• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 商3条1項3号 産地、販売地、品質、原材料など 登録しない W10
審判 査定不服 商3条2項 使用による自他商品の識別力 登録しない W10
管理番号 1378834 
審判番号 不服2018-17433 
総通号数 263 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2021-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-12-27 
確定日 2021-09-30 
事件の表示 商願2017-42393拒絶査定不服審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。
理由 第1 本願商標
本願商標は,別掲1のとおりの構成よりなり,第10類「円皮鍼」を指定商品として,平成29年3月29日に立体商標として登録出願されたものである。

第2 原査定の拒絶の理由(要点)
原査定は,「本願商標は,円盤状のテープの中央に,樹脂製の白いボタン状の円筒形の突起部分を配し,当該ボタン状部分とは反対側のテープの中央に,金属製の鍼状の突起部分を配した立体的形状からなるものである。一般的な円皮鍼のテープ部分は,肌色の円盤状であり,また,当該鍼を基盤に固定する際にボタン状の突起物を配している形状が広く販売されている事実がある。そうすると,本願商標の立体的形状は,『円皮鍼』を取り扱う業界において,一般的に採用し得る商品の形状の範囲内にとどまるものというのが相当である。したがって,本願商標は,商品の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標であって,商標法第3条第1項第3号に該当する。また,提出された証拠を総合的に考慮しても,本願商標が,その使用の結果,需要者に何人かの業務に係る商品であることを認識させるに至ったものとは認められず,本願商標は,商標法第3条第2項の要件を具備するものとはいえない。」旨認定,判断し,本願を拒絶したものである。

第3 当審における審尋
当審において,請求人に対し,令和元年12月27日付けで,別掲2のとおりの事実を示した上で,本願商標が商標法第3条第1項第3号に該当し,かつ,請求人の販売実績及び市場占有率等が,請求人が有していた特許権(以下「本件特許権」という。)による独占とは無関係なものということはできない旨の見解を示す審尋を通知し,相当の期間を指定して回答を求めた。

第4 審尋に対する請求人の意見(要旨)
上記第3の審尋に対し,請求人は,回答書において要旨,以下のとおり主張している。
1 本件特許権に係る発明(以下「本件発明」という。)は,円皮鍼の加工工程の簡略化によるコスト削減の効果を得るために,針体をL字状に屈曲成形することとしたため,針体と基端部が粘着テープの非粘着面上で固定することが必要となり,樹脂材により固定されることとしたものである。ここで,本件発明の特定事項は,L字に屈曲成形した針体と,射出成形した樹脂材であり,射出成形される樹脂材の形状は特定事項ではない。すなわち,樹脂材の形状は,本件特許権の発明特定事項ではなく,選択事項であって,どのような形状を選択することも可能である。
本願商標の立体的形状は,特許権の保護対象とは無関係であり,機能性向上の目的で選択された形状ではないから,本願商標は,商標法第3条第1項第3号には該当しない。
2 本願商標の立体的形状は,本件特許権の発明特定事項ではなく,特許権による独占とは無関係であり,また,本願商標に係る立体的形状は,機能によって規定される形状ではないから,本願商標を商標登録によって保護することにより商品そのものを独占させる結果となるような不都合は生じない。したがって,本願商標の識別力の獲得は,特許権による独占とは無関係に自他識別力を取得したものであり,本願商標は,登録されるべきである。

第5 当審の判断
1 商標法第3条第1項第3号について
(1)立体商標における商品等の形状について
商品等の形状は,多くの場合,商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり,商品等の美観をより優れたものとする等の目的で選択されるものであって,直ちに商品の出所を表示し,自他商品を識別する標識として用いられるものではない。このように,商品等の製造者,供給者の観点からすれば,商品等の形状は,多くの場合,それ自体において出所表示機能ないし自他商品識別機能を有するもの,すなわち,商標としての機能を果たすものとして採用するものとはいえない。また,商品等の形状を見る需要者の観点からしても,商品等の形状は,文字,図形,記号等により平面的に表示される標章とは異なり,商品の機能や美観を際立たせるために選択されたものと認識するのであって,商品等の出所を表示し,自他商品を識別するために選択されたものと認識する場合は多くない。
