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審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X202134
管理番号 1330280 
審判番号 取消2016-300267 
総通号数 212 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2017-08-25 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2016-04-20 
確定日 2017-04-24 
事件の表示 上記当事者間の登録第502542号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第502542号商標の指定商品中、第20類「全指定商品」、第21類「ガラス瓶(食品保存用ガラス瓶を除く。),食品保存用ガラス瓶,ガラス製包装用容器(「ガラス製栓・ガラス製ふた」を除く。),ガラス製栓,ガラス製ふた,ガラス製食器類,ガラス製なべ,ガラス製コーヒー沸かし(電気式のものを除く。),ガラス製のようじ入れ,ガラス製こしょう入れ,ガラス製砂糖入れ,ガラス製塩振出し容器,ガラス製卵立て,ガラス製ナプキンホルダー,ガラス製ナプキンリング,ガラス製貯金箱,ガラス製の花瓶及び水盤,ガラス製風鈴,ガラス製香炉,ガラス製おしろい入れ,ガラス製クリーム入れ,ガラス製懐中鏡」及び第34類「全指定商品」については、その登録は取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする
理由 第1 本件商標
本件登録第502542号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、昭和31年8月29日に登録出願、第15類「ガラス並に他類に属せざるガラス製品及びほうろう質品」を指定商品として、同32年5月25日に設定登録され、その後、4回にわたり商標権の存続期間の更新登録がされたものであり、さらに、平成20年6月25日に指定商品を第9類「加工ガラス(建築用のものを除く。)」、第19類「建築用ガラス,建築用板ガラス」、第20類「ガラス製の手鏡,その他のガラス製の鏡(鏡台・三面鏡台・姿見台を除く。),ガラス製のネームプレート及び標札」、第21類「ガラス基礎製品(建築用のものを除く。),板ガラス(建築用のものを除く。),ガラス瓶(食品保存用ガラス瓶を除く。),食品保存用ガラス瓶,ガラス製包装用容器(「ガラス製栓・ガラス製ふた」を除く。),ガラス製栓,ガラス製ふた,ガラス製食器類,ガラス製なべ,ガラス製コーヒー沸かし(電気式のものを除く。),ガラス製のようじ入れ,ガラス製こしょう入れ,ガラス製砂糖入れ,ガラス製塩振出し容器,ガラス製卵立て,ガラス製ナプキンホルダー,ガラス製ナプキンリング,ガラス製植木鉢,家庭園芸用のガラス製水耕式植物栽培器,ガラス製愛玩動物用食器,ガラス製金魚ばち,ガラス製小鳥用水盤,ガラス製貯金箱,ガラス製せっけん用ディスペンサー,ガラス製の花瓶及び水盤,ガラス製風鈴,ガラス製香炉,ガラス製おしろい入れ,ガラス製クリーム入れ,ガラス製懐中鏡,ガラス管,ガラス球」、第22類「ガラス繊維」及び第34類「ガラス製灰皿,ガラス製たばこケース」とする指定商品の書換登録がされ、現に有効に存続しているものである。
そして、本件審判の予告登録は、平成28年5月2日にされている。
なお、通常使用権者を「メリー株式会社」(以下「メリー社」という。)とし、範囲を「全部(ただし、期間の終期は平成9年5月25日まで)」とする通常使用権の設定の登録が平成3年1月28日にされている。
第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証及び甲第2号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、その指定商品中、第20類「全指定商品」、第21類「ガラス瓶(食品保存用ガラス瓶を除く。),食品保存用ガラス瓶,ガラス製包装用容器(「ガラス製栓・ガラス製ふた」を除く。),ガラス製栓,ガラス製ふた,ガラス製食器類,ガラス製なべ,ガラス製コーヒー沸かし(電気式のものを除く。),ガラス製のようじ入れ,ガラス製こしょう入れ,ガラス製砂糖入れ,ガラス製塩振出し容器,ガラス製卵立て,ガラス製ナプキンホルダー,ガラス製ナプキンリング,ガラス製貯金箱,ガラス製の花瓶及び水盤,ガラス製風鈴,ガラス製香炉,ガラス製おしろい入れ,ガラス製クリーム入れ,ガラス製懐中鏡」及び第34類「全指定商品」(以下「取消請求商品」という場合がある。)について、商標権者によって継続して3年以上日本国内で使用されている事実を発見することができなかった。
