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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない W25
管理番号 1368256 
審判番号 無効2018-890049 
総通号数 252 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2020-12-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2018-06-29 
確定日 2020-11-10 
事件の表示 上記当事者間の登録第5517873号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5517873号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲のとおりの構成からなり,平成24年3月12日に登録出願,第25類「被服,エプロン,靴下,手袋,ネクタイ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,帽子,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」を指定商品として,同年8月3日に登録査定,同月31日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は,本件商標についての登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として甲1?47(枝番号を含む。)を提出した。
1 無効理由
(1)事実関係
ア 請求人と被請求人の関係
(ア)Goodwear商標の譲渡交渉
a 請求人は,昭和58(1983)年に米国において,Tシャツ等へのGoodwear商標(以下「請求人商標」という。)の使用を開始し(甲3),平成2(1990)年には日本への進出を果たした(甲4)。その一例として,請求人のGoodwearブランドの商品は,カリフォルニア州サンタフェ スプリングズに所在するUniversal Business Corporationを通して,神戸市中央区に所在のBOY’S C0.,LTD.に販売され(甲5の1・2),さらに,BOY’S C0.,LTD.から他の日本の取引者・需要者に対し,再販売されていたものである。
平成9(1997)年には,被請求人(なお,被請求人は,千葉県柏市に所在するサクラグループ有限会社という関連会社を有しているところ,以下,被請求人と同社を併せて「被請求人等」という。以下では両者を厳密に区別して記載することはしない。)は,請求人のGoodwearブランドの商品を取り扱うことになった。この点,被請求人等の代表者の出利葉太郎氏(以下「出利葉氏」という。)は,平成29年2月12日付け陳述書の9頁において,平成9(1997)年には約2,000枚,平成10(1998)年には約24,000枚,さらに,平成11(1999)年には15,000枚の請求人のGoodwearブランドの商品を購入したと述べている(甲6)。なお,請求人は,アメリカ合衆国 カリフォルニア州 アーバインスカイ・パーク・サークルに所在のTAKASHIMA(U.S.A),INC.を通して,Goodwearブランドの商品を被請求人等に供給していたところ,平成11(1999)年には,請求人は,TAKASHIMA(U.S.A),INC.に対し,請求人のGoodwearブランドの商品を42,812枚販売した。
その後,被請求人等は,平成12(2000)年の販売用として,請求人のGoodwear商品を約80,000枚購入しようとしたものの,Goodwear関連商標に関する譲渡交渉の結果,購入するには至らなかった(甲6,陳述書9頁)。
なお,東京都中央区に所在の株式会社繊研新聞社(以下「繊研新聞社」という。)は,請求人に関する新聞広告の掲載を積極的に行い,さらに,請求人によるその他の営業努力もあって,平成11(1999)年には,請求人のGoodwearブランドに係る商品の日本における売上は,前年度の約10倍にもなった。
また,この頃,請求人の日本における取引先はかなりの数にのぼっていた(甲7)。実際,平成11(1999)年6月後半の時期に,請求人と出利葉氏との間で,米国のボストンにおいてビジネスの話をする機会があり,その際,請求人は,出利葉氏から,請求人のGoodwearブランドについて,日本における独占的なライセンスを受けたい旨の申出を受けたが,日本における多数の取引先を有していたため,この申出には応じられないと回答したことがある。
b 請求人は,平成11(1999)年に,東京都渋谷区所在のビーグッドカンパニー株式会社(以下「ビーグッド社」という。)が,日本において,「good wear」又は「Good Wear」のアルファベットを含む登録第3259517号商標(指定商品「ワイシャツ類」,出願日平成9(1994)年2月14日),同第4105562号商標(指定商品「ワイシャツ類」等,出願日平成8(1996)年4月17日)及び同第4141511号商標(指定商品「かばん類」等,出願日平成8(1996)年4月17日)(以下まとめて「ビーグッド社商標」という。)を保有していることを確認し,当該商標を譲り受けるべく同社との交渉に入った。
ビーグッド社は,請求人に対し,平成11(1999)年10月12日,ビーグッド社商標の譲渡対価として,150,000米ドルを提示するとともに,被請求人等の代表者である出利葉氏が,GOOD WEARに関する情報を有しているとして,同氏との間で交渉を行うことを請求人に要求した(甲8)。
なお,後に判明したことであるが,ビーグッド社は,被請求人等からビーグッド社商標の譲渡要請を受けて(甲9),平成11(1999)年10月29日付けで,被請求人等に対し,ビーグッド社商標を15,000,000円で譲渡する旨の契約を締結している(甲10の1・2)。
