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審決分類 審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない W41
審判 全部無効 商4条1項8号 他人の肖像、氏名、著名な芸名など 無効としない W41
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない W41
審判 全部無効 商4条1項10号一般周知商標 無効としない W41
管理番号 1340227 
審判番号 無効2016-890023 
総通号数 222 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2018-06-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-03-24 
確定日 2018-05-07 
事件の表示 上記当事者間の登録第5714462号商標の商標登録無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5714462号商標(以下「本件商標」という。)は,「戸田派武甲流薙刀術」の文字を標準文字により表してなり,平成26年1月22日に登録出願,第41類「武術の教授,武術に関するセミナーの企画・運営または開催,武術大会の企画・運営または開催,武術用教習施設の提供,武術に関する放送番組の制作,武術に関する教育・文化・娯楽・スポーツ用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く。)」を指定役務として,同年9月25日に登録査定,同年10月31日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張
請求人は,本件商標の登録を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする,との審決を求め,その理由を要旨次のように述べ,証拠方法として,甲第1号証ないし甲第93号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標は,商標法第4条第1項第8号,同項第10号,同項第15号及び同項第19号に違反して登録されたものであって,同法第46条第1項の規定により,その登録を無効とすべきである。
(1)請求人について
請求人は,平成元年,戸田派武甲流薙刀術に入門し,平成4年以降,明治神宮で開催される日本古武道大会にも継続的に出場するなどしていた。
請求人は,戸田派武甲流薙刀術に入門後,修行を重ねて,昇進し,平成13年には,師範に就任し,後進の指導にもあたってきた。
その後,請求人は,後述のとおり,平成24年5月23日,戸田派武甲流薙刀術の前宗家であった中村陽一(以下「先代宗家」という。)より指名を受け,戸田派武甲流薙刀術の宗家代理の地位に就いた(甲2)。先代宗家は,次期宗家に日本人が就任することを希望していたため,請求人に対して,宗家の地位を一旦預け,日本人の宗家の育成及び指名を託した。
(2)被請求人について
被請求人は,神奈川県小田原市において,城下町合気道という合気道道場を経営する者であり,平成21年頃,戸田派武甲流薙刀術に入門し,当時師範の地位にあった請求人の門下生となり,平成22年8月1日,初伝の地位に昇進した(甲3)。
先代宗家は,平成24年8月29日に亡くなる直前,被請求人に対して,本部(東京都中野区)から遠方にある小田原の「武陽館」という一支部の事務作業等を依頼したことがあった。先代宗家が,初伝である被請求人に小田原の事務作業等を依頼したのは,被請求人が,当時,事務作業を率先して行っていたためと思料される。
他方,戸田派武甲流薙刀術の重要な任務である,本部等における門弟の指導等を託されていたのは,当時,すでに宗家代理の地位にあった請求人であった。
被請求人としても,請求人が先代宗家から直々に宗家代理に指名され,請求人が日本人の次期宗家を指名するなどの事情を熟知していた。
その後,被請求人は,平成25年12月20日,宗家代理の地位にある請求人からの再三の警告を無視し,戸田派武甲流薙刀術の宗家を名乗ることをやめなかったため,戸田派武甲流薙刀術を破門となり,現在に至っている。
そうしたところ,被請求人は,本件商標を商標登録出願した。
(3)戸田派武甲流薙刀術について
ア 戸田派武甲流薙刀術の歴史について
戸田派武甲流薙刀術は,戦国時代の初代宗家戸田清源以来,連綿と受け継がれてきた。なお,「戸田派武甲流薙刀術」という名称の由来となった武甲山近くの山中(埼玉県秩父郡小鹿野町)には,その功績を称えるため,武甲流の名を定めた強矢良輔武行の生誕の地の碑があり,石碑には「戸田武甲流」の名称も記載されている(甲6,甲8)。
戸田派武甲流薙刀術は,昭和に入っても,日本の主要な古武道の流派のほとんどが加盟する日本古武道振興会(昭和10年設立)にも当初から加盟し,皇族を前にして,日比谷公園にて流祖祭と古武道形奉納大会にも参加し(甲9),明治神宮での奉納古武道演武大会に参加するなど,対外的な大会にも出場する等しており,その様子は新聞等のマスコミにおいても報道されてきた(甲10?甲12)。
