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審決分類 審判 全部取消 商51条権利者の不正使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X43
管理番号 1284223 
審判番号 取消2012-300978 
総通号数 171 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2014-03-28 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2012-12-18 
確定日 2014-01-06 
事件の表示 上記当事者間の登録第5183865号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5183865号商標の商標登録は取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5183865号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲のとおりの構成からなり、平成19年12月25日に登録出願され、第43類「飲食物の提供」を指定役務として、同20年11月28日に設定登録されたものである。

第2 事案の概要
本件は、請求人が、本件商標の商標権者(以下「商標権者」という。)が故意に本件商標の指定役務に含まれる「串かつの提供」について、本件商標に類似する商標の使用をした結果、請求人の業務に係る役務「串かつの提供」と混同を生ずるものとしたと主張して、商標法第51条第1項に基づき、本件商標の登録の取消しを求める事案である。

第3 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由を次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第18号証(枝番を含む。なお、甲号証において、枝番を有するもので、枝番のすべてを引用する場合は、以下、枝番の記載を省略する。)を提出した。
1 当事者等
(1)請求人は、飲食店の経営等を業とする株式会社であり、現在、請求人の登録第5156663号商標である「新世界元祖串かつだるま」を屋号とする串かつ店を、大阪府下で9店舗、兵庫県下で1店舗を展開している。
なお、登録第5156663号商標(以下「引用商標」という。)は、上記のとおり、「新世界元祖串かつだるま」の文字を標準文字で表してなり、平成19年4月18日に登録出願、第29類「チーズの串揚げ,肉の串揚げ,水産物の串揚げ,野菜の串揚げ,果実の串揚げ,卵の串揚げ,調理済みのチーズの串揚げ,調理済みの肉の串揚げ,調理済みの水産物の串揚げ,調理済みの野菜の串揚げ,調理済みの果実の串揚げ,調理済みの卵の串揚げ」、第30類「もちの串揚げ,その他の穀物の加工品の串揚げ,串揚げ用のソース」及び第43類「串揚げ料理の提供」を指定商品及び指定役務として、同20年8月1日に設定登録されたものである(甲1)。
(2)商標権者(被請求人)は、請求人の代表取締役であったが、請求人の元従業員と共謀して、請求人の経営する串かつ店舗において、顧客から飲食代金として受領した金員を不当に領得するという業務上横領行為を行っていたことが判明したため、平成19年5月10日付けで取締役を解任された(甲2)。
(3)商標権者は、請求人の取締役を解任されて間もない平成19年12月25日に、当時、請求人において未だ本件商標の登録がされていないことを奇貨として、本件商標の登録出願を行い、登録を得た(甲3)。
2 商標権者による不正使用
(1)本件商標に類似する商標の使用であること
商標権者は、平成20年2月頃、東京都墨田区に、(ア)「串かつ専門店大阪新世界四代目だるま」(以下「使用商標1」という。)という店名の串かつ店を(甲4,甲12)、平成22年4月には、株式会社ムジャキフーズ(以下「ムジャキフーズ」という。)の実施する「トラストオーディション」に合格して、ムジャキフーズより設備面及び資金面の支援を受けて、東京都新宿区に、(イ)「大阪新世界串かつ四代目だるま」(以下「使用商標2」という。)という店名の串かつ店を(甲5,甲13)、相次いで出店し、現在も上記店名で営業を行っている。
使用商標1及び2(これらをまとめていうときは、以下、単に「使用商標」という。)は、本件商標に、「大阪」、「新世界」、「串かつ」及び「専門店」の文字を附記したものであり(甲4,甲5)、その要部は「四代目だるま」であって、本件商標に類似する商標である。
(2)指定役務についての使用であること
使用商標は、本件商標の指定役務である「飲食物の提供」の範疇に属する「串かつの提供」について使用されている。
(3)請求人の業務に係る役務と混同を生じていること
ア 請求人は、引用商標の他にも、「新世界だるま」(登録第5384938号)、「元祖串かつだるま」(登録第5384939号)、「新世界串かつだるま」(登録第5384940号)、「串かつだるま」(登録第5384941号)等の商標登録を行っている(甲6)。
イ 請求人は、大阪の新世界において、昭和4年に創業した老舗の元祖串かつ店であり、古くから大阪にある「新世界」という地名を「串かつだるま」の語とともに使用し、請求人の営業する「串かつだるま」の名称の店舗(以下、当事者の主張に限り、「請求人店舗『串かつだるま』」という。)が「新世界」発祥であって、「新世界」と密接なつながりがあることを顧客にアピールしてきた。
また、「新世界」は、大阪の通天閣の裾野に広がる地域を指すところ、通天閣はまさに新世界のシンボルであり、大阪名物としても著名である。請求人は、そのホームページ上にも、通天閣の写真を掲示することで、通天閣を介して、請求人店舗「串かつだるま」と通天閣が存する「新世界」との密接なつながりを積極的にアピールしてきた(甲7)。
さらに、請求人店舗「串かつだるま」は、大阪府出身の俳優で著名な赤井英和が広告塔となり、新聞、雑誌、テレビ番組などの各種メディアにおいて、大阪の新世界の有名な元祖串かつ店として、繰り返し取り上げられ、メディアを通して、関西圏にとどまらず、全国的にも周知性を獲得するに至った(甲8。ただし、甲8は、新聞、雑誌、放送会社などから取材を受けたもののほんの一部にすぎない。)。
その結果、「新世界」の文字や通天閣の表示が請求人店舗「串かつだるま」と同時に使用された場合には、「串かつだるま」の発祥地を示す単なる地名やランドマークとしての意味合いを超越し、両者が強固な繋がりをもって、請求人店舗「串かつだるま」を強く指標する識別標識としても機能するに至っている。そして、現在では、大阪の新世界の串かつ店といえば、請求人店舗「串かつだるま」が即座に顧客の脳裏に浮かぶほど、請求人店舗「串かつだるま」は「新世界」や「通天閣」と強いイメージ上の結びつきをもつに至っている。現に、引用商標は「新世界元祖串かつだるま」である。
