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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W09253541
審判 全部申立て  登録を維持 W09253541
審判 全部申立て  登録を維持 W09253541
審判 全部申立て  登録を維持 W09253541
審判 全部申立て  登録を維持 W09253541
審判 全部申立て  登録を維持 W09253541
管理番号 1379009 
異議申立番号 異議2021-900222 
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2021-11-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-06-11 
確定日 2021-10-21 
異議申立件数
事件の表示 登録第6366613号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第6366613号商標の商標登録を維持する。
理由 1 本件商標
本件登録第6366613号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、令和2年2月19日に登録出願、第9類「インターネットを利用して受信し及び保存することができる画像ファイル及び映像ファイル,録画済みCD-ROM・DVD・ビデオディスク及びビデオテープ,インターネット経由でダウンロード可能なコンピュータゲーム用プログラム」、第25類「被服,ガーター,靴下留め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊靴,運動用特殊衣服」、第35類「録画済みビデオディスク・ビデオテープ・CD-ROM・DVD及びその他の記録媒体の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,DVD・ビデオ・CD・書籍の販売に関する情報の提供,コンピュータネットワークにおけるオンラインによる広告,広告用映像ソフトの企画・制作」及び第41類「映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,ビデオテープ・ビデオディスク原盤の制作,スポーツの興行の企画・運営又は開催,ストリーミング方式によるインターネットを利用した動画の提供又はこれに関する情報の提供,ビデオ映画の企画又は制作,ライブによる娯楽イベントの制作,ラジオ及びテレビジョンの番組の制作」を指定商品及び指定役務として、同3年2月9日に登録査定され、同年3月22日に設定登録されたものである。

2 引用商標
(1)登録異議申立人(以下「申立人」という。)が、本件商標に係る登録異議申立ての理由において、商標法第4条第1項第7号、同項第15号及び同項第19号に該当するとして引用する商標(以下、まとめていうときは「引用商標」という。)は、以下のとおりであり、現に有効に存続している。
ア 登録第2608712号商標(以下「引用商標1」という。)
商標の構成:春のパンまつり
登録出願日:平成3年7月3日
設定登録日:平成5年12月24日
書換登録日:平成16年12月22日
指定商品:第30類「コーヒー豆,パン・菓子用プレミックス粉,冷凍パン生地,冷凍デニッシュ生地,冷凍パイ生地,冷凍まんじゅう生地,冷凍カステラ生地,冷凍スポンジケーキ生地,冷凍ビスケット生地,冷凍ワッフル生地,冷凍シュー生地,穀物の加工品,アーモンドペースト,ぎょうざ,サンドイッチ,しゅうまい,すし,たこ焼き,肉まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,べんとう,ホットドッグ,ミートパイ,ラビオリ,イーストパウダー,こうじ,酵母,ベーキングパウダー,即席菓子のもと,酒かす」
イ 登録第6108234号商標(以下「引用商標2」という。)
商標の構成:別掲2のとおり
登録出願日:平成30年3月23日
設定登録日:平成30年12月21日
指定商品・役務:第35類「広告業,インターネット上の広告スペースの貸与,トレーディングスタンプの発行,加盟店において特典を受けられる会員カードの発行・管理及び清算,フランチャイズシステムに基づく加盟店の経営の診断及び指導,経営の診断又は経営に関する助言・指導,商品の販売に関する情報の提供,飲食店又は販売店のチェーン化事業及びその後の展開事業に関する援助並びに指導及び助言,飲食料品の製造・販売並びに飲食店の事業の管理・運営・評価,コンピュータデータベースへの情報構築又は情報編集,広告用具の貸与,消費者のための商品及び役務の選択における助言と情報の提供,求人情報の提供,自動販売機の貸与,飲食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」並びに、第21類、第25類、第29類、第30類、第32類及び第43類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務
