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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Z41
管理番号 1336230 
審判番号 取消2015-300800 
総通号数 218 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2018-02-23 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2015-11-09 
確定日 2017-12-04 
事件の表示 上記当事者間の登録第4638593号商標の登録取消審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 登録第4638593号商標の指定商品及び指定役務中,第41類「全指定役務」についての商標登録を取り消す。 審判費用は,被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4638593号商標(以下「本件商標」という。)は,「どこでも宅建」の文字を標準文字で現してなり,平成13年6月8日に登録出願,第41類「技芸・スポーツ及び知識の教授,資格認定試験・資格検定試験・就職試験その他認定・検定試験及びそれらの模擬試験の実施,資格認定試験・資格検定試験・就職試験その他認定・検定試験及びそれらの模擬試験の取り次ぎ,資格認定試験・資格検定試験・就職試験その他認定・検定試験及びそれらの模擬試験その他教育に関する情報の提供,企業における法務・税務・金融研修その他の研修の企画・運営又は開催,受験用及び研究用書籍その他の書籍の制作,研究用教材に関する情報の提供,資格試験受験相談会・セミナーの企画・運営又は開催,図書及び記録の供覧及びそれらに関する情報提供,美術品の展示,映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,映画の上映・制作又は配給,映画・演芸・演劇又は音楽の演奏に関する情報の提供,演芸の上演,演劇の演出又は上演,音楽の演奏,放送番組の制作,教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの企画・制作(映画放送番組・広告用のものを除く),教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの編集・複製(映画放送番組・広告用のものを除く),放送番組等の制作における演出,映像機器・音声機器その他放送番組の制作のために使用される機器の操作,パーティの企画,レクリエーション情報の提供,音響用又は映像用のスタジオの提供,レクリエーション施設の提供,娯楽施設の提供,映画・演芸・演劇・音楽又は教育研修のための施設の提供,興行場の座席の手配,映写機及びその付属品の貸与,映写フィルムの貸与,テレビジョン受信機の貸与,ラジオ受信機の貸与,図書の貸与,録音・録画機材の貸与,録音済み磁気テープ・録音済み磁気ディスク又は録音済みCDの貸与,録画済み磁気テープ・録画済み磁気ディスク・録画済みCD-ROM・録画済みDVDの貸与,ネガフィルムの貸与,ポジフィルムの貸与,遊戯用器具の貸与,コンピュータ用の文字データ・画像(静止画・動画の両者を含む。)データ・音声データを使用した国家資格取得講座及び法務・税務・金融研修その他の講座・研修のための文字・画像・音声を兼ね備えた教材用のビデオ・CD-ROM・DVDその他の記録媒体の制作,当選金付証票の発売」並びに第9類及び第16類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品を指定商品及び指定役務として,同15年1月24日に設定登録されたものである。
なお,本件審判の請求の登録は,平成27年11月24日である(以下,同登録前3年以内の期間を「要証期間」という場合がある。)。

第2 請求人の主張
請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由を要旨次のように述べた。
1 請求の理由
請求人の調査によれば,被請求人は,本件商標を,その指定商品及び指定役務のうち,第41類のいずれの指定役務についても,少なくとも過去3年に,日本国内において使用をしていない。
また,本件商標について専用使用権者は存在せず,通常使用権者として本件商標を使用している者も存在しない。
したがって,本件商標は,継続して3年以上日本国内において,商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれによっても,その第41類の全指定役務につき使用されていないものである。
2 弁駁の理由
(1)結合商標における類否判断
複数の構成要素からなる結合商標については,その特定の要素が強く支配的な印象を与える場合,若しくは,その一部がいわゆる付記的部分で略称できるものでない限り,原則として,全体としてひとつのまとまった商標として把握されるべきである(最高裁昭和37年(オ)第953号,最高裁平成3年(行ツ)第103号)。
(2)本件商標について
本件商標は,「どこでも宅建」であり,「ドコデモタッケン」の称呼が生じ,「場所を選ばず宅建のための試験勉強をする」といった一体不可分の観念を生じる。
すなわち,本件商標は,特定の要素が強く支配的な印象を与える場合でもなく,若しくは,その一部がいわゆる付記的部分で略称できるものでないため,全体として一つのまとまった商標として把握できる。
(3)使用に係る商標について
使用に係る商標「どこでも宅建とらの巻」は,「ドコデモタッケントラノマキ」の称呼が生じ,「場所を選ばず宅建の試験勉強をするための秘伝を記した書」,「場所を選ばず宅建の試験勉強をするための講義のたね本」,「場所を選ばず宅建の試験勉強をするためのあんちょこ」といった一体不可分の観念が生じる。
また,使用に係る商標「どこでもとらの巻」についても,「ドコデモトラノマキ」の称呼が生じ,「場所を選ばず使える秘伝を記した書」,「場所を選ばず使える講義のたね本」,「場所を選ばず使えるあんちょこ」といった一体不可分の観念が生じる。
すなわち,「どこでも宅建とらの巻」及び「どこでもとらの巻」については,特定の要素が強く支配的な印象を与える場合でもなく,若しくは,その一部がいわゆる付記的部分で略称できるものでないため,全体として一つのまとまった商標として把握されるべきである。
(4)本件商標と使用に係る商標との非類似性
ア 本件商標は,「どこでも宅建」であり,「ドコデモタッケン」の称呼が生じ,「場所を選ばず宅建のための試験勉強をする」という程の観念を生じる。
