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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W3842
審判 全部申立て  登録を維持 W3842
審判 全部申立て  登録を維持 W3842
審判 全部申立て  登録を維持 W3842
管理番号 1325100 
異議申立番号 異議2016-900171 
総通号数 207 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2017-03-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-07-07 
確定日 2017-02-23 
異議申立件数
事件の表示 登録第5843569号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて,次のとおり決定する。 
結論 登録第5843569号商標の商標登録を維持する。
理由 第1 本件商標
本件登録第5843569号商標(以下「本件商標」という。)は,「2ch」の文字を標準文字で表してなり,平成26年3月27日に登録出願され,第38類「電子掲示板による通信及びこれに関する情報の提供,インターネット利用のチャットルーム形式による電子掲示板通信及びこれに関する情報の提供」及び第42類「インターネット又は移動体通信端末による通信を利用した電子掲示板用のサーバの記憶領域の貸与及びこれに関する情報の提供,インターネット又は移動体通信端末による通信を利用した電子掲示板へのアクセスのためのコンピュータープログラムの提供及びこれに関する情報の提供」を指定役務として,同28年3月23日に登録審決,同年4月22日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が引用する商標は,「Race Queen.Inc」(以下「レースクイーン社」という。)が,電子掲示板に使用する「2ちゃんねる」(以下「引用商標」という場合がある。)の文字からなる商標である。

第3 登録異議の申立ての理由
申立人は,本件商標は商標法第3条第1項第5号及び同法第4条第1項第10号,同第7号及び同第19号に該当するものであるから,同法第43条の2第1号によって取り消されるべきものであると申立て,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし第14号証を提出した。
1 商標法第4条第1項第10号について
(1)本件商標の「2ch」は,他人である「レースクイーン社」の業務に係る役務である,電子掲示板「2ちゃんねる」を表示するものとして,需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標である。また,本件商標の指定役務は「電子掲示板による通信及びこれに関する情報の提供」等であるので,本件商標の「2ch」は,「電子掲示板サービスの提供」という,その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするものに該当する。
(2)本件商標の出願日時点において,本件商標は,レースクイーン社の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたこと
ア 本件商標の出願時点の周知性
需要者(電子掲示板閲覧者)が,電子掲示板サービスの利用時に必ず目にするトップページにおいて,サービス提供者主体が「レースクイーン社」であることが表示されていたので,需要者は,この表示を信じて,レースクイーン社が電子掲示板サービスの提供主体と考えることが通常である。
電子掲示板「2ちゃんねる」全体のページビュー数は2013年(平成25年)6月時点で,月間27億回(但し,携帯などを除いたPC利用ウェブブラウザ経由での利用のみの数字であるとされる。)と発表されており(甲1),1日当たり約740万回のページビューとなる。さらにPC利用ウェブブラウザ経由以外のアクセスも相当数あることは明らかであるので,実際には,これ以上のページビュー数となる。また,平成26年(2014年)3月6日の書き込み数は2,181,249件,同月26日の書き込み数は2,210,707件であり(甲2),閲覧だけでなく書き込みを行うアクティブユーザーが,1日平均のべ200万件以上あることが分かる。さらに,電子掲示板というサービスの性格として,不特定多数の利用者が多数の書き込みを行うことから,その閲覧者(需要者)は,1日に何度も掲示板を確認するという傾向がある。
したがって,仮に,平成26年2月にレースクイーン社が「2ch」の文字の使用を開始したとして,同年3月5日にトップページにおいて「レースクイーン社」の表示をしていたため,その需要者において,レースクイーン社が電子掲示板「2ちゃんねる」を運営し「2ch」の文字を使用していることは広く認識されていたといえる。
