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審決分類 審判 一部無効 商3条1項3号 産地、販売地、品質、原材料など 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X09
管理番号 1298386 
審判番号 無効2013-890052 
総通号数 184 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2015-04-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-07-31 
確定日 2015-03-11 
事件の表示 上記当事者間の登録第5451821号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5451821号の指定商品中、第9類「電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品,電池,配電用又は制御用の機械器具」についての登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
登録第5451821号商標(以下「本件商標」という。)は、「IGZO」の文字を標準文字で表してなり、平成23年6月24日に登録出願、第9類「電気アイロン,電気式ヘアカーラー,電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品,電池,電線及びケーブル,配電用又は制御用の機械器具」を指定商品として、同年10月25日に登録査定され、同年11月18日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第25号証(枝番を含む。)を提出した。
1 本件商標の商標法第3条第1項第3号該当性について
(1)「IGZO」の語のエレクトロニクス業界における語義について
「IGZO」の語は、「インジウムIn?ガリウムGa?亜鉛Zn?酸素O」、「酸化インジウム・ガリウム・亜鉛」を意味する語である(甲第2号証の1及び2)。
1996年以降に公開・公表された「IGZO」なる語を含む特許の中で最も古い特開2000-26119(出願日:1998年7月9日)によれば、その実施例1ないし3において、「IGZO薄膜を作製した。得られた膜を蛍光X線により分析した結果、その組成は、In99Ga101Zn97O396であった」、「In98Ga100Zn98O395であった」、「In96Ga100Zn99O393であった」と記載されている(甲第3号証)。InとGaとZnとOの組成比に若干の違いはあるものの全てIGZO薄膜として記載されている。「IGZO」の語は、エレクトロニクス業界の研究者の間で、上記原材料名を表す端的な略称として、遅くとも1998年までに使用され始めた語である。
その後、「IGZO」の語は、本件商標の出願日前から現在に至るまで、エレクトロニクス分野において、95社(筆頭出願人の数のみ。延べ数ではない)の企業により、既に公開されている公報だけで、1,401件もの特許公報等の「明細書」又は「特許請求の範囲」に使用されている(甲第4号証及び甲第5号証)。
IGZOに関する特許発明の実用化・製品化については、2010年2月3日発行の日経産業新聞によれば、「日本発の新型酸化物半導体/実用化へ韓台リード/有機ELや3Dテレビに」のタイトルで報道されている。2010年1月に開催された透明アモルファス酸化物半導体国際ワークショップ(TAOS2010)において、IGZOに関する研究内容を紹介した企業として、日本企業では、シャープ、NEC、NEC液晶テクノロジー、日立製作所、キャノン、凸版印刷、大日本印刷、日鉱金属、三井金属、豊島製作所が、韓国企業ではサムスン電子、サムスンモバイルディスプレー、LGディスプレーが、台湾企業では、友達光電が挙げられ、有機ELや3Dテレビヘの実用化が迫っていること、今後、実用化競争に拍車がかかるのは間違いない旨、報道されている(甲第2号証の2)。
このように、「IGZO」の語は、本件商標の出願日前から、エレクトロニクス業界において、需要者・取引者に普通に用いられている原材料名であり、また、現在に至るまで非常に広く注目されている原材料名である。
(2)IGZOに関する特許ライセンス及び請求人と被請求人との関係について
被請求人の2012年5月29日付けのNews Releaseに掲載されているように、もともと、IGZOに関する特許は、東京工業大学の細野秀雄教授らが、請求人である独立行政法人科学技術振興機構(略称「JST」)の創造科学技術推進事業のプロジェクトにおいて発明したものであり、東京工業大学などの出願を含め数十の特許群から構成され、独立行政法人科学技術振興機構が一括でライセンスを実施しているものである。2004年同教授らは、薄膜トランジスタに用いると、従来の液晶パネルで採用されているアモルファスシリコンに比べて電子移動度が1桁高いことを見出し、同年11月には科学雑誌「Nature(ネイチャー)」で成果発表している(甲第6号証)。
被請求人が、請求人と、IGZOを用いた薄幕トランジスタに関する特許のライセンス契約を2012年1月20日に締結し、IGZOを採用した液晶パネルの本格的な生産に移行した旨を発表しているように(甲第6号証)、被請求人は、IGZOを原材料として用いた薄膜トランジスタを、独立行政法人科学技術振興機構からの特許ライセンスにより、生産しているライセンシーの一つである。
(3)「IGZO」の語の具体的使用例について
ア 「IGZO」の語の特許公報等における具体的使用例について
1996年(平成8年)から本件商標の出願日前に公開・公表された446件の特許公報等は、富士フィルム株式会社の109件を筆頭に、株式会社半導体エネルギー研究所78件、キヤノン株式会社33件、ソニー株式会社24件、エルジーイノテツクカンパニーリミテッド20件など計53社の企業によって出願されている(甲第7号証の2)。
これらの公報を調べたところ、「IGZO」の語は、「インジウムガリウム亜鉛酸化物(インジウムガリウム亜鉛複合酸化物)(インジウム?ガリウム?亜鉛酸化物)(酸化インジウム?酸化ガリウム?酸化亜鉛)」(甲第8号証の1ないし10)、「酸化インジウムガリウム亜鉛」(甲第8号証の11ないし14)、「In、Ga及びZnを含むイオンが蒸着されたIGZO層」(甲第8号証の15)、「インジウム、ガリウム、Zn、酸素」(甲第8号証の16)、「インジウム亜鉛ガリウム酸素」(甲第8号証の17)、「In?Ga?Zn?O系(複合)酸化物」(甲第8号証の18ないし20)、「InGaZnO(InGa-ZnO)(In?Ga?Zn?O)」(甲第8号証の21ないし31)、「Indium Gallium Zinc Oxide」(甲第8号証の32ないし36)、「酸化物半導体又は酸化物等の例」(甲第8号証の37ないし49)を意味する語として使用されており、元素の名称を羅列するか、元素の名称をカタカナ表記にするのか英文表記にするのか、元素記号を羅列するか、元素記号をハイフン(-)で結合するか否か、酸素部分を「酸化物」と表示するのか「酸化」と表示するのか等の表記上の違いはあっても、同一物質名を意味する語であることは、エレクトロニクス業界の需要者・取引者にとって、明らかである。そして、酸化物半導体、酸化物等の例として、単に「IGZO」と記載されていることからも、「IGZO」の語が、いかなる物質であり、いかなる原材料であるのか、エレクトロニクス業界の需要者・取引者において明確に認識されているからに他ならない。
そして、エレクトロニクス業界において頻繁に使用されているこの原材料名を、文書に表記したり、また学会等で発表するにあたり、元素の名称等の羅列では冗長な記載となってしまうこともあって、元素記号の頭文字をとって端的に表した「IGZO」の表記で、エレクトロニクス業界の需要者・取引者に上記物質名として認識され、使用されているのである。
したがって、95社の企業において、既に公開されている公報だけでも1,401件ものエレクトロニクス分野の明細書・特許請求の範囲で使用されている「IGZO」なる語は、(インジウム(Indium、In)、ガリウム(Gallium、Ga)、亜鉛(Zinc、Zn)、酸素(Oxide、O)から構成される酸化物(酸化インジウム・ガリウム・亜鉛)」を意味する明確な語であり、本件商標の出願日前から現在に至るまで、エレクトロニクス分野の各種商品の原材料名として普通に使用されている語であることに疑いの余地はない。
イ 各種新聞記事における具体的使用例
(ア)日本経済新聞
