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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W091541
管理番号 1351563 
審判番号 無効2018-890015 
総通号数 234 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2019-06-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-03-02 
確定日 2019-05-10 
事件の表示 上記当事者間の登録第5998093号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5998093号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5998093号商標(以下「本件商標」という。)は、「オクターブミュージック」の文字を標準文字で表してなり、平成29年3月17日に登録出願、第9類「電子楽器用自動演奏プログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM,インターネットを利用して受信し、及び保存することができる音楽ファイル,電子出版物,インターネットを利用して受信し、及び保存することができる画像ファイル」、第15類「楽器」及び第41類「電子出版物の提供,音楽の演奏,技芸・スポーツ又は知識の教授」を指定商品及び指定役務として、同年10月18日に登録査定、同年11月24日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が本件商標の無効理由において引用する請求人の使用する商標は、「オクターブミュージック」の文字からなる商標(以下「引用商標1」という。)、「Octave music」の文字からなる商標(以下「引用商標2」という。)及び別掲に示すとおりの構成からなる商標(以下「引用商標3」という。)である。
以下、引用商標1ないし引用商標3を総称するときは「引用商標」という。

第3 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第49号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求人について
請求人の代表取締役であるN氏は、2013年12月に、音楽制作、楽譜制作及び音楽教室事業を主な目的として、請求人の前身である「オクターブミュージック」を福岡県福岡市において設立した。
その後、「オクターブミュージック」は、2014年1月に各事業についてのウェブサイトを制作・公開し、同年3月には、インターネット上で広告の配信を開始し、取引先、顧客を全国区に拡大し、顧客対象も企業のみならず、官公庁、学校(教育機関)及び個人と広げ、本格的な事業を開始した。 2015年3月、当該事業は「合同会社オクターブミュージック」として法人組織化され、2016年4月には東京都渋谷区に東京支社、同年9月には米国ロサンゼルスに現地法人「Octave Music Group Inc.」を設立し、2017年4月に現商号である「株式会社オクターブミュージック」に変更されている(甲3)。
その間、2015年10月には、楽曲総制作件数(顧客に対する納品数)は累計1,000件を突破し、2016年12月には、楽曲総制作件数が4,000件、2017年9月には楽曲総制作件数が7,000件(甲4)を達成するなど、売上数を伸ばし、その品質においても顧客からの絶大な信頼を獲得し、音楽プロダクション業界における確固たる地位を確立している。
2 引用商標の使用事実について
請求人は、「オクターブミュージック」の設立以後において、引用商標の下で以下の事業を現在に至るまで継続的に行っている。
(1)音楽制作事業
請求人は、顧客からの求めに応じて、様々なジャンルの音楽の制作を行っている(甲6)。具体的には、作詞作曲(甲7)、アレンジ・編曲(甲8)、カラオケ音源制作(甲9)、BGM・サウンド制作(甲10)、社歌・企業イメージソングの制作(甲11)、学校校歌の制作(甲12)、CM音楽制作(甲13)、プロモーション音楽の制作(甲14)、テーマソング・イメージソングの制作(甲15)、テレビ番組の音楽の制作(甲16)、ミックスダウン・マスタリング(甲17)等多岐に及ぶ。そして、これら制作した音楽等は、記憶デバイスに記憶し、又はインターネット通信を介して顧客に提供している。
(2)楽譜制作事業
請求人は、顧客からの求めに応じて、あらゆるジャンルの楽曲についての楽譜、譜面の制作及び編曲に係る事業を行っており、これら作成した楽譜、譜面を顧客に対して電子データ又は紙媒体として提供している(甲18)。
(3)音楽教室事業
請求人は、ギター教室、ピアノ教室、ドラム教室、ベース教室、ボーカル教室、ボイストレーニング教室等をはじめとする各種の音楽レッスンを、生徒宅への出張訪問、レンタルスタジオ及びインターネット通信等の様々な形態で運営している(甲19)。
3 引用商標の周知性について
(1)請求人の実績
前記したとおり、請求人は顧客からの求めに応じて音楽の制作を主業務としている。そして、これまでに携わった楽曲数は累計8,000曲にも及び、大手企業のテレビCM、企業・官公庁のプロモーション、テレビ番組、教育機関に対する学校校歌等、様々な音楽の制作、演奏及び楽譜の制作等を行っている(甲6?甲18)。
また、請求人の取引先としては、不特定多数の需要者に対する露出度が極めて大きいレコード会社、テレビ局をはじめとする大手企業、官公庁、教育機関と広範囲に及ぶ(甲4)。
さらに、都道府県別の顧客数についても、都市圏を始め、47都道府県の全てにおいて多くの顧客を有している(甲20)。
このことは、2014年の設立以来、請求人の売上げが順調に伸びていることからも裏付けられており(甲21)、請求人の属する音楽プロダクション業界においてその存在感を高めている。
(2)引用商標の広告形態
