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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W09
審判 全部申立て  登録を維持 W09
審判 全部申立て  登録を維持 W09
管理番号 1358886 
異議申立番号 異議2019-900133 
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2020-02-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-04-26 
確定日 2020-01-16 
異議申立件数
事件の表示 登録第6118350号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて,次のとおり決定する。 
結論 登録第6118350号商標の商標登録を維持する。
理由 1 本件商標
本件登録第6118350商標(以下「本件商標」という。)は,別掲のとおりの構成からなり,平成30年5月15日に登録出願,第9類「接眼レンズ付き光学機器,鏡(光学用のもの),光学用機器,光学ガラス,屈折望遠鏡,双眼鏡,望遠鏡,火器用照準望遠鏡,大砲用望遠照準器」を指定商品として,同31年1月11日に登録査定,同年2月1日に設定登録されたものである。

2 登録異議の申立ての理由
登録異議申立人(以下「申立人」という。)は,本件商標は商標法第4条第1項第10号,同項第15号及び同項第19号に該当するものであるから,その登録は同法第43条の2第1号により,取り消されるべきであると申立て,要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第12号証を提出した。
(1)申立人の使用に係る商標
申立人の使用に係る商標は,自己の業務に係る商品「光学式距離計」及び「双眼鏡」に使用している「VECTOR」の欧文字からなる商標(以下「引用商標」という。)である。
(2)本件商標について
本件商標は,黒い横長長方形に「VECTOR OPTICS」の欧文字を白抜きで横一列に書したものである。「VECTOR」及び「OPTICS」の「O」の文字に若干特徴を有するが,「VECTOR OPTICS」と判読でき,「ベクター」及び「ベクターオプティクス」の称呼が生じる。「VECTOR」は,「速度,軌道」等を表す英単語であり,「OPTICS」は,「光学」を意味する英単語である。
そうすると,本件商標の構成中「OPTICS」は,本件商標の指定商品の分野では識別力の弱い,又は発揮しない語といえるため,本件商標の要部は,「VECTOR」である。
(3)商標法第4条第1項第10号について
ア 引用商標の周知性
申立人は,20世紀初頭から現在まで約100年にわたり継続して測角器や精密光学機器の製造を手がけている。
申立人の会社案内パンフレット(甲2)には,引用商標が付された双眼鏡が,発売から32,000台以上販売された記載があり,主力商品の1つとして紹介されている。
また,「VECTOR」の商品パンフレット(甲3)には,様々な機能が搭載されていることが英語で説明され,「VECTOR」シリーズの商品のラインナップが掲載され,カナダ,アメリカ,日本で販売されているシリーズ(甲5,甲7)と共通している。
申立人は,2017年から2019年までの3年間に各国で開催された国際的な展示会や会議に「VECTOR」を出店している(甲4)。
2013年から2018年におけるカナダ及びアメリカでの「VECTOR」の販売実績は,販売総数1,298台である(申立人内部データ)。
日本では,代理店経由で販売されているため,正確な販売台数はわからないが,国内代理店のサイトにおいてみると,申立人に係る製品が「世界標準の長距離レーザー測距双眼鏡」及び主な使用用途から,高性能の観測機器であることが理解され,製品ラインナップは商品パンフレット(甲3)と共通する(甲5)。
栃木県の計測器販売会社である「有限会社スナガインパルス」も「VECTOR」を取り扱っており(甲6),「VECTORシリーズ」として詳しい仕様や価格が掲載され,通常の双眼鏡と比べて値段が高く,1台あたり100万円以上から300万円以上する精密機器である(甲7)。
さらに,中華人民共和国の国営放送である中国中央電視台(CCTV)の映像において,習近平氏が手にしている双眼鏡型の多機能観測機器が「VECTOR」である(甲8,甲9)。
インターネット検索で「vector rangefinder」を検索すると約209万件ヒットする(甲10)。
このように,引用商標は,少なくとも本件商標の登録出願時及び登録査定時に,世界において周知であったこと,また,日本においても,観測・防衛目的の計測機器分野で周知であったことはうかがい知ることができる。
イ まとめ
本件商標は,商標中の要部となる「VECTOR」部分が,申立人の周知商標「VECTOR」と同一であり,本件商標の指定商品と申立人の商品も同じ光学機器や双眼鏡であることから,本件商標に接する需要者らは申立人の商品と同一の出所に係る商品であるかのように,商品の出所について誤認混同を生ずるおそれがある。
(4)商標法第4条第1項第15号について
本件商標は,引用商標が周知であるとの関係で,申立人に係る商品と混同を生じるおそれがあるのみならず,申立人と経済的又は組織的に何らかの関係があると誤信し,その商品の需要者が商品の出所について混同するおそれがある。
(5)商標法第4条第1項第19号について
引用商標は,日本においては未登録であるが,日本を含む世界における周知性を獲得していることから,引用商標の構成要素すべてを含む本件商標の使用は,申立人の信用にただ乗り(フリーライド)するものであり,その出所表示機能を希釈化(ダイリューション)させ,周知性を損なうものといえ,不正の目的をもって登録出願したものである。
