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審決分類 審判 一部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない 125
審判 一部無効 商3条1項6号 1号から5号以外のもの 無効としない 125
審判 一部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない 125
審判 一部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない 125
管理番号 1216386 
審判番号 無効2009-890013 
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-01-23 
確定日 2010-04-15 
事件の表示 上記当事者間の登録第2353908号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第2353908号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)のとおり、顔の輪郭を表す円の中に一対の目と円弧状の口を配した構成よりなり、第17類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、平成元年1月24日に登録出願、同3年3月8日に登録査定、同年11月29日に設定登録され、その後、平成13年7月3日商標権の存続期間の更新登録がなされ、さらに、同16年1月21日に第5類、第9類、第10類、第16類、第17類、第20類、第21類、第22類、第24類及び第25類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品とする書換登録がなされているものである。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の商品及び役務の区分中「第25類」の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第52号証(枝番を含む。)を提出した。

1 請求人は、「ハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団」(以下「ハーベイ・ボール財団」という。)の国内代理人で、商品化事業を委託されている(甲第2号証の1ないし2)。下記著作権と商標権を管理するために設立されたのが「有限会社ハーベイ・ボールスマイル・リミテッド」である。
ハーベイ・ボール財団は、日本国内で「スマイル」に関する登録著作権66件(甲第3号証の1)と登録商標権364件(甲第3号証の3)を所有しており、その基本的マーク(以下「引用図形」という。)は甲第3号証の2(別掲(2))に示すとおりのものである。

2 本件商標の図形の創作・著作者
(1)本件商標と同一の図形は、本件商標の出願時に遥か先立つ1963年12月に、アメリカ合衆国マサチューセッツ州ウスター市在住のグラフィックデザイナー、ハーベイ・ボール(Harvey Ball 以下「ハーベイ・ボール」という。)によって創作・著作され、公表されていた。
なお、同氏の描くスマイリーフェイスには、引用図形以外にもそれにほぼ類似した様々な形状の図形がある。
請求人関連の「ハーベイ・ボール・スマイル・リミテッド」(ハーベイ・ボール財団の商標権・著作権を管理するための別法人)が米国特許庁に登録申請した商標が多数登録又は公告になっており、スマイリーフェイスについてはハーベイ・ボールが創作・著作したことは米国の公的機関(特許庁)で認められている。そのことは自動的にハーベイ・ボールに「著作権」があると言える。
(2)引用図形が創作された経緯
1962年に、アメリカ合衆国マサチューセッツ州ウスター市に基盤をおくステート生命保険相互会社が、買収したギャランティ保険相互会社を子会社のウスター火災保険相互会社と合併させたが、合併後の両社の従業員のモラルが思わしくなかったため、ステート生命保険の副社長は「フレンドシップ・キャンペーン」なるプログラムを考案・提案し、翌1963年12月、合併会社の営業マーケティング担当が、地元のフリーのグラフィックデザイナーであったハーベイ・ボールに、バッジやカード、ポスター等に使える小さなシンボルマークの制作を依頼したところ、ハーベイ・ボールが書き上げたのが引用図形であった(甲第4号証)。
(3)スマイリーフェイスがハーベイ・ボールによる創作・著作に係るものであることの周知性
(ア)ハーベイ・ボールは2001年4月12日に79才で死去した。この事実は、スマイリーフェイス(日本では、「スマイルマーク」と呼ばれることも多い。)の著作者であることともに全米、ヨーロッパ及び我が国の主要な新聞で広く報じられた(甲第5号証、甲第6号証)。
このように、2001年(平成13年)当時においても、1971年頃に大流行したスマイリーフェイス(スマイルマーク)の創作・著作者がハーベイ・ボールであると考えられ、大流行の発端は、同氏が保険会社の依頼で創作したことにあったと考えられていたことが明瞭に窺える。
(イ)その他、米国において広く一般に、スマイリーフェイスの創作・著作者がハーベイ・ボールであると認識されていたことが窺える事実がある(甲第7号証ないし甲第10号証)。
(ウ)我が国においても、スマイリーフェイスの商標権が問題とされた大阪地裁の判決において、ハーベイ・ボールがスマイルマークの創作者として知られているなどの認定がされている(甲第11号証)。
(エ)スマイリーフェイスは本件商標の出願前に世界的に著名なマークとして知られ、かつ、広範囲に使用されていた。

3 スマイリーフェイスの周知性
(1)前記のとおり、スマイリーフェイスは、ハーベイ・ボールにより合併会社の従業員の勤労意欲向上の目的で、あるいは宥和のシンボルとして、従業員向けに制作されたものであったが、その後、スマイリーフェイスは同社のキャンペーンを超えて、同社の顧客にも好評を博するところとなり、やがて1960年代末には全米の車のバンパーのステッカーやTシャツなどにも登場するようになり、70年代にはアメリカ全土に広がって行き、全米の人気キャラクターとして広まった。殊に1960年代後半から70年代に、ベトナム反戦運動のシンボルとして全米で大流行し、多くの商品に使用された。
このことは、前記の事実のほか、次の事実からも窺える。
(ア)1994年7月公開のトム・ハンクス主演の映画「フォレスト・ガンプ」でスマイリーフェイスが70年代のアメリカを代表するイメージとして紹介されている(甲第13号証)。
(イ)米国郵便公社が発行する郵便切手に取り上げられた(甲第14号証)。
(ウ)我が国における「ラブ・ピース」第1次ブーム
日本でも1970年代(昭和40年代)の後半に、「スマイル・マーク」、「ラブ・ピース」あるいは「ニコニコ・マーク」などと呼ばれ、スマイリーフェイスが爆発的に流行し、多数の業者がハーベイ・ボールとライセンス契約等を締結することなく、それぞれ微妙にデザインの異なるスマイルマークを使用していた実状があった。このスマイルマーク・ブームは昭和46年、47年をピークに収束して行った(第1次ブーム)。
もっとも、この時期、我が国では、創作・著作者のハーベイ・ボールの存在が知られていなかったことから、特許庁に数社により、スマイルマークの商標登録が行われたことがあった(昭和46年、指定商品を商品区分旧第25類として、被請求人以外の者により、5件の商標登録出願がなされた。)(甲第16号証)。
しかし、多くの登録商標はブームの終焉とともに、更新されることもなかった。このように、1970年代(昭和40年代)の後半の第1次ブームの時期において、我が国においてもスマイリーフェイスは既に極めて著名な標章として知られていた。

