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審決分類 審判 全部取消 商53条の2正当な権利者以外の代理人又は代表者による登録の取消し 無効としない W06070911
管理番号 1327985 
審判番号 取消2015-300482 
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2017-06-30 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2015-07-02 
確定日 2017-04-14 
事件の表示 上記当事者間の登録第5562793号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
登録第5562793号商標(以下「本件商標」という。)は,「Fumagalli」の文字を標準文字で表してなり、平成24年8月30日に登録出願、第6類「金属製照明灯用柱,その他の建築用又は構築用の金属製専用材料,金属製建造物組立てセット,金属製荷役用パレット,荷役用ターンテーブル,荷役用トラバーサー,金属製金具,金属製包装用容器,金属製工具箱,金属製建具,金庫」、第7類「風水力機械器具,金属加工機械器具,土木機械器具,荷役機械器具,製材用・木工用又は合板用の機械器具,動力機械器具(陸上の乗物用のものを除く。)及び動力機械器具の部品,電気式ワックス磨き機,電気掃除機,起動器,交流電動機及び直流電動機(陸上の乗物用の交流電動機及び直流電動機(その部品を除く。)を除く。),交流発電機,直流発電機」、第9類「太陽電池,電池,配電用又は制御用の機械器具,回転変流機,調相機,電気磁気測定器,電線及びケーブル,電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品」及び第11類「街灯,その他の電球類及び照明用器具,家庭用電熱用品類,暖冷房装置,水道蛇口用座金,水道蛇口用ワッシャー,あんどん,ちょうちん,ガスランプ,石油ランプ,ほや,ストーブ類(電気式のものを除く。)」を指定商品として、平成25年3月8日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を取り消す、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第24号証を提出した。
1 請求の理由
本件登録は、商標法第53条の2の規定により取り消されるべきものである。
2 被請求人について
被請求人であるジェフコム株式会社と請求人と契約当事者の関係にあった島商事株式会社とは、後者が輸入した製品を前者が販売するという関係にあり(甲11)、同一人を代表取締役社長とする同族企業と考えられる。そこで、以下、被請求人というときは、請求人との関係において両者を同一視できることから、ジェフコム株式会社及び島商事株式会社の双方を含むものとする。
3 商標法第53条の2の規定の適用
商標法第53条の2の規定により、商標登録が取り消されるための要件は以下のとおりである。
(a)登録商標がパリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国若しくは商標法条約の締約国において商標に関する権利(商標権に相当する権利に限る。)を有する者の当該権利に係る商標又はこれに類似する商標であって当該権利に係る商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務を指定商品又は指定役務とするものであること(以下、「パリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国若しくは商標法条約の締約国において商標に関する権利(商標権に相当する権利に限る。)を有する者」を「パリ条約等における商標に関する権利者」とする。)。
(b)上記商標登録出願が、パリ条約等における商標に関する権利者の代理人若しくは代表者又は当該商標登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者によってなされたこと。
(c)上記商標登録出願が、正当な理由がないのに、パリ条約等における商標に関する権利者の承諾を得ないでなされていること。