請求人は,ビーグッド社と被請求人等との間の上記契約について全く知らなかったため,ビーグッド社との交渉を進めるべく,ビーグッド社商標の譲渡対価がかなり高額であることの理由を被請求人等に尋ねた。これに対し,ビーグッド社は,同年11月8日に,その理由として,請求人が日本において高く評価されていることを挙げるとともに,日本市場における請求人のTシャツの印象が大変強い旨も述べた(甲11)。さらに,ビーグッド社は,請求人に対し,同日,他社(当該他社の名称は明らかにされなかった。)からビーグッド社商標の譲渡要請を受けていることにも言及した(甲11)。なお,実際は,既に,ビーグッド社と被請求人等との間で,ビーグッド社商標の譲渡契約が締結されていたものである。
請求人は,そのことを知らなかったため,ビーグッド社との間で交渉を続けた。請求人は,ビーグッド社に対し,ビーグッド商標の譲渡対価として,100,000米ドルを提示した。これを受けて,ビーグッド社は,請求人に対し,平成11(1999)年11月15日,既に被請求人等との間で,ビーグッド社商標の譲渡契約が締結されていたにもかかわらず,そのことを秘して,請求人が,被請求人等との間で,従前と同様にビジネスを行うのであれば,請求人の提示を受け入れるなどと述べた(甲12)。これに対し,請求人は,ビーグッド社に対して,同日,正式にビーグッド社商標の譲渡契約が締結され,譲渡がなされた後に,被請求人等とのビジネスを進める意向であると連絡した(甲13)。ビーグッド社は,請求人に対し,翌日,被請求人等と今後も取引を行うのでなければ,譲渡契約の締結はしないと連絡した(甲14)。
請求人は,同人と被請求人等との間の取引の継続に関するビーグッド社の強固な態度に驚き,ビーグッド社に対し,被請求人等との取引を継続する意向であることを伝えた。また,請求人は,この頃には,ビーグッド社より,同社のビーグッド社商標を譲り受けようと企てた者が出利葉氏であることを聞かされていたため,ビーグッド社に対し,出利葉氏が,Goodwearブランドについて,それが請求人により確立されたことを知りつつ,ビーグッド社に連絡を入れて,Goodwearブランドに関連するビーグッド社商標を譲り受けようと企てたことに関して懸念していることなども伝えた(甲15)。
さらに,請求人は,ビーグッド社に対し,平成11(1999)年11月18日にも,FAXを送り,被請求人等からの発注に対する対応を進めている旨を述べた。これに対し,ビーグッド社は,翌19日,請求人に,最終的な譲渡契約書を作成していると述べるとともに,当該契約書を,出利葉氏(同氏は11月21日から25日までニューヨークのホテルに滞在)を通して請求人に手渡したいとの意向を述べ,さらには,請求人と同氏との間で,過去及び未来のことについて話し合うことを求めた(甲16)。これに対し,請求人は,同日に,ビーグッド社に対して,ビーグッド社商標の譲渡交渉は,請求人とビーグッド社の間の問題であって,他社が当該交渉に加わる必要はないと考えていること,それゆえ,同月22日までに,譲渡契約書を直接,請求人にFAX送信することを求めた(甲17)。さらに,請求人は,ビーグッド社に対し,出利葉氏からの手渡しによる譲渡契約書の受領ができない理由として,出利葉氏がニューヨークのホテルに滞在している期間は,請求人が多忙な時期であることやサンクスギビングデー(米国における祝日)があり,その予定が決まっていることなどを挙げるとともに,出利葉氏が,ビーグッド商標の譲渡交渉に加わるべきでないとの考えを持っていることを繰り返し述べた(甲17)。
これを受けて,ビーグッド社は,請求人に対し,同月20日,出利葉氏との問題(同氏と請求人との間における今後の取引の継続という問題)を解決できない限り,ビーグッド社商標の譲渡はできないとし,同氏と面談することを強く求めた(甲18)。
請求人は,ビーグッド社に対し,同月22日,ビーグッド社からの譲渡契約書の送付がなかったことから,ビーグッド社商標を100,000米ドルで譲り受ける旨の申出を撤回した(甲19)。また,請求人は,ビーグッド社に対し,同日,出利葉氏から,ビーグッド社の代理人として交渉にあたっている旨の連絡を受けた事実を明らかにするとともに,同氏から,請求人と被請求人等との間の取引に関するプロフォーマインボイスの提供がない限り,ビーグッド商標に関する譲渡契約書をFAX送信することはできないとの連絡を受けた事実も明らかにした(甲19)。その上で,請求人は,ビーグッド社に対し,上記の事情に照らして,出利葉氏が,請求人とビーグッド社との譲渡交渉の全てに関与していたことが明らかであり,同氏の存在が,譲渡対価を高額とした要因であって,同氏の指示がなければ,より合理的な対価で迅速かつ円満な解決が図れたはずであるとの考えを述べた(甲19)。そして,請求人は,ビーグッド社に対し,同日,ビーグッド社商標の対価として,30,000米ドルを新たに提案した(甲20)。
ビーグッド社は,請求人に対し,同月30日に,請求人の新たな提案を受け入れることはできないことを伝えた。また,ビーグッド社は,請求人に対し,同日,ビーグッド社商標を被請求人等に対して譲渡すること,及び今後の交渉は被請求人等と行うべきことも伝えた(甲21)。
(イ)請求人の取引先への警告等
平成11(1999)年12月頃から,被請求人等による請求人の日本の取引先(25社,西澤株式会社及び株式会社百又等)に対する警告書の送付等が始まり,その内容は,当該取引先によるGoodwear関連商標の使用は,被請求人等の商標権を侵害すると主張して,当該使用行為の速やかな停止と,過去の販売実績の開示を求めるというものであった(甲22の1?6)。また,同年,請求人のGoodwearブランドの正規品について,「サクラインクーナショナル(株)」という被請求人等の社名が入ったタグが付された上で,それが被請求人等の取引先であるカジュアルチェーンの「ライトオン」において販売されていたことを確認している(甲23の1)。なお,上記「サクラインターナショナル(株)」の社名が被請求人等を指していることは,当該社名の直下にある電話番号が,被請求人等の電話番号と一致することからも明らかである(甲23の2)。
