• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない 025
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない 025
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない 025
管理番号 1205204 
審判番号 無効2006-89080 
総通号数 119 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2009-11-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-06-06 
確定日 2009-10-08 
事件の表示 上記当事者間の登録第4751423号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4751423号商標(以下、「本件商標」という。)は、別掲に表示した構成よりなり、平成6年9月21日に登録出願、第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,和服,エプロン,えり巻き,靴下,ショール,スカーフ,手袋,ネクタイ,ネッカチーフ,マフラー,帽子,バンド,ベルト,靴類(「靴合わせくぎ,靴くぎ,靴の引き手,靴びょう,靴保護金具」を除く。),げた,草履類,運動用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。)」を指定商品として、同16年2月27日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし同第413号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は商標法(以下「法」という。)4条1項7号、同10号、同15号に該当するから、本件商標の登録は、法46条1項1号により無効とすべきものである。
1) 無効理由-1 法4条1項7号該当性
本件商標は、被請求人において、請求人の「Indian商標」を用いたブランドビジネスを妨害する目的で、出願し登録を得たものであり、公正な競業秩序を害するものであるから、公序良俗に反する商標である。
他人の業務を妨害する目的で出願し登録を得た商標は公正な競業秩序を害するおそれのある商標であり、公序良俗に反するものであり、登録を無効とすべきものである。このことは、母衣旗事件判決(平11.11.29東高民13判・平10(行ケ)18号)(「母衣旗判決」)の示すところである。
ア 法4条1項7号は公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標は、登録を受けることが出来ない、と規定し、公序良俗に反するおそれのあることを商標の不登録事由に定める。
そして、「公序」と「良俗」と別の言葉は用いているが、要は、「公序良俗」とは結局のところ「社会的妥当性」をいう。そして、「社会的妥当性」の有無は、商標法が樹立、維持、発展させようとする健全な商標秩序に合致するか否かによって判断するものである。商標法の目的に反するような商標、健全な商標秩序を害するおそれのある商標の登録を認めることが出来ないことは当然の事である。そして、「健全な商標秩序を害するおそれがあるか否か」、即ち、「社会的妥当性を有するか否か」、即ち「公序良俗に反するおそれがあるか否か」は、社会通念、即ち、普通の常識と普通の見識とを有する一般人の認識を基にして、判断すべきものである。
イ 法4条1項は、7号以外で、商標登録を認めることの出来ない場合を類型化して例示している。即ち、これらは、「健全な商標秩序を害するおそれがある場合」、即ち、「社会的妥当性を欠く場合」を類型化したものである。
然しながら、「健全な商標秩序を害するおそれがある場合」、「社会的妥当性を欠く場合」はかかる類型化したものにつきるものではない。
よって、法は4条1項7号において、「公序良俗に反するおそれのある商標」は登録を認めないと規定して、類型化し得なかったものを法4条1項7号で登録を認めないこととしたのである。
したがって、法4条1項7号の「公序良俗に反するおそれのある場合」が多岐にわたることは当然である。判例上表れたものを幾つか列挙しても、次のようなものがある。
ア) 「博士の学位を付与された者を…尊敬し、その名誉を重んずるという社会的文化的秩序又は善良な風俗を害するおそれ」がある場合(昭56.8.25東高判、昭55(行ケ)95号)
イ) 「商標の保護と需要者の利益を保護する商標法の意図する商品流通秩序の維持の目的に反する」場合(昭56.8.31東高判、55(行ケ)96号等)
ウ) 「公正な競業秩序を害するおそれ」がある場合(平11.11.29東高判、平10(行ケ)18号)(母衣旗事件判決)
エ) 「公正な取引秩序を乱立おそれ」がある場合(平成11.12.22東高判、平10(行ケ)185号)
ウ 上記裁判例からも明らかなように、「公序良俗に反するおそれのある場合」とは「健全な商標秩序を害するおそれのある場合」であり(このような商標の登録を認めないのは当然である)、「社会的妥当性を欠く場合」であり(このような商標の登録を認めないのも当然である)、多岐にわたるのである。もとより、「公序良俗に反するおそれのある場合」が、商標の構成自体に問題がある場合や構成自体に特に問題がなくても使用する商品との関係で社会の一般的道徳観念に反するような場合に限られるものではない。
そして、法4条1項7号の「公序良俗を害するおそれ」(害するおそれであって、害する、ではない)は、これをことさら制限的に解さなければならないものではない。ことさら制限的に解することは、健全な商標秩序を害するおそれのある商標、社会的妥当性を欠く商標の登録を認めることにつながり、商標法が樹立、維持、発展せんとする健全な商標秩序の阻害をもたらすことにつながる。法4条1項7号をことさら制限的に解することは誤りである。
エ 以下2)に述べる通り、本件商標は、被請求人において、請求人の「Indian商標」を用いたブランドビジネスを妨害する目的で、出願し登録したものである。
かかる商標の登録を認めることが健全な商標秩序を害するおそれを有することになり、社会的妥当性を欠くことになることは明白である。
即ち、本件商標が公序良俗に反するおそれのある商標であることは明白である。これは、母衣旗事件判決の示すところでもある。
そして、本件商標の登録を認めることにより、正当な企業努力を営々と積み上げて来たまっとうな者が正当な利益を害され、先願主義を悪用する者がまっとうな者の犠牲の上に不当な利益を得ることを容認する結果をもたらし、また、普通の常識と普通の見識を有する者の認識(請求人が「Indian」ブランドの日本における正当な唯一の出所であるとの認識)(即ち、これが健全な商標秩序である)と乖離した商標登録状況をもたらしているのである。
2) 本件商標が公序良俗に反する商標であることは以下の事実から明かである。
ア 本件商標の出願の前である平成6年始めには、「Indianロゴ」、「ヘッドドレスロゴ」等の「Indian商標」は需要者の間で請求人が衣類等に使用する商標として周知であり、「Indian Motocycle」、「インディアンモトサイクル」は請求人の略称として需要者の間に周知であった。
少なくとも、需要者の間に充分浸透していた。被請求人は、これを知って本件商標の出願をした。本件商標は、二重の円の図形の中に左向きのインディアンの図形を配し、その下に配した長方形の図形の中に「Indianロゴ」及び「MOTOCYCLE」を上下2段に配してなるものである。
ア) 「Indian」ブランドはヴィンテージバイカー系のアメリカンカジュアルのファッションブランドであり、その顧客層はファッションに関心を持つ若年男性層である(甲254)。
即ち、「Indian」ブランドの商品の需要者はかかるファッションに関心を持つ若年男性層である。
イ) 平成5年1月29日、請求人の設立及び「Indian」ブランドビジネスの開始が報じられた(甲13)。
ウ) 平成5年1月から同年11月にかけて、雑誌「ブルータス」に21回にわたり、「Indian」ブランドの復活、アパレルマーチャンダイジングブランドとしての展開、日本においても「Indian」ブランドのマーチャンダイジングビジネスが展開されることが報じられた(甲226ないし246)。雑誌「ブルータス」の読者層は「Indian」ブランドの商品の需要者と重なる(甲247)。また、雑誌「ブルータス」は発行部数が月25万部に昇り、広告価値の非常に高い媒体である(甲249、250)。
この結果、「Indian」ブランドは日本において平成5年11月頃には充分需要者の間に浸透し(甲247)、日本において「Indian」ブランドがブームになるのが時間の問題である程度に需要者の間に浸透していた(甲26)。
エ) 平成5年(1993年)7月24日付け繊研新聞(甲24)に、「米アンティークバイク『インディアン』ウエア発売」との見出しの下、スコット・カジヤ(「カジヤ」)を社長(当時)とする請求人が設立され、同年秋から、「インディアン」をイメージキャラクターにした商品の輸入販売及びライセンス事業が開始される旨の記事が掲載された。
また、同日付け日経流通新聞にも、「米国のオートバイメーカー、インディアン・モトサイクル社(マサチューセッツ州)のライセンス供与を行っている『インディアン・モトサイクル・ジャパン』(東京・渋谷、スコット・カジヤ社長)は、米国で人気上昇中のアンティークバイク『イディアン・モトサイクル』関連商品のライセンス事業を、国内で展開する。」、「『インディアン』は1901-53年まで製造された高級バイクで、米国を象徴するブランドの一つ。会社は53年に解散したが、実業家のフィリップ・ザンギ氏が92年1月に再建した。」との各記載を含む記事が掲載された。
オ) 「POPEYE」1993年(平成5年)11月10日号(甲26)に、「1940年代、アメリカでハーレー・ダヴィッドソンと人気を二分したバイクメーカーがインディアン・モトサイクル社」であり、そのロゴグッズは、「アメリカを象徴するトレードマークのひとつとして、……未だに根強いインディアン・マニアを持つほどの存在」であるところ、これらのロゴグッズがアパレルなどのキャラクターグッズとして復活しており、「米国では既にブームとなっている模様」で、「日本でもブーム着火は時間の問題だといえる。」との記事が掲載された。「POPEYE」も、「Indian」ブランドの商品の需要者の間で広く読まれている雑誌である。
このことは、被請求人も、「POPEYE」に請求人の企業努力に便乗する商品の広告を出した(甲34)からも明かなことである。
カ) 請求人は、平成6年1月から、「Indianロゴ」(特徴ある筆記体の欧文字「Indian」)、「ヘッドドレスロゴ」(「Indianロゴ」を配した右向きのインディアンの酋長の図形)、「『Indianロゴ』/MOTOCYCLE」、「『Indianロゴ』MOTOCYCLE」等を付したシャツ、ジャケット、帽子等の輸入販売を開始した(甲27、12、14ないし18)。輸入販売にかかる商品は「アーバンメディソン」(甲27)などの「Indian」ブランドの需要者に影響力のある店舗で販売された。これらの店舗で販売されたということ自体、「Indian」ブランドが需要者の間に充分浸透していたことを示すものである。
キ) 平成6年1月から12月、請求人は、「Indian」ブランドの需要者層である若い男性向けのカジュアルファッションの「ビームス」、「シップス」、「ユナイテッドアローズ」等の大手専門店で配布されている月刊広報誌「DICTIONARY」に、「Indianロゴ」及び「ヘッドドレスロゴ」を表示した請求人及びマスターライセンシーのサンライズ社の広告を掲載し、配布した(甲28)。「DICTIONARY」という影響力のある広報誌に広告が掲載されたということ自体、「Indian」ブランドが充分需要者の間に浸透していたことを示すものである。
ク) 平成6年始め、「アーバンメディスン」を所有開設している株式会社クラスから、若者向けカジュアルファッション流行の発信地として知られる東京都内の渋谷公園通りにある大きな「アーバンメディスン」の店舗内に、「インディアン」ブランドの衣類を販売するショップインショップを開設したいとの申し入れがあり、請求人はこれを承諾した。その結果、「アーバンメディスン」内に「Indianブランドのショップインショップが開設された。「アーバンメディスン」内にショップインショップを開設したいとの求めによりショップインショップが開設された、ということ自体、「Indian」ブランドが充分需要者の間に浸透していたことを示すものである。
なお、株式会社クラスは「ビギ」等にOEMで商品を供給している有名な会社である。
ケ) 平成6年始め、請求人は、マスターライセンシーであるサンライズ社を通じて、「Indian」ブランドを使用したバッグの製造販売につき、マルヨシとサブライセンス契約を締結した。
マルヨシは、同年5月ころ、展示会を開催して「Indianロゴ」、「ヘッドドレスロゴ」、「『ヘッドドレスロゴ』/MOTOCYCLE」、二重の円の図形の中に「左向きのインディアンの図形」を配した商標、二重の円の図形の中に「『左向きのインディアンの図形』+『Indianロゴ』/MOTOCYCLE」を配した商標、等を使用してバッグの製造販売を開始し(甲30、31)、「旬刊ファンシー」平成6年6月25日号(甲29)、「グッズプレス」1994年(平成6年)11月号(甲32)及び「フィールド・ギア」1994年(平成6年)12月号(甲33)において、これらの商標を使用したバッグ、Tシャツ等の商品広告が掲載された。
コ) 即ち、平成6年始めには、「Indianロゴ」、「『Indianロゴ』/MOTOCYCLE」、「『Indianロゴ』MOTOCYCLE」、「ヘッドドレスロゴ」、「『ヘッドドレスロゴ』/MOTOCYCLE」、を始めとする「Indian」ブランドは、請求人を出所とするアメリカンカジュアルのヴィンテージバイカーのファッションブランドとしてアパレルについて需要者の間で周知であった。アパレルについて周知になってからこそアクセサリーであるバッグへのライセンスが展開されたのである。
また、同様に、「Indian Motocycle Japan」、「インディアンモトサイクルジャパン」、「Indian Motocycle」、「インディアンモトサイクル」も請求人の略称として需要者の間に周知であった。
そして、このこと(周知)は、被請求人が、米国で「インディアンの復活」が報じられた(甲6、7)平成3年7月の直後の平成3年11月にすかさず「インディアンモーターサイクル」を旧第17類に出願し、登録を得(甲8)ながら、「インディアンモーターサイクル」は商品に一切使用せず、「『ヘッドドレスロゴ』/MOTOCYCLE」よりなる商標(甲257)や二重の円の図形の中に「左向きのインディアンの図形」を配し、その下に長方形の図形を配し、その中に『Indianロゴ』/MOTOCYCLE」を配した本件商標(甲258)を平成6年9月21日に第25類に出願したこと、平成7年に入って「Indianロゴ」、「『Indianロゴ』/Motocycle」、「ヘッドドレスロゴ」と類似する商標、等を使用したジャケット、シャツ、帽子等の販売を開始し、請求人の警告を無視してこれを継続した(甲34ないし47、甲76ないし79)ことから明らかである。
サ) 被請求人は、本件商標を、平成6年9月21日に出願した。被請求人は、「Indianロゴ」、「ヘッドドレスロゴ」等の「Indian商標」が請求人の企業努力により市場で広く認識されていたことを知って、また、「Indian Motocycle」、「インディアンモトサイクル」が請求人の略称として市場に広く認識されていたことを知って、本件商標の出願をした。
また、被請求人は、二重の円の図形の中に「左向きのインディアンの図形」を配した商標をマルヨシがバッグに使用した商標であることを知って、本件商標の出願をした。本件商標は、二重の円の図形の中に左向きのインディアンの図形を配し、その下に配した長方形の図形の中に「Indianロゴ」及び「MOTOCYCLE」を上下2段に配してなる。本件商標の出願という行為は、まっとうな事業者であれば決してしようとしない類の行為である。「Indianロゴ」、「ヘッドドレスロゴ」等を用いた事業は、既に請求人が開始し、軌道に載せ、市場に「Indian」ブランドを浸透させていたのである。「Indian Motocycle」、「インディアンモトサイクル」は請求人の略称として充分市場に浸透していた。事実、「Indianロゴ」等を用いた商品を販売したり、本件登録商品の如く「Indian」を含む商標の出願をし、登録を得たりしたのは被請求人のみである。
シ) 念のため付言するに、商標の周知とは、需要者の間に相当広く知られていることを云う。売上高の多寡は周知性をみる一つの尺度ではあっても、全てではない。売り出し開始前でも、雑誌等で広く紹介され、需要者の相当多数の者が「今か今か」と待っている状態であれば周知である。「Indianロゴ」などの「Indian商標」が本件商標の出願時に既に「周知」であったことは、上述のことから明かである。
イ 本件商標の登録時である平成16年2月には、「Indian商標」、及び、請求人の略称「Indian Motocycle」、「インディアンモトサイクル」は需要者の間でなお一層周知となっていた。被請求人による「インディアンモーターサイクル」と同一性の範囲内にない「Indianロゴ」等の無断使用、請求人の業務の妨害
ア) 請求人は、マスターライセンシーのサンライズ社を通じて、平成7年、「Indian商標」を使用した革製ジャケットの製造販売につき、訴外西澤株式会社(以下「西澤社」という。)とサブライセンス契約を締結した。
西澤社は、平成7年10月ころ、パンフレットを配布して「『Indianロゴ』/MOTOCYCLE」、「『ヘッドドレスロゴ』/MOTOCYCLE」等の「Indian」商標を付した革製ジャケットの製造販売を開始し、平成7年から平成8年にかけて巨額の資金を投入して広告宣伝を行った(甲48ないし57)。
この結果、「Indianロゴ」、「ヘッドドレスロゴ」、「『Indianロゴ』/MOTOCYCLE」、「『ヘッドドレスロゴ』/MOTOCYCLE」、等の「Indian商標」は、レザージャケット等についても請求人を出所とする商標として需要者間で周知になった。であったからこそ、翌平成8年の秋冬シーズンに西沢社が前年の投資の成果を回収しようとした矢先、被請求人は平成8年の秋冬シーズンの初めから、「インディアンモーターサイクル」と同一性の範囲内にない、「『Indianロゴ』/Motocycle(書体は「Indianロゴ」と同じ)」(注.「Motorcycle」ではない)等を使用した革製ジャケット等の販売を開始したのである(甲76ないし79)。
であったからこそ、また、被請求人は、平成9年3月31日、「『Indianロゴ』/Motorcycle(書体は「Indianロゴ」と同じ)」よりなる商標(甲261、262)を出願したのである。
であったからこそ、更に、被請求人は、仮処分決定(甲59)を受けた後も、「インディアンモーターサイクル」と同一性の範囲内にない、「『Indianロゴ』/Motorcycle(「Indianロゴ」と同じ書体)」の商標等を使用して、革製ジャケット等の製造販売広告等を行い(甲61ないし63)、「インディアンモーターサイクル」と同一性の範囲内にない、「Indianロゴ」と同一又は酷似した「Indian」や「Indian Motorcycle」、「Indian Motorcycle」等を使用して、革製ジャケットやTシャツの輸入製造販売広告を行ったのである(甲65ないし75)。
であったからこそ、また、平成8年、被請求人は、請求人から「Indianロゴ」等の使用の差止の請求の訴を提起されるや(東京地方裁判所平成8年(ワ)第9391号)、これに対抗するため、「インディアンモーターサイクル」に対する商標権を基にして請求人らに対し訴を提起したのである(東京地方裁判所平成8年(ワ)第140265号事件(甲80)。(なお、この被請求人の訴は、権利の濫用であるとして棄却され、東京高等裁判所においても同様に判断された(後述)。)
イ) 西澤社による「Indian」ブランドのレザージャケット等の販売と併行して、請求人による「Indian」ブランドのシャツ、ジャケット、帽子等のアパレル製品の販売も継続された。
ウ) 平成8年以降も、請求人は企業努力を傾注して、「『ヘッドドレスロゴ』/『Motocycleロゴ』(「Indianロゴ」と同一書体の「Indian Motocycle Co.,Inc.」)」よりなる商標(「Indian/Motocycle商標」)、「Indianロゴ」、「ヘッドドレスロゴ」その他の「Indian商標」を付したシャツ、ジャケット、帽子、ベルト、靴などの商品の販売、ライセンスを継続し、これらの商品は売上を順調に伸ばし、また、新聞雑誌等に広く広告、宣伝、紹介され、「Indian/Motocycle商標」、「Indianロゴ」、「ヘッドドレスロゴ」等の「Indian」ブランドは代表的なアメリカンカジュアルのヴィンテージ・カジュアルのファッションブランドとしてプレスティージのあるブランドとしての地位を固め、ますます強固にしている(甲84ないし201、254、268ないし339、360ないし379)。例えば、
(ア) 1997年(平成9年)4月21日付け(甲85)繊研新聞には、「Indian/Motocycle商標」及び「Indianロゴ」を使用し、請求人の商号を示して請求人の同年秋物・冬物コレクション(展示会)の開催を知らせる広告が掲載され、同年6月10日付け同新聞(甲87)には、「Indianロゴ」を胸に付した衣服(トレーナー)の写真と共に「インディアンモトサイクルカンパニージャパン……は、秋冬物から『インディアン』ブランドにニット・カットソーを加え、ライセンスビジネスを強化する。」との記事が掲載された。
なお、甲90、91、92、94号証等にも「Indian/Motocycle商標」が表示されている。
(イ) 「イージーライダーズジャパン」1997年(平成9年)12月号(甲94)には、請求人を問い合わせ先として、「Indianロゴ」等を付した衣類等の広告が掲載され、「POPEYE」1998年(平成10年)1月10/25日号(甲97)、同年3月25日号(甲101)、「メンズエクストラ」同年4月号(甲104)には、「Indianロゴ」等を付した衣服、オートバイ模型、自転車等の広告が掲載された。
(ウ) 1998年(平成10年)5月27日付け繊研新聞(甲106)に、「Indianロゴ」を掲げて請求人の同年秋物・冬物コレクション(展示会)の開催を知らせる広告が掲載され、同年6月11日付け同新聞(甲111)には、「インディアンモトサイクルカンパニジャパン……は、今秋冬物からカジュアルブランドの『インディアン』に“レッド・アンド・ゴールド”ラインを新設する。」との記事が掲載された。
(エ) 2000年(平成12年)1月から12月にかけて、「東京ストリートニュース!」、「BOYS RUSH」、「Lightning」、「Free&Easy」、「BORN’ BiKERS」をはじめとする10種類前後の若者向けカジュアルファッション月刊誌に、毎月のように、「Indianロゴ」、「Indian/Motocycle商標」等を付したTシャツ、帽子、ジャケット等に関する請求人の広告宣伝及び紹介記事が掲載された(甲117ないし145、147、148以下)。
「東京ストリートニュース!」2000年(平成12年)3月号(甲126)には、「Indianロゴ」等を付した請求人の衣類等の広告とともに、「バイカー、ネイティブ好きの心をくすぐる、今やヤロウファッションを語る上で欠かせないのがインディアンモトサイクル。休日のオープン前ともなれば店の前には列ができ、限定キャップはプレミアが付くほどの人気なんだ。ファッションリーダー・井野っちが着始めて火が付いたって話も有名。」との文章が掲載されており、「BOYS RUSH」2000年(平成12年)4月号(甲128)には、「インディアンモトサイクルをたまには違う気分で着たい」との見出しの下、「インディアンモトサイクル、今、すげ一人気だよな。でも、みーんな同じような着方してないか?」との文章とともに請求人の衣類の広告写真が掲載されている。即ち、平成12年には、「インディアンモトサイクル」、「Indian Motocycle」は請求人の略称として、また、商標として、広く知られるに至っていたのである。
(オ) 「Indianロゴ」、「Indian/Motocycle商標」等に関する請求人のライセンス先及びライセンス商品は、平成12年10月現在、三竹産業(皮革製品)、元林(ライター等)、兼松日産農林(マッチ)、プランニングジャパン(カット&ソー商品)、福井めがね工業(眼鏡)、丸石自転車(自転車)、ライフギアコーポレーション(鞄類)及びオーエイチプラン」と(ライダー用皮革製品)の合計8社に上った(甲201)。
また、請求人は、「Indianロゴ」や「Indian/Motocycle商標」等を付したカット&ソー、ニット類、デニム製品、バッグ類、ジュエリー及びアクセサリー類、皮革製品、帽子等の各商品を自ら製造又は輸入して販売し、平成12年9月には、前記渋谷の1号店に続き、直営店の2号店を福岡市内にオープンした。
(カ) 2001年(平成13年)1月から2004年(平成16年)1月にかけて、「BOYS RUSH」、「Lightning」、「smart」、「Free&Easy」、「BORN’BiKERS」をはじめとする10種類前後の若者向けカジュアルファッション雑誌、及び、「Kyushu Walker」、「シティ情報Fukuoka」等の地方誌において、毎月のように、「Indianロゴ」や「Indian/Motocycle商標」等を付したジャケット、ブルゾン、デニムパンツ、スニーカー、眼鏡、アクセサリー及びライター等に関する請求人等の広告宣伝及び紹介記事が掲載された(甲146、149ないし196、268ないし339)。 上記のうち、例えば「RIDERS CLUB」2000年(平成12年)12月号(甲145)には、「ハーレーを凌いだビッグブランド」との小見出しとともに、背中に「Indianロゴ」等を付した黒革のライダージャンパーの写真が掲載されている。また、「smart」2002年(平成14年)5/13&5/27号(甲189)には、「Indianロゴ」を掲げ、「インディアン、春の新作紹介。」との見出しの下に、春物のTシャツ、スニーカー、バッグ等の請求人の商品が写真とともに紹介されているが、そこには、「『インディアン』って聞くと、あのネイティヴアメリカンの濃ゆ?いスタイルを思い描きがち。けれど、ここのスタイルはちと違う。」との記載がある。これは、「Indian」ブランドが、若者向けカジュアルブランドファッションの中でも、いわゆるネイティブ系のブランドとして一般的なものであることを前提にした記載である。その後も、引き続き、若者向けカジュアルファッション雑誌に毎号のように、「Indianロゴ」等を付した請求人の商品及び請求人の広告宣伝及び紹介記事が掲載されている(甲360ないし379)。
(キ) この間、請求人は、平成13年7月ころには、直営店の3号店である久留米店を開店し、平成14年9月14日には、4号店である神戸店を開店した。また、平成16年9月には、仙台店を開店した(甲375、377)。請求人が直接取り引きする小売店は、平成14年7月ころ現在で、全国100店舗近くに及び(甲197)、請求人のライセンシーである前記プランニングジャハンの取引先小売店は全国で150店舗近く(甲198)(なお、甲355参照)、同じく請求人のライセンシーである前記オーエイチプランの取引先小売店は全国で70店舗以上に及ぶ(甲199)(なお、甲355、356、357参照)。
(ク) 「Indianロゴ」等を付した商品や請求人が広告宣伝紹介された上記媒体は「Indian」ブランドの需要者に影響力のある告知媒体である。このことは、請求人が一貫してかかる媒体を告知媒体としていること、被請求人が平成7年から「インディアンモーターサイクル」と同一性の範囲内にない「Indianロゴ」やこれを含む商標を用いて「Indianロゴ」等の「Indlan商標」の周知性に只乗りした便乗商法を開始したときに、被請求人自身かかる媒体に請求人の便乗商品の告知をしたことからも明らかである。当然の事ながら、事業者は告知価値の無い又は低い媒体に告知したりしないのである。また、「Indianロゴ」等を付した商品(ヴィンテージバイカー系のアメリカンカジュアル)の需要者はファッションに敏感であり、かかる需要者の間では、全頁買い切ったような「純広」は「ダサ」く、広告価値が低い。
