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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W01030405
管理番号 1347764 
審判番号 無効2015-890100 
総通号数 230 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2019-02-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-12-24 
確定日 2018-11-30 
事件の表示 上記当事者間の登録第5664585号商標の商標登録無効審判事件についてされた平成28年12月13日付け審決に対し,知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(平成29年(行ケ)第10080号,平成29年12月25日判決言渡)があったので,さらに審理のうえ,次のとおり審決する。 
結論 登録第5664585号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5664585号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲1のとおりの構成よりなり,平成25年10月4日に登録出願,第1類「洗浄用ガソリン添加剤,燃料節約剤,原動機燃料用化学添加剤,窓ガラス曇り止め用化学剤,不凍剤,ラジエーターのスラッジ除去用化学剤,静電防止剤(家庭用のものを除く),塗装用パテ,内燃機関用炭素除去剤,油用化学添加剤,ガラスつや消し用化学品,タイヤのパンク防止剤」,第3類「家庭用帯電防止剤,さび除去剤,ペイント用剥離剤,埃掃除用の缶入り加圧空気,香料,薫料,自動車用消臭芳香剤,風防ガラス洗浄液,自動車用洗浄剤,自動車用つや出し剤,スプレー式空気用消臭芳香剤」,第4類「塵埃抑止剤,塵埃除去剤,潤滑剤,清掃用塵埃吸着剤,革保存用油,自動車燃料用添加剤(化学品を除く),動力車のエンジン用の潤滑油,点火又は照明(灯火)用ガス,内燃機関用燃料,工業用油用及び燃料用添加剤(化学品を除く)」及び第5類「防臭剤(人用及び動物用のものを除く),防虫剤,虫除け用線香,空気浄化剤,スプレー式空気用芳香消臭剤,殺虫剤,衛生用殺菌消毒剤,くん蒸消毒剤(棒状のものに限る),くん蒸消毒剤(錠剤に限る),中身の入っている救急箱」を指定商品として,同26年3月3日に登録査定,同年4月18日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由及び答弁に対する弁駁を要旨以下のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第208号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 無効理由
本件商標は,商標法第4条第1項第15号,同項第19号及び同項第7号に該当するから,同法第46条第1項第1号により無効にすべきものである。
2 前提となる事実関係について
(1)本件商標について
本件商標は,背を「く」の字状に曲げて頭部を低くし,顎を引いて前方に角を突き出し,胸元に掻き込むように両前脚を曲げるとともに両後脚を後方に突き出して,尾を略S字状になびかせて突進する左向きの赤色の雄牛を,背景に黄色調の楯状の図形を施してなる。
なお,本件商標の権利者である被請求人は,2001年に創立された韓国法人であって,自動車関連商品の販売等を業とする者である(甲2)。
(2)レッドブル商標及び引用商標について
請求人は,日本におけるレッドブル社(本社である「Red Bull GmbH」,又は日本における子会社であるレッドブル・ジャパン株式会社その他の関連会社を含めた総称をいう。)の商標を管理する会社である。
請求人は,レッドブル社の商標に関して多数の登録商標を保有しているところ(甲3及び4等),「Red Bull(RED BULL)」・「レッドブル」という文字商標(以下「レッドブル文字商標」という。),及び突進する雄牛からなる図形商標(以下「シングルブル図形」という。なお,シングルブル図形には,雄牛が左向きのもの(別掲3)と,右向きのもの(別掲4)とがあり,特に背景に黄色い略円状の図形を施した左向きの赤いシングルブル図形(別掲3)を以下「引用商標」といい,左向きと右向きの2個のシングルブル図形を向き合わせた図形商標(別掲2)を「ダブルブル図形」といい,シングルブル図形と併せて「ブル図形」と総称し,レッドブル文字商標及びブル図形とを併せて「レッドブル商標」と総称する。)は,エナジードリンク及びF1レース等のモータースポーツその他のイベント関連の分野のみならず,特定の商品・役務に限られない市場における広範囲な分野において,レッドブル社を示すものとして著名な,Red Bull GmbHが排他的な権利を有する商標である。
(3)レッドブル商標及び引用商標の著名性について
ア 沿革
レッドブル社は,1980年代半ばに,ディートリッヒ・マテシッツ氏により設立された。そして,レッドブル社のエナジードリンクは,1987年にオーストリアで最初に販売されて以降,爆発的なヒットを続け,現在,レッドブル社のエナジードリンクは,日本を含む165か国以上で販売されるとともに,レッドブル社は,そうした世界各国において,レッドブル商標を使用した広範囲なプロモーション活動,マーケティング活動及び宣伝広告活動を通じ,レッドブル商標を用いた事業活動を行い,その結果,レッドブルブランドは,例えば2013年のフォーブス誌において世界で最も価値ある100のブランドの69位にランクインするに至っている(甲5,6)。
イ レッドブル社のRed Bullエナジードリンクについて
レッドブル社のエナジードリンクの2013年度における世界各国の市場シェアは,オーストリアで62.7%,米国で42.8%,インドで82.2%,香港で66.6%など驚異的であり,同年度の世界における売上本数は,54億本を超えている(甲6(項目8.(以下「項目」の表示を省略する。)))。
日本において販売が開始されたのは2005(平成17)年9月であり,2013年度の販売本数は1億7600万本を超える(甲6(7.))。
このような販売実績を誇るレッドブル社のエナジードリンクは,「Red Bull」(レッドブル)という名称で販売され,レッドブル商標が付されている。
そして,エナジードリンクを飲む際に,必ず目にするプルタブには,シングルブル図がくり抜かれており,他に例のないような非常にユニークで印象的な標章の使用がなされている(甲7)。
ウ レッドブル社のレッドブル商標について
レッドブル社は,Red Bullエナジードリンクの宣伝車両「レッドブル・ミニ」(甲8?13)を走らせ,あるいは,多数の国においてレッドブル・バンで商品を運ぶなどの効果的,印象的な宣伝広告を行っているところ,レッドブル社は,単なるエナジードリンクの販売会社ではない。
レッドブル社が行っているのは,レッドブルブランドの育成とその活用である。レッドブル社は,長い間,スポーツイベント,カルチャーイベントや,グッズ,被服や靴等の商品,さらに,F1レーシングチームを含むモータースポーツ全般のほか,サッカーチームや,レコードレーベル,テレビチャンネルに加えて雑誌や出版からモバイル通信等々に至るまで,幅広い産業,サービス,商品においてレッドブルブラントを用いることによって,その認知度とそのブランド価値を高め,その目を見張るマーケティングとレッドブルブランドの成功については,日本においても,多数の書籍等において紹介されるに至っており,その一つとして,「レッドブルはなぜ世界で52億本も売れるのか」という書籍が発行され,好評を博しているところである(甲14)。
すなわち,レッドブル社は,テレビ,映画,ラジオ等のメディアに焦点をあてた市場への浸透として,日本においてもRed Bullエナジードリンクの販売開始以来,メディアプロモーションに莫大な投資を行ってきており,下記(ア)ないし(オ)に示す,主として2013(平成25)年?2014(平成26)年の事情のとおり,(ア)巨額の広告費を投じて,(イ)メディア部門や様々なイベント等を通じ,レッドブル商標を極めて効果的かつ印象的に使用することによって,(ウ)レッドブル商標は,一つのブランドとして極めて高い認知度を誇るに至り,(エ)レッドブル社は,それを自動車関連商品はもちろん,実に様々な分野にライセンスする等の活用を行っていくことを通じ,(オ)そのブランド価値の高さは世界を代表するものになるに至っている。
(ア)広告費に関しては,例えば,2013年度のメディア費用が,全世界で約5億3000万ユーロ(1ユーロ-135円換算にて約716億円),日本では約1600万ユーロ(同約21億6000万円),マーケティング費用が,全世界で約17億7000万ユーロ(同約2390億円),日本では約4300万ユーロ(同約58億円)を超えている(甲6(9.及び10.))。
(イ)そして,レッドブル社は,「レッドブル・メディアハウス」,「レッドブル・テレビ」,「レッドブル・モバイル」,「レッドブル印刷雑誌」などの様々なメディア部門を擁し,F1レースをはじめとして,ダカール・ラリー,モトグランプリなどのロードレースや,サッカー,アイスホッケーのほか,フリースタイル・モトクロスやレッドブル・エアレース等スポーツ競技など実に様々なイベント等について,その主催ないしスポンサーとなっている。また,スポーツのみならず,芸術・音楽等の文化的イベントも開催しており,それらにおいて,極めて印象的に引用商標を含むレッドブル商標が使用されている(甲6(17.?43.),甲17?124)。
(ウ)エナジードリンクの販売のほか,このようなレッドブル社の事業活動とそれに伴う宣伝広告活動により,世界各国におけるレッドブル商標の認知度は,2013年において,オーストリア,英国,フランス,アメリカ等において,純粋想起率で70%を,助成想起率で90%を優に超えるものとなっており,同年において,日本における純粋想起率は60%,助成想起率は83%となっている(甲6(12.))。この点,純粋想起率とは,製品カテゴリーを示して当該ブランドを想起するか,という問題であるのに対して,助成想起率は当該ブランドを知っているか,という問題である。なお,日本における2014年のブランド調査においても,レッドブルブランドは,82.2%,95.8%という圧倒的な認知率を誇っている(甲125)。
