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審決分類 審判 全部取消 商53条の2正当な権利者以外の代理人又は代表者による登録の取消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W10
管理番号 1333370 
審判番号 取消2017-300057 
総通号数 215 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2017-11-24 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2017-01-20 
確定日 2017-10-02 
事件の表示 上記当事者間の登録第5719874号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5719874号商標の商標登録を取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5719874号商標(以下「本件商標」という。)は、「ダブロー」の片仮名及び「DOUBLO」の欧文字を二段に書してなり、平成26年7月8日登録出願、第10類「医療用機械器具,業務用美容マッサージ器,家庭用美容マッサージ器」を指定商品として、同年11月21日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第15号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、別掲1に表示した構成からなるパリ条約の同盟国である大韓民国において法人である請求人が保有する国際登録第1133086号商標(以下「請求人商標」という。)と類似の商標であり、かつ、両商標の指定商品は、同一又は類似である。
そして、本件商標の商標権者は、本件商標の登録出願の日前1年以内において請求人の日本における販売の代理人と同一又は同一とみなされる者であって、その登録出願は、請求人の承諾を得ないで、かつ、正当な理由もなくなされたものであり、本件商標の商標権の設定の登録日から5年を経過していないので、商標法第53条の2の規定により、取り消されるべきものである。
2 取消原因
(1)審判請求に係る経緯
被請求人は、2015年4月に請求人の別の日本の販売代理店(株式会社ドクターズ・キッツ)に対して本件商標に基づいた差止と損害賠償を請求する警告書を送付してきた。
請求人は、Hokusai株式会社(以下「北斎社」という。)と日本における販売代理店契約を2012年8月から2014年12月まで結んでおり、被請求人は、北斎社の関係会社と考えられたので、請求人は、本件商標に対して無効審判を請求したところ(以下「別件無効審判」という。)、認められなかったが、その審判手続において、被請求人は、北斎社と実質的に同一であって日本における請求人の販売代理店であったことを認めたので、本件取消の審判を請求することに至った。
(2)本件商標について
本件商標は、片仮名「ダブロー」を上段に、欧文字の大文字「DOUBLO」を下段に上下二段書きにした標章であって、第10類「医療用機械器具,業務用美容マッサージ器,家庭用美容マッサージ器」を指定商品として平成26年7月8日登録出願され、設定登録されたものである(甲1)。
(3)請求人商標について
請求人商標は、「doublo」という欧文字表記に、2番目の文字「o」の上に赤の二重の弧が載せられている標章であって、第10類の商品を指定商品として2012年8月21日に国際登録され、現に係属しているものである(甲2)。
(4)本件商標と請求人商標との対比
請求人商標は、本件商標の登録出願よりも約2年、先に行われている。
ア 本件商標と請求人商標との指定商品・指定役務の対比
本件商標の指定商品は、請求人商標に係る指定商品(以下「請求人商品」という。)と同一又は類似である。
イ 本件商標と請求人商標との対比
本件商標と請求人商標との外観は、異なっていて非類似である。
次に、本件商標は、下段の「DOUBLO」という欧文字表記と上段の「ダブロー」という片仮名表記から、「ダブロー」との称呼が生じる。一方、請求人商標は、「doublo」という欧文字表記から「ダブロ」、「ダブロー」との称呼が生じ、両商標の称呼は同じである。
