 商標法第4条第1項第7号に規定する、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、(a)その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、(b)当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合、(c)他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合、(d)特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合、(e)当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合、などが含まれると解される(知財高裁 平成17年(行ケ)第10349号同18年9月20日判決参照)。
イ 商標法第4条第1項第7号は、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」は商標登録をすることができないとしているところ、商標法は、出願人からされた商標登録出願について、当該商標について特定の権利利益を有する者との関係ごとに、類型を分けて、商標登録を受けることができない要件を、同法第4条各号で個別的具体的に定めているから、このことに照らすならば、当該出願が商標登録を受けるべきでない者からされたか否かについては、特段の事情がない限り、当該各号の該当性の有無によって判断されるべきであるといえる。
また、当該出願人が本来商標登録を受けるべき者であるか否かを判断するに際して、先願主義を採用している日本の商標法の制度趣旨や、国際調和や不正目的に基づく商標出願を排除する目的で設けられた同法第4条第1項第19号の趣旨に照らすならば、それらの趣旨から離れて、同法第4条第1項第7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域にまで拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは、商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになるので、特段の事情のある例外的な場合を除くほか、許されないというべきである。
そして、特段の事情があるか否かの判断に当たっても、出願人と、本来商標登録を受けるべきと主張する者との関係を検討して、例えば、本来商標登録を受けるべきであると主張する者が、自らすみやかに出願することが可能であったにもかかわらず、出願を怠っていたような場合や、契約等によって他者からの商標登録出願について適切な措置を採ることができたにもかかわらず、適切な措置を怠っていたような場合は、出願人と本来商標登録を受けるべきと主張する者との間の商標権の帰属等をめぐる問題は、あくまでも、当事者同士の私的な問題として解決すべきであるから、そのような場合にまで、「公の秩序や善良の風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合と解するのは妥当でない(知財高裁 平成19年(行ケ)第10391号同20年6月26日判決参照)。
(2)商標法第4条第1項第7号該当性
上記判示に照らして、本件商標の商標法第4条第1項第7号該当性を判断すると、以下のとおりである。
ア 本件商標は、「LEXIN」の文字を標準文字で表してなるものであって、その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう激又は他人に不快な印象を与えるような文字等からなるものではない。
イ また、本件商標は、これをその指定商品について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するものともいえず、さらに、他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されているものではないし、特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反するものでもない。
ウ さらに、請求人の主張及び同人の提出に係る甲各号証を総合してみても、商標法の先願登録主義を上回るような、本件商標の登録出願の経緯に社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底認容し得ないような場合に該当すると認めるに足りる具体的事実を見いだすことができない。
エ しかも、請求人は、請求人商標の使用に当たって、上記2のとおり、遅くとも2015年(平成27年)7月頃から使用を開始して、被請求人が本件商標を2019年(平成29年)5月23日に出願するまでの約3年10か月の間、その商標を自ら登録出願する機会が十分にあったというべきであって、自ら登録出願しなかった責めを被請求人に求める具体的な事情を見いだせず、このような場合の請求人と被請求人との間の商標権の帰属等をめぐる問題は、あくまでも、当事者同士の私的な問題として解決すべきであるから、そのような場合にまで、「公の秩序や善良の風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合と解することはできない。
その他、本件商標が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標と認めるに足る証拠の提出はない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
7 無効理由の追加の主張について
請求人は、令和2年6月18日付け審判事件反駁書において、被請求人による本件商標の登録は、商標法第4条第1項第10号に該当する旨主張している。
しかしながら、上記の主張は、その無効の審判の請求の理由において主張していなかったものである。
そうすると、当該無効の審判の請求後に新たな主張を追加することは、請求の理由の要旨を変更するものであるから、請求人の上記無効の理由の追加は、商標法第56条において準用する特許法第131条の2第1項(第2号及び第3号を除く。)の規定により認めることはできない。
8 むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号及び同項第19号に違反して登録されたものではないから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。

別掲

審理終結日 2021-05-12 
結審通知日 2021-05-17 
審決日 2021-06-22 
出願番号 商願2019-73218(T2019-73218) 
審決分類 T 1 11・ 22- Y (W09)
T 1 11・ 222- Y (W09)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 瑠美 
特許庁審判長 小松 里美
特許庁審判官 榎本 政実
小俣 克巳
登録日 2019-08-23 
登録番号 商標登録第6173665号(T6173665) 
商標の称呼 レキシン 
代理人 臼井 隆行 
代理人 越場 洋 
代理人 越場 隆 

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