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審決分類 審判 全部無効 称呼類似 無効としない X25
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない X25
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない X25
審判 全部無効 外観類似 無効としない X25
審判 全部無効 観念類似 無効としない X25
管理番号 1361588 
審判番号 無効2016-890012 
総通号数 245 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2020-05-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-02-25 
確定日 2020-03-26 
事件の表示 上記当事者間の登録第5392941号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5392941号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲1のとおりの構成からなり,平成20年4月12日に登録出願,同23年1月11日に登録査定,第25類「Tシャツ,帽子」を指定商品として,同年2月25日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が,被服,帽子等の商品に使用しているとして引用する登録第3324304商標(以下「引用商標」という。)は,別掲2のとおりの構成からなり,平成6年12月20日に登録出願,第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」を指定商品として,同9年6月20日に設定登録されたものであり,該商標権は,2回にわたり商標権の存続期間の更新登録がされ,現に有効に存続しているものである。

第3 請求人の主張
請求人は,本件商標についての登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,審判請求書及び弁駁書において,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第33号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標は,商標法第4条第1項第7号,同項第11号及び同項第15号に該当し,同法第46条第1項第1号により,無効にすべきものである。
(1)商標法第4条第1項第7号該当性について
ア 引用商標の周知著名性
請求人であり,引用商標の商標権者であるドイツ連邦共和国のプーマ エスイー(以下「プーマ社」という。)は,スポーツシューズ,被服,バッグ等を世界的に製造販売している多国籍企業である。1920年(大正9年)にアディ・ダスラー及びルドルフ・ダスラーの兄弟が靴を販売する「ダスラー兄弟商会」を設立したのが始まりであり,その後,兄弟が1948年(昭和23年)にそれぞれ独立し,兄ルドルフがプーマ社を設立した。
引用商標の由来は,「俊敏に獲物を追いつめ,必ずしとめるプーマのイメージ」をそのまま表現し,ブランドマークとしたものである。(なお,プーマ(PUmA)は,「ピューマ」ともいい,ヒョウくらいの大きさのネコ科の哺乳類である。)。
引用商標は,遅くとも1980年代から我が国でブランドの出発点ともいえるサッカーシューズを始め,各種スポーツシューズ,被服,バッグ等幅広い商品に使用された結果,本件商標の登録出願時である平成20年頃までには,請求人に係る商品を表示するものとして我が国のみならず世界的に周知かつ著名になっていた。
イ 被請求人における不正の目的
(ア)被請求人における本件商標の使用態様
本件商標は,上記のとおり,世界的に著名な商標である引用商標が持つ顧客吸引力にただ乗りし,その出所表示機能を希釈化させ,あるいは,その名声を毀損させるなど,不正の目的をもって出願されたものである。
本件商標は,横長の長方形の枠の中一杯にはめ込まれたような横書きの「SHI-SA」の欧文字(各文字は角部分に丸みを持たせた縦長の書体で表されている。),当該欧文字の右肩上方に配した,右側から当該欧文字部分に向かって跳びかかるかのように左方向を向いた四つ足動物を側面からシルエット風に描いた図形(以下「本件商標の動物図形」という場合がある。),「SHI-SA」の欧文字の下方に配した,上段の横書きの「OKINAWAN ORIGINAL」の欧文字及び下段の横書きの「GUARDIAN SHISHI-DOG」の欧文字の二段構成からなるデザイン文字から構成される。
そして,被請求人は,自身が経営する観光土産品等の販売等を行う有限会社沖縄総合貿易を通じて,半袖Tシャツ,タオル及びトランクスを販売しており,当該Tシャツには,別掲3ないし別掲7に示すとおりに構成された標章(以下,それぞれ「使用例1標章ないし使用例5標章」といい,まとめて「使用例標章」という。)が付されている(甲6?甲10)。
(イ)使用例標章と引用商標との類似性
本件商標は,「SHI-SA」の欧文字の下方に,上段の赤色の横書きの「OKINAWAN ORIGINAL」の欧文字及び下段の横書きの「GUARDIAN SHISHI-DOG」の欧文字の二段構成からなるデザイン文字が配置されているところ,使用例標章は,かかるデザイン文字を取り除くことによって,横長の長方形の枠の中一杯にはめ込まれたように,花柄と思しき図柄を配した「SHI-SA」のデザイン文字(各文字は角部分に丸みを持たせた縦長の書体で表されている。),右側から当該欧文字部分に向かって跳びかかるかのように,花柄と覚しき図柄を配した(ただし,本件商標の図柄とは異なる。)左方向を向いた四つ足動物を描き,「SHI-SA」の欧文字の右側かつ四つ足動物の足元に配した円内に,アルファベットの「C」を記した図形のみから構成されている。
そうすると,使用例標章と引用商標とは,横長の長方形の枠の中一杯にはめ込まれたような欧文字,右側から当該欧文字に向かって跳びかかるかのように左方向を向いた四つ足動物を描いた図形,当該欧文字の右側かつ当該四つ足動物の図形の足下に配した円内にアルファベットを記した図形から構成されるという点において,その構成態様が共通し,非常に紛らわしい外観を有している。
本件商標の指定商品が「Tシャツ,帽子」等の衣料品であり,被請求人が経営する有限会社沖縄総合貿易は衣料品を取り扱う小売業者であることに鑑みれば,被請求人は,本件商標を出願した当時,衣料品関連の事情に精通していたことは明らかである。
そうであれば,被請求人は,本件商標の出願当時の2011年(平成23年),請求人の引用商標の著名性を知り,あるいは容易に知り得たことはいうまでもない。
そして,引用商標の中央下寄りにある,横長の長方形の枠の中一杯にはめ込まれたような特異な「PUmA」のロゴ(各文字は,縦線を太く,横線を細く,かつ,角部分に丸みを持たせた縦長の書体で表されている。)からなる欧文字と,その右方の跳躍する動物のシルエットの図形との組み合わせ及び配置は,請求人の商標以外の商標においてみられるものではないことから,引用商標は,極めて独創的なものといえる。