昭和50年頃になると,現在も稽古が行われている東京都中野区の道場での稽古が始まり,請求人をはじめとする外国人の門弟が徐々に増えた。
戸田派武甲流薙刀術は,記録にあるだけでも昭和51年以降,「戸田派武甲流」「戸田派武甲流薙刀術」の名称で,大会案内も頒布され,かつ,他流派も集う数多くの古武道大会に参加してきた(甲13?甲62)。
イ 戸田派武甲流薙刀術における宗家の地位等について
(ア)宗家の地位について
戸田派武甲流薙刀術において,宗家とは,流派の代表者であり,かつ,最終決定権者である。また,宗家は,各門下生に対する指導の最終責任者でもある。
戸田派武甲流薙刀術において,古くは「師範」が流派の代表者とされている時代があったものの,第19代宗家以降は,「宗家」が流派の代表者として位置づけられている。
(イ)宗家への就任方法について
宗家の地位は,宗家が次期宗家を指名することによって,宗家の地位が移譲される。
宗家に指名されるのは,少なくとも門下生に対して指導できる地位にある者であることが慣例とされている。これは,宗家が前述のとおり,流派の代表者,かつ,最終決定権者であるのみならず,各門下生に対する指導の最終責任者であることからしても,当然である。
(4)先代宗家の指名に基づいて請求人が宗家代理に就任したこと
ア 先代宗家が請求人を宗家代理として指名したこと
先代宗家は,平成20年,宗家に就任したものの,その後に体調が悪化していたところ,先代宗家は,生前の間に,次期宗家の指名等につき,自らの意思を表明する必要があると考えた。
先代宗家は,いずれは日本人が宗家の地位に就くべきであるとの考えを持っていたものの,当時の戸田派武甲流薙刀術の内部において,宗家となるべき実力及び素養を備えた日本人がまだいないと考えていた。
そこで,先代宗家は,平成23年11月20日,請求人に対して,次期日本人宗家が育つまでの間,請求人に宗家の地位を一旦預け,日本人の宗家の育成及び指名を託す旨のメールを送信した(甲79,甲85?87)。
先代宗家は,平成24年8月,入院中の病院にて,請求人に対して,戸田派武甲流薙刀術の宗家代理に指名する旨の平成24年5月23日付け宗家代理許状(甲2)を交付した。
イ 被請求人が請求人を宗家代理として承認していたこと
先代宗家は,平成24年8月29日,死亡した。
請求人は,先代宗家から,日本人宗家の育成及び指名までの間,宗家代理として,門下生の育成のほか,戸田派武甲流薙刀術の運営全部を託されていた。したがって,請求人は,自身が次期宗家を指名するまでの間,対外的にも対内的にも,戸田派武甲流薙刀術の代表者であり,かつ,最終決定権者である。
これに対して,被請求人は,平成24年8月26日の時点で,宗家代理かつ直接の師匠である請求人に対して,ずっと「ついていきます」とのメール(甲80)を送信している。被請求人のメールは,請求人の弟子として,これからも自分の師匠である請求人に付いていく旨の内容であり,被請求人は,請求人が宗家代理の地位にあることを承認している。
(5)被請求人が宗家を名乗るに至った経緯
ア 日本古武道振興会等が外国人宗家の登録を認めないこと
請求人は,平成24年8月29日の先代宗家の死後,戸田派武甲流薙刀術が加入する日本古武道振興会,日本古武道協会より,流派の代表者(戸田派武甲流薙刀術における宗家)として登録するためには,代表者本人が日本国籍を有していることが必要であるとの説明を受けた。
しかしながら,平成22年4月に改訂された日本古武道振興会の規約によれば,各流派の代表会員の国籍について何らの制限も定めていない(甲81)。
被請求人は,平成24年9月以降,以下のとおり,請求人の意向に沿って,自分が窓口になって,日本古武道振興会等の関係者らに対して,請求人を戸田派武甲流薙刀術の代表者として登録するよう働きかけを行っていた。
しかし,日本古武道振興会等は,日本人以外を宗家(代表者)として登録することを認めない,日本人宗家(代表者)が決まらない場合,戸田派武甲流薙刀術の退会措置もあり得ることを示唆した。
イ 被請求人が請求人の意向に従って働きかけを行っていたこと
請求人は,先代宗家の指名を受けて,宗家代理の地位に就任したため,請求人としては,当然,日本古武道振興会に対して,請求人自身を代表者として登録すべきであると考えていた。
被請求人は,先代宗家の死後,戸田派武甲流薙刀術の代表者として請求人を日本古武道振興会に登録すべく,日本古武道振興会との間でやり取りを行っていた。
被請求人は,請求人の意向を受けて,平成24年11月,日本古武道振興会の副会長に対して,請求人を指して「外国人初の代表も実現する」などと申し向けて,請求人を代表者に登録するよう働きかけている(甲82)。
このことからも,被請求人自身,少なくとも先代宗家の死後当時,請求人こそが戸田派武甲流薙刀術に関する一切の決定権限を有しており,代表者の登録に関して自分の一存では決められず,請求人の意向を確認しなければならないと認識していたことは明らかである。
ウ 被請求人が請求人の許可なく代表者の登録をしたこと
