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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 
審判 全部申立て  登録を維持 
審判 全部申立て   
管理番号 1372941 
異議申立番号 異議2020-900316 
総通号数 257 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2021-05-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-12-01 
確定日 2021-04-02 
異議申立件数
事件の表示 登録第6291660号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第6291660号商標の商標登録を維持する。
理由 第1 本件商標
本件登録第6291660号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成よりなり、令和元年7月24日に登録出願、第44類「美容,理容,爪の美容」を指定役務として、令和2年8月13日に登録査定され、同年9月14日に設定登録されたものである。
第2 引用商標
登録申立人(以下「申立人」という。)が、登録異議の申立ての理由に該当するとして引用する商標は、次のとおりであり、いずれも現に有効に存続しているものである。
1 登録第4950649号商標(以下「引用商標1」という。)は、別掲2のとおりの構成からなり、平成17年9月5日に登録出願、第44類「美容,理容」を含む、第30類、第32類及び第44類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、同18年5月12日に設定登録されたものである。
2 登録第5768709号商標(以下「引用商標2」という。)は、別掲3のとおりの構成からなり、平成26年12月4日に登録出願、第44類「美容,理容」を含む、第3類、第5類、第21類、第30類、第32類及び第44類に属する商標登録原簿記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、平成27年6月5日に設定登録されたものである。
なお、引用商標1及び2をまとめていうときは、単に「引用商標」という。
第3 登録異議の申立ての理由
申立人は、本件商標は商標法第4条第1項第11号、同項第15号及び同項第16号に該当するものであるから、同法第43条の2第1号によって取り消されるべきものであるとして、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第31号証(枝番を含む。)を提出した。
1 商標法第4条第1項第11号について
(1)本件商標は、後半部に配された「Nail」の文字の語頭の「N」のアルファベットが大文字で表されていると共に、当該文字は「爪」を意味する広く親しまれた英単語であって、指定役務との関係で自他役務識別機能を発揮しないことに鑑みると、本件商標中の「ElixirNail」の文字は、「Elixir」と「Nail」の各文字を常に一体として認識しなければならないとする特段の事由は存在せず、その構成上、「Elixir」と「Nail」とに容易に分離して認識されるばかりか、本件商標は、前半部の「Elixir」に照応した「エリクシール」の称呼のみをもって実際の商取引に資され得るものである。
(2)他方、各引用商標は、その構成中に含まれる「ELIXIR」又は「エリクシール」の文字に照応して、「エリクシール」の称呼が生ずるものである。
(3)してみれば、本件商標と各引用商標は、「エリクシール」の称呼を共通にする、称呼上類似する商標といえる。そして、本件商標と各引用商標の指定役務は、同一又は類似のものである。
(4)したがって、各引用商標に係る出願日及び登録日のいずれもが本件商標に係る商標登録出願の出願日及び登録日に先立つものであることも考慮すると、本件商標は、各引用商標との関係において、商標法第4条第1項第11号の規定に違反して登録されたものである。
2 商標法第4条第1項第15号について
(1)申立人について
申立人(株式会社資生堂)は、1872年に我が国初の洋風調剤薬局として創業された資生堂薬局を前身とし、1927年に株式会社として設立された、東京都中央区銀座7丁目5番5号に本店を有する、我が国最大手かつ世界有数の化粧品メーカーである(甲4)。
