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審決分類 審判 全部無効 商4条1項11号一般他人の登録商標 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W03
審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W03
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W03
審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W03
審判 全部無効 商4条1項16号品質の誤認 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W03
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W03
管理番号 1371854 
審判番号 無効2020-890035 
総通号数 256 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2021-04-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2020-03-27 
確定日 2021-02-16 
事件の表示 上記当事者間の登録第6116927号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 登録第6116927号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第6116927号商標(以下「本件商標」という。)は,「リンクルリアップ」の文字を標準文字で表してなり,平成30年4月10日に登録出願,第3類「家庭用帯電防止剤,家庭用脱脂剤,さび除去剤,染み抜きベンジン,洗濯用柔軟剤,洗濯用漂白剤,かつら装着用接着剤,洗濯用でん粉のり,洗濯用ふのり,つけまつ毛用接着剤,口臭用消臭剤,動物用防臭剤,塗料用剥離剤,靴クリーム,靴墨,つや出し剤,せっけん類,歯磨き,化粧品,香料,薫料,研磨紙,研磨布,研磨用砂,人造軽石,つや出し紙,つけづめ,つけまつ毛」を指定商品として,同年12月20日に登録査定,同31年1月25日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
1 請求人が,本件商標の登録の無効の理由(商標法第4条第1項第11号)において,引用する登録商標は,以下の7件の商標であり(以下,これらをまとめて「引用商標」という。),いずれも現に有効に存続しているものである。
(1)登録第2257666号商標(以下「引用商標1」という。)は,「リアップ」の片仮名及び「RIUP」の欧文字を2段に横書きしてなり,昭和63年6月9日に登録出願,第4類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として,平成2年8月30日に設定登録され,その後,指定商品については,同22年8月4日に第3類「せっけん類,歯磨き,化粧品,植物性天然香料,動物性天然香料,合成香料,調合香料,精油からなる食品香料,薫料」及び第30類「食品香料(精油のものを除く。)」とする書換登録がされたものである。
(2)登録第2318977号商標(以下「引用商標2」という。)は,「リアップ」の片仮名及び「RIUP」の欧文字を2段に横書きしてなり,昭和63年6月9日に登録出願,第1類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として,平成3年7月31日に設定登録され,その後,指定商品については,同14年7月31日に第5類「薬剤」を含む第1類,第5類,第8類,第10類及び第21類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品とする書換登録がされたものである。
(3)登録第3135705号商標(以下「引用商標3」という。)は,「RI-UP」の欧文字及び「リアップ」の片仮名を2段に横書きしてなり,平成5年9月1日に登録出願,第3類「せっけん類,化粧品,歯磨き」を指定商品として,同8年3月29日に設定登録されたものである。
(4)登録第4484522号商標(以下「引用商標4」という。)は,「リアップ」の文字を標準文字で表してなり,平成12年6月14日に登録出願,第5類「薬剤」を指定商品として,同13年6月22日に設定登録されたものである。