まず、(a)の要件については、請求人はイタリア国の登録第944561号を基礎登録とする国際登録第881074号(以下「請求人商標」という。)の権利者であることから、請求人商標が「パリ条約等における商標に関する権利者の当該権利に係る商標」に該当することに疑いはない。また、本件商標は「Fumagalli」の標準文字により構成されており、これは請求人が使用するハウスマーク及び請求人商標の文字部分と同一の文字である。
なお、被請求人は、本件商標の指定商品は、第11類の「街灯,その他の電球類及び照明用器具」を除く全ての指定商品が請求人商標の指定商品と類似する商品にあたらないから、これらの指定商品に関する商標権については(a)の要件に該当しないと主張するが、商標法第53条の2の規定においては、「当該商標登録を取り消すことができる」とされるのみであり、商標法第50条第1項の規定のように「その指定商品又は指定役務に係る」という限定がなく、もともと指定商品・役務ごと、あるいは区分ごとの審判請求を想定していない。また、商標法第69条には同第53条の2の規定が含まれておらず、同規定に基づく審判請求は指定商品・役務ごとになされることを予定していない。さらに、商標法第56条第2項では特許法第155条第3項を本規定の審判に準用しておらず、また、指定商品・役務ごとの取下げも認めておらず、一部認容の審決も認められないというべきである。加えて、同規定は商標法第51条や同法第53条と同様、不誠実ないし不当な意図をもつ登録商標の権利者(あるいは出願人)に対する制裁規定であり、当該登録商標につきその指定商品に(外国商標権等に係る商品と)同一又は類似の商品を含む限り、本規定の適用があり、登録商標全体としての取消が認められるべきである。
よって、本件商標は、(a)の要件を満たす。
次に、(b)の要件については、被請求人による本件商標の出願時点において、請求人と被請求人との間には独占的販売代理店契約は結ばれておらず、契約上の観点のみからすれば、上記商標に係る出願が、「商標に関する権利を有する者の代理人若しくは代表者又は当該商標登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者」(以下「代理人若しくは代表者」という。)に該当しないかに見える。
しかしながら(b)の要件に該当するか否かついては、登録商標の権利者とパリ条約等における商標に関する権利者との間に、代理人と本人といえる関係が存在したかが問題とされるべきであり、たとえ契約が未締結であっても、被請求人と請求人との間にかかる関係が実質的に存在していたといえれば、本条に規定するパリ条約等における商標に関する権利者とその代理人の関係があったと認めるに問題はないものと考える。
そこで本件について検討するに、被請求人は、商願2012-88526(以下「別件出願」という。)に係る意見書(甲11)内において、請求人と被請求人とが良好な関係にあり、2012年8月現在の取引書類を提出するとともに、「両者間には取引関係があっただけでなく、出願人『ジェフコム株式会社』はFumagalli s.r.l.の事実上の独占代理店であることがご理解いただけるものと思料します」と述べている。
また、被請求人は、2014年8月1日付けの書簡で、本件商標の出願時において、自ら請求人の独占販売代理店であった旨主張している(甲14の1)。
そして、本件商標は2012年8月30日付けで出願されており、かかる事実は、本件商標の登録出願の日前1年以内に被請求人が請求人の代理人に相当する地位にあったことを被請求人自身が認めるものにほかならない。
さらに、少なくとも2012年5月17日には、両者間で独占的販売代理店契約の締結に向け、当該契約に関連する商談・取引が開始されており(甲2)、その後、試験的独占的販売代理店契約の契約書のドラフト及び2013年版のカタログの送付や製品価格のディスカウントの要求、商品サンプルの発注とそれに応じた製品の発送がなされ(甲3?甲6)、別件出願の意見書中にあるとおり、2013年のジェフコム総合カタログに、Fumagalli s.r.l.から輸入されたポールライトやブラケットライトは、現在は「JEFCOM」ブランドとして出願人の総合カタログに掲載されてい」る旨述べている(甲11)。これらの事実に鑑みると、契約書の締結が2013年1月7日付であったとしても、本件商標の登録出願の時点(2012年8月30日)において、前記代理店契約の下でなされる取引が既になされていたことから、商標法第53条の2の規定の適用の関係において、本件商標の「登録出願の日前1年以内」には、被請求人と請求人との間に、被請求人は請求人の代理人(代理店)といえる関係が実質的に存在していたとみて差し支えない。
