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審決分類 審判 全部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y1225
管理番号 1376924 
審判番号 取消2019-300142 
総通号数 261 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2021-09-24 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2019-02-22 
確定日 2021-07-26 
事件の表示 上記当事者間の登録第5109405号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5109405号商標の商標登録を取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5109405号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲のとおり「メグロ発動機」の文字を横書きにしてなり、平成18年7月19日に登録出願、第12類「二輪自動車・自転車並びにそれらの部品及び附属品,荷役用索道,カーダンパー,カープッシャー,カープラー,牽引車,陸上の乗物用の動力機械(その部品を除く。),陸上の乗物用の機械要素,落下傘,乗物用盗難警報器,車いす,陸上の乗物用の交流電動機又は直流電動機(その部品を除く。),船舶並びにその部品及び附属品,航空機並びにその部品及び附属品,鉄道車両並びにその部品及び附属品,自動車並びにその部品及び附属品,乳母車,人力車,そり,手押し車,荷車,馬車,リヤカー,タイヤ又はチューブの修繕用ゴムはり付け片」及び第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」を指定商品として、同20年2月8日に設定登録されたものである。
そして、本件審判請求の登録は、平成31年3月11日にされたものであり、この登録前3年以内(平成28年3月11日?平成31年3月10日)の期間を、以下「要証期間」という。

第2 請求人の主張の要点
請求人は、結論同旨の審決を求め、審判請求書、令和元年5月7日付け審判事件答弁書(以下「答弁書」という。)に対する同年9月3日付け審判事件弁駁書(以下「弁駁書」という。)にて、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、請求書により甲第1号証を、弁駁書により甲第2号証を提出した。
1 請求の要旨
本件商標は、継続して3年以上日本国内において、本件商標の商標権者(以下「商標権者」という。)、専用使用権者又は通常使用権者(以下「商標権者又は使用権者」という。)のいずれもが、本件商標をその指定商品(以下「本件審判請求に係る指定商品」という。)について使用している事実は認められないから、商標法第50条第1項の規定により、本件商標の登録は取り消されるべきものである。
2 弁駁書の要旨
(1)答弁書により被請求人が提出した乙各号証を確認しても、本件商標が本件審判請求に係る指定商品に付されている写真等は見当たらず、また、乙各号証の半数以上(乙1?乙3、乙5?乙9、乙12?乙14)は要証期間よりも前に発行されたもの、あるいは、作成年月日が不明であることから、商標権者又は使用権者のいずれかが、要証期間に、本件審判請求に係る指定商品について本件商標を使用していることを証明するものではない。
(2)平成23年(2011年)1月28日に有限会社源が発行した雑誌「道楽」の79頁に、「Yさん(商標権者)はオートレーサーやそのエンジンのコレクションを販売するようなことは一切していない。そのため,コレクションに対する問い合わせにも応じないそうだ。」と記載されている(甲2)。
当該記事の内容からも明らかなとおり、商標権者から、本件商標の通常使用権の許諾をされた株式会社榮技研(以下「榮技研社」又は「通常使用権者」という。)の会社内に置かれている「オートバイエンジン」(乙4、乙5、乙7?乙9)は、コレクションとして陳列されているものであって、その陳列は「譲渡又は引渡しのための展示」(商標法第2条第3項第2号)には該当しない。

第3 被請求人の主張の要点