逆に、コーディネートの紹介として、小さな告知に小さく商標が掲げられ、「ジャケット/インディアンモトサイクル」等と記載された告知の方が広告価値が高いのである。関連需要者はかかる告知に価値を認め、それこそ「目を皿にして」記事に目を通すのである。このことは、被請求人も平成7年より只乗り便乗商品の販売を開始した際に、同商品の告知の方法として、上記のような手法によったことからも明らかである。事業者は広告価値の無い或いは低い告知方法は採らない。
(ケ) 以上述べた通り、本件商標の出願の前である平成6年始めはもとより、本件商標の登録の前である平成16年2月には、若年男性向けのいわゆるアメリカンカジュアル系のブランドファッション市場において、「Indianロゴ」、「ヘッドドレスロゴ」等は請求人の商標として需要者の間の広く認識され、「Indian Motocycle」、「インディアンモトサイクル」は請求人の略称として、需要者の間に広く認識されていた。他方、被請求人は、「インディアンモーターサイクル」と同一性のない「Indianロゴ」や「Indianロゴ」を含む商標を使用してきた。
ウ 本件商標の登録後も被請求人は本件商標と同一性の範囲内にない「Indianロゴ」や「Indian Motocycle」等を使用している。
ア) 上述の通り、被請求人は、本件商標の登録当時はもとより、本件商標の出願当時、既に「Indianロゴ」、「ヘッドドレスロゴ」、「『ヘッドドレスロゴ』/Motocycle」等の「Indian商標」が市場で広く認識されていることを知っていた。また、「Indian Motocycle」、「インディアンモトサイクル」が請求人の略称として市場で広く認識されていることを知っていた。
イ) 被請求人が、平成7年以降、「Indianロゴ」や「Indianロゴ」を含む商標を使用して、Tシャツ、革製ジャケット、革製シャツ等を市場に投入し、市場を混乱させ、請求人の企業努力の成果を収奪し、請求人の業務を妨害して来たことは上述した通りである。被請求人のかかる行為により市場が撹乱され、需要者の間に混乱が生じさせられ、請求人やライセンシーの業務が妨害されたことは、云う迄もない。
ウ) 被請求人は、平成16年5月11日、「被服」を指定商品として、「Indian」を商標登録出願した(甲386)。かかる出願は、まっとうな事業者であれば決してしようとしない類の出願である。
エ) 更に、被請求人は、平成17年5月30日、業界紙である繊研新聞に甲第380号証の広告を掲載し、被請求人が本件商標を含む商標の商標権者であることを広告した。「Indian」ブランドの中核となる商標は「Indianロゴ」である。被請求人は、「Indianロゴ」を使用したシャツやジャケット等の商品の売り込みを企図していた。然しながら、日本市場は、請求人が「Indianロゴ」及びその他の「Indian商標」の正当な出所であると認識しているので、まっとうな小売店、問屋はこれらを取扱おうとしなかった。これは、請求人が、その取引者より得た確かな情報である。かかる広告は、被請求人が「Indianロゴ」を使用した便乗商品を販売するための布石としてなしたものであることは明白である。この広告が、小売店や問屋を狙ったものであることは、広告媒体が繊研新聞という業界紙であることから明白である。
オ) そして、かかる広告をした後、被請求人は、「Indianロゴ」に類似した筆記体の「Indian」(「類似Indian」)及び「右向きのインディアンの図形」からなる商標を襟の織ネームに付したシャツの製造を開始した(甲381、382)。この「類似Indian」及び「右向きのインディアンの図形」からなる商標は、請求人の長年の使用に係る周知の「Indianロゴ」よりなる商標と類似するものである。加えて、被請求人は、タグに、「類似Indian」を大書して使用した(甲381)。
カ) その上で、被請求人は、バイヤー向の2005年秋・冬物の展示会のオーダーシート(甲383)に、ブランド名として、「Sugar Cane」や「Buzz Rickson’s」等と並べて「Indian Motorcycle」と表示し、「類似Indian」及び「右向きのインディアンの図形」からなる商標を襟の織ネームに付したシャツの注文を取った。このオーダーシートには、「類似Indian」及び「右向きのインディアンの図形」からなる商標を表示していない。これらのシャツの胸や背や袖には、「Indian Motorcycle」を含むデザインが大書して付してあり、あたかも襟の織ネームの商標も「Indian Motorcycle」であるかのようによそおっている。
即ち、被請求人は、「類似Indian」及び「右向きのインディアンの図形」を商標として襟の織ネームに付して使用していながら、あたかも「Indian Motorcycle」を商標として使用しているかの如くよそおって、その製造にかかる上記シャツの発注を受け、業者に販売しているのである。
キ) そして、被請求人は、かかる商品を、「Indianロゴ」を始めとする「Indian」ブランドの商品の需要者を対象とした雑誌「Men’s Brand」に広告した(甲384)。(「Indian」ブランドは、アメリカンカジュアルのビンテージバイカー系ブランドであり、その需要者はファッションに関心をもつ若年男性層である(甲254)。)
そして、この広告において、被請求人は「Indianロゴ」を使用した(49頁左下、50、52、54頁右下)。加うるに、被請求人は、「Indianロゴ」を大書したエンブレムを広告に掲載した(49頁右下)。この「Indianロゴ」の使用様態は、「Indianロゴ」を大書し、「MOTORCYCLE」を著しく小書するものであり、かつ、赤い地に、「Indianロゴ」は白抜きの黒文字で大書し、「MOTORCYCLE」は単に黒文字で著しく小書して表示するものであり、看者の目を惹くのは「Indianロゴ」であり、「MOTORCYCLE」は看者の目を惹かず、実質的に「Indianロゴ」を単体で使用するのに外ならない。
更に、被請求人は、被請求人もその商品も1901年創立のIndian Motocycle Companyの前身のHendee Mamufactuaring Companyと全く無関係であるにも関わらず、これを関連があるかの如き欺瞞的な広告をしているのである(甲第384号証の広告中のエンブレムには「Indianロゴ」が大書され、「Hendee Mamufactuaring Company」が併記してある。)
ク) その上、被請求人は、そのウェブサイトで、トップページに、「SUGAR CANE」や「BUZZ RICKSON’S」などのブランド名と並べて「INDIAN MOTOCYCLE」(注.「INDIAN MOTORCYCLE」ではない)を配し、「INDIAN MOTOCYCLE」のページに、「2005 INDIAN MOTOCYCLE COLLECTION」の見出しの下に、かかる商品の写真を配し、宣伝している(甲385)。
即ち、被請求人は、「INDIAN MOTOCYCLE」を商標として、自らのブランド名として、使用しているのである。
ケ) 「Indianブランド」の中核は「Indianロゴ」である。そして、「Indianロゴ」はもとより、その他の「Indian商標」も、請求人が、営々としたかつ正当な企業努力を重ねて周知ならしめたものである。
また、「INDIAN MOTOCYCLE」は、請求人の略称であるが、その地道な持続的な企業努力の積重ねにより、周知の「Indian」ブランドの出所として既に周知である。被請求人のかかる「Indianロゴ」及びこれに類似した「類似Indian」並びに「INDIAN MOTOCYCLE」(これらは本件商標と同一性の範囲内にない)の使用により、需要者は、被請求人が請求人のライセンシーであるとの誤認をし、被請求人のかかる便乗商品を購入するおそれがある。
即ち、被請求人は、請求人の企業努力の成果を収奪し、請求人の業務を妨害するため、「Indianロゴ」に類似する「類似Indian」及び「右向きのインディアン図形」からなる商標をシャツに使用し、その広告に「Indianロゴ」を使用しているのであり、ウェブサイトで「INDIAN MOTOCYCLE」を使用しているのである。被請求人の狙いが、「Indianブランド」の中核である「Indianロゴ」の使用であることは明白であり、今回の商品の販売及び広告並びにウェブサイトの広告はその下準備であることは明白である。現に、被請求人は、既に活字体の「Indian」を第25類に出願しているのである(甲386)。このような出願は、まっとうな企業であればおよそ考えもしない類の行為である。
コ) シャツに付した「Indianロゴ」に類似した筆記体の「類似Indian」及び「右向きのインディアンの図形」からなる商標、シャツのタグに付した「類似Indian」、広告に使用した「Indianロゴ」及び「左向きのインディアンの図形」からなる商標、並びに、広告中のエンブレムに使用した「Indianロゴ」は、いずれも、本件商標はもとより、その他の被請求人の「Indian」関連の商標と同一性の範囲外にある。また、被請求人がそのウェブサイトの広告で使用した、「INDIAN MOTOCYCLE」も本件商標はもとより、その他の被請求人の「Indian」関連商標と同一性の範囲外にある。
サ) 本件商標を始め「Indianロゴ」を含む商標を出願し登録しながら、これを商品に使用せず、これと同一性のない商標(「類似Indian」及び「右向きのインディアンの図形」からなる商標を商品の襟の織ネーム及びタグに使用し、「Indianロゴ」+「左向きのインディアンの図形」からなる商標及び「『Indianロゴ』を大書したエンブレム」を広告に使用)を使用するという行為は、被請求人が片仮名の「インディアンモーターサイクル」を出願し登録を得ながら、これを一切商品に使用せず、これと同一性のない「Indianロゴ」、「『Indianロゴ』/Motocycle(書体は「Indianロゴ」と同じ)」(注.「Motorcycle」ではない)、「Indianロゴ/Motorcycle(書体は「Indianロゴ」と同じ)」などを商品に使用し、しかも、かかる商標を使用した商品を、請求人の企業努力により「Indianロゴ」等の「Indian商標」が衣類について市場に浸透し、平成6年になってマルヨシにバッグについてライセンスするまでになった直後である平成7年に、シャツ等を売出し、また、平成7年に請求人が「Indianロゴ」等の「Indian商標」を皮革製ジャケット及びパンツについて西澤社にライセンスし、西澤社が広告宣伝をして、「Indianロゴ」等の「Indian商標」を皮革製品について請求人を出所とする商標として市場に浸透させたその翌年、西澤社が前年の投資の成果を回収しようとした矢先である平成8年に、皮革製ジャケットやパンツを売出し、他方、平成6年に本件商標等を出願し、平成9年に「『Indianロゴ』/Motorcycle(書体は「Indianロゴ」に同じ)」を要部とする商標2件を出願したのと同じ手口である。
シ) 被請求人のかかる行為は、展示会ではブランド名を「Indian Motorcycle」にしておきバイヤーからのオーダーを取り付け、実際に市場に出す商品については、ブランドを標示する襟の織ネーム及びタグに「Indianロゴ」に類似した単体の「類似Indian」及び「右向きのインディアンの図形」からなる商標を使用し、また、需要者向の雑誌広告には、「Indianロゴ」及び「左向きのインディアンの図形」からなる商標を使用し、また、雑誌広告中のエンブレムには「Indianロゴ」を使用し、更に、需要者向けのウェブサイトの広告には、「INDIAN MOTOCYCLE」をブランド名として表示し、あたかも、正規に請求人から「Indianロゴ」等の「Indian商標」の使用をライセンスされた者であるかの如き外観を創りだし、「類似Indian」を襟の織ネームやタグに使用したシャツを販売するものもあり、周知の「Indian」ブランドの中核である「Indianロゴ」を広告に使用し、かつ、周知の請求人の名称である「INDIAN MOTOCYCLE」を使用して、請求人の13年以上にわたる地道な営々とした企業努力の成果を収奪する悪質な行為であり、被請求人には、健全な商標秩序を尊重し正当に商標を使用する、という意思が無いことを証明するものである。
ス) なお、「Indianロゴ」が「Indian」ブランドの中核として如何に周知であるかは、「0ldGlory/『Indianロゴ』」という「Indianロゴ」の周知性に便乗した商品が輸入販売されていることからも明らかである(甲387、388)。
セ) 中核である「Indianロゴ」を始めとする「Indian商標」は、請求人の平成5年よりの継続した着実な真摯な企業努力の積重により、既に長期にわたり需要者の間で周知である。このことは、三菱商事社の100%子会社であるライフギアコーポレーション社やヤング産業やオーエイチプラン社やプラニングジャパン社を始め、各業界の多くの企業が、請求人より「Indian商標」のライセンスを受け、ロイヤルティーを支払って、商品を製造販売していることから明白である(甲355ないし357参照)。
ライセンシー及びその商品の一覧は以下の通りである。
(ライセンシー名) (ライセンス商品) (期間)
(株)マルヨシ バッグ、袋物類 平成6年?平成8年
三竹産業(株) ベルト、財布、 平成6年11月
札入れ ?平成16年1月
西澤(株) 皮革製ジャケット 平成7年2月
及びパンツ ?平成11年3月
(株)プラニングジャパン 平成9年5月?現在
カット&ソー
(Tシャツ、
スエットシャツ)、
ニット
(株)元林 ジッポーライター 平成9年5月?現在
(株)ギャロップ レザーグローブ、 平成9年8月
バンダナ、ブルゾン、 ?平成11年7月
レインスーツ福井めがね工業(株) 眼鏡 平成10年1月
?平成13年6月
丸石自転車(株) 自転車 平成10年1月
?平成12年7月
(株)ライフギアコーポレーション
靴 平成10年5月?現在
(株)やまと プラスチック製二輪模型 平成11年4月
?平成12年3月
(有)オーエイチプラン 皮革ジャケット、 平成11年4月?現在
レザーグローブ、
ライダー用小物、
二輪車用ヘルメット、
レインスーツ
兼松日産林業(株) マッチ類 平成11年7月?現在
(株)エンポリオ 皮革、かばん類、 平成14年3月
袋物 ?平成15年2月
(有)レジスト 貴金属、身飾品 平成14年3月
?平成16年2月
(株)リベルタ 時計 平成15年4月
?平成16年3月
(株)アートハウス 愛玩動物用被服 平成15年10月1日
?現在
(株)クリエイティブガレージ
自転車(株式会社ジック) 平成16年4月?現在
ヤング産業(株) ベルト、財布、 平成16年7月?現在
札入れ
なお、請求人は、自ら、以下の通り販売している。
T-シャツ 平成6年?現在
スエットシャツ 平成6年?現在
ジュエリー 平成6年?現在
ワッペン・ステッカー・ピンズ(バッジ) 平成6年?現在
キャップ 平成6年?現在
バッグ 平成8年?現在
ジャケット・ブルゾン 平成9年?現在
デニムパンツ 平成9年?現在
ワークシャツ 平成9年?現在
ワッペン・ステッカー 平成12年?現在
サングラス 平成15年?現在
ちなみに、請求人は、平成8年から直営ブティックの開設を始め、現在直営ブティックは、東京2店、仙台1店、神戸1店、久留米1店、福岡1店である。また、直接の卸先は50店舗にのぼっている。
この13年にわたる請求人の企業努力の成果により、「Indianロゴ」を中核とする「Indian商標」が周知商標として確立し、その結果としてライセンシーが如何に確立しているかは、眼鏡や自転車などの二次的商品についてもライセンシーを得ていることからも明かである。これらの商品はブランドビジネスの中核である衣類についてブランドが確立しない限り、ライセンスを受けようとする者は存しない。
このことは、また、ライフギアコーポレーションやヤング産業のようなそれぞれの業界で権威のある会社もライセンシーとなっていることからも明かである。このような企業は、商いが大きいので、広範囲に卸売が出来る規模のブランドでない限り、ライセンスを取得することはしないのである。
「Indianロゴ」を中核とする「Indian商標」が長く周知であることは、平成6年に請求人がシャツ等の衣類のアクセサリーであるバッグについてマルヨシにライセンスしたこと(甲29ないし33)、平成6年に被請求人が本件商標等の出願をしたこと、平成7年に皮革製ジャケット及びパンツについて西澤社にライセンスしたこと(甲48ないし57)、並びに、平成7年に、すかさず、被請求人が「インディアンモーターサイクル」と同一性の無い「Indianロゴ」等を使用したシャツ等の販売を開始したこと(甲34ないし46)、平成8年に、「Indianロゴ」等を使用した皮革製ジャケットやバッグの販売を開始し(甲76ないし79)、仮処分決定を受けた(甲59)後も、「Indianロゴ」やこれに類似した書体の「Indian」等を使用したシャツ等を販売した(甲65ないし75)ことからも明白である。
ソ) 被請求人のかかる商法が健全な商標秩序を害するものであり、全く反社会的なものであることは、明白である。被請求人の行為は過去13年以上にわたり、請求人及びライセンシー各社が真摯な企業努力により築き上げた「Indian」ブランドに土足で踏み込むようなものであり、かかる商法、かかる行為は当然の事ながら禁圧しなければならない。
本来、被請求人は、請求人より周知の「Indianロゴ」等の「Indian商標」のライセンスを受け、及び、周知の請求人の名称である「INDIAN MOTOCYCLE」のライセンスを受け、ロイヤルティーを支払ってこれらを使用すべきものである。それが、ビジネスの常道であり、ライフギアコーポレーションを始めとする多くの名の通った企業が行っていることであり、まっとうな企業であれば必らずすることである。被請求人のなしていることは、全くかかるビジネスの常道を踏み外しているものである。 加うるに、被請求人は、アメリカンカジュアルのブランドである「Sugar Cane」やミリタリーブランドである「Buzz Rickson’s」等を有しており、「Indian」ブランドは単なる便乗であり、被請求人にとっては、「Indian」ブランドが確立しているため、便乗は「おいしいもの」である。
タ) そして、本件商標は、「インディアンモーターサイクル」と同様、被請求人において、かかる便乗商法を継続するための手段として、即ち、自らは本件商標を使用せず、これと同一性のない「Indianロゴ」や「INDIAN MOTOCYCLE」等を使用し、かかる使用に対し請求人よりクレームを受けるや、かかる商標登録をもって逆に請求人に対し訴を提起し、収奪妨害行為を継続するために、商標の先願主義を悪用して出願し登録を得たものである。このことは、上述の通り、上述の平成7年以降の被請求人の行為、平成16年4月の「Indian」の出願、及び、平成17年5月以降の被請求人の行為、即ち、商品の襟の織ネーム及びタグには「類似Indian」及び「右向きのインディアンの図形」からなる商標を使用していること、雑誌広告には「Indianロゴ」及び「左向きのインディアンの図形」からなる商標を使用し、広告中のエンブレムには「Indianロゴ」を使用していること、から明らかである。
なお、被請求人の「インディアンモーターサイクル」商標(登録第2634277号商標)に基づく請求人らに対する請求は、権利の濫用として、東京地裁及び東京高裁で排斥されている(甲80、甲263)ちなみに、被請求人は上告受理申立をしたが、これを取下げた(甲264、265)。
他方、請求人は「Indianブランド」のみを扱っている。被請求人の衣類についての便乗により請求人の築き上げた「Indianブランド」に傷がつくことは、請求人にとって死活問題である。
チ) 被請求人のかかる便乗商法は禁圧すべきものであり、その手段である本件商標は、健全な商標秩序を害するものであり、その登録を無効とすべきものである。
よって、本件商標は、請求人の「Indian」商標を用いたブランドビジネスを妨害する目的で出願し、登録を得たものであり、法4条1項7号に該当するから、その登録を無効とすべきものである。
3) 無効理由-2 法4条1項10号該当性
(1)ア 本件商標は、二重の円の図形の中に左向きのインディアンの図形を配し、その下に配した長方形の図形の中に「Indianロゴ」及び「MOTOCYCLE」を上下2段に配してなるものである。
イ 上述の通り、本件商標の出願時はもとより、本件商標の登録時においても「Indianロゴ」は、請求人がTシャツ、ジャケット、皮革製ジャケット、皮革製パンツ等に使用する商標として、需要者の間に周知であった。
ウ 本件商標は、請求人の上記の周知商標「Indianロゴ」と類似する。本件商標の指定商品は、洋服、コート、セーター類、ワイシャツ類、寝巻き類、下着、水泳着、であり、請求人が「Indianロゴ」及び「ヘッドドレスロゴ」並びに「Indian Motocycle」を使用するTシャツ、ジャケット、皮革製ジャケット、皮革製パンツ等に類似する。
(2)よって、本件商標は、法4条1項10号に該当するから、その登録を無効とすべきものである。
4)無効理由-3 法4条1項15号該当性
(1)ア 本件商標は、二重の円の図形の中に左向きのインディアンの図形を配し、その下に配した長方形の図形の中に「Indianロゴ」及び「MOTOCYCLE」を上下2段に配してなるものである。
イ 「Indianロゴ」は、本件商標の出願当時、即ち、平成6年9月当時、仮に周知でなかったとしても、少なくとも、請求人がTシャツ、帽子などに使用する商標として需要者の間に広く浸透していた、また、「Indian Motocycle」、「インディアンモトサイクル」は、請求人の略称として、需要者の間に広く浸透していた。本件商標の登録時には、「Indianロゴ」は、請求人が衣類等に使用する商標として需要者の間で広く認識されており、「Indian Motocycle」、「インディアンモトサイクル」は、請求人の略称として、需要者の間に広く認識されていた。
ウ したがって、本件商標の出願時においても本件商標の登録時においても、本件商標をその指定商品に使用するときは、かかる商品が被請求人の業務に係る商品であるとの誤認を生じさせるおそれがあった。
よって、本件商標は、法4条1項15号に該当するから、その登録を無効とすべきものである。
(2)結論
よって、本件商標の登録は、法46条1項1号により、無効とすべきものである。

第3 請求人の弁駁
1 弁駁の趣旨及び理由
被請求人の答弁書中の主張はいずれも理由が無い。
本件商標は、法4条1項7号及び同10号又は同15号に該当するから、本件商標の登録は無効とすべきものである。
2 論述の順序
以下、3 において、答弁書「6.理由」中の被請求人の主張に逐一反論し、理由のないことを明らかにし、4において、本件商標が法4条1項7号及び同10号又は同15号に該当することを、改めて述べ、5において、本論の結論を述べる。
3 以下、答弁書「6.理由」中の被請求人の主張に逐一反論し、理由の無いことを明らかにする。
1)「(1)事実関係について」について
(1) 第1パラグラフ(1行から6行)について
第1パラグラフにおいて、被請求人は、「多くの審判決で尽く否定されている」にも拘わらず請求人が「その主張全般にわたって事実に反する主張を相変わらず繰り返す」と述べ、請求人の主張が「誤った心証形成を意図したものであることは明らかであり」、「欺瞞的である」と述べるが、被請求人のかかる陳述は事実無根であり、被請求人の主張それこそが「欺瞞的」であり「誤った心証形成」を意図したものである。
審判請求書において、請求人は証拠に基づき事実を立証したが、かかる事実は法4条1項7号、法4条1項10号及び法4条1項15号の解釈適用において考慮すべき法的に意味があり関連性のある要件事実及び間接事実であり、法的主張はかかる事実に基づく主張であり、法4条1項7号、法4条1項10号及び法4条1項15号の趣旨に則り、かつ法4条1項7号、法4条1項10号及び法4条1項15号の解釈適用を示した裁判例に則ったものであり、全く合理的なものである。
即ち、請求人の主張は、法的に意味があり関連性のある事実を主張し、それを証拠をもって立証し、かかる事実に基づき理由のある法的主張を展開したものであり、極めて合理的なものである。
被請求人は、請求人のかかる主張に対して何ら正面から反論することなく、「その主張全般にわたって事実に反する主張を相変わらず繰り返す」などと全く根拠のない「言いがかり」という外ない陳述をして、請求人の証拠に基づく合理的な主張をかわそうとする。被請求人の主張は「まやかし」という外ないものであり、被請求人がかかる「まやかし」の主張をすること自体、請求人の主張が証拠に基づく合理的なものであり、被請求人においてこれに対する反論が無く、請求人の本件審判請求に理由があることを反面から明らかにするものである。
仮に、請求人の証拠に基づく事実の主張に対して被請求人において真実反論があるのであれば、反証を出し反証に基づいて事実を主張して反論するのが当然であり、まっとうな者であれば当然することである。また、請求人のかかる事実に基づく法的主張に対し被請求人において反論があるのであれば、逐一法律論を展開し正面から反論すれば良い。然るに、被請求人は、かかる反証反論を一切せず、請求人の要件事実及び間接事実の主張並びに証拠に基づくかかる事実の立証に対し、何ら意味のある反論もせず、何ら反対事実の主張もせず、何ら反証もすることなく、主張された事実も異なり、提出された証拠も異なり、争点も異なる事件、即ち、本件と事案を異にする事件、に対する審判決例における事実認定を引いて、請求人の主張を「事実に反する主張」と切り捨て、「欺瞞的な主張」であると切り捨てる。他方、被請求人に不都合な認定判断をした査定審決等は「誤り」であると極め付け、排除せんとする。
被請求人のかかる態度は、請求人の主張が証拠の裏付けがあり合理的なものであるため、何ら反論することが出来ないことから、かかる反論をしないで、本件と提出された証拠も異なり、主張された事実も異なり、争点も異なり、したがって、証拠の取捨選択、証拠価値の評価、事実の見方(切り口)も異なり、認定判断も異なる審判決例を、あたかも、本件と同じ証拠が提出され、本件と同じ主要事実間接事実が主張され、争点も本件と同じである同一事件であるかの如くにすりかえて、かかる審判決例の認定判断のうち自らに都合のよい点のみを引っぱり出すことにより、請求人の主張に対する反論に代えんとするものであり、本件の主要事実、間接事実、争点を歪曲し、誤った心証を審判官に抱かせんとするものであり、「欺瞞的」であり、全く理由が無い。
即ち、請求人の答弁書における主張が、請求人の審判請求書における主張に対する反論を構成しえないことは明らかである。
被請求人は、「このような請求人の欺瞞的な主張によって、誤った審査や審決がなされた過去の経緯もある」と述べるが、自分に都合のよい認定や判断を含む審決判決については、正当であると言い、自らに都合の悪い認定や判断を含む査定や審決についてはこれを「誤り」と言って切り捨てるものであり、被請求人のかかる態度は、真摯な、要件事実及び間接事実の主張並びにかかる事実の証拠による立証という、請求人のとっている当事者として当然採るべき態度と対比したときに、著しく不誠実なものである。
即ち、被請求人の主張は、争点も主要事実も間接事実も証拠も異なる事案(かかる案件についての審決や判決は本件における事実認定や判断に影響するものではない)についての審決や判決のうち、自らに都合の良い認定を含むものは、これを持ち出し、これに基づいて自らの事実の主張の証拠とせんとし、自らに都合の悪い認定や判断を含むものについては、これを「誤り」であるとして切り捨てるものであり、全く不誠実であり、「欺瞞的」であり、「誤った心証形成」を意図するものであり、請求人の主張に対する反論を構成し得ないものである。判決や審決における認定、判断は、とりわけ事実の認定は、その事件限りのものであり、かかる判決や審決は別事件における事実認定において事実を立証するための証拠としての価値を有しないものである。単に、別の事件において、その事件の事案の下で、かくかくの事実認定がされたことがある、ということを示すにすぎない。