そうすると,客観的に見て,商品等の機能又は美観に資することを目的として採用されると認められる商品等の形状は,特段の事情のない限り,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,商標法第3条第1項第3号に該当することになる。
また,商品等の機能又は美観に資することを目的とする形状は,同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを欲するものであるから,先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定人に独占使用を認めることは,公益上適当でない。
よって,当該商品の用途,性質等に基づく制約の下で,同種の商品等について,機能又は美観に資することを目的とする形状の選択であると予測し得る範囲のものであれば,当該形状が特徴を有していたとしても,同号に該当するものというべきである。
(知財高裁平成29年(行ケ)第10155号,同30年1月15日判決参照)。
(2)本願商標の商標法第3条第1項第3号該当性について
ア 円皮鍼について
本願商標の指定商品である「円皮鍼」は,テープに短い鍼が付いた身体に貼るタイプの鍼であり,肩こりや腰痛などの治療用の医療機器(「管理医療機器」に含まれる「滅菌済み鍼」)であるため(甲1,甲24の3,甲26,甲34等),鍼が折れたりさびたりせず,衛生的かつ簡単に貼れるよう安全性や操作性を考慮し,さらに,不快な痛みが生じないよう快適性にも配慮して設計された製品である(甲2の2,甲32の2?4等)。
イ 本願商標の立体的形状について
(ア)本願商標は,別掲1のとおり,肌色の円盤状の薄いテープの中央に,当該テープの約3分の1程度の直径を有する半透明で白い円筒形の突起部分を配し,当該突起部分と反対側のテープの中央に鍼を配した立体的形状(以下「本願形状」という場合がある。)よりなるものである。
(イ)請求人が提出した証拠,請求人の主張及び別掲2(本件特許権)から総合して判断すると,本願形状は,肌色の円盤状の薄いテープの非粘着面(テープ上部の皮膚に接しない側。以下同じ。)の中央に半透明で白い樹脂製の円筒形の突起部分を有するもので,これは,L字状に屈曲成形された針体をテープに固定するために設けられたものであり,この突起部分と反対側のテープの粘着面(テープ下部の皮膚に接する側。以下同じ。)中央に,金属製の鍼を配した立体的形状である。
つまり,肌色の円盤状のテープを挟んで,円筒形の突起部分は非粘着面,鍼は粘着面に配置されている。
(ウ)非粘着面に突起部分を設けて固定することのメリットについては,本件特許権の発明の詳細な説明として,「・・・加工の単純なL字状に屈曲成形された針体の基端側を,粘着テープの非粘着面上で,樹脂材により包覆して確実に固定することで,従来のような,施術時における針体と粘着テープとのずれを防止する。」(別掲2(2))と記載されていることに加え,請求人の製品カタログや販売代理店のカタログ等にも,「1枚の絆創膏に針を樹脂で固定。肌にぴったり密着します。」(甲7の1),「1枚のテープに鍼を樹脂で固定。肌にぴったり密着します。」(甲7の3・5),「一枚の絆創膏に鍼を樹脂で固定。肌にぴったり密着。」(甲11の48),「針部分がプラスチック成形されていますので,針落ちの心配がありません。」(甲11の49・50),「・・パイオネックスは鍼が根元まで完全に刺さり,鍼も樹脂に固定されているので,浮くことがなく痛みが抑えられるのです。」(甲32の3・4)等の記載がある。
加えて,医療関連雑誌等にも,「鍼はプラスチックに成型加工しているので,鍼が取れる心配はほとんどありません。」(甲11の18),「1枚のテープに鍼を樹脂で固定しているので,鍼が取れる心配はほとんどありません。」(甲11の19?29・37・39・44),「貼った後,鍼は皮膚から浮いたりすることがなくチクチク感がありません。」(甲11の18?29・37・39・44)等の記載がある。
ウ 一般的な円皮鍼の立体的形状について