さらに,請求人は,平成12(2000)年1月に,請求人の取引先である株式会社新井清太郎商店から,被請求人等が,請求人の取引先に対し,前払ロイヤルティーを請求していることを耳にしているとの連絡も受けた(甲22の4・6)。また,この頃,被請求人等は,自らの商品のタグ上に,Good Wearの文字のみからなるロゴを使用するようになり,しかも,当該ロゴについて,請求人が長年使用してきた赤色を使用し始めた(甲23の1)。さらに,この頃,被請求人等のライセンス関係について,複数のライセンシーが,被請求人等とのライセンス関係を短期間のうちに解消したという事情もある(甲24)。
加えて,請求人のGoodwear関連の商品が,平成14(2002)年1月に,展示会(第5回IFF展)にて展示されることとなったときも,被請求人等は,当該展示会の責任者である繊研新聞社に対し,当該展示行為は商標権侵害行為に該当するとして,出店を中止させるよう要求した(甲25)。また,繊研新聞社の理解を得て,請求人のGoodwear商品が展示されるや,被請求人等は,2日間にわたり,両日とも約1時間もの間,請求人の展示場所を注視し,さらには,警察に対し,当該展示の停止を要請した。これに対し,請求人は,米国総領事館の主席商務領事であるKenneth Reidbord氏の協力を得ることができ,同氏と警察との話合いが行われた結果,被請求人等による上記要請は認められなかった(甲26)。
(ウ)請求人よる商標登録出願等
請求人は,平成14(2002)年3月8日に,日本国特許庁に対し,件外登録第4660048号商標(以下「件外請求人商標」という。)に関する出願を行い,翌年4月4日に登録されたところ,被請求人等は,直ちに,自らの先行する登録商標と類似するなどとして,上記登録商標に対する登録異議の申立てを行った(異議2003-90384)。しかし,結局,当該異議申立てには理由がないものとして,登録が維持された。
イ 本件商標の出願前の事情
(ア)新聞報道とその後のやり取り
請求人は,日本における取引先を通して,平成22(2010)年11月後半の繊研新聞社の記事に,「カジュアルウェアメーカーのハワード(東京,……社長)は来春夏から,米国のカジュアルブランド『グッドウェア』のライセンス製造販売を始める。」及び「米国生まれのグッドウェアらしさを重視し,売り場に映える企画」などと掲載されていることを確認した(甲27の1)。なお,東京都渋谷区所在のハワード株式会社(以下「ハワード社」という。)は,当時,被請求人等から商標のライセンスを受ける予定となっていたものである(甲28)。そこで,請求人は,ハワード社に対し警告書を送るとともに,繊研新聞社に対しても当該掲載内容についての撤回を要求し,繊研新聞社は速やかに撤回に応じた(甲29の1・2)
平成22(2010)年12月7日,被請求人等(出利葉氏)から請求人への電話があり,約11年越しに会話がなされた。その後,両者の間で何度かやり取りがなされ,請求人は確固とした態度で当該やり取りに臨んでいたところ,被請求人等は,請求人に対し,「我々(被請求人等)の顧客であるハワード社への法律行為に対する報復措置として,あなた(請求人)の主要顧客へ同様に警告書を送付するように,我々の弁護士より勧められている」と述べつつ,本心はそのような事態を回避したい旨も述べた上で,今後も請求人が同じような態度を取り続けるのであれば,被請求人等が回避したい状況に追い込まれていくなどと述べた(甲30)。さらに,被請求人等は,請求人に対し,被請求人等が予定している具体的な報復措置の内容を列挙した上で,被請求人等は当該措置を自ら行うことになるなどと述べるとともに,他方で,請求人は当該措置に対する防御にあたり,知的財産及び英語・日本語に精通した弁護士に依頼する必要が生じることを指摘した上で,被請求人等と比べて当該措置に関する費用がかさむ面を強調し(具体的には,請求人の場合,被請求人等と比べて約50倍の費用がかかるなどと述べ),執拗に交渉を行うことを求めた(甲31)。なお,被請求人等は,交渉を求める事項について何ら明らかにはしなかった。
(イ)請求人の取引先への警告等
そうしたところ,被請求人等による請求人に対する執拗な報復措置は始まった。被請求人等は,件外請求人商標に対し,平成23(2011)年1月17日に,商標法53条1項に基づく取消審判を請求した(取消2011-300044)。また,被請求人等は,請求人の日本の取引先(大協産業株式会社,有限会社テンプスコーポレーション,株式会社サンリバー,株式会社アルプス興業,株式会社ソーズカンパニー,ナルミトレーディング株式会社,ユニオントレーディング株式会社,株式会社アイメックス,セムインターナショナル株式会社及びGLMARKET等)に対し,同年1月20日付け又は2月1日付けの通知書を送った(甲32の1?10)。その内容は,概要,件外請求人商標の取消審判を請求したこと,これを取り消す旨の審決が確定すれば,取引先が現在取り扱っている商品の法的拠り所を喪失するのみならず,請求人等は審決確定の日から5年間,上記登録商標についての商標登録を受けることができないこと,及び審決の結果いかんに関わらず,上記取引先及びその顧客が,商標法37条所定の使用をなした場合には,被請求人等から権利行使を受けることになるというものであった。被請求人等は,取引先のうちの有限会社テンプスコーポレーションが,通知書の受領を拒絶したのに対し,「貴社が輸入販売元としての責任をお取りになる気がないということであれば,その旨を,貴社の販売先およびネット運営社等に通知の上,問題の解決をはかる所存です。米グッドウェア社(請求人)は,日本での直接の商標権の行使者ではなく,貴社が日本の法律上責任を負うこととなります」などと,あたかも取引先の行為が違法であるかのような表現をして,請求人の取引先の業務を妨害した(甲33)。
また,被請求人等は,件外請求人商標に対し,平成23(2011)年2月14日に,商標法51条1項に基づく取消審判を請求した(取消2011-300162)。結局,両取消審判(取消2011-300044及び取消2011-300162)は特許庁によって認められることはなく,その後,被請求人等が知財高裁に審決取消訴訟を提起したものの,そこでも被請求人等の請求は棄却されている(知財高判平成24年11月29日判決(平成24年(行ケ)10113号,平成24年(行ケ)10188号))。よって,被請求人等による上記報復措置には理由がなかったことに帰する。