一方,使用に係る商標のうちの「どこでも宅建とらの巻」は,「ドコデモタッケントラノマキ」の称呼が生じ,「場所を選ばず宅建の試験勉強をするための秘伝を記した書」,「場所を選ばず宅建の試験勉強をするための講義のたね本」,「場所を選ばず宅建の試験勉強をするためのあんちょこ」という程の観念を生じる。
そこで,本件商標と使用に係る商標のうちの「どこでも宅建とらの巻」とを対比すると,両商標は,外観が明らかに異なり,称呼についても文字数が大きく異なり,観念も大きく異なるから,両商標は,非類似であり,社会通念上同一の商標ではない。
イ 使用に係る商標のうちの「どこでもとらの巻」は,「ドコデモトラノマキ」の称呼が生じ,「場所を選ばず使える秘伝を記した書」,「場所を選ばず使える講義のたね本」,「場所を選ばず使えるあんちょこ」という程の観念を生じる。
そこで,本件商標と使用に係る商標のうちの「どこでもとらの巻」とを対比すると,両商標は,外観が明らかに異なり,称呼についても,「ドコデモ」の部分のみが共通であって,それ以外の「タッケン」と「トラノマキ」とが異なり,観念も大きく異なるから,非類似であり,社会通念上同一の商標ではない。
(5)要証期間の使用が立証されていない点について
乙第2号証及び乙第3号証は,被請求人の主張によれば,「被請求人(通称LEC)のウェブサイトにおけるオンラインショップ(E学習センター)のページ」であるところ,被請求人は,これらの使用時期について,「 乙第2号証には『販売開始日 2015年5月19日 PM3:00』,『販売終了日 2015年10月18日 AM0:00』と明記され,乙第3号証には『2015年合格目標』と記載されている。」と主張する。
乙第2号証及び乙第3号証は,被請求人の役務に係る広告又は価格表に該当すると考えられるところ(商標法第2条第3項第8号),被請求人の本件商標の使用が,同号における使用に該当するためには,「商品若しくは役務に関する広告,価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し,若しくは頒布し,又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」の要件を満たす必要がある。
すなわち,被請求人は,被請求人の役務に係る広告又は価格表を,要証期間に現実に展示し,若しくは頒布し,又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供したことを示すことが必要である。
しかし,被請求人が提出した上記乙各号証には,確かに「販売開始日」,「販売終了日」といった記載があるものの,要証期間に,それらが現実にウェブサイト上に表示されていたことは不明である。
また,乙第2号証及び乙第3号証の各ページの右下には,「2016/02/03」の日付の表示があるが,これは,要証期間の日付ではない。
すなわち,被請求人提出の上記乙各号証によっては,被請求人の役務に係る広告又は価格表が,要証期間に現実に展示され,若しくは頒布され,又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供された事実は何ら立証されていない。
3 口頭審理陳述要領書(平成28年10月19日付け)
(1)本件商標と使用に係る商標の非同一性について
本件商標は,「どこでも宅建」であり,使用に係る商標の「どこでも宅建とらの巻」とは,上記2(4)で述べたとおり,非類似であるから,「どこでも宅建とらの巻」は,本件商標と社会通念上同一の商標ではない。
また,本件商標は,「どこでも宅建」であり,「ドコデモタッケン」の称呼が生じ,「場所を選ばず宅建のための試験勉強をする」という程の観念を生じる。
一方,使用に係る商標のうちの「どこでも宅建とら子」は,「ドコデモタッケントラノコ」の称呼が生じ,「場所を選ばず宅建の試験勉強をするための秘伝を記した秘蔵品」といった観念を生じる。
よって,本件商標と使用に係る商標のうちの「どこでも宅建とらの子」とは,その称呼及び観念が同一ではないので,「どこでも宅建とらの子」は,本件商標と社会通念上同一の商標ではない。
(2)要証期間の使用が立証されていない点について(乙2及び乙3)
被請求人は,「乙第2号証及び乙第3号証の各右下にある日付の表示は,データを紙に印刷した日付を示し,要証期間の日付ではない。被請求人は,現時点において,過去の要証期間の使用の立証を尽くしており,請求人の主張は,『過去の事実の立証』方法において,無理難題を要求するものにすぎない。」旨主張する。
しかし,インターネットのウェブサイトにおけるページを証拠として提出する際,その内容は,修正・改変しようと思えばできるものであることを鑑みれば,そのウェブページが実際に要証期間にインターネットに掲載されていた客観的事実の立証を求めるのは当然である。
そして,被請求人は,商標法第2条第3項に定義される「使用」をさらに証明することは無理であると認めているのであるから,被請求人が商標法第50条第2項に定める要証期間の本件商標の使用を証明できなかったことは明らかである。
(3)役務についての商標の使用に該当しない点について
乙第4号証は,1枚目の裏表紙と思われる部分に「定価 本体2,000円+税」の記載があり,3枚目の奥襟と思われる部分に,「2001年7月10日 第1版 第1刷発行」などの出版に関する記述があって,被請求人も,「別売テキスト」としている。
そうすると,上記テキストは,題号として「どこでも宅建とらの巻」が付された書籍であり,第16類「印刷物」に属する商品であるから,被請求人の使用行為は,商品「書籍」についての商標の使用に該当するものであって,本件審判の請求に係る第41類の指定役務についての使用に該当するものではない。
また,乙第2号証も,上記書籍の写真を掲載したものであって,当該書籍を使用することを案内しているだけであり,「技芸・スポーツ及び知識の教授」の役務の出所を表示するためのものではないから,第41類の指定役務についての使用に該当するものではない。
さらに,乙第3号証に係る「LEC宅建士独学教室」においても,「どこでも宅建とらの巻」は,「別売テキスト」と紹介されているのみである。
(4)要証期間の使用が立証されていない点について
仮に,乙第4号証に示される書籍が,「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」に該当するとしても,被請求人は,「標章を付した物(上記書籍)」を用いて,要証期間に実際に役務を提供した事実を,何ら具体的に証明していない。