2010年5月28日発行には、「液晶材料を動かす薄膜トランジスタ(TFT)用半導体材料」に関して、「『透明アモルファス酸化物半導体(TAOS)ワークショップ』が開かれた。発表内容の中心は東工大の細野秀雄教授が1995年に国際会議で紹介した世界初のTAOSである酸化インジウム・ガリウム・亜鉛(IGZO)だった。IGZOは現在の液晶用TFTに使うアモルファスシリコンに比べて電子の動きの指標である電子移動度が1ケタ大きい。液晶テレビをさらに大画面にしたり臨場感を高めたり、本格的な3Dテレビを実現できる」旨、掲載されている(甲第9号証)。
さらに、2010年3月27日発行には、「日本発、液晶パネルの新材料?富士フィルム、研究で先行(技術ウオツチ)終」とのタイトルで、「薄型テレビなどに使う液晶パネルの新材料、酸化インジウム・ガリウム・亜鉛(IGZO)の研究開発が熱を帯びてきた」、「日鉱金属はIGZO薄膜の製法改善に力を入れている。(中略)大画面液晶テレビの製造に対応できる長さ2・65メートルの板状の巨大材料も作った」、「三井金属も同様のIGZO材料の開発を急ぐ。(中略)日本、韓国、台湾の薄膜製品の製造拠点で実用化を目指している」、「『IGZO薄膜はシリコン薄膜より低温・低真空で作れ、製造コストも下げられる可能性がある』と日鉱金属の熊原主任技師は期待する。IGZOはもともと東工大の研究者が生み出した。家電やゲーム機のメーカーが相次ぎ3D対応の製品拡充に動くなか、日本発の技術を次世代ディスプレイの国際標準にしようと材料メーカーの挑戦が続く」旨、掲載されている(甲第10号証)。国際標準とは、製品のサイズや性能評価などの国際的な基準をいうが、国際標準を目指すほど、IGZOが注目を浴びている原材料であることがわかる。
2010年11月9日付けの日本経済新聞では、「サムスンが酸化物半導体TFTの70型液晶、240Hzで4K×2K対応」とのタイトルで、「酸化物半導体TFTは、超高精細の液晶パネルや大型有機ELパネルなどに向け開発が進む駆動素子の一つ。最も有望視されているアモルファス酸化物半導体材料は、IGZO(In?Ga?Zn?O)である」旨、掲載されている(甲第11号証)。
2011年3月2日発行には、「新製品・技術◇日立、ICタグ生産コスト10分の1、携帯端末の電池不要に」のタイトルで、「日立製作所は電子荷札(ICクグ)などに使うRFID(無線自動識別)チップを安価に作製する技術を開発した。(中略)開発したチップは、東京工業大学の細野秀雄教授らが発見した透明な半導体の酸化インジウム・ガリウム・亜鉛(IGZO)を使う。(中略)IGZOは液晶テレビ向けTFTにも使え、すでに韓国のサムスン展示などが開発し製品の発売も近いとされる」旨、掲載されている(甲第12号証)。
2011年5月20日発行には、「ムラを抑えて高画質化、ソニーが新方式の有機ELパネル開発」のタイトルで、ソニーがIGZOを用いて有機ELパネルを試作開発の記事が掲載されている(甲第13号証)。
(イ)日経産業新聞
2010年10月19日発行には、「半導体・液晶材料に注力/アルバック/製造装置と組み売り込む」のタイトルで、「半導体製造装置大手のアルバックが電子部品や液晶パネルに使うマテリアル事業の拡大に乗り出している。(中略)超材料研究所が担うのは新材料の開発だ。取り扱うのは透明電極に使用する酸化インジウムすず(ITO)や酸化インジウム・ガリウム・亜鉛(IGZO)などの液晶パネル向けのターゲット材から、アルミやモリブデン、タンタルなどの金属材料まで幅広い」旨、掲載されている(甲第14号証)。
2010年12月6日発行には、「様々な基板に電源回路形成/富士通研が新技術」のタイトルで、「富士通研究所は様々な基板に電源回路に使うパワー半導体を作製できる技術を開発した。酸化インジウム・ガリウム・亜鉛(IGZO)を使い特殊な膜でコーティングすることで高電圧に耐えられるようにした」旨、掲載されている(甲第15号証)。
2011年3月2日発行には、「ICタグ生産コスト1/10。日立、半導体を低温作製」のタイトルで、「日立製作所は、電子荷札(ICタグ)などに使うRFID(無線自動識別)チップを安価に作製する技術を開発した。(中略)電池を使わない小型の電子ペーパーなど携帯端末に利用を見込む。開発したチップは、東京工業大学の細野秀雄教授らが発見した透明な半導体の酸化インジウム・ガリウム・亜鉛(IGZO)を使う。(中略)IGZOは液晶テレビ向けTFTにも使え、すでに韓国のサムスン電子などが開発し製品の発売も近いとされる。日立はRFIDチップに利用して液晶などと組み合わせれば、無線で電力を供給する電子ペーパーなどに実現できると期待する」旨、掲載されている(甲第16号証)。
(ウ)朝日新聞
2011年4月22日発行には、「中小型パネルに生産移行 シャープ、スマホ需要に照準【大阪】」のタイトルで、「シャープは21日、スマートフォンなどに使う中小型液晶パネルの材料として酸化物半導体(IGZO)を世界で初めて実用化すると発表した。(中略)IGZOは、一般的な材料のアモルファスシリコンに比べ、画素を細かくしたり電力消費を抑えたりすることができる」旨、掲載されており、IGZOが中小型液晶パネルの材料としての酸化物半導体である旨記載されていることがわかる(甲第17号証)。
2013年5月23日発行には、「IGZOは半導体の材料に従来のシリコンではなく、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)の酸化物(O)を使う。東京工業大の細野秀雄教授(材料科学)が、2004年にこの材料で薄膜トランジスタ(TFT)を初めて試作し、英科学誌ネイチャーに発表したのが先駆けだ」、「細野さんへの研究資金は、文部科学省系の独立行政法人科学技術振興機構(JST)から支出された」、「IGZOの基礎研究に使われた研究資金は1億円程度という」、「IGZOの基本特許を持つJSTは、数億円とされるライセンス契約を結べば世界のどの企業にも提供する方針だ」旨、掲載されている(甲第18号証)。
ウ 一般雑誌における具体的使用例
日経エレクトロニクス2008年5月5日号によれば、94頁に、「主成分がインジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、酸素(O)から成るアモルファス酸化物半導体(IGZO)を用いて作製したTFT(IGZO TFT)をアクティブ・マトリクス型のディスプレイに適用し、各種の特性を調べた。(中略)我々が開発中の、IGZO TFTを用いた有機ELパネルについても紹介する。」と記載されている。また、103頁には、「2007年12月に札幌で開かれた「14th International Display Workshops(IDW‘07)」で我々はIGZO TFTを用いた4型有機ELパネルを発表した(93頁の写真)。(中略)現在、我々はIGZO TFTを適用したさらに大きな寸法のパネルを開発中である。」とも記載されている(甲第19号証の1)。
日経マイクロデバイス2009年4月号において、「酸化物半導体TFTを見極める基礎技術は確立、応用開拓が実用化のカギ」のタイトルで、54頁に、「『高移動度』、『高信頼性』、『透明性』、『低温成膜』-。FPDを駆動するTFTの材料として、現在のアモルファスSiにはない多くの特徴持つ材料がInGaZnO(IGZO)など酸化物半導体だ。誰もが高い潜在能力を認める、期待の新材料である」旨、掲載されており、酸化物半導体の実用化に向けて、従来からの材料であるアモルファスSiに代えて、アモルファス系のIGZOについて各研究機関の実験値等を用いて、第一線で酸化物半導体を研究する5人の討論会を元にした記事が掲載されている(甲第19号証の2)。
エ 学術雑誌における具体的使用例
学術雑誌の抄録中に「IGZO」の文字を含む科学技術文献は、1981年以降2011年6月23日までに公表されたものだけでも、228件に上る(甲第20号証)。我が国だけでなく、アメリカ合衆国、インド、イギリス、オランダ、韓国、ドイツ等、世界各国において、IGZOに関連する科学技術文献が報告されていることがわかる。
オ 学会・研究発表会等における具体的使用例
2011年5月20日発行の日本経済新聞において、「ソニーは輝度ムラを軽減して高画質化した有機ELパネルを開発、ディスプレイ関連で世界最大の学会「49th SID International Symposium, Seminar&Exhibition(Display Week 2011)」(SID2011)で発表した。(中略)(1)ガラス基板上に酸化物半導体IGZO、ゲート絶縁膜、ゲート電極を成膜語ドライ・エッチング法でパターン加工する」旨、掲載されている(甲第13号証)。