ウ 登録第6118175号商標(以下「引用商標3」という。)
商標の構成:春のパンまつり(標準文字)
登録出願日:平成30年4月24日
設定登録日:平成31年2月1日
指定商品:第30類「茶,コーヒー,ココア,氷,菓子,パン,サンドイッチ,中華まんじゅう,ハンバーガー,ピザ,ホットドッグ,ミートパイ,調味料,香辛料,アイスクリームのもと,シャーベットのもと,コーヒー豆,パン生地,穀物の加工品,チョコレートスプレッド,ぎょうざ,しゅうまい,すし,たこ焼き,弁当,ラビオリ,おにぎり,調理済み麺類,春巻き,イーストパウダー,ベーキングパウダー,パン種,即席菓子のもと,パスタソース,食用粉類,パオズ,菓子用粉」
(2)申立人が、本件商標に係る登録異議申立ての理由において、商標法第4条第1項第11号に該当するとし、引用する商標は、引用商標2である。

3 登録異議の申立ての理由
申立人は、本件商標は商標法第4条第1項第7号、同項第11号、同項第15号及び同項第19号に該当するから、その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきであるとして、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第45号証を提出した。
(1)引用商標の著名性
引用商標の商標権者である山崎製パン株式会社(以下「山崎製パン社」という。)は、昭和23年に創業、設立され、パン、和・洋菓子、米飯類の製造・販売を中心に、製菓・米菓の販売、ベーカリーの経営、コンビニエンスストア事業などを行う法人として、事業活動を行い、2020年12月31日現在、日本全国に10万9,361店からなるネットワークを展開し、同社単体での売上高は、年間7,302億円、連結ベースでの合計売上高は年間1兆147億円であった(甲9)。
同社は、自社の商品販売促進活動の一環として、これまで40年以上にわたって「春のパンまつり」との名称で販売促進キャンペーン(以下「本件キャンペーン」という。)を展開してきた。
本件キャンペーンは、1981年に開始されて以来、40年以上もの長期間にわたって継続的に毎年行われており、1980年代より、注目度や好感度の高い著名なタレントを起用したテレビコマーシャルにより大々的、かつ、印象的な宣伝広告活動を行っている(甲10?甲20)。
また、本件キャンペーンの景品であるポイントシールを集めてもらう白いお皿の交換枚数は2018年には、累計5億枚を突破した。この事実からも、本件キャンペーンが多くの方に認知され、親しまれていることは明らかである。
このような長期、かつ、継続的で大々的な宣伝広告活動の結果、引用商標は、同社の業務に係る商品の出所を表示する商標として周知著名なものとなっている。
例えば、株式会社読売新聞本社広告局による2017年「春のパンまつり」1面広告に対する読者調査結果によると、「広告主名・商品ブランド名」を初めて知ったという読者は、わずか5.5%しかいなかった(甲21)。すなわち、2017年時点で、当該広告に接した消費者のうち「初めて知った」という者が100人中5人程度しかいないという程度にまで周知著名性が飽和したブランドであるといえる。
本件キャンペーンの名称が山崎製パン社の使用する商標であり、周知著名であることは、第三者作成に係る記事や報道によっても裏付けられる(甲22?甲33)。
本件商標をネット上で検索すると、混同の結果、上位に「春のパンまつり」が表示される状況にある(甲34、甲35)。
さらに、第三者による「パンまつり」出願について、山崎製パン社の「春のパンまつり」と商品の出所について混同を生ずるおそれがあると認定し、商標法第4条第1項第15号を適用した拒絶理由通知が発せられている(甲36、甲37)。
以上に詳述したとおり、本件キャンペーンの名称である引用商標は、取引者、需要者において全国的に広く認識された商標である。
(2)本件商標権者による関連出願について
本件商標権者は、本件商標以外に「パンツまつり」、「春のパンツまつり」、「夏のパンツまつり」、「秋のパンツまつり」及び「冬のパンツまつり」の文字についての商標を出願し、商標登録を得ている(甲38?甲42)。
本件商標と「春のパンツまつり」商標は、事実上株式会社デジタルコマース(以下「デジタルコマース社」という。)の運営に係るウェブサイト(甲43)において使用されているから、デジタルコマース社は、本件商標権者の許諾をうけて、使用している者だと認められる。