乙第2号証及び乙第3号証には,「別売の講座使用テキスト」として,「どこでも宅建とらの巻」が掲載されているが,既に述べたとおり,乙第2号証及び乙第3号証をもってしては,要証期間の被請求人の本件商標の使用は,何ら立証されていないから,乙第4号証に示されている書籍が,「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」に該当するとしても,商標法第2条第3項第3号又は同項第4号に該当する行為を行った事実は,立証されていない。
4 上申書(平成28年12月15日付け)
(1)乙第5号証について
被請求人は,「要証期間に確かに講座が開設されており,同講座の受講申込みがあった」と主張し,その主張を裏付ける証拠として乙第5号証を提出して,これを「被請求人の保有する社内データベース管理システム(LEX)で検索した結果が表示された画面を印刷したものである」と説明している。
しかし,乙第5号証のようにパソコン画面の表示を印刷したと称されるものは,作成しようと思えば作成が可能なものであり,証拠として信憑性に乏しいといわざるを得ない。
仮に,乙第5号証が,講座の申込み状況を示す受講者名簿であったとしても,実際に要証期間に講座が開設され,受講生が講座を受講した事実は証明されていない。
また,乙第5号証に表示されている「どこでも宅建とらの巻」は,本件商標と社会通念上同一の商標ではない。
(2)乙第6号証について
乙第6号証として提出されたDVDに収録された講義の映像を確認すると,確かに書籍「どこでも宅建とらの巻」がテキストとして使用されている。
しかし,「どこでも宅建とらの巻」は,上記3(3)のとおり,書籍として独立した商品とみるべきものであるから,被請求人の使用行為は,あくまで第16類「書籍」についてのものであって,本件審判の請求に係る第41類の指定役務についての使用(商標法第2条第3項第3号及び同項第4号)に該当するものではない。
被請求人は,DVDを再生した場合の内容を説明し,講座名とテーマ等が分かると主張しているが,それは,単にDVDの収録内容であって,それをもって,商取引の対象として第41類の指定役務の提供が行われ,そこで本件商標が使用されたことを証明するものではない。
(3)乙第7号証について
被請求人は,乙第7号証は,「講座において担当講師が講義中に説明のため黒板に書いた事項を写し取った『板書』図である」と説明する。
そこで,乙第7号証をみると,その内容は,講義中の板書らしきものではあるが,それが,要証期間に,実際に受講生に配布された事実は立証されていない。
よって,乙第7号証をもってしては,本件商標が,要証期間に,本件審判の請求に係る第41類の指定役務について使用(商標法第2条第3項第3号及び同項第4号)されたとはいえない。
また,乙第7号証に表示されている「どこでも宅建とらの巻」は,本件商標と社会通念上同一の商標ではない。
(4)乙第8号証について
被請求人は,乙第8号証は,「講座カリキュラムや学習モデル等を記載したガイドブックであり,教材の一部である」と説明する。
そこで,乙第8号証をみると,その内容は,講義のカリキュラムや学習モデル,勉強スケジュール等が記載されたものではあるが,それが,要証期間に,実際に受講生に配布された事実は立証されていない。
よって,乙第8号証をもってしては,本件商標が,要証期間に,本件審判の請求に係る第41類の指定役務について使用(商標法第2条第3項第3号及び至同項第4号)されたとはいえない。
また,乙第8号証に表示されている「どこでも宅建とらの巻」は,本件商標と社会通念上同一の商標ではない。
(5)乙第9号証について
被請求人は,乙第9号証は,「講義動画の録画媒体(DVD)」と説明する。
しかし,乙第9号証は,上記DVDの表面をコピーした写しであるため,その中身が実際に講義内容を録画した動画であるかどうかは確認できない。
また,仮に被請求人が説明するように講義動画が収録されているとしても,乙第9号証が,要証期間に,実際に受講生に配布された事実は立証されていない。
よって,乙第9号証をもってしては,本件商標が,要証期間に,本件審判の請求に係る第41類の指定役務について使用(商標法第2条第3項第3号及び同項第4号)されたとはいえない。
また,乙第9号証に表示されている「どこでも宅建とらの巻」は,本件商標と社会通念上同一の商標ではない。

第3 被請求人の主張
被請求人は,本件審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求めると答弁し,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として,乙第1号証ないし乙第22号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 答弁の理由
本件商標権者である被請求人は,要証期間に我が国において,本件審判の請求に係る指定役務中,「技芸・スポーツ及び知識の教授,資格認定試験・資格検定試験・就職試験その他認定・検定試験及びそれらの模擬試験その他教育に関する情報の提供」(以下「使用に係る役務」という場合がある。)について,本件商標を使用している。
(1)本件商標の使用者
ア 被請求人(通称LEC)のウェブサイトにおけるオンラインショップ(E学習センター)のページには,宅地建物取引士試験への2015年合格を目標とする独学者向け講座として,「宅建士独学教室 どこでも宅建とらの巻」が紹介されている(乙2)。
「どこでも宅建とらの巻」講座は,「どこでも宅建 とらの巻」という同名の書籍を別売テキストとして使用する全15回の講義を内容とし,WebクラスとDVDクラスのいずれかを選択できるようになっており,被請求人によって2015年5月19日から同年10月17日まで販売(提供)されたことが分かる。
イ 被請求人のウェブサイトにおける「宅建士独学教室」のページにおいても,2015年合格目標として開講された「宅建士独学教室」のうちのインプット講座(=必要な知識の吸収に主眼を置く講座)として,「どこでも宅建とらの巻」講座が紹介されている(乙3)。
(2)使用に係る役務
被請求人は,宅建士という国家資格の認定試験への合格を目指す受験生に対し,相応の知識を教授する講座を提供する際の講座名として,「どこでも宅建」を使用しているものであり,使用に係る役務に本件商標を使用しているといえる。
(3)使用に係る商標
乙第2号証及び乙第3号証には,本件商標が記載されている。
(4)使用時期
乙第2号証には,「販売開始日 2015年5月19日 PM3:00」及び「販売終了日 2015年10月18日 AM0:00」,乙第3号証には,「2015年合格目標」と記載されている。
2 口頭審理陳述要領書(平成28年10月5日付け)
(1)商標法第2条第3項(使用)の該当性について