被請求人が請求人の意向に従って上記働きかけを行っていたにもかかわらず,日本古武道振興会が日本人を代表者に登録することに固執したため,請求人を代表者として登録するには一向に至らなかった。
そうしたところ,被請求人は,平成25年3月,請求人らに対して,請求人らが毎週稽古を行っている戸田派武甲流薙刀術の中野道場での稽古には参加しない旨を通告した。
さらに,その直後,被請求人は,事務窓口にすぎず,次期宗家の決定権限を有する請求人の承認がないにもかかわらず,平成25年5月,自分が戸田派武甲流薙刀術の宗家であると名乗った上で,日本古武道振興会等にその旨の登録手続を行った。
被請求人は,日本古武道協会に宛てた平成26年5月1日付け「戸田派武甲流薙刀術21代目宗家承継顛末書」(甲84,乙6)(以下「顛末書」という。)と題する書面の中で,先代宗家が,その妻に対して次期宗家を決定することを求めており,先代宗家の妻の指名に基づいて被請求人が第21代宗家に就任したと説明する。
しかし,被請求人の上記説明が,被請求人らをはじめとする日本人の門弟にはまだ宗家に相応しい人物がいないので,請求人に対して,宗家の地位を一旦預け,日本人の宗家の育成及び指名を託すという前述の先代宗家の意思(甲2,甲79)に反することは明らかである。
また,被請求人が先代宗家の死後,しばらくの間,請求人の意向に従って日本古武道振興会に働きかけを行っていた前述の経緯からすると,そのことは被請求人も認識しているところであるというほかない。
2 無効理由
(1)「戸田派武甲流薙刀術」の使用及び周知性の獲得
戸田派武甲流薙刀術は,戦国時代より受け継がれてきた薙刀の流派であるが,遅くとも昭和10年頃には,公刊物等においても「戸田派武甲流薙刀術」の名前が使用されていた。
また,各種大会,雑誌のインタビュー記事等においても,宗家や師範,門弟らが「戸田派武甲流薙刀術」の名称を使用していた。
戸田派武甲流薙刀術は,明治38年7月1日に発刊された日本最古の女性誌である「婦人画報」においてもその活動の様子を取り上げられていたほか,昭和期に入ってその活動状況が東京朝日新聞紙でも報道されるなど,遅くとも昭和の初期には全国的のその名が知れ渡っていたといえる。
さらに,戸田派武甲流薙刀術は,日本の主要な古武道の流派のほとんどが加盟する日本古武道協会にも昭和10年の当初から加盟し,昭和10年以降,現在に至るまで,日本古武道振興会が主催し,多数の古武道の流派が参加する「日本古武道大会」にも毎年参加してきたほか,多数の古武道に関する演舞会等にも参加してきた。
したがって,遅くとも平成26年1月の本件商標登録出願時において,武術や古武道に興味がある需要者の間で,「戸田派武甲流薙刀術」が,武術の教授,武術大会の企画・運営または開催等の役務を示すものとして広く認識されていたことは明らかである。
(2)商標法第4条第1項第8号違反
戸田派武甲流薙刀術は,遅くとも昭和10年以降,代表者として宗家を置き,「戸田派武甲流薙刀術」との名称において薙刀術の教授等をして社団として独自の社会活動を営んできたため,権利能力なき社団にあたり,同号の「他人の名称」に該当する。
したがって,本件商標は,「戸田派武甲流薙刀術」の名称と同一であり,これを含むので商標法第4条第1項第8号に該当し,商標登録を受けることができない。
(3)商標法第4条第1項第10号違反
本件商標は,「戸田派武甲流薙刀術」の教授等の役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標であって,その役務について使用するものであるから,商標法第4条第1項第10号に該当する。
(4)商標法第4条第1項第15号違反
被請求人は,かつて戸田派武甲流薙刀術の門弟であり,本件商標が,被請求人によって,武術の教授,武術大会の企画・運営または開催等において使用された場合,請求人が宗家代理を務める戸田派武甲流薙刀術が行った薙刀術の教授等であると混同を生ずるおそれが極めて高い。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当する。
(5)商標法第4条第1項第19号違反
被請求人は,先代宗家の死亡当時,入門から3年しか経過しておらず,請求人が先代宗家から宗家の地位を託された代表者であること,自分が宗家になるために必要な資格を得ていなかったことを知っていたにもかかわらず,戸田派武甲流薙刀術の代表者が外国籍を有する請求人のままでは,日本古武道振興会等に登録できないことを奇貨とし,請求人に無断で,自ら代表者(宗家)として登録を行った上で,本件商標の登録出願をするなど,武術の教授,武術大会の企画・運営または開催等に興味がある需要者の間で著名な「戸田派武甲流薙刀術」の知名度を不正利用し,自己が運営する「武陽館」において知名度を独占しようとしたものであり,不正な目的があったことが明らかである。
したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当する。
3 弁駁の理由
(1)顛末書(甲84,乙6)の証拠価値がないこと
紛争の当事者が,紛争発生後に作成した陳述書等の書類には証拠価値がない。なぜなら,紛争の発生後に自らの立場が有利になるよう作為を加えることが容易だからである。