そのため,一見して引用商標の独創的な構成態様を想起させる本件商標及びそれを変容させた使用例標章が,引用商標と無関係に採択されたとは到底考えることができない。
また,「SHI-SA」とは,沖縄の獅子像であるシーサーを意味すると解されるところ,このシーサーとは一般に「沖縄で,屋根瓦などにとりつける素朴な焼物の唐獅子像」(甲14)をいい,巨大な頭部に,大きな目や開いた口が配され,全体に胴体が短く太いずんぐりとした体型をした,鎮座する守り神として描かれるのが通常であって,その姿勢としては,上体を起こした状態で前足をついたものが多く(甲15),一般人は,かかる特徴をもってシーサーとして認識している。
それにもかかわらず,本件商標及び使用例標章においては,頭部が比較的小さく,目が描かれず,口も閉じており,胴体が長くて細い精悍な体型をした,前足を上げて跳躍しているシーサーを横から描いているところ,本件商標及び使用例標章におけるシーサーの図形では,前述のようなシーサーの本来的特徴はほとんど看取されない。
むしろ,本件商標及び使用例標章におけるシーサーの図形は,引用商標における「俊敏に獲物を追いつめ,必ずしとめるプーマのイメージ」を表現したプーマの図形の特徴が多く看取されるのであって,本件商標及び使用例標章は,引用商標に近づけるためにシーサー本来の特徴から逸脱した描き方が用いられている。
このように,被請求人は,意図的に著名な引用商標の特徴を一見してわかる程度に残したまま外観を変え,本件商標及び使用例標章に接する需要者に引用商標を連想・想起させ,著名な引用商標の持つ顧客吸引力にただ乗り(いわゆるフリーライド)する不正な目的で本件商標及びそれを変容させた使用例標章を採択したものといわざるを得ない。
ウ 公の秩序を害するおそれ
以上のとおり,本件商標は,被請求人の不正な目的により,使用例標章のように,引用商標を強く想起させる態様にて使用されている。
この点,実際に,使用例標章を始めとする本件商標に類似する標章が付された被請求人の商品は,需要者から又は需要者に対して,「プーマ→シーサー」,「プーマじゃなくてシーサ」(甲16)等と説明されているところ,使用例標章に接した需要者が,引用商標を直ちに想起していることは明らかであり,ひいては,使用例標章が引用商標を想起させることが,被請求人の商品の購入動機となっていることがうかがえる。
このように,著名な商標に化体した信用・名声及び顧客吸引力に便乗し,不当な利益を得る等の不正な目的で登録されたいわゆるパロディ商標については,私的利害関係を超えて,公正な競争を図り,取引秩序を維持することを目的とする競争秩序を維持する側面を有する商標法上の公序が問題になり得ることから,かかるパロディ商標には厳格な態度をもって臨むべきとするのが今や国際標準であるところ,かかる国際標準に逆行して,本件商標のような世界的に著名な商標に便乗すべく登録されたパロディ商標の使用を認めることは,我が国の国際的な信頼をも損ないかねないものである。
よって,本件商標は,登録出願の経緯に社会的相当性を欠き,これを使用することは,社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反するのみならず,我が国の国際的な信頼を損ない,ひいては国際信義に反することにもなるので,商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものというべきである。
(2)商標法第4条第1項第11号該当性について
ア 外観
本件商標は,中央に太字で大きく表された「SHI-SA」の文字部分,この文字部分に本件商標の動物図形のほか,それらの下部に「OKINAWAN ORIGINAL」及び「GUARDIAN Shishi-DOG」の欧文字が,上記「SHI-SA」の文字部分に比較して,極めて小さく表されているものである。
そして,上記「SHI-SA」の文字部分は,あたかも横長の長方形の枠内にはめ込まれたかのごとく縦長かつ太字で表され,この文字部分を右側から左上方に向けて跳び越すように四つ足動物の図形が配されており,これらが一体的にまとまりの良い構成となっている。
これに対し,引用商標は,中央に太字で大きく表された「PUmA」の文字部分,この文字部分に跳びかかるかのように右側から左上方に向けて跳躍する四つ足動物を側面から捉えたシルエット図形が表されているものである。
そして,上記「PUmA」の文字部分は,あたかも横長の長方形の枠内にはめ込まれたかのごとく縦長かつ太字で表され,この文字部分を右側から左上方に向けて飛び越すように四つ足動物の図形が配されており,これらが一体的にまとまりの良い構成となっている。
このように,本件商標と引用商標とは,アルファベットの文字が横書きで大きく表示されている点,その右上方に,四つ足動物が右から左上方へ向けて跳び上がるように前足と後足を大きく開いている様子が側面から見た姿でシルエット風に描かれている点,本件商標における「SHI-SA」の文字と引用商標における「PUmA」の文字は,いずれも横長の長方形の枠内にはめ込まれたかのごとく太字で表記され,個々の文字は,縦長となっている点において共通している。
さらに,両商標における動物の図形は,その向きや基本姿勢のみならず,跳躍の角度,前足・後足の縮め具合・伸ばし具合や角度,胸・背中から足にかけての曲線の描き方について極めて似通った印象を与えるものである。
これに対し,本件商標と引用商標とは,本件商標において大きく表示された文字は「SHI-SA」であり,引用商標において大きく表示された文字は「PUmA」であって,アルファベットの文字数,末尾のAを除き使用されている文字が異なるほか,本件商標においてはSHIとSAの間にハイフン(-)が表記されている点で異なっている。
また,両商標における動物の図形については,本件商標の動物図形には花柄と覚しき図柄が配されている点,本件商標の動物の方が引用商標の動物に比べて頭部が比較的大きく描かれているほか,本件商標においては,口の辺りに歯のようなものが描かれ,首の部分に飾りのような模様が,前足と後足の関節部分にも飾りないし巻き毛のような模様が描かれ,尻尾は全体として丸みを帯びた形状で先端が尖っており,飾りないし巻き毛のような模様が描かれているのに対し,引用商標の動物図形には模様のようなものは描かれず,全体的に黒いシルエットとして塗り潰されているほか,尻尾は全体に細く,右上方に高くしなるように伸び,その先端だけが若干丸みを帯びた形状となっている点で異なっている。
しかしながら,引用商標は,我が国のみならず世界中で周知著名となっていたものであり,そのことは当然に,本件商標に接する需要者の印象,記憶,連想等に強く影響を与えるものというべきである。
加えて,「Tシャツ,帽子」という指定商品の性質上,その需要者(一般消費者)は,商品に付された商標の一見した印象によって商品の出所を識別することが多いものである。
そのため,本件商標と引用商標の類否判断にあたっても,文字部分の相違は,本件商標と引用商標との類似性に大きく影響を与えない。
このように,引用商標の周知著名性や需要者の注意力等に関する取引の実情を考慮すると,上記のような相違点は,両商標の共通点に比して看者の目に留まりにくく,両商標の共通点に影響を与えないものであるといえる。
むしろ,本件商標がその指定商品である「Tシャツ,帽子」に使用された場合,これに接した需要者等は,大きく表された欧文字及び四つ足動物の図形ないしその組み合わせに着目して,引用商標及びこれを使用する特定の出所を想起し,その出所について混同を生じるおそれがあるから,本件商標と引用商標はその外観において類似している。