(5)登録第4206219号商標(以下「引用商標5」という。)は,別掲のとおりの構成よりなり,平成9年9月10日に登録出願,第3類「せっけん類,歯みがき,化粧品」を指定商品として,同10年10月30日に設定登録されたものである。
(6)登録第4206220号商標(以下「引用商標6」という。)は,別掲のとおりの構成よりなり,平成9年9月10日に登録出願,第5類「薬剤,歯科用材料,医療用腕環,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,眼帯,耳帯,失禁用おしめ,人工受精用精液,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,乳幼児用粉乳,乳糖,はえ取り紙,ばんそうこう,包帯,包帯液,防虫紙」を指定商品として,同10年10月30日に設定登録されたものである。
(7)登録第4351678号商標(以下「引用商標7」という。)は,別掲のとおりの構成よりなり,平成11年4月9日に登録出願,第16類「紙類,紙製包装用容器,家庭用食品包装フィルム,紙製ごみ収集用袋,プラスチック製ごみ収集用袋,衛生手ふき,型紙,紙製テーブルクロス,紙製タオル,紙製手ふき,紙製のぼり,紙製旗,紙製ハンカチ,紙製ブラインド,紙製幼児用おしめ,裁縫用チャコ,荷札,印刷物,書画,写真,写真立て,遊戯用カード,文房具類,事務用又は家庭用ののり及び接着剤,青写真複写機,あて名印刷機,印刷用インテル,印字用インクリボン,活字,こんにゃく版複写機,自動印紙はり付け機,事務用電動式ホッチキス,事務用封かん機,消印機,製図用具,装飾塗工用ブラシ,タイプライター,チェックライター,謄写版,凸版複写機,文書細断機,封ろう,マーキング用孔開型板,郵便料金計器,輪転謄写機,観賞魚用水槽及びその附属品」を指定商品として,同12年1月14日に設定登録されたものである。
2 請求人が,本件商標の登録の無効の理由(商標法第4条第1項第10号,同項第15号,同項第19号及び同項第7号)において,引用する商標は,「リアップ」又は「RiUP」の文字からなるもの(以下「請求人商標」という。)であり,請求人が「各種ヘアケア関連商品」について使用し,我が国の需要者に広く認識されていると主張するものである。

第3 請求人の主張
請求人は,本件商標の登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第214号証を提出した。
1 請求人商標の著名性について
(1)請求人について
ア 請求人は,100年以上の歴史を誇る日本を代表する製薬会社であり,一般の薬局やドラッグストアで市販されるOTC医薬品(一般用医薬品)のリーディングカンパニーとして,OTC医薬品の分野でトップシェアを誇り,セルフメディケーション事業(OTC医薬品の製造販売)と医薬事業(医療用医薬品の製造販売)を両輪としながら,医薬品を中心に,特定保健用食品,栄養補強用飲料,食品,ヘアケア用品その他の化粧品,オーラルケア用品等の各種商品を国内外にわたり多角的に展開している(甲1?甲5)。
イ 請求人はいわゆる大正製薬グループの中核企業であるが,同グループが取扱う商品は,医薬品のみならず,化粧品,食品等を含む一般消費者向け商品とその種類は多岐にわたっており,その中には,一般大衆間において広く親しまれている商品も少なくなく,医薬品を中心に健康食品や美容関連商品等多種多様な商品分野においてはこの請求人を中心とする大正製薬グループの存在は良く知られている。
(2)請求人商標について
ア 請求人商標は,請求人が製造販売する発毛剤,並びに,シャンプー,コンディショナー及びヘアトニック等の各種ヘアケア関連商品の商標として請求人が長年にわたり使用してきた商標である。請求人商標は,シリーズ第一弾となる発毛剤の販売にあたり,髪が再び復活する願いを込め,“再生”を連想させる語として,請求人が独自に創作した造語である。様々な候補の中から検討を重ねた上で採択された請求人商標は,独創的で看者の記憶に残りやすい文字構成でありながらも,需要者に対し“髪が力強く再生していく”イメージを明確に伝えることのできる,ユニークかつ識別力の高い商標である(甲14)。