申立人の事業内容は多岐にわたっているが、その中でも化粧品・化粧用具・トイレタリー製品・理美容製品・食品・医薬部外品の製造・販売が中心となっており、申立人の業務に係るこれらの製品は、百貨店、ドラッグストア、薬局、コンビニエンスストア、各種量販店、インターネット等の多様なチャネルを介して提供され、需要者に購入されている(甲5)。
(2)「ELIXIR/エリクシール」の著名性について
ア 申立人は、需要者のニーズに応えるべく、需要者の年齢や使用目的に適合させた多数のブランドを保有し、これらのブランドの下に事業を展開しているが(甲6)、その中でも代表的なブランドである「ELIXIR/エリクシール」(以下、「ELIXIRブランド」という)は、長年にわたって申立人の主力ブランドの一つとして位置付けられているものである。
イ 「アクティブに、自分らしく、しなやかに生きる大人の女性たちの肌状態や生活シーンに対応し『明るい肌・表情美』を実現する」というコンセプトの下、申立人がELIXIRブランドによる事業展開を開始したのは1983年であり、同ブランドは「化粧水,乳液,クリーム,ジェル,洗顔料,化粧用マスク,おしろい,ファンデーション,アイシャドー,アイブローペンシル,ほほ紅,口紅,アイライナー,マスカラ」等の化粧品全般の商品群から構成されるものである(甲7の1?甲8の19)。
ELIXIRブランドは、1983年に市場投入された後、瞬く間に申立人の主力ブランドとして成長し、現在に至るまで長年にわたって申立人の事業戦略上、中核をなす最も重要なブランドの一つとして位置付けられている。なお、同ブランドに係る製品には各引用商標(以下、「ELIXIR商標」という)が当然に付されている(甲2の1?甲3の2、甲7の1?甲8の19)。
ウ 申立人は、ELIXIRブランドが実際に市場投入される前から、街頭や店頭における試供品の提供や新聞・雑誌・TV等のあらゆる媒体を通じた宣伝広告活動を積極的に行い、市場投入後も同ブランドのために毎年多額の宣伝広告費を費やしていたが、市場投入直前の1982年12月から1997年11月までの広告出稿費用として230億600万円が、又2001年度から2005年度までの宣伝広告費用として65億4000万円が計上された。
さらに、同ブランドに係る製品の販売促進費用についても、1993年4月から1997年3月までの期間で37億5100万円に、又2001年度から2005年度までの期間で31億円に達している。
上記の多額の費用が投じられた宣伝広告活動の具体的な内容としては、街頭や店頭での試供品の提供やチラシの配布、一般日刊新聞紙・ファッション雑誌への広告掲載、街頭の広告スペースヘのポスター掲載等が挙げられる(甲9の1?甲12の21)。
そして、申立人によるこれら各種媒体を用いた宣伝広告がその印象的なキャッチフレーズと共に需要者の注目を集め、高い評価を得ていることは広く知られているものであるが(甲13の1、2)、申立人にあっては、特にTVを介した企業アピールや宣伝広告に長けており、例えば、申立人の一社提供によるTV番組の放送や、倍賞美津子、アン・ルイス、今井美樹、浅野温子、小泉今日子等のその時代のファッションリーダーと呼ばれる有名女優を起用したTVコマーシャルの放送等には巨額の費用が投じられ、申立人及びELIXIRブランドを周知する上で高い効果を発揮している(甲14、甲15)。
このような状況において、ELIXIRブランドに関連して、申立人がTVコマーシャルに投じた費用は、2006年度が15億2800万円、2007年度が10億3500万円、2008年度が9億2800万円、2009年度が8億8600万円、2010年度が10億4400万円となっている(甲15)。
エ 上述のように、申立人は、ELIXIRブランドの認知性を高めるべく、一般日刊新聞紙やファッション雑誌への広告掲載、街頭や店頭での試供品の頒布、TVコマーシャルの放送等の様々な手法をもって活発な宣伝広告活動に努めている。
その結果、ELIXIR商標が付された同ブランドに係る製品の売上金額の総額は、市場投入の1983年4月から2000年3月(2000年度)までの17年間で6100億6300万円、又2001年度から2005年度までで1389億円となっている(甲16)。これは希望小売換算額にすると1983年4月から2000年3月の期間が1兆1856億6900万円であり、2001年度から2005年度の期間が1859億円となり、更にその後の2006年度から2010年度までの総販売額は2472億7700万円となっている(甲16?甲19)。