当該ウェブサイトの左上には、「2021」の数字を加えた本件商標が表示されており、やや右に傾斜させた丸ゴシック体で表した「春のパンツまつり」の文字がタイトルとして中央に大きく表示され、当該ウェブページを下にスクロールすると「スペシャルMOVIE」として、「春のパンツまつり2021」と題する動画のほか、複数の動画が掲載されている。当該「春のパンツまつり2021」と題する動画内の司会役の漫才コンビのやり取りにおいて「本家」、「某まつり」、「向こう」と呼ばれているのは山崎製パン社が毎年展開している本件キャンペーンであることは容易に推認される。
当該ウェブサイトの下方に設けられている「FANZA/春のパンツまつり」という項目をクリックすると合同会社DMM.comが運営するアダルトビデオの通信販売サイトが表示される(甲45)。そこでは、「2021」の数字を加えた本件商標とキャンペーン期間が表示され、キャンペーン対象のアダルトビデオを購入し、ポイントシールを5枚集めて専用ハガキで応募すると景品がもらえる等の販売促進キャンペーンの名称として本件商標が使用されている。この景品提供システムは、本件キャンペーンと類似しており、デジタルコマース社が本件商標を用いて行う商品販売促進手法自体が本件キャンペーンを模倣したものであることは明白である。
当該ウェブサイトにおける特定商取引法に基づく表示によれば、デジタルコマース社が当該アダルトビデオの販売業者である。
(3)商標法第4条第1項第7号該当性について
引用商標は、前述のとおり、全国的に広く知られた著名な商標であるから、本件商標権者もその存在を知っていたはずであり、このことは、本件商標の使用権者と推認されるデジタルコマース社が配信している「春のパンツまつり2021」の動画(甲44)における芸能人のやり取りや、本件商標を用いて行う商品販売促進手法が本件キャンペーンの手法と全く同一であることからも、容易に推認される。
引用商標及び本件キャンペーンの著名性にフリーライドし、ブランドイメージを汚染する結果を招くことを承知しながら本件商標を採択、出願し、アダルトビデオの販売促進キャンペーン名称として使用させる行為には、社会の一般的道徳観念に反する他、登録出願の経緯・目的に社会的相当性を著しく欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものと考える。
本件商標権者は、「パンツまつり」等の商標も出願・登録しながら、実際に使用されているのは、本件商標と「春のパンツまつり」商標のみであることからみても、山崎製パン社のキャンペーン名称の著名性にフリーライドしようとしていることは明らかである(甲44)。
さらに、山崎製パン社が製造・販売してきた商品は、「パン」をはじめとする「食品」であるが、食品の取引においては「おいしさ」「安全」「健康」そして「清潔感」が重視されることを考えると、これを下着である「パンツ」と混同させることを意図したと思しき本件商標は、本件商標が性的な商品やサービスに使用されることと相まって、同社が引用商標に化体させた信用や名声を破壊し、同社が築き上げた引用商標のブランドイメージに対して深刻な汚損を生じるものである。本件商標が、他人が築き上げたブランドイメージに対する汚損を顧みずに出願、登録されたものであるとすれば、その登録出願の経緯には社会的相当性を欠くものがあるため、登録を認めることは商標法の予定する秩序に反し到底容認し得ないといわざるを得ない。
また、本件商標は、他人の著名商標の顧客吸引力にフリーライドしようとする悪意の出願であり、このような商標の使用者に対してその正当使用権限を与えることは、不正競争事業者を商標権により保護する一方で、業務上の信用が十分に化体した著名商標のブランドイメージの汚染を黙認することに他ならず、本件商標の商標登録を維持することが商標法の目的に反することは明らかである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
(4)商標法第4条第1項第11号該当性について
本件商標は、その構成文字に応じて「ハルノパンツマツリ」の称呼を生じる。
他方、引用商標2は「ハルノパンマツリ」の称呼を生じるところ、両者の称呼を対比すると、本件商標から生じる9音のうち、8音は引用商標2から生じる称呼と完全に同一であり、相違する点は「ツ」の有無にすぎない。そして、相違音「ツ」は9音中6音目という中間に位置するもので、かつ、聴取しにくい弱音であるうえ、音韻構成上も、強く明瞭に響く破裂音である「パ」に続く撥音「ン」に弱音「ツ」が吸収される結果、より一層聴取されにくいものとなる。
そうすると、本件商標を一気一連に称呼したときには、9音中第6音目に位置する弱音「ツ」の音は容易に聴き落とされ、聴者の記憶や印象にも残らない。商標審査基準においても、比較的長い称呼で1音だけ多い場合は、全体的印象が近似して聴覚されることが多いと解説されている。したがって、称呼の点において、本件商標と引用商標2とは、比較的長い音数である9音のうち、8音が共通し、その相違点が中間に位置する弱音「ツ」の有無にすぎないものであるから、称呼類似の商標といわなければならない。
