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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2016890024 審決 商標
不服201813662 審決 商標
不服201511193 審決 商標

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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W09
管理番号 1349746 
審判番号 無効2017-890086 
総通号数 232 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2019-04-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-12-25 
確定日 2019-02-22 
事件の表示 上記当事者間の登録第5942675号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5942675号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5942675号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲のとおり「envie CHAMPAGNE GRAY」の欧文字と「アンヴィ シャンパングレイ」の片仮名を上下二段に書してなり,平成28年9月6日に登録出願,第9類「眼鏡,電子出版物,アプリケーションソフトウェア」を指定商品として,同29年2月24日に登録査定,同年4月28日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第45証(枝番号を含む。)を提出した。
1 原産地統制名称又は原産地表示としての「シャンパン(CHAMPAGNE)」について
(1)原産地統制名称又は原産地表示の統制と保護
請求人は,「シャンパーニュ地方ぶどう酒生産同業委員会」を意味する「COMITE(「E」の上に「アクサンテギュ」が付いている。以下同じ。) INTER PROFESSIONNEL DU VIN DE CHAMPAGNE」(略称「C.I.V.C」)の名のもとに,フランス国シャンパーニュ地方における酒類製造業者の利益の保護を目的の一つとして設立されたフランス法人である(甲2?甲5,甲24,甲33)。
フランス国においては,原産地統制名称又は原産地表示が厳格に統制されており,その中核をなすのが,1935年に制定された原産地統制呼称法(Appelation d’Origine Controlee(6文字目の「o」の上に「アクサンシルコンフレックス」が,8文字目の「e」の上に「アクサンテギュ」が付いている。以下同じ。)である(甲6?甲8,甲14,甲15,甲18,甲25の5,甲33,甲37)。この法律は優れた産地のぶどう酒を保護・管理することを目的とし,政府機関のINAO(Institut National des Appellation d’Origineの略称)によって運用されている(甲2,甲9,甲34の2,甲37,甲38)。同法において原産地統制名称ぶどう酒「A.O.C.」は,原産地,品質,最低アルコール含有度,最大収穫量,醸造法等の様々な基準に合うように製造されなければならず,その基準に合格してはじめて「A.O.C.」名称を使用することができる。しかし,鑑定試飲会の際に不適当であるとみなされたものは,名称使用権利を失うことになっており,厳格な品質維持が要求されている。原産地統制名称は,産地の名称を法律に基づいて管理し,生産者を保護することを第一の目標とし,また名称の使用に対する厳しい規制は,消費者に対して品質を保証するものとなっている。
また,ヨーロッパにおいては,限られた地域で特定の材料・製法により生産される農産物等の伝統的特産物が数多く存在している。かかる伝統的特産物には,他の地域の産物との区別のため産地名が使用され,特に良質な産品については国際的に名声を得たものについて,その産地を保護する必要性が生じてきたことから,ヨーロッパ連合は,1992年に農産物の原産地表示保護のために理事会規則2081/92号を制定した。本規則で保護される原産地表示は,本規則にて定められた品目に限られ,EC委員会において審査された後,「保護地理的表示(protected geographical indication)」ないしは「保護原産地呼称(protected designation of origin)」として登録された場合,規則2081/92号の保護対象となりヨーロッパ全土で保護される。なかでも「保護原産地呼称」として認定されるためには,定められた製法で生産・加工・調整されることを要するといった非常に厳格な基準が設けられている。
上記のとおり,ヨーロッパでは,原産地表示保護のための独自の制度を設けることにより,原産地表示を手厚く保護している(甲10)。「Champagne」(シャンパン)は,最も厳しい基準を要求される「保護原産地呼称」として認定され,ヨーロッパにおいて保護されている(甲11)。
(2)「シャンパン」表示の著名性及び顧客吸引力
「シャンパン」(CHAMPAGNE)は,原産地統制呼称法による原産地統制名称であり,シャンパーニュ地方産の発泡性ぶどう酒にのみ使用を許される名称であって,この表示を付した商品(シャンパン)は,我が国においても高品質で稀少価値を有する商品として広く販売されており,産地を表示する標章の代表的なものの一つとして極めて著名となっている。
上記事実は,書籍,雑誌及び新聞等における記載から明らかであり(甲12?甲37),「CHAMPAGNE(シャンパン)」が,ア)フランス北東部の地名であり,同地で作られる発泡性ぶどう酒をも意味する語であること,イ)生産地域,製法,生産量など所定の条件を備えたぶどう酒についてだけ使用できるフランス国の原産地統制名称であること,ウ)「CHAMPAGNE」を表す邦語として「シャンパン」が普通に使用されていること,エ)シャンパンが発泡性ぶどう酒を代表するほど世界的に著名であること,オ)日本国において数多くの辞書,事典,書籍,雑誌及び新聞等がシャンパンの説明に多くの紙面を割いていることなどが認められる。
これらを総合すると,日本国において,「CHAMPAGNE(シャンパン)」の表示は,「フランスのシャンパーニュ地方で作られる発泡性ぶどう酒」を意味するものとして,一般需要者の間に広く知られ,当該表示には多大な顧客吸引力が備わっていることは明らかである。
請求人は,フランス国やINAO等と共に,「シャンパン」表示が有するこのような著名性及びそれに伴う顧客吸引力の維持のために努力を永年重ねてきた。すなわち,国内外の需要者・取引者が想起する「シャンパン」表示の信頼性や評判を損なわぬよう,シャンパーニュ地方のぶどう生産者やぶどう製造業者を厳格に管理・統制し,厳格な品質管理・品質統制をし,これらの者と関係のない他人が「シャンパン」を無断で使用あるいは登録することにより,請求人やINAOそしてシャンパーニュ地方のぶどう生産者やぶどう酒製造業者らの努力により蓄積・維持されてきた「シャンパン」表示のイメージが毀損されることを防止するための活動を積極的に行ってきた。このような請求人の努力により,「シャンパン」表示は,現在まで長期にわたり著名性を保ち続け,高い名声,信用,評判が形成されているものであり,ぶどう酒の商品分野に限られることなく一般消費者に至るまで,多大な顧客吸引力が化体するにいたっている。