(エ)そして,レッドブル社は,このようにしてレッドブル商標に積み上げられた信用を維持・発展させ,現に,実に様々な分野においてライセンスすることによりレッドブル商標の活用を行っている(甲6(22.及び23.))。すなわち,レッドブル社は,レッドブル商標について,1999(平成11)年から560件を超えるライセンスを付与して,レッドブル商標の使用を許諾している。そして,そのライセンスは,模型,ビデオゲーム,サングラス,事務用品,かばん,被服等々極めて多種多様な商品を対象としており,日本においても京商株式会社,株式会社タミヤ,株式会社ソニー・コンピュータエンターテインメント及びカシオ等を含む複数の会社に様々な商品に係るライセンスを付与している(甲85,91,93,94等のほか,126?129)。
そして,上記のF1レースやモータースポーツに起因するレッドブル商標の著名性は,際立って顕著であるところ,現に,自動車(バイクを含む)関連商品におけるレッドブル商標が付された商品は多数にわたり,例えば,F1関連商品を取り扱うオンラインショップにおいて,レッドブル商標の付された多数のグッズが販売されている(甲130,131)。
加えて,インターネットショッピングサイト「楽天市場」において,「車用品・バイク用品」というカテゴリーで「レッドブル」を検索したり,同じくインターネットショッピングサイト「ヤフーショッピング」において,「自転車,車,バイク」というカテゴリにおいて「レッドブル」を検索したりすると,現在でも,グローブ,ヘルメット,ステッカー,ライト,マット等多数の商品が表示される(甲132,133)などしている。
(オ)レッドブル社の上述のような多彩,多様な分野における進出により高められたブランド価値は,権威ある調査や世界有数の経済誌によって,世界的に高いランク付けがなされていることは,世界的な各ブランド調査結果から明らかであり(甲6(11.)),また,2015年版のフォーブス誌の「世界で最も価値のあるブランド」ランキングにおいても76位を占め,「SONY」や「CHANEL」よりも上位である(甲134)。
エ 引用商標の使用態様について
レッドブル商標は,突進する赤い雄牛が強烈なモチーフとなっており,レッドブル商標が使用されるその態様において,赤い雄牛と黄色い背景を組み合わせたシングルブル図形ないし引用商標は,レッドブル商標の中でも特に印象的に使用されるものの一つであり,これによって直ちにレッドブル社を想起させるに至っている。
オ 被請求人は,レッドブル社のロゴマークは,引用商標ではなく,太陽を背に2頭の赤い雄牛が向かい合い,角を突き合わせている「ダブルブル図形」が基本であり,レッドブル社のプロモーション活動,マーケティング活動及び宣伝広告活動において,引用商標を自社のロゴマークとして積極的に使用する意図をもったものではない,と主張する。
しかしながら,レッドブル商標は,突進する赤い雄牛が強烈なモチーフとなっており,レッドブル商標が使用されるその態様において,赤い雄牛と黄色い背景を組み合わせたシングルブル図形ないし引用商標は,レッドブル商標の中でも特に印象的に使用されるものの一つである。
カ なお,被請求人は,甲第6号証の27頁及び甲第64号証の表紙に表された引用商標は,車の進行方向に雄牛が進むようにデザインしたにすぎず,商標的使用ではないと論難する。
しかしながら,過去の裁判例において判示されているように,「商標と意匠とは排他的,択一的な関係にあるものではなくして,意匠となりうる模様等であっても,それが自他識別機能を有する標章として使用されている限り,商標としての使用がなされているものというべき」である(大阪地裁昭和62年3月18日判決[昭和61年(ワ)第4147号]。甲158)。しかるに,F1レースその他のモーターレースにおいて,レーシングカーの車体外面にチームオーナーが自己の商標を表示して宣伝広告することが通常行われていることに鑑みれば,甲第6号証の27頁及び甲第64号証の表紙において,車体外面に表示された引用商標が,単なるデザインとしてのみならず,チームオーナーたるレッドブル社の商標として認識されることは明らかであるから,商標的使用ではないという被請求人の主張は失当というべきである。
キ 小括
以上のとおり,レッドブル社が莫大な広告宣伝費を投じたレッドブル商標は,日本を含む世界的な極めて高い著名性を獲得していることは否定し難いものである。
レッドブル社は,単にエナジードリンクの販売のみではなく,その斬新かつ多様なマーケティング活動を通じ,レッドブル商標,レッドブルブランドの発展,維持事業を展開し,高い顧客吸引力を有する世界的に高い価値あるブランドを築き上げてきたものである。かかるレッドブル社のブランドたるレッドブル商標を,レッドブル社は,様々な分野にライセンス事業を通じるなどして活用しているものであり,また,こうしたレッドブル商標の使用態様においては,独創性に優れたユニークな(シングル)ブル図形,そして引用商標が,特に強烈な印象を与えるものであることは一見して明白である。
これらによれば,レッドブル商標,そして,とりわけ引用商標は,エナジードリンクはもちろん,F1レース等の自動車関連分野等において極めて高い著名性を有するほか,レッドブル社の広範囲な活動にかんがみれば,特定の商品・役務分野に限られない高い著名性を有するものであることが明らかである。
3 無効原因1(商標法第4条第1項第15号)
商標法第4条第1項第15号に関する最判平成12年7月11日[平成10年(行ヒ)85号](甲135)の基準に照らして考察すると,以下のとおり,本件商標に接した取引者・需要者は,本件商標を使用した商品が,あたかもレッドブル社の業務に係る商品であるかのごとく,商品の出所について混同を生ずるおそれがある。
(1)本件商標と引用商標との類似性の程度
ア 上記2(3)のとおり,レッドブル商標は極めて高い著名性を有し,その使用態様から明らかなとおり,引用商標,すなわち黄色い背景を施した赤い左向きのシングルブル図形から,レッドブル社を想起させ,又は,ダブルブル図形及びレッドブル文字商標を想起させることによってレッドブル社を想起させるものである。
イ まず,本件商標は,背を「く」の字状に曲げて頭部を低くし,顎を引いて前方に角を突き出し,胸元に掻き込むように両前脚を曲げるとともに両後脚を後方に突き出して,尾を略S字状になびかせて突進する左向きの赤色の雄牛を,背景に黄色調の楯状の図形を施してなる。他方,引用商標は,背を「く」の字状に曲げて頭部を低くし,顎を引いて前方に角を突き出し,胸元に掻き込むように両前脚を曲げるとともに両後脚を後方に突き出して,尾を略S字状になびかせて突進する左向きの赤色の雄牛を,背景に黄色調の略丸状の図形を施してなるものであって,いずれの商標からも,突進する赤い雄牛という観念ひいてはレッドブル社という観念を生じさせることは明らかであり,その観念において共通する商標である。
ウ そして,かかる引用商標と本件商標とは,背を「く」の字状に曲げて頭部を低くし,顎を引いて前方に角を突き出し,胸元に掻き込むように両前脚を曲げるとともに両後脚を後方に突き出して,尾を略S字状になびかせて突進する赤色の雄牛を,背景に黄色調の図形を施してなるという,基本的な外観を呈する点で共通する(現に,引用商標と本件商標とを重ね合わせてみても,その基本的外観がほぼ同一であることは明らかである。)。
他方,両商標を仔細に比較すると,本件商標の雄牛は筋肉の隆起が黒抜きで表現され,背中には隆起が2本施され,右前脚や腹部や尾等が黒く,角は白くしてなるのに対して,引用商標にあっては,筋肉の隆起は白抜きで表現され,肩に隆起が1本施されている点,引用商標のほうが背をより「く」の字状にしてなる点,本件商標の背景は黄土色の盾状の図形であるのに対して,引用商標は黄色い略丸状等であることが多い点で相違するものの,離隔的観察によれば,これらの点はいずれもささいな点であり,上記の基本的外観を凌駕するようなものではない。
エ 以上からすれば,両商標は,上記のとおり,外観において,その基本的部分を共通にし,また,観念も共通するものであって,上記2(3)におけるレッドブル商標及び引用商標の著名性の高さにも鑑みたとき,両商標を仔細に観察した場合の相違点は,両商標の基本的な外観上の共通点を凌駕するものとはいえず,全体として両商標は外観上類似し,その類似性も相当に高いレベルのものというべきである。
(2)レッドブル商標及び引用商標の周知著名性及び独創性の程度
レッドブル商標及び引用商標の著名性の高さについては,上記2(3)のとおりであり,レッドブル商標,そして引用商標の著名性は極めて高く,引用商標に接する者において,「あのレッドブル社」という認識が抱かれ,レッドブル社が想起されることは明らかである。
そして,引用商標は,背を「く」の字状に曲げて頭部を低くし,顎を引いて前方に角を突き出し,胸元に掻き込むように両前脚を曲げるとともに両後脚を後方に突き出して,尾を略S字状になびかせて突進する左向きの赤色の雄牛を,背景に黄色調の図形を施して成るものであり,仮に同じ雄牛を表現するとしても,かかる態様がありふれたものであるはずがなく,極めて斬新かつ印象的な商標である。
さらに引用商標は,黄色の背景と共に使用される使用形態にあって,その独自性・独創性がより一層高まっていることは明らかである。
被請求人は,引用商標が極めて斬新かつ印象的な商標であるとの請求人の主張に対し,左向きのシルエット状の牛の商標登録例が多数存在すること,左向きのシルエット状の牛に限られない牛の図形商標の登録の存在を挙げて反論している。
しかしながら,審判請求書で請求人が主張したのは,引用商標が,背を「く」の字状に曲げて頭部を低くし,顎を引いて前方に角を突き出し,胸元に掻き込むように両前脚を曲げるとともに両後脚を後方に突き出して,尾を略S字状になびかせて突進する左向きの赤色の雄牛を,背景に黄色調の図形を施してなるものであり,仮に同じ雄牛を表現するとしても,かかる態様がありふれたものであるはずがなく,極めて斬新かつ印象的な商標であるという点である。左向きのシルエット状の牛の図形であることや牛の図形商標であること自体が極めて斬新かつ印象的であると主張するものではなく,被請求人が挙げる登録例の存在は,何ら請求人の主張に対する反論の根拠を示すものになり得ない。むしろ,被請求人が挙げた登録例は,いずれも上記の引用商標の有する特徴を備えておらず,引用商標が極めて斬新かつ印象的な商標であることをより強調するものであって,これらの登録例との比較において,本件商標と引用商標の類似性の高さがより明らかになるというべきである。
(3)本件商標の指定商品等とレッドブル商標及び引用商標が付される商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性
ア 上記2(3)のとおり,レッドブル商標及び引用商標が高い著名性を有し,レッドブル社の様々な,広範囲なブランド活用事業等に鑑みると,レッドブル商標及び引用商標は,特定の商品・役務に限られない周知著名性を有するものであって,レッドブル商標そして引用商標又はこれに類似する商標が付された商品に接する者は,「あのレッドブル社」という認識を抱くことは必至である。
