• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 商4条1項8号 他人の肖像、氏名、著名な芸名など 無効としない W41
審判 全部無効 商標の周知 無効としない W41
管理番号 1360569 
審判番号 無効2018-890045 
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-06-22 
確定日 2020-02-10 
事件の表示 上記当事者間の登録第5971327号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5971327号商標(以下「本件商標」という。)は、「河藤流」の文字を標準文字により表してなり、平成29年5月26日に登録出願、第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催,電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,図書の貸与,書籍の制作,娯楽の提供,映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,演芸の上演,演劇の演出又は上演,音楽の演奏,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。),興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。),映画・演芸・演劇・音楽又は教育研修のための施設の提供,録音済み記録媒体の貸与,録画済みビデオテープの貸与」を指定役務として、同年7月21日に登録査定、同年8月10日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第13号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、商標法第4条第1項第8号及び同第10号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号により、無効にすべきものである。
(1)河藤流について
河藤流は、河野達郎(以下「達郎」という。)が創流した、日本舞踊の流派の一つである。
達郎は、6歳頃から、日本舞踊の流派の一つである花柳流・藤間流で舞踊をしていた。その後、「河野たつろ」という芸名で全国を回って児童舞踊を広めるなどしたが、昭和30年頃、河藤流を起こし、家元「河藤たつろ」を襲名した(甲1)。
達郎は、その功績が認められ、昭和49年、藍綬褒章を授章した。翌50年、達郎は河藤流の宗家に就任し、同時に、達郎の長女である金子陽子(以下「陽子」という。)が達郎の指名により河藤流の家元を継承し、陽子は、河藤流二代目家元として「河藤湧光」を襲名した(甲2、甲4の1)。なお、請求人は、陽子の夫である(甲3)。
達郎及び陽子は、自らの芸の精進に努めるとともに、河藤流の発展・普及・門弟指導などに努め、昭和56年、達郎は勲五等双光旭日章を、陽子は紺綬褒章をそれぞれ授章した(甲4)。
達郎は、昭和60年4月7日に亡くなり、その後、陽子は、河藤流の家元として、河藤流のさらなる発展・普及・門弟指導などに努めた(甲4)。また、陽子は、河藤流の会報である「藤の輪」(河藤ニュース。年4回発行)を編集・発行する河藤流創作邦舞株式会社の代表取締役も務めた(甲5)。
(2)団体としての河藤流について
河藤流は、上記(1)のとおり、舞踊のことを意味するほか、河藤流家元を頂点とする、河藤流に属する師範(準師範を含む。以下同じ。)及び門弟により構成される団体も意味する。
河藤流には、師範によって構成される河藤流師範会が存在し、河藤流師範会会則(以下「会則」という場合がある。)及び師範の心得が定められている(甲6)。構成員は、家元以下、師範、準師範、名取、準名取、中伝、初伝の資格が定められており、師範173名、準師範32名、名取219名となっている(平成27年11月現在:甲7)。
団体としての河藤流は、各種公演・大会や本部研修会を開催するなどし、舞踊の流派としての活動を行っていた。その際、「河藤流」という名称を、自らを示す標章として河藤流の教授の際に使用するほか、公演を主催する場合や師範らが各種公演に出演する場合等に自ら使用していた(甲8)。また、河藤流の基本技法を著した書籍を発行している(甲9)。
(3)陽子の死亡
陽子は、平成28年7月3日、亡くなった(甲3)。
陽子は、亡くなる直前まで、病床から開催予定の公演等について指示等を行っていたものの、河藤流家元の継承者について、誰かを指名することはなかった。陽子の相続人は、請求人ただ一人である。請求人は、陽子の死亡後、河藤流創作邦舞株式会社の代表取締役に就いた(甲5)。
(4)本件商標の登録出願、設定登録
本件商標の商標権者である被請求人は、河藤流の師範の一人であり、「河藤雅音」という舞踊名を与えられ、活動を行っていた者である(甲7)。
被請求人は、平成28年9月開催の河藤流の定例師範会(例会)において、陽子の納骨祭(同年8月21日開催)の際に、請求人から「今後の河藤流の家元としての運営を雅音氏にお願いする。」などと言われたとして、河藤流の三代目家元として「河藤湧光」を襲名する旨を突如表明した(そのような趣旨の内容が記載されているものとして、被請求人ほかの連署による宣誓書(甲9)が存する。)。