イ 請求人商標は,請求人が創り出した他にはなかった語で,請求人が業として販売する発毛剤をはじめ,シャンプー,コンディショナー,ヘアトニックといったヘアケア関連商品の商品名として継続的かつ一貫して使用されてきたものであり,請求人商標は,「リアップ(RiUP)」シリーズに関連した請求人による精力的な宣伝広告活動もあり,これらの商品の需要者である一般大衆間において,請求人の業務に係る商品の出所表示として著名となり,広く認知されることとなった。かかる事実は,請求人の「リアップ(RiUP)」シリーズの売上高や市場占有率が客観的に示すところであり,また,かかる事実に基づき,請求人商標の著名性が認められ,防護標章登録されている。
(3)「リアップ(RiUP)」シリーズの売上高及び市場占有率
「リアップ(RiUP)」シリーズの商品の売上高は,発毛剤の「リアップ(RiUP)」の販売が開始された翌年の平成12年に年間約300億円に達し「リアップ(RiUP)」シリーズの商品は請求人が展開する各種商品・ブランドの中でも記録的なヒット商品となった(甲37?甲39)。特に,シリーズの中核をなす発毛剤の「リアップ(RiUP)」は,平成11年の販売当初から高いシェア率を誇り,請求人が販売する「リアップ(RiUP)」シリーズの発毛剤は,発毛剤の分野において長らくトップの座に君臨し続けている。近年においても,毛髪用剤・育毛剤の市場における請求人の発毛剤「リアップ(RiUP)」のシェア率は,57.6%(平成28年),57.3%(平成29年),56.5%(平成30年)と高い水準を維持している(甲37?甲39)。また,大手Eコマースサイトの発毛剤・育毛剤の人気売れ筋ランキングにおいても,「リアップ(RiUP)」シリーズの発毛剤が上位を占めており(甲40?甲42),これらの事実から,請求人が業として展開する,「リアップ(RiUP)」シリーズの各種商品の高い人気がうかがえる。請求人の「リアップ(RiUP)」シリーズは,もとは,男性用の発毛剤としてスタートしたものの,平成17年には,市場のニーズに応える形で女性用の発毛剤「リアップレディ」を発売(甲15),その後,平成23年には,その後継品としての女性用の発毛剤「リアップリジェンヌ」を発売すると共に,そのシリーズとして,シャンプーやヘアコンディショナーの販売を開始するなど,女性向けの商品も継続的に展開してきた(甲20,甲31,甲32)。
(4)「リアップ(RiUP)」に関連する宣伝広告活動
このような高い売上高と市場占有率の背景には,請求人による精力的かつ大規模な宣伝広告活動がある。請求人は,「リアップ(RiUP)」の発毛剤の販売開始当初から,TVやインターネット等で動画広告を配信するとともに,雑誌・新聞等のマスメディア媒体に広告を出稿し,また,これらの媒体において「リアップ(RiUP)」シリーズの商品を特集したタイアップ記事等を掲載するなどして,長年にわたり,「リアップ(RiUP)」シリーズの商品の宣伝・広告活動を実施してきた(甲43?甲174,甲195?甲214)。請求人の多大なる営業努力の結果,請求人商標が性別や年齢層を問わず,広く一般大衆の目に触れ記憶されるに至ったことは想像に難くない。
(5)請求人商標に係る商標登録と防護標章登録の存在
請求人は,この「リアップ(RiUP)」の商標を,請求人の商品を示すものとして使用し管理してきたのであり,請求人商標の多面的かつ重畳的な保護を図るため,「リアップ(RiUP)」に関する商標をシリーズの主力製品である発毛剤や化粧品,せっけん類といった商品分野のみならず,その他日用品関連の各種商品分野において多数登録してきた(甲176)。請求人によるかかる努力の結果,市場において,請求人商標により他者商品との差別化が十分に図られることとなり,また,請求人商標は請求人の業務に係る商品と直接的かつ強い結びつきをもって需要者に認識され,結果,請求人商標には,莫大な業務上の信用と顧客吸引力,及び,財産的価値が化体するに至っている。
以上述べたところから,請求人商標が,発毛剤をはじめ,シャンプー,コンテイショナー,ヘアトニックといったヘアケア関連商品の分野で周知性を獲得していることは客観的に明白であると考える。さらに,請求人商標が少なくとも発毛剤の分野で広く知られるに至っていることは,「リアップ」の標準文宇からなる商標(登録第4484522号商標)について,「薬剤」の分野における商標の周知性が認められ,「せっけん類,香料類,化粧品,歯磨き」といった商品について平成14年10月25日付けで防護標章登録された事実からも裏付けられる(甲175)。
(6)まとめ
以上のとおり,請求人商標は,請求人が独自に採択した唯一無二の造語であり,請求人が長きにわたって独占的かつ継続的に使用してきた,請求人の業務に係る商品の出所表示である。そして,請求人による長期間にわたる精力的な宣伝・広告活動と,請求人商標の商標登録や防護標章登録による多面的・重畳的な保護といった企業努力を積み重ねてきた結果,請求人商標は,本件商標の出願日である平成30年4月10日よりもはるか以前から著名性を獲得し,また,現在に至っても,市場において強い識別力と顧客吸引力を発揮し続けている。