被請求人は,自分が先代宗家の妻の指名を受けて宗家に就任した等と主張しているが,その根拠として,顛末書を引用する。
しかし,顛末書は,被請求人があたかも戸田派武甲流薙刀術の代表者であるかのように振る舞ったため,平成25年12月20日,破門及び絶縁処分を受け,請求人の指名を受けていないにもかかわらず,宗家を名乗り始め,請求人との間で紛争が発生した後,被請求人自らが作成したものであるから,顛末書には被請求人の主張が記載されているにすぎない。顛末書は,陳述書としての性質を有するにすぎず,証拠価値がないといわざるを得ない。
(2)被請求人の主張が代表権の承継と無関係であること
ア 先代宗家の妻に宗家の指名権がないこと
被請求人は,戸田派武甲流薙刀術の宗家の指名権が先代宗家の妻にあるかのような主張をしている。
しかし,被請求人が主張する先代宗家の「遺言」(甲84,乙6)の中にも宗家の指名を先代宗家夫人に委ねるとの記載は一切ない。むしろ,先代宗家が,宗家となるべき日本人の育成及び宗家の指名権を宗家代理となる請求人に委ねていること自体,被請求人も認めているところである。
したがって,先代宗家は,宗家の指名権を,対外的及び対内的な代表者である宗家代理となる請求人に唯一委ねているのであり,宗家の指名権を先代宗家夫人,被請求人等に委ねたことはない。
イ 日本古武道振興会の承認が戸田派武甲流薙刀術の代表権とは無関係であること
被請求人は,日本古武道振興会等から宗家であることを承認されていることをもって,自分が正統な宗家である旨の主張をする。
しかし,日本古武道振興会は,古武道の保存振興等を目的とした任意団体であり(甲83),これに加入することが義務づけられた強制加入団体でもない。日本古武道振興会に加入していない古武道の流派も多数存在する。
また,日本古武道振興会は,加盟団体をとりまとめて,演武大会等を主催することもあるが,あくまでも各団体の参加を募って大会を主催するだけにとどまり,加盟団体の人事権や財産管理に介入する権限を一切有していない。
したがって,日本古武道振興会は,戸田派武甲流薙刀術をはじめとした古武道流派が加盟する任意団体であり,被請求人が主張するような「上部団体」でもない。そのため,日本古武道振興会等が被請求人を代表者として承認したとの事実は,戸田派武甲流薙刀術内における代表者の承継とは全く無関係な事実であるというほかない。また,戸田派武甲流薙刀術と日本古武道振興会が全く独立した対等な団体である以上,日本古武道振興会において,代表者の日本国籍を要件としていることも,戸田派武甲流薙刀術の代表者の承継とは全く無関係な事実である。
4 まとめ
本件商標は,商標法第4条第1項第8号,同項第10号,同項第15号及び同項第19号に違反して登録されたものであって,同法第46条第1項の規定により,その登録を無効とすべきものである。

第4 被請求人の主張
被請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として乙第1号証ないし乙第42号証を提出した。
1 薙刀術の一流派「戸田派武甲流薙刀術」の活動実態
「戸田派武甲流薙刀術」は,請求人が提出した各証拠(例えば甲4?甲8)からも明らかなように,今を遡ること400年以上前,越前,朝倉家に仕えた戸田清源を祖とする薙刀術の一流派を指標するものであり,「日本古武道振興会」並びに「日本古武道協会」(乙1)傘下の武術流派,あるいはその名称を示すものである。
ちなみに,「日本古武道振興会」,「日本古武道協会」の各団体は,日本における多数の古武道団体を統括する組織である。薙刀術の一流派としての「戸田派武甲流薙刀術」は,「日本古武道振興会」に継続して81年間加盟し,また「日本古武道協会」には継続して37年間加盟し,今日に至っている。
2 本件商標を出願するまでの経緯
(1)請求人と被請求人を含む3名の弟子は,先代宗家が亡くなるおよそ1か月半前の平成24年7月7日に,先代宗家が入院していた病院に見舞いに行き,その際,先代宗家から「戸田派武甲流薙刀術」の宗家承継についての遺言が,請求人および被請求人を含む5名を前になされた(乙6)。
上記遺言に基づき,当初は被請求人も,請求人が日本国籍を取得し,日本に帰化して「戸田派武甲流薙刀術」の第21代宗家を承継してもらうのが得策ではないかとの思いもあり,日本古武道振興会の関係者の説得の下,調整を図ったが,請求人は日本国への帰化に難色を示すとともに,被請求人を含む「戸田派武甲流薙刀術」の先代宗家の弟子達や日本古武道協会や日本古武道振興会の関係者との間で軋轢を生み,次第に距離を置くに至った。
平成25年になり「戸田派武甲流薙刀術」の上部団体である日本古武道振興会の役員から被請求人に対し,「戸田派武甲流薙刀術」の次代の代表者を早急に選ぶよう打診があり,平成25年3月11日に先代宗家夫人の指名を受け,被請求人がやむなく「戸田派武甲流薙刀術」の第21代宗家を承継することとなった。これに基づき,「日本古武道振興会」については平成25年3月13日に「戸田派武甲流薙刀術」の流儀代表者変更届け出を提出して受理され,同会より承認を受けるに至った。
