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審判番号(事件番号) データベース 権利
不服201426561 審決 商標

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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W052932
管理番号 1307489 
審判番号 無効2014-890033 
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-05-07 
確定日 2015-11-16 
事件の表示 上記当事者間の登録第5649775号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第5649775号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5649775号商標(以下「本件商標」という。)は、「養命青汁」の文字を標準文字により表してなり、平成24年5月10日に登録出願、第5類「野菜を主原料とする液状・粉状・顆粒状・粒状・錠剤状・ゼリー状・クリーム状・ペースト状・カプセル状の加工食品,茶を主原料とする液状・粉状・顆粒状・粒状・錠剤状・ゼリー状・クリーム状・ペースト状・カプセル状の加工食品,茶及び野菜を主原料とする液状・粉状・顆粒状・粒状・錠剤状・ゼリー状・クリーム状・ペースト状・カプセル状の加工食品,サプリメント,食餌療法用飲料,食餌療法用食品,乳幼児用飲料,乳幼児用食品」、第29類「乳製品,冷凍野菜,冷凍果実,肉製品,加工水産物,調理用野菜ジュース,加工野菜,加工果実,油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆,カレー・シチュー又はスープのもと」及び第32類「ビール,清涼飲料,果実飲料,飲料用野菜ジュース,ビール製造用ホップエキス,乳清飲料」を指定商品として、同26年1月14日に登録査定、同年2月14日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
1 請求人が、本件商標が商標法第4条第1項第11号に該当するとして、その登録の無効の理由として引用する登録商標は、以下の7件の登録商標(以下、これら7件の登録商標を総称する場合は「11号引用商標」という。)であり、いずれも現に有効に存続しているものである。
(1)登録第1628808号商標
登録第1628808号商標(以下「11号引用商標1」という。)は、「養命」の文字を横書きしてなり、昭和55年11月28日登録出願、第28類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、同58年10月27日に設定登録され、その後、指定商品については、平成16年9月1日に、第32類及び第33類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品に指定商品の書換登録がされたものである。
(2)登録第1712230号商標
登録第1712230号商標(以下「11号引用商標2」という。)は、「YOMEI」の欧文字を横書きしてなり、昭和56年10月22日登録出願、第28類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、同59年9月26日に設定登録され、その後、指定商品については、平成16年8月4日に、第32類及び第33類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品に指定商品の書換登録がされたものである。
(3)登録第2134833号商標
登録第2134833号商標(以下「11号引用商標3」という。)は、別掲1のとおり、ややデザイン化した「養命」の文字を縦書きしてなり、昭和61年10月20日登録出願、第31類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、平成1年4月28日に設定登録され、その後、指定商品については、同21年5月20日に、第1類、第5類、第29類、第30類、第31類及び第32類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品に指定商品の書換登録がされたものである。
(4)登録第4570914号商標