さらに、2010年3月27日発行の日本経済新聞において、「先頭を走るのは富士フィルムだ。今月、東海大学(神奈川県平塚市)で開いた酸化物半導体関連の学会の発表会では、11件中5件が同社の成果。IGZOにかける意気込みを示した」と掲載されている(甲第10号証)。
カ 製造メーカー・大学等における具体的使用例
JX日鉱日石金属株式会社のHPの「Sustainability Report」において、「2010年版」では「IGZOターゲットを展示」と記載され、「2011年版」及び「2012年版」では「IGZO」について「インジウム・ガリウム・亜鉛・酸化物(Indium Gallium Zinc Oxide)。FPDなどに使われる透明導電材料の一種」との用語説明がなされている(甲第21号証の1ないし3)。また、そのHPの「CSR活動トピックス」では、2011年10月26日開催のフラットパネルディスプレイの総合展示会「PFD International 2011」に酸化物半導体としての使用がパネル各社で検討されている「IGZOターゲット」を紹介したことが記載されている(甲第21号証の4)。さらに、2012年6月19日開催の台北世界貿易中心において、フラットパネルディスプレイに関する展示会「Display Taiwan 2012」が開催され、次世代フラットパネルディスプレイ用透明酸化物半導体材料として今後多いに期待されているIGZOスパッタリングターゲットが出展されたことが記載されている(甲第21号証の5)。
豊島製作所マテリアルズシステム事業部のHPにおいて、「技術情報一覧」の中に「IGZO(InGaZnOx)」の項目の中で、「電気特性、光透過率など、TAOSの優れた特徴を生かして、カラー電子ペーパー、大画面液晶ディスプレイヘの研究が進められています。TAOSの中でも、IGZO(InGaZnOx)は最も注目されている材料です」と記載されている(甲第21号証の6)。
半導体製造装置大手のアルバックのHPにおいて、IGZOの定義の他、「IGZOはディスプレイの表示を制御する薄膜トランジスタ(TFT)の材料として注目されており、現在、世界中のディスプレイメーカーが、このIGZOによるディスプレイや有機ELの開発にしのぎを削っています」と掲載されている(甲第21号証の7)。
また、東京工業大学の「研究成果詳細」に関するHPでは、IGZOの定義の他、「特に、2009年頃からは、IGZO TFT(薄膜トランジスター)を搭載した高解像度・3次元・大型液晶ディスプレイや有機ELディスプレイの試作・展示が国内外の国際会議や展示会で目立つようになりました」と掲載されている(甲第2号証の1)。
(4)本件商標が自他商品識別力を有するか否かについて
上記したとおり、特許公報、全国紙の新聞記事、一般雑誌、学術雑誌、学会・研究発表会、製造メーカー、大学等において、「IGZO」なる語は、エレクトロニクス業界において、「インジウム(Indium、In)、ガリウム(Gallium、Ga)、亜鉛(Zinc、Zn)、酸素(Oxide、O)から構成される酸化物(酸化インジウム・ガリウム・亜鉛)」を意味する語として、本件商標の出願日前から現在に至るまで、普通に用いられていることが明らかである。
IGZOは、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、電子ペーパー(甲第2号証の1)、モバイル機器、高精細ノートPC、高精細液晶モニター(甲第6号証)、薄膜トランジスタ(TFT)、液晶テレビ、3Dテレビ、大型ディスプレー、薄型大画面テレビ(甲第9号証)、液晶パネル、有機ELパネル(甲第11号証)、電子荷札(ICタグ)、RFID(無線自動識別)チップ、携帯端末、液晶テレビ向けTFT(甲第12号証及び甲第16号証)、電子部品(甲第14号証)、電源回路(甲第15号証)、スマートフォン、中小型液晶パネル(甲第17号証)等、エレクトロニクス分野の各種商品の原材料として、本件商標の出願日前から現在に至るまで、取引上、普通に使用されている原材料名である。
したがって、「IGZO」の語を、IGZOを原材料とする本件審判の請求に係る指定商品「電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品,電池,配電用又は制御用の機械器」(以下「請求に係る指定商品」)に使用しても、需要者・取引者は、「インジウム[Indium、In)、ガリウム(Gallium、Ga)、亜鉛(Zinc、Zn)、酸素(Oxide、O)から構成される酸化物(酸化インジウム・ガリウム・亜鉛)」を意味する語として、その商品の原材料を認識するにすぎない。そして、本件商標は、標準文字により表された商標であるから、普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標に該当する。
よって、本件商標は、商標法第3条第1項第3号に違反して登録されたものである。
2 本件商標の商標法第4条第1項第16号該当性について
上記のとおり、「IGZO」の語は、エレクトロニクス業界において、「インジウム(Indium、In)、ガリウム(Gallium、Ga)、亜鉛(Zinc、Zn)、酸素(Oxide、O)から構成される酸化物(酸化インジウム・ガリウム・亜鉛)」を意味する原材料名であると需要者・取引者に認識されているため、本件商標を、IGZOを原材料とする商品以外の請求に係る指定商品に使用すると、その商品の品質を誤認するおそれがある。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に違反して登録されたものである。
3 本件商標の商標法第4条第1項第7号該当性について
(1)エレクトロニクス業界の学会関係者・企業関係者における混乱について
「IGZO」の語は、上記したとおり、遅くとも1998年までに使用が開始され、遅くとも2011年5月までには、エレクトロニクス業界において、原材料名であると需要者・取引者に認識されていた語である。
しかし、その後、本件商標が、被請求人により、商標登録を受けたことにより、エレクトロニクス業界、特にディスプレイや部品の分野においては、IGZOに関する研究会や、IGZOと表示した学会発表や展示会ができなくなるのではないかと危惧している学会関係者及び企業関係者は少なくない。IGZOに関する特許の一ライセンシーにすぎない被請求人が、原材料名である「IGZO」の語を独占排他権たる商標権として登録したことにより、エレクトロニクス業界の被請求人以外の企業関係者や学会関係者に、「IGZO」の語の使用を躊躇させる結果を招いている。請求人は、IGZOに関する特許発明のライセンス管理の一括管理を行っていることから、本件商標が登録されたことについて、学会関係者及び企業関係者から頻繁に苦情が持ち込まれ、その対応に追われている状況にある。
ある語が一旦商標登録されると、否が応にもその権利の存在を意識せざるを得なくなることは商標登録制度が採用されている以上必然といえ、学会やエレクトロニクス業界を中心に一般の人々が強い警戒心を抱くことに疑義はない。単に商品の原材料名を表したにすぎない商標の場合、商標法上は、商標法第26条に「商標権の効力が及ばない範囲」の規定があるため、その旨説明したとしても、商標法第26条に基づく主張は、訴訟等において初めてその主張が判断されるのであるから、そもそも争いに巻き込まれたくない者にとっては、「IGZO」の語が商標登録されたと知っただけで、多大な費用と時間をかけざるを得ない「争い」を避けるために、「IGZO」の語の使用を避けるべきかどうかを考えることは当然である。
しかし、「IGZO」の語が、原材料名としてエレクトロニクス業界の学会関係者・企業関係者に定着し、IGZOに代替する端的な言葉がないがゆえに、当該分野の学会関係者・研究者・企業関係者等に混乱が生じつつある。
(2)被請求人における「IGZO」の語の使用
被請求人は、本件商標の出願日のわずか3日前の2011年6月21日に特許出願を行い、2013年1月11日に特許を受けた特許第5176003号において、特許請求の範囲の請求項16には「前記酸化物半導体層は、IGZOから形成されている請求項1から6のいずれかに記載の半導体装置。」、明細書【0057】には「酸化物半導体層7aは、例えば厚さが30nm以上300nm以下のIn-Ga-Zn-O系半導体(IGZO)膜から形成されている。なお、IGZO膜の代わりに、他の酸化物半導体膜を用いて酸化物半導体層を形成してもよい」等と記載している(甲第22号証)。
