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審決分類 審判 全部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Z15
管理番号 1361638 
審判番号 取消2016-300870 
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2016-12-14 
確定日 2020-03-23 
事件の表示 上記当事者間の登録第4341032号商標の登録取消審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 登録第4341032号商標の商標登録を取り消す。 審判費用は,被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4341032号商標(以下「本件商標」という。)は,「OBERHEIM」の文字を標準文字で表してなり,平成10年2月26日に登録出願,第15類「楽器,演奏補助品,音さ,調律機」を指定商品として,同11年12月3日に設定登録され,その後,同21年10月13日に存続期間の更新登録がなされている。
なお,本件審判の請求の登録は,平成28年12月26日になされている(以下,当該登録前3年以内を「要証期間」という。)。

第2 請求人の主張の要点
請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第17号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は,その指定商品中第15類「楽器,演奏補助品,音さ,調律機」について,継続して3年以上日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用した事実が存しないから,商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。
2 答弁に対する弁駁
(1)商標の使用者について
被請求人(本件商標の商標権者)であるギブソン・ブランズ・インク(以下「ギブソン社」という。)は,アートリア社(Arturia 所在地:30 Chemin du Vieux Chene Meylan FRANCE 38240,以下「アートリア社」という。)が通常使用権者である旨主張しているが,使用許諾契約書等の上記事実を証明する証拠を何ら提出していない。
(2)使用商標について
アートリア社のウェブサイト(乙1),アマゾンのウェブサイト(乙2)及びROCK ONのウェブサイト(乙3)における「Oberheim」の使用は,商品「V Collection 4」又は「V Collection Classics」にバンドルされた商品の内容を示しているにすぎず,販売される商品の出所表示機能としての役割を果たしていないばかりでなく,その使用態様は,「Oberheim SEM V」全体で一体不可分の態様で使用されているものであり,上記各ウェブサイトに示される標章「Oberheim SEM V」は,本件商標「OBERHEIM」との関係では,社会通念上同一の範囲を超えるものである。
また,「Oberheim」の語は,商品の内容・特性・品質等を示すものであり,自他商品識別標識として使用されているものでなく,商標的使用に該当するものではない。
アマゾンのウェブサイト(乙4)に係る商品の商標は,「OBERHEIM SEM V」又は「Oberheim SEM V」と考えるのが妥当であり,これより生じ得る称呼は「オーバーハイムエスイーエムブイ」であるところ,当該称呼は格別冗長とはいえず,一連一体によどみなく称呼できる。商品パッケージ上では,2段組構成で表示されているものの,下段の「SEM V」が,上段の略中間部から始まることにより,上段「Oberheim」から下段「SEM V」への連続性が暗示的に示されている。また,「OBERHEIM」又は「Oberheim」の語は,商品の内容・特性・品質等を示すものであり,自他商品識別標識として使用されているものではなく,商標的使用に該当するものではない。
アマゾンのウェブサイト(乙4)における使用商標は,本件商標と社会通念上同一の範囲を超えるものである。
