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審決分類 審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X30
管理番号 1284224 
審判番号 無効2012-890049 
総通号数 171 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2014-03-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-06-08 
確定日 2014-01-06 
事件の表示 上記当事者間の登録第5423621号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5423621号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5423621号商標(以下「本件商標」という。)は、「かど丸」の文字を標準文字で表してなり、平成22年11月2日に登録出願、同23年5月30日に登録査定がなされ、第30類「菓子及びパン」を指定商品として、同23年7月8日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし同第49号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 無効理由
本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同第15号及び同第7号に該当するものであり、その登録は、同法第46条第1項第1号により、無効とされるべきものである。
2 商標法第4条第1項第10号に該当すること
(1)「かど丸」の標章の使用状況
ア 本店における使用状況
「かど丸」の標章は、店舗前に出している看板、店舗出入口上部の看板、店舗の出入口に掛けてあるのれん及び商品を包む包装紙にそれぞれ使用している(甲34の1ないし4)。包装紙は、もち一個ごとの個包装ではなく、もちを入れる容器を包むのに使用している。
イ アリオ店における使用状況
ファッション&グルメの専門店「アリオモール」とイトーヨーカドーからなるショッピングセンターであるArio札幌(札幌市東区北7条東9丁目2番20号)では、1階のイトーヨーカドーサービスカウンター横の銘菓コーナーにおいて販売されており、商品ケースに本店店舗の外観写真とともに「かど丸」と明記されている(甲35、ブログに掲載の当該店舗写真)。なお、Ario札幌において販売を開始した時期について、明確な日付は不明であるが、請求人の手元に2007年3月2日付け物品受領書があるため、少なくとも平成19年には開始しており、現在も継続して販売している(甲36)。
(2)商標の類似について
本件商標は、「かど丸」との標準文字で構成されてなる。かかる名称は、請求人の商号それ自体である。加えて、請求人が指摘する商品等表示「かど丸餅店」は、遅くとも本件商標の出願日の時点では、すでに多様な書体で使用されていた。本件商標と商品等表示「かど丸餅店」との表記は、「餅店」の有無で相違している。しかしながら、「餅店」は、もちを販売する店舗を指し示す一般的な日本語であって、それ単独では需要者に対して出所識別力を発揮することはなく、その前後に付された表記をもって出所を識別することが可能となることからすれば、「かど丸餅店」の表記のうち、出所識別機能を発揮するための要部は、「かど丸」であると評価すべきことになる。よって、本件商標は、商品等表示「かど丸餅店」の要部である「かど丸」を同じくし、両者は、同一若しくは類似であると評価される。このような、需要者に対し商品役務を示すのみであって出所識別機能を発揮しない部分につき、判断の対象から除却した上で類否を決する手法は、過去の裁判例においても採用されるところである(東京高等裁判所平成17年3月24日判決:平成16(行ケ)299[IE一橋学院])。
(3)商品役務の類似について
本件商標の指定商品役務は、第30類の「菓子及びパン」であり、対して先行する商品等表示「かど丸餅店」は、もちやもちを使用した菓子の販売に用いられていた。このことからすれば、商標法施行令別表に示されるように、本件商標の指定商品役務については、先行商品等表示が使用されていた商品役務と同一で類似する。
(4)本件商標に先行する商品等表示「かど丸餅店」の周知について
「かど丸餅店」は、遅くとも平成4年9月以降、請求人により使用され、本件商標の出願日の時点で需要者をして請求人を示す商品等表示として認識されており、現在においてもその状態は、継続している。
ア 「かど丸餅店」は、本件商標の出願日である平成22年11月2日以前に、北海道全域を放送地域とする民間放送局の複数の番組において、老舗の行列のできる餅店として複数回紹介されていた。また、本件商標の出願日以降においても、北海道全域を放送地域とする複数の放送局において同様に紹介されている。HBC北海道放送には「グッチーの今日ドキッ」というテレビ番組があり、その中の「スイーツの王様リレー」企画コーナーにおいて一番美味しいと思うスイーツを決めるという企画があり、請求人のいちご大福が第1回目のチャンピオンに輝いている(平成23年4月19日放送)。チャンピオンになったということは、請求人のいちご大福が北海道の消費者において店名とともに周知されていることを顕著に示す事実である。これに加え、平成24年4月28日にテレビ朝日の全国ネットの「SmaStation!!」においても、GWに並びたい行列のできる店として、請求人が紹介され、「かど丸餅店」という名称が請求人を表す標章として使用されている(甲1、甲37及び甲38)。