次に観念の点についてみると、本件商標からは、「春」及び「祭り」との観念が生じるところ、これらは、引用商標2から生じる「春」及び「祭り」の観念と共通する。両者は、「パンツ」と「パン」の観念において相違するものではあるが、上述のとおり、中間に位置する弱音「ツ」は聴覚されにくいものであり、これを聞き誤ったときや曖昧な記憶や印象の上で想起する離隔観察の場面においては、観念上相紛れるおそれも高い。
このように、本件商標は、称呼上、引用商標2に類似するものであり、観念上も「春」及び「祭り」の観念においては完全に共通し、全体として観察した時も相紛らわしいものである。このことに加えて、引用商標2及び本件キャンペーンの著名性に鑑みて考察すれば、需要者の印象・記憶・連想において、本件商標が引用商標2に類似することは明らかである。
さらに、本件商標の指定役務中、第35類「DVD・ビデオ・CD・書籍の販売に関する情報の提供,コンピュータネットワークにおけるオンラインによる広告,広告用映像ソフトの企画・制作」は、引用商標2の指定役務中、「広告業,インターネット上の広告スペースの貸与,商品の販売に関する情報の提供」に類似する。
したがって、本件商標は、引用商標2との関係で商標法第4条第1項第11号に該当する。
(5)商標法第4条第1項第15号該当性について
本件商標と引用商標は、外観上8文字のうち7文字が同一であり、その外観上も紛らわしく、称呼の点において、本件商標は比較的長い音数である9音のうち8音が引用商標と共通し、その相違点が中間に位置する弱音「ツ」の有無にすぎない。観念においても「春」及び「祭り」との観念において、本件商標と引用商標とは完全に共通し、全体として観察しても相紛らわしいから、本件商標と引用商標との類似性の程度は極めて高いというべきである。
また、前述のとおり、本件キャンペーンの名称である引用商標は、40年もの長期間にわたって継続的に使用され、かつ、新聞やテレビ等の広く一般向けの媒体を通じて大々的、かつ、強力に宣伝広告され、第三者の制作による記事などにおいても取りざたされるほどであるから、引用商標の周知・著名性は極めて高い。
本件商標の指定商品及び指定役務は、引用商標が使用されて周知著名性を確立した商品とは分野を異にする。しかしながら、引用商標が使用され、周知著名性が確立した商品である「パン」をはじめとする食品は、全ての国民が日常的に購入し、口にするものである。したがって、本件商標が使用される商品や役務の需要者は、当然に引用商標が周知著名性を確立した商品の需要者に包含されることになる。
そして、本件商標を使用するデジタルコマース社自らが、その販売促進用の動画(甲44)において、「本家」、「某まつり」、「向こう」等と、引用商標を意図的に想起させるような宣伝広告活動を行っている。実際に、インターネットで本件商標を検索した結果として、引用商標に係る情報が上位に表示されているから、混同が生じているおそれがある(甲34、甲35)。
以上のとおり、本件商標と引用商標の類似性の程度が高いこと、引用商標が極めて長期間にわたって使用され、大々的、かつ、強力に宣伝広告されている著名な商標であること、周知著名性を確立した引用商標を用いた商品の需要者が、本件商標の指定商品及び指定役務の需要者を包含すること等を総合的に考察すれば、本件商標に接した取引者、需要者は、山崎製パン社が使用する引用商標及び本件キャンペーンの名称である「春のパンまつり」を想起・連想し、本件商標を使用した商品又は役務があたかも山崎製パン社又はこれと何らかの関係を有する者の業務に係る商品又は役務であるかのごとく認識して取引にあたり、商品及び役務の出所について混同を生ずるおそれが極めて高いというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(6)商標法第4条第1項第19号該当性について
引用商標は、日本国内で全国的に知られており、本件商標は引用商標に類似し、本件商標権者は、アダルトビデオ販売促進キャンペーン名称として使用するものであって、引用商標の名声を毀損させることを十分に認識している(甲44)から、本件商標は不正の目的をもって使用する商標である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。

4 当審の判断
(1)引用商標の周知著名性
ア 申立人提出の甲各号証及び同人の主張によれば、以下のとおりである。
(ア)引用商標の商標権者である山崎製パン社は、昭和23年(1948年)に設立され、パン、和・洋菓子、米飯類等の製造・販売を中心に、ベーカリーの経営、コンビニエンスストア事業などを行う法人であり、2020年12月31日現在で、日本全国に10万9,361店の販売店舗を有し、同社単体での売上高は年間7,302億円、連結ベースでの合計売上高は年間1兆147億円であった(甲9)。