かかる点を取り上げただけでも、被請求人の答弁書における主張に理由のないことは明らかである。
(2) 第2パラグラフ(7行から9行)について
被請求人は、「以下に記す事実関係については、関連する審判での審判決や不正競争差止等請求控訴事件(平成16年(ネ)第745号)での判決によって既に認定されているところである」、と述べ、被請求人の主張する事実があたかも真実であるかの如く主張するが、かかる主張は全く理由がない。被請求人は自らの事実の主張につき乙第1ないし第8号証を証拠とするが、これらの審決判決は、全く別の事件についての審決判決例であり、関連する法条はもとより、争点も異なり、要件事実も間接事実も異なり、証拠も異なるものであり、かかる審決判決例は被請求人の主張事実を立証するものではなく、被請求人の主張は理由が無い。そもそも、被請求人の主張は、乙第1号証ないし第8号証における具体的にどの事実認定が具体的に如何なる証拠に基づいて、如何なる状況の中でなされたかすら一切示さないものであって、かかる主張は主張自体失当である。
(3) 乙第1号証ないし乙第8号証について
以下、乙第1号証ないし乙第8号証について簡略に触れる。
ア 乙第1号証
第1に、乙第1号証は、被請求人の登録第2634277号商標(旧第17類、片仮名「インディアンモーターサイクル」)に関する審決例であり、本件商標に関する審決例ではない。加うるに、同審決の事実摘示から明らかなように、無効理由として主張された事実は本件と異なる上、同事件において争点とされたところも異なる。更に、同事件において提出された証拠も本件と異なる。したがって、乙第1号証は、被請求人の主張を支持しうるものではない。
イ 乙第2号証
第2に、乙第2号証は、被請求人の旧第17類片仮名「インディアンモーターサイクル」(登録第2634277号)に対する不使用取消審判請求に対する審決に対する審決取消請求事件に対する判決であり、対象となる商標も異なれば、関連する法条も異なる。もとより、要件事実、間接事実も異なり、提出された証拠も異なり、争点も異なる。かかる判決中の認定が本件における被請求人の事実の主張の証拠たりえないものでないことは明白である。
ウ 乙第3号証
第3に、乙第3号証は、被請求人の旧第17類「インディアンモーターサイクル」商標(登録第2634277号)の登録を、法51条(不正使用)により取消した特許庁の審決(甲251)を取消した判決であり、該当法条も異なり、要件事実も間接事実も異なり、争点も異なり、証拠も異なる。かかる判決中の事実認定が本件において被請求人の主張する事実を裏付ける証拠となり得ないことは明白である。なお、乙第3号証の認定判断が粗雑であり、法の樹立せんとする秩序に反する結果をもたらし、正義に反するものである、と解すべきものであることは、甲252、253に詳細に記載した通りである。
エ 乙第4号証
第4に、乙第4号証は、被請求人の旧第17類の「インディアンモーターサイクル」商標(登録第2634277号)に関するものであり、本件商標に関するものではない。したがって、同事件は、法4条1項7号に関するものではあるが、要件事実も間接事実も本件と異なり、また提出された証拠も異なり、争点もことなる。かかる判決における事実認定が本件における被請求人の事実の主張の証拠となるものではない。
オ 乙第5号証
第5に、乙第5号証の各異議決定もまた、本件における被請求人の事実の主張を立証する証拠なるものではない。
ア) まず、異議2004-90314についての異議決定であるが、なるほど、同異議決定は、本件商標に関するものであり、法4条1項7号及び法4条1項10号に関するものではある。然しながら、法4条1項7号については、本件商標が請求人の業務を妨害する目的で登録出願をし登録を得たものであり、公正な競争秩序を害するものであると認めるには証拠不充分であるとして、法4条1項7号該当性を否定したのであるが、本件において提出された証拠とを同異議事件において提出された証拠とは異なるのであり、また、同異議決定は具体的に如何なる証拠によっては具体的に如何なる事実が認められないと判断したのか、を示していない。(同異議決定は、直接「他人の業務を妨害する目的で出願した」ことを示す証拠がないと述べているようである。)
本件商標が請求人の業務を妨害する目的で被請求人が登録出願をし登録を得たものであるか否かは、本件商標が出願される前、出願後登録される前、登録された後の被請求人の行為及びかかる行為のなされた状況その他の間接事実によって判断すべきものである。自ら、他人の業務を妨害する目的で登録したと認める者はないのであるから、かかる主観的要件である他人の業務を妨害する目的はこれを直接証する直接証拠は無いのが当然であり、本件商標の態様、引用商標の態様、出願登録の前後の被請求人の行為とその行為のなされた状況等により認定すべきものであり、間接証拠により認定すべきものである。(なお、念のため述べれば、被請求人がかかる目的で本件商標を登録出願し登録を得たものであることは、本件審判請求書記載の間接事実(もとより証拠により充分に立証した)から明らかである。)
したがって、同異議決定は、本件における被請求人の主張を裏付けうるものではない。
また、法4条1項10号の該当性についても、同異議決定が本件商標の出願前の請求人の商標の周知性を否定する理由として、販売数量、売上高に言及しているが、「周知性」とは「需要者の間に相当広く知られている」状態をいうのであり、販売数量や売上高は「周知性」を認定する一つの尺度ではあっても全てではない。
例えば、売出開始前でも、告知により需要者の間に浸透し、相当多数の需要者が知る状態に至れば、周知である。「Indian」ブランドは、平成5年11月には、「ブームになるのが時間の問題」である程度に需要者の間に浸透していたのであり(本件審判請求書4頁ア)からウ))、平成6年初めには、請求人の企業努力の成果で、バッグ類についてマルヨシにライセンスをするまでに至っていたのであり、本件商標の指定商品である衣類について、「Indian」ブランドは請求人の商標として需要者の間に広く浸透していたのである(本件審判請求書5頁エ)から8頁コ)。
であったからこそ、被請求人は、本件商標を平成6年9月21日に出願したのである。本件商標は、「Indian」ブランドの中核をなす「Indianロゴ」(特徴ある筆記体の欧文字の「Indian」)の下に欧文字の「MOTOCYCLE」を配してなるものであるが、「IndianMOTOCYCLE」は請求人の略称である。しかも、本件商標における左向きのインディアンの図形は、請求人がライセンスし、マルヨシがバッグに使用した図形である(甲30)。
およそ、他人(=請求人)が販売する衣類に使用する商標の中核である「Indianロゴ」、同他人(=請求人)が販売する衣類に使用する商標であり同他人(=請求人)の略称である「IndianMOTOCYCLE」、同他人(=請求人)がライセンスした商品に使用された商標中の図形と同じ図形、を構成要素とする商標をわざわざ登録出願し登録を得る、というような行為は、まっとうな業者であれば決してしないことである。かかる商標登録出願は、他人(=請求人)の業務を妨害する目的でなくなすことなどあり得ないことである。偶然にかかる行為を行うということはあり得ない。被請求人がかかる登録出願を行ったのは、「Indianロゴ」等の「Indian」ブランドが需要者の間に広く浸透していたからに外ならない。他人(=請求人)の「Indian」ブランドが需要者の間に広く浸透しているからこそ、本件商標のような商標を使用した商品を販売することに旨味があるのである。周知でない他人のブランドはそもそも便乗しようがないし、旨味が無い。事実、翌平成7年、被請求人は「Indianロゴ」等を使用して請求人の商品の需要者層と同じ需要者向けに「Indianロゴ」等を使用した衣類の販売を開始したのである。
なお、甲第1号証に示すように、「BEAR SURF BOARDS」を始めとして、「TACHINNI」、「BODY GLOVE」、「LIFE’S BRACH」、「BAD BOY CLUB」、「BUD LIGHT」、「O’NEIL」、「ペンドルトン」、「BIG WEDNESDAY」、「CAN’T BUST’EM」、「MATSON LINE」、「STARDUST」などの海外ブランドを多数冒認出願し登録を得、はては、「米国陸軍航空隊のマーク」、「ARMY AIR FORCES」や「STARS AND STRIPES」など米国の陸軍航空隊や米軍の広報誌の名前まで商標登録出願し登録を得ているのであり、「TOM SAWYER」などの固有名詞も登録出願し登録を得ているのである。(なお、甲99、202?212、214?218参照)(なお、甲218は、被請求人が、日本に上陸しそうな外国ブランドを片仮名で商標登録出願し登録を得ておき、同外国ブランドが日本に導入されたときに、導入者の企業努力の成果に便乗して商品を販売し、これを咎められるや(導入者が咎めるのは当然である)登録を得ていた片仮名の商標に対する商標権をもって対抗する、ということを行ったことを示す。被請求人は、「Indian」ブランドについても、これと同じことを行ったのである。かかる行為は、先願先登録主義の悪用である。)
以上の点を考えれば、同異議決定における周知性を否定した判断には、「周知性」のとらえ方、証拠の取捨選択証拠価値の評価に問題がある、といわなければならない。
なお、同異議決定における認定は、同事件限りのものであり、本件における被請求人の事実の主張の証拠となりうるものではないことは、上述した通りである。
イ) 異議2004-90313異議決定
異議2004-90313に対する異議決定についても、上述の異議2004-90314異議決定について指摘した批判がそのまま妥当する。繰り返すが、「申立人(=他人)の業務を妨害する目的で登録出願をし登録を得た」か否かは、間接事実によって認定すべきものであり、間接証拠によって認定すべきものである。登録出願をし登録を得た者が自ら「他人の業務を妨害する目的で登録出願をし登録を得た」と認める筈が無いのであり、主観的要件である「他人の業務を妨害する目的」については直接証拠は存しないのが当り前であるから、間接証拠により認定せざるを得ないのであり、間接証拠による認定をしないことは誤りである。事実、当然の事であるが、母衣旗事件判決においても、間接事実により「他人の業務を妨害する目的で」登録出願し登録を得た事実を認定している。
また、周知性についても、「周知性」とは需要者の間に相当知られていることをいうにも拘わらず、かかる観点から同事件において異議申立の対象となった商標の出願の前の状況を分析した形跡は無く、他方、販売数量、売上高を重視していることがうかがえ、「Indian」ブランドの周知性を否定した認定は不適切である。
いずれにしても、同事件もそもそも本件とは別の事件であり、間接事実も異なり、本件と争点も異なり、証拠も異なるのであり、間接事実や証拠の評価も異なるのであって、同異議決定における事実認定が本件における被請求人の主張事実を証する証拠たりうるものではない。本件における特許庁の認定判断に影響するものではない。
ウ) 異議2004-90317異議決定
異議2004-90317の異議決定についても上述したところと同じ批判があてはまる。そもそも、同事件は本事件と異なる時期に出願された異なる商標に関するものである。また、当事者の主張に係る主要事実、間接事実も本件と同一ではなく、争点も異なり、提出された証拠も同一でない。よって、特許庁の観点(切り口)も本件と異なるものである。
したがって、かかる事件における特許庁の認定をもって被請求人の本件における事実の主張の証拠としうるものではない。
なお、公序良俗違反(他人の業務を妨害する目的で登録出願し登録を得た)という論点について、同異議決定は、同異議の申立人(=請求人)(=他人)の「Indianロゴ」等の商標が周知でないから、他人の業務を妨害する目的を認定出来ないと誤った認定をしている。
母衣旗事件判決における判旨からも明らかなように、ある商標が他人の業務を妨害する目的で登録出願され登録されたというために、その他人の使用に係る商標が周知であることは要求されない。したがって、この点において同異議決定の判断は誤りである。
更に、上述の通り、「他人の業務を妨害する目的」は主観的な要件であり、かかる目的の存否は登録出願の前後登録の前後の事情(行為、状況)その他を考慮して認定しなければならない。然るに、同異議決定はかかる観点から間接事実の把握をせず、よって、関連する証拠の評価も行っておらず、この点からも同異議決定の認定判断には問題がある。
要するに、同異議決定は、本件と異なる事案に対する決定であり、本件における被請求人の主張事実を認定する証拠としての価値を有しうるものではない。
エ) 異議2004-90316異議決定
異議2004-90316に対する異議決定についても、同様の批判が妥当する。そもそも、同異議決定は、本件商標と異なる時期に出願された異なる商標に関するものであり、主張も証拠も争点も異なる。
なお、同異議決定は、異議申立の対象となった商標の出願に至る経緯のみを問疑し、登録後の状況を全く考慮にいれていない。加えて、1901年のインディアン・モトサイクル社と同事件の異議申立人(=請求人)との間に関連があることが他人の業務を妨害する目的を認定する上での要件であるとの誤った前提のもとに判断している。1901年創立のインディアン・モトサイクル社(「旧インディアン社」)と請求人との間に関連があるかないかということは「他人(=請求人)の業務を妨害する目的」の認定判断に何ら影響することではない。もとより、かかる異議決定における認定は本件における被請求人の主張事実の証拠たりうるものではない。
オ) 異議2004-90318異議決定
異議2004-90318に対する異議決定も、本件商標と異なる時期に出願された商標に関するものであり、その点において既に同異議決定は本件と事実を異にし、本件における被請求人の主張事実の証拠たりうるものではない。
付言するに、法4条1項7号該当性に関して、他人(=請求人)の商標が周知であることが「他人の業務を妨害する目的で」登録出願をし登録を得たことの認定において要件ではないにも拘わらず、請求人の商標が周知であることを条件としている。
もとより、かかる異議決定における認定は、本件において被請求人の主張事実を立証する証拠としての価値を有しないものであり、本件における被請求人の主張を支持しうるものではない。
カ) 異議2004-90320異議決定
異議2004-90320の異議決定もまた、本件において証拠価値を有するものではなく、被請求人の主張事実を証する証拠たりうるものではない。
同決定は、本件商標と異なる時期に出願された登録第4751429号商標に関するものであり、本件商標に関するものではない。同異議決定は本件と異なる事案に関するものである。
要するに、同異議決定は、本件と異なる事案に関するものであり、争点も異なり、証拠も異なり、切り口(事実の評価、証拠の取捨選択評価)においても本件と異なるのであり、同異議決定は本件における証拠としての価値のないものであり、同異議決定における認定判断は本件における特許庁の認定判断を左右するものでもなく、本件における被請求人の主張を支持しうるものでもない。
キ) 異議2004-90319、2004-90321、2004-90315異議決定
同様に異議2004-90319に対する異議決定、異議2004-90321に対する異議決定、異議2004-90315に対する異議決定も、上に述べたと同じ理由により、本件において証拠価値を有するものではく、 被請求人の主張を支持しうるものではあり得ない。
以上述べたように、乙第5号証は、本件において証拠としての価値を有するものではなく、本件における被請求人の主張を支持しうるものではなく、本件における特許庁の認定判断に影響するものではない。乙第5号証の各異議決定は、本件と異なる事件、即ち、争点、主要事実、間接事実、証拠の異なる別事件に対するその時々の特許庁の認定判断を示しうるにすぎず、そもそも事実認定の資料たりうるものでもなく、本件における被請求人の主張を支持しうるものでもない。
被請求人は、何ら理由を示すことなく、自己に都合の悪い査定、審決等は「誤りである」と述べ、これらにおける認定判断が本件における特許庁の認定判断に影響するものではないと一方で主張しながら、自らに都合の良い部分を含む審決や判決や異議決定を証拠として援用する。かかる被請求人の態度は全く矛盾したものであり、合理性を全く欠くものである。この一点のみを把えても、乙第5号証はもとより、乙第1ないし乙8号証が、本件において証拠価値を有しうるものでなく、被請求人の主張する事実を裏付けうるものでもなく、いわんや、本件における特許庁の認定判断を左右しうるものではないことは明白である。
カ 乙第6号証
乙第6号証は、登録第2710099号商標に対する無効審決の取消訴訟についての判決であり、争点は、同商標が登録第2634277号商標(片仮名「インディアンモーターサイクル」)に類似するかということであり、本件と対象商標も全く異なり、争点も全く異なる。もとより、争点も事実も証拠も異なる。
かかる判決中の認定判断が本件における特許庁の認定判断に対して何ら影響しないものであることは明白であり、乙第6号証は本件において被請求人の主張する事実の証拠たりうるものでもなく、被請求人の主張を支持しうるものでもない。
キ 乙第7号証について
乙第7号証は、登録第4022987号商標に係るものであり、本件商標に係るものでない。したがって、既にこの点において、本件に何ら影響しうるものではない。
更に、同事件の争点は、登録第4022987号商標が本件商標と類似するか否かであり、本件と争点を全く異にする。なお、同事件の対象となった特許庁の審決は、「Indianロゴ」からなる登録第4022987号商標は本件商標と類似しないと判断したものである。
したがって、乙第7号証も、本件において証拠価値を有するものでもなく、本件における被請求人の主張を支持しうるものでもない。
ク 乙第8号証
乙第8号証は、不正競争防止法違反事件に関するものであり、本件と全く異なる事件に関するものであり、本件において証拠価値を有するものではない。
なお、乙第8号証は、甲第223号証の判決に対する控訴審判決であるが、同判決は甲第263号証の判決(被請求人の請求人らに対する片仮名「インディアンモーターサイクル」商標に対する商標権に基づく差止、損害賠償の請求が権利の濫用であり許されないとした東京地裁の判決を維持した判決)と同一裁判所(東京高裁知的財産第3部)により同時に審理され同日に言渡されたものである。
(4) 「ア.被請求人(東洋)について」について
ア 被請求人が「SUGAR CANE」や「BUZZ RICKSON’S」などのブランドを有していることは認めるが、その余の主張は否認する。これらのブランドがアメリカンカジュアルブランドの衣料の代名詞的ブランドであるとか、多くの取引者や需要者から高い信頼と支持を得、市場での地位は不動なものとなっている、等の主張は否認する。
被請求人の主張は、乙25、乙26に基づくものであるが、乙25は出所不明の記事であり、そもそも証拠価値がない。また、乙26は楽天のネット販売用の被請求人の商品の広告であって、客観性に欠け、証拠価値がない。かかる証拠に基づく被請求人の主張は根拠を欠き理由がない。
イ なお、被請求人は、上述の如く、「ベアーサーフボード」はもとより、「TACHINNI」、「BODY GLOVE」、「LIFE’ABEACH」、「BAD BOY CLUB」、「BUD LIGHT」、「ペンドルトン」、「CAN’T BUST’EM」、「O’NEIL」、「米国陸軍航空隊のマーク」、「ARMY AIR FORCES」、「STARS AND STRIPES」、「TOM SAWYER」など国際信義に反する商標も多数出願登録しているのであり、また、「ベアーサーフボード」を無断で登録出願し登録を得、正規の「BEAR SURF BOARDS」ブランドビジネスが日本に導入展開されたときに、かかる「ベアーサーフボード」商標に対する商標権をもって、かかる正規のビジネスの展開を妨害したのである。これは被請求人が「Indian」ブランドについて行ったことと同じである。
かかる行為を多数繰り返し行う被請求人が如何なるものであるかは明白であり、およそ多言を要しないのである。
(5) 「イ.請求人(インディアンジャパン社)について」について
設立日と定款の記載に関する被請求人の主張は認める。なお、請求人の業務は、衣類の製造販売並びに衣類その他の商品についてのライセンス業務である。請求人がライセンス以外に業務を行っていないかの如き被請求人の主張は誤解を与えるものである。
(6) 「ウ.旧インディアン社について」について
ア 甲第2号証に示すように、1901年創立のインディアン・モトサイクル・カンパニー(当初の商号ヘンディー・マニュファクチュアリング・カンパニー)(「旧インディアン社」)が1953年事業を停止したことは事実である。
旧インディアン社の「Indianロゴ」等を使用したオートバイは、「ハーレー」と人気を2分したのであった。
イ 被請求人の第2パラグラフ(6行目「請求人は、」から10行目「一切関係ない」迄)の主張は、事実を歪曲するものである。
請求人は、被請求人の主張するように、「旧インディアン社の過去の実績や商標使用の事実を示す資料を請求人らと何らかの関係を有する者による実績や事実であるかのように証拠として提出して」もいないし、「請求人と同社(旧インディアン社)との間には、何らかの関係や継続性があるかのような主張」をしてもいないし、もとより「繰り返し」てもいない。
被請求人の主張は、事実を歪曲して、被請求人の行為の反公序良俗性、社会的妥当性の欠如(請求人の業務を妨害する目的で本件商標の出願をし登録を得た事実)に光が当ることから目を外らさせるために行っているものであり、自らに都合の悪い認定判断を含む査定や審決を「誤り」であると言って切り捨て、都合の良い審決や判決を「正しい」ものであるとして、事案の違いや証拠や争点や事実の違いを無視して証拠として持ち出すのと同じ態度であり、被請求人が何たる者であるかを如実に示すものであり、誠に遺憾である。
(7) 「エ.ザンギ・インディアン社について」について
ア 被請求人の主張は事実を歪曲するものである。
イ 1991年に設立されたインディアン・モトサイクル・カンパニー・インク(以下「新インディアン社」)は、旧インディアン社がオートバイに使用していた「Indianロゴ」等の商標をマーチャンダイジングブランドとして興した会社である(甲6、甲7)。
当時、旧インディアン社は消滅し、その使用していた商標に対する商標権も消滅していた。即ち、かかる商標は無主の状態にあった。したがって、新インディアン社が旧インディアン社の使用していた商標を自らのマーチャンダイジングビジネスの核となる商標として採用した行為は何ら非難すべきものではない。かつて何人かによって使用されていた商標は、その商標権者が居なくなっても、他の何人もその使用をしてはならないということにはならないし、その商標を他の何人も登録してはならないということにはならない。(被請求人自身、「Indianロゴ」や「ヘッドドレスロゴ」を含む商標の登録を得ている。)かつて使用されていたが使用されておらず商標権者が存在しなくなった商標に新しい価値を見出し、マーチャンダイジングビジネスの核となる商標として採択する、という行為は正当な行為であり、何ら非難に値する行為ではない。
ウ 新インディアン社は、旧インディアン社がオートバイに使用していた「Indian」商標をマーチャンダイジングビジネスの核となる商標として位置付けた。即ち、新インディアン社は、旧インディアン社のオートバイの商標であった「Indian」商標に、衣類を始めとするマーチャンダイジングのブランドとしての価値を新たに付与した。
そして、新インディアン社による「Indian」商標を使用したマーチャンダイジングビジネスの開始及びマーチャンダイジングビジネスの核としての新しい価値の付与された「Indian」商標の採用は、甲6、甲7の米国の一般紙においても報じられた程、広く報じられた。
即ち、新インディアン社は、「Indian」商標を用いたマーチャンダイジングビジネスの主体として社会的に承認されたのであり、マーチャンダイジングビジネスの核としての価値を新たに付与された「Indian」商標の主体として社会的に承認されたのである。これが社会の健全な常識というものである。
エ したがって、「Indian」商標を用いてマーチャンダイジングのブランドビジネスを展開しようとする者は、新インディアン社からかかるビジネスを展開する権利の許諾を受けてかかるビジネスを展開することがビジネスの常道であり、社会的に相当な行為である。このことが当然の事であることは、以下の事例と対比すれば、一目瞭然に判ることである。
即ち、ワーナーブラザーズ社が映画「Big Wednesday」を製作上映した。その結果、同映画の中で使用された「BEAR SURF BOARDS」が有名になり、マーチャンダイジングビジネスの核となる商標として使用出来るものとなった。
かかる場合、マーチャンダイジングブランドとしての「BEAR SURF BOARDS」に対する権利はワーナーブラザーズ社に帰属するとするのは社会的に健全な考えであり、「BEAR SURF BOARDS」を用いてブランドビジネスを展開しようとする者は、ワーナーブラザーズ社に相当な対価を支払いかかる権利を取得して、「BEAR SURF BOARDS」のブランドビジネスを展開する、というのがビジネスの常道であり、社会的に相当な行為である。
事実、「BEAR SURF BOARDS」においては、ヴァルキリー社がワーナーブラザーズ社よりかかる権利を全世界について取得し、かかるヴァルキリー社よりサクラインターナショナル社が日本における「BEAR SURF BOARDS」を使用したブランドマーチャンダイジングビジネス展開の権利を相当な対価を支払って取得し、ビジネスを展開したのである。かかるヴァルキリー社の行為もサクラインターナショナル社の行為も、ビジネスの常道に則ったものであり、社会的に相当な行為であり、賞讃に値こそすれ、一点の非難の余地もないものである。
然るに、被請求人は、ワーナーブラザーズ社により「Big Wednesday」が製作され上映され、「BEAR SURF BOARDS」を使用したブランドビジネスの展開及びその日本への導入が考えられる事態に至るや(かかることはブランドビジネスにたずさわる者であれば誰でも考えうるものである)、ワーナーブラザーズ社に対して権利許諾の申請など一切せず、知らぬ顔をして「ベアーサーフボード」を旧第17類に商標登録し、サクラインターナショナル社による「BEAR SURF BOARDS」ブランドビジネスが日本で展開されるや、「ベアーサーフボード」に対する商標権をもって仮処分申請をするなどして、正規のブランドビジネスの展開を阻害したのである(甲215から218)。
このような商標登録出願、登録取得、権利行使は、極めて反社会的なものであり、社会的妥当性を欠くことが明らかなものであって、まっとうな事業者であれば誰も考えすらしないことである。「BEAR SURF BOARDS」に類似する商標を出願登録したものは、一人被請求人のみである。
この一事をもってしても、被請求人が如何なる者であるか明白である、といわなければならない。
オ そして、被請求人は、これと全く同じことを「Indian」商標についても行ったのである。
即ち、1991年、新インディアン社による旧インディアン社がオートバイに使用していた「Indian」商標を用いたマーチャンダイジングビジネスの起ち上げが広く報じられ、かかる「Indian」商標を用いたブランドビジネスが将来日本においても導入展開されるべきことが予想されるに至った。(かかる予想は、ブランドビジネスにたずさわる者であれば誰でも容易にしうるものである。)
すると、被請求人は、すかさず、「インディアンモーターサイクル」を旧17類に商標登録出願し登録を得た。そして、新インディアン社から「Indian」商標を用いたマーチャンダイジングビジネスを日本において展開する権利を一億円もの対価で取得したスコット・カジヤがサンライズ社(甲22)と合併で請求人を設立し、新インディアン社から取得した権利を請求人へ譲渡し、請求人が「Indian」商標を用いた衣類等の販売、告知を行い、「Indian」ブランドを需要者の間に浸透させるや、被請求人は、すかざず、「Indianロゴ」などの「Indian」商標を用いた衣類の販売を開始し、市場を混乱させ、請求人の業務を妨害し、請求人より訴を提起されるや、「インディアンモーターサイクル」に対する商標権をもって、請求人らに対する訴訟や仮処分を提起し、かかる妨害行為を継続せんとし、他方、本件商標等の出願をしたのである。