なお、被請求人は、自らを「請求人の単なる顧客候補の1人に過ぎなかった」として、本件商標の出願時以前に代理人でないことはもちろん、実質的に本人と代理人といえる関係にはなかったと主張するが、被請求人は、別件出願においても、上記のとおり、2012年8月時点の請求人との取引書類やその他の証拠を提出した上で、自ら請求人の事実上の独占代理店であった旨明言するとともに、当該出願は第三者の権利化を阻止するものとして請求人・被請求人の合意に沿ったものである旨主張しているものである(甲11)。また、請求人と被請求人の2014年7月21日から計4回の書簡のやり取り(甲14の1)には、「当時、弊社(被請求人)が貴社(請求人)の独占販売代理店であり、日本での貴社製品の独占販売の資格をジェフコムが有していた」と記載されているものであり、また、請求人も、被請求人を単なる顧客候補の一人と認識していたのではなく、これまで取引のあったどの日本企業よりも日本のマーケットにおける重要なパートナーと考えていたことは明白である(甲14の4)。
したがって、本件商標は、(b)の要件も満たす。
最後に、(c)の要件について検討する。
まず、請求人は、請求人商標についての日本を事後指定した国際商標登録出願につき、2014年5月15日付けで本件商標を引例として商標法第4条第1項第11号に基づく暫定拒絶通報が発行されるまでは、被請求人による本件商標に係る商標登録出願がなされた事実を知らないこと、さらに、この出願の事実について、請求人が被請求人に釈明を求めたことから、本件商標に係る登録出願が、権利者たる請求人の「承諾を得ない」で被請求人によりなされたことは、極めて明白である。
また、「正当な理由なく」について検討するに、上記経緯に係る事実から、「正当な理由なく・・」に関連する、次のイ)ないしホ)に示す事情が存在する。
イ)被請求人による本件商標に係る商標登録出願が、請求人との独占的販売代理店契約に係る商談の開始後になされたことより、本件商標に係る標章「Fumagalli」が、当該契約の取引先である請求人の会社名(商号):FUMAGALLI s.r.l.の主要部の文字「Fumagalli」からなり、また請求人商標に係る標章の文字部分である「Fumagalli」からなることについて、被請求人は十分に認識していること(甲2?甲6)。
ロ)2012年11月1日付けで、被請求人が請求人商標と同一構成の標章を別件出願として、被請求人の名義で登録出願したこと(甲7)。
ハ)上記イ)ロ)の事実により、本件商標の出願が、被請求人において、別件出願に係る出願と共に、請求人との独占的販売代理店契役の締結に向けて、一連の目的・意図の下でなされたと窺えること。
ニ)取引先である請求人の請求人商標に係る標章(当該標章は甲12が示すとおり、外国の需要者の間で広く知られた、いわゆる外国著名商標であることが、特許庁において認定された事実がある)及び請求人商標に係る標章の「Fumagalli」の文字部分が、我が国に商標登録出願されていないことにつき、被請求人自身の調査により、被請求人が十分に承知していること(甲14の1)から、上記ハ)の被請求人における一連の目的・意図は、被請求人による、本件商標及び別件出願の各出願によって、独占的販売代理店契約の当事者・取引先である請求人の商標を、被請求人が権利取得(即ち、請求人より権利を先取り)する、ないしは請求人による権利取得を妨害する目的・意図にあるといわざるを得ないこと。
ホ)本件のような外国業者と我が国業者との間の国際取引である総販売代理店契約における外国業者の商標について、その者の承諾を得ないで行われた我が国業者の商標出願は、公正な国際取引の確保の観点からも国際取引の信義に背く行いというべきであるから、かかる目的・意図の下でなされたと窺える本件商標に係る出願も、国際取引の信義に背く出願といわざるを得ず、倒底、「正当な理由」にもとづくものとはいえないことは明白であること。
ここで、被請求人における当該出願の目的・意図につき補足するに、請求人が被請求人に2014年7月21日付け書簡により、出願の事実関係ついて釈明を求め、本件商標の被請求人自らの取消を求めたが、これに対し被請求人は、2014年8月1日付けの書簡で「請求人の商標を守るために出願した」と説明するものの(甲14の1)、本件商標の放棄に応じないばかりか、一方で、同年9月16日付け書簡では本件商標につき共有持分を要求した(甲14の4)。
