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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W0938
審判 全部申立て  登録を維持 W0938
審判 全部申立て  登録を維持 W0938
審判 全部申立て  登録を維持 W0938
管理番号 1369153 
異議申立番号 異議2020-900048 
総通号数 253 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2021-01-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-02-21 
確定日 2020-12-07 
異議申立件数
事件の表示 登録第6202745号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて,次のとおり決定する。 
結論 登録第6202745号商標の商標登録を維持する。
理由 第1 本件商標
本件登録第6202745号商標(以下「本件商標」という。)は,「セキュアID」の文字を標準文字で表してなり,平成30年7月6日に登録出願,第9類「ルーター,携帯電話機,携帯用通信機械器具,その他の電気通信機械器具,携帯情報端末,その他の電子応用機械器具及びその部品,電池」及び第38類「移動体電話による電子メール通信,その他の電気通信(放送を除く。),報道をする者に対するニュースの供給,通信機器用データ通信カード・電話機・ファクシミリその他の通信機器の貸与,ルーターの貸与」を指定商品及び指定役務として,令和元年11月8日に登録査定され,同月29日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が,登録異議の申立ての理由において,商標法第4条第1項第11号に該当するとして引用する登録第4321573号商標(以下「引用商標1」という。)は,「SECURID」の欧文字を横書きしてなり,平成8年3月6日に登録出願,第9類「ホストデータバンクコンピュータにアクセスするための予測不能のコードを計算するためのプログラムを記憶してなる電子計算機,その他の電子応用機械器具及びその部品,電気通信機械器具」を指定商品として,同11年10月8日に設定登録され,現に有効に存続しているものである。
また,申立人が商標法第4条第1項第10号に該当するとして引用する商標は「SecurID」の欧文字からなり(以下「引用商標2」という。),商品「コンピュータ及びモバイル端末ユーザーの識別認証及び管理・パスワード認証・サインオンの制御・侵入防止のための識別及びアクセス管理用ソフトウェア,許可されたコンピュータシステムユーザーによって使用されるユーザー認証のための電子セキュリティートークン(暗号化装置),コンピュータネットワーク及びコンピュータリソースにアクセスするための予測不能のコードを計算する電子計算機」を表示するものとして,需要者の間に広く認識されているとするものである。

第3 登録異議の申立ての理由
申立人は,本件商標は,その指定商品及び指定役務中,第9類「ルーター,携帯電話機,携帯用通信機械器具,その他の電気通信機械器具,携帯情報端末,その他の電子応用機械器具及びその部品」について,商標法第4条第1項第10号及び同項第11号に該当するものであるから,商標法第43条の2第1号によって取り消されるべきものであるとして,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第76号証(枝番を含む。)を提出した。
1 商標法第4条第1項第11号該当性について
本件商標は,「セキュアID」と,「セキュア」の片仮名と「ID」の欧文字を結合させて一連に横書きしてなり,その構成から「セキュアアイディー」の称呼を生じることは明らかである。
引用商標1は,欧文字で「SECURID」を一連に横書きした構成をとる。引用商標1は,その構成から,「セキュリッド」,「セキュリド」なる称呼も生じ得るが,さらに,「セキュアアイディー」なる称呼も生じることは明らかである。以下にその理由を述べる。
(1)第一に,引用商標1は,その指定商品として,「ホストデータバンクコンピュータにアクセスするための予測不能のコードを計算するためのプログラムを記憶してなる電子計算機」を特記している。これは,RSAセキュリティエルエルシー(以下「RSA社」という。)が開発したワンタイムパスワード式ユーザー認証セキュリティーシステムに用いられるトークン製品「SecurID」(以下「本件製品」という。)に代表されるように,ホストデータコンピュータヘのアクセスの認証の安全性を高めるための認証システムに用いられる電子計算機である。