請求人は、「オクターブミュージック」の設立後、2014年3月より、Google LLCが提供する広告サービスである「Googleアドワーズ」及びヤフー株式会社が提供する広告サービスである「Yahoo!プロモーション広告」において、継続的に請求人の企業紹介のための広告を行い、その名称の周知化を図ってきた。
そして、2014年3月から、本件商標の登録出願時(2017年3月17日)までの累計閲覧回数は、「Googleアドワーズ」が2,161,819回、「Yahoo!プロモーション広告」が469,713回、本件商標の査定時(2017年10月18日)までの累計閲覧係数は、「Googleアドワーズ」が2,519,365回、「Yahoo!プロモーション広告」が773,828回と、出稿される全ての広告における平均掲載順位においてもほぼ一位となっている(甲22)。
その結果、大手検索サイト「Google」及び「Yahoo」において検索キーワードとして「採譜」や「作曲」を含む検索タームで検索すると、請求人に関する広告記事が常に最上位に表示される結果となっている(甲23)。
さらに、ツイッター、フェイスブック、ブログ等のソーシャルメディアサイトにおいても、日本を含む全世界の一般消費者に向けて請求人の事業が紹介されている(甲24)。
(3)広告宣伝費用
請求人は、インターネット広告を積極的に行い、年度別の広告宣伝費も、2014年度が574,870円、2015年度が4,027,389円、2016年度が4,919,362円、2017年度が5,086,088円と年々増大し、毎年の売上に占める広告宣伝費の割合が約11%と高額を維持している(甲25)。
(4)請求人のホームページへのアクセス数
請求人は、オクターブミュージックオフィス(http://octave-mo.com/)、スコアクリエイション(http://score-creation.net/)及びオクターブミュージックスクール(http://octave-ms.com/)のウェブサイトを、2014年3月より開設して、ホームページを通じて広告宣伝活動を行っている(甲6?甲19)。そして、各ウェブサイトにおいては、引用商標が使用されており、アクセス数は以下のとおりである(甲26)。
ア 主に音楽制作業務を紹介する「オクターブミュージックオフィス」のウェブサイト(甲6?甲17)については、2014年3月から本件商標の登録出願時までの期間に194,122件、同月から本件商標の査定時までの期間に323,992件のアクセス数(アクセスユーザー人数)がある。
イ 主に採譜事業を紹介する「スコアクリエイション」のウェブサイト(甲18の1)については、2014年3月から本件商標の登録出願時までの期間に91,713件、同月から本件商標の査定時までの期間に128,798件のアクセス数(アクセスユーザー人数)がある。
ウ 主に音楽スクール事業を紹介する「オクターブミュージックスクール」のウェブサイト(甲19)については、2014年3月から本件商標の登録出願時までの期間に8,027件、同月から本件商標の査定時までの期間に8,307件のアクセス数(アクセスユーザー人数)がある。
上記のような膨大なアクセス数を有するがゆえに、特に「オクターブミュージック」のウェブサイトについては、大手検索サイトである「Google」及び「Yahoo」で、検索キーワードとして「オクターブミュージック」を検索したところ、常に最上位にランキングされている(甲27)。
さらに、「Google」で検索キーワード「オクターブミュージック」で検索すると、Googleの検索機能である「Googleサジェスト」(甲28の1)に基づき、請求人に関連するキーワードが多数表示される(甲28の2?甲28の3)。
以上のことからも、「オクターブミュージック」といえば請求人が使用する引用商標であると、本件商標に係る商品、役務の提供を受けようとする需要者に広く認識されている。
(5)小括
以上のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、引用商標は請求人の業務に係る商品及び役務を表示するものとして、需要者に広く知られていたことは明らかである。
4 本件商標と引用商標の類否について
(1)本件商標
ア 外観
本件商標は、明朝体風の書体の片仮名文字で「オクターブミュージック」と表してなるものである。
イ 称呼
前記した本件商標の外観と相まって、本件商標からは「オクターブミュージック」の称呼が自然と生じる。
ウ 観念
本件商標は、外観において「オクターブミュージック」と一連一体に構成されてなり、本件商標の構成中、前半の「オクターブ」の部分は「全音階上の任意の音から数えて八番目にあたる音」(「大辞林第三版」三省堂)の意味を有し、後半の「ミュージック」の部分は「音楽」の意味を有する極めて平易な英語である。そうすると、本件商標は「全音階上の任意の音から数えて八番目にあたる音から構成される音楽」程度の観念を有する。
(2)引用商標
ア 外観
引用商標1は、片仮名文字で「オクターブミュージック」と書してなるものである。また、引用商標2は、欧文字で「Octave music」と書してなるものである。さらに、引用商標3は、欧文字で「Octave music」と書してなるもので、「Octave」の「O」の文字がモノグラム化されており、かつ、「Octave」と「music」の配色が異なっている。
イ 称呼
引用商標は、その外観と相まって、「オクターブミュージック」の称呼が生じる。
ウ 観念
引用商標は、本件商標と同様に「全音階上の任意の音から数えて八番目にあたる音から構成される音楽」程度の観念を有する。
(3)本件商標と引用商標の類否
商標の類否判断に際しては、外観、称呼及び観念のそれぞれの判断要素を総合的に考察して行われる。まず、外観においては、本件商標と引用商標1は、同じ片仮名文字「オクターブミュージック」であり、外観が同一である。
一方、本件商標と引用商標2及び引用商標3は、片仮名文字と欧文字という相違はあるものの、称呼、観念が共通する。
すなわち、本件商標と引用商標は、いずれも称呼が「オクターブミュージック」で一致する。