イ 札幌市周辺又は北海道全域で販売されている複数の雑誌においても、本件商標の出願日以前から「かど丸餅店」が老舗の行列のできる餅店として紹介され、出願日以降においても紹介が多数なされている(甲2ないし甲11)。なお、平成23年3月11日付けの本件商標にかかる拒絶理由通知書に対する応答として、被請求人が特許庁審査官へ提出した平成23年4月20日付けの意見書における「札幌市内全域にも知られていない」との記載につき、事実と異なるものである。
ウ インターネット上最大手の検索サービスである「Google」においても、検索語句を「かど丸餅店」として検索したところ、検索結果の最上位に請求人の営業にかかる「かど丸餅店」に関する紹介記事が表示されるほか、検索結果の上位50位以上が常に請求人の営業にかかる「かど丸餅店」に関するものである(甲12の1)。被請求人が出願経過において述べるような「『かど丸餅店』の標章に関するインターネットの情報は、いわゆる『口コミ』として掲載されているに過ぎず、しかもインターネットの世界では大量というには程遠い極少ない件数である」(甲13)ということはできない(甲12の2ないし4、甲39の1及び2)。なお、甲第39号証の1及び甲第39号証の2は平成24年6月6日付審判請求書と併せて提出した甲第12号証の1及び甲第12号証の4と重複するが、甲第12号証の1及び甲第12号証の4が平成24年5月22日現在のものであるのに対し、甲第39号証及び甲第39号証の2は平成25年2月21日現在ものである。たった9ヶ月の期間で検索結果が「かど丸 餅」の場合は6800件、「かど丸餅店」の場合は1万件も増えていることからも、請求人の知名度が現在も上がり続けていることを示している。
エ 現時点でも早朝からひっきりなしに餅や大福を購入するために客が来ている状況であるが、甲第31号証で示した1年間の売上状況からもわかるように請求人の売上があがるのは、4月と5月である。そのため、4月と5月の任意の日にアンケートを取る形で札幌以外からもかど丸のいちご大福を買い求めるために来ている(甲40の1、46の2)。
オ 商標法4条1項10号にいう「需要者の間に広く知られた商標」にいう当該商標の認知度の地理的な範囲について、「商標登録出願の時において、全国にわたる主要商圏の同種商品取扱業者の間に相当程度認識されているか、あるいは、狭くとも一県の単位にとどまらず、その隣接数県の相当範囲の地域にわたって、少なくともその同種商品取扱業者の半ばに達する程度の層に認識されていることを要するものと解すべき」と解釈する裁判例がある(東京高等裁判所昭和58年6月16日判決:無体集15巻2号501ページ[DCC]。以下「DCC事件」という。)。加えて、徳島県において「ももいちごの里」との名称で販売される菓子につき、徳島県内のタウン誌にくわえ、関西一円のタウン誌、ならびに全国販売される雑誌に掲載されたこと、検索サイトGoogleにおける検索結果の上位20位までが「ももいちごの里」にかかるものであったこと等を斟酌して、市場占有率や認知率について判断することなく関西一円の周知性を認め商標法4条1項10号該当性を肯定した裁判例がある(知的財産高等裁判所平成22年2月17日判決:平成21(行ケ)10318[ももいちごの里]。以下「ももいちごの里」事件という。)。
DCC事件で問題となった先行標章は、「全国的に流通する日常使用の一般的商品」であるコーヒーについて使用されたものであった。これに対して、請求人が指摘する、「かど丸餅店」は、生のもち菓子を販売するものであるうえ、放送及び書籍での取扱われ方からもわかるように、いわゆる特定の地域における名店であるため、特定の地域を訪れた観光客等に対し、特定の地域の住人や特定の地域で行われている報道及び頒布されている書籍における周知性及び著名性が極めて重要なものである。また、品質保持の観点からは特定の場所で製造せざるを得ない性質を持っており、生菓子としての性質も合わせ持つことから全国的に流通することができないものである。ゆえに、DCC事件の説示の射程は、本件に及ぶものではなく、上述したように、店舗及び製品等の性質にかんがみれば、競業者においても全国に比べれば狭い商圏において商品展開を余儀なくされている事情があることは、十分に配慮すべき事情であるうえ、本件においては、「かど丸餅店」が所在する札幌市が、北海道随一の人口を有する政令指定都市であることを合わせかんがみれば、商標法4条1項10号にいう「需要者に広く知られた」程度は、同市内の範囲をもって足りるというべきである。
もし仮に、DCC事件が説示するようにー県の単位にとどまらず、その隣接数県の相当範囲の地域にわたる認知度が求められると解するとしても、北海道は、他の都府県とは異なり、広大な面積を有するのであるから、北海道内において認知されていることをもって隣接数県の相当範囲の地域における認知度を有するというべきである(甲13)。なお、DCC事件の説示を文言どおりとった場合であっても、請求人のかど丸という名称は、全国の不特定多数の人間が閲覧するインターネットにおいて知れわたっているうえ、全国放送の番組においても取り上げられる状態になっているため、この点でも「需要者に広く知られた」ものであることは明らかである(甲12)。