ア 被請求人は,使用に係る役務に関して,被請求人のウェブサイト上のオンラインショップ紹介ページ(乙2)や宅建士独学教室紹介ページ(乙3)において,その役務の内容をなす提供講座として,「宅建士独学教室紹介ページ(乙3)」の概要を「広告」するとともに講座の受講料を「価格表」で表示し,万人が閲覧できる状態に置いている。
よって,被請求人の行為は,「役務に関する広告,価格表・・・に標章を付して展示し,若しくは頒布し,又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」(商標法第2条第3項第8号)に該当する。
イ 「どこでも宅建とらの巻」の講座は,「どこでも宅建 とらの巻」という同名の書籍(乙4)を別売テキストとして使用するため,受講生は,受講に当たり,当該テキストを用意しなければならないから,当該テキストは,「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」に該当する。
そして,上記テキストに講座名である「どこでも宅建 とらの巻」が付されている以上,被請求人の行為は,「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付する行為」(同法第2条第3項第3号)及び「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為」(同項第4号)に該当する。
(2)請求人の主張に対する反論
ア 本件商標と使用に係る商標の同一性について
本件商標「どこでも宅建」からは,「場所を選ばす宅建の試験勉強をする」という観念が生じる。
そして,この「どこでも宅建」を基本として,これに宅建試験の試験科目(権利関係/どこでも宅建/法令上の制限)を付記すれば「どこでも宅建 権利関係」,「どこでも宅建 法令上の制限」のように使用できるし,また,試験に頻出の暗記事項を集約したものであれば「どこでも宅建 暗記集」,簡潔な問答形式であれば「どこでも宅建 一問一答」,秘伝・奥義を伝授するものであれば「どこでも宅建 とらの巻」,受験生に肌身離さず携帯しておいて欲しい秘蔵品であれば「どこでも宅建 とらの子」であり,いずれも本件商標の使用といって差し支えない。
この点につき,請求人の論法によれば,商標権者は,登録商標と寸分違わぬものを使用するのでなければ商標権の保護を受け得なくなることになる。
その結果,商標登録の意義は激減し,商標権者は,将来のあらゆる使用の組合せを考えて,何百とおり・何千とおりもの類似商標を一挙に登録しなければならなくなり,商標登録事務を渋滞させる。
イ 要証期間の使用の立証について
乙第2号証及び乙第3号証の各右下にある日付の表示は,データを紙に印刷した日付を示し,要証期間の日付ではない。被請求人は,現時点において,過去の要証期間の使用の立証を尽くしており,請求人の主張は,「過去の事実の立証」方法において,無理難題を要求するものにすぎない。
3 上申書(平成28年11月24日付け)
(1)要証期間に受講申込みがあったこと等
被請求人が実施した「2015年合格目標:宅建士独学教室 どこでも宅建とらの巻」講座(乙2)の受講申込み状況は,乙第5号証のとおりである。
乙第5号証は,被請求人の保有する社内データベース管理システム(LEX)で検索した結果が表示された画面を印刷したものである(個人情報保護のため,申込者の氏名の一部と電話番号の一部をマスキングしてある。)。
そして,上記検索結果によれば,Webクラス(Web+スマホ+音声ダウンロードクラス)には4名,DVDクラスには4名の受講申込みがあったことが分かる。
なお,画面右端の「受付地名称」欄中の「WEB営業」とはウェブサイトからの申込みを,「通信事業部」とはコールセンターへの電話又は郵送による申込みを意味する。
したがって,要証期間に確かに上記講座が開設されており,同講座の受講申込みがあったのである。
(2)書籍「どこでも宅建 とらの巻」(乙4)がテキストとして使用されていたこと
「2015年合格目標:宅建士独学教室 どこでも宅建とらの巻」講座(乙2)のDVDクラスの教材であるDVDの一部(宅建業法第1回)を証拠提出する(乙6)。
乙第6号証のDVDを再生すると,冒頭から7分21秒から7分26秒あたりで,担当講師が「まず,176ページですね。」と言いながら書籍「2015年版どこでも宅建 とらの巻」(乙4)の176ページの説明をしている。
よって,確かに上記講座において,乙第4号証の書籍がテキストとして使用されていたことが分かる。
(3)書籍「どこでも宅建 とらの巻」(乙4)の購入方法
「宅建士独学教室 どこでも宅建とらの巻」講座(乙2)での使用テキストである書籍「どこでも宅建 とらの巻」(乙4)は,既に持っている人も存在するため,別売となっている。
上記書籍の購入方法は,被請求人(通称LEC)のウェブサイトにおけるオンラインショップで買うこともできるし,被請求人の運営する各本校窓口や一般書店で買うこともできる(乙3の5ページ参照)。
また,上記講座のオンライン申込時に,上記書籍もセットで購入できる設定になっており,その場合は,当該書籍の在庫がある限り,当該講座の教材類と同梱されて発送される。
(4)使用に係る商標の「どこでも宅建 とらの巻」について
ア 「どこでも宅建 とらの巻」は,被請求人が提供する講座の名称である。
すなわち,被請求人は,「どこでも宅建 とらの巻」を講座という役務を提供する際の標識として使用しているのである。受講生は,あくまで,対価を払って講座を購入しているのが実態であって,上記書籍「どこでも宅建 とらの巻」(乙4)やDVD(乙6)という個々の「商品」を購入しているのではない。当該書籍(乙4)が別売であることから誤解を招きやすいが,当該書籍やDVDは,同講座において使用される教材の一部をなすにすぎない。
したがって,被請求人が「どこでも宅建 とらの巻」を書籍やDVDといった「商品」の商標として使用していると請求人が指摘するのであれば,その指摘は当たらない。
イ 上記DVD(乙6)を再生すると,冒頭の0分04秒から0分20秒あたりで,担当講師が「皆さんこんにちは。2015年宅建士独学教室 どこでも宅建とらの巻 宅建業法の第1回目になりますね。さっそく行きたいと思います。私,LEC専任講師のHでございます。」と話し始め,受講生に向かって講座名と今回のテーマ(科目)と回数を明示していることが分かる。
ウ 乙第7号証は,「宅建士独学教室 どこでも宅建とらの巻」講座において担当講師が講義中に説明のため黒板に書いた事項を写し取った「板書」図であり,これも受講生の理解を助ける教材の一部として受講生に送付される(乙3の13ページ)。
上記「板書」図の1ページ目には,講座名として「2015年合格目標:宅建士独学教室 どこでも宅建とらの巻」と表記され,テーマ(科目)は,権利関係の第1回目の講義であることが分かる。