本件商標と請求人商標はどちらも造語であり、観念は生じないが、両方とも同じ「doublo」という造語を含んでいるので、観念としては類似しているともいえる。
ウ まとめ
以上より、本件商標と請求人商標とは、その指定商品が同一又は類似であるとともに、称呼が同一であり、同一の造語を有しているため観念が類似であると考えられるので、類似の商標であることは明らかである。
(5)被請求人と請求人との関係
ア 請求人と北斎社との契約
請求人は、2008年に設立された韓国の医療・美容機器メーカーであり、請求人商標は、医療用機械器具である商品「doublo」に付されている商標である(甲3?5)。
請求人は、商品「doublo」を2011年より韓国内にて販売を始め、北斎社と2012年7月にDISTRIBUTOR AGREEMENT(以下「代理店契約書」という。契約期間:2012年8月から2014年12月)を結び(甲6)、日本へ輸出を行ってきた(甲7)。甲第7号証は、複数の輸出申告筆状の集合であるが、請求人は、複数台の請求人商標に係る製品を2012年2月から少なくとも2014年3月にわたって、北斎社に販売をしていた。
イ 北斎社と被請求人との関係
甲第8号証は、契約の交渉段階で北斎社の担当者が請求人に渡したHokusai Groupのプロフィールである。ここで中央部の右側のBEAUTYの下に北斎社とGlobal Scienceとが併記されている。北斎社の下に記載されているウェブサイト(甲9)では、北斎社の事業であるのに会社概要にはグローバルサイエンス株式会社(以下「グローバルサイエンス社」という場合がある。)が記載されている。ここで本店の番地が商標権者の住所と少し違うが、会社名称や住所の番地までの表示が同じであるので、被請求人と甲第9号証のグローバルサイエンス社は同一の企業であると考えられる。
また、甲第8号証に記載されたGlobal Scienceのウェブサイト(甲10)では営業・企画・総務・経理・ショールーム・デモルームの所在地、及び開発・メンテナンスの所在地が共に甲第8号証の本店の住所とも被請求人の住所とも異なっているが、事業内容や甲第8号証から考えると明らかに被請求人と同一の法人である。
さらに、甲第11号証及び甲第12号証に示すように、北斎社とグローバルサイエンス社において笠原征夫という同一人物が両方の取締役となっており、両会社は、同一人物が経営している実質的に同一の法人であることは明らかである。
ウ 被請求人の主張
被請求人は、別件無効審判の答弁書(甲13)において次のように述べている。
「請求人が審判請求書8頁で主張するように、被請求人が実際には北斎社と実質的に同一の法人であるとするならば、被請求人は請求人との間で平成23年7月23日に代理店契約書(甲6)を締結したまさにその法人であるといえる。また、そうでなくとも、被請求人は、Hokusai Groupの系列会社であり(甲33、甲36及び甲37)、北斎社の関連会社(associates)に当たるから、代理店契約書(甲6)において定義される“Distributor”に該当することになる(甲6の冒頭部分において、『Distributor』とは、『北斎社』に限らず、『its successor,officers,affiliates,assigns,transferees or associates』を包括的に含む者と定義されている。)。そうであるとするならば、被請求人は、本件商標の出願時点において、請求人のDistributorであったのであり・・・」
すなわち、被請求人は、本件商標の登録出願時点で請求人の日本における販売代理人であることを自認している。
甲第7号証より少なくとも2014年3月までに、請求人は、北斎社を通して商品「Doublo」を日本へ販売しているので、本件商標の登録出願時である2014年7月8日の1年前には、被請求人は、請求人の日本における販売代理人であったことは明らかである。
(6)本件商標が、正当な理由がないのに、請求人の承諾を得ないで出願されたこと
代理店契約書(甲6)に記載されているように、北斎社は、請求人が日本における商標権の保有者であることを認めており、請求人は、被請求人に対して本件商標の出願の許諾は与えていない。
(7)請求人の現在の日本販売代理店に対する被請求人の侵害警告
上記(1)の経緯にて述べたように、被請求人は、請求人の現在の日本販売代理店に対して侵害警告を行ったので、これについて以下に説明をする。