また、これらの製品の売上の総数量は、1983年4月から2000年3月(2000年度)までの17年間が4億450万個、2001年度から2005年度までが7325万個、2006年から2010年度までが8259万7000個に達している(甲16?甲19)。
かくして、1983年から2010年度までの27年間における、ELIXIRブランドの製品の総販売額は9900億円を超えると共に、その総販売数量も5億個以上となっている。
なお、上記の2006年度から2010年度までのELIXIRブランドの販売額及び販売数量についても、これらのブランドに係る製品の販売額及び販売数量を含んでいる。
オ 上述の状況を総合的に勘案すると、現在に至るまで5億個以上の販売数量を誇るELIXIRブランドに係る製品の市場占有率は、当然に高いものであると推測されるが、甲第20号証に示すとおり、1980年代後半から2000年代までの長きにわたりスキンケアやメイクアップを中心とする化粧品の幅広いカテゴリーで上位ブランドとして非常に高い水準を保ち続け、化粧品全般の定番的なロングセラーブランドとしての不動の地位を確立している。
また、1990年代後半から2010年度までの間に15歳から59歳までの幅広い年齢層の女性を対象として申立人が外部調査会社に依頼して行った市場調査でも、保湿や美白のスキンケアの分野にてELIXIRブランドに係る製品の多数が販売金額及び販売個数で高いシェアを占めているという調査結果が示されており、同ブランドの認知度が現在まで失われていないことが容易に理解できる(甲21の1?5)。
カ 上述のように、申立人は、その事業戦略上の中核をなすELIXIRブランドのイメージの普及、定着及びその周知に努め、最大限の宣伝広告等の活動を行い、その結果、マスコミや需要者の注目を集めることに成功すると共に、製品の高品質性、その時代に適合した斬新かつ効果的な宣伝広告の方法、百貨店等における需要者各々のニーズに適う的確な対面式アドバイスによる販売方法と相まって、同ブランドは、我が国最大の化粧品メーカーたる申立人の有する他の多数の有名ブランドと比較しても、その認知度が群を抜くものとなっており、正に申立人に係る事業のみならず、化粧品業界全体を牽引する代表的なブランドとして長年にわたって認知されているものである。
その一例として、ELIXIRブランドは各種媒体で、『このブランドの認知率の高さは、おそらく日本のスキンケアブランド中、1、2位を争うものだろう。そして、資生堂の資産というべきこの名称(以下、略)』、『資生堂スキンケアの代表として認知されており、ボリューム世代との強い絆を持つ「エリクシール」の名称』、『誕生からこれまでの国内累計販売個数は約5億2000万個(1983年9月?2011年8月)、日本女性におけるブランド詔知率は90%を超えている。』等の表現をもって紹介・賞賛されるに至っており(甲22の1?3)、既に化粧品の分野で確固たる地位を築き上げていることがうかがい知れるものである。
キ 以上より、ELIXIRブランドに係る製品に付されるELIXIR商標も当然にその周知の程度が極めて高いものであって、「ELIXIR」の欧文字からなる商標を申立人が「化粧品」について現在に至るまで継続的に使用し、これが取引者及び需要者の間において広く認識されていることは明らかである(甲23)。
ク 上述の諸点をまとめると、「ELIXIR/エリクシール」は申立人に係るブランド名として既に計り知れないほどの名声を獲得しており、需要者への認知度等からも、化粧品業界における著名ブランドの一つであることは疑いようのないものである。また、ELIXIRブランドに係る製品に付されるELIXIR商標についても、同ブランドの著名性と相まって、申立人の業務に係る商品「化粧品」を表示する著名な商標として認識されるに至っているものである。
(3)「ELIXIRブランド」の派生ブランドについて
ア 申立人にあっては、自己の著名なELIXIRブランドの更なる発展を図るべく、これらの文字を含む多くの商標について商標登録出願を行い、多数の商標権を取得している。
