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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W43
管理番号 1375126 
審判番号 取消2018-300846 
総通号数 259 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2021-07-30 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2018-11-08 
確定日 2021-06-03 
事件の表示 上記当事者間の登録第5763726号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5763726号商標の指定役務中、第43類「レストランにおける飲食物の提供,カフェテリアにおける飲食物の提供,バーにおける飲食物の提供,ケータリング(飲食物),飲食物の提供」についての商標登録を取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5763726号商標(以下「本件商標」という。)は、「CIPRIANI」の文字を標準文字で表してなり、平成24年7月11日に登録出願、第43類「ホテルにおける宿泊施設の提供,ホテルの予約の取次ぎ,レストランにおける飲食物の提供,カフェテリアにおける飲食物の提供,バーにおける飲食物の提供,ケータリング(飲食物),飲食物の提供,宿泊施設の提供,宿泊施設の提供の契約の媒介又は取次ぎ」を指定役務として、同27年5月15日に設定登録されたものである。
そして、本件審判請求の登録は、平成30年11月22日にされたものであり、この登録前3年以内の期間(平成27年11月22日?平成30年11月21日)を以下「要証期間」という。

第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証及び甲第2号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、その指定役務中、第43類「レストランにおける飲食物の提供,カフェテリアにおける飲食物の提供,バーにおける飲食物の提供,ケータリング(飲食物),飲食物の提供」(以下「取消請求役務」という。)について、継続して3年以上、日本国内において、使用された事実がない。
よって、上記取消請求役務に係る本件商標の登録は、商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきである。
2 答弁に対する弁駁
(1)本件商標の使用者について
被請求人は、「Belmond Management Limited(以下「ベルモンド・マネジメント社」という。)が本件商標の通常使用権を有している旨主張し、証拠(乙5?乙13、乙15?乙25)を提出しているが、ベルモンド・マネジメント社が、本件商標の使用に関し、被請求人から許諾を受けていたとはいえず、当該事実を示す契約書等の証拠の提出もないから、通常使用権の存在を証明したことにはならない。
したがって、被請求人とベルモンド・マネジメント社の関係が明らかにされていない以上、被請求人の提出するベルモンド・マネジメント社のウェブサイト写し(乙2?乙13、乙19?乙22の2)は、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者による、本件商標の使用証拠としての証拠力を有しない。
(2)本件商標と社会通念上同一の商標の使用について
被請求人は、「BELMOND HOTEL CIPRIANI」(以下「使用商標1」という。)、「BELMOND/HOTEL CIPRIANI(二段併記)」(以下「使用商標2」という。)及び「World-class restaurants in Venice/Belmond Hotel Cipriani(二段併記)」(以下「使用商標3」という。)について、「BELMOND」は、被請求人が所属するグループ名を、「HOTEL」は、被請求人の業種を表したにすぎないため、「CIPRIANI(Cipriani)」部分が分離して観察され、単独で識別機能を発揮するため、使用商標1ないし使用商標3は、本件商標と社会通念上同一と認められる旨述べている(以下「使用商標1」、「使用商標2」及び「使用商標3」をまとめていうときは、「使用商標」という。)。
使用商標は、本件商標を含んではいるものの、「BELMOND HOTEL CIPRIANI」又は「HOTEL CIPRIANI」の態様のごとく、本件商標のみが単独では使用されていない。加えて、使用商標1及び使用商標2は、同書・同大・同間隔で書されて外観上まとまりよく、いずれも一連一体の態様にて使用されており、語尾に配されている「CIPRIANI」部分のみをわざわざ抽出することは考え難い。
また、使用商標が、取消請求役務に使用されているとしても、同役務との関係においては、「BELMOND」又は「HOTEL」の語は識別力が低いとはいえず、「CIPRIANI」部分のみが分離観察され、単独で抽出されるべき特段の事情は見受けられない。
したがって、使用商標のうちのグループ名を表す部分と業種を表す部分を抽出した上で「CIPRIANI」部分のみを分離して観察するとの手法は採用し得ず、使用商標は本件商標と社会通念上同一の商標とは認められない。
(3)被請求人が使用している商標及び役務の関係について
