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審決分類 審判 判定 その他 属さない(申立て成立) X29
管理番号 1313280 
判定請求番号 判定2015-600010 
総通号数 197 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標判定公報 
発行日 2016-05-27 
種別 判定 
2015-03-12 
確定日 2016-04-07 
事件の表示 上記当事者間の登録第1588021号商標の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 商品「秋田県産の大根の燻製の漬物」に使用するイ号標章は、登録第1588021号商標の商標権の効力の範囲に属しない。
理由 第1 本件商標
本件登録第1588021号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、昭和53年9月1日に登録出願、第32類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、同58年5月26日に設定登録、その後、平成16年7月28日に指定商品を第29類「食肉のつけ物,魚介類のつけ物,海そう類のつけ物,野菜・果物のつけ物」とする指定商品の書換登録がされ、現に有効に存続しているものである。

第2 イ号標章
請求人が判定を請求するイ号標章は、商品「秋田県産の大根の燻製の漬物」に使用する標章であって、「いぶりがっこ」の平仮名を横書きしてなるものである。
なお、請求人は、「いぶりがっこ」の文字の態様については、別掲2のとおり、判定請求書における他の文字と同じ書体で記載するのみであるので、本判定においては、イ号標章が同書体で表されたものとして判断することとする。

第3 請求人の主張
請求人は、結論同旨の判定を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第10号証を提出した。
なお、請求人は、後記第4の証拠調べ通知に対し何ら意見を述べていない。
1 判定請求の必要性
「いぶりがっこ」は、秋田県産の大根の燻製の漬物として一般に知られており、被請求人は、被請求人の商品(甲第1号証)に、需要者に誤解を与えるような登録商標の表示を行っているため、請求人は平成26年9月9日付けで、被請求人に対し通知書(甲第2号証)を送り、訂正を促したところ、被請求人から同年9月19日付けで、適正な表示に改める旨の回答書(甲第3号証)が送られてきた。
これに基づき、請求人は、平成26年9月30日付けで再通知書(甲第4号証)を送付し、具体的な回答を求める旨の通知を行ったところ、被請求人から同年10月11日付けで、回答延期の旨の回答書(甲第5号証)が送られてきた。
さらに、請求人は、平成26年12月20日付けで再々通知書(甲第6号証)を送付し、回答を促したところ、被請求人から同27年1月6日付けで、「いぶりがっこ」は普通名称ではなく、請求人の行為が被請求人の商標権を侵害する旨の回答書(甲第7号証)が送られてきた。
このような被請求人の前言を翻すような行為は、いたずらに業界に混乱を生じさせるものである。
したがって、請求人は、本件商標の商標権の効力の範囲の確認のために、本件判定を求めるものである。
2 イ号標章について
秋田県内では、昭和53年以前より「いぶりづけ」として大根の燻製の漬物を製造・販売しており、秋田県民は漬物のことを「ガッコ」と称していることから、特に大根の燻製の漬物の普通名称又は慣用名称として「いぶりがっこ」を使用し(甲第10号証)、現在に至っている。
3 イ号標章が本件商標の商標権の効力の範囲に属しないことについて
本件商標は、平仮名特殊文字で左上から右下へ斜めに「いぶり」、さらに前記文字より小さい平仮名特殊文字で左上から右下へ斜めに「がっこ」の文字を2段で表記したものであるから、これより「イブリ」又は「ガッコ」の称呼を生じ、「特殊文字で表わされた図形」の外観を生じ、「燻製」又は「漬物」の観念を生じるものである。
他方、イ号標章は、平仮名の「いぶりがっこ」の文字からなり、「イブリガッコ」の称呼及び「秋田県産の大根の燻製の漬物」の観念を生じるものである。
以上のとおり、本件商標は、「イブリ」又は「ガッコ」の称呼、「燻製」又は「漬物」の観念には特徴がなく、特徴とするところは「特殊文字で表わされた図形」の図形商標であって、両者は外観のみで類否を判断すべきである。
したがって、イ号標章は、本件商標とは類似しないものであり、また、その対象とする使用商品も相違するため、イ号標章は、本件商標の商標権の効力の範囲に属しないものである。

第4 被請求人の主張
1 被請求人の答弁
(1)イ号商標について
ア 請求人は、イ号標章の使用商品を「秋田県産の大根の燻製の漬物」とし、昭和53年以前から使用を開始し、現在も使用中としているが、請求人が昭和53年以前から使用しているという証拠はなく、そのような事実はない。
請求人は、平成26年9月24日に法人成立した協同組合であり(乙第1号証)、法人成立したばかりの請求人が昭和53年以前から「いぶりがっこ」を使用していたという主張には信憑性がなく、虚偽といわざるを得ない。
イ 請求人は、甲第10号証(雑誌「オレンジページ」の要部コピー:以下「雑誌コピー」という。)のみをもって、秋田県内では、昭和53年以前より「いぶりづけ」として大根の燻製の漬物を製造・販売しており、秋田県民は漬物のことを「ガッコ」と称していることから、特に大根の燻製の漬物の普通名称又は慣用名称として「いぶりがっこ」を使用してきており、と主張しているが、何ら証拠もない。
上記雑誌コピーは、1996年(平成8年)6月3日の発行に係るものであり、112頁の各種漬物の写真によると、左上のたくあん漬は「いぶりたくあん」であり、商品名を「いぶりづけ」あるいは「いぶりがっこ」として販売されていた事実がないことは明らかである。
また、雑誌コピーの文中には、「いぶりがっこ」の説明があるが、目次の左下に、「掲載データは、1996年4月現在のものです。」との説明のとおり、この当時、「いぶりがっこ」を知り得た担当者が記載したものであると思われる。