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、答弁書及び令和2年10月28日付け審尋に対する同3年2月5日付け回答書(以下「回答書」という。)において、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、答弁書において乙第1号証ないし乙第17号証を、回答書において乙第18号証ないし乙第22号証を提出した。
1 答弁書による主張の要旨
本件商標は、通常使用権者が、本件商標と社会通念上同一と認められる商標「メグロ」印が表示されたオートバイエンジン(以下「メグロ付きエンジン」という。)を継続して3年以上日本国内において使用した事実があり、さらに、通常使用権者が本件商標と社会通念上同一と認められる商標(メグロ印)が付されたTシャツを継続して3年以上日本国内において使用した事実を存している。
(1)本件商標の出願から登録に至るまでの経緯
商標権者は、子供の頃から市販されている目黒製作所のバイク「メグロ」のファンで、競争車部門のメグロ発動機株式会社(以下「メグロ社」という。)のオートレースのメグロ(市販されない)にも心酔していた。商標権者は、1985年頃から、千葉県船橋市に所在するメグロ社に度々訪れ、商標権者が、メグロの熱烈なファンであることがメグロ社のH社長(2代目)等に認められ、日時は不明であるが、メグロ社に呼ばれ、「メグロ発動機の商標をあんたにやる、ここにいる誰も異議を唱えないので商標の登録をしなさい。」といわれた。そして、メグロ社の工場にあった工作機械(旋盤、フライス盤、ラジアルボール盤、カム研磨機、溶接機など(乙2)全てを、「メグロ発動機」の屋号とともに譲り受け、2005年9月16日、商標権者が代表取締役の榮技研社に会社名と所在地を変更した。会社移転の混乱が一段落した2006年7月19日、商標権者は、「メグロ発動機」の商標登録出願を行った。
そして、商標権者が不純な動機や、不正な手段で「メグロ発動機」の商標を取得して登録したものではない。商標権者は、正統な「メグロ発動機」の商標登録者である。
(2)通常使用権の許諾について
榮技研社は、商標権者が代表者となって設立したものであり、本件商標が登録出願された直後に商標権者は、榮技研社に対し、本件商標の通常使用権の承諾を与えた。
(3)本件商標の指定商品中、第12類の指定商品について、通常使用権者による使用事実の立証(乙3?乙12)
通常使用権者である榮技研社は、乙第17号証の法人の目的欄にも記述されているように、「2.二輪、四輪車の販売・修理及び部品の製造、販売、加工」を業務の1つとしている。
ア 本件商標の使用事実の立証1(乙4)
2017年9月23日に、株式会社造形社(以下「造形社」という。)が発行した「2017 11創刊号 単車倶楽部」の2枚目及び第33頁には、メグロ付きエンジンを譲渡若しくは引渡しのために展示している事実が掲載されている。前記「オートバイエンジン」の展示場所は、榮技研社の店内(乙3)である。
譲渡若しくは引渡しのために展示している事実は、本件商標が商標法第50条第2項に該当していることを証明するものであるから、本件商標は、商標登録の取消しを免れる。
イ 本件商標の使用事実の立証2(乙5)
1996年9月1日に、株式会社杉原書店(以下「杉原書店社」という。)が発行した「PIPERS(1995年9月号)」の表紙において、メグロ付きエンジンが掲載されている。当該雑誌の表紙に掲載されているメグロ付きエンジンは、榮技研社の展示場内を撮影し掲載されたものである。
前記展示の事実は、本件商標が商標法第50条第1項に該当していないことを証明するものであるから、本件商標は、商標登録の取消しは免れる。
ウ 本件商標の使用事実の立証3(乙6)
「カー・マガジンティーポ(1995年No.67 1月号)」の85頁右上段に、榮技研社の社内展示場に譲渡若しくは引渡しのため展示されているメグロ付きエンジンが描かれている。
当該雑誌の掲載記事は、商標権者を主人公にして描かれたものであり、上記の事実によって、本件商標は、商標法第50条第1項に該当しないので、商標登録の取消しは免れる。
エ 本件商標の使用事実の立証4(乙7)
平成22年1月15日に八重洲出版社(以下「八重洲社」という。)が発行した「別冊MOTORCYCLIST(FEBURUARY2010 Vol.386)」の72頁及び73頁に掲載の記事中に、メグロ付きエンジンが榮技研社の展示場に譲渡若しくは引渡しのため展示されている。
上記の事実によって、本件商標は、商標法第50条第1項に該当していないので、商標登録の取消しを免れる。