また,本件商標の出願日は平成26年3月27日であるが,仮に,平成26年2月にレースクイーン社が「2ch」の文字の使用を開始したとしても,本件商標の出願は,同月から約2ヵ月が経過しており,需要者の利用形態及び利用頻度を考慮すれば,需要者の大部分がトップページの表示を閲覧しており,レースクイーン社による役務提供が広く認識される期間としては十分といえる。
イ 出願時の周知性の認定に際し,出願日以降に発生した事情を考慮することはできないこと
商標法第4条第1項第10号を適用するための判断時期は,査定時及び審決時を原則とするが,商標登録出願時においても同様の要件を満たすことが必要と規定されている(商標法第4条第3項)ところ,本件商標登録の出願日(平成26年3月27日)における周知性を判断する上で,出願日以降に発生した事情を考慮すべきではない。
出願時における周知性認定は,出願時における事情のみによって判断しなければならないことは明らかである。出願時以降の事情によって出願時の状況を推測しなければならない特段の事情は,本件では存在しない。
よって,本件出願時の周知性の認定に際し,同年4月以降の西村氏による「2ch.sc」の使用開始を考慮することはできない。
ウ パケットモンスター社は「他人」であること
商標法第4条第1項第10号の「他人」とは「出願人以外の者をいう」(平尾正樹著「商標法」(第2次改訂版))。また,ある商標が,「他人の業務に係る・・・役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている」か否かの判断にあたっては,その文言上,「需要者の認識」を基準に判断すべきであり,需要者が知り得ない事情を考慮して判断すべきではない。
そこで,需要者が認識し又は認識し得る情報を検討すると,以下の3点を確認できる。
まず,1点目として,平成21年(2009年)1月2日の時点で,「2ちゃんねる」のドメイン(2ch.net)は,「PACKET MONSTER INC(以下『パケットモンスター社』という。)」に移転していた(甲3)。
2点目として,平成26年(2014年)1月25日の時点で,電子掲示板「2ちゃんねる」のトップページ上において,「2ch.net is managed and operated by PACKET MONSTER INC.」と表記されていた(甲4)。需要者が,電子掲示板サービスの利用時に必ず目にするトップページに,サービス提供者主体が表示されているので,需要者は,この表示を信じて,パケットモンスター社が電子掲示板サービスの提供主体と考えることが通常である。
3点目として,平成21年(2009年)6月出版の書籍において,西村博之氏(以下「西村氏」という。)自身が,「2ちゃんねるを譲渡して管理人を外れ、・・・単なる1ユーザー」になったこと及び「2009年、2ちゃんねるをシンガポールのパケットモンスター社に譲渡しました。」と公表している(甲5,甲6)。また,同様に,西村氏自身が,平成21年(2009年)1月2日のブログにおいて「去年は何度も海外出張して2ch譲渡の打ち合わせをしてたりもしてたんですが、ようやく譲渡完了しましたよ。。と。」(甲7)と公表している。そうすると,西村氏は,電子掲示板「2ちゃんねる」をパケットモンスター社に譲渡したことを自認し,その旨を繰り返し公衆に向けて公言している。
これらの事情は,いずれも需要者が認識し又は認識し得る事実であり,かかる事実を前提にすると,平成21年(2009年)1月以降は,「2ちゃんねる」は,西村氏ではなく,パケットモンスター社の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたといえる。
以上の事実を前提にすると,仮に同氏が平成11年(1999年)から電子掲示板「2ちゃんねる」の運営を始めたとしても,「2ch」の文字は,平成21年(2009年)以降は「他人」であるパケットモンスター社ひいてはレースクイーン社が運営していたことになるので,出願時である平成26年(2014年)3月27日時点において,「2ch」の文字が獲得している周知性に対する西村氏の寄与度は限定的であり,決して「相当程度高い」とはいえない。
したがって,本件商標の登録出願時には,「2ch」の文字は,「他人の」業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして,我が国の需要者の間に広く認識されていたものである。
