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審決分類 審判 全部取消 商50条不使用による取り消し 無効としない Z33
管理番号 1368324 
審判番号 取消2018-300443 
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2018-06-19 
確定日 2020-08-24 
事件の表示 上記当事者間の登録第583897号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第583897号商標(以下「本件商標」という。)は、「酒王初孫」の文字を縦書きした別掲1のとおりの構成からなり、昭和35年7月22日に登録出願、第28類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、同37年3月23日に設定登録され、その後、平成14年5月8日に指定商品を第33類「日本酒」とする指定商品の書換登録がされ、現に有効に存続しているものである。
なお、本件審判の請求の登録は、平成30年7月3日にされていることから、本件審判について、商標法第50条第2項に規定する「その審判の請求の登録前3年以内」とは、同27年(2015年)7月3日から同30年(2018年)7月2日(以下「要証期間」という場合がある。)までの期間である。
第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を取り消す、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第9号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標権者は、本件商標を、その指定商品「日本酒」について、本件審判の請求の登録前3年以上、日本国内において使用していない。また、本件商標は、その専用使用権者や通常使用権者によって、使用された事実も存在しないから、その登録は、商標法第50条第1項の規定により、取り消されるべきである。
2 答弁に対する弁駁
(1)請求人の業務について
被請求人が提出した乙第1号証に示されているとおり、請求人は「1.日本酒,しょうちゅう,リキュールその他の酒類の製造販売」の他、「2.前号に付帯する一切の業務」を営み、この「前号に付帯する一切の業務」として、「酒粕」の製造を行っており、請求人は、酒類の製造販売のみならず、酒粕の製造を行い、その販売をしている(甲2、甲3)。
(2)被請求人における本件商標の不使用について
被請求人は、乙第12号証ないし乙第52号証を提出して、本件商標の使用を主張している。
しかしながら、これらの主張で示されている商標は、本件商標と同一の商標(社会通念上同一の商標を含む。)ではなく、更に、その使用対象商品さえも不明確な主張となっているので、これらに基づいて本件商標の使用を認めることができない。
ア 社会通念上の同一について
被請求人は、本件商標の使用の主張に際し、「商標権存続期間更新登録願」の「登録商標の使用説明書」(乙9、乙10)の記載と、その審査において登録査定を受けた事を根拠としている。
しかしながら、平成8年法改正以前における商標権存続期間更新登録の審査は、「その登録商標と相互に連合商標となっている他の登録商標」の使用によっても認められる制度となっていたので、上記証拠(乙9、乙10)をもって、これら「登録商標の使用説明書」に示されている商標が、本件商標と同一の商標(社会通念上同一の商標を含む。)ということはできない。
実際に、本件商標は、その連合商標として、登録第0502017号商標、登録第0660589号商標、登録第1075195号商標、登録第1075196号商標、登録第1075197号商標、登録第1075198号商標、登録第1509068号商標、登録第1581511号商標、登録第2622444号商標、登録第2622445号商標、登録第2679201号商標が登録を受けており、その中で特に登録第0660589号商標は「初孫」、登録第2622444号商標も「初孫」であるから、上記証拠(乙9、乙10)に示されているのは連合商標(商標「初孫」)の使用の事実であって、本件商標における社会通念上の同一性を証明するものではない。
そこで、本件商標について、社会通念上の同一性の範囲を検討すれば、本件商標は「酒王初孫」を同書・同大・同間隔で表記してなる商標であり、商標全体としてまとまり良く一連の商標として認識されるものであり、「酒王」と「初孫」とが分離して看取され得ない商標となっており、本件商標が一体として認識され、分離され得ないことは、特許庁における他の商標出願(商願2017-045901)の審査内容からも明らかである(甲6)。
以上の事実から、本件商標は「酒」「王」「初」「孫」の文字を、同書・同大・同間隔で表記してなる商標「酒王初孫」であり、「酒王」と「初孫」とを異なる大きさ、異なる書体、異なる間隔で表記する等、両者が分離して看取される商標は、本件商標と類似する商標となる可能性はあるが、同一の商標とはいえるものではない。
イ 被請求人の主張する商標の使用について。
(ア)乙第12号証の看板、乙第13号証のパンフレット、乙第14号証のブログ記事に表示されているのは、「酒王」と「初孫」を書体、大きさ、間隔及び態様を異ならせて表示した商標であり、一体不可分に表記してなる本件商標とは、社会通念上の観点においても同一商標といい得るものではない。
また、請求人は日本酒の他、酒粕も製造しているところ(甲2、甲3)、上記証拠で示された商標は、何の商品について使用しているのかさえも明らかにされていないことから、当該証拠は、何ら本件商標の使用を証明するものではない。
なお、乙第13号証の2の「初孫商品価格表」にも「酒王初孫」は記載されておらず、上記証拠は、むしろ本件商標が使用されていないことを証明するものとなっている。
(イ)乙第2号証の請求人ホームページの会社案内には「港町・酒田で誕生した酒王初孫」と記載しているが、当該記載は企業広告におけるキャッチコピーであって、「酒王初孫」の語句も請求人である東北銘醸株式会社を示す略称として使用しているものである。
上記「酒王初孫」の語句を昭和30年以降、請求人の宣伝広告文言として使用してきたことは、被請求人も答弁書で主張しているとおりである。
そして、日本酒のほか、酒粕も製造している請求人の会社案内(乙2)から、「酒王初孫」の文字を本件商標の商品「日本酒」に使用していると特定することはできない。
よって、上記証拠は、何ら本件商標の使用を証明するものではない。
(ウ)乙第15号証の商品写真に表示されているのは、「酒王」のみ及び「酒王」と「初孫」を書体、大きさ、間隔及び態様を異ならせて表示した商標であり、本件商標とは、社会通念上の観点においても同一商標といい得るものではない。また、乙第16号証のウェブショップ、乙第17号証のブログ記事には「酒王」と「初孫」の間にスペースをあけた「酒王 初孫」の記載があるが、これは一体不可分の構成からなる本件商標と社会通念上の観点においても同一商標とはいえるものではない。