2 無効理由
(1)商標法第4条第1項第10号該当性について
ア 商標の類似性
本件商標は,「リンクルリアップ」の片仮名を標準文字で表した商標であるが,その構成中,「リンクル」の文字部分は,“しわ”を意味する平易な英単語(Wrinkle)の片仮名表記であり,中学卒業程度の英語力を有するものであれば一瞥でその意味を理解することができる。とりわけ,本件商標の指定商品中,例えば「化粧品」や「せっけん類」の商品分野においては,しわ予防やしわの改善等を目的とした商品が多数流通しているという実情がある。すなわち,本件商標の構成中「リンクル」の語は,本件商標の指定商品との関係において単なる商品の品質又は用途表示にすぎず,商標としての本質的な識別力を具備せず,当該文字部分からは出所識別標識としての称呼,観念は生じない。
他方,「リアップ」は請求人の業務に係る商品の商品名として請求人が独自に創作した造語であり,請求人の業務に係るリアップ(RiUP)シリーズの商品の大きな商業的成功により,その強い語感を有する請求人商標も極めて著名となっている。すなわち,「リアップ」の語は,請求人商標としてのみ一義的にとらえられるものであり,本件商標の指定商品との関係において,出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものである。
そうとすれば,本件商標の要部は「リアップ」の文字部分であるから,本件商標からは「リアップ」単独の称呼が生じ,また,外観上も「リアップ」の文字部分が強く看者の印象に残ることとなる。よって,本件商標は,著名な請求人商標と,外観及び称呼において類似する。
さらに,「リアップ」は,請求人により独自に採択された造語であり,請求人商標としての観念しか生じ得ないところ,請求人商標の著名性を考慮すれば,本件商標に接した需要者が,これから著名な請求人商標を想起することは自明であり,本件商標が使用される商品を,請求人の著名な「リアップ(RiUP)」シリーズの商品の一つであるかのごとく,本件商標を,観念上,請求人商標と関連付けて認識する蓋然性が極めて高い。よって,本件商標は観念においても請求人商標と類似する。
イ 商品の類似性
請求人商標は,発毛剤,シャンプー,コンディショナー及びヘアトニックといった各種ヘアケア商品について継続的に使用されてきたのであり,請求人による長年の営業努力の結果,少なくともこれらの商品分野において請求人商標は著名に至っている。
一方,本件商標の指定商品中,第3類「化粧品,せっけん類」といった商品は,例えば,シャンプーやコンディショナー,トニック等を通じ,請求人が現に請求人商標を使用し,請求人商標が著名性を獲得している商品群である。さらに,本件商標の指定商品には,例えば,「かつら装着用接着剤,つけまつ毛用接着剤,つけまつ毛」など,請求人が展開する「リアップ(RiUP)」シリーズの中核を成す発毛剤の主たる購買者層である発毛のトラブルを抱えた需要者を対象として販売される種類の商品も含まれている。よって,これらの商品は,請求人商標が著名性を獲得している上記ヘアケア関連商品との類似性が高い。また,本件商標のその余の指定商品についても,請求人商標が著名に至っている発毛剤,シャンプー,コンディショナー,ヘアトニックといったヘアケア関連商品と取引経路や需要者を共通にする類似商品である。
ウ 小括
以上述べたとおり,本件商標は,著名な請求人商標と類似し,請求人が請求人商標を使用してきた商品と類似する商品について使用をするものであるから,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に該当する。
(2)商標法第4条第1項第11号該当性について
ア 商標の類似性
本件商標は,「リンクルリアップ」の文字からなるが,本件商標の指定商品との関係において,その構成中「リアップ」の文字部分が要部となることは上記で述べたとおりである。
一方,引用商標は,いずれも請求人商標である「リアップ(RiUP)」からなり,あるいは「リアップ(RiUP)」をその要部とする登録商標であり,それぞれ文字種や態様の相違はあれ,いずれも「リアップ」の称呼が生じ,したがって本件商標は引用商標と称呼が共通する。
また,各商標の外観についてみると,「リアップ」の片仮名からなる引用商標4は外観においても本件商標と類似し,さらに,同じく,「リアップ」の片仮名を構成中に含む引用商標1ないし引用商標3も本件商標と外観上類似する。
