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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y41
管理番号 1329248 
審判番号 取消2015-300890 
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2015-12-08 
確定日 2017-05-29 
事件の表示 上記当事者間の登録第4714541号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4714541号商標の指定商品及び指定役務中、第41類「娯楽施設の提供」については、その登録は取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4714541号商標(以下「本件商標」という。)は、「WAC」の欧文字を書してなり、平成14年11月22日に登録出願、第9類「映像・文字・画像情報を記憶させた磁気ディスク・磁気テープ・光ディスク・光磁気ディスク・CD-ROM・FD(フロッピーディスク)及びその他の記録媒体,録画済みのビデオディスク・ビデオテープ・CD(コンパクトディスク)・MD(ミニディスク)及びDVD(デジタルビデオディスク),録音済みの磁気カード・磁気シート・磁気テープ・CD(コンパクトディスク),電子出版物(電気通信回線を通じてダウンロードにより販売されるものを含む。)」、第16類「印刷物」、第41類「介護福祉士・ホームヘルパー養成のための知識の教授その他の技芸・スポーツ又は知識の教授,介護福祉士・ホームヘルパーの教授のためのセミナー・講習会の企画・運営,在宅・老人介護に関するセミナーの企画・運営又は開催,映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,運動施設の提供,娯楽施設の提供,映写機及びその付属品の貸与,映写フィルムの貸与,図書の貸与,レコード又は録音済みの磁気カード・磁気シート・磁気テープ・CD(コンパクトディスク)の貸与,録画済みのビデオディスク・ビデオテープ・CD(コンパクトディスク)・MD(ミニディスク)及びDVD(デジタルビデオディスク)の貸与」、第43類「老人を含む要介護者の養護・介護,老人を含む要介護者の養護・介護に関する情報の提供,老人を含む要介護者の養護・介護に関する調査及び研究,老人を含む要介護者の在宅養護・在宅介護に関する相談」及び第44類「健康・介護・医療機関その他の医療に関する情報の提供」を指定商品及び指定役務として、同15年10月3日に設定登録されたものである。
なお、本件審判の請求の登録は、平成27年12月21日にされたものである。
また、本件審判の請求の登録前3年以内の期間である同24年12月21日から同27年12月20日までの期間を、以下「要証期間」という場合がある。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、審判請求書、弁駁書、口頭審理陳述要領書及び上申書において、その理由及び答弁に対する弁駁等を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第13号証(枝番を含む。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、その指定役務中、第41類「娯楽施設の提供」(以下「取消請求役務」という場合がある。)について、継続して3年以上日本国内において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用した事実が存しないから、その登録は商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきである。
2 答弁に対する弁駁
(1)被請求人は、被請求人の目的を実現するため、「健康マージャン教室の運営」に取り組んでいると主張するが、役務「マージャン教室の運営」は、役務「麻雀施設の提供」に該当しない。役務「マージャン教室の運営」は、第41類の「技芸・スポーツ又は知識の教授」、あるいは「セミナーの企画・運営又は開催」、又は「麻雀競技会の企画・運営又は開催、麻雀大会の企画・運営又は開催」である。
(2)被請求人は、「麻雀荘」の施設を有していないことを自認する。麻雀荘(娯楽施設)を有していないのに、役務「麻雀荘(娯楽施設)の提供」を行っているというのは論理性を欠く。
被請求人は、麻雀荘(娯楽施設)を有さないが故に、麻雀荘(娯楽施設)を一時的に借り、そこで会員のために、「マージャン大会」、「マージャン競技会」を企画・運営又は開催しているのであれば、「マージャン大会」、「マージャン競技会」を企画・運営又は開催するに際して、麻雀荘(娯楽施設)を一時的に借り、「借りた麻雀荘を会員のために貸し出す(提供する)行為(役務)」は、「マージャン大会」、「マージャン競技会」を企画・運営又は開催するに際しての付随的な行為(役務)というべきであり、独立した役務「麻雀荘の提供」には該当しない。商標法が対象とするのは、「主たる(独立した)役務における使用」であって、「付随的な役務における使用」ではない。
そして、被請求人が提出した乙第5号証によれば、被請求人が麻雀荘(娯楽施設)を借りたという事実は認められない。該証拠によれば、麻雀荘(娯楽施設)を借りた者は、被請求人以外の者であることがうかがえる。
したがって、被請求人は、被請求人が商標を使用しているという役務が、「麻雀荘(娯楽施設)の提供」ではなく、「麻雀競技会の企画・運営又は開催,麻雀大会の企画・運営又は開催」であると自白しているのに等しい。
(3)被請求人は、被請求人が、麻雀荘に直接借用料を支払っていると主張するが、これを裏付ける資料はない。そして、乙第5号証は、麻雀荘を借りて麻雀を楽しんだゲーム代として616,200円が定例会会費の中から支払われたことを証しているにすぎない。麻雀荘に麻雀ゲーム代が会員の定例会会費の中から支払われたという事実は、被請求人から「麻雀荘(娯楽施設)」を借りたのではない事、すなわち、被請求人が「麻雀荘(娯楽施設)を提供」していないことを如実に証明しているものであり、乙第5号証は、被請求人による「麻雀荘(娯楽施設)の提供」がなかったことを証明している。
被請求人は、「WAC麻雀サロンの使用・利用料としてWAC活動ポイント運営者に対し利用者が直接利用料(定例会会費)を支払っている」と主張するが、この主張において、「WAC活動ポイント運営者」は「被請求人」であるのか、それとも、「グループ名称が『WAC健康麻雀福島サロン』なる者」であるのかは判然としない。
しかし、乙第5号証「WAC健康麻雀福島サロン 平成26年度 会計報告」からすると、「WAC活動ポイント運営者」は「グループ名称が『WAC健康麻雀福島サロン』なる者」であるとみなすのが自然である。そして、需要者(WAC健康麻雀福島サロンの会員)は、会費(定例会会費)を、「グループ名称が『WAC健康麻雀福島サロン』なる者」に支払っていること、かつ、乙第5号証の支出の部には被請求人には一円も支出されていないことから、「WAC麻雀サロンの使用・利用料としてWAC活動ポイント運営者に対し利用者が直接利用料(定例会会費)を支払っている」は、「グループ名称が『WAC健康麻雀福島サロン』の会員(個人)はグループ名称が『WAC健康麻雀福島サロン』なる者に会費を納め、グループ名称が『WAC健康麻雀福島サロン』なる者が前記会費の中から麻雀ゲーム代金を麻雀荘に支払っている」としか解することができない。
該証拠によれば、麻雀荘におけるゲーム代は、需要者(WAC健康麻雀福島サロン)から、麻雀荘に、支払われている。ここには、被請求人は、全く、関与していない。該証拠における支出の部には被請求人に支払われた金額(麻雀ゲーム代)は存在しない。すなわち、需要者(WAC健康麻雀福島サロン)が、被請求人に、「娯楽施設(麻雀荘)の提供」の対価として、支払った事実はないということである。
してみれば、被請求人は役務提供の対価を受け取っていないのであるから、商標法がいう「被請求人による役務の提供」の事実はないといわざるを得ない。
乙第5号証によれば、麻雀荘におけるゲーム代は定例会会費の中から支出されている。このことは、需要者(「WAC健康麻雀福島サロン」の会員(個人))は、独立した役務の対価として支払ったものではないことが判る。需要者(個人)が支払ったのは定例会会費のみであり、需要者(個人)は定例会会費以外には支払っていない。