そして,このことは,「本願商標の登録出願時である平成26年3月27日」だけでなく,「査定時及び審決時」においても異ならない。むしろ,平成26年2月にレースクイーン社が「2ch」の文字の使用を開始したとしても,査定時(平成26年(2014年)12月3日)において10か月,審決時(平成28年(2016年)4月5日)には2年以上が経過していること,及び,上記の電子掲示板「2ちゃんねる」の利用形態及び利用頻度を踏まえると,「2ch」の文字が獲得している周知性は,レースクイーン社が運営しているときによるものとしての割合が相当程度高いといえる。これにパケットモンスター社による2009年1月からの運営を併せて考慮すると,その割合は更に高くなり,その反面,「請求人が運営していたときによるものとしての割合」は一層低下する。
(3)禁反言について
西村氏は,電子掲示板「2ちゃんねる」をパケットモンスター社に譲渡し,自らもそのことを書籍及びブログの中で繰り返し公言しておきながら(甲5,甲7),本件商標に係る査定不服審判における「電子掲示板『2ちゃんねる』は実質的に請求人により運営されていた」との主張は,禁反言の原則に照らし,信義則上許されるものではない。
そして,西村氏の主張を採用し,同氏に対し商標権が付与された場合,法的主体が異なることで電子掲示板「2ちゃんねる」の運営から生じる法的責任を潜脱する同氏に対し,広告収入という果実だけでなく,商標法に基づく独占権を付与することは,社会通念上も許容されるべきではない。
したがって,西村氏の主張を採用することは妥当でなく,仮にパケットモンスター社の業務に係る役務の周知性を考慮するとしても,2009年(平成21年)以降の電子掲示板「2ちゃんねる」の管理者は西村氏ではなく「パケットモンスター社」であり,「2ch」の文字は,「他人の業務」に係る商品若しくは役務を表示するものとして,我が国の需要者の間に広く認識されていたものである。
(4)小括
以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に該当する。
2 商標法第3条第1項第5号について
本件商標は,「2ch」の文字を標準文字により表したものであり,「極めて簡単で,かつ,ありふれた標章のみからなる商標」に該当し,商標登録を受けられないものである。
本件商標は,「2」の数字1字と「ch」のローマ字2字とを組み合わせて横書きにするもので,「数字の次にローマ字の2字を組み合わせた」だけのものであり,まさに,「極めて簡単で,かつ,ありふれた標章のみからなる商標」(商標法第3条第1項第5号)に該当するといえる。
3 商標法第4条第1項第7号について
本件商標は,出願人の出願意図及び出願経緯に著しい社会的妥当性を欠くものであり,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当し,商標登録を受けられないものである。
(1)商標審査基準及び裁判例について
商標法第4条第1項第7号について,「商標審査基準」は,「『公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標』には、・・・指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するような場合も含まれるものとする。」としている。そして,知財高判平成23年3月17日判時2123号は,「その登録出願の経緯が著しく社会的妥当性を欠くもの」が,本号に該当し,登録を認めることができない場合のあることを認めている。
よって,出願人の出願経緯に著しい社会的妥当性を欠く商標出願は商標法第4条第1項第7号により登録を受けられないものと思料する。
(2)出願人の出願経緯について
西村氏は,平成21年(2009年)1月2日の時点でドメイン名もパケットモンスター社に移転し(甲3),2ちゃんねるのトップページ上においても「2ch.net is managed and operated by PACKET MONSTER INC.」と表記され(甲4),何より,西村氏自身の著書及びブログにおいて「2ちゃんねるを譲渡して管理人を外れ、・・・単なる1ユーザー」になったこと,「2009年、2ちゃんねるをシンガポールのパケットモンスター社に譲渡した」こと及び「去年は何度も海外出張して2ch譲渡の打ち合わせをしてたりもしてたんですが、ようやく譲渡完了した」ことを繰り返し公衆に対して宣言し,電子掲示板「2ちゃんねる」の管理人ではないことを認めていた(甲5,甲7)。
すなわち,西村氏は,自ら「2ちゃんねる」の管理権をシンガポール法人に移転し,また,レースクイーン社に「2ch.net」のドメイン名が移転された後に,本件商標の出願を行っており,その後,「2ch.sc」のドメイン名で電子掲示板「2ちゃんねる」の使用を開始している。
また,本件商標の登録出願(平成26年3月27日)に先立つ,平成24年(2012年)5月に,「2ch.net」のドメイン名は,レースクイーン社に譲渡された。同社は,同月以降,電子掲示板「2ちゃんねる」を運営している。ところが,西村氏は,「2ch.sc」のドメイン名で,電子掲示板(以下「本件コピーサイト」という。)の運営を平成26年(2014年)4月11日に開始したとされている(甲9)。この本件コピーサイトは,「2ch.net」のドメイン名の電子掲示板「2ちゃんねる」と類似のドメイン名を使用するもので,かつ,「2ch.net」の許諾なく該ウェブページの内容を機械的に連続コピーしてそのまま掲載を行っている(甲9)。これは,西村氏にレースクイーン社による電子掲示板「2ちゃんねる」の運営を妨害する意図があるからに他ならない。