登録第4570914号商標(以下「11号引用商標4」という。)は、「養命」の文字を標準文字で表してなり、平成13年6月21日登録出願、第32類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、同14年5月24日に設定登録されたものである。
(5)登録第4720058号商標
登録第4720058号商標(以下「11号引用商標5」という。)は、別掲2のとおり、ややデザイン化した「養命」の文字を横書きしてなり、平成15年1月31日登録出願、第5類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、同年10月24日に設定登録されたものである。
(6)登録第4910948号商標
登録第4910948号商標(以下「11号引用商標6」という。)は、別掲2のとおり、ややデザイン化した「養命」の文字を横書きしてなり、平成17年2月15日登録出願、第29類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、同年12月2日に設定登録されたものである。
(7)登録第4932636号商標
登録第4932636号商標(以下「11号引用商標7」という。)は、別掲2のとおり、ややデザイン化した「養命」の文字を横書きしてなり、平成16年1月21日登録出願、第30類、第31類及び第32類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、同18年3月3日に設定登録され、商標登録原簿の記載によれば、その後、指定商品の一部について商標登録を取り消すべき旨の審決が確定し、その確定審決の登録が同25年1月10日にされ、その余の指定商品については、現に有効に存続しているものである。
2 請求人が、本件商標が商標法第4条第1項第15号に該当するとして、その登録の無効の理由として引用する商標は、別掲3のとおり、ややデザイン化した「養命酒」の文字を横書きしてなる商標(以下「15号引用商標1」という。)及び別掲4のとおり、ややデザイン化した「養命」の文字を横書きしてなる商標(以下、「15号引用商標2」といい、「15号引用商標1」及び「15号引用商標2」を総称する場合は「15号引用商標」という。)であり、これらは、請求人が薬草等を原料とし、製造しているいわゆる「薬酒」(以下「請求人商品」という。)に係る商標である。

第3 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第24号証を提出した。
1 商標法第4条第1項第11号について
本件商標は「養命青汁」の文字を横書きしてなる商標であるが、その構成中、「青汁」の文字部分は、指定商品との関係において識別力のない語であり、本件商標の要部は「養命」の文字部分である。
審査において、本件商標と11号引用商標は互いに非類似であるとの判断に至ったとしても、「○○青汁」からなる商標と「○○」が互いに類似すると判断された事例(甲4)があるから、本件商標の構成中、「青汁」の文字部分には識別力がなく、要部は「養命」であるとの判断がなされるべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号の無効理由が成立する。
2 商標法第4条第1項第15号について
(1)本件商標は、請求人の周知・著名な15号引用商標と同一又は類似する商標であり、15号引用商標が周知・著名商標であることは、「FAMOUS TRADEMARKS IN JAPAN」、「AIPPI JUORNAL」、「日本有名商標録」及び「日本国周知・著名商標検索」に掲載されていることからも明らかである(甲8)。
これらに掲載されている事実を審査で考慮するという点は、平成11年7月のAIPPIに掲載された「周知・著名商標の保護等に関する審査基準の改正について」(平成11年6月特許庁審査第一部商標課)の審査基準の見直しの基本方針に明示されている(甲9)。
第三者が保有する「養命」の文字を含む商標が存在するが、全て改正商標審査基準前(平成11年7月1日以前の審査)に登録査定が出された商標である。
したがって、請求人は、当時から請求人の15号引用商標が周知・著名であったにも関わらず、周知・著名商標の保護が十分でなかった時代の審査による商標が現在も存在していると認識している(甲10)。
また、第三者による登録商標が存在するが、請求人は、該登録商標に対しても無効審判を請求している(甲11)。
さらに、第三者の商標が請求人の周知・著名商標に類似し、商標法第4条第1項第15号に該当するとして拒絶査定になっている事例がある(甲12)。