また、本件商標の商標登録原簿を見ても、専用使用権及び通常使用権は、設定されておらず、許諾を受けた通常使用権者等による使用の事実もない。
さらに、本件商標を使用していないことについての正当な理由も認めることができない。
よって、本件商標の登録は、商標法第50条第1項の規定により、取消請求商品について取り消されるべきである。
2 答弁に対する弁駁
(1)本件商標と使用商標との社会通念上の同一性について
被請求人は、本件商標と乙第5号証及び乙第6号証に表された図形部分及び「KABUKI」の文字部分を含む商標(以下「使用商標」という場合がある。)とは社会通念上同一である旨主張するが、本件商標と使用商標とでは、その外観的特徴が著しく異なっており、被請求人の主張は失当である。
ア 本件商標の態様について
本件商標の態様は、男性の顔、又は隈取りのある男性の顔を想起させる図形の下に、「歌舞伎」の漢字が大きく縦書きされ、その右側に振り仮名のように「カブキ」の片仮名が小さく縦書きされている。
そして、図形部分の特徴としては、まず眉部は、右眉は眉山がなく、左眉は眉山をしっかりと、崩した「へ」の字のように描かれ、両眉とも上がり眉毛で描かれている。
次に、目部は、向かって左目は楕円の形で目頭、目尻部分がやや線が太く、上瞼の目尻側を上にあげて目を吊り上げているように描かれ、右目は、上瞼は平行線で、下瞼は僅かに弧を描くように、切れ長に描かれており、右目の目頭と右眉の眉頭は近接している。
また、黒目部分は下を見るように、やや目頭寄りの位置で、下瞼の線に密接するように描かれている。そして眉間の上には、縦長の黒色の点が三つ近接して並んでいる。また、目の下には鼻孔を想起させるような縦長の黒色の点が二つ少し間隔をあけて並んでおり、黒色の点の上から、ほうれい線や髭を想起させるような波線が左右に二本ずつ、向かって左側は線の始まりが密接して、右側は線の間にやや間をあけて描かれている。
さらに、ロ部は、傾斜の緩やかな山の形のような曲線で描かれ、下唇の影を想起させるような小さな横線が一本描かれている。
イ 使用商標の態様について
使用商標の態様は、上段に「KABUKI」の欧文字及び下段に「MIRROR」の欧文字が近接して配され、各々の語は同書同大同じ文字フォントで表されており、その下に隈取りのある人の顔を想起させるような図形が描かれている。
そして、図形部分の特徴としては、下瞼の線は、目頭から目尻までは緩く弧を描くように、目尻から上は突き抜けるようにほぼ垂直に上へと伸び、上へ行くほどに線が細く描かれている。
また、上瞼の線は、目頭から目尻までは下瞼と同様に緩い弧を描くように、目尻からは斜め上に向かう線で描かれ、両線は目頭より上に位置する目尻部分で交差し、全体として木の葉を想起させる形で目が吊り上がっているように描かれている。
そして、鼻部の特徴は、鼻尖と鼻翼部分のみ描かれており、鼻翼部分は、弧を描くかのような曲線が左右対称に配置され、鼻尖部分はその2つの弧を繋ぐように楕円状の曲線が描かれており、あたかも鏡餅を逆さまにしたような形状となっている。そして、鼻翼から、頬骨を縁取るかのような曲線が左右対称に描かれている。
次に、口部は、上唇を縁取ったような線が山形の曲線で描かれ、その線の頂上部分は、上口唇点を表すかのように、小さなくぼみが描かれ、口の下には、弧を下側にした扇形の図形が配されている。
ウ 本件商標と使用商標の対比
本件商標と使用商標と比較すると、人の顔を模したと認識される図形という点のみで共通するものの、以下の点で顕著に相違しているから、社会通念上同一とはいえない。
(ア)文字部分の比較では、本件商標が漢字と片仮名から構成されているのに対して、使用商標は欧文字から構成されており、さらに使用商標には、「MIRROR」の語が含まれている点。
(イ)本件商標が眉部と目部が各々しっかりと描かれている図形であるのに対して、使用商標は、目の周囲を縁取った図形で眉部がない点。
(ウ)本件商標が目部に黒目を有する図形であるのに対して、使用商標は、黒目のない図形である点。
(エ)本件商標が眉間の上に縦長の黒色の点が三つ近接して並んでいる図形であるのに対して、使用商標には存在しない点。
(オ)本件商標の鼻部が鼻孔を想起させる黒い点二つで描かれた図形であるのに対して、使用商標の鼻部は、鼻尖と鼻翼部分の輪郭を縁取る様に描かれている図形である点。
