• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 称呼類似 無効としない W05
審判 全部無効 観念類似 無効としない W05
審判 全部無効 外観類似 無効としない W05
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない W05
管理番号 1377945 
審判番号 無効2020-890026 
総通号数 262 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2021-10-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2020-02-28 
確定日 2021-09-03 
事件の表示 上記当事者間の登録第6178216号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第6178216号商標(以下「本件商標」という。)は,「HIRUDOSOFT」の文字を標準文字で表してなり,平成30年8月8日に登録出願,第5類「薬剤」を指定商品として,令和元年7月30日に登録査定,同年9月6日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が,本件商標の登録の無効の理由において,引用する登録商標は,以下のとおりであり,いずれも現に有効に存続しているものである。
1 登録第459931号商標(以下「引用商標1」という。)
商標の構成:「Hirudoid」
登録出願日:昭和29年5月12日
設定登録日:昭和30年2月10日
書換登録日:平成17年10月19日
指定商品:第5類「薬剤(蚊取線香その他の蚊駆除用の薫料・日本薬局方の薬用せっけん・薬用酒を除く。),キナ塩,モルヒネ,チンキ剤,シロップ剤,煎剤,水剤,浸剤,丸薬,膏薬,散薬,錠薬,煉薬,生薬,薬油,石灰,硫黄(薬剤),鉱水,打粉,もぐさ,黒焼き,防腐剤,防臭剤(身体用のものを除く。),駆虫剤,ばんそうこう,包帯,綿紗,綿撤糸,脱脂綿,医療用海綿,オブラート」
2 登録第1647949号商標(以下「引用商標2」という。)
商標の構成:「ヒルドイド」
登録出願日:昭和56年1月30日
設定登録日:昭和59年1月26日
書換登録日:平成16年11月4日
指定商品:第5類「薬剤,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,眼帯,耳帯,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,ばんそうこう,包帯,包帯液,胸当てパッド」並びに第1類及び第10類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品
以下,これらをまとめていうときは「引用商標」という。

第3 請求人の主張
請求人は,本件商標についての登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,審判請求書及び意見書において,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第42号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標は,商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に該当するものであるから,同法第46条第1項第1号により,その登録は無効にすべきものである。
(1)商標法第4条第1項第11号について
ア 本件商標は,「HIRUDO」と「SOFT」の欧文字を結合してなる標準文字商標であって,「HIRUDO」の文字は,辞書に載録がなく特定の意味合いを有する語として知られているものではないが,「SOFT」の文字は,「柔らかい」,「穏やかな,ソフトな」といった意味を有する英語である(甲4)。
本件商標の指定商品である「薬剤」を取り扱う業界においては,「SOFT」及びこれに相当する外来語「ソフト」は,薬の剤形や薬を服用・使用した際に受ける刺激などが柔らかであることを表すもの,すなわち,「薬剤」の品質や内容を表示するものとして使用されているという実情がある(甲5)。
以上より,「SOFT」の文字は,本件商標の指定商品との関係においては,自他商品識別力を発揮しない部分であるといえる。
そして,本件商標を構成する「HIRUDO」と「SOFT」の文字を結合しても特定の観念が生じないため,観念上のつながりがないといえる。また,「SOFT」の文字部分は,上記のとおり,識別力を有しないのに対し,特定の観念の生じない造語と理解される「HIRUDO」は,指定商品「薬剤」について識別力が強いといえる。
したがって,本件商標は,「HIRUDOSOFT」の全体のみならず,識別力を有しない「SOFT」を除く「HIRUDO」の文字部分のみが,独立して出所識別標識となる場合があるといえる。そのため,本件商標からは,その構成文字全体に相応した「ヒルドソフト」の一連の称呼の他に「ヒルド」の称呼も生じ,いずれもが特定の観念を生じない造語と認められるものである。
イ 引用商標は,前記第2のとおり,「Hirudoid」の欧文字又は「ヒルドイド」の片仮名を横一連に表してなり,辞書に載録がなく,特定の意味合いを有する語として知られているものでないから,特定の観念を有しない造語と理解され,「ヒルドイド」と称呼される。
ウ 本件商標の要部「HIRUDO」と引用商標1の「Hirudoid」は,大文字・小文字の差はあるものの,語頭の「HIRUDO」の欧文字6字が共通するため,外観において相紛らわしいといえる。引用商標2の「ヒルドイド」とは,構成文字種の差から,外観は相違する。