オ 本件商標の使用事実の立証5(乙8)
平成25年3月27日に有限会社源(以下「源社」という。)が発行した「季刊BIKER-MON こだわりのバイカーモノマガジン バイカーモン(2013May5 No.21)」の3枚目、4枚目及び5枚目の掲載写真中に、メグロ付きエンジンが榮技研社の展示場に譲渡若しくは引渡しのため展示されている。
上記の事実によって、本件商標は、商標法第50条第1項に該当していないので、商標登録の取消しを免れる。
カ 本件商標の使用事実の立証6(乙9)
2015年5月24日に造形社が発行した「カスタムバーニング(CUSTOM Burning)(2015 7)」の掲載写真中に、複数のメグロ付きエンジンが榮技研社の展示場に譲渡若しくは引渡しのため展示されている。
上記の事実によって、本件商標は、商標法第50条第1項に該当していないので、本件商標は、商標登録の取消しを免れる。
キ 本件商標の使用事実の立証7(乙10)
2018年に株式会社遊風社(以下「遊風社」という。)が発行した「Bikers Station(2018 2 No.365)」の2枚目の掲載写真中のメグロ付きエンジンのカバーは、榮技研社が販売する商品「サビ取剤,洗車用洗剤商品」の広告宣伝用に写り込ませたものである。
上記の事実によって、本件商標は、商標法第50条第2項に該当するので、本件商標は、商標登録の取消しを免れる。
ク 本件商標の使用事実の立証8(乙11)
2019年1月に遊風社が発行した「Bikers Station(2019 1 No.376)」の2枚目の掲載写真中のメグロ付きエンジンのカバーは、榮技研社が販売する商品「サビ取剤,洗車用洗剤商品」の広告宣伝用に写り込ませたものである。
上記の事実によって、本件商標は、商標法第50条第2項に該当するので、本件商標は、商標登録の取消しを免れる。
ケ メグロ付きエンジン用マウントプレート(乙12)
榮技研社は、現在、メグロ付きエンジン用プレートを制作している。
コ 小括
上記のとおり、通常使用権者である榮技研社は、本件商標を3年以上日本国内において、本件審判請求に係る指定商品である二輪車用部品「オートバイエンジン」について、本件商標を使用しているという事実が明白である。
したがって、本件商標は、その指定商品中、第12類についての登録は、商標法第50条第1項の規定によって取消しをされるべきではない。
(4)本件商標の指定商品中、第25類の指定商品について、通常使用権者による使用事実の立証(乙13?乙16)
ア 本件商標の指定商品中、第25類「Tシャツ」に本件商標「メグロ」の「シール」を使用した事実がある。
商標権者が、1988年頃、メグロ社の社長の許可を得て、本件商標「メグロ」のロゴシールを2種類約1,000枚製造した事実がある(乙13)。
商標権者は、2種類のシール(乙13)を付したTシャツを着用し、かつ、販売もしている(乙14?乙16)。
イ さらに、Tシャツに、「メグロ」シールを貼着し、使用し、かつ、販売もしている事実がある。
(ア)榮技研社は、平成29年10月28日及び29日に開催された第25回トヨタ東自大学園祭2017(主催者学校法人トヨ夕東京整備学園、専門学校トヨタ東京自動車大学校)に、同社が販売する商品「サビ取剤,洗車用洗剤」を展示販売した際、同社の代表者である商標権者が、乙第15号証の写真掲載のとおり、Tシャツを着用している。
前記Tシャツには、「メグロ」のシール(乙13)が貼着されているが、重ねて着用している法被によって隠れ見ることができない。前記Tシャツは、乙第14号証のとおりである。
(イ)前記(ア)で述べた乙第13号証の本件商標「メグロ」のロゴシールが、平成29年10月28日及び29日開催の第25回トヨタ東自大学園祭2017の開催時もTシャツにおいて使用されていた事実が歴然としているので、本件商標の指定商品中、第25類の指定商品について、商標法第50条第1項の規定により取消されるべきではない。
2 回答書による主張の要旨
(1)当審における審尋
審判長は、被請求人に対し、令和2年10月28日付けで、合議体の暫定的見解を示し、被請求人が答弁書で提出した乙各号証によっては、要証期間に、商標権者又は使用権者のいずれかが、本件審判請求に係る指定商品について、本件商標を使用していることを証明しているものとはいえない旨の審尋を送付し、期間を指定して、これに対する意見を求めた。
(2)回答書による主張の要旨
ア 榮技研社が本件商標をオートバイエンジンに使用していたこと