しかしながら、請求人は、被請求人に対し、納骨祭において、河藤流の維持・存続のために「家元代行」を任せる旨を述べたものの、「家元」そのものについては、1年間の陽子の服喪期間中にきちんと決めるよう述べたにとどまり、被請求人を河藤流の三代目家元に指名したことも、継承するよう述べたこともなく、「河藤湧光」を襲名してよいと述べたこともなかった(甲10)。
また、被請求人は、会則第4条に則り、「会員の総意」に基づいて、河藤流三代目家元に就任したなどと表明している(甲11)。
しかしながら、会則第4条は、河藤流師範会の会務の運営について、会員の総意に基づき自主的に運営することを定めているにすぎず、師範の上位である家元の指名・継承を決定する権限の根拠とはなり得ず、また、「会員の総意」として、いかなる手続・要件で家元の指名・継承を決定するかについて定められていないのであるから、同条をもって家元に就任したことを正当化することは許されない。被請求人のいう「会員の総意」とは、適式な手続を経ることなく、自己に同調する一部の者の賛同をいうものにすぎず、被請求人は、三代目家元をいわば自称しているにすぎない。
被請求人は、平成29年5月26日、本件商標の登録出願を行ったが、請求人は、被請求人に対し、本件商標を登録出願することについて、承認・了解したこともない(甲10)。
河藤流は、上記(1)及び(2)で述べたとおり、初代家元・宗家である達郎が創流し、二代目家元である陽子が発展させた舞踊の流派の一つを意味し、また、家元を頂点とする団体を意味するのであって、適式な手続を経て家元に就任したのではなく、一師範にすぎない被請求人が、独占的に使用できるものではない。
しかしながら、被請求人は、陽子の唯一の相続人である請求人の承認・了解を得ておらず、また、一部の構成員だけから賛同を得ているにすぎないにもかかわらず、請求人の承認・了解を得て家元を継承したなどとして、家元襲名を勝手に表明するとともに、請求人が出願登録していないことを奇貨として、本件商標の登録出願に及び、設定登録に至ったのである。
(5)商標法第4条第1項第8号該当性について
河藤流は、家元を頂点とする団体の名称であるところ、上記(4)で述べたとおり、被請求人が家元を継承した事実はなく、団体としての河藤流とその構成員である一師範にすぎない被請求人とは別個のものであるから、被請求人との関係でいえば「他人」に当たる。
よって、河藤流の名称は、商標法第4条第1項8号にいう「他人の名称」に当たるから、本件商標の登録は、商標法第4条第1項8号に該当する。
(6)商標法第4条第1項第10号該当性について
河藤流は、家元を頂点とする団体の名称であるところ、上記(5)で述べたとおり、団体としての河藤流とその構成員である一師範にすぎない被請求人とは別個のものであるから、被請求人との関係でいえば、商標法第4条第1項第10号にいう「他人」に当たる。
したがって、河藤流は、被請求人との関係では「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するもの」に該当する。
また、(ア)団体としての河藤流は、師範・準師範・名取の資格を有する者だけで全国で400名を超え(甲7)、準名取、中伝、初伝を含めるとおよそ1,000名規模の構成員を有すること、(イ)達郎は、河藤流の家元としての功績が認められ、藍綬褒章及び勲五等双光旭日章を授章し、また、陽子も、河藤流二代目家元としての功績が認められ、紺綬褒章を授章していること(甲4)、(ウ)インターネットの代表的な検索エンジン「Google」を用いて「河藤流」を検索すると、約1,010万件がヒットすること(平成30年6月21日現在:甲12)、(エ)被請求人自身、河藤流が、団体としての河藤流の商標として需要者の間に広く認識されていることを否定していないことからすれば、河藤流は、本件商標の登録出願時及び登録査定時の各時点において、団体としての河藤流を表示するものとして、需要者の間に広く認識されている商標となっていたと認められる。
さらに、本件商標の指定役務と河藤流が使用される役務とが同一又は類似であることは明らかである。
よって、本件商標は、他人の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標であって、その役務について使用をするものであるから、本件商標は、商標法第4条第1項10号に該当する。
2 答弁に対する弁駁
(1)請求人適格の欠格に対する反論
ア 被請求人は、請求人は、現在、河藤流に何ら関わりもなく、また、河藤流の舞踊を全く習得していないため、本件商標を使用することもないことから、本件商標について法律上の利害関係を有さず、商標法第46条第2項の請求人適格を認められないと主張する。
イ 確かに請求人自身は、河藤流の技法を継承するものではなく、河藤流の師範でもない。しかしながら、請求人は、陽子の存命中、陽子の河藤流二代目家元としての活動を応援し、公演等にも可能な限り観客として参加してきたし、伴侶として陽子の活動を支え、見守り続けてきた。
したがって、河藤流の活動にほとんど無関心であったというのは全くの言い掛かりである。