そして、申立人における、「商品カテゴリー毎に大型ブランドを打ち立て、トップブランドを育成する」という、所謂メガブランド戦略の一環として2006年に「ELIXIR/エリクシールシュペリエル」ブランド(以下、「ELIXIR SUPERIEURブランド」という)が投入され、市場投入された僅か2年後の2008年には、ELIXIR SUPERIEURブランドはスキンケア化粧品の分野でトップシェアを占めるに至り(甲24)、有力ブランドヘと急成長を遂げた訳であるが、数多ある新規化粧品ブランドの内の一つに過ぎないELIXIR SUPERIEURブランドが短期間でこれほどまでに需要者に支持された理由として、その基幹ブランドたるELIXIRブランドの顧客吸引力及び著名性が大きく寄与したことは想像に難くない。
また、ELIXIR SUPERIEURブランドは、スキンケア以外の化粧品との関係でも高い市場占有率を維持しており(甲25の1?5)、このことから、同ブランドに係る製品に付される「ELIXIR/エリクシールシュペリエル」の文字からなる商標は、既に申立人の業務に係る商品「化粧品」を表示するものとして需要者の間に広く認識されるに至ったと理解することができる。
イ これに加え、申立人は、ELIXIRブランドの派生ブランドとして、60歳代以上の女性を対象にしたスキンケアブランド「ELIXIRPRIOR/エリクシールプリオール」(以下、「ELIXIR PRIORブランド」という)を2008年11月に立ち上げ、更に2010年2月には美白スキンケア製品を中心に取り扱うブランドとして「ELIXIRWHITE/エリクシールホワイト」(以下、「ELIXIR WHITEブランド」という)を立ち上げた。
そして、ELIXIR PRIORブランド及びELIXIR WHITEブランドに関しても、申立人による効果的な宣伝広告により、これら製品に付される商標と共に十分な認知が図られた。
また、特に、ELIXIR WHITEブランドは、市場投入後の短期間でそのターゲットとした分野で高い市場占有率を獲得していることから、「ELIXIR/エリクシール」の文字を構成中に加えられた申立人に係るブランドは、ELIXIRブランドの著名性にあやかってその認知度が格段に高まると考えられ、ELIXIRブランドが申立人の他の新規ブランドに与える影馨力は甚大で、又その顧客吸引力は計り知れないものであり、故に同ブランドに係る製品に付されるELIXIR商標に化体した業務上の信用も途轍もなく大きいという事実が容易に理解出来るものである。
(4)小括
上述の諸点を総合的に勘案すると、日刊新聞紙や雑誌への広告掲載のみならず、TVコマーシャル等を介した広範な宣伝活動や積極的なブランド展開、更にはその派生ブランドに与え得る多大な影響力により、ELIXIRブランドが、我が国最大手の化粧品メーカーたる申立人の多数のブランドの中でも突出した評価と名声を長きにわたって得続けている著名ブランドであることは明白である。
また、TVコマーシャルは普段、女性向けの雑誌等を読まない男性や化粧品を使用しない年齢層にも広く視聴されるものであり、更に商品「化粧品」は居住者の全員が使用する洗面台に置かれ、その使用者以外の者の目にも自然と触れる機会が多いことも考慮すると、ELIXIRブランドに係る製品に付されるELIXIR商標については、「化粧品」の直接的な需要者のみならず一般公衆にも当然に認知されているものである。
したがって、ELIXIR商標に関するその認知の程度は非常に高いものであり、更には、「ELIXIR/エリクシール」の文字を含む商標が付された派生ブランドに係る製品が瞬く間に相当の認知度を獲得するに至る程の影響力を有していることからすると、ELIXIR商標にあっては、需要者の間に広く認識された所謂周知な商標程度には留まらず、これを超越した著名な商標と捉えられて然るべきである。
(5)出所の混同のおそれについて
ア 「ELIXIR/エリクシール」は申立人の業務に係るブランド名及び商標として著名であることから、「ELIXIR/エリクシール」のブランド名及び商標としての著名性を十分に踏まえた上で、本件商標が出所の混同を生ずるか否か検討し、商標法第4条第1項第15号該当性を判断すべきである。
イ 申立人のELIXIR商標の著名性については、異議申立事件(異議2009-900115)でも、これらと同一の商標について「申立人の使用する著名商標」との認定がなされているのみならず、我が国の有名・周知商標として紹介がなされている(甲26の1、2)。