乙第4号証の2葉目及び3葉目の記載及び写真から、要証期間に、榮技研社の事務所内に、メグロ付きエンジンが展示されていたことが裏付けられる。
そして、商標権者は、譲渡する意思をもってメグロ付きエンジンを展示していたのであるから、当該展示は、譲渡又は引き渡しのための展示(商標法第2条第3項第2号)である。
なお、付言すれば、コレクションとしての展示と、譲渡又は引き渡しのための展示は相反するものではない。コレクションとして展示してあるものであっても、それにつき譲渡の申し出に応じる意思があれば、譲渡のための展示にも該当するのである。
確かに、商標権者及び通常使用権者は、メグロ付きエンジンにつき、値札や商品カタログといった類の販売用資料を作成したことはない。
もっとも、それは商標権者の意思として、小売店のように申し出があれば誰でも譲渡するようなことは望まず、むしろ譲受人がメグロ付きエンジンを大切に使ってくれるか否かを見極めてから譲渡の可否を判断したいと考えていたためである。そのため、雑誌(甲2)などでは「・・・谷口さんはオートレーサーやそのエンジンのコレクションを販売するようなことは一切していない。そのため、コレクションに対する問い合わせにも応じないそうだ。」といった態度を表明し続け、安易な問い合わせをけん制していたのである。
商標権者は、約15年又は16年前に、自身が所有していいたメグロ付きエンジンを第三者に販売した事実もある。
例えば乙第21号証は、商標権者が実際に譲渡したメグロ付きエンジンの写真であり、譲受人が現在も所有しているものである。
さらに、さかのぼれば、商標権者は、これまでにメグロ付きエンジンを合計4個、第三者に販売している(乙19)。
これらの販売自体は要証期間に行われたものではないが、商標権者にメグロ付きエンジンを譲渡する意思があり、かつ、その意思を外部に明らかにしていたことの証左である。
そして、その頃から要証期間を経て今日に至るまで、商標権者の意思に何らの変化も生じていない。
乙第12号証は、メグロ付きエンジンを二輪自動車に取り付ける際に使うエンジン用マウントプレートである。
乙第12号証は、平成31年2月又は3月頃に商標権者が榮技研社の事務所内で撮影したものであるが、このエンジン用マウントプレートは、商標権者自身が平成28年ないし29年頃に製作したものである。
商標権者は、メグロ付きエンジンを譲渡する場合には、譲受人の保有するオートバイヘの取り付けも行うつもりで、このようなエンジン用マウントプレートを製作し準備していたのであって、商標権者がメグロ付きエンジンを譲渡する意思があったことを裏付けるものである。
換言すれば、商標権者が単にメグロ付きエンジンをコレクションするだけの意思しか有しないのであれば、あえてオートバイへの取り付け時に必要となるエンジン用マウントプレートを製作しておく意味はないのである。
したがって、メグロ付きエンジンは譲渡又は引き渡しの対象の商品であり、榮技研社の事務所内でのメグロ付きエンジンの展示は、譲渡又は引き渡しのための展示に該当する。
以上より、商標権者は、要証期間に、本件商標を二輪自動車用オートバイエンジンに使用していたことは明らかである。
イ 本件商標と「メグロ」印は社会通念上同一であること
登録商標と使用商標が社会通念上同一か否かは、登録商標の構成部分に加えられた変更が、取引社会の通念に照らし、当該登録商標の識別性に影響を与えるか否かで判断されるものである。
ここで、本件商標は、特徴ある太字で表記された片仮名の「メグロ」の文字及び当該片仮名よりも細字で表記された漢字の「発動機」の文字からなる。
一方で、使用商標は、本件商標のうち、太字の片仮名「メグロ」の文字部分と同一の「メグロ」の文字より構成されたメグロ印である。
本件商標の「発動機」の文字部分は、主として、陸上、空中又は水上の人又は商品を輸送するための乗物及び装置を含む第12類の商品の業界において、内燃機関あるいはエンジンを意味する一般的な名称であることから、自他商品識別力が弱い部分である。
特に、本件商標を使用している「二輪自動車の部品」又は、「陸上の乗物用の機械要素」の業界においては、会社名等の正式名称から自他商品識別力を果たさない「発動機」の文字部分を省略して残りの部分を商品に使用することが一般的に行われている。
すなわち、「○○発動機」の標章であっても、業界及び需要者等は、「発動機」の文字部分を除いた「○○」の部分をもって出所を識別するのである。
そして、本件商標であれば、本件商標のうち「メグロ」の文字部分が自他商品識別機能を果たす要部として認識される。