ウ また、請求人は、陽子の死亡後、河藤流創作邦舞株式会社(以下「会社」という場合がある。)の代表取締役に就任し、その後、会社を解散している。これは、従前の会社の経営状況が慢性的に赤字体質であって、専ら陽子が私財を投じることによって、かろうじて運営を続けていたところ、陽子の死亡後には私財を投入して赤字状況の会社を存続させることができなかったからである。もし、陽子亡き後の河藤流の新体制のもとで会社と同様の運営会社が必要であるならば、新しく運営会社を設立すればよいのであって、これまで陽子の私財頼みであった会社を一旦リセットするためにも解散したにすぎない。
したがって、会社を解散したことについて、何ら問題視されることではなく、「勝手に解散した」などとして非難されるいわれはない。
エ 請求人は、陽子の唯一の相続人であり、陽子の有する河藤流に関する様々な権利(著作権を含むがこれらに限られない。また、達郎が保有していた権利であって、陽子が達郎から相続し承継した権利も含まれる。)を相続により取得している。達郎及び陽子が創案し、河藤流で用いられている「藤水(ふじすい)」及び「輪藤(わふじ)」と呼んでいる流紋も、その中の1つである。
請求人は、自ら河藤流に関する標章等を使用しないとしても、陽子の相続人、諸権利の承継者という立場から、第三者に対して諸権利の使用を許諾し、第三者をして使用させるということがあり得る。
したがって、請求人は、たとえ自ら本件商標を使用することがなかったとしても、第三者に対して承認、了解等することがある以上、本件商標について、法律上の利害関係を持たないとはいえない。
なお、被請求人自身、陽子の追悼公演のパンフレットのあいさつ文において「お家元様亡き後、ご主人様のご指命により不肖、私、河藤雅音が家元を受けさせていただきました。」と記し(乙5)、襲名挨拶状でも「ご主人“金子様”よりご指名を受け(略)私『家元河藤雅音』が創作邦舞河藤流第三代家元『河藤湧光』を襲名させて頂く運びとなりました。」と記している。これら記述は、三代目家元の襲名、河藤湧光の襲名には請求人の承認、了解が必要であること、ひいては、請求人には、本件商標について法律上の利害関係があることを被請求人が自認していることにほかならない。
オ 請求人としては、河藤流での正当な手続を経て三代目家元がきちんと決まれば、河藤流の維持・存続のために自分のできる範囲で協力するつもりであった。ところが、審判請求書において述べたとおり、被請求人が、陽子の喪が明けないうちに、自己に同調する一部の者の賛同を受けて三代目家元を自称するに至り、本件商標を登録出願するに及んだ。
被請求人は、河藤流師範会の「会員の総意」により被請求人の三代目家元を襲名したと主張している。
しかしながら、会則第4条は、河藤流師範会の会務の運営について、会員の総意に基づき自主的に運営することを定めているにすぎず、師範の上位である家元の指名・継承を決定する権限の根拠とはなりえない。
また、被請求人は、陽子のお別れ会や納骨祭において、「今後の河藤流の家元として運営を被請求人にお願いする」旨の挨拶を行ったと主張するが(乙3、乙4)、そのような事実はない。請求人は、新しい家元が決まるまでの間、被請求人に河藤流の家元代行を任せる旨を述べたにすぎず、家元として指名したことはない。これは、お別れ会や納骨祭に参加した数多くの者が確認していることである(甲13)。
被請求人は、現役師範の中では最も長い経験を持つこと、達郎及び陽子の直弟子であったこと等を主張するが、それ故をもって、正当な手続を経ることなく、ましてや、請求人の承認、了解を得ることなく、勝手に河藤流の三代目家元を襲名し名乗ることや本件商標について登録出願することが許されるものではない。
請求人は、被請求人のいわば暴走を止めるために本件無効審判を請求しているのであって、正当な権利の行使であり、何ら非難されるいわれはない。
カ 以上述べたとおり、請求人は、本件商標について法律上の利害関係を有するのであるから、本件無効審判の請求人適格は認められる。
(2)商標法第4条第1項第8号及び同第10号の非該当性に対する反論
ア 被請求人は、商標法第4条第1項第8号及び同第10号の該当性が認められるためには、権利能力なき団体の名称につき著名性ないし周知性を要するところ、本件商標の登録出願時及び登録査定時における「河藤流」の著名性ないし周知性について、請求人の提出する資料からは明らかでないと主張する。
当事者間において争いのある事実については証拠により立証する必要があるところ、もし被請求人において「河藤流」が著名性ないし周知性を獲得していることにつき争わないというのであれば、そもそも立証の要をみない。
「河藤流」が著名性ないし周知性を獲得しているかについて、被請求人の主張をみてもその認否は判然としないため、もし被請求人において「河藤流」が著名性ないし周知性を獲得していないと主張されるのであれば、その旨を明らかにされたい。
なお、念のため、請求人の提出済み資料を正しく評価し判断するならば、本件商標の登録出願時及び登録査定時のいずれも、著名性及び周知性は認められるというべきである。
イ 被請求人は、仮に本件商標の登録出願時及び登録査定時において、「河藤流」が周知性ないし著名性を獲得していたとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第8号及び同第10号における「他人」に当たらないと主張し、その論拠として、知財高裁平成30年4月17日判決(以下「知財高裁平成30年判決」という。)(乙10)の判示を引用する。