また、本件商標及び引用商標からは、「全音階上の任意の音から数えて八番目にあたる音から構成される音楽」という特定の観念が生じるため、観念においても一致する。
以上より、本件商標と引用商標1は外観、称呼、観念のいずれにおいても同一であるため、全体として同一である。また、本件商標と引用商標2及び引用商標3は、少なくとも称呼及び観念が同一であるため、全体として類似する。
(4)本件商標の指定商品及び指定役務と引用商標に係る商品及び役務の類否
ア 本件商標の第9類に係る指定商品について
請求人は、顧客からの求めに応じて音楽の制作を行っており、これら制作した音楽は記憶デバイスに記憶し、又はインターネット通信を介して顧客に提供している(甲6?甲17)。
また、あらゆるジャンルの楽曲についての楽譜、譜面の制作及び編曲に係る事業を行っており、これら作成した楽譜、譜面を顧客に対して電子データとして提供している(甲18)。
そうすると、これら請求人の商品は、本件商標の第9類の指定商品「電子楽器用自動演奏プログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM」、「インターネットを利用して受信し、及び保存することができる音楽ファイル」、「電子出版物」及び「インターネットを利用して受信し、及び保存することができる画像ファイル」と同一又は類似である。
イ 本件商標の第15類に係る指定商品について
本件商標の第15類の指定商品である「楽器」については、前記した第9類の指定商品「電子楽器用自動演奏プログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM」と類似関係にある(甲6?甲17)。
そうすると、請求人の事業のうち音楽制作事業と、本件商標の第15類の指定商品は類似の関係にある。
ウ 本件商標の第41類に係る指定役務について
請求人は顧客からの求めに応じて、音楽の制作を行い、インターネット通信を介してこれら音楽の提供を行っている(甲6?甲17)。また、あらゆるジャンルの楽曲についての楽譜、譜面の制作及び編曲に係る事業を行っており、これら作成した楽譜、譜面を顧客に対して電子データとして提供している(甲18)。さらに、音楽教室の運営も行っている(甲19)。
そうすると、これら請求人の役務のうち、「インターネット通信を介した音楽の提供」については、本件商標の第41類の指定役務「音楽の演奏」と同一である。また、請求人の役務のうち、「楽譜、譜面の電子データとしての提供」については、本件商標の第41類の指定役務「電子出版物の提供」と同一である。さらに、請求人の役務のうち、「音楽教室の運営」については本件商標の第41類の指定役務「技芸・スポーツ又は知識の教授」と同一である。
(5)小括
以上のとおり、外観、称呼、観念等によって、取引者及び需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すると、本件商標と引用商標1は同一であり、本件商標と引用商標2及び引用商標3とは類似の商標であり、かつ、いずれも同一又は類似の商品について使用するものである。
5 本件商標に係る被請求人の意図について
(1)被請求人の本件商標を登録出願するまでの経緯
ア 被請求人について
被請求人が開設しているウェブサイト(http://mimicopi.jp/)によれば、被請求人は2016年7月時点において「耳コピークラブ 採譜の部屋」というウェブサイト名の下で、主に顧客からの依頼に応じて、音楽の曲中で実際に演奏されている音を聞きとった上で楽譜を作成する、いわゆる「耳コピー」を業として営んでおり(甲30)、現在は、ウェブサイト名を「CD耳コピークラブ」に変更し、同様の事業を継続していると推測できる(甲31)。
そして、被請求人は、自身のウェブサイトを通じて、「年間採譜注文曲数と年間採譜完成曲数は日本トップ」、「毎週10曲?15曲納品しております。年間納品曲数は年平均350曲程。」、「これで当方が業界最安値となりました。」等をうたい文句として広告宣伝を行っている(甲30)。
一方で、知識検索Q&Aサイト「Yahoo!知恵袋」又はソーシャル・ネットワーキング・システム「フェイスブック」において、被請求人が運営するウェブサイト名の一部である「耳コピークラブ」で検索すると、被請求人名、あるいは被請求人のウェブサイト名「(CD)耳コピークラブ」の名の下、多くの依頼者よりクレームに近いコメント等も散見される(甲32)。さらに、被請求人に採譜を依頼したものの、納期を過ぎても納品がされず、被害を受けたという被請求人の顧客が請求人に採譜を依頼してくるという事案も存在する(甲33)。
イ 被請求人から請求人への連絡
2016年7月22日、請求人が開設する前記ウェブサイト(http://octave-music.com/)内の「ご質問メール」を通じて、被請求人より「検索サイトにて『耳コピークラブ』で検索すると請求人の広告が表示されること」、「請求人が、被請求人の料金体系に倣った採譜業を行っていること」、「『耳コピークラブ』の屋号の無断使用を禁じること」、「請求人が被請求人の屋号を使用する行為は営業妨害であること」を趣旨とする通知がされた(甲35)。
また、翌日には、被請求人より請求人に対して、「検索サイトにて、『CD耳コピークラブ』、『耳コピクラブ』で検索すると請求人の広告のみが表示されること」、「被請求人を意識した事業を即中止すること」を趣旨とする通知がされ(甲36)、被請求人が開設するウェブサイトには、「(重要!)」という題目の下で、特定の会社名は名指ししないものの、請求人を想定したと思われる忠告文が掲載された(甲37)。
さらに、被請求人より請求人に対して、「今回の請求人による広告での被請求人の屋号の無断使用に関する問題は、被請求人が開設するウェブサイト上にて表示済みであること」を趣旨とする通知がされた(甲38)。
ウ 請求人から被請求人への回答