特に、本件商標の場合は、外観上、「メグロ」の文字部分と「発動機」の文字部分で文字の太さも書体も異なり、かつ、片仮名と漢字という違いもあることから、「メグロ」の文字部分と「発動機」の文字部分はそれぞれ容易に分離して観察され、これらのうち、特徴ある太字で表記された「メグロ」の文字部分が要部と認識されることはなおさら明確である。
また、甲第1号証の2に記載されている[称呼(参考情報)]に記載されているとおり、「メグロハツドーキ」のほか、「メグロ」の称呼も挙げている。
これは、本件商標から「メグロ」の文字部分が、「発動機」の文字部分から分離判断され要部として認識されたことの証左である。
したがって、本件商標の要部は、太字の片仮名「メグロ」の文字部分であり、使用商標のメグロ印と同一である。
そして、本件商標の「発動機」の文字部分は、その商品の普通名称を表すことから自他商品識別力を果たさない部分であるため、この部分を省略して、本件商標の要部と同一の「メグロ」印を使用する行為は、まさにパリ条約5条C(2)の「登録された際の形態における商標の識別性に影響を与えることなく構成部分に変更を加えてその商標を使用する」行為であるから、本件商標と「メグロ」印は社会通念上同一であるといえる。
ウ 結論
以上のとおり、被請求人は、本件商標と社会通念上同一である「メグロ」印を、要証期間に、第12類の二輪自動車の部品又は陸上の乗物用の機械要素に含まれる二輪自動車用オートバイエンジンに使用していたものであるから、本件商標の商標登録を取り消すことはできない。

第4 当審の判断
1 被請求人の立証責任
商標法第50条による商標登録の取消審判の請求があったときは、同条第2項の規定により、被請求人において、その請求に係る指定商品のいずれかについての登録商標の使用をしていることを証明し、又は使用をしていないことについて正当な理由があることを明らかにしない限り、その登録の取消しを免れない。
すなわち、本件商標の使用をしていることを証明するには、商標法第50条第2項に規定されているとおり、被請求人は、ア 要証期間に、イ 日本国内において、ウ 商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが、エ 本件審判請求に係る指定商品のいずれかについての、オ 本件商標又は本件商標と社会通念上同一の商標の使用(商標法第2条第3項各号のいずれかに該当する使用行為)をしていることをすべて証明する必要がある。
2 被請求人が提出した乙各号証によれば、以下のとおりである。
(1)榮技研社の履歴事項全部証明書(乙17)
乙第17号証は、榮技研社の履歴事項全部証明書であり、本号証の2葉目に平成20年(2008年)6月30日に、商標権者が、同社の代表取締役に就任し、同29年(2017年)8月24日に登記されている。
(2)各種雑誌の掲載記事について(乙1、乙4?乙11、乙18)
乙第1号証は、平成5年(1993年)12月15日に八重洲社が発行した「別冊MOTOR/CYCLIST/12」の記事であり、「最後のエンジン」のタイトルで、メグロ発動機株式会社に関する記事が記載されているが、本雑誌は要証期間に発行されたものではない。
乙第4号証は、平成29年(2017年)9月23日に造形社が発行した「単車倶楽部 2017 11 創刊号」の記事であり、本号証の2葉目に、「Collector」の記載、「少年時代の憧れの逸品を集める」の記載の下に、メグロ付きエンジンと思しき写真が掲載されている。
なお、本号証のメグロ付きエンジンと思しき写真には、値札、価格表や品番等の記載はなく、また、当該記事の内容から、メグロ付きエンジンは、商標権者又は通常使用権者が製造したものとは認められない。
乙第5号証は、平成7年(1995年)9月1日に杉原書店社が発行した「PIPERS 1995年9月号」の記事であり、その表紙にメグロ付きエンジンと思しき写真が掲載されているが、本雑誌は要証期間に発行されたものではない。
乙第6号証は、平成7年(1995年)1月1日に、株式会社ネコ・パブリッシングが発行した「Dramatic Car-magazine Tipo(1995年No.67 1月号)」の記事であり、本号証の85頁の右上段に、榮技研社の社内展示場を描いたと思しき漫画が掲載されているが、ここに描かれた商品がメグロ付きエンジンであることは確認できず、また、本雑誌は要証期間に発行されたものではない。