(3)本件商標に関する被請求人の動向について
被請求人は,本件商標と同一の商標「OBERHEIM」について,第15類の指定商品を指定して,欧州連合商標登録を有しているところ(甲6の1),該欧州連合商標に対し,2016年12月14日付で請求人より不使用に基づく取消請求を受け(甲6の2),その答弁書において,上記第15類の指定商品ではなく,第9類に該当するコンピュータ・ソフトウェアに対する使用証拠を提出している。
被請求人は,上記取消請求の請求日の直後ともいえる,2016年12月28日付で,米国において商標「OBERHEIM」について,第15類だけでなく,コンピュータソフトウェアを含む第9類を指定して,新たに商標登録出願をしている(甲7)。
さらに,被請求人は,我が国においても,本件審判の請求日後の2017年5月2日付で,商標「OBERHEIM」について,第9類の指定商品「コンピュータソフトウェア,コンピュータプログラム,電子応用機械器具及びその部品」を指定して,新たに商標登録出願を行っている(甲8)。
(4)使用証明対象商品
ア アートリア社のウェブサイト(乙1),アマゾンのウェブサイト(乙2)及びROCK ONのウェブサイト(乙3)に示された商品について
アートリア社のウェブサイト(乙1),アマゾンのウェブサイト(乙2)及びROCK ONのウェブサイト(乙3)に示される商品「V Collection 4」又は「V Collection Classics」は,過去のシンセサイザー,キーボード,ドラムマシン等のサウンドをモデリングすることにより,コンピュータプログラミングを用いてこれらの音を再現することを可能としたコンピュータソフトウェアであり,「音響制作,音楽制作」に用いるものであるので,請求に係る商品である第15類の商品ではなく,第9類「音楽及び音響の制作及び編集用のコンピュータソフトウェア」に該当するものである。
イ アマゾンのウェブサイト(乙4)に示された商品について
アマゾンのウェブサイト(乙4)に示される商品「OBERHEIM SEM V」(以下「本件商品」という。)は,「アナログ・シンセサイザーの名機:Oberheim SEMを忠実にモデリング」し,その動作特性を,コンピュータプログラミングを用いて,できるだけ忠実に再現することをシミュレーションにより可能とした,音響作成用のコンピュータソフトウェアである。該商品は,「パソコン,モバイルデバイスなどにインストールし」て,楽曲の音響制作に使用するソフトウェアであるから,請求に係る商品である第15類の商品ではなく,むしろ,第9類「音楽及び音響の制作及び編集用のコンピュータソフトウェア」に該当するものである(甲4)。
ウ 本件商品とシンセサイザーとの関係
本件商品をインストールしたコンピュータに接続するのは,必ずしもシンセサイザーである必要はない。コンピュータに接続されたシンセサイザー自体は,シンセサイザーという楽器としてではなく,単なる入力装置として機能しており,シンセサイザーの代わりに,コンピュータに接続するのは,いわゆるコンピュータ用キーボードや,シンセサイザー機能を有しないただの鍵盤,マウス,トラック・パッド等,入力装置として機能するものであれば何でもよい(甲9)。例えば,本件商品をインストールしたコンピュータを起動し,マウスを入力手段として本件商品を操作し,該コンピュータ上で楽曲や音響の制作,録音等が可能である。
すなわち,本件商品は,シンセサイザーと一体化しているわけではなく,シンセサイザーの専用部品でも付属品でもない。
エ 本件商品がなければシンセサイザーが製品として成り立たない等の事情はなく,本件商標がシンセサイザー専用の用途で使用されている事実も存在しない。また,本件商品は,ウェブサイト(乙1?乙4)のとおり,本件商品自体が単独のソフトウェア製品として商取引の目的とされ,市場に流通している。
オ MIDI規格・MIDIケーブル・MIDIコントローラー等について
MIDI規格が電子楽器の演奏データ等を機器間でデジタル転送するための世界共通規格であることは,請求人も認めるところである。しかしながら,本件商品をインストールしたパソコンと,電子鍵盤や鍵盤付シンセサイザーをMIDIケーブルで接続して使用する事実をもって,本件請求に係る商品に含まれる商品「シンセサイザー拡張モジュール,シンセサイザーの部品及び付属品」への本件商標の使用が立証されていることにはならない。
