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審決分類 |
審判 全部申立て 登録を維持 W12 審判 全部申立て 登録を維持 W12 審判 全部申立て 登録を維持 W12 審判 全部申立て 登録を維持 W12 審判 全部申立て 登録を維持 W12 審判 全部申立て 登録を維持 W12 |
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管理番号 | 1313277 |
異議申立番号 | 異議2015-900281 |
総通号数 | 197 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 商標決定公報 |
発行日 | 2016-05-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2015-09-04 |
確定日 | 2016-04-07 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 登録第5769012号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 登録第5769012号商標の商標登録を維持する。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第5769012号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲(1)のとおりの構成からなり,平成27年2月5日に登録出願され,第12類「自動車並びにその部品及び付属品」を指定商品として,同年5月12日に登録査定,同年6月5日に設定登録されたものである。 第2 引用商標 登録異議申立人(以下「申立人」という。)が引用する登録第1982712号商標(以下「引用商標」という。)は,別掲(2)のとおりの構成からなり,1983年10月12日にドイツ連邦共和国においてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条による優先権を主張し,昭和59年3月27日に登録出願され,第12類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として,同62年9月21日に設定登録され,その後,平成9年8月12日及び同19年6月26日に商標権の存続期間の更新登録がされ,さらに,同20年1月23日に指定商品を第12類「船舶並びにその部品及び附属品(「エアクッション艇」を除く),航空機並びにその部品及び附属品,鉄道車両並びにその部品及び附属品,自動車並びにその部品及び附属品,二輪自動車並びにその部品及び附属品,自転車並びにその部品及び附属品,乳母車,人力車,そり,手押し車,荷車,馬車,リヤカー,タイヤ又はチューブの修繕用ゴム貼り付け片,エアクッション艇」とする指定商品の書換登録がされたものである。 第3 登録異議の申立ての理由 申立人は,本件商標は,商標法第4条第1項第11号,同第15号,同第19号及び同第7号に該当するものであるから,同法第43条の2第1号により,取り消されるべきである旨申立て,その理由を要旨以下のように述べ,証拠方法として甲第1号証ないし甲第22号証(枝番号を含む。ただし,枝番の全てを引用する場合は,その枝番の記載を省略する。)を提出した。 1 具体的理由 (1)本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当する理由 ア 商標の類似性 (ア)本件商標 本件商標は,特徴的な太字の黒字フォントで「M&M」の欧文字を書し,中央の「&」の文字の背後に青色,紺紫色,赤色の三色の色彩を等分に縦長長方形状に付し,上部に「MOTOR」,下部に「SPORT」の欧文字を細字で書してなるものであって,「M&M」の二つの「M」の字体は,左右対称であり,右側の「M」は左側の「M」の鏡文字である。 本件商標の構成中,「MOTOR」及び「SPORT」の欧文字部分が,「モータースポーツ」の意を有する語として,広く一般に知られていることからすれば(甲3及び甲4),本件商標は,その指定商品「自動車並びにその部品及び付属品」に使用したとき,これに接する取引者・需要者は,商品が「モータースポーツ用」であるという当該商品の品質を表しているものとして看取し認識するというべきである。 また,本件商標の構成中,青色,紺紫色,赤色の三色の色彩を等分に縦長長方形状に施した部分は,「M&M」の背景として描かれていて,その形状自体に特徴があるというよりはむしろ,色彩及びその配色・配分が顕著な部分として取引者・需要者に看取されるとみるべきである。 そうとすれば,本件商標は,その指定商品に使用したとき,取引者・需要者が,当該商品の出所を表示したものと看取・認識する部分は,三色の色彩自体及びその配色・配分と「M&M」の文字であるといえ,これらが本件商標の自他商品の出所識別標識としてその機能を果たす部分,すなわち要部である。 (イ)引用商標 引用商標は,青色,紺紫色,赤色の三色の色彩を等分に斜線状に付し,その右横に特徴的な太字の黒字フォントで「M」の欧文字を書したものである。このうち色彩部分は全体として平行四辺形状の図形を構成しているが,かかる図形形状はありふれたものであるから,その形状自体に特徴があるというよりはむしろ,色彩及びその配色が顕著な部分として取引者・需要者に看取されるとみるべきである。 そうすると,引用商標を商品に使用した場合,取引者・需要者が注目し,その記憶にとどめる部分は,三色の色彩自体及びその配色・配分と特徴的なフォントで表された「M」の文字であるといえ,これらが引用商標の自他商品の出所識別標識としてその機能を果たす部分,すなわち要部である。 (ウ)商標の類否 本件商標と引用商標の類否について検討すると,両者は,その構成は,前記(ア)及び(イ)のとおりであるので,全体の外観に違いが見られるものの,その要部は三色の色彩そのもの及びその配色・配分と,特徴的なフォントで表された「M」の文字であるといえ,共通するものである。 そこで,本件商標と引用商標の要部を比較すると,その称呼については,本件商標は「M&M」から「エムアンドエム」の称呼を生じ,引用商標は「M」の文字から「エム」の称呼を生じるため,同一とはいえない。 次に外観についてみると,両者は青色,紺紫色,赤色の色彩自体,及びそれらの色彩の配色・配分がほぼ同一であり,また本件商標中,左側に付された「M」の文字と,引用商標の「M」の文字は,太字の黒字フォントで,「M」の右側の縦ラインは垂直であり,左側の縦ラインはほぼ同じ角度に傾斜していて,ラインはすべて太い直線で表され,それぞれの角が角張っている点で共通していることから,外観上類似するものである。 さらに,本件商標と引用商標の観念についてみると,後述するように,引用商標は本件商標の指定商品である「自動車並びにその部品及び付属品」の分野において申立人の商品を表すものとして広く知られていることから,本件商標の要部である色彩部分及び「M」の文字部分から直ちに引用商標(いわゆるMロゴ)を観念させる。このことから,両者は観念上も類似する商標である。 したがって,本件商標と引用商標は,その称呼において違いがみられるものの,要部(自他商品の識別標識として機能を果たす部分)において外観と観念を共通にするものであるから,両者は類似の商標というべきものである。 イ 商品の類否について 本件商標の指定商品「自動車並びにその部品及び付属品」は,引用商標の指定商品に包含されるものであって,引用商標の指定商品中、「第12類 自動車並びにその部品及び付属品」と同一のものである。 ウ まとめ 以上のとおり,本件商標は,引用商標と類似し,その指定商品も引用商標の指定商品に包含されるものであるから,商標法第4条第1項第11号に該当するものである。 (2)本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当する理由 ア 商標の類似性 本件商標と引用商標とは,前記(1)ア(ウ)のとおり,色彩部分と「M」の文字において要部が共通するものであるから,本件商標を,指定商品に使用した場合,これに接する取引者・需要者が,その外観,観念並びにその記憶等から引用商標を連想又は想起し,本件商標が引用商標の変形若しくは表示態様を変えたものと認識するとみるのが相当であるから,本件商標は,引用商標と類似するというべきものである。 イ 引用商標の周知・著名性及び独創性 (ア)申立人であるBMW社は,ドイツの自動車メーカーとして日本のみならず世界的に著名であるところ,引用商標は,申立人の子会社であるBMW M GmbH(以下「BMW M社」という。)が研究開発に携わった車種に付されるものであり,かかる車種は,1978年にパリのモーターショーで発表されて以来,現在に至るまで,申立人が生産・販売する車種の中でも特に高性能スポーツモデルであるMモデルとして国内外で販売され,人気を博している。BMW M社の「M」は「MOTOR SPORT」の「M」に由来し,引用商標にも用いられているところである(甲6)。 (イ)BMW M社(前身はBMWモータースポーツ社)は,主に申立人が参戦するモータースポーツ関連の研究開発,モータースポーツ用車両の生産を行うために1972年にドイツで設立された(甲7の1ないし4等)。 引用商標に用いられている三色の色彩は,1973年同社が最初に携わったレーシングプロジェクトで用いられた車種(3.0CSL)の車体に既に施されている(甲7の2及び3,甲8)。 申立人は,過去数十年に渡りモータースポーツ活動に積極的に取り組み,多岐にわたる世界中のレースイベントに参戦し,華々しい成績を残してきた(甲7の3,甲8,甲10及び甲11)。