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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W41
管理番号 1375961 
審判番号 無効2019-890085 
総通号数 260 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2021-08-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2019-12-18 
確定日 2021-06-10 
事件の表示 上記当事者間の登録第5621361号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5621361号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5621361号商標(以下「本件商標」という。)は、「弘道館」の文字を横書きしてなり、平成24年12月26日に登録出願、第41類「知識又は技芸の教授,セミナーの企画・運営又は開催,美術品展示,書籍の制作」を指定役務として、同25年9月10日に登録査定、同年10月11日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を審判請求書及び上申書において要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第22号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 無効の理由について
本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当し、同法第46条第1項第1号により、無効にすべきものである。
(1)商標法第4条第1項第7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に関する解釈については、知的財産高等裁判所平成17年(行ケ)第10349号(甲3)において詳細に判示されており、判例でも認められた公序良俗違反といわれる「当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合」に佐賀県における「弘道館」商標の使用が該当する。かかる趣旨の裁判例や特許庁の審決例として多数の事例がある(甲4?甲17)。これらの事例はいずれも一個人が当該商標を独占することが公正な取引秩序を害すると評価される場合を指す。
特に、歴史的・文化的・伝統的価値を有している当該商標は、一個人がかかる文化的所産を商標登録することにより、地方公共団体等の公的機関による施策遂行を阻害する場合、公正な競業秩序を害し、社会公共の利益を害するために、第4条第1項第7号が適用されており、本件の佐賀藩における藩校「弘道館」に極めて近似する登録商標や出願商標(甲19の1)について公序良俗違反として特許庁の審査で拒絶されている。
(2)共通判断基準について
上記した事例の裁判例や審決例(甲4?甲17:以下「審判決例」という。)には、共通した判断基準が明記されている。
ア 「周知・著名であること」について
(ア)審判決例においては、いずれの商標もほとんど一定地域あるいは全国的に周知・著名な商標である。
例えば、商標「御用邸」、「福沢諭吉」、「Buddha」、「GAUDI」、「松尾芭蕉」、「小林一茶」、「坂本龍馬」、「葛飾北斎」、「北斎」等はすべて周知・著名な商標であると認定している。
(イ)本件商標について検討してみると、「弘道館」も佐賀県下において、古来県民に親しまれて県民の誇りともいえる藩校名として周知・著名である。
請求人が開催する講座のチラシ(甲18の1)は、1回の講座につき、国公立・私立を問わず県内すべての小学生、中学生及び高校生の児童・生徒数分を印刷・配布し、受講生の募集を行っている。これらのチラシには、その内容を説明する表題として「弘道館」の文字が表記されているが、この「弘道館」の表題は、チラシに記載された講義の内容記載の題目として機能しており、十分な量が頒布され、「弘道館」の周知に貢献している。
2018年(平成30年)から2019年(平成31年)に、明治維新150年を記念し、請求人が取り組んだ「肥前さが幕末維新博覧会」の紹介等を兼ねた「旅」や「食」の紹介雑誌(九州ウォーカー:甲18の2)において、記念パビリオンの一つである「リアル弘道館」の紹介記事が掲載されており、雑誌の頒布エリアからみて「弘道館」の周知性の補助機能を果たしている。
「肥前さが幕末維新博覧会」の入場に関係するホームページ情報(甲18の3)には、「リアル弘道館」へ入場できるチケットの説明が明記されている。この「リアル弘道館」には、佐賀県内外を問わず14万人を超える来場者となり、大盛況であった。
新成人キャンペーン開催のホームページ情報(甲18の4)には、申し込みはがきの受け取り場所として「リアル弘道館」が明記されており、「リアル弘道館」の名称は広く周知され、上記の14万人を超える来場者に寄与し、「弘道館」の名称の周知性獲得に貢献している。
大学生、短大生やシニアに対する博覧会割引入場券の案内(甲18の5)には、来場館として「リアル弘道館」が明記されており、若手層にPRし、周知されており、この案内もまた14万人を超える来場者に寄与している。
佐賀県教育史(甲18の6)において、「藩校・弘道館」の歴史が表記されている。
請求人が2015年(平成27年)に取り組んだ、「藩校・弘道館」の移転・拡張175周年記念の企画展の案内(甲18の7)には、弘道館に係る歴史が写真とともに紹介記載されており、県民の誇りとして弘道館の周知性のPRになっている。
水戸藩の「弘道館」を日本最大の藩校として紹介したホームページ情報(甲18の8)から、佐賀藩以外にも水戸藩でも「弘道館」の名称は周知であることが判明し、全国的に「弘道館」の名称が藩校として知れわたり、その周知性に貢献している。
甲第18号証の9は、水戸藩の「弘道館」が藩校で唯一の国指定特別史跡に指定されている名称であることを表示している。佐賀藩に限らず、「弘道館」という標章は水戸藩においても著名であり、「弘道館」がどこの藩校かを特定しなくても日本国内では周知の藩校名称であることが分かる。