さらに,被請求人等は,件外請求人商標に対し,平成23(2011)年6月3日に,商標法50条1項に基づく不使用取消審判を請求したが(取消2011-300158),当該請求も認められなかったものである。
請求人は,被請求人等による一連の請求人への妨害行為があまりにひどかったことから(例えば,被請求人等は,請求人の取引先に対し,当該取引先によるGoodwear関連商標の使用に関して,電話にて訴えを提起すると言ったり,このままでは逮捕されることになると言ったりしたこともあった。),被請求人等の行動について,警察に相談することを余儀なくされた。
(ウ)被請求人等による商標出願
これと時を同じくして,被請求人等は,請求人のブランドへの明らかなすり寄りと解される多数の商標出願を行った。
(エ)請求人のGoodwear商標の周知性
請求人のGoodwear商標は,請求人の長期にわたる営業努力により,本件商標の登録出願時(平成24(2012)年3月12日)前に既に,日本及び米国の需要者の間で広く認識されるに至っており,登録出願時もその状態は継続していたものである(甲36の1?89)。
また,Goodwearの文字が被服の分野で,一般的に広く使用されているという事情もなく(甲37),当該文字は独創性を有している。
ウ 本件商標の登録出願後の事情
被請求人等は,請求人のシンボルカラーである赤色及び金色を使用し,請求人のGoodwear商標と見分けがつかない程度にすり寄せてきている。
なお,本件商標の右上の六角形の図形は,商標が登録されたことを示すマルRを入れるために使用されている。
また,ハワード社の製品は,中国製であるにもかかわらず,当該製品における上記ラベルの真横に,米国国旗が付されたラベルを並べて貼付したり,米国国旗が大きく描かれたタグを付したりされている(甲38の1?3)。
加えて,被請求人等のライセンシーであるハワード社は,そのウェブページに大きく米国国旗を掲げている(甲41の1・2)。
そして,実際に,需要者の間で,請求人の商品と被請求人の商品についての誤認混同も生じている(なお,動画における商品は被請求人等の商品である。甲42)。特に,福島県郡山市所在する有限会社オーツーは,ハワード社の商品を広告する際に(甲38の1?5,40の3,43の1・2),「1983年,アメリカのマサチューセッツ州で誕生したニットメーカーです。」などと請求人のGoodwearブランドについて言及しており(甲40の2?4),明らかに誤認混同している。
さらに,被請求人等は,請求人の代理人に対し,平成29(2017)年1月に,突然,被請求人等のGoodwear関連商標を請求人に譲渡することに関する連絡を入れた。その後,請求人が,直接,被請求人等とやり取りを行うことになり,被請求人等は,請求人に対し,翌月6日,被請求人等のGoodwear関連商標について,1,200,000米ドルにて請求人に譲渡する用意がある旨の連絡を入れたが(甲44),請求人は,その金額があまりにも高額であり現実的なものでなかったいうことなどもあり,これに対する返答をしなかった。
(2)社会的相当性の欠如
以上を踏まえて,被請求人等による本件商標の出願経緯に社会的相当性を欠くものがあり,その登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないか否かについて検討する。
上記(1)ア(ア)aに記載のように,被請求人等は,平成9(1997)年より,請求人のGoodwearブランドの商品を取り扱っており,被服の分野におけるGoodwearのブランドが,請求人の社名からなるとともに請求人より作り上げられたものであって,当該ブランドに係る信用が請求人に帰属するべきものであることを十分に認識していた。
そして,上記(1)ア(ア)bに記載のように,被請求人等は,ビーグッド社商標について15,000,000円で買い受けていることから,請求人のGoodwearブランドの価値も認識していたものである。それにもかかわらず,被請求人等は,ビーグッド社からビーグッド社商標を既に譲り受けていたことを秘匿しつつ,ビーグッド社を介して,ビーグッド社商標に関する請求人との交渉に実質的に関与するとともに,ビーグッド社の代理人等としても当該交渉にあたり,その際に,請求人に対し,ビーグッド社を通して,請求人と被請求人等との取引の継続を求めるなど,自らに有利な取引が約束されるよう,請求人のGoodwearブランドに関係するビーグッド社商標を不正に利用したものである。
また,上記(1)ア(イ)及び(ウ)に記載のとおり,被請求人は,当該交渉が決裂するや請求人の取引を執拗に妨害する行為を繰り返し,さらには,請求人の取引先から法的根拠もなく,賠償金やロイヤルティーの名目で金銭を得ようと企てた。
さらに,上記(1)イ(ア)及び(イ)に記載のように,被請求人等は,長年にわたって,請求人のGoodwearブランドヘのすり寄り行為をした上で,その氷山の一角として,繊研新聞社による誤った広告掲載が明らかとなり,請求人がそのことを指摘するや,その報復措置として,請求人に対する執拗,かつ,請求人の日本における取引先をも巻き込んだ妨害行為を再開し,請求人の多数の取引先への根拠のない警告行為,勝つ見込みの乏しい取消審判請求などを行い,その対応があまりにひどかったことから請求人は警察に相談することを余儀なくされた。
上記(1)イ(ウ)に記載のように,それと時を同じくして,被請求人等は,請求人のGoodwearブランドへの明らかなすり寄りと考えられる新出願を多数行い,その一環として,本件商標の出願も行われた。