現在も国内外のレースに参戦し,ドイツでは圧倒的な人気を誇るドイツツーリングカー選手権(DTM),日本国内では,国内最高峰の自動車レースといわれるスーパーGTに参戦,しばしば表彰台に上がる活躍を果たしているところであるが,これらに参戦しているレーシングカーの車体にはこの三色の色彩が施されている(甲7の2及び3,甲10の1,甲11)。すなわち,引用商標に用いられている三色の色彩は,申立人のモータースポーツ用車両を象徴するものである。 (ウ)BMW M社がレースで培った技術を結集して開発した最初の市販車(Mモデル)は1978年に発表された「M1」であり,その車体には既に引用商標が付されている(甲12)。 モデル名に「M」を冠するいわゆるMモデルは,上述したレーシングカーの流れを受けた高性能車種であり(甲7の5等),価格帯も通常生産モデルの倍以上するもので,運転する側にも高度なテクニックが要求されるスポーツカーとして,いわば「車好きの憧れ」の存在といえる。 例えば1992年に市場デビューしたM3は,ドイツの「sport auto」誌により2回連続して「カー・オブ・ザ・イヤー」に選ばれ,フランスの「Auto Plus」誌では「カー・オブ・ザ・センチュリー」に選出された。米国での市場導入直後の1995年には,「Automobile Magazine」誌により,「カー・オブ・ザ・イヤー」に選ばれている(甲7の2及び甲13)。 日本国内においても,Mモデルはしばしば自動車関連の雑誌で紹介され,その掲載回数は2014年に48回,2013年に38回,2012年に39回にも上るものであり,取引者・需要者の関心の高さを示している(甲14及び甲15)。さらにMモデルはインターネットでも頻繁に取り上げられている(甲6,甲7の1及び4,甲8,甲9,甲11の1及び2,甲12,甲13,甲16)。 (エ)Mモデル以外にも,申立人は,Mモデルのパーツを通常生産モデルに搭載したものをM sportパッケージ(Mスポーツパッケージ)として販売しており,このパッケージ車種にも引用商標が付されている(甲17)。 Mスポーツパッケージは,「Mモデルは価格面,運転技術面においてハードルが高すぎる」,と感じるユーザーの間で魅力的なパッケージとして人気を博し,このパッケージを選択すると,引用商標が自動車に付されることがポイントのひとつとなっている(甲17の1)。 (オ)すなわち,引用商標は,その色彩部分と,BMW M社を象徴する「M」の文字部分の組み合わせにより高い独創性を有し,BMWブランドの自動車の中でも高性能な車種であることを示す一種のステータスシンボルとして,「Mロゴ」や「Mエンブレム」と称され,取引者・需要者の間で広く認識されているのである。その結果,日本で販売されるBMWブランドの自動車の実に4割以上に,引用商標が付されている。 (カ)統計によれば,2015年1月から9月までのBMWブランド車全体の新車販売台数34,040台のうち16,518台(49%),2014年は45,645台のうち21,146台(46%),2013年は46,037台のうち18,926台(41%),2012年は41,102台のうち12,268台(30%),2011年は34,195台のうち11,585台(34%),2010年は32,426台のうち6,829台(21%)に引用商標が付されていたことになる(甲18ないし甲20)。ちなみにBMWブランド車全体の輸入車新規登録台数は,ランキングでいっても,2014年度,2013年度,2012年度は3位,2011年度,2010年度は2位と,常に上位にあるところ(甲21),近年ではそのうちの4割から5割に引用商標が付されていることからも,引用商標が付された自動車の人気の高さが窺える。 (キ)以上の事実からすれば,引用商標は,本件商標の登録出願時には,申立人の商品を表すものとして国内外において広く一般に知られていたものであって,周知・著名性を獲得するに至っていたといえるものである。 そして,引用商標の周知・著名性は,現在においても継続していることは明らかである。 ウ 商品の関連性その他取引の実情 本件商標の指定商品「自動車並びにその部品及び付属品」は,引用商標の指定商品に包含されるものであって,引用商標の指定商品中「自動車並びにその部品及び付属品」と同一のものである。 したがって,本件商標の指定商品に係る需要者は,引用商標に係る需要者と共通することは明らかである。 さらに,本件商標権者が代表を務めるTECH-Hなる名称の会社のウェブサイトによれば,事業内容を「車両整備及びオリジナルパーツ(M&Mモータースポーツ)の製造/販売」としている。当該ウェブサイトで掲載されている写真や文言から,TECH-Mが,申立人の製造・販売する自動車(BMW MINIを含む)専門に車両整備等を行い,申立人の製造・販売する自動車専用のオリジナルパーツを製造・販売していることが容易に推測でき,かつ,該サイトで本件商標が使用されている(甲22の1)。 加えて,ソーシャルネットワーキングサービスであるFacebook上では,会社の概要として「BMW用オリジナルパーツM&Mの製造,販売/BMW,MINIのオイル/ケミカル交換,コーティングを行っております。」