(4)乙第1号証ないし乙第4号証においては、被請求人による「娯楽施設の提供」があったことを証する事実はない。
(5)乙第6号証及び乙第7号証は、被請求人である「公益社団法人長寿社会文化協会が発行する「ふれあいねっと」という機関誌であり、その記載中に、グループ名称「WAC健康麻雀福島サロン」、「WACひろしま健康麻雀サロン」等の記載はあるが、被請求人による「娯楽施設の提供」があったことを証する事実がない。
(6)上述のとおり、被請求人は、「娯楽施設(麻雀荘)」を保有しないことを自認しており、かつ、被請求人が行っているのは「マージャン教室の運営」であり、乙第8号証ないし乙第12号証の証拠は、この事実を覆す資料ではない。また、これらの証拠には、被請求人による「娯楽施設の提供」があったことを証する事実はない。
(7)乙第5号証ないし乙第12号証においては、「WAC」を一体的に含むグループ名称が記載されているにすぎず、さらに、乙第1号証ないし乙第12号証においては、被請求人が「娯楽施設(麻雀荘)の提供」を行っていることを証する資料はない。すなわち、被請求人は、本件商標を、その指定役務中「第41類 娯楽施設の提供」について使用していないことが明白である。
(8)乙第1号証ないし乙第12号証において認められる使用例は、例えば「WAC健康麻雀福島サロン」、「WACひろしま健康麻雀サロン」、「WAC東北ネットワークセンター」及び「WACまごころサービスみやぎ」等であり、「WAC・・・」、「WAC」と「・・・」とが一体不可分の関係で書されている事実、「WAC」と「・・・」とが一体不可分の関係で書されている理由は、「WAC・・・」がグループ名称であるからによる。また、「WAC・・・」はグループ名称であるから、「WAC・・・」を「WAC」と「・・・」とに分離することはできない。
したがって、被請求人は、役務「娯楽施設(麻雀荘)の提供」において、本件商標「WAC」を使用していないといわざるを得ない。
(9)被請求人の主張からは、「WAC会員」が誰か不明である。「WAC会員」とは「WAC健康麻雀福島サロン」等のグループであるのか、それとも、該グループの構成員(個人)であるのかは判らない。該グループの構成員(個人)であるとした場合、個人は、被請求人に、麻雀荘を提供した代金を払っていない。個人は、商標法上の他人に該当しない。
また、「WAC健康麻雀福島サロン」等のグループであるとした場合、該グループは、被請求人に、麻雀荘を提供してくれた代金を払っていない。
してみれば、該グループは、商標法上の他人に該当しない。すなわち、被請求人が行っていると主張する「役務」は、商標法にいう「役務」、すなわち、「他人のためにする労務又は便益」に該当していない。
したがって、かかる観点からも、被請求人は、役務「娯楽施設(麻雀荘)の提供」において、本件商標「WAC」を使用していないといわざるを得ない。
3 口頭審理陳述要領書(平成28年9月30日付け)
(1)「WACひろしま健康麻雀サロン」及び「WAC福島健康麻雀サロン」の使用は本件商標の使用である旨の主張に対して
「WACひろしま健康麻雀サロン」及び「WAC福島健康麻雀サロン」には、「WAC」が含まれているが、これらはいずれも一体不可分に書されたものであり、「WAC」のみが抽出できるという合理的な根拠はない。「要部が同一」ならば「同じ商標」であるという被請求人の主張は、これまでの特許庁の商標の取扱いに、反した論理であり許されない。
(2)被請求人が主張する役務「娯楽施設の提供」に対して
ア 被請求人は、「麻雀荘(麻雀施設)」を保有していないが、「麻雀荘(麻雀施設)所有者から麻雀施設を借り受け」、「又貸し」していると主張するが、「麻雀荘(麻雀施設)所有者」と「被請求人」との間で「麻雀施設の借用契約書」がない。「麻雀施設の借用契約書」が存在していたならば、既に、提出されていたはずであり、「麻雀施設の借用契約書」が提出されていない事自体が「麻雀施設の借用契約」がない事を示している。
イ 乙第18号証によれば、会場費は麻雀参加人数によって変動しているが、「娯楽施設所有者」と「被請求人」との間で「麻雀施設の借用契約」がなされているならば、その契約内容は、通常、1ヵ月当たり、定額となるのが普通である。施設の借用契約における対価は、麻雀施設を利用しても利用しなくても、人数に拘わらず、一定の金額であり、麻雀施設(麻雀荘)の借用契約における対価(借用料金)が、麻雀参加人数によって、変動するといったことは、通常、有り得ない。麻雀参加人数によって会場費が変動するような形態は、単に、麻雀荘で麻雀する場合に支払う利用料金(場所代)の形態と全く変わらない。
ウ 以上のとおり、被請求人が麻雀荘(麻雀施設)所有者から麻雀施設を借り受けている旨の主張は、事実に反した主張であるといわざるを得ない。
そして、「麻雀荘(麻雀施設)所有者から麻雀施設の借り受け」自体がないから、「麻雀荘(麻雀施設)の又貸し」自体も有り得ないといわざるを得ない。
(3)商標の使用は不特定の一般人に対しても行われている旨の主張に対して
商標の使用は不特定の一般人に対しても行われていることを証明する資料は乙第14号証のみしかなく、該証拠には年月日の記載がなく、本件審判請求前の書類であることが立証されていない。そして、被請求人が提出した他の証拠にも、本件商標が不特定の一般人に対しても使用されている事実は認められない。
(4)健康麻雀は、「事業として」に該当する旨の主張に対して
被請求人は、「当該健康麻雀は、『事業として』に該当することは明らかである。」旨を主張するが、乙第14号証における「26年度WACポイント・ネットワークセンター決算報告書」によれば、平成26年度の収入合計は4,027,667円であるのに対して、平成26年度の支出合計は3,858,640円(次期繰越収支差額169,027円)である。平成26年度における実際の収入合計は3,874,017円であり、支出合計と殆ど変わらない。これでは、収益が有る、すなわち、事業を行っているとはいえない。
そして、大会賞品代として731,200円もの額を計上していること自体、すなわち、利益が出ないように会員に還元していること自体が、収益を上げてはならないことを示している。このことは、公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(平成18年6月2日法律第49号)からも、「商標法上の事業」に該当していないといわざるを得ない。
(5)被請求人は、「麻雀施設の壁に『WAC健康麻雀』と付した紙を展示して健康麻雀を提供している麻雀サロンの開催風景を、健康麻雀の利用情報ともに、ウェブサイトに表示する行為(乙10、乙11)は、「役務に関する広告を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」(商標法第2条第3項第8号)に該当する旨を主張するが、乙第10号証は、「WAC健康麻雀」をスローガンとして掲げた麻雀荘の室内の写真が示されているにすぎない。スローガンとして掲げた「WAC健康麻雀」が、飾り(装飾)の類にすぎず、商標的使用でないことは明らかであり、乙第10号証には役務「娯楽施設(麻雀荘)の提供」を示す開示がなく、乙第11号証も同様である。
(6)被請求人は、情報誌「ふれあいねっと」の役務の提供内容を記載したページに「WAC健康麻雀福島サロン」、「WACひろしま健康麻雀サロン」と付したものを被請求人の会員に送付し、又は一般需要者に頒布する行為(乙10、乙11)は、「役務に関する広告に標章を付して展示し、若しくは頒布する行為」(商標法第2条第3項第8号)に該当する旨を主張するが、乙第10号証及び乙第11号証には、役務「娯楽施設(麻雀荘)の提供」が認められない。また、「一般需要者に頒布」と主張するが、これを証する資料はない。
(7)被請求人は、「WAC健康麻雀」の利用情報を記載したビラに「WAC1月ご案内」と付したものを被請求人の会員に送付し、又は一般需要者に頒布する行為(乙15ないし乙17)は、「役務に関する広告に標章を付して展示し、若しくは頒布する行為」(商標法第2条第3項第8号)に該当する旨を主張するが、乙第15号証及び乙第16号証には、役務「娯楽施設(麻雀荘)の提供」が認められない。また、「一般需要者に頒布」と主張するが、これを証する資料はない。
(8)被請求人が提出した乙第15号証ないし乙第17号証には、「WAC健康麻雀サロン」の表題の下に、日付、時間、場所、連絡先、会費等の記載が認められるが、この記載も、被請求人が「娯楽施設(麻雀荘)の提供」を行っていることを示すものではない。むしろ、麻雀荘の提供者を示している。