知財高裁平成30年判決は、商標法第4条第1項10号に規定する「他人」とは、当該商標が出所を表示する主体とは異なる者と解するのが相当であるとし、また、同第8号の「他人」について、当該他人と商標が表示する主体とが異なる者であることが当然の前提であると解されるとしている。
しかしながら、知財高裁平成30年判決は、本件無効審判とは事案を異にするものであり、同判決の解釈を本件に当てはめることは相当でない。
前述したとおり、被請求人は、正当な手続を経ることなく、また、請求人の承認、了解を得ることなく、勝手に河藤流の三代目家元を襲名し名乗り、本件商標の登録出願に及んでいる。そもそも三代目家元を、いわば自称するにすぎない被請求人が、従来からの河藤流を代表するものとして、流派と不可欠な関係にあるということはできず、両者を同一にみなして取り扱うこともできない。
したがって、本件においては、被請求人本人が、団体としての河藤流との関係において「他人」に当たるか否かを判断すべきであって、正当な家元・代表者ではない被請求人は、団体としての河藤流との関係においては「他人」であることは明らかである。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号及び同第10号に該当するというべきである。
3 令和元年10月15日付け上申書における主張
被請求人は、被請求人が会則第4条に則り、「会員の総意」に基づいて三代目家元に就任し、「河藤湧光」の芸名を襲名したこと、及び、河藤流の師範らや構成員らが被請求人に賛同していることを明確にするためとして、また、平成28年8月6日に開催された二代目家元の「お別れ会」と同月21日に開催された二代目家元の「納骨祭」において、請求人が「今後の河藤流の家元として運営を被請求人にお願いする」旨の挨拶を行ったことを明確にするためとして、乙第12号証ないし乙第15号証を提出した。
しかしながら、会則第4条は、河藤流師範会の会務の運営について、会員の総意に基づき自主的に運営することを定めているにすぎず、師範の上位である家元の指名・継承を決定する権限の根拠とはなりえない。
したがって、河藤流の師範らが宣誓書(乙12)に署名し、構成員らが被請求人に賛同する旨の宣誓書(乙13)に署名しているとしても、被請求人が三代目家元を襲名したことを何ら正当化することはできない。
請求人は、二代目家元の「お別れ会」や「納骨祭」において「今後の河藤流の家元としての運営を被請求人にお願いする」旨の挨拶をしていない。
そのことは、陳述書(甲13)に記載されているとおり、「お別れ会」や「納骨祭」に参加した数多くの者が確認していることである。
したがって、河藤流の師範らがこれとは違う事実を記載した宣誓書に署名しているとしても、被請求人の主張する事実の存在を証することにはならない。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第15号証を提出した。
1 請求人は、本件審判請求に係る本件商標について法律上の利害関係を持たず、商標法第46条第2項に規定される請求人適格を欠く。
現在、請求人は、本件商標が示す日本舞踊の流派「河藤流」とは何ら関係のない者であって、本件商標を使用することもないため、本件商標について法律上の利害関係を持たず、請求人適格を有しない。
2 本件に関する事情
(1)河藤流について
請求人が述べるとおり、河藤流とは、達郎が創流した日本舞踊の流派の一つであって、家元並びに師範及び門弟によって構成される団体であり、法人格は取得しておらず、いわゆる権利能力なき社団としての性格を有する。元来、河藤流は「和」の精神を持ち、集団の秩序と安寧、また、礼儀と作法を重視しており、河藤流の「師範の心得」として、「常に『和』の精神を保ち、師および先輩を敬い、門弟を愛し相扶けて技芸の向上を図り、流儀の発展に貢献するよう努めること」が定められている(乙1)。そして、河藤流には、準師範を含む全師範によって構成される河藤流師範会が存在しており、その運営は、会則第4条に則り、会員たる全師範の総意によって行われている(乙1)。河藤流の主要な構成員は、紛れもなく河藤流の舞踊を実践する師範達(自然人)であり、係る師範達によって構成される河藤流師範会こそが、河藤流の「和」の精神を実現し、河藤流について家元の承継など主要な事柄を決定できる、河藤流における最高の意思決定機関である。
(2)被請求人について
現河藤流家元である被請求人は、元々、河藤流において、「雅音(まさね)」の芸名を与えられ、昭和45年1月31日に免許を得てから(乙2)、実に半世紀近くの長きにわたり、これまで河藤流師範として、河藤流の発展に尽力してきた。現在、現役の師範の中では、最も長い経験を持ち、初代家元宗家の「河藤たつろ」(達郎)及び二代目家元の「河藤湧光」(陽子)の直弟子であったことから、先々代と先代の家元から直接舞踊の稽古を受けており、河藤流のことわりを最も理解している人物である。実際、先代の二代目家元からも河藤流の師範として非常に厚い信頼を寄せられており、二代目家元が倒れた際、二代目家元は、その病床から被請求人の芸名「雅音」を繰り返し呼称していた。また、二代目家元が亡くなった当時、二代目家元の夫である請求人に代わり、河藤流の各師範達へ葬儀の連絡をしたのは、被請求人を中心とした3名の師範である。加えて、二代目家元が亡くなった後、平成28年8月6日に開催された二代目家元の「お別れ会」において、被請求人は、河藤流師範代表として挨拶を行っている(乙3)。