したがって、いずれの理解をとるにせよ、これまで述べたことからすれば、「かど丸餅店」は、遅くとも本件商標の出願時点から現段階に至るまで商標法第4条第1項第10号にいう「需要者に広く知られた商標」といえる。
(5)小括
ゆえに、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当する。
3 商標法第4条第1項第15号について
請求人の「かど丸」又は「かど丸餅店」という名称は、請求人を指し示すものであるとして認知されたものである。
そのため、この名称を使用したもちが請求人以外から販売される場合には、札幌市及び札幌市域外より札幌市に来訪したうえで銘菓の購入を行おうとする者が、請求人の「かど丸」という名称を使用して販売するもちと誤認混同するおそれがある。
また、被請求人が、「かど丸」という名称に関与して事業を行っていたのは、上記の平成元年頃から平成4年9月頃までであって、それ以降は、一切関与していないうえ、当時と製法も変化しており、被請求人において現在、請求人が提供している質の商品を提供することは極めて困難であるといわざるを得ない。このことは、被請求人が裁判において認めるとおり、かど丸餅店は、昭和63年頃に税務署からの差押えがなされるほど経営状態が悪化しており(甲14)、その後、上述したような著名店になったのは、平成19年頃であることからも明らかである。書籍での取り上げられ方が平成17年及び平成18年頃は、地図のみであって餅の写真が付けられない小さな取扱いであるのに対し、平成19年以降は、写真付きの大きな取扱いになっていることからもこの点に関する証左にほかならない。
したがって、仮に商標法第4条第1項第10号に該当しない場合であっても、商標法第4条第1項第15号に該当する。
4 商標法第4条第1項第7号について
(1)本件商標は、被請求人が使用せず、かつ、請求人等に譲渡したものであること
被請求人は、一時、法人化する前のかど丸餅店の経営に平成元年頃から平成4年9月頃まで関与していた。この際、被請求人は、「かど丸餅店」の商号を登記していた。その後、現在の有限会社かど丸餅店の代表取締役である南和彦が同社を設立し、かど丸餅店の経営を全て行うようになった段階で、被請求人は、かかるかど丸餅店の商号を自ら廃止し、かど丸餅店に全く関与しなくなったものである。
この事実は、被請求人自身が裁判所における証人尋問において明言している(甲15、16)。
(2)被請求人が本件商標を取得したのは訴訟戦略の一環であること
被請求人は、静月庵という和菓子店を経営しているところ、これまで「かど丸」の名を利用した商品等を販売した実績はない。被請求人が、「かど丸」という名称に関与して事業を行っていたのは、平成元年頃から平成4年9月頃までであって、それ以降は一切関与していないうえ、当時と製法も変化しており、被請求人において現在、請求人が提供している質の商品を提供することは極めて困難であるといわざるを得ない(甲17)。
被請求人は、被請求人及び請求人代表者である南和彦の実母である南春子の資産の流用等を巡って兄弟間で相互に争うようになり、平成22年12月22日に実母である南春子に対し、請求人が現在事業を営んでいる建物に関する登記を変更するよう求める訴えを提起した。
被請求人の本件商標の登録出願の時期が訴え提起時とほぼ同時期であること及び被請求人が現在まで「かど丸」の名称を使用したもちその他の菓子を販売した事実がないことにかんがみれば、被請求人は、自らが自らの意思で譲渡した「かど丸餅店」の事業を請求人代表者その他の南春子の関係者に行わせないようにすることを意図して本件商標の出願を行ったことは明らかである。このことは、被請求人が、当初より自己が本件商標に関する正当な権利を保有していると認識しているのであれば、遅くとも出願時である平成22年11月2日には不正競争行為や設定の登録前の金銭的請求権等を根拠に請求人等に対し警告を行うべきものであるところ、平成23年7月8日に登録され、登録異議期間の平成23年10月9日を経過した直後の同月14日に通知書を送付するまでの間、一切、「かど丸」の名称の使用を止めるように主張したことがないことからも裏付けられるものである。
(3)小括
商標は、業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの又は業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするものであって、業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするものである。そのため、あくまで商業利用のためにあるものであって、訴訟の具となるべきものではない。したがって、被請求人が、肉親間の争いを有利に進めるために本件商標を取得したことは、明らかであって、その出願経緯が、被請求人の本件商標の登録出願経緯が著しく社会的相当性を欠くことは明らかである。
5 総括
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同第15号又は同第7号に該当する。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を以下のように答弁し、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第5号証(枝番を含む。)を提出した。