4 商標法第4条第1項第7号の該当性について
(1)本件において、商標法第4条第1項第7号の該当性判断に当たって、次の諸点を勘案する必要がある。
(a)被請求人が引用図形の創作・著作者とは何らの関係もない業者であること
被請求人が引用図形の創作・著作者であるハーベイ・ボールとは何らの関係もなく、同氏にその許諾を求めて接触しようとした事実もない。
(b)他人の創作物・著作物であること
(c)1971年(昭和46年)頃の大流行により広く知られたスマイリーフェイスの著名性からすれば、経験則からしても、被請求人が、ハーベイ・ボールにより創作・著作され既に広く知られていたスマイリーフェイスのデザインに依拠し、これを模倣又は剽窃して、それを平成3年頃になって、商標登録出願に及んだものと考えるのが自然であり、そのように推認し得る。
(d)創作・著作者に無断で出願登録していること
被請求人は、引用図形が、ハーベイ・ボールにより創作・著作された事実が広く知られており、同人もそれを熟知していたにも拘わらず、同氏又はその正当な承継人に、一切、同意を求めることもなく、我が国において無断で商標登録出願に及んでいる。

(2)公正な商取引秩序を乱し国際商道徳に反すること
このような被請求人による本件商標の出願は、本件商標の出願・登録の過程において、ハーベイ・ボールの創作・著作に係る著名な引用図形の存在を知っており、当該図形が広く使用されていることを知り得て、かつ、創作・著作者と何らの関係もない立場で、登録出願したものと優に推認することができるものである。加えて、自らが創作者・著作者であるとの虚言を弄してまで行っているものであり、この点をも考慮すれば、本件商標の出願・登録は社会的妥当性を著しく欠くものといわざるを得ない。いわゆる「悪意の出願」であるというべきである。
もし本件商標を維持することになると、スマイリーフェイスについて商標権者以外の者の使用が禁止される結果、特定の者がこれを独占することになり、これが相当でないことは明らかである。
本件商標は、国際的に著名な図形・著作物がたまたま我が国で登録されていないことを奇貨として、当該図形の創作者・著作者と無関係な第三者である被請求人が、その図形を模倣又は剽窃し、出願し登録したものであり、しかも、引用図形が有する社会的な貢献を果たしてきたイメージや強い顧客吸引力に便乗しようとする意図をもって出願が行われたことは明らかである。
このような、国際的に著名な図形が創作者・著作者と無関係な第三者により、その創作者・著作者の承諾もなく、出願し登録されることは、公正な商取引秩序を乱し、国際商道徳にも反することになることは明らかである。

(3)本件商標登録は国際信義に反すること
ア ハーベイ・ボールの創作・著作に係る引用図形の著作物は、米国の1970年代を代表する歴史的意義を有し、米国全土において広く平和のシンボルとして知られ、広く使用されているマークであり、殊にマサチューセッツ州ウスター市にとっては、それを創作・著作したハーベイ・ボールを讃えるとともに、平和の記念碑として、そのシンボル的存在として誇りとされているものである(ウスター市は、同市を「スマイルの街」として、スマイリーフェイスを同市のシンボルとして全米に宣言し、全世界にアピールをしてきた。)。いわば、それは米国、マサチューセッツ州及びウスター市にとって、歴史的文化的意義を有する遺産であると言える。
また、我が国においても、ハーベイ・ボールの創作・著作に係るスマイリーフェイスは、「スマイルマーク」又は「ラブ・ピース」などとして世代を超えて広く親しまれ、引用図形は、我が国においても平和のシンボルとして認知されているとともに、我が国と米国、マサチューセッツ州及びウスター市との友好関係にも一定の影響を与えるものといえる。
スマイリーフェイスは、世界的にも、それを創作し著作した故ハーベイ・ボールが遺した「平和のシンボル」として、貴重な世界の遺産であるともいえる。
後述するように、スマイリーフェイスによる慈善活動のための「スマイル大使」には、例えば、モナコ公国アルベール2世大公を初めとして、世界的な著名人が多数参加し、また、多数の企業がそれら慈善活動に資金提供をしているのであり、それが一個人により独占的な権利が保有されることになることは、平和を象徴するスマイリーフェイスの有するイメージやその国際性にも反し、世界的にも国際信義に反する結果になるものと考えられる。
こうしてみると、特許庁が、このような著名な存在である引用図形に類似した商標登録を著作者と何らの関係もない一個人に認めることは、当該一個人に独占的な権利を付与することとなり、極めて穏当でないばかりか、引用図形の名声や評判を損なうおそれがあるとともに、米国政府、米国マサチューセッツ州政府、マサチューセッツ州ウスター市に対する関係で友好関係にも悪影響を及ぼしかねず、その公益を損なうおそれがあり、米国政府、マサチューセッツ州政府及びウスター市に対する関係、その他世界的な著名人各位に対する関係でも、国際信義に反する結果になるものというべきである。
したがって、本件商標の登録出願についても、同様に、国際信義に反し、公の秩序又は善良の風俗を害するものとして、商標法第4条第1項第7号に該当するものというべきである。