また,日本古武道協会に対しては,先代宗家夫人より被請求人が流儀代表者として適任とする旨の書面(乙11,乙12)が提出されて受理された。
こうして,先代宗家夫人の指名に基づき,「戸田派武甲流薙刀術」の流儀代表者として被請求人が第21代宗家に就任し,日本古武道協会や日本古武道振興会との間の事務連絡やこれらの団体が主催する行事に参加するに至ったところ,請求人は,「戸田派武甲流薙刀術」の宗家代理という肩書を用いて流儀に反する独自の活動を始め,最終的には被請求人に対し「破門及び絶縁状」(乙14)を送付し,およそ武士道精神からかけ離れた内容からなる文書(乙15)を日本古武道協会や日本古武道振興会の関係者,20名以上に送り付けるなどの行為にでたのに加えて,インターネット上で被請求人らの活動に対し,被請求人が第21代宗家を正式に承継したものではない旨の誹謗を喧伝し,日本古武道振興会,日本古武道協会の会員でもないのに,これら団体において流派の代表者が日本人以外でも就任できるように規約を改正すべき旨の行動に至った。
こうした請求人の行動に対し,被請求人らは「日本古武道振興会」,「日本古武道協会」の役員やその傘下にある各団体の幹部に対し,その都度「戸田派武甲流薙刀術21代承継顛末書」(乙6)を持参して事情説明を行ってきた。しかし,なかなか妨害が止むことがなく,被請求人はやむなく,本件商標を平成26年1月22日に登録出願し,登録するに至った。
(2)「日本古武道振興会」,「日本古武道協会」の対応
「日本古武道振興会」,「日本古武道協会」の役員らは,「戸田派武甲流薙刀術」の代表者を日本人でもない請求人が就任することを認めることはできないとしている。
日本古武道振興会は,被請求人を「戸田派武甲流薙刀術」の正式な宗家と認め,被請求人宛てに書簡を送っている(乙17,乙19)。
日本古武道協会は,先代宗家夫人を代表者代行として考え,しかるべき時期に宗家夫人が宗家を指名することを承認しているほか,被請求人を準会員として登録している旨の書面を交付した(乙20,乙21)。
3 無効理由の不存在について
(1)本件商標「戸田派武甲流薙刀術」の周知・著名性及び被請求人との関係について
審判請求人は,本件審判の請求理由として,例えば本件商標が商標法第4条第1項第10号,同項第15号に違反して登録され,「戸田派武甲流薙刀術」があたかも本件商標の登録出願前より,請求人の商標として周知,著名であったかのような誤った主張する(甲4?甲78)。しかしながら,これらの証拠は,「薙刀術」の一流派に関する名称「戸田派武甲流薙刀術」(役務商標)の周知性,著名性を示す証拠であったとしても,その権利主体が本件商標の登録出願前はもちろん,今日において請求人を指標する役務商標である旨の証拠ではない。すなわち,これら各証拠の多くが,時期的に先代宗家あるいは先々代宗家の時代において発行された文書等であることから,請求人をして本件商標を無効にすべき旨の根拠として成り立ち得ないものである。
しかも,上記2のとおり,被請求人は「戸田派武甲流薙刀術」の代表者であり,その地位を「戸田派武甲流薙刀術」の上部団体である「日本古武道振興会」,「日本古武道協会」に認知されている。
既に「戸田派武甲流薙刀術」においては,上部団体である「日本古武道振興会」,「日本古武道協会」が主催あるいは後援する数々の大会に参加し,被請求人は先代宗家が亡くなる前においてその構成員として,亡くなった後は代表者として,各活動に参加してきた。また,被請求人は,活動の本拠を置く「武陽館 小田原道場」を中心に薙刀術の指導,普及に努めている。
よって,審判請求書において主張された各無効理由は次のとおり存在しない。
(2)商標法第4条第1項第8号について
上記のとおり,被請求人は,「戸田派武甲流薙刀術」の宗家の地位にあり,例えば「日本古武道振興会」,「日本古武道協会」においても代表者として認知されているから,本件商標は商標法第4条第1項第8号に規定する「他人の名称を含む商標」に該当せず,同号に違反して登録されたものではない。
なお,そもそも「戸田派武甲流薙刀術」は,権利能力なき社団に該当しない。
(3)商標法第4条第1項第10号について
上記のとおり,被請求人は,「戸田派武甲流薙刀術」の宗家の地位にあり,例えば「日本古武道振興会」,「日本古武道協会」においても代表者として認知されているから,本件商標は商標法第4条第1項第10号に規定する「他人の業務に係る役務を表示するものとしてものとして需要者の間に広く認識されている商標」に該当せず,同号に違反して登録されたものではない。ちなみに,請求人は,審判請求書において本件商標が出願前より周知であり,その事実を示すものとして,例えば甲第4号証ないし甲第8号証,甲第63号証ないし甲第78号証を提出しているが,「戸田派武甲流薙刀術」を被請求人が代表者の地位を継承した以上,その周知性についても被請求人らに継承される。
(4)商標法第4条第1項第15号について