なお,上記「板書」図1ページ目の「テープ」欄に記載の記号番号は,講義動画の録画媒体(DVD)表面の記号番号(乙9)に対応し,同「板書」図3ページ以降に出てくる手書きのページ表記(P19,P31,P40等)は,この講座の使用テキストである書籍「どこでも宅建 とらの巻」(乙4)のページに対応している。
エ 乙第8号証(独学教室学習ガイド)は,「宅建士独学教室 どこでも宅建とらの巻」講座又は「宅建士独学教室 ウォーク問過去問題集」講座を申し込んだ受講生に配布される,講座カリキュラムや学習モデル等を記載したガイドブックであり,教材の一部である(乙3の11ページ,13ページ)。
上記ガイドブックには,「どこでも宅建 とらの巻」講座のカリキュラム,使用教材,学習の進め方,教材発送日(Web配信日・配信期限)等が記載されている。
4 回答書(平成29年5月2日付け)
(1)乙第6号証(DVD)の内容について
ア 被請求人が実施した「2015年合格目標:宅建士独学教室 どこでも宅建とらの巻」講座(乙2)は,内容的には「権利関係」,「宅建業法」,「法令上の制限・税その他」の3科目,合計15回の講義で構成されており,乙第6号証のDVDは,そのうちの「宅建業法」の第1回目の講義(所要60分)を収録したものである。
上記DVDを再生すると,画面上,最初に,被請求人の著作権を明示する告知文が出た後に,講座名である「15宅建士独学教室 どこでも宅建とらの巻」及び科目内容である「宅建業法 第1回」という表示が出る(その静止画像が乙10の1)。そして,その表示画面の右下方にある「PLAY」という文字部分をクリックすると,講義開始となり,講義動画及び講義音声の再生が始まると同時に,画面左下の計時表示が1秒ずつカウントを始める。
イ 上記DVD(乙6)の音声の反訳は,乙第11号証のとおりである(00:00から09:17まで)。
まず,00:10付近で,講師は,「2015年宅建士独学教室,どこでも宅建とらの巻,宅建業法の第1回目になりますね。」と言って,本講座の名称と今回の講義の科目・回数をアナウンスしている(その静止画像が乙10の2)。
次に,05:16付近で,講師は,「それでは宅建業法1回目,さっそく中身に入っていきましょう。」と言いながら,本講座で教材として使用する別売テキスト「2015年版どこでも宅建とらの巻」(乙4)の実物をプロジェクターに映し出している(その静止画像が乙10の3)。
また,講師は,05:24から「こういった鏡の部分,ご覧いただきまして,」と言いながら,07:10までの間,上記テキスト173ページ記載の宅建業法の目次表をプロジェクターに映し出し(その静止画像が乙10の4),07:16には「それでは中身に入っていきます。」と言いながら,当該テキスト174ページ及び175ページの見開き部分を,プロジェクターに映し出している(その静止画像が乙10の5)。
そして,07:27からは,講師は「まず,176ページですね。」と言いながら,同テキストの176ページをプロジェクターに映し出し(その静止画像が乙10の6),この映像を背景に176ページの解説を加えている。
ウ 上記イにおいて指摘したテキスト(乙4)の該当ページ部分の実物は,乙第12号証のとおりであり,画像と実物は一致しているから,確かに「2015年合格目標:宅建士独学教室 どこでも宅建とらの巻」講座(乙2)において,乙第4号証の書籍が,テキストとして使用されていたことが分かる。
また,乙第10号証の1の静止画像には,講座名「どこでも宅建とらの巻」が表示されているから,被請求人が,「電磁的方法により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供」(商標法第2条第3項第7号)したということがいえる。
(2)乙第2号証について
ア 乙第2号証は,被請求人が「2015年合格目標:宅建士独学教室 どこでも宅建とらの巻」の表示の下,自己のウェブサイトに掲載したWeb又はDVDによる「宅建士」の講座の実施に関する広告に当たる。
ここで,「販売終了日」が,「2015年10月18日AM0:00」となっている理由は,2015年10月18日の日曜日が宅建士資格試験の本試験日だからである。
すなわち,宅地建物取引士(宅建士)資格試験が毎年10月の第3日曜日に実施される年に一度の資格試験であることは公知の事実であるところ,被請求人が乙第2号証に掲載した講座は,「2015年合格」を目標として設定された講座であるため,2015年10月17日を過ぎると商品(役務)としての価値が下落し,需要がなくなるからに他ならない。
裏を返せば,上記講座の申込者は,Webクラスの申込者であれ,DVDクラスの申込者であれ,遅くとも2015年10月17日までには講義の視聴(役務提供の受領)を開始するのはもちろんのこと,終了している蓋然性が極めて高いのである(乙2の1葉目注意書き参照)。
したがって,論理的に考えて,要証期間において,被請求人は,「どこでも宅建」と表示したDVD(乙6,乙9)を教材として,DVDクラス申込者に対して,宅建士資格試験に関する情報の提供ないし通信教育という指定役務の提供を行ったものである。
イ 乙第2号証に掲載した講座は,DVDクラスのほかに,Webクラス(Web+スマホ+音声ダウンロードクラス)も存在する。Webクラスの場合は,申込者が,被請求人のオンラインショップのウェブサイトを介して受講申込みをし,かつ,被請求人の役務の提供を受領した(すなわち,Web上で講義を視聴した)事実を,DVDクラスの場合よりもさらに強力に証明することができる。
ウ 乙第2号証に記載の商品は,既に販売を終了しており「×この商品は販売を終了しました」という表示になっており,これより先の画面へ進むことができない。
これに対し,現に販売中の商品の場合は,「選択した内容で買い物かごに入れる」という表示になっており(乙13の1葉目),当該表示をクリックすると「Web(動画)・音声ダウンロード講座動作環境チェックテスト」の画面に進み(乙14),ここで「確認」ボタン(乙14の1葉目)をクリックすると「買い物かご」の画面に切り替わり(乙15),申込者は,この画面を見て自己の購入しようとしている商品,価格,支払合計額等を確認し(乙15の1葉目),その後,1葉目上方に,太い右向き矢印で記された流れ(買い物かご⇒申込規定⇒注文情報入力⇒決済方法入力⇒注文情報確認⇒注文完了)に沿って申込手続を誘導される。
具体的な手続の流れは,上記「買い物かご」の画面(乙15)1葉目下方の「次に進む」ボタンをクリックすると,オンラインショップでの商品購入に必要不可欠な「Myページログイン」の画面(乙16)が現れるので,既に「Myページ登録」を済ませている申込者は,そのままMyページIDとパスワードを入力してログインし,商品を購入する。