甲第6号証に示す売買契約は現在は解消されて、請求人は甲第14号証に示す株式会社ドクターズ・キッツ(以下「ドクターズキッツ社」という。)と売買契約を結んで「doublo-a」という名称の製品をドクターズキッツ社を通して日本で販売し始めた。すると、被請求人からドクターズキッツ社ヘ警告書(平成27年4月2日付け)が送付され、差止と損害賠償を請求してきた(甲15)。
商標法第53条の2は、パリ条約第6条の7の規定を実施するために規定されたものであるところ、パリ条約第6条の7の規定は、上記のような、代理人若しくは代表者が他の同盟国で商標に関する権利を有する者の意に沿わない商標権の行使を行うことから商標に関する権利を有する者を保護するために作られたものであるので、まさに本件商標は、商標法第53条の2の規定により取り消されるべきものである。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、その理由を答弁書において、要旨以下のように述べ、証拠方法として、乙第1号証及び乙第2号証を提出した。
1 答弁の理由
本件商標は、「正当な理由がない」のに行われたものではない。これとほぼ同義であるが、被請求人は、請求人の実質的な承諾を得て本件商標の登録をしたのであるから、「その商標に関する権利を有する者の承諾を得ないで」行ったものではない。
さらに、被請求人は、「代理若しくは代表者」ではないので、本件商標の登録は、「代理人若しくは代表者であった者」によってされたものでない。
2 本件商標の有効性
(1)本件商標は日本で適法に登録されていること
本件商標は、日本で適法に登録されている。商標権は各国ごとに成立し、その効力は当該国内においてのみ及び(属地主義)、登録された商標は、他の国において登録された商標から独立したものとされている(パリ条約6条(3)、商標独立の原則)。また、日本では商標権は設定の登録により発生し(法18条1項・登録主義)、最先の商標登録出願人のみがその商標について商標登録を受けることができる(法8条1項、先願主義)。
よって、本件商標は、被請求人が日本国内における商標権者であることとなる。この属地主義、商標独立の原則、登録主義、先願主義は、商標権の大原則である。
商標法第53条の2は、日本において先に設定登録を受けた権利を、外国において周知性がなくても商標に関する権利を有するという理由によって否定する規定であるが、前記大原則の例外規定として設けられたものであるから、限定的に理解される必要があることは当然である。
(2)本件商標につき先行した別件無効審判は成り立たないとされたこと
請求人は、平成27年5月8日に別件無効審判の請求をしたが、同28年9月29日成り立たない旨の審決が下され、そのまま確定した。
なお、被請求人において、請求人の主張する韓国の商標と、本件商標が類似していることを争うものではない。ただし、韓国での商標の権利内容や範囲が、甲第7号証の言語の関係で被請求人には確認できないので、訳文を添付するよう求める。
また、北斎社と請求人が代理店契約書を締結したのは平成24年7月23日であり、この契約の成立時期についての請求人の主張について特段争わない。
(3)請求人商品の韓国での商標が、日本においては当然のこと、韓国での周知性も、世界的な周知性も、周知させる努力も否定されていること
別件無効審判で、請求人は、請求人の韓国での商標が、「需要者の間に広く認識されている商標であること」(周知性)を主張したものの、請求人の示した種々のデータは恣意的であり、本件商標の登録査定時に請求人商品の利用者は、日本国内では6者にとどまっていたことが認定されている(乙1)。そして、「商品価値が高い商品であるとしても、販売数としては決して多いものとは言えない。その他、日本国内において、請求人商標にかかる宣伝又は広告に関する証拠の提出はない。」と判断されている。
また、請求人は、外国における周知性も主張しているが、これすらも同審判にて否定されている。
つまりは、本件商標の登録まで、請求人商品であるダブローは、韓国国内でも中華人民共和国国内などでも、たいした数量の販売はされておらず、また、請求人自身が、請求人の商品にそれほどの広告費もかけていなかったことも明白に判断されている。
3 被請求人及び同社関係会社の関係
(1)「同一」ないし「実質的に同一」とのタームが不明確であること
請求人は、北斎社と被請求人が同一であるとか実質的に同一である等と主張する。