被請求人は、本件商標が取消請求役務中、少なくとも「レストランにおける飲食物の提供,飲食物の提供」について、要証期間内に日本国内において使用されている旨述べている。
しかし、被請求人の主張によると、ベルモンド・マネジメント社が宿泊施設の名称として使用しているのが「BELMOND HOTEL CIPRIANI」であり、当該ホテル内のレストランの名称として「CIP’S CLUB(チップス・クラブ)」、「ORO RESTAURANT(オロ・レストラン)」及び「GIUDECCA10(ジュデッカ10)」を挙げている(乙1、乙5、乙15?乙19、乙23)。
つまり、「レストランにおける飲食物の提供,飲食物の提供」について使用されているのは、本件商標とは全く別の商標であるレストラン名「CIP’S CLUB(チップス・クラブ)」、「ORO RESTAURANT(オロ・レストラン)」及び「GIUDECCA10(ジュデッカ10)」と捉えるのが自然であり、それら商標と本件商標とは社会通念上同一とは認められない。
また、宿泊施設の名称として使用している「BELMOND HOTEL CIPRIANI」も本件商標と社会通念上同一とは認められない。
(4)役務が提供されている国について
被請求人は、本件商標が取消請求役務中、少なくとも「レストランにおける飲食物の提供,飲食物の提供」について、要証期間内に日本国内において使用されている旨述べている。被請求人は、ベルモンド・マネジメント社の提供する宿泊施設のウェブサイト中、トップページ(乙5)及び「ベルモンドホテルお客様予約条件」(乙13)が日本語で入手でき、日本語で問合せもできるようになっていることから(乙22の1、乙22の2)、ベルモンド・マネジメント社が、日本の需要者に向けて被請求人の取消請求役務に関する広告及び当該役務の予約フォームに本件商標と社会通念上同一と認められる商標を付して電磁的方法により提供していた(商標法第2条第3項第8号)と主張する。
しかし、そもそも、取消請求役務は、「レストランにおける飲食物の提供,カフェテリアにおける飲食物の提供,バーにおける飲食物の提供,ケータリング(飲食物),飲食物の提供」であるところ、ベルモンド・マネジメント社が提供する上記ホテル内にあるレストランを予約するためのウェブサイトは英語のみであり、日本語は記載されていない。
なお、ベルモンド・マネジメント社の提供する宿泊施設について、日本の需要者が日本から直接予約等ができたとしても、そのことにより、当該宿泊施設に係る商標が日本において使用されたことにはならない。
このような世界中から観光客が訪れる宿泊施設は、通信技術の発達により、世界中から事前にインターネットにて宿泊予約するのが一般的であり、言語面である程度予約がしやすいように配慮されているのも一般的なことである。
しかし、実際の宿泊施設はイタリアのベネチアにあり、世界中から観光客がその地に足を運ぶことで、宿泊する際にベルモンド・マネジメントの提供するサービスを受けることができる。
また、昨今、インターネットによる商品の通信販売において、例えば、外国のウェブサイトに日本からアクセスして商品を注文し、日本の通貨で支払いを行い、商品自体も日本の自宅に届けられるような場合には、日本における商標の使用と認められる場合もあるものと考えられる。
実際、インターネットにより提供される役務について、我が国における商標の使用と認められなかった事例において、「外国で商取引される役務情報を掲載したホームページの場合には、該ホームページに掲載されている役務が我が国の領域内において商取引されるという事実が客観的に認められるなどの格別の事情が存しない限り、その役務の商標は、我が国においてはその機能を発揮し得ず、その商標権の効力も及ばないと解さざるを得ない」(甲2)とされている。
このような判断基準を踏まえて本件について検討すると、利用者の利便性向上のため事前に日本からでも宿泊予約はできたとしても、実際の宿泊は利用者がイタリアに渡航した際に行われ、そこで役務の提供がされる。
よって、我が国において取消請求役務が提供されたと認められる客観的事実は存在しない。
以上のことから、被請求人は、本件商標が取消請求役務について日本で使用されたことを明らかにしていない。

第3 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第35号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求に対する答弁
(1)本件商標は、被請求人の通常使用権者であるベルモンド・マネジメント社によって、取消請求役務中、少なくとも「レストランにおける飲食物の提供,飲食物の提供」について、要証期間に日本国内において使用されている。したがって、本件商標は、取消請求役務について、その登録が取り消されるべきではない。
(2)「Hotel Cipriani」の背景
イタリア国ベニスのホテル「Hotel Cipriani(ホテル・チプリアーニ)」は、ベニスを象徴するバー「Harry’s Bar(ハリーズ・バー)」のオーナーでもあったジュゼッペ・チプリアーニ氏によって建てられ、1958年にホテルサービス及びレストランサービスの提供を開始して以来、現在に至るまで継続して営業されている(乙1)。
当該ホテルは、いわゆる高級ホテルに属するものであり、約60年間にわたり、世界中の資産家、貴族、俳優等のセレブリティを始めとする多くの顧客に利用されてきた。
被請求人は、当該ホテルのオーナーであり、当該ホテルが、1976年に、Orient-Express Hotels Ltd.(オリエント・エクスプレス・ホテルズ・リミテッド)に買収され、2014年に、同社が「Belmond Ltd.」(以下「ベルモンド社」という。)と名称を変更してからは、ベルモンド・グループの一員としてその傘下において、現在に至るまで当該ホテルのオーナーである(乙2?乙4)。