イ スマイリーフェイスによる慈善活動の実情
引用図形は、ハーベイ・ボール自身が、これを慈善活動等に提供してきた経緯があり、また、その正当な承継人もスマイリーフェイスを慈善活動・ボランティア活動に当ててきた経緯がある。
ハーベイ・ボールは、79才で死去するまで、スマイリーフェイスからの報酬等を取ることなく、同人がスマイリーフェイスから受取った報酬は、保険会社の依頼で1963年12月に作成したときに同人が受け取った報酬である僅か45ドル(約5,000円)だけであったと言われている。
ハーベイ・ボールは、スマイリーフェイスを何がしかの世界平和の役に立てることを希望し、それを金銭に換えることをしなかった。
今日、ハーベイ・ボールへの賛辞が惜しまれないのは、そのような同氏の無欲さや偉業がたたえられていることにもよる。ハーベイ・ボール自身も、スマイリーフェイスが全米のみならず全世界に流行した理由を、「スマイリーは年令,肌の色,政治,宗教を乗り越える。これほど単純な形で、肯定的なメッセージを運ぶ芸術作品がかつてあっただろうか。」と、創作の意図と心境を述べている。
ハーベイ・ボールの死去後は、同人の息子のチャールズ・ボール(Charle Ball)がスマイリーフェイスに係る権利をすべて相続し、同氏の関連した団体によりそれらの権利の管理を行うとともに、2001年4月、同氏が代表者をつとめる「ハーベイ・ボール財団」が設立され、同財団などを通じ、スマイリーフェイスは慈善活動・ボランティア活動に活用され、それらが現在に至るまで継続して行われている。この慈善活動・ボランティア活動は全世界への拡大が計画されている。
このように、スマイリーフェイスの商品化事業は、慈善活動・ボランティア活動を目的としたものであり、その収入の大部分はそれらの活動に支出されている。
アメリカ国内では、ハーベイ・ボールにより、1999年から、スマイルを世界平和のシンボルにするとの目標で「ワールド・スマイル・デイ」のイベントがスマイリーフェイス発祥の地であるマサチューセッツ州ウスター市で、毎年10月の第一金曜日を開催日として開催されており、今年で10回目(10年目)となる。
このイベントについては、全米で大きく報じられてその存在を認められている(甲第17号証)。
これら団体では、スマイリーフェイスを全米、日本、全世界に普及させるために、「スマイル名誉大使」制度を発足させており、会長にハーベイ・ボールの息子であり現在のハーベイ・ボール財団の会長であるチャールズ・ボール(マサチューセッツ州弁護士)が就任し、米国担当としてゴルフ界のジャック・ニクラウス、アジア担当として俳優のジャッキー・チェン、ヨーロッパ担当としてモナコ公国アルベール2世大公が就任している。
その他にも、全世界で1,000名の「スマイル名誉大使」が就任し、それぞれの国でボランティア活動を展開している状況にある(甲第18号証)。
例えば、フランスでは、ブリジット・バルドー、シャルル・アズナブール、フランシス・レイなどが「スマイル名誉大使」に就任し、それらの活動資金は全て様々な企業から提供されている(甲第19号証)。
我が国での活動に対しても、日本国内で政財界人、文化人、ジャーナリスト、芸能人、スポーツ選手など様々な分野の人々が賛同して協力している。
すなわち、舛添要一参議院議員が名誉会長に就任し、名誉副会長に愛川欽也、朝丘雪路、篠沢秀夫、児玉清らが就任している。
その他、500人の名誉スマイル大使が、身近にスマイルを広める目的で活動している。(甲第20号証)。
「スマイル名誉大使」によるテレビ出演が何回にも及び、テレビを通しての日本国民に対しても、スマイリーフェイスのアピールがなされている(甲第21号証)。
このようなスマイリーフェイスによる慈善活動・ボランティア活動の中には、ユニセフとの共同事業が多く含まれており、ユニセフに対して多額の寄付を行っている。その貢献により、ハーベイ・ボール財団はユニセフから感謝状を受けている(甲第22号証)。
その他、日本国内におけるボランティア活動には枚挙に暇がないが、最近では、次のようなイベントを通じた活動が行われた。
(ア)2004年7月、原宿・竹下通り商店街共同で、夏休みの青少年の健全育成を目的に、「スマイル・タウン」イベントが行われ、原宿警察署、地元小中学校PTAから協力を得て大きな成果を上げた。そのイベントには多数の著名人が参加し、「スマイル・パレード」はマスコミにも大きく取り上げられた(甲第23号証)。
(イ)2004年7月23日、財団法人エイズ予防財団と共催で「エイズ・キャンペーン」を渋谷駅で行った(甲第24号証)。
(ウ)平成15年、若者に人気がある歌手グループ「V6」のメンバーが出演したテレビドラマで、その登場人物にスマイリーフェイスの商品を着用させて、テレビを通じて、スマイリーフェイスをアピールする啓蒙活動を行った(甲第25号証)。
(エ)その他、雑誌での商品プレゼント等を通じて、スマイリーフェイスを広めることと、慈善活動・ボランティア活動への参加をPRしている(甲第26号証)。
(オ)最近では、2008年の夏休みの8月15日から9月15日までの間、200万円の費用をかけて、原宿・竹下通りにてキャンペーンを行っており(甲第27号証)、また、70名近い著名人が名誉スマイル大使に新規に就任している(甲第28号証)。
このような活動については、(a)スマイリーフェイスに関するホームページ(日本版)(甲第29号証)、(b)スマイリーフェイスに関するホームページ(米国版)(甲第30号証)、(c)ハーベイ・ボール・ワールド・スマイル財団の機関誌(甲第31号証)等によって10年間に亘り継続して行われており、日本国民に対してもボランティア活動の呼びかけが行われている。
ウ 以上のとおり、本件商標は、商標を通じて達成されるべき公正な商取引秩序を乱し、国際商取引道徳及び国際信義に反し、ひいては商品・サービスについての取引秩序の維持を目的とする商標法の目的に反することは明らかである。
以上を総合すれば、本件商標は商標法第4条第1項第7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当し、商標登録を受けることができないものというべきである