ウ 本件商標を構成する「ElixirNail」の文字は、語頭の「E」と中間の「N」が大文字で表されていることから、構成上、「Elixir」と「Nail」の各文字に分離して認識されるものであり、更に「Elixir」の文字が語頭に配されているばかりか、後半部の「Nail」は「爪」を意味する英単語として我が国で広く親しまれているのみならず、本件商標の指定役務との関係で極めて記述的であって自他役務識別力を発揮し難いものであることも考慮すると、簡易迅速を尊ぶ取引の場において、本件商標にあっては、語頭の「ELIXIR」の文字が需要者の目を惹くと容易に理解できるものである。
そうとすると、著名商標たる「ELIXIR」と一致する要素を構成中に含んでいると実際の取引において一見して把握される本件商標に関し、指定役務等との関係で出所の混同のおそれのないことが明白であると認められるに足るその他の特段の事由も存在しないことは明らかである。
エ 次に、化粧品と美容との関係についても触れると、申立人にあっては、ELIXIRブランドにて美容に関する各種プロモーション活動を行っており(甲27)、更には、本件商標の権利者のみならず、他の化粧品事業者も化粧品のブランド名を冠した美容サービスを提供しているばかりか(甲28、甲29)、美容サービスを主とする事業者においても提供するサービスで使用される化粧品ブランドを前面に押し出した宣伝広告を行っており(甲30)、このような実際の商取引の実情に鑑みると、化粧品と美容とが需要者の範囲を共通にしていることは容易に理解できるものである。
更には、本件商標の権利者にあっては、自己のウェブサイト上で、本件商標中の「Elixir」の文字のみを抽出した商標をもって宣伝広告活動をなしているといったことも勘案すると(甲31)、ELIXIR商標が化粧品との関係で著名商標であるとしても、これをそっくりそのまま包含し、かつ、使用態様とも相まってこのような事実が瞬時に認識される本件商標にあっては、化粧品と極めて密接する関係性を有するその指定役務に使用された場合、これが申立人の業務に係るものであること、ELIXIRブランドの商品を用いた美容サービスであること、あるいは、申立人と経済的・組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかの如く、その出所について誤認を生じさせるおそれがあることは明らかである。
オ そして、このような著名ブランドの名称に、単に「Nail」程度の独創性のない、非常に平易で記述的な英単語を付して構成される商標の登録を認めるとするのであれば、我が国最大の化粧品メーカーが30年以上の時間と多大な労力と費用を掛けて著名に育て、その著名性を守り続け、既に同メーカーの事業の屋台骨を支え続けていると言っても過言ではない著名ブランドの地位が簡単に覆されかねず、ELIXIRブランドに関連してこれまで巨額の費用を投じた原告の経済的損出は推し量れないものであり、商標法が産業財産権保護法としての性格を有するという見地からも批判の誹りを免れないものである。
本件では、「ELIXIR/エリクシール」の文字が非常に強い顧客吸引力を発揮するに至り、申立人の主力ブランドの一つとして、多角的な面から需要者・取引者に広く認知されているものであり、このような原告の長年にわたる努力の結果得られた業務上の信用を保護するのが商標法制定の趣旨といえるものである。
(6)小結
したがって、申立人に係る著名商標及び著名ブランドを表示する「ELIXIR」の文字を包含し、また当該文字が容易に独立して看取し得る本件商標が付された本件指定役務「美容,理容,爪の美容」が実際の商取引に資された場合、これに接した需要者・取引者は、申立人たる株式会社資生堂又は同社に係るELIXIRブランドを容易に想起又は連想し、当該商品は申立人又はこれと経済的・組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務、あるいは申立人に係る著名ブランドに関連する又は同ブランドから派生したブランドに係る役務であるかの如く、役務の出所について混同を生じるおそれがあることは明らかであることから、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであって、商標法第43条の2第1号の規定により取り消されて然るべきものである。
3 商標法第4条第1項第16号について
(1)本件商標は、後半部に配された「Nail」の文字の語頭の「N」のアルファベットが大文字で表されていることから、その構成上、「Elixir」と「Nail」とに容易に分離して認識される。
そして、後半部の「Nail」の文字は「爪」を意味する広く親しまれた英単語であって、本件指定役務の分野にあっては、爪に関するサービスを「ネイル」と呼ぶことが少なくないことは周知の事実である。