15号引用商標が周知・著名な商標であることは過去に特許庁が審理した、異議決定及び無効審決をみれば明らかである(甲13)。
(2)「養命酒」及び「養命」の語は、1602年に請求人の創始者である塩沢宋閑が創造し、採択した商標であり、以来400年にわたり請求人商品について使用されている周知・著名な商標である。該商品は、慶長七年(1602年)に「養命酒」と名付けられ、江戸幕府ができたときには徳川家康に献上された。その後、幕府から「天下御免万病養命酒」と免許され、安永三年(今から約200年前)に刊行された小説「異国奇談和荘兵衛」や、天明五年に作られた長唄「春昔由縁英」にも「養命酒」が取り上げられている。大正12年には、請求人商品の製造・販売を会社組織に改め、全国に販路をひろげ、昭和5年頃から新聞、雑誌にて広告活動を行うようになり、昭和27年(1952年)から、はじめてのラジオによる広告を行い、その後も宣伝広告に努めた結果、15号引用商標1の知名度は全国的に非常に高くなったといえる。
請求人商品の売上は飛躍的に伸び、昭和30年(1955年)には請求人は東京証券取引所に株式上場するまでになり、昭和31年(1956年)にはその出荷高として創業以来最高の2,719klを記録するに至っている。そして、テレビコマーシャルは、昭和39年(1964年)より開始されており、請求人がこれらテレビコマーシャルを含む宣伝広告活動に費やした金額は莫大なものであり、年間50億円を超えるものである。また、雑誌、新聞記事、著書にも多々取り上げられている(甲14)。
このような請求人の継続的な企業努力が認められ、15号引用商標1は、防護標章登録としても登録を得ている(甲16)。
本件商標は、請求人が永年使用し、多大なる信用と名声が化体した周知・著名な「養命」の語を採択したものである。
したがって、本件商標を指定商品に使用すれば、これに接する取引者、需要者はその商品が著名な請求人商品、又は「養命酒」で有名な請求人の会社と何らかの関連があるものと出所を誤認することは明らかであるといえ、本件商標の要部が「養命」であることはすでに述べたことから明らかであり、「養命」といえば一般需要者は必ず「養命酒」を連想し、請求人の商品分野である食品においては、15号引用商標と本件商標の間で誤認混同が生ずる。
(3)15号引用商標の知名度の証拠として提出された調査会社の一般需要者を対象とした調査結果によると、請求人商品に対する一般需要者の認知率は95.5%(2012年8月)であり、同業他社のブランド(2位は34.9%の認知度)と比べても圧倒的にその認知度は高いものであるといえる(甲20)。一般需要者が、請求人商品をこれほどまで認知している理由としては、「養命酒の認知機会」に挙げられているように、テレビコマーシャル、新聞・雑誌の広告、家にある(家族が利用)などがあるが、中でもテレビコマーシャルをあげている需要者が88.6%(2008年)となっている。つまり、それだけ、請求人商品はテレビコマーシャルとして放映されているわけである(甲21)。
請求人がテレビコマーシャル等にかける広告費用は、他社の広告費用と比べても膨大な額であるが、このことは請求人が、400年前から使用し続けてきた商標を大事にしている証でもある。売上高広告宣伝費比率は、最高で33.9%(平成15年4月から平成16年3月)となっており、この売上高広告宣伝費比率については、他の食品製造メーカーにおいては、2%から4%であるのに対し、請求人は過去30年間、20%以上の宣伝広告費比率となっており(甲22)、膨大な費用を広告に費やし、商品の品質の維持という企業努力の結果、請求人の「養命酒」のブランドは、現在、一般需要者に95.5%という圧倒的な認知率を誇っている。
(4)このように、一般需要者にとって、著名な15号引用商標1は、その要部である「養命」も請求人の著名な商標であると誰もが疑う余地もなく認識しているものといえることから、本件商標からは、周知・著名な「養命」の称呼・観念が生ずるものであり、本件商標をその指定商品に使用した場合、本件商標に接した取引者及び需要者は、該商品が請求人の関連する出所から流出したと誤認混同されることは必至である。
したがって、本件商標は商標法第4条第1項第15号の無効理由が成立する。
3 商標法第4条第1項第19号について
請求人の15号引用商標は、上記2で述べたとおり、周知・著名な商標であり、日本国内で全国的に知られている商標である。