そして、雑誌コピーに掲載されている味噌・醤油・漬物の製造の老舗である創業嘉永六年の「安藤醸造」の保存版の「商品カタログ」によれば、「秋大根を縄で吊し、堅木を焚いていぶし(燻製)、米糠で漬け込んだ秋田の代表的な漬物です。」として「いぶりたくあん」が掲載されている(乙第91号証)。
この事実により、雑誌コピーは、請求人が昭和53年以前からイ号標章を使用していたという証拠にはならず、老舗の漬物会社においても「いぶりがっこ」は使用されていないことが明らかである。
被請求人は、昭和40年代初めに、大根の燻製の漬物を自社で生産開始し、その商品に「いぶりがっこ」の商標を付けて、昭和42年11月から販売開始しており、その後、本件商標を取得して、今日まで継続して「いぶりがっこ」を商標として使用している。
それゆえ、平成8年頃には、「いぶりがっこ」といえば、被請求人が大根の燻製の漬物に使用する商標として、取引者、需要者に広く知られていたのであり、「いぶりがっこ」は自他商品の識別性を有している商標である。
したがって、イ号標章のように普通に用いられる文字をもって書した「いぶりがっこ」であっても、「大根の燻製の漬物」について使用するときは、自他商品の識別性を有するれっきとした商標であり、商品の普通名称ではない。
(2) 本件商標及びそれに類似する被請求人の使用商標について
ア 被請求人の前身は、昭和38年4月に「雄勝特産加工所」として創業し、秋田県雄勝野地方の豊富な山菜の粕漬けなどの漬物類を製造販売していた個人商店であった。雄勝野地方は、保存食として大根を囲炉裏の熱と煙を利用して干しあげて漬け込む「囲炉裏干しの大根漬」といわれる漬物が古くから伝わっており、家々の味をもつ漬物が作られていた。この当時は、この漬物に特段の名前はなく、土地の人々が「でごづけ(大根漬け)」といえばこの囲炉裏干し大根漬けのことであった。
漬物屋を営んでいた被請求人の先代は、この大根漬けの商品化を試み、囲炉裏干しの沢庵漬と同様の風味をした「焚き木干したくあん」(薫煙した沢庵漬と同じもの、「焚き木干したくあん」は被請求人の商品名である。以下、「焚き木干したくあん」という。)が出来上がったので、昭和42年11月から販売を開始し、自己の商品であることを表わすために商標を付けることを考え、「いぶりがっこ」の商標を使用することにした。
以来、「いぶりがっこ」の商標を使用した「焚き木干したくあん」を自社を代表する商品にすべく、長年製造販売に力をいれてきた(乙第2号証及び乙第3号証)。
しかしながら、昭和42年?43年当時は、「いぶりがっこ」といっても、どのような商品か周囲にはわかってもらえなかったので、一般に使用されていた「いぶり漬け」と同様の商品である旨説明して、「いぶり漬け」の商品名も「いぶりがっこ」の商標と併せて使用していた。
イ 本件商標は、その当時、商品包装に使用していた「いぶりがっこ」の文字と同一の文字を昭和53年9月1日に登録出願し、昭和58年5月26日に商標登録を得たものである(乙第5号証)。
被請求人は、本件商標を得たのちは、「いぶりがっこ」を「焚き木干したくあん」の商標として周知させるべく努力した。
被請求人にとって、本件商標は最初に登録を得た商標であることから愛着をもっており、その書体の雰囲気を壊すことなく、商品の種類や需要惹起のために、色彩や書体の変更を行って使用しているが、各種商品や時代のニーズに合わせて、使用商標の書体や包装のデザインが少しづつ変化するのは商標戦略として当然のことである(乙第6号証ないし乙第9号証)。
被請求人は、本件商標の他に、第29類「薫煙した沢庵漬」を指定商品として登録第5203672号商標を(乙第10号証)、また、第35類「秋田産漬物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」について登録第5702681号商標を(乙第11号証)、さらに、第29類「薫煙した沢庵漬」について、縦書き一連の平仮名文字の書体からなる「いぶりがっこ」については、現在出願中である。
すなわち、被請求人は本件商標の登録に力を得て、本格的に「いぶりがっこ」の商標の使用を開始して、「焚き木干したくあん」を秋田県を代表する漬物として営業に努力を重ねてきたので、当然に、「いぶりがっこ」の商標も広く知られるようになったのである。
よって、被請求人が使用している「いぶりがっこ」の商標は、全て本件商標と類似する商標であり、本件商標の類似の範囲は広いと認識される。
ウ 「いぶりがっこ」は、県南地方で使用されていた秋田弁からヒントを得たものであり、被請求人の先代が山菜の粕漬けの製造販売を始めて、当初は、燻した大根(でこ漬け)を粕漬けにした「いぶり漬け」を販売していたところから、「燻した香りの漬物っこ」を可愛らしく親しみやすいようにと思い、「いぶりがっこ」と命名したものである。
エ 2008年(平成20年)1月11日発行の「広辞苑第六版」には、「がっこ」は、「(東北地方で)漬け物」を表わすと記載されているが(乙第12号証)、1998年(平成10年)11月11日発行の「広辞苑第五版」(乙第13号証)、1991年(平成3年)11月5日発行の「第四版」(乙第14号証)には掲載されてない。当然、昭和42年(1967年)12月1日発行の第一版第二十六刷(乙第15号証)にも「がっこ」の意味は掲載されていない。
このことは、時代を反映する言葉をいち早く掲載する広辞苑でさえ、平成20年1月11日発行において、初めて掲載されたことになり、それ以前に広く知られていたということはできない。
また、インターネット上のフリー百科事典『ウィキペデァ(Wikipedia)』には、「『いぶりがっこ』とは、秋田県湯沢市雄勝地区(旧雄勝郡雄勝町)の漬物屋(雄勝野きむらや)が売り出したいぶり漬けの商標である。』と説明されている(乙第16号証)。しかし、「秋田の方言(秋田弁)で漬物のことを『がっこ』と呼んでいたことが、『いぶりがっこ』の名付けの由来とされる。」との説明は、上記のとおり、後に知られるようになったことからきており、「いぶりがっこ」が漬物を意味するとの説明は全くなく、「いぶりがっこ」は被請求人の商標として周知されているのは間違いない。
以上のとおり、「いぶりがっこ」は、被請求人が製造販売する「焚き木干したくあん」について、昭和42年11月から使用を開始した「造語」であり、被請求人が、本件商標と極く近い書体の商標及び書体は少し異なるものの今日まで継続して使用している商標である。