2 商標法第4条第1項第7号該当性について
(1)著名な原産地名称については保護すべきであることについて
「CHAMPAGNE」及び「シャンパン」の文字は,著名なフランスの原産地統制名称として,その使用が厳格に管理・統制されているものであって,請求人による長年にわたる厳格な品質管理・品質統制の努力の結果,高い名声,信用,評判が形成されているものであり,ぶどう酒の商品分野に限られることなく一般消費者にいたるまで,世界的に著名な原産地名称として広く知られている。
原産地名称は,商品が産出された土地の地理的名称をいい,商標とは地理的名称に限定されること及びその商品の品質,社会的評価,その他の特性が,産出地固有の気候,地味等の自然条件又は産出地の人々が有する伝来の生産技術,経験若しくは文化等の人的条件といった地理的要因に基づくこと等の点において異なるが,商標とは,商品の出所表示機能,品質保証機能及び広告機能を有する点において,共通しているものと考えられる。そうすると,原産地名称のうち,著名な標章については,著名商標の有するこれら機能が商標法によって保護されているのと同様に保護されることが望ましいというべきである(甲41の2)。
したがって,商標法第4条第1項第7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標」には,著名な原産地名称を含む表示からなる商標を同法第4条第1項第17号によって商標登録を受けることができないとされているぶどう酒又は蒸留酒以外の商品に使用した場合に,当該表示へのただ乗り(フリーライド)又は当該表示の稀釈化(ダイリューション)を生じさせるおそれがある等公正な取引秩序を乱すおそれがあると認められるものや国際信義に反すると認められるものも含まれると解すべきである。
ゆえに,著名な原産地名称を原産地と離れた特定個人又は企業が自己の商標として登録し使用することは,商標法第4条第1項第7号に該当するものとして,認められるべきではない。
(2)本件商標について
本件商標は,横書きした「envie CHAMPAGNE GRAY」の欧文字と「アンヴィ シャンパングレイ」の片仮名を上下2段に書してなるところ,著名な原産地統制名称に相当する「CHAMPAGNE(シャンパン)」の文字を含んでいる。また,本件商標は,外観構成上,「CHAMPAGNE」及び「シャンパン」の文字部分が中心的に表されているから,視覚上,「CHAMPAGNE」及び「シャンパン」の文字部分に注目して認識される外観的要素がある。さらに,「champagne」は著名な原産地統制名称であって,誰もが発泡性ぶどう酒又はその著名な原産地統制名称と理解し認識するものであるのに対し,「envie(アンヴィ)」や「GRAY(グレイ)」は,フランス語で「欲求,欲望,羨望」を意味し,日本国の取引者・需要者には馴染みのない語,又は「灰色」といった程度の一般的な意味合いにしか認識されない語であるから,本件商標において,取引者・需要者の注意を引くのは,中心的に表された「CHAMPAGNE」及び「シャンパン」の文字部分である。
そうすると,本件商標に接した取引者・需要者が有する通常の注意力としては,「CHAMPAGNE」及び「シャンパン」の文字部分に強く印象付けられ,ここから発泡性ぶどう酒又はその著名な原産地統制名称を想起,連想して,著名な原産地統制名称である「champagne」を含む商標という印象をもって取引にあたると考えられる。
したがって,本件商標は,その構成上,「CHAMPAGNE」及び「シャンパン」の文字部分が強く看者の印象に残るものである。
(3)本件商標が国際信義に反することについて
前記1(2)のとおり,日本国では,本件商標の出願日において,「シャンパン(CHAMPAGNE)」が,著名な原産地統制名称として一般需要者の間に広く知られていたことは明らかである。
したがって,著名な原産地統制名称である「CHAMPAGNE」及び「シャンパン」は,極めて高度な商品の出所表示機能,品質保証機能及び広告機能を有する著名商標と同様に,商標法によって保護されるべきものである。
本件商標は,高度な著名性を有する原産地統制名称である「CHAMPAGNE」及び「シャンパン」の文字部分が強く印象に残るものであり,本件商標を使用した商品に接した取引者・需要者の通常の注意力からすれば,本件商標は,容易かつ直感的に,該原産地統制名称である「シャンパン」を想起させるものといえる。本件商標は,「アンヴィ シャンパングレイ」の片仮名が商標全体として生じる称呼を特定した部分であり,本件商標は「アンヴィ(ビ)シャンパングレイ」と一連にのみ称呼すべき一連一体の商標であると考える余地も考えられるが,「アンヴィ(ビ)シャンパングレイ」の称呼は長く,称呼全体としての結合の程度は弱いことから,本件商標から「シャンパングレイ」の称呼は生じ得るが,「シャンパングレイ」については,異議2009-900363(甲41の24)において,「『シャンパン』の文字を含む本件商標をその指定商品に使用するときは,著名な『champagne』及び『シャンパン』の表示へのただ乗り(フリーライド)及び同表示の希釈化(ダイリューション)を生じさせるおそれがあるばかりでなく,シャンパーニュ地方のぶどう生産者及びぶどう酒製造者はもとより,,国を挙げてぶどう酒の原産地名称又は原産地表示の保護に努めているフランス国民の感情を害するおそれがある」として,「公正な取引秩序を乱し,国際信義に反するものであり,公の秩序を害するおそれがあるものと判断するのが相当である。」と判断している。
また,「envie CHAMPAGNE GRAY(アンヴィ(ビ)シャンパングレイ)」は,特定の観念を生じない造語と理解され得るものであるとしても,商標全体として観念上の繋がりもなく,原産地統制名称である「シャンパン」を想起させる「CHAMPAGNE」及び「シャンパン」の文字を明確に含む以上,本件商標を「シャンパン」から離れた造語と考えるべき合理的な理由はない。
さらに,「envie(アンヴィ)」が自他商品等識別機能を有することから,本件商標にあっては,いわば一種の打消表示的な部分と考える余地もあるが,「envie(アンヴィ)」に「CHAMPAGNE(シャンパン)」を凌駕するような強大な周知著名性など認められず,「特別法コンメンタール不正競争防止法」(甲34)に記載されているとおり,「『シャンパーニュ』と発泡葡萄酒のように,地名と商品との結びつきが極めて強固である場合などは,いかなる打消表示によっても,原産地誤認のおそれは排除されない」とされている。