(イ)山崎製パン社は、1981年春に、主力商品である食パンを中心とした対象商品に付いている点数シールを集めて応募すると、「白いお皿」と交換できるという本件キャンペーンを開始し、2020年には40回目となったところ、本件キャンペーンにおいて、交換された「白いお皿」の累計枚数は、1991年に1億枚、1997年に2億枚、2005年に3億枚、2012年に4億枚、2018年に5億枚を突破した。また、山崎製パン社は、本件キャンペーンについて、新聞広告やTVコマーシャル等を行ってきた(甲10、甲13?甲15ほか)。
なお、「読売新聞広告局ポータルサイト」によれば、2017年1月25日付け読売新聞(朝刊)に掲載された「春のパンまつり」の1面広告(引用商標2が付されている。)に対する広告反響調査結果について、広告接触率(確かに見た・見たような気がする)は、83.7%であり、「初めて『広告主名・商品ブランド名』を知った」の割合は、5.5%であった(甲21)。
(ウ)本件キャンペーンは、例えば以下のように、新聞、ウェブニュース等において度々紹介されている(甲11、甲12、甲16?甲19、甲22?甲29)。
a 「suumoジャーナル」のウェブサイトにおいて、「ヤマザキに直撃!『春のパンまつり』が『春』なワケ」(2015年3月16日)の見出しの下、「今年で35回目を迎える春のパンまつり・・・軽快なCMソングと共にすっかり春の恒例といえる、歴史あるキャンペーンだ。」の記載がある(甲23)。
b 「メシ通」のウェブサイトにおいて、「ヤマザキ『春のパンまつり』が“国民的春フェス”である10の理由【まつラー大解説】」(2019年3月22日)の見出しの下、2019年のキャンペーン広告(ポスター、チラシ、店頭POP)中に引用商標2が表示され、「理由1:圧倒的な知名度の高さ 理由2:今年39年目の長寿フェス 理由:もらえるお皿は信頼のフランス製」等の記載がある(甲25)。
c 「読みテレ|読んで楽しいテレビの話」のウェブサイトにおいて、「白いお皿を持つ松たか子の手にも注目!『ヤマザキ 春のパンまつり』が春に開催されるワケ」(2019年4月9日)の見出しの下、「『ヤマザキ 春のパンまつり』 ネット上では『東映まんがまつり』『花王ヘアケアまつり』と共に“日本三大まつり”のひとつに数えられる、今や日本の春の風物詩だ。」の記載がある(甲27)。
d 「ORICON NEWS」のウェブサイトにおいて、「『コロナでも中止にならない祭り』で話題、40周年『ヤマザキ春のパンまつり』長年愛される理由とは」(2020年3月25日)の見出しの下、2020年のキャンペーン広告(ポスター等)中に引用商標2が表示され、「すっかり恒例イベントとして定着しているが、40年経ってもこれほど話題を呼ぶキャンペーンは珍しい。・・・総出荷枚数5億の“白いお皿”のデザインも40回考案、応募殺到で急遽増産した年も」等の記載がある(甲29)。
イ 上記アによれば、引用商標は、山崎製パン社が40年にわたり行っている本件キャンペーンに使用されているものであって、新聞広告やTVコマーシャル等による広告宣伝活動もあいまって、山崎製パン社の業務に係る商品「パン」等の販売促進キャンペーンを表示する商標として、本件商標の登録出願時には、我が国の取引者及び需要者の間に広く認識されていたものといえ、その状態は、本件商標の登録査定時においても継続していたものと認められる。
(2)商標法第4条第1項第11号該当性について
本件商標は、別掲1のとおり、ピンク色の桜の花の図形及び水色の細い曲線を背景として、白色の文字をピンク色で縁取りした「春の」、「パンツ」及び「まつり」の文字を三段に表してなり、上段の「春の」の文字の右横には、水色のトランクスの図形及びピンク色のショーツの図形を表してなるところ、その構成文字に相応して「ハルノパンツマツリ」の称呼を生じる。また、本件商標の構成文字中の「パンツ」の文字は「(1)ズボンに同じ。(2)運動する時などにはく短いズボン。(3)ズボン風の下ばき。ズロース・ショーツ・ブリーフなど。」の意味を有する(「広辞苑 第七版」株式会社岩波書店)ことから、本件商標は全体として、「春のズボン風の下ばき又はズボンに関する祭り」ほどの観念を生じるといえる。
他方、引用商標2は、別掲2のとおり、赤色の「春の」の文字と、青色の「パンまつり」の文字を上下二段に表し、その下には、赤色、白色及び青色からなるリボン様の図形(やや波のある態様。)を配してなるところ、その構成文字に相応して、「ハルノパンマツリ」の称呼を生じ、また、上記(1)のとおり、引用商標は、山崎製パン社の業務に係る商品の販売促進キャンペーンに使用する商標として広く知られているものであるから、「山崎製パン社のキャンペーンである春のパンまつり」の観念を生じるといえる。
そこで、本件商標と引用商標2との類否について検討するに、本件商標は、上記のとおり、桜の花やトランクス等の図形と「春の」、「パンツ」及び「まつり」の文字からなるのに対し、引用商標2は、リボン様の図形と「春の」及び「パンまつり」の文字との組合せからなるものであるから、両商標は、構成文字及び構成態様が異なり、外観上、相紛れるおそれはないものである。