5 商標法第4条第1項第15号該当性について
本件商標は、引用図形と著しく類似するものであることは明白である。
他方、スマイリーフェイスの創作・著作者であるハーベイ・ボール及び同人の正当な承継人、殊にハーベイ・ボール財団及びその関係団体は、引用図形(スマイリーフェイス)を使用した商品を、慈善活動・ボランティア活動を含め、これまでも多数、製造販売して取り扱ってきたとともに、現在もそれが継続されている。
そうすると、本件商標は、ハーベイ・ボールの正当な承継人、殊にハーベイ・ボール財団及びその関係団体の業務又はそれらの者から許諾を得て業務を行っている者の業務(「他人の業務」)に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標であることが明らかである。
したがって、本件商標は、本号の「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」であるから、商標法第4条第1項第15号に該当する商標であるというべきである。

6 商標法第4条第1項第19号該当性について
本件商標の場合、前述のとおり、引用図形(スマイリーフェイス)は、引用図形の創作・著作者であるハーベイ・ボール及び同人の正当な承継人、殊にハーベイ・ボール財団及びその関係団体の業務又はそれらの者から許諾を得て業務を行っている者の業務(「他人の業務」)に係る商品にこれまで使用され、また現在に至るも継続して使用されているものであり、引用図形が同商品を表示するものとして、日本国内又は外国におけるキャラクター・マーチャンダイジング業界に関係する業者(一次需要者)や商品の購入者(二次需要者)の間に広く認識されている。
それにも拘わらず、被請求人は自ら登録商標を直接は使用せず、これと同一又は類似の商標を使用することが見込まれる者に対し、前記の経緯により出願した本件商標に基づいて法的措置を取る旨を申し向け、使用料を支払わせて利益を得る目的や、本来、日本の事業者としては、1970年代から創作・著作者と契約することなく使用することが事実上可能であった引用図形を、本件商標に基づいて法的措置を取る旨を申し向けて、使用することを妨げ、もって他人の業務を妨害し損害を加える目的を有している者である。しかも、被請求人は、スマイリーフェイスの創作者でもなく、その著名性に便乗して使用料収入を得ようとしている者である。
こうしてみると、全体として、本件商標は被請求人によって不正な目的をもってライセンス目的で使用されているものといえる。
したがって、本件商標は、本号の「他人の業務に係る商品を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的をもって使用をするもの」に該当するものといえる。

7 商標法第3条第1項第6号該当性について
(1)本件商標の場合、そもそも、上記のような不登録事由であること以前に、商標登録の商標登録要件(積極的要件)を欠くものとして、商標登録を受けることができないものであったと言うべきである。
本件図形は、それによっては、「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識すること」はできないものであり、本件図形自体は出所識別機能又は独占適応性は有していないものである。
すなわち、商標法第3条第1項第6号は「前号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することのできない商標」については、商標登録要件(積極的要件)を欠くものとして、商標登録を受けることができないものと規定する。
そもそも、商標法により保護を受ける対象となる商標とは、需要者に一定の出所認識を与え、特定の商品又は役務の出所表示機能(自他商品識別機能)を有する標章なのであって、これとは異なり、もともと商品識別標識として使用されているものではなく、もっぱら顧客吸引力を第三者に提供することの対価として得られる収益を確保するために、その手段としての文字・図形に対して商標法による独占権の付与を得たものは、本来の商標法上の「商標」ではないものであり、そのような商標登録は商標法の目的を逸脱しているものと言える。本来、ただ一定の文字・図形を商標登録出願したからとの理由だけによって、当該商標登録出願者に独占権を付与することは正当化されるものではない。
引用図形は、米国内だけでなく、我が国において、また全世界的に大流行した図形であり、極めて多くの業者により使用されてきた経緯があり、したがって、それは特定の者の業務に係る商品又は役務であることを示す出所表示機能を有さず、商標・標識としての識別力を有していない。本件商標は、引用図形を付すことによって商品の顧客吸引力を強化することに着目して使用されているのであり、需要者から見て、本件商標が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識する機能を有していないのである。
このことは、本件商標においては、引用図形に加えて、「スマイル・エンド・スマイリー」と称呼する「SMILE&SMILEY」の欧文字が付記されていたとしても、本件図形が本件商標のほとんどを占める中核的な標識である以上、「SMILE&SMILEY」との表記が特段の識別力を持たない以上、何ら変わることはない。
したがって、本件商標は、その図形の性質上(一種のいわゆるキャラクターである)、「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することのできない商標」に該当する。

8 利害関係
請求人は、ハーベイ・ボール財団の代理人であり、同財団が「スマイルを平和の礎にする」との目標でボランティア活動を全世界で行っているが、その活動の一端として、日本国内でスマイリーフェイスの商品化事業に携わっている者である(甲第2号証)。

9 被請求人の悪意
被請求人はこれまで「自社のスマイル商品は社員が創作したものだ」と主張しているが、それは「商標登録」すれば自分の権利になり、「その他の事情は無視してもよい。合法的であれば何をしてもよい。」との考えと思われる。
しかし、最近問題となっている中国の商標登録の状況を見て、逆の立場として考えればその考えがいかに恥ずべきことかわかる(甲第32号証)。
関連の「ハーベイ・ボール」(現在はハーベイ・ボール財団)が権利を相続した。代表者の嘆願書を提出する(甲第33号証)。