2014年以来、当該ホテルが「ベルモンド・グループ」に属することを示す「BELMOND」の文字をホテル名に加え、「BELMOND HOTEL CIPRIANI」という名称で営業している。
(3)取消請求役務に関する本件商標の使用について
ア 当該ホテルは、そのホテル内に複数のレストランを所有しており、当該ホテル内の主なレストランとして、「CIP’S CLUB(チップス・クラブ)」、「ORO RESTAURANT(オロ・レストラン)」及び「GIUDECCAl0(ジュデッカ10)」が挙げられる(乙1、乙5、乙15?乙19、乙23)。
イ 乙第5号証ないし乙第12号証のウェブサイトにおける使用について
(ア)乙第5号証ないし乙第12号証は、ベルモンド・マネジメント社が提供する「BELMOND HOTEL CIPRIANI」の宿泊施設及び当該ホテル内のレストランを予約するためのウェブサイト(以下、乙5?乙12をまとめていうときは「本件ウェブサイト1」という。)であり、ベルモンド・マネジメント社とは、ベルモンド社を親会社とするベルモンド・グループの一つである(乙13)。
本件ウェブサイト1からホテル及びレストランを予約する場合の流れは、まず、日本語で記載されたトップページ(乙5)が表示され、利用を希望する日にちを入力すると、宿泊する部屋を選ぶ画面(乙6)が表示される。当該画面で部屋を選ぶと、昼食又は夕食を申し込める画面(乙7)が表示される。当該画面でいずれかのプランを選択すると、乙第8号証の画面へと進み、当該画面をスキップすると、乙第9号証で示す画面が表示される。そして、乙第9号証で示すウェブサイト中「Experiences」の欄をクリックすると、美術館のチケット、「CIP’S CLUBレストラン」での夕食、「OROレストラン」での夕食、ボートツアーの申込みができる画面が表示され(乙10の1?乙10の3)、乙第10号証の1の画面から、例えば、「CIP’S CLUBレストラン」での夕食を申し込むと、乙第11号証で示す画面が表示され、その次に、連絡先及び決済手段を入力する画面(乙12)が表示される。
また、当該連絡先入力画面(乙12)の下方の「Terms and conditions」欄のリンクをクリックすると、日本語で記載された「ベルモンドホテルお客様予約条件」(乙13)を入手することが可能である。
(イ)本件ウェブサイト1中、乙第5号証の上方左には、使用商標1が、本件ウェブサイト1中、乙第6号証ないし乙第12号証の上方中央には、使用商標2が付されている。
「BELMOND」は、被請求人が所属するグループ名を、「HOTEL」は、被請求人の業種を表したにすぎず、使用商標1及び使用商標2中「CIPRIANI」部分は、分離して観察され、単独で識別機能を発揮する。 したがって、使用商標1及び使用商標2は、本件商標と社会通念上同一と認められる商標である。
(ウ)我が国の消費者は、本件ウェブサイト1から直接、「レストラン」の予約をすることが可能であり、本件ウェブサイト1は、トップページ(乙5)及び予約条件(乙13)が日本語で記載されていることからも、我が国の消費者における取消請求役務の提供促進及び我が国の消費者から直接予約を受けることを目的としたものであることは明らかである。
(エ)乙第15号証ないし乙第18号証は、米国の非営利団体であるインターネットアーカイブが収集したウェブサイトを閲覧できる「Wayback machine」(乙14の1、乙14の2)に本件ウェブサイト1のトップページ(乙5)のURLを入力し検索した結果であり、平成28年(2016年)3月25日(乙15)、同年7月3日(乙16)、同29年(2017年)6月8日(乙17)、同30年(2018年)9月27日(乙18)に、本件ウェブサイト1が存在し、かつ、当該ウェブサイト上で本件商標と社会通念上同一と認められる商標が使用されていたことを示すものである。
(オ)以上より、通常使用権者であるベルモンド・マネジメント社は、要証期間内に、本件ウェブサイト1において、日本の需要者に向けて被請求人の取消請求役務に関する広告及び当該役務の予約フォームに本件商標と社会通念上同一と認められる商標を付して電磁的方法により提供していたものである(商標法第2条第3項第8号)。
ウ 乙第19号証ないし乙第21号証について
(ア)乙第19号証ないし乙第21号証は、ベルモンド・マネジメント社が提供する上記ホテル内にあるレストランを予約するためのウェブサイト(以下、乙19?乙21のウェブサイトをまとめていうときは、「本件ウェブサイト2」という。)である。本件ウェブサイト2からレストランを予約する場合の流れは、まず、トップページ(乙19)が表示され、予約したいレストランを選択すると、日時を選択する画面(乙20)に進み、日時を選択した後、連絡先を入力する画面(乙21)が表示される。
(イ)本件ウェブサイト2の左上方には、「使用商標3」が付されている。
使用商標3中「BELMOND」は、被請求人が所属するグループ名を、「HOTEL」は、被請求人の業種を表したにすぎず、使用商標3中「Cipriani」部分は分離して観察され、単独で識別機能を発揮する。
したがって、使用商標3は、本件商標と社会通念上同一と認められる商標である。
(ウ)本件ウェブサイト2は、日本語ではなく英語で記載されているが、英語を母国語としない者でも理解できるよう、できる限り平易な英語を用いて表記されている。また、ベルモンド・マネジメント社が提供する問い合わせ用フォーム(乙22の1、乙22の2)を利用して、レストランの予約に関し、ベルモンド・マネジメント社及び被請求人に問い合わせを行うことが可能であり、当該問い合わせフォーム(乙22の2)は日本語で記載されている。