また,本件商標権者は,本件商標の登録出願前に,申立人に係る中国商標「VECTOR」に対して不使用取消請求を行っている(甲12)から,本件商標権者は,少なくとも引用商標について知っていたことが明らかである。
このように,本件商標は,引用商標を想起させる構成にしており,申立人が蓄積した信用や周知性を損ない,希釈化するという点において,商標法第4条第1項第19号に反して登録されたというべきである。

3 当審の判断
(1)引用商標の周知・著名性
申立人の提出した証拠及び同人の主張によれば,以下のとおりである。
ア 申立人は,約100年にわたり精密光学機器の製造を手がけているスイス国の法人であって,会社案内パンフレット(甲2)には,引用商標が付された双眼鏡が発売から32,000台以上販売されたことが記載され,また,申立人作成の「VECTOR」の商品パンフレット(甲3)には,「VECTOR」シリーズの商品のラインナップが掲載され,各種機能について説明されている。
しかしながら,これらのパンフレットは,英語で記載されているものであって,日本向けのものとはいえない。
そして,2013年(平成25年)から2018年(平成30年)におけるカナダ及びアメリカでの「VECTOR」の販売実績は1,298台とされる(申立人内部データ)。
イ 申立人が2017年(平成29年)から2019年(平成31年/令和元年)に出店したとする国際的な展示会や会議のリスト(甲4)は,具体的な内容や規模が不明であって,実際に引用商標が付された商品を展示したことも確認することができない。
ウ 引用商標は,日本における極東貿易株式会社のウェブサイト及び有限会社スナガインパルスのウェブサイトにおいて,多機能双眼鏡に使用していることが確認できる(甲5,甲7)。また,有限会社スナガインパルスのウェブサイトにおいて,「VECTOR」シリーズの販売価格が100万円から300万円程の高額であることが掲載されている。
しかしながら,これらのウェブサイトの掲載は,本件商標の登録出願前のものであることが確認できない。
エ 中華人民共和国主席の習近平氏とされる者が引用商標の付されている双眼鏡を手にしているとする中国中央電視台(CCTV)の映像(写)(甲8,甲9)は,不鮮明なため,引用商標が確認できないうえに,放映日もいつか不明である。
オ 申立人は,インターネットにおける「vector rangefinder」の検索結果が,約209万件ヒットし(甲10),そのほとんどが引用商標であるとするが,その内容は確認できないばかりか,わずか1頁のみをもって,申立人の主張を裏付けるものとはいえない。
カ 上記からすれば,申立人は,引用商標を多機能双眼鏡に使用しており,発売から32,000台程が販売され,日本においても販売されているとしても,引用商標が付された多機能双眼鏡の売上高,市場シェアなど販売実績,使用地域,並びに広告宣伝の方法,期間,地域及び規模を示す具体的な証左は見いだせないから,これらをもって,引用商標が外国及び我が国において広く知られているとはいい難いものである。
その他,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,引用商標が周知であったことを認めるに足りる証拠の提出はない。
してみると,提出された証拠をもってしては,引用商標が申立人の業務に係る商品「多機能双眼鏡」を表示するものとして,本件商標の登録出願日及び登録査定日の時点において,我が国及び外国の需要者の間に広く知られていたと認めることができない。
(2)商標法第4条第1項第10号該当性について
本号は,「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であつて,その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」と規定されている。
引用商標は,上記(1)のとおり,申立人の業務に係る商品「多機能双眼鏡」を表すものとして,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできないものである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第10号を適用するための要件を欠くものといわざるを得ないから,同号に該当しない。
(3)商標法第4条第1項第15号該当性について
ア 引用商標の周知・著名性について
引用商標は,上記(1)のとおり,申立人の業務に係る商品「多機能双眼鏡」を表すものとして,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできないものである。
イ 本件商標と引用商標との類似性の程度について
本件商標は,別掲のとおり,黒い横長長方形内に「VECTOR OPTICS」の欧文字を白抜きで語頭の「V」及び「O」の文字を他の文字に比べて大きく表して横一列に書し,当該文字の構成中「O」の文字に特徴を有する,同じデザインにより一体性のある態様で表してなるものであるから,まとまりよく一連一体に表されているものである。
そして,本件商標は,その構成文字に相応して「ベクターオプティクス」の称呼を生じ,これは,やや冗長であるものの,よどみなく一連に称呼し得るものである。
そうすると,本件商標の係る構成及び称呼において,本件商標は,その構成文字全体をもって特定の観念を生じない一体不可分の造語を表したものとして認識,把握されるとみるのが相当である。
さらに,本件商標は,その構成中「VECTOR」の欧文字部分が取引者,需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるもの,または,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認めるに足る事情は見いだせない。
したがって,本件商標は,その構成文字が一体不可分のものであって,「ベクターオプティクス」の称呼を生じ,特定の観念を生じないものといわなければならない。