「請求人の商標を守る」目的・意図で出願されたものであるなら、共有持分を要求するのではなくして、登録放棄に応じるか、登録名義を請求人に変更する等、「請求人の商標を守る」のに誠意ある対応をすべきである。本件に係る経緯・事情から、被請求人は、商標調査により、請求人の「Fumagalli」ブランド(Fumagalliの文字商標及びハウスマーク商標)が我が国で出願されていないことを知るや、これを奇貨として、かかる「Fumagalli」ブランドを、商談中に、被請求人に無断で自らの名義で出願したものということができ、被請求人のかかる出願には、正当な理由が認められないどころか、取引先の商標につき、これを乗っ取り・先取り・横取りし、また当該取引先による権利取得を不当に妨害する等の不正の目的すら含まれていたと推認し得るものである。
そして、「ダブルブランド」とは、一般的に二つのブランドを併記するものであり(甲23)、「JEFCOM/Fumagalli」(併記)ではなく、「Fumagalli」の語単独でなる商標(即ち、ダブルブランドではない商標)を出願している本件では、ダブルブランドであるから本件商標の被請求人による出願が認められるという主張は成り立たない。また、請求人は、「Fumagalli」の語単独でなるブランドを請求人の同意なしに使用することや商標登録出願することを認めていない。
ちなみに、被請求人は、請求人の「Fumagalli」ブランドのうち、ハウスマークを出願(別件出願)したが、この出願は、商標法第4条第1項第19号により拒絶査定が確定している(甲12)。
よって、本件商標に係る出願について、(c)の要件も満たす。
以上により、本件審判の請求は、商標法第53条の2の規定する要件の全てを満たすものである。
4 結論
上述のとおり、本件商標は、商標法第53条の2に規定される「登録商標」に該当するから、本件商標の登録を取り消す旨の審決を求める。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第9号証を提出した。
1 事実の概要について
請求人は、被請求人により本件商標に係る登録出願がされるまでの経緯及び商標登録出願後における請求人と被請求人との関係に係る事実の経緯を述べるが、次の点が事実と相違する。
(1)2012年5月12日に被請求人側は請求人側に被請求人側の会社概要を送ってはいるが、「両者間で独占的販売代理店契約がなされることを前提に」送ったわけではない。また、被請求人側は、検討のために請求人が使用している契約書又は同意書の雛形の提供を求めたのであって、契約書又は同意書自体の提出は求めていない。
(2)請求人側から被請求人側に試験的独占販売代理店契約の契約書のドラフトが送付されたと主張するが、送付されたのは、最低売上高や支払い方法をはじめとする契約の重要な要素が一切定まっていない請求人側が一般的に使用している試験的独占販売代理契約の雛形に過ぎず、何ら請求人側と被請求人側の具体的な条件が記載されたものではない(甲3)。
(3)2014年7月21日付けで請求人が書簡により、被請求人に対し本件商標に係る登録出願をしたことの事実関係につき釈明を求め、そこから計4回の書簡のやり取りが両者間でなされ、同書簡が日本語の翻訳文とともに提出されているが、日本語の翻訳文に、いくつか誤りがある。
2 商標法第53条の2の規定の適用
(1)(a)の要件
請求人商標の指定商品は第11類の「Illuminating device」のみである一方、本件商標の指定商品中、第11類の「街灯,その他の電球類及び照明用器具」を除く全ての指定商品は請求人商標と類似する商品にあたらない。
よって、本件商標の指定商品中、第11類のうち「街灯、その他の電球類及び照明用器具」を除く全ての指定商品については(a)の要件に該当しない。
(2)(b)の要件
商標法第53条の2の基となったパリ条約第6条の7が採択された際の会議において、「代表者」の次に「顧客」を入れる案が拒否されたという制定経緯に鑑みれば、「代理人若しくは代表者又は当該商標登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者」に「顧客」は含まれないと解すべきである。しかるに、本件商標の出願日である2012年8月30日以前の請求人と被請求人との関係は、請求人が被請求人に対し、請求人が使用している独占的販売代理店契約書の雛形を送り、被請求人が1度サンプルの発注をし、請求人がサンプルを送付した程度の今後の取引を検討している者同士の関係に過ぎない。本件商標の出願日以前、被請求人において請求人の商品を日本国内において販売したことはなく、被請求人は請求人の単なる顧客候補の1人に過ぎなかったのである。