4 上申書(平成28年11月4日付け)
(1)被請求人が取消請求役務を行っていないことについて
ア 被請求人は、「賃貸借契約は、諾成・不要式契約であることから契約書の有無は問題でないし、賃貸借の支払い方法は契約自由の原則の下、双方の合意により決定できる」旨を主張するが、この「賃貸借契約書がない旨の被請求人の主張」は、商標法第50条の規定からすると、被請求人が登録商標の使用(娯楽施設の提供)をしていることを証明していない。
イ 「麻雀荘に支払われる利用代金」は、乙第18号証からもわかるとおり、「麻雀卓を使った分の料金のみ」である。この利用料金の支払実体は「麻雀荘所有者から麻雀施設を借り受けていない」場合の利用料金の支払実体と同じである。すなわち、利用料金の支払実体からしても、「麻雀施設所有者から麻雀施設を借り受けて、又貸し」がなかったことを証している。しかも、被請求人が麻雀荘への利用料金の支払いを行った形跡すらなく、麻雀参加者が、直接、麻雀荘への利用代金の支払いを行っているようである。
ウ 前記麻雀荘の利用料金支払形態が「麻雀荘所有者から麻雀施設を借り受けていない」場合の利用料金支払形態と同じという実体から、麻雀荘に対する利用料金の支払が、麻雀参加者から麻雀荘であって、麻雀参加者から被請求人を経て麻雀荘ではなく、すなわち、麻雀参加者が、直接、麻雀荘への利用代金の支払いを行っていて、被請求人は麻雀荘への代金支払いに関与していないことから、被請求人の主張「麻雀施設所有者から麻雀施設を借り受け、これを『又貸し』しているから、この行為は『麻雀荘(娯楽施設)の提供』に該当する。」は、認められない。すなわち、被請求人は「娯楽施設(麻雀荘)の提供」を行っていないといわざるを得ない。
(2)本件商標(WAC)が使用されていないことについて
被請求人は、「WAC」と「WAC健康麻雀サロン」、「WACひろしま健康麻雀サロン」、「WAC健康麻雀福島サロン」等とは、社会通念上同一であると主張しているが、被請求人の主張の如く、部分、部分に切り離し、「識別力」を有さない部分は要部ではないから、無視できるという主張は間違った考えに基づいている。そして、被請求人が提出の資料から本件商標「WAC」が使用されている事実を見いだすことができない。
(3)請求人は、乙第27号証の1や乙第28号証の1ないし3をチェックしたが、被請求人が「麻雀荘(娯楽施設)の提供」を行っている事実は認められない。ここに認められるのは、「麻雀同好会」あるいは「仲良しグループ」としての名称「WACひろしま健康麻雀サロン」、「WAC健康麻雀サロン」にすぎない。
(4)小括
以上のとおり、麻雀荘において、「麻雀同好会(仲良しグループ)」である「WAC健康麻雀サロン」という名で「麻雀大会」が開催されることを読み取れるにしても、これは会員向けにされた告知にすぎず、本件商標「WAC」が本件指定役務「娯楽施設の提供」において使用されていることは証明できておらず、商標権者(被請求人)・専用使用権者・通常使用権者の何れもが、本件商標を、指定役務「第41類 娯楽施設の提供」において、要証期間内に日本国内において、使用していないことが明白である。

第3 被請求人の主張
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を、答弁書、口頭審理陳述要領書及び上申書において、要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第36号証(枝番を含む。)を提出した。
1 答弁の理由
(1)被請求人について
ア 被請求人は、英文で「WONDERFUL AGING CLUB」と表示され、その略称又は短縮形が「WAC」である。被請求人は、新しい視野から豊かで活力ある21世紀の長寿社会を構築していくためには、当事者である中高年自身の自覚と自立、そして仲間作りが大きな意味を持っているとの考えに基づき、そのような社会の実現に寄与することを趣旨として設立された。そして、シニアの健康と生きがい作り、地域の相互扶助機能の活性化を促進する活動を行うという目的を実現するために、●コミュニティ・カフェのネットワーク化を進め地域コミュニティ作りの推進●高齢者・認知症疑似体験等の研修により、高齢者にやさしい商品・サービスの開発、環境・社会づくりに寄与する●健康マージャン教室や高齢者向け料理教室を運営する●活動グループであるWACポイントを多様につくり、長寿社会に関するさまざまな情報の提供とネットワーク作りなどの事業に積極的に取り組んでいる(乙3)。
イ WACポイント等
「ポイント」とは、「本協会の目的に沿った会員の自主的な社会参加活動の拠点として組織された会員のグループ組織」である。(乙4)。
(2)指定役務について
ア 健康麻雀の実施
被請求人は、「健康麻雀」を行っている。対象である高齢者の利用に便利な場所を選定して施設を借用した上で高齢者に不便がないよう設備・環境を整えてWAC麻雀サロンとして利用させることで、対価として利用料金を徴収している。よって、被請求人の行う「健康麻雀」が「娯楽施設の提供」に該当することは明らかである。
イ 被請求人の健康麻雀とは
被請求人は、「WAC健康マージャン」の名の下に高齢者のための娯楽・レクリエーションの場としてのWAC麻雀サロンを提供している。自前で場所を有さない理由は、「高齢者が毎日マージャンをやる状況は考えにくいこと」、「被請求人の活動は多岐にわたるものであって、特に麻雀について常設施設を有する理由はないこと」、また、「高額な電動マージャン卓を複数備えた麻雀サロンの常設・所有は、税法上の優遇措置を受ける公益法人として適切ではないこと」等による。かかる理由から、被請求人は、最適な娯楽施設の提供形態として、既存の麻雀荘から利用者である高齢者の交通に不便のない場所を選択し、WAC名で定期的に借用して利用者(WAC会員及び一般参加者)に提供するという方法を選択して営業してきたのである。
ウ 健康麻雀の利用料
被請求人が、麻雀荘に直接借用料金を支払っていること、「娯楽施設」であるWAC麻雀サロンの使用・利用料としてWAC活動ポイント運営者に対し利用者が直接利用料(定例会会費)を支払っていることは、例えば「WAC健康麻雀福島サロン 平成26年度会計報告」(乙5)から明らかである。
(3)本件商標の使用について
ア 要証期間内の使用の証拠
被請求人は、情報誌「ふれあいねっと」を発行している。その最新刊である2015年8月号(通算第269号、2015年8月20日発行)には、被請求人の活動プログラムとして、本件商標を使用した健康マージャンサロンの記載がある。また、2014年7月号(通算第266号、2014年7月31日発行)にも、同様の記載があり、本件審判の要証期間に本件商標を使用して役務の提供が行われていた事実がわかる(乙6、乙7)。また、上記情報誌各号は、現在もホームページよりダウンロード可能であることから、継続して現在まで使用されているといえる。
イ 使用の事実についての補強証拠
(ア)被請求人ウェブサイトの「活動別ポイント紹介 健康麻雀」ページに「WAC健康マージャンサロン」の表示があり、当該ページで表示される健康麻雀紹介ビデオで、本件商標が使用されている(乙8)。
(イ)「WAC 公益社団法人長寿社会文化協会 東北ネットワークセンター」のホームページに健康麻雀の曜日と時間が記載されており、この部分に本件商標が使用されている(乙9)。
(ウ)「東海地区 憩いの広場」のウェブページに掲載の写真の壁面に「WAC健康麻雀」とあり、本件商標が使用されていることが認められる(乙10)。
(エ)「広島県 WACひろしま健康麻雀サロン」のウェブページに健康麻雀の曜日及び時間が記載され、本件商標が使用されている。また、同ページ掲載の写真には「2014/08」の日付が認められるところ、要証期間において使用されていたことがわかる(乙11)。
(オ)WAC健康麻雀福島サロンのウェブページに本件商標が使用されて、健康麻雀の曜日及び時間が記載されている(乙12)。
(カ)上記各証拠には、本件商標と物理的に同一の商標「WAC」が現されている。
(4)結論
以上のとおり、本件商標権者は、本件商標を取消請求役務について使用している。
2 口頭審理陳述要領書(平成28年9月16日付け)
(1)被請求人が、会員に麻雀サロンとして特定の施設を利用させていることについて
ア 「WACネットワークセンター」は、健康麻雀サロン利用者に健康麻雀サロンを提供しており、被請求人の地方支部であって、被請求人の理事が運営を行っている(乙13)。