そして,本件商標の要部から生じる「ヒルド」の称呼と引用商標から生じる「ヒルドイド」の称呼は,語頭から続く「ヒルド」の3音が共通し,語尾部分における「イド」の有無の差異にすぎない。しかも,差異音「イド」のうち,「イ」音は,その前音(第3音目の「ド」の母音)との二重母音となって,「ド」の母音に吸収されやすく,聞き取り難いものである。
また,差異音「イド」のうち,「ド」の音は,称呼の識別上聴取され難い末尾に位置するものであるから,この差異音「イド」が,両商標の称呼全体に与える影響は大きいものとはいえない。
一方,文字で構成される商標については,自他商品の識別標識としての機能を果たす場合において,語頭部分の音が最も重要な要素となるので,語頭部分の「ヒルド」の3音が共通する両商標をそれぞれ一連に称呼するときは,その語調,語感が近似し,互いに相紛れるおそれがあるといえる。
したがって,本件商標と引用商標1とは,外観及び称呼において類似し,引用商標2とは,称呼において類似する商標とされるべきである。
また,被請求人は,被請求人が引用する同一権利者による「○○」と「○○ソフト(SOFT)」の併存登録例は,「各社が両商標を非類似であると認識し,必要に応じて権利化している事実を示すもの」であると主張しているが,同一権利者によるこのような併存登録は,「両商標を非類似であると認識」しているのではなく,「両商標が類似するものと認識」していても両商標の独占的使用のためになされたものと理解するのが適当である。
エ 指定商品の類否について
本件商標の指定商品は,「薬剤」であって,引用商標の指定商品とは,同一又は類似するものである。
オ 以上のとおり,本件商標は,引用商標と商標が類似し,本件商標の指定商品は,引用商標の指定商品と,同一又は類似するものである。
カ 第5類の「薬剤」の範ちゅうに含まれる「医療用医薬品」については,名称が類似する別の医薬品との取り違えミスが問題になっている。本件商標と引用商標とは,称呼や外観において相紛らわしいばかりでなく,医薬品の取引の実情に鑑みれば,医療現場においては取り違えられる可能性が高いといえる。また,被請求人は,「本件商標『HIRUDOSOFT』は,ブランド名となるため,医療用後発医薬品の販売名には該当しない。」と述べ,本件商標が必然的に一般用医薬品または医薬部外品に使用される」と主張しているが,「先発医薬品」については,現在もなお,従来どおりのブランド名による製造販売承認申請が可能であり,本件商標は,医療用医薬品についても使用される可能性があることから,医薬品の取引の実情をも考慮のうえ,本件商標と引用商標の類否判断は極めて慎重に判断する必要がある。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に違反して登録を受けたものである。
(2)商標法第4条第1項第15号について
請求人は,請求人の業務に係る,高い保湿効果を有する「ヘパリン類似物質」を有効成分とする血行促進・皮膚保湿剤(医療用医薬品)(以下「請求人商品」という。)に引用商標に相当する「ヒルドイド」及び「Hirudoid」の商標(以下「請求人使用商標」という。)を継続的に付して販売等をしてきた。
「ヘパリン類似物質」は,ドイツのルイトポルド・ウエイク製薬会社(以下「ルイトポルド社」という。)で創製されたものであり,1949年にドイツ国内において,「ヘパリン類似物質」を有効成分とする「ヒルドイドクリーム0.3%」を発売した。
請求人は,1952年に,ルイトポルド社と輸入・販売契約を締結し,1954年10月に,我が国で「ヒルドイドクリーム0.3%」を発売した。
当初,「ヒルドイドクリーム0.3%」は,凝血阻止血行促進剤として販売されていたが,その後,皮膚科等において幅広く使用されることとなり,剤型追加品目として,1996年に「ヒルドイドソフト軟膏0.3%」,2001年に「ヒルドイドローション0.3%」,2018年に「ヒルドイドフォーム0.3%」が承認され(甲11,甲12),現在では,クリーム,軟膏,ローション,フォームの4つの剤型で販売されている。
ア 本件商標と請求人使用商標の類似性の程度
本件商標と請求人使用商標とは,文字商標が自他商品を識別するための標識としての機能を果たす際に,最も重要な要素となる語頭部分における「ヒルド」の3音が共通しているため,両商標をそれぞれ全体として称呼するときは,互いに聞き誤るおそれがある。
本件商標と請求人商品に使用する「Hirudoid」とは,外観において,語頭部分における「HIRUDO(Hirudo)」の6文字が共通している。
したがって,本件商標と請求人商品に使用する「Hirudoid」を時と処を異にして離隔的に観察したときは,外観において近似した印象を与え,また,本件商標と請求人使用商標をそれぞれ全体として称呼するときは,互いに聞き誤るおそれがある。
以上のように,本件商標と請求人使用商標との類似性の程度は高いといえる。
イ 請求人使用商標の独創性の程度
請求人商品の販売名「ヒルドイド」とその欧文字表記「Hirudoid」の由来は,「ドイツ語のHirudo(蛭属)とoid(?の様なもの)を組み合わせたもの」とされている(甲11)。当該語は,我が国において親しまれた外国語とはいい難いから,これらの語は,商標を構成する文字として,誰もが容易に採択するものではない。
上記の「oid」の文字については,「ヘパリン類似物質」の洋名が「Heparinoid」であることから(甲11),例えば,「ヘパリン類似物質」を有効成分とする商品の商標に選択されることはあるかもしれないが,1954年の請求人商品の発売時において,「ヒルド」又は「Hirudo」の文字を語頭に掲げて販売されていた薬剤は,市場に存在していない。
1976年以降に,扶桑薬品工業株式会社(以下「扶桑薬品社」という。)が「ヒルドシン」という薬剤を販売していたようだが,その他に,「ヒルド」又は「Hirudo」の文字を語頭に掲げて販売されていた薬剤は確認できない。
また,本件商標の登録出願日以前に,「ヒルド」又は「Hirudo」を語頭に有する商標は,引用商標と扶桑薬品社の登録商標「ヒルドシン\HIRDSYN」のみである(甲14)。