よって、本件商標の出願の日前1年以内に、被請求人と請求人は実質的にも代理関係にはなかったものである。
なお、請求人と被請求人が模索していた取引の内容は、以下のとおり、商標法第53条の2が想定している内容ではなかった。
すなわち、商標法第53条の2は、外国商標権者から輸入した商品をそのまま外国商標権者の代理人が日本国内で販売する取引を想定していると考えられるが、請求人と被請求人との間の取引は、請求人から輸入した商品に対し、電球と電線については、日本の顧客向けに開発ないし仕様変更したものを被請求人において別途取り付けた上で、販売しなければならない。とりわけ電球については、日本市場では市場のニーズとしてLED照明を用いる必要性が高いと思われたため、被請求人は、交渉を開始した時点から、請求人に対して繰り返しLED照明の必要性を伝えるとともに協議を申し入れていた(2012年5月12日付け書簡、甲2)。その後も、被請求人は請求人に対し、請求人が送付したサンプルは日本の法律規格に基づいておらずこのままでは日本で販売できないこと、日本市場においては請求人が製造販売する蛍光灯ではなくLED照明が求められていることを伝えている(乙4)。
この点、本件商標の出願日時点を基準に見ると、請求人が製造するLED光源につき被請求人において試験してみることが検討されている程度に過ぎなかった(乙5)。被請求人としては日本市場に適合するLED光源を新たに開発すべきであると考えていたが、請求人がLED光源も自ら供給したいと強く申し入れたため、とりあえず請求人のLED光源を試験してみることとしたが、請求人は、督促したにもかかわらず、数ケ月経過してもLED光源のサンプルを送付せず、試験的独占代理店契約書への署名を求めるのみであったため、被請求人は、やむを得ず、2013年3月26日に同契約書に署名して請求人に送付したものである(甲8)。その後、被請求人は、請求人からLED光源のサンプル提供を受けたため、早速試験したところ、日本市場での流通に耐え得るものではないことが判明したことから(乙6)、請求人と被請求人は、今後の対応についてさらに協議を進めたところ、最終的には、2013年10月28日に香港の展示会における直接協議し、請求人においてLED光源を供給しないことと被請求人において独自にLED光源を開発することなどが確認され(乙7)、LED光源を除外した場合の代金につき、被請求人に対して見積書を送付するに至った(乙8)。
このように、請求人と被請求人との間では、被請求人は、両社間の取引のために特別に被請求人が開発したLED光源を被請求人において取り付けるなどして照明器具として完成させた上で、被請求人において日本市場で販売する方向で協議されていた。請求人が被請求人に供給する製品は照明器具の部品に過ぎないものであり、日本市場で流通する製品は被請求人において完成させる以上、当該完成品については被請求人こそが「本人」であり、請求人が「本人」で被請求人が「代理人」であるという関係が成立する余地はない。
したがって、本件は、海外の製造業者等から日本国内に当該業者のブランドを付した製品を輸入し、日本国内で代理店や特約店等として当該製品を転売するような、商標法第53条の2が想定する場合とは全く異なるのである。ましてや、かかる取引の内容は、本件商標の出願日時点では、その方向性すら固まっていなかったのであるから、同日時点において、請求人を「本人」とし被請求人を「代理人」とする関係が成立していたと解する余地はない。
(3)(c)の要件
請求人と被請求人は、日本での市場においては、両社のダブルブランドという全く新規なブランドにより販売展開していくように進めていたものであり(甲8)、本件商標はこのダブルブランドの一部を構成する。しかも、上記のとおり、日本では、請求人が被請求人に部品を提供し、被請求人が製品を完成させて販売展開することが模索されていた。したがって、本件商標は、被請求人が完成させた製品に被請求人のブランドとともに使用されるダブルブランドの1つであり、被請求人においては、自らのブランドとして自ら主体的に保護を図る必要性がある。
したがって、被請求人は、「Fumagalli」商標の信用、評判、名声等を利用しようと抜け駆け的に出願したわけではなく、あくまで自身のブランドであるJEFCOMブランドとダブルブランドとして日本国内でブランド価値を育てようとして本件商標を登録出願したものであるから、本件商標の登録出願には正当な理由がある。
3 結論