他方,被請求人のオンラインショップを初めて利用する申込者は,上記「Myページログイン」の画面(乙16)にある「登録する」のボタンをクリックして「Myページ登録(お客様情報検索)」の画面(乙17)が現れた後,その画面にある「こちらからご登録ください」ボタンをクリックして現れる「お客様情報登録」の画面(乙18)において,メールアドレスや氏名等のほか,任意で設定する「MyページID」や「パスワード」を入力し,「マイページ利用規約」を読んだ後に,「上記規約に同意のうえ確認」のボタンをクリックして,自己の「MyページID」や「パスワード」を確定させた上で,当該「MyページID」や「パスワード」を入力し,ログインして,商品を購入する。
また,被請求人の発行する会員番号は有しているものの,そのオンラインショップに係る「Myページ登録」を済ませていない申込者は,上記「Myページ登録(お客様情報検索)」の画面(乙17)において,自己の会員番号及びメールアドレスを入力し,「お客様情報を検索」のボタンをクリックして,自己の氏名や生年月日等の既登録のお客様情報を呼び出した後,上記と同様の手続をして,自己の「MyページID」や「パスワード」を確定,入力及びログインして,商品を購入する。
このように,被請求人のオンラインショップでの申込者は,商品購入の前提条件として,「MyページID」及び「パスワード」を登録することが必須となっており,その登録後に,自己の「MyページID」及び「パスワード」を用いて「Myページ」にログインすることにより,商品の購入,「Online Study SP」を起動させてWeb講座の視聴をする仕組みになっている(乙19)。
(3)乙第5号証に示された受講を申し込んだ者が,クラス名(WEB+DL,DVD又はスマホの受講形態)その他の必要事項を入力して,申込みをした事実等について
ア 受講申込者が,「注文情報確認」画面において,「上記を了承のうえ,この内容で決済する」ボタンをクリックすると,注文(申込み)が確定し(乙15の2葉目),ほぼ同時に,申込者の注文内容が,被請求人のオンラインショップ管理システム上に「注文基本情報」として登録され(乙20),その後に,被請求人から申込者あてに「注文内容確認メール」が自動的に発信される(乙21)。
イ 上記「注文基本情報」(乙20)の内容が,直後の被請求人の営業時間中に,LEX(被請求人の保有する社内データベース管理システム)へ登録されたものが,乙第5号証である。
ただし,申込者が,支払方法として,コンビニエンスストアでの支払いを選択した場合,LEXへの登録は,その支払完了後となるため,「注文基本情報」(乙20)の注文日時や「注文内容確認メール」(乙21)の送信日時と,LEX(乙5)の受付日とのずれは大きくなる。
ウ 乙第20号証の1葉目の申込者(充司)を例にとると,当該申込者が乙第2号証の画面を見て商品を選択し,買い物かごに入れ,申込みの手順を踏んで,注文内容の最終確認を行った上で注文確定ボタンをクリックしたのは,平成27年5月28日20時26分36秒であり,その後,同日20時27分26秒に,被請求人から同人あてに「注文内容確認メール」が発信されたことが分かる(乙21の1葉目)。
なお,乙第20号証は,被請求人の社内文書であるため,申込者の購入した商品名がつまびらかでないが,商品コードや注文番号その他が乙第21号証と完全に一致している。
エ 以上より,乙第5号証に示された受講申込者が,クラス名(WEB+スマホ+DL又はDVDの受講形態)その他の必要事項を入力して,乙第2号証に示されたウェブサイトを介して「2015年合格目標:宅建士独学教室 どこでも宅建とらの巻」講座の受講を申し込んだことが分かる。
なお,上記講座をWEB又はスマホで受講した者の学習記録(最終視聴日時と総視聴時間)は,乙第22号証のとおりである。
(4)請求人の主張について
請求人は,被請求人の提出した各証拠に表示されている「どこでも宅建とらの巻」が本件商標「どこでも宅建」とは異なるものであって,社会通念上同一の商標ではない旨を頻繁に主張している。
しかし,本件商標は,そもそも,各別に帰属する2個の商標の類似性が問題となっているのではない。ある人に帰属する登録商標があって,その人(同一人)が当該登録商標に若干の文字を付加して使用している実績がある場合に,果たして,その使用は社会通念上「登録商標を使用している」といえるか,という問題である。
すなわち,社会通念の問題であって,類否判断の問題ではなく,結局,使用されている標章に接した者が,商標権者を想起するか否か,使用されている標章が商標の機能たる出所識別機能を発揮しているか否かに尽きる。
本件商標「どこでも宅建」は,これで商標登録された以上,一語と化しており,そのイントネーションは,「ど」を低く発音し,「こでもたっ」を高く,しかも同じ高さで発音し,「けん」を低く発音する。
もし,「どこでも」と「宅建」が分離した別々の語であると仮定すれば,そのイントネーションは,「ど」を高く,「こでも」を低く発音し,「たっ」を低く,「けん」は高く発音するはずであるが,使用に係る商標の「どこでも宅建」の部分のイントネーションは,上記一語としてのイントネーションと軌を一にするものであり,「どこでも宅建」の部分が,正に出所として被請求人を想起させるのである。
したがって,被請求人は,「どこでも宅建とらの巻」によって,社会通念上,本件商標を使用しているものといえる。

第4 当審の判断
1 本件商標の使用について,被請求人の主張及び同人が提出した証拠によれば,以下のとおりである。
(1)本件商標権者は,宅地建物取引士や公認会計士などといった国家資格の認定試験の合格を目指す受験者に対し,相応の知識を教授する講座を提供しており,そのような講座の受講を希望する者は,本件商標権者が開設しているウェブサイト(LEC On-line)を通じて受講を申し込むことができる(乙2,乙13)。
上記ウェブサイトの画面上には,講座の概要として,講座のねらいやポイントのほか,受講方法(Web動画又はDVD),受講価格,申込受付期間(販売開始日及び販売終了日)等が記載されているものであり,受講を希望する者は,それらの記載内容を確認した上で,当該画面上にある「お申込み」の項目中の「選択した内容で買い物かごに入れる」ボタンを押下して,申込みに必要な事項の入力画面へアクセスし,当該必要事項を入力後に申込内容を確定し,受講申込みする(乙13?乙19)。
なお,上記講座の申込みをするにあたっては,予め氏名,メールアドレス,MyページID,パスワード等を入力して,本件商標権者の開設するウェブサイトの利用に係るアカウントを取得(「Myページ登録」)する必要がある(乙18)。