10 弁駁
(1)被請求人は、スマイリーフェイスがハーベイ・ボールの著作であることは十分に証明されていないと主張するが、特に日本では平成13年4月14日にハーベイ・ボールの死亡報道について、日本を代表する新聞で「スマイルの生みの親」として紹介されているなど審判請求書で十分説明している(甲第1号証ないし甲第33号証参照)。
(2)被請求人は、「1963年の18年前からスマイル・バッジを人々がつけていた」と主張するが、この主張も日本人の一評論家「河野詮」氏の個人的説で、本人の関係する機関誌「マーチャンダイジングライツレポート」の一文に過ぎず何の評価もない。
そもそも「スマイル」は人類誕生から知られた「顔のマーク」として、それぞれの時代、それぞれの人によって描かれたことはあり得たと思う。しかし、ハーベイ・ボール程、それがアメリカで1億の国民の胸に「スマイル・バッジ」として飾られ、1963年当時の大流行となった事実や「モナリザ以来の笑顔」として全世界の人々にそれが認められたことはそれまで有り得なかった。その事実は大変大きなものである(甲第4号証参照)。
(3)請求人は、ハーベイ・ボール財団の全世界での商品化事業を委託されている代理人であり、日本国内の登録商標権と登録著作権を管理運営しているのが財団の関連会社である有限会社ハーベイ・ボール・スマイル・リミテッドである(甲第2号証参照)。被請求人は「請求人やその関連会社とハーベイ・ボールの関係は不明である」と主張するので、請求人はさらにそれらの証拠を提出する(甲第34号証ないし第37号証、第40号証)。
(4)被請求人が平成12年当時米国においてのスマイリーフェイスに関する著作権登録を行っているか確認した様であるが、被請求人の米国弁護士の個人的意見の1つに過ぎない。それも平成12年頃であり、ハーベイ・ボール死去の前後であり、全世界でハーベイ・ボールのことを認識してなかった時代である。
しかし、ハーベイ・ボールの死去について全世界の新聞で「スマイルの生み親」として報道された事で大きく社会的評価は変わっている。上記は現在の評価や判断ではない(甲第5、第6号証参照)。
著作権についてハーベイ・ボールは1963年当時は本人がそれを独占する考えがなかったが、晩年「スマイル」で「ワールド・スマイル・デー」等の「ボランティア活動」を始めてから権利の保護について真剣に考えていた。
しかし、その当時からアメリカもベルヌ条約に加人しており過去の著作権登録制度と異なっていたからに過ぎない。
現在、財団は日本の「有限会社ハーベイ・ボール・スマイル・リミテッド」名義で日本の文化庁に計120件を著作権登録しており、ベルヌ条約に基づいて全世界での登録を行ったと言える(甲第3号証の2、甲第38号証参照)。その後米国において商標登録は17件、公告決定は85件を得ている。これを見ても米国でのハーベイ・ボールの権利の存在が明らかである。
(5)被請求人は、スマイリーフェイスは日本国内で多くの企業によって商標登録されていると主張するが、それらはハーベイ・ボールが創作・著作者として日本で知れ渡る様になる以前である。平成13年以降は小売業間や消費者の間でハーベイ・ボールの存在感は確立している。
(6)被請求人は「引用図形の特定が全くなされていない」と主張する。
現在請求人が所有する第25類の「登録商標」計104件全てが該当する(甲第3号証の3参照)。もし「引用商標」として特定するならば、別掲(2)に表示する「登録著作権 第32152号」(甲第3号証1の2、第38号証参照)である。
(7)被請求人が本件商標を登録維持することは請求人の社会的「ボランティア活動」のシンボルである財団の基本マークについて日本国内の商標登録の拒絶理由となっており財団の日本国内の「ボランティア活動」を困難にしている。(甲第21ないし第24号証参照)
現在の世界中のボランティア活動は日本での請求人関連の「商品化事業」の収益で行っており、被請求人の存在と本件商標は、計り知れない損失となっている。
(8)被請求人は「国際的な友好関係を害するという請求人の主張は、全く事実に基づかないもの」と主張するが「スマイルは黄色い顔に小さな目」「モナリザ以来の笑顔」として世界中で知らない人がいない程有名である。
現在その創作・著作がハーベイ・ボールのものであるとことも認識されている。その結果世界中で600名以上もの有名人が「名誉スマイル大使」としてボランティア活動を支援している。(甲第19、第20号証参照)
(9)披請求人の不正な「スマイル・ライセンス事業」については、過去の請求人との商標関連紛争事件で「自己が使用料を得る目的」で他人に使用許諾をしたことが明らかにされている。それは請求人の努力で定期的に作られる「スマイル・ブーム」に便乗して商標ブローカー的に多数の企業に使用許諾をして多額の収入を得ている事実がある。
本件商標は、不正競争の目的で商標登録を受けている(甲第44ないし第52号証)
(10)「本件商標は被請求人により考案された」との主張も言い逃れに過ぎず、被請求人は、誰が考えても昭和45年の日本の「ニコニコ・マーク」「ラブ・ピース」の大流行から「スマイル文化」として定着したものを、真似て多少デザインを修正させ「商標登録」をしたに過ぎず、それはハーベイ・ボールの作品の「二次使用」になる。
実際、披請求人自身が「本件商標」と同一のものを使用したことを見たことがない。披請求人は「商標登録」を悪用してその時々の「流行するスマイル」を真似て商品に使用して利益を上げているに過ぎない。
被請求人は、不正の目的で商標登録を受けている。

11 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、第15号及び第19号並びに同法第3条第1項第6号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項第1号により、その登録は無効とされるべきである。