以上のとおり、本件商標の指定商品中、第11類「街灯、その他の電球類及び照明用器具」を除く全ての指定商品は請求人商標と類似する商品にあたらないものであり、また、第11類「街灯、その他の電球類及び照明用器具」についても、被請求人は請求人の代理人若しくは代表者又は当該商標登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者にはあたらないものであって、また被請求人には本件商標の登録出願につき正当な理由があるものであるから、本件審判請求は商標法第53条の2の規定する要件を満たさず、よって、本件審判請求は成り立たない。

第4 当審の判断
1 本件商標について
(1)パリ条約の同盟国等において商標に関する権利を有する者について
甲第10号証によれば、請求人は、別掲のとおりの構成よりなる、世界貿易機関の加盟国であるイタリア共和国の登録第944561号商標を基礎登録とする国際登録第881074号商標(2005年11月30日国際登録、請求人商標)の商標権を有する者であることが認められるものであり、第11類「Illuminating devices.」を指定商品として、2013年7月3日に事後指定されたものであることを認めることができる(当事者間に争いはない。)。
したがって、請求人は、パリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国若しくは商標法条約の締約国において商標に関する権利(商標権に相当する権利に限る。)を有する者であると認められる。
(2)商標及び指定商品についての同一又は類似
本件商標は、前記第1のとおり、「Fumagalli」の文字を標準文字で表してなるものであり、その指定商品を第11類「街灯,その他の電球類及び照明用器具,家庭用電熱用品類,暖冷房装置,水道蛇口用座金,水道蛇口用ワッシャー,あんどん,ちょうちん,ガスランプ,石油ランプ,ほや,ストーブ類(電気式のものを除く。)」並びに第6類、第7類及び第9類に属する商標登録原簿に記載したとおりの商品を指定商品とするものである。
これに対して、請求人商標は、別掲のとおりの構成よりなるものであるところ、構成中の下方部分は、図案化されているが、「Fumagalli」の文字であることを理解されるものであり、該文字部分は、独立して商品の出所識別機能を果たすものである。また、前記(1)のとおり、その指定商品は、第11類「Illuminating devices.」である。
そうすると、請求人商標の指定商品は、本件商標の指定商品中、第11類「街灯,その他の電球類及び照明用器具」に含まれるものであるから、本件商標の指定商品と請求人商標の指定商品とは、同一又は類似の商品と認めることができる。
そして、本件商標と請求人商標の文字部分は、いずれも「Fumagalli」の文字よりなるものであるから、両者は、構成文字に相応して「フマガッリ」の称呼を生ずるものであり、それを構成する綴り文字を同じくするものであるから、外観上相紛れるおそれがあるものといえる。さらに、両者は、いずれも特定の語義を有しない造語よりなるものと認めることができる。
したがって、本件商標と請求人商標は、観念上比較することができないとしても、同一の称呼を生ずるものであることに加えて、外観上も類似するものと認められ、また、いずれも照明装置について使用される商標であることを併せて考察すると、本件商標を付した商品と請求人商標を付した商品との間で、商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがある商標と認めることができるから、両商標は、類似する商標というべきである。
(3)小括
前記(1)及び(2)によれば、本件商標は、パリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国若しくは商標法条約の締約国において商標に関する権利(商標権に相当する権利に限る。)を有する者の当該権利に係る商標と類似する商標であって、その指定商品は、当該権利に係る商品と同一又は類似するというべきである。
2 本件商標の登録出願が、上記請求人商標の代理人若しくは代表者又は当該商標登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者によって、正当な理由がないのに承諾を得ないでなされたものであるか否かについて
(1)被請求人の「代理人若しくは代表者」該当性について
提出された証拠及び当事者の主張による請求人と被請求人らとの関係は、以下のとおりである。なお、被請求人と請求人と契約当事者の関係にあった島商事株式会社を合わせていうときは、以下、被請求人らという。