被請求人は、これら、乙第16号証及び乙第17号証に基づいて、需要者及び取引者は、「酒王」の文字と「初孫」の文字を分割することなく、これらを全体として一連一体に「酒王初孫」と認識している、と主張しているが、実際には、乙第15号証の商品写真の表示について、需要者及び取引者でさえも「酒王」と「初孫」を分離させて認識していることを証明するものとなっている。
よって、これらの証拠は、何ら本件商標の使用を証明するものではない。
なお、被請求人は、請求人は、上記商品に付された商標の付近に「登録商標」との文字を印刷表示しており、請求人自らが本件商標と上記商品に付された商標との社会通念上の同一性を認めているのである、と主張している。
しかしながら、登録商標の表示は「初孫」(登録第2622444号商標)についての表示であり、これをもって社会通念上の同一性を主張することはできず、むしろ、当該ラベルにおける「初孫」の文字の下には「ハツマゴ」と表記しているので、これを「シュオウハツマゴ」と判断するのは、事実に沿わないものといわざるを得ない。
(エ)乙第18号証及び乙第20号証の商品写真に表示されているのは、「酒王」と「初孫」を書体、大きさ、間隔及び態様を異ならせて表示した商標であり、本件商標とは、社会通念上の観点においても同一商標といえるものではない。
加えて、当該ラベルにおける「初孫」の文字の下には「HATSUMAGO」と表記しているので、これを「シュオウハツマゴ」と判断するのは、事実に沿わないにもかかわらず、被請求人は乙第19号証のウェブショップ及び乙第21号証の個人のブログの記載に基づいて、需要者及び取引者は、「酒王」の文字と「初孫」の文字を分割することなく、これらを全体として一連一体に「酒王初孫」と認識している、と主張している。
しかしながら、実際には、上記記載(乙19、乙21)でさえも「酒王」と「初孫」との間にスペースを空けて表示しているので、当該乙第18号証及び乙第20号証の商品写真の表示について、「酒王」と「初孫」を分離させたものと認識されていることを証明するものとなっている。
よって、これ等の証拠に示されているのは、本件商標と同一の商標ではないので、何ら本件商標の使用を証明するものではない。
(オ)乙第22号証の商品写真に表示されているのは、「酒王」と「初孫」を書体、大きさ、間隔及び態様を異ならせて表示した商標であり、本件商標とは、社会通念上の観点においても同一商標といえるものではない。
そして「登録商標」の表示は、「初孫」(登録第2622444号商標)についての表示であり、これをもって社会通念上の同一性を主張することはできない。
よって、上記証拠に示されているのは、本件商標と同一の商標ではないので、何ら本件商標の使用を証明するものではない。
(カ)乙第23号証の商品写真に表示されているのは、「酒王」と「初孫」を書体、大きさ、間隔及び態様を異ならせて表示した商標であり、本件商標とは、社会通念上の観点においても同一商標といえるものではない。
また、本件商標の商標権存続期間更新登録願に係る登録商標の使用説明書(乙9、乙10)は、相互に連合商標として登録されている商標の使用を示すものであるから、本件商標との同一性を示すものではない。
よって、上記証拠に示されているのは、本件商標と同一の商標ではないので、何ら本件商標の使用を証明するものではない。
(キ)乙第24号証の商品写真に表示されているのは、「酒王」と「初孫」を書体、大きさ、間隔及び態様を異ならせて表示した商標であり、本件商標とは、社会通念上の観点においても同一商標といえるものではない。
また、需要者及び取引者なども「酒王」と「初孫」が分離したものと認識していることや、「登録商標」の表示は、「初孫」(登録第2622444号商標)についての表示であることは前述のとおりである。
さらに、当該商品に付属する紙製の札の裏面の表示は、請求人の企業を示す表示であり、商標として使用しているものではない。
よって、上記証拠に示されているのは、本件商標と同一の商標ではないから、何ら本件商標の使用を証明するものではない。
(ク)乙第25号証の商品写真に表示されているのは、「酒王」と「初孫」を書体、大きさ、間隔及び態様を異ならせて表示した商標であり、本件商標とは、社会通念上の観点においても同一商標といえるものではない。
また、本件商標の商標権存続期間更新登録願に係る登録商標の使用説明書(乙9、乙10)は、相互に連合商標として登録されている商標の使用を示すものであるから、本件商標との同一性を示すものではない。
よって、この証拠に示されているのは、本件商標と同一の商標ではないから、何ら本件商標の使用を証明するものではない。
(ケ)乙第26号証の取引伝票(仮納品書)に表示されているのは、「酒王」と「初孫」を別書・別大・別間隔、かつ、別態様で表示したロゴ商標であり、本件商標とは、社会通念上の観点においても同一商標といえるものではない。
何よりも、当該ロゴ商標は、請求人を表示するものとして使用しているものであり、日本酒についての使用を証明するものではなく、当該証拠において、日本酒には「砂潟」の商標が使用されている。
よって、当該証拠に示されているのは、本件商標と同一の商標ではなく、更に、指定商品「日本酒」についての使用ではないから、何ら本件商標の使用を証明するものではない。
(コ)乙第27号証に示された取引伝票(出荷伝票)及び乙第28号証に示された取引伝票(仮納品書)に表示されているのは、「酒王」と「初孫」を書体、大きさ、間隔及び態様を異ならせて表示した商標であり、本件商標とは、社会通念上の観点においても同一商標といえるものではない。
何よりも、当該商標は請求人を表示するものとして使用しているものであり、「日本酒」についての使用を証明するものではなく、当該証拠において、日本酒には「魔斬 純大超辛口」(乙27)及び「本選角たる」(乙28)の商標が使用されている。
よって、当該証拠に示されているのは、本件商標と同一の商標ではなく、更に、指定商品「日本酒」についての使用ではないから、何ら本件商標の使用を証明するものではない。
(サ)乙第29号証に示された配送箱に表示されているのは、「酒王」と「初孫」を書体、大きさ、間隔及び態様を異ならせて表示した商標であり、本件商標とは、社会通念上の観点においても同一商標といえるものではない。
上記配送箱には、赤字で「ハツマゴ」と表記しており、それにもかかわらず、これを「酒王初孫」と判断するのは、商取引の実情にも沿わない。
よって、当該証拠に示されているのは、本件商標と同一の商標ではないから、何ら本件商標の使用を証明するものではない。
(シ)乙第30号証に示された配送箱に表示されているのは、「酒王」と「初孫」を書体、大きさ、間隔及び態様を異ならせて表示した商標であり、本件商標とは、社会通念上の観点においても同一商標といえるるものではない。
また、本件商標の商標権存続期間更新登録願に係る使用説明書(乙9、乙10)は、相互に連合商標として登録されている商標の使用を示すものであるから、本件商標との同一性を示すものではない。