オ 被請求人の商品「焚き木干したくあん」について使用する「いぶりがっこ」の商標が広く知られるようになったきっかけは、昭和59年(1984年)から東京を始めとする関東から東北地方に、「秋田県物産展」、「秋田の観光と物産展」などの開催が始まり、被請求人が、宣伝販売に務めたことからである。
最初の秋田県物産展は、昭和59年1月20日から25日まで、東京渋谷の東急東横デパートで開催されたもので、同時に開催された「秋田県雄勝町ふるさと祭り」のイベントに参加して大いに宣伝販売を行った(乙第17号証)。その後も、昭和59年から平成15年まで東京、千葉、埼玉、仙台などのデパートなどで毎年頻繁に開催された「秋田県物産展」及び他の催事に参加して「いぶりがっこ」の宣伝販売を継続し(乙第18号証ないし乙第28号証)、これらの宣伝販売は延べ日数で597日にも及んだ(乙第29号証)。
秋田県物産展には、同業他社も同様の商品を宣伝販売していたが、それらは全て、「いぶり漬」、「いぶり大根」、「いぶりたくあん」などの商品名で販売されていたので、「いぶりがっこ」は被請求人の商品にのみ使用されており、他社商品に「いぶりがっこ」が使用されていた事実はなかった(乙第30号証ないし乙第41号証)。
カ 被請求人の「いぶりがっこ」は、「漬物」を特集した雑誌や新聞に、秋田県を代表する「漬物」の一つとして注目され、多くの記事が掲載されるようになった(乙第42号証ないし乙第67号証)。
例えば、昭和53年4月10日発行の弘済出版社の最新旅行案内書「美しい日本・東北」に、広告が掲載されており、本件商標の登録出願以前から「いぶりがっこ」を使用していた(乙第43号証)。
さらに、TV、新聞、雑誌などのメディアからの取材も多く、被請求人の商品ブランドとして「いぶりがっこ」の情報発信に努力してきた(乙第68号証及び乙第69号証)。
その結果、販売開始から半世紀に入ろうとする今日に至るまで、生産量、販売実績も順調に推移しており、平成25年度の実績で約98万袋を出荷したので(乙第70号証)、年間売上も相当な金額になっている。
2013年(平成25年)からは、秋田テレビによるコマーシャルも行っており、「いぶりがっこ」の周知性はより高まったものと確信している(乙第71号証ないし乙第89号証)。
また、秋田県漬物協同組合の公式ホームページには、秋田の代表的な漬物は「秋田いぶり漬け/akitaiburizuke」と紹介されており、「『秋田いぶり漬け』(いぶりがっこ)』の「いぶりがっこ」には登録商標の表示が付されており、「*『いぶりがっこ』は、雄勝野きむらやの登録商標です。(登録商標 いぶりがっこ第1588021号)」が明記されており(乙第90号証)、秋田県漬物協同組合は、漬物業界の取引の秩序を維持することにより、商品の出所の混同を防止し、取引者、需要者を保護するために「いぶりがっこ」は登録商標である旨記載して注意を喚起しているのである。
キ 以上のとおり、「いぶりがっこ」は、被請求人が生産販売する商品である「焚き木干したくあん」の商標として長年に亘り使用を継続していた結果、平成元年頃には取引者、需要者の間には広く知られるものとなっていた。平成に入った後も、被請求人は「いぶりがっこ」の宣伝販売に弛まぬ努力を継続してきた結果、やがて半世紀になろうとしている今日、「いぶりがっこ」の周知性は一層高まっていると確信している。
ところが、「いぶりがっこ」の知名度に只乗りするかの如く、それまで、「いぶり漬」、「いぶり大根」、「いぶり沢庵」などと表示して販売していた同業他社が被請求人に無断で「いぶりがっこ」を使用するようになってきた。被請求人は、そのような生産者・販売者に電話あるいは書面で、商標登録を有していることを知らせてきたが、被請求人の通知が無視され、無断使用が目に余るようになり、それにより、消費者が戸惑いを生じることが懸念されるようになった。
すなわち、商標登録の保護は、商標を使用した商品は、一定の出所から出ていること及び一定の商品の品質を担保することによって、需要者の商品に対する信頼を得ることにより、商標に化体した商標権者の信用を保持するためのものであり、品質が異なる「いぶりがっこ」と称した「たくあん漬け」が出回ることになり、これまで一定の品質を維持し、かつ、品質に自信をもって商品を提供している被請求人にとって、憂慮する事態となっている。
被請求人は、「いぶりがっこ」の使用許諾を申し入れている業者や企業とは、正式に使用許諾契約を行っている。
「いぶりがっこ」を無断使用している同業他社は、「大根の燻製の漬物」の普通名称であると主張し、自由に使用できることを既成事実化することを企んでいるのであり、被請求人が昭和42年11月からという50年近くに亘って生産販売に努力し、自社の商品ブランドとして使用を継続している事実が無視され、かつ、被請求人の商標権を尊重することのない行為は、到底看過することができない状況である。
(3)請求人主張の「判定の必要性」について
上記のとおり、被請求人が長年、鋭意努力して取引者、需要者の間に広く認識せしめた「いぶりがっこ」の商標について、「大根の燻製の漬物」の普通名称であると強引に主張して既成事実化しようとする業者が請求人である。
被請求人は、請求人が平成26年9月24日に法人成立する以前から、現在組合員となっている数社に対して、被請求人が本件商標その他の登録商標を有していることを通知していた。
それ故、請求人との関係は、被請求人の商標権が尊重されることが大前提であると考えていたが、そのような態度は微塵もみられないことがはっきりとしたため、被請求人は、商標の保護と管理に力を入れることにしたのであり、商標権者として当然のことである。
そうとすれば、請求人の主張は、判定の必要性についての主張としては全く理由がないこと明らかである。
(4)本件商標とイ号標章の類否について
本件商標は、やや特殊な書体であるが、「いぶりがっこ」とのみ認識され、「いぶりがっこ」の称呼が生じるものであり、イ号標章は、横書き一連の普通に用いられる平仮名で「いぶりがっこ」と書してなるもので、これより「いぶりがっこ」の称呼が生じるから、本件商標とイ号標章は、称呼を共通にするものである。