第3 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第3号証(枝番を含む。)を提出している。

1 商標法4条1項7号の該当性について
(1)請求人は、(a)引用図形(後述するとおり、請求人は「引用図形」を特定していない。)が、ハーベイ・ボールの創作・著作物であり、そのことは一般に知られているにもかかわらず、これに類似する本件商標を、被請求人がハーベイに無断で商標出願したこと、(b)いわゆる「スマイリーフェイス」(スマイルマークと同義、以下同じ。)が、米国において歴史的意義を有する遺産であり、日本においても広く親しまれ、平和のシンボルとされているにもかかわらず、一部の企業にそれを独占的に使用させることは穏当ではなく、いわゆる「スマイリーフェイス」の名声や評価を損なうおそれ、ひいては米国等との友好関係等を損なうおそれがあること、(c)その他、いわゆる「スマイリーフェイス」とハーベイ・ボールが不可分一体性を有すること、ハーベイ・ボールやその承継人がこうした「スマイリーフェイス」をボランティア活動等に供してきたこと等を主張し、これらをもって、本件商標が公正な商取引秩序を乱し、社会的妥当性を著しく欠き、悪意の出願にあたり、又は国際的信義に反するために、商標法第4条第1項第7号に該当して無効であると主張する。
(2)しかし、第一に、「スマイリーフェイス」がハーベイ・ボールの著作であることは、十分に証明されていない。なぜなら、彼が「スマイリーフェイス」を作成したとされる1963年より18年も前である1945年当時から、人々がスマイルマークのバッジを付けていたことを示す文献が存在するのである。これは、平成10年にハーベイ・ボールが被請求人に対して提起した本件商標の無効審判(平成10年審判第35550号、以下「平成10年審判」という。)において、彼自身が提出した証拠の中に含まれていた文献である。平成10年審判の審決は、この文献の存在をもって、いわゆる「スマイリーフェイス」が彼の創作によるものとは認定できないと判断している(乙第1号証)。
また、請求人は、請求人の関連会社が、米国でいくつかの商標権を登録していることをもって、ハーベイ・ボールに「スマイリーフェイス」の著作権が認められるかのごとく主張している。しかし、そもそも請求人やその関連会社とハーベイ・ボールの関係は不明である上、著作権と商標権では権利内容が異なり、特許庁への商標登録をもって著作権の有無が決定されるわけではない。よって、こうした主張は商標権及び著作権に関する理解を誤ったものであり、ハーベイ・ボールが「スマイリーフェイス」の著作者であることを基礎づけるものではない。
なお、被請求人が、平成12年に米国の特許事務所を通じて、ハーベイ・ボールが米国において「スマイリーフェイス」に関する著作権登録を行っているか確認したところ、同氏は、米国において、こうした著作権登録を行っていなかった。これは、被請求人が米国弁護士から受領した宣誓供述書により明らかである(乙第2号証の1及び2)。仮に同氏が正当な権利者であれば、早期に「スマイリーフェイス」について著作権登録を行うはずであり、ハーベイ・ボールはいわゆる「スマイリーフェイス」の著作者でない。また、1963年当時、米国では登録が著作権の保護要件とされていたことからすれば、ハーベイ・ボールが「スマイリーフェイス」について著作権を主張し得ようもないことは明らかである。
以上の事実によれば、「スマイリーフェイス」なる標章がハーベイ・ボールの著作であるかは明らかではなく、こうした標章に対して同氏が有する権利は、何ら基礎づけられていない。
よって、被請求人がハーベイ・ボールに無断で本件商標を出願したことをもって、それがハーベイ・ボールの権利又は利益を侵害し、公序良俗に反するとする請求人の主張は、その前提において失当である。
(3)第二に、「スマイリーフェイス」は、被請求人以外の多くの企業によって商標登録され、商標として使用されている。この事実は、請求人提出の甲第16号証(商標の一覧表)や甲第11号証(大阪地裁平成13年10月25日判決)の記載から明らかである。
なお、請求人は、このように多数の商標登録がなされたのは、未だハーベイ・ボールの存在が周知されていなかった昭和40年代のことであると主張する。しかし、甲第16号証によれば平成元年以降に登録されたものが複数存在するし、甲第11号証の事案でも平成13年当時に請求人とは無関係の企業が「スマイリーフェイス」の範ちゅうに属する商標を登録し、使用していたことがわかる。このように、「スマイリーフェイス」の範ちゅうに属する標章は、現在でも多くの企業が創作、登録の上、使用しているのであり、こうした範ちゅうの標章が多くの人に請求人の商品や活動を想起させるものでないことはさることながら、決して被請求人がこうした範ちゅうの標章を不当に独占しているものでもないといえる。
したがって、本件商標によって、ハーベイ・ボールと無関係の一企業が「スマイリーフェイス」の使用を独占し、ひいては国際的な友好関係を害するという請求人の主張は、全く事実に基づかないものである。
(4)さらにいえば、引用図形との類似性をもって本件商標が無効であると主張するのであれば、引用図形がいかなるものかを特定すべきところ、本件請求書では、こうした特定は全くなされていない。
請求人の主張を善解すれば、本件での引用図形とは、いわゆる「スマイリーフェイス」をいい、それは甲第3号証に記載されているものと解される(請求書22ページ6行目参照)。しかし、実際、甲第3号証には請求人が著作権又は商標権を有すると主張する図形が約150個(うち、人の顔を表していると思われるものだけでも約130個)記載されているところ、これら全てが請求人の主張する「スマイリーフェイス」であるならば、「スマイリーフェイス」とは人の顔の輪郭を表す円の中に、目と口を模式的に配置して人の笑顔を表した図形の総称であって、非常に概括的な範ちゅうを指すに過ぎないといえる。
であれば、仮にハーベイ・ボールがこうした範ちゅうに属する何らかの図形を創作し、それが人々に継続的に使用されていたとしても、それによって同じ範ちゅうに属する図形全般について、他者による商標登録が排除されるべき謂われはない。したがって、仮に本件商標が、上記のような「スマイリーフェイス」という範ちゅうに含まれるとしても、これによって本件商標が公序良俗に違反するとの主張は理由がない。
(5)以上のとおり、本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当し無効であるとの主張はいずれも根拠のないものばかりであり、直ちに棄却されるべきである。