上述の通り、マーチャンダイジングビジネスの核としての新しい価値を付与され社会的に認知された「Indian」商標に対する権利は新インディアン社が有するとするのがビジネスの常道であり、社会的に相当な価値判断であり、かかる新インディアン社(「BEAR SURF BOARDS」におけるワーナーブラザーズに相当する)から相当な対価を支払って日本における「Indian」商標を使用したマーチャンダイジングビジネスの権利を取得したスコット・カジヤの行為はビジネスの常道に則ったものであり、社会的に相当であり、賞讃すべきものでこそあれ、何ら非難すべき点のない行為である。
なお、スコット・カジヤは、「BEAR SURF BOARDS」におけるサクラインターナショナルに対応するものである。
かかる請求人の訴が商標権の濫用であることは明白であって、当然の事ながら、東京地裁も東京高裁もかかる請求を権利濫用として棄却し(甲80、263)、かかる仮処分命令申立を東京地裁は却下し(甲224)、東京高裁も抗告を棄却したのである(甲225)。(ちなみに、被請求人は訴訟を故意に遅延させた(甲81)。)
「インディアンモーターサイクル」に基づく請求は権利濫用であるということは、即ち、「インディアンモーターサイクル」という商標の登録出願、登録取得が社会的妥当性を欠くということに外ならない。
事実、「インディアンモーターサイクル」や本件商標のような「『Indianロゴ』/MOTOCYCLE」を含む商標を出願し、登録を得たものは一人被請求人のみである。被請求人が如何なる者であるか、この点からも明白であると言わなければならない。
カ 以上述べた通り、スコット・カジヤが新インディアン社から日本において「Indian」商標を用いてブランドマーチャンダイジングビジネスを展開する権利を相当の対価を支払って取得したことは、ビジネスの常道に則り、社会的に正当な行為である。
スコット・カジヤの日本において「Indian」商標を用いてブランドマーチャンダイジングビジネスを展開する権利=地位は、ビジネスの常道に則ったものであり、社会的に正当なものであり、もとより商標法の樹立せんとする秩序に合致するものであり、正当に保護すべきものである。
そして、スコット・カジヤからかかる権利=地位を正当に承継した者である請求人の日本において「Indian」ブランドビジネスを展開する権利は、ビジネスの常道に則った正当なものであり、社会的に正当なものであり、商標法の樹立、維持、保護せんとする秩序=価値に合致するものであり、請求人の「Indain」商標を用いたビジネス活動とその成果は社会的に正当なものであり、保護すべきものであり、商標法の下において保証すべきものである。
事実、被請求人の如く、「インディアンモーターサイクル」や本件商標のような商標を出願し登録を得たのは、一人被請求人のみであり、「ベアーサーフボード」と同じく、かかる行為を行ったのは被請求人のみである。ちなみに、株式会社ムラキもダイワ企業株式会社も「INDIAN」を含む商標を請求人に譲渡しているのである(甲266、267、220)。
キ 被請求人は、フィリップ・ザンギが詐欺により有罪判決を受けた旨縷々述べる。然しながら、かかる主張は、新インディアン社がフィリップ・ザンギとイコールであるかの如く主張するものであり、誤りであり、故意に事実を歪曲せんとする主張である。
そもそも、フィリップ・ザンギと新インディアン社とは別ものである。フィリップ・ザンギは新インディアン社の創設者ではあるが、それに止まる。新インディアン社にはフィリップ・ザンギ以外の出資者もいるのであり、新インディアン社は実体的にも法的にもフィリップ・ザンギと別ものである。会社は創設者の私物ではない。
上述の通り、新インディアン社は、旧インディアン社がオートバイに用いた商標「Indian」商標とブランドマーチャンダイジングの核としての価値を新たに付与した。そして、かかる新たな価値を付与された「Indian」商標の主体として社会的に認知された。であったからこそ、多くの人が新インディアン社に出資したのである。であったからこそ、何人も、新インディアン社により「Indian」商標に新たな価値を付与されたことを奇貨として「Indian」商標を登録出願し登録を得たり、「Indian」商標を使用した商品を販売したりしなかったのである。例外は、日本における被請求人であり、カナダにおけるインディアンモーターサイクル社である(後述)。
即ち、「Indian」商標を用いたマーチャンダイジングビジネスを展開する権利=地位が帰属したのは新インディアン社であり、フィリップ・ザンギではない。このことは、「BEAR SURF BOARDS」の件について、以下のような事例を考えてみれば明白である。
「BIG WEDNESDAY」のエグゼクティブプロデューサーが出資者から資金を集め、「BIG WEDNESDAY」という映画を作ったとする。然し、そのプロデューサーは出資者から集めた資金を私的に流用してしまい出資者に被害を与え、そのプロデューサーは詐欺で有罪とされたとする。その場合でも、「BIG WEDNESDAY」のヒットに伴ない「BEAR SURF BOARDS」が知られるに至り、ブランドマーチャンダイジングビジネスの核としての価値を有するに至ったときに、「BEAR SURF BOARDS」を用いてビジネスを展開する権利=地位はワーナーブラザーズ社にある。ワーナーブラザーズ社のかかる権利=地位は尊重しなければならない。プロデューサーが詐欺で有罪とされたからと言って、ワーナーブラザーズ社のかかる権利=地位は左右されない。そして、第三者が勝手に「BEAR SURF BOARDS」を使ってビジネスを展開して良いということにはならない。同じように、新インディアン社からかかる権利=地位を取得したスコット・カジヤの権利=地位、スコット・カジヤからかかる権利=地位を承継した請求人の権利=地位もフィリップ・ザンギの詐欺や有罪とは何ら係りがなく、失われることはない。
このように、フィリップ・ザンギが詐欺で有罪とされたからといって、新インディアン社の「Indian」商標に新しい価値を付与し「Indian」ブランドを用いたマーチャンダイジングビジネスを展開する権利=地位、社会的に認知された権利=地位は影響されない。
したがって、新インディアン社から日本における権利=地位を取得したスコット・カジヤの権利=地位、そして、スコット・カジヤからかかる権利=地位を承継した請求人の権利=地位もフィリップ・ザンギの詐欺や有罪とは何の関係もなく、影響されない。
念のため付言するに、スコット・カジヤもサンライズ社も請求人も、フィリップ・ザンギとは一味でも何でもない。逆に、スコット・カジヤも請求人も、フィリップ・ザンギの詐欺及びこれによる有罪の被害者なのである。即ち、フィリップ・ザンギが有罪とされたことにより、新インディアン社の事業展開は阻害され、米国で「Indian」ブランドを用いたマーチャンダイジングビジネスは大きく展開されるに至っていない。(なお、新インディアン社は新しい株主の下で現在も運営されている。)「Indian」ブランドビジネスで成功したのは唯一請求人であり、請求人の企業努力が如何に秀でたものであるかが判る。仮に、米国で新インディアン社による「Indian」ブランドビジネスが成功裡に展開されたとしたら、「Indian」ブランドは「米国発」のブランドになり、「米国発」のヴィンテージバイカー系のアメリカンカジュアルのブランドになり、請求人の「Indian」ブランドビジネスはもっと容易に展開できたであろう。
然るに、事実は、フィリップ・ザンギの有罪により、米国におけるビジネスが成功裡に展開されることがなく、請求人が孤軍奮闘して資本、労力、智恵を結集して日本市場を開拓しなければならず、更には被請求人による「Indian」ブランドビジネスの妨害にも対抗しなければならず、請求人の企業努力苦労は並大抵のものではなかったのである。
ク 日本市場は成熟しておりまっとうであり、請求人を日本において「Indian」ブランドビジネスを展開する唯一の正当な権利者であると認識評価し、三菱商事の100%子会社であるライフギアコーポレーションのようなれっきとした企業も請求人からライセンスを得て「Indian」ブランドビジネスを展開しているのである(甲355から357参照)。当然の事である。
ケ 然るに、被請求人は、米国における新インディアン社による「Indian」商標を用いたマーチャンダイジングブランドの起ち上げの報に接するや、すかさず、「インディアンモーターサイクル」を登録出願し、登録を得、平成6年に請求人により「Indianロゴ」等を用いた衣類等の商品が日本市場に導入され市場に浸透するや、すかさず、「Indianロゴ」と「MOTOCYCLE」(「MOTORCYCLE」ではない)とを要部とする本件商標等を出願し、平成7年に「Indianロゴ」、「『Indianロゴ』/Motocycle」(「Motorcycle」ではない)等を使用したTシャツ等の販売を開始し、継続し、平成7年に請求人が西澤社にサブライセンスして西澤社が皮革製ジャケットやパンツに「Indian」商標を使用して広告宣伝し、市場に広く浸透させ、平成8年にその成果を回収しようとした矢先、すかさず、「Indianロゴ」等を用いて皮革製ジャケットやパンツの販売を開始し、平成9年には、「Indian Motorcycle」、「『Indian』ロゴ/Motorcycle」よりなる商標等を登録出願し、請求人より「Indianロゴ」等の使用の差止の請求等を受けるや、「インディアンモーターサイクル」に対する商標権を基にして請求人らに訴、仮処分提起をし(既述の通り、これらはいずれも棄却、却下されている)、現在もなお、これら商標と同一性のない「Indianロゴ」やこれと酷似した商標や、「INDIAN MOTOCYCLE」を使用して、請求人の「Indian」ブランドビジネスを妨害している。
かかる被請求人の行為が社会的妥当性を欠くものであることは明白であり、本件商標が社会的妥当性を欠くものであることは明白である。
(8) 「オ.カジヤ、サンライズ社、西澤社及びマルヨシについて」について
上述の通り、新インディアン社は旧インディアン社がオートバイに使用していた「Indian」商標にマーチャンダイジングの核としての価値という新しい価値を付与し、かかる価値を付与した者として社会的に認知されたのであり、「Indian」ブランドビジネスを展開する権利=地位を取得するに至ったのであり、かかる権利=地位を尊重するのがビジネスの常識であり、社会的に相当である。スコット・カジヤは、ビジネスの常道に則り、対価を支払って、日本における「Indian」ブランドビジネスを展開する権利=地位を新インディアン社より取得したものであり、サンライズ社はスコット・カジヤと合弁して請求人を設立したものであり、請求人はスコット・カジヤよりかかる権利=地位を承継したものであり、サンライズ社は請求人のマスターライセンシーであった者であり、マルヨシも西澤社も請求人のサブライセンシーであった者である。これらの者はいずれも正当にそれぞれの事業を行ったものであり、その「Indian」商標の使用はビジネスの常道に則り正当であり、社会的に尊重すべきものであり、何ら非難さるべき点は存しない。
被請求人は、「ザンギ・インディアン社」などという不適切な誤認を生ぜしめる言葉を用いて、自らの誤った主張、即ち、新インディアン=フィリップ・ザンギなる主張、に基づいて、スコット・カジヤ、請求人、サンライズ社、マルヨシ、西澤社の権利=地位、企業活動が何ら正当な保護に価しないものであるかの如き誤認を生ぜしめんとしているが、かかる主張が失当であることは上述の通りである。反社会的であるのは、被請求人であり、被請求人の行為である。
(9) 「カ.「インディアン商標」について」について
ア 被請求人は、旧インディアン社の「Indian」商標について、新インディアン社に他社による採択や使用を制限する権限は存しない、と主張する。然しながら、かかる主張は理由がない。何故ならば、かかる主張は、旧インディアン社の使用していた「Indian」商標に新たにマーチャンダイジングブランドとしての価値を付与した新インディアン社の行為は何ら保護に価しない、というに等しいものであり、ビジネスの常道に反し、健全な社会常識に反するものであり、誤りであるからである。
仮に、「BEAR SURF BOARDS」というブランドがかつてあったが、業務の主体は消滅し、商標権も消滅していたが、映画会社が映画の中でこれを取り上げ、有名にし、マーチャンダイジングの核となりうるものにしたとする。この場合、「BEAR SURF BOARDS」を用いてマーチャンダイジングビジネスを展開しようとする者は映画会社の許諾を得てこれを行なうとするのが、ビジネスの常道であり、健全な社会常識の命ずるところであり、社会通念上相当である。
被請求人の主張は、他人の行為の成果を唯で「パクッ」てもかまわないという論であって、社会的妥当性を欠くものであることは明白である。
イ 更に、被請求人は、旧インディアン社と無関係である点において請求人も被請求人も同じであるから、被請求人が「Indian」商標を採択するのは勝手であって、冒用などを構成しない、と主張する。
然しながら、かかる主張はすりかえであり、かつ、請求人の企業努力は一切保護に価しない無価値なものである、という議論であり、誤りである。
請求人が「Indian」商標を使用してビジネスを開始したのは、ビジネスの常道に則り、スコット・カジヤが新インディアン社から権利を取得し、請求人はスコット・カジヤから権利を承継してのことであり、請求人の「Indian」ブランドビジネス(「Indian」ブランドの日本市場への導入及び展開)は、何ら非難に値する点のない正当なものである。その企業努力とその成果とは正当に評価し、保護すべきものである。既述の通り、請求人は「Indian」ブランドの衣類等を平成6年始めから日本市場に投入した。「Indian」ブランドは、これに先行する「Indian」ブランドの需要者を対象とする告知(例えば「ブルータス」)の成果で、需要者の間に広く浸透しており、「ブームになることは時間の問題」である程度に需要者の間に浸透していたのである。平成6年中頃には、バッグについてマルヨシにライセンスをする程に市場に浸透していたのである。ブランドビジネスというものは、衣類について先行したのち、衣類についてブランド力が付いて、他のアクセサリーに波及していくのである。
すると、すかさず、被請求人は、平成6年9月、本件商標を出願し、平成7年には「Indian」ロゴ等の「Indian」商標を使用した衣類等の販売を開始した。
本件商標も被請求人の使用した「Indianロゴ」等の商標も、被請求人が登録を得ていた「インディアンモーターサイクル」と同一性の範囲内にないものである。加うるに、本件商標は、「Indianロゴ」の下に「MOTOCYCLE」(「MOTORCYCLE」ではない)を配してなる。「Indian/MOTOCYCLE」は請求人が平成6年から販売したTシャツや皮革製ジャケットに使用した商標であり、請求人の略称である。被請求人による本件商標の出願は、請求人の企業努力により「Indian」ブランドが日本市場に導入され、順調に市場に浸透しているのを見計って、「Indianロゴ」等の「Indian」商標を使用した商品を市場に出し、請求人の企業努力の成果を収奪し、請求人の業務を妨害するために本件商標の出願をしたとしかいいようのないものである。このような登録出願は何人もしようとしないものである。一人被請求人が例外である。(被請求人はカナダの業者と提携したなどと主張するが、これがまやかしであることは後述する。カナダの業者なる者がカナダにおいて(日本ではない)有した商標は活字体の「INDIAN MOTORCYCLE」である(乙23)。 また、被請求人が日本に有した商標は、片仮名の「インディアンモーターサイクル」である。「Indian Motocycle」ではない。被請求人の主張のまやかしは、この一点で既に明らかである。)
ウ 被請求人の主張は、正当に日本市場に「Indian」ブランドを導入し、市場を開拓し、需要者の間に浸透させた請求人の企業努力は一切保護に価しないというものであり、その企業努力の成果は収奪しても良いというものであり、かかる主張が健全な社会常識に反し、社会的妥当性を欠くものであることは明白である。
そして、請求人の企業努力とその成果は尊重すべきものであり、保護に価するものであるということは、新インディアン社やスコット・カジヤや請求人が旧インディアン社と関係がある無いに係わらないものである。
被請求人の主張は、先行する他人の企業努力とその成果を踏みにじってもかまわないという議論であり、いわば「泥棒猫」を正当化せんとする議論であり、反社会的であり、商標法が樹立維持せんとする健全な取引秩序を踏みにじるものである。
(10) 「キ.両者(請求人・被請求人)商標の近似性について」について
ア 被請求人の主張はすりかえであり、事実の歪曲である。被請求人は、請求人により「Indianロゴ」等の「Indian」商標が日本市場に導入され、請求人の企業努力の成果で市場に浸透するのを見計って、本件商標を出願したのである。被請求人は、しきりに「商標の採択」というが、かかる主張はまやかしである。被請求人の論によれば、被請求人は「インディアンモーターサイクル」を「採択」したのであるから、これを使用すれば良いのである。
にも拘わらず、被請求人はこれを一切商品に使用しなかったのである。なお、当時欧文字の「Indian Motorcycle」は片仮名の「インディアンモーターサイクル」と同一性の範囲外にあったことを忘れてはならない。
しかも、平成6年に、請求人が成功裡に日本市場に「Indianロゴ」等の「Indian」ブランドを導入し、市場に浸透させたのを見計って、「インディアンモーターサイクル」と同一性の範囲内にない本件商標等を出願し、平成7年に入って「インディアンモーターサイクル」と同一性の範囲内にない「Indianロゴ」等を使用した衣類を売出し、これを継続し、平成7年に請求人のサブライセンシーである西澤社が企業努力を傾注して「Indianロゴ」等を皮革製ジャケットやパンツについて請求人の商標として市場に浸透させ、翌平成8年に前年の投資の成果を回収しようとしていた矢先、「インディアンモーターサイクル」と同一性の範囲内にない「Indianロゴ」等を使用した皮革製ジャケットやパンツの売出しを開始したのである。
そして、請求人から訴の提起を受けるや「インディアンモーターサイクル」に対する商標権をもって対抗したのである。(被請求人が「ベアーサーフボード」に基づいて行ったことと同じである。)そして、被請求人は、現に、「インディアンモーターサイクル」はもとより本件商標とも同一性の範囲内にない「Indianロゴ」や「Indianロゴ」に酷似した商標を使用しているのである。
イ 被請求人が真実「Indianロゴ」や本件商標等の「Indian」商標を「採択」したのであれば、先ずかかる「Indian」商標を出願し、自ら企業努力を傾注して「Indian」商標を使用した商品の展開に努めれば良い。まっとうな事業者ならばそうする。然るに、被請求人の行ったことは、請求人の企業努力の成果で「Indianロゴ」等がTシャツ等の衣類等について市場に浸透するのをまって「Indianロゴ」等を使用したTシャツ等を売出し、請求人のサブライセンシーの企業努力により「Indianロゴ」等が皮革製ジャケットやパンツについて市場に浸透するやすかさず「Indianロゴ」等を使用した皮革製ジャケットやパンツの販売を開始したのである。
被請求人は、自ら企業努力を傾注することをせず、請求人等の企業努力の成果の収奪、請求人の業務の妨害をすることを「専門」にしており、その手段として本件商標等の出願をしたのである。
請求人の使用に係る商標と被請求人が「採択」した商標が「近似」しているのは、原型起源を共通にするからである旨の被請求人の主張は全くのすりかえ詭弁であること明白である。
ウ 被請求人は、旧インディアン社が消滅した後、旧インディアン社の使用していた商標を商品に使用する者がいたと主張し、乙30、乙31を上げる。(また、現在もいると主張するが、かかる主張には証拠がない。)
然しながら、そのような者が居たということと、請求人の「Indian」商標を用いたビジネスが正当であり、請求人の企業努力とその成果とは保護すべきものであり、被請求人が請求人の企業努力の成果を収奪し、請求人の業務を妨害するため「Indianロゴ」等を使用した商品を販売したり本件商標等を出願したりしたことが許されないということは全くの別問題である。被請求人の主張は論点のすりかえである。かかる事例が存在することにより、被請求人の行為が正当化されることはないし、本件商標等の「採択」についての被請求人の主張が正当化されるものではない。
エ また、被請求人は、「我が国においても関連する多くの商標が古くより登録されている」と述べるが、甲第32号証を見れば判るように、「Indianロゴ」や「ヘッドドレスロゴ」や「『Indianロゴ』/MOTOCYCLE」を含む標章等を商標登録したものは存しない。「インディアン」は元来北米原住民を指すのであり、「INDIAN」や「羽根飾り」よりなる商標が登録されていても不思議はない。被請求人の「関連する」商標という用語は事実を歪曲せんとするものである。かかる商標が登録されていたからといって、被請求人が、請求人の企業努力により「Indian」ブランドが日本市場に浸透するのを見計って次々に「Indianロゴ」等を使用した商品を販売し、また、わざわざ「Indianロゴ」と「MOTOCYCLE」とを含む本件商標を平成6年9月に出願したことと何の関係もない。実際、乙第32号証の商標を登録した者で、これを奇貨として、「Indianロゴ」や「『Indianロゴ』/MOTOCYCLE」などを使って商品を販売した者は一人も存しない。(なお、上述の通り、乙第32号証の1枚目及び5枚目の商標は請求人に譲渡されている。)
(11) 「ク.被請求人による「インディアン商標」採択の起源」について
ア 被請求人の主張は虚偽であり詭弁である。
イ 第1に、被請求人は、平成2年に米国ヴィンテージバイクの愛好家団体から彼らのバイクジャケットを作ることを依頼されたなどというが、ありえないことである。
そもそも、乙第24号証は、平成9年発行の雑誌であり、その内容は、被請求人の役員の言葉を載せているにすぎない。乙第33号証も、平成8年10月の被請求人の役員の陳述書である(しかも日付が無い)。いずれも被請求人が請求人から仮処分命令の申立を受け、訴の提起を受けた後に作成されたものである。何とでも言えるものであり、信用性がない。
第2に、真実米国のヴィンテージバイクの愛好者団体から平成2年に彼らのバイクジャケットを作ることを依頼されたのであれば、さっさと作って渡せば良い。また、真実彼らから商品化を勧められたのであれば、さっさと商品化すれば良い。西澤社が「Indianロゴ」等を皮革製ジャケットやパンツについて周知にし、前年の企業努力の成果を回収しようとした平成9年まで商品化を遅らすことなどあり得ない。
更に、第3に、バイクの愛好者団体よりの彼らのバイクジャケットを作ることを依頼されたのであれば、ブランド等無関係である。仮に何か商標を付けるとしたら同団体の名前でも付ければ良い。彼らがわざわざ「インディアンモーターサイクル」という片仮名の商標を付けることを提案するということなどあり得ない。
第4に、被請求人は、「平成6年3月31日に『インディアンモーターサイクル』の登録を得たことが『インディアン商標』採択の始まりである」と主張するが、詭弁である。「インディアンモーターサイクル」という商標は旧インディアン社が使用していた商標ではない。「インディアン商標」ではない。もとより「Indian商標」でもない。(しかも、そもそも、旧インディアン社は「Indian Motocycle Company」であり、「Indian Motorcycle Company」ではない。)加えて、「インディアンモーターサイクル」は「Indianロゴ」や「ヘッドドレスロゴ」や「『Indianロゴ」/MOTOCYCLE」と同一でない。その出願登録時には「Indian Motorcycle」とも同一でなかった。)
ウ このように、被請求人の主張は、証拠自体信用性が無く、主張自体矛盾しており、嘘偽であることは明白である。
事実は、被請求人は、米国で「Indian」商標を使用したマーチャンダイジングビジネスが起ち上げられ展開されたのを知って、いずれ日本に導入されるであろうことを予測し(事実日本が輸出のターゲットであることは甲第6号証に記載されている)、「ベアーサーフボード」と同じく、片仮名で「インディアンモーターサイクル」を押さえておくことにした、というのが真実である。
エ なお、被請求人は、ロゴデザインが決まっていなかったなどというが、これまた詭弁である。被請求人が使用した「Indianロゴ」等は、「インディアンモーターサイクル」と同一性の範囲外にあるのである。被請求人は、請求人の企業努力により「Indianロゴ」等の「Indian商標」が日本市場に浸透するのを見計って、「Indianロゴ」等を使用した商品を販売した、というのが真実である。
(12) 「ケ.その後の経緯」について
ア 被請求人の主張は嘘偽である。
イ 第1に、乙第19号証には署名がなく、文書として成立していない。
第2に、乙第19号証の署名欄には、会社名は書かれていない。(「StevenRichman、President」という記載があるのみである。)
然るに、乙第19号証の訳文には、「INDIAN MANUFACTURING LTD./STEVENRICHMAN、PRESIDENT」と嘘偽の訳文が意図的に付いている。
第3に、乙第19号証のレターヘッドの会社名は「Indian Motorcycle」であり、「Indian Manufacturing Ltd.」ではない。
第4に、乙第23号証の商標権者(「CURREN TOWNER」)は「ONTARIO LIMITED」であり、「INDIAN MANUFACTURING LTD.」ではない。
しかも、第5に、乙第19号証の住所(60 WINGOLDAVENUE,TORONTO,ONTARIO,CANADA)と乙第23号証の商標権者(ONTARIO LIMITED)の住所(1519 DUPONTSTREET,TORONTO,ONTARIO)とは異なる。(被請求人は、乙第23号証の訳文では、ONTARIO LIMITEDの住所の訳をわざと落している。)
即ち、乙第19号証は、商標権者でない者からの手紙の形式をとった文書であり(乙第19号証には署名が無い)、被請求人の「INDIAN MOTORCYCLE」についてのカナダ国商標権者「INDIAN MANUFACTURIN GLTD.」(「カナダインディアン社」)と提携し」という主張の虚偽は明白である。かかる嘘偽の主張すること自体、被請求人が請求人の企業努力により「Indian」ブランドが市場に浸透したのを見計って、「Indian」商標を使用した商品を第三者に作らせ、これを日本市場で販売した、ということを如実に示すものである。
また、乙第37号証は、INDIAN MOTORCYCLE CLOTHING COMPANY INC.のカタログであり、INDIAN MANUFACTURING LTD.のカタログではない。被請求人の主張は明白に虚偽である。
しかも、被請求人は、乙36(=甲34)で、旧インディアン社に言及し、被請求人が旧インディアン社と関係があるかの如き言いまわしをしている。
以上のように、被請求人の主張は全くの虚偽であり、かかる嘘偽の主張をすること自体、被請求人が請求人の企業努力により「Indian」商標が日本市場に浸透したのを知り、この企業努力の成果を収奪するため、カナダの会社に発注して「Indian」商標を付した商品を作らせ、輸入して販売した、ということを明らかにするものである。
ウ このような明白な虚偽の主張をする被請求人が如何なる者であるか明らかである。
(13) 「コ.関連する審判事件」について
被請求人の引用する審決判決は本件と事案を異にする案件についてのものである。被請求人の引用する事件における請求人の主張した主要事実、間接事実、請求人の提出した証拠、争点、特許庁、裁判所の事件の見方(切り口)は本件と異なる。これらの審判判決等が本件における被請求人の事実上の主張も法律上の主張も支持するものでないことは、既に述べた通りである。
以下、簡潔に論点を指摘する。
なお、被請求人は自らに不都合な判断をした査定審決等を「誤り」であると述べて切り捨てていることは、上述の通りである。