イ 「WACポイント運営者」も、健康麻雀サロン利用者に健康麻雀サロンを提供しており、被請求人の正会員(年会費10,000円)であって、被請求人より特定の活動組織の運営を認められた者である(乙4、乙13)。
ウ 「WACひろしま健康麻雀サロン」又は「WAC福島健康麻雀サロン」は、「WACポイント運営者」が運営する活動組織である(乙4、乙13)。
エ 健康麻雀サロン利用者(賛助会員)は、被請求人の賛助会員(年会費3,000円)である(乙7)。
オ 健康麻雀サロン利用者(60才以上の一般需要者)は、一般需要者である(乙14)。
カ つまり、「麻雀サロンとして特定の施設を利用させている」主体は、「WACネットワークセンター」及び「WACポイント運営者」である。
(ア)「WACネットワークセンター」は、被請求人の理事が運営する被請求人の地方支部であるから、「WACネットワークセンター」は、「被請求人」に該当することは明らかである。
(イ)「WACポイント運営者」は、被請求人の正会員として、賛助会員より高い年会費を支払い、かつ、「WACひろしま健康麻雀サロン」又は「WAC福島健康麻雀サロン」を運営する者として承認されている(乙4)。その上で、「WACポイント運営者」は、WACポイントの名称として「WACひろしま健康麻雀サロン」又は「WAC福島健康麻雀サロン」を使用している(乙6、乙7)。
また、「WACひろしま健康麻雀サロン」又は「WAC福島健康麻雀サロン」各々の要部は、「WAC」であり、これは本件商標と同一である。
以上から、「WACポイント運営者」は、被請求人から本件商標の使用許諾を受けた通常使用権者であるといえる。
(2)被請求人が、事業として他人に対して「娯楽施設の提供」をしていることについて
ア 「事業として」について
「WACポイント運営者」は、健康麻雀サロン利用者から、健康麻雀サロン利用時ごとに会費を徴収しており、その会費は「会場費」と「麻雀サロン利用代」に分けられる。そして、この「麻雀サロン利用代」がWACポイント、すなわち「WACひろしま健康麻雀サロン」又は「WAC福島健康麻雀サロン」の収益となる。例として、WACポイント「WACひろしま健康麻雀サロン」についていえば、健康麻雀サロン利用者は、会費として¥1,500を支払う(乙15、乙17)。「WACポイント運営者」は、会場費として、¥1,100に当日の健康麻雀サロン利用者人数を乗じた料金を会場である麻雀荘に支払う(乙18)。つまり、麻雀サロン利用代として、¥400に当日の健康麻雀サロン利用者人数を乗じた料金が、「WACポイント運営者」の収益となる(乙19)。当該「WACひろしま健康麻雀サロン」の平成26年度の麻雀サロン利用代、「26年度WACポイント・ネットワークセンター決算報告書」(乙14)に記載のとおり、会費1,500円に、健康麻雀サロン利用者2,548名を乗じた3,822,000円から、会場費2,802,800円を差し引いた額1,019,200円が、収益となる。この差し引き額は、麻雀サロン利用代に健康麻雀サロン利用者2,548名を乗じた額と同額である。以上より、当該健康麻雀は、「事業として」に該当することは明らかである。
イ 「娯楽施設の提供」について
健康麻雀サロンの提供(以下「本件使用役務」という。)は、第41類「娯楽施設の提供」に該当すべきものであるため、この点について以下に説明する。
(ア)役務の提供方法について
「WACネットワークセンター」又は「WACポイント運営者」は、物理的な施設としての「麻雀荘」(以下「麻雀施設」という。)を保有していないが、上記アで述べたとおり、麻雀施設所有者から麻雀施設を借り受け、それを健康麻雀サロン利用者に使用させ、「麻雀サロン利用代」を徴収している。つまり、「WACネットワークセンター」又は「WACポイント運営者」は、いわゆる麻雀施設を「又貸し」しているが、現に「麻雀サロン利用代」としての利益を得ている以上、健康麻雀サロンを「利用させる」行為は、「娯楽施設の提供」というべきである。また、「又貸し」は「娯楽施設の提供」に当たらず、常に「娯楽施設」の所有者でなければ、「娯楽施設の提供」に該当しない、という理由はない。現に、「商品及び役務区分解説」(2012年7月31日発行改訂第6版)の第41類の「娯楽施設の提供」の説明に、「娯楽施設を利用させるサービスが含まれる。」との記載が認められる(乙20)。
(イ)役務の提供を受ける者の目的について
健康麻雀サロン利用者は、自身の楽しみのため、つまり娯楽のために、「WACネットワークセンター」又は「WACポイント運営者」が提供する健康麻雀を利用している。さらにいえば、健康麻雀は、通常の麻雀と異なり、禁煙・禁酒をルールの一つとするため(乙8)、健康麻雀サロン利用者は、通常の麻雀施設においては得がたい健全な環境において麻雀を楽しむために、健康麻雀サービスを利用している。現に、健康麻雀サロン利用者は、通常の麻雀愛好者と異なり、女性が多いという特徴がある。
以上より、本件使用役務は、第41類「娯楽施設の提供」に該当すべきものであることは、明らかである。
(3)本件商標の使用は、商標法第2条第3項各号のいずれの行為の使用であるかについて
ア 健康マージャンの提供内容が記載されたウェブサイトに「WAC 公益社団法人/長寿社会文化協会/東北ネットワークセンター」と表示する行為(乙21)。
ウェブサイト上方の「WAC 公益社団法人/長寿社会文化協会/東北ネットワークセンター」の表示は、本件商標の使用である。また、当該ウェブサイトを見た需要者は、「WAC」が健康麻雀の提供主体であること、また健康麻雀の情報を知ることができるため、当該ウェブサイトは「広告」にあたる。よって、当該行為は、「役務に関する広告を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」(商標法第2条第3項第8号)に該当する。
イ 麻雀施設の壁に「WAC 健康麻雀」と付した紙を展示して健康麻雀を提供している麻雀サロンの開催風景を、健康麻雀の利用情報ともに、ウェブサイトに表示する行為(乙10)。
「WAC 健康麻雀」の表示は、本件商標の使用である。また、当該ウェブサイトを見た需要者は、「WAC」が健康麻雀の提供主体であること、また、健康麻雀の情報を知ることができるため、当該ウェブサイトは「広告」にあたる。よって、当該行為は「役務に関する広告を内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為」(商標法第2条第3項第8号)に該当する。
ウ 情報誌「ふれあいねっと」の役務の提供内容を記載したページに「WAC健康麻雀福島サロン」又は「WACひろしま健康麻雀サロン」と付したものを被請求人の会員に送付し、又は一般需要者に頒布する行為(乙6、乙7)。
「WAC健康麻雀福島サロン」又は「WACひろしま健康麻雀サロン」の表示は、後述するとおり、本件商標の使用である。また、当該ページを見た需要者は、「WAC」ないし「WAC健康麻雀福島サロン」又は「WACひろしま健康麻雀サロン」が、健康麻雀の提供主体であること、また、健康麻雀の情報を知ることができるため、当該ウェブサイトは「広告」にあたる。情報誌「ふれあいねっと」は、年4回会員に郵送され、さらに、一般需要者が出入りする「WACネットワークセンター」事務所等において持ち帰り可能な状態で複数冊展示・頒布している。よって、当該行為は「役務に関する広告に標章を付して展示し、若しくは頒布する行為」(商標法第2条第3項第8号)に該当する。
エ 「WAC健康麻雀」の利用情報を記載したビラに「WAC1月ご案内」と付したものを被請求人の会員に送付し、又は一般需要者に頒布する行為(乙15ないし乙17)。
「WAC1月ご案内」表示は、本件商標の使用である。また、当該ビラを見た需要者は、「WAC」ないし「WAC中国地区センター」が健康麻雀の提供主体であること、及び健康麻雀の情報を認識することができるため、当該ウェブサイトは「広告」にあたる。さらに、「WAC1月ご案内」は、当年、当月に限られず、毎前月の第一週に、健康麻雀会場において健康麻雀利用者に配布すると共に、一般需要者が出入りする「WACネットワークセンター」事務所等において持ち帰り可能な状態で複数冊展示・頒布している。よって、当該行為は「役務に関する広告に標章を付して展示し、若しくは頒布する行為」(商標法第2条第3項第8号)に該当する。
(4)弁駁書に対する意見
ア 本件使用役務が、第41類「娯楽施設の提供」に該当することについて