ウ しかるに、商標権者は、請求人において未だ本件商標の登録がなされていないことを奇貨として、先取り的に、「四代目だるま」の商標登録を行い、これに「大阪」や「新世界」の語を併用したり(甲4)、また、通天閣を模した看板を店頭に設置するなどして(甲5)、商標権者の営業する「四代目だるま」の名称の店舗が、「大阪」、「新世界」及び「通天閣」との繋がりがあることを積極的にアピールし、ひいては、請求人店舗「串かつだるま」と混同するように誘引しているのである。
商標権者は、例えば、「関西名物」といった語の採用も可能であったにもかかわらず、請求人店舗「串かつだるま」を連想させる「大阪」や「新世界」の語や、「大阪」や「新世界」を連想させる通天閣の看板をあえて使用しているのであって、請求人店舗「串かつだるま」との混同を狙ったものであることは明らかである。
エ さらに、請求人は、「串かつだるま」の傍らに「元祖」の語を使用しており、他方、商標権者は「四代目」の語を使用しているところ、「四代目」は「元祖」たる創業者から四世代目を示すものであるから、かかる記載は、あたかも商標権者が請求人店舗「串かつだるま」の正当な後継者であるかの如き印象を顧客に与え、顧客は、本件商標が請求人店舗「串かつだるま」から正当にのれん分けを受けたものと誤解を生じさせやすい。
オ このように、使用商標を見た顧客は、商標権者の串かつ店舗が、請求人店舗「串かつだるま」の支店又は分家と誤認し、請求人店舗「串かつだるま」と同じ味、サービスを期待して、商標権者の串かつ店舗を訪問するおそれがあるのである。
現に、商標権者が使用商標を使用した上記串かつ店を出店したことにより、インターネット上で、商標権者が出店した上記串かつ店が請求人の系列店であるなどといった誤った書き込みがなされたり、商標権者が出店した上記串かつ店は請求人の系列店であるのかといった問い合わせが請求人に対して相次いでなされるなど、請求人の業務に係る役務との混同が生じている(甲9)。
(4)請求人店舗「串かつだるま」の名声にフリーライドすることを目的として使用商標は使用されていること(故意の要件)
商標権者は、前記1(2)のとおり、請求人の代表取締役の地位にあったものであり、大阪の新世界の串かつ店といえば、請求人店舗「串かつだるま」が即座に顧客の脳裏に浮かぶほど、請求人店舗「串かつだるま」が「新世界」や「通天閣」と強いイメージ上の結びつきをもつに至っていることを当然認識している。
しかも、商標権者は、業務上横領を理由に請求人の取締役を解任された際に、請求人と締結した示談書において、今後、請求人及び請求人店舗「串かつだるま」に一切関与しない旨誓約しているにもかかわらず(示談書第4条第3項〔関与禁止条項〕)、かかる示談書に反して、あえて請求人の業務に係る役務との混同が生じるおそれのある使用商標を使用しているのである(かかる示談書違反の事実は、本件審判の請求に先立つ請求人と商標権者との間の訴訟の確定判決において明確に認められている:甲10)。
このように、商標権者が示談書違反を犯してまで、あえて請求人の業務に係る役務との混同が生じるおそれのある使用商標を使用する理由は、請求人店舗「串かつだるま」が有する名声にフリーライドするためであるというほかなく、商標権者による使用商標の使用は意図的であり、かつ、極めて悪質であるといわざるを得ない(そのほか、商標権者のフリーライドの意図を証するものとして、甲11)。
3 その他、被請求人の主張に対する反論等
(1)請求人は、使用商標2については、商標権者である被請求人がムジャキフーズに対して業務委託を行って使用している商標であって、本件取消理由の「商標権者」による類似商標の使用に当たらず、本件取消審判請求の要件を欠く旨主張する。
しかしながら、ムジャキフーズは、被請求人が開業するにあたって資金等を援助したにすぎず、使用商標2を使用して串かつ店を運営しているのはあくまでも被請求人自身であって、被請求人の上記主張はあたらない。
(2)請求人は、商標法第51条の「故意」とは、商標権者が指定商品について本件商標に類似する商標を使用するにあたり、これを使用した結果、他人の業務に係る商品と混同を生じさせることを認識していることに限られ、商標使用以外の事由により混同を生じさせることを認識していたとしても、同条項の「故意」にはあたらない旨の主張をする。
しかしながら、現在生じている請求人の役務との混同は、正に被請求人が使用商標1及び2を使用した結果発生したものであって、使用商標1及び2の使用以外の事由による混同ではない。被請求人の主張を前提にすれば、使用商標1及び2を使用したとしても、請求人の役務との誤認混同、出所混同は全く生じないということになるが、仮にそうであれば、被請求人が主張するところの「当店は大阪のだるまの支店ではございません。元社長が完全に独立した店です。」などといった表示を行う必要は全くないのであって、かかる表示をなすこと自体、被請求人が、使用商標1及び2を使用することによって、請求人の役務との誤認混同、出所混同が生じる可能性があることを十分に認識していたことの証左である。
4 むすび
以上のとおり、商標権者による使用商標の使用が、商標法第51条第1項が定める取消要件を全て満たすものであることは明らかである。
よって、本件商標の登録は、商標法第51条第1項の規定により取り消されるべきものである。

第4 被請求人の主張
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると主張し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第9号証を提出した。
1 本件商標の商標権の類似範囲内の商標使用であることについて
(1)使用商標1について
ア 甲第4号証の1頁には、通天閣を模した電飾看板の一面に、「四代目だるま」(その上の文字は光が飛んでおり不明である。)、他面に「大阪新世界串かつ」の文字が書かれ、両文字は、分離されて表示されているから、簡易・迅速を旨とする取引においては、本件商標と同一の「四代目だるま」のみが認識されることは明らかである。
イ 甲第4号証の2頁には、「串かつ専門店」と「大阪新世界」の語がやや小さい文字で二段併記され、より大きな文字で本件商標が毛筆体で表示されているから、「串かつ専門店」、「大阪新世界」の語と、本件商標とは、その文字の大きさが異なることから、分離して表示されていることは明らかである。また、「串かつ専門店」の語は、本件商標の指定役務「飲食物の提供」に鑑みると、単に、当該店舗で串カツを提供していることを表しているにすぎず、また、「大阪新世界」の語は、大阪市の大阪府大阪市浪速区恵美須東に位置する繁華街を指し、当該役務が提供されているであろうと一般に認識される場所を表しているにすぎず、いずれも識別力を有していないことは明らかである(商標審査基準第3条第1項第3号3.(3)参照)。
したがって、商標として機能している部分は、「四代目だるま」と書かれた部分であり、当該部分は、それぞれの文字がほぼ同じ大きさで、かつ、同じ書体で書かれていることから、標準文字からなる本件商標とは、単なる書体の相違にすぎない。