そうとすると、本件商標をその指定役務中「爪(ネイル)に関連する役務以外の役務」について使用した場合、需要者にあっては、あたかもこれが「爪(ネイル)に関連する役務」であるかの如く、役務の質について誤認を生ずることは明らかである。
(2)小結
上述のとおり、本件商標は、その指定役務中「爪(ネイル)に関連する役務以外の役務」について使用された場合、役務の質の誤認を生じさせるおそれがあることから、商標法第4条第1項第16号の規定に違反して登録されたことが明らかであるから、その登録は許されるべきものではなく、商標法第43条の2第1号の規定により取り消されて然るべきものである。
第4 当審の判断
1 引用商標(ELIXIR商標)の周知性について
(1)申立人提出の甲各号証及び同人の主張によれば,以下のとおりである。
ア 申立人がELIXIRブランドによる事業展開を開始したのは1983年であり、同ブランドは「化粧水,乳液,クリーム,ジェル,洗顔料,化粧用マスク,ファンデーション,アイシャドー,アイブローペンシル,ほほ紅,口紅,アイライナー,マスカラ」等の化粧品で構成されている(甲7の1?甲8の19)。
イ ELIXIRブランドに係る製品には引用商標(「ELIXIR商標」)が付されている(甲2の1?甲3の2、甲7の1?甲8の19)。
ウ ELIXIRブランドの宣伝広告活動の具体的な内容としては、一般日刊新聞紙・ファッション雑誌への広告掲載、TVコマーシャル等である(甲9の1?甲12の21、甲14、甲15)。
ELIXIRブランドに関連して、申立人がTVコマーシャルに投じた費用は、2006年度が15億2800万円、2007年度が10億3500万円、2008年度が9億2800万円、2009年度が8億6800万円、2010年度が10億4400万円となっている(甲15)。
なお、ELIXIRブランドの宣伝広告費の全体については、主張のみで証拠の提出がないため、確認できない。
エ ELIXIR商標が付された同ブランドに係る製品の売上金額の総額は、市場投入の1983年4月(1983年度)から2000年3月(2000年度)までの17年間で約6100億円となっている。また、2006年度から2010年度までの5年間の総販売額は約2470億円となっている(甲16?甲19)。
これらの製品の売上の総数量は、1983年度から2000年度までの17年間が4億450万個、2006年度から2010年度までが約8260万個となっている(甲16?甲19)。
上記の2006年度から2010年度までのELIXIRブランドの販売額及び販売数量については、ELIXIRブランドの派生ブランド(「ELIXIR SUPERIEUR/エリクシールシュペリエル」、「ELIXIR PRIOR/エリクシールプリオール」及び「ELIXIR WHITE/エリクシールホワイト」)に係る製品の販売額及び販売数量が含まれている。
なお、2001年度から2005年度までの5年間のELIXIRブランドの販売額と販売数量については、主張のみで証拠の提出がないため、確認できない。
オ 株式会社富士経済発行の書籍「化粧品マーケティング要覧」等(1993年、1996年、1999年、2002年、2004年、2006年、2007年、2009年、2011年、2012年)において、ELIXIRブランドは、1980年代後半から2000年代までの間、スキンケアやメイクアップを中心とする化粧品のカテゴリーにおける販売実績(販売金額)のブランドシェアで上位に位置している(甲20の1?13)。
1990年代後半から2010年度までの間に15歳から59歳までの女性を対象として申立人が外部調査会社に依頼して行った市場調査で、保湿や美白のスキンケア分野の商品ランキングにおいて、ELIXIRブランドに係る製品が、販売金額及び販売個数のシェアで上位にランクされているという調査結果が示されている(甲21の1?5)。
カ 雑誌「国際商業」(2006年9月号及び11月号)及びウェブニュース「DAIRY COSMETICS NEWS」(2011年11月18日号)において、ELIXIRブランドについて、『このブランドの認知率の高さは、おそらく日本のスキンケアブランド中、1、2位を争うものだろう。そして、資生堂の資産というべきこの名称(以下、略)』、『資生堂スキンケアの代表として認知されており、ボリューム世代との強い絆を持つ「エリクシール」の名称』、『誕生からこれまでの国内累計販売個数は約5億2000万個(1983年9月?2011年8月)、日本女性におけるブランド詔知率は90%を超えている。』等と紹介されている(甲22の1?3)。