被請求人は、本件使用役務のほか、「健康麻雀教室」を行っている事実はあるが、これらは別々に行っているものである(乙9)。つまり、「健康麻雀教室」を行っている事実は、被請求人及びその使用権者が、本件使用役務すなわち「娯楽施設の提供」を行っているという事実をなんら否定するものではない。また、本件使用役務において、麻雀ゲームの初心者にゲームの方法を教えることがあっても、一般に、娯楽施設の提供者はその娯楽施設の利用方法を教えること、例えば、麻雀荘の提供者が麻雀のゲームルールを教えることは通常行われているため、このように本件「麻雀サロンの提供」に「麻雀ゲームのルールを教える」側面があることは、本件使用役務を行っているという事実をなんら否定するものではない。
イ 「麻雀大会」又は「麻雀競技会」の非該当性
一般に「大会」とは、「組織や団体が催す、行事としての大規模な会。」をいう(デジタル大辞泉:乙22)。また、「競技会」とは、「運動競技の大会、狭義には陸上競技の大会をいう。」(ブリタニカ国際大百科事典小項目事典:乙23)。「大会」や「競技会」には、通常、その大会・競技の参加者以外の観者が存在するのが一般的である。これを本件についてみると、本件「健康麻雀サロン」は一回の参加者は一桁?30名程度であり、特別な行事としての大規模な会には該当しない。さらに、健康麻雀サロンには、健康麻雀をする者以外の者は参加しない。よって、本件「健康麻雀サロン」は、「麻雀大会」又は「麻雀競技会」に該当しない。
ウ 麻雀荘の利用料について
被請求人が、麻雀荘に利用料を支払っている事実の有無は、「役務の提供」の事実判断とは直接関係しない。
エ 「WAC健康マージャン」の語の使用が本件商標の使用であること
請求人は、「WAC健康マージャン」の語の使用が被請求人による商標「WAC」の使用でないと主張するが、「WAC健康マージャン」のうち、「健康マージャン」は一般に「煙草を吸わない」、「お酒を飲まない」、「お金をかけない」で行う麻雀ゲームについて広く使用されている(乙24)。そうすると、商標「WAC健康マージャン」の要部は、本件商標と同一の「WAC」である。よって、「WAC健康マージャン」の使用は、本件商標の使用であるといえることは明らかである。
3 上申書(平成28年10月26日付け)
(1)使用商標が、本件商標と同一又は社会通念上同一の商標であること
乙第27号証の1は、広島県広島市の広報誌に掲載された「WACひろしま健康麻雀サロン」の記事であるところ、見開き2頁中央の当該記事の中に健康麻雀サロンの役務内容が記載されているため、商標法第2条第3項第8号の広告にあたる。また、乙第28号証の1ないし3は、「WAC健康麻雀サロン」の案内チラシであり、これも健康麻雀サロンの役務内容が記載されているため、商標法第2条第3項第8号の広告にあたる。
ア 本件商標と同一の商標
乙第28号証の1ないし3のチラシに記載の使用態様「WAC3月ご案内」、「WAC5月ご案内」、及び「WAC6月ご案内」については、その構成要素のうち「○月ご案内」部分は明らかに自他役務等識別機能を発揮しない。また、該チラシ記載の使用態様「WAC健康麻雀サロン」も、その構成要素のうち「健康麻雀サロン」部分は、役務の内容及びその提供場所を表すものであり自他役務等識別機能を発揮しない。そうすると、これらの使用態様の構成要素のうち自他役務等識別機能を発揮しているのは「WAC」部分のみであるため、乙第28号証の1ないし3のチラシに記載の使用態様は、本件商標「WAC」と同一の商標「WAC」の使用というべきである。
イ 本件商標と社会通念上同一の商標
乙第28号証の1ないし3以外の使用商標は、いずれも以下の共通した特徴がある。
(ア)外観
a 語頭の3文字が欧文字「WAC」で、それ以降は全て日本語である。
b 商標全体として12?29文字、日本語部分のみで9?26文字もあり冗長である。
(イ)称呼
a 語頭の「WAC」は、「ワック」との称呼を容易に生じる。
b 上記外観により、「WAC」のみから「ワック」と称呼されやすい。
(ウ)観念
a 「WAC」は、造語であり識別力が高い。
b 日本語部分は、役務の内容及びその提供場所を表すものである。
以上の特徴から、使用商標のうち、自他役務識別機能を発揮している部分は「WAC」であるということができる。よって使用商標は、本件商標「WAC」と社会通念上同一の商標であるというのが相当である。
(2)使用役務の提供者が被請求人の組織の一部であること
請求人は、「商標権者・専用使用権者・通常使用権者のいずれもが、本件商標を使用していない」旨を主張するので、この点について、被請求人の「ポイント」を例に挙げて詳しく説明する。
まず、使用役務の提供者「WACひろしま健康麻雀サロン」、「WAC 福島健康麻雀サロン」等(以下「本件使用役務提供者」という場合がある。)は、被請求人の定款第39条、及び被請求人の規程で定められた「ポイント」に該当する。
ここで、本定款及び規程の記載事項のうち、「ポイント」についての記載をまとめる(乙13、乙29)。
ア 本協会は、本協会の目的に沿った会員の自主的な社会参加活動の拠点として、ポイントを設置運営することができる。
ポイント及びネットワークセンターの設置運営に関して必要な事項は、理事会の決議を経て、代表理事が別に定める(定款第39条)
イ 本協会の定款第39条に基づき、ポイントの設置運営に関し必要な事項を定める(規程第1条)。
ウ 本協会の目的に沿った社会参加活動の拠点として組織された会員の組織(規程第2条)。
エ ポイントは、会員3名以上から構成される。主な活動目的等を、所定の届け出により、本協会の承認を得るものとする(規程 第3条)。
オ ポイントの名称は、「WACポイント」の愛称を冠することができる(規程第4条)。
カ ポイントの運営及び事業活動は、本協会の目的に沿った自主的社会参加活動として、次の活動を行う(規程 第5条)。
キ ポイントは、本協会の基本的な単位組織として次の義務を負うものとする。1.毎年度、現況、事業・会計収支の報告及び次年度の事業計画を報告する。2.本協会の定款を遵守するとともに、・・営利を目的とする活動に関与してはならない(規程 第6条)。
ク ポイントの運営・活動に本協会の目的、若しくは本規程に反する行為があった場合は、・・ポイントの承認を取り消すことが出来る(規程 第7条)。
さらに、被請求人のパンフレットも追加提出し、そこに記載された組織図(乙31)及び上記本定款(乙29)からは、「ポイント」は、被請求人の会員が運営する被請求人の「基本的な単位組織」であること、及び被請求人の規程に則って「WAC」の冠した「WACひろしま健康麻雀サロン」等を使用していることが客観的に理解される。
以上より、本件使用役務提供者は、被請求人の組織の一部、すなわち「被請求人」であるということができる。
(3)本件使用役務は「事業」であり商標法上の「役務」であること
ア 公益性の高い「事業」であること
本件使用役務提供者は、前記(2)で述べたとおり、被請求人の定款・規程で定められた「ポイント」であるところ、その「ポイント」の事業活動も同定款・同規程(前記(2)アないしクのとおり)で定められている(乙13、乙29)。
上記のとおり、「ポイント」の活動は、被請求人の目的に沿った事業活動の一つであって、被請求人の承認を受ける必要があり、被請求人に対し事業活動の報告義務があり、被請求人がその承認を取り消すことができるものであることが理解できる。
そうすると、本件使用役務提供者は、被請求人の公益事業の一環として本件使用役務をしていることが理解でき、現に被請求人に対して事業活動の報告書を提出している事実からもそれが裏づけられる(乙14)。さらに、本件使用役務は、「WAC」を冠した「WACひろしま健康麻雀サロン」等の名称で事業活動をしていることにより、需要者が、これを「WAC」すなわち被請求人の提供する公益性の高い事業の一環であると認識することができるものといえる。
以上より、本件使用役務は、被請求人の提供する公益性の高い「事業」であるというのが相当である。
イ 独立した商取引の対象であること
本件使用役務については、乙第27号証の1及び乙第28号証の1ないし3に「会費 1,500円」の記載があるとおり、利用料として1,500円を徴収している事実が明白となった。そして、この金額は、年間活動報告書の記載からも裏づけられる(乙14)。すなわち、当該年間活動報告書「26年度 WACポイント・ネットワーク決算報告書」の「収入の部」の「会場収入」の欄に記載されている「2,548名分」に、当該利用料「1,500円」を乗じた額は、同欄の「3,822,000」円と一致する。以上より、本件使用役務の提供にあたり、利用者から1,500円を利用料として徴収している事実が明らになった。