したがって,「ヒルド」又は「Hirudo」の文字を語頭に有する独特な構成からなる請求人使用商標の独創性の程度は高いといえる。
ウ 請求人使用商標の著名性の程度
(ア)請求人商品の広告宣伝の状況
請求人は,請求人使用商標を付した請求人商品の広告を,2013年以降,専門雑誌や日本全国各地で開催される学会の学会要旨集等に掲載し,また,医療機関向けパンフレット等を配布するなどの広告宣伝活動を,請求人商品の発売以来,現在に至るまで行ってきた(甲15?甲18)。
(イ)請求人商品の売上及び市場占有率
上記のような広告宣伝活動のもと,請求人使用商標を付した請求人商品は,2014年度から2017年度までの4年間において,年間約420億円ないし520億円を売り上げている。また,ヘパリン類似物質含有製剤における市場占有率は,80%前後(金額ベース)で推移している(甲19,甲20,甲36)。
また,請求人使用商標を付した請求人商品は,2014年度ないし2017年度までの4年間において,血液凝固阻止剤(外用)について,すべての都道府県において流通しており,各都道府県の市場占有率は30%ないし90%程度(数量ベース)である(甲36)。
(ウ)請求人商品の優れた有効性
上記の広告宣伝活動などの請求人の営業努力によって,請求人使用商標が付された請求人商品が広く全国に流通するにつれ,請求人商品の使用者も次第に増加し,請求人商品の優れた効果が評判となり,皮膚科の専門医師の著した文献において紹介されている(甲21)。
このような請求人商品の評判や事業が評価され,請求人は,2007年にポーター賞を受賞している(甲22,甲23)。
(エ)まとめ
(ア)ないし(ウ)のように,請求人使用商標を付して継続的に販売されてきた請求人商品への信頼は,請求人商品を取り扱う業者,皮膚科を専門とする医師,薬剤師や看護師等の医療関係者や,請求人商品を使用する患者の間において広く認識されるものとなっている。
以上のとおり,請求人使用商標は,本件商標の登録出願時において,請求人の業務に係る「ヘパリン類似物質」を有効成分とする「血行促進・皮膚保湿剤」を表示するものとして広く認識されていたものであり,また,その周知著名性は,本件商標の登録査定時に至るまで継続していたものといえる。
エ 本件商標の指定商品と請求人商品との関連性
本件商標の指定商品は「薬剤」であり,請求人商品も「薬剤」に該当する商品である。
したがって,いずれも,疾病の治療や予防等に使用されるという点で用途や目的などが共通する関連性の高い商品であるといえる。
オ 請求人商品の取引の実情
請求人商品は,医師による診断・処方なしに入手することのできない「医療用医薬品」であり,一方,「一般用医薬品」や「医薬部外品」は,医師による診断・処方なしに,気軽にドラッグストア等で入手することができるため,入手経路が異なることもあり,通常は,「医療用医薬品」(請求人商品)が「一般用医薬品」や「医薬部外品」と取り違えられるようなことは少ないと考えられる。
しかし,請求人使用商標の著名性や高い独創性,本件商標と請求人使用商標が類似すること,後述する請求人商品の需要層の拡大と,請求人商品の取引の実情を踏まえれば,本件商標が,「医療用医薬品」に使用される場合のみならず,「一般用医薬品」や「医薬部外品」に使用される場合であっても,請求人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがあるといえる。
また,被請求人は,「医療用医薬品」と「一般用医薬品」の流通経路が異なると述べているが,医薬品の流通を担う卸会社には,「医療用医薬品」と「一般用医薬品」の両方を扱う会社もある(甲37)。
(ア)請求人商品の高い評判に起因する需要者層の拡大
2014年頃から,請求人商品の高い保湿力が,皮膚の乾燥による肌荒れに悩む者や美容に関心のある者からも注目を集めることとなった(甲24)。
請求人の意に反して,請求人商品が,肌の潤いを保つ保湿クリームとして極めて有効である旨が,女性誌等に取り上げられることもあり,請求人使用商標は,請求人商品を示すものとして,請求人商品を取り扱う業者,皮膚科専門医,薬剤師や看護師等の医療関係者や,請求人商品を必要とする患者のみならず,肌の状態に不満がある,又は美容に関心のある一般需要者にも広く認識されるようになった。
(イ)「ヘパリン類似物質」を含有する一般用医薬品等の取引の実情
「Yahoo! JAPAN ショッピング」や,「楽天市場」等のショッピングサイトにおいて,「ヒルドイド」をキーワードに商品検索を行うと,他人の一般用医薬品等が多数検索でき,請求人とは関係のない第三者の「ヘパリン類似物質」を含有する商品が販売されている(甲30,甲31)。
被請求人は,請求人使用商標が請求人商品を取り扱う医療関係者及び患者を超えて一般需要者の間においても周知著名性を獲得している事実はないと述べているが,「ヘパリン類似物質」を含む「一般用医薬品」や「医薬部外品」の広告に,請求人商品の写真や「ヒルドイド」の文字が無断で使用されるといった,請求人使用商標に係る業務上の信用にフリーライドするような広告が多数実施されるほど,一般需要者の間においても周知著名性を獲得しているといえる。
(ウ)取引者・需要者による誤認・混同
請求人と取引のある医療関係者の一部から,「(『ヘパリン類似物質』を含有する一般用医薬品(OTC医薬品)『ヒルメナイド』について)マルホがやっと出したのかと思った」,「(同じく『ヒルメナイド』について)名前が似ているからマルホが出したのかと思った」,「ネットでヒルドプレミアムというのを見た。ネットで見るとヒルドイドのすごいやつという感じだよ」,というコメントを得ている(甲32)。このように,日常的に請求人とコミュニケーションをとり,医薬品やその関連商品に詳しい専門家であっても,商品名の語頭の文字「ヒル」や「ヒルド」から,請求人の著名商標「ヒルドイド」を連想し,これらの商品が,あたかも請求人の販売する商品であるかのように誤認している実情がある。