以上のような被請求人からのクレームに対して、2016年7月25日に、請求人は被請求人に対して「『耳コピ』のキーワードに対する検索結果として、請求人の広告が表示されるのは、検索サイトにおける独自アルゴリズムに基づくものであり、請求人の意図は全く関係ないこと」、「実際に、請求人は『CD耳コピークラブ』、『耳コピークラブ』の語は事業において一切使用していないこと」を趣旨とする回答を行った。さらに、「被請求人のウェブサイトにおける虚偽表示、誇大広告の事実」、「被請求人によるこれまでの営業妨害的な行為」について、大手検索サイトを始め、警察庁、消費生活センター等への通知を行う旨を通知した(甲39)。
エ 被請求人から請求人への再度の連絡
前記の請求人から被請求人に宛てた回答に対して、2016年7月26日、被請求人は請求人に対して、「『CD耳コピークラブ』で検索した際に、請求人の広告が表示されないように対策をとること」を趣旨とする通知がされた(甲40)。
オ 被請求人による本件商標の登録出願
前記のとおり、被請求人は請求人に対して、「CD耳コピークラブ」及び「耳コピークラブ」については使用しないようにとの忠告をしておきながら、2017年3月17日に、これまで被請求人が全く使用実績のない本件商標について登録出願(商願2017-43975号)を行った(甲1)。
カ 被請求人の商標「CD耳コピークラブ」の登録出願
被請求人は、2017年5月2日に商標「CD耳コピークラブ」について登録出願(商願2017-68082号)を行っている(甲41)。
キ 被請求人の請求人に対する本件商標に基づく警告及び金銭請求
被請求人は、本件商標の登録証の発行日(2017年12月5日)以後である2017年12月12日付の電子メール(甲42)において、請求人に対して、本件商標に係る商標権の侵害を理由とする請求人の使用する「オクターブミュージック」の使用停止の請求を行っている。
さらに、被請求人は請求人に対して、2017年12月18日付の電子メールにて、本件商標の登録日である同年11月24日から同年12月23日までの本件商標の使用料として30万円、同月24日から2018年1月23日までの本件商標の使用料として30万円の支払の請求を行っている(甲43)。
その後も、被請求人は、2017年12月26日付の電子メール(甲44)及び同月27日付けの電子メール(甲45)において、請求人に対して、本件商標の買い取りの請求を行っている。
ク 請求人代理人による、被請求人に対する通知書の送付
以上の被請求人からの金銭請求に対して、請求人は、弁護士を代理人として2017年12月28日付けで、被請求人に対して、「金銭要求は応じられないこと」、「本件商標に対する無効審判請求を検討していること」、「被請求人の今後の対応によっては不正競争防止法等に基づく損害賠償請求も検討すること」を趣旨とする通知書を送付した(甲46)。
ケ 通知書に対する被請求人からの回答書
前記クの通知書に対して、被請求人は、2018年1月4日付けで、「本件商標に加えて、欧文字からなる商標も2017年12月26日に登録出願済みであること」、「請求人の今後の事業への新規参入を阻止するために『オクターブミュージック』を出願したこと」を趣旨とする回答書を請求人に送付した(甲47)。
(2)被請求人の請求人に対する言動及び行動について
2016年7月22日の被請求人の請求人に対する最初の連絡の内容に基づけば、検索サイトにおいて、被請求人の屋号である「耳コピークラブ」で検索すると、請求人の「広告」が表示されることに対して、「屋号の無断使用」であると主張している。
しかしながら、請求人が回答書においても主張するとおり、特定のキーワードによる検索結果としての広告表示は、広告業者における独自のアルゴリズムに基づき表示されるのであって、広告依頼主の意図が介在するものではない。
それ以前に、請求人は、請求人が開設するウェブサイト上において、被請求人が自身の屋号であると主張する「CD耳コピークラブ」や「耳コピークラブ」を使用して商品や役務の提供を行った経緯は一切ない。
なお、請求人は、同ウェブサイト上において「耳コピ」又は「耳コピー」という用語は用いているが(甲48)、「耳コピ」又は「耳コピー」なる用語は、「音楽を聴いて演奏を再現したり、楽譜を起こす作業、技術」として、一般的に使用されている普通名称である(甲49)。
さらに、被請求人は、請求人に対する最初の連絡を行った2016年7月22日時点において、「CD耳コピークラブ」や「耳コピークラブ」についての商標権を保有しておらず、かつ、商標登録出願すら行った事実もなく、「CD耳コピークラブ」や「耳コピークラブ」が被請求人の屋号を指し示すものとして周知・著名となっている事実も一切ない。
したがって、被請求人の請求人に対する主張は、法的根拠に欠ける主張であるとともに、さらには、請求人に対する営業妨害ともとれる行動であるといわざるを得ない。
(3)被請求人による不正の目的について
前記(1)オのとおり、被請求人は請求人とのやり取りの後に、これまでに、何ら指定商品、指定役務への使用実績がなく、請求人が長年において使用し、信用を築いてきた「オクターブミュージック」と同一の本件商標を登録出願し、その後、前記(1)キのとおり、本件商標に基づく金銭請求を請求人に対して行っている。
このような事情に鑑みれば、被請求人が偶然の一致により本件商標を採択したということは到底できず、被請求人は、本件商標が請求人により登録されていないことを奇貨として、請求人に対して、高額のライセンス料を請求することを目的として、又は、本件商標を請求人に対して高額で買い取らせることを目的として、本件商標を登録出願したということが容易に推測できる。
さらに、前記(1)ケのとおり、被請求人からの回答書によれば、本件商標の意図として「請求人の代表者が新規参入できないように」との目的であることを主張していることからも、請求人の今後の事業参入を阻止することを目的として、本件商標を登録出願したものである。
以上のとおり、被請求人による本件商標の登録出願は、不正の目的をもってされたものといえる。
6 商標法第4条第1項第10号該当性について
前記4のとおり、本件商標と引用商標とは同一又は類似する商標であり、本件商標は、引用商標に係る請求人の商品と同一又は類似の商品について使用するものである。