この認証システムは,継続して利用されるパスワードが他人に知られ悪用されるリスクが高いことから,それに代わり,通常は30秒または60秒の一定間隔にワンタイムパスワードである認証コードを生成するプログラムを記憶する電子計算機である(甲4,甲5)。
すなわち,引用商標1の指定商品は,不正アクセスを防止し,コンピュータネットワークのセキュリティを高めるために利用される商品であることは明らかである。
他方,「SECURE」の語は,英語で「安全な」という意味を有する語として一般に日本においても親しまれている語であり,ITの分野では,情報やシステム,通信路などが保護されて安全な状態にあることを「セキュアな」と表現して一般に用いられているものである(甲6,甲7)。
また,「ID」の語は,ネットワーク,コンピュータ機器,情報通信機器等へのアクセスを制御・検証するために,一般に「ユーザID」「アクセスID」などの用法で,数字及び,又は欧文字の組み合わせによって構成される識別符号であり個人や機器を識別するものとして,日本においても一般に用いられていることも明らかである(甲8,甲9)。
上記のとおり,ネットワークセキュリティに係る指定商品の特徴と機能に鑑みれば,引用商標1に接する需要者としては,それが,一般に親しまれる「SECURE」と「ID」を組み合わせた造語としてなるものであることも,また看取しうるものであるといえる。
よって,引用商標1に接する需要者としては,「セキュリッド」,「セキュリド」なる称呼のみでなく,引用商標1から,「セキュアアイディー」なる称呼も生じると理解することは明らかである。
(2)第二に,実際に引用商標1は現実の取引において,「セキュリッド」,「セキュリド」と読まれるのではなく,「セキュアアイディー」と読まれて取引されているのである。
すなわち,申立人と同様に現在Dell Technologiesのグループに属するRSA社は,ワンタイムパスワード式ユーザー認証セキュリティーシステムである本件製品を,引用商標1のもとで販売しており,本件製品は,ワンタイムパスワードの代表的な製品として多くの企業に採用されている。
RSA社は,本件製品に関し,「SecurID」のように,「ecur」を小文字で表記する態様を主に用いているが,引用商標1と同様に,「SECURID」と全て欧文字の大文字で構成される態様でも用いられることがある(甲10?甲14)。
なかでも,ソフトウェアトークンと呼ばれる,スマートフォンにインストールして用いるタイプのソフトウェア製品について,その画面上において,全て大文字で「SECURID」と表記されている(甲10,甲13,甲14)。
本件製品は,PINとワンタイムパスワードによる二要素認証システムとして,広くコンピュータやネットワークのアクセス認証のために世界中で利用されているものであり,「セキュアアイディー」と呼ばれている(甲24,甲42,甲70,甲76)。
すなわち,現実の取引の中では,引用商標1は,「セキュアアイディー」と呼ばれて取引されているのである。
かかる現実の取引での使用に鑑みれば,引用商標1から「セキュリッド」,「セキュリド」なる称呼しか生じず,「セキュアアイディー」なる称呼が生じないとするのは,現実に引用商標1が需要者にどのように認識されるのかということを無視した誤った議論であり,引用商標1から「セキュアアイディー」という称呼が生じることは明らかである。
(3)以上のとおり,本件商標からは,「セキュアアイディー」なる称呼が生じることは明らかである。また,引用商標1からも,「セキュアアイディー」なる称呼が生じることは明らかである。よって,両商標は,称呼を同一にする類似の商標である。
さらに,本件商標の指定商品・指定役務のうち,第9類「ルーター,携帯電話機,携帯用通信機械器具,その他の電気通信機械器具,携帯情報端末,その他の電子応用機械器具及びその部品」については,引用商標1の指定商品と類似する。
したがって,本件商標は,上記指定商品について,商標法第4条第1項第11号に該当する。
2 商標法第4条第1項第10号該当性について
(1)引用商標2について
RSA社は,1982年にRSA暗号を開発した設立者により設立された(設立当時の名称は,RSA Data Securityといい,数度の買収により商号が幾度も変更されている。),コンピュータセキュリティ及びネットワークセキュリティに関するソフトウェアの開発会社である。中でも,「二要素認証」手段を用いたワンタイムパスワード方式として知られる,引用商標2を使用した本件製品により,最もよく知られている。