(2)本件商標権者は,上記(1)にいう講座の申込みについて,コンピュータシステムにより,管理している。
具体的には,講座の申込みがあった場合,その申込みに係る注文内容が「注文基本情報」として登録され(乙20),その後,申込者あてに「注文内容確認メール」が自動送信される(乙21)。また,当該「注文基本情報」の内容は,申込みがされた後の本件商標権者の営業時間中に,その保有に係る社内データベース管理システム(LEX)にも登録されるため,当該システムを用いることにより,例えば,特定の講座に係る申込者(受講者)の氏名,会員番号,電話番号,受付日,受付地(受付形態)等を検索して,その結果を表示することなどを行うことができる(乙5)。
なお,本件商標権者が管理するコンピュータシステムでは,申込者がWeb動画による受講をした場合には,その学習記録(最終視聴日時及び総視聴時間)も管理している(乙22)。
(3)本件商標権者は,2015年(平成27年)5月19日から同年10月17日までの間を販売期間として,自己のウェブサイト上に,宅地建物取引士に関する「2015年合格目標:宅建士独学教室【単科】どこでも宅建とらの巻(模試無し)」と称する講座(以下「本件講座」という。)の広告を掲載した(乙2)。
上記本件講座は,Web動画又はDVDによる受講が可能であり,例えば,Web動画によるもの(Web+スマホ+音声ダウンロードクラス)は,WEB講座の視聴期限について「2015年本試験の前日までとなります。」(乙3)の記載があるから,2015年本試験の前日まで視聴することができる。
なお,上記広告(乙2)は,その内容に係る講座の販売期間経過後の2016年(平成28年)2月3日に紙出力されたものであるため,「お申込み」の項目には,「この商品は販売を終了しました」との表示がされている。
(4)本件講座には,2015年(平成27年)5月28日から同年9月11日までの間に,7名から本件商標権者が開設するウェブサイトを通じて,申込み(DVDによる受講を希望する3名を除き,Web動画によるもの(スマホを含む。)。)がされた(乙5,乙20,乙21)。
そして,Web動画によるもの(スマホを含む。)を申し込んだ者は,いずれもその受講(再生)をしており(乙22),また,そのうちの2名は,申込みをする際に,同時に「どこでも宅建 とらの巻」(乙4,乙12)の書籍を購入している(乙20,乙21)。
2 上記1において認定した事実によれば,当審の判断は,以下のとおりである。
本件商標権者は,少なくとも2015年(平成27年)5月28日から同年9月11日までの間,自己のウェブサイト上において,所定の期間,本件講座の受講申込みを受け付け,その講座を提供する旨を内容とする広告(乙2)を掲載したといえる。
そして,上記広告に係る本件講座は,本件審判の請求に係る指定役務中の「知識の教授,資格認定試験・資格検定試験・就職試験その他認定・検定試験及びそれらの模擬試験その他教育に関する情報の提供」に含まれるものと認められる。
しかしながら,本件講座には,「2015年合格目標:宅建士独学教室【単科】どこでも宅建とらの巻(模試無し)」との名称が付されているところ,その構成中の「2015年合格目標」及び「(模試無し)」の文字部分は,2015年に合格することを目標としていること,及び模擬試験を受けられないことを示すにすぎず,また,その構成中の「宅建士」,「独学教室」及び「【単科】」の文字部分は,本件審判の請求に係る指定役務中の「知識の教授,資格認定試験・資格検定試験・就職試験その他認定・検定試験及びそれらの模擬試験その他教育に関する情報の提供」との関係においては,いずれも役務の質を表すものとして一般に用いられる語ということができる。
そうすると,本件講座に表示された「2015年合格目標:宅建士独学教室【単科】どこでも宅建とらの巻(模試無し)」との名称は,その構成中の「どこでも宅建とらの巻」の文字部分が自他役務の識別標識としての要部として看取,理解されるものとみるのが相当である。
そして,上記本件講座の広告(乙2)に係る自他役務の識別標識の要部として看取される「どこでも宅建とらの巻」の文字は,「どこでも宅建」の文字からなる本件商標と,同一の文字からなるものということができない。 また,「どこでも宅建とらの巻」の文字からは,「ドコデモタッケントラノマキ」の称呼を生じ,「どんな場所でも宅地建物取引士の試験勉強ができる講義の種本,学習書,あんちょこ」程の意味合いを認識させるのに対し,本件商標からは,「ドコデモタッケン」の称呼を生じ,「どんな場所でも宅地建物取引士」程の意味合いを認識させるから,「どこでも宅建とらの巻」の文字は,本件商標と同一の称呼及び観念を生じるものということもできない。
したがって,上記本件講座の広告(乙2)に使用された「どこでも宅建とらの巻」の文字は,本件商標と同一の商標(社会通念上同一と認められる商標を含む。)ということができない。
3 その他の証拠について
(1)乙第4号証は,「2015年版 どこでも宅建 とらの巻」(2015年6月5日 第15版 第1刷発行 株式会社リーガルマインド)との表題の書籍の表紙,裏表紙及び奥付並びに同書籍の別冊付録である「どこでも宅建 とらの子」の表紙及び裏表紙である。そして,乙第12号証は,当該書籍の目次及び「宅建業法」に関する内容が記載されたページの抜粋(乙6のDVDの収録内容に現れる当該書籍の該当ページとされるもの)である。
また,乙第6号証,乙第10号証の1ないし6及び乙第11号証は,それぞれ本件講座のDVDクラスの教材とされるDVD(乙6),当該DVDの収録内容の一部に係る静止画面(乙10の1ないし6)及び反訳(乙11)であり,その収録内容の冒頭では「15宅建士独学教室 どこでも宅建とらの巻/宅建業法/第1回」の文字が表示され,上記書籍が用いられている様子が見受けられる。
さらに,乙第7号証は,本件講座において,担当講師が講義に係る説明として黒板に書いた事項を写し取った「板書」図であって,受講生に送付されるとするものであり,乙第9号証は,当該図に関連するとするDVDの表面をコピーしたものである。
そして,上記「板書」図(乙7)の表紙と思しきものには,講座名として,「2015合格目標 宅建:宅建士独学教室 どこでも宅建とらの巻」の記載,配布物の名称として,「板書(本紙)」の記載などがあるほか,「特記事項」として,上記書籍が別売りの教材であって,本件商標権者のホームページや窓口及び最寄りの書店において購入するものである旨の記載があり,その3葉目以降には,手書きによる絵図等の表示がある。なお,上記DVDの表面(乙9)には,DVDの表題として,「宅地建物取引士」,「15宅建士独学教室 どこでも宅建とらの巻/権利関係/第1回」,「15宅建士独学教室 どこでも宅建とらの巻/宅建業法/第1回」の表示がある。