イ 称呼及び観念
本件商標の文字部分からは,「シーサー」の観念が想起され,「シーサー」という称呼が生じうる。
他方,引用商標の文字部分からは,「プーマ」の観念及び称呼が生じる。
このように,本件商標と引用商標とは,観念及び称呼において相違するが,前述のとおり,デザイン性の高い図形及び文字標章の組み合わせからなる結合商標に関しては,図形において外観類似が認められる以上,文字部分の相違は,全体としての商標の類似性に大きく影響を与えないと考えるべきであるから,このような文字部分の相違は外観の類似性に影響を与えるものではない。
また,観念については,むしろ,前足を上げて跳びかかる四つ足の動物という範囲で,本件商標と引用商標とは共通している。
したがって,本件商標と引用商標の観念及び称呼における相違は,本件商標と引用商標の類否判断に影響を与えるものではない。
ウ 取引の実情
(ア)引用商標の周知著名性
引用商標が,本件商標の登録出願日以前に,請求人の業務に係る商品を表すものとして既に周知・著名になっていたことについては前述のとおりである。
(イ)需要者及び流通経路の共通性
本件商標と引用商標は,いずれも被服又は洋服を指定商品とする点で共通し,両商標に係る商品の需要者は,完全に一致する。
また,両商標に係る商品の流通経路も共通する。
被請求人は,本件商標を使用した商品を,自社ホームページを通じた直接のインターネット販売を行うほか,複数の観光土産等を販売する店舗を通じて一般消費者に対して販売を行っている(甲18)。
引用商標を付した請求人の商品も,請求人の日本法人によるインターネット直販サイト(甲20)や量販店などで,一般消費者に対して販売されている。
一般消費者は,商品の購入に際し,小売店やインターネット上の販売サイトで短時間のうちに購入商品を決定することが少なくないことが容易に予想される。
エ 商標の使用態様
本件商標は,使用例標章のように引用商標により近づける形に変容したうえで,主にTシャツ等の被服に使用されている(甲6?甲10)。
他方,引用商標もTシャツ等の被服に付されて使用され(甲19の1及び2),ワンポイントマークとして商品の胸中央部や脇部にプリントされて表示されることが多い。
このように,本件商標と引用商標は,商品のワンポイントマークとしてプリントされるなど,その使用態様は似通っている。
以上のとおり,本件商標と引用商標は,外観において類似しており,両者間で若干の相違点はあるものの,かかる相違点は看者の注意を引くものではない。
また,称呼や観念の相違点は,外観における類似性を凌駕するほどの印象を看者に与えるものではない。
加えて,本件商標の指定商品と引用商標の指定商品とは類似し,その主たる需要者はいずれも商標やブランドにつき特別の専門的知識経験を有しない一般消費者であり,本件商標は,使用例標章のように引用商標により近づける形に変容して使用されたうえ,引用商標同様に商品(被服)のワンポイントマーク等として表示されることが多いため,本件商標に接した需要者が上記の若干の相違点に気づかず,著名な商標である引用商標を連想する蓋然性は否定できないから,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがある。
よって,本件商標は,引用商標に類似する。
オ 指定商品の同一又は類似
本件商標の指定商品は,第25類「Tシャツ,帽子」であり,引用商標の指定商品には,第25類「被服」が含まれる。
したがって,本件商標と引用商標の指定商品が同一又は類似である。
カ まとめ
以上より,本件商標と引用商標とは類似し,かつ,その指定商品も同一又は類似するから,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第15号該当性について
ア 混同のおそれ
(ア)本件商標と引用商標の類似性の程度
前述のとおり,本件商標と引用商標とは,細部における相違点は存在するものの,いずれもアルファベットの文字が横書きで大きく表示されている点,その右上方に,四つ足動物が右から左上方へ向けて跳び上がるように前足と後足を大きく開いている様子が側面から見た姿でシルエット風に描かれている点,本件商標における「SHI-SA」の文字と引用商標における「PUmA」の文字はいずれも横長の長方形の枠内にはめ込まれたかのごとく太字で表記され,個々の文字は縦長となっている点において共通しており,類似している。
加えて,被請求人は,実際には,本件商標をさらに引用商標に近づける形で変容した使用例標章を使用している。
(イ)引用商標の周知著名性及び独創性
引用商標が,本件商標の登録出願日以前に,請求人の業務に係る商品を表すものとして既に周知著名になっていたことについては前述のとおりであり,引用商標の中央下寄りにある,横長の長方形の枠の中一杯にはめ込まれたような特異な「PUmA」のロゴ(各文字は,縦線を太く,横線を細く,かつ,角部分に丸みを持たせた縦長の書体で表されている)からなる欧文字と,その右方の跳躍する動物のシルエットの図形との組み合わせ及び配置は,請求人の商標以外の商標においてみられるものではないことから,引用商標は,極めて独創的なものといえる。
(ウ)本件商標の指定商品と引用商標の指定商品の関連性
本件商標の指定商品と引用商標の指定商品は,同一又は類似である。
また,実際に,本件商標(使用例標章)と引用商標が使用されている商品の種類が重なる。
(エ)需要者の共通性
本件商標と引用商標は,被服又は洋服を指定商品とする点で共通するため,その需要者も共通する。実際に両商標が用いられる商品は重なっており,需要者は完全に一致している。なお,両者とも主たる需要者は,商標やブランドに特別な専門的知識を有しない一般消費者である。
イ まとめ
以上のとおり,本件商標と引用商標は,外観において類似しており,両者間で若干の相違点は看者の注意を引くものではなく,引用商標の著名性を考慮すると称呼及び観念においても相紛れるおそれがある。
加えて,本件商標の指定商品と引用商標の指定商品とは重複し,その主たる需要者は一般消費者であり,本件商標は,使用例標章のように引用商標により近づける形に変容して使用されたうえ,引用商標と同様に商品(被服)のワンポイントマーク等として表示されることが多いため,本件商標に接した需要者が上記の若干の相違点に気づかず,著名な商標である引用商標を連想する蓋然性は否定できないこと,引用商標が請求人の業務に係る商品を表すものとして極めて高い周知著名性を有する独創的な商標であることなどに鑑みれば,商品の出所につき誤認混同を生じ,被請求人の商品を請求人と組織的・経済的に密接な関係がある者の業務に係る商品であると混同するおそれが十分に認められる。
以上より,本件商標は,他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標であり,商標法第4条第1項第15号に該当する。
2 答弁に対する弁駁
(1)はじめに
被請求人の審判事件答弁書における主張は,専ら知的財産高等裁判所平成21年2月10日判決(平成20年(行ケ)第10311号)(以下「平成21年判決」という。)及び知的財産高等裁判所平成22年7月12日判決(平成21年(行ケ)第10404号)(以下「平成22年判決」といい,平成21年判決と併せて,「別件判決」という。)の存在を理由に,本件商標に関する商標法第4条第1項第7号,同項第11号及び同項第15号違反を否定するものである。