水戸藩の「弘道館」にちなんだ茨城県が取り組んでいる生涯学習に関する講座のHP(甲18の10)から、佐賀藩に限らない「弘道館」の全国的周知性が分かり、甲第18号証の11も水戸における「弘道館」の塾紹介及び申込書である。
甲第18号証の12には、京都・御所西の学問所「有斐斎弘道館」が日本文化による人間育成の場として再興された学舎として説明されている。ここで、注目すべき記事は「歴史上の弘道館について」として「弘道館」の詳細を解説し、「『弘道館』は、学問所というほどの意で、江戸時代には全国的に見られました。」と記載されているように「弘道館」は学問所として一般的名称(普通名称)として機能する名称であることが明記されている。すなわち、この記載から判断すると「弘道館」は周知以前に普通名称的に機能していたといっても過言ではない。
甲第18号証の13は、「有斐斎弘道館」の文化的説明であり、「弘道館の講座」と表示されているとおり、講座が弘道館主催であり、講座の開催地が弘道館であったことが説明されている。特に、京都では「有斐斎弘道館」として著名となっており、学問的、学術的な講座には「弘道館」の名称が何らかの関連性の下に使用されてきたことをうかがわせる。
佐賀市立の小学校が編纂した読本(甲18の14)には、「弘道館」に関する詳細な説明、弘道館学館の見取図や沿革の詳細な説明がされており、学習教材の一つとして利用されている。
放送大学佐賀学習センターの公開講座の案内パンフレット(甲18の5)には、テーマとして「佐賀藩弘道館の教育方針をめぐって」が表記されている。
甲第18号証の16からは、佐賀県においては歴史に係るテーマに「弘道館」の名称が至るところに散在していることが分かる。佐賀県民にとっては、「弘道館」は身近な、かつ、歴史的な学問所として日常の生活において膾炙されている。
第24回佐賀城下探訪会の案内書(甲18の17)において、テーマは「鍋島直正を支えた側近たち」となっている。ここでも「弘道館」がルートマップの中心として目次に記載されており、「弘道館」の詳細が明記され、「弘道館記念碑」の写真が掲載され、「弘道館」拡張に関わった人物の説明もある。いろいろな人々が「弘道館」に関わり、佐賀の歴史的誇りとして大事に後世に伝えていたことが分かる。
1998年(平成10年)に開催された「平成弘道館」の開塾式のスケジュール説明書(甲18の18)において、「弘道館」に係る名称として「平成弘道館」という変形名称も使用されていた。塾という学問的活動には、商標的でない形で「弘道館」の名称が、学問所、学びの場の代名詞として使用され、機能してきたことが分かる。
「近世藩制・藩校大事典」の抜粋(甲18の19)には、国元の藩校名のうち「弘道館」の名称が7校あり、その中には当然に佐賀藩もあり、その他では、茨城県の水戸藩、谷田部藩、新潟県の黒川藩、滋賀県の彦根藩、兵庫県の出石藩、広島県の福山藩には「弘道館」の藩校がある。また、青森県の弘前藩、茨城県の水戸藩、愛知県の名古屋藩(尾張藩)は江戸藩邸内に、「弘道館」を設けていた。さらに、近隣の福岡県の柳川藩に「弘道館」といった学問所があったことが分かる。この大事典には、佐賀藩の「弘道館」に関する歴史の説明が他藩の藩校や学問所とともに詳細に説明されている。同号証を見る限り「弘道館」の名称は「藩校」や「学問所」としての代名詞になっていたことが分かる。この意味では「弘道館」は学問所として周知標章であるとともに一種の慣用商標としても機能し、万人が自由に使用でき、特定者に独占的に商標権として使用権を与えるべきものではないことが分かる。
佐賀県の地元紙である「佐賀新聞」において、「弘道館」が取り上げられた記事(甲18の20)からは、行政のみならず、地元紙の記者も「弘道館」について学び、佐賀市内の中学校に出向き、「弘道館」の教授に取り組んでおり、「弘道館」が地域に愛着を持たれ、文化として根付いていることが分かる。
本件商標の出願時の審査経過を示す「拒絶理由通知書」(甲18の21)において、審査官は「弘道館」を旧水戸藩の藩校を表すものとして認識して、商標法第4条第1項第7号に該当するとした。旧水戸藩以外に、藩校事典(甲18の19)に記載されているように、十校以上の藩校や学問所があることからすれば、審査官の主張する「一私人に自己の商標として採択、使用することは公序良俗に違反する」という見解が佐賀藩の「弘道館」に対し、より強く適合できる見解であるといえる。
上記した甲第18号証の1ないし甲第18号証の20までの証拠方法によって、少なくとも「弘道館」の名称が各種の講座、セミナー、訪問箇所、藩校の歴史等の各種分野において多数使用されて周知されていたことが分かる。このような「弘道館」の使用実績を見る限り、他藩校においても使用される「弘道館」も含めて周知・著名の商標となっている。
以上のように、「弘道館」の藩校名は、審判決例の判断基準である周知・著名性を具備していた。
イ 「一私人が商標登録したこと」について
審判決例に共通したその他の判断基準として、「一私人が商標登録したこと」を掲げることができる。
本件商標も、一私人が商標登録出願して登録したものであり、一私人の商標登録という条件を満たしている。
ウ 「一私人に商標登録することにより社会的信頼や公共の利益に反し、社会の一般的な道徳観念に反すること」、「公正な取引秩序を乱し、公の秩序又は善良な風俗を害すること」について
審判決例に共通した「一私人に商標登録することにより社会的信頼や公共の利益に反し、社会の一般的な道徳観念に反する」、「公正な取引秩序を乱し、公の秩序又は善良な風俗を害する」等の判断基準についても、本件商標は、要件を満たしている。
すなわち、一私人が「弘道館」を商標登録すれば「弘道館」の名称の由来や藩校としての周知度からみて強い顧客誘引力を発揮することは明白であり、公益的事業を阻害し、社会公共の利益に反し、一般的道徳観念にも反することになるのは明らかである。
エ このように、本件商標は、審判決例に示された公序良俗違反の判断基準のすべてを満たしているから、無効理由を含む商標である。