2 商標法第4条第1項第15号の該当性について
請求人は、本件商標の指定商品である第25類について、本件商標が甲第3号証記載の引用図形と類似し、ハーベイ・ボール及びその正当な承継人等の業務に係る商品と混同を生じるおそれがあるから、本件商標は商標法第4条第1項第15号に違反し、無効であると主張する。
しかし、本件商標の登録日は平成3年11月29日であるところ、登録日から既に5年以上が経過していることから、同法第47条第1項に基づく除斥期間が経過している。よって、同法第4条第1項第15号違反による無効審判請求は成り立たない。
その上で、念のため付言すれば、請求人が本件商標との類似性を主張する標章が特定されていない(甲3号証には、それぞれ異なる約150個もの標章が記載されており、これを指摘することのみをもって類似の対象となる図形の特定があったとはいえない。)。また、混同の対象となる、ハーベイ・ボールやその正当な承継人等の業務にかかる、第25類に分類される商品の存在も、何ら証拠をもって証明されていない。さらにいえば、請求人はハーベイ・ボールの遺族の承諾を得られていないことを根拠として、商標出願に対して特許庁から拒絶査定を受けており、正当な承継者というには極めて不自然である。
したがって、これらの点からしても、商標法第4条第1項第15号違反にかかる請求にも理由がないことは明らかである。

3 商標法第4条第1項第19号の該当性について
請求人は、引用図形が他人の業務に係る商品に使用され、それを識別する表示として需要者に広く認識されている上、本件商標は、専ら引用図形の著名性に便乗して使用料収入を得る目的で登録されたものであり、不正なライセンス目的での登録であるから、商標法第4条第1項第19号に違反し、無効であると主張する。
しかし、いわゆる「スマイリーフェイス」の範ちゅうに属する図形が、請求人以外の商品にも使用されていることは、請求人提出の証拠(甲第11号証・大阪地裁平成13年10月25日判決、甲第16号証・他社の登録商標一覧)からも明らかである。よって、「スマイリーフェイス」が請求人に係る商品のみを識別する表示として需要者に広く認識されていると言えない。
また、被請求人は本件商標を自己が製造、販売している商品に使用しており(乙第3号証・製品の写真)、不正なライセンス目的の取得ではないことも明らかである。
なお、請求人は、被請求人が利益目的又は他人の業務を妨害する目的をもって、他人の使用を妨げている旨を主張しているが、被請求人にこうした目的はなく、自己の商標権への侵害行為に対して、適時適切に対応しているに過ぎない。

4 商標法第3条の該当性について
請求人は、(1)本件商標登録が、専ら本件商標の有する顧客吸引力を第三者に提供することの対価として得られる収益を確保するために、その手段として行われたものであるため、本来的な商標の目的を逸脱していること、(2)本件商標に類似する標章が極めて多くの業者に使用されてきた経緯からして、出所識別機能がないこと、を理由として、本件商標が商標法第3条に違反し、無効であると主張する。
しかし、上述のように、本件商標は登録から既に5年以上が経過していることから、同法第47条第1項に基づく除斥期間が経過しており、同法第3条違反による無効審判請求は成り立たない。
また、そもそも上記(1)は商標法第3条各号のいずれにも該当し得ない主張であり、それ自体が無効理由として失当である。
更にいえば、本件商標は被請求人によって考案されたものであり、たとえ「スマイリーフェイス」という範ちゅうに入るものであっても、描線の太さ、輪郭のかたち、目のかたち及び位置、口のかたち、唇端部の形状等、他の標章とは異なる特徴を有しているから、商標としての出所識別機能を十分に具備している。
よって、こうした請求は成り立たない。

5 まとめ
以上、請求人による主張のうち、商標法第3条及び同法第4条第1項第15号違反の点については除斥期間が経過しているし、その他の主張についても全く理由がなく、本件審判請求に対しては直ちに「成り立たない」との判断をされるべきである。