ところで、河藤流では、二代目家元の亡き後、三代目家元が決定するまでの間、家元は不在であり、その構成員は師範及び門弟のみであった。そして、家元不在の間、河藤流の運営について実質的に決定することができたのは、河藤流師範会であり、同師範会内において、同師範会会員である被請求人(乙2)を三代目家元にしようとする気運が高まった結果、会則第4条に則り、「会員の総意」に基づいて被請求人が三代目家元に就任することが決まった(乙1、乙4)。
また、請求人自身も二代目家元の「お別れ会」において、「今後の河藤流の家元として運営を被請求人にお願いする。」旨の挨拶を行い(乙3)、「納骨祭」においても同様の挨拶を行った(乙4)。この点、請求人は、「被請求人に対し、納骨祭において、河藤流の維持存続のために『家元代行』を任せる旨を述べたものの、『家元』そのものについては、1年間の陽子の服喪期間中にきちんと決めるよう述べたにとどまり」と主張するが、少なくとも当時、被請求人は、請求人から「家元代行」を託されるなど、河藤流の中心的人物であったことに争いはないものと推察される。
河藤流師範会の「会員の総意」により被請求人の三代目家元襲名が決まった後、平成28年9月4日の河藤流師範会の会合において、被請求人から全出席者に対して河藤流三代目家元への就任が報告された。平成29年4月23日には、伝統的に河藤流の公演が行なわれてきた浅草公会堂にて、先代家元の追悼公演が行なわれ、被請求人は、三代目家元として、その公演の舞踊振付指導と公演総監督を務めた(乙5)。そして、平成29年7月には、先代家元の名跡を受け、被請求人は「河藤湧光」の芸名を襲名し(乙6)、現在、河藤流師範としての活動を行い、河藤流の技法の普及、発展に勤しんでいる。
ここで、本件商標は、上述のとおり、被請求人が「会員の総意」に基づいて三代目家元に就任したところ、今後は安心して後世に河藤流の紋章として残す目的で、権利能力のない河藤流を代表して登録出願したものである。
(3)請求人について
請求人は、先代の二代目家元の夫ではあるが、日本舞踊とは疎遠な人物であって、河藤流の技法を何ら継承するものではなく、ましてや河藤流の師範でもない。また、請求人は、河藤流の会報誌を編集・発行する河藤流創作邦舞株式会社の取締役に就任していたものの、実際には河藤流の活動にはほとんど無関心であり、二代目家元の死亡後、依然として多くの師範や門弟が河藤流としての活動を継続していたにもかかわらず、平成28年11月30日の株主総会の決議によって河藤流創作邦舞株式会社を突如解散した(乙8)。
なお、河藤流創作邦舞株式会社は、当時、河藤流の資産管理団体としての役割も担っており、師範会費の管理をしていたが、会社の解散後、河藤流の各師範に対して、師範会費の清算はされていない。
3 請求が認められない理由
(1)請求人適格の欠缺について
請求人は、現在、河藤流に何ら関わりもなく、また、河藤流の舞踊を全く習得していないため、本件商標を使用することもない。
したがって、請求人は、本件商標について法律上の利害関係を有さず、商標法第46条第2項の請求人適格を認められない。
そもそも、請求人は、二代目家元が亡くなったあと、河藤流師範会の意向を全く聞くことなく、河藤流創作邦舞株式会社を勝手に解散するなど、河藤流との関わりを自ら断ち、会社解散後に師範会の会員に対し、師範会費の清算もしていない。それにもかかわらず、今更となって、本件無効審判の請求など、河藤流の運営を阻害するような行動を取ることは、社会一般の道徳観念に反する。上述のとおり、被請求人は、昭和45年1月31日に免許を得てから、実に半世紀近くの長きにわたり、河藤流師範として、河藤流の発展に尽力してきた。現在、現役の師範の中では、最も長い経験を持ち、初代家元の「河藤たつろ」(達郎)及び二代目家元の「河藤湧光」(陽子)の直弟子であったことから、先々代と先代の家元から直接舞踊の稽古を受けており、創作邦舞河藤流のことわりを最も理解している人物である。そして、その人望も厚く、河藤流の「和」の精神に則り、河藤流師範会の「会員の総意」に基づいて河藤流三代目家元に就任したのであって、本件商標を登録出願するに至るまでの経緯に何らの非は見いだせない。このように、長年、河藤流に尽力してきた被請求人が河藤流の今後の発展を願って出願登録した本件商標に対して、これまで河藤流と実質的な関わりのなかった請求人が本件無効審判を請求することは、社会一般の道徳観念に反し、これまで培われてきた河藤流の「和」の精神を冒とくするものであって、決して許されるものではない。
(2)商標法第4条第1項第8号及び同第10号の非該当性について
請求人が主張するとおり、河藤流は、達郎が創流した日本舞踊の流派の一つであって、家元並びに師範及び門弟によって構成される団体であり、権利能力なき社団としての性格を有するところ、「権利能力なき社団の名称については、法人との均衡上、その名称は、商標法4条第1項第8号の略称に準ずるものとして、同条項に基づきその名称を含む商標の登録を阻止するためには、著名性を要するものと解すべきである」(東京高裁平成12年(行ケ)第344号:乙9)。この点、請求人は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において(商標法第4条第3項)、「河藤流」が著名であったことについて何ら説明していない。