(3)特許庁の審査基準においても「六、第4条第1項第7号(公序良俗違反)」の項において、「1.『公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標』とは、例えば、以下(1)から(5)に該当する場合をいう。」として例示しているが、本件商標は、この例示中、「(2)商標の構成自体が上記(1)でなくても、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合」に該当し、商標法第4条第1項第7号により無効とされるべき商標である。
さらには、審査基準の「2.本号に該当する例」における「周知・著名な歴史上の人物名であって、当該人物に関連する公益的な施策に便乗し、その遂行を阻害する等公共の利益を損なうおそれがあると判断される場合」に該当する。当該例は「歴史上の人物」とされているが、本件商標の「歴史上の藩校名の弘道館」も全く考え方は同一であり、審査基準が掲げる当該例と同様であり、本件商標も公序良俗違反の該当例に当たる。
(4)上記のとおり、一定の条件の下で公序良俗違反として登録を拒絶された商標は、多数あるが、特に本件商標と同様の藩校名を出願して登録を拒絶された事例は、「會津藩校 日新館」を商標とし、指定役務を第41類及び第43類として、平成30年7月6日に商標登録出願されたが、審査の結果、商標法第4条第1項第7号により、拒絶査定となっている(甲19の1?甲19の3)。
その拒絶理由は、出願商標は、福島県会津若松市に位置する観光名所である「會津(会津)藩校 日新館」を理解させる語であり、一私人である出願人が自己の商標として独占使用することは、地域興しや観光事業の活動を阻害するおそれがあるばかりでなく、社会の一般的道徳観念に反するものであるから、商標法第4条第1項第7号に該当するというものである。
この拒絶理由の内容は、知的財産高等裁判所平成17年(行ケ)第10349号で判示した公序良俗違反に該当し、当然に公序良俗違反として拒絶されて然るべき商標である。
かかる事例は、本件商標と対比すると、有名な藩校名であること、指定役務も第41類で同一であること、「弘道館」と「會津藩校 日新館」は、いずれも藩校名の表示において最末文字が「館」という藩校らしい表現漢字となっており、双方の商標表記は明らかに同観念の藩校表示として把握することができる。
要するに、本件商標と同じ観念的に藩校表示とされる商標登録出願が特許庁の審査において公序良俗違反として拒絶されたという事実に鑑みると、本件商標も登録出願時、当然に拒絶されるべき出願にあったものであるから、無効原因を有する。
したがって、本件商標も甲第19号証の商標と同一の理由で商標法第4条第1項第7号に該当するから、同法第46条第1項第1号により無効とされるべきである。
2 上申書における主張
平成30年(ワ)第35283号事件において、原告(被請求人)は、請求の放棄書を提出し、令和2年6月12日の口頭弁論で陳述がなされ、調書が作成された(甲20?甲22)。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第14号証を提出した。
1 指定役務について
本件商標は、その指定役務について、継続して5年以上日本国内において、商標権者、専用使用権者により使用されており、また、被請求人は、県による商標権侵害及び契約不履行、公序良俗的活動の被害者である。請求人は自らの悪質な行動を無効審判請求によってごまかそうとしているにすぎず、本件審判請求は成り立たない。
2 請求人による公序良俗違反
被請求人が商標権を所得したのは、弘道館名称のパブリシティを利用し本来の弘道館と全く異なる事業を行い、類似商標及び名称を用いることで社会を惑わし、売名行為、募金詐欺、悪質な収益などを行う団体の社会的悪用を防ぐためであった。
本件商標権を所得した直接の理由となった有斐斉弘道館は、当時弘道館と称し、自分たちが購入した自宅や古民家を購入する資金を集めるため、弘道館復元募金と偽っていた。本物の弘道館と間違えて寄付をしてしまった被害者から確認の連絡があり発覚した。
水戸弘道館にも確認したが、名称を偽って集めた資金は一切送金されておらず、当館ともまるで関係なく、名称の無断使用を阻止し、歴史の歪曲と詐欺を防止する必要があったため、商標登録出願をした。その後、有斐斉弘道館と変更し相変わらず商標権侵害を続けている。
請求人は、有斐斉弘道館を自らの正当性を証明する証拠に出しているが、双方とも商標権侵害の典型的な見本である。
請求人山口氏(審決注:佐賀県知事を指すものと思われる。)の指示による「弘道館2」による商標権侵害も弘道館名称のパブリシティを利用し、本来の弘道館と全く異なる事業を行っているにもかかわらず、類似商標を用いることで弘道館事業だと勘違いさせることを狙った、悪質な反社会行動である。
請求人の「弘道館2」を利用した活動は、弘道館のパブリシティ権を悪用した悪意ある名称である故に、商標法第4条第1項第7号の、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標及び名称に該当している。
また、商法(審決注:「商標法」の誤記と思われる。)でいうところの公序良俗とは、そもそもが、Bad-faithに該当する悪意の商標出願を防止するために制定された法案である。
この法案の本来の目的は、近年、有名なブランドの商標等が第三者によって無断で商標出願及び登録され社会問題となったこと等にある。いいかえれば、苦労して築きあげたパブリシティ権を侵害されないよう、このような悪意の登録を防止するために制定された法である。
悪意の商標出願に対しては、商標法第3条第1項柱書、第4条第1項第7号、同項第8号、同項第10号、同項第15号、同項第19号、第53条の2が適用される。
請求人は、自ら契約違反、商標権侵害による公序良俗違反を犯しながら、その犯行を目くらましするために、商標法4条1項第7号を利用している。
弘道館のパブリシティを悪用し、類似名称を使っていることから、Bad-faithに該当する悪意の名称であり、公序良俗違反そのものである。契約に基づき公開された企画書などの情報や商標を無断かつ一方的に使用し、再三の注意を無視してイベントを行ったことは法の精神に反し、まさしく公序良俗に反する行為であり、社会に与える影響は甚大である。