1 答弁の理由
(1)商標法第4条第1項第10号について
ア 商標法第4条第1項第10号に該当して登録は無効であると主張する請求人には、本件商標が、請求人の使用している商標(以下「使用商標」という。)と同一又は類似で、本件商標の指定商品と同一又は類似の商品に使用するものであることについて証明する責任があるが、その前提として使用商標の特定及び使用商標の具体的使用態様を明らかにする責任がある。
イ 請求人は、「本件商標は請求人の商号それ自体である」と主張するが、商号は営業主体の名称で、商標は、商品の出所標識であって両者の意義は、別異のものであるし、「請求人が指摘する商品等表示『かど丸餅店』は、遅くとも本件商標の出願日の時点ではすでに多様な書体で使用されていた。」と主張するが、この主張を裏付ける証拠は何ら提出していない。
ウ かくして、本件商標が同号に該当するとの請求人の主張は、商号と商標を混同するものであるし、使用商標の使用態様について何ら証明していない根拠を欠くものである。
(2)使用商標の周知性について
ア 請求人は、使用商標は、商標法第4条第1項第10号に規定する「需要者の間に広く認識されている商標」であると主張する。そして、周知であることの地域的範囲について、商品「もち」は、生菓子であるという性質、品質保持の点から製造場所が限定され、全国的に流通することができないものであるという特質を理由に、狭い商圏において商品展開を余儀なくされている事情を配慮すべきである。使用商標については、「かど丸餅店」が所在する札幌市内の範囲をもって足りるというべきであるが、DCC事件判決を踏まえて「北海道内において認知されていることをもって足りる」と主張し、甲第1号証ないし甲第11号証を提出する。
イ しかし、甲各号証は、使用商標が周知であることを何ら証明するものではない。
(ア)甲第1号証は、複数の放送局が請求人の「かど丸餅店」を取材して放映したテレビ番組である。各放送局が普段より「もち」を多く食する時期である年末(甲1の3ないし5)や彼岸(甲1の1)、4月?5月の連休(甲1の6)に合わせて組んだ番組で、放映本数も過去6年間で、平成18年に4本、平成23年に1本、平成24年に1本にすぎないものであるし、放映時期も断続している。しかも、放映内容は、放送局の取材に基づくもので、請求人が自ら費用を負担して自己の事業内容を積極的に紹介するものとは思われない。なお、請求人は、審判請求書第4ページで、6本のテレビ放映で請求人が取り上げられているとしているが、平成22年及び平成23年の2年間でその内容は不明である。
(イ)甲第2号証ないし甲第11号証は、食品、飲食店、衣料店等を紹介するいわゆる情報誌である。各情報誌によって相違はあるものの掲載されている情報件数は、数十ないし数百件で、食品に関する情報件数も多数あり、請求人に関する情報は、多数ある情報件数の中の1件にすぎない。以下、詳細に検討する。
乙第1号証の1(甲3)は、和菓子・洋菓子店を8店舗掲載する中の1店舗として紹介されている。乙第1号証の2(甲4)は、タイトル「なごみの和菓子」で和菓子店を12店舗掲載する中の1店舗として紹介されている。乙第1号証の3(甲5)は、タイトル「あなたの街のご近所和菓子店」で8店舗を掲載する中の1店舗として紹介されている。乙第1号証の4(甲6)は、和菓子店を12店舗掲載する中の1店舗として紹介されている。乙第1号証の5(甲7)は和菓子店を17店舗掲載する中の1店舗として紹介されている。乙第1号証の6(甲11)は、札幌市を中心部、東部及び西部に地域分けして菓子店・飲食店を20店舗掲載する中の1店舗として紹介されている。
そして、乙第1号証の1ないし6で明らかなことは、請求人の店舗は、札幌市内の多くの菓子店・飲食店と同列に紹介されているにすぎず、請求人が周知性を取得するような内容ではない。また、請求人が提出する甲第2号証ないし甲第11号証の各情報誌に関する配布地域、配布冊数は、明らかにされていないのであるから、甲第2号証ないし甲第11号証は、使用商標が周知であることを何ら立証するものではない。
(ウ)請求人は、使用商標が周知であることの証拠として、インターネットの「Google検索結果」を提出するが(甲12の1?4)、検索用語「かど丸」、「かど丸北海道」、「かど丸餅」で検索すれば、同一名称の同業者が存在しない限り検索結果の最上位に請求人に関する紹介記事が表示されることは、検索システムとして当然であり、使用商標が周知であることを何ら証明するものではない。
(エ)請求人は、DCC事件判決を踏まえて「広大な面積を有する北海道内において認知されていることをもって足りる」と主張するが、そうであれば本件商標が札幌又は北海道で周知であることの証明として、「札幌餅」、「北海道餅」、「札幌和菓子」、「北海道和菓子」の検索用語で行うのが適切な検索である。
被請求人は、上記4パターンの検索用語による「Google検索結果」を乙第2号証の1ないし4として提出する。この検索結果からは、使用商標が周知であることを裏付ける情報は、何ら見いだせない。