(カ)本件商標がほうれい線や髭を想起させるような波線が左右に二本ずつ描かれた図形であるのに対して、使用商標は、頬骨を縁取るかのような曲線が左右対称に1本ずつ描かれた図形である点。
(キ)本件商標の口部が傾斜の緩やかな山の形のような曲線で描かれた図形であるのに対して、使用商標の口部は、上唇を縁取ったような山形の曲線で、中心には上口唇点が描かれた図形である点。
(ク)本件商標の口下の図形が下唇の影を想起させるような小さな横線が一本描かれた図形であるのに対して、使用商標は、扇形の図形である点。
これらの文字部分の相違及び図形部分の相違点を考慮すると、図形同士の類似点を見いだすことさえ困難なものである。
さらに、被請求人自身が答弁書において、「具体的な表現態様は異なる」と本件商標と使用商標が異なることを自認しており、このことからも本件商標と使用商標が社会通念上同一ではないことを認めている証左といえるものである。
なお、被請求人は、「本件商標では、目なども含めて幾分写実的に表現された隈取りを、使用商標では、シンメトリーでイラスト的に表現している点で共通する」と主張するが、該主張もかなり矛盾している。
すなわち、そもそも本件商標は、シンメトリーで表現されておらず、左右非対称で描かれており、シンメトリーで描かれている使用商標とは表現方法が対極にある点、及び本件商標が隈取りをほぼありのままに描いている(写実的)と主張するのに対して、使用商標がイラスト的に表現していると主張しており、写実的に表現することとイラスト的に表現することは対照的な表現方法であることから、全く異なる表現方法で描かれていることを自認するものである。
(2)商標の使用について
被請求人は、上段に「KABUKI」の欧文字及び下段に「MIRROR」の欧文字が配され、その下に隈取りのある人の顔を想起させるような図形が描かれた標章がデザインされたバッチの写真と、上記使用商標が描かれた鏡の包装用の箱の写真を社会通念上同一の商標の使用であるとして、乙第5号証及び乙第6号証を提出している。
乙第5号証について、被請求人は、社章としてメリー社設立当初から変更されずに使用されていると主張しているものの、主張のみであり、設立当初から現在に至るまで上記標章がデザインされた社章が継続的に使用されていたことを証明する証拠は何ら提出されていない。
そもそも、使用商標が社章に使用されていたとしても、被請求人提出の証拠からは具体的な商品との関連性が全く見受けられず、商標としての使用に該当しないことは明白である。
次に、乙第6号証においては、使用商標が描かれている鏡の包装用の箱と認識し得るものの、そもそも使用商標と本件商標は社会通念上同一視し得るものではなく、また、本件審判の予告登録日以前の3年以内(以下「要証期間内」という。)における使用時期を証明する証拠は何ら提出されていない。
さらに、被請求人提出の乙第3号証のホームページの写しを見るも、本件商標はおろか使用商標が付された鏡類は一切存在を確認できないから、現在、被請求人及びメリー社において本件商標を全く使用していない事実が推認されるものである。
(3)通常使用権者について
被請求人は、本件商標について商標登録原簿上の許諾期間満了後もメリー社に通常使用権者として本件商標を使用することを許諾し、平成9年5月以降の本件商標の使用は通常使用権者のメリー社による使用であると述べている。
しかしながら、メリー社が通常使用権者と主張するのであれば、通常使用権設定に係る何らかの証拠書類も提出して然るべきであるが、当該書類も提出されていないことから、メリー社が通常使用権者であるのか不明である。
逆に、請求人提出に係る商標登録原簿(甲2)において丙区欄「通常使用権の設定」において通常使用権の終期が平成9年5月25日迄と記載されており、その後更新されていない事実を考慮すると、通常使用権は既に終了している可能性が極めて高いことが推認される。
さらに、被請求人の提出した乙第1号証の3及び乙第4号証を検討しても、被請求人及びメリー社が現実に存在していることは推し量ることができるものの、メリー社が通常使用権者であるとの主張を裏付ける他の具体的な証拠が何ら提出されていないことを考慮すると、被請求人の主張は失当である。
また、被請求人は、メリー社が前身である坂寛商店の創業時より、現在に至るまで約90年一貫して鏡の製造販売を行っていること、本件商標権を60年間維持していることを主張しているが、会社の存続と本件商標の使用の有無とは何ら関係がない。
(4)現実の出所の混同のおそれについて
被請求人は、使用商標を使用し、「KABUKI」ブランドとして取引者・需要者の間で全国に浸透している旨主張しているが、該主張を裏付ける取引書類や売上高を示す証拠が何ら提出されていないことを考慮すると、被請求人の主張は失当である。