なお、乙第22号証の1の第1頁の上方に赤字で表された「お問い合わせフォーム」をクリックすると、乙第22号証の2が表示されるという仕組みとなっている(以下、乙22の1、乙22の2で示すウェブサイトを「問い合わせ用ウェブサイト」という。)。
そもそも、海外に存在するレストランを旅行会社を通すことなく直接予約するような消費者は、海外旅行に慣れ親しみ、一定の英語力を有しているものであり、被請求人の本件ウェブサイト2も、そのような海外旅行に慣れ親しんだ日本人を主な顧客対象としているから、本件ウェブサイト2が英語で記載されているからといって、日本の消費者を対象にしていないとはいえない。本件ウェブサイト2を通じて日本から予約可能である点や、日本語のお問い合わせフォーム(乙22の2)が存在することにかんがみると、本件ウェブサイト2も我が国の消費者における取消請求役務の提供促進及び我が国の消費者から直接予約を受けることを目的としているものであるといえる。
(エ)「Wayback machine」(乙14の1、乙14の2)に本件ウェブサイト2のトップページ(乙19)のURLと問い合わせ用ウェブサイト(乙22の1)のURLを入力し検索した結果(乙23?乙25)は、平成30年(2018年)8月13日に本件ウェブサイト2が存在しており、かつ、当該ウェブサイト上で本件商標と社会通念上同一と認められる商標が使用されていたことを示すものであり(乙23)、同28年(2016年)4月28日(乙24)、同29年(2017年)5月3日(乙25)に、問い合わせ用ウェブサイトが存在していたことを示すものである。
(オ)以上より、通常使用権者であるベルモンド・マネジメント社は、要証期間内に、本件ウェブサイト2において、日本の需要者に向けて被請求人の取消請求役務に関する広告及び当該役務の予約フォームに本件商標と社会通念上同一と認められる商標を付して電磁的方法により提供していた(商標法第2条第3項第8号)。
通常使用権について
本件ウェブサイト1、本件ウェブサイト2及び問い合わせ用ウェブサイトのいずれの下方にも「当該ウェブサイト上の全てのロゴ、デザイン等における全ての著作権及び知的財産権は、ベルモンド・マネジメント社によって所有されているか、関連する所有者の許諾の下、表示されている」旨の英文の記述があり(乙5?乙13、乙15?乙25)、ベルモンド・マネジメント社が、本件商標の使用に関し、被請求人から許諾を受けていたことは明らかである。
2 弁駁に対する答弁
(1)本件商標の使用者について
被請求人とベルモンド・マネジメント社は、その親会社であるベルモンド社を共通とする姉妹会社であり、ベルモンド社が米国証券取引委員会(SEC)に提出した書類に、ベルモンド社の子会社として、ベルモンド・マネジメント社と被請求人の旧名称であるホテル チプリアーニ エスアールエルが記載されている(乙26、別紙21)。両社の関係、並びに、本件ウェブサイト1、本件ウェブサイト2及び問い合わせ用ウェブサイト(乙5?乙13、乙15?乙25)の下方に記載された「当該ウェブサイト上の全てのロゴ、デザイン等における全ての著作権及び知的財産権は、ベルモンド・マネジメント社によって所有されているか、関連する所有者の許諾の下、表示されている」旨の英語の記述にかんがみると、本件商標の使用に関し、被請求人がその姉妹会社であるベルモンド・マネジメント社に黙示の使用許諾を与えていたことは明らかである。
(2)被請求人が使用している商標及び役務の関係について
請求人は、「BELMOND HOTEL CIPRIANI」は、宿泊施設の名称としてのみ使用されており、「レストランにおける飲食物の提供、飲食物の提供」について使用されているのは、「CIP’S CLUB」等であると主張する。
しかしながら、本件ウェブサイト1中、乙第6号証及び乙第7号証には、「All STAYS INCLUDE・・・Daily buffet breakfast(抄訳:「・・・毎日のセルフサービス式の朝食を含みます。」)とのみ記載され、個別のレストラン名は記載されていないから、少なくとも使用商標2の下で「飲食物の提供」の役務が行われていることは明らかである。
また、被請求人の宿泊施設内のレストランに「CIP’S CLUB」等の別の名称がつけられている場合であっても、そのことから直ちに、使用商標が取消請求役務に使用されていないということにはならない。
(3)本件商標と社会通念上同一の商標の使用について
請求人は、使用商標は、「CIPRIANI」部分のみが単独で自他役務の識別標識としての機能を果たしているとはいえず、これらは本件商標と社会通念上同一の商標とは認められない旨述べている。
しかしながら、過去の審決及び判決によると、結合商標の全ての構成要素が同書・同大に表されている場合も含め、その構成要素の一部が自他商品・役務識別標識として機能しない場合には、当該部分を捨象した上で登録商標と使用に係る商標の同一性が判断されており(乙28?乙33)、過去の審決において、「HOTEL」の文字について自他商品識別標識として機能していない旨判断されている(乙34、乙35)。同様に、ホテル(宿泊施設)内には、複数のレストランが入ることが一般的であるという実情にかんがみると、「飲食物の提供」との関係においても、「HOTEL」の文字部分は、役務を提供する場所を表したものと理解されるにすぎず、自他役務識別機能を発揮しないため、当該部分は、商標の同一性を判断する際に捨象されるべきである。