一般的に販売されている円皮鍼は,肌色の円盤状(一部,四角形も見受けられる)の薄いテープの粘着面中央に治療用の短い鍼を有する立体的形状であるところ,鍼をテープに固定する方法として,当該鍼を2枚のテープで挟む方法,粘着面に直接貼り付けて固定する方法のほか,粘着面に円筒形の突起部分(磁気板,酸化鉄粉末成型板等)を設けて固定する方法等が見受けられる(甲1,甲2,甲20)。
エ 本願形状と一般的な円皮鍼の立体的形状との比較
本願形状と一般的な円皮鍼の立体的形状とを比較すると,両者は,共に円盤状のテープの粘着面中央に短い鍼を有する点において共通している。
そして,上記ウのとおり,一般的な円皮鍼の中には,本願形状のように円筒形の突起部分を有する立体的形状が見受けられるところ,たとえ,その突起部分が粘着面又は非粘着面とで異なる側に配置されているとしても,それは,鍼をテープに固定するために予測し得る範囲内の形状であって斬新なものであるとはいえない。仮に,非粘着面に突起部分を有する他人の円皮鍼が存在しないとしても,それは,上記イ(ウ)のとおり,非粘着面で鍼を確実に固定することで,鍼体とテープとのずれを防ぎ,鍼が皮膚から浮くことがなく痛みが抑えられ,さらに針落ちを防ぐという,まさに機能に資するために選択された形状にほかならない。
したがって,本願形状は,医療機器である円皮鍼の機能(安全性,操作性,快適性等)を考慮した立体的形状として通常採用される範囲を大きく超えるものとまではいえないものである。
オ 請求人の主張について
請求人は,本願商標の突起部分は,鍼を固定するという目的で設けられたものではなく,請求人独自の構成要素であり,また,本願商標のようにL字加工された針体の基端側をインサート成形し,テープの非粘着面上に半透明の樹脂が接合された構成を採用するには,高度なプラスチック成形技術が必要であり,かつ,製造コストの点でも粘着面に固定部を設ける円皮鍼を採用するよりもはるかに高額となるため,通常の形態とは異なる特徴を有する本願形状は,十分に自他商品の識別標識として機能しうるものであり,かつ独占適応性も有する旨主張している。
しかしながら,本件特許権の発明の効果として,「・・・針体の基端側の形状を,加工の単純なL字状とすることで加工工程を短縮して,コストを削減することができ,また,前記針体の基端側が粘着テープの非粘着面上で樹脂材により確実に固定されることにより,施術に際して,針体と粘着テープとのずれが回避され,痛みを最小限に抑えることができるという効果が得られる。」(別掲2(3))と記載されており,かつ,請求人も,上記第4の1において,「円皮鍼の加工工程の簡略化によるコスト削減の効果を得るために,針体をL字状に屈曲成形することとしたため,針体と基端部が粘着テープの非粘着面上で固定することが必要となり,樹脂材により固定されることとしたものである。」と述べているとおり,本願商標の突起部分がテープの粘着面でなく非粘着面に設けられた理由は,鍼を確実に固定することで,施術に際して針体と粘着テープとのずれや針落ちを防ぐという機能に資するためのものであるし,円筒形の突起部分の形状は,一般的な円皮鍼にも見受けられるものである。
そうすると,客観的に見て,商品等の機能に資する目的のために採用されると認められる形状は,特段の事情のない限り,普通に用いられる商品等の形状というべきである。
したがって,請求人の上記主張は採用することができない。
カ 小括
以上からすると,本願商標を,その指定商品「円皮鍼」に使用しても,本願商標に接する取引者及び需要者は,これを商品等の機能(安全性,操作性,快適性等)に資することを目的とする形状を表したものと認識するにとどまり,自他商品の識別標識とは認識し得ないものと判断するのが相当であるから,商品の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標といわざるを得ない。
したがって,本願商標は,商標法第3条第1項第3号に該当する。
2 商標法第3条第2項該当性について
(1)請求人は,本願商標が使用による識別力,いわゆる商標法第3条第2項の要件を具備していることを主張し,証拠として,甲第1号証ないし甲第35号証(枝番号を含む。)を提出しているところ,当該証拠及び同人の主張によれば,以下の事実が認められる(なお,請求人の申出により,甲11の30?34・36・38・43,甲12の4は削除されている。)。
ア 請求人及び使用開始時期
請求人は,鍼灸針を製造販売する企業であり,2004年(平成16年)から現在に至るまで「PYONEX」(パイオネックス)と称される円皮鍼を製造,販売している(甲7の2,甲34)。