ア 「(1)平成6年審判第13787号」
本件は、被請求人の登録第2634277号商標(旧第17類、片仮名「インディアンモーターサイクル」)に関する審決例であり、本件商標に関する審決例ではない。加うるに、同審決の事実摘示から明らかなように、無効理由として主張された事実は本件と異なる上、同事件において争点とされたところも異なる。更に、同事件において提出された証拠も本件と異なる。かかる事案についての審決判決中の判断が本件における被請求人の主張を支持するものではあり得ない。
イ 「(2)平成10年審判第30518号」
本件は、被請求人の旧第17類片仮名「インディアンモーターサイクル」(登録第2634277号)に対する不使用取消審判請求事件であり、対象となる商標も異なれば、関連する法条も異なる。もとより、要件事実、間接事実も異なり、提出された証拠も異なり、争点も異なる。かかる事案についての審決判決中の判断が本件における被請求人の主張を支持するものではあり得ない。
ウ 「(3)取消2000-31423」
同事件は、被請求人の旧第17類「インディアンモーターサイクル」商標(登録第2634277号)の登録を、法51条(不正使用)により取消しを求めた案件であり、対象となった商標も、該当法条も異なり、要件事実も間接事実も異なり、争点も異なり、証拠も異なる。かかる事案についての判決中の判断が本件における被請求人の主張を支持するものではありえない。 なお、上述の通り、乙第3号証の認定判断が粗雑であり、法の樹立せんとする秩序に反する結果をもたらし、正義に反するものである、と解すべきものであることは、甲252、253に詳細に記載した通りである。
エ 「(4)無効2003-35031」
同事件は、被請求人の旧第17類の「インディアンモーターサイクル」商標(登録第2634277号)に関するものであり、本件商標に関するものではない。したがって、同事件は、法4条1項7号に関するものではあるが、要件事実間接事実も本件と異なり、また提出された証拠も異なり、争点もことなる。かかる事案についての審決判決中の判断が本件における被請求人の主張を支持するものではあり得ない。
オ 「(5)異議2004-90314、外」
既に(3).オにおいて詳しく述べた如く、これらの異議事件も本件と事案を異にするものである。かかる事案についての異議決定中の判断が本件における被請求人の主張を支持するものとはなり得ない。
カ 「(6)平成7年審判第28124号」
同事件は、登録第2710099号商標に関するものであり、争点は、同商標が登録第2634277号商標(片仮名「インディアンモーターサイクル」)に類似するかということに帰着したものである。同事件は本件と対象商標も全く異なり、争点も全く異なる。もとより、主張された事実も証拠も異なる。
かかる事案についての認定判断は、本件における被請求人の主張を支持しうるものではない。
キ 「(7)無効2002-35287」
同事件は、登録第4022987号商標に係るものであり、本件商標に係るものでない。更に、同事件の争点は、登録第4022987号商標が本件商標と類似するか否かであり、本件と争点を全く異にする。かかる事案についての判決(乙7)中の判断は本件における被請求人の主張を支持するものとはなりえない。
2) 「商標法4条1項7号(無効理由?1)について」について
(1) 被請求人の主張は理由がない。
被請求人は、「請求人の主張は、商標法4条1項7号の解釈適用を全く無視しているもので、要するに、「自らが行うブランドビジネスとって邪魔になる商標は、公正な競業秩序を害するものである。」との身勝手な主張しているにすぎない」と主張する。
然しながら、かかる主張自体、誠に「身勝手」な主張であり、全く理由がない。以下、個別に及論する。
(2) 「ア」について
ア 被請求人は、東京高裁平成14年(行ケ)616号事件判決を引用して、本件商標が法4条1項7号に該当する場合とは、その登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限られる、と主張する。
然しながら、被請求人の引用する判決は、本件と全く事実関係を異にする案件であり、本件について参考になる判例ではない。
同事件は、同事件の原告(ホテル業の会社)が異議2001-90903号事件(原告の「ハイパーホテル」の商標登録に対する異議申立事件)において「ハイパーホテル」の商標登録を取消した異議決定の取消を求めた案件であり、異議決定が取消された案件であるが、異議申立人(コンサルティング会社)と原告との間にホテルの運営に関してコンサルティング契約、請負契約、パートナーシップ契約があったが、異議申立人の「ハイパーホテル」の商標登録出願に対して拒絶理由通知が出されたのに対して異議申立人は意見書を提出しなかったために拒絶査定が出され、異議申立人が拒絶査定不服審判請求をしなかったので拒絶査定が確定した、異議申立人は引用商標を買取るとか取消審判を請求するとかの行為を一切しなかった、原告は「ハイパーホテル青森」を開店していた、原告は「ハイパーホテル」を商標登録出願し、同時に同引用商標の不使用取消審判を請求し、取消を得、原告出願の「ハイパーホテル」商標は登録された、というものであり、自ら「ハイパーホテル」の商標登録出願をし登録を得るための努力を一切しなかった異議申立人が原告に対して異議申立人原告間のパートナーシップ契約中の、「甲(異議申立人)の定めた商標を使用することを許諾する。 但し、その使用にあたっては、甲の指示に従わなければならない」という条項を楯にして、「ハイパーホテル」の登録が公序良俗に反するとして、登録の取消を求めた、というものである。
裁判所は反公序良俗性を否定して特許庁の異議決定を取消した。
以上述べた通り、同事件の事実関係は本件と全く異なるのである。
同判決は、自ら商標の登録を得る努力を一切しなかった異議申立人が、契約の1条項の文言を楯にとって、自らの努力により商標登録を得た原告(本来かかる努力は異議申立人がすべきものであった)に対して、その努力の成果である商標登録の取消を求めることなど許されない、と判断したものであり、当然の判決である。
ところで、本件商標は、被請求人が請求人の企業努力の成果を収奪するために出願をし登録を得たものであって、同判決の判旨に照らせば、被請求人による本件商標の登録出願及び登録取得は許されないものと評価されることになるものである。
本件審判請求書において述べた如く、法4条1項7号の趣旨は、社会的妥当性を欠く商標の登録を排除することにあり、社会的妥当性を欠く場合はこれをことさら制限的に解すべきではなく、様々の事案において反公序良俗性が認められており、他人の業務を妨害する意図で登録出願され登録を得た商標も公序良俗に反するとされている。
被請求人の主張に理由がないこと明白である。
(3) 「イ」について
ア 「イ」における被請求人の主張も理由が無い。
そもそも、請求人の主張は、旧インディアン社又はその関係者が現存し、「Indian」商標の周知著名性が維持されていることを前提とするものではない。国際信義に反する商標が公序良俗に反するというのは、法4条1項7号の反公序良俗性の認められる場合の一つにすぎず、反公序良俗性が認められるのは、かかる場合に限るものではない。このことは、請求人が審判請求書において引用した裁判例の示す通りである。
被請求人の主張は、法4条1項7号の趣旨を曲解するものであり、理由が無い。
イ なお、念のため付言するに、本件商標が公序良俗に反するものであるというために、請求人の使用に係る「Indian」商標が本件商標の出願当時周知であったことは要求されない。「他人の商標」の周知性が要件でないことは、母衣旗事件判決の判文から明らかである。同事件判決は「他人の商標」の周知性を反公序良俗性の要件としていない。他人の業務を妨害する目的で出願をし登録を得た商標が公正な競業秩序を害するおそれのあるものであり、公序良俗に反するものであることは、「他人の商標」が周知であるか否かにかかわらないものであって、これは当然の事である。
本件商標が請求人の業務を妨害する目的で出願し登録を得たものであることは、請求人が既に審判請求書において詳細に明らかにしたところである。
(4) 「ウ」について
ア 請求人が「Indian」商標を用いたブランドビジネスをビジネスの常道に則り健全な競業秩序に合致して日本に導入し日本で展開している者であり、請求人の「Indian」ブランドビジネスは正規のビジネスであり、請求人が日本において「Indian」商標を正当に使用する者であり「Indian」商標の日本における正当な出所であることは、上述の通り、
ア) 新インディアン社が「Indian」商標に新たな価値を付与したものであると社会的に評価認識されていたこと、かかる新たな価値を付与したことにつき新インディアン社に何ら非難さるべき点はないこと、かかる新たな価値を付与したものとしての新インディアン社の権利地位は尊重するのがビジネスの常道であり健全な競業秩序に合致すること、
イ) スコット・カジヤは、新インディアン社から日本において「Indian」商標を用いたマーチャンダイジングビジネスを展開する権利を対価を支払って取得したが、かかるスコット・カジヤの行為はビジネスの常道に則ったものであり、健全な競業秩序に合致するものであり、何ら非難すべき点はないこと、
ウ) 請求人はスコット・カジヤからかかる権利地位を承継し、それに基づき日本において「Indian」商標を用いたマーチャンダイジングビジネスを導入展開しているものであり、請求人の「Indian」ブランドビジネスはビジネスの常道に則ったものであり、健全な競業秩序に合致するものであり、なんら非難すべき点はないこと、
エ) したがって、請求人は日本において「Indian」商標を用いたマーチャンダイジングビジネスを展開する正当な権利地位を有するものと社会的に評価され、「Indian」商標の正当な出所として認識されていること、多くの名の通った企業が請求人よりライセンスを受けて「Indian」商標を用いたビジネスを展開しているのであり、また、株式会社ムラキも大和企業株式会社も「Indian」を含む商標を請求人に譲渡したこと、から明らかである。
イ そして、被請求人による本件商標の登録出願、登録の取得を含め一連の行為が請求人の業務を妨害するものであり反社会的であり、社会的妥当性を欠くものであることは、請求人が審判請求書において詳細に根拠を示して明らかにしたところである。
ウ 被請求人の主張は、要するに、旧インディアン社と請求人とは関係がないということに目を付けて自らの反社会的な健全な競業秩序に反する行為を正当化せんとするものにすぎず、要するに、請求人も被請求人も旧インディアン社と無関係である点においても同じであるから、被請求人は請求人の正当な「Indian」ブランドビジネスを妨害しても構わない、請求人の正当な企業活動を妨害し正当な企業努力の成果を収奪しても構わない、という誠に自分勝手な主張であって、到底採りうるものではない。
(5) 「エ」について
ア 被請求人は、「インディアン商標」を被服等の商標として採択したのは被請求人が最先であると主張する。然しながら、かかる主張は全く事実を歪曲する詭弁である。
被請求人が出願し登録を得た商標は片仮名「インディアンモーターサイクル」であり、かかる商標は旧インディアン社が使用していた商標ではない。旧インディアン社が使用していた商標は「Indianロゴ」等である。ちなみに、旧インディアン社も新インディアン社も、略称は「インディアンモトサイクル」であって、「インディアンモーターサイクル」ではない。
被請求人の主張は、かかる事実の歪曲をもとにするものであって、全く理由がない。
イ また、被請求人は、「請求人らによる「インディアン商標」に関する如何なる事実行為よりも先行している」と述べるが、これまた事実に反し虚偽である。
1991年新インディアン社は既に「Indian」商標を使用したTシャツ、皮革製ジャケット、皮革製パンツ、バックル、ブーツ、などを製造し売り出していた(甲6)。(なお、フィリップ・ザンギは1990年「Indian」の商標権を買取っていた(甲7)。新インディアン社はかかる当り前の手順を踏んで設立され事業を開始したのである。)
新インディアン社が「Indian」商標を使用したTシャツ、皮革製ジャケット、皮革製パンツ、バックル、ブーツなどを製造し販売していたことは、甲第12号証のカタログの示すところである。
なお、「Indianロゴ」を付した同カタログに示すように、Tシャツやジャケット等には「『Indianロゴ』/MOTOCYCLE」が使用されていた。これらの商品は、平成6年1月から請求人が輸入して販売していた。本件商標の出願はその直後の平成6年9月であり、「『Indianロゴ』/MOTOCYCLE」を構成要素とするものであり、更に、マルヨシが平成6年中頃より販売していたバッグに使用していた「二重の円の図形+左向きのインディアンの図形」をも構成要素とするものである。
被請求人は甲第6、甲第7号証の記載はフィリップ・ザンギの一方的な発表をそのまま記事にしただけであるなどと述べるが、論外である。甲第6号証も甲第7号証も米国の一般紙であり、甲第6号証も甲第7号証も取材記事である。両者は異なる日(7月1日と7月5日)に掲載されたものである。既にTシャツや皮革製ジャケットやパンツ等の商品化の有無は客観的な事実であり、調べればすぐに判ることであり、甲第6号証や甲第7号証のような記事に事実に反する記載がなされるわけがない。被請求人は、ここでも、自らに都合の悪いものは何でも排除するという態度を取っているのである。
ウ 被請求人が「インディアンモーターサイクル」の出願をし登録を得たのは、米国で新インディアン社が「Indian」商標を用いたマーチャンダイジングビジネスを起ち上げ、いずれ日本に「Indian」ブランドビジネスが導入展開されることのあるべきことを予測したからに外ならない。このことは、請求人がつとに明らかにしたところであり、かつ、被請求人の「インディアンモーターサイクル」の「採択」についての主張が全くもって不合理であることからも明らかである。被請求人は、多くの外国ブランドを無断で登録していることからも明らかなように、ブランド情報を「漁って」のであり、被請求人が新インディアン社による「Indian」ブランドのマーチャンダイジングビジネスの開始及び将来日本に進出あるべきことの情報を有していたことは、明白である。被請求人は、「インディアンモーターサイクル」の出願前に米国のヴィンテージバイクの愛好者の団体との交流のあったことを自認している。新インディアン社の起ち上げは米国の一般紙(甲6、甲7)でも報じられた程であるから、米国のヴィンテージバイクの愛好家は当然の事ながらこれを知っていたことは間違いのないことであり、被請求人は彼らから新インディアン社の起ち上げを知らされたことも間違いのないことである。
したがって、仮に被請求人が自ら直接甲第6、甲第7号証を見付けなかったとしても、新インディアン社の起ち上げを人伝に知ったことは間違いのないところであり、また、資料を提供されたり、人伝に知った上で資料を集めたりしたことは間違いのないところである。(仮に、直接自ら甲第6、甲第7号証の記事を読まなかったとしても、第三者経由で情報を得れば同じことである。)
エ 念のため付言するが、請求人は、当該米紙報道によって、「『Indian』ブランドが、ザンギインディアン社の商品を表示するものとして周知となった」などとは主張していない。被請求人の主張は請求人の主張していないことを主張したと偽るものであり、不当である。
オ なお、新インディアン社とフィリップ・ザンギとは別であることは、上述した通りである。
(6) 「オ」について
ア 被請求人は、ここでも、別事件の判決の認定を持ち出しているが、上述の如く、かかる判決は、本件と全く事案を異にする事件に関するものであり、かかる判決中の認定判断は被請求人の主張を支持するものではない。
イ なお、念のため付言するに、乙第3号証は「インディアンモーターサイクル」に関する判決であり、法51条1項に関するものである。乙第4号証は、「インディアンモーターサイクル」に関する判決であり、争点は商標の類否である。乙第8号証は、不正競争防止法に関する判決である。
ウ 被請求人は、全く事案を異にする判決中の自らに都合のよい認定判断のみを取り出してそれがそのまま本件においてもあてはまるとして利用せんとするものであり、被請求人のかかる態度は全く失当である。なお、被請求人は、自らに都合の悪い認定判断を含む査定審決は誤りであるとして、切り捨てんとしていることは、上述した通りである。
(7) 「カ」について
被請求人の主張は全て事実に反する。被請求人が如何なる者であるか、亦、被請求人が如何なる目的で本件商標の出願をしたかは、上述の通り、
ア 被請求人が多くの冒認商標登録をしていること、
イ 「ベアーサーフボード」の登録を得、これをもって正規の「BEAR SURF BOARDS」ブランドのビジネスの展開を妨害したこと、
ウ 新インディアン社の起ち上げを知り「Indian」ブランドビジネスの日本への上陸のあり得べきことを知るや「インディアンモーターサイクル」を登録出願し登録を得たこと、
エ 「インディアンモーターサイクル」は一切商品に使用しなかったこと、
オ 「インディアンモーターサイクル」と同一性のない「Indianロゴ」や「『Indianロゴ』/MOTOCYCLE」などの商標をTシャツや皮革製ジャケットやパンツに使用したこと、
カ かかるTシャツ等を請求人が平成6年「Indianロゴ」や「『Indianロゴ』/Motocycle」等を使用したTシャツなどを輸入販売し広告し需要者の間に浸透させたすぐ後の平成7年に売り出したこと、
キ かかる皮革製ジャケットやパンツを請求人のサブライセンシーの西澤社が平成7年に「『Indianロゴ』/Motocycle」等の商標を使用した皮革製ジャケットやパンツを販売広告し需要者の間に浸透させ翌平成8年かかる企業努力の成果を回収しようとしていた矢先の平成8年被請求人が「『Indianロゴ』/Motocycle」などの商標を使用した皮革製ジャケットやパンツの販売を開始したこと、
ク 被請求人は本件商標を平成6年請求人の輸入販売により「Indian」商標が需要者の間に浸透しマルヨシにライセンスするまでになったことを見計って出願したこと、
ケ 本件商標は、「『Indianロゴ』/MOTOCYCLE」を構成要素とし、更にマルヨシがバッグに使用した「二重の円の図形+左向きのインディアンの図形」をも構成要素とすること、
コ 被請求人は請求人から「Indian」商標の使用停止等を求められ訴の提起、仮処分の申立を受けるや、「インディアンモーターサイクル」に対する商標権をもって請求人らに訴の提起、仮処分の申立をしたこと、
サ 請求人は本件商標の登録後も本件商標を商品に使用せず本件商標と同一性のない、「Indian」商標の中核をなす「Indianロゴ」や「Indianロゴ」に酷似した商標を使用していること、
等から明白である。
(8) 結論
ア 以上述べたとおり、被請求人の主張は、法解釈の面でも事実の面でも、請求人の主張立証に対する反論を構成しうるものではない。
イ 本件商標が請求人の「Indian」商標を用いたブランドビジネスを妨害する目的で登録出願し、登録を得たものであることは、請求人が審判請求書において詳細に主張し立証したところである。
なお、念のため付言するに、上述の通り、かかる妨害目的というような主観的な要件は、間接事実(登録出願の前、登録出願の後登録の前、登録の後の被請求人の行為とその行為の背景となる事実や被請求人の行為、等)により認定しなければならない。自らかかる妨害目的で商標の登録出願をし登録を得たと自白する者はいないからである。
そして、かかる間接事実に照らせば、被請求人がかかる妨害目的で本件商標の登録出願をし、登録を得たものであることは、既述の通り、明白である。
ウ よって、本件商標は法4条1項7号に該当するものである。
3) 「商標法4条1項10号(無効理由-2)について」について
(1) 「ア」「イ」について
ア 請求人の主張する無効理由は、審判請求書29頁に主張する通りである。そして、「Indianロゴ」の周知性については、本件商標の登録出願時について審判請求書4頁から10頁「ア」において、本件商標の登録時について審判請求書10頁から18頁「イ」において、主張した通りである。
イ 然るに、被請求人は、請求人の主張が、「『旧インディアン社の商標として周知であった』という主張であるならば」とか「『ザンギ或いはザンギインディアン社の商標として周知であった』との主張であるならば」などと述べて、請求人の主張を論難せんとするが、請求人が請求人の使用にかかる「Indianロゴ」が請求人の商標として周知であったと主張しているのであり、被請求人の主張は請求人の主張を歪曲しかかる歪曲に基づき請求人の主張を論難せんとするものであり、失当である。
(2) 「ウ」について
被請求人は、請求人の提出した証拠を「全く意味をなさない資料」と述べて一からげにしてその証拠価値を否定せんとする。然しながら、かかる主張は、請求人が「Indianロゴ」の周知性の主張に際し、逐一その裏付けとなる証拠を提出して立証しているのを故意に歪曲せんとするのであり、全く理由が無い。
更に、被請求人は別事件の判決(乙8)の認定を根拠として周知性を否定せんとするが、かかる主張もまた失当である。別事件の裁判所の事実認定は、その事件限りのものであり、本件において証拠としての価値を有するものではない。
なお、乙第8号証の判決は、被請求人の「インディアンモーターサイクル」商標に対する商標権に基づく請求を権利の濫用とし、東京地裁の同旨の判決を維持した甲第263号証の判決と同日に同一裁判所(東京高裁知的財産第3部)により言い渡されたものである。
(3) 「エ」について
被請求人はここでも別事件に関する判決の認定をもとに「Indianロゴ」の周知性を否定せんとするが、かかる判決は全く異なる事案についてのものであり、かかる判決における認定は、該当する事件限りのものであり、本件において証拠としての価値を有するものではない。
(4) 被請求人の主張は理由が無い。
上述の如く、被請求人の主張は、請求人の主張に対する反論となりうるものではない。
(5) 商標の「周知」について
付言するに、商標の「周知」とは、需要者の間で相当広く知られることを言う。
「Indianロゴ」を使用したTシャツ等の需要者はファッションに関心を持つ若年男性層である。かかる需要者の間で、本件商標の出願時既に「Indianロゴ」が被請求人のTシャツなどに使用する商標として広く知られていたことは、請求人が審判請求書4頁以下において主張し立証したところである。(なお、本件商標の登録時に「Indianロゴ」が請求人がTシャツなどの衣類に使用する商標として需要者の間に広く知られていたことは、明白である。)
そして、需要者の間に広く知られていたか否かの認定において、売上数量、売上高は不可欠の要素ではなく、売出し開始前でも告知等を通して需要者の間に広く知られることがあり、「Indianロゴ」が需要者の間に広く知られていたことは、上述の通りである。
(6) 結論
以上述べたとおり、本件商標は、請求人の主張するように、法4条1項10号に該当するものである。
4)「商標法4条1項15号(無効理由?3)について」について
(1) 法4条1項15号の趣旨-引用商標の周知著名性は要求されない。
被請求人は、法4条1項15号の適用の要件は、引用商標としての他人の商標は周知著名商標でなければならないと主張し、かかる主張を前提として本件商標の法4条1項15号該当性を否定せんとする。
然しながら、被請求人の主張は、法4条1項15号の趣旨を誤って解するものである。
ア 法4条1項15号は出所の混同防止の包括的規定であって、被請求人が主張するように引用商標が周知著名な場合に限定されるものではなく、引用商標(本件では「Indianロゴ」)が需要者の間に相当程度知られている場合にも適用されるものである(平成10年11月10日東京高民6判・平成9年(行ケ)第323号、審決取消請求事件(無効7-1024号商標登録第2693173号登録無効審判請求事件)、判例工業所有権法(第二期版)31巻7381の163頁)。(同判決は、「・・・以上の事実を総合すれば、引用標章は本件商標の登録出願前に少なくとも酒類を含む食品の取引者の間において、相当程度知られていたと認めるのが相当である。引用標章が本件商標の登録出願前に、被告の業務に係るコミュニティストア等の店頭にどの程度表示されていたかを認める証拠が存在しないことは、上記認定の妨げとなるのもではない。
この点について、原告は、商標法4条1項15号の規定を適用する場合、他人の業務に係る商品又は役務を表示する標章は、取引者のみならず需要者の間において、全国的に周知となっている、著名なものであることを必要とする旨主張する。
しかしながら、商標法4条1項15号の規定は、他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれが具体的に存在する商標は、商標登録を受けることができない旨を定めているものであることが規定内容に照らし明らかであって、他人の業務に係る商品又は役務を表示する標章が、全国的に周知、あるいは著名なものでなければ上記条項に該当しないとする理由はないから、原告の上記主張は失当である。・・・」と述べて、無効審決を維持したものである。)
イ 「Indianロゴ」は、以下に述べるように、本件商標の出願当時、仮に、「周知」ではなかったとしても、需要者の間に相当程度知られていた。同様に、「IndianMotocycle」は請求人の略称として需要者の間に相当程度知られていた。(なお、本件商標の登録当時には、周知であった。)
即ち、
ア) 「Indian」ブランドはヴィンテージバイカー系のアメリカンカジュアルのファッションブランドであり、その顧客層はファッションに関心を持つ若年男性層である(甲254)。
即ち、「Indian」ブランドの商品の需要者はかかるファッションに関心を持つ若年男性層である。
イ) 平成5年1月29日、請求人の設立及び「Indian」ブランドビジネスの開始が報じられた(甲13)。
ウ) 平成5年1月から同年11月にかけて、雑誌「ブルータス」に21回にわたり、「Indian」ブランドの復活、アパレルマーチャンダイジングブランドとしての展開、日本においても「Indian」ブランドのマーチャンダイジングビジネスが展開されることが報じられた(甲226ないし246)。甲第226ないし246号証は、「Indianロゴ」や「『Indianロゴ』/MOTOCYCLE」や「ヘッドドレスロゴ」等を商標として掲載した。「ヘッドドレスロゴ」の中にも「Indianロゴ」は用いられている。
雑誌「ブルータス」の読者層は「Indian」ブランドの商品の需要者と重なる(甲247)。また、雑誌「ブルータス」は発行部数が月25万部に昇り、広告価値の非常に高い媒体である(甲249、250)。
この結果、「Indianロゴ」を中核とする「Indian」ブランドは日本において平成5年11月頃には充分需要者の間に浸透し(甲247)、日本において「Indian」ブランドがブームになるのが時間の問題である程度に需要者の間に浸透していた(甲26)。
エ) 平成5年(1993年)7月24日付け繊研新聞(甲24)に、「米アンティークバイク『インディアン』ウエア発売」との見出しの下、スコット・カジヤ(「カジヤ」)を社長(当時)とする請求人が設立され、同年秋から、「インディアン」をイメージキャラクターにした商品の輸入販売及びライセンス事業が開始される旨の記事が掲載された。
また、同日付け日経流通新聞(甲25)にも、「米国のオートバイメーカー、インディアン・モトサイクル社(マサチューセッツ州)のライセンス供与を行っている『インディアン・モトサイクル・ジャパン』(東京・渋谷、スコット・カジヤ社長)は、米国で人気上昇中のアンティークバイク『インディアン・モトサイクル』関連商品のライセンス事業を、国内で展開する。」、「『インディアン』は1901-53年まで製造された高級バイクで、米国を象徴するブランドの一つ。会社は53年に解散したが、実業家のフィリップ・ザンギ氏が92年1月に再建した。」との各記載を含む記事が掲載された。