また、観念についてみると、「いぶりがっこ」は、秋田県に古来より伝わっている「大根の燻製の漬物」について使用する商標として、被請求人が選択した造語であり、本件商標とイ号標章は、観念を共通にするものである。
さらに、外観についてみると、請求人は、本件商標を「特殊文字で表された図形」と主張しているが、本件商標は、竹製の筆先で書したようなやや特殊な書体となっているが、「いぶりがっこ」とのみ認識できるものであり、本件商標と普通に用いられる文字をもって書したイ号標章とは書体においては相違している。
そして、商品についてみると、イ号標章を使用していると主張する「秋田県産の大根の燻製の漬物」は、本件商標の指定商品中の「野菜のつけ物」に包含されるので、商品においても類似するものである。
したがって、本件商標とイ号標章とは、称呼及び観念において相紛れるおそれのある類似する商標であり、かつ、イ号標章を使用する商品は、本件商標の指定商品に含まれるものである。
(5)結論
以上のとおりであるから、商品「秋田県産の大根の燻製」に使用するイ号標章は、本件商標の商標権の効力の範囲に属するものである。
2 証拠調べ通知に対する意見
(1)「辞書類の記載」について
ア 「いぶり(燻り)」の意味について及び「がっこ」の意味について記載されているが、全国方言辞典では、「いぶりがっこ」で始まる言葉について、「検索結果は見つかりませんでした。」となっている(第1号証)。
また、「がっこ(秋田の方言)香の物。漬け物。」の記載については、今では古くから秋田県の方言とされていたかのような状況であるが、秋田県は、縦に長く、北から「県北」、「県中央」及び「県南」と3つに大別され、被請求人の雄勝野地方(現在の湯沢市)は、雪深い県南にあり、交通手段も発達していなかった時代には、たとえ県北で漬け物のことを「がっこ」と称していたとしても、知ることはできず、古くは、雄勝野地方では、大根の漬け物のことは「でごづけ」といっていた。
いつの頃からか、「がっこ」は漬け物を意味することが秋田県一円で古くから言いならわされてきたかのような現在の記載となっているが、決してそのようなものではなかった。
しかし、「がっこ」が漬け物を意味するとしても、「いぶりがっこ」は秋田県の方言ではないことは明らかである。
イ 「日本の食べ物用語辞典」に記載されている「いぶりがっことは・・・」について、囲炉裏干しの大根漬けが作られていたのは、薪ストーブが普及する前の昭和30年代までであり、囲炉裏がなくなったことから、囲炉裏干し大根も作られなくなった。そのような歴史のなかで、被請求人の先代が囲炉裏干し大根と同じ味と風味を持つ大根漬けの商品化を試みたのであり、それは当時から大根の「いぶり漬け」、「いぶり漬け大根」などといわれていた。「日本の食べ物用語辞典」の記載は、今でも囲炉裏干しが行われているかのような内容であるが、囲炉裏干しは昭和30年代までのことで、「いぶりがっこ」は、被請求人が、昭和40年代に入り、燻煙乾燥小屋を作って商品化に成功した大根の「いぶり漬け」(被請求人の商品名は「焚き木干したくあん」)に命名した商標である。
(2)書籍における「いぶりがっこ」の記載について
ア 「47都道府県・伝統食百科」は、平成23年2月25日発行の書籍であり、漬け物類は「がっこ」といわれていることはともかく、「いぶりがっこ」は、「いぶり漬け」と記載されるべきものである。被請求人は「いぶりがっこ」の普及に鋭意努力した結果、秋田の代表的な漬け物として知られるようになったものであるが、著名な出版社にあっても、由来を調べることなく掲載されているのであり、「いぶりがっこ」は、「いぶり漬け」あるいは「いぶり大根」の商標であることを一顧だにされていないのが現状であり不本意である。
イ 「食の民俗事典」に掲載されている内容について、秋田県内の他の地方で「いぶり大根」が作られていることを否定するものではない。しかし、この記事が何年に記載されたのか不明であるが、秋田県仙北市は、県中央にあり、当然、被請求人の「いぶりがっこ」を知り得る状態にあり、勝手に使用されたものと考えられる。すなわち、それは、「いぶりがっこ」ではなく、「いぶり漬け」あるいは「いぶり大根」と呼ばれているもので、ここでも「いぶりがっこ」の由来を検証することなく安易に掲載されているものである。
(3)「新聞の記事情報」について
ア 1986年1月3日付けの日本経済新聞朝刊は入手することはできなかったが、同じく1986年(昭和61年)11月26日付けの「秋田さきがけ新聞」には、「いぶり漬け」「独特な風味で人気上昇中」の記事があり(第3号証の1及び2)、ここでは正確に「いぶり漬け」として、作りかた、当時の県内のメーカーのこと、5?6月に出荷する分が最もおいしいとされていることなどが記載されたうえで、「『いぶりがっこ』を登録商標として持ち、年間生産量七十五トンと最も多い雄勝特産(雄勝町)では、」として、「いぶりがっこ」は被請求人の登録商標であることが記載されている。
また、同新聞朝刊に記載されている「地酒の店」については、湯沢市内の店を指すのではないかと考えるところ(第4号証)、「湯沢の漬物」について、「湯沢の漬物いろいろ」として、「いぶり大根」「薪の煙でじっくりいぶされた大根を独自の製法で漬け込んだ秋田を代表する漬物」と記載されており、「湯沢の漬物専門店」として被請求人が紹介され、「昭和38年創業。自然豊かな環境の中、いぶり大根などを中心に地元に伝わる各種漬物を、素材本来の風味を大事に無添加にこだわって造り続ける。特に収穫から製品まで手間をかけてつくる『いぶりがっこ』は、店を代表する人気商品。」と紹介された記事がある(第5号証)。
上記新聞朝刊の1986年(昭和61年)頃は、「いぶりがっこ」といえば被請求人の商品だけであることは知られていたので、新聞記事にあるような地酒のお店にも販売しており、お店で地酒のおつまみとして好評を得ていたことになる。
イ 1990年11月1日付けの東京読売新聞夕刊3頁の記事について、平成2年の秋田県南地方は、被請求人の雄勝野地方を指しており、この頃の「いぶりがっこ作り始まる」といえば、被請求人の「いぶりがっこ」造りのことを指しているのであり、それに相違ない。第3号証のように、秋田県の新聞記事は、「いぶり漬け」と記載し、被請求人の登録商標であると記載しているが、東京の新聞は取材に当たり、「いぶりがっこ」の由来を調べることなく記事にしているとしか考えられない。被請求人は、新聞・雑誌などから取材を受けたときは、「いぶりがっこ」の由来や商標登録を得ていることをきちんと伝えている。
