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審決分類 審判 一部無効 称呼類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y15
審判 一部無効 商標の周知 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y15
審判 一部無効 観念類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y15
管理番号 1193835 
審判番号 無効2008-890044 
総通号数 112 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2009-04-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-05-29 
確定日 2009-02-09 
事件の表示 上記当事者間の登録第4901230号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4901230号の指定商品中「楽器,演奏補助品,音さ」についての登録を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4901230号商標(以下「本件商標」という。)は、「JACKSON」の欧文字と「ジャクソン」の片仮名文字とを上下二段に横書きしてなり、平成17年2月10日に登録出願、第15類「調律機,楽器,演奏補助品,音さ」を指定商品として、同年10月14日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第90号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 無効事由
本件商標は、商標法第4条第1項第10号、同第19号及び同第7号に違反してなされたものであるから、同法第46条第1項の規定により第15類「楽器,演奏補助品,音さ」についての登録を無効とすべきである。

2 請求人が有する利害関係
(1)請求人「ジャクソン シャーベル マニュファクチャリング インク」(以下「JCMI」と略す場合がある。)は、後記する共同請求人「フェンダー ミュージカル インスツルメンツ コーポレーション」(以下「FMIC」と略す場合がある。)が全額出資する子会社である(甲第5号証)。「JCMI」は、いわゆる「ジャクソンギター」を最初に創造した米国のギター製作者「グローヴァー ジャクソン=Grover Jackson。本名はオーリン・ホーマー・ジャクソン・ジュニア=O.H.Jackson.jr」が、1986年5月20日、米国特許商標庁で、別掲のとおりの商標「Jackson」(以下「別掲のJackson商標」という。)につき、商品「アコースティック又はエレクトリックギター及びベース等の楽器、その部品他」に使用するものとして商標登録を受けた商標権(甲第4号証)及び引き続き「別掲のJackson商標」につき世界各国(現在は34カ国、甲第5号証のA紙参照)で取得した商標権、並びにその他多数の商標権を、2002年10月25日、当時権利者であった「アカイ ミュージカル インスツルメンツ コーポレーション」から買い取り、現在も所有し管理する会社である。
「JCMI」は、2002年10月に、「別掲のJackson商標」のほか全ての商標権等につき、親会社である「FMIC」へ独占的使用権を許諾している。
ちなみに、「JCMI」の現在の代表者は、共同請求人「FMIC」と同じ「Mathew P.Janopaul」である(同人の宣誓書、甲第5号証を参照)。
なお、請求人「JCMI」が所有して、いわゆる「ジャクソンギター」に付して使用する「別掲のJackson商標」は、甲第4号証に示したとおり、各英文字を細線で飾った筆記体風の装飾文字で個性的に表記されている。よって、その表記の個性を尊重する趣旨により、本書では、上記のとおり、便宜上「別掲のJackson商標」と表示して、他の同じスペルでも異なる表記の「Jackson」ないし「JACKSON」と区別する。
(2)請求人(FMIC)は、上記したように、2002年10月、共同請求人「JCMI」から、同社が所有する「別掲のJackson商標」その他の商標権の独占的使用権の許諾を受けて、前記「別掲のJackson商標」を付した商品「エレキギター」、いわゆる「ジャクソンギター」をはじめとする楽器の製造と販売を国際的商取引として行い今日に至っている(甲第5号証)。
(3)請求人「中信楽器製造株式会社」(以下「中信楽器」と略す場合がある。)は、「別掲のJackson商標」の商標権者として一時期に登場し、「別掲のJackson商標」を付した商品「ジャクソンギター」の製造、販売に関与していた米国の会社「Internationa1 Music Company」との間に、昭和61年(1986年)1月、登録商標「Charvel」を付したエレキギターの製造委託を受けて同社との取引を開始した(同社社長の宣誓書、甲第6号証の1)。
1989年12月には、登録商標「G1over Jackson」に係る日本国の商標登録第2326621号をはじめ、その他3件(商標登録第1976796号、商標登録第2150759号、商標登録第2167038号)を含む合計4件の商標権それぞれの持ち分50%を買い取り、その後更に1994年7月には、前記4件の商標権の残る持ち分50%をも買い取って日本における単独の商標権者となった(甲第6号証の2)。
その後、2002年11月には、上記したように共同請求人「JCMI」の全額出資の親会社となった共同請求人「FMIC」から製造委託を受けて取引を開始し、同社のエレキギターのOEM製造を継続して現在に至っている。
(4)したがって、上記3名の共同請求人は、被請求人の本件商標の指定商品中「第15類 楽器,演奏補助品,音さ」に使用するものとして商標登録を受けたことにつき、重大な利害関係を有する。

3 商標法第4条第1項第10号について
(1)「FMIC」らが商品「エレキギター」に使用する「別掲のJackson商標」は、本件商標「JACKSON\ジャクソン」の登録査定の時点では既に、いわゆる「ジャクソンギター」を表示する商標として、我が国において需要者の間に周知ないし著名であった。
ア 我が国を除く世界各国に「別掲のJackson商標」が商標登録された事実
「FMIC」の社長兼最高執行責任者である「Mathew P.Janopaul」の宣言書(甲第5号証)に商標登録リストAが添付されているとおり、いわゆる「ジャクソンギター」を創造した「グローヴァー ジャクソン」らは、「別掲のJackson商標」の商標登録の手続を以下のように行った。