上記円皮鍼(以下「請求人製品」という場合がある。)は,肌色の円盤状の薄いテープの中央に,当該テープの約3分の1程度の直径を有する半透明で白い円筒形の突起部分を配し,当該突起部分と反対側のテープの中央に金属製の鍼を配した立体的形状(以下「使用形状」という。)である(甲7の1?6等)。
イ 販売実績
(ア)請求人製品を販売する6社の証明書
請求人製品を販売する医療機械器具販売業者6社が請求人からの依頼により作成した請求人製品の取扱い数量の証明書(甲8)には,「下記事項をご証明下さいますようお願い申し上げます。」,「セイリン株式会社(以下『請求人』という。)と取引関係にある期間は,以下の通りである。」,「2008年1月から12月までの当社の円皮鍼の総販売数量のうち,請求人の商品である円皮鍼の販売数量の割合は,以下の通りである。」といった文章(2010年,2014年に関しても同様の文章。)があらかじめ印刷され,各証明者により円皮鍼の取引開始期間,販売数量の割合(%),日付,氏名等が記載され,押印されている。
(イ)取引者及び需要者からの使用による識別力の証明書
請求人は,日本各地の取引者及び需要者から,全141通(鍼灸師会,鍼灸マッサージ師会等から26通,鍼灸専門学校,医療専門学校等から52通,鍼灸院,針灸治療院等から26通,販売店等から37通)の使用による識別力の証明書を提出している(甲14?甲17)。
そして,これらの証明書には,本願商標の写真(別掲1のとおり,正面図等5つの角度から撮った5枚の写真)の上に,「・・・このボタン部形状は,円皮鍼の製造・販売業者はもちろんのこと,鍼灸師においては,下記形状の円皮鍼を見れば直ちにそれがセイリン株式会社の円皮鍼であると認識する程によく知られた特徴的な形状であると思います。」といった文章があらかじめ印刷され,末尾には日付,住所,本店・店名,所属・氏名が各証明者により記載され,押印されている。
(ウ)注文書
請求人は,円皮鍼を取り扱う医療関連商品の卸売企業である株式会社サンポー及び株式会社カナケンからの「注文書」(2006年(平成18年)?2015年(平成27年)の各年の9月分)を提出している(甲9)。
(エ)市場占有率
請求人が提出した証拠(甲34)には,「2017年の時点では,円皮鍼市場のシェアは8割を占めています。(下記円グラフは当社調べ)」の記載とともに「パイオネックス80%」と示された円グラフが掲載されている。
ウ 広告宣伝
(ア)広告宣伝費
請求人は,2003年(平成15年)から2017年(平成29年)までの請求人製品に関するチラシ,リーフレット,ポスター等の作成代を含む広告宣伝費を示した上で(甲10:ただし,2005年(平成17年)と2006年(平成18年)の2年間は金額不明のため累計外),特に2003年(平成15年)ないし2014年(平成26年)までの広告宣伝費を平均すると,年間約130万円の金額を支出した旨主張している。
(イ)製品カタログ等
請求人は,請求人名(セイリン,SEIRIN)の文字,請求人製品の商品名(パイオネックス,PYONEX)の文字とともに使用形状の画像等が掲載された4つの製品カタログ(甲7の1・3?5)及び2つの会社案内(甲7の2・6)を提出しているが,発行年月日を確認できる証拠は2004年(平成16年),2008年(平成20年)及び2012年(平成24年)の製品カタログのみである(甲7の1・3・5)。
(ウ)雑誌等
鍼灸・手技療法の専門誌である「医道の日本」の2004年(平成16年)5月号ないし2005年(平成17年)9月号(甲11の1?17),2015年(平成27年)12月号(甲11の35),2016年(平成28年)1月号,3月号及び5月号(甲11の40?42)において,請求人名(セイリン,SEIRIN)の文字,請求人製品の商品名(パイオネックス,PYONEX)の文字が掲載されているが,使用形状の画像は確認できず,また,2017年(平成29年)2月号(甲11の45)に使用形状の画像が掲載されているものの,その画像は小さく不鮮明で使用形状全体を明確に表示するものとはいえない。
また,他の業界雑誌(例えば「鍼灸OSAKA」に2回(2007年(平成19年)通巻87号及び2009年(平成21年)通巻95号:甲11の18・19),「日本鍼灸新報」に7回(2012年(平成24年)4月・10月,2013年(平成25年)2月,2014年(平成26年)1月・4月(甲11の25?29),2015年(平成27年)1月(甲11の37)及び2016年(平成28年)1・2月合併号(甲11の44))の合計9回に,請求人名(セイリン,SEIRIN)の文字,請求人製品の商品名(パイオネックス,PYONEX)の文字とともに使用形状の画像が掲載されているものの,その画像は全て白黒で小さく使用形状全体を明確に表示するものとはいえない。