第4 当審の判断
1 商標法第4条第1項第7号該当性について
(1)請求人の商標法第4条第1項第7号に関する主張は、要するに、以下の点である。
ア 国際的に著名な図形が創作者・著作者と無関係な第三者により、その創作者・著作者の承諾もなく、出願し登録されることは、公正な商取引秩序を乱し、国際商道徳にも反し、また、商取引における公正な商取引秩序を乱すものであり、社会の一般的道徳観念に反する。
イ 引用図形は、米国の1970年代を代表する歴史的意義を有し、米国において広く平和のシンボルとして知られ、広く使用されているマークであり、ウスター市においては、平和のシンボルとして敬愛され、慈善活動に使われてきたものであるから、本件商標の登録は米国、マサチューセッツ州及びウスター州との関係で国際信義に反する。
(2)国際的に著名な図形が創作者・著作者と無関係な第三者により、その創作者・著作者の承諾もなく、出願し登録されることは、公正な商取引秩序を乱し、国際商道徳にも反し、また、商取引における公正な商取引秩序を乱すものであり、社会の一般的道徳観念に反するとする主張について
上記主張は、本件商標が、請求人の主張する著作権に抵触することを理由にするものである。
しかしながら、図形等からなる商標について登録出願がされた場合において、その商標の使用が他人の著作権を侵害しこれと抵触するかどうかを判断するためには、単に当該商標と他人の著作物とを対比するだけでは足りず、他人の著作物について先行著作物の内容を調査し、先行著作物の二次的著作物である場合には、原著作物に新たに付与された創作的部分がどの点であるかを認定した上、出願された商標が、このような創作的部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものであるかどうか、このような創作的部分の本質的特徴を直接感得することができるものであるかどうかについて判断することが必要である。著作権は、特許権、商標権等と異なり、特許庁における登録を要せず、著作物を創作することのみによって直ちに生じ、また、発行されていないものも多いから、特許庁の保有する公報等の資料により先行著作物を調査することは、極めて困難である。
また、特許庁は、狭義の工業所有権の専門官庁であって、著作権の専門官庁ではないから、先行著作物の調査、二次的著作物の創作的部分の認定、出願された商標が当該著作物の創作的部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものであるかどうか、その創作的部分の本質的特徴を直接感得することができるものであるかどうかについて判断することは、特許庁の本来の所管事項に属するものではなく、これを商標の審査官が行うことには、多大な困難が伴うことが明らかである。
さらに、このような先行著作物の調査等がされたとしても、出願された商標が他人の著作物の複製又は翻案に当たるというためには、上記のとおり、当該商標が他人の著作物に依拠して作成されたと認められなければならない。依拠性の有無を認定するためには、当該商標の作成者が、その当時、他人の著作物に接する機会をどの程度有していたか、他人の当該著作物とは別個の著作物がどの程度公刊され、出願された商標の作成者がこれら別個の著作物に依拠した可能性がどの程度あるかなど、商標登録の出願書類、特許庁の保有する公報等の資料によっては認定困難な諸事情を認定する必要があり、これらの判断もまた、狭義の工業所有権の専門官庁である特許庁の判断には、なじまないものである。
加えて、上記のとおり、特許庁の審査官が、出願された商標が他人の著作権と抵触するかどうかについて必要な調査及び認定判断を遂げた上で当該商標の登録査定又は拒絶査定を行うことには、相当な困難が伴うのであって、特許庁の商標審査官にこのような調査をさせることは、極めて多数の商標登録出願を迅速に処理すべきことが要請されている特許庁の事務処理上著しい妨げとなることは明らかであるから、商標法第4条第1項第7号が、商標審査官にこのような調査等の義務を課していると解することはできない。
してみれば、その使用が他人の著作権と抵触する商標であっても、商標法第4条第1項第7号に規定する商標に当たらないものと解するのが相当であり、同号の規定に関する商標審査基準にいう「他の法律(注、商標法以外の法律)によって、その使用等が禁止されている商標」には該当しないものというべきである。
したがって、本件商標が他人(ハーベイ・ボール)の著作権に抵触する商標であるという理由をもって、商標法第4条第1項第7号に該当するということはできない。
(3)引用図形は、米国の1970年代を代表する歴史的意義を有し、米国において広く平和のシンボルとして知られ、広く使用されているマークであり、ウスター市においては、平和のシンボルとして敬愛され、慈善活動に使われてきたものであるから、本件商標の登録は米国、マサチューセッツ州及びウスター州との関係で国際信義に反するとする主張について
商標法第4条第1項第7号該当性の判断時期は、査定時であるところ、本件商標の査定は、平成3年3月8日にされたものである。
そこで、上記査定時に本件商標が商標法4条1項7号に該当するか否かについて検討するに、請求人は、請求人が主張する平成3年3月8日に引用図形が米国において平和のシンボルとされていたとか慈善活動に使用されてきたことについて何らの証拠も提出していない。
また、請求人は、引用図形に関し、米国郵政公社発行の記念切手のデザインに採用され(甲第8号証、第14号証ほか)、1994年に公開された米国映画「フォレスト・ガンプ一期一会」に登場した(但し、甲13号証の「キネマ旬報」の写しは、複数ページに同一内容の記載があるなどし、該号証が当該雑誌の写しであるかについては疑義があり、その記事内容のように映画で大きく取り上げられているものであるかは、不明である。)ことなどを挙げ、引用図形が米国の1970年代を代表する歴史的意義を有することを理由の一つとして主張しているが、米国で引用図形が1970年代に流行したことがあるしても、そのことにより請求人の主張するように国際信義に反するとはいえない。
(5)したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものではない。

2 商標法第4条第1項第15号該当性について
請求人が、被請求人が不正の目的(不正競争の目的を含む。)で商標登録を受けていることを立証するとする証拠(甲第44号証ないし甲第52号証)は、いずれも本件査定時以後のものであり、本件商標が不正の目的で商標登録を受けたものとは認めることができない。
そして、本件商標は、平成3年3月8日に設定登録がなされたものであり、本件審判請求は、平成21年1月23日になされたものであるから、本件審判請求が商標法第47条所定の5年の除斥期間を経過した後になされた不適法なものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。

3 商標法第4条第1項第19号該当性について
請求人は、「スマイリーフェイスは、スマイリーフェイスの創作・著作者である故ハーベイ・ボール及び同人の正当な承継人、殊にハーベイ・ボール財団及びその関係団体の業務又はそれらの者から許諾を得て業務を行っている者の業務(「他人の業務」)に係る商品を表示するものとして、我が国又は外国におけるキャラクター・マーチャンダイジング業界に関係する業者(一次需要者)や商品の購入者(二次需要者)の間に広く認識されているから、本件商標をその指定商品に使用しても他人の業務に係る商標と混同を生ずるおそれがある。また、本件商標は、被請求人によって不正の目的をもってライセンス目的で使用されているものである。したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。」旨主張する。
しかしながら、本件査定時において、引用図形が財団及びその関係者の業務に係る商品を表示する商標として広く知られているとする証拠はない。
また、前記2で認定のとおり、被請求人が不正の目的(不正競争の目的を含む。)で商標登録を受けていることを立証するとする証拠はなく、本件商標は、同号所定の「不正の目的をもって使用するもの」に該当するものとはいうことができない。
さらに、請求人は、本件商標がハーベイ・ボールの作品の二次使用であるなどとして本件商標は、不正の目的で登録を受けている旨主張しているが、この主張は、結局、著作権に抵触するか否かの判断に関わるものであり、著作権に係る判断については、前記1(2)で述べたとおりである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。

4 商標第3条第1項第6号該当性について
本件審判請求は、商標法第47条所定の5年の除斥期間を経過した後になされたものであるから、本件商標が商標法第3条第1項第6号に該当するとの請求人の主張は、不適法なものであるから、その主張を認めない。

5 まとめ
以上のとおり、本件商標は商標法第4条第1項第7号、同第15号、同第19号及び同法第3条第1項第6号に違反して登録されたものではないから、同法第46条第1項第1号に該当しない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
(1)本件商標


(2)引用図形


審理終結日 2009-08-25 
結審通知日 2009-09-01 
審決日 2009-10-01 
出願番号 商願平1-6979 
審決分類 T 1 12・ 222- Y (125)
T 1 12・ 22- Y (125)
T 1 12・ 271- Y (125)
T 1 12・ 16- Y (125)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 芦葉 松美
特許庁審判官 岩崎 良子
内山 進
登録日 1991-11-29 
登録番号 商標登録第2353908号(T2353908) 
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