ウ 2004年11月11日付けの東京読売新聞朝刊35頁の記事について、秋田県山内村での「いぶり漬け」の生産は、ほとんどが農家であり地域の産直にて販売するような小規模なものであるという事情から、直接の通告などは控えていたが、「いぶりがっこ」として販売されると、このネット社会にあってはあっという間に知られるようになってしまうことから、新聞記事においては、「いぶりがっこ」命名の由来と登録商標であることを調べて記事にすべきであり、当該記事においては、山内地方の大根の燻製については、「いぶり漬け」と表示すべきものである。
エ 2009年2月24日付けの東京読売新聞朝刊35頁の記事について、被請求人代表者は、横手・山内地区産の統一レシピに「いぶりがっこ」と「金樽」が使用された「いぶり漬け」が成城石井において販売されていたことを知り、さらに、陳列棚に付されたホップの紹介文に「秋田県横手市山内は、いぶりがっこ発祥の地」との記載を確認したため、成城石井に対して、「いぶりがっこ」は被請求人の登録商標である旨を知らせるとともに、発祥の地に関する具体的な根拠について問い合わせを行っている。
その後、成城石井より連絡を受けた秋田県横手市山内地区産業建設課の担当者および「山内いぶりがっこ生産者の会」の代表者が来社し回答がなされ、その内容は、「いぶりがっこ」の標記については登録商標であることを知らずに使用したことで謝罪をうけ、「発祥の地」については山内地区の住民がそのように主張していたので、具体的根拠を確認することなく、そのまま発信するに至ったとの説明を受けた。
被請求人は、登録商標「いぶりがっこ」を尊重していただきたい旨を申し入れるとともに、具体的な根拠を確認することなく発祥の地であることを宣伝として大々的に広告して発信することは、商標権侵害に留まらず、山内地区以外の生産者の商品価値を下げることにもつながり、看過することはできない旨を強く申し入れた。これに対して、前記産業建設課より「発祥の地」という表現の使用をやめること、及び「いぶりがっこ」の名称の使用について山内地域への指導を行うとの回答が口頭でなされた(第6号証の1?2)。
オ 2013年12月7日付けの朝日新聞朝刊28頁の記事について、「クリスマスフェスタ2013年に、バター飴やいぶりがっこなど特産品が並ぶ産直市や地酒販売のほか、」の記事においても、被請求人の商品以外は「いぶり漬け」と記載されるべきであり、「いぶりがっこ」の由来を検証することなく記事にされているといわざるを得ない。
カ 2014年9月7日付けの東京読売新聞朝刊31頁を入手して確認することは出来ないが、イベントで供される各種漬物について、「いぶりがっこ」は、被請求人の商品以外は、「いぶり漬け」若しくは「いぶり大根」として記載されるべきであるが、このような記事のみではどのような状況の下に書かれたのかを確認することはできない。
被請求人の「いぶりがっこ」を紹介した2014年1月25日の秋田県「小安峡温泉」の<温泉食紀行>の記事を提出する(第7号証)。
宿の若女将は「このあたりで収穫した秋大根は、きむらやさんにも卸しています。」とのこと、そして、「きむらやというのはいぶりがっこ製造の老舗、雄勝野きむらやのこと。」と紹介されているので、登録商標の表示は記載されていないものの、「いぶりがっこ」は被請求人の製造販売に係る「いぶり漬け」として知られていることは明らかである。
キ 2014年11月26日付けの朝日新聞朝刊25頁の記事について、横手山内地区で、「いぶり漬け」が作られているのは承知しているが、山内地区では「いぶりがっこ」の使用はしないよう指導されているはずで、このような記事は、「いぶりがっこ」の由来などを知らずに新聞記者によって書かれたものであると理解せざるを得ない。
ク 2015年3月5日付けの朝日新聞朝刊23頁の菓子大手のカルビーが『ポテトチップス 秋田いぶりがっこ味』を販売した事実に関して、その情報は直ちに被請求人に入ったため、新聞記事の翌日の平成27年3月6日には、カルビー株式会社法務部宛書面をFAXにて送っている。
カルビーの商品は販売されたが、一度だけの販売に終わったこともあり、「いぶりがっこ」は、被請求人が半世紀近い年月をかけて成長させ今日に至っていること、秋田県を代表する漬物の一つとして注目を寄せられていることに理解を求め、収束することができた(第8号証の1?2)。
(4)同業他社等による「いぶりがっこ」の文字の使用状況について
ア 「桜食品農事組合法人」及び「有限会社奥州食品」は、いずれも、「秋田県漬物協同組合」(乙第90号証)の組合員であったが、脱退して、請求人に加入しているものである。
両者は、被請求人の登録商標「いぶりがっこ」及び「いぶりがっこ」誕生の由来を無視して、ウェブサイト上に掲載を続けているものである。
イ 「こまち食品工業株式会社」の商品には、被請求人の登録商標であることが記載されている。
ウ 「三又旬菜グループ」のウェブサイトについては、「・・・また、昔から冬場の保存食として『いぶりがっこ』づくりが盛んで、・・・」の記事は明らかに間違いである。「いぶりがっこ」は、無断で使用されているもので、「いぶり漬け」又は「いぶり大根」と記載されるべきものである。
エ 「秋田大学」のウェブサイトについては、被請求人の登録商標であることを伝えており(第6号証)、したがって、現在では、「いぶりばでぃ」を使用していると思われる。
オ 「楽天」のウェブサイトの「いぶりがっこ」は山内村(現横手市)が発祥の地であるといわれているということには、何の根拠もなく、このようなウェブサイトの記事は、一度掲載されてしまうと削除されないまま真実かのように認識されてしまうため、被請求人としては不本意な状況が続いている。その他、被請求人の商品を含め、多数の「いぶりがっこ」の表示がされた商品の写真が掲載されているとしているが、証拠調べ通知書で記載されている「いぶり大綱漬け」の有限会社大綱食品とは使用許諾契約を締結している。
(5)まとめ
以上のとおり、たとえ、ウェブサイトに多くの「いぶりがっこ」が掲載されていても、被請求人の登録商標であることには変わりなく、正式に使用許諾している業者に対する責任及び取引者・需要者に対する出所混同防止の立場から、引続き、商標管理を徹底していく所存である。