しかしながら,別件判決は,被請求人が商標権者である登録第5040036号商標(以下「別件シーサー商標」という。)について,本件審判の引用商標等を引用商標とする商標法第4条第1項第11号又は同項第19号若しくは同項第15号違反の主張を認めなかった事例である。
別件シーサー商標は,本件商標と異なる別の商標であるから,別件判決における別件シーサー商標に係る判断内容は,本件審判における本件商標について直ちに当てはまるものではない。
それにもかかわらず,被請求人は,自らも,「被請求人の主張は,本件審判請求商標に関連する『本件商標』を基にした主張である」こと,すなわち,本件商標ではなく,別件判決の対象となった別件シーサー商標に基づくものであることを認めつつ,別件シーサー商標と本件商標がどのように「関連する」ものか明らかにしないまま,別件判決を度々引用し,別件判決の「判決文から明白」であるから本件商標も商標法第4条第1項第7号,同項第11号又は同項第15号に該当しないと繰り返すのみで,請求人の審判請求書に対する実質的な反論を一切していない。
(2)商標法第4条第1項第11号該当性について
被請求人は,答弁書において,別件判決は別件シーサー商標と引用商標が類似していないと判断しているから,「本件商標」が「プーマ社所有の『引用商標』に類似しない」ことが明らかであると主張する。
しかしながら,本件審判事件における引用商標は登録第3324304号商標であり,請求人は本件審判事件において登録第4637003号商標を引用商標とした主張は一切していないうえ,登録第4637003号商標は,本件審判事件における引用商標とその構成を全く別にするものである。
(3)商標法第4条第1項第15号該当性について
本件商標と引用商標の外観における類似性,引用商標の著名性,指定商品の重複,需要者が一般消費者であること,本件商標が引用商標と共通の使用態様で使用されたことなどから明らかであるが,請求人は,この点をさらに客観的証拠をもって立証するべく,外部調査業者に依頼して,商標登録第5392944号(別掲8,以下「調査対象商標」という。)に接した一般消費者が,同商標が付された商品の出所を請求人と誤認するおそれがあるかについて調査を実施した。
なお,調査対象商標は,本件商標を構成する要素のうち,本件商標の動物図形と同一の図形である。
ア 調査の結果
甲第22号証は,大手インターネット調査会社である株式会社マクロミル(以下「マクロミル」という。)が,インターネット上で実施した消費者調査の結果(以下「本件調査結果」という。)であり,甲第23号証は,同調査にあたって調査対象者に提示された調査票である。
同調査は,平成28年9月2日及び同3日の2日間,マクロミルに登録されたモニタの中から,一定の条件を元に抽出された回答者を対象に,合計700名のサンプルが得られるまで実施された。
実際に得られた有効回答者数は721名である。
本件調査結果によると,少なくとも全回答者721名のうち37.6%に当たる合計271名もの回答者が,調査対象商標から「プーマ」,「PUMA」又は「puma」を想起したこと,すなわち,調査対象商標が請求人を示すものと誤認混同していることを示すものである。
これに対して,調査対象商標から「シーサー」を想起した者は,「シーサー」と共に「プーマ」とも回答した者を含めても,全回答者のわずか1.2%に留まる。
イ 混同のおそれ
前述のとおり,調査対象商標は,本件商標を構成する要素のうち,本件商標の動物図形と同一の図形である。
この点,請求人が既に主張したとおり,引用商標のような結合商標に関しては,図形において外観類似が認められる以上,文字部分の相違は全体としての商標の類似性に大きく影響を与えないと考えるべきであるから,類似性の程度を一要素とする「混同を生ずるおそれ」(最判平成12年7月11日)の有無の判断にあたっても,文字部分は大きな影響を与えないと考えるべきである。
そうすると,前述のとおり,調査対象商標は,本件商標を構成する要素のうち,本件商標の動物図形と同一の図形であるから,かかる調査対象商標を図形の構成要素とする本件商標に接した一般消費者は,調査対象商標と同様,その多数が請求人又は引用商標を含む請求人の商標を想起すると考えるのが合理的である。
加えて,本調査にあたり本件調査対象者は,時間を掛けて,画面上に大きく表示された調査対象商標を確認したが,それでも多数が請求人と混同していた。
本件商標を付した商品は,主としてTシャツ等の被服であり,その購入者たる一般消費者はそれほど時間を掛けて確認せずに購入することが通常であるから,本件調査対象者以上に上記混同が生じやすいといえる。
したがって,この調査結果からいっても,引用商標との関係で,本件商標を使用する商品等に係る出所について混同のおそれが認められる。
(4)商標法第4条第1項第7号該当性について
ア 「被請求人における不正の目的」について
被請求人は,不正の目的について,別件判決に言及しつつ,本件商標が不正の目的を持って商標権を取得したものではなく,公の秩序を害するおそれのある商標でもないから,商標法第4条第1項第7号に該当しないと主張する。
しかし,平成21年判決では,「不正の目的」の有無は争点ではなくそもそもこれについては判断されていないし,平成22年判決が「不正の目的」を否定したのは,あくまで「不正の目的」が条文上の要件となっている商標法第4条第1項第19号の該当性の判断においてであるところ,別件判決における判断は,「不正の目的」が明文上の要件となっていない同項第7号の該当性に関して用いることができるものではない。
加えて,別件判決と本件審判では,審判の対象となっている商標が異なることは前述のとおりである。
そして,本件商標は,引用商標を想起させるような態様で使用されている。
上記(3)の市場調査の結果からいっても,本件商標のような商標に接した一般消費者は,請求人又は引用商標を含む請求人の商標を想起し,出所が請求人であると混同することは明らかであり,被請求人も当然同様の認識があったと考えられる。
したがって,あえて本件商標のような商標を出願するのは,不正の目的をもって行ったと考えるのが自然であり,実際に需要者をして引用商標を含む請求人の登録商標を想起させ,それが本件商標を付した商品の購入動機となっているものであるから,引用商標に化体した顧客吸引力に便乗しているものである。
イ 公の秩序を害するおそれについて
本件商標は,需要者をして請求人の登録商標を想起させるものであり,本件商標の使用は引用商標に化体した名声等を毀損して,我が国の国際的信頼をも損なうおそれがあるのであるから,公序良俗を害し,商標法第4条第1項第7号に該当するものである。
また,本件調査結果は,本件商標のうち調査対象商標の図形のみでも請求人を示すものとの誤認混同を生じさせることを示すものであるから,本件商標から「OKINAWAN ORIGINAL」及び「GUARDIAN SHISHI-DOG」の欧文字の二段構成からなるデザイン文字を取り除き,さらに調査対象商標の図形のサイズを拡大し,より同図形に着目させる態様が用いられている使用例1標章及び使用例2標章について,被請求人が,意図的に著名な引用商標の特徴を一見してわかる程度に残したまま外観を変え,本件商標及び使用例1標章及び使用例2標章に接する需要者に,引用商標を連想・想起させ,著名な引用商標の持つ顧客吸引力にただ乗り(いわゆるフリーライド)する不正な目的で本件商標及びそれを変容させた事実の存在を一層裏付けるものである。