先ず本国の米国(USA)へは1985年4月15日、商品「アコースティック又はエレキギター及びベース等の楽器、その部品他」に使用するものとして出願し、1986年5月20日に登録を受けた(甲第4号証)。
次に、1986年にはオーストラリア(ATRA)、ベネルックス(BENE)、カナダ(CANA)、デンマーク(DENM)、フランス(FRAN)、ドイツ(GERM)、ニュージランド(NEWZ)、ノルウエー(NORW)、南アフリカ共和国(SAFR)、スペイン(SPAI)、スイス(SWIT)、台湾(TAIW)へそれぞれ出願し商標登録を受けた。
また、1990年にはイギリス(UNIK)へ出願して商標登録を受けた。
その後も引き続き世界各国へ商標登録出願の手続を積極的に行い、その合計は実に34カ国に及んでいる(甲第5号証のA紙)。甲第8号証には、前記登録例のうち、今般入手可能であったオーストラリア、デンマーク、台湾(中華民国)、英国の商標登録公報4件を代表的に示す。
しかし、我が国に「別掲のJackson商標」の商標登録の事実はない。要するに我が国へも商標登録出願は行ったが、拒絶されたのである(甲第2号証)。今となっては、当時の出願書類控えも「グローヴァー ジャクソン」の手元になく、同人の記憶に頼るのみであるが、同人の出願日以前に存在した、被請求人が所有する先登録商標「JAXON/ジャクソン」(登録第1191801号の1、甲第9号証)を理由に拒絶されたものと推定される。
イ 「別掲のJackson商標」を付した「ジャクソンギター」の誕生と日本への上陸
上記2(1)で説明したとおり、「ジャクソンギター」を最初に創造した米国のギター製作者「グローヴァー ジャクソン」が「別掲のJackson商標」を付した商品エレキギター、いわゆる「ジャクソンギター」の製造販売を始めた経緯は、同人の宜誓書(甲第2号証)及び我が国においてギタリストを中心とする記事を掲載し発行した月刊音楽雑誌「YOUNG GUITAR」(発行元は新興音楽出版社、現社名:シンコーミュージック・エンタテイメント)の1985年9月号の110頁ないし111頁に掲載された「グローヴァー・ジャクソン:インタビュー」の記事(甲第3号証の3)における同人の「ギター製作に関する具体的な経歴」のQ&Aに詳しい。要するに「ランディー・ローズ」と出会い、彼のために今までにないデザインのエレキギターの製作依頼を受けて1981年に完成し、彼専用のモデルとして所謂「ジャクソンギター」が誕生した。そして、遅くとも音楽雑誌「YOUNG GUITAR」の1985年9月号の92頁と100頁(甲第3号証の1、2)及び110頁ないし111頁(甲第3号証の3)並びに113頁(甲第3号証の4)に掲載された記事により、「別掲のJackson商標」を天神に付した商品「ジャクソンギター」が我が国へ大きく紹介された事実が認められる。
とりわけ同誌の113頁には、「ランディー・ローズ」モデルと共に、天神(Neck)に「別掲のJackson商標」を付した「ジャクソンギター」が4タイプ大きく紹介されている(甲第3号証の4)。これらの記事が、「別掲のJackson商標」を付した「ジャクソンギター」が日本へ上陸した事実を示すと主張する。
ちなみに、「別掲のJackson商標」が付された「ジャクソンギター」を我が国で広く知らしめるきっかけを作った上記月刊音楽雑誌「YOUNG GUITAR」は、1969年に創刊され、当時5ないし6種あった同種の音楽雑誌の中でも最も多い発行部数(当時は月刊約8万部程度)を誇っていた。その後の発行部数は徴減するが、2000年以降から現在までの発行部数は5万部程度を維持している。そして、この雑誌は1980年当時から現在まで、日本を代表するギター専門の音楽雑誌として、日本全国の書店や楽器店には必ず置かれていたことを、発行元の新興音楽出版社(現社名:シンコーミュージック・エンタテイメント)の編集部担当者から回答を得ている。
もっとも、同じ「YOUNG GUITAR」の1985年9月号の117頁(但し、明示のページ数は記載されていない。)に、被請求人である(株)黒澤楽器店名義で、商品「ギター」に関する広告記事が掲載されている(甲第3号証の5)。このように被請求人も商品「ギター」に関する広告記事を当該雑誌(甲第3号証)に掲載していたので、前記事実と主張に争いはないと考える。
のみならず、被請求人も、上記自社の広告記事に隣接する110頁ないし111頁(甲第3号証の3)に掲載された「グローヴァー ジャクソン」の特集記事、及び天神に「別掲のJackson商標」が付された「ジャクソンギター」の紹介記事(甲第3号証の1、2、4)は、楽器店として当然に目を通したであろうと推定する。
ウ 商品「エレキギター」に使用する商標が周知ないし著名となる要因について
商品「エレキギター」に使用する商標が需要者の間に広く認識されて、いわゆる周知ないし著名となる要因は、もとより同商品の製造・販売が長きにわたり継続して広く宜伝・広告が行き渡り、知名度が上がることである。しかし、この一般論とは別に、商品「ジャクソンギター」の特異性としては、そのデザインが過激で、かつ独特なもので、同種商品では他に類例を見ないものであり、しかも高品質、高性能であったことを強調することができる。また、「別掲のJackson商標」の個性的な独特の表記が、「ジャクソンギター」に固有な刃のようなヘッドストックに付されている配置、デザインも印象的であり、周知性ないし著名性を獲得することに大いに役立つことも明らかで、今や世界でもっとも知られたギターになっている。
世界中のジャクソンファンは、忠実で情熱的で際だっている。ジャクソンファンのホームページは、「ジャクソンギター」によって与えられる熱情を示している。実は日本にもジャクソンファンクラブが存在することも知られている(甲第26号証の3、4)。
「ジャクソンギター」のプレイヤーは、独創的なデザインで、高性能、高品質で高い技術を駆使できることを理由に「ジャクソンギター」を選んでいる。多くの「ジャクソンギター」プレイヤーは、「Jackson」以外の他の商標あるいはモデルを選ばない傾向にある。
そうした有名・著名なプロのギター奏者が愛用している「ジャクソンギター」の評価や信頼度がいかに高いかの情報が雑誌類で流布されることによって更に知名度が上がることは、必然の結果である。