さらに,引用商標はいずれも「リアップ」又は「RiUP」の文字を要部とするところ,請求人商標の著名性を考慮すれば,本件商標から「リアップ」の語を要部として看取した者は,本件商標から著名な請求人商標を想起するのは自明であり,本件商標を観念上請求人商標と関連付けて認識し,そこから,請求人が展開する「リアップ(RiUP)」シリーズとの観念を得る。よって,本件商標は観念においても請求人の引用商標と類似する。
このように,本件商標と引用商標とは少なくとも称呼が共通し,また,外観及び観念においても相紛らわしい類似商標である。
イ 商品の類似性
類似商品・役務審査基準上,本件商標の指定商品中,少なくとも,第3類「洗濯用でん粉のり,洗濯用ふのり,つけまつ毛用接着剤,かつら装着用接着剤」は引用商標7の指定商品と,第3類「口臭用消臭剤,動物用防臭剤」は引用商標2,引用商標4及び引用商標6の指定商品と,第3類「せっけん類,歯磨き,化粧品,香料,薫料」は,引用商標1,引用商標3及び引用商標5の指定商品とそれぞれ同一又は類似する商品として扱われており,これらの商品の類似性は詳述するまでもなく明らかである。また,本件商標の指定商品中,第3類「つけづめ,つけまつ毛」は,引用商標の指定商品に係る「化粧品」と同種の商品として化粧品等と並んで販売されるものであり,「化粧品」と需要者及び取引経路が共通する類似商品である。さらに,本件商標のその余の指定商品についても,一般需要者を対象に販売されるものであるため,引用商標の指定商品と類似する。
ウ 小括
以上述べたとおり,本件商標は引用商標と類似し,かつ,引用商標の指定商品と同一又は類似する商品について使用されるものであるから,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第15号該当性について
本件商標は,その構成中「リアップ」の文字部分が要部となることは,上記のとおりであるが,「リアップ」は,請求人の業務に係る商品の出所識別標識として請求人により独自に採択された造語であり,本来的に強い識別力を具備する商標である。そして,請求人は,請求人商標を,ヘアケア関連商品の分野で長きにわたって継続して使用してきたのみならず,請求人商標の認知度向上のため,請求人商標を使用した多くの宣伝・広告活動を行ってきた。また,請求人は,重要な知的財産である請求人商標の重畳的保護を図るべく,「リアップ」又は「RiUP」の語を含む商標について多数商標登録を取得し,他者との混同防止に努めるなどの企業努力を重ねるとともに請求人商標の保護に膨大な労力と資金を投入してきた。そして,その結果,請求人商標が,少なくともヘアケア関連商品の分野で著名に至っていることは上記のとおりである。また,このような請求人の企業努力の結果,「リアップ」の商標の著名性が認められ,防護標章登録されたことは上記1(5)のとおりであるが,当該防護標章登録によって,遅くとも防護標章登録が認められた平成14年当時において,既に,請求人の商標「リアップ」が少なくとも「薬剤」の分野で著名に至っており,かつ,本件商標の指定商品とも共通する「せっけん類,香料類,化粧品,歯磨き」といった商品分野で他人が「リアップ」の商標を使用した場合に混同を生ずるおそれがあるとの判断がなされている。そして,当該防護標章登録の後も,請求人は「リアップ(RiUP)」シリーズの強化・拡大を続けてきたのであり,本件商標の出願日及び登録査定日の各時点において,請求人商標の著名性は一層強まり,混同のおそれが生じる範囲もさらに拡大していたことは自明である。
一方,本件商標の指定商品は,「化粧品,せっけん類」をはじめとし,いずれも,請求人商標が著名に至っているヘアケア関連商品と取引経路や需要者を共通にする類似商品であるところ,その中には,例えば,「かつら装着用接着剤,つけまつ毛用接着剤,つけまつ毛」など,請求人が展開する「リアップ(RiUP)」シリーズの中核を成す発毛剤の主たる購買者層である発毛のトラブルを抱えた需要者を対象に販売される種類の商品も含まれている。これらのことからすれば,著名なる請求人商標「リアップ」をそのまま含み,これに“しわ”を意味する平易な英単語の片仮名表記「リンクル」を組み合わせた本件商標に接した需要者は,本件商標から著名な請求人商標をただちに連想し,本件商標と請求人商標とを密接に結びつけ,本件商標が使用される商品の出所が請求人であると誤認する可能性は極めて高い。