そして,本件商標の指定商品は,いずれも,明らかに自動車に関連性を有する商品である。
イ そもそも,被請求人は,自動車関連商品の販売等を業とする者である(甲2)ところ,各種自動車関連商品のほか自動車用商品として空気浄化剤(エアーフレッシュナー)等を販売しているところであり(甲136?140),被請求人においてカー用品としての商品について使用されることは疑いようがない。
この点,レッドブル商標及び引用商標が,自動車関連分野において特に際立った顕著な著名性を有するものであることは上記2(3)のとおり明らかである。
以上からすれば,本件商標の指定商品と,引用商標が付され,あるいは引用商標により広告される商品等との間の関連性は相当に高いものであり,また,引用商標が多種多様な分野において著名なものといえることからすれば,特に自動車関連分野において本件商標の指定商品の需要者,取引者と,引用商標に接する者との共通性は極めて高い。
ウ 請求人による,本件商標の指定商品と引用商標が付され,あるいは引用商標により広告される商品等との間の関連性が相当高い,また,自動車関連分野において本件商標の指定商品の需要者,取引者と,引用商標に接する者との共通性は極めて高いとの主張に対し,被請求人は,請求人の提出した証拠は,レッドブル社が自動車関連分野の商品等を取扱う企業であることを示すものではないし,そのような企業であることを推認させることもないと述べている。
しかしながら,被請求人は,請求人が提出した証拠のうち,6点の「引用商標のみが示された証拠」を恣意的に抽出しており,極めて不適当といわざるを得ない。引用商標はシングルブル図形の一類型であり,また,ダブルブル図形はシングルブル図形を向き合わせた図形商標であるように,それらはすべてが重なり合って,引用商標を含むレッドブル商標の著名性獲得に寄与しているのであって,「引用商標のみが示された証拠」は,請求人が提出した証拠のほんの一部にすぎない。引用商標を含むレッドブル商標が,自動車関連分野において特に際立った顕著な著名性を有することは,既に述べたとおり明らかである。
エ 被請求人は,本件商標の指定商品における需要者・取引者が,レッドブル社の業務が本件商標の指定商品の製造・販売であるとの認識を抱くことはない,レッドブル社を想起・連想させることはない,レッドブル社が取り扱う業務に係る商品又は役務であるかのごとく認識して取引にあたることもないなどと述べている。
しかしながら,商標法第4条第1項第15号の「混同を生ずるおそれ」を認めるにあたっては,本件商標の指定商品の需要者・取引者が,本件商標を使用した商品が,レッドブル社と親子関係や系列会社等の緊密な営業上の関係ないしレッドブル商標による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信するおそれがあれば足り,被請求人が主張するようなレッドブル社自身の製造・販売による商品であるとの認識を抱くことまでは必要とされないというべきである。
オ 被請求人は,本件商標の指定商品とレッドブル商標が付された自動車関連商品「グローブ,ヘルメット,ステッカー,ライト,マット」とは,生産部門,販売部門,原材料,用途及び需要者のいずれも大きく異なり,非類似の商品であると述べている。
しかしながら,上記の「グローブ,ヘルメット,ステッカー,ライト,マット」は単なる例示として挙げたにすぎず,レッドブル商標が付された自動車・バイク関連商品は上記例示された商品にとどまらない。例えば,レッドブル社は,モーターサイクル用オイルメーカーのIPONE SA社にレッドブル商標の使用をライセンスしており(甲166),同メーカーのオイル(潤滑油)は世界最高峰のモーターレースにおいても利用され,高い成績を残していることから,日本国内でもよく知られるところとなっている(甲167)。一方で,本件商標の指定商品は「動力車のエンジン用の潤滑油」等を含む自動車・バイク用の商品であり,被請求人も自認するように,その性質上,化学品を原料とし,化学製品製造のための専用設備を有する工場で製造され,自動車・バイクの所有者等を需要者とする自動車・バイク用の商品であるところ,レッドブル商標が付されたモーターサイクル用オイル(潤滑油)と生産部門,原材料,需要者,用途において両商品は共通する。
また,そもそも,被請求人の主張は,商標法第4条第1項第11号における商品の類否判断の審査基準に基づくものであるところ(甲168),同項第15号における「混同を生ずるおそれ」の有無の判断においては,これを同項第11号における商品の類否と同様に解釈しなければならないとする合理的な理由はない。
しかるに,「混同を生ずるおそれ」の有無の判断における「商品間の関連性の程度」,「商品等の取引者及び需要者の共通性」について検討すると,いずれの商品も自動車・バイク関連の商品であってその用途・目的における関連性が強く,また,被請求人も自認するように被請求人のウェブサイト上で本件商標の指定商品が自動車・バイクの所有者等に向けて販売されているのに対し,レッドブル商標を付した自動車・バイク関連商品の需要者が,たとえ被請求人の述べるように,レッドブルエナジードリンクの愛用者やF1レッドブルレーシングチームのファンであるとしても,そのなかにも自動車・バイクの所有者等は当然含まれるのであって需要者は共通しているといえるし,レッドブル商標を付した自動車・バイク関連商品が,F1関連のオンラインショップに加えて,インターネットショッピングサイトでカー用品として販売されていることからしても,需要者の共通性は認められる。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当しないとした被請求人の主張は失当である。
(4)諸外国における判断について
被請求人は,諸外国においても,本件商標と同様の商標を出願しているところ,台湾においては,本件商標を単に右向きにした商標について,レッドブル社のレッドブル商標との類似性が高いこと,レッドブル商標の識別性が高いこと,レッドブル商標はエナジードリンクに限られず多角的な事業の性質をもつ異なる分類に属する商品にも使用されていること等から,レッドブル商標と混同を生じるおそれがあるとして,2015(平成27)年3月18日に登録商標を取り消すとの異議決定が下されている(甲141)。
また,請求人による同一商標についての国際登録第1100687号商標(甲142)に関しても,当該商標はレッドブル商標と混同を生じるおそれがあるとして,モンゴルでは2012(平成24)年5月25日に(甲143),ベトナムでは同年12月14日に(甲144),それぞれ暫定的拒絶通報が出されている。
さらに,アラブ首長国連邦においても,上述と同様の,本件商標を単に右向きにした商標(区分;1類,3類,4類及び5類)について,レッドブル社のレッドブル商標が周知標章であって,これに類似する等として,その登録が拒絶されている(甲145,146)。
(5)小括
以上のとおり,引用商標は,斬新かつ独創的な商標であって,引用商標は,市場における特定の商品,役務の分野に限らず,レッドブル社を示すものとして世界的に著名であるところ,本件商標は,かかる引用商標と高い類似性を有するものである。加えて,本件商標の指定商品は,自動車関連商品であって,引用商標が著名な分野に密接に関連するものである。
これらを総じて考慮すれば,本件商標をその指定商品に使用するときには,それに接する取引者・需要者において,世界的に著名なレッドブル商標,レッドブル社を想起・連想し,あたかもレッドブル社が取り扱う業務に係る商品又は役務であるかのごとく認識して取引にあたると考えられるため,その商品及び役務の出所について混同を生ずるおそれがあることは明白である。
よって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当する。
4 無効原因2(商標法第4条第1項第19号)
本件商標は,その登録出願時及び登録査定時において,外国及び日本国内において,特定の商品・役務の分野を問わず著名性を獲得していたレッドブル商標の一類型である引用商標に類似する商標であり,被請求人が,信義則に反する不正の目的によって出願されたものであるから,以下のとおり,商標法第4条第1項第19号に該当する。
(1)レッドブル商標及び引用商標が,レッドブル社の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内及び外国において著名であること
レッドブル商標及び引用商標の日本国内及び諸外国における著名性は,上記2(3)のとおりである。
(2)被請求人の「不正の目的」について
ア 商標法第4条第1項第19号にいう「不正の目的」とは,競争関係とは無関係に,出所表示機能を希釈化させるような目的等公正な取引秩序に違反するような目的も含まれるものである。さらに,「不正の目的」には,周知著名性を十分認識した上で,その名声や信用にただ乗りして,他人の信用にただ乗りして利益を得る目的も含まれるものである。
そこで,以下,本件についてこれを検討する。
イ まず,上記2(3)のとおり,レッドブル商標,そして引用商標の世界的な著名性は明らかであり,被請求人は,引用商標の著名性を熟知していた。引用商標の世界各国における著名性から被請求人が引用商標を知悉していたことは容易に推認できるものの,被請求人が引用商標の著名性を熟知していたことは客観的事実からも明らかといえる。
すなわち,レッドブル社が,2005年以降F1に進出していることは周知のところであるが,被請求人は,2012年にF1の韓国グランプリサーキットにおいて,イベントを行うなど,F1グランプリに関連するイベント行事などに積極的に参画するなどしているところである(甲149)。
このように,同じF1レースという領域に係る関与における事情に鑑みても,被請求人がレッドブル商標,とりわけ引用商標を知らないことがあり得ないことはもとより,被請求人が,F1等のロードレースと密接な関連のある自動車関連商品を指定商品として,引用商標を極めて容易に想起させる本件商標を出願したことは,引用商標に化体したレッドブル社の信用を利用して利益を得るために行われたものであることは極めて明らかというほかない。
ウ また,被請求人の韓国における商標出願に係る事情も,本件商標に係る不正の目的を裏付けるものである。
すなわち,例えば,被請求人は,2011年に韓国において,「Rain-X」との商標を出願している(甲150。なお,同出願は拒絶されている。)ところ,「rain-X」とは,1967年来の米国の自動車用撥水剤メーカーのブランド名である(甲151)。
また,被請求人は,2001年には「Premium Shield」との商標を出願している(甲152)ところ,「Premium Shield」とは,45年以上の歴史を持つ,自動車の保護フィルムの提供等を行う会社の名称である(甲153)。