なによりも、「別掲のJackson商標」を付したいわゆる「ジャクソンギター」が誕生したきっかけが、「ランディー・ローズ」のモデルであり、同人が後年、ロックバンド界で世界的なビッグネームになった(その詳細については雑誌「YOUNG GUITAR」の2006年4月号の60頁ないし63頁にわたる特集記事を参照のこと、甲第7号証)ことも、「エレキギター」の愛好家やプロのギター奏者達に広く知られ注目され愛用されるきっかけになったことも否めない。かくして「別掲のJackson商標」を天神に付した「ジャクソンギター」が世界中で急速にビッグブランドに急成長した事実を理解されるべきである。
もちろん、「ジャクソンギター」が「ランディー・ローズ」だけに限らず、その後も他の多くの有名なプロギター奏者に広く情熱的に愛用された事実及び情報も、「別掲のJackson商標」を付した「ジャクソンギター」が周知ないし著名になる要因であったことも事実である。その点は、次の「エ」に詳記して立証する。
エ 本件商標の登録査定前の事実
上記「イ」で主張したとおり、本件商標「JACKSON\ジャクソン」の登録査定日(平成17年(2005年)9月9日)より遥か以前である、1985年9月号の月刊音楽雑誌「YOUNG GUITAR」の110頁ないし111頁に掲載された「グローヴァー・ジャクソン:インタビュー」の記事(甲第3号証の3)のほか、同誌92頁と100頁(甲第3号証の1、2)及び113頁(甲第3号証の4)に掲載された記事によって、天神に「別掲のJackson商標」が付された商品「ジャクソンギター」が我が国へ大きく紹介された。
その後も、我が国において「ジャクソンギター」に関する宣伝広告や紹介の情報記事は、音楽雑誌「YOUNG GUITAR」の1996年10月号から2005年1月号(甲第10号証ないし甲第40号証及び甲第47号証(枝番号省略))に、天神に「別掲のJackson商標」が付されたギターの広告写真、「JACKSON USA」の表記の下、同ギターの掲載されている広告、また、同ギター関するエレキギター奏者の紹介発言などが掲載広告されている。また、被請求人と推定できる「クロサワ」名義による「ジャクソンギター」の広告記事が掲載され、「別掲のJackson商標」を付した天神の拡大写真を表示した広告も掲載されている。
なお、甲各号証に挙示した音楽雑誌に関しては全て原本を所持しているので、要請があれば何時でも原本を提示する用意がある。
オ 音楽雑誌「P1ayer」の2004年度掲載記事
この音楽雑誌「P1ayer」は、1968年に創刊されたギター専門の月刊音楽雑誌で、発行元はプレイヤーコーポレーションである。
同誌2月号、6月号、8月号、10月号及び11月号に、「クロサワ」名義と梅田ナカイ楽器(株)によるギター類の広告が掲載されており、ギターの天神に「別掲のJackson商標」はやや不鮮明であるが、「ジャクソンギター」と認め得る写真広告が掲載されている(甲第41号証ないし甲第46号証(枝番号省略))。
カ 音楽雑誌「YOUNG GUITAR」の2005年1月号掲載記事
同誌に「クロサワ」名義によるギターの広告が掲載されている。同頁最上段に「HEAVY METAL GARAGE」と大書し、上半分のスペース に 「Randy Rhoads RR1」、「Solist SL-1&SL-2H」、「King V KV-2」、「ke1ly KE-2」など「ジャクソンギター」にお馴染みの表記と共に、多数の「ジャクソンギター」のカラー写真が掲載されている。ただし、天神の「別掲のJackson商標」は不鮮明であることは認める(甲第47号証)。
キ 音楽雑誌「YOUNG GUITAR ARCHIVES Vo1.1」[L.A. METAL] 2004年7月25日発行号の掲載記事に、ギターの天神に「別掲のJackson商標」が付された(明確なものと不鮮明なものあり)「ジャクソンギター」の広告、及び「ジャクソンギター」に関する紹介記事が認められる(甲第48号証(枝番号省略))。
(2)本件商標の登録査定後の事実
本件商標「JACKSON/ジャクソン」の登録査定日(平成17年(2005年)9月9日)以後の事実は、本件商標の当該無効理由(商標法第4条第1項第10号)には直接関与しないことを承知しているが、現在に至るまで「別掲のJackson商標」を付した「ジャクソンギター」の広告や紹介記事が、以下(ア)ないし(エ)の音楽雑誌及び被請求人のホームページに掲載されている事実を紹介する。
(ア)音楽雑誌「YOUNG GUITAR ARCHIVES Vol.3」「鋼鉄族」2005年5月16日発行号
(イ)音楽雑誌「YOUNG GUITAR」の2005年度、2月号、5月号、9月号及び12月号掲載記事
(ウ)音楽雑誌「YOUNG GUITAR」の2006年度、8月号、9月号及び11月号掲載記事
(エ)被請求人のホームページ掲載記事について
被請求人のホームページを2008年3月28日に検索しコピーした内容の主要部を甲第57号証に示す。要するにフロントページ左上隅の「E1ectric Guiter」をクリックすると、付箋「A」のブランド名欄が出てくる。そこで右上の検索中へ「Jackson」を入力してクリックすると、次の付箋「B」が出現し、38件の「ジャクソンギター」の商品情報を見ることができた。
つまり、被請求人は、今日まで相変わらず、天神に「別掲のJackson商標」が付された「ジャクソンギター」の販売(商取引)のための広告、宜伝を行っているのであり、被請求人が「ジャクソンギター」の市場に執着して商取引に積極的に努力している事実が認められる。
(3)請求人「JCMI」、「FMIC」らが我が国において「別掲のJackson商標」を使用した「ジャクソンギター」の商取引や宣伝広告の主体に現れない理由
上記「3(1)ア、イ」において、「グローヴァー ジャクソン」は、1981年に、ギタリスト「ランディー・ローズ」の依頼を受けていわゆる「ジャクソンギター」を創造し、1985年4月15日には米国特許商標庁へ「別掲のJackson商標」の出願を行い商標登録を受けたことを説明した。そして、我が国のギター専門の音楽雑誌「YOUNG GUITAR」1985年9月号に同人の紹介記事が掲載され、日本のギター奏者や愛好家達に広く名を売った事実を説明した。このように活発なギタービジネス活動を行っていたにも拘わらず、その後現在まで「グローヴァー ジャクソン」をはじめ、その後継会社である請求人「JCMI」や「FMIC」らが、我が国において「別掲のJackson商標」を使用した商品「ジャクソンギター」の商取引を行ったり、営業活動、宣伝広告などを積極的に行った事実、形跡がない点を不審に思われるかもしれない。
それには以下に説明する法律上やむを得ぬ重大な障壁が存在したことを主張する。
ア 我が国で「別掲のJackson商標」の商標登録が拒絶されたことについては、上記3(1)アのとおりである。