そして,本件商標の指定商品は,「せっけん類,化粧品」等を含む第3類の指定商品であるところ,請求人は,製薬会社でありながらも,医薬事業(医療用医薬品)と共にセルフメディケーション事業(OTC医薬品等)を事業の主軸として展開し,その中には,「リアップ(RiUP)」シリーズを展開するヘアケア関連商品のみならず,日焼け止め・スキンケア用品,歯磨き・歯ブラシといったオーラルケア用品等といった,本件商標の指定商品と同一又は類似する商品も多数含まれており(甲4),商品の性質,用途又は目的における関連性は非常に高い。また,請求人は,上記のとおり,一般の薬局やドラッグストアで市販されるOTC医薬品(一般用医薬品)のリーディングカンパニーとして,OTC医薬品の分野でトップシェアを誇り,長年にわたり,一般大衆向けの商品の販売を続けてきたのであり,請求人の業務に係る商品は広く一般大衆に親しまれているものである。一方,本件商標の指定商品も,その多くが同様にドラッグストア等で取引をされ,一般大衆を需要者として販売されるものであるから,本件商標の指定商品は,請求人の業務に係る商品と取引者や需要者においても共通する。
これらに加え,請求人は,「リアップ(RiUP)」シリーズとして,各種ヘアケア商品の展開を行ってきたところ,これらのシリーズ商品においては,各商品の名称として,「リアップレデイ」や「リアップリジェンヌ」,「リアップジェット」,「プレリアップ」や「フレッシュリアップ」等,リアップと他の語を組み合わせた商品名が多く使用されてきた(甲14?甲36)。このような実情を考慮すると,需要者は,本件商標のように「リアップ」と他の語を組み合わせた態様からなる商標を目にした際に,当該商標が使用される商品が,少なくとも請求人又は請求人が中核となる大正製薬グループの会社が展開する商品であるかのごとく,その出所につき誤認混同するおそれが極めて高い。
以上述べたとおり,本件商標をその指定商品に使用した場合に,需要者は,本件指定商品をあたかも請求人の業務に係る商品であると誤認混同する(すなわち“狭義の混同”が生じる)おそれが極めて高いことは明らかである。一方,例えば,本件商標には「リンクル」の語が付されていることで,本件商標が使用される商品の出所が請求人であることに疑問が生じる場合が仮にあったとしても,請求人を中核とする大正製薬クループに属する請求人の関連会社やグループ企業は,化粧品や食料品等,人々の日常生活に密接に関連する多種多様な商品が製造販売されており,大正製薬グループの業務に係る商品は広く一般大衆に親しまれているという実情があること,そして,本件商標の指定商品は,いずれも一般大衆を対象として販売される商品であることに鑑みれば,一般大衆の通常有する注意力を基準に考えた場合に,本件商標が使用された商品を,直接請求人とまでは結びつけなくとも,請求人の関連会社等,請求人と経済的又は組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品等であると誤認し,その出所につき混同をする(すなわち,“広義の混同”が生じる)可能性は非常に高い。
このように,本件商標は,他人である請求人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれのある商標であるから,商標法第4条第1項第15号に該当する。
(4)商標法第4条第1項第7号及び同項第19号該当性について
請求人商標が,請求人が独自に創り出した語で,かつ,請求人の業務に係る商品の出所表示として著名に至っていること,また,本件商標がこの著名な請求人商標と類似することは上記のとおりである。さらに請求人商標は,請求人の創作に係る独創的かつ唯一無二の商標であり,本件商標の指定商品の分野においても強い識別力を発揮するものである。一方,本件商標は,“しわ”を意味する平易な英単語で,さらに,指定商品との関係で識別力がないか又は極めて弱い「リンクル」の語を,「リアップ」の語に付加した構成からなり,構成文字のうち,「リアップ」の部分が独立して識別力を発揮することは自明である。そして,請求人商標の著名性に鑑みれば,著名な請求人商標をそのまま包含し,また請求人商標と類似する本件商標が,請求人商標とは無関係に採択されたとは到底考えられず,本件商標は,著名な請求人商標に化体した顧客吸引力へ“ただ乗り”し,当該顧客吸引力を不当に利用しようとする不正の意図をもって出願されたものといわざるをえない。