との説明がなされているほか,本件商標が使用されている(甲22の2)。 以上から,本件商標権者と同一視し得る,本件商標権者が代表を務める会社が,申立人が製造・販売した自動車を購入した需要者を対象として車両整備やオリジナルパーツの製造・販売をしていて,当該オリジナルパーツに本件商標を使用しているということが明らかであるから,需要者は完全に一致する。そして,当該ウェブサイトによれば,本件商標権者(または当該者が代表を務める会社)は申立人のMシリーズの自動車をデモカーとして有し(甲22の1),これを前面に打ち出したウェブサイトの構成等から,需要者に,申立人が提供する商品の中でも,Mシリーズに強い会社,という印象を与えることは明らかであり,その印象は,引用商標と同じ色彩と,同じ「M」の態様を用いた本件商標によりさらに強固なものとなることは明らかである。 エ まとめ 以上のとおりであるから,本件商標は,指定商品に使用した場合,これに接する取引者・需要者が,申立人の使用に係る引用商標を連想し,当該商品が申立人の業務に係る商品又は申立人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信し,商品の出所について誤認するものであるので,「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生じるおそれがある商標」にあたる。 加えて,本件商標の指定商品への使用は,申立人の商標等表示の持つ顧客吸引力へのただ乗りや希釈化を招く結果を生じさせるものであり,かかる商標の登録を維持することは,「周知表示又は著名表示へのただ乗り(いわゆるフリーライド)及び当該表示の希釈化(いわゆるダイリューション)を防止し,商標の自他識別機能を保護することによって,商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り,需要者の利益を保護する」という商標法第4条第1項第15号の趣旨にも反するものである(甲5)。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号の「混同を生ずるおそれがある商標」にあたるものである。 (3)本件商標が商標法第4条第1項第19号に該当する理由 ア 引用商標の周知・著名性について 引用商標は,前記(2)イのとおり,日本国内及び外国において需要者の間に広く認識されている商標に該当する。 イ 商標の類似性について 本件商標と引用商標は,その称呼において違いがみられるものの,要部(自他商品の識別標識として機能を果たす部分)である色彩部分と「M」の文字において外観と観念を共通にするものであり,本件商標を指定商品に使用した場合,これに接する取引者・需要者が,引用商標を連想又は想起し,本件商標が引用商標の変形若しくは表示態様を変えたものと認識するとみるのが相当であるから,本件商標は,引用商標と類似するというべきものである。 ウ 不正の目的について 引用商標が国内外において周知・著名な商標であることは前記(2)イのとおりであるところ,引用商標は構成上顕著な特徴,すなわち,青色,紺紫色,赤色の三色の色彩及びその配色・配分と,特徴的なフォントの「M」の文字を有するものである。 本件商標が引用商標と,上述の構成上顕著な特徴において共通するのは,商品の関連性その他取引の実情からすると,決して偶然ではあり得ない。むしろ,本件商標は,引用商標に化体した信用,名声,顧客吸引力にただ乗りすべく,不正の目的をもって採択・使用されていることは明らかである。 エ まとめ 以上のとおりであるから,本件商標は,国内外で申立人の周知・著名商標である引用商標と類似の商標であって,引用商標に化体した信用,名声,顧客吸引力にただ乗りしようとする不正の目的をもって登録されたものであり,加えて,本件商標の使用により,申立人の引用商標の出所表示機能を希釈化,毀損させるおそれがある。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当する。 (4)本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当する理由 本件商標権者は,ただ乗り等の不正の目的をもって,世界的にも周知・著名な引用商標の構成上顕著な特徴を本件商標に流用し,登録出願及び使用したことが明らかである。かかる本件商標の登録を維持することにより,公正な取引秩序に著しい混乱が生じる蓋然性が極めて高く,国際信義に反し公の秩序を害するものである。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当する。 2 むすび 上記のとおり,本件商標登録は,商標法第4条第1項第11号,同第15号,同第19号及び同第7号に違反して登録されたものであることは明らかである。 よって,本件商標登録は,商標法第43条の2第1号の規定により取り消されるべきである。 