ウ 甲第4号証の3頁には、「串かつ」、「専門店」、「大阪新世界」が併記された看板と、「四代目だるま」の看板とが物理的に分離して表示されている。「串かつ」、「専門店」の並列書き及び「大阪新世界」の語は、甲第4号証の2頁と同様に、識別力を有しないものであり、さらに、物理的に看板として分離している以上、「串かつ」、「専門店」、「大阪新世界」と、「四代目だるま」の語を、一連一体に認識することはできず、下側の看板に記載された「四代目だるま」が商標として認識されることは明らかある。
エ 甲第4号証の4頁には、「串かつ専門店」と「大阪新世界」なる語がやや小さく二段併記され、より大きな文字で「四代目だるま」の文字が毛筆書体で書かれている。このような使用態様は、「串かつ専門店」、「大阪新世界」の語と、本件商標とは分離して表示されており、かつ、「串かつ専門店」及び「大阪新世界」の語は、上記イで述べたとおり、識別力を有しないものである。
したがって、商標として機能する部分は「四代目だるま」からなる、各文字がほぼ同じ大きさで、かつ、毛筆書体で書かれた部分である。そして、この毛筆書体で書かれた「四代目だるま」と本件商標とは、単なる書体の相違にすぎない。
オ 甲第4号証の5頁には、ビルの表札として、「串かつ専門店」と「大阪新世界」の語がやや小さく二段併記され、より大きな文字で「四代目だるま」の文字が毛筆書体で書かれている。このような使用態様は、甲第4号証の1頁、2頁、4頁と同様に、「串かつ専門店」、「大阪新世界」の語と、本件商標とは、文字の大きさからしても分離して表示されており、「串かつ専門店」及び「大阪新世界」の語は、上記イで述べたとおり、識別力を有しないものである。
したがって、商標として機能する部分は、大きく表示された「四代目だるま」からなり、各文字もほぼ同じ大きさで、かつ、毛筆書体で書かれた部分である。そして、この毛筆書体で書かれた「四代目だるま」と、本件商標とは、単なる書体の相違にすぎない。
カ 以上のとおり、使用商標1は、社会通念上、本件商標と同一の商標である。
(2)使用商標2について
甲第5号証の1頁ないし3頁には、店舗の入口上の看板に「四代目だるま」と大きく書かれており、また入り口のドアのところには大きく「四代目だるま」と書かれており、その上に小さく「大阪新世界」と「串かつ」が二段書きに表示されている。このような商標の使用は、簡易・迅速を旨とする取引においては、大きく表示されている「四代目だるま」のみを認識することは明らかであって、本件商標と社会通念上同一の商標が使用されている事実を表すにすぎないことは明らかである。
また、甲第5号証には、大阪の通天閣を模した電飾看板に、本件商標が表示されているだけであり、これは本件商標と同一の商標が使用されている事実を表すにすぎない。
さらに、使用商標2は、本件商標権者が株式会社ムジャキフーズに対して業務委託を行い使用している商標であって、本件取消理由の「商標権者」による類似商標の使用には該当しないので、そもそも本取消審判請求の要件を欠くものである。
(3)以上のように、甲第4号証及び甲第5号証を参照しても、商標権者が本件商標と社会通念上同一の商標を使用している事実が証明されているにすぎず、本件商標に類似する商標を使用している事実は何ら証明されていない。
2 役務の質の誤認又は他人の業務に係る役務と混同を生ずる使用をしたことについて
(1)甲第7号証及び甲第8号証によれば、請求人の店舗の看板には「串かつ味だるま」と書かれ、その上に小さく「元祖」の文字が書かれたもの(甲7)、「だるま本店」(甲8の1)、「元祖串カツ・だるま」(甲8の2?4・6)、「串カツ屋の『だるま』」(甲8の5・8)、「だるま」(甲8の7)、「串かつの『だるま』」、「串カツ店『だるま』」(甲8の10)、「串カツ店『だるま』」(甲8の11?13)、とあることから、請求人の使用する商標は、「串かつだるま」として認識されている事実が認められる。
なお、請求人は、引用商標などの登録商標を所有している旨主張するが、実際には、上述のように「串かつだるま」として認識されているにすぎない。
(2)「串かつだるま」の商標と使用商標の要部である「四代目だるま」ないし請求人が主張する商標権者の商標「新世界元祖串かつだるま」とにおいて誤認混同を生じるかについて検討する。
ア 「串かつだるま」と「四代目だるま」の商標(甲4)とを比較すると、前者は「クシカツダルマ」のよどみなく一連一体に認識できる商標であるのに対して、後者は「ヨンダイメダルマ」とよどみなく一連一体に認識できる商標であり、その称呼は全体に全く異なる印象を与えることは明らかである。
また、その外観も「串かつ」の文字と「四代目」とは全く異なっており、さらに、その観念も「串かつ」は、一般的に「肉や野菜などを串に刺して、衣を付けて油で揚げた日本のカツ料理」を意味するのに対して、「四代目」は初代から数えて四人目を意味しており、全く異なっているから、これら商標は、非類似であって、需要者が誤認混同を生じるとする根拠は全くない。
イ 請求人は、請求人店舗「串かつだるま」が昭和4年に「新世界」で創業した老舗であるから、「新世界」の語又は通天閣の表示が「串かつだるま」と同時に使用された場合には、両者が強く結び付いて認識されると主張する。
仮に、請求人が主張するように、「串かつだるま」、「新世界」、「通天閣」が同時に使用された場合に、これらが強固に結びついているとしても、そもそも、甲第4号証、甲第5号証には、「串かつ専門店」、「大阪新世界」、通天閣の模型などはあっても、「串かつだるま」の商標ないしこれに類似する商標を使用している事実は何ら証明されていない。
さらに、「串かつ」は、一般的に、上記アの「肉や野菜などを串に刺して、衣を付けて油で揚げた日本のカツ料理」の意味を有するものとして認識され、全国に多くの店舗があり、一般的な料理として普及している事実が認められるだけで、必ずしも一義的に「大阪」や「新世界」という地域ないし単語と結びついているものではないことは明らかである。したがって、甲第4号証、甲第5号証のように、「串かつ専門店」、「大阪新世界」の語と、「四代目だるま」の本件商標が同時に表示されていたとしても、請求人が主張するように、直ちに、請求人店舗「串かつだるま」を想起させ、誤認混同を生じさせるとの請求人の主張は、全く根拠を欠くものであって失当である。
ウ 請求人は、「商標権者は、請求人において未だ本件商標の登録がされていないことを奇貨として、先取り的に、『四代目だるま』の商標登録を行い、これに『大阪』や『新世界』の語を併用したり(甲4)、また、通天閣を模した看板を店頭に設置するなどして(甲5)、商標権者の営業する『四代目だるま』が、『大阪』、『新世界』及び『通天閣』との繋がりがあることを積極的にアピールし、ひいては、請求人店舗『串かつだるま』を連想させる『大阪』や『新世界』の語や、『大阪』や『新世界』を連想させる通天閣の看板をあえて使用しているのであって、請求人店舗『串かつだるま』との混同を狙ったものであることは明らかである。」と主張する。