本件製品の最大の特徴は,本人が記憶できる4桁の暗証番号と,本件製品のトークンが表示する数字(パスコード)を組み合わせる二要素認証である。パスコードは60秒の一定間隔で生成される「ワンタイムパスワード」であり,これによりパスワード盗難による不正アクセスを防止することができる。本件製品には,表示部を持った小さな携帯用機器(カード型とフォブと呼ばれるキーホルダ型)によるハードウェアタイプのトークンと,携帯電話やスマートフォン向けの「ソフトトークン」と呼ばれるソフトウェアタイプの大きく二種類がある(甲4,甲5)。
(2)引用商標2の周知性について
ア RSA社は,販売開始以来,引用商標2を用いた本件製品を30年にわたり全世界で販売し,その安全性から多くの企業に採用され,米国「フォーチュン」誌のトップ100に名を連ねる企業のほとんどが採用しているといわれる(甲55)。本件製品は,二要素認証市場の70%を占め(甲5),2009年2月までに,全世界で3000万件以上のライセンスが発行された(甲75)。
イ 日本においても,引用商標2を用いた本件製品は,遅くとも1996年2月頃には,当時のRSA社の日本販売代理店により販売が開始され,それ以来20年以上にわたり引用商標2を使用して販売されている(甲10,甲15?甲76)。
ウ 企業におけるリモートアクセスの必要性の増大,金融機関によるネットバンキングサービスの普及に伴うネットワーク・セキュリティ構築の必要性の高まりとともに,ワンタイムパスワードの市場は日本においても急速に増大した(甲75)。本件製品は,かかる急成長のワンタイムパスワードの中でも,デファクトスタンダード,代表例などと称され(甲36,甲40,甲66など),2009年度のワンタイムパスワード製品市場の7割を超えるシェアを有した(甲16,甲75)。
2013年から2018年までの日本における顧客数とユーザライセンス数については,2013年の顧客数は215,ユーザライセンス数は842,277であり,2014年の顧客数は296,ユーザライセンス数は1,196,271であり,2015年の顧客数は247,ユーザライセンス数は1,934,010であり,2016年の顧客数は262,ユーザライセンス数は1,055,173であり,2017年の顧客数は229,ユーザライセンス数は970,696であり,2018年の顧客数は222,ユーザライセンス数は1,220,250である。また,日本における累計のユーザライセンス数は500万人以上になると推定される(甲76)。
エ 本件製品は,その広い利用実績と注目度により,販売開始当初から繰り返し,新聞,インターネット・コンピュータ系の雑誌において紹介され,特集記事も出されている(甲17?甲75)。これらの記事では,引用商標2が繰り返し使用されている。本件製品は,その著名性から,日経コミュニケーション2005年11月25日号の「セキュリティ用語200」の一つとして掲載されるほどであった(甲70)。
オ 以上により,20年以上にわたり日本において本件製品に使用されてきた引用商標2は,遅くとも2018年(平成30年)6月末までには,RSA社が製造販売する本件製品を示すものとして需要者及び取引者の間に広く認識されていたことは明らかである。
(3)引用商標2と本件商標の類似性
本件商標と引用商標2を比較すると,本件商標からは,「セキュアアイディー」なる称呼が生じ,引用商標2からは,「セキュアアイディー」なる称呼が生じることは明らかであり,両者は称呼において同一である。
したがって,これらの商標が類似することは明らかである。
(4)小括
以上により,引用商標2が,遅くとも2018年(平成30年)6月末までには,RSA社が製造販売する本件製品を示すものとして需要者及び取引者の間に広く認識されていたことは明らかである。さらに,本件商標と引用商標2とは同一又は類似する商標であることは明らかである。また,引用商標2は,ハードウェア,ソフトウェア,ユーザー認証のための電子セキュリティートークン(暗号化装置)に使用されるものであるから,本件商標の指定商品のうち,第9類「ルーター,携帯電話機,携帯用通信機械器具,その他の電気通信機械器具,携帯情報端末,その他の電子応用機械器具及びその部品」についてそれらの商品が互いに同一又は類似するものであることもまた明らかである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に該当する。
3 まとめ
本件商標は,引用商標1と類似し,その指定商品も第9類「ルーター,携帯電話機,携帯用通信機械器具,その他の電気通信機械器具,携帯情報端末,その他の電子応用機械器具及びその部品」について引用商標1の指定商品と類似するものである。