被請求人代表者は、「陳述書」(第6号証の1)で述べているように、他社の使用事実に対しては、その都度、適切に対応しており、「いぶり漬け」等の特産品市場の活性化を図ると共に、「いぶりがっこ」ブランドの価値を高め、維持するために、努力しているものである。
したがって、被請求人は、請求人のように普通名称化を図らんとして無断使用を継続している現状を何としても正常化しなければならないと考えており、それには、「いぶりがっこ」は、大根の「いぶり漬け」(被請求人の商品名「焚き木干したくあん」)について、長年に亘り使用している被請求人の登録商標であることを明確に認定することが必要である。

第5 当審における証拠調べ通知
当審において、イ号標章が、本件商標の効力の範囲に属しないか否か(「いぶりがっこ」の文字の自他商品の識別機能の有無を含む。)について、職権により証拠調べした結果、下記の事実を発見したので、商標法第28条第3項で準用する特許法第71条第3項で準用する同法第150条第5項の規定に基づき通知し、相当の期間を指定して意見を述べる機会を与えた。
1 「いぶりがっこ」の文字について
(1)辞書類の記載について
ア 「いぶり(燻り)」の文字は、大辞泉増補・新装版(株式会社小学館1998年12月1日発行)には、「いぶる【燻る】・・・よく燃えないで煙が出る。くすぶる。」の記載が、大辞林第三版(株式会社三省堂2006年10月27日発行)には、「いぶす【燻す】・・・物を燃やして煙を出す。煙が多く出るように燃やす。」の記載が、岩波国語辞典第3版(株式会社岩波書店1980年7月1日発行)には、「いぶす【燻す】・・・煙がたくさん出るようにもやす。けむたくする。煙で黒くする。」の記載がある。
イ 「がっこ」の文字は、全国方言辞典-goo辞書(http://dictionary.goo.ne.jp/leaf/dialect/328/m0u/ )には、「がっこ(秋田の方言)香の物。漬け物。」の記載がある。
ウ 「いぶりがっこ」の文字は、デジタル大辞泉(https://kotobank.jp/word/%E7%87%BB%E3%82%8A%E3%81%8C%E3%81%A3%E3%81%93-435658)には、「いぶりーがっこ【燻りがっこ】・・・《「がっこ」は秋田弁で漬け物のこと》木を燃やす煙でいぶして乾かした大根を使うたくあん漬け。秋田県の名産。昔は、いろりの上で、棚に並べたり、天井から吊るしたりして作った。」の記載が、日本の食べ物用語辞典には(http://japan-word.com/food/%E3%81%84%E3%81%B6%E3%82%8A%E3%81%8C%E3%81%A3%E3%81%93)には、「いぶりがっことは・・・いぶりがっこは、大根を囲炉裏のある場所に吊るしていぶって燻製にした後、糠漬けにしたもの。秋田の伝統的漬物で、雪の多い地域で冬の保存食として古くから作られ食べられてきた。囲炉裏の煙でいぶって燻製にすることで、保存性も上がり、独特の豊かな風味が加わる。ぽりぽりと噛むとふわりと鼻に抜けていく香ばしい薫香と味わいが特徴の漬物。」の記載がある。
(2)書籍における「いぶりがっこ」の記載
ア 47都道府県・伝統食百科(丸善出版株式会社平成23年2月25日発行)の65頁には、「秋田では漬物類を『がっこ』というが、ダイコンの漬物類『なたわりがっこ』『いぶりがっこ』『柿漬け』『山菜の塩漬け』などは、冬の大切な食品である。」の記載がある。
イ 食の民俗事典(株式会社柊風舎2011年7月12日発行)62頁には、「漬けもの」の見出しの下、「ダイコンの漬けものは、全国各地で多種多様なものが見られ、各地域に独自の漬けものがある。秋田県仙北市角館町白岩では『イブリガッコ』をつくった。11月に囲炉裏を立てるころ一週間ほど干した四ツ小屋(秋田地大根の一種)を梁にのせ、一か月ほど経過するとしなってくる。梁に長く乗せすぎると硬くなってしまうので、12月27日のすす払いの日までには下ろす。下ろした四ツ小屋は、コヌカと塩を混ぜたものに一か月漬けた。」の記載がある。
(3)新聞の記事情報
ア 1986年1月3日付けの日本経済新聞朝刊28頁には、「秋田美人色白長身の秘密-秋田大学教授新野直吉氏(文化)」の見出しの下、「吹雪の秋田にも足を運んでくれた。・・・地酒の店で出た、方言で“いぶりがっこ”という味自慢の燻製タクアンを、ママさんに頼んでわけてもらい・・・」の記載がある。
イ 1990年11月1日付けの東京読売新聞夕刊3頁には、「初冬の香り『いぶりがっこ作り始まる』/秋田県南地方」の見出しの下、「秋田県南地方で『いぶりがっこ(漬け)』作りが始まった。農家の敷地内にあるいぶり小屋で、ダイコンを天井からつるし、二?七日間かけて焦げ茶色になるまで生木でいぶす、いわばダイコンの薫製。昔から香りと歯ざわりの良さで、秋田の味として親しまれ、小屋から流れる煙とこうばしい香りが、初冬の訪れをつげる。」の記載がある。
ウ 2004年11月11日付けの東京読売新聞夕刊19頁には、「いぶしてうまみ 秋田特産『いぶりがっこ』づくりピーク」の見出しの下、「ダイコンを薫製にして漬ける秋田県特産の『いぶりがっこ』づくりがピークを迎えている。特産地の同県山内村では、ダイコンをいぶす専用の小屋から、香ばしいにおいが漂ってくる。いぶりがっこは、雪深くダイコンを外で干せないため、いろり端で干したのが始まりとされる。」の記載がある。
エ 2009年2月24日付けの東京読売新聞朝刊35頁には、「いぶりがっこ全国へ 横手・山内地区産、統一レシピ『金樽』で販売=秋田」の見出しの下、「地元直売所での販売がほとんどだった横手市山内地区特産の『いぶりがっこ』を全国に売り出す動きが加速している。・・・横手市マーケティング推進課は、各生産農家でバラバラだったいぶりがっこの統一レシピを作ろうと、2007年から味や香りを競う『いぶりんピック』を開催。08年には、優勝者のレシピを元に漬けたいぶりがっこを『金樽』のブランドで600本を県内に出荷し、完売。・・・今年の金樽作りには26人の農家が参加し、5000本を生産。このうち3000本は、首都圏を中心に展開している高級スーパー『成城石井』(本社・横浜市)から予約が入り、今月中旬から店頭に並んでいる。」の記載がある。