よって、当該証拠に示されているのは、本件商標と同一の商標ではないから、何ら本件商標の使用を証明するものではない。
(ス)乙第31号証及び乙第32号証に示された山形新聞の一面に表示されているのは、「酒王」と「初孫」を書体、大きさ、間隔及び態様を異ならせて表示した商標であり、本件商標とは、社会通念上の観点においても同一商標といえるものではない。ここで、本件商標の商標権存続期間更新登録願に係る使用説明書(乙9、乙10)は、相互に連合商標として登録されている商標の使用を示すものであるから、本件商標との同一性を示すものではないことは、前述のとおりである。
何よりも、当該表示は、請求人を表示するものとして使用しているものであり、日本酒についての使用を証明するものではない。
この点について、被請求人は、需要者及び取引者の間では「酒王初孫」とは日本酒であると周知されている、としているが、請求人は日本酒の他にも酒粕を製造しており、日本酒として周知であるとして商品についての使用を認めたのであれば、商品・役務についての識別標識であるはずの商標の本質がないがしろになってしまう。
そして、当該表示には、「お酒は20歳になってから」との記載もあるが、「お酒」が直ちに日本酒と理解されるものではなく、当該記載から日本酒についての使用を特定することはできない。
よって、当該証拠に示されているのは、本件商標と同一の商標ではないし、指定商品「日本酒」についての使用でもないので、何ら本件商標の使用を証明するものではない。
(セ)乙第33号証及び乙第34号証に示された花火ショーのパンフレットに表示されているのは、「酒王」と「初孫」との間にスペースを空けて表示した商標であり、一体不可分に表記してなる本件商標とは、社会通念上の観点においても同一商標といえるものではない。
何よりも、当該表示は、請求人を表示するものとして使用しているものであり、日本酒についての使用を証明するものではない。
この点について、被請求人は、需要者及び取引者の間では「酒王初孫」とは日本酒であると周知されている、と主張しているが、これをもって、商品についての使用とはならない。
また、被請求人は、併記されている請求人の社名(社名には「銘醸」の文字が入っており、銘醸とは「特に吟味した原料で清酒を造ること。また、その清酒。」という意味である。)、と主張しているが、商号は商品を特定するものではなく、実際に銘醸が含まれる商号を使用する企業であっても、焼酎や薬用酒を製造したり、そばの販売をする等、その業務内容は多岐にわたっているので、商号における「吟醸」の用語を理由として、指定商品「日本酒」についての使用と認めることはできない。
よって、上記各証拠に示されているのは、本件商標と同一の商標ではないし、指定商品「日本酒」についての使用でもないから、何ら本件商標の使用を証明するものではない。
(ソ)乙第35号証ないし乙第48号証に示された立台ぼんぼり(乙35)、看板(乙36)、ちょうちん(乙37)、看板(乙38)、テレビ画面(乙39)、日めくりカレンダー(乙40)、のし紙(乙41)、レジ袋(乙42?乙45)、とっくり、ちょこ、グラス、升、のれん(乙46)、酒だる、とっくり(乙47)及び封筒(乙48)に表示されているのは、「酒王」と「初孫」を書体、大きさ、間隔及び態様を異ならせて表示した商標であり、本件商標とは、社会通念上の観点においても同一商標といえるものではない。
何よりも、この表示は、請求人を表示するものとして使用しているものであり、日本酒についての使用を証明するものではない。また、「酒王初孫」が日本酒として周知であるとしても、これをもって商品についての使用とはならないことは前述のとおりである。
よって、上記各証拠に示されているのは、本件商標と同一の商標ではないし、指定商品「日本酒」についての使用でもないから、何ら本件商標の使用を証明するものではない。
(タ)乙第49号証に示されたボールペンに表示されているのは、「酒王」と「初孫」との間にスペースを空けた「酒王 初孫」であり、一体不可分に表記した本件商標とは、社会通念上の観点においても同一商標といえるものではない。
何よりも、当該表示は、請求人を表示するものとして使用しているものであり、日本酒についての使用を証明するものではない。また「酒王初孫」が日本酒として周知であるとしても、これをもって商品についての使用とはならない。
よって、上記証拠に示されているのは、本件商標と同一の商標ではないし、指定商品「日本酒」についての使用でもないので、何ら本件商標の使用を証明するものではない。
(チ)乙第50号証に示されたのし紙及び乙第51号証に示された前掛けに表示されているのは、「酒王」と「初孫」を書体、大きさ、間隔及び態様を異ならせて表示した商標であり、本件商標とは、社会通念上の観点においても同一商標といえるものではない。
何よりも、当該表示は、請求人を表示するものとして使用しているものであり、日本酒についての使用を証明するものではない。また「酒王初孫」が日本酒として周知であるとしても、これをもって商品についての使用とはならない。
そして、乙第52号証に示されているように酒販店や飲食店の店員が当該前掛けを着用していたとしても、これが直ちに商品について使用していることを示すものではなく、請求人は、日本酒のほかに酒粕も製造している。
よって、上記証拠に示されているのは、本件商標と同一の商標ではないし、指定商品「日本酒」についての使用でもないので、何ら本件商標の使用を証明するものではない。
(3)小括
以上のとおり、被請求人は、日本国内において、一体不可分に表記される本件商標「酒王初孫」を、その指定商品である「日本酒」について、要証期間内に使用していないので、本件商標は取り消されるべきものである。
(4)本件審判請求に至る経緯等について
被請求人は、乙第53号証及び乙第54号証を提出し、本件商標及び被請求人が所有する乙第5号証ないし乙第7号証の登録商標の使用に係る契約関係の明確化とライセンス料の支払を求め、請求人との間で交渉を行っていた、と主張している。確かに請求人は、被請求人からの平成30年1月23日付の通知書に対応し、ライセンス料や譲渡交渉も検討してきたが、被請求人から提示された条件が余りにも妥当性を欠いていることから、本件審判の請求に至った次第である。
(5)むすび
上述のとおり、本件商標は使用されていないものの、単独の「初孫」のブランドは、請求人が長年の使用によって確立したものであり、当該「初孫」ブランドに接した需要者や取引者は、請求人の出所と理解するものであり、被請求人を想起する者は存在しないのが実情である。
商標は本来、自他商品識別標識として機能するものであり、商標権者が継続的に使用することにより商取引上の信用を獲得し、更に商取引の安定を実現するものである。そして現実の商取引において、実際に使用されていない本件商標から、被請求人の業務に係る商品と理解する需要者などは存在しないので、商標の本質や法目的を考慮しても、本件商標は取り消されるべきものである。
3 上申書における主張
(1)商標の同一性について