もっとも、他の関連商標「Grover Jackson」(商標登録第2326621号)やエレキギター図形の下に「BY JACKSON/CHARVEL」の文字を付記した商標(商標登録第2167038号)などは無事に商標登録され、現在は請求人「中信楽器」の所有になっていることは既に説明した(甲第6号証の1、2)。
上記の経緯から明らかなように、「グローヴァー ジャクソン」が、日本国で商標「Jackson」の商標登録を受け得なかったことが原因で、「グローヴァー ジャクソン」をはじめ、そのギタービジネスの後継会社である請求人「JCMI」及び「FMIC」らは、現在に至るまで「ジャクソンギター」の日本での商取引を控えてきた。
しかし、現実には、日本国内に「別掲のJackson商標」を付した商品「ジャクソンギター」が氾濫していることは、上記3(1)、同(2)に詳しく立証したとおりである。
イ 請求人「中信楽器」の商標管理
請求人「中信楽器」が日本における単独の商標権者になったことに関しては、上記2(3)で説明したとおりである(甲第6号証の2)。
日本における単独の商標権者になったことを契機に、「中信楽器」は商標権の効力と経済価値の大きさと商標管理の重大さを理解して、自前の商標権の取得に力を入れることになり、平成8年(1996年)5月20日に、自社商標「Jackson Stars」、及び英文字の「Jackson」の語尾に星印形状中に英文字で「Stars」と書して成る商標の登録出願を行った。しかし、前者は登録第4128742号商標として登録された(甲第58号証の1)が、後者の登録出願は平成9年12月24日起案の拒絶理由通知を受け、同書に引用された先願先登録商標「JAXON/ジャクソン」(登録第1191801号の1)を確認して、同商標の登録を断念した経緯がある(甲第58号証の2)。
そこで「中信楽器」は、前記先登録商標「JAXON/ジャクソン」に関して、被請求人との間で使用許諾又は権利譲渡について2度にわたり交渉する機会を持ったが、不調に終わった(甲第6号証の1、交渉経過記録を参照)。
ところが、2度目の交渉を行った平成16年11月19日から約3ヶ月後の平成17年(2005年)2月10日、被請求人によって本件商標の登録出願がなされ、同年(2005年)10月14日に商標登録されたので、本件商標を無効とするべき必要性に迫られたのである。
併せて、上記先登録商標「JAXON/ジャクソン」について、不使用取消審判の請求を、本年4月4日に先行して行ったことも申し添える。
(4)検討及びまとめ
ア 「別掲のJackson商標」が、我が国において周知ないし著名である旨の主張
以上に縷々説明し主張してきたとおり、「別掲のJackson商標」は、我が国を除き、本国の米国をはじめとする世界各国(34カ国)において登録され、本国の米国を中心とする国際的な市場で、「別掲のJackson商標」を天神に付した商品「ジャクソンギター」が広く商取引され、その格好良いデザインや高性能が需要者(ジャクソンプレーヤー)に情熱的に愛好されている。その契機になったのは、後年、ロックバンド界で世界的なビッグネームになった「ランディー・ローズ」のモデルとして誕生した経緯と話題性が大きい。天神に「別掲のJackson商標」を付した「ジャクソンギター」は、主に欧米の有名、著名なプロギター奏者の多くに情熱的に支持され、高い評価と信頼性を受けて、「別掲のJackson商標」が急速に需要者、愛好家達の間に広く認識されるに至った。
「別掲のJackson商標」を天神に付した商品「ジャクソンギター」の情報は、遅くとも1985年の音楽雑誌「YOUNG GUITAR」9月号の記事や商品紹介によって日本へも大々的に上陸した(甲第3号証の1ないし4)。
その後も主に同上の音楽雑誌の記事情報として「ジャクソンギター」の知名度は広く深く浸透し、認識度、知名度を上げてゆく(甲第10号証ないし甲第48号証など)。そして、遅くとも1999年11月号の音楽雑誌「YOUNG GUITAR」に掲載された「梅田ナカイ楽器(株)」の広告(甲第11号証)によって、天神に「別掲のJackson商標」を付した商品「ジャクソンギター」が日本国内の商品として、市場での取引が開始されたと主張する。その後しばらく(2000年11月号、甲第23号証)は、「梅田ナカイ楽器(株)」による「ジャクソンギター」の商品広告が続いた(甲第11号証ないし甲第23号証)。
上記甲第23号証から約3年ほど遅れた、音楽雑誌「YOUNG GUITAR」の2003年9月号に、被請求人と認められる「クロサワ」が、商品「ジャクソンギター」の広告を掲載し(甲第29号証)、「別掲のJackson商標」を天神に付した商品「ジャクソンギター」の国内取引を開始した事実が認められる。もっとも、被請求人は、その後は他社より遥かに抜きん出る多数回、華々しい内容で、音楽雑誌等へ商品「ジャクソンギター」の宜伝広告を重ねて、まるで我が国における商品「ジャクソンギター」の代理店であるかの如く強力、積極的な営業活動を行ってきた事実は、上記に詳述したとおりである。
その背景には、ギタービジネスを行う楽器店として、「別掲のJackson商標」を天神に付した商品「ジャクソンギター」の周知度、著名度が海外から日本国内にまで広く及んでおり、その商品価値、市場での需要度が高いことを十分に認識していたからと考えられる。
その証左として、2003年2月の当時、既に我が国に「ジャクソンファンクラブ」が存在していた事実(甲第26号証の3、4)を主張する。すなわち、日本国内で「別掲のJackson商標」を付した商品「ジャクソンギター」の周知度、著名度の高いことが、当時既に広く既成の事実であったのである。
被請求人は当然、「別掲のJackson商標」を天神に付した商品「エレキギター」、いわゆる「ジャクソンギター」が、請求人「フェンダーミュージカル インスツルメンツ コーポレーション」(「FMIC」)らの商品で、輸入品であることを承知していたはずである。むしろ、そうした事実を明らかにして(又は強調して)広告等の営業活動を行ってきたことが、被請求人の各広告内容から容易に認められる(甲第29号証、甲第31号証ほか)。つまり、被請求人は、本件商標の登録出願日及び登録査定日の以前に、「別掲のJackson商標」が、請求人「FMIC」らの商品「ジャクソンギター」を表示する商標であること、そして、当該「別掲のJackson商標」が、海外だけでなく、日本国内でも「ジャクソンギター」を表示する商標として知名度が抜群に高く、我が国の需要者(愛好家、プレーヤー)の間に広く認識されていることを十分に承知し、そうした事実を前提として、商品「ジャクソンギター」の広告や営業に励んでいたことは明白である。その証左として、被請求人は、日本国内における商品「ジャクソンギター」の販売活動を、2003年以降から現在まで、まるで被請求人が日本の総代理店であるかの如き内容と積極性で、他社に抜きん出た回数頻繁に行ってきた事実は、上記に具体的に逐一説明したとおりである,