また、2012年12月6日付けの日本経済新聞における被請求人の広告において、「IGZO」が「薄膜トランジスタ」に用いられる原材料である旨、説明されている(甲第23号証)。さらに、被請求人のHPにおいて、「IGZOって何?」と題して、大きく「革新的な未来へと導く、透明な結晶性酸化物半導体。」と記載した後、「IGZOは、シャープが世界で初めて量産化に成功した、人の手によって創り出された透明な酸化物半導体。In(インジウム)、Ga(ガリウム)、Zn(亜鉛)、O(酸素)により構成され、今までの半導体ではできなかったことを可能にする、革新的なテクノロジーです。その能力は多岐に渡り、これからの暮らしを劇的に進化させる大きな可能性を秘めています」と掲載している(甲第24号証)。
さらに、被請求人HPの一般需要者向けの「液晶ディスプレイ」のカタログでは、「IGZO技術搭載」、「IGZOとは、酸化物半導体の技術。インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、酸素(O)で構成された半導体をTFT(薄膜トランジスタ)に用いることで、高精細で明るい表示を可能にしました」と記載されている(甲第25号証)
したがって、甲第6号証の被請求人のNews Releaseによる「JSTとのライセンス契約について」とともに、上記被請求人の特許公報、広告、HPの記載から、被請求人が、「IGZO」の語を、明確に「原材料名」として使用していることがわかる。
(3)本件商標の公序良俗に反するおそれがあるか否かについて
IGZOに関する特許は、請求人の事業プロジェクトにおいて、東京工業大学の細野秀雄教授らによって発明されたものであり、請求人により一括して特許ライセンスの実施がなされているものである。被請求人は、IGZOに関する特許の数あるライセンシーの中の1社であり、また、被請求人もIGZOを利用した特許発明の「特許請求の範囲」に「IGZO」の語を使用しているのであるから、IGZOが学会において公開され、多くの企業によって特許公報等において公開され、また、エレクトロニクス業界において、「IGZO」の語を原材料の一般名称として使用する者があることを、本件商標の出願時及び査定時において充分に認識していたといえる。
被請求人は、上記事情を充分認識し、自ら原材料名として使用しているにもかかわらず、本件商標を出願し、登録して、被請求人のみが独占排他的にこれを使用するということは、今まで平穏に「IGZO」を使用してきたエレクトロニクス業界の多くの企業関係者及び学会関係者に大きな困惑を生じさせているのであるから、社会の一般的道徳観念に反し、社会公共の利益に反するものであり、到底許されるものではない。したがって、公序良俗に反するおそれがある。そして、本件商標の登録が無効にされない限り、上述した当該分野における混乱が解消されることはない。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものである。
4 むすび
したがって、本件商標は、その指定商品中、請求に係る指定商品に使用するときは、商標法第3条第1項第3号、同法第4条第1項第16号及び同項第7号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項第1号により、無効とされるべきものである。

第3 被請求人の主張
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第33号証を提出した。
1 はじめに
請求人は、本件商標は、その指定商品のうち、請求に係る指定商品について、商標法第3条第1項第3号、同法第4条第1項第16号及び同項第7号に該当することを理由に無効とすべきと主張している。
しかし、そもそも、請求人は、本件無効の審判請求をできる主体には該当しない。
また、請求人に請求人適格が認められるとしても、請求人が主張する無効理由はいずれも認められない。
2 請求人適格について
(1)商標法第46条の請求主体
知財高裁平成22年3月29日判決(乙第1号証)によれば、商標法第46条に基づき商標登録無効審判請求をする資格を有するのは、同条の解釈としても、審判の結果について法律上の利害関係を有する者に限られるとされており、請求人は、次のとおり審判の結果について法律上の利害関係を有する者ということはできない。
(2)請求人の沿革
請求人は、2つの組織が母体となって設立されている。その一つである日本科学技術情報センター(JICST)は、わが国における科学技術情報に関する中枢的機関として内外の科学技術情報を迅速かつ適確に提供する事を目的に1957年8月に設立され、もう一つの新技術開発事業団(JRDC)は、海外技術への依存から脱却し、わが国の大学や国立研究所等の優れた研究成果を発掘し、その企業化を図ることを目的に1961年7月に設立され、その後の業務追加を受け、1989年に新技術事業団と名称を変更している。その後、両組織は、科学技術振興のための基盤整備を総合的かつ効率的に行うとともに、「科学技術基本法」に位置づけられた施策を強力に推進することを目指して、1996年10月に統合し、請求人が設立された。そして、請求人は、2003年10月には、独立行政法人として改組し、現在の独立行政法人科学技術振興機構(JST)となっている(乙第2号証)。
このように、請求人は、わが国における科学技術情報に関する中枢的機関として内外の科学技術情報を迅速かつ的確に提供する事を目的に設立された組織(JICST)と海外技術への依存から脱却し、わが国の大学や国立研究所等の優れた研究成果を発掘し、その企業化を図ることを目的とした組織(JRDC)を基礎とする公的な組織である。
(3)請求人の目的等
請求人の存在の法的根拠となる、独立行政法人科学技術振興機構法によれば、請求人の目的等は、科学技術の振興を図ることを目的としており、その目的のために、(ア)新技術の創出に資することとなる科学技術に関する基礎研究、(イ)基盤的研究開発、(ウ)新技術の企業化開発等の業務及び(エ)我が国における科学技術情報に関する中枢的機関としての科学技術情報の流通に関する業務(オ)その他の科学技術の振興のための基盤の整備に関する業務を行うこととされ、その業務範囲は、主として研究開発に関するものであり、請求人自身が新技術を使用した商品を製造したり販売したりすることは業務範囲外である。すなわち、請求人は、基本的には研究開発のための機関であるといえる。
このように、請求人白身は、製品を製造する訳でもないし、販売を行う訳でもない。したがって、請求人が、本件商標を業として使用することはあり得ないので、請求人には審判の結果について法律上の利害関係はない。
(4)請求人の役員等
請求人の役員には、一部、民間の製造業者出身者もいるようであるが、ほとんどは、請求人の前身組織に在籍をしていた者や大学の研究者となっている(乙第4号証)。また、請求人の構成員に、民間の製造業者などが存在するとの資料は発見できなかった。
以上のとおり、請求人の役員や構成員についても、審判の結果について法律上の利害関係があるということはできない。
(5)小括
請求人は、業界団体ではなく、純粋な研究開発を目的とした公的な組織であるので、その構成員や会員に民間の製造業者は含まれていないから、本件無効の審判請求をするにつき利害関係を有さないので、請求人適格を有するとは認められない。
3 商標法第3条第1項第3号該当性について
仮に、請求人にその適格が認められるとしても、次のとおり本件商標は商標法第3条第1項第3号には該当しない。
(1)「IGZO」は、指定商品のいずれの「原材料」でもないこと
商標法第3条第1項第3号は、商品の「原材料」について、登録を認めない旨を定めた規定である。そして、指定商品の「品質」等を間接的に表示する商標は、該規定に該当しない(商標審査基準)。すなわち、指定商品の部品・構成品等の原材料に使用されるものであっても、その指定商品の直接的かつ具体的な原材料名でなければ登録が認められるべきである。
しかし、「IGZO」は、本件商標の指定商品中の請求に係る指定商品の直接的な「原材料」ではない。
(2)「IGZO」と指定商品との関係
液晶ディスプレイのTFTの分野の一部の研究者において、「IGZO」は、「インジウムIn?ガリウムGa?亜鉛Zn?酸素O」、「酸化インジウム・ガリウム・亜鉛」を意味する語として使用されていることがある。そして、「インジウムIn?ガリウムGa?亜鉛Zn?酸素O」は、液晶ディスプレイの製造過程で使用される物質(酸化物半導体)の一つであり、「IGZO」は、その略称の一つである。また、「インジウムIn?ガリウムGa?亜鉛Zn?酸素O」は、液晶ディスプレイの製造過程で使用されるが、チャネル材料の一種として使用されるものにすぎず、液晶ディスプレイ自体にもごく微量に含まれているだけである。
また、指定商品との関係では、例えば、電気通信機械器具である携帯電話機の部品である液晶ディスプレイについて、そのディスプレイ部分に用いられるガラスやプラスチック基板上に酸化物半導体薄膜トランジスタ(TFT)を形成するに際し、その製造過程でチャネル材料の一種として用いられる素材にすぎない。