被請求人は答弁書において、本件商標の使用を証明する証拠として、「酒王」と「初孫」の間にスペースを空けて表記した標章、及び上記「酒王」と「初孫」の書体、大きさ、間隔及び態様の少なくともいずれかを異ならせて表示した標章(以下、これらを「酒王 初孫」と表示する。)の使用実績を示す資料を提出し、上記標章は本件商標と実質的に同一であると主張している。
そして、別件である商願2018-113023号の審査で提出された上申書において、被請求人は、「初孫」が看取される商標は、本件商標と非類似であるとのと見解を示している。
上記商標登録出願は、本件商標が取り消された場合の対応策として、被請求人が登録出願したものであり、これには、刊行物等提出書(甲8)が提出されており、これに対して被請求人は、商標「酒王初孫」と「初孫」は非類似であるとの意見を示す上申書(甲9)を提出していることから、被請求人自身が、「初孫」の文字部分が分離して比較され得る「酒王 初孫」は、本件商標とは少なくとも社会通念上同一でないことを自認している。
(2)被請求人による上記(1)の出願の行為自体が、被請求人自身も本件審判による本件商標の取消を予測しているものと思慮される。
(3)商標法の目的の達成には、商標の使用をする者の業務上の信用の維持が必要不可欠であり、商標を何ら使用していない、形式的な商標権者の保護ではない。
第3 被請求人の主張
1 答弁の趣旨
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第54号証(枝番号を含む。)を提出した。
(1)当事者等について
ア 請求人は、山形県酒田市に本店を置き、清酒、しょうちゅう、リキュールその他の酒類の製造販売等を目的とする株式会社であり(乙1)、「初孫」銘柄等の日本酒等の酒類を製造販売している(乙2、乙3)。
イ 被請求人は、平成6年8月30日に前商標権者から本件商標を譲り受け、本件商標の商標権者となった(登録年月日は、平成6年12月19日:甲1)。
被請求人は、前商標権者の孫であり、平成2年4月に請求人に入社し、平成16年11月から同28年11月まで請求人の取締役を務めていた(乙4、1)。
ウ 前商標権者は、本件商標の他にも指定商品を日本酒等とする「初孫 古酒三歳」商標と「初孫」商標の2つの商標の商標権を保有していたが、平成6年8月30日に被請求人に本件商標とともにこれら商標の商標権を譲渡し、現在は被請求人がこれらの商標の商標権者となっている(乙5、乙6:以下、乙5の商標を「初孫商標1」、乙6の商標を「初孫商標2」という。)。
また、被請求人は、本件商標並びに初孫商標1及び初孫商標2の他、指定商品を日本酒とする「秘蔵 初孫」商標の商標権者でもある(乙7:以下「初孫商標3」といい、初孫商標1ないし初孫商標3をまとめていうときは、「初孫商標」という。)。
(2)本件商標の使用権者について
ア 前商標権者と請求人との間には本件商標の使用に関する契約書等の書面はなかったが、前商標権者は、請求人に無償で本件商標を使用させていた。前商標権者は昭和38年に請求人の経営から退いた後も、引き続き、請求人が本件商標を無償使用することを黙認していた。また、初孫商標1及び初孫商標2についても商標の使用に関する契約書等の書面はなかったが、前商標権者は、請求人がこれらの商標を無償使用することを黙認していた。
イ 平成6年8月に被請求人は前商標権者から本件商標並びに初孫商標1及び初孫商標2を譲り受け、これらの商標の商標権者となり、また、平成9年5月に初孫商標3の商標権者となったが、請求人において社員又は取締役として稼動していたこともあり(乙1、乙4)、従前どおり、請求人による本件商標及び初孫商標の無償使用を黙認してきた。被請求人と請求人との間にも、本件商標及び初孫商標の使用に係る契約書等の書面はない。
ウ 平成28年11月に被請求人は請求人の取締役を退任したことから、請求人に対し、本件商標及び初孫商標の使用に係る契約関係の明確化とライセンス料の支払を求め、請求人との間で交渉を行っていた。上記交渉において、請求人は、本件商標及び初孫商標に係る被請求人の商標権と請求人自身による本件商標等の使用の事実を認めていた(乙53、乙54)。
エ 以上の経緯からすれば、本件商標の使用に関し、被請求人と請求人との間には、黙示の期限の定めのない無償使用許諾契約があり、請求人は、同契約に基づく本件商標の使用権者である(以下、当該契約に基づく請求人の本件商標の使用権を「本件使用権」という。)。
(3)請求人が本件商標を使用していることについて
不使用取消審判においては、登録商標そのもののみならず、登録商標と「社会通念上同一」と認められる商標を使用している場合にも、登録商標の使用と認められて取消を免れることができる(商標法50条1項)。
そこで、本件審判事件においては、商標の社会通念上の同一性の判断及び商標の使用の有無の判断等にあたり、次の事情等が考慮されなければならない。
(ア)本件商標は、「酒王初孫」の漢字4文字を縦書きしてなるものであり、「シュオーハツマゴ」ないし「シュオウハツマゴ」と称呼する。
本件商標の前商標権者は、特許庁に対し、昭和56年及び平成3年に本件商標の存続期間更新登録出願をし、商標権存続期間更新登録願の添付書類として登録商標の使用説明書を添付書類として提出した(乙9、乙10)。登録商標の使用説明書には、商品(日本酒)を撮影した写真が貼付されているが、撮影されている商品に付された商標は、本件商標と外観、態様等が異なっているものの、写真の商品に付された商標は、いずれも「酒王初孫」と漢字4文字で表記されており、「シュオーハツマゴ」ないし「シュオウハツマゴ」と称呼することは本件商標と同様であり、特許庁により本件商標の使用と認められ、いずれも更新登録査定されていることは、商標の社会通念上の同一性の判断に当たって、被請求人に有利に斟酌されなければならない事情である。
(イ)商標の社会通念上の同一性の判断に当たっては、商標の使用は商標を付する対象に応じて適宜に変更を加えて使用されることが一般的であること、登録商標は時代とともに多少の変更を加えて使用されることが一般的であることなども考慮されなければならない。
(ウ)請求人は、昭和30年代以降、「酒王初孫」の宣伝広告文言で請求人自体及び請求人が製造販売している「初孫」銘柄の商品(日本酒)を宣伝広告してきたことから.需要者及び取引者の間では、「酒王初孫」といえば日本酒の製造販売会社である請求人が製造販売している「日本酒」として周知されている(乙2、乙3、乙8、乙9、乙10及び後掲各乙号証)。
したがって、請求人が本件商標又は本件商標と社会通念上同一の商標を看板、広告、取引先等に頒布等する物品等に付することは、本件商標の広告的使用に当たるというべきである。
イ 請求人は、本件商標が要証期間内に、日本国内において、日本酒について使用された事実はないなどと主張する。
しかしながら、請求人は、本件使用権に基づき、次のとおり、要証期間内に、日本国内において、「日本酒」について、本件商標又は本件商標と社会通念上同一と認められる商標を使用している。
(ア)請求人は、平成6年に新工場を建設し、本店を移転した際(乙1)、本店及び工場の出入口付近に看板を設置したが、約10年前、本件商標と社会通念上同一と認められる漢字4文字を横書きしてなる「酒王初孫」の商標を付した看板に変更し、現在も当該看板を設置している(乙12)。