他方,引用商標は,上記2(1)のとおり,「VECTOR」の欧文字からなるものであり,その構成文字に相応して,「ベクター」の称呼を生じ,当該文字は「ベクトル,方向量,方向」等を意味する英語であるが,一般に親しまれていない語であるから,特定の意味合いを有しない一種の造語といえるものである。
したがって,引用商標からは,「ベクター」の称呼を生じ,特定の観念は生じないというべきである。
ウ 本件商標と引用商標との類否について
本件商標と引用商標との類否を検討すると,両者は,外観において,横長長方形の有無,語尾の「OPTICS」の欧文字の有無における明らかな相違及び「O」の文字の特徴により,外観上,相紛れるおそれはない。
次に,称呼において,本件商標より生じる「ベクターオプティクス」の称呼と引用商標より生じる「ベクター」の称呼とは,語尾における「オプティクス」の音の有無という顕著な差異を有するものであるから,音数が相違し,称呼上,明瞭に聴別し得るものである。
さらに,観念においては,両商標は共に特定の観念を生じないものであるから,観念上,比較できないものである。
そうすると,本件商標と引用商標とは,観念において比較することができないとしても,外観及び称呼において明らかな差異を有するものであるから,両商標は非類似の商標であって,別異のものというべきであり,両者の類似性の程度は低いものである。
エ 本件商標の指定商品と申立人の取扱いに係る商品の関連性,需要者の共通性について
本件商標の指定商品には,光学用機器や双眼鏡を含むものであるから,申立人の取扱いに係る商品「多機能双眼鏡」とは同一及び類似の商品であり,需要者も共通する。
オ 出所の混同のおそれについて
上記アないしエのとおり,引用商標は,申立人の取扱いに係る商品を表示するものとして,需要者の間に広く認識されているとは認め難く,また,本件商標と引用商標との類似性の程度は低いことからすれば,たとえ,本件商標の指定商品と申立人の取扱いに係る商品が同一又は類似し,その需要者の範囲を共通にする場合があるとしても,本件商標に接する取引者,需要者が,申立人に係る引用商標を連想又は想起するものということはできない。
そうすると,本件商標は,本件商標権者がこれをその指定商品について使用しても,取引者,需要者が,引用商標を連想又は想起することはなく,その商品が他人(申立人)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように,その商品の出所について混同を生ずるおそれはないものというべきである。
その他,本件商標が出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情も見いだせない。
カ 小括
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当しない。
(4)商標法第4条第1項第19号該当性について
本号は,「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であつて,不正の目的(不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもつて使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)」と規定されている。
そうすると,上記(1)のとおり,引用商標は,他人(申立人)の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されているものと認められないものであるから,本件商標は,商標法第4条第1項第19号を適用するための要件を欠くものといわざるを得ない。
また,申立人が提出した証拠からは,本件商標権者が,本件商標を不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的をもって使用をするものと認めるに足りる具体的事実は見いだせない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当しない。
(5)申立人の主張について
申立人は,本件商標の構成中「OPTICS」が「光学」の意味を有する英単語であるため,本件商標の指定商品の分野では識別力の弱い,又は発揮しない語といえるため,本件商標の要部は,「VECTOR」の文字部分である旨主張している。
しかしながら,本件商標は,上記(3)イのとおり,黒い横長長方形内に「VECTOR OPTICS」の欧文字をデザイン化して一体性のある態様で表してなるから,一体のものと看取されるのが自然というべきであって,構成文字中の「VECTOR」の文字部分のみが着目されるとはいえないから,申立人の主張は採用することができない。
(6)むすび
以上のとおり,本件商標は,商標法第4条第1項第10号,同項第15号及び同項第19号のいずれにも該当するとはいえず,他に同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから,同法第43条の3第4項の規定により,その登録を維持すべきである。
よって,結論のとおり決定する。
別掲 別掲 本件商標


異議決定日 2020-01-06 
出願番号 商願2018-62692(T2018-62692) 
審決分類 T 1 651・ 25- Y (W09)
T 1 651・ 222- Y (W09)
T 1 651・ 271- Y (W09)
最終処分 維持  
前審関与審査官 原田 信彦 
特許庁審判長 薩摩 純一
特許庁審判官 榎本 政実
平澤 芳行
登録日 2019-02-01 
登録番号 商標登録第6118350号(T6118350) 
権利者 上海旭潔威特商貿有限公司
商標の称呼 ベクターオプティクス、ベクター、オプティクス 
代理人 小谷 武 
代理人 伊東 美穂 
代理人 特許業務法人不二商標綜合事務所 

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