オ 2013年12月7日付けの朝日新聞朝刊28頁には、「 産直・地酒に歌・踊り・・・秋田・食博&クリスマスフェスタ/秋田県」の見出しの下、「秋田市の秋田拠点センター・アルヴェで21ないし23日、『アルヴェ 食博&クリスマスフェスタ2013』が開かれる。バター餅やいぶりがっこなど特産品が並ぶ産直市や地酒販売のほか、アマチュアバンドのコンサートや高校生のダンスパフォーマンスなどがある。」の記載がある。
カ 2014年9月7日付けの東京読売新聞朝刊31頁には、「全国県人会まつり いぶりがっこ人気=秋田」の見出しの下、「全国各地の郷土の味や芸能などを披露する『ふるさと全国県人会まつり』(全国県人会東海地区連絡協議会、読売新聞社など主催)が6日、名古屋市中区の久屋広場で始まった。38道県人会などが参加し、今回で14回目。会場には94のブースが並び、来場者が各道県人会のブースを回り、自慢の特産品を堪能していた。・・・『東海秋田県人会』のブースでは、米どころ秋田の米を使った日本酒がずらりと並んだほか、郷土の代表的な漬物『いぶりがっこ』や『稲庭うどん』などが人気を集めていた。」の記載がある。
キ 2014年11月26日付けの朝日新聞朝刊25頁には、「薫る味、競う味 横手、『いぶりがっこ』づくりが最盛期 /秋田県」の見出しの下、「横手市山内(さんない)地区で、特産の『いぶりがっこ』づくりが最盛期を迎えている。地区では約100軒の農家が作業に追われ、いぶし小屋からは白い煙が立ち上る。」の記載がある。
ク 2015年3月5日付けの朝日新聞朝刊23頁には、「いぶりがっこチップス カルビー9日発売/秋田県」の見出しの下、「菓子大手のカルビー(東京)は9日から、東北の味企画として『ポテトチップス 秋田いぶりがっこ味』を東北と関東、甲信越地区のスーパーで販売する。同社のいぶりがっこ味の商品は初めて。1袋58グラム入りで、秋田竿燈(かんとう)まつりのイラストをあしらっている。4月上旬ごろまで販売予定。同社は『秋田の風土が生み出した独特のくんせいの香りと素朴な味わいが口に広がる』とPRしている。」の記載がある。
(4)同業他社等による「いぶりがっこ」の文字の使用状況について
ア 「桜食品農事組合法人」のウェブサイトには、「桜食品のいぶりがっこ」の見出しの下、「いぶりがっことは 秋田を代表するお漬物『いぶりがっこ』。『いぶり』は『いぶし』、『がっこ』は秋田の方言で『お漬物』で、この燻されたお漬物を『いぶりがっこ』と呼びます。大根を専用の囲炉裏の天井につるし、桜や楢の木を燃やして燻製した後、塩を加えてにぬか漬けします。囲炉裏の煙でいぶすため大根の表面が茶色くなり、保存性も高まるため、雪国秋田の気象条件と風土がもたらした保存食としての役割があり、それがやがて農家から農家へと伝わり、農作業の休憩時のお茶うけとして古くから愛されてきました。」の記載があり、大根の燻製や漬け込みの写真、大根の漬け物の写真などが掲載されている(http://www.sakuragakko.com/iburigakko.html)。
イ 「有限会社奥州食品」のウェブサイトには、「いぶりがっこについて」の見出しの下、「『いぶりがっこ』とは、漬物として使う干し大根が凍ってしまうのを防ぐために、大根を囲炉裏の上に吊るして燻し、米ぬかで漬け込んだ雪国秋田の伝統的な漬物です。秋田の方言で漬物のことを『がっこ』と呼ぶことからその名がつけられました。」の記載があり、いぶりがっこができるまでの工程が写真とともに紹介されている(http://www.iburigakko.co.jp/iburi/)。
ウ 「こまち食品工業株式会社」のウェブサイトには、「秋田を代表する漬物【いぶりがっこ】 焚き木干しで燻煙乾燥した大根を、古来伝承の米ぬかと塩を漬けこみ、いぶり漬け本来の素朴で味わい深い風味に仕上げました。パリパリの食感・風味もそのままに、食べやすい薄切りタイプです。このいぶりがっこを長期保存可能(賞味期限=製造日から3年間)な缶詰にしました。」の記載がある(http://komachi-foods.ocnk.net/product/94)。
エ 「三又旬菜グループ」のウェブサイトには、「三又旬菜グループ」の見出しの下、「横手市の南東に位置する山内三又地域は、・・・また、昔から冬場の保存食として『いぶりがっこ』づくりが盛んで、大根のいぶし方から漬け方まで、各家々ごとに“秘伝の技”が受け継がれています。」の記載がある(http://www8.plala.or.jp/mitsumata/)。
オ 「秋田大学」のウェブサイトには、「秋大生が作った いぶりがっこ」の見出しの下、「秋田大学といぶりがっこ発祥の地、横手市山内地区とのコラボで誕生!山内の師匠たちに教わりながら、学生が製造に携わりました。・・・秋田の名産・いぶりがっこの発祥の地といわれる横手市山内では、いぶりがっこの品評会『いぶりんピック』が毎年開催されています。」の記載がある(http://www.akita-u.ac.jp/honbu/y-bunko/b_iburigakko-1.html)。
カ 「楽天」のウェブサイトには、「山内漬本舗 たくあん漬 いぶりがっこ」の見出しの下、「秋田県の特産である『いぶりがっこ』は山内村(現横手市)が発祥の地であるといわれております。いぶりがっことは大根を囲炉裏の火棚の上につるして燻し、米ぬかで漬けたものです。」の記載があり、「いぶりがっこ」の文字が表示された商品の写真が掲載され(http://item.rakuten.co.jp/akitatokusan/10000409/)、「【秋田の漬物・いぶり漬け】」の見出しの下、「いぶり大綱漬 スライス150g【秋田 いぶりがっこ 漬物 グルメ お土産 おみやげ ご当地 逸品 銘品 銘産】」の記載があり、「いぶりがっこ」の文字が表示された商品の写真が掲載され(http://item.rakuten.co.jp/obako/10000104/)、その他、被請求人の商品を含め、多数の「いぶりがっこ」の表示がされた商品が掲載されている(http://search.rakuten.co.jp/search/mall/%E3%81%84%E3%81%B6%E3%82%8A%E3%81%8C%E3%81%A3%E3%81%93/-/f.1-p.1-s.1-sf.0-st.A-v.3)。