ウ さらに、請求人は、「店舗及び製品等の性質にかんがみれば、競業者においても全国に比べれば狭い商圏において商品展開を余儀なくされている事情があることは十分に配慮すべき事情であるうえ、本件においては『かど丸餅店』が所在する札幌市が、北海道随一の人口を有する政令指定都市であることを合わせかんがみれば、商標法第4条第1項第10号にいう『需要者に広く知られた』程度は、同市内の範囲をもって足りるというべきである。」と主張する。
しかし、以下に述べるように、使用商標が札幌市内で周知であることを証明するものは見いだせない。
(ア)i)請求人は、札幌市内で1店舗を有するのみである。ii)請求人は、自己の事業を紹介するウェブサイトを持っていない。iii)請求人の製品がその風味に他と際立った評価を得ていると主張するがその証明はない。iv)情報誌の中には「行列ができる店」をうたっているが、請求人の代表者が1人で製造していることによる物理的限界によるものにすぎない。
(イ)札幌市内には「餅店」の同業者が58社(支店を含む)存在するが、これら同業者の中で請求人が売上高や市場占有率において上位に位置していることの証明がない。
(ウ)商品「もち」は、専業の「餅店」に限らず、和菓子店、スーパーマーケット、コンビニエンスストアでも販売されていることは、公知の事実である。したがって、使用商標が札幌市内で周知であるといえるには、札幌全域の餅店と和菓子店の全体の中で上位の店として需要者に広く認識されていなければならない。
しかし、甲各号証は、使用商標が札幌全域の餅店及び和菓子店の中で上位の店であることを何ら証明するものでない。
(エ)i)請求人は、NTT東日本‘11年10職業別電話帳 札幌市北部・石狩地方版の店「餅」の欄に「かど丸本店」と掲載されているが、「かど丸餅店」とは掲載されていない(乙3の1)。ii)同号証で同業他社は、広告を掲載しているが、請求人は、広告を一切掲載していない(乙3の1ないし4)。iii)同業他社には、本店所在地の地区版以外の地区版にも店名・電話番号・住所を掲載しているが、札幌市中央・西部版、同南部・恵庭市・千歳市版、同東部・江別・北広島版のいずれにも請求人の電話番号の掲載はない(乙3の2ないし4)。iv)電話帳の和菓子店の欄に、同業の餅店の一部は掲載されているが、請求人は、一切掲載されていない(乙3の1ないし4)。
(オ)札幌市内には、菓子・パン小売業者が528社、この内菓子製造小売業者は179社ある(乙4)。請求人が札幌市内で周知であるというのであれば、同業である菓子製造小売業者179社中の上位に位置していることを明らかにしなければならないが、この証明はない。
エ 上記をまとめると以下のとおりである。
(ア)請求人は、周知商標であると主張する使用商標を特定していないし、その具体的使用態様も立証していない。
(イ)請求人は、新聞広告、ちらし、商品紹介のリーフレット、イベント、自己のウェブページ、電話帳広告、その他使用商標が需要者の間に広く知られるための積極的な広告・宣伝活動は一切行っていない。
(ウ)請求人は、情報誌に他の餅店、和菓子店と同列に掲載されているにすぎない。
(エ)請求人が提出する「Google検索結果」は、検索用語が不適切であることから使用商標が周知であることを何ら証明していない。
(オ)札幌市内における和菓子の売上高に対して請求人が占める売上についておよその売上高あるいは市場占有率を何ら明らかにしていない。
(カ)請求人が取材を受けてその店舗がテレビ放映されたのは、この6年間で、その本数も6本でしかなく、かつ、断続している。
(キ)請求人の店が掲載されている情報誌は、この2005年以降の7年間にすぎず、しかも断続している。
(ク)請求人は、札幌市内に1店舗を有するのみで、支店を設けるといった積極的な事業展開は行っていない。
オ 小括
以上のとおり、請求人が提出する甲各号証は、使用商標が需要者の間に広く認識された商標であることを何ら証明するものではないのであり、使用商標が「需要者の間に広く認識されている」ことを理由として、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当するとの請求人の主張は失当である。
2 商標法第4条第1項第15号について
(1)第15号は商品の出所の混同のおそれを防止する趣旨で、第10号ないし第14号に該当する場合以外の混同のおそれのある商標に適用される総括規定である。
最高裁判決が示す第15号の趣旨は以下のとおりである。「周知表示又は著名表示へのただ乗り(いわゆるフリーライド)及び当該表示の希釈化(いわゆるダイリュージョン)を防止し、商標の自他識別機能を保護することによって、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、需要者の利益を保護することにある。
また、『混同を生ずるおそれ』の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきである。」(最高裁判決平成10年(行ヒ)第85号)。
それ故、第15号は、商品の類似範囲を越えて出所の混同を生じるおそれのある著名商標である場合(狭義の混同)、周知・著名商標の使用者と経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る商品ではないかと誤認させる商標である場合(広義の混同)に適用される(前掲最高裁判決、特許庁商標審査基準)。
(2)第15号適用の判断基準として、イ)他人の表示(使用商標のこと)の周知度(広告、宣伝等の程度又は普及度)、ロ)使用商標が創造商標であるか、ハ)使用商標がハウスマークであるか、ニ)企業における多角経営の可能性、ホ)商品間の関連性等、を総合的に考慮するものとしている(特許庁商標審査基準)。