請求人は,INAO等とともに,フランス国内外の需要者・取引者が想起する「シャンパン」表示の信頼性や評判を損なわぬよう,シャンパーニュ地方のぶどう生産者やぶどう酒製造業者を厳格に管理・統制し,厳格な品質管理・品質統制をし,これらの者と無関係の他人が「シャンパン」を無断で使用ないし登録することで,請求人や,INAOそしてシャンパーニュ地方のぶどう生産者やぶどう製造業者らの努力により蓄積・維持されてきた「シャンパン」表示のイメージが毀損されることがないように活動を続けてきた。そのような請求人らの努力により,「CHAMPAGNE(シャンパン)」は,現在まで長期にわたって著名性を保ち続け,高い名声,信用,評判を獲得してきたのであり,その結果,ぶどう酒の商品分野に限られることなく,一般消費者に至るまで,強大な顧客吸引力が化体するに至っているのである。該名称は,フランス国による原産地統制名称法に基づき指定されたぶどう酒として厳格にその使用を規制されているものであるところ,請求人は,「シャンパン」表示のイメージが毀損される可能性がある限り,「CHAMPAGNE(シャンパン)」の語をそのまま含むものに限らず,これをもじった名称や商標等についても,「シャンパン」表示を軽蔑ないし嘲笑するがごときものとして,フランス国において,不快感などの国民感情を生じさせるおそれがあるため,当然に使用が規制されるべきものと考える。本件商標が日本国において登録を認められるような事態となれば,その判断は,こうしたシャンパン表示に関してフランス政府が国を挙げて取り組んでいる統制ないし歴史を全く理解していないか,又は極めて軽視ないしは無視したものであるのみならず,シャンパン表示に対してフランス国民が抱いている誇りや名誉といった国民感情を蔑にするものといわざるを得ない。
したがって,本件商標は,原産地統制名称の稀釈化をきたすおそれがあり,また,フランス国民の不快感などの国民感情を生じさせるおそれもあるため,国際信義に反するといわざるを得ない。
(4)裁判例並びに特許庁の登録実務
知的財産高等裁判所の平成24年12月19日判決(知財高判平成24年(行ケ)第10267号:甲38)は,「飲食物の提供」等を指定役務とする商標「シャンパンタワー」につき,同商標は国際信義に反するものであるから商標法第4条第1項第7号に該当すると判断した特許庁の無効審決を支持する判断をした。同判決は,本件審判請求において請求人が主張した「CHAMPAGNE」及び「シャンパン」に関する主張を全面的に認めている。
また,「CHAMPAGNE」及び「シャンパン」の文字をその構成に含む商標に関し,その指定商品・指定役務を問わず,同号に該当すると判断した審決及び異議決定が多数存在する(甲41)。
こうした多数の先例が示す判断に照らせば,「CHAMPAGNE」及び「シャンパン」の文字をその構成に含む商標は,国際信義に反するものであり,公序良俗に違反するとの登録実務が特許庁において定着しているといえ,原産地統制名称として著名な「CHAMPAGNE」及び「シャンパン」を想起させる以上,シャンパン表示に対するただ乗り(フリーライド)及び同表示の希釈化(ダイリューション)を生じさせるおそれがあるばかりでなく,シャンパーニュ地方のぶどう生産者及びぶどう酒製造者はもとより国を挙げてぶどう酒の原産地名称又は原産地表示の保護に努めているフランス国民の感情を害するおそれがあることは明らかであるから,本件商標は,公正な取引秩序を乱し,国際信義に反するものであるとして,公の秩序を害するおそれがあるものといわなければならない。
さらに,無効審判や登録異議申立てで争われるまでもなく,「CHAMPAGNE」及び「シャンパン」の文字をその構成に含む多数の商標出願が,公正な取引秩序を乱し国際信義に反することから商標法第4条第1項第7号に該当するとして,拒絶査定又は拒絶審決となっている(甲42)。
そして,これらの審決や異議決定は,いずれも,当該商標に含まれる原産地名称が,フランス国が国内法令を制定し,INAO等が中心となって統制,保護を図ってきたものであること,当該原産地名称が著名性を獲得したものであることを理由に挙げており,さらに,当該商標をその指定商品等に使用するときは,著名な原産地名称の表示へのただ乗り(フリーライド)や同表示の希釈化(ダイリューション)を生じさせるおそれがあるばかりでなく,生産者及び製造者はもとより,国を挙げてぶどう酒の原産地名称又は原産地表示の保護に努めているフランス国民の感情を害するおそれがあるなどと判断している。
(5)諸外国でのケースについて
著名な原産地統制名称である「CHAMPAGNE」が,その著名標章の信用へのフリーライドから引き起こされる不利益から保護されるべきであることは,請求人がフランス・イギリス・スイス等において提訴した事件においても認められている(甲2,甲3,甲8,甲44,甲45)。
(6)結び
以上のとおり,著名な原産地統制名称である「CHAMPAGNE」及び「シャンパン」は,フランス国の政府機関たる請求人による不断の努力によって,高い名声・信用・評判が維持されているのであって,これを容易に想起させ,原産地とかけ離れた特定人が自己の商標として登録し使用することは,公序良俗を害するものであるというべきである。即ち,本件商標は,著名な原産地名称である「CHAMPAGNE」及び「シャンパン」の名声をせん用し,「CHAMPAGNE」及び「シャンパン」に化体している高い名声・信用・評判から不正な利益を得るために使用する目的でなされたものであるから,「CHAMPAGNE」及び「シャンパン」という表示へのただ乗り(フリーライド)及び,同表示の稀釈化(ダイリューション)を生じさせるおそれがあり,公正な取引秩序を乱し,国際信義に反するものであるため,商標法によって登録され,保護されるに値しない商標というべきである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当する。

第3 被請求人の主張
被請求人は,本件審判の請求は成り立たない。審判費用は,請求人の負担とする,との審決を求めると答弁し,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第33号証を提出した。
1 本件商標は,その全体構成やそこから生ずる意味合いからしても,公の取引の秩序を乱すおそれがあるとは到底いえず,請求人のこの主張には理由がない。
本件商標が,商標法第4条第1項第7号に該当しないことは明らかである。
(1)本件商標について
被請求人は,本件商標を指定商品中の「コンタクトレンズ」に使用している。
本件商標中の「envie」は,被請求人のコンタクトレンズブランドの名称であり,「CHAMPAGNE GRAY」は,「グレーがかったシャンパン色」というカラーコンタクトの色を意味している。事実「envie CHAMPAGNE GRAY」は,被請求人のコンタクトレンズブランド「envie」の「シャンパングレイ色」のカラーコンタクトレンズとして広く日本全国で一般に販売されている(乙1)。
このように,「CHAMPAGNE(シャンパン)」の文字は,カラーコンタクトレンズの色彩の一部として使用されているのみであり,請求人のいう「特定の国若しくはその国民を侮辱し,又は一般に国際信義に反する場合」になどに該当しないのはいうまでもない。
(2)本件商標中の「envie」について
本件商標中の「envie」は被請求人のコンタクトレンズブランドである。「envie」は,「羨望」を意味するフランス語であるが,日本では化粧品や被服など特定の分野を除いて,一般の取引者や需要者らはそれほどフランス語に堪能であるとはいえないため,「envie」を前記意味合いを持つフランス語であると明確に認識するとは思えない。また,「envie」に対応する片仮名「アンヴィ」は,「envie」をフランス語読みしたものである。被請求人は,日本におけるフランスの知的でおしゃれなイメージや優しい発音から生まれる柔らかいニュアンスと,「envie」の本来の意味である「羨望」つまり「あこがれ」から生まれるイメージから,被請求人のコンタクト事業のメインブランド名として採用したのである。そういった意味においても,日本ではなじみのないことばである「envie(アンヴィ)」は取引者や需要者の記憶に残る印象的なフレーズなのである。「envie/アンヴィ」が第9類「眼鏡」で商標登録されていることは,該指定商品の分野では登録に値する識別力の高い商標であると判断された証左である。