(ア)MIDIの用途について
MIDIの用途は,「音楽の演奏や制作に利用される」(乙14)ものであって,音楽演奏のみに特化されているものではないし,また,MIDI接続された機器が一体となって,全体として楽器としてのみ把握・機能するものでもない。
MIDIケーブルで接続された電子鍵盤等は,単なる入力装置として,入力対象(例えば,コンピュータ)にMIDIケーブルを介して接続されているだけであり,入力装置の接続方法はMIDIケーブルに限らない。よって,MIDIケーブルによる接続をもってして,本件商品が,シンセサイザーと一体のもの,あるいは,シンセサイザーの専用部品又は付属品として把握されるべきことにはならない。
(イ)MIDI規格以外の入力装置の使用
電子鍵盤や鍵盤付シンセサイザー等のいわゆる「MIDIコントローラー」を使用せずに,USB接続であるマウス等を使用して本件商品を操作することが可能である。
被請求人の商品「Oberheim SEM V」のユーザーマニュアル(甲11)にも,例えば,「ツマミの上にマウスポインターを置き,ドラッグするようにマウスを動かしてください。」(32頁)や「バーチャル・キーボード(キーボード画面にある鍵盤)を使用することで,外部のMIDIキーボードやシーケンサーにプログラミングされたMIDIデータ(ノート情報)を使用しなくてもOberheim SEM Vの音色を聞くことができます。単純にクリックするだけで鍵盤の音程に対応した音が鳴ります。」(33頁)など,マウスでの操作が明記してある。
カ 本件商品の機能(独立動作性)について
「Oberheim SEM V」のユーザーマニュアルには,本件商品のインストール時の説明に,「インストールを行う第一段階では,インストールするアイテムを選択します。(複数選択可):・“Standalone application”はDAW無しでOberheim SEM Vを使用することができます。」との記載がある(甲11,15頁)。DAWとは「Digital Audio Workstation」の略称であり,デジタルで音声の録音,編集,ミキシング,編曲など一連の作業ができるように構成された一体型のシステム,つまり,コンピュータ上で音楽制作を行うための音楽制作用統合ソフトウェアである(甲12,甲13)。
よって,ユーザーマニュアル記載のインストール時の指示は,そのような音楽制作(DAW)に本件商品を使用することが可能であり,そのような使用が通常であることを前提として,DAW無しで,“Standalone application”モードとして音楽演奏も可能であることを示唆している。
したがって,本件商品は,音楽制作に使用するためコンピュータ上で独立して動作・機能するコンピュータソフトウェアであり,シンセサイザーと一体のもの,あるいは,シンセサイザーの専用部品又は付属品ではない。
キ 本件商品とハードウェアのシンセサイザー拡張モジュールとの関係について
本件商品とハードウェアのシンセサイザー拡張モジュールは,同列に並べて比較するべきものではない。本件商品は「音源モジュール」ではなく,「音源モジュールをソフトウェア化したもの」であり,「アナログ・シンセサイザーの名機:Oberheim SEMを忠実にモデリング」し,その動作特性を,コンピュータプログラミングを用いて,できるだけ忠実に再現することをシミュレーションにより可能とした,音響作成用のコンピュータソフトウェアである。
仮に,ハードウェアの音源モジュール(シンセサイザー拡張モジュール)は,鍵盤の有無にかかわらず,シンセサイザーそのものであるといえるとしても,上述のとおり,本件商品は音源モジュール(又はシンセサイザー拡張モジュール)ではなく,音源モジュール(又はシンセサイザー拡張モジュール)をプログラミングによりシミュレーションしたコンピュータソフトウェアであり,シンセサイザーそのものでは当然なく,また,シンセサイザーの専用部品又は付属品でもなく,コンピュータソフトウェアである。
ク 平成29年12月8日付提出の回答書における主張と同30年8月10日付提出の上申書における記載との齟齬について