上記(1)ア(ア)(b),(1)イ(エ)及び(1)ウに記載のように,その後,被請求人が,本件商標を自ら使用したり,取引先に使用させたりする際に,本件商標の色について,請求人のGoodwearブランドのシンボルカラーである赤色と金色を組み合わせたものを使っていること,本件商標に関する(中国製の)製品について,中国製のものであるにもかかわらず,請求人のGoodwearブランドの起源である米国の国旗を目立つようにその製品ラベルなどに使用していること,並びに請求人のGoodwearブランドについて,その譲渡対価及び認知度等に照らし高い価値があると解されることにも鑑みれば,被請求人等は,本件商標の登録出願当時,請求人のGoodwearブランドにフリーライドする意思を有していたものと解される。実際に,本件商標の使用に関し,取引者・需要者の間で,請求人の商品と被請求人の商品についての誤認混同が生じている。
加えて,本件商標の登録出願が,繊研新聞社に関する広告掲載から始まった被請求人等による執拗な報復措置が行われている際の出願であること,本件商標の登録出願の前後で,被請求人等よる明らかに請求人のGoodwearブランドヘのすり寄りと解される悪質な出願が多数なされていること,及び長年にわたり被請求人等による請求人に対する妨害行為が執拗に行われてきた経緯も踏まえれば,本件商標の出願は,請求人の日本におけるビジネスを妨害する目的でなされたものというべきである。
さらに言うと,被請求人等は,請求人に対し,自らの(本件商標を含む)Goodwear関連商標について,1,200,000米ドルという極めて高額の譲渡対価を提示しており,商標を高額で買い取らせることにより,請求人から多額の金銭を得ようという不正の目的も有していたものといえる。
してみれば,被請求人等による本件商標の出願は,適正な商道徳に反し,著しく社会的妥当性を欠く行為というべきであり,これに基づいて被請求人を権利者とする商標登録を認めることは,公正な取引秩序の維持の観点からみても不相当であって,「商標を保護することにより,商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り,もって産業の発達に寄与し,あわせて需要者の利益を保護する」という商標法の目的(同法1条)にも反するというべきである。
よって,本件商標は,その出願の経緯等に照らし,商標法4条1項7号所定の「公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標」に該当するものである。
なお,請求人が本件商標について,「公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標」に該当すると主張する内容に鑑みれば,請求人が本審判請求について利害関係を有することは明らかである(商標法46条2項)。
(3)被請求人の主張に対し
ア 前審判における商標法4条1項19号と本件審判における同項7号の主張は,同一の無効理由にかかる主張ではなく,根拠条項を全く異にする主張であって,本件審判が前審判と「同一の事実」に基づいて請求されているものでないことは明らかである。
イ 被請求人等は,請求人の主張が,「自らのビジネスの邪魔になる」,「自らの新規商標登録の邪魔になる」,「ビジネス会話で,自らが買いたい値段より高いオファーをした」といった「私的な利害の調整」に関するものにすぎず,公的な秩序の維持に関わる商標法4条1項7号の問題ではないから,本審判請求は成り立たないなどと主張する。
しかしながら,被請求人等が,請求人の主張の要約として示す上記内容はあまりに独善的なものである,本件紛争の本質を捉えていないものであるばかりか,請求人への責任転嫁ともとれる要約であって不当極まりない,本件商標の出願に至る経緯や目的(すなわち,被請求人等の悪意性等)に鑑みれば,被請求人等による本件商標に係る出願は,適正な商道徳に反し,著しく社会的妥当性を欠く行為というべきものであり,これに基づいて被請求人等を権利者とする商標登録を認めることは,公正な取引秩序の維持の観点からみても不相当であって,「商標を保護することにより,商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り,もって産業の発達に寄与し,あわせて需要者の利益を保護する」という商標法の目的(同法1条)にも反するものというべきである。
なお,被請求人等は,私益と公益の違いを強調しているようにも見受けられるが,商標法は,元々,私益の保護を通じて公益を保護する法律であり(同法1条),私益と公益を区別することには難しい一面があることからすると,被請求人等が述べるように,本件が単純な私的紛争であるとは到底言い切れないものである。
2 結論
以上より,本件商標は,商標法4条1項7号に該当し,同法46条1項1号の規定により,無効とすべきである。

第4 被請求人の答弁
被請求人は,結論同旨の審決を求める,と答弁し,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として乙1?12を提出した。
1 主位的主張の理由
請求人は,本件請求の無効理由は「商標法4条1項7号」であると主張するが,その実質は,「商標法4条1項19号」であり,前審無効理由と同一であるから,「商標法46条1項・・・の審決が確定したときは,当事者及び参加人は,同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することができない」(商標法56条1項で準用する特許法167条)に違反するから,即刻,却下されるべきである。
2 予備的主張1の理由
(1)一事不再理(主位的主張)が成立しない場合であっても,本審で請求人が主張する事実は,「不正の目的(不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。)」をもって使用をするもので,請求人商標の周知性,請求人に係る業務との混同惹起であり,これらは全て確定した前審で,請求人が主張した「商標法4条1項10号・11号・15号・19号」の無効事由の存否を左右する「主要な争点」として,当事者が十分争い又争う機会を与えられ,かつ,特許庁がこれらを審理して審決理由の中で「否認」の判断を下しているものである。したがって,そのような判断には,これと同一の争点を主要な争点とし請求利益も同等な後の本件無効審判請求における審理において,当事者に対し前の訴訟における特許庁の判断に反する主張立証を許さず,後の無効審判請求が係属する特許庁に対しこれと矛盾する判断を禁止する効力が生じる(信義則による後訴の遮断:最高裁昭和51年9月30日第一小法廷判決(昭和49年(オ)第331号)(民集30巻8号779頁,判時829号47頁,判タ341号161頁) ジュリスト別冊「民事訴訟法判例百選[第5版]」168-169頁参照)。