そして,本件商標が請求人の管理の及ばない商品に使用されれば,請求人商標に高い信用を抱いている需要者はこれによって欺かれる結果となり,取引に混乱が生じることは不可避であるのみならず,長年にわたり注意深く商品の品質維持と混同防止に努めてきた請求人の企業努力が水泡に帰す結果ともなりかねない。さらに,本件商標権者による本件商標の独占使用が認められた場合,著名な請求人商標が有する出所表示機能は瞬く間に希釈化され,一方,本件商標の出願人は,営業努力を積み重ねることなく,請求人商標に化体したイメージや業務上の信用にフリーライドし不正の利益を得ることが可能となり,このような事態は,健全な取引秩序の維持という商標法の法目的に反する行為である。
以上述べたとおり,本件商標は,著名な請求人商標と類似する商標であって,不正の目的をもって使用されるものであるから,商標法第4条第1項第19号に該当し,また,本件商標の使用は公正な取引秩序をも乱すものであるから,商標法第4条第1項第7号に該当する。
(5)商標法第4条第1項第16号該当性について
上述のとおり,請求人は,各種ヘアケア商品に請求人商標を共通かつ一貫して使用してきた結果,請求人商標には,請求人の業務に係る発毛又は育毛効果を伴うヘアケア関連商品としての良質なイメージと信用が蓄積してきたのである。
一方,本件商標の指定商品には,請求人が「リアップ(RiUP)」シリーズを展開する商品群でもある「化粧品,せっけん類」といった商品が含まれるのみならず,例えば「かつら装着用接着剤,つけまつ毛用接着剤,つけまつ毛」のように,発毛にトラブルを抱える需要者を対象に販売される商品も含まれているところ,本件商標がこれらの商品に使用された場合,需要者は請求人が展開する「リアップ(RiUP)」シリーズの商品と誤認し,本件商標の指定商品が,請求人が展開する「リアップ(RiUP)」シリーズの商品と同等の品質や効能を有する商品であるかのごとく,その品質につき誤認するおそれがある。
このように,本件商標は,商品の品質の誤認を生ずるおそれのある商標であり,商標法第4条第1項第16号に該当する。

第4 被請求人の答弁
被請求人は,請求人の主張に対し,何ら答弁していない。

第5 当審の判断
1 請求人商標の周知性について
ア 請求人の提出に係る証拠及び同人の主張によれば,以下のとおりである。
(ア)請求人は,製薬会社であり,セルフメディケーション事業(OTC医薬品(一般用医薬品)の製造販売)と医薬事業(医療用医薬品の製造販売)を両輪としながら,医薬品を中心に,特定保健用食品,栄養補強用飲料,食品,ヘアケア用品その他の化粧品,オーラルケア用品等の各種商品を国内外に多角的に展開している(請求人の主張,甲1?甲5)
(イ)請求人商標は,「リアップ(RiUP)」シリーズ第一弾となる発毛剤の販売にあたり,請求人が独自に創作した造語であって,請求人が製造販売する発毛剤,並びに,シャンプー,コンディショナー及びヘアトニック等の各種ヘアケア関連商品の商標として請求人が長年使用してきた商標である(請求人の主張,甲2,甲6,甲14?甲37)。
(ウ)「リアップ(RiUP)」シリーズの商品の売上高は,発毛剤の「リアップ(RiUP)」の販売が開始された翌年の平成12年は約300億円,2016年(平成28年)3月期は165億円である(甲37?甲39)。そして,毛髪用剤・育毛剤の市場における請求人の「リアップ(RiUP)」シリーズの市場シェア率は,57.6%(平成28年),57.3%(平成29年),56.5%(平成30年)である(甲37?甲39)。
また,Eコマースサイトの発毛剤・育毛剤の人気売れ筋ランキングにおいても,「リアップ(RiUP)」シリーズの発毛剤が上位にランクインしている(甲40?甲42)。請求人の「リアップ(RiUP)」シリーズは,もとは,男性用の発毛剤としてスタートしたものの,平成17年には,女性用の発毛剤「リアップレディ」を発売し(甲15),その後,女性向けの商品も継続的に展開している(甲20,甲31,甲32)。
(エ)請求人は,請求人が販売する発毛剤等のパッケージ中央若しくは上部に,引用商標5ないし引用商標7と同一の態様の商標,又は「RiUP」の文字からなる商標を付して使用し(甲14?甲22),「リアップ」の文字を商品名の一部に使用している(甲23?甲30,甲33?甲36)。そして,これら商品は,雑誌,新聞,請求人のウェブサイトにおいて,宣伝・広告されている(甲45?甲94,甲105?甲129,甲136?甲151,甲163等)。
(オ)請求人は,平成14年10月25日に,引用商標4について,第3類「せっけん類,香料類,化粧品,歯磨き」を指定商品として,防護標章登録をしている(甲175)。