被請求人は,回答書において,「本件商品はパソコン又はモバイル上で起動するだけでなく,シンセサイザーキーボードで起動して使用するものである。本件商品はシンセサイザーに追加できる機能として販売されている。」と主張し,あたかも本件商品を購入後に鍵盤付きシンセサイザーに追加でインストール可能であるかのような説明を展開し,本件商品が第15類に属するシンセサイザーの部品・付属品であることの主張の根拠としていたが(乙8?乙10),上申書において,「購入後の鍵盤付シンセサイザーに本件商品であるソフトウェアを直接インストールすることはできない。」と前言を翻している。
ケ 音楽演奏/作曲ソフトウェアの我が国における登録例
アップル社が開発・販売するmacOS/iOS用の音楽制作ソフトウェアがある。該ソフトウェアは音楽の演奏,録音等が可能である(甲14,甲15)。音楽演奏,音響制作が可能であるという点では,本件商品と共通する部分を有すると考えられるが,アップル社による商標「GARAGEBAND」の我が国における商標登録状況を調べてみると,商標登録第4741628号(甲16),商標登録第5942194号(甲17)の2件(いずれも指定商品は第9類のみ)を有していることがわかる。
また,アップル社による該ソフトウェアは,外部接続したMIDIキーボードによって操作できる(甲14)。
以上より,本件商品に係る本件商標も我が国において商標権の保護を求めるべきは,第9類のコンピュータソフトウェア関係の商品であり,また,MIDI接続が,本件商品が楽器と一体のもの,あるいは,楽器の専用部品又は付属品として認識されるべきものであることの立証に資することもないのが明らかである。
(5)まとめ
被請求人が本件商標を使用していると主張する本件商品は,コンピュータやタブレット端末にインストールされ,任意の入力装置(例えば,コンピュータ用キーボード,鍵盤,マウス,トラック・パッド等)を用いて操作される,第9類「コンピュータソフトウェア」又は「コンピュータプログラムを記憶させたDVD-ROM」に相当する商品であり,被請求人の提出した証拠によっては,第15類「楽器,演奏補助品,音さ,調律機」に含まれる商品についての本件商標の使用は何ら証明されていない。

第3 被請求人の主張の要点
被請求人は,本件審判請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第28号証を提出した。なお,被請求人が平成30年8月10日付け上申書とともに提出した証拠甲第14号証ないし甲第27号証は,それぞれ,乙第14号証ないし乙第27号証と読み替える。
1 本件商標の具体的使用事実の要点
本件商標の通常使用権者であるアートリア社は,要証期間内に我が国においてその請求に係る指定商品中「シンセサイザー拡張モジュール,シンセサイザーの部品及び付属品」について本件商標を使用している。
2 本件商標の使用について
(1)本件商標の使用者
被請求人は,アートリア社に対し,本件商標の使用を許諾し,使用を継続させている。「LICENSE AGREEMENT」及びその翻訳(乙7)は,使用許諾の事実を証する書面である。
(2)使用に係る商標
本件商標を付した本件商品(シンセサイザー拡張モジュールの一つをソフトウェア化したもの)が,使用権者であるアートリア社のウェブサイト(乙1)及び音響機器の企画・販売を行うウェブサイトROCK ON(乙3)において紹介され,インターネット通信販売サイトであるアマゾン(乙2)において販売され,使用権者の製造販売する商品「OBERHEIM SEM V」がインターネット通信販売サイトであるアマゾン(乙4)において販売されていることを示す。
上記のウェブサイトには「Oberheim」の文字が付されているところ,実際の使用態様は「Oberheim」を上段とし,字下げして二段目に「SEM V」と表示するものである(乙4)。上段の「Oberheim」は冒頭文字のみ大文字とし,その他は小文字で構成され,下段は全て大文字となっている。また,称呼「オーバーハイムエスイーエムブイ」は15音からなる冗長なものであり,簡易迅速を尊ぶ現在の商取引においては「オーバーヘイム」と省略され,「Oberheim」が1単語を示すものであり,分離して感得される。また,「Oberheim」は伝説的シンセサイザーの制作者トム・オーバーヘイム氏に由来するもので,伝説的シンセサイザーは「Oberheim」の名で周知・著名となっている。その伝説的シンセサイザー「Oberheim」の発音構造や電子回路などを再現させるために用いられるのが本件商品であり,同語は十分に自他商品識別力を有する。なお,「SEM」は「SYNTHESIZER EXPANDER MODULE」の頭文字をとった略称で,「シンセサイザー拡張モジュール」を意味するものであり,商品の内容を表す自他商品識別力のない語である。