以上より,本審決における主張事実に対する判断は,下記のとおりとなる。
ア 「不正の目的(不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。)」をもって使用をするものとは,認められない。
イ 請求人商標の周知性は,認められない。
ウ 請求人に係る業務との混同惹起は,認められない。
したがって,本件商標は,「商標法4条1項7号」に違反して登録されたものではなく,同法46条1項の規定により,その登録を無効とすることはできないとの結論となるから,本件審判請求は,棄却(又は却下)されるべきである。
(2)予備的主張1の理由の追加説明
ア 前審・後審は形式的に訴訟物を異にするとはいえ,訴えによって請求人が得ようとする目的が同じもの(本件商標を無効にすること)であり,後審が実質的には前審の蒸返しであること。
イ 請求人は,前審で,後審と同じ請求をすることに支障がなかったのにそれをしなかったこと。
ウ 請求人による本無効審判請求の提起時すでに登録後約5年半が経過しており,無効理由が後発的理由でないにもかかわらず,かつ,請求人が登録の事実に気づいていながら何年も無効審判請求の提起を不当に留保した事実に鑑みるなら,その様な行為を容認した場合,商標権者の地位を不当に長く不安定な状態におくことになること。
したがって,請求人の後審提起は,信義則(社会共同生活において,権利の行使や義務の履行は,互いに相手の信頼や期待を裏切らないように誠実に行わなければならないとする法理)上到底許されるものではない。(ジュリスト別冊「民事訴訟法判例百選[第5版]」168-169頁 参照)
3 予備的主張2の理由
(1)請求人適格
公益的無効理由に基づき提起された本審判請求において,実際には請求人は「単なる私益的利害関係者」にすぎないが,請求人が商標法46条2項適格に窮して主張する「公益を被るべき万人の中の奇特な一人」とも形式的にみなせなくもないから,ここでは敢えて請求人適格を争うことはしない。
(2)請求人が主張するような「被請求人が不正の目的を持って行動した事実」は全くないから,商標法4条1項7号の無効理由は存在しない。
ア 請求人の主張は成り立たないこと(主張内容の不成立)
請求人主張は全て,根拠を欠くか,当を得ないものか,前審の確定効により主張すら許されないものかのいずれかに尽きるから,請求人の主張が成り立たないことは明白である。
イ 請求人の主張は,商標法4条1項7号無効理由に該当しないこと(無効理由と主張内容の矛盾)
請求人の主張は,「自らのビジネスの邪魔になる」・「自らの新規商標登録の邪魔になる」・「ビジネス会話で,自らが買いたい値段より高いオファーをした」といった『私的な利害の調整』に関するものに終始している。
請求人が無効理由の根拠とする商標法4条1項7号は,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」のある商標は商標登録をすることができないとしているところ,同号は,商標自体の性質に着目したものとなっていること,商標法の目的に反すると考えられる商標の登録については,同法4条1項各号に個別に不登録事由が定められていること,商標法においては,商標選択の自由を前提として最先の出願人に登録を認める先願主義の原則が採用されていることを考慮するならば,商標自体に公序良俗違反のない商標が同法4条1項7号に該当するのは,その登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に限られるものというべきであり,私的な利害の調整は,原則として,公的な秩序の維持に関わる同号の問題ではないというべきである(東京高裁平成14年(行ケ)第616号同15年5月8日判決)。
したがって,請求人主張に一部正しいと認められるものがあると仮定しても,上記判示のとおり,請求人主張は「私的な利害の調整」に関するものであり,公的な秩序の維持に関わる商標法4条1項7号(公序良俗違反)の問題ではないから,本件審判請求は成り立たない。
ウ 請求人の審判請求行為自体に対する「権利失効の原則」・「権利の濫用」の適用
本件審判請求のように後発的でない無効理由(登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合)とするときは,本来5年の除斥期間を適用してしかるべきだし,さらには無制限の無効審判請求提起期間を容認する必要はない。
特に,公益的無効理由による無効審判請求制度は,本来,登録査定時の不備を補完するために,不備に気付いた者が「公益を害するものを即刻排除するという精神」に基づき,可及的速やかに特許庁に対して情報提供を行う義務を有すべき性質のものであり,請求人が公益的理由での不備を自らの私益的利害に絡めて請求人の都合の良い時に活用できる権利などであっていいはずがない。正に,請求人の本審判請求行為は,憲法12条及び民法1条3項に禁止する「権利の濫用」そのものである。
したがって,請求人が無効審判請求を何年も不当に留保した事実に対して「権利失効の原則(権利者が信義に反して権利を長い間行使しないでいると,権利の行使が阻止されるという原則。この原則により,消滅時効,除斥期間よりも前に権利が行使できなくなる。)」を,同時に公益的利益実現のための権利を私益実現のために利用しようとした行為に対して「権利の濫用」を適用し,本審判請求は即刻却下もしくは棄却されてしかるべきである。

第4 当審の判断
1 被請求人の主位的主張
(1)無効審判請求の一事不再理について