また,被請求人は,「envie(アンヴィ)」関連の商標を他に5件所有している(乙2?乙6)。
本件商標中の「CHAMPAGNE GRAY(シャンパングレイ)」は,黄色みがかった灰色のカラーコンタクトレンズを意味している。「envie(アンヴィ)」ブランドのウェブページによると「憂いのある瞳をつくるイエローグレイ。」のカラーコンタクトとして「CHAMPAGNE GRAY シャンパングレイ」が紹介され,「PLUM BLACK」などの他色のカラーコンタクトも同様に紹介されている(乙1)。
また,被請求人のカラーコンタクトブランド「envie」が周知になっている証拠として,インターネットでの「envie」及び「アンヴィ」の検索結果を示す。インターネットの検索サイトである「Google」において「アンヴィ」を検索したところ,約265万件ヒットしており,「envie」にいたっては,約1億8,600万という驚異的な数字となっている(乙7,乙8)。これらの検索結果を詳細に見ると,ほとんどが被請求人のカラーコンタクトを取り扱う販売専門のサイトであり,請求人のカラーコンタクトについての記事である。カラーコンタクトレンズの通販サイト「MEW CONTACT」においても,コンタクトレンズブランドの1つとして「envie(アンヴィ)」が紹介されている(乙9)。さらに,別のカラーコンタクトレンズの通販サイトにおける「envie(アンヴィ)」のカラーコンタクトの購入ページも紹介する(乙10)。こちらにおいても,メインブランド「envie(アンヴィ)」のカラーコンタクトの色の種類として「シャンパングレイ」が紹介されている。
(3)「CHAMPAGNE(シャンパン)」ということばについて
「CHAMPAGNE(シャンパン)」は原産地統制名称であり,シャンパーニュ地方産の発泡性ぶどう酒にのみ使用を許される名称であって,産地を表示する標章の代表的なものの一つとして極めて著名であることは被請求人も認めるところである。
しかし,「CHAMPAGNE(シャンパン)」には,発泡性のぶどう酒のみを意味するわけではなく,「シャンパン色(緑黄又は黄褐色)」という色彩を示すことばでもあることはさまざまな辞書にも示されている(乙11?乙15)。
また,「champagne color」を画像検索したところ,多くの淡い黄色のサテン生地のような画像とパーティードレスの画像が多数発見された(乙16?乙23)。
このサイトでは,さまざまな「CHAMPAGNE(シャンパン)」色のドレスを紹介している。「champagne-color」との記載も見受けられるが,「champagne-evening-dress」や「champagne-prom-dress」など「champagne」のみで色彩を表示しているものも多数みられる。
さらに,日本語で「シャンパン カラー」で同様に検索したが「シャンパン」色のネクタイやドレスの画像ばかりが発見されている(乙24)。
「シャンパン」色をさらに華やかにした色彩を「シャンパンゴールド」と呼ぶことは一般的に浸透している。デジタル大辞泉の解説においても,「シャンパンゴールド」とは,「シャンパンの色のような,明るく華やかなベージュ。」との記載があり(乙25),また,FASHON(繊維/流行)GUIDE.JPにおいても「シャンパンゴールド(ゴールドベージュ)」についての説明があり,「シャンパンゴールドとは,クリスマスパーティーなどで飲まれることでおなじみのぶどう酒である「シャンパン(シャンペン)」の基本的な色のような,『ゴールドのような輝きのあるベージュ』的な雰囲気の色。」とある(乙26)。さらに,「シャンパンゴールド」を「Google」で検索したところ,約4,770万件ヒットしたことからも,日本において色彩として十分浸透していることがわかる(乙27)。
このように,「CHAMPAGNE(シャンパン)」は原産地統制名称であることは確かであるが,請求人が,それを持って,色彩を示す「CHAMPAGNE(シャンパン)」の使用すべてについてまでも,原産地統制名称へのただ乗り(フリーライド)であり,また,同表示の希釈化を生じさせるおそれがあり,公序良俗に反するということができるのであろうか。
「シャンパン」色は,請求人のいうシャンパーニュ地方産の発泡性ぶどう酒である「CHAMPAGNE(シャンパン)」の美しい淡い琥珀色に由来した色である。それは,赤ワインの色である「ワインレッド」と同様に,「CHAMPAGNE(シャンパン)」そのものを示すことばではなく,そこから派生した色彩を意味する別個のことばとして存在することは,日本の一般的な常識を持ってして十分理解できることである。
請求人もそのことを理解していると思われる記載が審判請求書において述べられている。すなわち,請求人は,請求人のいう時の「champagne(シャンパン)」は,先の辞書にも示されている「シャンパン(フランスChampagne地方原産)」の「発泡性ワイン」のこと,つまり,原産地統制名称のみを示しているのであり,決して色彩を表す「シャンパン」色までを含んでいるわけではない。
(4)小活
以上のとおり,請求人の趣旨は,「シャンパン」と名のれる「ワイン」は「その生誕地であるフランスのシャンパーニュ地方の発泡酒ワインのみ」ということのみであり,その意味合いにおいて,日本国における一般需要者の間に顧客吸引力が備わっているといえる。
すなわち,請求人自身も,色彩表示である「CHAMPAGNE(シャンパン)」色の使用についてまでは何ら権利を有しているわけではないということを理解しているといえる。
請求人が,「CHAMPAGNE(シャンパン)」色という色彩表示まで規制しようとすることは,商標法第4条第1項第7号のいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を拡大解釈することによって,商標登録を排除することになり,商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになる上,商標の選択の機会を著しく狭めることになりかねず,この請求人の行為は,産業の発展に寄与するという商標法の法目的に反することであり,ひいては請求人の既得権益を悪用する権利の乱用にも該当するといわざるを得ない。
2 本件商標「envie CHAMPAGNE GRAY/アンヴィ シャンパングレイ」について
被請求人は,本件商標をカラーコンタクトレンズに使用している。出願当初「CHAMPAGNE GRAY/シャンパングレイ」のみでの出願も検討されていた。しかし,「CHAMPAGNE(シャンパン)」が淡い琥珀色を表す色彩であり,「GRAY」が灰色を意味する色彩であることは一般的に広く知られていることから,「CHAMPAGNE GRAY/シャンパングレイ」のみを出願しても「グレーがかった淡い琥珀色」という色彩を示す標章にすぎないと認識され,識別力の弱い商標であるとして拒絶される可能性が高いとの判断のもと,被請求人のカラーコンタクトのメインブランドである「envie(アンヴィ)」を付して出願し,登録になったものである。