このように、酸化物半導体の一種である「IGZO」は、指定商品の部品の一つにすぎない液晶ディスプレイの製造過程で使用されるものであるが、このようなものを、指定商品との関係で、直接の「原材料」ということはできない。
ア 指定商品との関係
本件の請求に係る指定商品の「電気通信機械器具」には、「携帯電話機」が含まれており、「携帯電話機」は、国内外の多数の業者から多様な機種、機能を有したものが製造販売されているが、典型的なものとしては、液晶ディスプレイのほか、スピーカー、入力キー、アンテナ、メモリ、CPU、ベースバンドLSI、無線回路、電池、マイクなどの多数の部品から成り立っている。
また、「電子応用機械器具及びその部品,電池,配電用又は制御用の機械器具」についても、液晶ディスプレイが含まれる商品もあるが、少なくとも液晶ディスプレイのみからなる商品はない。
したがって、請求に係る指定商品のいずれについても、液晶ディスプレイ自体は、その部品の一つにすぎなく、その指定商品に液晶ディスプレイが必ず含まれる部品であるということもできない。
イ 液晶ディスプレイの製造工程
液晶ディスプレイの製造工程では、ガラス基盤に電極、絶縁膜や保護膜などの加工を施していく中の半導体膜形成の工程において、微量の「インジウムIn?ガリウムGa?亜鉛Zn?酸素O」が使用される。
これにより、完成した液晶ディスプレイのトランジスタ部分の断面図は、乙第5号証30頁図1のとおり、((a)a-SiTFT)は、「インジウムIn?ガリウムGa?亜鉛Zn?酸素O」のものではないが、「インジウムIn?ガリウムGa?亜鉛Zn?酸素O」を使用した場合は、「a-Si」がそのまま「インジウムIn?ガリウムGa?亜鉛Zn?酸素O」に置き換わる。
このように、「インジウムIn?ガリウムGa?亜鉛Zn?酸素O」は、液晶ディスプレイの電極部分の限られた領域にごくわずかに使用されるにすぎないものである。
したがって、「インジウムIn?ガリウムGa?亜鉛Zn?酸素O」が指定商品の直接の原材料ということはいえるものではなく、ましてや、その酸化物半導体の略称の一つである「IGZO」が、指定商品の直接の原材料ということは到底いえるものではない。換言すれば、指定商品との関係では、その部品・構成品等に使用されるかも知れないし、使用されないかも知れない「間接」の、さらに当該部品・構成品等のごく一部の領域に使用されるにすぎないという意味で、そのまた「間接」というような遠い関係にあるにすぎない。
(3)商標法第3条第1項第3号の趣旨
同条に該当する商標について登録を認めていないのは、そのような商標では自他商品を識別することができないことと、特定人に独占させることが適切ではないからとされている。
ア 自他商品識別力
本件商標「IGZO」には、十分な自他商品識別力がある。
被請求人は、酸化物半導体を採用した中小型液晶パネルを世界で初めて実用化し(乙第6号証)、被請求人が初めて実用化に成功した新技術として各種メディアで紹介され、本件商標は、被請求人が独自に開発した商品を推称する語として、自他商品識別力機能を発揮していたというべきである。なお、査定時点においては、被請求人を含めわずか数社のみの新しい技術として、広く一般的に普遍化した技術でなかったことからすると、本件商標は指定商品の分野で通常一般的に用いられるような用語ではなかった。
商標法第3条第3項第3号は、記述的商標等について先願主義・登録主義を貫徹して直ちに商標登録を認めることには弊害はあるものの、使用による識別力を獲得するときには、同条第2項による商標登録を認めるのがその趣旨である。すなわち、指定商品との関係における市場において、識別力を発揮する商標であれば、これを登録するというのが商標法の規定である。本件商標の査定時において「IGZO」は、一部の専門的な技術的知識を有する者には、知られていたかもしれないが、一般に知られていた表示ではない。また、査定後、被請求人の販売活動と広告宣伝活動によって、「IGZO」の自他商品識別力は、「イグゾー」の称呼と相まって、市場においてさらに浸透している。
イ 元素名等の登録例
実際に、元素名自体が登録された事例として、「INDIUM」(国際登録第1072713号)、「MAGNESIUM」(国際登録第837941号)、「ダイヤモンド/DIAMOND」(登録4196935号)、「NeoTitanium」(登録第5022978号)、「Superアモルファス」(登録第5098420号)、「ZIRKON」(登録第4839403号)、「PLATINUM」(登録第1558130号)等、多数存在している(乙第7号証ないし乙第18号証及び乙第20号証ないし乙第22号証)。
このように、指定商品の直接の原材料でない場合には、登録を受けることができ、本件商標も指定商品の直接の原材料ではないので、商標法第3条第1項第3号に該当しない。
上記以外にも、多数の元素名が指定商品との関係で、直接の原材料ではないと見なされ、自他商品識別力を有すると認められ、多数登録されている(乙第23号証ないし乙第33号証)。
ウ 独占適応性
(ア)液晶ディスプレイのTFTの分野の一部の研究者において、「IGZO」は、「インジウムIn?ガリウムGa?亜鉛Zn?酸素O」、「酸化インジウム・ガリウム・亜鉛」を意味する略称のーつとして使用されていることがある。そして、「インジウムIn?ガリウムGa?亜鉛Zn?酸素O」は、液晶ディスプレイの製造過程で使用される物質(酸化物半導体)の一つである。しかし、「インジウムIn?ガリウムGa?亜鉛Zn?酸素O」、「酸化インジウム・ガリウム・亜鉛」は、請求人が指摘するように「IGZO」以外にも多数の表記の仕方がある(甲第8号証)。そして、本件商標の登録が維持されたとしても、被請求人以外の者は「IGZO」以外の表記を使用することができ、これまでもそのように表記してきた。
また、本件で無効審決が求められているのは、「電気通信機械器具、電子応用機械器具及びその部品、電池、配電用又は制御用の機械器具」についてであり、上記のとおり「IGZO」は、上記各指定商品の原材料となるものではない。
したがって、本件商標は、指定商品との関係で、特定人に独占させたとしても不都合はない。
(イ)商標は、あくまで指定商品との関係で、商品に付された標章が当該商品に接する取引業者や需要者にどのように認識されるかという観点から論じられるのが基本である。
そうであれば、本件についても「第9類 電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品,電池,配電用又は制御用の機械器具」の指定商品に属する商品上に商品名として「IGZO」と表示されたときに、「IGZO」というブランド名を見聞きして、一般に商品に接する者が、既述の酸化物表示から、そのような酸化物を使用した原材料や素材表示として、これを当該酸化物名の酸化物を指すものなどと理解するものはまずいない。
さらに、これらの商品のどこかの部位や部材に、どこかは不明ではあるものの、「インジウムIn?ガリウムGa?亜鉛Zn一酸素O」、「酸化インジウム・ガリウム・亜鉛」を意味する語としての頭文字をとった略称である「IGZO」という酸化物半導体を使用した商品であると認識する者もまず存在しないと思料される。
これを別の側面からいえば、原材料や素材表示を示すのに、記述的に表示せずに商品に大きくブランドとして表示するものはいないし、そのような表示をするのが取引実情であるというようなこともない。
さらに、商標法第3条第1項第3号の識別の判断主体からみても、本件指定商品に接する需要者として、最終消費者だけでなく、これら商品の取引者を広く含めるとしても、前記のように認識しないといえる。
請求人は、多数の明細書中の記載や論文等を引用しているが、そのような主張は、研究者や進歩性や発明における当業者と商標法における需要者(取引者を含む)を混交するものであって、該規定の適用にあたって、研究者や当業者が使用しており、将来的にも当該使用に支障が出るなどという理由で、間接のそのまた間接的な原材料を使用しているかもしれない指定商品についての登録商標についてまで、独占適応性がないなどという名目で安易に無効を認めることは、登録制度自体を不安定なものにする。また、該規定の適用を独占適応性の名のもとに判断基準の恣意化を招来してしまう。
エ 小括
以上のとおり、本件商標は、いずれの指定商品との関係でも直接の原材料ではないので、登録は維持されるべきものと思料する。
(4)請求人の主張について
ア 「IGZO」のエレクトロニクス業界における語義
請求人は、「既に公開されている公報だけで、1,401件もの特許公報等の『明細書』又は『特許請求の範囲』に「IGZO」が使用されているとするリスト(甲第4号証及び甲第5号証)」があると主張している。