使用商標(他人の表示)に関し、上記ロ?ホの条件は、商標の由来や請求人の事業規模等から本審判事件を左右する重要性はないと考えるが、イ)の条件である使用商標(他人の表示)の周知度は、本件商標が第15号に該当するかを左右する極めて重要な事項である。
しかし、使用商標に関する請求人による広告、宣伝活動は皆無で、甲各号証からは他に周知又は著名であると評価できるような証明は何もない以上、使用商標が第15号により保護される周知著名性を備えるに至っていないことは明らかである。
(3)請求人は、本件商標は15号に該当すると主張してるる述べている。しかし、本件商標に第15号の適用があるかは、一つに使用商標(他人の表示)が法的保護を受けるに値する周知著名性を獲得しているかにある。この点に関して請求人は、何ら証明していない。
3 商標法第4条第1項第7号について
(1)第7号の規定について
ア 特許庁審決は、「商標自体に公序良俗違反のない商標が商標法第4条第1項第7号に該当するのは、その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限られ、当事者間における利害の調整に関わる事柄のような私的な利害の調整は、原則として、公的な秩序の維持に関わる商標法第4条第1項第7号の問題ではない。」と判断している(無効2008-890108号審決)。
イ また、知財高裁判決は、「先願主義を採用している商標法の制度趣旨や、国際調和や不正目的に基づく商標出願を排除する目的で設けられた法第4条第1項第19号の趣旨に照らすならば、それらの趣旨から離れて、商標法第4条第1項第7号の『公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ』を私的領域にまで拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは、商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになるので、特段の事情のある例外的な場合を除くほか、許されないというべきである。」と判断し、「例えば、本来商標登録を受けるべきであると主張する者が、自らすみやかに出願することが可能であったにもかかわらず、出願を怠っていたような場合は、『特段の事情のある例外的な場合』と解するのは妥当でない。」と判断している(知財高裁判決平成22年(行ケ)第10032号)。
(2)本件商標の登録について
被請求人は、現在商標「かど丸」を使用していないが、商標法は、将来使用する意思がある者が商標登録出願することを同法第3条第1項柱書で認めているのであり、被請求人が本件商標の登録を得たことに何ら非難される理由はない。
請求人は、被請求人が商標「かど丸」を請求人に譲渡したと主張する。しかし、被請求人は、請求人に建物の賃貸とかど丸餅店の名称使用を認めただけであり(甲20)、商標を譲渡した事実はないし、請求人は、譲受けたことを証明していない。
(3)請求人は、本件商標を取得したのは、訴訟戦略の一環であると主張し、るる述べているが論旨不明である。
被請求人が商標「かど丸」の商標登録を取得したのは、建物の賃貸借契約に係る交渉の過程で、商標「かど丸」が未登録であることに気付き、一時期「かど丸餅店」の名称で事業に携わった者として、商標「かど丸」が第三者に登録される事態を懸念してその保全のために商標登録したのであって、建物に関わる訴訟とは、何の関係もない。
それ故に、被請求人は、請求人が商標「かど丸餅店」を使用することについて差止請求等の権利行使を行っていないし、今後も行使する考えはない。被請求人のこの考えは、請求人宛の平成23年10月14日付け通告書において商標権に関わる法的状況は説明したが、請求人に対して商標「かど丸餅店」の使用禁止を求めていないことからも明らかである。
被請求人は、上述した理由から商標登録したのであり、商標「かど丸」及び「かど丸餅店」の帰属に関して請求人と争う考えはない。被請求人は、請求人が今後も商標「かど丸餅店」を使用することについて無償の通常使用権を許諾する用意がある。
4 結語
(1)本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当すると請求人は主張するが、請求人の使用商標が「需要者の間に広く認識されている」ことは、証拠によって何ら証明されていない。
(2)本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当すると請求人は主張するが、請求人の使用商標が同号によって保護される「周知著名商標」であることは、証拠によって何ら証明されていない。
(3)被請求人の本件商標を取得した商標出願経緯は著しく社会的妥当性を欠くから商標法第4条第1項第7号に該当すると請求人は主張するが、かかる主張は、「私的領域にまで拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは許されない。」という審決及び判決で示される同号の趣旨に反し、同号の解釈適用を誤ったものである。
(4)以上の次第であって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同第15号及び同第7号のいずれにも該当するものではない。