(5)まとめ
以上のとおり、被請求人提出の証拠を考慮しても何ら具体的な商標の使用について立証がなされておらず、さらに、使用商標は、本件商標と社会通念上同一の商標に該当しないことから、本件商標がその取消請求商品について、要証期間内に商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかにより使用されていないことは明白である。
第3 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証ないし乙第6号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 本件商標の使用について
(1)本件商標の商標権者と通常使用権者について
ア 本件商標は、昭和31年8月29日に坂寛吉氏により出願され、昭和32年5月25日に登録され、昭和61年12月20日に坂寛吉氏から被請求人に譲渡され、平成2年6月20日に、被請求人は、本件商標について、メリー社に通常使用権を許諾している(登録は平成3年1月28日)(甲2)。
通常使用権者であったメリー社は、本件商標の出願人である坂寛吉氏を取締役の一人とするとともに、その子息である坂幸市氏を代表取締役として、昭和44年8月29日に「株式会社メリー」の商号で設立されたものである(昭和61年1月25日に「メリー株式会社」に商号変更)(乙1の1ないし3)。かかるメリー社は、大正15年に坂寛吉氏が創業した坂寛商店を前身とするものであり、創業当時から現在に至るまで、一貫してガラス製の手鏡などの各種鏡の製造販売を主たる事業としている(乙2及び乙3)。
また、メリー社の現代表取締役は、坂寛吉氏の孫であり、坂幸市氏の子息である坂雅晴氏が務めている(乙1の3)。
ウ 被請求人は、鏡以外のヘアーブラシ、歯ブラシ等の製造販売のほか、工業所有権の保全等を事業として昭和61年11月1日に坂幸市氏を代表取締役として設立された(乙4)ものであり、設立直後の同年12月20日に坂寛吉氏より本商標権を譲り受けている(甲2)。
エ 被請求人の現代表取締役は、メリー社の代表取締役である坂雅晴氏が兼任していることより、メリー社は、被請求人と資本的、あるいは人的に密接な関係にある関連会社である(乙4)。
オ 被請求人は、取締役会により、平成9年5月以降もメリー社の本件商標の使用を認めている。なお、平成9年5月25日以降に、通常使用権の再設定登録を行わなかったのは、被請求人と通常使用権者とは、役員が重複しており、本件商標の使用許諾については口頭での合意で十分であって、契約書を改めて作成し締結し直さなければならない必要性はないと両者判断したことによるものである。
したがって、平成9年5月以降のメリー社による本件商標の使用は、引き続き通常使用権者による本件商標の使用であると認められる。
2 使用商標と本件商標について
(1)乙第5号証は、通常使用権者であるメリー社の社章を写した写真であり、乙第6号証は、メリー社の鏡の包装用の箱を写した写真である。なお、乙第5号証の社章のデザインは、メリー社の設立当初から変更されていない。
(2)乙第5号証及び乙第6号証から明らかなように、メリー社は、社章、あるいは鏡の包装用の箱に「歌舞伎」の隈取りをモチーフにした図形部分と「KABUKI」の文字部分を含む商標(使用商標)を使用している。
(3)本件商標と使用商標の図形部分を比較してみると、両商標の図形部分は、夫々の図形を構成する線の太さ、線の長さといった点で具体的な表現態様が異なるものの、両商標の図形部分は、本件商標では、目なども含めて幾分写実的に表現された「隈取り」を、使用商標では、シンメトリーでイラスト的に表現している点で共通する。
つまり、両商標は、具体的な表現態様は異なるものの、一般需要者をして歌舞伎の「隈取り」を認識させることは図形の態様からして明らかである。
(4)また、本件商標では、「隈取り」の図形の下に大きく縦書きで記載された「歌舞伎」の文字と、その右横に小さく縦書きで記載された「カブキ」の文字を表しているのに対して、使用商標では、「隈取り」の図形の上方に「KABUKI MIRROR」の文字を表しており、「KABUKI」の語は明確に認識されるから、本件商標と使用商標は、同一の称呼が生じる。
(5)以上より、使用商標と本件商標とは、同一の称呼(カブキ)及び同一の観念(歌舞伎の隈取り)を表し、本件商標と社会通念上、同一と認められるものである。