そして、前記3のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時において、既に周知性を獲得しており、その周知性は、本件商標の登録査定時においても維持されていたと認められる。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当する。
7 商標法第4条第1項第15号該当性について
前記4のとおり、本件商標と引用商標とは同一又は類似する商標であり、本件商標は、引用商標に係る請求人の商品と同一又は類似の商品について使用するものである。
また、前記3のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時において、既に周知性を獲得しており、その周知性は、本件商標の登録査定時においても維持されていたと認められる。
そして、本件商標と引用商標との同一性又は高い類似性を考慮すると、被請求人が本件商標を使用した場合には、取引者及び需要者において、被請求人の商品が請求人の商品であるとの狭義の混同が生じるのみならず、被請求人の商品は、請求人と経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品であるという、広義の混同をも生じることになる。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
8 商標法第4条第1項第19号該当性について
前記4のとおり、本件商標と引用商標とは同一又は類似する商標であり、本件商標は、引用商標に係る請求人の商品と同一又は類似の商品について使用するものである。
そして、前記3のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時において、既に周知性を獲得しており、その周知性は、本件商標の登録査定時においても維持されていたと認められる。
さらに、前記5のとおり、被請求人は、請求人から高額のライセンス料を請求することを目的として、又は、本件商標を高額で買い取らせることを目的として、さらには、故意に請求人の今後の事業参入を阻止して損害を与えるという不正の目的をもって、本件商標を登録出願したものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。
9 商標法第4条第1項第7号該当性について
前記5(3)のとおり、被請求人が偶然の一致により本件商標を採択したと考えることはできず、引用商標の存在を知った上で、引用商標が請求人により商標登録出願がされていないことに乗じて、剽窃的に本件商標の登録を得たものである。
そして、前記5(1)に記載した被請求人の一連の言動や行動からは、自らを被害者であるかのように装うことで正当化し、請求人の商品、役務を市場から排除することや、請求人に本件商標を高額なライセンス料で貸し付け又は高値で売りつける等の何らかの不正な意図をもっていたことが容易に推測できる。
そうすると、本件商標を維持することは、請求人の正当な利益を害するとともに、公正な商取引の秩序を著しく害するものであり、公序良俗に反するものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
10 総括
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同第15号、同第19号及び同第7号に該当するものであり、その登録は、同法第46条第1項第1号により無効とされるべきものである。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」との審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第16号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 本件商標を実際に1年以上使用し、楽譜をダウンロード販売している。
2 「CD耳コピークラブ」が2018年1月26日に登録第6013880号商標になったにもかかわらず、ネット上で「CD耳コピークラブ」、「耳コピークラブ」で検索すると、請求人広告が表示されていた。
これは2016年春から被請求人が確認し、同年7月に通告していたが、一向に改善する気配がなく放置し、2018年1月26日以降も放置していたため、1月26日以降、商標法違反になった。
被請求人は、請求人に登録第6013880号商標の使用を許可しておらず、ネット広告で表示し続けた事実があり、故意でなくともこれは商標法違反に該当する。
3 審判請求書には請求人に不利な証拠が添付されておらず、審判請求書の内容は、以下のとおり、正しくない。
(1)乙第1号証
審判請求書16頁「被請求人による不正の目的について」の1ないし2行目の「これまでになんら指定商品、指定役務への使用実績がなく」の部分については、被請求人は、実際に登録商標「オクターブミュージック」を1年以上使用し、楽譜を販売している。使用開始は2017年3月5日、商標登録出願は2017年3月17日である(乙1)。
被請求人の活動地城は「東日本」と表示してあり、このページを閲覧した購入者にはN氏の会社と「区別」できるように表示している。
購入者に対して、N氏の会社との混同は今まで一切起きていない。その証拠にクライアントからN氏に被請求人のページの問合せが皆無だった。
また、被請求人は、ダウンロード型楽譜販売で、N氏のオーダーメイド型販売で競合は起きない。その証拠として被請求人ダウンロード楽譜販売が開始されていても、N氏の昨年の事業利益は増収だった。
N氏の事業を拝見すると、ダウンロード型楽譜販売がなされていない。N氏はダウンロード販売にいまだ新規参入してない。
また、被請求人が行うダウンロード型販売においては、曲名、ピアノソロ譜等、自分の欲しい楽譜があるかに目が行きやすく、クライアントは業者名まで覚えていないか、見ていない。
(2)乙第2号証の1及び乙第2号証の2
被請求人は、「オクターブミュージック」が2017年11月24日に登録商標になった時点で、同年12月に請求人に数度メールを送ったが、これは請求人に登録商標になった事実を知らせるのが目的で、金銭授受が目的ではない。甲第45号証には続きがある。被請求人が最後に金銭の取引は停止にしたメールが存在する(乙2の1及び乙2の2)。乙第2号証以降に被請求人から請求人に対し、金銭を要求した事実は皆無で、金銭の授受も現在に至るまで皆無である。