第4 当審の判断
1 事実認定
請求人の主張及び同人の提出に係る甲各号証によれば、以下の事実が認められる。
(1)かど丸餅店の変遷
かど丸餅店は、札幌市東区において、昭和12年に初代「櫻井勇」により創業されたもち店であって、もちのほか、豆大福、草大福、くるみ大福、串団子などのもち菓子を主たる商品とする店舗の名称である。2代目には櫻井義男(商標権者の叔父。勇の子で南春子の弟。)、3代目には商標権者(南和彦の兄で南春子の次男)と代替わりし、平成4年9月からは、南和彦(請求人代表者で南春子の三男)が4代目として実質運営し、現在に至っている。
(2)「かど丸餅店」標章の使用状況
ア かど丸餅店における使用状況
「かど丸餅店」の商号は、初代から代々受け継がれている。
請求人が営業する現在の店舗は、先代である商標権者から引き継がれたものであり、店舗の出入口上部の看板や出入口に掛けてあるのれん、店舗前に出している看板には「かど丸餅店」の標章(以下「使用標章」という場合がある。)が表示されている。また、もち菓子などを包む包装紙にも「かど丸餅店」の標章が使用されている(甲34の1から甲34の4)。
イ アリオ札幌店における使用状況
Ario札幌(札幌市東区北7条東9丁目2番20号)では、1階のイトーヨーカドーサービスカウンター横の銘菓コーナーに請求人の販売ブースがあり、その商品ケースに「かど丸餅店」と表示されている(甲35、2011年8月18日投稿のブログから。)。該ブログには、「東区にあるかど丸餅店!!」「朝6時開店、昼前には完売して閉店」「アリオ札幌にて出張販売」「今度は早起きして、本店で並んでみるか・・・」などとかど丸餅店について掲載されている。そして、請求人の提出した2007年3月2日付け物品受領書などから、請求人は、遅くとも平成19年にはアリオ札幌店で商品の販売を始めていたと推認し得るものである。(甲36)
(3)かど丸餅店の周知性
ア 本件商標の出願日である平成22年11月2日以前に、北海道全域を放送地域とする以下の民間放送局の番組において、請求人のかど丸餅店が老舗の行列のできるもち菓子店として紹介された(甲1)。
(ア)北海道テレビ放送(番組名:イチオシ 放送日:平成22年2月18日)
(イ)北海道文化放送(番組名:のりゆきの卜-クDE北海道 放送日:平成22年5月10日)
イ 札幌市周辺又は北海道全域で発売されている以下の雑誌において、請求人のかど丸餅店が老舗の行列のできるもち菓子店として紹介された。
(ア)札幌ライフマガジン「PORCO」平成17年9月号、同18年9月号及び同19年6月号(発売範囲:北海道内 発行部数7万部/月)(甲2ないし甲4)
(イ)「季刊札幌人」2006年秋号(発売範囲、発行部数は不明)(甲5)
(ウ)「札幌のおやつVol.2」2009年7月15日発行(発売範囲:全国 発行部数4万部)(甲6)
(エ)「おみや」2006年12月25日発行(発売範囲:全国 発行部数4万部)(甲7)
(オ)「おしゃべりボックス」平成22年4月号(甲8)
(カ)「HO」平成22年1月号(発売範囲:北海道内 発行部数5万部/月)(甲9)
ウ インターネットをとおして、請求人のかど丸餅店が老舗の行列のできるもち菓子店として紹介された。
(ア)2007年10月31日付け日刊スポーツ紙において、「朝6時開店10時に売り切れる大人気の餅屋」の見出しの下、かど丸餅店が朝6時に開店してから10時前に商品が完売した状況が説明されている(甲47)。
(イ)投稿日が2008年5月2日のブログにおいて、「北海道ノススメ」の見出しの下、「かど丸餅店」と題し、「早朝、登別から札幌市東区まで車を飛ばす男」、「希少価値のあるお餅の中の、更に希少ないちご大福」などとの記載が認められる(甲26)。
(ウ)口コミ一覧:かど丸餅店[食べログ]の見出しの下、「かど丸餅店」(投稿日:平成22年4月17日)、「早起きは三文の徳」(投稿日:平成22年1月3日)、「美味しいお餅屋さん」(投稿日:平成21年1月3日)及び「いちご大福byかど丸餅」(投稿日:平成21年4月19日)と題して、かど丸餅店が紹介されている(甲49の1)。
2 判断
(1)使用標章の周知性
請求人が経営するかど丸餅店は、平成19年ころから、老舗の行列のできるもち菓子店との評判がたち、札幌又は北海道を販売エリアとする雑誌や北海道全域を放送地域とする民間放送局の番組などで紹介され、また、インターネットのブログなどにもかど丸餅店の評判が掲載された。さらに、請求人は、Ario札幌にも新たに出張販売場所を設けるなど販路を拡大していったこともあって、かど丸餅店には、連日、朝早くから購買者の行列ができたことが推認できる。この行列は、評判を呼ぶおいしいもち菓子を購入したいと思っても、個人店舗による生産量の少なさから午前中には売り切れになることもあって、いつ行っても買えるものではないと並んででも確実に買いたいとする真相心理が働き、行列が行列を呼ぶ形で評判が札幌市内へと広がっていったものと推測できるものである。
そうとすると、「かど丸餅店」の標章は、遅くとも本件商標の出願時には、札幌市内は元より北海道全域まで知られ、その購買者は、かど丸餅店近くの地元の人のみならず、少なとも札幌市内、さらには、道内外から札幌を来訪、観光する者に至るまでの人気店となった状況がうかがえる。
してみれば、使用標章は、本件商標の出願時には、早朝から行列ができる請求人のもち菓子店の標章として、少なくみても札幌市民には広く知られていたと推認できるものである。