ア 請求人と被請求人らとの関係は、以下のとおりである。
(ア)2011年10月、香港の博覧会で、請求人と被請求人らが出会い、翌年3月には、被請求人の代表者が請求人を訪問(甲14の2)。
(イ)2012年5月12日、被請求人は、国内生産するLED回路の評価を行っていることを報告し、契約書又は同意書(被請求人は「雛形」と主張する)の提出を求め、被請求人らの会社概要を送付(甲2)。
(ウ)同年5月17日、請求人は、被請求人らに試験的独占販売代理店契約に関する契約書のドラフト(写し)及び2013年版のカタログを送付し(甲3)、請求人製品の検証結果の報告依頼(乙5)。
(エ)同年5月30日、被請求人らは、総代理店としての業務開始を前提に、製品価格のディスカウントを要求(甲4)。
(オ)同年6月24日、被請求人らは、商品サンプルを発注(甲5)。
(カ)同年7月27日、請求人は、上記(オ)の発注に応じて商品を発送(甲6)。
(キ)同年8月30日、被請求人は、本件商標を出願。
(ク)同年10月28日、被請求人らと請求人は、試験的独占販売代理店契約についての会議を開催(乙1)。
(ケ)2013年3月26日、被請求人らは、同年1月7日付けで、試験的独占販売代理店契約書に署名(甲8)。
(コ)2013年5月14日、被請求人らは、商品サンプル「LEDランプ(GX53)」についての検証結果、日本の規格及び被請求人らの今後の対応について、同月14日付けの書面で通知(乙6)。
(サ)2013年6月25日、被請求人らは、同年4月2日に請求人から送付されたLEDサンプルについて書簡を送付(乙4)。
(シ)2013年10月28日、被請求人らは請求人製品について、日本の電源仕様に適応しないこと、請求人は日本仕様製品を開発中であること等を報告(乙7)。
イ 上記アのとおり、請求人と被請求人らの関係は、2011年10月から始まり、2012年3月に被請求人らが請求人工場を訪問、その後、請求人は、被請求人らの要求に応じて試験的独占販売代理店契約の契約書のドラフト(写し)及び請求人の製品カタログを送付し、同年7月には、請求人製品の商品サンプルを送付した。そして、被請求人らが発注した商品サンプルの発注依頼書(甲5)及び請求人発行の当該請求書(甲6)によれば、複数の製品について各2個の注文がされている。
そして、被請求人は、同年8月30日に本件商標を出願したものであり、翌年3月26日に、両者は、試験的独占販売代理店契約書を交した。また、その契約締結後においても、被請求人らは、請求人の商品サンプルについて、日本の製品規格等を踏まえて検証し、今後の方針等についても知らせた(乙4、乙6)。
ウ 以上によれば、被請求人は、2012年6月24日に、請求人製品の商品サンプルを請求人に注文したことが認められるが、その後、少なくとも、2013年3月26日に試験的独占販売代理店契約書が締結されるまで、両者間において、具体的に継続的な取引があったことを認めることはできない。
そうすると、被請求人は、2013年3月26日に締結した試験的独占販売代理店契約書により、それ以降は、一定の「代理人」であるということはできるとしても、本件商標が登録出願された2012年8月30日前1年以内において、被請求人が請求人製品の我が国における販売代理店であった等を推認し得るような事実は認められないから、被請求人が、商標法第53条の2にいう「当該商標登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者」に該当するということはできない。
なお、請求人は、試験的独占販売代理店契約の契約書ドラフトの求めは、両者間で独占販売代理店契約がなされることを前提とする商談であり、また、被請求人は、別件出願に係る意見書においても、「両者間には取引関係があっただけでなく、出願人(被請求人)はFUMAGALLI s.r.l.社(請求人)の事実上の独占代理店である」と述べていることなどから、本件商標の登録出願の日前1年以内に被請求人が請求人の代理人に相当する地位にあったと主張するが、試験的独占販売代理店契約書の締結は、本件商標の登録出願後であることは、上記のとおり、明らかであり、契約書ドラフトを要求したことが必ずしも、被請求人が独占販売代理店契約を前提とする商談であると認識していたものとはいえず、さらに、2012年7月27日に送付された請求人製品の商品サンプルについて、被請求人が、積極的に宣伝広告又は販売等をしたことは認められない。そして、試験的独占販売代理店契約書の締結後においても、被請求人らは、請求人製品の商品サンプル「LEDランプ(GX53)」について、その検証結果を請求人に2013年5月14日付けで報告していることが認められる。