(3)小括
以上のように,西村氏による本件商標に係る出願は,レースクイーン社による電子掲示板「2ちゃんねる」の運営を妨害する意図があることは明らかであり,著しく社会的妥当性を欠く出願であるといえ,商標登録を受けられないものと思料する。
4 商標法第4条第1項第19号について
本件商標は,不正の目的をもって「2ちゃんねる」を使用するものであり,「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって,不正の目的をもって使用をするもの」に該当し,商標登録を受けられないものである。
(1)本件商標と同一又は類似の商標であること
本件商標「2ch」は,レースクイーン社の業務に係る役務を表示するものとして需要者の間で広く認識されている「2ch」と同一又は類似の商標である。
(2)不正の目的について
本件の出願経緯から,西村氏による本件商標に係る出願は,レースクイーン社による電子掲示板「2ちゃんねる」の運営を妨害する意図があることは明らかであり(甲3,甲4,甲5,甲7,甲9ないし甲12),これは「他人に損害を加える目的」があるといえる。
また,西村氏は「2ch.net」に類似したドメイン名「2ch.sc」の使用により,本件コピーサイトを利用して「2ch.net」のウェブサイトと錯誤するユーザーからのアクセス並びにそれに起因する広告収入,データ転売益などの利益を得るという「不正な利益を得る目的」であるといえる。
したがって,本件商標は,商標法4条1項19号に該当する。

第4 当審の判断
1 引用商標の周知性について
申立人の提出に係る証拠及びその主張によれば,次のとおりである。
(1)引用商標の周知性を証明する証拠について
ア 甲第1号証は,1頁には,「2ちゃんねる/広告媒体資料」の表題とその下には「2013年6月版(ver.B)/有限会社未来検索ブラジル」の記載が,左下部には,「本媒体資料の有効期限:2013年8月末」の記載があり,2頁には,「日本語圏最大級のネットコミュニティ/2ちゃんねる(にちゃんねる)」/27億PV/月(参考値)」の記載が,その下部には「■基礎情報/サイト名称:2ちゃんねる(にちゃんねる)/URL:http://2ch.net//内容:掲示板を主としたウェブコミュニティサービス」の記載がある。
そして,その1頁と2頁の左上部には,「2ちゃんねる広告案内」の記載がある。
イ 甲第2号証は,「全板の書き込み数」の見出しの下,「2ch全体または板毎のレス数とID数、前日比の数値です。」の記載があり,その下に,「2016年間合計」から「2013年間合計」の各年の合計レス数が書かれ,また,その各年の各月の合計レス数と毎日のレス数が記載されている。
ウ 甲第4号証は,左上部に,「2ちゃんねるガイド:基本」の記載があり,「使い方&注意/よくある質問をまとめてみました。。。」の見出しの下,「2ちゃんねるってなに?」の項に,「『ハッキング』から『夜のおかず』まで手広くカバーする巨大掲示板群です。。。気兼ねなく、会社、学校、座敷牢からアクセスできるように、発信元は一切分かりません。お気楽ご気楽に書き込んで下さい。」の記載がある。
そして,「2ちゃんねるって誰がやっているの?」の項に,「2ch.net is managed and operated by PACKET MONSTER INC.」の記載がある。
なお,甲第3号証,甲第8号証,甲第13号証及び甲第14号証は,英語の原文のみで訳文の提出がない。
(2)引用商標の周知性について
上記(1)によれば,甲第1号証は,「2013年6月版」の記載があることから,本件商標の登録出願時より以前に作成されたものであり,「有限会社未来検索ブラジル」の企業名の記載があり,2013年6月の月間のページビュー数がわかるとしても,これが何を示すものか不明である。
甲第2号証は,全板の書き込み数,年間のレス数及び毎日のレス数等がわかるとしても,この数字にどのような意味があるのか,何を証明するのか説明がなく,また,該証拠の作成年月日及び作成者等は不明である。
甲第4号証は,「2ちゃんねる」の紹介や誰が行っているか等が記載されているが,該証拠の作成年月日及び作成者等は不明である。
そして,上記した証拠によっては,引用商標の周知性を推し量ることはできない。
その他,申立人が提出した証拠は,西村氏に関するインターネット記事,新聞記事及び書籍の記事がほとんどであり,例えば,引用商標を使用した役務の売上高,引用商標に係る宣伝広告の回数や期間,広告費などを立証する証拠の提出はなされておらず,引用商標が使用された事実を客観的,具体的に把握することができないといわざるを得ない。