ただし、念のため重要な事実を明言しておく。「ジャクソンギター」を創造した「グローヴァー ジャクソン」から始まって、その後継会社である現在の請求人「JCMI」、「FMIC」らは誰一人、商品「ジャクソンギター」に関して、被請求人と正式に日本国内での販売契約や代理店契約などを交わした事実はない。むしろ請求人「JCMI」、「FMIC」らは、被請求人による商品「ジャクソンギター」が日本国内へ輸入されている入手経路に大いなる疑問と問題意識を抱いており、現在調査を進めていることを申し添える。仮に、いわゆる並行輸入商品であるなら、それも肯けることではあるが。
イ 商標及び商品の同一・類似性
本件商標「JACKSON\ジャクソン」は、上段の英大文字「JACKSON」と下段の片仮名文字「ジャクソン」とを上下2段に書した構成態様であり、「ジャクソン」の称呼を生ずることは明らかである。
一方、「JCMI」、「FMIC」らの「別掲のJackson商標」は、単なる標準英文字ではなく、具体的には、例えば甲第4号証で明解なとおり、各英文字を細線で飾った筆記体風の独特な装飾文字で表現された構成態様であるが、そのスペルは「JACKSON」と同一であり、同じ「ジャクソン」の称呼を生ずることは、我が国の取引者や需要者の英語力、理解力を考慮すれば明白である。
したがって、「別掲のJackson商標」と本件商標「JACKSON\ジャクソン」とは、称呼が共通する類似商標である。
一方、本件商標「JACKSON\ジャクソン」は、指定商品「第15類 楽器,演奏補助品,音さ」に使用するものとして登録されているが、「別掲のJackson商標」を付した商品「エレキギター」と前記指定商品「楽器」とは同一の範疇に属するし、他の指定商品「演奏補助品,音さ」とは類似する関係にある。
ウ 小括
以上に説明したとおり、請求人「FMIC」らの業務に係る商品「エレキギター」の主として天神に付して使用された「別掲のJackson商標」は、いわゆる「ジャクソンギター」を表示するものとして、本件商標「JACKSON\ジャクソン」が特許庁で登録査定を受けた平成17年(2005年)9月9日当時には、既に日本国内の取引者、需要者の間に広く認識された、いわゆる周知ないし著名な商標となっていたことは明白な事実である。
そして、「ジャクソンギター」に使用された「別掲のJackson商標」は、本件商標「JACKSON\ジャクソン」と同一に近く類似する商標であり、しかも同「別掲のJackson商標」が使用された商品「エレキギター」は、本件商標の指定商品中「第15類 楽器,演奏補助品,音さ」と同一ないし類似する商品であるから、本件商標は、少なくとも指定商品中「第15類 楽器,演奏補助品,音さ」については、商標法第4条第1項第10号に違反して為されたものである。

4 商標法第4条第1項第19号について
(1)日本国内における周知・著名性
上記「3(1)」に逐一事実を挙示して立証し主張したとおり、「別掲のJackson商標」は、「FMIC」らの業務に係る商品「エレキギター」に、いわゆる「ジャクソンギター」を表示するものとして、同ギターの主に天神に付して使用された結果、本件商標「JACKSON\ジャクソン」が特許庁で登録査定を受けた平成17年(2005年)9月9日当時には、既に日本国内の取引者、需要者(ギター奏者、愛好家達)の間に広く認識されて、いわゆる周知ないし著名な商標であったことは、明白な事実である。また、「別掲のJackson商標」は、本件商標「JACKSON\ジャクソン」と同一に近く類似する商標であり、しかも本件商標「JACKSON\ジャクソン」の指定商品中「第15類 楽器,演奏補助品,音さ」は、前記「別掲のJackson商標」を使用した商品「エレキギター」と同一ないし類似する関係にあることも、上記「3(4)イ」に主張したとおりであることを、先ず援用する。
(2)米国及び英国における「別掲のJackson商標」の周知・著名性
ア 「別掲のJackson商標」の誕生と商標登録の事実
「別掲のJackson商標」の誕生の経緯と、米国をはじめとする世界各国で商標登録がなされている事実は、上記「3(1)ア、イ」に詳述したので、それを援用して、ここで更に説明することは割愛する。
イ 「別掲のJackson商標」は本件商標の登録日前に米国をはじめとする諸外国で周知・著名であること
ここでは世界各国で「別掲のJackson商標」が広く使用され周知・著名である事実を逐一証明することは割愛し、主に本国(米国)と英国の音楽雑誌である以下の(ア)ないし(ク)により、「別掲のJackson商標」が周知・著名である事実を説明する。
これらの音楽雑誌には、エレキギターを持っているギター奏者の写真のギターの天神若しくはボディーに「別掲のJackson商標」が付されている(甲第59号証ないし甲第89号証)。
(ア)米国の音楽雑誌「GUITAR/WORLD」1984年11月号、1985年1月号及び同年5月号
(イ)米国の音楽雑誌「Guitar P1ayer」1990年7月号、同年12月号、1991年3月号、1992年1月号、1993年1月号、1997年12月号、2000年2月号、2001年7月号、2003年7月号及び2004年3月号
(ウ)米国のハンドブック「GUITAR BUYER’S GUIDE」1990年度及び1991年度
(エ)米国の音楽雑誌「GUITAR WORLD」1992年2月号
(オ)英国の音楽雑誌「TOTAL GUITAR」1995年9月号、1996年2月号、同年4月号、1997年7月号、同年9月号、同年10月号、同年11月号、1998年4月号、同年10月号、同年11月号、同年CHRISTMAS号、1999年7月号、同年8月号及び同年12月号
(カ)英国の音楽雑誌「Guitarist」1998年6月号
(キ)英国の音楽雑誌「Guitar Techniques」2002年4月号
(ク)米国の音楽雑誌「Guitar One」2004年3月号及び同年11月号
ウ 中国に「別掲のJackson商標」が商標登録された事実
請求人「JCMI」及び「FMIC」にとっては正に晴天の霹靂であるが、最近急速に知的財産権に目覚めている中国でも、請求人「JCMI」及び「FMIC」とは全く関係のない中国人によって、2001年4月7日、全く同じ構成態様の「別掲のJackson商標」が商品「エレキギター等」に使用するものとして商標登録された事実(登録第1548834号)を発見した(甲第90号証)。
この商標登録の事実は、商品「エレキギター」に使用した「別掲のJackson商標」の名声が世界的に広く、中国にまで知られている事実を如実に示すものと主張する。