さらに,本件商標から「OKINAWAN ORIGINAL」及び「GUARDIAN SHISHI-DOG」の欧文字の二段構成からなるデザイン文字を取り除き,さらに調査対象商標の図形の内部から花柄を取り除いて引用商標における四つ足動物の図形に近付けた四つ足動物の図形に着目させる態様が用いられている使用例4標章及び使用例5標章についても同様である。
したがって,甲第22号証及び甲第23号証は,本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当することを示す証拠ともなる。

第4 被請求人の主張
被請求人は,結論同旨の審決を求め,審判事件答弁書において,その理由を次のように述べ,証拠方法として,乙第1号証及び乙第2号証を提出した。
1 答弁の理由
(1)平成20年(行ケ)第10311号商標登録取消決定取消請求事件
この事件は,本件商標に関連する別件シーサー商標(商標登録第5040036号)に対して,プーマ社が登録異議の申立てをしたところ,特許庁が別件シーサー商標は引用商標に類似するとして別件シーサー商標の商標登録を取消しする旨の決定をした。
しかしながら,この異議決定に対して知的財産高等裁判所は,特許庁の異議決定を取消した(乙1)。
(2)平成21年(行ケ)第10404号商標登録取消決定取消請求事件
この事件においては,プーマ社は補助参加人として加わっている。
この事件についても,知的財産高等裁判所は再度,異議2007-900349号事件について特許庁の異議決定を取消した(乙2)。
この事件の知的財産高等裁判所の判決によれば,別件シーサー商標と引用商標との関係において,商標法第4条第1項第11号,同項第15号及び同項第19号(不正の目的)に違反しないことが明確に述べている。
(3)請求人は,本件商標は商標法第4条第1項第7号,同項第11号及び同項第15号に該当するとし,同法第46条第1項第1号により無効にすべきであると主張している。
上記(1)及び(2)をふまえて請求人の主張に対する反論を述べる。
被請求人の主張は,本件商標に関連する別件シーサー商標を基にしたものである。
ア 商標法第4条第1項第7号該当性について
(ア)被請求人における不正の目的
本件商標は,引用商標の顧客吸引力にただ乗りしたり,その出所表示機能を希釈化させ,あるいはその名声を毀損させる等不正の目的をもって出願したものでもない。
(イ)公の秩序を害するおそれ
請求人は,本件商標についてパロディ商標に言及して「本件商標は,登録出願の経緯に社会的相当性を欠き,これを使用することは,社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反するのみならず,我が国の国際的な信頼を損ない,ひいては国際信義に反することにもなるので,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものというべきである。」と主張しており,これについても上記判決文で明確に述べられている。
上記判決文において明白なように,本件商標は,不正の目的をもって商標権を取得したものではなく,また公の秩序を害するおそれのある商標でもなく,商標法第4条第1項第7号に該当するものではない。
イ 商標法第4条第1項第11号該当性について
本件商標は,請求人所有の引用商標に類似しないことは,別件シーサー商標と引用商標の非類似性について述べた上記判決文において極めて明白である。
よって,本件商標は,引用商標と非類似である。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に違反して登録されたものではない。
ウ 商標法第4条第1項第15号該当性について
本件商標は,請求人の引用商標に関して,「混同を生ずるおそれ」があるとはいえないことは,上記判決文から明白である。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものではない。
2 結び
上述の理由から,本件商標は,商標法第4条第1項第7号,同項第11号及び同項第15号に該当するものではない。

第5 当審の判断
1 引用商標の著名性について
請求人の主張及び同人が提出した証拠によれば,引用商標の商標権者であるドイツ連邦共和国のプーマ社は,1948年(昭和23年)に設立したスポーツシューズ,被服,バッグ等を世界的に製造販売している多国籍企業であり,引用商標を表示した各種のスポーツシューズ,スポーツウェア,スポーツバッグ,帽子,ソックス等は,申立人のカタログに掲載され(甲26),各種雑誌に掲載され,紹介等された(甲27)。
そして,プーマ社の各種商品は,2004年5月から2006年2月にかけて,フジテレビジョン,テレビ朝日,日本テレビ,TBSテレビ,関西テレビ放送,静岡放送等において,多数テレビスポット放送がされた(甲28)。
また,2004年版のスポーツ産業白書(甲29の2)によれば,「プーマ」ブランドは世界市場において急激な伸びを見せていること,2006-2007年版及び2007年-2008年版のスポーツアパレル産業白書(甲29の6及び7)によれば,プーマは,2004年ないし2006年にスポーツアパレル/ブランド別国内出荷金額ランキングにおいて4位であり,出荷金額が227億円ないし272億円及び構成比が6%程度であること,スポーツシューズビジネス2011(甲29の8)によれば,2008年ないし2010年にスポーツシューズ/メーカー別国内出荷金額において5位であり,出荷金額が159億円ないし183億円及び構成比が6%程度であること等が認められる。
そうすると,引用商標は,本件商標の登録出願時には既に,請求人の業務に係るスポーツシューズ,被服,バッグ等を表示する商標として,我が国の取引者,需要者の間に広く認識されて周知・著名な商標となっており,それは本件商標の登録査定時及びそれ以降も,継続していると認められる。
2 商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)商標の類否は,対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである。そして,商標の外観,観念または称呼の類似は,その商標を使用した商品につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず,したがって,これら3点のうちその一つにおいて類似するものでも,他の2点において著しく相違することその他取引の実情等によって,なんら商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについては,これを類似商標と解すべきではない(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
(2)本件商標について
ア 外観について
本件商標は,別掲1のとおり,「SHI-SA」の文字は横書きで大きく表示され,その右下には,「C(○で囲まれている。)」の記号が表示され,その右上方に,全体に花柄のような模様及び白い輪郭線を有し,口の辺りに歯のようなもの,首飾りのような模様,前足・後足の関節部分にも飾りないし巻き毛のような模様,並びに尻尾は全体として丸みを帯びた形状で先端が尖っており,飾りないし巻き毛のような模様が描かれている四足動物が右側から左上方へ向けて跳び上がるように前足と後足を大きく開いている様子が側面から見た姿でシルエット風に描かれる(本件商標の動物図形)とともに,「SHI-SA」の文字の下に2段にわたって「OKInAWAn ORIgInAL」及び「gUARDIAn ShIShI-DOg」という文字が,赤字で比較的小さく表記されているものである。