したがって,本件商標は,上記指定商品について,商標法第4条第1項第11号に該当する。
さらに,仮に本件商標が上記に該当しないとしても,本件商標は,RSA社が本件製品に使用する周知な引用商標2と類似し,本件製品は,本件商標の指定商品及び指定役務中,第9類「ルーター,携帯電話機,携帯用通信機械器具,その他の電気通信機械器具,携帯情報端末,その他の電子応用機械器具及びその部品」と類似する。
したがって,本件商標は,上記指定商品について,商標法第4条第1項第10号に該当する。

第4 当審の判断
1 商標法第4条第1項第11号の該当性について
(1)本件商標と引用商標1との類否について
ア 本件商標
本件商標は,前記第1のとおり,「セキュアID」の文字を標準文字で表してなり,これは片仮名の「セキュア」と,欧文字の「ID」とを組み合わせたものと容易に理解されるものである。
本件商標の構成中,前半の「セキュア」の片仮名部分は,「安全が保証されていること。危害に対して危険のないこと。」(株式会社小学館 デジタル大辞泉 セキュア【secure】の項)の意味を有する英語「secure」の表音を片仮名で表示したものであり,後半の「ID」の欧文字部分は,「身分確認」の意味を有する英語の「identification」(株式会社集英社 イミダス編集部編imidas 現代人のカタカナ語 欧文略語辞典)や「工業デザイン」の意味を有する英語の「industrial design」(前掲書)等の略称と認められるものの,これらを結合した「セキュアID」の語は,既成の語ではなく,特定の意味合いを想起させるものとして一般に知られているとはいえないものであり,一種の造語として認識されるものであるから,特定の観念は生じないものといえる。
そうすると,本件商標は,その構成文字に相応して,「セキュアアイディー」の称呼を生じ,特定の観念は生じないものといえる。
イ 引用商標1
引用商標1は,前記第2のとおり,「SECURID」の欧文字を横書きしてなるところ,その構成文字は,全て大文字のつづりで構成されており,同じ大きさ,同じ書体,等間隔でまとまりよく一体的に表された構成からなるものであって,これより生じる「セキュリッド」の称呼も無理なく一連に称呼することができるものである。
なお,申立人は,引用商標1は需要者に「SECURE」と「ID」を組み合わせた造語として看取し得るものであること,また,引用商標1は現実の取引において「セキュアアイディー」と読まれて取引されていることから,引用商標1からは「セキュアアイディー」の称呼も生じる旨主張している。
しかしながら,引用商標1は,上記のとおり「SECURID」の欧文字を全て大文字のつづりで等しい間隔をもって横書きし,全体として一体的に表された構成からなるものであって,これを「SECUR」と「ID」とに分離して考察しなければならない特段の事情は見出すことができない。
そうすると,引用商標1は構成文字全体をもって,特定の観念を生じない一体不可分の造語を表したものとして認識,把握されるとみるのが相当であるから,引用商標1の構成文字に相応して生じる「セキュリッド」の称呼のみをもって商取引に資されるというのが相当である。
よって,引用商標1からは「セキュアアイディー」の称呼も生じるものということはできないから,上記申立人の主張は妥当でない。
したがって,引用商標1は,その構成文字に相応して,「セキュリッド」の称呼のみを生じ,特定の観念を生じないものである。
ウ 本件商標と引用商標1の類否
本件商標と引用商標1の類否を検討すると,両者は,外観において,それぞれ上記ア及びイのとおりの構成からなるものであって,それぞれの構成態様において明らかに相違するものであるから,視覚的な印象が相違し,外観上,両者は相紛れるおそれのないものである。
次に,本件商標から生じる「セキュアアイディー」と引用商標1から生じる「セキュリッド」の称呼を比較すると,両称呼は,それぞれ7音又は5音で構成されるものであって構成音数が相違し,かつ,3音目以降の「アアイディー」と「リッド」の音に差異を有することから,両称呼をそれぞれ一連に称呼するときは,全体の語調,語感が異なり,相紛れるおそれのないものである。
さらに,観念においては,本件商標と引用商標1とは,いずれも特定の観念を生じないものであるから,比較できないものである。
そうすると,本件商標と引用商標1とは,観念において比較できないものであるとしても,外観及び称呼において相紛れるおそれのないものであるから,これらが需要者に与える印象,記憶,連想等を総合してみれば,両者は,非類似の商標というのが相当である。