2016年(平成28年)10月に作成された請求人のパンフレット(乙13の1・2)には、請求人の本店及び工場の出入口付近の写真が掲載されており、「新しい蔵の創造」の表題がある部分の写真(乙13の3)、乙第2号証の2枚目の写真には、上記看板が写っている。また、当該看板は、「2018-05-12」(平成30年5月12日)に撮影された写真(乙14)にも写っている。
日本酒の製造販売会社である請求人が自社の本店及び工場の出入口付近に「酒王初孫」と付した看板を設置することは、「日本酒」について、請求人が本件商標を広告的に使用しているということに他ならない。
したがって、要証期間内である平成28年10月及び同30年5月12日時点において、日本国内において、「日本酒」について、請求人が本件商標を使用していたことは明らかである。
(イ)請求人は、請求人のホームページの「会社案内」に「港町・酒田で誕生した、『酒王初孫』」と本件商標と社会通念上同一と認められる商標を記載し、請求人の看板商品(銘柄)である日本酒の「初孫」を紹介している(乙2)。
上記ホームページは、平成18年から閲覧可能となったものであり、その後、現在に至るまで閲覧可能な状態にあり、請求人が自社のホームページの「会社案内」に上記のとおり本件商標と社会通念上同一と認められる商標を記載することは、日本酒について、請求人が本件商標を広告的に使用しているということに他ならない。
したがって、要証期間内に、日本国内において、日本酒について、請求人が本件商標を使用していたことは明らかである。
(ウ)請求人は、「初孫」銘柄の商品「日本酒」に、本件商標と社会通念上同一と認められる漢字4文字からなる「酒王初孫」の商標を付し、日本国内において、当該商品を販売している(乙15、乙18、乙20、乙22)。
この点、上記商品に付された商標を、需要者及び取引者は、「酒王」の文字と「初孫」の文字を分割することなく、これらを全体として一連一体に「酒王初孫」と認識している(乙16、乙17、乙19、乙21)。
また、請求人は、当該商品に付された商標の付近に「登録商標」との文字を印刷表示しており(乙15、乙22)、請求人自らが本件商標と上記商品に付された商標との社会通念上の同一性を認めている。
当該商品に付された商標は、「シュオーハツマゴ」ないし「シュオウハツマゴ」と称呼する点において本件商標と同一であり、また、観念も本件商標と同一である。
そして、当該商品には、その製造年月として「18.06」(平成30年6月)(乙15)、「18 04.」(平成30年4月)(乙18、乙20、乙22)と刻印されている。
したがって、要証期間内である上記時点に、日本国内において、日本酒について、請求人が本件商標を使用していたことは明らかである。
(エ)請求人は、「初孫」銘柄の商品「日本酒」の包装紙に、横書きの「酒王」との文字と「酒王」より大きな縦書きの「初孫」との文字からなる本件商標と社会通念上同一と認められる商標を付して、日本国内において、当該商品を販売している(乙23)。
この点、上記商品に付された商標は本件商標の商標権存続期間更新登録願に係る、登録商標の使用説明書(乙9、乙10)の写真の商品に付されている商標と同様の外観、態様である。
上記商品に付された商標は、「シュオーハツマゴ」ないし「シュオウハツマゴ」と称呼する点において本件商標と同一であり、また、観念も本件商標と同一である。
そして、上記商品には、その製造年月として「18.6.」(平成30年6月)と刻印されている(乙23)。
したがって、要証期間内である平成30年6月時点に、日本国内において、日本酒について、請求人が本件商標を使用していたことは明らかである。
(オ)請求人は、「初孫」銘柄の商品「日本酒」と当該商品の包装箱に、本件商標と社会通念上同一と認められる漢字4文字からなる「酒王初孫」の商標を付して、日本国内において、当該商品を販売している(乙13の2、乙24)。
この点、上記商品に付された商標は、枠(線)で囲まれた「酒王」の文字と「酒王」より大きな「初孫」との文字からなるが、需要者及び取引者は、「酒王」の文字と「初孫」の文字を分割することなく、これらを全体として一連一体に「酒王初孫」と認識している。また、請求人は、上記商品に付された商標の付近に「登録商標」との文字を印刷表示しており、請求人自らが本件商標と上記商品に付された商標との社会通念上の同一性を認めているのである。更に、上記商品に付属する紙製の札の裏面には、横書きの漢字4文字で「酒王初孫」と刻印されている(乙24)。
上記商品に付された商標は、「シュオーハツマゴ」ないし「シュオウハツマゴ」と称呼する点において本件商標と同一であり、また、観念も本件商標と同一である。
そして、上記商品は、請求人の商品として、平成28年10月作成の請求人のパンフレットにおいて紹介・宣伝広告されており(乙13の2)、また、製造年月が「17.4.」(平成29年4月)の商品も販売されていた(乙24)。
したがって、要証期間内である平成28年10月及び同29年4月時点に、日本国内において、日本酒について、請求人が本件商標を使用していたことは明らかである。
(カ)請求人は、「初孫」銘柄の商品「日本酒」に、本件商標と社会通念上同一と認められる漢字4文字からなる「酒王初孫」の商標を付して、日本国内において、当該商品を販売している(乙13の2、乙25)。
この点、上記商品に付された商標は、横書きの「酒王」の文字の下に縦書きで「初孫」とあり、特許庁により本件商標の使用と認められた商標とほぼ同一の外観、態様の商標である(乙9、乙10)。
上記商品に付された商標は、「シュオーハツマゴ」ないし「シュオウハツマゴ」と称呼する点において本件商標と同一であり、また、観念も本件商標と同一である。
そして、上記商品は、請求人の商品として、平成28年10月作成の請求人のパンフレットにおいて紹介・宣伝広告されている(乙13の2)。
したがって、要証期間内である平成28年10月時点に、日本国内において、日本酒について、請求人が本件商標を使用していたことは明らかである。
(キ)請求人は、本件商標と社会通念上同一と認められる縦書きで漢字4文字からなる「酒王初孫」の商標を付した「仮納品書」(乙26)、「出荷伝票」(乙27)及び「仮納品書」(乙28)を取引先に交付している。
上記各取引所類に付された商標は、「シュオーハツマゴ」ないし「シュオウハツマゴ」と称呼する点において本件商標と同一であり、また、観念も本件商標と同一である。
請求人が取引先に納品した商品は、請求人が製造販売している日本酒の出荷年月日は、「純米吟醸”砂潟”」は「15/10/30」(平成27年10月30日)(乙26)、「魔斬 純大超辛口」(乙13の2)は「18/06/05」(平成30年6月5日)(乙27)及び「本選 角たる」(乙13の2)は「18/06/07」(平成30年6月7日)(乙28)である。
したがって、要証期間内である上記時点に、日本国内において、日本酒について、請求人が本件商標を使用していたことは明らかである。