「弘道館2」という類似名称を用い、弘道館のパブリシティ権を悪用し、本来の弘道館活動と全く違う行事を行い、後世に歴史の歪曲を行う請求人の行為自体は、社会公共の利益に反する以外の何物でもない。上記の理由から、請求人山口氏が行っている「弘道館2」こそが公序良俗であり、当弘道館は名称を利用された被害者にすぎない。
3 請求人の一方的な無断契約破棄
被請求人は、請求人が「弘道館2」を実行する6年も前から、前古川知事と約束し、佐賀城にてCSO提案型協働創出事業を行うという形で正式に共同事業を進めていった。
今回証拠のメールに記載してある請求人との共同事業のどこが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するのであろうか。また、メールには会議日程が詳細に書いてある上に県として応援するとまで書いてあるのに、今裁判(審決注:平成30年(ワ)第35283号事件と思われる。)で請求人弁護士は、県職員は被請求人に会ったことも見たこともないと事実と異なる証言を行っている。
請求人は、請求人山口氏がイベントを行うまで会ったことも見たことないという、事実と異なる証言をすることで、被請求人が、「弘道館」商標権を使い、公共事業を阻害したという公序良俗に該当するストーリーを作りあげるためであるかのような証言を行っている。
刑法第169条に、偽証罪とは「法律により宣誓した証人が虚偽の陳述をしたとき」に成立する罪という法律が存在する。
古川知事とのメールは、請求人が事実と異なる証言を行っていることの重要な証拠である。
そこには、今回請求人が行った事業の柱となる項目がいくつか記載してあり、今回の請求人のイベントが既に提出した被請求人の企画と同じ内容である。
6年もかけ構築していった公共事業を断りもなく一方的に無断で破棄し、被請求人が提出した企画書を利用し、商標を使用し、イベントを行う行為は契約義務違反である。
何年も時間がかかったのは、古文献を解読し、歴史的な検証作業を行い、後世に弘道館の正しい歴史を伝えるためであった。
このような地道な作業を行い準備していたにもかかわらず、就任したばかりの請求人山口氏は今まで地道に活動してきた企画を無断で利用し、請求人単独で行った。
本来の弘道館の歴史的検証事業ではない、山口氏の会談などが中心であり、山口氏の宣伝のための弘道館のパブリシティ権を利用した内容であった。
被請求人は、何度も正しい歴史的な使用を求め、また、企画の無断使用に対する注意を行ったが、それに対し、山口氏は、歴史的な内容をまるで無視した大規模なイベントを行った。
弘道館の歴史を尊ぶのでも文化を大切にするものでもなく、ただひたすらに歴史と関係ない軽薄な内容でパブリシティ権を使うためだけのために弘道館名称を使うことは、伝統文化を破壊することにつながる。被請求人は、そのような悪意ある名称利用を一番おそれ、商標登録し、歴史と伝統と日本の文化を守ろうとした。
今回の請求人山口氏の行為は、著作権の侵害であり、社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する行為そのものである。
「弘道館2」なる名称は商標権侵害であり、悪意ある名称そのものにほかならない。
したがって、本来の公序良俗法違反は、まさしく請求人及び山口氏である。
上記のような反社会的行動を行いながら、なんら反省することなく、自らを省みることもせず、現在においても商標権侵害行為を行い続けている。
このような悪質な行為によって、請求人との共同事業は一方的に悪用され、無断破棄された。また、共同で名称権を管理し、広く世の中に役立てるという約束も反故にされた。
請求人の身勝手な言い分の中に歴史的な意味を持つ名称を個人が独占していいものかとあったが、請求人との共同運営を破談にしたのは、一方的に契約を破棄し、自分のために悪用した請求人山口氏であった。
今裁判中にも嫌がらせに疲れて名称権の譲渡を和解案にいれたが、「請求人弁護士よりいらない。いちいちイベントを開催するのにお伺いするのがいやだ。」という返事だと裁判官より聞いた。
また、茨城県の弘道館にも共同管理や移譲の話をしたが、佐賀県の介入で破談になっている。
4 弘道館は、亀印株式会社による「弘道館」商標権登録が行われており、請求人の「弘道館」名称を個人が独占しているという指摘は当てはまらない。
5 裁判上、被請求人代理人が請求人の弘道館イベントによる収益金の流れについて質問しているが、3億円ともいわれる入場料収益が県に還元されておらず、収益金の流れが非常に不明確である。
弘道館のパブリシティを後世にまで守るため、悪用されないように管理してきたが、莫大な利益を生むまでになって、名称を悪用されてしまった。
弘道館名称を使用するなら、品位を貶めることなく、歴史的検証をし、収益は福祉に使い、公共の利益のために還元すべきだという願いは踏みにじられた。
請求人山口氏は、県の財力と権力を使って弘道館名称の商標権侵害を行った。
請求人の身勝手な言い分は、言い換えれば、被請求人が商標権を失っても「弘道館3」と称してイベントを行ってもいいという意見である。
そして、それを注意して正した方が公序良俗であるということになる。
6 上告について
事実と異なる証言を組織で行った裁判に真実は望めない。
ただひたすらに公共の利益のため、無償で長年県に尽くしてきたが、その善意を踏みにじられ、契約を一方的に破棄され、商標権侵害と著作権侵害の上に事実と異なる証言にて、公序良俗の濡れ衣を着せられた。
また、当時、度重なる嫌がらせもあり、心身ともに非常に衰弱した状況であり、医師からのドクターストップがあり断念した。
その気になれば、契約違反や事実とまるで異なる証言について裁判を起こすことも可能であるので、まずは、体を労わることを優先した。
今回提出した前知事のメールは、2009年であり、「弘道館2」が行われる6年以上も前である。
請求人山口氏は、裁判という重要な場で契約を一方的に放棄したことを隠し、契約に基づく6年間の業務の積み重ねを全くなかった事のように事実と相違した証言を行っている。この事実と相違した証言により、被請求人に公序良俗の濡れ衣を着せ、判決が行われてもいないにもかかわらず、判決が出たかのように県のホームページに記載させている。
行政に流れる税金は県民の血税であり、このような個人的利益に使用されるべきではない。県の発展のため、無償で行ってきた事業に濡れ衣をきせて乗っ取り、売名行為に使うような低俗な県政ではなく、公共の利益のために本当に困っている県民のための佐賀県政にいつか変わっていくこと、及び被請求人のように被害にあって悲しむ人がもう二度といなくなることを心から願う。