(2)本件商標の指定商品と引用商標1の指定商品との類否について
本件商標の指定商品及び指定役務中,第9類「ルーター,携帯電話機,携帯用通信機械器具,その他の電気通信機械器具,携帯情報端末,その他の電子応用機械器具及びその部品」と,引用商標1の指定商品「ホストデータバンクコンピュータにアクセスするための予測不能のコードを計算するためのプログラムを記憶してなる電子計算機,その他の電子応用機械器具及びその部品,電気通信機械器具」は同一又は類似する商品である。
(3)小括
以上によれば,本件商標と引用商標1は非類似の商標であるから,本件商標の指定商品及び指定役務中,第9類「ルーター,携帯電話機,携帯用通信機械器具,その他の電気通信機械器具,携帯情報端末,その他の電子応用機械器具及びその部品」は引用商標1の指定商品と同一又は類似するとしても,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に該当しない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に該当しない。
2 商標法第4条第1項第10号該当性について
(1)引用商標2の周知性について
申立人提出の甲各号証及び同人の主張によれば,以下の事実を認めることができる。
ア 申立人と同様に現在Dell Technologiesのグループに属するRSA社は,我が国において,1996年(平成8年)頃から現在まで継続して,引用商標2「SecurID」又は「SecurID」の文字を含む商標を使用した商品「コンピュータ及びモバイル端末ユーザーの識別認証及び管理・パスワード認証・サインオンの制御・侵入防止のための識別及びアクセス管理用ソフトウェア,許可されたコンピュータシステムユーザーによって使用されるユーザー認証のための電子セキュリティートークン(暗号化装置),コンピュータネットワーク及びコンピュータリソースにアクセスするための予測不能のコードを計算する電子計算機」(以下「使用商品」という。)を販売している。
イ 引用商標2「SecurID」にかかるRSA社の使用商品を含む商品や使用商品に関連するサービスが,1996年(平成8年)の日経流通新聞,日経産業新聞,日刊工業新聞,1997年(平成9年)及び1999年(平成11年)の日経産業新聞,2000年(平成12年)の日刊工業新聞,2008年(平成20年)の日経新聞,2009年(平成21年)のセキュリティ産業新聞,2010年(平成22年)の徳島新聞朝刊の各新聞にそれぞれ1回ずつ紹介された(甲17?甲21,甲23,甲33,甲38?甲39)
ウ 引用商標2「SecurID」にかかるRSA社の使用商品を含む商品や使用商品に関連するサービスが,1998年(平成10年),1999年(平成11年)及び2002年(平成14年)の日経コンピュータ,1999年(平成11年)の日経インターネットテクノロジー,1999年(平成11年),2000年(平成12年),2001年(平成13年),2002年(平成14年)及び2005年(平成17年)の日経コミュニケーション,2000年(平成12年)の日経ネットワーク,2003年(平成15年)の日経バイトの各雑誌にそれぞれ1回ずつ紹介された(甲48?甲52,甲57?甲58,甲60?甲61,甲63,甲66,甲70)。
エ RSA社の使用商品を含む商品や使用商品に関連するサービスの名称には,「RSA SecurID」をはじめとして,「RSA SecurID SUITE」(甲10,甲44),「RSA SecurID Access」(甲44?甲46),「RSA SecurID Software Token」(甲15,甲24,甲59,甲62,甲64,甲65)「RSA SecurID Appliance」(甲16,甲38,甲73,甲74)など,その多くは,RSA社の略称である「RSA」の文字を含んだ商標が使用されている。
オ 2010年(平成22年)4月29日付け徳島新聞朝刊の9頁に,「セキュリティー製品 スタンシステムがRSA代理店に 四国中心,販売契約」の見出しの下,「ネットバンキングなどに使われる『ワンタイム・パスワード』を認証する装置『Secur(セキュア)ID』は,日本や欧米各国で広く普及している。」の記載がある(甲39)。
カ RSA社の日本の関連会社であるEMCジャパン株式会社が作成した「RSA SecurID認証ソリューション」と題する販売資料及び,2009年(平成21年)2月28日号の雑誌「日経ソリューションビジネス」の記事における同社の社員によるインタビューによれば,「RSA SecurID」商品やサービスは,2009年度(平成21年度)のワンタイムパスワード製品市場の7割を超えるシェアを有した(甲16,甲75)。