そして,「Oberheim」は本件商標とローマ字の大文字と小文字の相互間の使用に該当し,商標法第50条第1項における登録商標と社会通念上同一と認められる商標に該当する。
(3)使用時期
アートリア社のウェブサイト(乙1)は,平成27年12月1日以降に,アマゾンのウェブサイト(乙2)は,2014年(同26年)12月19日以降現在に至り,ROCK ONのウェブサイト(乙3)は2014年(同26年)12月22日に,アマゾンのウェブサイト(乙4)は,2013年(同25年)3月19日以降現在に至り本件商品が宣伝広告され,譲渡もしくは引渡しのために展示されていることを示している。
(4)本件商品
本件商品は,第15類に属する「シンセサイザーの部品・付属品」,シンセサイザーのモジュールとして機能するものであり,楽器の部品・付属品は楽器に含まれるものである。
ア シンセサイザーとは,「電子回路における発振音波を複雑に変形,合成する電気楽器。ミュージック・シンセサイザーの略。音階,音色などの回路選択を行う前面パネルと,音階に対する音程選択を行う鍵盤とからなる。」ものである(乙5,乙6)。一般的に「キーボード(鍵盤)」と呼ばれるものがあるが,電子ピアノもエレクトーンもオルガンも全部キーボードであり,自分で音を作り出す事ができる機器が取り付けられていればシンセサイザーである。シンセサイザーには鍵盤の付いていない物も多々あり,シンセサイザー拡張モジュール(音源モジュール)の有無がシンセサイザーであるか否かのポイントで,なにかのキッカケで生み出された音の振動を,音源モジュールによって音を加工することができる。シンセサイザー拡張モジュールとは,前面パネル部分のことであり,シンセサイザーの鍵盤以外の部分である。電子回路における発振音波を複雑に変形,合成する役割を担う。
本件商品は,かかるシンセサイザー拡張モジュールをソフトウェア化したものである。ソフトウェアをパソコン,モバイルデバイスなどにインストールし,鍵盤と一体化させて使用する。
イ 本件商品はパソコン又はモバイル上で起動するだけではなく,シンセサイザーキーボードで起動して使用するものである(乙8)。
ウ 本件商品はシンセサイザーに追加できる機能として販売されている。例えばアートリア社の販売するハードウェアシンセサイザーである「ORIGIN KEYBOARD」。その商品の説明には「Origin Keyboardはキーボード奏者のためのOriginのアートリアの新しいバージョンです。OriginDesktopの傑出したモジュールシステムを維持し,それを高品質のキーボードコントローラの上に閉じられるパネルに入れました。最も著名なシンセサイザー(ARP 2600,CS-80,Jupiter-8,Oberheim SEM,Prophet 5/VS,加えてボブ・モーグ設計の二つ)及びオルガン(Tonewhee,Rotary)からすべてのモジュールを追加した直感的インターフェイスが適所に設置されています。」と記載されている。その他のハードウェアシンセサイザーに利用できるように設計されている。
また,上記「ORIGIN KEYBOARD」のインターフェイスであるデスクトップに乙10にある画面が表示され「Oberheim SEM」を指定した際にはシンセサイザーの名器の名称「minimoog」部分に「Oberheim SEM」と表示される。
エ 本件商品は,シンセサイザーの「音」自体を作出するために使用されるもので,音響制作,音楽制作に使用されるものではない。特に,本件商品はビンテージシンセサイザーと呼ばれる過去の名器の発音構造や電子回路そのものの特性まで忠実に再現することを可能とするもので,シンセサイザーと一体化して「楽器」を作出してする物に他ならない。
オ 本件商標が使用されているCD-ROM等は,楽器であるシンセサイザーの機能の主要部分を構成するシンセサイザーと一体のものであり,シンセサイザーの専用部品又は付属品として把握されるものである。シンセサイザーにとって,音源・音色の創出は本質的機能・用途というべきものであり,かかる部分を担う本件商品は,楽器の専用の部品あるいは付属品としてシンセサイザーと一体化したものである。