インターネット検索サイトの「Google」において「シャンパングレイ」を検索したところ,約49万5千件のヒットがあった(乙28)。ヒットしたサイトのほとんどが被請求人のカラーコンタクトに関する記載であった。
その中のサイトに「カラコンレポ」というものがある(乙29)。「カラコンレポ」で取り上げられた「アンヴィ シャンパングレイ」についての記載であるが,「グレー混じりでナチュラルにもハーフっぽくも使えそう♪」との記載があり,「シャンパン」は「シャンパン色」としてのみ認識されているのであり,だれも原産地統制名称としての「CHAMPAGNE(シャンパン)」と結び付けて認識してはいない。
さらに,付け加えると,本件商標「envie CHAMPAGNE GRAY/アンヴィ シャパングレイ」に接する取引者や需要者らは,色彩を表す「CHAPAGNE(シャンパン)」と「GRAY(グレイ)」からなる「CHAMPAGNE GRAY(シャンパングレイ)」の一体不可分な構成からして,色彩以外の意味合いを想像するとは思えない。
3 「シャンパン」のことばが「ゴールド」の語と相まって全体として色の表示であること
異議2005-90598(乙30)の異議決定において,「本件商標中の『シャンパンゴールド』の文字は不可分一体の色彩を示す語として把握されるものというのが相当であり,本件商標にあっては,『UV』とともに,商品の品質(色彩)を表すにとどまるものというべきであって,著名な原産地統制名称に化体した名声や信用にフリーラドするものであったり,厳格に管理・統制されている原産地統制名称を希釈化させるものには該当しないというべきである」として,商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものとはいえないと判断されている。
本件商標も「ブランド名」+「色彩」という構成からして前記異議事件と同様であり,本件商標に含まれる「CHAMPAGNE(シャンパン)」はコンタクトレンズの色の名前であることは明白である。
また,本件商標以外にも「シャンパングレイ」の文字が含まれる登録商標が存在する(乙31)。
4 まとめ
本件商標は,カラーコンタクトレンズの色彩の表示として使用されるのであり,この使用は「特定の国若しくはその国民を侮辱し,又は一般に国際信義に反する場合」には該当しないため,これが商標法第4条第1項第7号に該当することはない。

第4 当審の判断
1 請求人について
請求人である「COMITE INTER PROFESSIONNEL DU VIN DE CHAMPAGNE(略称:C.I.V.C)」(シャンパーニュ地方ぶどう酒生産同業委員会)は,フランスのシャンパーニュ地方における酒類製造業者の利益の保護を目的の一つとして設立された法人であって,フランス国内及び国外において,「CHAMPAGNE(シャンパン)」の原産地統制名称を保護する等の活動をしている(甲2?甲5,甲24等)。
2 「CHAMPAGNE(シャンパン)」について
(1)フランスにおける「CHAMPAGNE(シャンパン)」の名称の保護について,請求人が提出した証拠によれば,以下のとおりである。
ア 「『CHAMPAGNE』に関するフランス国条例」(1936年6月29日:抄訳,甲6)には,「第1条:『シャンパーニュ』の原産地統制名称は・・1927年7月22日の法律の第5条によって限定された領域で生産されたぶどう酒に限って使用する権利を有する。・・・政府機関(l’Institut national des appellation d’origine)の委員会(la comite nationale des vins et eaux-de-vie)によって認定された,ヴィトリールーフランソワ県の生産地で収穫されたぶどうでつくられたぶどう酒についてのみ,原産地統制名称『シャンパーニュ』を使用する権利がある。」の記載がある。
イ 「原産地統制称呼法」(1935年7月30日付デクレ:抄訳,甲7)には,「原産地統制称呼の認定 第20条-ワイン,オー・ド・ヴィ原産地名称国立委員会が設立され,これに法人格が与えられる。[国立委員会は1947年7月16日付デクレの規定に従い,ワイン,オー・ド・ヴィ原産地名称国立研究所とする。]・・・第21条・・・原産地名称国立研究所は名称の権利を与える生産区域を限定し,各原産地統制呼称のワイン及びオー・ド・ヴィが満たすべき諸生産条件を決定する。これらの諸条件とは,特にワインの生産区域,ブドウ品種,生産高,最低天然アルコール純度,栽培方法,醸造方法,蒸留方法に関するものである。」の記載がある。
ウ 「フランス国農事法典」(抄訳,甲9)には,「農事法典第3章 原産地名称国立研究所/L641-5条」に,「原産地名称国立研究所は,法人格を有する公立行政機関である。」の記載と,その内訳についての記載があり,「INAO(原産地名称国立研究所)の任務は,フランス国内及び海外において原産地統制呼称法を促進かつ保護することであり,一方CIVCはシャンパーニュ地方ワイン製品の専門的利益を防禦する。」の記載がある(甲2)。
エ 「新版 世界の酒事典」(1982年5月20日,株式会社柴田書店発行:甲14)の「シャンパン(Champagne)」の項には,「フランスのシャンパーニュ地方でつくられているスパークリング・ワイン。正式の名称をバン・ド・シャンパーニュ(Vin de Champagne)という。世界の各地で,各種のスパークリング・ワインがつくられているが,このうちシャンパンと呼ばれるものは,フランスのシャンパーニュ地方,特にプルミュール・ゾーン(ランス山とマルヌ谷との一等地),ドゥジェーム・ゾーン(マルヌ県のうち一等地以外の村落群)産のスパークリング・ワインにかぎると1911年の法律で定められている。」の記載がある。
オ 「明治屋酒類辞典 改訂版」(昭和63年8月1日,株式会社明治屋本社発行:甲15)の「Champagne(仏)(英)シャンパン」の項には,「フランスの古い州の名『シャンパーニュ』をとってワインの名に用いたものである。現在『統制された名称』であって,何ら形容詞を付けないで単に『シャンパーニュ』と称する資格を有するのは,マルヌ県の一定地域のブドウを原料にし,その地域内で,『シャンパン法』でつくった『白』スパークリング・ワインである。最高生産量にも制限があって,それを越えた部分には形容詞がつく。」の記載があり,「統制名称」の項には,「シャンパンは,詳しくは『ヴァン・ド・シャンパーニュ』であるが,『シャンパーニュ』という地名を名乗るには資格がいる。1908年(明治41年)初めて法律ができて,『シャンパーニュ』という名称が『法律上指定された』名となった。・・・要するにシャンパンの条件は 1)シャンパン地区の生産であること。2)シャンパン法(ビン内で後発酵を行い,発生したガスをビン内に封じ込める)で製造したものであること。3)白ワインであること。・・・4)その年度の最高の生産高に制限があること,の4条件を具えなければならない。・・・戦前,我が国でもシャンパンの名称を乱用した歴史があるが,敗戦の結果,サンフランシスコ講和条約の効果として,マドリッド協定に加入を余儀なくされ,以来フランスの国内法を尊重している。」の記載がある。