(2)上記(1)のとおり,使用商品は,我が国において平成8年から現在まで継続して販売されていることがうかがえるものの,提出された証拠において,使用商品以外の商品や使用商品に関連するサービスの他,どのような商品又はサービスに対し引用商標2を付して販売されていたのか不明なものも散見される(甲19,甲22,甲25,甲27?甲29,甲32,甲34,甲36?甲37,甲39?甲41,甲43?甲46,甲50?甲51,甲55,甲58,甲60?甲63,甲69,甲72)。
また,提出された証拠において,引用商標2「SecurID」にかかるRSA社の商品のものに比べると,「RSA SecurID SUITE」,「RSA SecurID Access」,「RSA SecurID Software Token」,「RSA SecurID Appliance」など,RSA社の略称を含んだ「RSA SecurID」の商標を使用している割合が圧倒的に多く,引用商標2のみをもって,需要者の間に広く認識されている状態にあったと判断することはできない。
そして,1996年(平成8年)以降2000年代初頭にかけて,日経産業新聞,日経コンピュータ等のコンピュータに強い関心を持つ者が主な読者層である専門性の高い新聞及び雑誌に掲載された実績が散見されるものの,請求人に係る使用商品を含む商品や使用商品に関連するサービスの掲載回数は決して多いものということはできず,それらの証拠のみをもって,引用商標2が我が国においてどの程度知られているのか客観的に把握することができない。
また,RSA社の関連会社の販売資料や関係者のインタビューにおいて,使用商品を含む商品や使用商品に関連するサービスについて,2009年度(平成21年度)のワンタイムパスワード製品市場の7割を超えるシェアを有したことがうかがえるものの,それを裏付ける証左を見いだせず,それ以外の年における市場シェアに関する証左は提出されていない。
さらに,引用商標2を付した使用商品についての広告宣伝の実績・規模及び広告費が客観的に明らかではないことに加え,同業他社の同一又は類似商品の顧客数やユーザライセンス数など販売実績を裏付ける証拠は提出されておらず,職権により調査するも,これについて明らかではないことから,RSA社の関連会社社員による陳述書で述べる2013年(平成25年)から2018年(平成30年)の顧客数及びユーザライセンス数の多寡を判断することができない。
その他,引用商標2が,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,我が国の需要者の間において広く認識されていたことを示す具体的な証拠はない。
(3)そうすると,引用商標2が,RSA社の使用商品を含む商品や使用商品に関連するサービスを表示するものとして,我が国のコンピュータに強い関心を有する需要者やそのセキュリティを重んじる需要者の間で,ある程度知られているといい得るとしても,多くの場合,RSA社の社名の略称を含んだ「RSA SecurID」の商標を使用しており,引用商標2のみをもって,需要者の間に広く認識されている状態にあったと判断することはできず,我が国における販売実績や市場シェア,広告宣伝の規模等を裏付ける証左は見いだせないから,申立人の提出に係る甲各号証を総合してみても,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,引用商標2が,RSA社の業務に係る商品を表示するものとして,我が国の需要者の間に広く認識されていたと認めることはできない。
(4)本件商標と引用商標2との類否について
ア 本件商標
本件商標は,前記第1のとおり,「セキュアID」の文字を標準文字で表してなり,その構成文字に相応して,「セキュアアイディー」の称呼を生じ,特定の観念は生じないものといえる。
イ 引用商標2
引用商標2は,「SecurID」の欧文字を横書きしてなるところ,その構成文字は,同じ大きさ,同じ書体,等間隔でまとまりよく一体的に表されている。
そして,引用商標2の構成中,前半の「Secur」の文字が,1文字目が大文字であるのに対し,2文字目から5文字目が小文字で表されていること,及び,後半の「ID」の欧文字部分が,前記1のとおり,「identification(身分確認等の意)」や「industrial design(工業デザインの意)」などの英語の略称として表記される場合があることから,引用商標2は,「Secur」と「ID」の各文字を組み合わせたものと理解される。