7 以下に、請求人が集団で真実と違う証言を行い、被請求人に公序良俗の濡れ衣を着せた証拠を示す。
(1)佐賀県知事古川氏からのメール(乙1)
請求人が契約違反を犯したことの証明、被請求人に会ったこともないと真実と違う証言を行い、公序良俗の濡れ衣を着せようとしたことの証拠である。当該メールには、8月17日に県庁での会議が行われたことやCSO提案型協創出事業が古川知事の提案により県との合同事業になったことが記載されている。依頼人代理人は、県職員が2009年以降、被請求人に会ったことも見たこともなく、8月17日の会議を行ったこともないと裁判での被請求人代理人の質問に答えており、集団で真実と違う証言を行ったことの証拠となっている。そのことにより、山口氏が「弘道館2」イベントを行ってから、被請求人が商標権を行使したかのような、公序良俗の濡れ衣を着せ、商標権侵害をごまかそうとしたことの証拠である。
2009年8月17日、古川知事の指令に基づき、複数の担当課の職員と佐賀県庁において会議を持ち、この席上で佐賀城本丸歴史館と共催することが決定した。弘道館復元事業の最初の会議であり、その後6年もの年月をかけて共同事業を行うことになる。
(2)CSO提案型協働創出事業要綱及び契約書(乙2)
古川佐賀県知事の提案に従い、CSO提案型協働創出事業に参加し契約書を交した。山口氏及び佐賀県が契約違反であることの証拠となる。契約書は、県の指示で未決定事項を空白にしてメール送付の上、会議当日署名押印をして企画書とともに提出した。この会議で佐賀城本丸歴史館が名乗りをあげたことにより、県側の担当部署が決定した。
(3)佐賀県男女参画・県民協働課Y氏からのメール(乙3)
請求人が契約違反を犯したことの証明であり、当該メールには、8月17日に県庁での会議が行われることが記載されており、Y氏の返信には会議の結果をうけ、今後県と共同でイベントを行うための広報活動を県が行う旨が記載してある。
(4)佐賀県古川知事へ弘道館イベント講演依頼書及び知事秘書室への返信メール(乙4)
弘道館企画書と弘道館イベント講演依頼書を送付してほしいと知事室からの依頼でメールにて送付した。
被請求人に会ったことも見たこともない企画書を受け取っていないという請求人代理人の真実と違う証言をしたことの証拠であり、それにより公序良俗の濡れ衣を着せようとしたことの証拠である。山口氏が行った県単独イベントや「弘道館2」がこの企画書の構成そのままである。
(5)佐賀城本丸歴史館送信メール(乙5)
定時連絡以外に契約不履行への状況確認連絡である。
2015年1月、古川知事から山口氏に知事が交代した。県と弘道館の共同開催を契約していたにもかかわらず、佐賀県が無断の上、単独で佐賀城本丸歴史館にて展示会を行った。契約不履行に当たる行為のため、緊急に状況確認連絡を行った。それまで電話等で定時連絡を密に行っていたのが、急に多忙のためメールに変更してほしいと館長の態度が急変している。
これ以降、弘道館イベント開催のため、佐賀城の使用申請も許可が下りなくなり、約束した広報活動も断られ、明らかに契約不履行の状況となる。
弘道館活動を続けるため、自費にて会場を借り、関東を中心に小規模のセミナーを定期開催せざる得ない状況になる。
(6)佐賀県山口氏からのメール(乙6)
契約不履行及び商標権侵害について抗議の連絡を行うが、商標法を無視した身勝手な言い分のみで商標権侵害を続行する。この後山口氏の発案と銘打って「弘道館2」及び「リアル弘道館」イベントを行う。
(7)請求人へのメール(乙7)
山口氏及び県代理人の真実と違う証言及び公序良俗の濡れ衣を着せようとしたことの証拠である。メール本文に被請求人主催の弘道館会員が730名以上いることが記載されている。また、山口氏の公序良俗行為を戒め、共同で活動をすることが佐賀の産業の発展のためであることを呼びかけている。
山口氏宛のメールであることから、山口氏、請求人、及び請求人代理人は共同開催の契約、及び700人の会員の存在を知らないことはあり得ないにも関わらず、今回の請求人側論旨に、一人で弘道館名称を独占すべきでないと身勝手な理諭を記載している。また、山口氏の就任以降、佐賀城での弘道館活動は承認が下りず、山口氏の独占状態になり、事実上佐賀での活動停止状況になる。商標権及び企画を無断使用され、山口氏の「弘道館2」に取って代わられる。
上記の行為は、商標法第4条第1項第7号に該当し、山口氏の行為は商標権侵害及び公序良俗行為にあてはまる。
(8)告訴状(乙8)
山口氏の商標権侵害についての証拠である。
(9)平成28年(ワ)第26612号 パブリシティ権侵害等差止請求事件(乙9)
パブリシティ権侵害等差止等請求事件、著作権侵害差止等請求事件である。被告側の契約不履行によるパブリシティ権侵害に基づく使用料相当損害に係る損害額につき100万円の限度でのみ認めた第一審の判断を維持する判決を下した。
(10)期日書面及び裁判報告議事録(乙10)
裁判での請求人代理人の応答であり、被請求人に会ったことも見たこともなく、2009年8月17日佐賀県庁における会議もなかったと裁判の場にて真実と違う証言をしている。
(11)請求人代理人は裁判の判決が出ていないにもかかわらず、まるで判決が出たように記載しているが、当日、裁判官は明らかに請求人の商標権侵害を宣言していたため、真実と相違がある。
また、心証開示が判決と同じとは限らず、請求人側の商標権侵害と契約不履行、公序良俗に関する判決も下され加味された判決になるはずである。
しかし、請求人代理人の提出書類は、宣言された請求人による商標権侵害の条項が抜けており、真実と相違があるため、期日報告書を証拠とした。
(12)「弘道館」商標権登録は、亀印株式会社(一般の会社)にも許可されている。使用が公序良俗に値するのなら、亀印株式会社に許可がおりることはないはずである。

第4 当審の判断
請求人が本件審判を請求するにつき、利害関係について争いがないから、本案について判断する。
1 「弘道館」について