商標法56条1項が準用する特許法167条は,「特許無効審判……の審決が確定したときは,当事者及び参加人は,同一の事実及び同一の証拠に基づいてその審判を請求することができない」旨規定する。同条は,当事者(参加人を含む。)の提出に係る主張及び証拠等に基づいて判断をした審決が確定した場合には,当事者が同一事項に係る主張及び立証をすることにより,確定審決と矛盾する判断を求めることは許されず,また,審判体も確定審決と矛盾する判断をすることはできない旨を規定したものである。同条が設けられた趣旨は,(a)同一事項に係る主張及び証拠に基づく矛盾する複数の確定審決が発生することを防止すること,(b)無効審判請求等の濫用を防止すること,(c)権利者の被る無効審判手続等に対応する煩雑さを回避すること,(d)紛争の一回的な解決を図ること等にあると解される。そうすると,無効審判請求においては,「同一の事実」とは,同一の無効理由に係る主張事実を指し,「同一の証拠」とは,当該主張事実を根拠づけるための実質的に同一の証拠を指すものと解するのが相当である(知財高裁平成25年(行ケ)第10226号同26年3月13日判決)。
被請求人は,既に確定している前事件の審決との関係から,本件審判の請求は,商標法56条において準用する特許法167条に規定により,成り立たない旨主張する。
しかしながら,前事件における無効理由は,本件商標が商標法4条1項10号,同項11号,同項15号及び同項19号に違反してされた旨を主張するものであったのに対し,本件審判における無効理由は,同項7号に違反してされた旨を主張するものであるから,同一の無効理由に係る主張事実に基づいて商標登録無効審判を請求したものでないことは明らかである。
したがって,本件審判の請求は,商標法56条1項で準用する特許法167条の規定には該当しないから,被請求人の上記主張は採用できない。
(2)請求人適格について
請求人が本件審判を請求する利害関係を有することについては,被請求人はこれについて争っておらず,また,当審は請求人が本件審判を請求する利害関係を有するものと認める。
以下,本案に入って審理する。
2 商標法4条1項7号該当性について
商標法4条1項7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には,(a)商標の構成自体がきょう激,卑わい,差別的若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合,(b)商標の構成自体が前記のものでなくとも,指定商品又は指定役務について使用することが,社会公共の利益に反し,又は社会の一般的道徳観念に反する場合,(c)他の法律によって,その使用等が禁止されている場合,(d)特定の国若しくはその国民を侮辱し,又は一般に国際信義に反する場合,(e)当該商標の登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあり,その登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するとして到底容認し得ないような場合,などが含まれると解される(知財高裁平成17年(行ケ)第10349号同18年9月20日判決)。
本件商標は,別掲に示すとおり,「Goodwear」の欧文字を横書きし,その外側に,該文字を籠文字風に縁取りし,当該縁取りにつなげて,右端上方には六角形を表してなるものである。
そして,本件商標の構成中の「Goodwear」の欧文字部分からは,「グッドウェア」の称呼を生じるものの,該文字部分は,「Good」及び「wear」が,それぞれ,「良い」及び「衣服,着用」の意味を有する親しまれた英語であって,全体として,「良い被服(着るもの)」程の意味合いを容易に理解させるものであるから,当該文字自体,その指定商品との関係においては,自他商品の識別標識としての機能は弱いものである。
そうすると,上記の意味合いを理解させる本件商標は,その構成自体が非道徳的,きょう激,卑わい,差別的若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形からなるものではないことは明らかである。
また,本件商標をその指定商品について使用することが,社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反するとの理由は見いだせず,他の法令等に反するとの事由や,国際信義にもとる行為であるとみるべき事情も認められないものである。
さらに,請求人提出の全証拠によっても,本件商標の出願経緯等に不正の利益を得る目的その他不正の目的があるなど社会通念に照らして著しく社会的相当性を欠くものがあったものと認めることはできないし,本件商標が登録になった後,被請求人が請求人に対して,何らの実質的損害がないにもかかわらず不当な要求をする警告書等を送付したというような事実も見いだせない。
なお,請求人は,ビーグッド社とのビーグッド社商標の譲渡交渉経緯や件外請求人商標に対する被請求人による異議申立てや取消審判(商標法53条1項,同法51条1項,同法50条1項)等について述べているが,いずれの商標も本件商標とは構成態様を異にするものであり,かつ,「Goodwear」の文字部分の識別力が弱いことも併せ考慮すれば,当該経緯等が,本件の審理判断に影響を及ぼすものではない。
したがって,上記観点からは,本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当するということはできない。
ところで,上記のような場合ばかりではなく,商標登録を受けるべきでない者からされた登録出願についても,商標保護を目的とする商標法の精神にもとり,商品流通社会の秩序を害し,公の秩序又は善良な風俗に反することになるから,そのような者から出願された商標について,登録による権利を付与しないことを目的として商標法4条1項7号が適用される余地がなくはない。
しかし,商標法は,出願人からされた商標登録出願について,当該商標について特定の権利利益を有する者との関係ごとに,類型を分けて,商標登録を受けることができない要件を,同法4条各号で個別的具体的に定めているから,このことに照らすならば,当該出願が商標登録を受けるべきでない者からされたか否かについては,特段の事情がない限り,当該各号の該当性の有無によって判断されるべきであるといえる。