しかし、何をもって「同一」ないし「実質的に同一」とするのか明白ではない。この点は、明確にするよう求めるものである。また、審判請求書の記載では、「実質的な同一性」と「同一性」のタームの使い分けは、被請求人には理解できない。
ちなみに、本件商標につき先行した別件無効審判において、被請求人は、北斎社と被請求人については関連会社である旨主張し、具体的関連性について論及していないが、これは前記審判内容と両社の関係が判断に何ら影響を及ぼさないことが自明だったからであって、両社の同一性を認めたものではない。
そして、別件無効審判の答弁書(甲13)に、記載した内容は、仮定的に請求人の主張の論理に乗った主張を返して反論しているだけであって、被請求人が同一法人性を主張したものではない。
(2)北斎社と被請求人、さらには、訴外ダヴィンチテックの関係
北斎社と被請求人、さらには、訴外ダヴィンチテックは別の法人である。
なお、平成26年当時から、この3社の株主構成は異なる。また、北斎社と被請求人の代表取締役は同じであるが、役員構成は異なり、訴外ダヴィンチテックは、代表者も別である。さらに、甲第6号証に署名をしたのは、Soji Asoという、当時の北斎社の責任者である。
なお、請求人から提出されている甲第8号証の関係図は、概ね平成26年頃のグループの概要を示すものとして認められる。
請求人が指摘する甲第8号証によれば、むしろ北斎社と被請求人、さらには、訴外ダヴィンチテックが別の法人であることは自明である。同一会社を、グループ企業として紹介することはあり得ないからである。法律上、別異に登記された法人を同一であるとするためには、法人格否認の法理が認められる厳格な要件の認定が必要である。しかし、請求人は、かかる要件の定立などもせず、単にグループ企業であることをもって同一などとするにすぎず、全く根拠がない主張に終始している。
当時、北斎社は、基本的に医療系、美容系を問わず、各種機械の輸入や購入をする会社であり、また、自らスパなどを経営し、経営指導もしていた。被請求人は、北斎社から供給を受けた美容系の機械をエステテックサロン等に販売する会社、訴外ダヴィンチテックは、美容整形外科医等との取引や付き合いを通じて、海外の有力な医療機械を紹介し、医者からの輸入代行依頼を受けて、医療機械を購入させていた。これが事実上は、北斎社が輸入する医療系の機械であったため、法的な関係では背後に隠れてしまうことになる。
請求人商品は、美容機器であるとの位置づけが請求人よりされていたが、日本国内ではそのままでは出力等の関係で医療機器と扱われることになるものであり、被請求人は一定の改造をした上で、美容業界に販売する予定となっていた。
4 被請求人の本件商標の登録は、「その代理人若しくは代表者又は当該商標登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者によってされたもの」ではないこと
商標法第53条の2に規定される「代表者」は、法人である商標所有者の代表者、「代理人」は、自然人であると法人であるとを問わず商標所有者からなんらかの代理権を授与されたものを指すというのが、通常の文理解釈である。
この意味で、代理店契約書を締結した北斎社が代理人であることを否定はしないが、被請求人、さらには、訴外ダヴィンチテックは、代理人であるとはいえない。そもそも、北斎社は、総代理店であるから、請求人は、北斎社にしか請求人商品を販売できないが、北斎社は、日本国内のいかなる企業に対しても請求人商品を販売することが可能である。
ただ、審決例をみると、厳密な代表者・代理人の定義を外れるものであっても、実質的に総代理店的な立場があれば、代理人等であることを認めざるを得ないこととなるようである。
しかし、被請求人が「代理人等」であることは、これらの審決例からしても否定される。なぜなら、被請求人は、北斎社から製品の供給を受けて、請求人製品を販売しようとした者にすぎないからである。なお、前記のとおり、北斎社と被請求人が関連会社であることを否定はしないが、現実には被請求人の取引先が美容業界であったこともあり、厳密には医療機器とされる可能性が強い請求人商品を売ることが出来なかったからである。
この点、アグロナチュラ事件(知財高裁平成23年1月31日判決・裁判所ウェブサイト)では、代理人等の解釈を条文に忠実に限定的に解釈し、代理人等にあたるためには、単に請求人商品を販売する立場にあっただけでは該当しない旨を明確にしているのであって、該判断は、商標法第53条の2の「代理人」の範囲は、限定的、かつ、分離に忠実に解釈されるべきであるとの判断を示したものである。