しかも両商標の図形の具体的態様の相違点は、歌舞伎の「隈取り」を示す図形を含む点、「カブキ」の称呼が生じる文字を含む点、及び「歌舞伎」の観念しか想起し得ないという両商標の共通点を凌駕するということもできない。また、使用商標の全体の態様は、本件商標の全体の態様から見て一般需要者の識別性に影響を与えるほどに顕著に異なるものではなく、使用商標は、本件商標から見てパリ条約5条C(2)の「商標の識別性に影響を与えることなく構成部分に変更を加えた商標」に該当するものであり、同時に商標法第50条第1項にいう「当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標」に該当するというべきである。
加えて、本件商標は、コンピュータやデジタルイラストソフトの類が皆無であった、60年前の昭和31年(1956年)に出願されたものであり、本件商標の図形部分と文字部分を構成する「線」の一本一本の全てが、人の手により描写されたものであることは自明である。そうすると、60年前の昭和31年(1956年)にアナログで作成された本件商標の具体的表現と、デジタル時代に使用される使用商標の具体的表現の完全な一致を求めることは商標権者サイドにとって極めて酷であり、むしろ図形部分について、両商標の具体的表現に差異が生じるのは、自然なことである。
(6)また、メリー社が使用商標を使用した「ガラス製の手鏡」は、取消請求商品中の第20類「ガラス製の手鏡」の範疇に含まれる商品である。
(7)以上のように、メリー社は、本件商標と社会通念上、同一と認められる使用商標を、取消請求商品中の第20類「ガラス製の手鏡」の範疇に含まれる商品に使用しているから、本件商標の登録は取り消されるものではない。
(8)また、メリー社は、昭和44年の設立当初より、40年以上にわたって、使用商標をガラス製の手鏡等の各種鏡に使用しているから、ガラス製の手鏡などの「鏡」の分野において、使用商標の「KABUKI」ブランドは、使用権者のブランドとして取引者や需要者の間では、全国に浸透している。
したがって、例えば、使用商標と本件商標とが社会通念上同一ではない等の理由により、本件商標が不使用であるとして、本件商標を取り消した場合には、「手鏡」等の商品について「KABUKI」のブランドが乱立することとなり、かえって取引者や需要者に出所の混同という不都合を招来するおそれがある。
3 まとめ
以上のように、本件商標の通常使用権者であるメリー社は、本件商標と社会通念上、同一と認められる使用商標を、要証期間内において、取消請求商品中の第20類「ガラス製の手鏡」の範疇に含まれる商品に使用している。
したがって、本件商標の登録は取り消されるものではない。
第4 当審の判断
被請求人は、要証期間内に、通常使用権者のメリー社が、取消請求商品中の第20類「ガラス製の手鏡」について本件商標を使用している旨主張するので、以下検討する。
1 被請求人の提出に係る証拠について
(1)乙第1号証の3は、メリー社の履歴事項全部証明書であって、昭和49年7月22日住居表示実地により、本店住所が大阪市平野区加美西二丁目5番4号となり、昭和61年1月25日に現在の商号に変更し、「鏡の製造販売」、「室内装飾品の製造販売」等を目的とし、坂雅晴氏が代表取締役となっている。
(2)乙第4号証は、被請求人の履歴事項全部証明書であって、「ヘヤーブラシ、歯ブラシ、服ブラシの製造及び販売並びに輸出入」、「家庭用プラスチック製品、鏡の製造及び販売並びに輸出入」等を目的とし、坂雅晴氏が代表取締役となっている。
(3)乙第2号証は、メリー社の前身である坂寛商店の創業当時のカタログということであるところ、本件商標は見当たらず、作成(印刷)ないし頒布時期などは不明である。
(4)乙第3号証は、要証期間経過後である2016年6月20日に打ち出したメリー社のホームページであるところ、本件商標は見当たらない。
(5)乙第5号証は、別掲2のとおり、メリー社の社章の写真とするものであり、全体が縦長四角形の社章であって、その表面には、隈取り風に左右対称に口、鼻及び目がつり上がったように上に伸びる線を有し、該上方に伸びた線の間に「KABUKI」及び「MIRROR」の欧文字を二段に表示している(以下「使用商標1」という。)。
そして、社章の写真については、撮影日などは不明であり、また、取消請求商品との関係も不明である。
(6)乙第6号証は、別掲3のとおり、鏡の包装用の箱の写真であるというところ、縦長の緑色四角形内に隈取り風に左右対称に目、鼻及び口がつり上がったように上に伸びる線を有し、該上方に伸びた線の間に「KABUKI」及び「MIRROR」の欧文字を二段に表し、緑色四角形内の上部に「Unique and Gorgeous」の欧文字及び該下部に「KABUKI(マルR)」の欧文字を緑色で表示している(以下「使用商標2」という。)。