上記のとおり,被請求人は,「戸田派武甲流薙刀術」の宗家の地位にあり,例えば「日本古武道振興会」,「日本古武道協会」においても代表者として認知されているから,本件商標は商標法第4条第1項第15号に規定する「他人の業務に係る役務と混同を生じるおそれがある商標」に該当せず,同号に違反して登録されたものではない。ちなみに,請求人は,審判請求書において本件商標が出願前より著名であり,その事実を示すものとして,例えば甲第4号証ないし甲第8号証,甲第63号証ないし甲第78号証を提出しているが,「戸田派武甲流薙刀術」を被請求人が代表者の地位を継承した以上,その著名性についても被請求人らに継承されることとなる。
(5)商標法第4条第1項第19号について
上記のとおり,被請求人は,「戸田派武甲流薙刀術」の宗家の地位にあり,例えば「日本古武道振興会」,「日本古武道協会」においても代表者として認知されているから,本件商標は商標法第4条第1項第19号に規定する「他人の業務に係る役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって,不正の目的をもって使用するもの」に該当せず,同号に違反して登録されたものではない。
4 結論
以上のとおり,被請求人は,「戸田派武甲流薙刀術」第21代宗家を承継し,日本古武道振興会,日本古武道協会においてその地位を認められ,本件商標を独占使用すべき地位にある。よって,本件商標について無効理由は全く存在しない。

第5 当審の判断
1 請求人及び被請求人提出の証拠並びに両人の主張によれば,次の事実が認められる。
(1)戸田派武甲流薙刀術について
戸田派武甲流薙刀術(以下「本件流派」という。)は,流祖を戦国時代の越前福井の朝倉家の家臣である戸田清源(戸田清眼,富田勢源)とする甲ちゅう武術であり,戸田流(富田流)と称されていたが,その後,本件流派は,関東に移り,戸田派武甲流と称されるようになったこと(甲64,甲65,乙36,乙39等)。
本件流派は,日本古武道振興会(昭和10年設立)に当初から加盟し(甲9),昭和10年から平成24年にかけて同振興会が主催する古武道形奉納大会及び明治神宮での日本古武道大会に参加し,並びに,平成5年から平成22年にかけて日本古武道協会が主催する日本古武道演武大会に参加したほか,日本各地で開催された演武大会及び神社等への奉納のための演武に参加したこと(甲9?甲62)。
先代宗家が亡くなるまでは,先代宗家が本件流派の代表者として,日本古武道振興会及び日本古武道協会に届けられ,対外的,対内的な活動は,先代宗家の指導の下に実施されていたこと(甲58ないし甲61等)。
(2)先代宗家の生前における宗家の承継に係る経緯について
ア 請求人(ケント ソレンセン)及び被請求人(建入 久代)は,共に本件流派の門下生であり,外国籍の請求人は,遅くとも平成14年2月頃には師範の地位にあったこと(甲50)。また,被請求人は,平成21年頃,本件流派に入門したこと(当事者間に争いのない事実)。
イ 平成23年11月,先代宗家は,体調を崩し,手術を行うため入院したが,手術中に何が起こるかわからないと思い,手術の前日である同月20日に,請求人に対し,先代宗家自らがメールにて,自身の病状と今後の見通し等を知らせ,万が一,自分に何かあった場合には,請求人が武甲流宗家を預かってほしい旨,及び請求人から見て本件流派を継ぐにふさわしい日本人が育ったら,先々代宗家の直弟子と相談した上で,その人に宗家を継がせてほしい旨依頼したこと(甲79,甲85)。
ウ 平成24年5月,先代宗家は,本件流派の中野道場にて門弟一同(被請求人を含む。)に対して,次代宗家は日本人とし,請求人を宗家代理として指名したこと,及びこれに対して被請求人は意見を述べなかったこと(当事者間に争いのない事実)。
エ 先代宗家は,「戸田派武甲流薙刀術 文責/並びに武陽館小田原道場を/建入久代に託す。/益々の精進を希む。」(/は改行を表す。以下同じ。)と記載し,署名捺印した平成24年7月16日付けの書面を,被請求人に対して交付したこと(乙7,被請求人の主張)。
オ 先代宗家は,「戸田派武甲流薙刀術/宗家代理を/ケントソレンセンに託す。」と記載し,署名捺印した平成24年5月23日付け書面を,平成24年8月,入院中の病院にて,請求人に対して交付したこと(甲2,請求人の主張)。
カ 被請求人が日本古武道協会に提出した平成26年5月1日付け顛末書(甲84,乙6)には,先代宗家の遺言として,平成24年7月7日,入院中の病院にて,先代宗家夫人,請求人,被請求人及び先代宗家のその他数名の弟子を立会人とし,(ア)宗家は,日本人であること,(イ)省略,(ウ)宗家は,古武道組織(日本古武道協会・日本古武道振興会)に加入を続け,広く交流を図っていくこと,(ウ)請求人は,宗家代理として,薙刀技術指導を行い,日本人の宗家を育てること,(エ)被請求人は,対外的文書作成などを担当するほか,本件流派武陽館道場の館長として,その運営にあたること,また,本件流派の歴史的資料収集など本件流派の伝統承継に資する行動をすること,さらに,同年8月25日,先代宗家夫人,請求人及び被請求人を立会人とし,追加の遺言として,(オ)今後,日本古武道協会副会長の力添えを頼むこと,が記載されていること。
キ 先代宗家は,平成24年8月29日に亡くなったが(乙2),次期宗家の指名は行っていなかったこと(当事者間に争いのない事実)。