しかし、上記のとおり、「IGZO」の語は、「IGZO薄膜」の製造過程で使用されるチャネル材料の一種であるが、指定商品の「原材料」ではない。また、特許公報等において、「指定商品」との関係で、その原材料名として記載されているとはいえなく、これらのリストには、「指定商品」との関係については何ら述べられておらず、これらのリストをもって、「エレクトロニクス業界の研究者の間で、指定商品の原材料名を示す端的な略称として使用されている」ということもできない。
イ IGZOに関する特許ライセンス等
請求人は、被請求人が酸化物半導体(「IGZO」)を用いた薄膜トランジスタに関する特許のライセンス契約を締結した旨を主張している。
しかし、請求人の主張する事実が、商標法第3条第1項第3号の主張においてどのような法的意味や主張をしているのかは不明である。
ウ 具体的使用例
請求人は、特許公報等、新聞記事や一般雑誌などにおける具体的使用例を挙げて、本件商標が「原材料」に該当する旨を主張している。
しかし、甲第4号証及び甲第5号証は、上記のとおり、「指定商品」との関係で、その原材料名として記載されているとはいえない。また、これらのリストには、「指定商品」との関係については、何ら述べられておらず、これらのリストをもって、「エレクトロニクス業界の研究者の間で、指定商品の原材料名を示す端的な略称として使用されている」ということもできない。
また、甲第7号証及び甲第8号証では、当該酸化物半導体の名称の一つとして、「IGZO」が使用されていることは分かるが、指定商品との関係で原材料として使用しているかどうかは分からない。
(5)小括
以上のとおり、本件商標は、指定商品との関係で原材料となるものではない。また、本件商標には、自他識別力があるとともに、特定人の独占にも適応するので、商標法第3条第1項第3号にあたる理由はない。
4 商標法第4条第1項第16号該当性について
「IGZO」は、指定商品との関係で原材料となるものではない。したがって、指定商品に使用したとしても品質を誤認するおそれはない。
付言するに、指定商品の商品上に表わされたブランドの「IGZO」という表示を見聞きして、品質を誤認するという立論の前提として、当該商品に接する需要者が、当該商品のどこかに使用されているか否かは不明であっても、使用されていると仮定すれば、商品のどこの部位か部材かは不明であっても、「IGZO」の略称名を表わす酸化物半導体の何たるかを理解し、これが指定商品に使われていると指定商品の品質を誤認するという過程がなければならないが、「IGZO」は、指定商品の関係で直接の原材料となるものではないので品質を誤認するおそれはない。
5 商標法第4条第1項第7号該当性について
商標法第4条第1項第7号に該当する商標とは、その構成自体がきょう激、卑わい、差別的若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形であるような公序良俗に反するものが典型とされている(商標審査基準)。しかし、本件商標は、「IGZO」からなる語であり、これ自体が公序良俗に反することはあり得ない。
つぎに、商標の取得経過に問題がある場合、例えば、外国で知られた商標を関係のない者が我が国で登録を行う場合などには、公序良俗としての国際信義に反することなどを理由に該当することが認められることがある。しかし、単に、普通名称でもないものを被請求人が出願し登録を受けたとしても、社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するようなことはなく、同条項に該当しないことは明らかである。
なお、請求人は、本件商標の存在により、エレクトロニクス分野において、「IGZO」の使用の可否について混乱が生じているなどと主張しているが、本件商標の登録査定時において、「IGZO」は、他人が独占して使用していたものでもないので、同条項には該当しない。
6 まとめ
以上のとおり、請求人の主張する理由はいずれも根拠がない。

第4 当審の判断
1 本案前の申立(利害関係)について
被請求人は、請求人が本件審判を請求することにつき利害関係を有さないから、本件審判の請求は却下されるべきである旨主張しているので、その点について検討する。
商標法第46条(商標登録の無効の審判)の立法趣旨は、過誤による商標登録を存続させておくことは、本来権利として存続することができないものに排他独占的な権利の行使を認める結果となるので、妥当でないから、審判請求を待って審理し、当該登録を無効とすることにある(工業所有権法(産業財産権法)逐条解説参照)。
請求人は、本件商標の指定商品の製造や販売をする者ではなく、その事業者団体でもない。しかし、本件商標を構成する「IGZO」に関係する技術の特許を有し、その実施許諾等を行っている者であるから、当該標章の独占的使用の可否に関して充分な関係を有するといえる。
そして、本件において、商標法第3条第1項第3号該当を無効理由の一として挙げているところ、商標法第3条第1項は、自他商品・役務の識別力という商標の本質的機能に関わり、商標の登録に際して商標の一般的、普遍的な適格性を問題とする条項であり、いわば公共の利益に関わるというべきものである。しかして、この条項の各号に該当し本来登録がされるべきでないものが登録商標として存在し、これをもって商標権の行使がされるときには、直接かつ具体的な不利益を受ける者が存在するといわなければならないから、このような場合、請求人を本件審判の請求をすることについて法律上の利益を有する者と認め、本件商標が前記の登録無効理由に該当するか否かの実体判断をするのが、商標法の定める商標登録の無効の審判制度の趣旨に合致するというべきである。
したがって、本件審判の請求は、違法として却下されるべきものではない。
そこで、本案に入り審理し、以下のとおり判断する。
2 商標法第3条第1項第3号該当性について
(1)請求人提出の証拠によれば、以下の事実が認められる。
ア 「東京工業大学 総務部評価・広報課」のウェブサイト(甲第2号証の1)には、「研究成果詳細」の項に、「高性能の薄膜トランジスターに関する特許のライセンス契約をサムスン電子と締結・・・」として、研究の内容等の概要の欄に、「細野教授自身がリーダーを務めたJST創造科学技術推進事業(ERATO)および戦略的創造研究推進事業 発展研究(ARATO-SORST)で、TAOSの一つであるIGZO(インジウムInーガリウムGaー亜鉛Znー酸素O)を使ったTFTを室温で作製し、2004年に英国科学雑誌『Nature』で発表しました。」との記載、「この論文が契機となって、国内外のディスプレイメーカーなどが相次いで応用研究を開始し、サムスン電子株式会社を始めとした多くの企業から、IGZO TFTを用いた高解像度・3次元・大型液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどの試作品が発表されていました。」との記載がある。
イ 2010年2月3日付けの日経産業新聞(甲第2号証の2)には、「日本発の新型酸化物半導体」の見出しの下、「1月25日と26日、東工大のすずかけ台キャンパス(横浜市)で『透明アモルファス酸化物半導体国際ワークショップ(TAOS2010)』が開かれた。」との記載、「発表内容の中心となったのが細野教授が1995年に国際会議で初めて紹介した『酸化インジウム・ガリウム・亜鉛(IGZO)』と呼ぶ新型酸化物半導体。」との記載、「太陽電池にも」の見出しの下、「サムソン電子LCD事業部の前副社長・・・は講演で『IGZOはディスプレー以外に太陽電池や電源を切っても情報が消えない不揮発性メモリー、紫外線センサーなど幅広い分野で使える』と話した。今後、実用化競争に拍車がかかるのは間違いない。」との記載がある。
ウ 本件商標の登録査定日以前の発行に係る公開特許公報及び公表特許公報(甲第3号証、甲第8号証の1ないし49)には、その記載中に、「IGZO薄膜」、「インジウムガリウム亜鉛酸化物(IGZO)」、「インジウム-ガリウム-亜鉛酸化物(IGZO)」、「IGZO(インジウム、ガリウム、Zn、酸素)」、「IGZO(In-Ga-Zn-O系複合酸化物)」、「In、Ga、及びZnの酸化物(IGZO)」、「IGZO(InGaZnO)」、「IGZO(InGa-ZnO)」、「In-Ga-Zn-O(IGZO)」、「IGZO(indium gallium zinc oxide)」、「酸化物半導体(ZuO、IGZO、IZO、ZTOなど)が挙げられる。」、「IGZOはよく知られているようにアモルファス酸化物半導体であり、In(インジウム)-Ga(ガリウム)-Zn(亜鉛)-O(酸素)の組成で構成された半導体である。」等の記載がある。
エ 各種新聞における「IGZO」の使用例