そして、称呼においては、本件商標から生じる「ハルノパンツマツリ」の称呼と引用商標2から生じる「ハルノパンマツリ」の称呼とは、前半の「ハルノ」及び後半の「マツリ」の称呼は共通するものの、本願商標は、「ハルノ」、「パンツ」及び「マツリ」のそれぞれの音を明瞭に称呼し、引用商標2も「ハルノ」、「パン」及び「マツリ」のそれぞれの音を明瞭に称呼するものであるから、中間に位置する「パンツ」と「パン」の音は、「ツ」の音の有無のみの相違であっても聞き誤るおそれはなく、全体として称呼するときにも、両者は明瞭に聴別できるものである。
また、観念においては、本件商標は、「春のズボン風の下ばき又はズボンに関する祭り」ほどの観念を生じるのに対し、引用商標2からは「山崎製パン社のキャンペーンである春のパンまつり」の観念を生じるから、両者は、相紛れるおそれはないものである。
そうすると、本件商標と引用商標2とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても、相紛れるおそれのない非類似の商標である。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
(3)商標法第4条第1項第15号該当性について
ア 引用商標の著名性について
引用商標は、上記(1)のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、山崎製パン社の業務に係る商品の販売促進キャンペーンを表示するものとして広く認識されていたものである。
イ 本件商標と引用商標との類似性の程度
本件商標は、上記(2)のとおり、その構成文字に相応して「ハルノパンツマツリ」の称呼を生じ、「春のズボン風の下ばきに又はズボン関する祭り」ほどの観念を生じる。
他方、引用商標1及び3は、引用商標2の構成文字である「春のパンまつり」の文字を同書、同大でまとまりよく表してなるところ、その構成文字に相応して、「ハルノパンマツリ」の称呼を生じ、「山崎製パン社のキャンペーンである春のパンまつり」の観念を生じる。
そこで、本件商標と引用商標1及び3との類否について検討するに、本件商標は、上記のとおり、桜の花やトランクス等の図形と「春の」、「パンツ」及び「まつり」の文字からなるのに対し、引用商標1及び3は、「春のパンまつり」の文字からなるものであるから、両商標は、図形の有無に加えて構成文字が異なり、外観上、相紛れるおそれはないものである。
そして、本件商標と引用商標1及び3とは、上記(2)と同様、称呼においては明瞭に聴別できるものであり、観念においては、相紛れるおそれはないものである。
したがって、本件商標と引用商標1及び3とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても、相紛れるおそれのない非類似の商標である。
また、本件商標と引用商標2とは、相紛れるおそれのない非類似の商標であること、上記(2)のとおりである。
そうすると、本件商標と引用商標とは、相紛れるおそれのない商標といい得るから、本件商標と引用商標との類似性の程度は低いというべきである。
ウ 引用商標の独創性について
引用商標は、「春」、「パン」、「まつり」の成語を用い、「春」及び「パン」の語を格助詞「の」をもって結合したものであるから、その独創性は高いものとはいえない。
エ 本件商標の指定商品及び指定役務と山崎製パン社の業務に係る商品との関連性、需要者の共通性について
本件商標の指定商品及び指定役務は、前記1のとおり、映像ファイル、コンピュータゲーム用プログラムや被服等の商品と、記録媒体の小売等役務や制作、興行関連、広告業関連のものであって、山崎製パン社の主たる業務に係る商品「パン」等の食品とは、商品の用途、性質、機能、原材料等において著しく相違するばかりでなく、その生産者、取引系統、販売場所等においても著しく相違するものであるから、両者に関連性があるとはいえず、また、その取引者、需要者の範囲も異なるものである。
オ 出所の混同について
上記アないしエを総合的に考慮すると、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、山崎製パン社の業務に係る商品の販売促進キャンペーンを表示するものとして広く認識されていたといえるものの、本件商標と引用商標とは、類似性の程度、引用商標の独創性、商品の関連性、需要者等の共通性の程度がいずれも低いことに照らし、本件商標の指定商品の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として総合的に判断すれば、本件商標権者が、本件商標をその指定商品及び指定役務について使用をしても、取引者、需要者が、引用商標を連想又は想起することはなく、その商品が他人(山崎製パン社)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その商品及び役務の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。