また、該包装箱の側面に「MERRY CO.,LTD.」、「2-5-4 KAMI-NISHI HIRANOKU OSAKA」の表示があって、メリー社の住所と一致している。
しかしながら、この包装用の箱を使用した時期は不明である。
2 以上の事実を総合すれば,以下のとおり判断することができる。
(1)使用者について
上記1(1)及び(2)によれば,本件商標権者とメリー社の代表取締役は同一人であるから、使用許諾を示す契約書等の提出はないとしても、本件商標権者は,メリー社に対して,本件商標の使用について,黙示の許諾を与えていたものと認められる。
したがって,メリー社は,本件商標の通常使用権者であると認めることができる。
(2)本件商標と使用商標1及び2との比較
本件商標は、別掲1のとおり、左右対称とはいえない眉、黒目を有する目、ほうれい線、鼻孔を想起させる二つの黒い点及び口を表した隈取り風の図形とその下に「歌舞伎」の漢字を縦書きし、その右横に「カブキ」と表示してなるものである。
他方、使用商標1は、別掲2のとおり、隈取り風に左右対称に目、鼻及び口がつり上がったように上に伸びる線を有し、該上方に伸びた線の間に「KABUKI」及び「MIRROR」の欧文字を二段に表し、使用商標2は、別掲3のとおり、縦長の緑色四角形内に使用商標1の図形とほぼ同一の隈取り風図形と「KABUKI」及び「MIRROR」の欧文字を二段に表し、緑色四角形内の上部に「Unique and Gorgeous」の欧文字及び該下部に「KABUKI」の欧文字を緑色で表示してなるものである。
そこで、本件商標と使用商標1及び2を比較すると、両者の図形部分は、眉及び黒目の有無、左右対称の有無等、隈取り風の表し方が明確に相違し、また、本件商標の文字部分においても、本件商標は、漢字「歌舞伎」と片仮名「カブキ」であって、使用商標1は、「KABUKI」及び「MIRROR」の欧文字を二段に表し、使用商標2は、「KABUKI」及び「MIRROR」の欧文字を二段に表した文字と図形の上下に「Unique and Gorgeous」及び「KABUKI」の緑色の欧文字を配した構成からなるものである。
そうすると、本件商標と使用商標1及び2とは、その構成において「カブキ」の称呼及び「歌舞伎」の観念が生じるとしても、図形同士の構成は明らかに異なり、受ける印象も異なるものである。
したがって、本件商標と使用商標1及び2とは、外観において同視される図形からなる商標ではなく、社会通念上同一の商標と認めることはできない。
(3)使用商品及び使用時期について
乙第5号証の社章は、会社・結社の記章であって、取消請求商品には含まれないものであり、乙第6号証の包装用の箱は、鏡の包装用の箱と認められるものの、いずれも使用時期が明らかでない。
(4)小括
以上を総合すると、被請求人の提出に係る証拠によっては、本件商標が取消請求商品中の「ガラス製の手鏡」について使用されているとは認めることができない。
その他、本件商標が、通常使用権者によって、取消請求商品について、商標法第2条第3項に規定する標章の使用をされた事実を示す証拠はない。
3 むすび
以上のとおり、被請求人は、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、商標権者、通常使用権者又は専用使用権者のいずれかが、取消請求商品のいずれかについて、本件商標の使用をしていることを証明したということができない。
また、被請求人は、取消請求商品について、本件商標を使用していないことについて正当な理由があることも明らかにしていない。
したがって、本件商標の登録は、その指定商品中の「結論掲記の指定商品」について、商標法第50条の規定により、取り消すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 【別記】



審理終結日 2017-03-15 
結審通知日 2017-03-24 
審決日 2017-03-15 
出願番号 商願昭31-26320 
審決分類 T 1 32・ 1- Z (X202134)
最終処分 成立  
特許庁審判長 酒井 福造
特許庁審判官 中束 としえ
平澤 芳行
登録日 1957-05-25 
登録番号 商標登録第502542号(T502542) 
商標の称呼 カブキ 
代理人 小川 雅也 
代理人 森本 聡 

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