エ ジャクソンギターの販売数量等
請求人「フェンダー ミュージカルインスツルメンツ コーポレーション」(FMIC)の社長兼最高執行責任者「Mathew P.Janopaul」の宣誓書(甲第5号証)に陳述されているように、「別掲のJackson商標」が付された商品「ジャクソンギター」の市場と販売は世界各国に及び、その売上高は、「FMIC」が親会社となった2002年は42万9000ドルでしかないが、2003年には976万ドル、2004年には1230万ドル、2005年には1240万ドルを超えている。したがって、同人は、「別掲のJackson商標」は、世界で最もよく知られたギターブランドであると自負している。その自信は過去から現在まで、特に欧米の有名・著名なプロのギター奏者が熱心に好んで「ジャクソンギター」を愛用して、高い評価と信頼性を得ていることに裏打ちされている。
もちろん、「別掲のJackson商標」が付された商品「ジャクソンギター」の市場は米国、英国の限りではなく、上述した日本を含む世界各国に及んでいることは、上記した甲第5号証のA紙に示す「別掲のJackson商標」の商標登録の事実で容易に推定できるであろう。
(3)不正競争の目的について
上記「3(3)イ」で詳述したとおり、請求人「中信楽器」の代表者は、先願先登録商標「JAXON/ジャクソン」(登録第1191801号の1(商公50-35686号、甲第9号証)の問題を解決するため、宣誓書(甲第6号証)に添付した交渉記録のとおり、本件商標の登録出願日前の2004年10月29日と、11月19日の2回にわたり、被請求人を訪ね、同社代表を務めるM社長及びK会長と上記先登録商標「JAXON/ジャクソン」の使用許諾又は金銭譲渡を申し込む話し合いの機会を持った。しかし、10月29日の会議では、売却の意思はないこと、及び商標「Jackson」を付した「ジャクソンギター」を「特別優遇掛け率で提供するなら、使用許諾につき検討の余地がある。」と「FMIC」商品に対する強い執着を示す趣旨の回答があったに止まる。
次の11月19日の第2回会談では、具体的な契約書案を提示して話し合いを持ったが、被請求人側は同書を見ることなく、結局は拒絶する旨の回答で終った。
しかし、被請求人は上記第2回会議の約3ヶ月後の平成17年(2005年)2月10日には早々と、本件商標「JACKSON\ジャクソン」を指定商品「第15類 調律機,楽器,演奏補助品,音さ」へ使用するとして登録出願し、同年10月14日に商標登録を受けた経緯と事実を勘案すると、その間には正に不正競争の目的、即ち、商標法第4条第1項第19号の括弧書きに規定する「不正の利益を得る目的、他人に損害を与える目的その他の不正の目的」が存在したことは明白である。
その裏付け事由として、請求人「中信楽器」の代表者が先登録商標「JAXON\ジャクソン」の金銭譲渡を申し込む話し合いの以前に、被請求人は「ジャクソン/シャーベル社」や共同請求人「FMIC」らの業務に係る商品で、「別掲のJackson商標」が付された「ジャクソンギター」を多数輸入して日本国内で販売する営業を長年にわたり大々的に展開してきたので、「別掲のJackson商標」が請求人「FMIC」らの業務に係る商品「ジャクソンギター」を表示することは熟知していた。それは上記甲第29号証ないし甲第55号証ほかに挙示した事実で明白である。むしろ被請求人は、「ジャクソンギター」について、「FMIC」とは明言しないまでも、米国からの輸入商品である事実を強調する表現を宣伝広告に誇示し利用しつつ販売促進活動を長年の間続けてきた。しかし、その間に「別掲のJackson商標」又はこれに類似する商標を出願した事実は見当たらない。その背景として、被請求人は、「別掲のJackson商標」が請求人「FMIC」の業務に係る商品に使用されている事実を熟知していたからと推定される。
被請求人は、楽器(特にギター)の販売を主たる業務とし、請求人「中信楽器」は主にギターの製造を主たる業務とするものとして相互に知り得た存在であったから、各々の業務内容等に関する情報は届きやすい。その故に、請求人「中信楽器」の代表者が被請求人を訪ね、登録商標「JAXON\ジャクソン」の金銭譲渡を申し込んだ意図や背景事情は、即座に容易に理解されたはずである。それは請求人「中信楽器」が登録商標「Jackson Stars」や「Grover Jackson」の商標権を所有している事実からも容易に推定されることで、被請求人に、本件商標「JACKSON\ジャクソン」の登録が、将来大きな利益を生むとの判断があったことは想像に難くない。
被請求人が、本件商標「JACKSON\ジャクソン」を、指定商品「第15類 楽器,演奏補助品,音さ」について商標登録を受ける手続の背後事情として、請求人「中信楽器」や「JCMI」、「FMIC」に対し、「別掲のJackson商標」を付した商品「ジャクソンギター」その他の「FMIC」商品の輸入取引を有利に運ぶ上で強力な武器になるとか、場合によっては当該商標権を高額で売却して大きな利益が得られる、等々の意図、目的が働いたであろうことは容易に推定される。
何故なら、被請求人が、本件商標「JACKSON\ジャクソン」を自社ブランドとして、指定商品の「楽器」など、特にギターに自ら使用した事実は、現在まで認め得ないのである。
なお、請求人「FMIC」は現在、被請求人が販売している「別掲のJackson商標」を付した商品「ジャクソンギター」や「FMIC」に係るブランド商品のシリアルナンバーを探知して、同商品を被請求人へ譲渡する代理店を追求する準備を進めている。
(4)小括
以上のとおり、請求人「FMIC」の業務に係る商品「ジャクソンギター」を表示するものとして使用された「別掲のJackson商標」は、日本国内及び米国、英国などの外国において需要者の間に広く認識された周知・著名の商標であって、本件商標「JACKSON\ジャクソン」同一に近く類似する商標であり、しかも同商標「Jackson」が使用された商品「エレキギター」は本件商標「JACKSON\ジャクソン」の指定商品「第15類 楽器,演奏補助品,音さ」と同一ないし類似する関係にある上に、被請求人が本件商標「JACKSON\ジャクソン」を指定商品「第15類 楽器,演奏補助品,音さ」について商標登録を受けた背景に、不正の目的が存在することは明白であるから、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第19号に違反する。

5 商標法第4条第1項第7号について