そして,引用商標2の構成中,前半の「Secur」の文字は,辞書類に載録された既成語とは認められないものであるから,特定の意味合いを想起させるものではなく,一種の造語として理解されるものであるところ,特定の意味を有しない欧文字は一般に,我が国において親しまれた英語読み又はローマ字読みに倣って称呼されることから,「セキュア」の称呼を生じるものというのが自然である。
してみると,引用商標2は,「セキュアアイディー」の称呼を生じ,特定の観念を生じないものである。
ウ 本件商標と引用商標2の類否
本件商標と引用商標2の類否を検討すると,両者は,外観において,それぞれ上記ア及びイのとおりの構成からなるものであって,後半の「ID」の文字を共通にするものである。そして,前半の「セキュア」と「Secur」の各文字部分は,文字の種類が片仮名と欧文字とで異なるものであるが,商標の構成文字を同一の称呼の生じる範囲内で文字種を相互に変換して表記することが一般的に行われていることからすると,それぞれの文字を置き換えたものとして,取引者,需要者に認識されるといい得るものであって,この文字種の相違が出所識別標識としての外観上の顕著な差異として強い印象を与えるとはいえないものであり,互いに近似した印象を与える。
次に,本件商標と引用商標2からは,ともに「セキュアアイディー」の称呼を生じるものであるから,称呼上,両者はその称呼を共通にするものである。
さらに,観念においては,本件商標と引用商標2とは,いずれも特定の観念を生じないものであるから,比較できないものである。
そうすると,本件商標と引用商標2とは,観念において比較できないとしても,外観において,本願商標と引用商標2とは互いに近似した印象を与えること,及び「セキュアアイディー」の称呼において共通することから,取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,全体的に考察すれば,両者は,商品又は役務の出所について誤認混同を生じさせるおそれのある類似の商標と判断するのが相当である。
(5)本件商標の指定商品と引用商標2の使用商品との類否について
本件商標の指定商品及び指定役務中,第9類「ルーター,携帯電話機,携帯用通信機械器具,その他の電気通信機械器具,携帯情報端末,その他の電子応用機械器具及びその部品」は,引用商標2の使用商品「コンピュータ及びモバイル端末ユーザーの識別認証及び管理・パスワード認証・サインオンの制御・侵入防止のための識別及びアクセス管理用ソフトウェア,許可されたコンピュータシステムユーザーによって使用されるユーザー認証のための電子セキュリティートークン(暗号化装置),コンピュータネットワーク及びコンピュータリソースにアクセスするための予測不能のコードを計算する電子計算機」と同一又は類似する商品である。
(6)小括
上記のとおり,本件商標が引用商標2と類似する商標であり,本件商標の指定商品及び指定役務中,第9類「ルーター,携帯電話機,携帯用通信機械器具,その他の電気通信機械器具,携帯情報端末,その他の電子応用機械器具及びその部品」が,引用商標2の使用商品と同一又は類似するとしても,引用商標2は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,RSA社の業務に係る商品であることを表示するものとして,我が国の需要者の間において広く認識されているものとは認めることはできないものであるから,本件商標は,商標法第4条第1項第10号に該当しない。
3 まとめ
以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第10号及び同項第11号に違反して登録されたものとはいえず,ほかに同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから,同法第43条の3第4項の規定に基づき,その登録を維持すべきものである。
よって,結論のとおり決定する。

別掲
異議決定日 2020-11-26 
出願番号 商願2018-88314(T2018-88314) 
審決分類 T 1 651・ 263- Y (W0938)
T 1 651・ 261- Y (W0938)
T 1 651・ 262- Y (W0938)
T 1 651・ 25- Y (W0938)
最終処分 維持  
前審関与審査官 澤藤 ことは真鍋 恵美 
特許庁審判長 齋藤 貴博
特許庁審判官 山根 まり子
小松 里美
登録日 2019-11-29 
登録番号 商標登録第6202745号(T6202745) 
権利者 日本通信株式会社
商標の称呼 セキュアアイデイ、セキュア 
代理人 高橋 美智留 

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