したがって、本件使用役務は、独立した商取引の対象であり、商標法上の「役務」に該当するというのが相当である。
(4)本件使用役務が「娯楽施設の提供」に属すること
ア 「健康麻雀」は、本来の麻雀のゲームそのものを楽しむことを目的とし、「飲まない・吸わない・賭けない」を基本ルールとするものであり、高齢者向けの健康増進、例えば、指先を動かすことによる脳の老化防止等に役立つとして、被請求人及びWACポイントが、25年以上前に本件使用役務を始めたものである(乙31、乙33)。
しかし、その当時は「健康麻雀」の娯楽を享受できるような設備を完備している施設は皆無であり、また一般的な麻雀荘においても、その設備面における違いから、利用者が「健康麻雀」の娯楽を享受することは難しかった。そこで、被請求人及びWACポイントは、当事の一般的な麻雀荘の施設を借り、「健康麻雀」に適した煙草を吸わない・健康に良い等の施設環境を整え、昼間の一定時間帯に本件使用役務を始めた経緯があり、現在に至っている。
ところで、請求人は、「施設を所有していないのに『娯楽施設の提供』をすることはありえない」旨を主張するが、過去の審決例(取消2006-31057:乙34の1)、(不服2015-9885:乙34の2)からすれば、役務提供者が、特定の娯楽を利用者に受けさせるための施設をあらかじめ用意し、利用者にその娯楽を受けさせて料金を徴収する役務であれば、施設所有者でなくても「娯楽施設の提供」をすることは可能であるということができる。そして、本件使用役務も、上述のとおり、その提供者が、利用者に「健康麻雀」という娯楽を受けさせるための施設を用意し、利用者に健康麻雀施設を利用させて料金を徴収している事実がある。
したがって、本件使用役務は、「娯楽施設の提供」の範ちゅうに属する役務であるというのが相当である。
イ 本件使用役務と「麻雀大会・麻雀競技会の企画・運営・開催」との相違点について
本件使用役務は、役務の提供の方法・内容は、「ゲーム回数制限なし」、目的は、「娯楽=ゲームを楽しむ場の提供」及び需要者の範囲は「不問(初心者サーポート有)」であり、一般的な「麻雀荘の提供」と共通しているが、「麻雀大会・麻雀競技会の企画・運営・開催」は、役務の提供の方法・内容は、「ゲーム回数制限有」、目的は、「勝敗の判定」及び需要者の範囲は「麻雀経験者(初心者サーポートなし)」であり、明らかに異なる。
(ア)第41類に属する「麻雀荘の提供」は、その一般的な広告をみると、「楽しく和気藹々と・・/初心者大歓迎/安心して麻雀を楽しめる環境をご用意しております」(乙35の1)、「にこやか にぎやか いきいきと/これから覚えたい初心者から、マージャン歴○十年のベテランの方まで、若手もご年輩の方も、男性も女性も楽しめる」(乙35の2)、又は「ずっと楽しめる趣味が欲しいという方/麻雀は4人1組でするものですし、毎回入れ替わります。コミュニケーションツールとして最適です。」(乙35の3)等記載され、「麻雀ゲームを純粋に楽しむ」場を提供していること、また初心者でも安心して利用できるものであることが理解できる。
(イ)一方、「麻雀大会・競技会の企画・運営・開催」は、その一般的な広告をみると、「4人一組のチーム戦です。・・4半荘の合計スコア上位4名が選抜チームとして本戦へ出場します・・・」(乙36の1)、「参加資格/18歳以上の麻雀が打てる方/競技方法/4人打麻雀(50分打ち切り)/半荘4回戦」(乙36の2)、又は「ルール半荘4回戦50分打ち切り」(乙36の3)等記載されていることから、回数制限を設けその中で勝敗を決めることを目的とし、また、麻雀未経験者は、需要者として想定されていないことが把握される。
すなわち「麻雀大会・競技会の企画・運営・開催」は、「麻雀ゲームを純粋に楽しむ」というよりは「勝負を決する」イベントを企画・開催することがその主目的であることが理解できる。
(ウ)そして、本件使用役務の広告(乙27の1)をみると、「健康的に楽しむ麻雀です」、「気楽にワイワイできる」、及び「3時間ほどの初心者向け教室もあります」等の記載があることから、純粋に「麻雀ゲームを純粋に楽しむ」場を提供しており、また、初心者も気軽に参加できること、そして「麻雀大会・競技会の企画・運営・開催」において典型的なゲーム回数制限も設けていないことが把握される。
(エ)以上から、本件使用役務は、役務の提供の方法・目的・内容、及び需要者の範囲において、「興行の企画・運営・開催」に属する「麻雀大会・麻雀競技会の企画・運営・開催」とは異なり、「娯楽施設の提供」に属する「麻雀荘の提供」と共通することが明らかとなった。
よって、本件使用役務は、この観点からも、「娯楽施設の提供」の範ちゅうに属する役務であると認定するのが相当である。
ウ 小括
以上より、本件役務提供者は、被請求人の一部であり、本件商標「WAC」と同一又は社会通念上同一の商標を使用していることが明らかとなり、また、本件使用役務は、被請求人の公益性の高い「事業」の一環であって商標法上の「役務」に該当し、かつ、本件請求役務「娯楽施設の提供」の範ちゅうに属する役務であることが明らかになった。
(5)請求人の主張について
ア 請求人は、「賃貸契約書がない」こと、賃貸契約の支払い方法が、「一般的なオフィスの賃貸の場合」と異なることを理由に、本件使用役務は、「娯楽施設の提供」に該当しない旨を主張するが、賃貸借契約は、諾成・不要式契約であることから契約書の有無は問題ではないし、賃貸借の支払い方法は契約自由の原則の下、双方の合意により決定できる。
イ 請求人は、「公益社団法人は収益を上げてはならないため、公益社団法人の公共事業は『商標法上の事業』に該当しない」旨を主張するが、公益社団法人や非営利法人が、商標の出願人適格を有している以上、非営利事業が商標法上の「事業」として認められていることは明らかであるし、赤字経営である事実が事業性を否定する根拠とならないのも明白である。
ウ 請求人は、種々の審決例を挙げて、本件使用役務が「娯楽施設の提供」に該当しない旨を主張するが、これらの審決例は本件との関係が不明瞭、又は本件とは事案が異なる、若しくは被請求人の前記詳述により消滅した争点に関するものである。
エ 請求人は、被請求人が、一般需要者(非会員)に対しても本件使用役務を提供していることに疑義がある旨を述べているが、新たに提出した広島市の広報誌の広告(乙27の1)により、被請求人が一般需要者(非会員)に対しても本件使用役務をしていることが明らかになった。

第4 当審の判断
1 被請求人の提出した乙各号証によれば、次のとおりである。
(1)乙第3号証について
乙第3号証は、被請求人のウェブサイトとされるものであり、「設立趣旨と誕生」の項に「シニアの健康と生きがい作り、地域の相互扶助機能の活性化を促進する活動を行う。このような目的を実現するために、・・・●健康マージャン教室や高齢者向け料理教室を運営する」の記載がある。
(2)乙第6号証及び乙第7号証について
乙第6号証及び乙第7号証は、被請求人が発行する情報誌「ふれあいねっと」である。同号証の表紙の上部には、上段に赤色で「WAC(『A』の文字の横線が円形になっている。)」(以下「使用商標1」という。)の欧文字が表示されている。
また、裏表紙の下部には、使用商標1と被請求人の名称である「公益社団法人長寿社会文化協会」の記載がある。
乙第6号証は、2014年(平成26年)7月31日発行であり、また、乙第7号証は、2015(平成27年)年8月20日発行である。そして、乙第6号証の10頁及び乙第7号証の16頁には、それそれ「WACひろしま健康麻雀サロン」(以下「使用商標2」という場合がある。)の記載と、代表者名、住所及び連絡先、並びに主たる活動内容として「健康マージャン」の記載、会員数として「65名」、「66名」の記載があり、さらに、乙第7号証には、「一言アピール」として「毎週水・金曜日、第3月曜日の9時45分から16時まで開催し、都合の良い日に参加できるようにしている。」の記載がある。
(3)乙第8号証について
乙第8号証は、被請求人のウェブサイトである。これには、「活動別ポイント紹介 健康麻雀」の見出し下、「健康マージャン」の項に「気のおけないおしゃべりと、頭をつかい手をつかう・・・WAC健康マージャンサロン」の記載があり、その右側に「『健康マージャン』は、点数を競う頭の体操。『賭けない』『禁煙』『飲まない』『昼間だけ』が大原則で、サラリーマンOBや女性に大人気」の記載がある。
そして、右下には、「2016/02/04」の記載がある。
(4)乙第11号証について