(ア)2010年5月28日付けの日本経済新聞電子版セレクション(甲第9号証)には、「日本発の最先端材料、先に韓国企業が使うジレンマ」の見出しの下、「発表内容の中心は東工大の細野秀雄教授が1995年に国際会議で紹介した世界初のTAOSである酸化インジウム・ガリウム・亜鉛(IGZO)だった。IGZOは現在の液晶用TFTに使うアモルファスシリコンに比べて電子の動きの指標である電子移動度が1ケタ大きい。液晶テレビをさらに大画面にしたり臨場感を高めたり、本格的な3Dテレビを実現できる。・・・サムスン電子は07年のSIDではIGZOーTFTを使った大型ディスプレーを紹介した。」との記載がある。
(イ)2010年3月27日付けの日本経済新聞(甲第10号証)には、「日本発、液晶パネルの新材料-富士フイルム、研究で先行(技術ウオッチ)終」の見出しの下、「薄型テレビなどに使う液晶パネルの新材料、酸化インジウム・ガリウム・亜鉛(IGZO)の研究開発が熱を帯びてきた。」との記載、「日鉱金属はIGZO薄膜の製法改善に力を入れている。・・・。大画面液晶テレビの製造に対応できる長さ2・65メートルの板状の巨大材料も作った。三井金属も同様のIGZO材料の開発を急ぐ。・・・日本、韓国、台湾の薄膜製品の製造拠点で実用化を目指している。『IGZO薄膜はシリコン薄膜より低温・低真空で作れ、製造コストも下げられる可能性がある』と日鉱金属の熊原主任技師は期待する。IGZOはもともと東工大の研究者が生み出した。家電やゲーム機のメーカーが相次ぎ3D対応の製品拡充に動くなか、日本発の技術を次世代ディスプレーの国際標準にしようと材料メーカーの挑戦が続く。」との記載がある。
(ウ)2010年11月9日の日本経済新聞電子版セクション(甲第11号証)には、「サムスンが酸化物半導体TFTの70型液晶、240Hzで4K×2K対応」の見出しの下、「酸化物半導体TFTは、超高精細の液晶パネルや大型有機ELパネルなどに向け開発が進む駆動素子の一つ。最も有望視されているアモルファス酸化物半導体材料は、IGZO(In?Ga?Zn?O)である。」との記載がある。
(エ)2011年3月1日の日本経済新聞電子版MOLニュース(甲第12号証)には、「新製品・技術◇日立、ICタグ生産コスト10分の1 携帯端末の電池不要に」の見出しの下、「日立製作所は電子荷札(ICタグ)などに使うRFID(無線自動識別)チップを安価に作製する技術を開発した。・・・。開発したチップは、東京工業大学の細野秀雄教授らが発見した透明な半導体の酸化インジウム・ガリウム・亜鉛(IGZO)を使う。・・・。IGZOは液晶テレビ向けTFTにも使え、すでに韓国のサムスン電子などが開発し製品の発売も近いとされる。」との記載がある。
(オ)2011年5月20日の日本経済新聞電子版セクション(甲第13号証)には、「ムラを抑えて高画質化、ソニーが新方式の有機ELパネル開発」の見出し下、「ソニーは輝度ムラを低減して高画質化した有機ELパネルを開発、ディスプレイ関連で世界最大の学会『49th SID International Symposium,Seminar&Exhibition(Display Week 2011)』(SID 2011)で発表した。」との記載、「ガラス基板上に酸化物半導体IGZO、ゲート絶縁膜、ゲート電極を成膜後ドライ・エッチング法でパターン加工する。」との記載がある。
(カ)2010年10月19日付けの日経産業新聞(甲第14号証)には、「半導体・液晶材料に注力」の見出しの下、「半導体製造装置大手のアルバックが電子部品や液晶パネルに使うマテリアル事業の拡大に乗り出している。・・・。超材料研究所が担うのは新材料の開発だ。取り扱うのは透明電極に使用する酸化インジウムすず(ITO)や酸化インジウム・ガリウム・亜鉛(IGZO)などの液晶パネル向けのターゲット材から、アルミやモリブデン、タンタルなどの金属材料まで幅広い。」との記載がある。
(キ)2010年12月6日付けの日経産業新聞(甲第15号証)には、「様々な基板に電源回路形成/富士通研が新技術」の見出しの下、「富士通研究所は様々な基板に電源回路に使うパワー半導体を作製できる技術を開発した。酸化インジウム・ガリウム・亜鉛(IGZO)を使い特殊な膜でコーティングすることで高電圧に耐えられるようにした。・・・IGZOで作製した回路の上にポリマーで膜を作ることで耐圧性能を向上した。」との記載がある。
(ク)2011年3月2日付けの日経産業新聞(甲第16号証)には、「日立、半導体を低温作製」の見出しの下、「日立製作所は電子荷札(ICタグ)などに使うRFID(無線自動識別)チップを安価に作製する技術を開発した。・・・。電池を使わない小型の電子ペーパーなど携帯端末に利用を見込む。」との記載及び「携帯端末、電池不要に」の見出しの下、「開発したチップは、東京工業大学の細野秀雄教授らが発見した透明な半導体の酸化インジウム・ガリウム・亜鉛(IGZO)を使う。・・・。IGZOは液晶テレビ向けTFTにも使え、すでに韓国のサムスン電子などが開発し製品の発売も近いとされる。日立はRFIDチップに利用して液晶などと組み合わせれば、無線で電力を供給する電子ペーパーなどに実現できると期待する。」との記載がある。
(ケ)2011年4月22日付けの朝日新聞(甲第17号証)には、「中小型パネルに生産移行 シャープ、スマホ需要に照準【大阪】」の見出しの下、「シャープは21日、スマートフォンなどに使う中小型液晶パネルの材料として酸化物半導体(IGZO)を世界で初めて実用化すると発表した。・・・IGZOは、一般的な材料のアモルファスシリコンに比べ、画素を細かくしたり電力消費を抑えたりすることができる。」との記載がある。
オ 2008年5月5日発行の雑誌「NIKKEI ELECTRONICS」(甲第19号証の1)には、「酸化物TFTでディスプレイ開発/有機ELテレビの有力候補に」と題するJang Yeon Kwon氏の論文が掲載され、「主成分がインジウム(In),ガリウム(Ga),亜鉛(Zn),酸素(O)から成るアモルファス酸化物半導体(IGZO)を用いて作製したTFT(IGZO TFT)をアクティブ・マトリクス型のディスプレイに適用し、各種の特性を調べた。・・・我々が開発中の,IGZO TFTを用いた有機ELパネルについても紹介する。」との記載、また、雑誌「NIKKEI MICRODEVICES」(2009年4月号:甲第19号証の2)には、「酸化物半導体TFTを見極める/基礎技術は確立,応用開拓が実用化のカギ」と題する討論に関する記事において、「『高移動度』,『高信頼度』,『透明性』,『低温成膜』-。FPDを駆動するTFTの材料として,現在のアモルファスSiにはない多くの特徴を持つ材料がInGaZnO(IGZO)など酸化物半導体だ。誰もが高い潜在能力を認める,期待の新材料である。」との記載、さらに、アモルファスIGZO(InGaZnO)を使ったTFTの構造が図にて掲載され、「アモルファスIGZOを用いたフレキシブル電子ペーパー」の写真が掲載されている。
カ JX日鉱日石金属株式会社の「サステナビリティリポート2010」(甲第21号証の1)には、「主な展示会への出展(2009年度)」として、日鉱金属グループ関係先の欄の「日鉱金属(株)」の活動内容の欄に「『FPD international 2009』に、ITOターゲット、IGZOターゲットを展示(10月)」との記載、また、「同リポート2011」(甲第21号証の2)には、用語集の「IGZO」の欄に、「インジウム・ガリウム・亜鉛・酸化物(Indeum Gallium Oxide)。FPDなどに使われる透明導電材料の一種」との記載がある。さらに、同社のウェブサイト「CSR活動」(甲第21号証の4)には、「CSR活動トピックス」として、「『FPD international 2011』に出展【JX日鉱日石金属】」(2011/10/26?28)の見出しの下、「本展示会には、次世代のスーパーハイビジョン液晶テレビやプラズマディスプレイパネル、タッチパネル、有機ELパネルなど各種パネルディスプレイをはじめとして、検査装置、部材、設計支援、応用製品などのディスプレイ関連業界の各社274社が参加しました。今回当社は、・・・酸化物半導体としての使用がパネル各社で検討されている『IGZOターゲット』・・・なども併せて紹介し、高い技術力をアピールしました。」との記載がある。
キ 「ULVAC REPORT 2012」の「技術特集1」(甲第21号証の7)には、「次世代ディスプレイに貢献するIGZO技術」の見出しの下、「IGZOはディスプレイの表示を制御する薄膜トランジスタ(TFT)の材料として注目されており、現在、世界中のディスプレイメーカーが、このIGZOによるディスプレイの開発にしのぎを削っています。」との記載、「IGZOの特長」として、「IGZOはインジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、酸素(O)を混ぜ合わせたアモルファス酸化物半導体で、2004年に東京工業大学の・・・IGZOは従来のアモルファスシリコン(a-Si)に比べ電子移動度が20倍以上と高いため、TFTの性能を向上させ、その結果TFTを小型化できます。・・・・このIGZOを液晶ディスプレイのみならず、有機ELにも応用しようと、研究開発を進めています。」との記載がある。