このように、「飲食物の提供」との関係でも「HOTEL」の文字に識別力がなく、かつ、使用商標中「HOTEL」と「CIPRIANI」の文字の間にはスペースがあることから、「CIPRIANI」部分が単独で識別機能を発揮することは明らかであり、使用商標は本件商標と社会通念上同一と認められる商標である。
(4)役務が提供されている国について
平成13年(2001年)に世界知的所有権機関(WIPO)が採択した「インターネット上の商標及びその他の標識に係る工業所有権の保護に関する共同勧告」(乙27)の第2条(メンバー国におけるインターネット上の標識の使用)に「インターネット上の標識の使用は、その使用が、第3条で書かれているようにメンバー国で商業的効果を有する場合に限り、これらの規定の適用上、当該メンバー国における使用を構成する。」と規定されており、第3条(メンバー国における商業的効果を決定するための要因)において、「(1)[要因]インターネット上の標識の使用がメンバー国において商業的効果を有するか否かを決定するに当たっては、権限ある当局はすべての関連する状況を考慮する。関連され得る状況は、以下を含むが限定されない」とされており、関連され得る状況として、「(b)そのメンバー国に関しての使用者の商業活動の程度及び特色(以下を含む):(i)その使用者が、実際にそのメンバー国に所在する顧客に提供しているか否か、又はそのメンバー国に所在する者と他の商業的に動機付けられた関係を結んでいるか否か;(ii)その使用者がウェブサイト上でオファーしている商品・サービスをそのメンバー国に所在する顧客に対して提供する意図のない旨を、インターネット上における標識の使用と共に表示しているか否か、そして使用者がその表示した意図を厳守しているか否か」が挙げられている。
ベルモンド・マネジメント社は、「飲食物の提供」に関し日本語で書かれたウェブサイト、予約条件に関する取引書類及び問い合わせフォーム(乙5、乙13、乙15?乙18、乙22の1、乙22の2、乙24、乙25)を提供しているのに加え、本件ウェブサイト1及び本件ウェブサイト2において、日本在住の顧客を役務提供の対象外とする旨明記していない。したがって、本件ウェブサイト1及び本件ウェブサイト2、ひいては被請求人の「飲食物の提供」の役務が日本在住の顧客を対象としていることは明らかであり、本件ウェブサイト1及び本件ウェブサイト2を通じて取消請求役務の予約を行い、現に、当該役務が日本在住の顧客に提供されてきた。
請求人は、本件ウェブサイト2が英語のみで記載されていることを、日本の消費者を対象にしていないことの根拠として述べているが、本件ウェブサイト2に関して日本語で書かれた予約条件に関する取引書類及び問い合わせフォームが用意されていることからも、本件ウェブサイト2が日本の消費者を対象としていることは明白である。また、乙第5号証、乙第15号証ないし乙第18号証も「飲食物の提供」についての使用に係るものであり、当該ウェブサイトが日本語で記載されていることからも日本の消費者を対象としていることは明白である。
請求人は、英語サイトをもってして日本国内での使用と捉えたとすれば、全世界に多数存在する英語のウェブサイトでの使用を、日本国内での使用と認めることになってしまい不当であると述べている。
しかしながら、被請求人による商標の使用は、英語のウェブサイトではあるものの、日本の顧客を対象としていることが明らかなウェブサイトでの使用である。仮にこのような使用を日本における商標の使用でないとするならば、ある商標についてある者が商標登録を有していても、英語のウェブサイトであれば、第三者はその商標を自由に使えることになってしまう。この状態の方がむしろ、商標権者に対し不測の不利益を与えかねない。グローバル化が進む現代においては、外国企業との取引に際し英語が使用されることは一般的であるし、日本の顧客を対象とすることが明らかなウェブサイトは、我が国に所在する顧客に役務を提供するためのものであり、我が国において商業的効果を有するものである。そもそも、このようなウェブサイトにおける使用を我が国における使用と認めないことは、上記のWIPOの共同勧告に違反するものであり、国際的にも問題となりかねない。
(5)以上のとおり、本件ウェブサイト1及び本件ウェブサイト2は、日本の需要者を対象とするものであり、通常使用権者であるベルモンド・マネジメント社は、日本において、取消請求役務に関する広告及び当該役務の予約フォームに本件商標と社会通念上同一と認められる商標を付して電磁的方法により提供していた。

第4 当審の判断
1 認定事実
(1)被請求人の提出に係る乙各号証及び被請求人の主張によれば、以下のとおりである。
ア 乙第1号証は、被請求人がシャロン・イボットソン氏によるホテルの論評の写しと主張するものであり、第1頁に「Hotel Review:Belmond Cipriani Hotel,Venice(抄訳:「ホテルの論評:ベニスのベルモンド・チプリアーニ・ホテル」)の見出しの下、「Jan 1,2016」の日付の記載があり、「Built in 1958」(抄訳:「(ベルモンド・チプリアーニ・ホテルは、)・・・1958年に建てられ・・・」)の記載、第3頁に「Food and Drink」(抄訳:「食事及び飲み物」)として、「Dining at the Belmond Cipriani offers・・・Eat at the・・・Oro restaurant or at the・・・Cip’s Club」(抄訳:「ベルモンド・チプリアーニの食事は、・・・オロ・レストラン、又は・・・チップス・クラブで食事してください。」)の記載と共に、レストランとおぼしき写真が掲載され、当該写真の左下に「Belmond」(「Belmond」の文字の前には、Copyrightを示す記号が付されている。以下同じ。)の記載がある。