しかし、そもそも、請求人は、「串かつだるま」ないし「新世界元祖串かつだるま」なる商標を使用しているだけであり、本件商標を使用していた事実はなく、また、本件商標が請求人の商標として周知・著名であったという事実もないから、請求人が主張する「請求人において未だ本件商標の登録がされていないことを奇貨として、」登録を受けたとする主張は、全く根拠のないものである。ましてや、商標権者が「元祖串カツだるま」の店を引き継いで営業をしていたことも事実であり(甲8の3・4・9・10)、この点からも請求人の主張は合理性を欠いたものであり、失当である。
3 故意について
請求人は、商標権者が請求人との示談書の内容に反したことなどを主張して、商標権者の故意を証明しようとしている。
しかし、かかる判決(甲10)は、請求人と商標権者の間で取り交わされた示談書に違反したか否かが問われているだけであって、本件商標の不正使用の事実の証明とは全く異なる主張であり、失当である。つまり、判決(甲10)の示している事項は、商標権者が「串かつ」店を行ったこと自体が、示談書の内容に違反しているかどうかについて判示したものであって、本件商標が商標法第51条の要件に該当するか否かとは、全く異なる点に関する判断にすぎない。
してみれば、これら判決の内容をもってしても、商標権者が、本件商標が請求人の商標「串かつだるま」と混同を生じることを認識していたことは全く異なるものである。
以上のことから、商標権者が、本件商標を使用する結果、誤認混同を生ずるおそれがあるとの認識の証明としては失当である。
4 その他
(1)「誤認混同」及び「故意」について
「元祖串かつだるま」自体をインターネットの検索エンジン(Google)で検索すると、「新世界元祖串かつだるま」なる語が必ずしも表示されるだけでなく(乙2)、「元祖串かつだるま」ないしは「だるま」だけで広く認識されており、この「元祖串かつだるま」なる語が「大阪新世界」と強固に不可分的に結合して認識されているという事実は見いだせない。
したがって、被請求人の使用商標に「大阪新世界」なる語が表示されているからといって、これにより直ちに誤認混同が生じるものではない。
また、被請求人(商標権者)の陳述書(乙1)にもあるように、商標権者自身は、「だるま」の四代目として、既に2002年(平成14年)ごろには各マスコミなどに取り上げられ、被請求人が「だるま」の四代目として周知になっていたこと(乙4?乙8)、商標権者自身が2003年(平成15年)に「有限会社一門会」の代表取締役として(乙3)、「元祖串かつだるま」の四代目として経営をしていた事実に基づいて、東京にある両店舗を誤認することはあっても、商標権者の使用商標から直ちに誤認混同が生じているものではない。
さらに、上述のように商標権者自身が「元祖串かつだるま」の四代目として経営をしていた事実に基づいて誤認混同が生じたとしても、商標以外の事実により誤認混同が生じていたにすぎないことは明らかである。
そのため、商標権者としても店内に「当店は大阪のだるまの支店ではございません。元社長が完全に独立した店です。」という旨を掲示していたのであって、かかる事実から、商標法第51条の「故意」には該当しないことも明らかである。
(2)株式会社ムジャキフーズとの関係について
「株式会社ムジャキフーズ」(この項において、以下「甲」という。)と「株式会社四代目だるま(代表取締役 田中 享)」(この項において、以下「乙」という。)との業務委託契約書(乙9)の第1条2項に「甲及び乙は、本契約が業務委託を目的するものであり、本件店舗の転貸を規定したものではないことをここに確認する。」とあり、また第3条1項に「本件店舗にかかる売上は甲の売り上げとする。」、第4条3項に「本件店舗の備品、店舗内装等の所有権は甲に帰属するものとし、・・・」、第11条1項「甲はいつでも、本件店舗に立ち入って、帳簿類の点検はもとより営業全般に亘って、乙の経営状況について査察し、必要と認められる時は指示を与える事ができるものとする。」などとある。
これらのことから、店舗自体は、株式会社ムジャキフーズが直接経営を行っていることは明らかであり、被請求人は受託者として株式会社ムジャキフーズの指揮監督の下、委託された業務を遂行していたにすぎない。
つまり、本件商標権者は、株式会社ムジャキフーズに本件商標の使用を黙示的に許諾し、店舗を経営しているのは明らかである。
したがって、この点でも商標法第51条の商標権者による使用の要件を欠いていることは明らかである。
5 むすび
以上のとおり、請求人のいずれの理由も商標法第51条第1項に規定する要件を満たすものではないことは明らかである。

第5 当審の判断
1 商標法第51条第1項の審判について
商標法第51条第1項は、「商標権者が故意に指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用であって商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたときは、何人も、その商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。」と規定している。すなわち、商標法51条の立法趣旨は、商標権者は、指定商品等について登録商標を使用する専用権を有するが、その専用権の範囲を超えて、当該商標権者が、登録商標と類似の商標を使用し、これにより故意に商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるおそれがあるものをするのは、商標権者としての商標の正当使用義務に違反するばかりでなく、他人の権利利益を侵害し、一般公衆の利益を害するものであるから、何人も審判によりその登録商標の取消しを求めることができるものとし、商標権の行使を逸脱した商標の不正使用をする者に対して制裁を加えるとともに、第三者の権利利益及び一般公衆の利益を保護しようとするものと解される(東京高等裁判所平成15年(行ケ)第76号、平成15年8月27日判決参照)。
以上の観点から、商標権者による使用商標の使用が商標法第51条第1項の規定に該当するか否かについて、以下検討する。
2 本件商標について
本件商標は、「四代目だるま」の文字を横書きしてなるところ、構成各文字は、いずれも同一の書体をもって、同一の大きさで外観上まとまりよく一体的に表されているばかりでなく、これより生ずると認められる「ヨンダイメダルマ」の称呼もよどみなく称呼し得るものであり、また、これよりは「(初代から数えて4番目の代にあたる)四代目のだるま」なる観念が生ずるものである。
してみると、本件商標は、構成全体をもって、一体不可分の商標を表したと認識されるとみるのが相当であるから、その構成文字に相応して、「ヨンダイメダルマ」の称呼を生ずるものであって、構成全体として、「四代目のだるま」の観念を生ずるものといえる。
3 使用商標について
(1)使用商標1
使用商標1は、「串かつ専門店大阪新世界四代目だるま」の文字からなるものであり、その使用態様は、それが表示されていると請求人が主張する甲第4号証及び甲第12号証によれば、以下のとおりであり、使用商標1が、商標権者により、平成20年2月頃から現在に至るまで、東京都墨田区において「串かつの提供」に使用されている。