イ 上記アによれば,請求人は,請求人商標を自己の業務に係る「発毛剤」について,平成11年から使用を開始し,多数の宣伝広告を継続して行っていることや新聞・雑誌で取り上げられていることがうかがえること及び請求人商標を付した商品の売上高,「毛髪用剤・育毛剤」における市場シェア等を考慮すると,請求人商標は,請求人の業務に係る商品「発毛剤」を表示するものとして,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,我が国のヘアケア関連商品を取り扱う分野の取引者,需要者の間に広く認識されていたと認められるものである。
2 商標法第4条第1項第15号該当性について
ア 本件商標と請求人商標の類似性の程度について
本件商標は,「リンクルリアップ」の文字を標準文字で表してなるところ,その構成中に「リアップ」又は「RiUP」の文字を有する請求人商標と構成文字のつづり又は称呼を共通にする「リアップ」の文字を有するものであるから,ある程度の類似性を有するものである。
イ 請求人商標の独創性の程度について
請求人商標は,「リアップ」又は「RiUP」の文字からなるところ,当該文字は,辞書等に掲載がないものであって,我が国において親しまれた既成語ではないから,独創性の程度は高いといえる。
ウ 本件商標の指定商品と「発毛剤」との商品の関連性及び需要者の共通性について
本件商標の指定商品と「発毛剤」とは,共にヘアケア用の化粧品や発毛剤等を使って身だしなみを整える商品,これら商品に関連する商品であって,商品の生産,販売部門,用途,流通経路を共通にする関連性の程度が高いものが含まれる。そして,両商品の需要者は一般消費者であるから,需要者を共通にすることが少なくないものといえる。
エ 出所の混同のおそれ
請求人商標は,上記1イのとおり,請求人の業務に係る商品「発毛剤」を表示するものとして,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,我が国のヘアケア関連商品を取り扱う分野の取引者,需要者の間に広く認識されていたと認められるものである。また,上記アのとおり,本件商標と請求人商標とはある程度の類似性を有するものであり,上記イのとおり,請求人商標の独創性の程度は高いといえる。
そして,上記ウのとおり,本件商標の指定商品と「発毛剤」との関連性の程度が高いこと,並びに需要者が共通することが少なくないことを併せ考慮すれば,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,本件商標をその指定商品に使用した場合,これに接する取引者及び需要者は,周知となっている請求人商標を想起,連想し,当該商品を請求人あるいは同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように,その出所について混同を生ずるおそれがあるものといわなければならない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当する。
3 まとめ
以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に違反してされたものであるから,その登録は,同法第46条第1項の規定により,無効とすべきものである。
付言するに,当審は,本件商標の登録は,請求人が主張する商標法第4条第1項同項第7号,同項第10号,同項第11号,同項第16号,同項第19号には該当しないものと判断する。
よって,結論のとおり審決する。

別掲

別掲(引用商標5ないし引用商標7)



審理終結日 2020-12-11 
結審通知日 2020-12-15 
審決日 2021-01-08 
出願番号 商願2018-45314(T2018-45314) 
審決分類 T 1 11・ 25- Z (W03)
T 1 11・ 26- Z (W03)
T 1 11・ 271- Z (W03)
T 1 11・ 22- Z (W03)
T 1 11・ 222- Z (W03)
T 1 11・ 272- Z (W03)
最終処分 成立  
前審関与審査官 浦辺 淑絵 
特許庁審判長 佐藤 松江
特許庁審判官 平澤 芳行
須田 亮一
登録日 2019-01-25 
登録番号 商標登録第6116927号(T6116927) 
商標の称呼 リンクルリアップ、リアップ 
代理人 ▲吉▼田 和彦 
代理人 井滝 裕敬 
代理人 北原 絵梨子 
代理人 中村 稔 
代理人 田中 伸一郎 
代理人 藤倉 大作 
代理人 松尾 和子 

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