乙第7号証は、平成22年(2010年)1月15日に八重洲社が発行した「別冊 MOTOR CYCLIST(FEBURUARY 2010 Vol.386)」の記事であり、本号証の2葉目に「レストアショップから一転『花咲かG』誕生の出会い」のタイトルの下、商標権者のプロフィール等の記載があるが、本雑誌は要証期間に発行されたものではない。
乙第8号証は、平成25年(2013年)3月27日に「源社」が発行した「季刊 BIKER-MON こだわりのバイカーモノマガジン バイカーモン(2013May5 No.21)」の記事であり、本号証の3葉目及び4葉目にメグロ付きエンジンと思しき写真が掲載されているが、本雑誌は要証期間に発行されたものではない。
乙第9号証は、平成27年(2015年)5月24日に造形社が発行した「CUSTOM Burning 2015 7」の記事であり、本号証の2葉目に「趣味で咲かせた花の数々」のタイトルで、商標権者に関する記事が掲載され、3葉目に「株式会社 榮技研」の記載があるが、本雑誌は要証期間に発行されたものではない。
乙第10号証は、平成30年(2018年)2月に遊風社が発行した「Biker Station(2018 2 No.365)」の記事であり、本号証の2葉目に、榮技研社が販売する商品「サビ取剤,洗車用洗剤商品」の広告が掲載されているが、当該商品の広告の上部に掲載されている写真は、人形に焦点が合っているため、人形以外は、不鮮明であり、人形の後ろに置かれた物品や文字等は明らではない。
乙第11号証は、平成31年(2019年)1月に遊風社が発行した「Biker Station(2019 1 No.376)」の記事であり、本号証の2葉目に、榮技研社が販売する商品「サビ取剤,洗車用洗剤商品」の広告が掲載されているが、当該商品の広告の上部に掲載されている写真は、人形に焦点が合っているため、人形以外は、不鮮明であり、人形の後ろに置かれた物品や文字等は明らではない。
なお、榮技研社が販売する商品「サビ取剤,洗車用洗剤商品」は、本件審判請求に係る指定商品には含まれない。
乙第18号証は、令和2年(2020年)1月24日に造形社が発行した「単車倶楽部 Vol.26 3 2020」の記事であり、商標権者が記載した記事が掲載されているが、本雑誌は要証期間に発行されたものではない。
(3)商品等の写真について(乙2、乙3、乙12、乙13、乙15,乙21)
乙第2号証は、工作機械の写真であるが、工作機械に本件商標の記載はなく、この写真の撮影日、撮影者及び撮影場所は明らかではない。
乙第3号証は、被請求人が、メグロ付きエンジンを展示した榮技研社の展示場の写真と主張するものであり、オートバイエンジンに「メグロ」の文字が使用されていることは確認できるものの、この写真の撮影日及び撮影者は明らかではない。
乙第12号証は、被請求人が、メグロ付きエンジン用マウントプレートに関する写真と主張するものであるが、この写真の撮影日、撮影者及び撮影場所は明らかではない。
乙第13号証は、「メグロ」の文字が印刷されたシールと思しき写真であるが、この写真の撮影日、撮影者及び撮影場所は明らかではない。
乙第14号証は、Tシャツ及び法被の写真であり、Tシャツには、「メグロ」の文字が使用されていることは確認できるが、本件商標「メグロ発動機」の文字が使用されていることは確認できない。
また、この写真の撮影日、撮影者及び撮影場所は明らかではない。
乙第15号証は、平成29年(2017年)11月に、学校法人トヨタ東京整備学園及び専門学校トヨ夕東京自動車大学校の学園祭企画委員長が作成した「第25回トヨタ東自大 学園祭2017 ご出展のお礼」であり、本号証の学園祭での様子の下に写真が掲載されているものの、詳細な内容は確認することができない。
なお、学校法人トヨタ東京整備学園及び専門学校トヨ夕東京自動車大学校の学園祭企画委員長は、多年にわたる学園祭における募金活動に対して、商標権者に感謝状(乙16)を贈っている。
乙第21号証は、令和3年(2021年)2月1日に撮影した、商標権者が譲渡したとするオートバイエンジンの写真であり、オートバイエンジンに、「メグロ」の文字が使用されていることは確認できるが、本号証の写真の撮影日は、要証期間の経過後であり、また、当該オートバイエンジンが、要証期間に譲渡されたことを証明する証拠は提出されていない。
(4)陳述書について(乙19、乙20)