第6 当審の判断
1 商標権の効力の範囲について
本件判定は、イ号標章が被請求人の所有に係る本件商標の商標権の効力の範囲に属するものか否かについての判定を求めるものである。
そもそも商標権の効力は、商標権の本来的な効力である専用権(使用権)にとどまらず、禁止的効力(禁止権)をも含むものであって、指定商品と同一又は類似の商品についての登録商標と同一又は類似の商標の使用に及ぶものであるが(商標法第25条第37条)、同時に同法第26条第1項各号のいずれかに該当する商標(他の商標の一部となっているものを含む。)には、その効力は及ばないものとされている。
そして、例えば、同法第26条第1項第2には、「当該指定商品若しくはこれに類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、...を普通に用いられる方法で表示する商標」と規定されているところ、イ号標章が同号に該当する商標であれば、本件商標の商標権の効力は及ばないことになるので、以下検討する。
2 「いぶりがっこ」の文字について
(1)前記第5の証拠調べ通知の1(1)及び(2)によれば、「いぶりがっこ」の文字は、「木を燃やす煙でいぶして乾かした大根を使うたくあん漬け」の意味を表すものとして使用されているものである。
してみると、「いぶりがっこ」の文字は、「野菜の漬物」との関係においては、これに接する取引者、需要者をして「木を燃やす煙でいぶして乾かした大根を使うたくあん漬け」の如き意味合いを、容易に理解するものである。
(2)また「いぶりがっこ」の文字は、前記第5の証拠調べの1(3)及び(4)によれば、「木を燃やす煙でいぶして乾かした大根を使うたくあん漬け」を表す語として、秋田地方を中心に広く使用され、該商品が「いぶりがっこ」として全国に紹介されている。
(3)他方、被請求人の提出した証拠において、「うまいもの取り寄せカタログ」(1996年2月10日発行)では、「雄勝野きむらや いぶりがっこ」の見出しで、「雄勝、横手、大曲、角館といった秋田県南部の名物として知られる大根の燻し漬け〈いぶりがっこ〉。」の記載(乙第50号証)からすれば、「いぶりがっこ」の文字が被請求人の業務に係る商品であることを表示するというよりは、商品の品質表示のように使用しているとみることも可能なのであって、また、証拠調べ通知で示したように「桜食品農事組合法人」、「有限会社奥州食品」及び「三又旬菜グループ」等の被請求人以外の者が「いぶりがっこ」の文字を「木を燃やす煙でいぶして乾かした大根を使うたくあん漬け」の意味合いを表すものとして使用している。
(4)上記(1)及び(2)並びに被請求人の使用の事実を勘案するならば、「いぶりがっこ」の文字は、秋田県の特産又は秋田の郷土料理としての
「木を燃やす煙でいぶして乾かした大根を使うたくあん漬け」を意味するものとして、広く一般に知られているといえるものであり、これを、商品「野菜の漬物」に使用する場合、取引者、需要者をして、「木を燃やす煙でいぶ
して乾かした大根を使うたくあん漬け」を意味するもの、すなわち、商品の品質を表したものと理解、認識させるものとみるのが相当である。
3 イ号標章について
イ号標章は、前記第2に記載のとおり、「いぶりがっこ」の平仮名を横書きしてなるものであり、その文字の態様も、判定請求書における他の文字と同じいわゆる明朝体と思しき活字で記載するものであって、その書体に特徴を有するものではないので、普通に用いられる方法で表示してなるものである。
そして、上記2のとおり、「いぶりがっこ」の文字は、取引者、需要者に「木を燃やす煙でいぶして乾かした大根を使うたくあん漬け」の如き意味合いを、容易に理解させるものである。
そうすると、イ号標章は、これを「秋田県産の大根の燻製の漬物」に使用する場合は、商品の品質を普通に用いられる方法で表示するものといえる。
4 被請求人の主張について
被請求人は、本件商標は、被請求人が、独自に開発し、昭和42年11月から販売を開始した漬物の固有名詞として需要者の間に広く認識されているものであること、無断で「いぶりがっこ」を使用する同業他社等に対しては、被請求人の登録商標であることを通知するなどの対応を行っていることなどから、「いぶりがっこ」の文字は、被請求人の商標として、十分な自他商品・役務識別機能を有するものである旨主張する。
しかしながら、前記2のとおり、「いぶりがっこ」の文字は、秋田県の名産品である「木を燃やす煙でいぶして乾かした大根を使うたくあん漬け」として、一般的に使用され、理解されているものであり、普通名称とはいえないとしても、商品の品質を表す語として、需要者に認識されるものというのが相当である。
そして、別掲1のとおりの態様からなる本件商標が、被請求人によって、商品「大根の燻製の漬物」に使用されているとしても、本判定においては、「いぶりがっこ」の文字からなる「イ号標章」が、本件商標の商標権の効力の範囲に属するか否かが判断されるのであるから、本件商標がどのように使用されているかは問題ではない。
また、被請求人は、使用商標は、請求人が使用開始したと主張する昭和53年以前から使用している事実はない旨主張するが、判定は、判定時を基準として判断されるのであるから、誰が先に使用していたかに左右されるものではない。
したがって、被請求人の主張は採用することができない。
5 まとめ
以上のとおり、請求人が、商品「秋田県産の大根の燻製の漬物」に使用するイ号標章は、単に商品の品質を普通に用いられる方法で表示するものであり、商標法第26条第1項第2号に該当するものであるから、本件商標の商
標権の効力の範囲に属しないと認められる。
よって、結論のとおり判定する。
別掲 別掲1(本件商標)




別掲2(イ号標章)


判定日 2016-03-30 
出願番号 商願昭53-64211 
審決分類 T 1 2・ 9- ZA (X29)
最終処分 成立  
特許庁審判長 林 栄二
特許庁審判官 中束 としえ
田中 亨子
登録日 1983-05-26 
登録番号 商標登録第1588021号(T1588021) 
商標の称呼 イブリガッコ 
代理人 熊谷 繁 
代理人 特許業務法人東京アルパ特許事務所 

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