(3)日本古武道振興会及び日本古武道協会への代表者届の提出の経緯について
ア 被請求人は,日本古武道振興会に対して,請求人を本件流派の流儀代表者として登録するように行動し,先代宗家が亡くなった後,本件流派が請求人により支えられている事情を説明し,外国人初の代表も実現できないか提案を行ったところ,平成24年12月22日,日本古武道振興会副会長の仲介により本件流派の次期代表者(第21代宗家)について,同振興会会長,同副会長,同事務局,請求人及び被請求人の5者による面談が持たれ,その席上,同振興会より,流儀代表者として登録するためには,代表者本人が日本国籍を有していること(この中には,帰化した外国人を含む。)が必要であることが説明され,その際に,請求人が日本国籍を取得し,次期代表者(第21代宗家)となる案が検討されたが,請求人が日本国籍の取得を固辞したため廃案となり,他案も検討されたものの,成案は得られなかったこと(甲82,乙15,乙19)。
イ 日本古武道振興会及び日本古武道協会は,本件流派の日本人以外を流儀代表者として登録することは認めないこと,及び日本人の流儀代表者が決まらない場合は,本件流派の退会措置もあり得ることを示唆したこと(当事者間に争いのない事実)。
ウ 被請求人は,先代宗家夫人から宗家の証しとされる「戸田武甲流薙刀目録」(乙9)並びに第18代宗家及び第19代宗家の薙刀(乙8)を受け取るとともに,平成25年3月13日付けで,日本古武道振興会へ被請求人自身を本件流派の流儀代表者とする流儀代表者変更届を提出した。この届出は,同月31日開催の日本古武道振興会の常任理事会で報告,了承されたこと(乙6,乙10,乙17?乙19)。
エ 被請求人は,日本古武道協会に対して,先代宗家夫人の推薦もあり(乙11),平成25年4月15日付けで,自身を流儀代表者とする流儀代表者変更届を提出し(乙12),日本古武道協会は,平成26年6月2日付けで,しかるべき時期に先代宗家夫人が代表代行として日本人宗家を指名することとした上で,先代宗家夫人を代表代行として登録し(乙20),同日付けで,被請求人を準会員(各流派の修行者及び正会員と師弟関係にあるもの)として登録したこと(乙21)。
(4)被請求人の日本古武道振興会への流儀代表者変更届提出後の活動について
被請求人は,平成25年3月13日付けの日本古武道振興会への流儀代表者変更届を提出,及び平成25年4月15日付けの日本古武道協会へ被請求人を流儀代表者とする流儀代表者変更届を提出後に,本件流派の教授等を行っていることが,新聞,雑誌に紹介されているほか(乙28,乙29,乙33),日本古武道振興会が主催する奉納演武(乙30)及び本件商標の査定後においても古武道大会等に代表として参加していること(乙34,乙35,乙37?乙42)。
2 被請求人の日本古武道振興会等の登録手続きについて
請求人は,先代宗家から,日本人宗家の育成及び指名までの間,宗家代理として,門下生の育成のほか,本件流派の運営全部を託されていたから,請求人が次期宗家を指名するまでの間,対外的にも対内的にも,本件流派の代表者であり,かつ,最終決定権者であって,しかも,被請求人は,請求人が宗家代理の地位にあることを承認し,次期宗家の決定権限を有する請求人の承認がないにもかかわらず,自分が本件流派の宗家であると名乗った上で,日本古武道振興会等に登録手続きを行った旨主張するので,検討する。
(1)上記1によれば,先代宗家は,請求人に対して,平成23年11月,自身の病状と今後の見通し等を知らせ,自分に何かあった場合には請求人が武甲流宗家を預かってほしい旨,及び本件流派を継ぐにふさわしい日本人が育ったら,先々代宗家の直弟子と協議の上で次の宗家として継がせてほしい旨を依頼した上で(甲79,甲85),請求人を本件流派の宗家代理に指名し(甲2,平成24年5月23日付け書面,ただし,請求人への交付は平成24年8月),被請求人に対しては,対外的文書作成などを担当するほか,本件流派武陽館道場の館長として,その運営にあたることを依頼し(乙7,平成24年7月16日交付),そして,平成24年7月及び8月に先代宗家夫人,請求人及び被請求人らを立会人として上記1(2)カを内容とする遺言をし(甲84,乙6),次期宗家の指名は行うことなく,平成24年8月29日に亡くなったこと(乙2)が認められる。
(2)被請求人は,日本古武道振興会に対して,請求人を本件流派の流儀代表者として登録するように働きかけを行ったこと,被請求人及び日本古武道振興会は,請求人が日本国籍を取得することを勧めたことがうかがえるが,請求人が日本国籍の取得を固辞したため廃案となったこと,さらに,日本古武道振興会及び日本古武道協会が,本件流派の日本人の流儀代表者が決まらない場合は退会措置もあり得ることを示唆したことから,本件流派が退会措置となった場合には,長年継続してきた古武道大会等への参加も不可能になることが予想されること,その後,平成25年3月に日本古武道振興会に被請求人を流儀代表者とする流儀代表者変更届を提出して了承されたこと,また,被請求人は,平成25年4月に日本古武道協会にも流儀代表者変更届を提出したところ,日本古武道協会は,平成26年6月2日付けで,先代宗家夫人を代表代行として登録し,被請求人を準会員として登録したこと,その結果,本件流派は継続して日本古武道振興会が主催する古武道大会等に参加できたことが認められる。