ク 2012年5月29日付けの被請求人のニュースリリース(甲第6号証)には、「シャープとJSTが酸化物半導体に関するライセンス契約を締結」の見出しの下、「シャープは、科学技術振興機構(・・・以下JST)」と酸化物半導体(IGZO)を用いた薄膜トランジスタに関する特許のライセンス契約を本年1月20日に締結しました・・・シャープでは、このIGZOを採用した高性能な液晶パネルを株式会社半導体エネルギー研究所(・・・)と共同開発。・・・高精細化と低消費電力化が図れるため、モバイル機器や高精細ノートPC、高精細液晶モニターなどの幅広いアプリケーション向けに供給し、新しい商品市場の創造に貢献してまいります。」との記載がある。
ケ 特許第5176003号公報(甲第22号証)には、「出願日 平成23年6月21日」、「特許権者 シャープ株式会社」、「【発明の名称】半導体装置およびその製造方法」とするものであって、「【請求項16】前記酸化物半導体層は、IGZOから形成されている請求項1から6のいずれかに記載の半導体装置」との記載がある。
コ 2012年(平成24年)12月6日付けの日本経済新聞の被請求人の新聞広告(甲第23号証)には、右下に「IGZOを用いた薄膜トランジスタを(株)半導体エネルギー研究所と共同開発。」との記載、また、同人のカタログ2013-2(甲第25号証)には、「IGZO技術搭載」と記載、さらに2枚目の左下に、「IGZOとは、酸化物半導体の技術。インジウム(In)、ガリウム(Ga)、亜鉛(Zn)、酸素(O)で構成された半導体をTFT(薄膜トランジスタ)に用いることで、高精細で明るい表示を可能にしました。」との記載がある。
(2)以上からすると、「IGZO」は、「In(インジウム)、Ga(ガリウム)、Zn(亜鉛)及びO(酸素)の複合物からなる酸化物の略語であって、1995年に東京工業大学の細野教授が国際会議において、「『酸化インジウム・ガリウム・亜鉛(IGZO)』と呼ぶ新型酸化物半導体」として紹介され、2004年に英国科学雑誌「Nature」に発表した論文が契機となって、国内ディスプレイメーカーなどが応用研究を始め、幅広い分野での開発が行われていることが認められる。
そして、本件商標の登録査定時前において、「IGZO」は、国内外の多くのディスプレイメーカーにより、例えば、高解像度・3次元・大型液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、(甲第2号証の1)、モバイル機器、高精細ノートPC、高精細液晶モニター(甲第6号証)、薄膜トランジスタ(TFT)、液晶テレビ(甲第10号証)、3Dテレビ、大型ディスプレー、(甲第9号証)、液晶パネル、大型有機ELパネル(甲第11号証)、電子荷札(ICタグ)に使用されるRFID(無線自動識別)チップ(甲第12号証及び甲第16号証)、電源回路の半導体(甲第15号証)、スマートフォン用中小型液晶パネル(甲第17号証)等の各種商品に使用し実用化するための研究開発が進められているものと認められる。
そうとすると、「IGZO」の文字は、本件商標の登録査定時前において、研究者など一部の限定された者にとどまらず、液晶ディスプレイや半導体の分野のエレクトロニクス業界において、上記酸化物を表すものとして、広く知られていたといえるものである。
(3)本件商標の指定商品において、電子応用機械器具及びその部品には、半導体素子や電源回路の半導体等が含まれ、また、電気通信機械器具には、前記液晶ディスプレイ・パネル等が含まれる。
さらに、電池や配電用又は制御用の機械器具には、蓄電池や蓄電器等が含まれるものであって、これらの関連商品として、蓄電状況を表示するモニターや停電時に視認しやすい液晶パネルを有した商品がある。
そして、上記商品は、事業者間での取引に供される機械器具の部品、或いは関連商品といえ、最終消費者ではない事業者が需要者(取引者を含む。)となる商品が多々含まれるものである。
(4)小括
以上を総合してみれば、本件商標の登録査定時において、本件商標を構成する「IGZO」は、上記商品を構成する原材料の一を示すものとして使用され、少なくとも上記(3)の商品に係る事業者(取引者・需要者)の間において認識されていたといい得るものである。
してみれば、標準文字で表された本件商標「IGZO」は、これを請求に係る指定商品に使用した場合、その商品の原材料を表したものと認識されるというのが相当であるから、自他商品の識別標識としての機能を果たし得ないものであるというのが相当である。
したがって、本件商標は、その指定商品中、請求に係る指定商品について、商標法第3条第1項第3号に該当すると判断されるものである。
3 被請求人の主張について
(1)被請求人は、元素名等の登録例(及び審査例)を挙げて、本件商標も商標法第3条第1項第3号に該当するとの理由をもって無効とされるべきものではない旨主張している。
しかし、登録要件を具備するものであるか否かは、当該商標毎に個別具体的に判断されるべきものと解されるから、本件商標とは構成を異にする商標の登録例をもって、直ちに本件商標の登録要件の具備が是認されるものとはいえない上、本件商標については、証拠に照らし、上記のとおり判断するのが相当であるから、被請求人の主張は採用できない。
(2)被請求人は、多数の明細書中の記載や論文等を引用する請求人の主張が、研究者や進歩性や発明における当業者と商標法における需要者(取引者を含む。)を混交するものであり、商標法第3条第1項第3号の適用にあたって、研究者や当業者が使用しており、将来的にも当該使用に支障が出るなどという理由で、間接のそのまた間接的な原材料を使用しているかもしれない指定商品についての登録商標まで、独占適応性がないなどという名目で安易に無効を認めることは、登録制度自体を不安定なものにし、また、同第3号の適用を独占適応性の名のもとに判断基準の恣意化を招来してしまうと主張する。
確かに、独占適応性の名目のもとに恣意的な判断がなされることは避けるべきものである。
しかしながら、被請求人を含め、現に指定商品に関わる事業者が「IGZO」を既成の酸化物名として普通に認識しているといえ、それを原材料とした場合に、当該商品の品質を表す蓋然性が高いものというべきである。また、商標法第3条第1項第3号は、指定商品の品質、用途を表すものとして取引者、需要者に認識される表示態様の商標につき、そのことゆえに商標登録を受けることができないとしたものであって、同号を適用する時点において、当該表示態様が、商品の品質、用途を表すものとして現実に使用されていることは必ずしも必要でないものと解すべきである(最高裁昭和54年4月10日・第3小法廷判決・判例時報927号233頁及び東京高裁平成13年(行ケ)第207号判決参照。)とされている。
上記のとおり、本件商標を構成する「IGZO」は、既成の酸化物の名称(略語)として普通に認識されるものであって、現在も将来的にも事業者がその自由な使用を欲する標章というべきであるから、独占に適さないとされたとしても、それをもって、名目として独占適応性がないとの恣意的な判断であるとはいえない。
したがって、登録要件の具備に係る上記2の判断は、被請求人の主張によって左右され得ないというべきである。
4 結語
以上のとおり、本件商標は、その指定商品中、結論掲記の指定商品について、商標法第3条第1項第3号に該当するものと認められるから、請求人の主張する他の無効理由について論及するまでもなく、同法第46条第1項第1号に基づき、その登録を無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2014-02-10 
結審通知日 2014-02-13 
審決日 2014-03-05 
出願番号 商願2011-44151(T2011-44151) 
審決分類 T 1 12・ 13- Z (X09)
最終処分 成立  
前審関与審査官 佐藤 松江中山 悦子 
特許庁審判長 寺光 幸子
特許庁審判官 田中 亨子
手塚 義明
登録日 2011-11-18 
登録番号 商標登録第5451821号(T5451821) 
代理人 特許業務法人樹之下知的財産事務所 
代理人 井上 周一 
代理人 三山 峻司 
代理人 松田 誠司 
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