また、請求人は、営業妨害が目的で被請求人が登録出願したとあるが、請求人が営業を続けることに、被請求人は現在、何ら妨害はしておらず、N氏の被請求人の「オクターブミュージック」登録商標使用に関しては不問としている。
その証拠としては、請求人が現在「オクターブミュージック」で何の支障もなく営業できている事実がある。現在、被請求人の採譜業は増収になっているので、営業妨害する必然性がない。
(3)乙第3号証
請求人は、「オクターブミュージック」以外に経営コンサルタント「Lightsco」を経営している(乙3)。請求人は、他社に多額の金銭を得ながら、会社経営を指南するという、経営コンサルのプロである。
しかし、請求人は「オクターブミュージック」は、長い間、商標登録出願せず、被請求人が出願した事を知ってから、商標登録出願し、「Lightsco」に至っては未だ出願されていないと思われる。(2018年4月現在)
(4)乙第4号証
請求人は、アメリカ支社もあるとのことだが、ネット上には「事業実績」がないツイッターが存在してる(乙4)。
(5)甲第39号証の第1頁
「問い合わせ事項への回答 1、貴殿の屋号『CD耳コピークラブ』『耳コピークラブ』の使用の事実は一切ございません。」の部分は、正しくない。
請求人が耳コピークラブで検索した結果には、「オーダーメイド楽譜作成、採譜、安心の顧客満足度99%」という請求人の広告が載っている(甲34の3)。
被請求人の商号検索で請求人の広告が載るのは、紛れもない事実であった。これは2016年春ないし2018年4月中旬まで続いた。
(6)請求人の周知性について
「耳コピークラブ」で検索すると、「オクターブミュージック」の広告も表示されるのは紛れもない事実だった。
したがって、請求人は「オクターブミュージック」と「耳コピークラブ」で周知性の程度を高めた可能性があり、純粋に「オクターブミュージック」のみで100%周知性を得てきたとはいい難い。
請求人は被請求人が指摘した、2016年7月に被請求人商号検索で広告を表示されないようにする努力をするべきだった。
(7)乙第5号証
被請求人の屋号「CD耳コピークラブ」、「耳コピークラブ」は2018年1月26日に登録商標となった(乙5)。
(8)乙第6号証の1及び乙第6号証の2
被請求人の登録商標「CD耳コピークラブ」を無断で使用することは2018年1月26日以降、商標法違反である。被請求人の商標検索で他社広告が表示される件に関しては2018年4月に警察に相談済みである。ヤフーに対しても、政策企画部に対し被請求人の登録商標の検索キーワード使用禁止を簡易書留で2018年4月2日に通達している(乙6の1?乙6の2)。
(9)乙第7号証の1ないし乙第7号証の5
「CD耳コピークラブ」で検索すると、2018年4月12日までは、請求人広告が表示されていた(乙7の1?乙7の4)。
(10)乙第8号証の1ないし乙第8号証の9
しかし、再び2018年4月22日に「CD耳コピークラブ」で検索し確認したところ、請求人の広告は表示されなかった(乙8の1?乙8の9)。
(11)甲第32号証の1ないし甲第32号証の3
甲第32号証の2及び甲第32号証の3については、既に楽譜が納品されている。
甲第32号証の1については、「解決済み」の知恵袋が貼ってある。楽譜の件に関しては、ここに書かれた方の楽譜は、すべて納品済で、質問者自ら削除している。
(12)CD耳コピークラブのホームページについて
楽譜制作数や指摘されたその他の記述は、現在のホームページには記載されていない。
(13)オクターブミュージックを商標登録出願した経緯
ア 2006年9月に被請求人は発足し、順調に営業していたが、事情により、2009年8月から1年の間の楽譜の納品が遅れた。
イ 2017年春より、納期が回復し現在に至るが、その中で2016年4月に被請求人商号検索時に請求人広告が掲載される現象に気づき、何度も確認してからN氏にメールを送った。
ウ N氏から宣誓書なるメールが送られてきた。
エ ヤフーに問い合わせ(乙10)、ここでCD耳コピークラブの登録商標を考え始め、商標出願を調べだした。また、ダウンロード楽譜販売も同時期に考え出していた。
オ 2016年10月29日に被請求人ホームページが消えたと顧客から連絡があり、3日ほど本当に消滅してしまった。当時の顧客とのやり取りが残っている(乙11の1?乙11の3)。
カ ホームページは3日後に回復したが、これは、同業他社である請求人による妨害ではないかと思い、自分の生活を守るため、ダウンロード販売業名は「オクターブミュージック」にしたほうがいいのではと考えた。
キ 「オクターブミュージック」で特許庁ホームページを調べたら商標登録出願されておらず、「著名ではない」と判断し商標登録出願に踏み切った。
ク 被請求人は、2017年3月に「オクターブミュージック」を使用して楽譜のダウンロード販売を開始し(乙1)、それと同時に「オクターブミュージック」を商標登録出願した。
ケ 2017年11月に登録査定が来た。その後の被請求人の行動は請求人が証拠提出したとおりである。最後は、被請求人が金銭授受を断った。
コ 被請求人は、金銭目的、営業妨害目的ではなく、あくまでも妨害の数々を止めるため、被請求人の生活を守るため商標登録出願しただけである。 なお、N氏が「オクターブミュージック」で今後活動することに関しては被請求人は不問を続ける。
4 平成30年5月28日付け上申書
ヤフーに対する登録商標の検索キーワード使用禁止に関する通達(上記3(8))に対して、平成30年5月1日に返信が来た。返信内容は「掲載停止の措置を講じております」であった(乙13)。
5 平成30年9月25日付け上申書
(1)請求人は、甲第39号証において、「問い合わせ事項への回答」の下の部分に、「広告を独自のアルゴリズムで表示していることはご存じでしょうか?」、「弊社では広告のキーワード設定で貴殿屋号を設定しておらずとも、CD耳コピークラブや耳コピークラブといった『耳コピ』のキーワードとして検索結果として弊社の広告が表示されるのは当然のことです。」と記述している。