オ) 「POPEYE」1993年(平成5年)11月10日号(甲26)に、「1940年代、アメリカでハーレー・ダヴィッドソンと人気を二分したバイクメーカーがインディアン・モトサイクル社」であり、そのロゴグッズは、「アメリカを象徴するトレードマークのひとつとして、……未だに根強いインディアン・マニアを持つほどの存在」であるところ、これらのロゴグッズがアパレルなどのキャラクターグッズとして復活しており、「米国では既にブームとなっている模様」で、「日本でもブーム着火は時間の問題だといえる。」との記事が掲載された。甲第26号証に掲載された商品にも、「Indianロゴ」、「『Indianロゴ』/MOTOCYCLE」、「ヘッドドレスロゴ」等が表示されている。「POPEYE」も、「Indian」ブランドの商品の需要者の間で広く読まれている雑誌である。このことは、被請求人も、「POPEYE」に請求人の企業努力に便乗する商品の広告を出した(甲34)からも明かなことである。
カ) 請求人は、平成6年1月から、「Indianロゴ」(特徴ある筆記体の欧文字「Indian」)、「ヘッドドレスロゴ」、「『Indianロゴ』/MOTOCYCLE」、「『Indianロゴ』MOTOCYCLE」等を付したシャツ、ジャケット、帽子等の輸入販売を開始した(甲27、12、14ないし18)。輸入販売にかかる商品は「アーバンメディソン」(甲27)などの「Indian」ブランドの需要者に影響力のある店舗で販売された。これらの店舗で販売されたということ自体、「Indian」ブランドが需要者の間に充分浸透していたことを示すものである。
キ) 平成6年1月から12月、請求人は、「Indian」ブランドの需要者層である若い男性向けのカジュアルファッションの「ビームス」、「シップス」、「ユナイテッドアローズ」等の大手専門店で配布されている月刊広報誌「DICTIONARY」に、「Indianロゴ」及び「ヘッドドレスロゴ」を表示した請求人及びマスターライセンシーのサンライズ社の広告を掲載し、配布した(甲28)。「DICTIONARY」という影響力のある広報誌に広告が掲載されたということ自体、「Indian」ブランドが充分需要者の間に浸透していたことを示すものである。
ク) 平成6年始め、「アーバンメディスン」を所有開設している株式会社クラスから、若者向けカジュアルファッション流行の発信地として知られる東京都内の渋谷公園通りにある大きな「アーバンメディスン」の店舗内に、「インディアン」ブランドの衣類を販売するショップインショップを開設したいとの申し入れがあり、請求人はこれを承諾した。その結果、「アーバンメディスン」内に「Indian」ブランドのショップインショップが開設された。
「アーバンメディスン」内にショップインショップを開設したいとの求めによりショップインショップが開設された、ということ自体、「Indian」ブランドが充分需要者の間に浸透していたことを示すものである。なお、株式会社クラスは「ビギ」等にOEMで商品を供給している有名な会社である。
ケ) 平成6年始め、請求人は、マスターライセンシーであるサンライズ社を通じて、「Indian」ブランドを使用したバッグの製造販売につき、マルヨシとサブライセンス契約を締結した。
マルヨシは、同年5月ころ、展示会を開催して「Indianロゴ」、「ヘッドドレスロゴ」、「『ヘッドドレスロゴ』/MOTOCYCLE」、「二重の円の図形」の中に「左向きのインディアンの図形」を配した商標、二重の円の図形の中に「『左向きのインディアンの図形』+『Indianロゴ』MOTOCYCLE」を配した商標、等を使用してバッグの製造販売を開始し(甲30、31)、「旬刊ファンシー」平成6年6月25日号(甲29)、「グッズプレス」1994年(平成6年)11月号(甲32)及び「フィールド・ギア」1994年(平成6年)12月号(甲33)において、これらの商標を使用したバッグ、Tシャツ等の商品広告が掲載された。
コ) 即ち、平成6年始めには、「Indianロゴ」、「『Indianロゴ』/MOTOCYCLE」、「『Indianロゴ』MOTOCYCLE」、「ヘッドドレスロゴ」、「『ヘッドドレスロゴ』/MOTOCYCLE」、を始めとする「Indian」ブランドは、請求人を出所とするアメリカンカジュアルのヴィンテージバイカーのファッションブランドとしてアパレルについて需要者の間で、仮に周知でなかったにしても、相当程度知られていた。
アパレルについて相当程度知られるに至っていたからこそアクセサリーであるバッグへのライセンスが展開されたのである。
また、同様に、「IndianMotocycle」もアパレルについて請求人の商標としてまた略称として需要者の間に仮に周知でなかったにしても相当程度知られていた。
ウ 本件商標は、四角い図形の中に「『Indianロゴ』/MOTOCYCLE」を配し、その上に左向きのインディアンの図形を配した二重の円の図形を配したものであるが、「『Indianロゴ』/MOTOCYCLE」は請求人が販売した商品及び上掲雑誌に掲載された商品に付された「『Indianロゴ』/MOTOCYCLE」と同一であり、左向きのインディアンの図形を配した二重の円の図形はマルヨシが販売したバッグに付された商標と酷似している。
エ したがって、本件商標をその指定商品である衣類に使用すれば、本件商標を使用した商品に接した需要者は、これを請求人を出所とする商品と誤認するおそれが極めて高いものである。
(2) 出所混同の恐れの存在
したがって、本件商標の出願当時、本件商標をTシャツ等に使用するときは、需要者の間に出所について混同を生ずるおそれがあったことは明らかである。(なお、登録時にかかる出所の混同のおそれがあったことは言うまでもない。)
(3) 結論
よって、本件商標は、仮に法4条1項10号に該当しないとしても、法4条1項15号に該当するものである。
5)まとめ-被請求人の主張は理由が無い。
上述の通り、被請求人の答弁書中の主張は理由が無い。
4 本件商標は法4条1項7号、及び、法4条1項10号又は4条1項15号に該当する。
本件商標が法4条1項7号、及び、法4条1項10号又は4条1項15号に該当する事実を改ためて述べ、簡略に理由の要点を述べる。
1) 本件商標は法4条1項7号に該当する。
(1) 無効理由たる事実
本件商標は、被請求人において、請求人の「Indian」商標を用いたブランドビジネスを妨害する目的で、出願をし登録を得たものであり、公正な競業秩序を害するものであるから、法4条1項7号に該当する。
(2) 法4条1項7号の趣旨
既述の通り、法4条1項7号は、健全な商標秩序を害するおそれのある商標、即ち、社会的妥当性を欠く商標を公序良俗に反するおそれがあるとして登録を阻却することとしたものである。したがって、法4条1項7号は、制限的に解してはならない。公序良俗に反するおそれのある場合は、請求人の摘示した裁判例に見られるように多岐にわたる。もとより、「公正な競業秩序を害するおそれがある場合」は「公序良俗に反するおそれがある場合」に該当する。(母衣旗事件判決)
(3) 他人の業務を妨害する目的で出願した商標は、公正な競業秩序を害するおそれのある商標である。
他人の業務を妨害する目的で出願をし登録を得た商標は、公正な競業秩序に反するおそれのある商標であり、公序良俗に反するおそれのある商標である。このことは、母衣旗事件判決の示すとおりである。
なお、「他人の業務を妨害する目的」とは、「他人の業務が阻害されることを知り、他人の利益が害されることを知りながら、あえて出願をし登録を得る」ことをもって足りる。このような商標も公正な競業秩序に反するおそれのある商標であることは明白である。なお、本件商標が登録されることにより、請求人の業務が阻害され、請求人の利益が害されるのはいうまでもない。
(4) 「他人」の商標は周知であることを要しない。
「他人」の業務を妨害する目的で出願をし登録を得ることが公正な競業秩序に反するおそれのあるものであることは、「他人」の使用に係る商標が「周知」であるか否かに係らない。これは当然である。母衣旗事件判決も「他人」の商標の周知性を要求していない。
なお、「Indian」商標が本件商標の出願時周知であったこと、仮に周知でなかったとしても、相当程度知られていたことは、既に述べたとおりである。
(5) 「他人の業務を妨害する目的」は、間接事実により認定しなければならない。
「他人の業務を妨害する目的」は主観的要件である。かかる目的で出願したことを自白(自認)する者はいない。したがって、かかる目的の存在は、間接事実により認定しなければならない。かかる間接事実として考慮すべきものは、本件商標の態様、本件商標の出願に至る迄、本件商標の出願時から登録に至る迄、本件商標の登録を得た後の被請求人の行為、及び、それらの行為の行われた背景事情、並びに、類似の案件における被請求人の行為、等である。
(6) 本件商標の様態
ア 平成5年、「Indian」の再生、「Indian」商標を用いたマーチャンダイジングビジネスの起ち上げ、日本での販売、等を報じた雑誌ブルータスに、「Indian」商標として「Indianロゴ」、「『Indian』/MOTOCYCLE」、「ヘッドドレスロゴ」などが掲載された。
イ 「POPEYE」1993年(平成5年)11月10日号(甲26)に「Indian」商標を用いたTシャツなどの商品が掲載されたが、そこにも「Indianロゴ」、「『Indian』/MOTOCYCLE」、「ヘッドドレスロゴ」などが掲載されていた。
ウ 請求人は、平成6年から、「Indian」ブランドのTシャツや皮革製ジャケットやパンツ、帽子などの販売も始めたが、これらの商品にも、「Indianロゴ」、「ヘッドドレスロゴ」、「『Indian』/MOTOCYCLE」、「『ヘッドドレスロゴ』/MOTOCYCLE」、「『Indianロゴ』MOTOCYCLE」等が使用された。
エ 平成6年、請求人は「DICTIONARY」という「Indian」ブランドの需要者に影響力のある雑誌に「Indianロゴ」及び「ヘッドドレスロゴ」を示して、告知をした。
オ 平成6年、請求人はマルヨシにサブライセンスし、マルヨシは「Indian」ブランドのバックを製造販売した。マルヨシが使用した商標の中には「二重の円の図形」の中に「左向きのインディアンの図形」を配した商標があった。
カ 本件商標はマルヨシが用いた「二重の円の図形」の中に「左向きのインディアンの図形」を配した商標と酷似する標章の下に「『Indianロゴ』/MOTOCYCLE」を四角の図形の中に配してなる。
キ 本件商標は、被請求人が出願していた「インディアンモーターサイクル」と同一性の範囲外にある。
ク 本件商標は、請求人及びランセンシーが使用していた商標を組み合わせたものであり、本件商標の態様自体、被請求人が請求人やライセンシーの企業努力により「Indianロゴ」、「ヘッドドレスロゴ」、「『Indianロゴ』/MOTOCYCLE」、「二重の円の図形」の中に「左向きのインディアンの図形」を配した商標等の「Indian」商標が、需要者の間に浸透したのを見計らってあえてこれを採用し、出願したものであり、このことは本件商標の態様自体から明白である。
ケ まっとうな事業者はかかる態様の商標の登録出願をし登録を得ようとはしないものである。
コ かかる態様の商標が出願され登録されればそれ自体が請求人の業務の遂行を阻害し、請求人の業務を妨害することは自明である。
(7) 本願登録商標出願に至る迄、出願後登録まで、及び登録後の被請求人の行為並びにそれを取巻く状況
ア 平成5年の雑誌「ブルータス」による告知、平成5年末の雑誌「POPEYE」での紹介、平成6年の請求人による「Indian」商標を使用したTシャツ、皮革製のジャケット、皮革製のパンツ、帽子等の販売、平成6年の雑誌「DICTIONARY」への告知、平成6年の「アーバンメディソン」への「Indian」ブランドショップの開設、などにより、「Indian」商標は、Tシャツやジャケットやパンツ等の被服や帽子などのブランドとして、需要者の間に浸透し、平成6年にバックについてマルヨシにライセンスされるまでになった。即ち、平成6年中頃、「Indianロゴ」、「『Indianロゴ』/MOTOCYCLE」、「ヘッドドレスロゴ」等の商標は、請求人が被服や帽子等に使用する商標として、周知であった。仮に周知でなかったとしても、相当程度知られていた。
イ 被請求人は、それを見計って、平成6年9月21日、本件商標及び「『ヘッドドレスロゴ』/MOTOCYCLE」からなる商標の第25類への出願をした。
ウ 果して、被請求人は、平成7年、「『Indianロゴ』/MOTOCYCLE(書体が「Indianロゴ」に同じ)」、「右向きのインディアンの図形/『Indianロゴ』/MOTORCYCLE」、『Indianロゴ』を大書し、その下に小書した「MOTORCYCLE」を配した商標、などを使用して、Tシャツや帽子などの販売を開始した。
エ 平成7年の秋冬シーズンに、請求人のサブライセンシーである西澤社が「『Indianロゴ』/MOTOCYCLE」、「『ヘッドドレスロゴ』/MOTOCYCLE」などを使用し皮革製のジャケット及びパンツを広告宣伝販売し、「Indian」商標を皮革製ジャケットやパンツについても需要者に浸透させた。
オ 平成8年の秋冬シーズンに、西澤社が前年の投資の成果を回収しようという矢先、被請求人は「『Indianロゴ』/Motocycle」(書体は「Indianロゴ」に同じ)」(「Motorcycle」ではない)からなる商標等を使用して、皮革製ジャケットやパンツを製造販売し広告宣伝した。
カ 平成9年1月、被請求人は「INDIAN MOTORCYCLE」などの商標を多類出願し、平成9年3月には「『Indianロゴ』/Motorcycle(書体は『Indianロゴ』に同じ)」からなる商標を2つ、第25類に出願した。
キ 平成9年、請求人から訴及び仮処分命令の申立てを受けるや、被請求人は、平成3年に出願をし、平成6年に登録を得た片仮名の「インディアンモーターサイクル」に対する商標権をもとに、請求人等に訴を提起し、仮処分命令の申立をした。請求人は、「インディアンモーターサイクル」を商品に使用しなかったし、現に使用していない。かかる訴の提起及び仮処分命令の申立は、請求人の訴及び仮処分命令の申立に対抗し、「Indianロゴ」等を使用した商品の販売の継続をするためであったというほかない。(既述の通り、かかる請求は権利の濫用として棄却され、高裁でも棄却判決は維持され、かかる仮処分命令申立は却下され、抗告も棄却された。)
ク 平成16年2月本件商標が登録されたが、すかさず、平成16年5月、被請求人は「Indian」よりなる商標を第25類に出願した(商願2004-43015)。
ケ 更に、平成17年、被請求人は商品やその広告に本件商標と同一性のない「Indianロゴ」及び「Indianロゴ」に酷似した商標の使用を開始した。
「Indian」ブランドは「インディアン」と呼ばれることからも明らかなように、また、「Indianロゴ」は「ヘッドドレスロゴ」にも含まれるのであることからも明らかなように、「Indianロゴ」は「Indian」ブランドの中核であり、「Indian」ブランドを代表するものであり、請求人の使用する「Indian」商標で最も重要なものである。被請求人による「Indianロゴ」及びこれと酷似する商標(これらは、「インディアンモーターサイクル」、本件商標、その他被請求人が登録を得た商標と同一性の範囲外にある。)の使用は、請求人の企業努力の成果の収奪目的以外の何ものでもない。
(8) 被請求人の類似の案件における行為
ア 被請求人は、映画「BICWEDNESDAY」で「BEAR SURF BOARDS」が取り上げられ、マーチャンダイジングビジネスの核としての価値を得、いずれ日本に「BEAR SURF BOARDS」ブランドビジネスの導入展開のあるべきことが予想されるに至るや、「ベアーサーフボード」を出願し登録を得、これを商品に使用せず、サクラインターナショナルによる「BEAR SURF BOARDS」を用いた正規に許諾を得たブランドビジネスが開始されるや仮処分命令申立をし損害賠償請求の訴を提起し、同ビジネスの展開を阻害した。更に被請求人は、その後、「BEAR SURF BOARDS+図形」やこれに類似した商標を登録出願し登録を得た。これは、「インディアンモーターサイクル」を出願し、登録を得、これを商品に一切使用せず、これに対する商標権をもって請求人らに対し訴を提起して仮処分命令申立をし、請求人の企業努力の成果の収奪を継続せんとしたこと、更に、本件商標を始め、多くの「Indian」商標に酷似した商標を出願し、登録を得たことと同じである。
イ 請求人は、既述の如く、「TACHINNI」を始めとして多数の冒認商標登録を行っている。
(9) 結論
かかる間接事実に照らせば、本件商標は、被請求人において請求人の「Indian」商標を用いたブランドビジネスを妨害する目的で出願をし登録を得たものであることは明白である。したがって、本件商標は公正な競業秩序に害するおそれのある商標であり、公序良俗に反するおそれのある商標である。
2) 本件商標は法4条1項10号に該当する。
(1) 無効理由たる事実
ア 本件商標は、二重の円の図形の中に左向きのインディアンの図形を配し、その下に配した長方形の図形の中に「Indianロゴ」及び「MOTOCYCLE」を上下2段に配してなるものである。
イ 上述の通り、本件商標の出願時はもとより、本件商標の登録時においても「Indianロゴ」は請求人がTシャツ、ジャケット等に使用する商標として、需要者の間に周知であった。
ウ 本件商標は、請求人の上記の周知商標「Indianロゴ」と類似する。
エ 本件商標の指定商品は、洋服、コート、セーター類、ワイシャツ類、寝巻き類、下着、水泳着、であり、請求人が「Indianロゴ」及び「ヘッドドレスロゴ」並びに「IndianMotocycle」を使用するTシャツ、ジャケット等に類似する。
オ よって、本件商標は、法4条1項10号に該当する。
(2) 「周知」の意義
商標の「周知」とは、需要者の間で相当広く知られることを言う。
「Indianロゴ」を使用したTシャツ等の需要者はファッションに関心を持つ若年男性層である。
かかる需要者の間で、本件商標の出願時既に「Indianロゴ」が被請求人のTシャツなどに使用する商標として相当広く知られていたことは、請求人が審判請求書4頁以下において主張し立証したところであり、本弁駁書においても述べたところである。(なお、本件商標の登録時に「Indianロゴ」を請求人がTシャツなどの衣類に使用する商標として需要者の間に相当広く知られていたことは、明白である。)
そして、需要者の間に相当広く知られていたか否かの認定において、売上数量、売上高は不可欠の要素ではなく、売出し開始前でも告知等を通して需要者の間に広く知られることがあり、「Indianロゴ」が需要者の間に広く知られていたことは、上述の通りである。
(3) 結論
その余の要件が充足されていることは明白である。よって、本件商標は、請求人の主張するように、法4条1項10号に該当するものである。
3) 本件商標は法4条1項15号に該当する。
(1) 無効理由たる事実
ア 本件商標は、二重の円の図形の中に左向きのインディアンの図形を配し、その下に配した長方形の図形の中に「Indianロゴ」及び「MOTOCYCLE」を上下2段に配してなるものである。
イ 「Indianロゴ」は、本件商標の出願当時、即ち、平成6年9月当時、仮に周知でなかったとしても、少なくとも、請求人がTシャツ、ジャケット、パンツ、帽子などに使用する商標として需要者の間に相当程度知られていた、また、「IndianMotocycle」、「インディアンモトサイクル」は、請求人の略称として、需要者の間に相当程度知られてしていた。
本件商標の登録時には、「Indianロゴ」は、請求人が衣類等に使用する商標として需要者の間で広く知られており、「IndianMotocycle」、「インディアンモトサイクル」は、請求人の略称として、需要者の間に広く知られていた。仮に、百歩譲って、本件商標の登録時に需要者の間に広く知られていなかったとしても、需要者の間に少なくとも相当程度知られていた。
ウ したがって、本件商標の出願時においても本件商標の登録時においても、本件商標をその指定商品に使用するときは、かかる商品が被請求人の業務に係る商品であるとの誤認を生じさせるおそれがあった。
エ よって、本件商標は、法4条1項15号に該当する。
(2) 法4条1項15号の趣旨
4条1項15号は出所の混同防止の包括的規定であって、引用商標が周知著名な場合に限定されるものではなく、引用商標(本件では「Indianロゴ」)が需要者の間に相当程度知られている場合にも適用されるものである(上掲平成10年11月10日東京高民6判・平成9年(行ケ)第323号)。
(3) 「Indianロゴ」は、本件商標の出願当時、即ち、平成6年9月当時、仮に周知でなかったとしても、少なくとも、請求人がTシャツ、ジャケット、パンツ、帽子などに使用する商標として需要者の間に相当程度知られていた、また、「IndianMotocycle」、「インディアンモトサイクル」は、請求人の略称として、需要者の間に相当程度知られていた。
このことは、以下の事実から明らかである。
ア 「Indian」ブランドはヴィンテージバイカー系のアメリカンカジュアルのファッションブランドであり、その顧客層はファッションに関心を持つ若年男性層である(甲254)。 即ち、「Indian」ブランドの商品の需要者はかかるファッションに関心を持つ若年男性層である。
イ 平成5年1月29日、請求人の設立及び「Indian」ブランドビジネスの開始が報じられた(甲13)。同号証には、「ヘッドドレスロゴ」が掲げられ、「『ヘッドドレスロゴ』/MOTOCYCLE」を付したライダージャケットが掲載された。
ウ 平成5年1月から同年11月にかけて、雑誌「ブルータス」に21回にわたり、「Indian」ブランドの復活、アパレルマーチャンダイジングブランドとしての展開、日本においても「Indian」ブランドのマーチャンダイジングビジネスが展開されることが報じられた(甲226ないし246)。「ブルータス」は、「Indianロゴ」、「『Indianロゴ』/MOTOCYCLE」、「ヘッドドレスロゴ」を掲載した。
雑誌「ブルータス」の読者層は「Indian」ブランドの商品の需要者と重なる(甲247)。
また、雑誌「ブルータス」は発行部数が月25万部に昇り、広告価値の非常に高い媒体である(甲249、250)。
この結果、「Indian」ブランドは日本において平成5年11月頃には充分需要者の間に浸透し(甲247)、日本において「Indian」ブランドがブームになるのが時間の問題である程度に需要者の間に浸透していた(甲26)。
エ 平成5年(1993年)7月24日付け繊研新聞(甲24)に、「米アンティークバイク 『インディアン』ウエア発売」との見出しの下、スコット・カジヤ(「カジヤ」)を社長(当時)とする請求人が設立され、同年秋から、「インディアン」をイメージキャラクターにした商品の輸入販売及びライセンス事業が開始される旨の記事が掲載された。同号証には「ヘッドドレスロゴ」が掲載された。
また、同日付け日経流通新聞(甲25)にも、「米国のオートバイメーカー、インディアン・モトサイクル社(マサチューセッツ州)のライセンス供与を行っている『インディアン・モトサイクル・ジャパン』(東京・渋谷、スコット・カジヤ社長)は、米国で人気上昇中のアンティークバイク『インディアン・モトサイクル』関連商品のライセンス事業を、国内で展開する。」、「『インディアン』は1901-53年まで製造された高級バイクで、米国を象徴するブランドの一つ。会社は53年に解散したが、実業家のフィリップ・ザンギ氏が92年1月に再建した。」との各記載を含む記事が掲載された。
オ 「POPEYE」1993年(平成5年)11月10日号(甲26)に、「1940年代、アメリカでハーレー・ダヴィッドソンと人気を二分したバイクメーカーがインディアン・モトサイクル社」であり、そのロゴグッズは、「アメリカを象徴するトレードマークのひとつとして、……未だに根強いインディアン・マニアを持つほどの存在」であるところ、これらのロゴグッズがアパレルなどのキャラクターグッズとして復活しており、「米国では既にブームとなっている模様」で、「日本でもブーム着火は時間の問題だといえる。」との記事が掲載された。甲第26号証には、「Indianロゴ」、「『Indianロゴ』/MOTOCYCLE」、「ヘッドドレスロゴ」などが掲載された。「POPEYE」も、「Indian」ブランドの商品の需要者の間で広く読まれている雑誌である。このことは、被請求人も、「POPEYE」に請求人の企業努力に便乗する商品の広告を出した(甲34)からも明かなことである。
カ 請求人は、平成6年1月から、「Indianロゴ」、「ヘッドドレスロゴ」、「『Indianロゴ』/MOTOCYCLE」、「『Indianロゴ』MOTOCYCLE」等を付したシャツ、ジャケット、帽子等の輸入販売を開始した(甲27、12、14ないし18)。輸入販売にかかる商品は「アーバンメディソン」(甲27)などの「Indian」ブランドの需要者に影響力のある店舗で販売された。これらの店舗で販売されたということ自体、「Indian」ブランドが需要者の間に充分浸透していたことを示すものである。
キ 平成6年1月から12月、請求人は、「Indian」ブランドの需要者層である若い男性向けのカジュアルファッションの「ビームス」、「シップス」、「ユナイテッドアローズ」等の大手専門店で配布されている月刊広報誌「DICTIONARY」に、「Indianロゴ」及び「ヘッドドレスロゴ」を表示した請求人及びマスターライセンシーのサンライズ社の広告を掲載し、配布した(甲28)。「DICTIONARY」という影響力のある広報誌に広告が掲載されたということ自体、「Indian」ブランドが充分需要者の間に浸透していたことを示すものである。
ク 平成6年始め、「アーバンメディスン」を所有開設している株式会社クラスから、若者向けカジュアルファッション流行の発信地として知られる東京都内の渋谷公園通りにある大きな「アーバンメディスン」の店舗内に、「インディアン」ブランドの衣類を販売するショップインショップを開設したいとの申し入れがあり、請求人はこれを承諾した。その結果、「アーバンメディスン」内に「Indian」ブランドのショップインショップが開設された。「アーバンメディスン」内にショップインショップを開設したいとの求めによりショップインショップが開設された、ということ自体、「Indian」ブランドが充分需要者の間に浸透していたことを示すものである。 なお、株式会社クラスは「ビギ」等にOEMで商品を供給している有名な会社である。
ケ 平成6年始め、請求人は、マスターライセンシーであるサンライズ社を通じて、「Indian」ブランドを使用したバッグの製造販売につき、マルヨシとサブライセンス契約を締結した。マルヨシは、同年5月ころ、展示会を開催して「Indianロゴ」、「ヘッドドレスロゴ」、「『ヘッドドレスロゴ』/MOTOCYCLE」、二重の円の図形の中に「左向きのインディアンの図形」を配した商標、二重の円の図形の中に「『左向きのインディアンの図形』+『Indianロゴ』MOTOCYCLE」を配した商標、等を使用してバッグの製造販売を開始し(甲30、31)、「旬刊ファンシー」平成6年6月25日号(甲29)、「グッズプレス」1994年(平成6年)11月号(甲32)及び「フィールド・ギア」1994年(平成6年)12月号(甲33)において、これらの商標を使用したバッグ、Tシャツ等の商品広告が掲載された。
コ 即ち、平成6年始めには、「Indianロゴ」、「『Indianロゴ』/MOTOCYCLE」、「『Indianロゴ』MOTOCYCLE」、「ヘッドドレスロゴ」、「『ヘッドドレスロゴ』/MOTOCYCLE」、を始めとする「Indian」ブランドを代表する「Indianロゴ」は、請求人を出所とするアメリカンカジュアルのヴィンテージバイカーのファッションブランドとして、Tシャツ、ジャケット、パンツ、帽子等に使用する商標として、需要者の間で周知であり、仮に周知でなかったとしても、少なくとも需要者の間で相当程度知られていた。
アパレルについて周知になってからこそ、少なくとも相当程度知られるに至ったからこそ、アクセサリーであるバッグへのライセンスが展開されたのである。
また、同様に、「IndianMotocycleJapan」、「インディアンモトサイクルジャパン」、「IndianMotocycle」、「インディアンモトサイクル」も請求人の略称として需要者の間に周知であり、仮に周知でなかったとしても、少なくとも需要者の間で相当程度知られていた。
(4) 本件商標の登録時には、「Indianロゴ」は、請求人が衣類等に使用する商標として需要者の間で広く知られており、「IndianMotocycle」、「インディアンモトサイクル」は、請求人の略称として、需要者の間に広く知られていた。仮に、百歩譲って、本件商標の登録時に需要者の間に広く知られていなかったとしても、需要者の間に少なくとも相当程度知られていた。