カ 「はじめてのシャンパン&シェリー」(1999年,株式会社宙出版発行:甲32)の「シャンパンの定義」の項には,「シャンパンというと,発泡性ワインの代名詞のようなイメージがありますが,正確には,フランスのシャンパーニュ地方で伝統的な醸造法を用いて造られた発泡性ワインのみを指します。シャンパンの規定は,フランスのワイン法(AOC)で細かく定められています。シャンパーニュ地方で栽培されたブドウを用いること,伝統的なシャンパーニュ方式で製造すること,製造の全工程を指定地域内で行うことなど,さまざまな条件を満たすことが義務付けられています。ほかの国や地域で,シャンパンと同様の製法を用いた発泡性ワインが造られたとしても,それをシャンパンと呼ぶことはできないのです。」の記載がある。
(2)上記(1)の証拠によれば,「CHAMPAGNE(シャンパン)」は,フランスの原産地統制名称法による原産地統制名称であって,ヴィトリールーフランソワ県の生産地で収穫されたぶどうでつくられたぶどう酒についてのみ,「CHAMPAGNE(シャンパン)」の原産地統制名称を使用する権利がある。
すなわち,フランスにおいては,1908年(明治41年)に,「CHAMPAGNE」という名称が法律上指定され,その後,発泡性ぶどう酒(スパークリングワイン)の表記法が定められた。そして,1935年(昭和10年)に,優れた産地のぶどう酒を保護・管理することを目的として,原産地統制名称法(AOC)が制定され運用されている。
原産地統制名称ぶどう酒は,原産地,品質,最低アルコール含有度,最大収穫量,醸造法等の様々な基準に合うように製造されなければならず,その基準に合格して初めて原産地統制名称を使用することができ,厳格な品質維持が要求されている。原産地統制名称は,産地の名称を法律に基づいて管理し,生産者を保護することを第一の目標とし,また名称の使用に対する厳しい規制は,消費者に対して品質を保証するものとなっている。
このように,「CHAMPAGNE」(シャンパン)は,1935年(昭和10年)に制定された法律等に基づき,厳格な基準に合致した発泡性ぶどう酒にのみ許された原産地統制名称である。
そして,第二次大戦以降,我が国においても,「CHAMPAGNE」(シャンパン)の表示は,フランスの国内法を尊重している。
3 我が国における「CHAMPAGNE」及び「シャンパン」の表示の著名性について
(1)請求人の提出した証拠によれば,前掲のほか,以下の事実がある。
ア 辞書,事典等
(ア)「コンサイスカタカナ語辞典」(1996年10月1日,株式会社三省堂発行:甲12)の「シャンパン[champagne]」の項に,「発泡ワインの1種,フランス北東部シャンパーニュ地方産の美酒。」の記載がある。
(イ)「広辞苑 第6版」(2008年1月11日,株式会社岩波書店発行:甲13)の「シャンパン」(champagne)の項に,「発泡性の白葡萄酒。厳密にはフランス北東部シャンパーニュ地方産のものを指す。」の記載がある。
(ウ)「洋酒小事典」(昭和56年6月15日,株式会社柴田書店発行:甲17)の「シャンペン Champagne」の項に,「フランスのシャンパーニュ地方でつくられているスパークリング・ワインの総称。」の記載がある。
(エ)その他,「田崎真也のフランスワイン&シャンパーニュ事典」(甲19),「最新版Theワイン&コニャック アルマニャック」(甲20),「The WORLD ATALAS OF WINE」(甲22),「World Wine Catalogue 1999 by Suntory」(甲23)においても,シャンパンがフランスのシャンパーニュ地方で作られるスパークリング・ワインであることが記載されている。
イ 雑誌等
(ア)「ワイン紀行」(1991年9月25日,株式会社文藝春秋発行:甲16)の「シャンパーニュの村」の項に,シャンパンの歴史及び製造過程等についての記載がある。
(イ)「フランスのワインとスピリッツ」(1987年,フランス食品振興会発行:甲18)の「シャンパーニュ(CHAMPAGNE)」の項に,シャンパーニュ地方,シャンパンの歴史及び製造過程等についての記載がある。
(ウ)「料理王国1月号別冊(季刊ワイン王国 NO.5)」(2000年1月20日,株式会社料理王国社発行:甲24)の「シャンパン味わいの多様性チャート」の項に,「・・・シャンパーニュ地方ワイン生産同業委員会(CIVC)がまとめているすべての醸造元の数は5200にものぼる。委員会は,シャンパン消費量上位10カ国に外国事務所をおいて,『シャンパンと呼べるのは,シャンパーニュ地方産スパークリングだけ』ということを訴えてきたが,’93年頃から『5200の醸造元があれば5200様のシャンパンがある』ということもアピールするようになった。」の記載がある。
(エ)「The 一流品 決定版」(1986?1989年,読売新聞社発行:甲26)には,「スパークリングワイン,発泡性で炭酸ガスを多量に含んだワインである。いちばん有名なのがシャンパン。フランスではマルヌ,オーブ,エーヌ,セーヌ・エ・マルヌ四県のぶどう畑でとれたものを原料にしたものだけをほんとうのシャンパンと証明している。」などの記載がある。
(オ)その他,「世界の名酒事典(株式会社講談社発行:甲25(1980年,1982-83年度版,1984-85年度版,1987-88年版,1990年版?2006年版,2008-09年版,2010-11年版,2012年版?2017年版)),「家庭画報特選 Made in EUROPE ヨーロッパの一流品 女性版」(昭和57年11月1日,株式会社世界文化社発行:甲27),「家庭画報編女性版 世界の特選品‘84」(株式会社世界文化社発行:甲28)においても,シャンパンがフランスのシャンパーニュ地方で作られるスパークリング・ワインであり,その歴史や製造過程などについて詳しく記載され,また,「男の一流品大図鑑」(株式会社講談社発行:甲29?甲31)にも,シャンパンについて掲載されている。
さらに,「はじめてのシャンパン&シェリー」(甲32)の「一目で分かるシャンパンのデータ」の項には,フランスからの総出荷量は,1993年が22,909万本(1本当たりの容量は750ml,以下同じ。),1998年が29,246万本であって,この間ゆるやかに上昇を続けている旨の記載があること,1998年におけるフランスからの国別出荷量において,上位10カ国のうち,我が国への出荷量は,イギリス,ドイツ,アメリカ,ベルギー,スイス,イタリアに次いで298万本であること,等の記載がある。
ウ 新聞
(ア)1989年(平成元年)1月5日付け日本経済新聞(甲33の1)に,「シャンパン(産地)」の見出しの下,「シャンパンはフランス・シャンパーニュ地方で造られたスパークリングワイン(発泡酒)のこと。」の記載がある。
(イ)1989年(平成元年)6月13日付け日本経済新聞(甲33の2)には,「シャンパン人気急上昇-発泡性ワイン,輸入量5割増(アーバンNOW)」の見出しの下,「現在ではフランスの原産地名称国立研究所(INAO)により,『シャンパン』と名のれるのはその『生誕地』シャンパーニュ地方の発泡性ワインのみと規定されている。」の記載がある。
(ウ)1990年(平成2年)11月16日付け朝日新聞(甲33の5)に,「商品の外国地名使用ご用心(素顔のウルグアイ・ラウンド)」の見出しの下,「祝賀パーティーの乾杯に欠かせないシャンパンといっても,厳密には『シャンパン』と『スパークリング(発泡性)ワイン』の区別がある。・・前者はフランスのシャンパーニュ地方産,後者はそれ以外の国や地域で醸造されたものをさす。」の記載がある。