しかし、請求人の広告内で「対象外キーワード」に「CD耳コピークラブ」、「耳コピークラブ」などの設定をすれば、請求人のオクターブ広告は、被請求人登録商標の検索時は表示されなかったはずである(乙15)。
被請求人は、請求人に対し、被請求人登録商標を使用、広告表示をしてもよいと許可を出してはいない。
被請求人の事業は12年以上続いており、著名である。請求人の提出した著名性の証拠については、2017年3月以前の請求人が公的に発行している書類等(例、確定申告、株主に対する事業報告書、会員に発行している発行部数明記の公報など)の客観的な証拠の提示がない限り、それを立証するものとはならない。
(2)甲第32号証の1に関する個人情報は、開示されなかった(乙14)。

第5 当審の判断
請求人が本件審判を請求するにつき、利害関係について争いがないから、本案について判断する。
1 請求人及び被請求人提出の証拠及び両人の主張によれば、次のとおりである。
(1)請求人について
ア 請求人は、平成25年12月に、音楽制作、楽譜制作及び音楽教室事業を主な目的として、「オクターブミュージック」を設立した。その後、当該事業は、同27年3月、「合同会社オクターブミュージック」として法人組織化され、同29年4月に現商号である「株式会社オクターブミュージック」に変更された。同会社の目的は、「音楽制作、出版」、「楽譜制作、出版」、「音楽教室の運営」等とされ、代表取締役はN氏である(甲3)。
イ 請求人は、オクターブミュージックオフィス(http://octave-mo.com/)、スコアクリエイション(http://score-creation.net/)、オクターブミュージックスクール(http://octave-ms.com/)の各ウェブサイトを開設し、各ウェブサイトにおいて、「株式会社オクターブミュージック」及び「Octave music Inc.」の標章並びに引用商標を使用している(甲6?甲19)。
(2)被請求人について
被請求人は、遅くとも平成28年7月には、そのホームページにおいて、顧客からの依頼に応じて、音楽の曲中で実際に演奏されている音を聞きとった上で楽譜を作成し、その楽譜を販売する事業について、「CD耳コピークラブ」の標章を使用していた(甲30、甲31)。
被請求人が使用する「CD耳コピークラブ」は、同30年1月26日付けで登録第6013880号として商標登録された(甲41、乙5)。
(3)本件商標の登録出願の経緯について
ア 平成28年4月、被請求人は、自らの業務に使用する「CD耳コピークラブ」、「耳コピークラブ」等の文字をインタ-ネット検索すると、請求人の広告が掲載される現象に気づき、同年7月22日に、請求人に対し「検索サイトにて『耳コピークラブ』で検索すると請求人の広告が表示されること」、「請求人が、被請求人の料金体系に倣った採譜業を行っていること」、「『耳コピークラブ』の屋号の無断使用を禁じること」、「請求人が被請求人の屋号を使用する行為は営業妨害であること」等を内容とする電子メールを送付した(甲35、乙7)。また、被請求人は、翌日である同年7月23日にも請求人に対し「検索サイトにて、『CD耳コピークラブ』、『耳コピークラブ』で検索すると請求人の広告のみが表示されること」、「被請求人の屋号をNGワード、又は検索キーワードから削除すること」等を内容とする電子メールを送付した(甲36)。
イ これに対し、平成28年7月25日付けで,請求人は被請求人に対し、「回答及び回答要請・警告及び謝罪要請・改善要請・誓約書提出要請」と題する電子メールを送付し、「『耳コピ』のキーワードに対する検索結果として、請求人の広告が表示されるのは、検索サイトにおける独自アルゴリズムに基づくものであり、請求人の意図は全く関係ないこと」、「実際に、請求人は『CD耳コピークラブ』、『耳コピークラブ』の語は事業において一切使用していないこと」とする回答を行った。また、同電子メールにおいて、請求人は、被請求人のウェブサイトにおける虚偽表示、誇大広告の事実、被請求人によるこれまでの営業妨害的な行為について、大手検索サイトを始め、警察庁、消費生活センター等への通知を行う旨を通知した(甲39)。
ウ さらに平成28年7月26日には、被請求人は請求人に宛てて「『CD耳コピークラブ』で検索したとき請求人の広告が表示されないようにして欲しい」等と記載した電子メールを送付した(甲40)。
エ 被請求人の主張によれば、被請求人は、この時点で、「CD耳コピークラブ」の商標登録を考え始めたが、平成28年10月29日に顧客より被請求人のホームページが消えたとの連絡があり、これは、同業他社である請求人による妨害ではないかと思い、自分の生活を守るため、ダウンロード販売業名は「オクターブミュージック」にしたほうがいいのではと考えた。
オ 被請求人は、特許庁ホームページで「オクターブミュージック」を調べたが商標登録出願されていないことを確認し、平成29年3月17日付けで「オクターブミュージック」を商標登録出願した。同出願については、同年11月24日付けで商標登録された(甲1)。
カ 被請求人は、本件商標の登録証の発行日(平成29年12月5日)以後である平成29年12月12日付の電子メールにおいて、請求人に対して、本件商標に係る商標権の侵害を理由とする商標「オクターブミュージック」の使用停止の請求を行った(甲42)。
さらに、被請求人は、請求人に対して、平成29年12月18日付の電子メールにて、本件商標の登録日である同年11月24日から同年12月23日までの本件商標の使用料として30万円、同年同月24日から同30年1月23日までの本件商標の使用料として30万円の支払請求を行った(甲43)。
その後も、被請求人は、平成29年12月26日付の電子メール及び同年同月27日付けの電子メールにおいて、請求人に対して本件商標の買取りの請求を行った(甲44、甲45)。
キ 以上の被請求人からの請求に対して、請求人は代理人を通じ、平成29年12月28日付けで、「金銭要求は応じられないこと」、「本件商標に対する無効審判請求を検討していること」、「被請求人の今後の対応によっては不正競争防止法等に基づく損害賠償請求も検討すること」等を内容とする通知書を被請求人に送付した(甲46)。