ア 通天閣を模した電飾看板の側面の一つには、いずれも毛筆体で表した「串かつ専門店」の文字と「大阪新世界」の文字が、上段部に二行に縦書きに表示され、これらの文字の下に、毛筆体で表した「四代目だるま」の文字が、上記「串かつ専門店」及び「大阪新世界」の各文字よりかなり大きく縦書きに表示されているところ、そのうちの「だるま」の文字部分は、「四代目」の文字部分に比べ、やや大きく表されている(甲4の1枚目,甲12の1・2)。
イ 店舗の外部上段(2階部分)に掲げられた横長の看板には、左より、毛筆体で表した「串かつ専門店」の文字が横書きに表示され、その下に、毛筆体で表した「大阪新世界」の文字が、その語頭を右に1文字程度ずらして横書きに表示され、これらの文字の右に、毛筆体で表した「四代目だるま」の文字が、上記「串かつ専門店」及び「大阪新世界」の各文字よりかなり大きく横書きに表示されているところ、そのうちの「だるま」の文字部分は、「四代目」の文字部分に比べ、やや大きく表されている(甲4の2枚目,甲12の3)。
ウ 店舗の外部側面の上段(2階部分)に掲げられた正方形の看板には、いずれも毛筆体で表した「串かつ」の文字と「専門店」の文字と「大阪新世界」の文字が三行に縦書きに表示され、該看板の下の縦長長方形の看板には、いずれも毛筆体で表した「四代目」の文字が縦書きに表示され、その左に、「だるま」の文字が、その語頭を下に1文字程度ずらして縦書きに表示されている。また、店舗の外部側面の下段(1階部分)に掲げられた縦長長方形の看板には、毛筆体で表した「四代目だるま」の文字が縦書きに表示されている。そして、これらの看板に表示された「だるま」の文字部分は、「四代目」の文字部分に比べ、やや大きく表されている(甲4の3枚目)。
エ 店舗の入口に配された料金表には、左より、毛筆体で表した「串かつ専門店」の文字が横書きに表示され、その下に、毛筆体で表した「大阪新世界」の文字が、その語頭を右に1文字程度ずらして横書きに表示され、これらの文字の右に、毛筆体で表した「四代目だるま」の文字が、上記「串かつ専門店」及び「大阪新世界」の各文字よりかなり大きく横書きに表示されているところ、そのうちの「だるま」の文字部分は、「四代目」の文字部分に比べ、やや大きく表されている(甲4の4枚目)。
オ ビルの表札には、入居している店舗が示されているものと推認されるところ、上から3番目の表札には、毛筆体で表した「串かつ専門店」の文字が横書きに表示され、その下に、毛筆体で表した「大阪新世界」の文字が、その語頭を右に3文字程度ずらして横書きに表示され、さらに、その下に、毛筆体で表した「四代目だるま」の文字が、上記「串かつ専門店」及び「大阪新世界」の各文字よりかなり大きく横書きに表示されているところ、そのうちの「だるま」の文字部分は、「四代目」の文字部分に比べ、やや大きく表されている(甲4の5枚目)。
カ 以上のアないしオによれば、使用商標1は、いずれも毛筆体で表した「串かつ専門店」、「大阪新世界」の各文字と、これらの文字よりかなり大きく毛筆体で表した「四代目だるま」の文字を横書き又は縦書きにした構成よりなるものと認められ、これらの文字を視覚的にひとまとまりのものとして看取、把握できる状態にあるといえる。
そして、使用商標1の構成中の「串かつ専門店」の文字部分は、「串かつを専門に提供する店」の意味をもって提供に係る役務である「串かつの提供」の業態を表すものであり、また、「大阪新世界」の文字部分は、天王寺公園の西に接し、通天閣が建ち、映画館、飲食店などが多く存在する繁華な地域をさすものであるところから、使用商標1を東京都墨田区において使用するときは、該「串かつ専門店」が大阪の新世界に由来するなどの意味合いを表したと理解されるものといえる。
そうすると、使用商標1において、その構成中の「串かつ専門店」及び「大阪新世界」の各文字部分は、串かつの提供との関係からみると、自他役務の識別標識としての機能を有しないか、有するとしても極めて弱いものというべきであり、使用商標1に接する需要者は、その構成中、顕著に表された「四代目だるま」の文字部分に強く印象付けられ、該文字部分に着目する場合があるとみるのが相当である。
一方、使用商標1を構成する「串かつ専門店」、「大阪新世界」及び「四代目だるま」の各文字は、「大阪新世界」の文字が、上記のとおり、単に役務の提供の場所を表すものではなく、常に省略して取引に資されるものであるとはいえないものであるから、これらの文字が密接に関連しあって一体的な意味合いを理解、認識させるに十分な構成要素であるといえるものであり、これらが一つの商標を構成しているといい得るものである。
そうとすれば、使用商標1は、構成文字全体を称呼した場合の「クシカツセンモンテンオオサカシンセカイヨンダイメダルマ」の称呼を生ずるほか、その構成中の「四代目だるま」の文字部分より「ヨンダイメダルマ」の称呼をも生ずるものである。また、観念については、使用商標1が東京都墨田区に所在の串かつ専門店において使用されていることを考慮すると、構成全体として、「大阪の新世界に由来し、初代から四代まで続いている『だるま』なる名称の串かつ専門店」なる観念を生ずるほか、「四代目だるま」の文字部分からは、単に文字面のみを捉えた「四代目のだるま」の観念を生ずるほか、「初代から四代まで続いている『だるま』なる名称の串かつ専門店」の観念をも生ずるものである。
(2)使用商標2
使用商標2は、「大阪新世界串かつ四代目だるま」の文字からなるものであり、その使用態様は、それが表示されていると請求人が主張する甲第5号証によれば、以下のとおりであり、使用商標2が、商標権者により、平成22年4月頃から現在に至るまで、東京都新宿区において、「串かつの提供」に使用されている。
ア 店舗の入口の上段に掲げられた横長の看板には、「四代目だるま」の文字が同一の書体及び大きさで横書きに表示されているとうかがうことができるが、写真が不鮮明であるため、それ以外の文字は判読することができない。また、店舗の入口の脇に掲げられた縦長の看板には、「四代目だるま」の文字が同一の書体及び大きさをもって、同一の間隔で縦書きに表示され、その上部に、「大阪新世界」の文字と「串かつ」の文字が二段に小さく横書きに表示されている。(甲5の1?3枚目,甲13)
イ 通天閣を模した電飾看板には、「四代目だるま」の文字が同一の書体及び大きさをもって、同一の間隔で縦書きに表示され、その上部に、「大阪新世界」の文字と「串かつ」の文字が二段に小さく横書きに表示されている(甲5の4枚目)。
ウ 以上ア及びイによれば、使用商標2は、「四代目だるま」の文字が同一の書体及び大きさをもって、同一の間隔で縦書きにされたものの上部に、「大阪新世界」の文字と「串かつ」の文字が二段に小さく横書きにされた構成よりなるものと認められ、これらの文字を視覚的にひとまとまりのものとして看取、把握できる状態にあるといえる。
そして、使用商標2の構成中の「大阪新世界」の文字部分は、前記(1)の使用商標1と同様に、天王寺公園の西に接し、通天閣が建ち、映画館、飲食店などが多く存在する繁華な地域をさすものであるところから、使用商標2を東京都新宿区において使用するときは、当該「串かつ店」ないし当該店で提供される「串かつ」が大阪の新世界に由来するなどの意味合いを表したと理解されるものといえる。