「弘道館」は、各種事典において、例えば、「江戸時代末期、水戸藩主徳川斉昭によって創設された学校。天保12(1841)年、青山延于、会沢安を総裁として開校し、水戸城内に文武2館を設け、15歳から40歳までの藩士の子弟を教育。実用主義の立場から洋学も取入れ、後期水戸学の尊王攘夷思想を鼓吹した。このほか肥前、福山、谷田部、彦根の各藩校も弘道館と称した。」(ブリタニカ国際大百科事典小項目事典)、「水戸藩の藩校。天保12年(1841)藩主徳川斉昭が創設。尊王攘夷思想を鼓吹した。水戸城三の丸跡に残る建物と正門は国の重要文化財。同名の藩校が彦根藩・佐賀藩などにもあった。」(デジタル大辞泉)、「水戸藩の藩校。1841年、藩主徳川斉昭の創設。水戸学の中心として尊王攘夷論者を多数生んだ。」(大辞林第三版)、「[一] 水戸藩の藩校。藩主徳川斉昭の創建で天保一二年(一八四一)開校。総裁青山延于・会沢安。尊王攘夷思想を鼓吹し、水戸学のもととなった。元治元年(一八六四)大部分が焼失した。[二] 佐賀藩・彦根藩などの藩校の名。」(精選版日本国語大辞典)のように載録されている。
また、「近世藩制・藩校大事典」の抜粋(甲18の19)には、佐賀県の佐賀藩、茨城県の水戸藩、谷田部藩、新潟県の黒川藩、滋賀県の彦根藩、兵庫県の出石藩、広島県の福山藩には「弘道館」の藩校があり、青森県の弘前藩、茨城県の水戸藩、愛知県の名古屋藩(尾張藩)は江戸藩邸内に「弘道館」が設けられ、福岡県の柳川藩に「弘道館」という学問所があった旨の記載がある。
2 「弘道館」に関する各種利用状況
(1)佐賀県においては、佐賀市立勧興小学校が編纂した勧興読本(甲18の14)に、佐賀藩の「弘道館」に関する詳細な説明、弘道館学館の見取図や沿革の詳細な説明がされており、学習教材の一つとして利用されている。
また、佐賀県教育史(甲18の6)には、「藩校・弘道館」が、明治維新によって、学校となった旨の記載があり、平成17年7月1日から同年9月25日に開催された佐賀城本丸歴史館テーマ展(甲18の16)において、「藩校弘道館と教育者たち」というテーマの展示がされていた旨の記載がある。
さらに、佐賀県においては、佐賀藩の藩校「弘道館」にちなんだ21世紀型藩校として、「弘道館」の名の下、若者を中心に幅広い年齢層に向けた各種講座を開催するという教育事業を展開し(甲18の1)、また、2018年(平成30年)から2019年(平成31年)には、明治維新150年を記念して「肥前さが幕末維新博覧会」を開催し、同博覧会において、佐賀藩の藩校「弘道館」を紹介している(甲18の2?甲18の5)。
加えて、「藩校・弘道館」の移転・拡張175周年記念の企画展(甲18の7)や佐賀城本丸歴史館テーマ展(甲18の16)において、「弘道館」が紹介されているほか、放送大学佐賀学習センター公開講座のタイトルとして「弘道館」が使用され(甲18の15)、第24回佐賀城下探訪会の案内書(甲18の17)において、「弘道館」が説明されている。
(2)水戸藩の「弘道館」は、上記1のとおり、各種事典に載録されているとともに、平成27年4月24日に日本遺産として認定された、日本最大の藩校として紹介されており(甲18の8)、明治期の茨城県の教育と弘道館の繋がりを紹介する講座や所蔵品の特別公開などのイベントも開催されている(甲18の9)。
また、茨城県は、水戸藩の「弘道館」にちなんだ生涯学習に関する講座を開催するという教育事業に取り組んでおり(甲18の10)、その他、茨城県及び水戸市が後援する水戸における論語塾の紹介(甲18の11)も、水戸藩の「弘道館」にちなんだものである。
さらに、2015年4月25日付け朝日新聞において、「水戸市『世界めざす』日本遺産に旧弘道館など」の見出しの下、「『日本遺産』として文化庁が24日発表した18件の中に『近世日本の教育遺産群?学ぶ心・礼節の本源?』(水戸市、栃木県足利市、岡山県備前市、大分県日田市)が入った。水戸駅近くでは懸垂幕が設置され、水戸の梅大使らがPRちらしを配って認定を祝った。近世日本の教育遺産群は、日本最大規模の藩校『旧弘道館』がある水戸市、日本最古の学校『足利学校跡』がある足利市、庶民教育のための郷学『旧閑谷学校』がある備前市、日本最大規模の私塾『咸宜園跡』がある日田市が共同で申請していた。日本遺産は、地域の歴史や文化を国内外にアピールして地元の活性化をねらう国の新事業。地域に点在する有形、無形の文化財をひとまとまりにして日本の文化、伝統を語る『ストーリー』を認定する。藩校や郷学、私塾などの様々な学校の影響により、近代教育制度の導入前から、支配者層の武士だけでなく多くの庶民も読み書きや算術ができ、礼儀正しさを身に着けていた。この高い教育水準がいち早く近代化を達成した原動力になり、現代も学問・教育に力を入れ、礼節を重んじる国民性として受け継がれている??とのストーリーが申請ではまとめられていた。」の記事があり、2012年8月4日付け東京読売新聞において、「現代版・弘道館で学ぼう 水戸市が『リーダー育成事業』」の見出しの下、「学校や学年の垣根を超えて小中学生が集まり、切磋琢磨しながら発展的な学習に取り組む『次世代リーダー育成事業』を水戸市が今年度始めた。幕末の藩校・弘道館の21世紀版との位置づけで、市教委は『ここから世界で活躍する人材を輩出できれば』と期待している。」との記事がある。
3 「弘道館」の各種利用状況と指定役務との関係
茨城県や佐賀県が行っている各種講座の開催に係る教育事業は、本件商標の指定役務中、「知識又は技芸の教授,セミナーの企画・運営又は開催」に該当する。
4 本件商標の出願の経緯・目的・理由
被請求人は、本件商標の出願の目的・理由について、「弘道館名称のパブリシティを利用し本来の弘道館と全く異なる事業を行い、類似商標及び名称を用いることで社会を惑わし、売名行為、募金詐欺、悪質な収益などを行う団体の社会的悪用を防ぐためである」、「悪意ある名称利用を一番おそれ、商標登録し、歴史と伝統と日本の文化を守ろうとした」と主張している。
5 「弘道館」の語と商標権者との関係
上記1のとおり、水戸藩、佐賀藩、彦根藩等、「弘道館」を藩校等の名称として使用する藩が複数存在するところ、甲第20号証における「原告(審決注:被請求人のこと)も鍋島家との関係が一定ある」旨の記載及び被請求人の提出に係る証拠(乙6、乙8、乙12)によれば、被請求人は、佐賀藩の「弘道館」との関連性がうかがえるものの、江戸時代において、「藩校」、「学問所」を表す語として認識されていた「弘道館」の語との関連性は不明である。
6 商標法第4条第1項第7号該当性について