第4 当審の判断 1 商標法第4条第1項第11号該当性について (1)本件商標について 本件商標は,別掲(1)のとおり,「M&M」の欧文字を黒塗りの太字で書し,その中央の「&」の文字の背後に青色,紺紫色,赤色の三色を縦に等分に彩色した縦長長方形の図形を配し,上部に「MOTOR」,下部に「SPORT」の欧文字を小さく細字で書した構成よりなるところ,該図形部分と文字部分とは,常に不可分一体のものとしてのみ認識し把握されるべき格別の理由も見いだし得ないから,それぞれが独立して自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものである。 そして,本件商標の構成文字中,「M&M」の文字部分は,太く,大きく,一体的に表されており,かつ,他の文字部分との関連性も見いだせないものであるから,該文字部分に着目し,その文字から生じる称呼をもって商取引に資する場合も決して少なくないというのが相当である。 そうすると,本件商標は,構成文字全体より,「モータースポーツエムアンドエム」の称呼を生じる他に,その構成中の顕著に表された「M&M」の文字部分より,「エムアンドエム」の称呼をも生じるものであり,特定の観念を生じないものである。 (2)引用商標について 引用商標は,別掲(2)のとおり,青色,紺紫色,赤色の三色を斜めに等分に彩色した平行四辺形の図形と,その右横に黒塗りした太字の「M」の欧文字を書した構成よりなるところ,ローマ字1字からなる商標は,極めて簡単で,かつ,ありふれた標章というべきであり,それのみでは自他商品・役務の識別機能を発揮するものとはいえず,引用商標は「エム」の称呼をもって取引に資されることはないというべきであって,引用商標が登録されたのは,その構成全体をもって一体的に把握されることで自他商品・役務の識別機能を発揮するとされたというのが相当であるから,引用商標からは特定の称呼及び観念は生じない。 (3)本件商標と引用商標との類否について ア 外観における対比 本件商標及び引用商標は,上記(1)及び(2)のとおりの構成からなるところ,本件商標と引用商標とは,それぞれの構成に照らすならば,その構成全体においては,外観上,明らかに区別し得る差異を有するものである。 また,本件商標の図形部分と引用商標の図形部分とを比較した場合には,両者が青色,紺紫色,赤色の三色を等分に彩色されているという点では共通しているものの,縦長長方形図形と,平行四辺形図形とは,その外形において明らかに異なるものであるから,両商標の図形部分は,外観上,十分に区別し得るものである。 なお,申立人は,本件商標中,左側に付された「M」の文字と,引用商標の「M」の文字は,外観上類似するものである旨主張しているが,両商標の「M」の書体は,いずれも通常の表記方法を大きく逸脱するものでもないから,強い印象を与えるものとはいえず,本件商標中の「M&M」の文字部分が一体不可分のものとして看取されることは前記したとおりであるから,文字部分を比較しても両者は,外観上類似の商標ということはできない。 イ 称呼における対比 称呼については,本件商標からは「モータースポーツエムアンドエム」及び「エムアンドエム」の称呼が,引用商標からは特定の称呼が生じないものである。 ウ 観念における対比 本件商標と引用商標は,いずれも特定の観念が生じないものであるから,観念においては,比較することができないものである。 エ 小括 以上のとおりであるから,本件商標と引用商標とは,外観,称呼及び観念のいずれにおいても,相紛れるおそれのない非類似の商標ということができるものである。 (4)まとめ 本件商標と引用商標とは,相紛れるおそれのない非類似の商標であるから,たとえ,その指定商品が同一又は類似のものであるとしても,本件商標は,商標法第4条第1項第11号に該当するということができないものである。 2 商標法第4条第1項第15号該当性について 申立人提出の甲各号証によれば,申立人は,我が国を含む世界的な自動車会社であり,「BMW」の欧文字及び「白抜きしたBMWの文字を内側上部に入れた黒塗り円輪郭の中に,十字に4等分し,青と白を交互に色分けた図形」(以下,この図形を「BMW図形」という。)は,申立人の業務に係る自動車について使用する標章として,需要者の間に広く認識されているものと認められる。 そして,申立人の主張によれば,引用商標は,自動車に付されるものであるが,それが付されるのは,申立人の製造,販売に係る自動車のうちの限られた車種(モデル名に「M」を冠するいわゆるMモデル及びMモデルのパーツを通常生産モデルに搭載したMスポーツパッケージ車種)であり,申立人提出の甲各号証からは,引用商標がそれらの車種に付されていることが認められるものの,引用商標のみが単独で使用されている例は極めて少なく,前記した著名な「BMW」の欧文字又は「BMW図形」とともに使用されているものが殆どである。 加えて,甲各号証には,不鮮明で引用商標の外形を確認できないものも相当数含まれている。 