乙第11号証は、被請求人のウェブページであり、「WACひろしま健康麻雀サロン」が紹介されている。
これには、代表者名、住所、連絡先が記載され、中段には、「60代でマージャンを始め、80代になったメンバーも多くいる」の記載と共に、「麻雀を行っている写真」が掲載されており、その写真の撮影日は、「2014/08」である。また、下段には、「主たる活動」として「健康マージャン」、「グループ会員数」として、「66名」及び「一言アピール」として、「『ゲームは楽しく、自分には厳しく、相手には優しく』をモットーに、『賭けない、飲酒しない、たばこを吸わない』を参加要件にする。」等の記載がある。
(5)乙第13号証及び乙第29号証について
ア 乙第13号証は、「公益社団法人長寿社会文化協会」の「ポイント及びネットワークセンターに関する規程」であり、以下の記載がある。
「(規程の目的)
第1条 公益社団法人長寿社会文化協会(以下本協会という)の定款第39条第3項の規定に基づき、ポイント及びネットワークセンターの設立運営に関し必要な事項を定める。
(ポイント及びネットワークセンターの定義)
第2条 ポイントとは、本協会の目的に沿った会員の自主的な社会参加活動の拠点として組織された会員のグループ組織である。以下、略。
(ポイントの設置要件)
第3条 ポイントは、本協会の正会員1名以上及び賛助会員2名以上を含む3名以上の本協会会員をもって構成する。中略
2 ポイントは、代表者を定め、本協会の正会員がこれに当たるものとする。以下、略。
(ポイントの名称)
第4条 ポイントの名称は、自ら自主的に定められたグループ名に、『公益社団法人長寿社会文化協会会員グループ』又は『WACポイント』の愛称を冠することができるものとする。以下、略。」の記載があり、「附則」として、「1.この規程は、平成22年6月1日から施行する。2.平成26年5月20日に一部改定」の記載がある。
イ 乙第29号証は、「公益社団法人長寿社会文化協会」の定款であり、以下の記載がある。
第39条 本協会は、本協会の目的に沿った会員の自主的な社会参加活動の拠点として、ポイントを設置運営することができる。中略。
3 ポイント及びネットワークセンターの設置運営に関して必要な事項は、理事会の決議を経て、代表理事が別に定める。」の記載がある。
(6)乙第14号証について
乙第14号証は、「WACひろしま健康マージャン活動報告書」とされるものである。
これには、1葉目に「WACポイント 基礎データ」の見出しの下、「ポイント名」の項に、「WACひろしま健康麻雀サロン」及び「26年度の具体的な活動内容のご紹介」の項に、「毎週水曜日、金曜日、第3月曜日の午前9:45?午后4:00/健康麻雀を開催致しております。」の記載がある。
2葉目は、「26年度 WACポイント・ネットワークセンター決算報告書」であり、「ポイント名」欄に、「ひろしま健康麻雀サロン」の記載がある。
そして、収支計算書(平成26年4月?27年3月)、平成27年4月1日」の表の「収入の部」には、「会費収入 2548名分」として金額欄に「3,822,000」及び「助成金収入 本部より」として金額の欄に「52,000」の記載がある。また、「支出の部」には、「謝金 大会、賞品」として金額の欄に「731,200」、及び「会場費 2548名」として金額の欄に「2,802,800」の記載がある(単位:円)。
3葉目は、「27年度 WACポイント・ネットワークセンター事業計画書」であり、「ポイント名」の欄に「WACひろしま健康麻雀サロン」の記載と、その下に、「事業名」、「事業内容」、「実施予定日時」及び「実施予定場所」の各項目が有り、それぞれに、「健康麻雀」、「健康麻雀」、「毎週水曜、金曜、第3月曜 午前9:45?午后4:00」及び「広島市中区八丁堀クラブ」の記載がある。
(7)乙第15号証ないし乙第17号証及び乙第28号証について
乙第15号証ないし乙第17号証は、それぞれ「WAC1月ご案内」、「WAC2月ご案内」及び「WAC8月ご案内」、また、乙第28号証の1ないし3は、それぞれ「WAC3月ご案内」、「WAC5月ご案内」及び「WAC6月ご案内」のチラシであり、いずれも「WAC健康麻雀サロン」の見出しの下、日時、場所、会費及びポイントリーダーの氏名として、「WACひろしま健康麻雀サロン」の代表者の氏名とその連絡先が記載されている。
(8)乙第18号証、乙第25号証及び乙第26号証について
乙第18号証及び乙第25号証は、「WAC健康麻雀サロン」の平成26年4月から平成27年3月までの、各月の活動報告書であり、月毎に収入、支出、繰越金及び在庫等が記載された活動報告書と日付別に参加人数、会場費が記載された表からなるものである。
また、乙第26号証は、「健康麻雀サロン」の見出しが記載された「金銭出納帳」であり、下部に「平成26年4月1日」の記載がある。これには、平成26年4月から平成27年3月までの、各月の収入と支出が日付毎に記載されている。
(9)乙第27号証について
乙第27号証は、平成27年(2015年)9月15日付け広島市広報課が発行した広報「ひろしま市民と市政」であり、その4頁から5頁にかけて「趣味を楽しむ」の見出しの下、「WACはWonderful Aging Club」の略で、「長寿社会文化協会(本部東京)」の呼称です。ここはその活動の一つとして「健康麻雀」をしているグループです、健康麻雀とは、「賭けない」、「飲まない(禁酒)」、「吸わない(禁煙)」をモットーに、健康的に楽しむ麻雀です。」の記載、下部に「WACひろしま健康麻雀サロン(使用商標2)/日 水・金曜日の午前10時?午後4時、場 八丁堀くらぶ(中区八丁堀)、¥ 毎回1,500円」の記載がある。
(10)乙第31号証について
乙第31号証は、被請求人のパンフレットであり、これには、表紙の上部に大きく白色で「WAC(『A』の文字の横線が緑色の円形になっている。)」が表示されており、該パンフレットの内容には、長寿社会文化協会の概要等が記載されている。
また、乙第31号証のうち、WAC会員の活動を説明するパンフレットには、「中高年の豊かな経験や能力を/社会に活かす-WAC会員の活動」の見出しの下、「・・・2002年6月現在、全国で270以上のポイントが、それぞれに得意な分野で、自分たちの活動に取り組んでいます。」の記載があり、その下には、「活動内容」、「ポイント数」及び「構成比(%)」の項からなる「WACポイントの現況(2002年4月現在)」の表があり、上から5番目に、「健康マージャン」の記載がある。
そして、これらのパンフレットの最後に「社団法人 長寿社会文化協会」、住所、連絡先等の記載がある。
2 上記1によれば、以下のとおり判断できる。
(1)被請求人(商標権者)による使用について
ア 使用者について
情報誌(乙6、乙7)の表紙に使用商標1が表示され、その裏表紙に、被請求人の名称が記載されていることからすれば、使用商標1の使用者は、被請求人といえる。
イ 使用商標1の使用時期について
情報誌(乙6、乙7)の発行日は、2014年(平成26年)7月31日と2015(平成27年)年8月20日であり、両情報誌とも表紙に使用商標1が表示されており、この日付は、要証期間内であるから、被請求人は、使用商標1を要証期間内に使用したものと認めることができる。
ウ 本件商標と使用商標1との社会通念上同一について
本件商標は、前記第1のとおり、「WAC」の欧文字を書してなるものであり、一方、使用商標1は、赤色で「WAC(『A』の文字の横線が円形になっている。)」の欧文字からなるものであって、本件商標と使用商標1とは、使用商標1の「WAC」の文字が、若干レタリングが施されているものの、共に「WAC」の文字からなり、「ダブリュエイシイ」の称呼が生じるものであるから、使用商標1は本件商標と社会通念上同一の商標と認められる。
エ 取消請求役務について
取消請求役務は、「娯楽施設の提供」であり、これは、「麻雀施設の提供」を包含するものであり、さらに、「賭けない、飲酒しない、たばこを吸わないをモットーに健康麻雀と称される麻雀(以下「健康麻雀」という。)のための施設の提供」も含まれるものと認められる。
しかしながら、乙第3号証及び乙第8号証は、被請求人のウェブサイトであり、「健康マージャン教室や高齢者向け料理教室を運営する。」の記載及び「健康マージャン」についての説明はあるが、被請求人が、「健康麻雀のための施設の提供」を行った記載はない。
また、被請求人が発行した情報誌(乙6、乙7)には、健康麻雀を行っている「WACポイント」である「WACひろしま健康麻雀サロン」(以下「WACひろしま」という場合がある。)が紹介されていることが認められるが、被請求人が、「健康麻雀のための施設の提供」を行っていることが確認できない。