イ 乙第2号証は、被請求人が「ベルモンド社」のウェブサイトの写しと主張するものであり、第1頁にベルモンド社の設立者が、1976年にベルモンド・ホテル・チプリアーニを買収し、同社がベルモンド・チプリアーニ・ホテルのマネジメント契約を進めていく旨の英文の記載があり、最終頁に「Belmond Public Relations」(抄訳:「ベルモンド広報」)の記載がある。
ウ 乙第3号証及び乙第4号証は、被請求人が「ベルモンド・マネジメント社」のウェブサイトの写しと主張するものであり、乙第3号証の第1頁に「ベルモンド コレクション」の見出しの下、「ベルモンドとは」として、ベルモンド社が46軒のラグジュアリーホテルを世界的に展開し、ベニスのベルモンドホテル・チプリアーニもその中の一つである旨の記載がある。
また、乙第4号証の第10頁に「ベニス/BELMOND HOTEL CIPRIANI」の記載がある。
エ 乙第5号証ないし乙第12号証は、被請求人が「ベルモンド・マネジメント社ホテル予約ウェブサイト」(本件ウェブサイト1)の写しと主張するものである。
(ア)乙第5号証の第1頁の画像の左下に使用商標1の表示があり、「オンライン予約に進む」、「ご予約」、「ゲストルーム」の記載があり、第2頁に「ダイニング・・・ベルモンド ホテル・チプリアーニでは、ベニス一流のお食事をお楽しみいただけます。」の記載、第3頁に「主な特徴」として、「ゲストルーム:客室とスイート96室/ダイニング:高級料理、屋外とプールサイドのレストラン、ワインバー」の記載、「お問合せ」として、「Belmond Hotel Cipriani」及び被請求人の住所の記載、「ベルモンド ホテル チプリアーニ」、「旅行者の最新の口コミ/2018/08/09:“朝食が美味しい”」の記載があり、最終頁に「当該ウェブサイト上の全てのロゴ、デザイン等における全ての著作権及び知的財産権は、ベルモンド・マネジメント社によって所有されているか、関連する所有者の許諾の下、表示されている」旨の英文の記載がある。
(イ)乙第6号証の第1頁の上部に使用商標2の表示、当該頁の下部に「ALL STAYS INCLUDE」、「Daily buffet breakfast」(抄訳:「全ての滞在は・・・毎日のセルフサービス式の朝食を含みます。」)の記載があり、「BOOKING SUMMARY」(抄訳:「予約一覧」)として、各種客室の種類と金額等の情報の記載と共に客室の写真が掲載され、予約者が希望の客室を選択できるようになっている。
また、第17頁に「CONTACT US」(抄訳:「連絡先」)として、「reservations.cip@belmond.com」というベルモンド・マネジメント社のものとおぼしきE-mailアドレス及び被請求人の住所の記載、最終頁に「当該ウェブサイト上の全てのロゴ、デザイン等における全ての著作権及び知的財産権は、ベルモンド・マネジメント社によって所有されているか、関連する所有者の許諾の下、表示されている」旨の英文の記載がある。
(ウ)乙第7号証の第1頁の上部に使用商標2の表示、その下に昼食又は夕食を申し込める旨の英文の記載がある。
(エ)乙第9号証の第1頁の上部に使用商標2の表示、その下に「Add additional services(抄訳:「追加のサービスを追加してください」)の記載がある。
(オ)乙第10号証の1の第1頁の上部に使用商標2の表示、第2頁に「DINNER AT OUR CIP’S CLUB RESTAURANT」(抄訳:「我々のCIP’S CLUB レストランでの夕食」)の記載がある。
乙10号証の2に「DINNER AT OUR CIP’S CLUB RESTAURANT」の記載と共に予約数と金額に関する英語の記載がある。
乙第10号証の3に「DINNER AT OUR ORO RESTAURANT」の記載と共に予約数と金額に関する英語の記載がある。
(カ)乙第11号証の第1頁の上部に使用商標2の表示、第2頁に「ADDED TO BOOKING」(抄訳:「予約に追加されました」)の記載がある。
(キ)乙第12号証の第1頁の上部に使用商標2の表示、当該頁に「Your details」(抄訳「あなたの詳細」)、第2頁に「Payment details」(抄訳:「支払いの詳細」)の記載があり、予約者が連絡先及び決裁手段を入力できるようになっているが、使用商標の表示はない。
オ 乙第15号証ないし乙第18号証は、被請求人が「Wayback machine」の検索結果の写しと主張するものであり、それぞれ第1頁上部に「2016年3月25日」(乙15)、「2016年7月3日」(乙16)、「2017年6月8日」(乙17)、「2018年9月27日」(乙18)の日付を表す表示、使用商標1の表示と共に乙第5号証の内容と同旨の記載がある。
カ 乙第19号証ないし乙第21号証は、被請求人が「ベルモンド・マネジメント社」レストラン予約ウェブサイト(本件ウェブサイト2)の写しと主張するものである。
(ア)乙第19号証の各頁の左上方に、使用商標3の表示、第1頁の中央に「DINING」(抄訳:「食事」)の記載、第2頁に「Request a Table」(抄訳:「お席の希望」)の記載があり、「Cip’s Club」、「Giudecca 10」、「Oro Restaurant」の中から、希望のレストランを選択できるようになっている。