被請求人は,請求人による医療用医薬品の適正使用に関する啓発活動の徹底により,請求人商品と本件商標を付した被請求人商品との出所の混同が生じないと主張しているが,啓発活動の徹底に努めてはいても,請求人使用商標に係る業務上の信用にフリーライドするような取引の実情は,今もなおなくならない。
カ まとめ
本件商標は,その登録出願時において,請求人商品を示すものとして,請求人商品を取り扱う医療関係者や,請求人商品を必要とするアトピー性皮膚炎等の患者の他,肌の調子を整えたい一般需要者の間においても周知著名な請求人使用商標と,称呼又は外観について類似するものである。
そして,請求人商品に長きにわたって使用されてきた請求人使用商標の独創性の高さや,上述の請求人商品の需要者層の拡大及びその取引の実情をも踏まえれば,本件商標が,「医療用医薬品」に使用される場合のみならず,「一般用医薬品」や「医薬部外品」に使用される場合であっても,請求人の業務に係る商品と混同を生じるおそれがあるといえる。つまり,本件商標が,第5類「薬剤」に該当する「医療用医薬品」,「一般用医薬品」及び「医薬部外品」に使用されると,語頭の「ヒルド」の3文字及びこれから生じる「ヒルド」の称呼が共通することも相まって,あたかも請求人商品,又は請求人商品の関連商品であるか,若しくは,請求人と経済的又は組織的に関係のある者の業務に係る商品であるかのように,取引者・需要者をして,商品の出所の混同を生じさせるおそれがある。
また,かかる商品の出所混同に起因して,製薬に携わる者として患者の健康を預かる請求人の業務上の信用を阻害し,また,需要者の利益を害するおそれもある。
以上のように,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に違反して登録を受けたものである。

第4 被請求人の答弁
被請求人は,結論同旨の審決を求める,と答弁し,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第15号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 答弁の理由
(1)商標法第4条第1項第11号について
ア 本件商標は,標準文字で「HIRUDOSOFT」と一連に書してなり,我が国において親しまれたローマ字読み又は英語風に「ヒルドソフト」と称呼することが自然である。かかる称呼は6音という比較的短い構成音数であることから無理なく一連の「ヒルドソフト」の称呼が生じる。
また,「HIRUDOSOFT」の語は辞書類に記載がなく,特定の観念を有しない造語である。
請求人は,本件商標の指定商品である「薬剤」の分野において「SOFT(ソフト)」の文字は自他商品識別力を発揮しないため,本件商標から「ヒルド」の称呼も生じると主張している。しかしながら,「薬剤」の分野においては,本件商標と同様に「○○ソフト(SOFT)」と一連に書した態様の商標が,全体で一連一体の造語として認定されている。また,同一権利者が「○○」と「○○ソフト(SOFT)」の両方の商標を所有している事例が多数あり,これは,両商標を非類似であると認識し,必要に応じて権利化している事実を示すものである。
以上より,本件商標は,一連一体の造語であり,「ヒルド」の称呼のみが抽出されることはない。
イ 本件商標と引用商標との類否
引用商標は,「Hirudoid」又は「ヒルドイド」と書してなり,辞書類に記載がないことから特定の観念を有しない造語であり,「ヒルドイド」の一連の称呼が生じる。
外観においては,本件商標が,標準文字にて構成文字がすべて大文字で表示されているのに対し,引用商標1は,太文字のゴシック体で頭文字のみを大文字とし,文字の間隔を詰めてまとまりよく表示していることから,文字数の差異も相まって外観上の印象は全く異なるものであり,類似することはない。本件商標と引用商標2とは,構成文字が欧文字と片仮名という明らかな差異を有しており,類似することはない。
観念については,両者ともに辞書等に記載がなく特定の観念を有しない造語として看取,把握されることから,比較することができないため類似することはない。
称呼については,本件商標から生じる「ヒルドソフト」と引用商標から生じる「ヒルドイド」を比較すると,「ヒルド」を共通にするものの,これに続く「ソフト」及び「イド」における決定的な差異を有していることから,商標全体の語調・語感が著しく異なり,聞き誤ることはない。
よって,本件商標と引用商標とは,外観,称呼,観念のいずれにおいても類似することはない。
また,請求人は,本件商標の構成中「SOFT」に関して,「感触・印象などが,優しくて柔らかいさま。また,そのようなもの」等の意味を表す語として知られており,本件商標の指定商品である「薬剤」の分野においては,薬の剤形や薬を服用・使用した際に受ける刺激などが柔らかであることを表す語であることから,自他商品識別力を発揮しないため,本件商標から「ヒルド」の称呼も生じると主張している。そして,本件商標の要部を「HIRUDO」とし,引用商標と類似する旨主張している。
しかしながら,上記アのとおり,本件商標は一連一体であり,分断されることはない。
仮に,「HIRUDO」と引用商標を比較しても,外観及び観念が類似しないことは明らかである。称呼においても,請求人は,引用商標の称呼「ヒルドイド」の末尾の2音「イド」について,「イ」は前音の「ド」に吸収され,「ド」は末尾に位置するため聴取され難いとして,本件商標を分断した前半部の「ヒルド」と相紛れるおそれがあると主張しているが,「ド」はそれ自体が有声破裂音であって響きの強い音であることから,その位置するところが末尾であるとしても5音という短い音構成全体に及ぼす影響は大きいものであり,「ヒルドイド」と「ヒルド」が相紛れる可能性はない。
ウ 本件商標と引用商標の指定商品について
本件商標と引用商標の指定商品が互いに同一又は類似であることに疑義はない。
エ 医薬品の取引の実情について