よって、被請求人が「代理人」に該当しないことは明らかである。
5 被請求人が本件商標登録請求をするについて、「正当な理由」があり、あるいは、請求人の実質的な承諾を得て行ったこと
北斎社が、平成23年7月23日に代理店契約書を締結し、被請求人が本件商標の登録出願をしたのは、平成26年7月8日である。なお、北斎社と請求人との上記契約は、同年末までとなっており、更新条項はないし、契約書の書き換えもなかったが、実際、北斎社は、その後も請求人商品を購入した。元々、請求人商品は、多くの販売が見込める美容機器として被請求人を通じて販売する予定であり、その仕様変更等を依頼していたところ、日本では、医療機器とされる可能性が高く、当初予定していたように被請求人を通じて販売することができず、訴外ダヴィンチテックを通じて、医療機関から輸入代行業依頼書の交付を受けて、被請求人商品を購入してもらう結果となっていた。そこで、別件無効審判でも明らかにしたように、販売先が共立美容外科・歯科、株式会社ビュリフォ(ティーアイクリニック)、広尾プライム皮膚科、ドクターゴールドマンクリニック、あいち美容クリニックなど全て医師あるいは病院に限定されることとなっており、訴外ダヴィンチテックが輸入代行業依頼書の作成を受けて輸入する形式であった。
平成23年7月23日に代理店契約書を締結して以来、本件商標の登録出願までに北斎社及び被請求人や、さらには訴外ダヴィンチテックが多大な宣伝と営業努力により請求人商品を販売してきたものである。例えば、訴外ダヴィンチテックは、それまで同社がダブローと同様の機器を販売していた先に、それと置き換える形でダブローを販売するなどもしており、多額の宣伝広告費を使用したのみならず、特殊な営業努力で請求人の機械を販売した。
この間、北斎社は、販売量を増加させるためにも、請求人商品を医療機器ではないと判断される程度に変更することを要求していたが、請求人は対応しなかった。また、他社が本件商標と同様の商標登録をして、北斎社の営業努力を無駄にすることを危惧しており、当初から請求人が日本国内で商標登録をすることを、請求人に要求していた。なお、平成23年7月23日に代理店契約書を締結したなかに、商標などを尊重する旨の記載があるが、当然ながら韓国内では同国内の商標が尊重され得るが、日本国内では、国内で登録された商標が尊重される意味となる。
ところが、請求人は、日本国内で商標登録をしようとしなかった。そこで、北斎社の意をうけ、訴外ダヴィンチテックの社員であり、英語も堪能な岡田和子は、平成25年3月11日、請求人社員のMr.Sangkyu Seo(海外販売課長ないし部長)に対して、日本での商標登録を急ぐよう申し入れ、費用を払ってもらえれば、商標登録を行う者を紹介したり代行する旨申し入れた。同人は、日本での登録手続をするような話しをしたが、実際には行われなかった(乙2)。
さらに、平成25年11月14日、同じく岡田が、コスモプロフアジア香港(美容ビジネス関係者が集まる世界でも重要な展示会)の会場で、請求人の海外事業責任者である、Mr.Spencer Im(海外販売担当重役)に、日本国内での商標登録をお願いし、請求人がしないのであれば、訴外ダヴィンチテック側で行う旨述べたところ、特に反対をしなかった(乙2)。
そして、結局、請求人側でする様子がなかったので、将来的に販売を増やしていく予定であった被請求人が本件商標の登録出願を行ったのである。これは、請求人が、日本において請求人の商標の権利を取得することを放棄した、又は取得する関心がないことを信じさせた場合に該当する。本件商標は、そのままでは北斎社と被請求人、さらには、訴外ダヴィンチテックが、日本国内で費やしてきた広告宣伝費や、営業努力、そして商標についての購入者の理解や信用を無にすることになってしまうので、やむなく行った行為であり、本件商標の登録出願には正当な理由がある。

第4 当審の判断
商標法第53条の2の規定に基づき、商標登録の取消しを請求することができるためには、第1に「パリ条約の同盟国等において商標に関する権利を有する者の当該権利に係る商標又はこれに類似する商標であって当該権利に係る商品又はこれに類似する商品を指定商品とするもの」であること、第2に「その商標登録出願が正当な理由がないのに、その商標に関する権利を有する者の承諾を得ないでその代理人若しくは代表者又は当該商標登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者によってされたもの」との要件を充たすことが必要であると解される。