さらに,研究会の冊子,大学の卒業名簿,専門学校同窓会の冊子等(甲11の20?24・39)において,請求人名(セイリン,SEIRIN)の文字,請求人製品の商品名(パイオネックス,PYONEX)の文字とともに使用形状の画像が掲載されているものの,その中には,使用形状全体が明確に表示されていないものもある(甲11の22・39)。
(エ)販売代理店のカタログ,論文及び学会等への出展
請求人製品は,「はり治療用はり」を販売する販売代理店のカタログに,請求人名(セイリン)の文字,請求人製品の商品名(パイオネックス,PYONEX)の文字とともに掲載されているが(甲11の48?76),使用形状全体を認識できるものは僅かであるし(甲11の51・56・60・72),上記カタログのうち3つのカタログに,使用形状の画像は確認できない(甲11の55・66・73)。
また,請求人は,円皮鍼に関する114件の論文の一覧表(甲6の1)及びその中から6件の論文(甲6の3?8)を提出しており,当該6件の論文中に請求人名(セイリン)の文字,請求人製品の商品名(パイオネックス,PYONEX)の文字の記載はあるものの,使用形状の画像はいずれも小さく不鮮明で使用形状全体を明確に表示するものとはいえない。
なお,上記6件以外の論文について,上記一覧表に文献名,報告者等は記載されているが,実際に使用形状の画像が紹介されたか否かは確認できない。
さらに,「学会等参加状況一覧」と題する証拠資料(甲12の1)には,請求人が出展した40の学会等の名称,開催地,開催期間,会場,参加者数,PYサンプル配布数等が記載されているが,当該資料は,請求人が作成したものであり,提出された配布資料8つ(甲12の2・3・6?11)のうち,「第13回痛みの治療研究会?痛みに漢方?」(甲12の2)及び「パイオネックス臨床応用講座」(甲12の3)に使用形状の画像は確認できない。
エ アンケート調査
請求人は,調査会社(株式会社インテージ)を通じて,2016年(平成28年)2月25日から同月26日にかけて,インターネットにより円皮鍼に関するアンケート調査(以下「本件アンケート調査」という。)を実施したとして,同年1月29日付けの「医療器具に関する調査-調査実施計画書-」を提出している。当該計画書には,「調査設計」の見出しの下「対象条件」として「20歳以上の男女個人」及び「はり師/もしくは以前はり師だった」と記載されているところ,本件アンケート調査の対象者から「医師」を除外していることについて,請求人は,鍼灸治療を行う医師及び医療施設が圧倒的に少数であることから,本願商標の周知性を判断する上で結論を左右するほどの母集団が存在しないためである旨主張している。
なお,「調査名:【SCR+本調査】医療器具に関する調査」と題する資料には,「対象者数 161s」,「有効回答数 101s」,「回収率 62.7%」等の記載があり(甲18),また,「あなたは以下の円皮鍼の画像をみて,どのメーカーの鍼かお分かりですか。思いつくメーカー名をご記入ください。」との質問を行ったところ,本願商標の写真から請求人名を回答した具体的な人数の記載は見当たらないが,認知率は約77%となっている(甲19の6)。
そして,請求人は,本件アンケート調査後の2017年(平成29年)5月10日に上記調査会社が作成した「アンケートの選定方法(対象者の抽出)に関して」と題する資料(甲19の1)及び本件アンケート調査に使用したと主張する請求人及び競合3社の円皮鍼を正面図等5つの角度から撮った写真(各A4用紙に企業名と写真を掲載したもの)を提出している(甲19の2?5)。
オ 需要者の範囲
請求人は,以下の法令等を示して,本願商標の指定商品「円皮鍼」の需要者は,はり師を含む医療関係者であり,一般の消費者は需要者に含まれない旨主張している。
円皮鍼は,「医療機器」の分類中「管理医療機器」に含まれる「滅菌済み鍼」に該当する商品であるところ(甲24の3),「滅菌済み鍼」は,「厚生労働大臣が基準を定めて指定する医療機器」(平成17年厚生労働省告示第112号)の別表「1 成人用肺機能分析装置」の「番号138」に「滅菌済み鍼」,「鍼治療に使用すること。」の記載があり(甲24の4),また,別表第3の138の「基本要件適合性チェックリスト」によると第16条(一般使用者が使用することを意図した医療機器に対する配慮)は不適用であり,「一般使用者が使用することを意図した機器ではない。」との記載がある(甲26)。
また,「円皮鍼」の広告宣伝の対象は,医師もしくは鍼灸師等の医療関係者に限定されている(甲31,甲32)。