また、商標法第4条第1項第10号との関係においても、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、「河藤流」が周知であったか否かは、請求人提出の証拠からは、必ずしも明らかでない。
すなわち、請求人の提出する平成27年11月における名簿(甲7)は、本件商標の登録出願時(平成29年5月26日)及び登録査定時(同年7月21日)における河藤流師範等の人数を示すものではなく、そのほか河藤流の構成員について、具体的にその人数を証明する資料は何ら提出されていない。
また、請求人は、今から約30年以上前(昭和49年及び同56年)の栄典の授章を主張するが、係る栄典の授章が本件商標の登録出願時及び登録査定時においてどのように認知されていたかは明らかでない。
加えて、請求人が提出したインターネットの検索エンジン(Google)で検索された約1,010万件全て(甲12)が「河藤流」についてのウェブサイトであるとは限らない。
したがって、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、「河藤流」が周知であったことについては明らかでない。
仮に、請求人が主張するとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、「河藤流」が周知性ないし著名性を獲得していたとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第8号及び同第10号における「他人」には当たらない。
上述した事実及び本件商標の登録出願の経緯によれば、本件商標が、その登録出願時及び登録査定時に出所として表示するのは、達郎が創流した日本舞踊の一流派である河藤流そのものであって、被請求人はこれに属するものであると認められる。
そして、本件商標は、その表記に応じて、達郎が創流した河藤流を需要者に想起させるものであるから、客観的表記に基づく需要者の認識と登録出願の経緯等に基づく出所の主体の間にも齟齬はないものと認められる。
他方、請求人主張の無効理由のうち、商標法第4条第1項第8号に関して主張する「他人」とは、「達郎が創流した日本舞踊の流派」であるから、従来からの河藤流そのものである。
また、同第10号に関して主張する「他人」の商標とは、「従来からの『河藤流』の教授等の役務を示すものとして需要者の間で広く認識されている商標」であって、従来からの河藤流を出所とする商標である。
そうすると、請求人が無効理由として主張する商標法第4条第1項第8号及び同第10号における「他人」とは、いずれも従来からの河藤流を指すものであるところ、本件商標がその出所として表示するのも、従来からの河藤流そのものであるから、両者は同一であるといえる。
したがって、前記各号に関して請求人が主張する「他人」が、本件商標が出所を表示する主体と異なる者とは認められないから、商標法第4条第1項第8号及び同第10号に基づいて、本件商標が商標登録を受けることができない商標と認めることはできず、請求人の主張は、理由がないものといわざるを得ない(知財高裁平成30年判決に同旨:乙10)。
なお、請求人は、被請求人が、二代目家元の唯一の相続人の承認・了承を得ておらず、一部の構成員だけから賛同を得ているにすぎないにもかかわらず、請求人の承認・了解を得て家元を継承したなどとして、家元襲名を勝手に表明するとともに、請求人が出願登録していないことを奇貨として、本件商標の登録出願手続をしたなどと主張する。
しかしながら、本件商標がその出所の主体として表示するのは、日本舞踊の一流派である河藤流そのものであって、請求人が他人として主張する団体と従来同一のものであることは上記のとおりであり、本件商標の登録出願の経緯などの点については、本件商標について請求人が無効理由として主張する商標法第4条第1項第8号及び同第10号の該当性に関する上記結論を左右するものではない(知財高裁平成30年判決に同旨:乙10)。
そもそも、河藤流との関係が希薄であった請求人に後継の家元を実質的に指名する権限はなく、二代目家元の亡き後、誰が家元に就任するかについては、河藤流の「和」の精神に則り、河藤流師範会の「会員の総意」に基づいて決定される。
したがって、請求人が、二代目家元の唯一の相続人であることにしゃ口して、被請求人が三代目家元を承継することに対し、自身の指名や承諾がないことを主張することは明らかに失当である。その上、請求人は、平成28年8月6日に開催された二代目家元の「お別れ会」(乙3)において、「今後の河藤流の家元として運営を被請求人にお願いする」旨の挨拶を行い、同月21日に開催された「納骨祭」においても同様の挨拶を行うなど(乙4)、一時は、被請求人が三代目家元に就任することを承諾し、それを河藤流内に表明していたのであるから、後々になって前言を翻すような主張は許されるべきでない。さらに付言すれば、請求人が、「被請求人に対し、納骨祭において、河藤流の維持・存続のために『家元代行』を任せる旨を述べたものの、『家元』そのものについては、1年間の陽子の服喪期間中にきちんと決めるよう述べたにとどまり」と主張するように、後継の家元の決定は、被請求人に託されており、請求人に決定する意思がなかったことは明らかである。