さらに,被請求人は,2012年に商標を出願している(甲154。なお同出願は拒絶されている。)ところ,これは,「SmartOne」の韓国語表記である。この点,「SmartOne」とは,smartwax社が遅くとも2009年に発売した画期的な水のいらない車両洗浄・ワックススプレーの名称である(甲155)。
以上のような被請求人における韓国における商標出願の態様に鑑みても,被請求人は,商標出願に積極的であり,かつ,他社のブランド名を自らの商標として剽窃しようとするものであるといわざるを得ず,本件商標の出願についても,レッドブル商標,引用商標を十分に知悉し,その信用を利用しようとする目的に出たものであることは明らかといわざるを得ないのである。
エ 被請求人は,自己の業務に係る商品(車の洗浄剤や,つや出し剤等,車の手入れに関する商品)のみについて本件商標を出願していることや,本件商標の指定商品が請求人の主たる業務に係る商品(エナジードリンク)と類似しないなどと述べて,不正の目的を否定している。
しかしながら,自己の主たる業務に係る商品を指定商品として,外国等周知商標の名声や信用を利用して利益を得るために出願することは何ら不自然ではないし,また,指定商品が請求人の主たる業務に係る商品と類似しないことは,そもそも商標法第4条第1項第19号が商品の類似関係を要件としていないことから,その適用の妨げとなるものではなく,条文が「不正競争の目的」とせず「不正の目的」としたのは,取引上の競争関係を有しない者による出願であっても,信義則に反するような不正の目的による出願は登録すべきではないからと解説されていることからも,不正の目的を否定する理由にはならない。
オ 被請求人は,レッドブル社が単なるスポンサーであるかのような記述を行っているが,これは誤りであり,レッドブル社が全資金を拠出し,運営するレッドブル社の所有するチームである。かかるレッドブルレーシングチームは,2005年からF1レースに参戦し,輝かしい成績を収めている。そして,韓国においては,2010年以降,F1韓国グランプリに参戦し,翌2011年にはレッドブル社による韓国でのエナジードリンクの発売が開始され,2011年から2013年のF1韓国グランプリではレッドブルレーシングチームが連続優勝を果たした(甲169?171)。各レースの前には,メディアへの露出する機会が非常に多く,また,被請求人も2012年のF1韓国グランプリサーキットにおいてイベントを行ったことを自認していることからも分かるように,被請求人が,レッドブル商標の存在,さらには,レッドブル社のモータースポーツ界への強い関連性を認識していたことは明らかである。その後,2013年に本件商標が出願されていることからすれば,被請求人がレッドブル商標,とりわけ引用商標を認識した上で,不正な目的をもって出願したとの請求人の主張は十分裏付けられる。
(3)小括
以上のとおり,レッドブル商標及び引用商標が本件商標の登録出願時(2013(平成25)年10月4日)において日本を含む世界的な著名性を獲得していたものであり,その著名性は,本件商標の登録査定時(2014(平成26)年3月3日)以降,現在も維持継続されている。
また,本件商標は,引用商標の著名性に便乗して,引用商標に化体した信用を利用して利益を得ようとする被請求人の不正の目的に基づいて出願し登録されたものであるというほかない。
5 無効原因3(商標法第4条第1項第7号)
知財高判平成18年9月20日[平成17年(行ケ)第10349号](甲156),知財高判平成25年6月27日[平成24年(行ケ)第10454号](甲147)によれば,他人の商標の存在を知悉しながら,その顧客吸引力にただ乗りするなどして,自己の業務を有利に展開しようとする意図のもとに登録出願した商標は,当該他人と接点を有すると否とにかかわらず,また,出願商標の指定商品役務分野における引用商標の周知著名性や誤認混同のおそれがあるか否かにかかわらず,商標法第4条第1項第7号にいう「公序良俗を害するおそれのある商標」にあたると判断されている。
引用商標は,極めて広範囲に高い著名性を有し,莫大な広告宣伝費及びマーケティング活動を通じて獲得した高い信用が化体し,その名声及び顧客吸引力が世界を代表するものであることは上記2(3)のとおりである。そして,本件商標と引用商標とは類似性が高く誤認混同のおそれが高いものであることは,上記3のとおりであり,また,被請求人に不正の目的が存することは,上記4のとおりであるが,仮にこれらをおいたとしても,本件商標は,レッドブル商標における最も強烈なモチーフである引用商標を,あえて,殊更に,想起させるものであることは一見して明らかであって,被請求人において,引用商標に化体した信用,名声及び顧客吸引力に便乗して不当な利益を得る等の目的があることは極めて明らかというほかなく,商標を保護して,商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り,需要者の利益を保護するという商標法の目的(商標法第1条)に反するものとして,公正な取引秩序を乱し,商道徳に反するものであることは明白であるといわざるを得ない。
よって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当する。
6 結び
以上から,本件商標は,商標法第4条第1項第15号,同項第19号及び同項第7号に該当するから,同法第46条第1項第1号の規定に基づき,その登録を無効とすべきものである。

第3 被請求人の答弁
被請求人は,本件審判請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め,答弁の理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第6号証を提出した。
1 レッドブル商標及び引用商標について
そもそも,レッドブル社のロゴマークは,引用商標ではなく,太陽を背に2頭の赤い雄牛が向かい合い,角を突き合わせている「ダブルブル図形」が基本である。このことは,レッドブル・オフィシャルサイト(乙1)の左上に,ダブルブル図形が常に表されていること,請求人が提出した証拠(甲6?13,17?19,24,37?67,71,75,78,83?85,88,91?94,96?100,102,104?108,110,112?114,116?124の2,124の6,125,127,130?134)に含まれる写真中にダブルブル図形が表されていること,さらに本年1月4日付けで発表されたF1チーム「レッドブル・レーシング」の新ロゴにダブルブル図形が表されていることなどからも明らかである。
そうすると,引用商標は,レッドブル社のプロモーション活動,マーケティング活動及び宣伝広告活動において,引用商標を自社のロゴマークとして積極的に使用する意図をもったものではない。甲第6号証の27頁及び甲第64号証の表紙に表された引用商標は,車の進行方向に雄牛が進むようにデザインしたにすぎず,商標的使用ではない。
2 著名性について
(1)沿革
請求人は,その沿革について,日本を含む世界各国におけるレッドブル社によるプロモーション活動,マーケティング活動及び宣伝広告活動について述べている。
しかしながら,これらの活動は「レッドブル商標」,すなわちレッドブル文字商標,シングルブル図形及びダブルブル図形とを併せて用いた事業活動である旨記載されているので,ここで述べられているレッドブル社の事業活動は,引用商標を用いた活動ではない。なぜなら,引用商標は左向きのシングルブル図形であるから,「レッドブル商標」には含まれない。
また,「レッドブルブランドは,例えば2013年のフォーブス誌において世界で最も価値ある100のブランドの69位にランクイン」したとの記載があるが,仮にこのような記事が書かれた事実があるとしても,ここでランクインしたとされるのはあくまでも「レッドブルブランド」であって,引用商標が価値あるブランドと評価されたわけではない。
したがって,引用商標の周知性を客観的に示す根拠となるものではない。
(2)レッドブル社のRedbullエナジードリンクについて
請求人は,レッドブル社のエナジードリンクの販売本数を述べているが,エナジードリンクに引用商標が付された証拠は示されておらず,エナジードリンクの販売本数と,引用商標との周知性は無関係である。
したがって,レッドブル社のエナジードリンクの販売本数も,引用商標の周知性を客観的に示す根拠となるものではない。
また,請求人は「エナジードリンクを飲む際に,必ず目にするプルタブには,シングルブル図がくりぬかれて」いる旨述べているが,プルタブのくり抜きは,複雑な形状の穴に見える程度で,シングルブルにすら見えない。また,仮にプルタブのくり抜きがシングルブル図形だとしても,プルタブには,シングルブル図形が左を向いているもの(甲7)のみならず,右を向いているものもある(乙2)。したがって,エナジードリンクの缶のプルタブにシングルブル図形がくりぬかれているとしても,かかる図形はシングルブル図形のシルエットにすぎず,引用商標ではないので,引用商標の周知性を客観的に示す根拠となるものではない。
(3)レッドブル社のレッドブル商標について
請求人は,Redbullエナジードリンクの宣伝車両「レッドブル・ミニ」を走らせていること,スポーツイベント,カルチャーイベント,F1レーシングチームを含むモータースポーツ全般等の幅広い産業,サービス,商品においてレッドブルブランドを用いることによって,認知度とブランド価値を高めたことを述べている。しかし,その多くはレッドブル文字商標及びダブルブル図形が服・車・イベントの看板等に付されたものであり,引用商標のみが示された証拠はわずか6点にすぎない(甲6の24頁・27頁,64の表紙,93の4頁,131,134の4頁)。
ア 「ダブルブル図形及びレッドブル文字商標」が併記された写真が掲載された証拠について
請求人が提出した最も多くの証拠は,「ダブルブル図形とのレッドブル文字商標」が併記された写真が掲載されたものである。
イ 「シングルブル図形及びレッドブル文字商標」が併記された写真が掲載された証拠について
請求人が提出した証拠のうち,次に多い証拠が,シングルブル図形とレッドブル文字商標が併記された写真が掲載されたものである。
「シングルブル図形及びダブルブル文字商標」が併記された写真が掲載された証拠のほとんどが,レーシングカーやヘルメットの左側面のみの写真が多く,これらは,左右対称の側面を有する商品ばかりである。デザイン上,レッドブル社の代表的なロゴと思われる太陽を背に2頭の赤い雄牛が向かい合って角を突き合わせているダブルブル図形を左右に分け,ロゴの右半分である黄色の太陽を背景とする左向きの雄牛を,レーシングカー等の左側面に描いているのである。
ウ 引用商標のみが付された写真が掲載された証拠について