(ク)請求人は、本件商標と社会通念上同一と認められる、横書きで「酒王」との文字とその下に「初孫」との文字からなる商標を付した配送箱を商品「日本酒」の配送等に供している(乙29)。
上記配送箱に付された商標は、「シュオーハツマゴ」ないし「シュオウハツマゴ」と称呼する点において本件商標と同一であり、また、観念も本件商標と同一である。
上記配送箱には「日本酒パック」、「1800ml×6パック」との記載があり、また、側面には「18.05」(平成30年5月)と刻印されている(乙29)。
したがって、要証期間内である平成30年5月時点に、日本国内において、日本酒について、請求人が本件商標を使用していたことは明らかである。
(ケ)請求人は、本件商標と社会通念上同一と認められる漢字4文字からなる「酒王初孫」の商標を付した配送箱を商品「日本酒」の配送等に供している(乙30)。
この点、上記配送箱に付された商標は、横書きの「酒王」の文字の下に縦書きで「初孫」とあり、特許庁により本件商標の使用と認められた商標とほぼ同一の外観、態様の商標である(乙9、乙10)。
上記配送箱に付された商標は、「シュオーハツマゴ」ないし「シュオウハツマゴ」と称呼する点において本件商標と同一であり、また、観念も本件商標と同一である。
上記配送箱には「日本酒 1.8L 6本入」の記載があり、当該配送箱は要証期間前から現在に至るまで、商品の配送等に供されている(乙30)。
したがって、要証期間前から現在に至るまで、日本国内において、日本酒について、請求人が本件商標を使用していたことは明らかである。
(コ)請求人は、山形県の日刊紙である山形新聞の一面に、本件商標と社会通念上同一と認められる漢字4文字からなる「酒王初孫」の商標を付した広告を掲載している(乙31、乙32)。
この点、上記広告に付された商標は、横書きの「酒王」の文字の下に縦書きで「初孫」とあり、特許庁により本件商標の使用と認められた商標とほぼ同一の外観、態様の商標である(乙9、乙10)。
上記広告に付された商標は、「シュオーハツマゴ」ないし「シュオウハツマゴ」と称呼する点において本件商標と同一であり、また、観念も本件商標と同一である。
需要者及び取引者の間では「酒王初孫」とは日本酒であると周知されているのであり、また、上記広告には「お酒は20歳になってから」との記載があることから、当該広告が日本酒の広告であることは明らかである。
そして、上記新聞の日付は、平成30年1月7日(乙31)及び平成30年2月4日(乙32)である。
したがって、要証期間内である平成30年1月7日及び同年2月4日時点に、日本国内において、日本酒について、請求人が本件商標を使用していたことは明らかである。
(サ)請求人は、花火ショーのパンフレットに協賛事業所として請求人の社名とともに、本件商標と社会通念上同一と認められる横書きで漢字4文字からなる「酒王初孫」の商標を掲載している(乙33、乙34)。
上記パンフレットに付された商標は、「シュオーハツマゴ」ないし「シュオウハツマゴ」と称呼する点において本件商標と同一であり、また、観念も本件商標と同一である。
需要者及び取引者の間では「酒王初孫」とは日本酒であると周知されているのであり、また、併記されている請求人の社名(社名には「銘醸」との文字が入っており、銘醸とは「特に吟味した原料で清酒を造ること。また、その清酒。」という意味である。)からすれば、請求人が花火ショーのパンフレットに協賛事業所として社名とともに「酒王初孫」と掲載することは、本件商標の広告的使用に当たるというべきである。
そして、上記パンフレットは、「2016」「8/6(土)」(平成28年8月6日(土)(乙33)及び「2017」「8月5日(土)」(平成29年8月5日)(乙34)に開催された花火ショーのパンフレットである。
したがって、要証期間内である平成28年8月及び同29年8月時点に、日本国内において、日本酒について、請求人が本件商標を使用していたことは明らかである。
(シ)請求人は、本件商標と社会通念上同一と認められる、漢字4文字からなる「酒王初孫」の商標を付した立台ぼんぼり(乙35)、看板(乙36)、ちょうちん(乙37)、ほうろう看板(乙38)を設置し、テレビ画面に提供クレジット(提供スーパー)(乙39)を表示し、日めくりカレンダー(乙40)を頒布し、中元や歳暮の際ののし紙(乙41)及びレジ袋(ポリ袋)(乙42、乙43、乙45)を使用している。また、本件商標と社会通念上同一と認められる、漢字4文字からなる「酒王初孫」の商標を付したとっくり、おちょこ、グラス、升、のれん、雑貨(酒林)等を販売したり、飲食店等に提供し(乙46)、酒だる、とっくり等を展示した(乙47)。
(ス)請求人は、本件商標と社会通念上同一と認められる漢字4文字からなる「酒王初孫」の商標を付した封筒を取引の際に使用している(乙48)。
上記封筒に付された商標は、「シュオーハツマゴ」ないし「シュオウハツマゴ」と称呼する点において本件商標と同一であり、また、観念も本件商標と同一である。
需要者及び取引者の間では「酒王初孫」とは日本酒であると周知されており、また、当該封筒には請求人の社名も記載されているから、請求人が取引の際にこれを使用することは、本件商標の広告的使用に当たるというべきである。
そして、当該封筒は、要証期間前から現在に至るまで、請求人の取引の際に使用されている。封筒(乙48)には「29.11.」と印字されているから、これは、平成29年11月に使用されたものである。
したがって、要証期間内に、日本国内において、日本酒について、請求人が本件商標を使用していたことは明らかである。
(セ)請求人は、取引先に対し、本件商標と社会通念上同一と認められる横書きで漢字4文字からなる「酒王初孫」の商標を付したボールペンを頒布している(乙49)。
上記ボールペンに付された商標は、「シュオーハツマゴ」ないし「シュオウハツマゴ」と称呼する点において本件商標と同一であり、また、観念も本件商標と同一である。
需要者及び取引者の間では「酒王初孫」とは日本酒であると周知されているから、請求人が取引先に対して上記ボールペンを頒布することは、本件商標の広告的使用に当たるというべきである。
そして、上記ボールペンは、要証期間前から現在に至るまで、請求人の取引先に頒布されている。
したがって、要証期間内に、日本国内において、日本酒について、請求人が本件商標を使用していたことは明らかである。
(ソ)請求人は、取引先や飲食店に対し、本件商標と社会通念上同一と認められる縦書きで漢字4文字からなる「酒王初孫」の商標を付した「のし紙」とともに、漢字4文字からなる「酒王初孫」の商標を付した前掛けを頒布している(乙50)ところ、これらは、いずれも、本件商標と社会通念上同一と認められる商標である。
この点、上記のし紙に付された商標は本件商標とほぼ同一であり、また、上記前掛けに付された商標は、横書きの「酒王」の文字の下に縦書きで「初孫」とあり、特許庁により本件商標の使用と認められた商標とほぼ同一の外観、態様の商標である(乙9、乙10)。
上記のし紙と前掛けに付された商標は、「シュオーハツマゴ」ないし「シュオウハツマゴ」と称呼する点において本件商標と同一であり、また、観念も本件商標と同一である。