カ 本件商品の接続等
本件商品はWindowsやMacなどのOSを使用してパソコンにインストールされ,起動させたソフトウェアは,MIDI接続が可能な電子鍵盤や鍵盤付シンセサイザー(アートリア・オリジンキーボードや他のキーボード)とMIDIケーブルで接続され,全体として楽器として機能させることができる。
キ 本件商品は,音源モジュールであり,音声を生成する機能を果たす。音源モジュールとは,トーン・ジェネレータともいい,鍵盤等の演奏インターフェイスを分離・排除した,音声生成部のみからなるシンセサイザーである(乙20)。シンセサイザーは鍵盤一体型のものが一般的であるが,鍵盤はあくまで演奏情報を入力するインターフェイス,コントローラーの一例にすぎない。鍵盤を切り離し,シンセサイザーの音色を合成する部分を一つのユニットとして独立させたものが音源モジュールである。これら音源モジュールは,演奏インターフェイスを削除した代わりに演奏情報入力端子,多くはMIDI規格準拠の入出力端子を備え,同規格に対応したキーボードなどのMIDIコントローラーを同規格ケーブルにより接続して演奏する。
音源モジュールはハードウェアのもの,ソフトウェアのものが存在する。ハードウェアのSEMもMIDIケーブルで電子鍵盤等に接続されることが,同ハードウェアのケーブル背面接続部の写真で確認できる(乙21)。
本件商品は,伝説のシンセサイザー創作者であるトム・オーバーハイム氏が手掛けたハードウェアの音源モジュールをソフトウェア化したものである。
本件商品は,あくまでもビンテージのシンセサイザーの音や演奏機能を生成して提供するものであり,「音楽及び音響の制作及び編集用のコンピュータソフトウェア」ではない。本件商品は独立して起動しても,音楽制作又は音響制作することはできず,シンセサイザーや電子キーボードを演奏するための音源や演奏に関する機能を提供するために当然に単独で起動することができるソフトウェアである。
本件商品は,音楽及び音響の制作並びに編集の「音源」として用いられる場合もあり,そのためにDAWを経由して起動できることをもって,本件商品が「音楽及び音響の制作並びに編集用のコンピュータソフトウェア」であることにはならないし,そのような使用が通常であることが前提となってはいない。
ク 鍵盤付シンセサイザーへのインストールについて
購入後の鍵盤付シンセサイザーに本件商品を直接インストールすることはできない。あくまでパソコンでソフトウェアを起動し,パソコンとキーボード付シンセサイザーをMIDIケーブルで接続することにより,追加音源モジュールとして本件商品の演奏が可能となる。
(5)使用行為
本件商品は,第15類に属する「シンセサイザーの部品・付属品」として,シンセサイザーのモジュールとして機能するものであり,楽器の部品・付属品は楽器に含まれるものである。また,その使用に際してシンセサイザーに「Oberheim」の文字が表示され,ソフトウェアの包装に「OBERHEIM」の文字が表示されるものであるから(乙1?乙4),商標法第2条第3項第1号「商品又は商品の包装に標章を付する行為」,同項第2号「商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡」等する行為に該当する。
(6)むすび
本件商標は,要証期間内に我が国において,通常使用権者によりその請求に係る指定商品中「シンセサイザー拡張モジュール,シンセサイザーの部品及び付属品」について使用されていることが明らかである。

第4 当審の判断
被請求人は,要証期間内に,通常使用権者である「アートリア社」が,請求に係る指定商品中の「シンセサイザー拡張モジュール,シンセサイザーの部品及び付属品」について本件商標を使用している旨主張するので,以下検討する。
1 被請求人提出の証拠の内容
(1)本件使用許諾契約(乙7)は,本件商標権者とアートリア社との間で締結された,2010年10月9日付けの商標使用許諾契約書であるところ,同書には,「ライセンサー(審決注:商標権者)は,「Oberheim」のブランドを所有している。」及び「1.ライセンス…ライセンサーはライセンシー(審決注:アートリア社)に対し,ライセンス対象商標を,ライセンシーの音楽ソフトウェア(「音楽用ソフトウェア」)について,…非専用・移転不可・サブライセンス不可の権利,ライセンス及び特権を付与する。」の記載がある。