このことは、請求人が審判請求書の10頁から18頁において詳細に述べたところである。
(5) 本件商標の態様-酷似
ア 「Indianロゴ」は特徴ある筆記体である。
イ 本件商標中の「Indian」は「Indianロゴ」と同一である。
ウ 本件商標中の「『Indianロゴ』/MOTOCYCLE」は、請求人が平成6年から販売した商品に使用した商標と同一である。
エ 本件商標中の、二重の円の図形の中に左向きのインディアンの図形を配した標章は、マルヨシがバッグに使用した商標と酷似する。
オ なお、「インディアンモトサイクル」は請求人の略称である。
(6) 「他人の業務に係る商品との混同のおそれ」
ア 上記に照らせば、本件商標をTシャツやジャケットやパンツや帽子などに使用すれば、需要者がこれを請求人の業務に係る商品であると混同するおそれが極めて高いことは明白である。
イ なお、上掲平成10年11月10日東京高民6判・平成9年(行ケ)第323号判決の事案も、同事件の原告(=無効審決取消請求人)の登録商標が被告(=無効審判請求人)の商標と酷似する部分を含むものである。
(7) 結論
よって、本件商標は、請求人の主張するように、法4条1項15号に該当するものである。
5 結論
よって、本件商標の登録は、法46条1項1号により、無効とすべきものである。

第4 請求人が平成19年6月29日付けで提出した上申書
請求人が「Indian」ブランドビジネスを正当に展開するものであり、「Indian」商標の正当な出所であることは、請求人の取扱い商品に関連する取引者、需用者に止まらず、世間一般の広く認識するところである。本件商標は、被請求人において請求人の業務を妨害する目的で登録出願をし、登録を得たものである。
1.請求人が日本において「Indian」商標の正当な出所であり、「Indian」ブランドビジネスを正当に行う会社であると世間一般に広く認識されていることは、OLCライツ・エンタテインメント社(「ディズニーランド」のオリエンタルランド社の子会社)(「OLC社」)提供、ソニー・ピクチャーズエンタテインメント社(「ソニー・ピクチャーズ社」)配給の平成19年正月第2弾の映画「世界最速のインディアン」の封切に際して、OLC社のタイアップ申し入れにより、請求人が同映画にタイアップしていることからも明らかである。(同映画の「インディアン」とは、1901年設立のIndian Motocycle Company(=旧インディアン社)が製造した「Indian」のオートバイのことであり、同映画は「インディアン」のオートバイで時速360キロの世界最高記録に挑戦し実現した63歳の男をテーマにした映画である。)
2.即ち、OLC社は、請求人や被請求人の業務内容や「Indian」ブランドに関するビジネスの内容を調査した上で、請求人を正当と認めて、タイアップの申し入れをしたのである。もとより、ソニー・ピクチャーズ社も承知した上でのことである。
請求人は日本に「Indian」ブランドを正当に導入し、企業努力を傾注して市場を開拓し、「Indian」ブランドを日本市場に浸透させたものであり、その営々とした企業努力とその成果とをOLC社もソニー・ピクチャーズ社も正当に評価したのである。
即ち、請求人は、請求人の扱っている商品の業界以外においても、正当な「Indian」商標の出所として認識されているのである。
3.かかるタイアップに対して、被請求人の行ったことは、タイアップ商品について、平成6年9月に出願し登録した商標(甲257(=本件商標)、甲258)をもってクレームをつけることであったのである。
かかる商標は、平成6年請求人がその輸入販売をした商品に使用して市場に浸透させた商標である、「ヘッドドレスロゴ」の下に「MOTOCYCLE」を配した商標(甲12ないし甲18、甲32)、と酷似するものであり、あるいは、平成6年請求人がその輸入販売をした商品に使用して市場に浸透させた商標である「Indianロゴ」の下に 「MOTOCYCLE」を配した商標(甲12ないし甲18、甲32)と平成6年ライセンシーのマルヨシがバッグに使用した「左向きのインディアンの図形」(甲29ないし甲33)とを組み合わせたものである。
(以上、甲389ないし402)
4.この被請求人の行為からも、本件商標が被請求人において請求人の業務を妨害する目的で登録出願をし、登録を得たものであることが明白である。

第5 請求人が平成19年7月30日付けで提出した上申書
1 本件商標は、被請求人において他人の業務を妨害する目的で登録出願をし、登録を得た商標である。
「Indian」ブランドの中核は、「Indianロゴ」である。その独特の書体と「インディアン」という短音節の爽やかな語感とが相侯って、「Indian商標」の中で最も強い顧客吸引力を有するのである。これは、インディアン・モトサイクル・カンパニー・インク(「新インディアン社」)が、「Indian」ブランドをマーチャンダイジングのブランドとして1991年に起ち上げたときから、不変である。
であるからこそ、被請求人は、本件商標、即ち、「『ヘッドドレス』/MOTOCYCLE」を登録出願し、登録を得ながら、これを商品に使用しなかったのである。
そして、今、被請求人は、「Indianロゴ」に酷似した書体の標章を単体として(「Indian/Motorcycle」、「Indian Motorcycle」などのように他の文字と組み合わせることなく)、インディアンの図形などと組み合わせて、襟ネームに、商標として使用することを開始したのである(甲404、甲406、甲408、甲409)。
被請求人は、これまでは、 襟ネームには、「Indianロゴ/Motorcycle」などを使用していたのである。
被請求人の目的は、本件商標の登録出願時より、請求人が導入し、企業努力を傾注して市場に浸透させた「Indian」ブランドに便乗し、請求人の業務を妨害することであった。このことは、請求人において、既に明らかにしたところである。
そして、「Indian」ブランドの中核である「Indianロゴ」と同一又は酷似した 「Indian」を商標として使用すれば、需要者をして請求人の展開する真正の「Indian」ブランドとより効率的に混同させることが出来、請求人の企業努力の成果への便乗をより効率的に行なうことができる。
よって、被請求人は、2007年7月に、「Indianロゴ」を大書し、その下に「MOTOCYCLE」を小書して配した標章を付したシャツを掲載し、「Indianブランド」の総称である「インディアン」、「INDIAN」を使用し、被請求人と何の関係も無いにも係わらず1901年設立のインディアン・モトサイクル・カンパニー 旧インディアン社)のオートバイに言及した、パブリシティー記事を、Lightning誌に掲載した(甲403)。これにより、被請求人を請求人のライセンシーと誤認し、被請求人の商品を請求人の正規ライセンシーの商品と誤認する需要者が増えてきている(甲413)。
即ち、被請求人は、より効率的に、「Indian商標」の周知性への便乗を成し遂げているのである。
そして、これと同時に、「Indianロゴ」に酷似した態様の「Indian」を単体で使用した標章を襟ネーム等に付したシャツの製造販売を開始した(甲404ないし甲410)。これにより、需要者は、被請求人を請求人のライセンシーと誤認し、被請求人の商品を請求人から正規にライセンスを受けた商品であると混同している(甲413)。
即ち、被請求人は、より効率的に、「Indian商標」の周知性への便乗を成し遂げているのである。
即ち、これらの事実は、被請求人において、「Indian」ブランドのマーチャンダイジングビジネスが日本市場で請求人の企業努力により成功しているのを見て、請求人の企業努力の成果を収奪し、請求人からクレームを受けるや本件商標に対する商標権をもってこれに対抗し、請求人の「Indian」ブランドビジネスを妨害することを目的として、本件商標を登録出願し、登録を得たものであることを如実に示す一例である。
念のため繰り返すが、かかる「他人の業務を妨害する目的」は、間接事実により認定する以外にないものであり(かかる「目的」を自認するものは居ないから、これは当然である)、かかる間接事実には、本件商標の態様、登録出願時及びその前後の被請求人の行為並びにその行為のなされた状況も当然含まれるのである。
即ち、本件商標が、請求人の業務を妨害する目的で登録出願をし登録を得たものであることは、上述のことからも明らかであるのである。
2 「Indian」ブランドは、トータルブランドとして既に周知である。
請求人の「Indianロゴ」 を中核とする「Indian」ブランドが、トータルブランドとして周知であることは、2007年7月18日から20日にかけて開催されたIFF(INTERNATIONAL FASHION FAIR)に出展され、繊研新聞で他のブランドとともに紹介されている(甲411、甲412)ことからも明らかである。請求人の平成6年の「Indian」ブランドの日本市場への導入以来の営々として真塾な企業努力の継続した積み重ねが如何に大変なものであったか、また如何に成果の大きなものであったか、何人もこれを正しく認識すべきものであり、被請求人において襟を正すべきものである。

第6 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし同第60号証を提出した。
1 理由
本件商標は、法4条1項7号、10号及び15号の何れにも該当するものではなく、請求人が主張するような無効理由はない。
(1)事実関係について
請求人は、多くの審判決で尽く否定されているにも拘わらず、その主張全般にわたって事実に反する主張を相変わらず繰り返す。このような請求人の主張が誤った心証形成を意図したものであることは明らかで、被請求人としては反論の必要性さえ疑問のあるところであるが、このような請求人の欺隔的主張によって、誤った査定や審決がなされた過去の経緯もあるので、前提となる事実関係について先ず明らかにしておく。なお、以下に記す事実関係については、関連する審判事件での審判決や不正競争行為差止等請求控訴事件(平成16年(ネ)第745号)での判決によって既に認定されているところである(乙1?8)。
ア. 被請求人(東洋)について
被請求人は、昭和40年に設立された会社であるが、前身となる「テーラー東洋」及び「港商社」の時代から数えると、60年近くの歴史を持つ老舗アパレルメーカーで、アメリカンカジュアル衣料の専門業者としては日本最有力である。また、被請求人は、多くの著名ブランド商品を市場に提供しており、「SUGAR CANE」「SUNSURF」「BUZZ RICKSON’S」「CHESWICK」「JOHN SEVERSON」「STYLE EYES」等は、アメリカンカジュアル衣料の代名詞的なブランドとなっている。更に、被請求人は、ジーンズに代表される日本におけるアメリカンカジュアル衣料の歴史においてもオピニオンリーダーとしての役割を果たしてきており、「スーベニアジャケット」の通称「スカジャン」が、被請求人の前身「テーラー東洋」が横須賀で販売していたジャンパーを語源としている程で、そして今や、ジーンズ、ジャケット、アロハシャツ等のアメリカンカジュアル衣料の全般について、多くの取引者や需要者から高い信頼と支持を得、市場での地位は不動なものとなっている(乙25、26)。
イ. 請求人(インディアンジャパン社)について
請求人は、平成5年6月3日に設立された会社で、定款の記載からすると、装身具から酒類及びオートバイに至るまで多種多様な商品の販売や、出版、広告代理、映像の企画・制作及び著作権の取得・譲渡・貸与等の業務を目的としている。そして、その主要業務は、他者に商標の使用を許諾することによって利益を得るブランドビジネスである。
ウ. 旧インディアン社について
旧インディアン社は、明治34年に創業された米国のオートバイメーカー「INDIAN MOTO(R)CYCLE CO.,INC.」で、およそ50年前の昭和28年に操業を停止しその後解散し、以来、関係者を含め如何なる事業活動も行っていない。そして、同社の過去の実績や同社が存続時に使用していた商標等については大凡請求人主張のとおりである。請求人は、旧インディアン社の過去の実績や商標使用の事実を示す資料を請求人らと何らかの関係を有する者による実績や事実であるかのように証拠として提出し、あたかも、請求人と同社との間には、何らかの関係や継続性があるかのような主張を繰り返す。しかしながら、同社と請求人らとの間には、法的には勿論のこと経済的にも社会的にも一切関係がない。
エ. サンギインディアン社について
請求人らが実際に関係したのは、旧インディアン社やその関係者などではなく、米国人フィリップ・エス・ザンギ(「ザンギ」)が、1990年に設立した同名の米国法人(「ザンギインディアン社」)である。ザンギインディアン社の社名、住所、社章は、いずれも消滅した旧インディアン社と同一であるが、両社の間には如何なる関係も継続性もない。ザンギインディアン社を設立したザンギという人物は、旧インディアン社及び同社商標に関連して国内外200人にも及ぶ人々から金員等を詐取したとして平成8年6月5日に逮捕され(乙15)、米国連邦裁判所により「投獄90ケ月、百万ドルを超える詐取金の返還支払を命ずる。」との判決を受け直ちに収監された人物である(乙16、20、21)。ザンギインディアン社の実体は、起訴状(乙17)の記録からも明らかにされており、要するに、ザンギインディアン社と旧インディアン社とは全く関係のない別法人で、彼の犯罪行為の道具として利用するために意図的に旧インディアン社と同一の商号、同一の社章、同一の住所を採用し、あたかも、旧インディアン社との間に何等かの関係又は継続性があるかのように装ったにすぎない会社である。しかも、ザンギインディアン社は、投資家から金員等を詐取しただけで、オートバイの製造は勿論、企業本来の事業活動はおろかその準備行為すら一切せずに、設立後間もなく倒産しているのである(乙18、20)。
オ. カジヤ、サンライズ社、西澤社及びマルヨシについて
ザンギインディアン社の実体は前記のとおりであるが、同社より日本をテリトリーとする旧インディアン社の商標を登録し使用する権利を譲り受けたと主張する者がカジヤで(乙22)、カジヤより請求人商標A(登録第2710099号商標)を譲り受けたのが請求人で、請求人の親会社であり「インディアン商標」のマスターライセンシーと自称するのがサンライズ社、請求人より前記請求人商標A等の使用許諾を受けたのが西澤及びマルヨシである。
カ. 「インディアン商標」について
ザンギとカジヤとの契約が有効であるか否かは当事者間の問題であるとしても、旧インディアン社が存続時使用していた商標について、日本ではもとより米国にあっても如何なる原権も有さないザンギやザンギインディアン社が、旧インディアン社が使用していた商標やこれを原型起源とする商標(「インディアン商標」)について、他者による採択や使用を制限することができるような権限を有さないことは論ずるまでもない。そうとすると、旧インディアン社と無関係であることについては、請求人も被請求人も(何人であろうと)同等であって、「インディアン商標」を被服等の商標として採択し使用することに関し、一方が正当な使用者で他方が不正な使用者であるとか、一方が他方の商標を冒用したとかといった関係になるものではなく、偶々、商標の採択動機やその原型起源が同じであったということにすぎないのである。請求人らが採択し使用する商標が、旧インディアン社のオートバイ商標とその態様が全く同一であることは認めるところであるが、これは請求人ら自らの創作によるものではなく、単に旧インディアン社が存続時に使用していたオートバイ商標をそのままデットコピーし自らの商標として採択したにすぎず、両標章の態様が同一であるからといって、請求人らとは全く関係のない旧インディアン社の過去の実績や名声を根拠に、請求人らに限って何か特別な権利や地位を有することにならないのはいうまでもないことである。
キ. 両者(請求人・被請求人)商標の近似性について
両者が採択使用する商標の構成やロゴ書体が近似していることは、どちらか一方が他方を真似したものでも単なる偶然でもないことは前記した通りである。即ち、両者の商標はいずれも、旧インディアン社が存続時使用していた商標(乙27から29)を原型起源とするもので、同社のバイクイメージや1900年初期の時代イメージを種々商品に再現することを意図しての採択である。このような試みは、同社が消滅した4年後には既に行われており(乙30、31)、現在でも同様の商品を取り扱う者は各国に存在する。請求人も被請求人もその内の一業者にすぎず、これらの業者が採択使用する商標は、程度の差はあっても旧インディアン社の商標に依拠しているのであるから、その構成や書体が近似してしまうのは必然であって、請求人らのように、「自分達だけが『インディアン商標』を独占的に使用する権限を有する。」などと全く根拠のない主張をする者は外に誰一人としていない。我が国においても関連する多くの商標が古くより登録されているのである(乙32)。
ク. 被請求人による「インディアン商標」採択の起源
被請求人は、平成2年の終わりころ、被請求人の評判を知った数百人からなる米国ヴィンテージバイクの愛好家団体より彼らのバイクジャケットを作るよう依頼され(乙24、33)、彼らの奨めでこのバイクジャケットを市販品化することとし、そしてまた、彼らの提案によりこのバイクジャケットの商標を「インディアンモーターサイクル」とすることとし、同商標を平成3年11月5日に出願し、平成6年3月31日に、登録第2634277号商標(「被請求人商標」)として登録を受けたことが被請求人による「インディアン商標」採択の始まりである。被請求人商標がカタカナ表記となっているのは、当初ロゴデザインが決まっていなかったことから、取り敢えず音表示で出願したことによるもので、このような出願手法は、先願主義を基調とする我が国の法制上一般的に採られている手法であって特に不自然なことではない。その後、本件商標を含め、ロゴデザインが決まったものに付いてはその都度出願してきたが、これら商標の登録(乙10)が出願から7年?10年近くの長期間を要したことも当事者間の問題を複雑にした要因と言わざるを得ない。
ケ. その後の経緯
被請求人は、被請求人商標「インディアンモーターサイクル」が公告され登録されたことを踏まえ商品販売の具体的な企画に着手するとともに、商標「INDIAN MOTORCYCLE」についてのカナダ国商標権者「INDIAN MANUFACTURING LTD.」(「カナダインディアン社」)と業務提携し(乙19、23)、平成7年初期に商社(蝶理、フジエンタープライズ)を介して同社商品を輸入することから「インディアン商標」商品の販売を開始したものである(乙34、35)。これら「インディアン商標」商品についての最初の雑誌広告は、平成7年6月25日発行の雑誌「ポパイ」による(乙36)。
そして、被請求人が当初使用していた「インディアン商標」の全ては、カナダインディアン社から輸入した商品に元々付されていたもので、このことは同社の商品カタログ(乙37)と照合すれば容易に判明するところであって、請求人らが使用する「インディアン商標」に依拠してのものでは断じてない。
コ. 関連する審判事件「インディアン商標」に関しては、請求人被請求人間で権利の有効性やその帰属を争った多くの事件があるが(下記)、何れの事件においても、本審判事件での請求人の主張と同趣旨の主張は否定され又は採用されておらず、最終的に下記事件の全てにおいて請求人は敗訴している。
1) 平成6年審判第13787号
請求人は、平成6年8月11日、被請求人商標(登録第2634277号商標)に対し、同商標は商標法4条1項7号、8号、15号に該当する商標であることを理由に登録無効審判を請求した。これについて特許庁は、平成9年9月30日、請求人の主張を否定し、請求不成立の審決をし(乙1)、同審決はそのまま確定した。
2) 平成10年審判第30518号
次に、請求人は、平成10年5月26日、被請求人商標に対し、同商標は継続して3年以上我が国において使用されていないとし、不使用を理由とする登録取消審判を請求した。これについて特許庁は、平成11年10月13日、被請求人が使用する商標「Indian Motorcycle」及び「INDIAN MOTORCYCLE」は、同商標の使用と認められるとして請求不成立の審決をした。同審決は審決取消請求事件(平成11年(行ケ)第443号)判決で維持され(乙2)、同判決は、最高裁の決定により確定した。
3) 取消2000-31423号
次に、請求人は、平成12年11月29日、被請求人による「インディアン商標」の使用は被請求人商標の不正使用に当たるとし、不正使用を理由とする同商標の登録取消審判を請求した。これについて特許庁は、一旦は請求人の主張を認めて同商標の登録を取り消す旨の審決をしたが(甲251)、同審決は審決取消請求事件(平成15年(行ケ)第181号)判決で取り消され(乙3)、同判決は、最高裁の決定によって確定し、被請求人商標の登録は維持された。
4) 無効2003-35031
更に、請求人は、平成15年1月30日、被請求人商標(登録第2634277号商標)に対し、再び、同商標は法4条1項7号に違反して登録された商標であることを理由に登録無効審判を請求した。これについて特許庁は、平成16年2月24日、請求人の主張を退け、請求不成立の審決をした。同審決に対し請求人は、東京高裁に審決取消請求事件(平成16年(行ケ)第108号)を提起したが、請求棄却の判決がなされ(乙4)、同判決は、最高裁の決定によって確定し、被請求人商標の登録は維持された。
5) 異議2004-90314.外
また、本件商標を含む被請求人の出願に係る「インディアン商標」9件(乙10)は、7年ないし10年近くの審査期間を経て平成16年2月27日に設定登録されたものであるが、これらの登録商標に対しても、請求人は、本審判事件と同様の主張によって登録異議申立をした。しかしながら、請求人の主張はいずれも認められず、全ての商標についてその登録を維持する旨の決定がなされた(乙5)。
6) 平成7年審判第28124号
一方、被請求人は、請求人がかつて有していた請求人商標A「Indian/インディアン図/Indian Motocycle co.,Inc.」(登録第2710099号商標)に対し、平成7年12月28日、法4条1項7号、11号に違反して登録されたものであることを理由に登録無効審判を請求した。これについて特許庁は、同商標は法4条1項7号に違反して登録されたものであることを理由に登録無効の最初の審決をしたが、同審決は東京高裁判決により取り消された。そこで特許庁は更に審理し、その結果、今度は法4条1項11号に違反することを理由に再び登録無効の審決をした。同審決は、審決取消請求事件(平成14年(行ケ)第140号)判決によって維持され(乙6)、同判決は、最高裁の決定によって確定し、請求人商標Aの登録無効が確定した。その結果、請求人が提起していた商標権侵害訴訟事件(平成8年(ワ)第9391号)での請求は棄却され、同時に、同案件での仮処分事件(平成8年(ヨ)22126)での決定は全く根拠のないものとなった。
7) 無効2002-35287
また、被請求人は、請求人がかつて有していた請求人商標B「Indian」(登録第4022987号商標)に対し、平成14年7月4日、同商標は被請求人所有の先願商標(本件商標)に類似するもので、商標法8条1項(先願規定)に違反して登録されたものであることを理由に登録無効審判を請求した。これについて特許庁は、両商標は類似しないとして請求不成立の審決をしたが、同審決は審決取消請求事件(平成15年(行ケ)第422号)判決で取り消され(乙7)、同判決は最高裁決定により確定し、これによって請求人商標B「Indian」の登録無効が確定した。
(2) 商標法4条1項7号(無効理由-1)について
商標法4条1項7号は、構成自体が矯激、卑猥、差別的若しくは他人に不快な印象を与える商標、特定の国若しくは国民を侮辱する商標、一般的に国際信義に反する商標、他の法律によってその使用等が禁止されている商標、その他その商標を使用することが公序良俗に反するような商標の登録を排除することを目的する公益保護の規定である。請求人は、「本件商標は、使用する意思もないのに、単に請求人らの『インディアン商標』を用いたブランドビジネスを妨害する目的で出願し登録を得たものであるから、その登録は公正な競業秩序に反し、第7号に違反して登録されたものである。」と主張する。
しかしながら、かかる請求人の主張は、商標法4条1項7号の適用解釈を全く無視しているもので、要するに、「自分らが行うブランドビジネスにとって邪魔になる商標は、公正な競業秩序を害するものである。」との身勝手な主張をしているにすぎない。
ア. 商標自体に公序良俗違反のない本件商標が商標法4条1項7号に該当する場合とは、その登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限られるものというべきである(東京高裁平成14年(行ケ)第616号事件判決)。
そこで、本件商標の出願の経緯についてみると、先に述べた事実関係からも明らかなように、出願の経緯が著しく社会的相当性を欠き、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するとは到底認めることはできない(東京高裁平成16年(行ケ)第108号、乙4:10から13頁)。本件商標が商標法4条1項7号に該当するとの請求人の主張に対しては、上記事件を含む多くの関連事件において判断が既に下されていて、実質的に新たな主張根拠や証拠が示されたわけでもない本件審判事件において、これら審判事件での判断は、本件商標の場合にあっても何ら変わるものではなく、そのまま適用されるべきものである。
イ. 勿論、旧インディアン社又はその関係者が現存し、インディアン商標の周知著名性が維持されているのであれば、国際信義又は競業秩序の観点から、本件商標の登録適格(第7号該当性)について議論しなければならないところであるが、かかる事実が全くないことは、全ての審判事件において既に認定されているところである。
そもそも、仮に、旧インディアン社の商標の著名性が今も維持されているとするなら、同社とは無関係な請求人が、他の商品区分において同社商標と全く同一態様からなる商標について何故登録を受けられたのか、その説明が付かないはずである。
ウ. 請求人は、「インディアン商標の日本における正当な出所である。」とか「本件商標は、正規のブランドビジネスの成果に只乗りし、これを妨害せんとして出願したものである。」とか、根拠のない主張を繰り返す。
しかし、「正当な出所」とか「正規のブランドビジネス」とかを主張するのであれば、そして又、他者による「インディアン商標」の採択使用が不正であるというのであれば、それなりの根拠を示すべきで、少なくとも「インディアン商標」の正当な継承者として認められるような何らかの事実の立証が必要不可欠である。にも拘わらず、請求人は、関係を示す一片の証拠も提出しないばかりか、ザンギが詐欺罪で逮捕されたことを知りながら、旧インディアン社の存続時の実績や商標使用の事実を、あたかも、請求人らと関係する者の実績や事実であるかのような主張や宣伝を相変わらず繰り返し、ブランドビジネスを展開するのである。このような請求人の行為は、需要者のみならずサブライセンシーをも欺く虚偽的行為と謂わざるを得ない。
エ. 我が国において、「インディアン商標」を被服等の商標として採択したのは被請求人が最先であることは、前記した事実関係から明らかで、被請求人による本件商標の採択の基となった被請求人商標の採択時期は、遅くとも出願日である平成3年11月5日以前であって、請求人らによる「インディアン商標」に関する如何なる事実行為よりも先行している。これ以前の事実があるとすれば、請求人が提示する1991年7月1日付けの「ザ・デイリーニュース」と、同年7月5日付けの「USA・ツディー」の僅かな掲載記事があるのみで、その内容たるや、ザンギが金員を詐取するために行った一方的な発表にすぎず、事業の存在や周知著名化の根拠となる使用事実を証明するものではない。そもそも、日本の一衣料品会社である被請求人が、外国で発行されたこのような英字紙を日々購読していたと考えること自体が極めて不自然で、百歩譲って、偶然にも被請求人が当該記事を読み、これをヒントに「インディアン商標」を採択し出願したとしても、当該記事はザンギの一方的なコメントにすぎないのであるから、このことが我が国での商標出願又は登録の適否を左右する要因になり得るはずもない。ましてや、請求人が主張するように、該米紙報道によって、「『Indian』ブランドが、ザンギインディアン社の商品を表示するものとして周知となった。」などということには到底なり得ないのである。このことは、後のザンギの犯罪行為やザンギインディアン社が、準備行為を含め発表内容の一切を実行せずに倒産している事実に照らせば尚更明らかである。