そうすると、使用商標2において、その構成中の「大阪新世界」及び「串かつ」の各文字部分は、串かつの提供との関係からみると、自他役務の識別標識としての機能を有しないか、有するとしても極めて弱いものというべきであり、使用商標2に接する需要者は、その構成中、顕著に表された「四代目だるま」の文字部分に強く印象付けられ、該文字部分に着目する場合があるとみるのが相当である。
一方、使用商標2を構成する「大阪新世界」、「串かつ」及び「四代目だるま」の各文字は、「大阪新世界」の文字が、上記のとおり、単に役務の提供の場所を表すものではなく、常に省略して取引に資されるものであるとはいえないものであるから、これらの文字が密接に関連しあって一体的な意味合いを理解、認識させるに十分な構成要素であるといえるものであり、これらが一つの商標を構成しているといい得るものである。
そうとすれば、使用商標2は、構成文字全体を称呼した場合の「オオサカシンセカイクシカツヨンダイメダルマ」の称呼を生ずるほか、その構成中の「四代目だるま」の文字部分より「ヨンダイメダルマ」の称呼をも生ずるものである。また、観念については、使用商標2が東京都新宿区に所在の串かつ専門店において使用されていることを考慮すると、構成全体として、「大阪の新世界に由来し、初代から四代まで続いている『だるま』なる名称の串かつ店」なる観念を生ずるほか、「四代目だるま」の文字部分からは、単に文字面のみを捉えた「四代目のだるま」の観念を生ずるほか、「初代から四代まで続いている『だるま』なる名称の串かつ店」の観念をも生ずるものである。
4 使用商標が本件商標に類似する商標の使用であるか否かについて
使用商標1は、上記3(1)のとおり、「串かつ専門店」、「大阪新世界」及び「四代目だるま」の文字からなるところ、これらの文字を視覚的にひとまとまりのものとして看取、把握できる状態にあり、これらの文字が密接に関連しあって一体的な意味合いを理解、認識させるに十分な構成要素であるといえるものであって、これらが一つの商標を構成しているといい得るものである。そして、使用商標1は、その構成文字全体から「クシカツセンモンテンオオサカシンセカイヨンダイメダルマ」の称呼及び「大阪の新世界に由来し、初代から四代まで続いている『だるま』なる名称の串かつ専門店」なる観念を生ずるものであり、また、顕著に表された「四代目だるま」の文字部分に相応して、「ヨンダイメダルマ」の称呼並びに「四代目のだるま」及び「初代から四代まで続いている『だるま』なる名称の串かつ専門店」の観念をも生じるものである。
また、使用商標2は、上記3(2)のとおり、「大阪新世界」、「串かつ」及び「四代目だるま」の文字からなるところ、これらの文字を視覚的にひとまとまりのものとして看取、把握できる状態にあり、これらの文字が密接に関連しあって一体的な意味合いを理解、認識させるに十分な構成要素であるといえるものであって、これらが一つの商標を構成しているといい得るものである。そして、使用商標2は、その構成文字全体から「オオサカシンセカイクシカツヨンダイメダルマ」の称呼及び「大阪の新世界に由来し、初代から四代まで続いている『だるま』なる名称の串かつ店」なる観念を生ずるものであり、また、顕著に表された「四代目だるま」の文字部分に相応して、「ヨンダイメダルマ」の称呼並びに「四代目のだるま」及び「初代から四代まで続いている『だるま』なる名称の串かつ店」の観念をも生じるものである。
一方、本件商標は、上記1のとおり、「四代目だるま」の文字を横書きしてなるところ、その構成全体をもって、一体不可分の商標を表したと認識され、その構成文字に相応して、「ヨンダイメダルマ」の称呼及び「四代目のだるま」の観念を生ずるものである。
してみれば、使用商標1及び2は、本件商標と同一の構成文字である「四代目だるま」を有するとしても、本件商標と同一の商標の使用であるとはいえないものである。
また、使用商標1及び2は、本件商標と「四代目だるま」の文字において共通していることから、外観上、近似しているものであり、「ヨンダイメダルマ」の称呼及び「四代目のだるま」の観念においても共通していることから、使用商標1及び2と本件商標とは、類似の商標であるといえる。
以上によれば、使用商標は、いずれも商標法第51条第1項にいう「登録商標に類似する商標の使用」に当たるといえる。
5 使用に係る役務について
使用商標は、いずれも「串かつの提供」について使用されているものであり、該「串かつの提供」は、本件商標の指定役務である「飲食物の提供」の範ちゅうに属する役務である。
6 使用商標の使用による役務の出所の混同について
(1)請求人の業務に係る「串かつの提供」に使用される営業表示及びその周知性
ア 請求人の提出した証拠(甲7?甲9)によれば、以下のことがいえる。
請求人は、天王寺公園の西に接し、通天閣をはじめ、映画館や飲食店などが多く建ち並ぶ繁華な地域としてよく知られている大阪の新世界において、その業務に係る「串かつの提供」について、「だるま」の文字よりなる店舗名称を、昭和4年の創業以来継続して使用していた。請求人の営業する串かつ店は、独自に開発したソースと衣が秘伝の味として、地元の客に人気があったが、三代目店主が病に冒され、閉店を余儀なくされていた2001年(平成13年)10月頃、常連客であった元プロボクサーで俳優の赤井英和が、請求人の店舗の立て直しを図り、四代目店主として、赤井英和の後輩に当たる商標権者(田中享)が引き継ぐことに決まった。このことが話題となり、請求人の営業する串かつ店は、新聞や雑誌、テレビ等で取り上げられ、独自に開発したソースと衣が秘伝の味であること、あるいは、「ソースの二度付け(漬け)禁止」なる独特のルールがあることも相まって、一躍有名になった。その後、請求人の営業努力により、大阪の新世界にある串かつ店として知れわたるに従い、大阪の新世界には、串かつ店舗が多数軒を並べるようになり、2005年(平成17年)頃には、大阪の新世界といえば、串かつの街として、観光客に知られるようになった。しかし、そのような状況においても、請求人は、大阪の新世界における串かつを提供する老舗の店舗として、「元祖串かつだるま」などと、一目置かれる存在であって、その人気は、商標権者が東京において、使用商標を使用した串かつ店を開店した際に、大阪の新世界の請求人の串かつ店「だるま」が引き合いに出されるほど高いものであった。また、請求人は、平成23年2月の時点において、大阪府に7店舗、兵庫県に1店舗を有し、「串かつの提供」の事業展開をしていた。
イ してみると、請求人の営業に係る串かつ店「だるま」は、大阪の新世界において古くから営業する店舗として(現在においては、本店が大阪の新世界に所在する。)、「元祖串かつだるま」と表示され、又は称されて、商標権者が使用商標1の使用を開始した平成20年2月には既に関西地方を中心とした需要者の間に広く認識されていたというべきであって、「元祖串かつだるま」の周知性は、商標権者が使用商標2の使用を開始した平成22年4月においても継続していたということができる。そして、請求人の営業に係る串かつ店を表示する「元祖串かつだるま」は、その営業の起点となった「大阪新世界」の語と極めて強固に結びついて需要者に記憶され、「元祖串かつだるま」といえば、「大阪新世界」の語が直ちに需要者において連想されるという程度に、「大阪新世界」と「元祖串かつだるま」は、不可分的に結合して認識されているということができる。