そこで、本件について、上記の要件を充たすものであるか否かを検討する。
1 本件商標がパリ条約の同盟国等において商標に関する権利を有する者の当該権利に係る商標又はこれに類似する商標であって、当該権利に係る商品又はこれらに類似する商品を指定商品とするものであるか否かについて
(1)パリ条約の同盟国等において商標に関する権利を有する者について
甲第2号証によれば、請求人は、別掲1のとおりの構成よりなる、パリ条約の同盟国である韓国の登録第4008950020000号商標を基礎登録とする国際登録第1133086号商標(中国を指定国として2012年8月21日国際登録)の商標権を有する者であることが認められるものであり、別掲2のとおりの商品を指定商品として、国際登録されていると認めることができる(当事者間に争いはない。)。
したがって、請求人は、パリ条約の同盟国等において商標に関する権利を有する者であると認められる。
(2)商標及び指定商品についての同一又は類似
ア 本件商標について
本件商標は、前記第1のとおり、「ダブロー」の片仮名及び「DOUBLO」の欧文字を二段に書してなるものであり、その構成文字に相応し「ダブロー」の称呼を生じ、特定の観念は、生じない。
イ 請求人商標
請求人商標は、別掲1のとおり、「doublo」の欧文字で表してなるものであり、その構成中、2番目の文字「o」の上に赤の二重の弧が載せられ、ややデザイン化されているが、「doublo」の文字であることを容易に理解されるものであって、その構成文字に相応して、「ダブロ」又は「ダブロー」の称呼を生じ、特定の観念は、生じない。
ウ 商標の類否
本件商標と請求人商標とを比較すると、外観においては、全体を比較すれば、相違するものの、それぞれの欧文字部分において、その文字綴りを同じくするものであるから、要部といえる該部分において、外観上類似する。
つぎに、称呼においては、両商標は、「ダブロー」の称呼を共通にする類似の商標であり、また、本件商標から生じる「ダブロー」の称呼と請求人商標から生じる「ダブロ」の称呼とは、語尾において長音の有無に差異を有するのみで、それぞれを一連に称呼したときには、聴き誤るおそれがあり、称呼上類似する。
なお、観念においては、両者とも、特定の観念を生じないから比較することはできない。
してみれば、本件商標と請求人商標とは、観念において、比較することができないとしても、外観及び称呼において類似するものであるから、これらを総合して判断すると、両者は類似の商標といえる。
エ 商品の類否
本件商標と請求人商標は、その指定商品において、互いに同一又は類似の商品であること明らかである。
(3)小括
前記(1)及び(2)によれば、本件商標は、パリ条約の同盟国等において商標に関する権利を有する者の当該権利に係る商標と類似する商標であって、その指定商品は、当該権利に係る商品と同一又は類似するというべきである。
2 本件商標の登録出願が、正当な理由がないのに、請求人商標に関する権利を有する者の承諾を得ないで、その代理人若しくは代表者又は当該商標登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者によってされたものであるか否かについて
(1)被請求人の「代理人若しくは代表者」該当性について
提出された証拠及び当事者の主張による請求人と被請求人との関係は、以下のとおりである。なお、被請求人と請求人と契約当事者の関係にあった北斎社とを合わせていうときは、以下、被請求人らという。
ア 請求人と北斎社との契約
請求人は、2008年に設立された韓国の医療・美容機器メーカーであり、2011年より販売を始め、請求人商標は、医療用・美容用商品に付されている商標である(甲3?5)。
請求人は、北斎社と2012年(平成24年)7月23日に代理店契約書を結び(甲6)、その契約書(訳文)の冒頭には、「下記日付にてヒロニック株式会社・・・と北斎株式会社、その継承者、系列社、指名者、承継者又は関連者(集合的に“代理店”とする)間の価値ある考慮、確認及び交換のため事業条件と開始を次のように定める。」と記載され、「1.ヒロニック製品及び装置」の項に「製品:Doublo」、「地域:日本」、「期間:2012年8月から2014年12月まで」等と記載され、「2.地域及び独占権:代理店は本契約1項に記載されたヒロニック装置に対し、ヒロニック独占代理店として活動しなければならない。」と記載されている。