また,甲第15号証の2ないし14は,自動車雑誌であるところ,それらは主に自動車愛好家やモータースポーツファンを対象とするものであるから,限られた範囲の需要者とみるのが相当であり,さらに,甲第8号証の2,甲第10号証,甲第11号証,甲第12号証等からは,申立人のレーシングカーの車体に青色,紺紫色,赤色の三色のカラーリングが施されていることが認められるが,そのカラーリング及び配色・配分や引用商標について特に取り上げ記事にしている新聞・雑誌等は見当たらない。 してみると,引用商標は,自動車に相当程度関心のある自動車愛好家等において知られているといえるとしても,申立人提出に係る証拠のみをもってしては,引用商標が,本件商標の登録出願時において,自動車の一般の需要者の間においてまで広く認識され,周知著名となっていたものと認めるに十分なものとはいえない。 前記したとおり本件商標と引用商標とは,類似しない別異の商標であり,引用商標は,本件商標の登録出願時及び査定時において周知,著名であったとは認めることができないものであるから,本件商標をその指定商品について使用した場合,これに接する取引者,需要者が,これから引用商標及び申立人を連想,想起するようなことはないというべきであり,該商品が申立人又は申立人と経済的,組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如く,その出所について混同を生じるおそれはないものと判断するのが相当である。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第15号に該当するものではない。 3 商標法第4条第1項第19号該当性について 本件商標と引用商標とは,前記1(3)のとおり,非類似の商標であり,また,申立人の提出に係る証拠のいずれをみても,商標権者が本件商標を引用商標に化体した信用,名声などを毀損させ,その出所表示機能を希釈化させるといった不正の目的をもって使用すると認めるに足る事実は,見いだせない。 さらに,引用商標は,前記したとおり,本件商標の登録出願時及び登録査定時において,日本国内における取引者,需要者の間に広く知られていたとは認められないものであり,また,本件商標は,上記したとおり,引用商標とは,類似しない別異の商標というべきものである。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第19号に該当しない。 4 商標法第4条第1項第7号該当性について 引用商標は,前記2のとおり,本件商標の登録出願時及び登録査定時に,我が国の取引者,需要者の間に広く認識されていたと認めることはできないものであり,また,本件商標と引用商標とは類似するところのない別異の商標であるから,商標権者が,引用商標に化体した信用等にただ乗りし,不正の利益を得るために使用する目的で本件商標を出願し,登録を受けたものということはできず,商標権者による本件商標の使用が,商取引の信義則に反するものともいえない。 さらに,本件商標は,前記第1のとおりの構成よりなるものであって,それ自体何らきょう激,卑わい,差別的若しくは他人に不快な印象を与えるものでなく,また,本件商標をその指定商品について使用することが社会公共の利益に反し,又は社会の一般的道徳観念に反するものとすべき事由はなく,かつ,他の法律によってその使用が禁止されているものとも認められない。 したがって,本件商標は,商標法第4条第1項第7号に該当しない。 5 むすび 以上のとおり,本件商標の登録は,商標法第4条第1項第11号,同第15号,同第19号及び同第7号のいずれにも違反してされたものではないから,同法第43条の3第4項の規定に基づき,維持すべきものである。 よって,結論のとおり決定する。 |
別掲 |
別掲(1)本件商標(色彩については原本参照) 別掲(2)引用商標(色彩については原本参照) |
異議決定日 | 2016-03-28 |
出願番号 | 商願2015-10510(T2015-10510) |
審決分類 |
T
1
651・
263-
Y
(W12)
T 1 651・ 261- Y (W12) T 1 651・ 22- Y (W12) T 1 651・ 271- Y (W12) T 1 651・ 222- Y (W12) T 1 651・ 262- Y (W12) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 海老名 友子 |
特許庁審判長 |
酒井 福造 |
特許庁審判官 |
中束 としえ 前山 るり子 |
登録日 | 2015-06-05 |
登録番号 | 商標登録第5769012号(T5769012) |
権利者 | 水元 寛規 |
商標の称呼 | モータースポーツエムアンドエム、モータースポーツエムエム、モータースポーツ、エムアンドエム、エムエム |
代理人 | 田崎 恵美子 |
代理人 | 植田 吉伸 |
代理人 | 佐久間 洋子 |
代理人 | 江崎 光史 |