その他、本件商標が出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情は見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
(4)商標法第4条第1項第19号該当性について
本号は、「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもって使用するもの(前各号に掲げるものを除く。)」と規定されている。
そして、引用商標は、上記(1)のとおり、山崎製パン社の業務に係る商品の販売促進キャンペーンを表示するものとして広く認識されていたといえるものの、本件商標と引用商標とは、上記(3)イのとおり、類似するものとはいえないから、本件商標は、商標法第4条第1項第19号を適用するための要件を欠くものといわざるを得ない。
さらに、申立人が提出した証拠からは、本件商標権者が引用商標の名声を毀損させることを認識し、本件商標を不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をもって使用するものと認めるに足りる具体的事実は見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
(5)商標法第4条第1項第7号該当性について
申立人は、本件商標権者も引用商標の存在を知っていたはずであり、本件商標権者が、引用商標の著名性にフリーライドし、ブランドイメージを汚染する結果を招くことを承知しながら、本件商標を採択、出願し、アダルトビデオの販売促進キャンペーンの名称として使用する行為は、社会一般道徳観念に反し、商標法の予定する秩序に反する旨主張する。
しかしながら、上記(1)のとおり、引用商標は、山崎製パン社の業務に係る商品の販売促進キャンペーンを表示するものとして広く認識されていたといえるものの、申立人が提出した甲各号証を総合してみても、本件商標が不正の利益を得る目的をもって剽窃的に登録出願したものと認めるに足りる具体的事実を見いだすことができない。
さらに、本件商標は、その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるようなものでないこと明らかであり、さらに、社会の一般的道徳観念に反するなど、公序良俗に反するものというべき証左も見あたらない。
そして、本件商標は、他の法律によって、その商標の使用等が禁止されているものではないし、特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反するものでもない。
してみると、本件商標は、その登録を維持することが商標法の予定する秩序に反し、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標に該当するとまではいえないものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
(6)むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第7号、同項第11号、同項第15号及び同項第19号のいずれにも違反してされたものとはいえず、他に同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定により、維持すべきである。
よって、結論のとおり決定する。
別掲
別掲1(本件商標:色彩については原本参照。)



別掲2(引用商標2:色彩については原本参照。)



異議決定日 2021-10-12 
出願番号 商願2020-17850(T2020-17850) 
審決分類 T 1 651・ 262- Y (W09253541)
T 1 651・ 263- Y (W09253541)
T 1 651・ 222- Y (W09253541)
T 1 651・ 272- Y (W09253541)
T 1 651・ 22- Y (W09253541)
T 1 651・ 261- Y (W09253541)
最終処分 維持  
前審関与審査官 駒井 芳子田畑 浩美 
特許庁審判長 佐藤 松江
特許庁審判官 大森 友子
石塚 利恵
登録日 2021-03-22 
登録番号 商標登録第6366613号(T6366613) 
権利者 株式会社LEAF
商標の称呼 ハルノパンツマツリ、ハルノパンツ、パンツマツリ 
代理人 特許業務法人ドライト国際特許事務所 

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