引用商標が示された写真が掲載されている6点の証拠についてであるが,シングルブル図形が表されているのは,傘(甲6の24頁,131の4頁),レーシングカーの左側面(甲6の27頁,64表紙),及びゴーグルの左側面(甲93の4頁)である。
これらは,左右対称の側面を有する商品ばかりであり,デザイン上,レッドブル社の代表的なロゴと思われる太陽を背に2頭の赤い雄牛が向かい合って角を突き合わせているダブルブル図形を左右に分け,ロゴの右半分である黄色の太陽を背景とする左向きの雄牛を,レーシングカー等の左側面に描くことで,左右側面の雄牛がレーシングカーやゴーグル着用者の進行方向へ進むように見えることを意図してデザインされたことが推測できる。
つまり,レッドブル社のロゴを左右に分けて描くことで,左右に描かれた雄牛はレーシングカー等の進行方向へ向かって突進するように見える。すなわち,シングルブル図形を表すことは商標として使用しているのではなく,上記のような視覚効果を狙ってデザインされた結果なのである。
エ 広告費
審判請求書に記載されている広告費は,レッドブル商標全体に対する広告費であって,引用商標個別の広告費ではないので,引用商標の周知性を示す根拠に成り得ない。
オ レッドブル社のブランド活用事業
レッドブル社は非常に多くのイベント及びスポーツ選手のスポンサーになっているとのことだが,引用商標のみを用いて使用されている証拠がほとんどないことは,上記2(3)のとおりである。レッドブル社のブランド活用事業とは,レッドブル文字商標及びダブルブル図形を併記したものについてであって,引用商標個別のブランド活用事業はほとんどされていない。
カ レッドブル商標の認知度
請求人は,レッドブル商標の認知度が高い旨述べているが,請求人が主張する世界各国におけるレッドブル商標の認知度は,レッドブル文字商標及びダブルブル図形に関するものであり,引用商標個別の認知度ではない。
キ レッドブル商標のライセンス活用
レッドブル社がライセンス付与しているレッドブル商標は,模型,ビデオゲーム,サングラス,事務用品,かばん,被服等(甲85,91,93,94,126?129)とのことだが,これらの商品は,本件商標の指定商品とは非類似の商品である。つまり,本件商標の指定商品又はこれに類似する商品について,レッドブル商標のライセンス付与はされていない。「レッドブル商標」とは,請求人によれば「レッドブル文字商標」,「シングルブル図形」及び「ダブルブル図形」とを併せた商標の総称である。つまり,請求人自身も引用商標の個別の著名性を主張するものでもない。
審判請求書によれば,「自動車(バイクを含む)関連商品におけるレッドブル商標が付された商品は多数にわたり」とのことだが,ここで述べられる自動車関連商品とは,本件商標の指定商品とは全く異なる「グローブ,ヘルメット,ステッカー,ライト,マット」等である。
ク レッドブル商標のブランド価値
2015年版のフォーブス誌「世界で最も価値のあるブランド」の記事(甲134)でレッドブル社は76位を占めているとのことだが,この記事にはレッドブル文字商標及びダブルブル図形が併記して示されている。すなわち,レッドブル文字商標及びダブルブル図形との組合せがレッドブル社のブランドとして認識されているのであって,引用商標の個別の著名性を示す証拠にはならない。
(4)引用商標の使用態様について
請求人は,「引用商標が,極めて頻繁に,かつ印象的に使用されている」旨主張するが,請求人が述べる「プルタブにシングルブル図がくり抜かれ」た態様は,上記(2)で述べたとおり,繰り抜かれた穴からシングルブル図形を想起するとはいえないし,引用商標を想起するとは到底いえない。また,エアレースイベントの写真は,正に,太陽を背に2頭の赤い雄牛が向かい合って角を付き合わせているダブルブル図形を,ゴールバーの用途に合わせて左右に分けて使用していることを示すにすぎないものである。すなわち,引用商標を意図的に商標として使用している証拠ではなく,視覚的な効果を意図して描かれたものであるから,そもそも商標的使用ではない。その他の広告においても,これまでに述べたとおり,引用商標は,レッドブル文字商標及びダブルブル図形と併記されて使用されており,引用商標を意図的に使用している証拠とはいえない。
(5)小括
請求人は,レッドブル社がレッドブル商標について莫大な広告宣伝費を投じたこと,引用商標がF1レース等の自動車関連分野等において極めて高い著名性を有すること,レッドブル社の広範囲な活動に鑑みれば特定の商品・役務分野に限られない高い著名性を有する旨述べている。
しかしながら,上記(3)エで述べたとおり,請求人が提出した各証拠によれば,レッドブル社が莫大な広告宣伝費を投じたのはダブルブル図形及びレッドブル文字商標を使用したものであって,引用商標を使用したものではない。したがって,引用商標は日本又は世界各国において著名性を獲得していない。
よって,引用商標が著名性を有するとの請求人の主張は失当である。
3 無効原因1(商標法第4条第1項第15号)について
(1)本件商標と引用商標との類似性
請求人は,引用商標からレッドブル社を想起させる旨主張している。しかしながら,引用商標は著名性を有しないので,引用商標から,レッドブル社を想起させるとの請求人の主張は失当である。
また,請求人は,本件商標と引用商標が観念及び基本的な外観を呈する点で共通すると述べているが,この請求人の主張は失当である。以下,本件商標と引用商標を比較する。
本件商標は,前方を見据えながら前上方に跳躍する左向きの牛と,キャメル色のグラデーションの楯状の図形が一体となって構成されている。牛の背は緩やかな丸みを帯びて頭部は高い位置にあり,跳躍に伴い両前脚を軽く曲げるとともに,両後脚は後方に伸び,尾はおたまじゃくしのように先端が太く先端以外はやや細く緩やかにうねっている。本件商標は,牛の外形が黒色で縁取りされ,さらに牛の眼,脚,尾が黒色で塗りつぶされ,また,角部のみ白色で表されている。本件商標から特定の称呼及び観念を生じない。
他方,引用商標は,背を「く」の字状に曲げて頭部を低くし,顎を引いて前方に角を突き出し,胸元に掻き込むように両前脚を曲げるとともに両後脚を後方に突き出して,尾を略S字状になびかせて突進する左向きの赤色の雄牛を,背景に黄色調の略丸状の図形を施してなるものである。引用商標の牛は赤色のみで描かれ,牛の耳及び眼は白抜きされている。引用商標からも特定の称呼及び観念は生じない。
本件商標と引用商標とを比較すると,本件商標は,牛のほぼ全体が盾に重なり,牛と盾が一体となっているのに対し,引用商標は,その構成中黄色の円はありふれた形状であって,牛の首から上の頭部以外のほぼ全身が円の外に描かれている点で異なる。この構成の違いから,本件商標は全体として縦長にまとまっている一方,引用商標は全体として横長で重心が右へ大きくずれているように見える点で異なる。また,本件商標の牛は前上方に軽やかに跳躍し,穏やかな印象を与えるのに対し,引用商標の牛は,顔を地面に向けて前方に突進し,今にも角を使って障害物を突き刺しそうな獰猛な印象を与える点で異なる。
以上のとおり,本件商標と引用商標は,牛の体勢,色彩の差異及び牛以外の構成物の差異によりその印象が明らかに異なるから,外観において容易に区別し得るものである。また,称呼及び観念において両者は,いずれも特定の称呼及び観念を生じないものであるから,相紛れるおそれのないものである。
したがって,本件商標と引用商標とは,外観,称呼及び観念のいずれの点においても相紛れるおそれのない非類似の商標である。
(2)引用商標の周知著名性及び独創性の程度
請求人は,引用商標の著名性は極めて高く,引用商標に接する者において「あのレッドブル社」という認識が抱かれ,レッドブル社が想起されること,引用商標は独創性が高い旨主張する。
しかしながら,引用商標個別の著名性を裏付ける証拠が提示されていないことから,引用商標が周知著名であるとの請求人の主張は失当である。そして,引用商標が著名ではない以上,引用商標のみに接する者において,請求人が主張するところの「あのレッドブル社」という認識は抱かないし,レッドブル社を想起することもない。
また,請求人は,引用商標が極めて斬新かつ印象的な商標である旨主張するが,左向きのシルエット状の牛の商標登録例は多数存在する。
さらに,左向きのシルエット状の牛に限られない牛の図形商標の登録に至っては,特許情報プラットフォームにおいて特許庁の図形分類コードに基づいて検索すると,1900件以上の商標登録が存在する(乙3)。また,引用商標の黄色の円は,極めてありふれたものである。よって,引用商標は何ら斬新かつ印象的なものではない。
(3)本件商標の指定商品等とレッドブル商標及び引用商標が付される商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性
請求人は,レッドブル社が広範囲なブランド活用事業を行ってきた旨主張するが,請求人の証拠によると,上記2ウで挙げた6点の引用商標のみが示された証拠のうち,傘(甲6の24頁,131),ゴーグル(甲93の4頁)及びステッカー(甲134の4頁)については自動車関連分野の商品ではない。また,レーシングカー(甲6の27頁,64表紙)についてはスポンサー名として表示されているにすぎないので,レッドブル社が自動車関連分野の商品等を取り扱う企業であることを示すものではないし,そのような企業であることを推認させることもない。すなわち,本件商標の指定商品における需要者・取引者が,レッドブル社の主たる業務がエナジードリンクの製造・販売であること,レッドブル社がF1等のスポンサーであること,との認識を抱くことはあっても,レッドブル社の業務が本件商標の指定商品の製造・販売であるとの認識を抱くことはない。
具体的には,本件商標の指定商品は,例えば「窓ガラス曇り止め用化学剤」(第1類),「自動車用洗浄剤,自動車用つや出し剤」(第3類)及び「自動車用燃料用添加剤(化学品を除く)」(第5類)等であり,甲第138号証?甲第140号証で示されるとおり,被請求人のウェブサイトでは,実際にこれらの商品が販売されている。そして,本件商標の指定商品は,その性質上,化学品を原料とし,化学製品製造のための専用設備を有する工場で製造される。また,本件商標の指定商品の需要者は,例えば,自動車の窓ガラスや外装の洗浄,エンジンオイルの洗浄等を行う者であり,自動車の所有者,レンタカーの利用者,レンタカー会社,ガソリンスタンド及び車の販売会社等である。
一方,請求人が主張するレッドブル商標が付された自動車関連商品「グローブ,ヘルメット,ステッカー,ライト,マット」の製造には,化学品を製造するような工場を必要とするものではないし,そもそもレッドブル社の製造によるものでもなく,単に既存の製品に商標を貼り付けたものにすぎない。また,これらはF1レースの会場等でイベントのグッズとして販売されるような商品であるから,需要者は,レッドブルエナジードリンクの愛用者や,F1のレッドブルレーシングチームのファンである。