(1)歴史的・文化的・伝統的価値のある標章からなる商標について
商標の構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形に当たるものでなくても、商標の使用や登録が社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するような場合も商標法第4条1項第7号に該当し得るものである(甲3)。
歴史的・文化的・伝統的価値のある標章(以下「文化的所産等」という。)は、一般に、国家にとって重要な資産、資源であるばかりでなく、各地域にとっても、一つの地域資源、観光資源となり得るものであり、その名称や外観等を利用した地域興し等も盛んに行われているところである。そして、そのような文化的所産等には、その価値が認められ、国民や地域住民に親しまれており、その周知・著名性ゆえに強い顧客吸引力を有するものも多く存在する。
(2)本件商標の商標法第4条第1項第7号該当性について
前記1ないし5からすれば、「弘道館」は、各種事典において、「水戸藩の藩校。1841年、藩主徳川斉昭の創設。水戸学の中心として尊王攘夷論者を多数生んだ。」(大辞林第三版)のように記載されているとともに、「佐賀藩・彦根藩などの藩校の名。」(精選版日本国語大辞典)のようにも記載されている。また、「近世藩制・藩校大事典」において、「弘道館」の名称の藩校は、佐賀県の佐賀藩、茨城県の水戸藩、谷田部藩、新潟県の黒川藩、滋賀県の彦根藩、兵庫県の出石藩、広島県の福山藩に存在し、青森県の弘前藩、茨城県の水戸藩、愛知県の名古屋藩(尾張藩)は江戸藩邸内に、「弘道館」を設けており、福岡県の柳川藩に「弘道館」という学問所があったことが記載されている。
そして、茨城県や佐賀県では、上述のとおり、実際に、「弘道館」の名の下、県等による各種講座の開催に係る教育事業が行われており、また、学習教材の一つとしての利用や観光資源としても利用されているものであって、さらに、水戸藩の「弘道館」は、日本遺産として認定されているものであることからすれば、「弘道館」は、歴史的な価値を有する施設の名称として、茨城県や佐賀県を始め、我が国の国民や地域住民に親しまれており、文化的所産等として周知・著名なものといえ、茨城県や佐賀県における教育事業、観光事業において、「弘道館」の名称は、大きな役割を果たしているということができる。
また、茨城県や佐賀県が行っている各種講座の開催に係る教育事業は、本件商標の指定役務中、「知識又は技芸の教授,セミナーの企画・運営又は開催」に該当するものである。
一方、被請求人は、佐賀藩の「弘道館」との関連性はうかがえるものの、江戸時代において、「藩校」、「学問所」を表す語として認識されていた「弘道館」の語との関連性は不明である。
以上のように、「弘道館」は、藩制下においては、藩校・学問所を表し、特に、水戸藩や佐賀藩の「弘道館」は広く知られており、現代では、その意を引き継いで、学習教材の一つや観光資源として利用されるとともに、実際に、「弘道館」の名の下、茨城県や佐賀県等による各種講座の開催に係る教育事業等の公益的事業において、歴史的価値を有する語として使用されていることがうかがえるものである。
そうすると、公益的事業において歴史的価値を有する語として使用・認識されている「弘道館」の文字よりなる本件商標を、一私人が自己の商標として登録し、独占的に使用することは、前述のような「弘道館」の名称を活用した教育事業や観光振興等の公益的事業の遂行を阻害するおそれがあるものというのが相当である。
また、商標権は、専用権であるとともに、第三者に対する禁止権でもあることからすれば、前述のように、歴史的価値を有する語として使用・認識されている「弘道館」の文字よりなる本件商標を、商標として採択し、これを、特定の者に、商標権として商標登録を認めることは、地方公共団体等が行っている公益的な活動に伴う各種役務への「弘道館」の名称の使用を制限することとなる。そして、現に、被請求人は、佐賀県(請求人)の行う公益的な活動に関して、本件商標を基に侵害訴訟を提起した事実がある(甲20?甲22)。
してみれば、「弘道館」の文字よりなる本件商標を、一私人が「知識又は技芸の教授,セミナーの企画・運営又は開催」等の役務について登録し、独占的に使用することは、公正な競業秩序を害するものであって、社会公共の利益に反するものといわざるを得ない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
7 被請求人の主張について
(1)被請求人は、答弁書において、「請求人が『弘道館2』を実行する前から、佐賀城にてCSO提案型協働創出事業を行うという形で、請求人と被請求人は共同事業を進めていたところ、知事の交代後、当該共同事業は一方的に悪用され、無断破棄された」旨主張し、請求人こそが、社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する行為を行っている旨主張している。
そこで、被請求人の提出に係る証拠について検討するに、平成21年7月の「佐賀県『CSO提案型協働創出事業』提案募集要領」(乙2)には、「1 提案募集について」中に「(2)提案者/提案者は、提案内容の実施者となり得る者としますが、その他の者が提案する場合は、提案内容が実効性のあるものに限ります。」、「(3)募集する提案/この事業は、現行の業務をそのまま引き受ける委託先を募集するものではありません。現行の業務内容をベースに、住民満足度を高めるためによりふさわしい公共サービスの担い手及びサービス提供の手法について、CSOと意見交換を行い、業務の見直しや新たな業務の創出、担い手の多様化を図るものです。このため、県に対する提案の採択事業の実施に当たって、委託等の受託者等の選定は、総合評価一般競争入札や公募によるコンペ方式・プロポーザル方式など公平な手法により行うこととします。」、「(5)提案の方法/1(数字は丸で囲まれている。)県へ提案の場合/別紙の様式1(県業務の担い手のあり方についての提案書)及び様式3(中略)9月7日(月)までに提出してください。」、「(9)提案後の協議及び協議後の判断基準/提案書提出後、提案者と県・市町の担当課との間で提案内容に関する協議を行っていただきます。この場合、男女参画・県民協働課や市町の協働担当部署、中間支援組織が、協議の場に同席する等、積極的に調整を行います。