(エ)1991年(平成3年)4月27日付け朝日新聞(甲33の6)に,「スパークリングワイン 手ごろな値段で楽しめる(カタログ)」の見出しの下,「シャンパンはシャンパーニュ地方で,瓶内発酵法によってつくるなど,法律で基準が細かく決まっており,この地方以外でつくられるスパークリングワインをシャンパンと呼ぶのは禁止されている。」の記載がある。
(オ)その他の新聞においても,シャンパンがフランスのシャンパーニュ地方で作られるスパークリング・ワインであり,その歴史や製造過程などについての記載がある(甲33の3,4,7)。
(2)上記(1)の事実によれば,「CHAMPAGNE(シャンパン)」の文字は,フランス北東部のシャンパーニュ地方で作られる発泡性ぶどう酒を意味する語であって,生産地域,製法,生産量など所定の条件を備えたぶどう酒についてだけ使用できるフランスの原産地統制名称として,発泡性ぶどう酒を代表するほど世界的に著名であり,我が国においても,数多くの辞書,事典,書籍,雑誌及び新聞等において「シャンパン」についての説明等がされている。
これらの事実を総合すると,我が国において,「CHAMPAGNE」及び「シャンパン」の表示は,「フランスのシャンパーニュ地方で作られる発泡性ぶどう酒」を意味するものとして,一般需要者の間に広く知られていることが認められる。
4 商標法第4条第1項第7号該当性について
(1)本件商標は,「envie CHAMPAGNE GRAY」の欧文字と「アンヴィシャンパングレイ」の片仮名を二段に書してなるところ,構成中の「CHAMPAGNE」及び「シャンパン」の語については,上述したとおり「フランスのシャンパーニュ地方で作られる発泡性ぶどう酒」を意味する語であって,生産地域,製法,生産量など所定の条件を備えたぶどう酒についてだけ使用できるフランスの原産地統制名称である。
そして,「CHAMPAGNE」及び「シャンパン」は,発泡性ぶどう酒を代表するほど世界的に著名であり,我が国においても,数多くの辞書,事典,書籍,雑誌及び新聞等において「CHAMPAGNE(シャンパン)」について説明されているものであって,これらの事実を総合すると,我が国においても,「CHAMPAGNE」及び「シャンパン」の表示は,「フランスのシャンバニュー地方で造られる発泡性ぶどう酒」を意味するものとして一般需要者の間に広く知られているものであることが認められるものである。
また,構成中の「envie」又は「アンヴィ」は,フランス語で「羨望」を意味するとしても,本件商標は,全体をもって親しまれた既成の観念を有する成語として知られているものとはいえず,他にこれが常に一体不可分のものとしてのみ把握されるべき事情は見当たらない。
さらに,構成中の「GRAY」「グレイ」は,「灰色」を意味する英語又は外来語として知られているものであるが,「CHAMPAGNE GRAY」又は「シャンパングレイ」の語が成句として知られているほどこれらを常に不可分一体のものとして認識しなければならない事情は見当たらない。
そうすると,本件商標に接する需要者は,本件商標を「envie(アンヴィ)」,「CHAMPAGNE(シャンパン)」,「GRAY(グレイ)」の3語からなるものとして認識し把握するばかりでなく,そのうちの「CHAMPAGNE」又は「シャンパン」の文字部分を捉えて,これが著名な「フランスのシャンパーニュ地方で作られる発泡性ぶどう酒」を意味するものとして理解し,認識するものであって,かつ,当該表示には多大な顧客吸引力が備わっていることに照らすと,本件商標からは,該文字に相応して,「シャンパン」という称呼及び「フランスのシャンバニュー地方で造られる発泡性ぶどう酒」の観念を生ずるものである。
(2)請求人は,「CHAMPAGNE(シャンパン)」の表示について,これが有する上記のような周知著名性や信頼性を損なわないよう,シャンパーニュ地方のぶどう生産者やぶどう酒製造業者を厳格に管理・統制し,厳格な品質管理・品質統制を行ってきた。
このような,請求人を始めとするシャンパーニュ地方のぶどう生産者やぶどう酒製造業者らの努力により,「CHAMPAGNE(シャンパン)」の表示の周知著名性が蓄積・維持され,それに伴って高い名声,信用,評判が形成されているものであり,「CHAMPAGNE(シャンパン)」という表示は,シャンパーニュ地方のみならず,フランス及びフランス国民の文化的所産というべき大きな経済的価値を有するものになっている。
また,「CHAMPAGNE」及び「シャンパン」という表示は,我が国においても,ぶどう酒という商品分野に限られることなく一般消費者に対しても高い顧客吸引力が化体するに至っていることが認められる。
(3)以上のような,本件商標の構成中,「CHAMPAGNE(シャンパン)」の文字については,その表示がフランスにおいて有する意義や重要性及び我が国における周知著名性等を考慮すると,該文字を含む本件商標をその指定商品に使用することは,フランスのシャンパーニュ地方におけるぶどう酒製造業者の利益を代表する請求人のみならず,法律により「CHAMPAGNE(シャンパン)」の名声,信用,評判を保護してきたフランス国民の国民感情を害し,かつ,我が国がその価値,名声,評判を損なうおそれがあるような商標の登録を認めることは,我が国とフランス国の友好関係にも影響を及ぼしかねないものであり,国際信義に反し,両国の公益を損なうおそれが高いものといわざるを得ない。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当し,商標登録を受けることができないものであるというべきである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当する。
5 被請求人の主張
(1)被請求人は,「本件商標中の『envie』は,被請求人のコンタクトレンズブランドの名称であり,『CHAMPAGNE GRAY』は,『グレーがかったシャンパン色』というカラーコンタクトの色を意味している。・・・このように,『CHAMPAGNE(シャンパン)』の文字は,カラーコンタクトレンズの色彩の一部として使用されているのみであり,請求人のいう『特定の国若しくはその国民を侮辱し,又は一般に国際信義に反する場合』になどに該当しないのはいうまでもない。」旨を主張している。
しかしながら,「envie(アンヴィ)」がコンタクトレンズのブランド名として,また,「CHAMPAGNE GRAY(シャンパングレイ)」がコンタクトレンズの商品ラインナップとしてのカラーネーミングを意図した使用であるとしても,被請求人の提出に係る証拠によっては,本件商標が該商品の取引者間で周知になっているともいえず,そして,「CHAMPAGNE GRAY(シャンパングレイ)」の文字が色彩を表すものとして使用されている例や,該文字を含む登録商標が存在するとしても,上記2のとおり,「CHAMPAGNE(シャンパン)」の表示が特定の私人に帰属するものでなく,フランスの原産地統制名称であること,それゆえ,本件商標のような原産地統制名称又は原産地表示として著名な「CHAMPAGNE(シャンパン)」の表示を含む商標に係る紛争は,私人間の私的領域における紛争にとどまるものではなく,請求人によって代表されるフランスのシャンパーニュ地方におけるぶどう酒生産同業委員会を始めとするフランス国民やフランス政府との関係での国際信義の問題であって,公益的な事項に関わる問題であることに鑑みれば,本件について商標法第4条第1項第7号を適用することが,同号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」があるものであることは上述したとおりであり,また,同第7号の該当性については,判断時における現実の具体的な事情のもとで,当該商標について個別具体的に判断されるべきものである。