そして、本件商標は、周知・著名な商標を含み、15号引用商標と極めて紛らわしい類似の商標であるので、出所の混同のおそれがあり、かつ、15号引用商標の出所表示機能を希釈化させる目的をもって出願した商標である。
本件商標の出願経緯を辿ると、被請求人は、本件商標の登録出願前に、「養命」の語を含む「養命茶」の商標を出願し、請求人に対し「ブランド資産を配慮した方法で養命茶の開発・製造・販売を共同して取り組むこと」について申し入れをしてきたが、請求人と被請求人の間で共同取り組みの契約は成立しなかった。この行為は、請求人の商標が周知・著名であることを知りながら出願したとしか思えない行為である。
したがって、本件商標は商標法第4条第1項第19号による無効理由が成立する。
4 まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同第15号及び同第19号に該当する無効理由がある。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求めると答弁し、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第60号証(枝番を含む。)を提出した。
1 商標法第4条第1項第11号の該当性について
(1)本件商標の要部について
本件商標は「養命青汁」の文字からなるところ、その構成中に「青汁」の文字を含んでいるからといって、画一的に「青汁」の文字部分を除外して、本件商標の要部を「養命」の文字部分と判断すべきではない。
本件商標の構成各文字は、同じ書体、同じ大きさ、等間隔で書された漢字4文字をもって、外観上まとまりよく一体的に表されており(外観構成上の一体性)、しかも、本件商標から生ずる称呼も長音を含め8音と少なく、淀みなく一連に「ヨーメイアオジル」と称呼されるものであり(称呼上の一体性)、更に、本件商標の各文字部分は、それぞれが一体不可分のものと認識され、「命を養う青汁」の意味合いを想起させる観念(観念上の一体性)を生じさせるものであり、本件商標は、「養命」の文字部分だけが独立して見る者の注意をひくように構成されていないから、本件商標の要部は、「養命」の文字部分ではない。
また、本件商標が一体不可分であることは、本件商標の審査過程において、11号引用商標1ないし11号引用商標7が引用されながら(乙1)、本件商標の指定商品が補正されずに登録とされていること、及び本件商標の登録後、類似群コード31D01、32F04及び32F10について、11号引用商標と同様な標章である「養命」(乙2の1及び2並びに乙3の1及び2)が、登録査定されていることからも明らかである。
なお、本件商標の審査過程において、乙第2号証の1及び2並びに乙第3号証の1及び2の「養命」と本件商標とは、非類似商標であるとの一貫した認定であり、本件商標、乙第2号証の1及び2並びに乙第3号証の1及び2の一貫した審査を考慮すれば、本件商標の審査は、十分なされている。
加えて、本件商標が一体不可分のものであることは、併存登録事例からも妥当なものである(乙4ないし乙41)。
(2)本件商標と11号引用商標との外観上の対比について
本件商標の構成各文字は、上記(1)のとおり、外観上まとまりよく一体的に表されており(外観構成上の一体性)、これに対して、11号引用商標は、「養命」の漢字又は「YOMEI」の欧文字からなる。
したがって、本件商標と11号引用商標とは、一見して前者が漢字4文字からなるのに対し、後者が漢字2文字又は欧文字5文字からなるものと容易に看取でき、その差異である語尾に位置する漢字「青汁」の有無を容易に記憶、印象して商取引に資され、両者は、外観において十分に区別し得るものである。
(3)本件商標と11号引用商標との観念上の対比について
本件商標と11号引用商標は、いずれも特定の観念を生じない一種の造語であり、比較できないが、本件商標の各文字部分は、それぞれが一体不可分のものと認識され、「命を養う青汁」の意味合いを想起させ(観念上の一体性)、これに対して、11号引用商標は、それぞれ、単に、「命を養う」を想起させるにすぎない。
したがって、本件商標と11号引用商標は、同一の観念を想起されず、相紛れるおそれはない。
(4)本件商標と11号引用商標との称呼上の対比について
本件商標は、「養命青汁」の文字からなるもので、同じ大きさ、同じ書体及び等間隔により表してなるから、外観上まとまりよく一体的に表された一連一体の商標であって、全体の称呼も長音を含め8音と少なく、淀みなく一連に「ヨーメイアオジル」とのみ称呼される(称呼上の一体性)。加えて、本件商標の構成中の「養命」の文字部分のみが独立して認識される特別な事情もない。