すなわち,商標法は,商標登録を受けることができない商標について,同項8号で「他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号,芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)」と規定し,同項10号で「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標……」と規定し,同項15号で「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標……」と規定し,同項19号で「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって,不正の目的……をもって使用をするもの……」と規定している。商標法のこのような構造を前提とするならば,少なくとも,これらの条項(上記の同法4条1項8号,10号,15号,19号)の該当性の有無と密接不可分とされる事情については,専ら,当該条項の該当性の有無によって判断すべきであるといえる。
また,当該出願人が本来商標登録を受けるべき者であるか否かを判断するに際して,先願主義を採用している日本の商標法の制度趣旨や,国際調和や不正目的に基づく商標出願を排除する目的で設けられた商標法4条1項19号の趣旨に照らすならば,それらの趣旨から離れて,同法4条1項7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域にまで拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは,商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになるので,特段の事情のある例外的な場合を除くほか,許されないというべきである。
そして,特段の事情があるか否かの判断に当たっても,出願人と,本来商標登録を受けるべきと主張する者(例えば,出願された商標と同一の商標を既に外国で使用している外国法人など)との関係を検討して,例えば,本来商標登録を受けるべきであると主張する者が,自ら速やかに出願することが可能であったにもかかわらず,出願を怠っていたような場合や,契約等によって他者からの登録出願について適切な措置を採ることができたにもかかわらず,適切な措置を怠っていたような場合(例えば,外国法人が,あらかじめ日本のライセンシーとの契約において,ライセンシーが自ら商標登録出願をしないことや,ライセンシーが商標登録出願して登録を得た場合にその登録された商標の商標権の譲渡を受けることを約するなどの措置を採ることができたにもかかわらず,そのような措置を怠っていたような場合など)のような,出願人と本来商標登録を受けるべきと主張する者との間の商標権の帰属等をめぐる問題は,あくまでも,当事者同士の私的な問題として解決すべきであるから,そのような場合にまで,「公の秩序や善良な風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合と解するのは妥当でない。
以上を踏まえて更に考察するに,請求人提出の証拠及び主張によれば,請求人は,昭和58年(1983年)に米国において,ティーシャツ等への請求人商標の使用を開始し(甲3),遅くとも平成2年(1990年)頃には我が国への進出を果たしており(甲4),また,同11年(1999年)6月後半の時期に,請求人は出利葉氏から,請求人商標について,我が国における独占的なライセンスを受けたい旨の申出を受けていることがうかがえる。
そうとすれば,請求人は,平成2年(1990年)頃の我が国への進出にあたって,請求人商標を自ら登録出願する機会は十分にあったというべきであり,また,被請求人からの接触を受けた同11年(1999年)6月後半の時期においても,請求人は,速やかに請求人商標を登録出願することができたものである。
そして,上記のとおり,被請求人は,本件商標の登録出願前の平成11年(1999年)6月後半の時期に,請求人に対し,我が国における独占的なライセンスを受けたい旨の申出をしてきたというのであるから,被請求人は,請求人商標の存在を認識していたものといえる。
しかし,そうであるとしても,商標権の帰属等をめぐる問題は,あくまでも,当事者同士の私的な問題として解決すべきであり,しかも,請求人は,このときにおいても被請求人に対し,請求人のGoodwear関連の商標登録出願をしないことや,出願をした場合には請求人へ帰属させる旨の契約や交渉等ができたにもかかわらず,そのような措置を講じた事実は見いだせず,かつ,自ら登録出願しなかった責めを被請求人に求めるべき格別な事情を見いだすこともできない。
以上からすると,本件商標について,商標法の先願登録主義を上回るような,その登録出願の経緯に著しく社会的相当性を欠くものがあるということはできないし,そのような場合には,あくまでも,当事者間の私的な問題として解決すべきであるから,公の秩序又は善良の風俗を害するというような事情があるということはできない。
したがって,本件商標は,商標法4条1項7号に該当しない。
3 むすび
以上のとおり,本件商標の登録は,商標法4条1項7号に違反してされたものではないから,同法46条1項の規定に基づき,その登録を無効にすべきでない。
よって,結論のとおり審決する。
別掲 別掲(本件商標)






審理終結日 2019-03-07 
結審通知日 2019-03-11 
審決日 2019-03-28 
出願番号 商願2012-22538(T2012-22538) 
審決分類 T 1 11・ 22- Y (W25)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 浜岸 愛 
特許庁審判長 小出 浩子
特許庁審判官 平澤 芳行
田村 正明
登録日 2012-08-31 
登録番号 商標登録第5517873号(T5517873) 
商標の称呼 グッドウエア、グッド 
復代理人 千田 史皓 
代理人 山本 健策 
代理人 井▲高▼ 将斗 
復代理人 難波 早登至 

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