(3)以上を踏まえると,先代宗家は,請求人を宗家代理に指名し,請求人に次期宗家を継ぐ日本人の育成と,先々代宗家の直弟子と協議の上での次の宗家の承継を託したのであるから,当該指名により,直ちに,請求人が対外的にも対内的にも本件流派の代表者であり,かつ,本件流派の運営に係る最終決定権者であると解することはできない。
そして,先代宗家は,請求人に対しては,上記趣旨に基づき請求人を宗家代理に指名する一方,被請求人に対しては,本件流派の文責及び小田原武陽館道場の館長として運営を託していることから,先代宗家は,自らが亡き後の本件流派の運営及び管理等について,請求人及び被請求人の双方に依頼したと解すべきである。
そうすると,(ア)被請求人が一度は請求人を本件流派の代表者として日本古武道振興会及び日本古武道協会に推薦したこと,(イ)日本古武道協会及び日本古武道振興会の流儀代表者は日本国籍を有する者に限られるところ,請求人が日本国籍を取得することを固辞したことから,請求人を本件流派の代表者とする案は流れたこと,(ウ)主に活動してきた日本古武道振興会及び日本古武道協会から日本人の流儀代表者が決まらない場合は本件流派の退会措置もあり得ることを示唆されたことから,被請求人が自身を流儀代表者として日本古武道協会及び日本古武道振興会に届け出たことに関する被請求人の一連の行動は,本件流派の主な活動の場である両会の会員の資格を継続するためには,必要な対応であったといえる。
(4)なお,請求人は,顛末書(甲84,乙6)について,紛争の当事者が,紛争発生後に作成した陳述書等の書類には証拠価値がない旨主張するが,被請求人が顛末書に記載した先代宗家の遺言と主張する(ア)宗家は,日本人であること,(イ)宗家は,古武道組織(日本古武道協会・日本古武道振興会)に加入を続け,広く交流を図っていくこと,(ウ)請求人は,宗家代理として,薙刀技術指導を行い,日本人の宗家を育てること,(エ)被請求人は,対外的文書作成などを担当するほか,当流武陽館道場の館長として,その運営にあたることは,上記(1)ないし(2)の点(1(2)カの遺言に係る箇所を除く。)とも符合するから,当該遺言の内容は,不自然なものということはできない。
3 本件商標の無効理由について
上記1及び2のとおり,本件流派は,主に日本古武道振興会及び日本古武道協会において活動してきた,古武道の一流派の名称であり,被請求人は,先代宗家が亡き後の本件流派の運営及び管理等について,先代宗家より請求人とともに依頼され,しかも,日本古武道振興会及び日本古武道協会の流儀代表者が日本国籍を有する者に限られていたのであるから,被請求人が日本古武道振興会及び日本古武道協会に加入を続けることを目的として流儀代表手続きを行ったことは,不当なものとまでいうことはできない。
しかも,上記1(3)及び(4)のとおり,被請求人は,日本古武道振興会の常任理事会において,戸田派武甲流薙刀術の流儀代表者として了承された後,古武道大会等に本件流派の代表者として参加していること,各種新聞,雑誌において,本件流派の代表者として掲載されているといった事情を考慮すると,被請求人は,本件商標の登録出願時及び登録査定時に本件流派との関係において,商標法第4条第1項第8号,同項第10号,同項第15号及び同項第19号に規定する「他人」に該当するということはできない。
したがって,商標法第4条第1項第8号,同項第10号,同項第15号及び同項第19号のその他の要件について検討するまでもなく,本件商標は,上記各号に該当しない。
4 むすび
以上のとおりであるから,本件商標は,商標法第4条第1項第8号,同項第10号,同項第15号及び同項第19号のいずれにも違反して登録されたものとはいえないから,同法第46条第1項の規定に基づき,その登録を無効とすべきでない。
よって,結論のとおり審決する。
審理終結日 2017-01-27 
結審通知日 2017-02-01 
審決日 2017-03-09 
出願番号 商願2014-4047(T2014-4047) 
審決分類 T 1 11・ 23- Y (W41)
T 1 11・ 25- Y (W41)
T 1 11・ 222- Y (W41)
T 1 11・ 271- Y (W41)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 敦子 
特許庁審判長 堀内 仁子
特許庁審判官 早川 文宏
田村 正明
登録日 2014-10-31 
登録番号 商標登録第5714462号(T5714462) 
商標の称呼 トダハブコーリューナギナタジュツ、トダハブコーリュー、トダハ、ブコーリュー、ブコーリューナギナタジュツ、ナギナタジュツ 
代理人 中野 仁 
代理人 山田 勝重 
代理人 山田 克巳 
代理人 辻本 恵太 
代理人 山田 博重 
代理人 山田 智重 
代理人 曽我部 豪 
代理人 上床 栄次朗 
代理人 片山 輝伸 

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