(3)小括
以上によれば,引用商標が,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,「レースクイーン社」の業務に係る役務である,電子掲示板「2ちゃんねる」を表示するものとして,我が国の需要者の間に広く知られていたものであることを認めることができない。
2 本件商標と引用商標の類否について
(1)本件商標
本件商標は,前記第1のとおり「2ch」の文字からなり,「ch」の欧文字部分は,「[channel]チャンネル」(株式会社岩波書店「広辞苑第六版」)の意味を有する略語として一般に知られているものであるから,該文字はその構成態様より「ニシイエイチ」又は「ニチャンネル」の称呼が生じるものであり,「2のチャンネル」の観念が生じるものである。
(2)引用商標
一方,引用商標は,前記第2のとおり「2ちゃんねる」の文字からなり,該文字より,「ニチャンネル」の称呼が生じ,「2のチャンネル」程の観念が生じるものである。
(3)本件商標と引用商標の類否について
本件商標と引用商標を比較すると,外観においては,語頭「2」の数字は共通するが,その後に続く「ch」と「ちゃんねる」は,それぞれ欧文字と片仮名であるから,外観上,明確に区別できるものである。
また,称呼においては,本件商標からは,「ニシイエイチ」又は「ニチャンネル」の称呼が生じ,引用商標からは,「ニチャンネル」の称呼が生じるものであるから,「ニチャンネル」の同一の称呼を生じるものである。
さらに,観念においては,両者とも「2のチャンネル」の同一の観念が生じるものである。
そうすると,本件商標と引用商標は,その外観が相違するとしても,共通する称呼と同一の観念を有するものであるから,これらを総合的に勘案すれば,両者は,類似の商標といえるものである。
加えて,本件商標の指定役務中,「電子掲示板による通信及びこれに関する情報の提供」と引用商標の「電子掲示板の提供」とは,同一又は類似の役務である。
3 商標法第4条第1項第10号該当性について
商標法第4条第1項第10号は,「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であって,その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」に該当する商標について,商標登録を受けることができないと規定しているところ,上記2のとおり,本件商標と引用商標が類似するとしても,上記1のとおり,引用商標は,需要者の間に広く知られているものではない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第7号該当性について
商標法第4条第1項第7号は,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当する商標について,商標登録を受けることができないと規定しているところ,これに該当する商標は,「(a)その構成自体が非道徳的,卑わい,差別的,矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合,(b)当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも,指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反する場合,(c)他の法律によって,当該商標の使用等が禁止されている場合,(d)特定の国若しくはその国民を侮辱し,又は一般に国際信義に反する場合,(e)当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合,などが含まれるというべきである。」と判示されているところである(知財高裁平成17年(行ケ)第10349号 平成18年9月20日判決参照)。
しかしながら,本件商標は,前記第1の構成態様からなるものであって,その構成自体が非道徳的,卑わい,差別的,矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような構成態様ではないことは明らかである。
また,本件商標の指定役務について使用することが社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反するということもできず,他の法律によってその使用が禁止されているものでもない。
さらに,申立人が提出した証拠及び主張からは,特定の国若しくはその国民を侮辱し,又は一般に国際信義に反する場合に当たるということはいえない。
加えて,申立人が提出した証拠及び主張からは,本件商標の登録出願の経緯が,社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に当たるということもいえない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当しない。