したがって,本件商標の指定商品と,請求人が主張するレッドブル商標が付された自動車関連商品「グローブ,ヘルメット,ステッカー,ライト,マット」とは,生産部門,販売部門,原材料,用途及び需要者のいずれも大きく異なり,非類似の商品である。
そうすると,本件商標は,被請求人である商標権者がこれをその指定商品について使用しても,取引者,需要者をして引用商標を想起又は連想させることはなく,その商品がレッドブル社あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのごとく,その商品の出所について混同を生じるおそれはないものである。
したがって,本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当するとの請求人の主張は失当である。
(4)過去の判決・審決例
本件商標の指定商品と引用商標が付された商品は非類似であり,混同することはないので,裁判例及び審決例の内容に関わらず,いずれも本件とは事例を異にするものである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当しない。
(5)諸外国における判断について
請求人は,本件商標を右向きにした商標が外国で出願されている例を挙げ,諸外国の判断を挙げているが,周知混同の判断は,各国の判断基準に従ってされるものであって,それを日本での判断に当てはめるべきではない。
本件商標について,中国,エジプト,イラン,ロシア,シンガポール及び米国の各国では,引用商標と混同すると判断されていないことがわかるので,モンゴルとベトナムの2国の判断のみを根拠に,諸外国でも本件商標と引用商標が混同すると判断されたとするのは失当である。
(6)小括
以上のとおり,引用商標は,レッドブル社を示すものとして著名とはいえず,さらに本件商標と引用商標とは全く類似しない商標である。加えて,本件商標の指定商品は,自動車用洗浄剤等自動車の手入れに関する商品である。レッドブル社がレッドブル商標を付した商品は,F1のファンが好んで購入するようなステッカー,ヘルメット等であるので,自動車の手入れに関する商品とは大きく異なる。本件商標をその指定商品に使用するときには,それに接する取引者・需要者において,レッドブル社を想起・連想させることはないし,レッドブル社が取り扱う業務に係る商品又は役務であるかのごとく認識して取引にあたることもない。
したがって,その商品及び出所について混同を生ずるおそれがないことが明白である。
以上のとおりであるから,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであり,商標法第46条第1項により無効とされるべきものである,との請求人の主張は失当である。
4 無効原因2(商標法第4条第1項第19号)について
(1)被請求人の「不正の目的」について
請求人は,本件商標が不正の目的によって出願されたものである旨主張するが,レッドブル社は本件商標の指定商品の製造・販売等を全く行っていないので,被請求人がレッドブル社の国内参入を阻止する理由もなく,よって国内代理店契約を強制する目的も生じ得ないので,先取り的に出願することはあり得ない。引用商標は日本国内で著名ではないので,希釈化させるほどの出所表示機能を有していないし,名声を毀損させる目的も生じ得ない。引用商標は日本国内又は外国において周知ではないので,信義則に反する不正の目的も生じ得ない。
さらに,引用商標の著名性は獲得されていないので,引用商標に名声や信用が化体することもない。よって,引用商標に化体した名声や信用を利用して不正の利益を得ることは考えようがない。
被請求人は,自己の業務に係る商品(車の洗浄剤,つや出し剤等,車の手入れに関する商品)のみについて本件商標を出願している。本件商標と引用商標は類似しないし,本件商標の指定商品は,被請求人の主たる業務に係る商品(エナジードリンク)と類似しない。このように,被請求人の主たる業務に係る商品に関する出願についてまで,不正の目的で出願したとする請求人の主張は明らかに失当である。
また,請求人は,被請求人がF1の韓国グランプリサーキットにおいてイベントを行ったことを述べているが,このようなイベントを行ったことは,被請求人の業務を考えれば,至極当然のことである。すなわち,被請求人は車の洗浄等に使用する商品の販売を業とするから,車に関連するF1でイベントをすることは被請求人にとってまたとないビジネスチャンスであり,自然である。
請求人は,被請求人の韓国における商標出願に係る事情について述べているが,被請求人が挙げた韓国商標出願「Rain-X」,「Premium Shield」,「(SmartOneの韓国語表記)」の証拠(甲150?甲156)は,本件商標とは全く関係のない韓国の出願である。これらの証拠を挙げて,本件商標の無効理由の根拠とするのは,失当といわざるを得ない。
特に,「Premium Shield」については拒絶されることなく登録され,現在も韓国で登録が維持されている(乙6)ことからしても,被請求人が不正の目的なく出願したことに疑いの余地がない。
よって,本件商標は,被請求人の不正の目的によって出願されたものではない。
(2)小括
これまでに述べたとおり,現在に至るまで,引用商標は日本及び世界各国において著名性を獲得していない。また,そもそも,引用商標が著名ではないのだから,引用商標には便乗するような名声や信用は化体していない。そして,信用が化体していない以上,信用を利用して利益を得ようとする不正の目的があるはずもない。
以上のとおりであるから,本件商標が商標法第4条第1項第19号に違反して登録されたものであり,商標法第46条第1項により無効とされるべきものである,との請求人の主張は失当である。
5 無効原因3(商標法第4条第1項第7号)について
請求人が商標法第4条第1項第7号の判断としてあげる事例(甲156,甲147)は,本件とは事例を異にするものである。そして,本件商標は,上記3(1)のとおり,引用商標と非類似の商標であり,引用商標を模倣したものではない。
また,本件商標は,引用商標の信用力・顧客吸引力に便乗して不当な利益を得ることを意図して出願したものでもなく,かつ,その出所表示機能を希釈化するものでもない。そして,本件商標をその指定商品について使用することが,社会公共の利益及び社会の一般的道徳観念に反するものでもなく,公の秩序又は善良な風俗を害するおそれもないものである。さらに商標法の目的に反するものとして,公正な取引秩序を乱し,商道徳に反するものでもないものである。
したがって,本件商標が商標法第4条第1項第7号に違反して登録されたものであり,商標法第46条第1項により無効とされるべきものである,との請求人の主張は失当である。
6 結び
以上から,本件商標は,商標法第4条第1項第15号,同項第19号及び同項第7号のいずれにも該当しないから,同法第46条第1項第1号により,その登録を無効とすべきである,との請求人の主張は失当である。

第4 当審の判断
1 本件商標の商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)商標法第4条第1項第15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」は,当該商標をその指定商品等に使用したときに,当該商品等が他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれ,すなわち,いわゆる広義の混同を生ずるおそれがある商標をも包含するものであり,同号にいう「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の関連性の程度,取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきである(最高裁平成10年(行ヒ)第85号同12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁参照)。
そこで,上記の観点を踏まえて,本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当するかについて,以下判断する。なお,以下では,別掲2のダブルブル図形,別掲3の雄牛が左向きシングルブル図形(引用商標)及び別掲4の雄牛が右向きシングルブル図形を,それぞれ,「使用商標1」,「使用商標2」及び「使用商標3」ともいい,これらを総称して「使用商標」という。
(2) 本件商標と引用商標との対比
ア 本件商標と引用商標の構成
(ア) 本件商標の構成
本件商標は,別掲1のとおりの図柄であり,グラデーションが施された薄茶色の盾状の図形を背景にして,当該盾状図形の中央部分に,左向きの,黒の縁取りを有する赤色の雄牛の図形を描き,当該雄牛は,背を丸め,2本の角を描き,顔と顎を含む頭の部分を前向きにして,両前脚は内向きに軽く曲げ,両後脚は後方に突き出して,尾を略S字状になびかせ,全体として左上方に跳躍している姿勢を表しているとの構成からなるものである。そして,本件商標からは,具体的に描かれた牛の形態に相応して,「跳躍する赤い雄牛」との観念が生じるものと認められるものの,特定の称呼が生じるものとは認められない。
(イ) 引用商標の構成
引用商標は,別掲3のとおりの図柄であり,黄色い円図形内の右下部分に頭部を配置し,胴体を同円図形の外に配置した,左向きの赤色の雄牛の図形をシルエットで描き,当該雄牛は,背を「く」の字状に曲げ,顎を引いて頭部を低くし,2本の角を前方に突き出し,両前脚は円図形の縁部分に接して,胸元に掻き込むように内向きに曲げ,両後脚は円図形の下側になるように後方に突き出すように配置され,尾を略S字状になびかせ,全体として上半身をやや持ち上げた状態で,前方へ突進するような姿勢を表しているとの構成からなるものである。そして,引用商標からは,具体的に描かれた牛の形態に相応して,「突進する赤い雄牛」との観念が生じるものと認められるものの,特定の称呼が生じるものとは認められない。
イ 本件商標と引用商標との異同
本件商標と引用商標とは,黄色系暖色調の無地の背景図形の前に,2本の角を突き出し,前脚を内向きに曲げ,後脚を突き出して,尾を略S字状になびかせた左向きの赤色の雄牛の図形という基本的構成において共通するものである。ただし,本件商標と引用商標とを直接対比した場合,背景図形が,本件商標ではグラデーションが施された薄茶色の盾状の図形であるのに対して,引用商標では黄色の円図形である点,雄牛が,本件商標においては背景の盾状図形の中央部分にほぼ全体が配置されているのに対して,引用商標のそれは,頭部が円図形の中に配置され胴体は円図形の外に配置されている点,さらに,全体の姿勢において,本件商標の雄牛は縁取りされ左上方に跳躍している姿勢であるのに対して,引用商標の雄牛はシルエットで上半身をやや持ち上げた状態で,前方へ突進する姿勢を表している点で,それぞれ差異を有することが認められる。