(2)2014年12月19日掲載のインターネット通販サイト「Amazon.co.jp」(乙2)において,「ARTURIA ソフトウェア シンセサイザー V COLLECTION 4」の見出の下,「V COLLECTION 4に含まれるインストゥメンツの概要」に商品名「Oberheim SEM V」とする商品が掲載され,その説明として「トム・オーバーハイム氏による世界で最初のシンセサイザー拡張モジュールのひとつをソフトウェア化」及び「詳細情報」(4葉目)には,「デジタルメディアフォーマット」,「ダウンロードファイル形式」及び「メディア形式」の項に,いずれも「DVD-ROM」の記載があり,「OS」の項に「Windows 7以降/Mac OSX 10.8以降」の記載がある。
(3)アートリア社は,2014年(平成26年)12月22日掲載のウェブサイト「Rock oN Line eStore」(乙3)において,「V COLLECTION 4」を紹介した。「V COLLECTION 4に含まれる13のインストゥメンツの概要」の見出しの下,同3頁には,商品名「Oberheim SEM V」とする商品が掲載され,その説明として「・・・シンセサイザー拡張モジュールのひとつをソフトウェア化。」と記載されている。
(4)インターネット通販サイト「Amazon.co.jp」(乙4。印刷日は平成29年5月2日)において,アートリア社の「OBERHEIM SEM V」ソフトウェア・シンセサイザー【国内正規品】とする商品について,ディスク状の商品と包装パッケージの画像が掲載され,それぞれに「Oberheim」及び「SEM V」の文字が表示されている。そして,当該サイトの2頁の下部には,商品の説明として「Autria『OBERHEIM SEM V』では,このSEM独自のアナログサウンドをソフトウェアとしてお楽しみ頂けます。」と記載がある。当該ウェブサイトにおける本件商品の取扱い開始日は,平成25年3月19日である。
(5)「MIDI」とは,シンセサイザーや音源ユニットなどの電子楽器を制御するための規格(乙15),楽器の音のデジタルデータとして記録するときの統一規格(乙16),・・・・主に電子楽器の演奏データをデジタル転送するための規格(乙17)であり,「MIDIコントローラー」とは,MIDI規格を利用した電子楽器の演奏やMIDI規格を利用した諸機器の制御に用いる入力機器の総称(乙19)である。
2 判断
(1)通常使用権者について
上記1(1)によれば,本件商標権者とアートリア社との間には,2010年(平成22年)10月9日以降,商標「Oberheim」に関する使用契約が存しており,本件商標と使用契約に係る商標はそのつづりを同じくすることからすれば,アートリア社は,本件商標の通常使用権者であるということができる。
(2)本件商品について
ア 上記1(2)ないし(4)によれば,本件商品は,シンセサイザー拡張モジュールのひとつをソフトウェア化したコンピュータソフトウェアであり,コンピュータのオペレーティングシステムによって起動されるソフトウェアである。
イ 本件商品は,コンピュータで起動させた後,ミュージックシンセサイザー等の楽器にMIDIケーブル(MIDIとは,電子楽器の演奏データをデジタル転送するための規格)によって接続するものの,被請求人の主張によれば,その接続はオリジンキーボードや他のキーボードに接続されるものであることから,特定の楽器(メーカー,機種,型)の演奏に限って用いられるものでなく,MIDIのインターフェイスを有する機器であれば汎用的に使用可能な商品である。
ウ 本件商品は,単独のソフトウェア製品として市場に流通しているものであり(乙1?乙4),鍵盤付シンセサイザーに直接インストールすることができず,パソコン等でソフトウェアを起動した上でパソコンと鍵盤付シンセサイザーとをMIDIケーブルと接続することによって演奏が可能となるものであるという被請求人の主張を併せみれば,楽器と一体になっているものではなく,楽器とは別個に商取引の対象となっている。
エ 本件商品は,ソフトウェアを起動する端末(パソコン等)と対応するMIDIコントローラーとをMIDIケーブルによって接続して使用されるものであり,本件商品にプログラミングされたデータを,MIDIケーブルを通じて,MIDI規格を利用した諸機器に送り,それを制御することによって音を合成するにすぎない。