(中略)協議の結果、採択の場合の類型と不採択の場合の判断基準については、次のとおりです。」、「(11)スケジュール(中略)2(数字は丸で囲まれている。)提案募集/提案募集期間・事業に関する質疑期間/・期間:平成21年7月28日(火)から平成21年9月7日(月)まで(中略)提案に基づく協議(中略)5 判断結果の通知及び公表/・期日:平成21年12月上旬予定」の記載があり、「様式1 県業務の担い手のあり方についての提案書」には、「平成21年8月17日」の日付の記載、「佐賀県御中」として、「団体名」欄に「弘道館」、「代表者 氏名」欄に被請求人の氏名の記載があり、「提案対象事業」の「事業名」欄に「弘道館復活事業」、「提案内容」欄に「1 佐賀城において体験型学習の提案/2.弘道館の展示物だけでなく弘道館で当時学んでいた四書五経などを実際に学べる。/3.イベントで提携する大学院から講師の派遣などが可能/4.大学院レベルの学術的な教育が可能」、「役割分担」欄に「(提案者)伝統文化を主体とした学習プログラムの提供/(県)広報、佐賀城を主とした場所の提供」の記載がある。
しかしながら、被請求人が「CSO提案型協働創出事業」に関し、「県業務の担い手のあり方についての提案書」(乙2)を請求人に対して提出したことはうかがえるとしても、その後、被請求人の提案が採択され、請求人との間で当該事業に係る契約書を交わしたという事実を裏付ける署名押印のある契約書及び被請求人が提出したと主張する企画書の控え等の証拠は見いだせない。
この点に関し、被請求人は、「契約書は、県の指示で未決定事項を空白にしてメール送付の上、会議当日署名押印をして企画書とともに提出した。」と主張しているが、会議当日、契約書に署名押印の上、契約を交わしたのであれば、契約者の双方が署名押印した控えを手元に持っているというのが自然であるし、企画書の控え等が提出されていないことから、「請求人のイベントが既に提出した被請求人の企画と同じ内容である」旨の被請求人の主張についても判断することができない。
また、「佐賀県『CSO提案型協働創出事業』提案募集要領」(乙2)によれば、提案後の協議の結果、提案の採否が判断され、その判断結果の通知及び公表は、平成21年12月上旬予定とされている。
そして、被請求人が佐賀県との共同事業になった証拠であると主張するメール(乙1、乙3)の文面からは、(平成21年)8月17日に、被請求人が佐賀県の担当者と面会予定であることはうかがえるものの、具体的にどのような趣旨の会議を行ったのかを把握することはできない。
してみれば、「佐賀県『CSO提案型協働創出事業』提案募集要領」(乙2)と上記メールの内容を併せてみても、また、平成21年8月17日に被請求人が佐賀県の担当者と面会していたとしても、この時点で被請求人と佐賀県の間で当該事業に係る契約が締結されたということまでは確認できない。
そうすると、被請求人が主張する、請求人との間の「弘道館」に係る共同事業に関する契約の存在を、客観的な証拠に基づいて認めることはできず、当該契約を前提とする被請求人の種々の主張を採用することはできない。
(2)被請求人は、請求人との間における「弘道館」に係る種々の問題について、自己の正当性を主張するとともに、証拠を提出している。
しかしながら、被請求人が提出した証拠からは、被請求人が行っていると主張するセミナーの開催事実等を客観的に見いだすことはできず、被請求人が行っていると主張する「弘道館」に係る事業の実態を把握することはできない。
また、被請求人が主張する請求人からの妨害等を裏付ける客観的な証拠は見いだせない。
そして、本件審判は、本件商標が無効理由を有するものであるか否かを判断すべきものであるところ、「弘道館」は、上記6(2)のとおり、藩制下においては、藩校・学問所を表すものであり、また、佐賀藩のみでなく、水戸藩の「弘道館」も広く知られており、現代では、その意を引き継いで、学習教材の一つや観光資源として利用されるとともに、実際に、「弘道館」の名の下、茨城県等による各種講座の開催に係る教育事業等の公益的事業において、歴史的価値を有する語として使用されていることがうかがえるものであるから、公益的事業において歴史的価値を有する語として使用・認識されている「弘道館」の文字よりなる本件商標を、たとえ、被請求人が佐賀藩の「弘道館」との関連性がうかがえる者であるとしても、一私人が自己の商標として登録し、独占的に使用することは、「弘道館」の名称を活用した教育事業や観光振興等の茨城県等が行う公益的事業の遂行を阻害するおそれがあるといわざるを得ない。
また、商標権は、専用権であるとともに、第三者に対する禁止権でもあることからすれば、歴史的価値を有する語として使用・認識されている「弘道館」の文字よりなる本件商標を、商標として採択し、これを、特定の者に、商標権として商標登録を認めること自体が、さきに述べたとおり、地方公共団体等が行っている公益的な活動に伴う各種役務への「弘道館」の名称の使用を制限することとなる。
したがって、被請求人のかかる主張も採用することはできない。
8 まとめ
以上のとおり、本件商標は、公正な競業秩序を害するものであり、社会公共の利益に反するものであって、商標法第4条第1項第7号に該当し、その登録は、同条第1項の規定に違反してされたものであるから、同法第46条第1項の規定に基づき、その登録を無効とすべきである。
よって、結論のとおり決定する。

別掲
審理終結日 2021-03-31 
結審通知日 2021-04-05 
審決日 2021-04-26 
出願番号 商願2012-106593(T2012-106593) 
審決分類 T 1 11・ 22- Z (W41)
最終処分 成立  
前審関与審査官 海老名 友子 
特許庁審判長 中束 としえ
特許庁審判官 冨澤 美加
杉本 克治
登録日 2013-10-11 
登録番号 商標登録第5621361号(T5621361) 
商標の称呼 コードーカン、コードー 
代理人 市川 泰央 
代理人 藤▲崎▼ 純一 
代理人 安永 恵子 
代理人 松尾 憲一郎 
代理人 安永 宏 
代理人 森 公照 
代理人 安永 治郎 

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