加えて,乙第8号証は,本件講座等を申し込んだ受講生に配布されるガイドブックとするものであり,本件講座のカリキュラム(「権利関係」(6回),「宅建業法」(5回),「法令上の制限・税・その他」(4回)の全15回であって,過去問題に関する講義や模試は含まれないこと。)や上記書籍を使用教材とすること(ただし,受講料には含まれていないこと。)の記載,具体的な学習の進め方として,本件講座はどの科目から学習を始めても構わない旨の記載,本件講座のDVDクラスの申込者に対して,全科目のDVDが一括して発送される旨などの記載がある。
(2)上記(1)によれば,本件講座では,その講座名を表す標章として,主に「どこでも宅建とらの巻」(「どこでも宅建」の文字と「とらの巻」の文字との間にスペースがあるものを含む。)の文字が使用されているところ,当該標章は,上記2の記載と同様の理由により,本件商標と同一の商標(社会通念上同一と認められる商標を含む。)ということができない。
なお,本件講座に係る「2015年版 どこでも宅建 とらの巻」と題する書籍の別冊付録には,「どこでも宅建 とらの子」の文字からなる標章が用いられているが,当該冊子は,付録であって,独立して商取引の対象になるものではないし,また,当該標章についてみても,本件商標と同一の文字からなるものではなく,その構成文字から生じる「ドコデモタッケントラノコ」の称呼や,「どんな場所でも宅地建物取引士の講義の秘蔵の品」程の意味合いも,本件商標から生じる「ドコデモタッケン」の称呼及び「どんな場所でも宅地建物取引士」程の意味合いとはいずれも明らかに異なるから,本件商標と同一の商標(社会通念上同一と認められる商標を含む。)ということができない。
(3)被請求人は,本件講座においては,受講者が別売の「どこでも宅建 とらの巻」という書籍(乙4,乙12)を用意しなければならないことから,当該書籍は,「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」(商標法第2条第3項第3号及び同項第4号)に該当し,さらに,当該書籍に講座名である「どこでも宅建 とらの巻」が付されている以上,被請求人の行為は,「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付する行為」(同項第3号)及び「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為」(同項第4号)に該当するから,本件商標の使用に当たる旨主張する。
しかしながら,本件講座は,WEBクラスとDVDクラスがあり,そのWEBクラスを申し込んだ者のうちの2名については,本件講座の申込みと同時に上記書籍を購入し,かつ,受講(再生)をしていることから,その受講(再生)に当たり,当該書籍を利用したことが推認されるが,当該書籍に付された「どこでも宅建 とらの巻」の文字は,上記(2)のとおり,本件商標と同一の商標(社会通念上同一と認められる商標を含む。)ということができないから,これをもって,本件商標の使用ということはできない。
また,上記DVDクラスを申し込んだ者のうち,1名が本件講座の申込みと同時に上記書籍を購入している(乙20,乙21)ところ,本件講座に係るDVDは,DVDクラスの申込者のみを対象として,全科目を収録したものが一括して発送されるものであって,申込者がDVDを独自に視聴して学習するものといえるため,その学習用の録画済みDVDという商品の一種とみるのが相当であり(当該DVDに関連して,被請求人は,「板書」図を申込者へ送付する旨主張するが,その事実は明らかでない。),たとえ,その視聴の際に当該書籍を利用したとしても,当該書籍は,役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物には該当しない。そして,当該書籍に付された「どこでも宅建 とらの巻」の文字は,上記のとおり,本件商標と同一の商標(社会通念上同一と認められる商標を含む。)ということができない。
(4)被請求人は,上記DVD(乙6)の収録内容として,冒頭で講座名「どこでも宅建 とらの巻」が表示され,かつ,講師が上記書籍(乙4,乙12)を教材として用いており,かかる被請求人の行為は,「電磁的方法により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為」(商標法第2条第3項第7号)に該当するから,本件商標の使用に当たる旨主張する。
しかしながら,上記DVDは,上記(3)のとおり,学習用の録画済みDVDという商品の一種というべきものであるから,たとえ,視聴の際にその映像面に標章が表示されたとしても,それが役務の提供に当たることはないし,また,講座名として表示される「どこでも宅建とらの巻」の文字や講師が用いる書籍に付された「どこでも宅建 とらの巻」の文字は,上記(2)とおり,本件商標と同一の商標(社会通念上同一と認められる商標を含む。)ということができない。
(5)被請求人は,乙第8号証に係るガイドブックについて,本件講座の教材の一部である旨主張するが,当該ガイドブックは,本件講座を申し込んだ受講生に配布されるとするものであり,本件講座を申し込んだ者に対し,カリキュラムや学習の進め方等を案内するものであるから,教材などとして使用されるものとは認められない。
4 まとめ
以上のとおり,被請求人は,本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において,本件商標権者が,その請求に係る指定役務について,本件商標と同一の商標(社会通念上同一と認められる商標を含む。)を使用していたことを証明したものということができない。
したがって,本件商標の登録は,その指定商品及び指定役務中,結論掲記の指定役務について,商標法第50条の規定により,取り消すべきである。
よって,結論のとおり審決する。
審理終結日 2017-10-04 
結審通知日 2017-10-10 
審決日 2017-10-23 
出願番号 商願2001-57244(T2001-57244) 
審決分類 T 1 32・ 1- Z (Z41)
最終処分 成立  
前審関与審査官 松本 はるみ 
特許庁審判長 青木 博文
特許庁審判官 田中 敬規
田中 亨子
登録日 2003-01-24 
登録番号 商標登録第4638593号(T4638593) 
商標の称呼 ドコデモタクケン、ドコデモタッケン 
代理人 大友 温子 
代理人 東谷 幸浩 
代理人 正林 真之 
代理人 庄野 功章 
代理人 林 栄二 
代理人 三浦 大 

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