上記前掛けは、日常的に酒販店や飲食店の店員らによって使用されており(乙52)、また、需要者及び取引者の間では「酒王初孫」とは日本酒であると周知されているから、請求人が取引先や飲食店に対して上記のし紙とともに前掛けを頒布したり、前掛けを酒販店において販売させることは、本件商標の広告的使用に当たるというべきである。
そして、上記のし紙と前掛けは、本件審判請求の登録日の前から、請求人の取引先や飲食店に頒布されており、また、酒販店において販売されている。
したがって、要証期間内において、日本国内において、日本酒について、請求人が本件商標を使用していたことは明らかである。
(4)むすび
以上のとおり、本件商標は、本件商標の使用権者である請求人によって、日本国内において、「日本酒」について、要証期間内に使用されている。
(5)本件審判請求に至る経緯等
被請求人は、平成28年11月に請求人の取締役を退任したことから、請求人に対し、本件商標及び初孫商標の使用に係る契約関係の明確化とライセンス料の支払を求め、請求人との間で交渉を行っていた(乙53、乙54)。
ところが、請求人は、被請求人に対して予告も事前の通知も一切することなく、平成30年6月19日に本件審判請求をした。請求人は、被請求人の本件商標に係る商標権の存在を認めた上で、自ら、本件商標又は本件商標と社会通念上同一の商標の使用を継続し、被請求人との間で本件商標の使用許諾契約に係る交渉をしていたにもかかわらず、事前の通知等もなく本件審判請求をしたのである。
第4 当審の判断
1 被請求人提出の証拠について
(1)乙第1号証は請求人の「履歴事項全部証明書」であるところ、これには、被請求人が、平成24年11月26日に重任し、同28年11月29日に退任した記載がある。
(2)乙第18号証は、商品写真であるところ、これは、別掲2で示したとおりの構成からなる商標(以下「使用商標1」という。)が表示されたラベルが貼られた瓶であり、3葉目の写真の当該ラベルの右側には、「日本酒」、「原材料名 米(国産)・米麹(国産米) 醸造アルコール」の表示及び「製造年月/18.04.R」の表示があり、更に、右下部には、「720ml詰」の表示がある。
また、乙第19号証は、楽天市場のウェブサイトであるところ、これには、「酒王 初孫 720ml」の表示とともに、乙第18号証と同一と思しき商品の写真が掲載され、「メーカー」の項には、「東北銘醸」の表示がある。
(3)乙第20号証は、商品写真であるところ、これは、使用商標1が表示されたラベルが貼られた瓶であり、その蓋には、「製造年月/18.04.」の表示があり、1葉目の写真の右隅には、「原材料名 米(国産)・米麹(国産米) 醸造アルコール」の表示がある。
また、乙第21号証は、「2014-06-05」の表示の記載がある「So-net ブログ」であるところ、これには、「【お酒】240.酒王 初孫 180ml [06.山形県の酒]」の表示のもと、乙第18号証と同一の商品の写真が掲載され、当該商品の下部には「東北銘醸株式会社」の表示がある。
(4)乙第13号証は、「2016.10」の表示がある、請求人のパンフレットの写真及びコピーであるところ、これには、請求人の取扱いに係る商品が紹介されており、「こも樽」の記載と共に別掲3で示したとおりの構成からなる商標(以下「使用商標2」という。)が表示された商品写真及びその包装箱が掲載され、その下部には、「○の中に30(以下「○30」と表示する。)【1.8L 詰】」の表示があり、また、「平成28年10月作成」の「初孫商品価格表」には、「No」の「30」に、「本撰こも樽」、「1,800ml」の表示がある。
(5)乙第24号証は、使用商標2が表示された上記(4)と同じ商品の写真であるところ、その3葉目の写真には、「1.8l詰」、請求人の名称及び住所が表示されている。また、当該商品の上部には、原材料等を記載した商品タグが付されており、これには、その表側には「日本酒」の表示があり、その裏側には、やや不鮮明ではあるものの、「酒王初孫」及び請求人の名称である「東北銘醸株式会社」の表示、更に、その下部には「製造年月 17.4」の表示がある。
(6)乙第53号証は、平成30年1月23日付けで被請求人が作成した請求人宛ての「ご通知」であるところ、これには、本件商標を含む4件の被請求人が所有する登録商標(以下「本件商標等」という。)について、請求人は、本件商標等を付した商品を販売、展示するなどして無償で使用してきたが、被請求人は、請求人の取締役を平成28年11月29日をもって退任したことから、本件商標等の使用等について協議したい意向であるから回答を求める旨記載されている。
また、乙第54号証は、平成30年1月30日付けで請求人が作成した、被請求人宛ての上記「ご通知」に対する「回答書」であるところ、これには、請求人は被請求人に対価を払って本件商標等の使用を継続したいことなどが記載されている。
2 判断
(1)使用商標について
ア 本件商標は、別掲1のとおり、「酒王初孫」の文字を筆書き風に縦書きしてなるものである。
他方、使用商標1は、別掲2のとおり、金色の角の丸い長方形の枠線の中に、同色で「酒王」の文字を縦書きし、その左側に大きく「初孫」の文字を筆書き風に縦書きしたものを配し、当該「初孫」の文字の下部に「HATSUMAGO」の欧文字を小さく横書きしたものを配した構成からなるものである。
そして、上記構成からなる本件商標と使用商標1とを比較してみるに、本件商標と使用商標1とは、「酒王」と「初孫」の文字の配置、文字種及び文字の大きさの違いや「HATSUMAGO」の文字の有無において相違するものである。
しかしながら、商取引の実際において、登録商標の配列又は配置などの態様に変更を加えて使用されることはよくあることといえ、使用商標1において、「初孫」の文字の下部にその読みを欧文字で表記した「HATSUMAGO」の文字が小さく表示されているとしても、商標の印象に格別の差異を感じさせるものとはいえず、本件商標と使用商標1とは、「酒王」及び「初孫」の構成文字を同じくするものであり、「シュオウハツマゴ」の称呼及び構成文字である漢字から想起される観念も同一といえるものであるから、使用商標1は、本件商標と社会通念上同一の商標と認めることができるものである。
イ 使用商標2は、別掲3のとおり、サクランボと思しき図型を背景に「初孫」の文字を大きく筆書き風に縦書きし、その右側に「芳醇無比」(「比」の文字はデザイン化してなるもの。以下同じ。)の文字を、左側に落款様の図形を配し、上記「初孫」の文字の上部には、「登録」と「商標」の文字を横書きし、その中央に、四角枠の中に「酒王」の文字([酒」文字はデザイン化してなるもの。以下同じ。)を配した構成からなるものである。
そして、使用商標2の構成中、「芳醇無比」の文字は、「比べるものがない香りの良い酒」といった意味合いを想起させるものであり、その指定商品との関係において、識別力が強いとはいえないものである。また、「登録」及び「商標」の文字は、単に登録商標であることを表すにすぎない自他商品識別標識としての機能を有しないものであり、更に、「初孫」の文字の左側の落款様のものは、その構成態様から分離して看取され得るものであって、これより、特定の称呼及び観念が生じるとはいい難いものである。