カ その他
鍼灸師又は鍼灸院等のブログにおいて,使用形状の画像が請求人名(セイリン)の文字又は請求人製品の商品名(パイオネックス,PYONEX)の文字とともに紹介されており(甲13の1?6・8・9・11?14・17・18・20),また,スポーツ選手等が請求人製品を使用していることが示されている(甲21,甲35)。
(2)判断
上記(1)で認定した事実を総合すれば,以下のとおり判断できる。
ア 本願形状と使用形状
上記(1)アによれば,請求人は,「PYONEX」(パイオネックス)と称される円皮鍼を2004年(平成16年)から製造販売しており,その使用形状は,本願形状と同一性を損なわない範囲のものと認められる。
イ 販売実績
(ア)請求人は,上記(1)イ(ア)の販売業者6社における請求人製品の取扱い数量の割合等についての証明書を示した上で,当該6社における請求人製品が占める販売数量の割合の平均は,2008年(平成20年)が約76%,2010年(平成22年)は約85%,2014年(平成26年)は約85%であり,当該6社の円皮鍼の販売の売上が,円皮鍼全体の販売において,相当の比重を占めることに鑑みれば,請求人が,円皮鍼の分野において圧倒的なシェアを持っていることは明らかである旨主張している。
しかしながら,そもそも,当該6社による請求人製品の販売数量の割合を裏付ける証拠の提出はなく,また,各企業が円皮鍼を取り扱う取引業者全体の売上においてどの程度を占めているか明らかではないため,これをもって,円皮鍼全体の市場における請求人製品の市場占有率も同様とまで認めることはできない。
(イ)上記(1)イ(イ)の取引者及び需要者からの使用による識別力の証明書には,あらかじめ同一の文章が印刷されており,各証明者が,日付,住所,店名,氏名等を記載し,押印する形式がとられていることからすると,請求人が画一的に作成した文章を各証明者に示して単に確認をとる方法で作成されたものであることが推察される。一般には,このようにして作成された証明書においては,作成を依頼した者からの誘導に沿う方向で確認が行われ,その記載の細部についてまでは吟味が行われないこともあり得ること,また,証明者による説明の記載もなく,証明者がいかなる具体的事実に基づき証明しているかも不明であることから,当該証明書は信ぴょう性に欠けるといわざるを得ない。
また,当該証明書141通のうち,鍼灸院,鍼灸治療院等から提出されたものは26通であるが,全国各地にある鍼灸院及び鍼灸治療院等の数から想定すると,26通が全国47都道府県の鍼灸院及び鍼灸治療院等の中で占める割合はごく僅かといわざるを得ない。
(ウ)請求人は,上記(1)イ(ウ)のとおり,卸売企業2社からの注文書を提出しているが,円皮鍼を取り扱う卸売業者全体の販売数に占める当該2社の割合は不明であるから,定期的に注文を受けているとしても,請求人製品が継続的に広範囲の需要者に販売されているかどうか当該証拠からは判断することができない。
(エ)円皮鍼市場のシェアとして提出された証拠(甲34)には,「パイオネックス80%」と示された円グラフが掲載されているが,これは,請求人による調査であって当該市場シェアを客観的に裏付ける証拠の提出はない。
ウ 広告宣伝
(ア)上記(1)ウ(ア)によると,2003年(平成15年)ないし2014年(平成26年)までの広告宣伝費の年間平均額は約130万円と認められるが,円皮鍼の他のメーカーの広告宣伝費や円皮鍼を取り扱う業界全体の広告宣伝費が不明であることから,年間約130万円の広告宣伝費の多寡を判断することはできない。
(イ)上記(1)ウ(イ)によると,発行年月日を確認することができる製品カタログ等は,提出された6つのうち3つしかなく,また,それらの製品カタログ等の頒布時期,頒布方法,頒布地域,頒布部数等は不明である。
(ウ)上記(1)ウ(ウ)によると,鍼灸・手技療法の専門誌「医道の日本」に請求人製品に関する広告宣伝が22回掲載されたことは認められるが,使用形状の画像が掲載された事実は僅か1回であり,それも使用形状全体を明確に表示するものとはいえない。
加えて,上記雑誌は,2005年(平成17年)9月以降,2015年(平成27年)12月まで約10年間掲載されていない時期が認められるため,継続的な広告宣伝をしているとはいえない。
また,「鍼灸OSAKA」及び「日本鍼灸新報」において,使用形状の画像が掲載されてはいるものの,それらの画像は白黒で小さく使用形状全体を明確に表示するものとはいえないことに加え,その掲載回数は2007年(平成19年)ないし2016年(平成28年)の10年間のうち9回と限定的で,継続的な広告宣伝をしているとはいえない。