そうすると、被請求人は、本件商標の登録出願の日前1年以内に、「代理人」に相当する地位にあったと認めることはできない。
その他、提出された証拠により、被請求人が、商標法第53条の2に規定する「代理人若しくは代表者」に該当するものとは認められない。
(2)本件商標の登録出願についての正当な理由について
被請求人は、請求人と被請求人が、日本での市場においては両社のダブルブランドとして新規のブランドにより販売展開していくように進めていたものであり、被請求人が、自らのブランドとして自ら主体的に保護を図る必要性があり、また、日本市場においては請求人が製造する製品のままでは販売できないことから、被請求人の協力が不可欠であって、日本国内でブランド価値を育てようとして本件商標を出願したものであるから、本件商標の登録出願には正当な理由がある旨主張しているが、本件商標は、請求人の名称を構成する文字からなるものであり、被請求人は、本件商標の登録出願の時において、請求人商標が使用されていたことを知っていたこと(甲3?6等)及び請求人と被請求人との間で代理店契約について交渉中であり、請求人商標の関する権利の代理人の地位にはなかったことが認められるものであり、上記交渉中に、被請求人は、請求人から請求人商標の日本国内における使用について許諾を受けた事実は見あたらない。そして、日本の市場における請求人ブランド及び両者のダブルブランドに関する被請求人らへの許諾は、試験的独占販売代理店契約書(甲8)において、初めてなされたものというべきである。
そうすると、被請求人は、本件商標の登録出願前において、日本における請求人の独占的販売代理店であったわけではなく、請求人商標についての使用許諾もなかったものであり、試験的な独占販売代理店契約書でさえ締結前であったこと等の事実からすると、被請求人は、請求人の承諾を得ないで、本件商標の登録出願をしたものといわざるを得ないものであり、正当な理由があるとすることはできない。
よって、本件商標は、「正当な理由がないのに、その商標に関する権利を有する者の承諾を得ないで」されたものであると判断するのが相当である。
(3)小括
したがって、本件商標の登録出願は、正当な理由がないのに承諾を得ないでなされたものであるといわざるを得ないが、商標に関する権利を有する者の代理人若しくは代表者又は当該商標登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者によってされたものであるということはできない。
3 まとめ
以上のとおり、本件商標は、登録商標がパリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国若しくは商標法条約の締約国において商標に関する権利(商標権に相当する権利に限る。)を有する者の当該権利に係る商標又はこれに類似する商標であって、その指定商品において、請求人商標の指定商品と同一又は類似する商品を包含しているとしても、被請求人は、商標法第53条の2にいう「代理人若しくは代表者又は当該商標登録出願の日前一年以内に代理人若しくは代表者であつた者」に該当しない。
したがって、本件商標は、商標法第53条の2の規定により、その登録を取り消すことはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲(請求人商標)





審理終結日 2016-10-20 
結審通知日 2016-10-26 
審決日 2016-12-07 
出願番号 商願2012-70068(T2012-70068) 
審決分類 T 1 31・ 6- Y (W06070911)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 下山 月菜矢澤 一幸 
特許庁審判長 酒井 福造
特許庁審判官 藤田 和美
堀内 仁子
登録日 2013-03-08 
登録番号 商標登録第5562793号(T5562793) 
商標の称呼 フマガリ、フマガッリ 
代理人 辻本 一義 
代理人 松田 さとみ 
代理人 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK 
代理人 神吉 出 
代理人 辻本 希世士 

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