そして、輸出申告筆状(甲7)には、申告日を2012年2月27日、同年8月8日、2013年2月6日、2014年1月7日及び同年3月6日とし、「輸出代行者」を「(株)ハイロニック」、「購買者」を「HOKUSAI CO.LTD」、「目的国」を「JAPAN」、「取引品名」を「DOUBLO FULL SET」、「DOUBLO STANDARD SET」、「DOUBLO-S STANDARD SET」と記載されているから、請求人は、該商品を北斎社へ輸出しているといえる。
イ 北斎社と被請求人との関係
「HOKUSAI Group profile Date」(甲8)には、上部に「HOKUSAI Group」として北斎社が記載され、中央部の右側の「BEAUTY」の下に北斎社と被請求人とが併記されている。その北斎社の下に記載されているアドレス(http://www.hokusai-spa.com)のウェブサイト(甲9)では、左上に北斎と記載はあるものの、会社概要の会社名には「グローバルサイエンス株式会社」と記載されている。
また、甲第8号証の被請求人の下に記載されているアドレス(http://www.globalscience.jp)のウェブサイト(甲10)では、会社概要中の所在地〈開発・メンテナンス〉が「東京都新宿区改代町26-1」と記載されている。
さらに、北斎社及び被請求人の履歴事項全部証明書(甲11、甲12)には、北斎社の本店として「東京都新宿区改代町26番地」の記載、両社とも代表取締役の一人に「笠原征夫」の記載がある。
そうすると、北斎社は、北斎グループの統括的立場であって、当該グループの「BEAUTY」部門に被請求人らが組織されている。そして被請求人らは代表取締役に共通した人物をおいていることから、被請求人らは系列社あるいは関連会社というのが相当である。
ウ 以上によれば、請求人と北斎社とは、2012年7月23日に日本における代理店契約書を結んだところ、該契約には、北斎社の継承者、系列社、指名者、承継者又は関連者をも代理店となる旨明記され、その代理店契約の期間は、2012年8月から2014年12月までとするものである。
そして、請求人商品は、該代理店契約に基づいて、2012年8月8日、2013年2月6日、2014年1月7日及び同年3月6日に北斎社に輸入されたものである。
そうとすると、被請求人らは、関連会社であって、請求人の代理店契約に含まれるというべきであるから、請求人商品についての日本における独占代理店であって、該代理人契約期間は、本件商標の登録出願日(平成26年7月8日)前1年以内の期間も含まれるものである。
したがって、被請求人は、「当該商標登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者」に該当するというべきである。
(2)本件商標の登録出願についての正当な理由について
請求人と北斎社及び訴外ダヴィンチテックとが代理店契約を締結以来、被請求人は、北斎社から製品の供給を受けて、請求人製品を販売しようとした者にすぎず代理人若しくは代表者ではない。また、北斎社及び被請求人や、さらには訴外ダヴィンチテックが多大な宣伝と営業努力により請求人商品を販売してきており、これらの営業努力を無駄にすることを危惧して、請求人が日本国内で商標登録することを要求していたが、請求人は、日本国内で商標登録をしようとしなかった。さらに、請求人が日本国内での登録出願をしないのであれば、訴外ダヴィンチテックで行うことについての申し入れにも特に反対がなかったから、被請求人が本件商標の登録出願を行ったことは、請求人が、日本において請求人商標の権利の取得を放棄、又は、取得する関心がないことを信じさせた場合に該当し、やむなく行った行為であるため、正当な理由がある旨主張している。
しかしながら、前記(1)ウのとおり、本件商標の登録出願の日前1年以内において、被請求人は、「代理人若しくは代表者であった者」に該当するものであるから、請求人商品の販売する立場にあっただけの者とする被請求人の主張は、その前提において誤りがあるものといわなければならない。
また、被請求人は、「被請求人の関係者が請求人の担当者に日本での商標登録を要請したこと。また、日本での商標登録をしなかったことから、被請求人が登録することに許可を受けたこと。」を立証の趣旨とする乙第2号証(岡田和子氏による証明者)を提出しているが、この証拠から訴外ダヴィンチテック社員の岡田和子氏が、請求人社員と交渉を持ったことは窺えるものの、請求人から被請求人が本件商標の登録出願をする承諾を得た事実までは認めることはできない。