これに対し、11号引用商標は、外観上まとまりよく一体的に表されており、全体の称呼も冗長なものではなく、一連に「ヨーメイ」とのみ称呼される。
したがって、本件商標から生ずる「ヨーメイアオジル」の称呼と、11号引用商標から生ずる「ヨーメイ」の称呼とは、その音数が明らかに異なるとともに、語尾における「アオジル」の音の有無により、両者をそれぞれ一連に称呼しても、相紛れるおそれはない。
(5)取引の事情について
実際の取引の場等においては、養命(称呼「ヨーメイ」を含む)の語を含む商標が、請求人もしくは請求人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者(以下「請求人等」という。)との間で出所の混同を生ずることなく使用されていること(乙42ないし乙49)、また、現状において、「養命酒」とともに、請求人とは、異なる別会社の「養命」の文字を含む商品が出所の混同なく使用されている(乙50及び乙51)ことからすれば、実際の取引の場等においては、本件商標と11号引用商標とは、「青汁」の文字の有無により、相紛れるおそれはない。
(6)まとめ
以上の理由により、本件商標と11号引用商標とは非類似の商標であり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しないことは明らかである。
2 商標法第4条第1項第15号の該当性について
(1)取引者、需要者間に広く認識されている商標は「養命」の語と「酒」の語とが結合した薬用「養命酒」であって、「養命」ではない。
「養命」が著名でないことは、「養命酒」に対しては、登録第800892号商標の防護標章第1号及び第2号、登録第836699号商標の防護標章第1号ないし第7号として防護標章登録がなされているものの、「養命」については、防護標章登録はなされていない上(乙52)、日本国周知・著名商標検索においても、「養命」の登録はない(乙53)。しかも、取消審判2012-300385の審決において「養命」の著名性は否定されている(乙54)。
加えて、本件商標の登録出願前より取引者、需要者間に広く認識されている15号引用商標1があっても、その構成中の「養命(称呼「ヨーメイ」を含む)」に関して登録されている例がある(乙56ないし乙60)。
つまり、本件商標は、その構成中に「養命」の文字を有していても、これを本件指定商品に使用する場合、これに接する取引者、需要者は、これが恰も請求人等の業務に係る商品であるかの如く商品の出所について混同を生じさせるおそれはないものである。
そして、前記1(5)のとおり、実際の取引の場等においては、「養命」(称呼「ヨーメイ」を含む)の語を含む商標は、請求人等との間で出所の混同を生ずることなく使用されている。
(2)本件商標は、取引者、需要者間に広く認識されている15号引用商標1とは、商標の後半部分の「酒」の文字と「青汁」の文字とで外観、称呼、観念が顕著に相違する。
したがって、取引者、需要者間に広く認識されている商標は「養命」の語と「酒」の語とが結合した薬用「養命酒」であって、「養命」ではなく、しかも、請求人等とは、異なる別会社の「養命丸」、「養命散」、「養命泉」、「養命ふとん」及び「養命そば」等が、請求人等との間で出所の混同を生じないで現実に使用され、更に、本件商標は、15号引用商標1とは、語尾における「青汁」及び「酒」の文字部分において、外観、称呼、観念が著しく異なり、しかも、本件指定商品にあっては、一般消費者にとって、自己の健康にかかわる重要なもので、現物を手にとって商品名、有効成分名、効能等を確認して、慎重に選ぶのが通常であるから、本件商標を本件指定商品に使用しても、取引者、需要者は、請求人等の業務に係る商品の出所について混同を生じさせるおそれはなく、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しないことは明らかである。
なお、本件商標が登録出願時及び登録査定時において、商標法第4条第1項第15号に該当することが必要であるにもかかわらず、甲第8号証ないし甲第22号証の何れにも、15号引用商標2が本件商標の登録出願時及び登録査定時において、周知・著名であることは何ら示されていない。
3 商標法第4条第1項第19号の該当性について
取引者、需要者間に広く認識されている商標は、「養命」の語と「酒」の語とが結合した薬用「養命酒」であって、「養命」ではなく、かつ、本件商標は、「養命酒」及び「養命」とも非類似の商標であるから、本件商標は、商標法第4条第1項第19号にいう「他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標」に該当しない。