したがって、「大阪新世界」にある「元祖串かつだるま」を意味する「大阪新世界元祖串かつだるま」の表示も、請求人の営業する串かつ店を表示するものとして、商標権者が使用商標の使用を開始した平成20年2月及び平成22年4月の時点において、関西地方を中心とした需要者の間に広く認識されていたというべきである。
(2)請求人の営業に係る串かつ店を表示する「大阪新世界元祖串かつだるま」(以下「請求人営業表示」という場合もある。)と使用商標との類似性
ア 上記(1)イ認定のとおり、請求人の営業に係る串かつ店は、その営業の起点となった「大阪新世界」の語と「元祖串かつだるま」の語が不可分的に結合した「大阪新世界元祖串かつだるま」の表示としても、その需要者の間に広く認識されているものである。
一方、使用商標1は、前記3(1)認定のとおり、いずれも毛筆体で表した「串かつ専門店」、「大阪新世界」の各文字と、これらの文字よりかなり大きく表した「四代目だるま」の文字を横書き又は縦書きにした構成よりなるものであって、これらの文字において、「だるま」の文字部分が最も大きく表された構成よりなるものである。
また、使用商標2は、前記3(2)認定のとおり、行書風に表した「四代目だるま」の文字が同一の大きさで縦書きにされたものの上部に、「大阪新世界」の文字と「串かつ」の文字が二段に小さく横書きにされた構成よりなるものである。
イ 上記アによれば、使用商標は、請求人の営業表示として、需要者の間に広く認識されている「元祖串かつだるま」と極めて強固に結びついている「大阪新世界」の文字をその構成中に含むばかりか、「串かつ」の文字及び「だるま」の文字をも含む点において請求人営業表示と共通するものである。そして、使用商標と請求人営業表示との差異点は、使用商標1が「専門店」の文字を有するのに対し、請求人営業表示には当該文字がない点、及び使用商標が「四代目」の文字を有するのに対して、請求人営業表示は「元祖」の文字を有する点であるところ、「専門店」の文字は、串かつの提供における業態を表示するにすぎず、また、「四代目」の文字と「元祖」の文字にしても、「創始者とこれに続く二代目、三代目、四代目」というように、観念上密接な関連を有するものである。
したがって、使用商標と請求人営業表示とは、いずれも大阪の新世界に端を発し、当該地に深く関連し、長きにわたり営業を続けている串かつ店の「だるま」なる意味合いを連想させるものであって、両者を全体的に観察し対比すれば、少なくとも外観及び観念上相紛らわしく、全体の印象においても近似するというべきである。
(3)小括
以上によると、請求人営業表示と類似する使用商標を商標権者が「串かつの提供」に使用することにより、その需要者に対して、請求人の営業する大阪新世界の「元祖串かつだるま」の支店ないしのれん分け等をした店舗であるかのように、商標権者の営業する串かつ店が請求人の営業する串かつ店と何らかの関係を有する店舗であるとの印象を直ちに与え、その結果、商標権者の提供に係る役務と請求人の提供に係る役務との間に、出所の混同を生じさせるものであったというべきである。
7 故意について
請求人の提出した証拠(甲2,甲4,甲5,甲8の4・9,甲9の3,甲11?甲13等)によれば、商標権者は、かつて従事していた大阪の新世界に所在の請求人の営業する串かつ店が需要者の間に広く認識されていたことを十分知っていたこと、その上で、平成20年2月頃に、使用商標1を表示した「串かつの提供」の店舗を東京墨田区に開業し、その看板等に、「本物の串かつを食べて頂きたいので、通天閣のふもと大阪新世界より完全に独立し上京いたしました。」などと表示し、さらに、平成22年4月頃に、使用商標2を表示した「串かつの提供」の店舗を東京新宿区に開業し、その看板等に、「当店は大阪のだるまの支店ではございません。元社長が完全に独立した店です。」などと表示したものであって、このことは、需要者が使用商標に接した場合は、大阪の新世界にある請求人の営業する串かつ店と混同を生ずることを十分に認識していたことをうかがわせるものといえる。
したがって、商標権者は、その業務に係る「串かつの提供」について、本件商標と類似する使用商標を使用するにあたり、その使用の結果、請求人の業務に係る「串かつの提供」と混同を生じさせること等を認識していたと優に推認することができるものであり、上記商標権者の行為には商標法第51条第1項にいう「故意」があったというべきである。
8 被請求人の主張について
(1)被請求人は、使用商標は、本件商標と社会通念上同一と認められる商標である旨主張する。
しかし、前記4認定のとおり、使用商標1中の「串かつ専門店」及び「大阪新世界」の各文字部分並びに使用商標2中の「大阪新世界」及び「串かつ」の各文字部分は、串かつの提供との関係からみると、自他役務の識別標識としての機能を有しないか、有するとしても極めて弱いものであるといえるが、使用商標は、構成全体文字から生ずる称呼のほか、「四代目だるま」の文字部分より、「ヨンダイメダルマ」の称呼を生ずるから、本件商標とは、該称呼を同じくする場合がある称呼上類似する商標というべきである。加えて、使用商標2は、本件商標と外観上も類似するものである。したがって、使用商標は、商標法第51条第1項にいう「登録商標に類似する商標の使用」に当たると認められるから、被請求人の上記主張は理由がない。
(2)被請求人は、請求人が使用する商標は、「串かつだるま」であり、「四代目だるま」の文字部分を要部とする使用商標1とは、外観、称呼及び観念において異なる非類似の商標であるから、需要者が誤認混同を生ずるとする根拠にはならない旨主張する。
しかし、前記6(2)で認定したとおり、使用商標1には、請求人の営業表示として需要者の間に広く認識されている「大阪新世界元祖串かつだるま」における「大阪新世界」と同一の文字、「串かつの提供」と業態を同じくする「串かつ専門店」の文字及び「だるま」と同一の称呼・観念を生ずる大きく表された「だるま」の文字を有するものであり、また、使用商標2も、上記「大阪新世界元祖串かつだるま」における「大阪新世界」及び「串かつ」と同一の文字を有するのみならず、「だるま」の文字をも有するものであるから、使用商標は、請求人営業表示に外観及び観念上近似する商標というべきであって、使用商標に接する需要者は、直ちに請求人営業表示を想起又は連想し、使用商標を「串かつの提供」について使用するときは、該役務が請求人又は請求人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかのように、役務の出所について誤認、混同を生ずるおそれがあるというべきである。したがって、被請求人の上記主張は理由がない。