請求人は,「医療用医薬品」の名称の類似に起因する取り違えミスについて言及しているが,「医療用後発医薬品」の販売名は,ブランド名を用いることなく「含有する有効成分に係る一般的名称に剤型,含量及び会社名(屋号等)を付す」というルールの下で製造販売承認申請が行われてきたところ,本件商標は,ブランド名となるため医療用後発医薬品の販売名には該当しない。
したがって,医療現場において本件商標を付した一般用医薬品又は医薬部外品と請求人の商品(医療用医薬品)との取り違えミスが発生する可能性は皆無であるといえる。
オ まとめ
以上のとおり,本件商標は引用商標と,指定商品において同一又は類似のものを含んでいるとしても,商標において類似することはない。また,医薬品業界の実情に照らしても,本件商標と引用商標とを類似と判断すべき特別な事情はない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に該当しない。
(2)商標法第4条第1項第15号について
ア 請求人商品は,「『ヘパリン類似物質』を有効成分とする医療用医薬品の『血行促進・皮膚保湿剤』」である。上記(1)エのとおり,現在の医療用後発医薬品の販売名の命名のルールに従うと,本件商標は,医療用後発医薬品に使用することはできないため,本件商標を使用する商品は必然的に一般用医薬品又は医薬部外品となる。医療用医薬品は原則として医師の処方箋がなければ入手できず,一般用医薬品・医薬部外品は医師の処方なしに一般の人が直接ドラッグストア等で入手できるものであることから(乙10),取引者・需要者が全く異なり,流通経路も異なることは,医薬品業界において周知の事実となっている。
イ 本件商標と請求人使用商標との類似性の程度
上記(1)のとおり,本件商標と請求人使用商標とは,外観,称呼,観念のいずれにおいても類似することのない非類似の商標である。医薬品の取り違え問題に関しても,命名のルールが変更され15年にわたって実施されていることを考慮すると,本件商標と請求人使用商標を類似とすべき特別な事情は存在しない。
ウ 請求人使用商標の独創性の程度について
請求人使用商標は,いずれも造語であり独創性を有することに疑義はない。他方,本件商標も別異の一連の造語であり,独創性を有するものである。
エ 請求人使用商標の周知著名性の程度について
(ア)請求人商品の広告宣伝の状況について
提出された証拠方法によると,請求人が請求人使用商標を付した商品に関する広告を専門雑誌や学会要旨集等へ掲載し,また,病院等の医療機関に向けて宣伝広告物を配布していることがうかがえる。
しかしながら,広告を掲載している雑誌に関しては,特定の週刊誌1誌及び月刊誌3誌については年間5回ないし6回の掲載であり,他の雑誌については年間1回ないし2回の掲載となっており,掲載頻度が高いとはいえない。また,掲載誌も医療関係者向けの雑誌に限定されているし,限られた専門分野を対象とするものであり,医薬品業界全体において周知性を獲得できる規模ではない。
また,広告掲載費用に関しては,周知性が認められた事案の広告掲載費用の1年あたりの平均額と比較して3倍以上の差があることから,請求人使用商標が周知性獲得に至っているとは考え難い。
(イ)請求人商品の売上及び市場占有率について
請求人は,ここ4年間の売上高と,NDBオープンデータに基づいた市場占有率を算出しているが,医療用医薬品市場全体から見た「医療用医薬品のヘパリン類似物質製剤」及び「医療用医薬品の血液凝固阻止剤(外用)」の市場規模を考慮すると,請求人商品が医療用医薬品業界において「請求人商品を取り扱う医療関係者及び患者」を超えて一般需要者の間においても周知著名であるとの請求人の主張には無理があると考える。
(ウ)請求人は,皮膚科の専門医師等が請求人商品の優れた有効性について著した文献が多数あることから,「請求人商品を取り扱う業者,皮膚科を専門とする医師,薬剤師や看護師等の医療関係者や請求人商品を使用する患者の間において広く認識されている」と述べているが,「請求人商品の取引者・需要者」が請求人商品を認識していることは当然であり,請求人使用商標の周知著名性の根拠にはならない。
オ 本件商標の指定商品と請求人商品との関連性について
本件商標の指定商品「薬剤」に,請求人商品である医療用医薬品が含まれていることに疑義はない。しかしながら,上記(1)エのとおり,医療用後発医薬品に関しては製造販売承認申請にあたって商標法とは異なる独自の命名ルールが存在すること,また,「医療用医薬品」と「一般用医薬品」及び「医薬部外品」では取引者・需要者も流通ルートも異なること,という医薬品業界特有の実情があることから,商標法上の類似商品に該当することのみをもって高い関連性がある商品とは判断できない。
カ 請求人商品の取引の実情について
請求人による医療用医薬品の適正使用に関する啓発活動の徹底に加え,上記医療用後発医薬品の命名のルール,医療用医薬品と一般用医薬品との取引者・需要者・流通経路の相違によって,医療用医薬品である請求人商品と一般用医薬品である本件商標を付した商品が誤認混同を起こす可能性はないといえる。
キ まとめ
以上より,本件商標は,請求人使用商標とは,外観,称呼,観念のいずれの点においても類似することのない別異の商標である。
また,請求人使用商標が請求人商品を取り扱う医療関係者及び患者を超えて一般需要者の間においても周知著名性を獲得している事実はない。
そうすると,本件商標をその指定商品に含まれる一般用医薬品に使用しても,請求人の業務に係る医療用医薬品と混同を生じるおそれはない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当しない。

第5 当審の判断
1 商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)本件商標
本件商標は,前記第1のとおり,「HIRUDOSOFT」の文字を標準文字で表してなり,当該構成文字は,辞書等に載録された既成語とは認められないものであるから,特定の意味合いを有しない一種の造語として理解され,特定の観念を生じないものである。