また、最終頁に「CONTACT US」(抄訳:「連絡先」)として、「reservations.cip@belmond.com」というベルモンド・マネジメント社のものとおぼしきE-mailアドレス及び被請求人の住所の記載、「当該ウェブサイト上の全てのロゴ、デザイン等における全ての著作権及び知的財産権は、ベルモンド・マネジメント社によって所有されているか、関連する所有者の許諾の下、表示されている」旨の英文の記載がある。
(イ)乙第20号証の各頁の左上方に、使用商標3の表示、第1頁の中央に「DINING」(抄訳:「食事」)の記載があり、第3頁に、日付けを選択できる画面が表示されている。
(ウ)乙第21号証の各頁の左上方に、使用商標3の表示、第1頁の中央に「DINING」(抄訳:「食事」)の記載、第3頁に「Contact Details」(抄訳:「連絡先」)の記載がある。
キ 乙第22号証の1及び乙第22号証の2は、被請求人が「ベルモンド・マネジメント社」問い合わせ用ウェブサイトの写しと主張するものであり、乙第22号証の1の第1頁には「お問合せ」の見出しの下、「ご予約やご質問がございましたらご遠慮なくお問い合わせください。」の記載と共に、日本及び外国の予約センターの電話番号、E-mailアドレスが掲載されている。
乙第22号証の2に「お問合せ」の記載と共に日本語の予約者情報の入力フォームが表示されている。
ク 乙第23号証ないし乙第25号証は、被請求人が「Wayback machine」の検索結果の写しと主張するものであり、乙第23号証の第1頁の左上方に、使用商標3の表示、当該頁の中央上部に、使用商標2の表示及び2018年8月13日を表す表示と共に、乙第19号証の一部の記載と同旨の記載がある。
また、乙第24号証の第1頁の上部に2016年4月28日、乙第25号証の第1頁の上部に2017年5月3日の日付を表す表示と共に、乙第22号証の1の記載と同旨の記載がある。
ケ 乙第26号証は、被請求人が「ベルモンド社年次報告の写しと主張するものであり、第1頁の上部に「Belmond Ltd.-Annual Report-April 24,2019」(抄訳:ベルモンド・リミテッド-年次報告書-2019年4月24日)の記載があり、「EXHIBIT 21」(抄訳:「別紙21」)の第1頁に「SUBSIDIARIES OF BELMOND LTD.」(抄訳:「ベルモンドリミテッドの子会社」)の記載があり、第3頁に被請求人の旧名称とする「Hotel Cipriani S.r.l.」(抄訳:「ホテル チプリアーニ エスアールエル」)、「Belmond Manegement Limited.」(抄訳:「ベルモンド マネジメント リミテッド」)の記載がある。
2 判断
(1)使用商標について
本件商標は、上記第1のとおり、「CIPRIANI」の欧文字を標準文字で表してなるところ、「CIPRIANI(Cipriani)」の欧文字をその構成中に含む使用商標1及び使用商標2が、ベルモンド・マネジメント社ホテル予約ウェブサイトとする本件ウェブサイト1に、使用商標3がベルモンド・マネジメント社ホテルレストラン予約ウェブサイトとする本件ウェブサイト2に表示されているところ、使用商標3は、その構成中「World-class restaurants in Venice」の文字と「Belmond Hotel Cipriani」の文字とは、縦棒「|」で区切られている上、構成全体から生じる『ワールドクラスレストランツインベニスベルモンドホテルチプリアーニ』の称呼も冗長であるから、「Belmond Hotel Cipriani」の文字部分は、自他役務の識別標識としての機能を果たし得るというべきである。
また、「飲食物の提供」の役務との関係において、使用商標の構成中、「BELMOND(Belmond)」及び「HOTEL(Hotel)」の各文字は、要部でない附記的部分とはいえず、当該文字が、自他役務の識別標識としての機能を果たさないとみるべき事情も見いだせない。
そして、構成全体及び要部をもって「BELMOND HOTEL CIPRIANI(Belmond Hotel Cipriani)」という固有のホテル名(商号)を認識させる使用商標と「CIPRIANI」の文字のみからなる本件商標とは、明らかに異なるものである。
そうすると、固有のホテル名(商号)を表示した一連の商標と認識される使用商標と本件商標「CIPRIANI」とは社会通念上同一の商標と認めることはできない。
(2)使用者について
被請求人が、本件商標の通常使用権者と主張するベルモンド・マネジメント社が、自社のウェブサイトにおいて、ベルモンドホテル・チプリアーニの紹介を行っていること(乙3、乙4)、同社が、要証期間内である2016年3月25日ないし2018年9月27日に、使用商標1及び使用商標2が表示された、ホテルの客室及びレストランを予約できる本件ウェブサイト1(乙5?乙7、乙9の1?乙10の1、乙11、乙15?乙18)及び使用商標3が表示された、レストランを予約できる本件ウェブサイト2(乙19?乙21、乙23?乙25)を運営していることから、ベルモンド・マネジメント社がベルモンドホテル・チプリアーニの客室及びレストランの予約を請け負っていることが推認できる。
しかしながら、ベルモンド・マネジメント社が、本件商標の使用に係る許諾を受けている証拠の提出はなく、ベルモンド・マネジメント社が、被請求人と共にベルモンド社の子会社である旨の記載がある証拠(乙26)は、要証期間外の日付のものであり、ベルモンド・マネジメント社が要証期間において、本件商標の使用権者であると確認することはできない。