そして、「WACひろしま健康麻雀サロン活動報告書」(乙14)には、平成26年度の活動内容及び決算報告並びに同27年度の事業計画が記載され、決算報告書には、「助成金収入 本部より52,000円」の記載があることから、被請求人が、「WACひろしま」に健康麻雀を行わせ、助成金を支出していたことがうかがい知ることができるが、被請求人が、「健康麻雀のための施設の提供」を行っていることが確認できない。
さらに、乙第31号証は、被請求人のパンフレットであり、被請求人の概要などが記載され、また、2002年4月現在において、「健康マージャン」を活動内容とするWACポイントの数や構成比等が記載されているが、被請求人が、「健康麻雀のための施設の提供」を行った記載はない。
その他、提出されている証拠においては、被請求人が、「健康麻雀のための施設の提供」を行っている事実は見いだせない。
してみれば、被請求人は、要証期間内に本件商標と社会通念上同一の商標を健康麻雀の運営について使用していた事実は認められるが、「健康麻雀のための施設の提供」を含む取消請求役務を提供した事実は認められない。
(2)通常使用権者による使用について
通常使用権者について
「WACひろしま」は、乙第29号証の被請求人の定款及び乙第13号証の被請求人の規程によれば、被請求人の理事会の承認を得て登録されたものであり、ポイントの名称についての許可も得ていることからすれば、被請求人は、「WACひろしま」に本件商標の使用を許諾したとみるのが自然である。
したがって、「WACひろしま」は、本件商標の通常使用権者であると推認できる。
イ 使用商標2の使用時期について
広島市が発行した広報(乙27)の発行日は、平成27年(2015年)9月15日であり、これには使用商標2が表示されており、この日付は、要証期間内であるから、通常使用権者は、使用商標2を要証期間内に使用したものと認めることができる。
ウ 本件商標と使用商標2との社会通念上同一について
本件商標は、前記第1のとおり、「WAC」の欧文字を書してなるものである。
一方、使用商標2は、「WACひろしま健康麻雀サロン」の文字を書してなり、使用商標2には「WAC」の文字を含むとしても、その構成文字が本件商標とは明らかに異なるため、本件商標と社会通念上同一の商標と認められない。
エ 取消請求役務について
(ア)被請求人の情報誌(乙7)の16頁に「WACひろしま健康麻雀サロン」(使用商標2)の表示があり、毎週水・金曜日、第3月曜日に健康麻雀が行われていることは認められるが、「WACひろしま」が、「健康麻雀のための施設の提供」を行っていることが確認できない。
(イ)「WACひろしま」の紹介記事(乙11)の中で、写真の日付が要証期間内ではあるが、この写真には、使用商標2の表示はなく、「主たる活動」や「一言アピール」の項目からは、「WACひろしま」が、「健康麻雀」を行っていることは認められるが、「健康麻雀のための施設の提供」を行っていることが確認できない。
(ウ)「WACひろしま健康マージャン活動報告書」(乙14)から「WACひろしま」が、参加者から会費を集め、この資金で会員に「健康麻雀」を行わせる機会を提供していることは認められるものの、「健康麻雀のための施設の提供」を行っていることが確認できない。
(エ)「WAC」の各月の案内のチラシ(乙15ないし乙17及び乙28)には、「WAC健康麻雀サロン」の表示があり、日時、場所及び会費が記載されているところ、これらは、「健康麻雀」の開催案内であると認められるが、「WACひろしま」が、「健康麻雀のための施設の提供」を行っていることが確認できない。
(オ)乙第18号証及び乙第25号証には、「WAC健康麻雀サロン」又は「健康麻雀サロン」の記載はあるが、誰の報告書又は金銭出納帳であるかが不明であるため、「WACひろしま」のものとは確認できない。
(カ)広島市の広報(乙27)の記事には、「WACひろしま健康麻雀サロン」(使用商標2)と表示され、「健康麻雀」について記載されているが、「WACひろしま」が、「健康麻雀のための施設の提供」を行っていることが確認できない。
(キ)その他、提出されている証拠においては、通常使用権者である「WACひろしま」が、「健康麻雀のための施設の提供」を行っている事実を確認することができない。
(ク)上記(ア)ないし(キ)によれば、通常使用権者である「WACひろしま」が、取消請求役務を行っていることは、認められない。
そして、「WACひろしま」が行っている「健康麻雀」とは、「WACひろしま」が、自己の施設としての「麻雀施設」を保有していないが、麻雀施設所有者から麻雀施設借り受け、これを「健康麻雀」利用者(参加者)に使用させ、会費を徴収し、この資金で「健康麻雀」を行わせる機会を提供しているものであり、会費の中で、大会の賞品なども用意され、ゲームとしての麻雀を楽しむ場を「WACひろしま」が会費を徴収して提供しているものとみるのが相当である。
つまり、「WACひろしま」は、「健康麻雀のための施設の提供」をしているのではなく、「健康麻雀と称するゲームとしての麻雀を楽しむ場を企画・運営及び開催」しているにすぎないものである。
してみれば、通常使用権者は、要証期間内に本件商標と社会通念上同一の商標を使用していた事実は認められないし、取消請求役務を提供した事実も認められない。
(3)小括
以上のとおり、被請求人又は通常使用権者である「WACひろしま」が、要証期間内に取消請求役務を本件商標に使用していたと認めることができない。
また、被請求人は、「WACひろしま」以外の「WACポイント」に関する証拠を提出しているが、いずれの証拠によっても、「WACポイント」が「健康麻雀のための施設の提供」を行っている事実を見いだすことができない。
3 被請求人の主張について
被請求人は、「『WACひろしま健康麻雀サロン』等は、被請求人の一部であり、本件商標『WAC』と同一又は社会通念上同一の商標を使用していることが明らかであり、また、『健康麻雀サロンの提供』は、被請求人の公益性の高い『事業』の一環であって商標法上の『役務』に該当し、かつ、取消請求役務の範ちゅうに属する役務であることは明らかである。」旨を主張している。
しかしながら、被請求人の提出した全証拠及び主張によれば、通常使用権者である「WACひろしま」は、「健康麻雀と称するゲームとしての麻雀の企画・運営及び開催」という役務を提供していることは認められるが、これは、取消請求役務である「娯楽施設の提供」とは異なるものである。
してみれば、通常使用権者である「WACひろしま」が、取消請求役務を提供していると認めることができない。
また、被請求人は、「WACひろしま」に、助成金を支出していることから、自らが「健康麻雀」を行っているものではなく「WACひろしま」に行わせているものであり、かつ、被請求人は、娯楽施設を保有しておらず、麻雀施設を借り受けた証左もない。
したがって、被請求人並びに通常使用権者「WACひろしま」及びその他「WACポイント」が、要所期間内に本件商標を取消請求役務について使用した事実は認められない。
よって、被請求人の主張は、採用することができない。
4 まとめ
以上のとおり、被請求人は、要証期間内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが取消請求役務について、本件商標を使用していたことを証明したものと認めることはできない。
また、被請求人は、取消請求役務について本件商標を使用していないことについて正当な理由があることも明らかにしていない。
したがって、本件商標の登録は、商標法第50条の規定により、取消請求役務についての登録を取り消すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2017-03-24 
結審通知日 2017-03-28 
審決日 2017-04-19 
出願番号 商願2002-98994(T2002-98994) 
審決分類 T 1 32・ 1- Z (Y41)
最終処分 成立  
前審関与審査官 杉本 克治 
特許庁審判長 山田 正樹
特許庁審判官 中束 としえ
榎本 政実
登録日 2003-10-03 
登録番号 商標登録第4714541号(T4714541) 
商標の称呼 ワック、ダブリュウエイシイ 
復代理人 松澤 由香 
代理人 吉田 芳春 
代理人 宇高 克己 

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