(3)被請求人は、「串かつだるま」、「新世界」、「通天閣」が同時に使用された場合に、これらが強固に結びついているとしても、そもそも、甲第4号証、甲第5号証には、「串かつ専門店」、「大阪新世界」、通天閣の模型などはあっても、「串かつだるま」の商標ないしこれに類似する商標を使用している事実は何ら証明されていない旨主張する。
しかし、使用商標には、前記認定のとおり、請求人の営業表示として需要者の間に広く認識されている「大阪新世界元祖串かつだるま」における「大阪新世界」の文字、「串かつの提供」と業態を同じくする「串かつ専門店」ないし「串かつ」の文字及び「だるま」の文字を有するものである。したがって、被請求人の上記主張は理由がない。
(4)被請求人は、串かつを提供する店舗は、全国的に多数あり、一般的な料理として普及している事実が認められるだけで、必ずしも一義的に「大阪」や「新世界」という地域ないし単語と結びついているものではないから、甲第4号証、甲第5号証のように、「串かつ専門店」、「大阪新世界」の語と、「四代目だるま」が同時に表示されていたとしても、直ちに請求人営業表示を想起させ、誤認混同を生じさせるとの請求人の主張は根拠を欠くものであって失当である旨主張する。
しかし、前記6(1)イ認定のとおり、請求人は、大阪の新世界において、その業務に係る「串かつの提供」について、「だるま」の文字よりなる店舗名称を、昭和4年の創業以来継続して使用しており、請求人営業表示は、「大阪新世界」と「元祖串かつだるま」が強固に結合されて、需要者の間に広く認識されているということができる。したがって、商標権者が、請求人営業表示と類似する使用商標を「串かつの提供」について使用するときは、その需要者をして、直ちに請求人営業表示を想起させ、誤認混同を生じさせるというべきである。したがって、被請求人の上記主張は理由がない。
(5)被請求人は、請求人が「串かつだるま」ないし「新世界元祖串かつだるま」なる商標を使用しているだけであり、本件商標を使用していた事実はなく、また、本件商標が請求人の商標として周知・著名であったという事実もないから、請求人が主張する「請求人において未だ本件商標の登録がされていないことを奇貨として、」登録を受けたとする主張は、全く根拠のないものであり、商標権者が「元祖串カツだるま」の店を引き継いで営業をしていたことも事実であり、この点からも請求人の主張は合理性を欠いたものであり、失当であることは明らかである。
しかし、本件審判において問題とすべき点は、商標権者が故意により、本件商標と類似する使用商標を「串かつの提供」について使用することにより、その需要者をして、該役務が請求人又はこれと何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかのように、役務の出所について誤認、混同を生じさせるおそれがあるか否かである。
そして、証拠(甲8の9、甲9の3、甲11,甲18,乙3等)によれば、請求人の営業する串かつ店「だるま」における四代目店主は、一時期、商標権者であったことが認められるとしても、そもそも請求人の営業する「『新世界元祖串かつだるま』とは、昭和4年に初代女大将が開業され、二代目、三代目、四代目と続く歴史ある名店」(甲11)であることから、本件商標を構成する「四代目だるま」の主体は、必ずしも商標権者自身であるとはいえず、請求人の営業する串かつ店「だるま」そのものともみることもできるものである。したがって、請求人が本件商標を明示的に使用していた事実はうかがうことができないとしても、請求人の営業する串かつ店「だるま」の実態は、まさに「四代目だるま」であるといえるのであって、このことは、新聞報道でも取り上げられ、需要者の間に知られていたものと推認することができる。そうすると、請求人(株式会社一門会)の前身といえる有限会社一門会の代表取締役であった商標権者が、請求人の営業する串かつ店「だるま」の実態として、その需要者の間に知られている「四代目だるま」を、商標として登録出願し、登録を得た後に、これに「大阪新世界」などの文字を付加した使用商標を「串かつの提供」について使用すれば、請求人の業務に係る「串かつの提供」との間に、役務の出所について混同を生ずることは明らかというべきである。したがって、請求人の上記主張は理由がない。
(6)請求人は、使用商標2について、その使用に係る店舗(東京都新宿区)自体は、ムジャキフーズが直接経営を行っていることは明らかであり、被請求人は受託者としてムジャキフーズの指揮監督の下、委託された業務を遂行していたにすぎないから、本件商標権者は、ムジャキフーズに本件商標の使用を黙示的に許諾し、店舗を経営しているのは明らかであり、商標法第51条の商標権者による使用の要件を欠いている旨主張する。
しかしながら、甲第11号証において、「まず、1店目を墨田区に開業し、2店目をトラスト契約でこの新宿歌舞伎町に出店しました。」、甲第14号証において「トラストオーディションとは-オーディション概要 合格者は自分の企画した店が持てるオーディション! ・・・オーディション合格者は都内を中心とした一等立地物件にて開業することができます。また、合格者が企画した内容にそって当社が内外装・設備・備品をご用意しますので初期費用をおさえて開業・出店することができます。・・・当社が不動産と開業資金面を全面バックアップ。」との記載があり、また、乙第9号証(業務委託契約書(トラストベーシックB))において、第1条3項に「甲及び乙は、本件店舗の店舗名を両者協議に基づく合意により定めるものとする。」の規定があるほか、本件商標についての具体的な規定が記載されていないことなどからすれば、ムジャキフーズは、商標権者が開業するにあたって資金等を援助したにすぎないとみることも可能であり、使用商標2を使用して串かつ店を運営しているのは商標権者自身であるとみるのが自然であって、被請求人の上記主張は理由がない。
8 むすび
以上のとおり、商標権者が故意にした、本件商標の指定役務について、本件商標に類似する使用商標についての使用は、請求人の業務に係る役務と混同を生じさせるものである。
したがって、本件商標の登録は、商標法第51条第1項の規定により、取り消すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
本件商標


審理終結日 2013-09-26 
結審通知日 2013-09-30 
審決日 2013-11-20 
出願番号 商願2007-127064(T2007-127064) 
審決分類 T 1 31・ 3- Z (X43)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田中 幸一 
特許庁審判長 関根 文昭
特許庁審判官 酒井 福造
手塚 義明
登録日 2008-11-28 
登録番号 商標登録第5183865号(T5183865) 
商標の称呼 ヨンダイメダルマ、ダルマ 
代理人 秋山 洋 
代理人 福岡 宏海 
代理人 武井 祐生 
代理人 向口 浩二 
代理人 粕川 敏夫 
代理人 大野 義也 
代理人 清水 喜幹 

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