イ 観念について
(ア)本件商標の動物図形からは,直ちに特定の動物を想起しうるものではないが,「OKInAWAn ORIgInAL」,「gUARDIAn ShIShI-DOg」,「SHI-SA」の文字及び本件商標の動物図形と相まって,沖縄にみられる伝統的な獅子像である「シーサー」の観念が想起される。
(イ)これに対し,請求人は,沖縄の伝統的な獅子像である「シーサー」は沖縄で瓦屋根などにとりつける素朴な焼物の唐獅子像であり,本件商標のような跳躍するイメージとは程遠いものであると主張する。
「シーサー」とは,「(獅子さんの意)沖縄で,瓦屋根などにとりつける素朴な焼物の唐獅子像。魔除けの一種。」(広辞苑第六版,甲14)である。
そして,「シーサー」は,形状には様々なものがあるが,概ねその特徴とされる点を挙げれば,たてがみないし首飾り,剥き出した牙,前足・後足の関節部分の毛,太くふっくらとした尻尾などである。また,その姿勢としては,上体を起こした状態で前足をついたものが多いが,四つん這いになったもの,前かがみのものなど様々な形態がある(甲15)。
(ウ)そこで,本件商標の動物図形を上記の一般的な「シーサー」と比べると,本件商標の動物図形は,上方へ向けて跳び上がるように前足と後足を大きく開いているところ,このような姿勢は「シーサー」の形態として一般的なものとはいえない。
他方,本件商標の動物図形に描かれた,首飾りのような模様,前足・後足の関節部分における飾りないし巻き毛のような模様,尻尾の全体的に丸みを帯びて先端が尖った形状等は,いずれも一般的な「シーサー」の特徴とされているところと一致する。
そうすると,本件商標の動物図形は,「シーサー」の特徴とされているいくつかの点を備えているということができ,本件商標の動物図形と「SHI-SA」,「OKInAWAn ORIgInAL」及び「gUARDIAn ShIShI-DOg」の文字とあわせて見れば,「シーサー」を描いたものと理解することができるものである。
したがって,本件商標からは,沖縄にみられる獅子像である「シーサー」の観念が想起される。
ウ 称呼について
本件商標は,「SHI-SA」の文字あるいは上記のような沖縄の獅子像の観念から「シーサ」又は「シーサー」の称呼が生じる。
(3)引用商標について
ア 外観について
引用商標は,別掲2のとおり,「PUmA」の文字が横書きで大きく表示され,その右上方に,全体的に黒く塗りつぶされ,尻尾は全体に細く,右上方に高くしなるように伸び,その先端だけが若干丸みを帯びた形状となっている四足動物が右側から左上方へ向けて跳び上がるように前足と後足を大きく開いている様子が側面から見た姿でシルエット風に描かれているものである。
イ 観念について
引用商標には,「PUmA」と大きく表示されており,上方へ向けて跳び上がるように前足と後足を大きく開いた動物の図形と相まって,動物の「ピューマ」の観念が想起される。
「ピューマ」(puma,日本語の外来語表記では「プーマ」とも表記される。)とは,南北アメリカに分布するネコ科の哺乳類で,アメリカライオン,ヤマライオン,クーガーなどの別名がある。体長は1.5mほどになり,運動活発で跳躍力に強く,シカなどを捕食する(広辞苑第六版)。
また,引用商標は,上記1のとおり,ドイツのスポーツシューズ,スポーツウェア等のメーカーであるプーマ社の業務を表す「PUmA」ブランドの商標として著名であるから(甲26?甲29),引用商標からは「PUmA」ブランドの観念も生じる。
ウ 称呼について
引用商標は,「PUmA」の文字から「ピューマ」又は「プーマ」の称呼が生じる。
(4)本件商標と引用商標の対比
ア 外観について
(ア)共通点
本件商標と引用商標は,アルファベットの文字「SHI-SA」と「PUmA」が横書きで大きく表されている点,その右上方に,四足動物が右側から左上方へ向けて跳び上がるように前足と後足を大きく開いている様子が側面から見た姿でシルエット風に描かれている点で共通する。
また,本件商標における「SHI-SA」の文字と引用商標における「PUmA」の文字は,いずれも横長の長方形の枠内にはめ込まれたかのごとく太字で表記され,個々の文字は縦長となっている点で共通する。
そして,両商標における動物の図形は,その向きや基本的姿勢のほか,跳躍の角度,前足・後足の縮め具合・伸ばし具合や角度,胸・背中から足にかけての曲線の描き方について,似通った印象を与える。
(イ)差異点
本件商標において大きく表示された文字は,「SHI-SA」であり,引用商標において大きく表示された文字は,「PUmA」であって,アルファベットの文字数,末尾の「A」を除き使用されているアルファベットの文字が異なるほか,本件商標においては「SHI」と「SA」の間にハイフン(-)が表記されている点で異なっている。
そして,両商標における動物の図形については,本件商標の動物図形の方が引用商標の動物の図形に比べて頭部が比較的大きく描かれているほか,本件商標の動物図形においては,全体に花柄のような模様及び白い輪郭線,口の辺りに歯のようなもの,首飾りのような模様,前足と後足の関節部分にも飾りないし巻き毛のような模様,並びに尻尾は全体として丸みを帯びた形状で先端が尖っており,飾りないし巻き毛のような模様が描かれている。
これに対し,引用商標の動物の図形には,模様及び白い輪郭線のようなものは描かれず,全体的に黒いシルエットとして塗りつぶされているほか,尻尾は全体に細く,右上方に高くしなるように伸び,その先端だけが若干丸みを帯びた形状となっている。
このように,本件商標と引用商標とは,「SHI-SA」ないし「PUmA」の文字と動物の図形との組合せによる全体的な構成は共通しているものの,両商標の違いは,明瞭に看て取れるものである。
イ 観念について
本件商標からは沖縄にみられる獅子像である「シーサー」の観念が生じ,引用商標からはネコ科の哺乳類「ピューマ」又は「PUmAのブランド」としての観念が生じるから,両商標は,観念を異にする。
ウ 称呼について
本件商標は,「シーサ」又は「シーサー」の称呼が生じ,引用商標は,「ピューマ」又は「プーマ」の称呼が生じるから,両商標は,称呼を異にする。
(5)まとめ
以上のとおり,本件商標と引用商標とは,外観,観念及び称呼において異なるものであり,本件商標及び引用商標が同一又は類似の商品に使用されたとしても,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるとはいえないから,本件商標は引用商標に類似するものではなく,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)上記1のとおり,引用商標は,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,請求人の業務に係るスポーツシューズ,被服,バッグ等を表示する商標として,我が国の取引者,需要者の間に広く認識されて周知・著名な商標となっていたものと認められる。