そうすると、被請求人の提出した証拠からは、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかによって、本件商標が使用されたと認めることはできない。
(3)使用役務について
ア 商標権は、国ごとに出願及び登録を経て権利として認められるものであり、属地主義の原則に支配され、その効力は当該国の領域内においてのみ認められるところから、外国法人である被請求人(商標権者)が商標を付して我が国外において役務「飲食物の提供」の提供をしている限りは、我が国の商標法の効力は及ばない結果、我が国の商標法の「使用」として認めることはできないというべきである。
そして、被請求人の提出した証拠からは、被請求人(商標権者)又は使用権者が我が国内において「飲食物の提供」の提供を行っているとは認められない上、当該役務が日本国外(イタリア)においてのみ提供されているものであることは明らかである。
イ 広告に商標が付されている場合には、特段の事情が認められない限り、同一の商標を表示して役務の提供が予定されていると推認するのが相当であるが、本件にあっては、上記アのとおり、その広告の対象である役務「飲食物の提供」は、日本国外(イタリア)においてのみ提供されることが明らかであるとの特段の事情が認められるものであり、上記(1)のとおり、使用商標と本件商標とは社会通念上同一の商標と認めることはできないものである。
したがって、外国で商標を付された商品が我が国内に流通するような場合とは異なり、その性質上からみて日本国内での役務の提供が困難なものであるから、ベルモンド・マネジメント社が広告に使用商標を付した行為をもって、日本国内での当該役務の提供を伴った行為が行われたと認めることはできない。
(4)小括
上記(1)ないし(3)のとおり、使用商標は、本件商標と社会通念上同一の商標とは認められない。
また、ベルモンド・マネジメント社が本件商標の使用権者であることは明らかでないことに加え、何より日本国内において、被請求人が業として「飲食物の提供」を行っていたとは認められず、広告の対象となる役務が存在していないといわざるを得ない。
その他、取消請求役務のいずれかについて、要証期間内に日本国内において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかによって使用されていたことを示す証拠の提出はない。
したがって、要証期間内に日本国内において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが、取消請求役務について、本件商標を使用していたことを認めることはできない。
3 被請求人の主張について
被請求人は、世界知的所有権機関(WIPO)が採択した「インターネット上の商標及びその他の標識に係る工業所有権の保護に関する共同勧告」(乙27)を挙げると共に、当該勧告の要件に照らせば、ベルモンド・マネジメント社が提供する日本語で記載された内容を含む本件ウェブサイト1及び本件ウェブサイト2は、我が国に所在する顧客に役務を提供するためのものであり、現に日本在住の顧客に提供されてきた旨主張している。
しかしながら、ベルモンド・マネジメント社が、要証期間内に本件ウェブサイト1及び本件ウェブサイト2を通じて、日本の顧客を対象として「飲食物の提供」の範ちゅうのレストランの予約を請け負い、当該予約について、日本の顧客を対象としている場合があるとしても、上記2(3)のとおり、被請求人(商標権者)又は使用権者が我が国内において「飲食物の提供」の提供を行っているとは認められず、当該予約の対象は日本国外(イタリア)における役務の提供に係るものであるから、日本在住の顧客は、「飲食物の提供」の役務を日本国内で受けることができないことは明らかであり、ベルモンド・マネジメント社が本件商標の使用権者であることも明らかではないことから、被請求人(商標権者)又は使用権者が「飲食物の提供」の役務を我が国内において提供しているとみることはできない。
したがって、使用商標に係る役務が我が国において、商業的効果を有するものとはいい難いことから、被請求人の主張は採用できない。
4 むすび
以上のとおり、被請求人が提出した全証拠によっては、被請求人は、要証期間に日本国内において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが、取消請求役務について本件商標の使用をしていることを証明したものとは認められない。
また、被請求人は、本件商標を使用していないことについて正当な理由があることも明らかにしていない。
したがって、本件商標の登録は、商標法第50条の規定により、その指定役務中、「結論掲記の指定役務」について、その登録を取り消すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

別掲

審理終結日 2020-12-18 
結審通知日 2020-12-22 
審決日 2021-01-22 
出願番号 商願2012-56119(T2012-56119) 
審決分類 T 1 32・ 1- Z (W43)
最終処分 成立  
前審関与審査官 泉田 智宏 
特許庁審判長 冨澤 美加
特許庁審判官 小田 昌子
鈴木 雅也
登録日 2015-05-15 
登録番号 商標登録第5763726号(T5763726) 
商標の称呼 チプリアーニ、シプリアーニ、チプリアニ、シプリアニ 
代理人 片山 礼介 
代理人 青島 恵美 
代理人 田中 陽介 
代理人 青木 博通 
代理人 中田 和博 
代理人 山尾 憲人 

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