乙第19号証は、商標権者が、令和3年(2021年)2月4日に作成した陳述書であり、「私は、雑誌の連載やインタビューなどでは一貫して、『メグロ付きエンジンはコレクションとして展示しているものであって、譲渡するつもりはない』という態度をとってきました。といいますのも、私はメグロ付きエンジンを本当に大切に使ってくれる人にしか譲りたくはなく、小売店のように、言われれば誰にでも売るようなことはしたくなかったからです。ですので、値札やカタログのようなものを作ったこともありません。」との記載、「15年ほど前に一度、メグロ付きエンジンをお譲りしたことがあります。」との記載、「私が単にコレクションのためにのみメグロ付きエンジンを所有・展示しているのではなく、譲渡する意思のもと展示していたことをご理解いただければ幸いです。」との記載がある。
乙第20号証は、商標権者の友人が、令和3年(2021年)1月29日に作成した陳述書であり、「(商標権者は)建前上は、全てコレクションであり、他人に譲るつもりはないなどと言っているようですが、本当は違います。私のようなごく親しい間柄の人物に対しては、常日頃から、『転売などせず、自身で大切に使ってくれる人なのであれば、譲ってもいいと思っている』などと話しています。」の記載がある。
なお、乙第19号証に記載されたオートバイエンジンを譲渡したと主張する日は、要証期間ではなく、要証期間にオートバイエンジンが譲渡された事実は確認できない。
また、これらの陳述書の内容からすると、商標権者によるオートバイエンジンの展示の行為は、広く一般的に、オートバイエンジンを販売することを目的として、展示した行為をしていたとはいい難いものである。
3 上記2によれば、当審の判断は、以下のとおりである。
(1)使用者について
榮技研社は、前記2(1)のとおり、商標権者が代表取締役であることが確認できる。
そうすると、商標権者と榮技研社とは、密接な関係にあったということができるから、榮技研社は、本件商標の使用について、商標権者から黙示の許諾を与えられていたものと推認することができる。
したがって、榮技研社は、本件商標に係る通常使用権者であるということができる。
(2)使用商品について
榮技研社は、「サビ取剤,洗車用洗剤商品」(以下「使用商品1」という。)の製造・販売を行っていることは推認できる。
ただし、使用商品1は、サビの除去を目的とする商品であって、本件審判請求に係る指定商品とは、商品の用途や需要者等が明らかに相違し、本件審判請求に係る指定商品の範ちゅうに属する商品ではない。
また、商標権者又は榮技研社は、「オートバイエンジン用マウントプレート」(以下「使用商品2」という。)の製造を行っていることは推認できる。
使用商品2は、オートバイにオートバイ用エンジンを取り付ける商品であると考えられるため、本件審判請求に係る指定商品中の「二輪自動車・自転車並びにそれらの部品及び附属品」の範ちゅうに属する商品であると考えられる。
加えて、商標権者又は榮技研社は、「Tシャツ」(以下「使用商品3」という。)の販売を行っている。
使用商品3は、本件審判請求に係る指定商品中の「被服」の範ちゅうに属する商品である。
なお、被請求人が使用商品と主張する榮技研社内に展示された「メグロ付きエンジン」は、各種雑誌の記事内容やこれらに掲載された写真、商標権者及び同人の友人の作成による陳述書の内容等を参照すると、販売を目的として展示されたと判断し得る価格の表示や型式等の表示はなく、また、商標権者が作成した陳述書に、「私はメグロ付きエンジンを本当に大切に使ってくれる人にしか譲りたくはなく、小売店のように、言われれば誰にでも売るようなことはしたくなかったからです。ですので、値札やカタログのようなものを作ったこともありません。」と記載されていることからすと、「メグロ付きエンジンを本当に大切に使ってくれる人にしか譲りたくはない」との理由があるとしても、被請求人が使用商品と主張する「メグロ付きエンジン」は、商標権者が収集した「メグロ付きエンジン」を自身が代表取締役の榮技研社の展示場に収集物として置いているにすぎないと判断できる。
また、仮に、「メグロ付きエンジン」が使用商品と認め得るとしても、これが、要証期間に譲渡等の取引が行われたこと、要証期間に雑誌等において「メグロ付きエンジン」の宣伝広告が行われたことは確認することができない。
(3)使用商標について
使用商品1は、「花さかGシリーズ」の標章(以下「使用標章1」という。)が使用されていることが確認できる。
本件商標「メグロ発動機」と使用商品1の使用標章1とは、これらの構成文字が明らかに相違するため、これらは同一の商標ではなく、かつ、社会通念上同一の商標ではない。