そして,引用商標の中央の特徴的な文字列とその右方の跳躍する動物のシルエットの図形との組み合わせ及び配置は,独創的であるといえる。
また,本件商標の指定商品である「Tシャツ,帽子」は,引用商標の指定商品の「被服」に含まれるものであるから,本件商標の指定商品と請求人の業務に係る商品とは,その性質・用途・目的において関連し,商品の取引者及び需要者が相当程度共通するものである。
しかしながら,上記2のとおり,本件商標と引用商標とは,非類似の商標であって,別異のものというべきである。
そうすると,引用商標は請求人の業務に係るスポーツシューズ,被服等の商品を表示するものとして周知・著名かつ独創的であり,本件商標の指定商品と請求人の業務に係る商品とは,その性質・用途・目的において関連し,商品の取引者及び需要者が相当程度共通するとしても,本件商標は,これを本件商標権者がその指定商品に使用しても,取引者,需要者に,請求人の業務に係る引用商標を連想又は想起させることはなく,その商品が,請求人あるいは同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように,商品の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。
(2)請求人の主張(生活に関するアンケートについて)
請求人は,本件商標の構成中の本件商標の動物図形を調査対象(調査対象商標)とした,マクロミルのインターネット上での消費者調査(甲23)及びその結果(本件調査結果)を提出し(甲22),「全回答者721名のうち37.6%に当たる合計271名もの回答者が,調査対象商標から『プーマ』,『PUMA』又は『puma』を想起したこと,すなわち,調査対象商標が請求人を示すものと誤認混同していることを示すものである。」旨主張する。
本件調査結果は,マクロミルが行った「生活に関するアンケート」と題する書面であり,当該調査は,本件商標の動物図形と同一の調査対象商標を対象とした,「有効回答者数:721名」,「調査対象者:20歳以上の男女」,「調査期間:2016年9月1日(木)?9月3日(土)」及び「調査方法:インターネット調査」の結果を示すものである。
これによれば,「Q1AC:このマークを見て何を想起しますか? ※知らない方のイメージでお答えください。複数回答」の質問には,38種類の回答があり,「獅子・ライオン」と答えた者は「63(8.7%)」及び「シーサー」と答えた者は「9(1.2%)」であるのに対し,「ピューマ」と答えた者は「16(2.2%)」及び「プーマ」と答えた者は「258(35.8%)」 である。
そして,「Q2AC:どうして前問のように想起したのですか?」の質問には,26種類の回答があり,「そう見える・似ている」と答えた者は「253(35.1%)」及び「かたち/ポーズ・動き」と答えた者は「186(25.8%)」である。
また,「Q3:今回のアンケート以前に,このマークを見たことはありますか?」の質問に対する回答には,「見たことがある」と答えた者は「52(7.2)%」及び「見たことがない」と答えた者は「669(92.8%)」である。
さらに,「Q3」で「見たことがある」と答えた者に対して行った「Q4:あなたはこのマークが付いた商品を購入したことがありますか?」の質問に対する回答には,「ある」と答えた者は「19」及び「ない」と答えた者は「33」であり,「Q4」で「ある」と答えた者に対して行った「Q5AC:どうしてそのマークが付いた商品を購入したのですか?」の質問に対する回答には,「スポーツウェア・スニーカーを購入した」と答えた者は3名,「(有名な)スポーツメーカー」と答えた者は2名である。
本件調査結果によれば,該生活アンケートの回答者の中には,調査対象商標(本件商標の動物図形)の外観から,「ピューマ」及び「プーマ」を連想,想起し,また,その商品を購入した理由について「スポーツウェア・スニーカーを購入した」,「(有名な)スポーツメーカー」と回答した者がいたことがうかがえる。
しかしながら,当該生活に関するアンケートは,調査対象商標のみについて,2016年(平成28年)9月1日から3日(本件商標の登録査定後)に行われたものであって,本件商標について行われたアンケートではないから,本件商標に接した需要者が,その外観から,「ピューマ」及び「プーマ」を連想,想起するものということはできない。
そして,請求人の主張によれば,本件商標権者は,別掲3ないし別掲7のとおりからなる使用例標章を商品「Tシャツ」に表示しているものであるが,使用例標章と,その外観が明らかに異なる調査対象商標についての本件調査結果をもって,使用例標章に接した需要者が,これらから,「ピューマ」及び「プーマ」を連想,想起したものということもできない。
そうすると,本件商標の動物図形から,「ピューマ」及び「プーマ」を連想,想起する場合があるとしても,本件商標から,直ちにこれらを連想,想起するものということはできない。
(3)小括
したがって,本件商標は,その登録出願時及び登録査定時において,商標法第4条第1項第15号にいう「混同を生ずるおそれ」があったとはいえず,同項同号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第7号該当性について
(1)商標法第4条第1項第7号について
商標法第4条第1項第7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には,(ア)その構成自体が非道徳的,卑わい,差別的,矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合,(イ)当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも,指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反する場合,(ウ)他の法律によって,当該商標の使用等が禁止されている場合,(エ)特定の国若しくはその国民を侮辱し,又は一般に国際信義に反する場合,(オ)当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合,などが含まれる(知財高裁平成17年(行ケ)第10349号,平成18年9月20日判決参照)。
(2)本件商標は,別掲1のとおりの構成態様からなるものであるから,その構成自体が非道徳的,卑わい,差別的,矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形でないことは明らかである。
(3)請求人が提出した証拠からは,本件商標が,他の法律によって,その使用等が禁止されている事実,その指定商品について使用することが社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念に反するものすべき事情,及び特定の国若しくはその国民を侮辱し又は一般に国際信義に反するものすべき事情は見あたらない。
(4)本件商標権者は,主として沖縄県内の店舗及びインターネットの通信販売で使用例標章を付したTシャツ等を販売する者と認められる(甲11)。
そして,請求人が提出した本件商標権者に関する証拠からは,本件商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあったとか,登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないものとすべき具体的事情は見あたらず,かつ,本件商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり,商標法の予定する秩序に反するものとすべき事情も見あたらない。