そして,本件商標の構成中,「SOFT」及びこれに相当する外来語「ソフト」の語は,「柔らかい」,「穏やかな,ソフトな」といった意味を有する英語及び外来語として,一般に広く知られている語といえるものである(甲4)。また,本件商標の指定商品を取り扱う業界において,以下のように使用されている。
ア 株式会社QLifeのウェブサイト「QLifeお薬検索」(甲5-1)には,「ユベラNソフトカプセル」,「パスタロンソフト軟膏20%」,「エバキャップソフトカプセル300mg」,「ロートこどもソフト」,「クールワン鼻炎ソフトカプセルS」及び「ロートアルガード鼻炎ソフトカプセルEX」等の記載がある。
イ 一般社団法人くすりの適正使用協議会のウェブサイト「くすりのしおり」(甲5-3)には,「ユベラNカプセル100mg」,「ユベラN顆粒40%」及び「ユベラNソフトカプセル200mg」の記載がある。
ウ 独立行政法人医薬品医療機器総合機構のウェブサイト「ロートこどもソフト」の「製品の特徴」の項(甲5-4)には,「●ソフトでしみないさし心地にするために・・・」の記載がある。
エ 株式会社メドレーのウェブサイトの「ビュースルー・ソフト」の項(甲5-5)には,「ビュースルー・ソフトの特徴」及び「翌朝にはおだやかなお通じが期待できる便秘薬」の記載がある。
オ 大正製薬株式会社のニュースリリース(2001年2月21日:甲6-1)には,「ソフトなさし心地の『アイリスネオ(ソフト)』を2月22日より新発売いたします。」の記載がある。
カ 佐藤製薬株式会社のニュースリリース(平成18年11月:甲6-2)には,「・・・微香性のサロメチール・ソフト,ローションタイプのサロメチールL,エアゾールタイプのサロメチール・ゾル・・・」の記載がある。
キ 薬事日報ウェブサイトの「潜在需要高い『睡眠改善薬』市場-GSK,エスエスが新製品投入」(2007年3月2日(金):甲6-3)には,「ソフトカプセルタイプの睡眠改善薬。」の記載がある。
ク 薬事日報ウェブサイトの「オイラックスとマキロンから外用鎮痒消炎薬2品目を発売 第一三共ヘルスケア」(2008年3月12日(水):甲6-4)には,「かゆみ・かぶれに効く非ステロイド型鎮痒消炎薬『オイラックスソフト』・・・」及び「非ステロイドタイプのため,幅広い年齢の人の様々な部位や,症状が広範囲に及ぶ場合にも使用できる。」の記載がある。
ケ ロート製薬株式会社 ニュースリリース「一週間で使い切るフレッシュ目薬『ロートソフトワン点眼薬』新発売」(2014年11月12日:甲6-5)には,「しみないさし心地,涙に近い,ソフトなうるおいを眼に与えます。」の記載がある。
コ GMOアドマーケティング株式会社のウェブサイト「めるもウェブサイト」「お薬で治るの?便秘薬の種類とその効果について知りたい!」(2016/5/23:甲6-6)には,「アントラキノン系の下剤よりもやや効き目がソフトな刺激性下剤。」の記載がある。
サ 千寿製薬株式会社・武田コンシューマーヘルスケア株式会社 ニュースリリース「マイティアピントケアEX,マイティアピントケアEX マイルド」(2017年6月15日:甲6-7)には,「ソフトなクール感でマイルドなさし心地」の記載がある。
以上からすると,「ソフト」の文字は,薬剤を取り扱う業界において,本件商標の登録出願前から,薬の剤形や,薬を服用・使用した際に受ける刺激などが優しく柔らかであることや穏やかであることを表示するものとして使用されており,その欧文字表記である「SOFT」の文字は,本件商標の指定商品との関係においては,自他商品の識別標識としての機能は弱いものといえる。
してみれば,本件商標は,全体の構成文字に相応した「ヒルドソフト」の称呼のほか,「ヒルド」の称呼をも生じ得るものというべきであって,特定の観念を生じないものである。
(2)引用商標
引用商標は,前記第2のとおり,「Hirudoid」の欧文字又は「ヒルドイド」の片仮名からなるものである。
してみると,引用商標は,いずれもその構成文字に相応して,「ヒルドイド」の称呼を生じ,当該文字は辞書等に載録された既成語とは認められないものであるから,特定の意味合いを有しない一種の造語として理解され,特定の観念を生じないものである。
(3)本件商標と引用商標との類否
本件商標と引用商標を比較するに,両者は,上記(1)及び(2)のとおりの構成からなるところ,外観においては,本件商標と引用商標1とは,語頭の「HIRUDO(Hirudo)」を共通にするものの,文字数及び構成全体の文字において相違し,本件商標と引用商標2とは,欧文字と片仮名の差異を有し,明確に区別できるものである。
次に,称呼においては,本件商標から生じる「ヒルドソフト」及び「ヒルド」と引用商標から生じる「ヒルドイド」の称呼とは,その構成音,音数などが明らかに相違するものであるから,称呼上,明確に聴別できるものである。
そして,本件商標と引用商標は,いずれも特定の観念を生じないものであるから,観念において比較することができない。
以上からすると,本件商標と引用商標とは,観念において比較することができないとしても,外観及び称呼において明確に区別できる非類似の商標とみるのが相当である。
(4)小括
そうすると,本件商標と引用商標の指定商品が同一又は類似であるとしても,本件商標と引用商標とは非類似の商標であるから,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に該当しない。
2 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)請求人使用商標の周知著名性について
ア 請求人の主張及び提出した証拠によれば,以下のとおりである。
(ア)請求人(以下「マルホ社」という場合がある。)の商品