キ 東京商工会議所発行に係る平成24年(2012年)10月30日付け「証明書」において、商標「ELIXIR」について、「上記商標は、株式会社資生堂・・・が、化粧品について、平成5年(1993年)から現在に至るまで継続して使用しているものである。同社が、上記商品について、当該商標を使用していることが取引者及び需要者の間において広く認識されていることを証明する。」と記載されている(甲23)。
(2)上記(1)によれば、申立人は、1983年に、申立人の商品である化粧品について、引用商標の使用を開始しており、職権調査によれば、現在でもその使用は行われていて、引用商標を付した商品(化粧品)は、全国で販売されているものと認められる。また、ELIXIRブランドは、宣伝広告やブランド展開が積極的に行われた結果、1980年代後半から2000年代までの間、スキンケアやメイクアップを中心とする化粧品の分野において、高いブランドシェアを占めるに至っていたものと認められる。
しかしながら、提出された最新の証拠は、例えば、一般日刊新聞紙への広告掲載が1992年(甲9)、ファッション雑誌への広告掲載が2005年(甲10)、TVCM出稿量及びTV宣伝広告費が2010年度(甲14、甲15)、売上金額及び売上数量が2010年度(甲17、甲18)、アンケート調査結果が2010年度(甲21)等、その大半が10年以上前のものである。
そうすると、引用商標については、化粧品のブランドとしてある程度は知られているであろうことは推認できるものの、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、我が国の需要者の間で広く知られたことを示す具体的な証拠はない。
よって、申立人の提出に係る甲各号証を総合してみても、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、引用商標の周知性の程度を客観的に推し量ることはできない。
(3)以上のとおり、申立人が提出した全証拠からは、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、引用商標が、申立人の業務に係る商品を表示するものとして、我が国の需要者の間で広く認識されていたということはできない。
2 商標法第4条第1項第11号の該当性について
(1)本件商標について
本件商標は、別掲1のとおり、左側にリスの図形、右側に「ElixirNail」の欧文字を配してなり、いずれも緑色に着色してなるところ、構成中の図形部分と文字部分とは、視覚上分離して看取され得るものであり、かつ、観念的にも必ず一体のものとして認識しなければならないほどに不可分に結合しているとはいえないものである。そして、図形部分と文字部分のいずれも、役務の質等を表すものではなく、それぞれが自他役務の識別標識としての機能を果たし得るものである。よって、本件商標は、その構成中の「ElixirNail」の文字部分を要部として抽出することが許されるものである。
そして、当該「ElixirNail」を構成するローマ字は、まとまりよく表され、その構成文字に相応して生ずる「エリクサーネイル」の称呼も格別冗長というべきものでなく、無理なく一連に称呼し得るものである。
そうすると、構成中の「Nail」の文字部分が「つめ」の意味を有する英語であるとしても、本件商標に接する、取引者、需要者が、「Nail」の文字部分を、指定役務の質等を表すものとして直ちに認識、理解するということもできない。
以上よりすれば、「ElixirNail」の文字部分は、構成全体をもって、特定の観念を生じない一体不可分の造語を表したものとして認識、把握されるものとみるのが相当である。
したがって、本件商標は、その構成中「ElixirNail」の文字部分に相応して「エリクサーネイル」の称呼のみを生じ、特定の観念は生じないものである。
(2)引用商標について
一方、引用商標1は、別掲2のとおり「エリクシール」と「ELIXIR」の文字を二段に書してなり、引用商標2は別掲3のとおり「ELIXIR」の文字よりなるところ、「ELIXIR」の文字は「霊薬、万能薬」等の意味を有する英語であるが、一般に知られていない単語であることから、造語と認識されるものであり、「エリクシール」の文字も造語である。そうすると、引用商標1は、その構成文字に相応して「エリクシール」及び「エリクサー」の称呼を生じ、特定の観念を生じないものである。また、引用商標2は、その構成文字に相応して「エリクサー」の称呼を生じ、特定の観念は生じないものである。