その上、本件商標は、いわゆる権利能力なき社団である「河藤流」に代替して三代目家元である被請求人が本件商標を登録出願し、その登録を受けたものである。そうすると、当該商標権の効力などの行使に関しては、被請求人は個人的な立場ではなく、従来からの河藤流を代表するものとして、流派と不可分な関係、すなわち、両者を同一にみなして取り扱うのが相当であるから、被請求人と本件商標が表示する従来からの河藤流とは「他人」の関係とはいえない。また、本件商標に係る商標の使用も被請求人が個人として使用するものではないから、出所の混同が生じるおそれもなく、従来からの河藤流の既得の利益が害されるものでもない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号及び同第10号に該当するものでないことは明らかである(無効審判2009-890029に同旨:乙11)。

第4 当審の判断
1 請求人適格について
本件審判の請求に関し、当事者間において、利害関係の有無につき争いがあることから、まず、この点について判断する。
両当事者から提出された証拠によれば、請求人は、「河藤流創作邦舞株式会社」の代表取締役であり、また、同社の解散後の清算人であると認められる(甲5)ところ、「河藤流師範会会則(一)総則」には、「本会は、河藤流師範会と称し、本部を河藤流創作邦舞株式会社内に置き、必要に応じ別に事務局を設ける。」との記載がある(甲6)。
そして、同社は、会報の発行を行っていたものであり(甲4の1?甲4の5)、また、被請求人の主張によれば、「河藤流」の資産管理団体としての役割を担っており、師範会費の管理をしていたというのであるから、同社の代表取締役であり、また、同社の解散後の清算人でもある請求人は、本件商標の登録の存在によって、直接的な影響を受けることもあり得るとみられ、本件審判の請求について、何らの利害関係も有しないとはいい難い。
そうすると、請求人は、本件審判を請求することについて、利益を有するものと解するのが相当である。
したがって、本件審判の請求は、その請求を不適法なものとして却下することはできない。
2 「河藤流」の周知著名性について
(1)請求人が提出した証拠及び両当事者の主張によれば、次の事実が認められる。
ア 日本舞踊の流派としての河藤流について
河藤流は、達郎が創流した、日本舞踊の流派の一つである。
達郎は、昭和30年頃、河藤流を起こし、家元「河藤たつろ」を襲名した(甲1)。
イ 団体としての河藤流について
請求人は、河藤流は、上記アのとおり、日本舞踊の流派の一つを意味するほか、河藤流家元を頂点とする、河藤流に属する師範や門弟からなる団体も意味する旨主張しており、団体としての河藤流の構成員は1,000人規模であって、家元以下、師範、準師範、名取、準名取、中伝、初伝の資格が定められており、師範は173名、準師範は32名、名取は219名である(平成27年現在:甲7)。
なお、被請求人の主張によれば、団体としての河藤流には法人格はないとのことであり、かつ、両当事者から、団体としての「河藤流」が法人格を有している旨の証拠の提出もない。
また、河藤流には、師範によって構成される河藤流師範会が存在し、河藤流師範会会則及び師範の心得が定められている(甲6)。
ウ 「河藤流」の文字の使用について
(ア)「公演プログラム」について、「第130回 河藤流合同公演」、「主催 河藤流本部」、「平成15年4月26日(土)」及び「平成15年4月27日(日)」等の記載がある(甲8)。
(イ)「書籍」について、表紙に「河藤流基本技法 昭和四十年三月一日制定」、「河藤流宗家 著」及び「発行 河 藤 流」の記載、奥付に「昭和四十二年十一月一日 第一版」及び「平成四年八月三日 第六版カラー」等の記載がある(甲9)。
エ 達郎及び陽子の叙勲及び褒章の授章の記事について
「藤の輪」(河藤ニュース)と称する会報について、達郎は勲五等双光旭日章を、陽子は紺綬褒章をそれぞれ授章した内容の記載がある(甲4の2、甲4の3の1、甲4の3の2)。
なお、同会報には、「編集兼発行所●河藤流創作邦舞株式会社」の記載がある。
オ 「河藤流」の文字のインターネットの検索結果について
平成30年6月22日出力の「インターネットの検索エンジン(Google)で『河藤流』を検索した画面の出力物」には、「河藤流」、「約10,100,000件」等の記載がある(甲12)。
なお、甲第12号証は「河藤流」に関する検索結果の第1頁目を確認できるにすぎない。
(2)判断
上記(1)からすると、「河藤流」は、達郎が昭和30年に創流した、日本舞踊の流派の一つの名称であって、また、家元並びに師範及び門弟によって構成される権利能力なき社団といい得るものである。
しかしながら、請求人提出の証拠についてみるに、それらの証拠のうち、「河藤流」の名簿(甲7)は、師範・準師範・名取についてのみの名簿であって、準名取、中伝、初伝等を含む流派全体の構成員数(1,000名規模)を裏付ける証拠ではなく、日本舞踊の他流派の構成員の数も明らかにされていないから、その人数の多寡について評価することができない。