(1)商標法第4条第1項第7号は「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」は、商標登録を受けることができない旨を規定する。ここでいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」については、特許庁の審査基準に具体的な例示列挙が認められる。その中で「指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳概念に反するような場合も含まれる。」と定めていることが注目される。そして、例えば、平成18年9月20日知財高裁判決(平成17年(行ケ)第10349号)は、その理由として「当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合」と一層具体的に判示していることが参照される。
そこで以下に、本件商標は、上記事由「登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがある」に該当する事由の主張を行う。
(2)本件商標出頭の経緯に社会的相当性を欠く事由の主張
上記「3(1)」に挙げた被請求人による商品「ジャクソンギター」広告の事実、及び広告内容を見ると、被請求人は、本件商標の登録出願日前に、天神に「別掲のJackson商標」が付された商品「ジャクソンギター」の商品価値、とりわけ「別掲のJackson商標」の顧客吸引力の大きさに着目しており、それを自らのギタービジネスに最大限利用する目的があったことは明白である。そこで、いかなるルートによるかは不明であるが、「ジャクソンギター」を我が国へ多数輸入して、あたかも請求人が「FMIC」の日本代理店であるかの如き謳い文句の広告をひっきりなしに華々しく行い、需要者との間で盛大な商取引を行い相当な利益を得てきたことは想様に難くない。つまり、「別掲のJackson商標」は、請求人「FMIC」の業務に係る商品「エレキギター」を表示するものとして需要者の間に広く認識された商標であることを熟知し、その顧客吸引力を最大限に利用して自己の商取引を有利に行い利益を得てきた。
その上でなお、被請求人が、「別掲のJackson商標」に類似する本件商標「JACKSON\ジャクソン」を、商品「エレキギター」を含む指定商品「第15類 楽器,演奏補助品,音さ」に使用するとして商標登録を受けた経緯は、被請求人が「別掲のJackson商標」の顧客吸引力の大きさや名声、知名度を、自らの商取引の強力な武器とし、商取引の優位性を高めようとする不正の目的が見え見えであり、それが社会的相当性、換言すれば商道徳なり倫理観を欠いていることは明らかである。
その一方で、仮に被請求人により本件商標「JACKSON\ジャクソン」を使用した商品「ギター」が市場に出回ると、「別掲のJackson商標」と相紛わしいが故に、高名な商品「ジャクソンギター」の出所を混同させる上に、当該「別掲のJackson商標」が長年にわたり培ってきた顧客吸引力や、名声、評判、信頼性を大きく毀損させるおそれが多分にあり、「FMIC」らが長年にわたり培ってきた業務上の信用(グッドウィル)を台無しにすること明白であるから、本件商標「JACKSON\ジャクソン」の商標登録は、企業間であるとはいえ、国際的な信義と企業倫理に反し、ひいては公の秩序、善良の風俗を害し、社会的相当性を欠くことが明白である。
(3)商標法第53条の2の解釈として
商標法第53条の2は、パリ条約第6条の7の規定を実効性あるものとするため規定されたのであり、その内容は登録商標(例えば本件商標「JACKSON\ジャクソン」)が正当な理由がないのに、他の同盟国で保護された商標(本件でいう商標「Jackson」の米国等での登録)に関する権利を有する者(本件でいう「JCMI」)の承諾を得ないで、その代理人等によりなされたときは、当該商標登録を取り消すことについて審判を請求できると規定する。本条は、正に国際信義に反する行為と企業倫理を公平に整理する趣旨の規定と解される。
もとより本条の規定は、登録商標が「代理人等によりなされた」ことを必須要件に課しており、本件の被請求人が本条にいう「代理人等」に該当しないことは承知している。しかし、被請求人が、本件商標の登録出願日前に、数年にわたり、まるで日本における代理店であるかの如く需要者に誤認させる程の積極的で、大々的、継続的な宜伝広告の活動を行い、「別掲のJackson商標」を付した「ジャクソンギター」の商取引を盛大に行ってきたことは上述のとおりで、取引界、需要者間では周知の事実である。
よって、商標法第53条の2の規定の趣旨に照らしても、本件商標は、社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳概念に反し、社会的相当性を欠くものとして登録無効とされるべきである。
(4)小括
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当するというべきである。

6 まとめ
以上に縷々主張したとおり、本件商標は、その指定商品中「楽器,演奏補助品,音さ」について、商標法第4条第1項第10号又は同第19号若しくは同第7号に該当するものであるから、その登録を同法第46条第1項の規定により無効とすべきである。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、何ら答弁していない。

第4 当審の判断
1 請求の利益について
甲各号証よりすると、請求人「JCMI」、「FMIC」及び「中信楽器」(以下、三者をまとめていうときは「請求人ら」という。)は、「別掲のJackson商標」を付した「ギター」の商取引を行ってきていることが認められるところ、本件商標はその構成中に綴り字を同じくする欧文字「JACKSON」を含んでいるものであり、請求人らは、本件商標の登録の存在によって直接不利益を被る可能性があるから、本件商標の登録を無効にする審判を請求することにつき、利害関係を有する者に該当する。

2 請求人らの使用している「別掲のJackson商標」の周知性
(1)「別掲のJackson商標」について
ア 外国での「別掲のJackson商標」の登録
「別掲のJackson商標」は、1985年4月15日に米国に出願し、第15類の商品「楽器、ギター」等の商標登録(Registration Number 1393989)を受け(甲第4号証)、また、請求人らの主張によれば、1986年にはオーストラリア(ATRA)、ベネルックス(BENE)、カナダ(CANA)、デンマーク(DENM)、フランス(FRAN)、ドイツ(GERM)、ニュージランド(NEWZ)、ノルウエー(NORW)、南アフリカ共和国(SAFR)、スペイン(SPAI)、スイス(SWIT)、台湾(TAIW)へそれぞれ出願し商標登録を受け、さらに、1990年にはイギリス(UNIK)へ出願して商標登録を受けており、その合計は実に34カ国に及んでいる(甲第5号証のA紙)。