(エ)上記(1)ウ(エ)によると,販売代理店のカタログ,一部の論文,学会等での配布資料に請求人製品が掲載されたことは認められるが,その中には,使用形状の画像が確認できないものがあり,また,販売代理店のカタログの頒布時期,頒布方法,頒布地域,頒布部数等は不明である。
そして,上記(1)ウのとおり,請求人の製品カタログ,雑誌等,販売代理店のカタログ,一部の論文,学会等での配布資料には,必ず,請求人名(セイリン)の文字,請求人製品の商品名(パイオネックス,PYONEX)の文字が掲載されていることに加えて,使用形状全体の画像は明確に表示されているものが限られていることからすると,使用形状のみが需要者の目につきやすく,強い印象を与える態様で使用されているとまでは認めることはできない。
エ アンケート調査
上記(1)エによると,「アンケートの選定方法(対象者の抽出)に関して」と題する資料は,本件アンケート調査終了から1年2か月を経過した後に作成されたものであるため,実際の調査が当該選定方法に基づいて実施されたのか不明といわざるを得ない。
加えて,アンケートに使用した証拠として提出された各企業の円皮鍼の写真は,各A4用紙に企業名と5枚の写真が掲載されたものであるが,本件アンケート調査はインターネット上で行われており,実際にインターネット上で使用された円皮鍼の写真そのものは提出されていないため,たとえ請求人の商品であると認識した人の割合が高いとしても,当該アンケート調査結果は信ぴょう性に欠けるといわざるを得ない。
オ 本願形状及び本願形状に類似した他人の商品等の存否
本願形状と一般的な円皮鍼の立体的形状とを比較すると,上記1(2)エのとおり,全体的な形状(共に円盤状のテープの粘着面中央に短い鍼を有する点)が共通し,一般的な円皮鍼の中にも,円筒形の突起部分を有するものが見受けられることから,本願形状は,鍼をテープに固定するために予測し得る範囲内の形状である。
仮に,非粘着面に突起部分を有する他人の円皮鍼が存在しないとしても,それは,医療機器である円皮鍼の機能(安全性,操作性,快適性等)に資するために選択された立体的形状にほかならず,通常採用される範囲を大きく超えるものとまではいえないものである。
(3)小括
以上を踏まえると,請求人製品は,約16年間販売されており,自社の製品カタログ,販売代理店のカタログ,雑誌等に掲載されていることが認められる。
しかしながら,医療機械器具販売業者6社の証明書,取引者及び需要者の使用による識別力の証明書等によっても請求人製品の販売実績及び市場占有率が客観的に示されているとはいえないこと,請求人の製品カタログ等の頒布時期,頒布方法,頒布地域,頒布部数等は明らかではないこと,業界雑誌等において継続的な広告宣伝が行われていたとはいえないこと,請求人の製品カタログ,雑誌等,販売代理店のカタログ,一部の論文,学会等での配布資料など各種の広告宣伝の際には,必ず,請求人名(セイリン)の文字,請求人製品の商品名(パイオネックス,PYONEX)の文字が掲載されていることに加え,使用形状全体の画像は明確に表示されているものが限られていることからすると,使用形状のみが,他社製品と区別する指標として,需要者の目につきやすく強い印象を与える態様で使用されているとまで認めることができないこと,本件アンケート調査の結果は信ぴょう性に欠けるといざわるを得ないこと,非粘着面に突起部分を有する他人の円皮鍼が存在しないとしても,それは,鍼をテープに固定するために予測し得る範囲内の形状であって,医療機器である円皮鍼の機能を考慮した立体的形状であること等を総合的に判断すると,本願商標に係る立体的形状が,請求人の円皮鍼の機能や技術的優位性から独立して,その商品の需要者の間で全国的に広く知られているとまでは認めることはできない。
したがって,本願商標は,その指定商品である「円皮鍼」に使用された結果,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるに至ったものとはいえず,商標法第3条第2項の要件を具備するとはいえない。
3 請求人の主張について
請求人は,請求人の内部資料に基づいて,我が国での円皮鍼の総販売数,請求人の販売数量,請求人の市場占有率について,2008年度(平成20年度)が,約2700万本中,約1700万本で,市場占有率は約60%,2009年度(平成21年度)は,約3100万本中,約2100万本で,市場占有率は約71%,2010年度(平成22年度)は,約3400万本中,約2600万本で,市場占有率は約77%である旨主張している。