(3)本件商標と引用商標との類否について
本件商標と引用商標の外観は、図形の有無、着色の有無、構成文字数の相違により、両者は、外観上相紛れるおそれはないものである。
次に、本件商標から生じる「エリクサーネイル」の称呼と、引用商標から生じる「エリクシール」及び「エリクサー」の称呼とを比較すると、両称呼は、構成音数が相違し、かつ、後半の「サーネイル」と「シール」の音の違い、又は「ネイル」音の有無に差異を有することから、両称呼をそれぞれ一連に称呼するときは、全体の語調、語感が異なり、相紛れるおそれのないものである。
次に、観念においては、本件商標と引用商標とは、いずれも特定の観念を生じないものであるから、比較できないものである。
そうすると、本件商標と引用商標とは、観念においては比較できないものであるとしても、外観及び称呼において相紛れるおそれのないものであるから、これらが需要者に与える印象、記憶、連想等を総合してみれば、両者は非類似の商標というのが相当である。
(4)本件商標の指定役務と引用商標の指定商品又は指定役務との類否について
本件商標の指定役務と引用商標の指定役務とは、同一又は類似のものである。
(5)小括
以上によれば、本件商標の指定役務と引用商標の指定役務が同一又は類似のものであるとしても、本件商標と引用商標は同一又は類似のものではない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第15号該当性について
上記1のとおり、引用商標は、申立人の業務に係る商品を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、需要者の間に広く認識されていたということはできないものであり、また、上記2のとおり、本件商標と引用商標とは非類似の商標である。
そうすると、本件商標は、これをその指定役務に使用しても、需要者において、申立人や引用商標を連想、想起するということはできず、よって、その役務が申立人あるいは申立人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかのように、役務の出所について混同を生じさせるおそれがある商標とはいえない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第16号該当性について
上記1のとおり、本件商標の構成中の文字部分は、その構成全体をもって一体不可分の造語と把握、認識されるものであるから、その構成中「Nail」の文字部分について、本件商標に接する需要者が、役務の質を表示するものとして認識し、本件商標が「爪(ネイル)に関連する役務以外の役務」に使用された場合、役務の質の誤認を生ずるおそれがあるものということはできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第16号に該当しない。
5 まとめ
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号、同項第15号及び同項第16号に違反して登録されたものとはいえず、ほかに同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定に基づき、その登録を維持すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
別掲 別掲1(本件商標:色彩については原本参照。)

別掲2(引用商標1)

別掲3(引用商標2)

異議決定日 2021-03-25 
出願番号 商願2019-100995(T2019-100995) 
審決分類 T 1 651・ 271- Y ()
T 1 651・ 262- Y ()
T 1 651・ 272- Y ()
最終処分 維持  
前審関与審査官 林 亜輝菜駒井 芳子 
特許庁審判長 岩崎 安子
特許庁審判官 小田 昌子
森山 啓
登録日 2020-09-14 
登録番号 商標登録第6291660号(T6291660) 
権利者 株式会社食糧補完計画
商標の称呼 エリクサーネール、エリクシールネール、エリクサー、エリクシール 
代理人 田中 尚文 
代理人 古岩 信嗣 

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