(5)請求人の主張について
ア 請求人は,「本件商標は,世界的に著名な商標である引用商標が持つ顧客吸引力にただ乗りし,その出所表示機能を希釈化させ,あるいは,その名声を毀損させるなど,不正の目的をもって出願したものである。」旨主張する。
しかしながら,引用商標は,本件商標の登録出願時には既に,請求人の業務に係るスポーツシューズ,被服,バッグ等を表示する商標として,我が国の取引者,需要者の間に広く認識されていたとしても,本件商標と引用商標とは,上記2のとおり,非類似の商標であって別異のものと認められ,請求人が提出した証拠からは,引用商標が持つ顧客吸引力にただ乗りし,その出所表示機能を希釈化させ,あるいは,その名声を毀損させるなど,不正の目的をもって本件商標を出願したものとすべき具体的事実は見あたらない。
そして,本件商標権者が,商品「Tシャツ」の前面に,使用例標章のようなデザインを施している事実があるとしても,該商品についてのこれらの表示が,直ちに,別掲1のとおりの構成からなる本件商標の構成を変更して引用商標を想起させることを前提としたとまでは,いうことができない。
また,本件商標権者のウェブサイト(甲11)において,「SHI-SA.COM/し?さ?どっとこむ」及び「JUMPING/SHI-SA/SHI-SA OFFICIAL SITE」及び動物の図形を表示して,商品「Tシャツ」が紹介されているものの,これらの各文字及び動物の図形と,引用商標を対比しても,十分に区別することができる別異のものと認められる。
イ 請求人は,「本件商標は,被請求人の不正な目的により,使用例標章のように,引用商標を強く想起させる態様にて使用されている。」及び「著名な商標に化体した信用・名声及び顧客吸引力に便乗し,不当な利益を得る等の不正な目的で登録されたいわゆるパロディ商標については,・・・厳格な態度をもって臨むべきとするのが今や国際標準であるところ,・・・,本件商標のような世界的に著名な商標に便乗すべく登録されたパロディ商標の使用を認めることは,我が国の国際的な信頼をも損ないかねないものである。」旨主張する。
確かに,本件商標の構成中の本件商標の動物図形及び「SHI-SA」の文字を,やや構成を変更してTシャツに表示したもの(使用例1標章),また,該表示の「SHI-SA」の文字の上部に「JUMPING」の文字を表示したもの(使用例2標章),これらの表示を,黒,緑及び黄色を用いて表示したもの(使用例3標章)及び該表示の動物図形部分の柄のような模様が描かれていないもの(使用例4標章及び使用例5標章)が見受けられる(甲6)。
しかしながら,これら使用例標章は,概ね,本件商標の主要部分である「SHI-SA」の文字部分と本件商標の動物図形とを,構成を変更してデザイン化し,各種商品に表示したものであって,商品の意匠的な機能を果たしているものということができる。
そして,使用例標章と引用商標とを対比しても,上記2に述べた旨と同様に,外観,観念及び称呼において異なるものであるから,使用例標章は,引用商標の構成態様を題材とし外観を変え,引用商標を強く想起させる態様ということができない。
また,本件商標は,引用商標とは,上記2に記載のとおり,外観,観念及び称呼において異なる非類似の商標であるから,引用商標を題材として構成し,不当な利益を得る等の不正な目的で登録出願されたものということができない。
ウ 請求人は,本件調査結果につき,「市場調査の結果からいっても,本件商標のような商標に接した一般消費者は,請求人又は引用商標を含む請求人の商標を想起し,出所が請求人であると混同することは明らかであり,被請求人も当然同様の認識があったと考えられる。したがって,あえて本件商標のような商標を出願するのは,不正の目的をもって行ったと考えるのが自然であり,実際に需要者をして引用商標を含む請求人の登録商標を想起させ,それが本件商標を付した商品の購入動機となっているものであるから,引用商標に化体した顧客吸引力に便乗しているものである。」旨主張する。
しかしながら,前述のとおり,本件調査結果は,調査対象商標(本件商標の動物図形)のみを対象としたものであって,本件商標及び使用例標章について行われた調査ではなく,また,請求人が提出した本件商標権者に関する証拠(甲6?甲11)からは,本件商標権者が,どのような認識又は目的を持って,使用例標章を商品に使用しているものであるかを推し測ることはできない。
また,使用例標章と引用商標とは,上記のとおり,外観,観念及び称呼において異なるものである。
そうすると,本件商標及び使用例標章は,これに接する需要者に,引用商標を想起させるものということができず,引用商標に化体した顧客吸引力に便乗しているものということもできない。
(6)まとめ
以上のとおり,本件商標は,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するものということができず,その登録がされた後においても該当するものということもできないから,商標法第4条第1項第7号に該当しない。
5 むすび
以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第11号,同項15号及び同項第7号のいずれにも違反して登録されたものではないから,同法第46条第1項の規定により無効とすることができない。
よって,結論のとおり審決する。
別掲 別掲1(本件商標,色彩の詳細は原本参照。)





別掲2(引用商標)





別掲3(使用例1標章,色彩の詳細は,審判請求書,別紙を参照。)





別掲4(使用例2標章,色彩の詳細は,審判請求書,別紙を参照。)





別掲5(使用例3標章,色彩の詳細は,審判請求書,別紙を参照。)





別掲6(使用例4標章,色彩の詳細は,審判請求書,別紙を参照。)





別掲7(使用例5標章,色彩の詳細は,審判請求書,別紙を参照。)





別掲8(調査対象商標,登録5392944号商標)





審理終結日 2017-06-12 
結審通知日 2017-06-19 
審決日 2017-07-07 
出願番号 商願2008-32550(T2008-32550) 
審決分類 T 1 11・ 22- Y (X25)
T 1 11・ 263- Y (X25)
T 1 11・ 261- Y (X25)
T 1 11・ 271- Y (X25)
T 1 11・ 262- Y (X25)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 忠司鈴木 斎菅沼 結香子金子 尚人 
特許庁審判長 早川 文宏
特許庁審判官 田中 亨子
平澤 芳行
登録日 2011-02-25 
登録番号 商標登録第5392941号(T5392941) 
商標の称呼 シーサーオキナワンオリジナルガーディアンシシドッグ、オキナワンオリジナルガーディアンシシドッグ、オキナワンオリジナル、ガーディアンシシドッグ、シーサー、シシドッグ、ガーディアン 
代理人 谷山 守 
代理人 兼松 由理子 
代理人 竹村 朋子 
代理人 大江 耕治 

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