オ. 上記事柄に関する関連事件における判決の認定は、以下の通りである。
a. 平成15年(行ケ)第181号:東京高裁判決(乙3)
これ(ザンギインディアン社)が旧インディアン社の周知著名であった略称や「インディアン商標」の正当な承継者とは到底いえない。したがって、カジヤ・サンライズ社・被告(本件審判請求人)・西澤・マルヨシがその使用権限を有しないことも明らかである(乙3:39頁)。原告(本件審判被請求人)が本件商標(被請求人商標)ないし原告使用商標を被服等の商標として採択した動機は、被告(本件審判請求人)と同様、旧インディアン社とは無関係な立場で、旧インディアン社の略称又は「インディアン商標」を利用しようとしたことにあり、原告が、被告が本件引用商標を被服等に使用していたことを認識しつつ、敢えて原告使用商標を被服等に使用する行為を行ったとは認められず、他に上記事実を認めるに足りる的確な証拠はない(乙3:42頁)。
b. 平成16年(行ケ)第108号:東京高裁判決(乙4)
本件商標(被請求人商標)の出願が、ザンギインディアン社の業務を妨害する意図に基づくものであるとは到底推認できない。さらに、被告(本件審判被請求人)が上記記事(甲6、7)に接したかどうかにかかわらず、アメリカンカジュアル衣料の取引業者として、インディアンブランドの衣料の事業を開始しようと考え、本件商標を出願したとしても違法視すべき点は何ら存在しない(乙4:12頁)。
c. 平成16年(ネ)第745号:東京高裁控訴審判決(乙8)
ザンギ・インディアン社は、投資家から資金を集めてこれを詐取するため、オリジナル・インディアン社(旧インディアン社)と同一会社であるかのように装った会社で、これがオリジナル・インディアン社の周知著名であった米国インディアンブランドの承継者とは到底いえない。したがって、被控訴人(本件審判請求人)、サンライズ社、西澤、マルヨシその他のライセンシーが、オリジナル・インディアン社の米国インディアンブランドの使用権限を有しないことも明らか(乙8:21頁)。
カ. 被請求人は一貫してアメリカンカジュアルを扱い続け、完成度の高いモノ作りで世界に知られるメーカーで、フライトジャケット、ハワイアンシャツ、デニム衣料、バイクジャケットと制覇し、当該商品分野においては日本ではもとより世界的にも信頼され認知されている会社である。
そうとすると、何故、怪しげな人物の誘いからライセンスビジネスを目的とし、平成5年に設立された請求人会社の如何なるグッドウィルを盗用せんとするのか、被請求人会社にとってその必要性は微塵も存しない。
(3) 商標法4条1項10号(無効理由-2)について
商標法4条1項第10号は、出願時において既に他人の周知商標が存在することを前提に、出願商標が当該他人の周知商標と同一又は類似の商標であって、当該他人の周知商標と同一又は類似の商品を指定商品とする場合に適用されるものである。
請求人らが使用する「インディアン商標」が本件商標に類似するものであること、そして請求人らが使用する商品中には本件商標に係る指定商品と同一又は類似する商品含まれていることは認めるところであるが、請求人らが使用する「インディアン商標」が周知であったとの主張については、如何なる商品・如何なる時点に趨いても一切認めることはできない。
特に、商標法4条1項第10号を適用するに当たって、請求人らが使用する「インディアン商標」が周知であったかどうかの判断時は、本件商標の出願日(平成6年9月21日)である(第4条3項)ことからすると、本件商標が第10号に該当する商標でないことはなお更明らかである。
ア. 請求人は、請求人らが使用する「インディアン商標」の周知性を頻りに主張するが、如何なる商標が、何時、如何なる者の使用行為によって、如何なる商品に付いて周知商標となっているのかが暖味である。仮に、請求人主張が「旧インディアン社の商標として周知であった。」との主張であるならば、同社は1953年に消滅して以来、関係者を含め一切の営業活動を行っておらず、その周知性が維持されていないことは既に多くの審判決において認定されているところで、「インディアン商標」が同社の周知商標ということはできない。そもそも、請求人らと旧インディアン社とは如何なる関係も関連もないのであるから、旧インディアン社の過去の実績を請求人らと何らかの関係がある者の実績であるかのような主張は論外である。
イ. また、請求人主張が「ザンギ或いはザンギインディアン社の商標として周知であった。」との主張であるならば、同人同社による周知著名に至った使用事実はもとより、事業活動そのものの存在すらないのであるから、かかる請求人の主張は認められない。
ウ. 請求人は、周知性の認定判断において全く意味をなさない資料を証拠として大量に提出している。即ち、請求人が提出した周知性主張に関係すると思われる資料のほとんどは、旧インディアン社に関する資料であったり、本件商標の出願日以降の資料であったりして、請求人らが本件商標出願前に「インディアン商標」を使用したことが窺える資料は極僅かである。
しかも、それらの中にも、英文パンフレットがあったり、単に、請求人らがブランドビジネスの開始を一方的に発表したにすぎない業界紙の記事があったりして、周知性の有無を判断するうえで最も重要な要素となる商品の販売実績等について明らかにされている証拠は一切ない。例えば、上記業界紙では、「『Indian』ブランドのブーム着火も間近」などと紹介されているが、このフレーズは、請求人らが行おうとしていたブランドビジネスを自ら宣伝するために用いたキャッチコピーにすぎず、このような状況が現実にあったわけではない。
実際のところは、米国においては、ザンギインディアン社は投資家から金員を詐取しただけで設立後間もなく倒産しており、日本においても、請求人らの使用実績が皆無に等しかったことからして、その当時、「ブーム着火も間近」などというにはほど遠い状況であった。
その後、請求人らによるライセンスビジネスの開始によって某かの販売事実があったとしても、東京高裁判決(乙8)で、「(請求人)のライセンス事業の主力商品は、革製のジャンパー、ブーツ、バックなどの衣服、身の回り品であるが、それらのライセンシーであるマルヨシ、西澤、ギャロップあるいはオーエイチプランニングが比較的短期間のうちにライセンス事業から撤退していることは、(請求人)とサンライズ社によるライセンス事業が、その主力商品においても必ずしも順調に進んでいたわけではなく、その販売実績がさしたるものではなかったことを推認させるものである(乙8:21頁)。」と判示しているように、請求人らによる使用が、到底、周知性を獲得するに至るようなものでなかったことは疑問の余地のないところである。
エ. 請求人が本審判事件で提出した証拠は、他の事件でも同様に提出しているが(乙13、14)、次に記すように、何れの事件においても、その周知性は否定されている。
a. 平成14年(行ケ)第140号東京高裁判決(乙6)
本件商標(請求人商標)の登録査定時(平成7年3月30日)において、その主張するように、本件商標(請求人商標)が請求人(本件審判請求人)に係る被服等を表示するものとして周知であったとまで認めることはできない(乙6:16頁)。
b. 平成15年(行ケ)第181号東京高裁判決(乙3)
請求人(本件審判被請求人)による請求人使用商標の使用が開始された時点(平成7年5月ころ)で、被告(本件審判請求人)ら本件引用商標が被告らないしそのライセンシーの商品を表示するものとして取引者及び需要者の間に広く知られ、周知性を獲得するに至っていたものということはできず、…したがって、請求人が革製ジャケット等の商品に請求人使用商標を使用したものとしても、取引者及び需要者がこれを被告ら又は被告等と経済的又は組織的に何らかの関連を有する者の業務に係る商品であるかのように、その出所につき混同を生ずるおそれがあったものということはできない(乙3:40頁から41頁)。
c. 平成16年(ネ)第745号東京高裁控訴審判決(乙8)
したがって、被控訴人(本件審判請求人)及びそのライセンスグループが使用する引用商標は、被控訴人(本件審判請求人)及びそのライセンスグループの商品等表示として、取引者・需要者間に広く認識されているものと認めることはできない(乙8:22頁)。
(4) 商標法4条1項15号(無効理由-3)について
商標法4条1項15号は、登録出願時において他人の周知著名商標が存在し、出願商標をその指定商品に使用すると、需要者がその商品を当該周知著名商標主(又は関係者)の業務に係る商品であると誤認し、その商品の出所について混同するおそれのある場合に適用されるものである。
したがって、本号の適用に当たっては、商標や商品の類似性は特に問われないのであるが、その分、第10号でいうところの商標よりは、より周知の程度が高い商標(いわゆる著名商標)でなければならないとされている。そうとすると、請求人らが使用する「インディアン商標」は、その主力商品である被服類や身の回り品でさえその周知性が否定されているのであるから(前記)、本件商標をその指定商品に使用しても商品出所につき混同を生ずるおそれはないことは明らかである。
(5)結論
以上のとおり、本件商標には請求人の主張するような無効理由は一切なく、よって、答弁の趣旨のとおりの審決を求める。

第7 当審の判断
1 第4条第1項第7号該当について
(1)商標自体に公序良俗違反のない商標であっても、その登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあり、その登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合には、法第4条第1項第7号に該当すると解される(東京高裁平成14年(行ケ)第616号事件・平成15年5月8日判決及び東京高裁平成16年(行ケ)第108号事件・平成16年12月8日判決参照)。

(2)そこで、本件商標の出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあったか否かについて検討するに、当事者の主張及び証拠によれば、以下の事実(争いのない事実及び顕著な事実を含む。)が認められる。
ア 被請求人は、昭和40年に設立されたアメリカンカジュアル衣料の輸出入及び国内販売等を行う株式会社であり、請求人は、平成5年6月に設立された装身具、皮革製品、衣料品等の輸出入及び販売等を業とする株式会社である(乙第25号証、同第26号証)。
イ 旧インディアン社は、1901年(明治34年)に米国マサチューセッツ州スプリングフィールドに設立されたオートバイのメーカーであり(甲第2号証、同第3号証)、その使用した「Indianロゴ」「ヘッドドレスロゴ」等の商標(以下「引用商標」という)は、米国、欧州、日本において、需要者の間に周知著名性を獲得するに至った(甲第2号証)。しかし、旧インディアン社は、1953年(昭和28年)に操業を停止し、その後、解散した(平成5年(1993年)7月24日付け日経流通新聞(甲第2号証、同第3号証及び同第25号証))。
ウ 旧インディアン社が操業を停止した後にも、旧インディアン社の商標をモチーフとして使用した商品は米国内において販売され(甲第2号証)、我が国においても、従前から、旧インディアン社の商標に因んだ商標登録がなされている(甲第8号証、同第9号証)。
エ 米国人フィリップ・ザンギは、旧インディアン社の復活を標榜して、1990年(平成2年)に、ザンギインディアン社を設立し、以下(ア)(イ)のとおり、1991年(平成3年)7月に、同人が旧インディアン社の復活を計画している旨の記事が新聞紙上(甲第5号証、同第6号証及び同第25号証)に掲載された。
(ア)1991年7月1日付け「THE DAILY NEWS」(甲第6号証)には、「フィリップ・ザンギは今まさに、アメリカ史に残る伝説であるインディアン・モトサイクルを甦らせるという夢を実現しようとしている。」「フィリップ・ザンギ氏は衣類やアクセサリーのビジネスで大きな成功を収めている。インディアン・Tシャツ、皮ジャン、皮パンツ、しろめ製バックル、ブーツなどの新シリーズが売り出されている。」等と記載されている。
(イ)1991年7月5日付け「USA TODAY」(甲第7号証)には、「40年近くの間,製造を中止されていたインディアン・バイクが再び息を吹き返した。・・・フィリップ・ザンギの計画が順調にいけば、このクラシックの大型バイクは1993年には路上へと帰って来る。」「彼は去年そのインディアンの商標権を買い取り、アクセサリー会社と共にテスト・マーケットをすることにした。バイヤーたちはその会社のトレードマークであるインディアンヘッドを付したTシャツや皮ジャンに飛びついたのだった。」との記載がある。
オ その後、フィリップ・ザンギは、旧インディアン社及びその商標に関連して、虚偽の報告書を作成するなどして、多数の投資家から金員等を搾取したとして、1996年(平成8年)6月に逮捕され(乙第15号証)、米国の連邦地方裁判所において実刑判決を受けた。また、ザンギインディアン社は倒産している(乙第18号証及び同第20号証)。
カ 被請求人の常務取締役(小林亨一)が、1990年(平成2年)の終わり頃に、米国在住のビンテージバイクの愛好家に会った。その際に、インディアンという名のバイクに乗る彼のチームのユニフォーム(ジャケット)の作成依頼を受けた(乙第24号証及び同第33号証)。

(3)本件商標の出願に関し、請求人は、被請求人が上記新聞記事を見て、あるいは、人伝えや他の媒体で知り、「Indian」ブランドビジネスが展開されるであろうことを予測し、日本において同ビジネスを展開する者の業務を妨害する目的で、本件商標を出願したと主張する。
しかしながら、これらの記事は、米国の一般誌上(甲第6号証及び同第7号証)で各1回掲載されたにすぎないうえ、被請求人が当該記事の存在を認識し、関心を持ったことを示す証拠はない。
また、被請求人の常務が米国内のビンテージバイク愛好家と接触した事実は認められるとしても、そのことから、被請求人が当該記事内容を知ったと認め得る直接的な証左はみいだせない。
そして、仮に被請求人が当該記事に接する機会があったとしても、これらの記事の主たる内容は、旧インディアン社のオートバイの製造を計画しているというにすぎず、インディアンブランドの衣服等のビジネスに触れた部分があるものの、我が国で同衣服等のビジネスを行うことが時期等の情報をはじめ何ら具体的に開示されたものではないから、これをもって、ザンギインディアン社の業務を妨害する意図に基づき本件商標の出願をしたとは推認できない。また、他に、本件商標の出願前に、何人かによる同ビジネスの我が国における展開を被請求人が知り得たと認め得る的確な証拠もない。
そうとすれば、これをもって、我が国における「Indian」ブランドビジネスが展開されたときに、その業務を妨害する意図(目的)で本件商標の出願をしたとは到底推認することができない。
さらに、本件商標の出願時、旧インディアン社の商標を独占的に使用する権限を有する者が存在したと認めるに足りる証拠はなく、被請求人がアメリカンカジュアル衣料の当業者として、インディアンブランドの衣料の事業を開始しようとして、本件商標を出願したとしても、これを違法視することはできない。
そして、上記のビンテージバイク愛好家との接触の事実は、むしろ、前記の事業開始と本件商標の出願の動機づけの一つとみるのが相当である。

(4)請求人は、被請求人が商標「インディアンモーターサイクル」を使用せず、請求人が企業努力により平成6年前半頃までに「Indian」ブランドを我が国の市場に浸透させるや、請求人の使用する「Indianロゴ」と同一態様の標章をシャツ等に使用して、請求人やその取引先の業務を妨害した旨主張する。
しかしながら、請求人らの営業を妨害したと請求人が主張する被請求人の行為は、本件商標の出願から約1年後の、しかも本件商標とは別異の標章の使用に関することであるから、請求人の主張する標章についての使用行為が仮に認められるとしても、本件商標の出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くといえるような事実を構成するとみることは到底無理である。
また、被請求人が本件商標の使用を仮にしていないとしても、不使用による商標登録の取消の是非は格別として、本件商標の出願の経緯の社会的相性の欠如を左右する事実とはなり得ないというべきである。

(5)以上よりすれば、本件商標の出願の経緯が著しく社会的相当性を欠いたとして、当該商標登録が商標法の予定する秩序に反すると認めることはできないから、本件商標は、法第4条第1項第7号に該当するということはできない。

2 第4条第1項第10号及び同15号該当について
2-1 第4条第3項について
商標法第4条第1項第8号、第10号、第15号、第17号又は第19号に該当する商標であっても、商標登録出願の時に当該各号に該当しないものについては、これらの規定は適用しない(同法第4条第3項)。
商標法第4条第3項は、出願に係る商標が同法第4条第1項各号に該当するかどうかの判断の時点は査定時であることを前提として、特に同法第4条第1項第8号、第10号、第15号、第17号及び第19号についてだけは査定時にこれらの規定に該当していても、商標登録出願時にこれらの規定に該当していなければよいという趣旨を表している。
上記各号についてこのような救済規定を設けたのは、これら各号の場合には商標登録出願時に該当しないのに出願後これらの規定に該当するようになったものまで不登録にするのは酷に失するという理由による(社団法人発明協会が発行した工業所有権法逐条解説[第16版]第1069頁)。
したがって、本件商標が、商標法第4条第1項第10号及び同項第15号に該当しその登録を無効とするためには、本件商標がその登録出願の時(平成6年9月21日)においても、同法第4条第1項第10号及び同項第15号に該当しなければならないことは、同法第4条第3項の規定からも明らかである。

2-2 請求人が提出した各甲号証について
請求人が提出した証拠のうち、上記2-1の理由により本件商標の登録出願前におけるものについて以下に検討する。
(1)インディアン社及びインディアン社が製造販売するオートバイを紹介したパンフレット(甲第2号証)ないし雑誌記事(甲第3号証)等によれば、インディアン社は、1901年(明治34年)に米国において設立されたオートバイメーカーであり、その商品に使用した「Indianロゴ」「ヘッドドレスロゴ」等の商標は、米国、欧州、日本において、旧インディアン社の商標として、需要者の間に周知性を獲得するに至ったことがあるものの、同社は1953年(昭和28年)操業を停止したことが認められる。
(2)「ブルータス」1993年(平成5年)1月1日、15日合併号(甲第5号証)フィリップ・ザンギが、1991年(平成3年)1月、再びインディアン社を興すことを紹介した記事が掲載されている。
(3)スコット・サトシ・カジヤの宣誓供述書(甲第10号証)には、インディアン・モトサイクル・ジャパンがスコット・サトシ・カジヤから日本において「インディアン」商標を独占的に使用する権利を買い取ったこと等が記載されている。
(4)平成4年商願第10316号、同第10317号、平成5年商願第30601号?同第30609号、同第30611号及び同第30612号に係る商標登録出願により生じた権利並びに商標登録第2674792号商標及び同第2710099号商標の各商標権について、スコット・サトシ・カジヤから請求人に対する各譲渡証書(甲第11号証)が提出されている。
(5)新インディアン社の商品カタログ(平成4年)(甲第12号証)は、英語版であり、我が国において、一般の取引者、需要者を対象に頒布されたものとは認められない。
(6)請求人の平成5年6月30日付け商業登記簿謄本(甲第19号証)には、衣料品、オートバイ等の輸出入及び販売等の会社設立の目的が記載されている。
(7)平成元年1月15日発行の「広告」1、2月号(甲第23号証)は、株式会社サンライズ社の執筆に係る「ハリウッドはあこがれのメディア」と題する記事が掲載されている。
(8)平成5年(1993年)7月24日付け繊研新聞(甲第24号証)に、「米アンティークバイク『インディアン』ウエア発売」との見出しの下、スコット・エス・カジヤを社長とするインディアンモトサイクルジャパン(請求人会社)が設立され、同年秋から、「インディアン」をイメージキャラクターにした商品の輸入販売及びライセンス事業が開始される旨の記事が掲載された。また、同日付け日経流通新聞(甲第25号証)にも、「米国のオートバイメーカー、インディアン・モトサイクル社(マサチューセッツ州)のライセンス供与を行っている『インディアン・モトサイクル・ジャパン』(東京・渋谷、スコット・エス・カジヤ社長)は、米国で人気上昇中のアンティークバイク『インディアン・モトサイクル』関連商品のライセンス事業を、国内で展開する。」、「『インディアン』は1901-53年まで製造された高級バイクで、米国を象徴するブランドの一つ。会社は53年に解散したが、実業家のフィリップ・ザンギ氏が92年1月に再建した。」との各記載を含む記事が掲載されている。
しかしながら、本件商標の登録出願前にライセンス事業に係る商品が販売された事実を証明するもはない。
(9)「POPEYE」1993年(平成5年)11月10日号(甲第26号証)に、「1940年代、アメリカでハーレー・ダヴィッドソンと人気を二分したバイクメーカーがインディアン・モトサイクル社」であり、そのロゴグッズは、「アメリカを象徴するトレードマークのひとつとして、‥‥‥未だに根強いインディアン・マニアを持つほどの存在」であるところ、これらのロゴグッズがアパレルなどのキャラクターグッズとして復活しており、「米国では既にブームとなっている模様」で、「日本でもブーム着火は時間の問題だといえる。」との記事が掲載されている。
(10)「CLiQUE」平成6年1月号(甲第27号証)は、「スティーブ・マックイーンらが愛した『インディアン・モトサイクル』の関連アイテムが揃う『アーバン・メディスン』が9月にオープンした。特に『インディアン』のシルバーブレスレットは、ライダーズジャケットに次ぐブームの兆し」との記載があるが、同記事は、本件商標の指定商品に係る商品とは認められない。
(11)若い男性向けのカジュアルファッションの大手専門店で配布されている月刊広報誌「DICTIONARY」平成6年(1994年)1月号(甲第28号証)に、ヘッドドレスロゴを表示した請求人及び訴外サンライズの広告が掲載されたが、これがいかなる趣旨で掲載されたものであるか不明である上、その発行部数、頒布先は明らかではない。
(12)平成6年頃、請求人のマスターライセンシーである訴外サンライズは、「インディアン」ブランドを使用したバッグの製造販売につき、訴外マルヨシとサブライセンス契約を締結した。訴外マルヨシは、同年5月頃、展示会を開催して引用商標を付したバッグの製造販売(甲第31号証)を開始した旨記載されているが、本件の指定商品に係る商品とは認められない。
(13)平成6年6月25日付け「旬刊ファンシー」(甲第29号証)には、「『インディアン』が復活・・・マルヨシは5月16?18日、本社2階展示室で’94秋?’95春の展示会を行った。・・・今回、新ブランドとして『インディアン』を商品化」との記載があるが、「Indianロゴ」等の商標の記載はなく、その発行部数も明らかではない上、その内容自体から一般の需要者を対象としたものとは認められない。
(14)株式会社マルヨシの商品カタログ(甲第30号証)及び同社作成のバッグの仕様書(甲第31号証)には、いずれもインディアン図形とIndianロゴを組み合せた標章が掲載されているが、前者についてはその発行部数、頒布先は明らかではない。後者については、商品が「バッグ」であり、その製造数量、製造期間、販売実績などが明らかでない。

2-3 請求人の「Indianロゴ」等の引用商標の周知・著名性およびその獲得時期
審判請求書第6頁及び7頁によれば、請求人は、平成6年1月から、「Indianロゴ」「ヘッドドレスロゴ」等を付したシャツ、ジャケット、帽子等の輸入販売を開始した。輸入販売にかかる商品は「アーバンメディソン」(甲第27号証)などの「Indian」ブランドの需要者に影響力のある店舗で販売されたことを主張している。
しかしながら、これに先立つ平成5年11月に、日本でも「インディアン」ブランドのブーム着火は時間の問題との記事が掲載され、平成6年1月から、請求人は、若い男性向けカジュアルファッションの大手専門店において無料で配布されている月刊広報誌に広告を掲載するなどして、「インディアン」ブランドの宣伝に努めていたものの、どの程度引用商標が取引者、需要者に浸透したかを確認できる客観的な証左が提出されていないばかりでなく、テレビ、ラジオのマスメディアによる宣伝、広告したことも確認できないことから、この程度の期間では、引用商標が周知著名性を獲得するまでに至ったものと認め難い。
平成6年5月頃の時点においては、証拠上請求人の最初のライセンシーと認められる訴外マルヨシとのライセンスビジネスが開始し、引用商標を付したバッグが市場に流通し始めたばかりであるから、この時点で、引用商標が請求人のライセンスビジネスにかかる商品等表示として市場に浸透し、需要者の間に広く認識されていたということはできない。
そして、請求人は、ライセンシーが引用商標を付した商品の販売数量、販売額、売上高などについて立証していないので、引用商標の周知著名に至った時期及びその商品を把握することができない。
以上のとおり、引用商標は、少なくとも本件商標の登録出願時である平成6年9月21日の時点において、取引者、需要者の間で広く認識されていたものということができない以上、本件商標は、引用商標との類否について検討するまでもなく、商標法第4条第1項第10号に該当するものではないと言わなければならない。
つぎに、本件の出願日前後の証拠を検討するに、平成6年11月から同年12月にかけても、2種類程度の雑誌に、引用商標を付したバッグ等の広告が掲載された事実が認められる程度であるから、この時点において、引用商標がバッグなどの本件商標の非類似商品において周知著名になったということもできない。
上記のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時おいて取引者、需要者に広く認識されていたものとはいえないから、本件商標をその指定商品に使用した場合、これに接する取引者、需要者が、引用商標を連想、想起するようなこともなく、該商品が請求人ともしくは同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのごとく、その出所について混同を生ずるおそれがないというのが相当である。
したがって、請求人が提出する甲各証拠によっては、本件商標の登録出願日前(平成6年9月21日)において、引用商標が請求人に係る被服、バッグ等を表示するものとして周知・著名であったとまで認めることはできず、本件商標は商標法第1条第1項第10号及び同第15号に該当するものとは認められない。

3 まとめ
以上のとおり、本件商標は、法第4条第1項第7号、10号及び15号に違反して登録されたものではないから、同法第46条第1項の規定によりその登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲
本件商標

審理終結日 2007-08-09 
結審通知日 2007-08-15 
審決日 2007-09-04 
出願番号 商願平6-95840 
審決分類 T 1 11・ 25- Y (025)
T 1 11・ 22- Y (025)
T 1 11・ 271- Y (025)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村上 照美門倉 武則 
特許庁審判長 井岡 賢一
特許庁審判官 鈴木 修
渡邉 健司
登録日 2004-02-27 
登録番号 商標登録第4751423号(T4751423) 
商標の称呼 ワールズファイネストモーターサイクル、インディアンモトサイクル 
代理人 野原 利雄 
代理人 古木 睦美 
代理人 佐藤 雅巳 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