マルホ社が,1954年10月,1996年7月及び2001年7月に発売開始した商品「血行促進・皮膚保湿剤」の医薬品インタビューフォーム(2017年9月改訂(第11版)に,「ヒルドイド クリーム0.3%」及び「Hirudoid Cream」(「ヒルドイド」の文字の右下及び「Hirudoid」の文字の右上には小さい○内にRが付されている。以下同じ。),「ヒルドイド ソフト軟膏0.3%」及び「Hirudoid Soft Ointment」,「ヒルドイド ローション0.3%」及び「Hirudoid Lotion」の記載がある(甲11)。
(イ)医療関係者向けの専門誌への広告(甲15)
一般社団法人日本アレルギー学会発行の「アレルギー」(発行日:平成25年4月10日,同26年2月1日,同27年4月25日,同28年5月15日),日本皮膚科学会西部支部発行の「西日本皮膚科」(発行日:平成25年10月1日,同28年6月1日),医学書院発行の「臨床皮膚科」(発行日:2013年10月1日,2016年2月1日),南山堂発行の「薬局」(発行日:2013年12月5日),北隆館発行の「アレルギーの臨床」(発行日:平成25年2月20日,同28年9月20日),金原出版株式会社発行の「小児科」(発行日:2013年4月25日),秀潤社発行の「VisualDermatology」(発行日:2014年1月25日,2017年4月25日),「週刊 日本医事新報」(発行日:2014年4月26日),公益社団法人日本皮膚科学会発行の「日本皮膚科学会雑誌」(発行日:平成26年9月20日,同27年3月20日,同年12月20日,同28年10月20日,同29年8月20日),金原出版発行の「皮膚科の臨床」(発行日:2014年10月31日,2015年5月29日),公益社団法人日本薬学会発行の「ファルマシア」(発行日:平成26年11月1日,同28年12月1日),公益社団法人日本小児科学会発行の「日本小児科学会雑誌」(発行日:平成27年9月1日),日本皮膚科学会大阪地方会・京滋地方会発行の「皮膚の科学」(発行日:2017年2月),日本小児皮膚科学会事務局発行の「日本小児皮膚科学会雑誌」(発行日:2017年6月30日),日本臨床皮膚科医会発行の「日本臨床皮膚科医会雑誌」(発行日:平成29年7月15日)に掲載されたマルホ社の商品「血行促進・皮膚保湿剤」の広告に「ヒルドイド」及び「Hirudoid」の記載,その右側に「クリーム0.3%」,「ソフト軟膏0.3%」及び「ローション0.3%」の記載がある。
(ウ)一般需要者向け雑誌
以下の一般需要者向け雑誌(光文社発行「HERS」:2014年5月号,角川春樹事務所発行「美人百花」:2014年6月号,「andGIRL」:2015年9月号,小学館発行「AneCan」:2016年2月号,光文社発行「美ST」:2016年7月号,同年10月号)には,美容目的のスキンケア商品の一つとして「ヒルドイド ソフト 軟膏 0.3%」及び「Hirudoid Soft Ointment」,又は「ヒルドイド ローション 0.3%」及び「Hirudoid Lotion」が掲載されているが,「皮膚科で処方してもらった」,「処方薬」,「処方箋が必要なコスメ」,「皮膚科処方のヒルドイド軟膏」等と表示されており,請求人の表示は見いだせない(甲25-1?6)。
(エ)皮膚科各医師による発表
「薬物療法 別冊(医事日報社 昭和49年11月15日発行:甲21-1)」には「ケロイドに対するヒルドイド軟膏の効果」,「基礎と臨床(Jun’88:甲21-2)」には,「ヒルドイド軟膏の臨床効果」,「医学と薬学(1993年9月:甲21-3)」には,「ヘパリン類似物質軟膏(ヒルドイド)の使用経験」,「臨皮(2006年1月:甲21-4)」には,「アトピー性皮膚炎に対する寛解維持療法としてのヒルドイドローションの有用性の検討」,「医薬の門(2007:甲21-6)」には,「皮脂欠乏性湿疹に対するヘパリン類似物質W/O型軟膏(ヒルドイドソフト)と酪酸プロピオン酸ベタメタゾンローション(アンテベートローション)の混合外用について」,「ペインクリニック(2012.10:甲21-12)」には,「薬のコーナー/ヒルドイドクリーム0.3%」,「西日皮膚(2014:甲21-13)」には,「タクロリムス軟膏(プロトピック軟膏0.1%)の有効性と刺激感?ヘパリン類似物質含有製剤(ヒルドイドローション0.3%)併用の影響?」等と皮膚科の各医師によって発表されている。
(オ)年度別広告費用一覧(甲17)及び2008年以降の医療機関向けヒルドイド広告宣伝資料配付記録(甲18)は,請求人の作成に係るものであって,客観的な裏付けのない表である。また,NDBオープンデータから算出した請求人商品(ヒルドイド)の売上額及び市場占有率(平成26年度ないし同29年度:甲20,甲36)は,入院及び外来の外用薬としての売上額及び市場占有率を示すものであって,「血液凝固阻止剤」及び「ヘパリン類似物質含有製剤」の分野における,請求人商品の売上は420億円ないし520億円及び市場占有率は75%ないし83%(金額ベース)であって,これらを都道府県毎でみると30%ないし90%程度(数量ベース)の占有率である(甲36)。
(カ)請求人は,「2007年度 第7回ポーター賞」を受賞している(甲22,甲23)が,これは「皮膚科・外用剤に特化,スペシャリティ・ファーマという戦略的ポジショニングを実現」という企業の事業に対する賞である。
(キ)その他
請求人は,「ヒルドイドの適正使用に関するお知らせ」(2017年10月18日)に「・・・ヒルドイドをあたかも化粧品等と同様のものであるかのように紹介することは控えていただくよう要請してきました。・・・マルホは,『薬機法』『医療用医薬品等適正広告基準』等の関係法規を厳守し,一般の方への医療用医薬品の広告をしておりません。・・・今後とも,ヒルドイドの美容目的での使用を推奨していると受け取られかねない記事に対して厳しい姿勢で臨むとともに,医療関係者の皆様や患者さんへの医療用医薬品の適正使用に関する啓発に努めるなど,責任ある企業として対応していきます。」と記載し,各位に宛てている(甲29)。