(2)本件商標
本件商標は、「かど丸」の文字を標準文字で表してなり、第30類「菓子及びパン」を指定商品として、平成22年11月2日に登録出願されたものである。
(3)使用標章
請求人は、商品「もち菓子」に「かど丸餅店」の標章を使用しているところ、該文字後半の「餅店」の文字部分は、商品「もち」の製造・販売を行う業種名として認識されるものであるとともに、もち屋さんの多くがもちを利用した菓子をも製造・販売する実情がある(例えば、餅・和菓子の林餅店(http://www.fukumochi.com/)、エンドー餅店(http://www.zundamochi.com/)、寺山餅店(http://www.terayamamochiten.com/)など)ことからすると、もち菓子を商品として取り扱う取引者又は需要者においては、該文字は、自他商品の識別標識としての機能がないか弱いというべきである。
そうとすると、使用標章の構成中、前半の「かど丸」の文字部分が強く支配的な影響を及ぼす部分であって、独立して自他商品の識別標識としての機能を果たすものであるから、後半の「餅店」の文字部分を捨象して、本件商標と該「かど丸」の文字との類否を比較することが許されるというべきである。
(4)本件商標と使用標章との類否について
本件商標と使用標章の構成中、独立して自他商品の識別標識としての機能を果たす「かど丸」の文字とは、ともに同一の文字からなるものであるから、本件商標と使用標章は、類似の商標である。そして、使用標章が使用される商品「もち菓子」は、本件商標の指定商品に含まれるものである。
(5)本件商標の商標法第4条第1項第10号該当性
もち菓子を製造し、販売する店の多くは個人店舗であって、1日あたりの生産量はある程度限定されるものである。そして、もち菓子の多くは生菓子であって、余り日持ちしない生菓子であれば品質的な問題もあり、その1日あたりの生産量もある程度限定されるものである。そうとすると、もち菓子店における商圏は、一商店街など非常に小さいとみるべきである。
これを請求人が経営するかど丸餅店についてみると、前記(1)で認定したとおり、早朝から行列ができるもち菓子店として、「かど丸餅店」の標章は、本件商標の出願時に、札幌市民において知られている。
そうとすると、使用標章は、もち菓子店としての一商圏を超える札幌市内の範囲の取引者、需要者にまで広く認識されていたとみるのが相当である。
してみれば、本件商標と類似する使用標章は、本件商標の指定商品「もち菓子」に係る一商圏以上の範囲の取引者、需要者に広く認識されていたと認めるものである。
(6)被請求人の主張
被請求人は、平成4年9月に弟の南和彦にかど丸餅店の経営を譲る際に、「かど丸餅店」の看板及びのれんまでは渡しておらず、また、本件商標の登録したことも代々続くかど丸餅店を守るためと主張するので、この点について付言する。
商標権者は、自身がかど丸餅店を経営する際に、櫻井義男から該店舗の土地及び建物を買い取り、平成元年からかど丸餅店を経営していた時期があったとしても、その後、平成4年9月にかど丸餅店の経営を弟南和彦に譲ってから本件商標の出願時までの間、商標権者がその経営にかかわった事実は一切なく、さらに、平成4年9月に譲り渡した時点のかど丸餅店と本件商標の出願時に請求人が経営するかど丸餅店とでは、その周知度が比較し得ないものになっている。かかる状況からすれば、請求人が長年にわたり使用標章を使用して得られた標章に係る信用の蓄積まで商標権者に帰するという理由はない。しかも、商標権者が本件商標を使用した場合においては、その商品の出所について、請求人と混同が生ずるおそれがあることは否めない。
また、先代から引き継がれてきた「かど丸餅店」標章を、商標権者が兄として守るべく本件商標を取得したとする心情について理解できないわけではないが、他方、上述したとおり、商標権者は、かど丸餅店の経営から外れ、その後、請求人が長年にわたり使用標章を使用し、本件商標の出願時には使用標章が周知性を獲得した状況からすれば、被請求人の上記主張は、採用することができない。
(7)以上によれば、本件商標は,請求人が商品を表示するものとして広く知られている「かど丸餅店」と類似するものであって,同一又は類似の商品である「もち菓子」について使用をするものであるから,商標法第4条第1項第10号に該当する。
3 結び
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたものであるから、その余の請求の理由について判断するまでもなく、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2013-08-21 
結審通知日 2013-08-23 
審決日 2013-11-18 
出願番号 商願2010-85483(T2010-85483) 
審決分類 T 1 11・ 25- Z (X30)
最終処分 成立  
前審関与審査官 松本 はるみ 
特許庁審判長 関根 文昭
特許庁審判官 田中 亨子
前山 るり子
登録日 2011-07-08 
登録番号 商標登録第5423621号(T5423621) 
商標の称呼 カドマル 
代理人 杉山 央 
代理人 下川原 慎吾 
代理人 中村 直樹 

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