ク 被請求人は、上記カの電子メールを送付した後、平成29年12月27日付けで「商標権の買い取り、売買の取引の話はなしとする」旨の電子メールを請求人に送付した(乙2)。
ケ 被請求人は平成30年1月4日付けで、上記キの請求人の通知書に対して、「金銭は要らない」、「『OCTAVE MUSIC』の文字からなるもう一つの商標も同29年12月26日に登録出願済みであること」、「請求人が業界に『新規参入』できないようにするため、『オクターブミュージック』という名前を使って、『防衛目的』で商標出願したこと」、「警告、ライセンス料など、言葉を使用しただけで、金銭目的ではなく、被請求人に悪意はないこと」等を内容とする回答書を送付した(甲47)。
2 商標法第4条第1項第7号該当性について
上記1によれば、平成28年7月頃から、被請求人は、自己の業務に係る役務を表示する標章として使用していた「CD耳コピークラブ」、「耳コピークラブ」等の言葉をキーワードとしてインターネット検索すると、結果として請求人の広告が表示されることを巡って、請求人に対して検索結果に請求人の広告が表示されないような措置をとること等を要求し、両者の間で争いとなっていたことが認められる。
被請求人は、その過程で、平成29年3月に、本件商標を登録出願したものであるが、上記1(3)エ、オ及びケのとおり、同業者である請求人が被請求人のホームページの表示を妨害したものと考え、かかる妨害から自己の業務を防衛するため、請求人がその業務に係る役務に使用する標章であって、同人の商号の一部でもある「オクターブミュージック」の文字からなる「オクターブミュージック」を自己の商標にすることとし、かつ、当該商標は商標登録を受けていないことを特許庁ホームページで確認の上、商標登録出願し、商標登録を受けたと推認し得るものである。
そして、被請求人は、本件商標の商標登録を得た後、平成29年12月に、上記1(3)カのとおり、請求人に対して、本件商標権に基づいて、商標「オクターブミュージック」について、使用停止、金銭支払の要求、商標権の買取り請求に及んでいるものである。
さらに、被請求人は、本件商標に加えて、その欧文字表記であり、引用商標2と同じつづりの欧文字からなる「OCTAVE MUSIC」商標も登録出願済みであること(商標登録願第2017-172747号)や、請求人の事業新規参入を阻止するために「オクターブミュージック」の名前を使用し、商標登録出願したこと等を内容とする回答書を平成30年1月に送付していることも認められる(甲47)。
このような経緯に照らせば、被請求人は、本件商標について、請求人がその業務に係る役務について使用する標章であると知った上で、同商標が商標登録されていないことを奇貨として、請求人の営業の妨害をする目的をもって登録出願したものとみるのが相当であり、本件商標は、出願の経緯、目的に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底認容できない場合に当たるものとして、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するといわざるを得ない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
3 被請求人の主張について
被請求人は、答弁書及び上申書において、「CD耳コピークラブ」、「耳コピークラブ」等のキーワードについて、請求人がインターネットの「検索外ワードの設定」、「検索キーワードの削除」を怠っていた旨主張しているが、かかるキーワードの検索結果に請求人の広告が表示されないような措置を要求することと、請求人の業務に係る標章を自己の商標として登録出願することは別個の問題であり、前者の目的を果たすために本件商標の登録出願を行うことに社会的相当性があるものとはいえず、上記で認定した本件商標の出願に係る経緯によれば、被請求人が他人(請求人)の営業を困難にする意図をもって、その事業に係る標章を自己の商標として採択し、登録出願したものといわざるを得ないから、かかる主張は採用することができない。
また、被請求人は、平成29年12月27日付けで本件商標について「商標権の買い取り、売買の取引の話はなしとする」旨の電子メールを請求人に送付するなど、金銭の請求が目的ではなかった旨主張しているが、事後的に金銭請求を停止したとしても、本件商標の商標登録出願に係る事実を全体として評価すれば、上記のとおり、出願の経緯、目的に社会的相当性を欠くものがあると判断するのが相当であるから、かかる主張も採用することができない。
4 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するものであり、その登録は、同条第1項の規定に違反してされたものであるから、その余の無効理由について判断するまでもなく、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効とすべきである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲(引用商標3:色彩については審判請求書参照。)



審理終結日 2019-03-06 
結審通知日 2019-03-08 
審決日 2019-03-27 
出願番号 商願2017-43975(T2017-43975) 
審決分類 T 1 11・ 22- Z (W091541)
最終処分 成立  
前審関与審査官 白鳥 幹周 
特許庁審判長 冨澤 美加
特許庁審判官 鈴木 雅也
真鍋 恵美
登録日 2017-11-24 
登録番号 商標登録第5998093号(T5998093) 
商標の称呼 オクターブミュージック、オクターブ 
代理人 田中 雅敏 
代理人 遠藤 聡子 
代理人 梶原 圭太 
代理人 筒井 宣圭 
代理人 有吉 修一朗 
代理人 森田 靖之 

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