よって,被請求人の主張は,採用することができない。
(2)被請求人は,「『シャンパン』と名のれる『ワイン』は『その生誕地であるフランスのシャンパーニュ地方の発泡酒ワインのみ』ということのみであり,その意味合いにおいて,日本国における一般需要者の間に顧客吸引力が備わっているといえるのである。・・・請求人が,『CHAMPAGNE(シャンパン)』色という色彩表示まで規制しようとすることは,商標法第4条第1項第7号のいう『公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ』を拡大解釈することによって,商標登録を排除することになり,商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになる上,商標の選択の機会を著しく狭めることになりかねず,この請求人の行為は,産業の発展に寄与するという商標法の法目的に反することであり,ひいては請求人の既得権益を悪用する権利の乱用にも該当するといわざるを得ない。」旨を主張している。
しかしながら,本件商標は,上記4(1)のとおり,本件商標を常に一体不可分のものとしてのみ把握されるべき事情は見当たらず,その構成中の「CHAMPAGNE」及び「シャンパン」の文字部分は「フランスのシャンパーニュ地方で作られる発泡性ぶどう酒」を意味するフランスの原産地統制名称であって,我が国においても一般需要者の間に広く知られている著名な語であることからすれば,本件商標に接した需要者は,その構成中の極めて著名な原産地統制名称である「CHAMPAGNE」及び「シャンパン」の文字に注目して,該文字より,発泡性ぶどう酒又はその著名な原産地統制名称を想起,連想して,著名な原産地統制名称である「champagne」を含む商標であると理解するというのが相当であり,該文字を必ずしも色彩を表示するものとのみ認識するとはいえない。
よって,被請求人の主張は,採用することができない。
(3)被請求人は,本件商標について,「被請求人は,本件商標をカラーコンタクトレンズに使用している。出願当初『CHAMPAGNE GRAY/シャンパングレイ』のみでの出願も検討されていた。しかし,『CHAMPAGNE(シャンパン)』が淡い琥珀色を表す色彩であり,『GRAY』が灰色を意味する色彩であることは一般的に広く知られていることから,『CHAMPAGNE GRAY/シャンパングレイ』のみを出願しても『グレーがかった淡い琥珀色』という色彩を示す標章にすぎないと認識され,識別力の弱い商標であるとして拒絶される可能性が高いとの判断のもと,被請求人のカラーコンタクトのメインブランドである『envie(アンヴィ)』を付して出願し,登録になったものである。
インターネット検索サイトの『Google』において『シャンパングレイ』を検索したところ,・・・ヒットしたサイトのほとんどが被請求人のカラーコンタクトに関する記載であった。・・・『シャンパン』は『シャンパン色』としてのみ認識されているのであり,だれも原産地統制名称としての『CHAMPAGNE(シャンパン)』と結び付けて認識してはいない。・・・本件商標『envie CHAMPAGNE GRAY/アンヴィ シャパングレイ』に接する取引者や需要者らは,色彩を表す『CHAPAGNE(シャンパン)』と『GRAY(グレイ)』からなる『CHAMPAGNE GRAY(シャンパングレイ)』の一体不可分な構成からして,色彩以外の意味合いを想像するとは思えない。」旨を主張している。
しかしながら,被請求人の本件商標の採択の経緯が本件審判の判断を左右するものではなく,職権調査によれば「CHAMPAGNE GRAY」及び「シャンパングレイ」の文字は,辞書等に載録されていないものである。
そして,「CHAMPAGNE(シャンパン)」の文字が「フランスのシャンパーニュ地方で作られる発泡性ぶどう酒」を意味するフランスの原産地統制名称であって,我が国においても一般需要者の間に広く知られていることは上記4(1)のとおりであり,本件商標に接した需要者が該文字部分に着目し,その極めて著名な原産地統制名称を想起することは,上記(2)のとおりである。
よって,被請求人の主張は,採用することができない。
(4)被請求人は,「異議2005-90598(乙30)の異議決定において,『本件商標中の「シャンパンゴールド」の文字は不可分一体の色彩を示す語として把握されるものというのが相当であり,本件商標にあっては,「UV」とともに,商品の品質(色彩)を表すにとどまるものというべきであって,著名な原産地統制名称に化体した名声や信用にフリーラドするものであったり,厳格に管理・統制されている原産地統制名称を希釈化させるものには該当しないというべきである』として,商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものとはいえないと判断されている。本件商標も『ブランド名』+『色彩』という構成からして前記異議事件と同様であり,本件商標に含まれる『CHAMPAGNE(シャンパン)』はコンタクトレンズの色の名前であることは明白である。
また,本件商標以外にも『シャンパングレイ』の文字が含まれる登録商標が存在する(乙31)。」旨を主張している。
しかしながら,商標法第4条第1項第7号の該当性の判断は,査定時又は審決時において,個別具体的に判断されるべきものであるところ,他の商標登録の事例の存在によって,本件の判断が左右されるものではない。
よって,被請求人の主張は,いずれも採用することができない。
6 むすび
以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第7号に違反してされたものであるから,同法第46条第1項第1号により無効とすべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
別掲 別掲(本件商標)



審理終結日 2018-07-10 
結審通知日 2018-07-12 
審決日 2018-07-26 
出願番号 商願2016-97592(T2016-97592) 
審決分類 T 1 11・ 22- Z (W09)
最終処分 成立  
前審関与審査官 日向野 浩志 
特許庁審判長 井出 英一郎
特許庁審判官 榎本 政実
田中 幸一
登録日 2017-04-28 
登録番号 商標登録第5942675号(T5942675) 
商標の称呼 アンビシャンパングレイ、アンビーシャンパングレイ、エンビーシャンパングレイ、アンビシャンパングレー、アンビーシャンパングレー、エンビーシャンパングレー、アンビシャンパン、アンビシャンパーニュ、アンビーシャンパン、エンビーシャンパン、アンビ、アンビー、エンビ、グレー 
代理人 佐藤 俊司 
代理人 田中 克郎 
代理人 池田 万美 
代理人 阪田 至彦 
代理人 伊東 美穂 
代理人 特許業務法人不二商標綜合事務所 
代理人 小谷 武 
代理人 稲葉 良幸 

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