5 商標法第4条第1項第19号について
商標法第4条第1項第19号は,「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって,不正の目的(不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもって使用をするもの」に該当する商標について,商標登録を受けることができないと規定しているところ,申立人は,商標権者が不正の目的をもって本件商標を使用していることについて,甲第9号証ないし甲第12号証を提出して,不正の目的をもって使用をする意思が明確にあった旨を主張している。
しかしながら,これらの証拠は,インターネット記事や新聞記事において,「2ちゃんねる」を巡る事件について記載されているのみで,実際にどのような不正の目的があったか具体的な記載はないし,申立人は,これら不正の目的について,具体的な説明もしていない。
そうすると,たとえ,本件商標と引用商標が類似の商標であるとしても,引用商標に周知性は認められず,かつ,本件商標が不正の目的をもって使用をするものということはできない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当しない。
6 商標法第3条第1項第5号について
商標法第3条第1項第5号は,「極めて簡単で,かつ,ありふれた標章のみからなる商標」に該当する商標について,商標登録を受けることができないと規定しているところ,本件商標は,前記第1のとおり,「2ch」の文字からなるものであって,その構成文字は,同書,同大,等間隔で,まとまりよく一体に表され,これから生じる「ニシイエイチ」又は「ニチャンネル」の称呼も,無理なく一連に称呼し得るものである。
そして,本件商標は,構成中の「2」の文字が,算用数字の1桁であり,本件商標の構成中「ch」の文字が上記2(1)のとおり「チャンネル」に通じる文字で,たとえ,「IT分野では,データや電気信号などが流通する伝送路,経路,提供の手段」(IT用語辞典:http://e-words.jp/)等の意味を有する語であり,「伝送路,経路,提供の手段」等の意味の略称として使用されたとしても,本件商標の構成及び称呼からすると,看者をして,ことさら「2」と「ch」の文字に分離して認識されることはなく,「2ch」の構成文字全体をもって,「2のチャンネル」の観念を生ずる一体不可分の語を表したものとして認識し,把握されるとみるのが自然である。
そうすると,本件商標である「2ch」の文字は,その指定役務との関係を考慮しても,極めて簡単で,かつ,ありふれた標章のみからなるものとはいい難く,本件商標をその指定役務について使用しても,自他役務の識別標識としての機能を果たし得るものといわなければならない。
なお,申立人は,本件商標は,「2」の数字1字と「ch」のローマ字2字とを組み合わせて横書きにするもので,「数字の次にローマ字の2字を組み合わせた」だけのものであり,まさに,「極めて簡単で,かつ,ありふれた標章のみからなる商標」(商標法第3条第1項第5号)に該当する旨を主張しているが,本件商標は,上記のとおり,「チャンネル」や「伝送路,経路,提供の手段」等を意味する略称として使用されている文字であり,何ら意味をなさない数字とローマ字の組み合せではなく,これが,役務の記号・符号として,普通に使用されているとも認められないから,本件商標は「極めて簡単で,かつ,ありふれた標章のみからなる商標」ということはできない。
したがって,本件商標は,商標法第3条第1項第5号に該当しない。
7 むすび
以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第3条第1項第5号並びに同法第4条第1項第7号,同第10号及び同第19号に違反してされたものではないから,同法第43条の3第4項の規定により,その登録を維持すべきである。
よって,結論のとおり決定する。
異議決定日 2017-02-13 
出願番号 商願2014-23406(T2014-23406) 
審決分類 T 1 651・ 15- Y (W3842)
T 1 651・ 22- Y (W3842)
T 1 651・ 25- Y (W3842)
T 1 651・ 222- Y (W3842)
最終処分 維持  
前審関与審査官 旦 克昌大房 真弓榊 亜耶人 
特許庁審判長 井出 英一郎
特許庁審判官 榎本 政実
山田 正樹
登録日 2016-04-22 
登録番号 商標登録第5843569号(T5843569) 
権利者 西村 博之
商標の称呼 ニチャンネル、ニシイエイチ、ニシイエッチ、ツーシイエイチ、ツーシイエッチ 
代理人 右田 敏之 
代理人 是枝 洋介 

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