そうすると、上記アのとおり、商取引の実際において、登録商標の配列又は配置などの態様に変更を加えて使用されることはよくあることといえ、本件商標と使用商標2とは、「酒王」及び「初孫」の構成文字を同じくするものであり、「シュオウハツマゴ」の称呼及び構成文字である漢字から想起される観念も同一といえるものであるから、両商標は、社会通念上同一の商標と認めることができるものである。
(2)使用商品について
本件商標の指定商品は「日本酒」であるところ、使用商標1が付された商品写真(乙18)には、商品名として「日本酒」と表示されており、これと同じラベルが付された乙第20号証の商品写真には、乙第18号証の原材料名と同一の原材料名が記載されていることからすれば、乙第20号証の商品も「日本酒」であると推認できるものである。また、使用商標2が付された商品写真(乙24)の商品タグには「日本酒」の表示があり、これらは、いずれも本件商標の指定商品と同一である。
(3)使用時期について
商品写真(乙18、乙20)の商品は、楽天市場のウェブサイト(乙19)及び「So-net ブログ」(乙21)によれば、取引に資されていることがうかがえるところ、商品写真(乙18)のラベル及び商品写真(乙20)の瓶の蓋に「製造年月/18.04」の表示があることからすれば、請求人は、使用商標1を表示したラベルを商品「日本酒」に平成30年4月に貼付したことが認められ、また、商品写真(乙24)の商品は、2016年(平成28年)10月作成のパンフレット(乙13の2)に掲載されており、当該商品の商品タグに「製造年月/17.4」の表示があることからすれば、請求人は、使用商標2をその包装容器に、平成29年4月に貼付したことが認められるところ、上記年月は、いずれも要証期間内である。
(4)使用者について
前記1(2)ないし(5)によれば、本件商標の使用に係る商品は、請求人の製造、販売する商品と認められる。
そして、被請求人は、本件商標の使用に関し、被請求人と請求人との間には、黙示の期限の定めのない無償使用許諾契約があり、請求人は、同契約に基づく本件商標の使用者である旨主張しているところ、請求人の「履歴事項全部証明書」(乙1)によれば、被請求人は、少なくとも、平成24年11月26日から同28年11月28日まで請求人の取締役であったことが認められる。また、「ご通知」(乙53)及び「回答書」(乙54)において、請求人は、継続して本件商標を使用することについて協議したいと回答していることからすれば、請求人が本件商標を使用している状態は現在においても継続しているとみるのが自然であり、本件商標の使用者は請求人といえ、請求人が通常使用権者として、本件商標を使用していたと認めることができる。
(5)小括
上記(1)ないし(4)からすれば、通常使用権者は、要証期間内に、日本国内において、本件審判の請求に係る指定商品「日本酒」の瓶のラベルに、本件商標(社会通念上同一と認められるものを含む。以下同じ。)を付したことが認められる。
そして、上記行為は、商標法第2条第3項第1号の「商品又は商品の包装に標章を付する行為」に該当するものである。
3 請求人の主張について
(1)請求人は、商品写真(乙18、乙20、乙24)に表示されているのは、「酒王」と「初孫」を書体、大きさ、間隔及び態様を異ならせて表示した商標であり、本件商標とは、社会通念上の観点においても同一商標といえるものではなく、また、商品写真(乙18、乙20)のラベルには「初孫」の文字の下に「HATSUMAGO」と表記していることから、これを「シュオウハツマゴ」と判断するのは、事実に沿わない旨及び需要者及び取引者は、上記商品写真(乙18、乙20、乙24)の表示は、「酒王」と「初孫」を分離させたと認識していることから、これらの証拠に示されているものは、本件商標と社会通念上同一の商標ではない旨主張している。
しかしながら、使用商標は、上記2(1)のとおり、使用されている商標の構成の変更が登録商標の構成において基本をなす部分を変更するものではなく、本件商標と社会通念上同一の商標と認められるものである。
また、請求人は、商品写真(乙24)における「登録商標」の表示は、「初孫」(登録第2622444号商標)についての表示である旨主張している。
しかしながら、商品写真(乙24)の包装容器に「登録商標」の表示があるとしても、具体的な登録番号は表示されておらず、上記「登録商標」の文字が登録第2622444号商標であるということはできない。
(2)請求人は、別件である商標登録出願において提出された上申書の主張をもって、被請求人は、「初孫」の文字部分のみが分離して比較され得る「酒王 初孫」は、本件商標とは、社会通念上同一ではないことを自認している旨主張し、また、商標法の目的達成には、商標を何ら使用していない、形式的な商標権者の保護は必要としない旨主張している
しかしながら、商標登録の取消しの審判(商標法第50条第2項)においては、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品又は指定役務のいずれかについての登録商標の使用をしていることを証明すれば足りるところ、本件審判事件については、上記のとおり、請求人が通常使用権者として、本件商標を使用していることが認められるものであり、請求人の主張する別件の商標登録出願についての被請求人の主張内容が、本件取消審判事件の上記判断に何ら影響を与えるものではない。
また、商標法は、上記のとおり、商標権者のみならず、専用使用権者又は通常使用権者による使用も認めているのであるから、商標権者が登録商標の使用をしていないことをもって、当該登録商標を取り消すことはできない。
したがって、請求人の上記主張は、いずれも認めることができない。
4 むすび
以上のとおり、被請求人は、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において通常使用権者がその請求に係る指定商品について、本件商標と社会通念上同一と認められる商標の使用をしたことを証明したということができる。
したがって、本件商標の登録は、商標法第50条の規定により、取り消すことはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 【別記】



審理終結日 2019-08-30 
結審通知日 2019-09-04 
審決日 2019-09-25 
出願番号 商願昭35-30273 
審決分類 T 1 31・ 1- Y (Z33)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 金子 尚人
特許庁審判官 小田 昌子
中束 としえ
登録日 1962-03-23 
登録番号 商標登録第583897号(T583897) 
商標の称呼 シュオーハツマゴ、ハツマゴ 
代理人 前田 修弥 
代理人 黒沼 吉行 

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