使用商品2は、被請求人の提出した全証拠を確認しても特定の標章が使用されたことは確認することができない。
使用商品3は、「メグロ」の標章(以下「使用標章2」という。)が使用されていることが確認できる。
本件商標「メグロ発動機」と使用標章2とは、これらの構成文字が明らかに相違するため、これらは同一の商標ではなく、かつ、社会通念上同一の商標ではない。
(4)使用商品の取引について
使用商品1及び使用商品3は、要証期間である平成29年10月28日及び同月29日に開催された第25回トヨタ東自大学園祭2017において、販売を目的として展示されていたことが推認できる。
ただし、これらの商品が実際に販売されたことは確認することができない。
(5)小括
以上からすると、商標権者又は商標権者から本件商標の通常使用権の許諾を受けた榮技研社が、その取り扱いに係る使用商品1及び使用商品3を、要証期間である平成29年10月28日及び同月29日に、第25回トヨタ東自大学園祭2017において、使用商品1及び使用商品3の販売を目的として展示したことは推認できる。
また、榮技研社は、要証期間である平成30年2月及び同31年1月に発行された雑誌に、使用商品1に関する広告を掲載したことは推認できる。
しかしながら、使用商品1及び使用商品3に、本件商標又は本件商標と社会通念上同一の商標が使用されていることは確認することができず、かつ、これらの商品が譲渡等の取引が行われたことは確認できない。
また、使用商品2は、特定の標章が使用されていることが確認できず、かつ、この商品が、譲渡等の取引された事実や販売を目的として宣伝された事実も確認することができない。
その他、被請求人が提出した証拠を総合して判断してみても、要証期間に、本件審判請求に係る指定商品について、本件商標又は本件商標と社会通念上同一の商標を使用していることを証明するものは見いだすことができない。
4 被請求人の主張について
被請求人は、商標権者又は通常使用権者である榮技研社が、本件商標と社会通念上同一である「メグロ」印を、要証期間に、第12類の二輪自動車の部品又は陸上の乗物用の機械要素に含まれる二輪自動車用オートバイエンジンに使用していた旨を主張する。
しかしながら、上記3(2)のとおり、「二輪自動車用オートバイエンジン」に該当する「メグロ付きエンジン」は、商標権者の収集物を榮技研社内に陳列しているにすぎないものであり、これが商取引の対象とする商品であるとは考え難いものである。
また、仮に、「メグロ付きエンジン」を商取引の対象となる商品と認め得るとしても、要証期間に、「メグロ付きエンジン」の販売を目的とする宣伝広告が行われた事実や実際に「メグロ付きエンジン」の譲渡等の取引が行われたことは確認することができない。
加えて、商標権者又は通常使用権者が、「メグロ」印を使用した「二輪自動車用オートバイエンジン」を製造し、販売している事実は確認できない。
したがって、被請求人の上記主張は、採用できない。
5 結論
以上のとおり、被請求人が提出した全証拠によっては、被請求人は、要証期間に、日本国内において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが、本件商標又は本件商標と社会通念上同一と認められる商標を、本件審判請求に係る指定商品のいずれかについて、商標法第2条第3号各号に規定する使用行為を行ったことを証明していない。
また、被請求人は、本件商標を使用していないことについて正当な理由があることも明らかにしていない。
したがって、本件商標は、商標法第50条の規定により、その登録を取り消すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲
別掲(本件商標)



審理終結日 2021-05-31 
結審通知日 2021-06-03 
審決日 2021-06-16 
出願番号 商願2006-67275(T2006-67275) 
審決分類 T 1 31・ 1- Z (Y1225)
最終処分 成立  
特許庁審判長 榎本 政実
特許庁審判官 小俣 克巳
豊田 純一
登録日 2008-02-08 
登録番号 商標登録第5109405号(T5109405) 
商標の称呼 メグロハツドーキ、メグロ 
代理人 特許業務法人 有古特許事務所 
代理人 大久保 和樹 
代理人 小林 功 

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