イ 上記アからすると,請求人は,血行促進・皮膚保湿剤「ヒルドイドクリーム0.3%」を1954年10月に,「ヒルドイドソフト軟膏0.3%」を1996年7月に,「ヒルドイドローション0.3%」を2001年7月に発売開始しており,当該商品には,「Hirudoid」の文字も併記され,請求人使用商標が使用されているといえる。
そして,請求人商品の「ヒルドイドクリーム0.3%」等は,医療用医薬品の一種であって,一般人を対象とする広告はなされていないものであり,また,一般雑誌における請求人商品に関する記事は,医療用医薬品としてではなく,スキンケア商品として美容目的で掲載されているもの(甲25-1?6)であるうえに,請求人は,これら記事の掲載に関し,医療用医薬品としての適正使用についての要請を行っているにすぎないから,請求人商品の広告をしているとはいえない(甲29)。
また,請求人商品は,皮膚科の医師に注目されたり,医療関係者向けの雑誌における広告は認められるものの,その掲載期間及び回数は平成25年から同29年にかけて年5,6回程度と決して多くはないといわざるを得ない。
さらに,請求人商品の「ヘパリン類似物質含有製剤」又は「血液凝固阻止剤」の分野における平成26年度ないし同29年度の入院及び外来の外用薬としての売上額及び市場占有率は,420億円ないし520億円及び75%ないし83%(金額ベース)であることから,その約半年後である本件商標の登録出願時においても,請求人商品は一定程度の売上額及び市場占有率があったものと推認できるものの,平成29年度末から約1年6月余り後の本件商標の登録査定時におけるそれらの数値は明らかではないことから,これらの期間の数値をもって本件商標の登録査定時における請求人商品の売上額及び市場占有率を推し量ることはできない。
以上からすると,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人商品は,需要者の間に広く知られていたとはいえないものであるから,請求人商品に使用されている請求人使用商標は,請求人の業務に係る商品(「ヘパリン類似物質」を有効成分とする血行促進・皮膚保湿剤(医療用医薬品))を表示するものとして,取引者,需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできない。
(2)本件商標と請求人使用商標との類似性の程度
上記1のとおり,本件商標と請求人使用商標とは,観念において比較することができないとしても,外観及び称呼において明確に区別できる非類似の商標とみるのが相当であって別異の商標である。
(3)請求人使用商標の独創性の程度について
請求人使用商標「Hirudoid」又は「ヒルドイド」の語は,辞書等に載録が認められない造語といえるから,その独創性の程度は高いといえる。
(4)出所の混同のおそれについて
上記(1)のとおり,請求人使用商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人の業務に係る商品を表示するものとして,取引者,需要者の間に広く認識されていたとはいえない。
また,請求人使用商標の独創性の程度は高いといえるものの,上記(2)のとおり,本件商標と請求人使用商標は,明らかな差異を有する別異の商標である。
してみれば,本件商標をその指定商品に使用した場合,これに接する取引者,需要者が請求人使用商標を想起,連想して,当該商品を請求人の業務に係る商品,あるいは同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように,商品の出所について混同を生ずるおそれがある商標ということはできない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当しない。
3 請求人の主張について
請求人は,請求人と取引のある医療関係者の一部から誤解がある旨のコメント(甲32)から,商品名の語頭の文字「ヒル」や「ヒルド」から,請求人の著名商標「ヒルドイド」を連想し,これらの商品が,あたかも請求人の販売する商品であるかのように誤認している実情がある旨主張している。
しかしながら,医療関係者からのコメント一覧(甲32)は,請求人の作成に係るものであって,客観的裏付けが確認できないものであるから,これをもって,語頭に「ヒル」又は「ヒルド」の文字を有する商品が,請求人の商品であるかのように一般に誤認されているものとはいい難い。
また,本件商標と請求人使用商標とが,出所の混同を生ずるおそれがないことは上記2のとおりである。
したがって,請求人の上記主張は採用することができない。
4 むすび
以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第11号及び同項第15号のいずれにも違反してされたものではないから,同法第46条第1項の規定に基づき,その登録を無効とすることはできない。
よって,結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2020-12-07 
結審通知日 2020-12-09 
審決日 2020-12-25 
出願番号 商願2018-101124(T2018-101124) 
審決分類 T 1 11・ 263- Y (W05)
T 1 11・ 271- Y (W05)
T 1 11・ 262- Y (W05)
T 1 11・ 261- Y (W05)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 片桐 大樹佐藤 緋呂子 
特許庁審判長 岩崎 安子
特許庁審判官 平澤 芳行
佐藤 松江
登録日 2019-09-06 
登録番号 商標登録第6178216号(T6178216) 
商標の称呼 ヒルドソフト、ヒルド 
代理人 特許業務法人森本国際特許事務所 
代理人 鈴木 康仁 
代理人 小林 浩 
代理人 瀧澤 文 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