さらに、オーストラリア、デンマーク、台湾(中華民国)、英国に出願し、第15類の商品「楽器、ギター」等の商標登録を受けている(甲第8号証)。
「別掲のJackson商標」は、中華人民共和国においても、商標登録されていることが認められる(甲第90号証)。
イ 外国の音楽雑誌による広告、宣伝
甲第59号証ないし甲第89号証(以下、甲各号証の全ての枝番号を引用するときは、その枝番号を省略する。)よりすると、「別掲のJackson商標」は、以下の(ア)ないし(ク)の米国と英国の音楽雑誌にて紹介、広告、宣伝がなされており、これら音楽雑誌中では主として、エレキギターを持っているギター奏者の写真が表示され、そのエレキギターの天神若しくはボディーに「別掲のJackson商標」が付されていることが認められる。
(ア)米国の音楽雑誌「GUITAR/WORLD」1984年11月号、1985年1月号及び同年5月号
(イ)米国の音楽雑誌「Guitar P1ayer」1990年7月号、同年12月号、1991年3月号、1992年1月号、1993年1月号、1997年12月号、2000年2月号、2001年7月号、2003年7月号及び2004年3月号
(ウ)米国のハンドブック「GUITAR BUYER’S GUIDE」1990年度及び1991年度
(エ)米国の音楽雑誌「GUITAR WORLD」1992年2月号
(オ)英国の音楽雑誌「TOTAL GUITAR」1995年9月号、1996年2月号、同年4月号、1997年7月号、同年9月号、同年10月号、同年11月号、1998年4月号、同年10月号、同年11月号、同年CHRISTMAS号、1999年7月号、同年8月号及び同年12月号
(カ)英国の音楽雑誌「Guitarist」1998年6月号
(キ)英国の音楽雑誌「Guitar Techniques」2002年4月号
(ク)米国の音楽雑誌「Guitar One」2004年3月号及び同年11月号
エ 日本国内における音楽雑誌による広告、宣伝等
また、「別掲のJackson商標」は、日本国内においても、本件商標の登録査定日(平成17年(2005年)9月9日)より以前である、1985年9月号の月刊音楽雑誌「YOUNG GUITAR」の110頁ないし111頁「グローヴァー・ジャクソン:インタビュー」の記事(甲第3号証の3)、同誌92頁と100頁(甲第3号証の1、2)及び113頁(甲第3号証の4)に、主としてギターの天神に付されて紹介されている。
その後も、「別掲のJackson商標」を付した「ジャクソンギター」に関する宣伝広告や紹介の情報記事は、音楽雑誌「YOUNG GUITAR」の1996年10月号から2005年1月号でなされている(甲第10号証ないし甲第40号証及び甲第47号証)。
そして、請求人らの主張によれば、「別掲のJackson商標」が付された商品「ジャクソンギター」の市場と販売は、世界各国におよび、その売上高は、「FMIC」が親会社となった2002年は42万9000ドルでしかないが、2003年には976万ドル、2004年には1230万ドル、2005年には1240万ドルを超えているものである(甲第5号証)。
(2)以上を総合すると、「別掲のJackson商標」を付した「ギター」は、本件商標の登録出願時以前より請求人らの商品として、特に米国及び英国はもちろん、我が国においても需要者の間に広く認識されている商標となっていたと認められ、その周知性は本件商標の登録査定後も継続しているというのが相当である。

3 本件商標と「別掲のJackson商標」との類否について
本件商標は、上記のとおり、「JACKSON」の欧文字と「ジャクソン」の片仮名文字とを上下二段に横書きしてなるものであるから、これよりは「ジャクソン」称呼及び周知なギターの「Jackson(ジャクソンギター)」の観念をも生じるものである。
他方、「別掲のJackson商標」は、その構成から「ジャクソン」の称呼を生じ、商品「ギター」との関係からすると、上記のとおり、周知なギターの「Jackson(ジャクソンギター)」の観念をも生じるというのが相当である。
そうすると、本件商標と「別掲のJackson商標」とは、「ジャクソン」の称呼を同じくし、「jackson(ジャクソンギター)」の観念を共通にし、綴り字を同じくする欧文字「JACKSON」と「Jackson」において、外観上も共通の認識を有するといえるものである。
してみれば、本件商標と「別掲のJackson商標」とは、称呼及び観念を同じくし、外観上も共通の認識を有する類似する商標というべきである。
また、「別掲のJackson商標」が使用されている商品「エレキギター」は、本件商標の指定商品中の「楽器」に包含される商品であり、「エレキギター」と「楽器,演奏補助品,音さ」とは、生産部門、販売部門、需要者の範囲等が一致することから、同一又は類似する商品である。

4 したがって、本件商標は、他人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標と類似する商標であって、「ギター」に類似する商品「楽器,演奏補助品,音さ」について使用するものであるから、商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたものというべきである。

5 むすび
したがって、本件商標は、その指定商品中、本件審判請求に係る指定商品である「楽器,演奏補助品,音さ」について、商標法第4条第1項第10号に違反して登録されたものであるから、請求人のその余の主張について検討するまでもなく、同法第46条第1項の規定により、無効にすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲




審理終結日 2008-11-28 
結審通知日 2008-12-04 
審決日 2008-12-17 
出願番号 商願2005-11078(T2005-11078) 
審決分類 T 1 12・ 253- Z (Y15)
T 1 12・ 252- Z (Y15)
T 1 12・ 255- Z (Y15)
最終処分 成立  
前審関与審査官 岩本 明訓 
特許庁審判長 渡邉 健司
特許庁審判官 井出 英一郎
鈴木 修
登録日 2005-10-14 
登録番号 商標登録第4901230号(T4901230) 
商標の称呼 ジャクソン 
代理人 山名 正彦 
代理人 山名 正彦 
代理人 山名 正彦 

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