その他、被請求人の主張及びその証拠により、本件商標の登録出願及び権利取得が正当なものとする事情は見いだせない。
よって、本件商標は、「正当な理由がないのに、その商標に関する権利を有する者の承諾を得ないで」されたものであると判断するのが相当である。
(3)小括
したがって、本件商標の登録出願は、正当な理由がないのに商標に関する権利を有する者の承諾を得ないでなされ、また、商標に関する権利を有する者の代理人若しくは代表者又は当該商標登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者によってされたものである。
3 まとめ
以上のとおり、本件商標は、登録商標がパリ条約の同盟国において商標に関する権利を有する者の当該権利に係る商標又はこれに類似する商標であって、当該権利に係る商品又はこれに類似する商品を指定商品とするものであり、かつ、正当な理由もないのに当該権利を有する者の承諾を得ないで、当該商標登録出願の日前1年以内にその代理人若しくは代表者であった者によって、登録出願されたものと認めざるを得ない。
したがって、本件商標の登録は、商標法第53条の2に規定する要件をすべて満たしているものと認められ、該規定により、取り消すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
請求人商標(国際登録第1133086号商標)
1 商標の態様

(色彩については原本を参照)


2 指定商品
第10類「Static electric therapy apparatus for medical purposes;testing apparatus for medical purposes;high frequency electromagnetic therapy apparatus for medical purposes;radiotherapy apparatus;body-fat monitors for medical purposes;X-ray apparatus for medical purposes;ultrashort wave therapy machines and apparatus for medical purposes;surgical apparatus and instruments;diagnostic apparatus for medical purposes;radiological apparatus for medical purposes; apparatus for use in medical analysis; medical apparatus and instruments;massage apparatus for medical purposes;skin thickness measuring apparatus for medical purposes;dermatologic orthopedic instruments for medical purposes;lasers for medical purposes;low frequency electric therapy apparatus for medical purposes;ultrasonic therapy machines and apparatus for medical treatment;esthetic massage apparatus.」


審理終結日 2017-07-20 
結審通知日 2017-08-07 
審決日 2017-08-21 
出願番号 商願2014-56920(T2014-56920) 
審決分類 T 1 31・ 6- Z (W10)
最終処分 成立  
特許庁審判長 酒井 福造
特許庁審判官 今田 三男
田中 幸一
登録日 2014-11-21 
登録番号 商標登録第5719874号(T5719874) 
商標の称呼 ダブロー、ダブロ、ドウブロ、ドーブロ 
代理人 横塚 章 
代理人 特許業務法人前田特許事務所 

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