以上のことからすると,本件商品は,シンセサイザー拡張モジュールをソフトウェア化したコンピュータソフトウェアであり,MIDIコントローラーによって音を制御する機能を備えたコンピュータプログラムといえる。
(3)本件商品が本件指定商品の範ちゅうに含まれるか
上記のとおり,本件商品は,音源モジュールをソフトウェア化したものであって,コンピュータプログラムである。
これに対し,本件審判の請求に係る指定商品中,第15類「楽器」とは,「音楽を演奏するために用いる器具。弦楽器・管楽器・打楽器・鍵盤楽器などの総称」(大辞林第三版:株式会社三省堂)である。
そうすると,本件商品は,音源モジュールをソフトウェア化したコンピュータプログラムであり,それ自体が音楽を演奏するために用いる器具ということはできないものであるから,本件審判の請求に係る指定商品中第15類に属する「楽器」の範ちゅうに含まれる商品とみることはできない。また,本件商品が,請求に係るその余の商品「演奏補助品,音さ,調律機」の範ちゅうに含まれると見るべき事情も見いだせない。
(4)小括
以上よりすると,本件商標の通常使用権者は,要証期間に,本件審判の請求に係る指定商品である第15類「楽器,演奏補助品,音さ,調律機」について,本件商標(社会通念上同一と認められるものを含む。)の使用をしたものと認めることができない。
その他,本件商標が,要証期間に,本件審判の請求に係る指定商品である第15類「楽器,演奏補助品,音さ,調律機」について使用されていたことを認めるに足る証拠の提出はない。
(5)被請求人の主張について
被請求人は,本件商品は,OSを使用してパソコンにインストールされ,MIDI接続が可能な電子鍵盤や鍵盤付シンセサイザーとMIDIケーブルで接続され,鍵盤と一体化させて使用し,全体として楽器として機能させることができること,楽器であるシンセサイザーの機能の主要部分を構成するシンセサイザーと一体のものであって,シンセサイザーの専用部品又は付属品として把握されること,音響制作,音楽制作に使用されるものではないこと等を挙げて,本件商品がシンセサイザーの部品及び付属品であるから,本件商品は「楽器」の部品及び付属品である旨主張する。
しかしながら,本件商品がシンセサイザーとMIDIケーブルで接続されて使用される場合があることをもって,これがただちに楽器と一体のものということはできないし,本件商品がコンピュータソフトウェアであって楽器の範ちゅうに含まれるものでないことは上記で述べたとおりであるから,被請求人の主張は採用できない。
3 まとめ
以上のとおり,被請求人が提出した証拠における使用商標は,本件審判の取消請求に係る指定商品について使用されたものとは認められない。
したがって,被請求人は,要証期間内に日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者がその請求に係る指定商品のいずれかについての本件商標の使用をしていた事実を証明したものとは認められない。
また,被請求人は,本件審判の請求に係る指定商品について本件商標の使用をしていないことについて正当な理由があることも明らかにしていない。
したがって,本件商標の登録は,商標法50条の規定により,取り消すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
別掲
審理終結日 2019-09-26 
結審通知日 2019-10-02 
審決日 2019-11-12 
出願番号 商願平10-14977 
審決分類 T 1 31・ 1- Z (Z15)
最終処分 成立  
前審関与審査官 蛭川 一治 
特許庁審判長 早川 文宏
特許庁審判官 小出 浩子
平澤 芳行
登録日 1999-12-03 
登録番号 商標登録第4341032号(T4341032) 
商標の称呼 オーバーハイム、オーベルハイム、オベリーム、オーバリーム 
代理人 中山 健一 
代理人 杉村 憲司 
代理人 中田 和博 
代理人 神蔵 初夏子 
代理人 西尾 隆弘 
代理人 青木 博通 
代理人 門田 尚也 
代理人 杉村 光嗣 
代理人 柳生 征男 

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