しかしながら,仮に,2008年度(平成20年度)から2010年度(平成22年度)において,請求人製品の市場占有率が一定の割合を有していたとしても,客観的な裏付けとなる証拠や算出根拠が確認できず,また,2011年度(平成23年度)以降,現在においても高い市場占有率を維持しているのか具体的な証拠の提出はない。
したがって,請求人の上記主張は採用することができない。
4 まとめ
以上のとおり,本願商標は,商標法第3条第1項第3号に該当するものであって,かつ,同条第2項に規定する要件を具備するものではないから,登録することができない。
よって,結論のとおり審決する。
別掲
別掲1 本願商標(色彩は原本参照。)


別掲2 当審における審尋で示した事実
請求人を権利者とする特許登録に係る特許登録第2982122号公報には,その内容として,以下の記載がある(当該特許は,平成10年8月12日に特許出願され,その期間満了日を同30年8月12日とするものである)。
(1)【発明の名称】を「円皮針及びその製造方法」とするものであり,【特許請求の範囲】として,【請求項1】には,「片面が粘着面をなし,中央部に孔を有する略円形の粘着テープと,前記粘着テープの粘着面側に剥離可能に貼り付けられ,中央部に孔を有する剥離紙と,L字状に屈曲成形され,先端側が前記粘着テープ及び剥離紙の孔を貫通して突出し,基端側が前記粘着テープの非粘着面側にこれと略平行に配置される針体と,前記粘着テープの非粘着面上に前記針体の基端側を覆うように射出成形されて,前記針体を前記粘着テープに固定する樹脂材と,を含んで構成される円皮針。」,【請求項2】には,「前記樹脂材は,前記針体の先端側を包囲するくぼみを形成することを特徴とする請求項1記載の円皮針。」及び【請求項3】には,「前記針体は,その基端側に平坦部を形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の円皮針。」の記載がある。
(2)【発明の詳細な説明】として【0005】【課題を解決するための手段】には,「このため,請求項1に係る発明では,片面が粘着面をなし,中央部に孔を有する略円形の粘着テープと,前記粘着テープの粘着面側に剥離可能に貼り付けられ,中央部に孔を有する剥離紙と,L字状に屈曲成形され,先端側が前記粘着テープ及び剥離紙の孔を貫通して突出し,基端側が前記粘着テープの非粘着面側に,これと略平行に配置される針体と,前記粘着テープの非粘着面上に前記針体の基端側を覆うように射出成形されて,前記針体を前記粘着テープに固定する樹脂材と,を含んで円皮針を構成する。」の記載がある。
また,【0006】には,「即ち,加工の単純なL字状に屈曲成形された針体の基端側を,粘着テープの非粘着面上で,樹脂材により包覆して確実に固定することで,従来のような,施術時における針体と粘着テープとのずれを防止するのである。請求項2に係る発明は,前記樹脂材は,前記針体の先端側を包囲するくぼみを形成することを特徴とする。請求項3に係る発明では,前記針体の基端側に,平坦部を成形したことを特徴とする。」の記載がある。
(3)【0009】【発明の効果】には,「請求項1に係る発明によれば,針体の基端側の形状を,加工の単純なL字状とすることで加工工程を短縮して,コストを削減することができ,また,前記針体の基端側が粘着テープの非粘着面上で樹脂材により確実に固定されることにより,施術に際して,針体と粘着テープとのずれが回避され,痛みを最小限に抑えることができるという効果が得られる。」の記載がある。
(4)【0012】【発明の実施の形態】には,「以下に本発明の実施の形態について説明する。まず,図1を参照して,本発明の一実施形態に係る円皮針の構造について説明する。尚,図中の(A)は平面図であり,また(B)は正面図であり,また(C)は(B)に示す点線の範囲の拡大図である。」の記載がある。

審理終結日 2020-07-22 
結審通知日 2020-07-28 
審決日 2020-08-19 
出願番号 商願2017-42393(T2017-42393) 
審決分類 T 1 8・ 17- Z (W10)
T 1 8・ 13- Z (W10)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池田 光治 
特許庁審判長 榎本 政実
特許庁審判官 浜岸 愛
平澤 芳行
代理人 松島 鉄男 
代理人 奥山 尚一 
代理人 有原 幸一 
代理人 高橋 菜穂恵 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