しかしながら,直接対比した場合の上記視覚上の各差異を考慮しても,本件商標及び引用商標の全体的な構図をみると,本件商標と引用商標とは,いずれも,黄色系暖色調の無地の背景図形の前に,左向きに描かれて角を突き出した赤色の躍動感のある姿勢をした雄牛の図形が配置されるなどの基本的構成をほぼ共通にしており,さらに,雄牛自体の図形の構成上,上記のような様々な一致点を有していることに照らすと,外観上,互いに紛れやすいものというべきである。
しかも,本件商標からは跳躍する赤い雄牛との観念が生じ,引用商標からも突進する赤い雄牛との観念が生じるから,本件商標と引用商標は,観念においても,ほぼ同一(又は類似)であるといえる。
したがって,本件商標は,引用商標と比較的高い類似性を示すものであるということができる。
(3) 引用商標の周知著名性
証拠(甲5,6,8?13,17,19,38?70,73?94,98,99,105,108,112,113,125?129,134,180,181,185?197,200,201,203)及び請求人の主張によれば,以下の事実が認められる。
ア エナジードリンクにおける使用商標の使用
レッドブル社は,缶の表面に,レッドブル文字商標及び使用商標1を,缶のプルタブに,使用商標を構成する1頭の雄牛を使用した,エナジードリンク「Red Bull」を販売している。そのデザインは,販売開始当初から現在に至るまで変更はなく(甲180),また,その宣伝広告にも使用商標が使用されている(甲181)。
エナジードリンク「Red Bull」は,昭和62年(1987年)に,オーストリアで販売開始され,販売地域を世界的に拡大し,全世界における売上本数は,平成25年(2013年)度には54億本に達している(甲6)。我が国では平成17年(2005年)に販売が開始され,その売上本数は,1.76億本,売上高は約352億円(1本約200円)に達し,我が国のエナジードリンク市場において圧倒的なシェアを占めている(甲5,6,185?196)。
そして,テレビによるCM広告(甲197)に加え,車両のバンパーに使用商標1を,車両の両側面にシングルブル図形を大きく表示しエナジードリンク「Red Bull」の宣伝車両「レッドブル・ミニ」(甲8?13)を走らせ,車両の両側面にシングルブル図形を大きく表示した「レッドブル・イベントカー」で商品を運ぶなどの宣伝広告が多数実施されている。
イ スポーツ,芸術,文化イベント等における使用商標の使用
レッドブル社は,複数のメディア部門を擁し,F1レースを始めとする自動車レースのほか,サッカー,アイスホッケー,フリースタイル・モトクロスやレッドブル・エアー・レース等のスポーツ競技など様々なイベントの主催者ないしスポンサーとなり,また,芸術・音楽等の文化的イベントも開催しており,それらの全てにおいて,使用商標を使用している(甲6)。各スポーツ選手のヘルメット,キャップ,ウェア,ボード,リストバンド等には,使用商標2及び使用商標3が独立して表示されている(甲98,99,105,108,112,113)。
ウ F1レースにおける使用商標の使用
レッドブル社は,平成7年(1995年)に,「レッドブル・ザウバー・ペトロナス」のスポンサーとしてF1レースに初参加し,その後,平成16年(2004年)に,レーシングチームレッドブル・レーシング(以下「レッドブルレーシング」という。)が創設された(甲6)。
レッドブルレーシングは,日本国内において,平成21年から平成24年まで4年連続でF1グランプリ(鈴鹿)に優勝するなどして,新聞,雑誌等で特集記事が組まれることもあった(甲38?70)。また,自動車に関連する雑誌(甲73?83)だけでなく,その他の一般の雑誌(甲84?94)においても,レッドブルレーシングに関連する記事が掲載されるなどしている。
レッドブルレーシングのレーシングカーには,車体のウィング部分に使用商標1がレッドブル文字商標とともにデザインされ,車体の側面に引用商標(使用商標2)又は使用商標3が大きく表示され(甲39?42,46,47,49,50,52?57,59?64,66,69,79,83),レッドブルレーシングに所属する各選手のウェアの胸元には使用商標1がレッドブル文字商標とともに表示され(甲17,19等),また,ヘルメットの側面(甲19,39,41?43,45,55,57,59,60)やウェアの袖口(甲49,53,55,56,59?61,63)には引用商標(使用商標2)又は使用商標3が施され,ニットキャップにも引用商標(使用商標2)が表示されている(甲40)。
エ ライセンスによる使用商標の使用
レッドブル社は,使用商標について,平成11年(1999年)から,多数の企業等にライセンスを付与して,その使用を許諾しており(甲6),そのライセンスは,模型,ビデオゲーム,サングラス,事務用品,かばん,被服等様々な商品に及んでいる(甲85,91,93,94,126?129。)。
また,レッドブル社は,自動車(バイクを含む。)レースに関連する商品についてのライセンスビジネスも展開しており,使用商標が付されたグッズが販売されている(甲200,201)。
オ 宣伝広告費
レッドブル社は,平成25年度(2013年度)に,我が国において,メディア費用として約21億6000万円を,マーケティング費用として約58億円を支出している(甲6)。
カ ブランドランキング
ミルワード・ブラウンの実施した平成25年度(2013年度)のブランド調査によれば,世界で最も価値のある100ブランドのうち,「Red Bull」は83位にランク付けされており(甲203),また,平成27年版(2015年版)のフォーブス誌の「世界で最も価値のあるブランド」ランキングにおいても76位であった(甲134)。
キ 以上によれば,本件商標の登録出願時において,使用商標1を使用したエナジードリンクは,我が国で販売が開始されてから8年以上が経過し,売上は約352億円,そのシェアは約60%以上となっており,TVCMその他の宣伝広告が多く行われ(我が国において,宣伝広告費として年間約58億円が費やされている。),その結果,レッドブル社のブランド力は高い認知度を得ていることが認められる。また,使用商標は,自動車レースにおいても使用されるほか,多数開催される各種イベントなどにも広く使用されており(レッドブル社は,多数のアスリートのスポンサーになるなどしている。),また,使用商標を付した商品は,テレビ,雑誌,新聞その他多くのメディアにおいて紹介されるなどして,宣伝広告されてきたことが認められる。
そうすると,使用商標1については,本件商標の登録出願時においてレッドブル社の商品を表示するものとして,我が国の取引者及び需要者の間で広く認識されており,本件商標の登録査定時から現在に至るまで,その認識は継続しているものということができる。
さらに,引用商標(使用商標2)の構成は,使用商標1の構成部分であり,使用商標1は,著名なものと認められるところ,引用商標(使用商標2)に接した需要者は,引用商標が,使用商標1の構成部分であると容易に認識できるものと推測される。そして,レッドブルレーシングのレーシングカーには,車体のウィング部分に使用商標1がレッドブル文字商標とともにデザインされ,車体の側面に引用商標(使用商標2)又は使用商標3が大きく表示され,ヘルメットの側面,ウェアの袖口やニットキャップにも引用商標(使用商標2)又は使用商標3が表示されるなど,引用商標(使用商標2)も使用商標1とは独立した標章として多数使用されており,車両の両側面にシングルブル図形を大きく表示させた宣伝車両「レッドブル・ミニ」による広告宣伝もされている。また,自動車レース等のイベントには相当数の観客が来場するのみならず,テレビや雑誌等を通じて,引用商標(使用商標2)の付されたレーシングカー等を目にする機会も多く,自動車レース等に関連した様々な場面で,引用商標を付したヘルメットやキャップ等が販売されていることが認められる。
そうすると,引用商標(使用商標2)についても,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,レッドブル社の業務に係るエナジードリンク(飲料)の商品分野のみならず,自動車関連の商品分野において,自動車に関連する商品の取引者,需要者の間に広く認識されており,その著名性は高いものと認められ,その状態が現在においても継続しているものと認めることができる。
(4) 引用商標の独創性について
引用商標は,左向きの赤色の雄牛全身の図形をシルエットで描き,その背後に黄色い円図形を描いてなるものであるところ,証拠(乙3)及び被請求人の主張によれば,左向きの具体的な全身のシルエットで表された牛の商標の登録例は,少なからず存在することが認められるから,引用商標が,赤い雄牛が突進している様子を描いた強い躍動感がある特徴的なものであるとの請求人の主張を考慮しても,引用商標の牛の図形について,造語又は特異な図形等による商標に比して高度の独創性を有するものとまでは認め難い。また,背後に円図形等を配することも普通に用いられる方法であり,牛と円図形の組合せよりなる引用商標が高度の独創性を有するとまではいえない。
(5) 本件商標の指定商品と引用商標に係る商品
引用商標が現に使用されているのは,自動車や自動車レースに関連する商品等であるのに対し,本件商標の指定商品は,第1類「洗浄用ガソリン添加剤,燃料節約剤,原動機燃料用化学添加剤,窓ガラス曇り止め用化学剤,不凍剤,ラジエーターのスラッジ除去用化学剤,静電防止剤(家庭用のものを除く),塗装用パテ,内燃機関用炭素除去剤,油用化学添加剤,ガラスつや消し用化学品,タイヤのパンク防止剤」,第3類「家庭用帯電防止剤,さび除去剤,ペイント用剥離剤,埃掃除用の缶入り加圧空気,香料,薫料,自動車用消臭芳香剤,風防ガラス洗浄液,自動車用洗浄剤,自動車用つや出し剤,スプレー式空気用消臭芳香剤」,第4類「塵埃抑止剤,塵埃除去剤,潤滑剤,清掃用塵埃吸着剤,革保存用油,自動車燃料用添加剤(化学品を除く),動力車のエンジン用の潤滑油,点火又は照明(灯火)用ガス,内燃機関用燃料,工業用油用及び燃料用添加剤(化学品を除く)」及び第5類「防臭剤(人用及び動物用のものを除く),防虫剤,虫除け用線香,空気浄化剤,スプレー式空気用芳香消臭剤,殺虫剤,衛生用殺菌消毒剤,くん蒸消毒剤(棒状のものに限る),くん蒸消毒剤(錠剤に限る),中身の入っている救急箱」であり,当該指定商品は,自動車用品関連の商品を含むものであるといえるから,引用商標の著名性が取引者,需要者に認識されている分野である自動車に関連する商品等と関連性を有するものと認められる。なお,被請求人は,自動車関連商品の販売等を業とする者であり(甲2),自動車用商品として,洗浄剤,つや出し剤,空気浄化剤(エアーフレッシュナー)等を販売し(甲136?140),本件商標がその商品に使用されている。