そして、「第130回 河藤流合同公演の公演プログラム」(甲8)は、平成15年4月26日及び同月27日に係る公演のものであって、当該プログラムからは、本件商標の登録出願前の「河藤流」の活動内容の一端を把握することができるとしても、本件商標の登録出願時及び登録査定時における周知性を証明するものということはできない。
また、「書籍」(甲9)は、第一版が昭和42年11月1日の発行であって、最新版は平成4年8月3日の発行であることが把握できるとしても、当該書籍の現在までの発行部数、売上高、販売地域等を把握することはできない。
さらに、河藤流家元の叙勲及び褒章の授章の記事(甲4)は、「河藤流」の周知性を判断する上でどのような関連性を有するのかについて明らかでない。
加えて、平成30年6月22日出力の「インターネットの検索エンジン(Google)で『河藤流』を検索した画面の出力物」(甲12)からは、「河藤流」の検索結果が、約1,010万件あることが確認できるとしても、検索結果の第1頁目を確認できるにすぎず、それぞれのインターネット記事の具体的内容は不明であり、かつ、当該検索結果は、2018年(平成30年)6月22日出力のものであるから、本件商標の登録出願時(平成29年5月26日)及び登録査定時(平成29年7月21日)における「河藤流」の周知著名性を立証する証拠ということはできない。
その他、「河藤流」の活動の範囲、内容、規模、宣伝広告等の活動実績等、「河藤流」の周知著名性を客観的に把握することができる証拠も見いだせない。
してみれば、請求人提出の証拠によっては、本件商標の登録出願時及び登録査定時に日本国内において、「河藤流」が、日本舞踊の一つの流派として、舞踊の習得、教授等を行う者を構成員とする団体の名称又はその役務を表示する商標として、取引者、需要者の間に広く認識されていたものと認めることができない。
3 本件商標の商標法第4条第1項第8号該当性について
本号は、「他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)」と規定されている。
そして、権利能力なき社団の名称は、法人との均衡上、商標法第4条第1項第8号の「略称」に準じ、著名性を有することが必要とされる(平成13年4月26日東京高裁平成12年(行ケ)第344号)ところ、上記2のとおり、請求人の提出した証拠によっては、団体としての「河藤流」の名称が、本件商標の登録出願時及び登録査定時に著名であったとは認められないものである。
してみると、本件商標は、他人の名称若しくは著名な略称を含む商標ということはできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号に該当しない。
4 本件商標の商標法第4条第1項第10号該当性について
本号は、「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であつて、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」と規定されている。
そして、上記2のとおり、「河藤流」の文字よりなる商標(以下「引用商標」という。)は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、河藤流(他人)の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたものと認められないものである。
そうすると、本件商標と引用商標が同一又は類似のものであって、本件商標の指定役務と引用商標が使用されている役務が同一又は類似のものであるとしても、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、需要者の間に広く認識されているものと認められないものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当しない。
5 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第8号及び同第10号のいずれにも該当するものでなく、その登録は、同条第1項の規定に違反してされたものではないから、同法第46条第1項により、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2019-12-06 
結審通知日 2019-12-11 
審決日 2019-12-27 
出願番号 商願2017-71472(T2017-71472) 
審決分類 T 1 11・ 23- Y (W41)
T 1 11・ 255- Y (W41)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石塚 文子 
特許庁審判長 冨澤 美加
特許庁審判官 水落 洋
小俣 克巳
登録日 2017-08-10 
登録番号 商標登録第5971327号(T5971327) 
商標の称呼 カワフジリュー、カワトーリュー、カワフジ、カワトー 
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所 
代理人 本橋 光一郎 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