(6) 取引者及び需要者の共通性その他取引の実情について
本件商標の指定商品は,日常的に消費される性質の自動車用品関連の商品を広く含むものと認められるところ,そのような自動車用品関連商品を含む本件商標が使用される商品の主たる需要者は,自動車の愛好家を始めとして,自動車の所有者や利用者など広く一般の消費者を含むものということができる。そして,このような一般の消費者には,必ずしも商標やブランドについて正確又は詳細な知識を持たない者も多数含まれているといえ,商品の購入に際し,メーカー名やハウスマークなどについて常に注意深く確認するとは限らないものと考えられる。
また,レッドブル社は,使用商標について,多種多様な企業にライセンスを付与し,自動車や自動車レースに関連する商品を含む多様な商品について引用商標を含む使用商標が付されて販売されていることが認められる。
(7) 混同を生ずるおそれについて
本件商標と引用商標は,全体的な構図として,黄色系暖色調の無地の背景図形の前に,左向きに描かれて角を突き出した赤色の躍動感のある姿勢をした雄牛の図形が配置されるなどの基本的構成を共通にするものであり,本件商標が使用される商品である自動車用品関連商品等の商品の主たる需要者が,商標やブランドについて正確又は詳細な知識を持たない者を含む一般の消費者を含み,商品の購入に際して払われる注意力はさほど高いものとはいえないことなどの実情や,引用商標が高度の独創性を有するとまではいえないものの我が国において高い周知著名性を有していることなどを考慮すると,本件商標が,指定商品に使用された場合には,これに接した需要者(一般消費者)は,それが引用商標と基本的構成が類似する図形であることに着目し,本件商標における細部の形状などの差異に気付かないおそれがあるといい得る。
また,引用商標は,自動車関連の分野においても,レッドブル社の商品等を表示するものとして,取引者,需要者の間において著名であり,引用商標をその構成とする使用商標について,多数のライセンスが付与され,自動車関連商品等の多様な商品について引用商標を含む使用商標が付されて販売されているところ,本件商標の指定商品には,引用商標の著名性が取引者,需要者に認識されている自動車関連の商品を含むものといえるのであるから,本件商標をその指定商品に使用した場合には,これに接する取引者,需要者は,著名商標である引用商標を連想,想起して,当該商品がレッドブル社又は同社との間に緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある者の業務に係る商品であると誤信するおそれがあるものというべきである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当するものとして商標登録を受けることができないというべきである。
(8) 被請求人の主張について
ア 被請求人は,本件商標と引用商標とは,牛の体勢,色彩の差異及び牛以外の構成物の差異により,その印象が明らかに異なるから,外観において容易に区別し得るものであり,いずれも特定の称呼及び観念を生じないものであるから,相紛れることのない非類似の商標である旨主張する。
確かに,本件商標と引用商標とを直接対比すると,上記(2)イのとおり,具体的な構成においていくつかの相違点が認められるものである。しかしながら,引用商標が高い著名性を有していたことや,本件商標と引用商標からはほぼ同一の観念が生じることなどに照らせば,被請求人が指摘するような具体的構成における外観上の差異が存在するとしても,引用商標と基本的構成が共通すると認められる本件商標を自動車用品関連の商品を含む本件商標の指定商品に付して使用した場合には,これに接する取引者,需要者において,当該商品がレッドブル社又は同社との間に緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある者の業務に係る商品であると誤信するおそれがあるものというべきである。
また,本件商標には,外観上,具体的な構成において引用商標と相違する点があるとしても,その基本的構成が引用商標と比較的類似性の高いものであるから,一般の消費者の注意力などを考慮すると,出所の混同を生ずるおそれがあることは上記(6)のとおりである。
なお,商標法第4条第1項第15号該当性の判断は,当該商標をその指定商品等に使用したときに,当該商品等が他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれが存するかどうかを問題とするものであって,当該商標が他人の商標等に類似するかどうかは,上記判断における考慮要素の一つにすぎないものである。被請求人が主張するような外観上の差異が存在するとしても,それらの点が,本件商標の構成において格別の出所識別機能を発揮するとはいえないし,単に本件商標と引用商標の外観上の類否のみによって,混同を生じるおそれがあるか否かを判断することはできない。
したがって,被請求人の上記主張は採用することができない。
イ 被請求人は,請求人が主張する,ブランドランキングや広告費は,主として使用商標1及びレッドブル文字商標に係るものであって,引用商標である使用商標2の周知性を立証するものではなく,引用商標の周知性を把握することができないし,レーシングカーの側面,ヘルメットの側面及びゴーグルの側面等に表示されている引用商標は,視覚効果を狙ってデザインされた結果のものであり,引用商標が,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,特定の商品ないし役務について,我が国の取引者,需要者の間で広く認識されて著名になっていたと認めることはできない旨主張する。
しかしながら,引用商標(使用商標2)に接した需要者は,引用商標が,著名なものと認められる使用商標1の構成部分であると容易に認識できるものと推測されることに加え,レッドブルレーシングのレーシングカーやヘルメット等に引用商標(使用商標2)が表示されるなど,引用商標(使用商標2)も使用商標1とは独立して使用されていることは,上記(3)キ認定のとおりである。
そうすると,引用商標(使用商標2)についても,レッドブル社の業務に係るエナジードリンク(飲料)の商品分野のみならず,自動車関連の分野において,レッドブル社に係る商品等を表示する商標として,本件商標の登録出願時及び登録査定時に,その取引者,需要者の間に広く認識されており,その著名性は高いものと認められる。
また,レッドブル社が,使用商標について,多数のライセンスを付与し,自動車関連商品等の多様な商品について引用商標を含む使用商標が付されて販売されていることなどを考慮すると,レーシングカーやヘルメットの側面等に表示されている引用商標が,直ちに,自動車レース又はレーシングカーのスポンサーであることのみを表すロゴにとどまるものであるということもできない。
なお,商標法第4条第1項第15号は,出所の混同を生じるおそれのある商標の登録を阻止する趣旨の規定であると解されるところ,同号の「他人の業務に係る商品又は役務」とは,必ずしも他人が現実に行っている業務に限られるものではないから,レッドブル社が,現実に,「自動車レースの企画・運営」等の役務や自動車等の製造,販売の業務を行っているか否かは,同号の適用の有無を左右するものではないといえる。
したがって,被請求人の上記主張は採用することができない。
ウ 被請求人は,本件商標の指定商品と引用商標の使用に係る商品(グローブ,ヘルメット,ステッカー等)は,生産部門,販売部門,原材料及び用途のいずれも異なる非類似の商品であり,取引者及び需要者も共通しないから,本件商標は,被請求人がこれをその指定商品について使用しても,取引者,需要者をして引用商標(使用商標2)を想起又は連想させることはなく,その商品の出所について混同を生じるおそれはないものである旨主張する。
しかしながら,本件商標の指定商品には,日常的に消費される性質の自動車用品関連の商品が含まれ,その需要者は自動車愛好家を始めとした自動車所有者等の一般の消費者であるといえるから,引用商標が現に使用されている分野の商品等とは,共に自動車に関するものとして関連性を有し,需要者を共通にするものであるといえることは上記認定のとおりである。被請求人が現に具体的に販売している指定商品に係る商品(甲138?140)と,引用商標が使用されている商品の取引者が異なるからといって,需要者の共通性が否定されることにはならない。
また,本件商標の指定商品を購入する者が特別の知識を有しない一般の消費者を含むことを考慮すると,需要者全体の注意力が高いと直ちに認めることはできないのであって,本件商標と引用商標とを直接対比した場合に外観上の印象を異にすると考えられる差異についても,需要者の注意が向けられないままに商品の選択,購入がされる場合が少なくないものと考えられる。そして,本件商標は,その全体的な基本的構成が引用商標と類似していることから,外観において引用商標と相紛れる場合が見受けられるのは上記(6)認定のとおりである。
そして,レッドブル社がライセンス事業等を幅広く行っていることなども考慮すると,いわゆる広義の混同が生じるおそれがあると認めるのが相当である。
したがって,被請求人の上記主張は採用することができない。
2 小括
以上によれば,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当する。

第6 むすび
以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第15号に違反してされたものであるから,その余の無効事由について判断するまでもなく,同法第46条第1項の規定により無効とすべきである。
よって,結論のとおり審決する。
別掲 別掲1 本件商標(色彩は原本参照)



別掲2 使用商標1(ダブルブル図形)(色彩は原本参照)



別掲3 使用商標2-引用商標(左向きシングルブル図形)(色彩は原本参照)



別掲4 使用商標3(右向きシングルブル図形)(色彩は原本参照)








審理終結日 2018-07-11 
結審通知日 2018-07-13 
審決日 2018-07-24 
出願番号 商願2013-77760(T2013-77760) 
審決分類 T 1 11・ 271- Z (W01030405)
最終処分 成立  
前審関与審査官 荻野 瑞樹 
特許庁審判長 早川 文宏
特許庁審判官 小出 浩子
田村 正明
登録日 2014-04-18 
登録番号 商標登録第5664585号(T5664585) 
代理人 加藤 和詳 
復代理人 佐藤 力哉 
代理人 佐藤 俊司 
代理人 中島 淳 
代理人 山口 現 
代理人 中村 勝彦 

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