また、実際の取引の場等においては、養命(称呼「ヨーメイ」を含む)の語を含んでいても、乙第42号証ないし乙第51号証に示すとおり、請求人等との間で出所の混同を生ずることなく使用されているから、被請求人が本件商標をその指定商品に使用しても、15号引用商標1に化体した信用、名声、顧客吸引力等を毀損させる等のおそれもなく、本件商標は、商標法第4条第1項第19号にいう「不正の目的をもって使用するもの」にも該当しない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しないことは明らかである。
4 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同第15号及び同第19号に該当しないことが明らかである。

第5 当審の判断
1 15号引用商標1の周知著名性について
(1)請求人の提出に係る甲各号証及び請求の趣旨によれば以下のことが認められる(アないしクは甲14)。
ア 「百年続く企業の条件」の表題の書籍の写しには、「老舗の創業年表-いまも数多くの企業が歴史を刻む」の見出しのもと、企業名として「養命酒製造」、業種として「蒸留酒・混成酒製造」の記載、及び「1602/慶長7年」の記載がある。
イ 「日本の郷土産業3=中部・北陸」の表題の書籍の写しには、「東洋的性格」の見出しのもと、「養命酒の沿革は、・・・塩沢宋閑が・・・原料の薬草類を採取し、一六〇二(慶長七)年、これに養命酒と名付けて最初の製造をした。」の記載がある。
ウ 「週刊ダイヤモンド/2004/11/13」の写しには、「四〇〇年の重み養命酒のツボは”濃さ”にあり」の見出しのもと、「前回から、ロングセラーについて考えてみることにした。その王者といえば、まずは『養命酒』だろう。初めて世に登場したのは、なんと、一六〇二年。」、「養命酒は四〇〇年を経た今日でもなお売れ続けている。・・・『薬酒』の領域では圧倒的なシェアを誇っている」等の記載がある。
エ 「Nikkei Business/2008年7月28日号」の写しには、「ロングセラーの発想力」の見出しのもと、「『薬用養命酒』・・・など、新商品ラッシュの時代にあっても発売以来の揺るぎない地位を維持し続ける商品がある。」の記載がある。
オ 「日経ヴェリタス/2012年7月15日号」の写しには、「長寿企業の生命力 祖業の技術で世界に挑戦」の見出しのもと、「1602年創業と上場企業では長寿ランキング3位の養命酒酒造(2540)。養命酒の圧倒的なブランド力は60歳以上の顧客をがっちりつかんでいる。」の記載がある。
カ 2010年11月30日付けの「日経産業新聞」の写しには、「あの商品は今」の見出しのもと、「天龍館(現・養命酒酒造)が『養命酒』を発売して今年で87年。滋養強壮の薬酒として有名な『薬用養命酒』と酒類の『養命酒』を長く販売してきた。」の記載がある。
キ 2000年5月29日付けの「日経産業新聞」の写しには、「中国に養命酒輸出 養命酒製造、年内めどに」の見出しのもと、「養命酒製造は二十六日、主力製品『養命酒』について年内をメドに中国への輸出を開始すると発表した。・・・養命酒の輸出量は二〇〇〇年三月期に前期比二ケタの伸びを記録するなど好調で、・・・同社は現在、マレーシア、香港、シンガポール、台湾の四カ国・地域に養命酒を輸出している。二〇〇〇年三月期の輸出量は前期比一一.四%増の三百四十三キロリットルに上り、二〇〇一年三月期は中国を含めずに同五.〇%増の三百六十キロリットルを見込んでいる。」の記載がある。
ク 1992年11月6日付け「日経産業新聞」の写しには、「ロングセラー商品の秘密」の見出しのもと、「生薬を酒に浸して有効成分を取り出した薬酒は古くから各地で滋養強壮のため飲まれてきた。こうした薬酒の分野で九十%近いシェアを持つのが養命酒製造の『養命酒』だ。」の記載がある。
ケ 1991年10月3日付けの「日経産業新聞」の写し(甲22)には、「上位に食品・医薬」の見出しのもと、「NEEDS-COMPANY(日本経済産業新聞社の総合企業データバンクシステム)を使い、九〇年度の全企業の売上高広告宣伝比率をランキングした。・・二位の養命酒はテレビを中心に約二億円増の四十八億円を投入した。」の記載がある。
コ 「養命酒製造株式会社の製品養命酒の売上高、全体の売上高、広告宣伝費の推移」(甲22)には、養命酒の宣伝広告費は、平成2年度は約48億円、平成12年度は約55億円、平成23年度は約28億円であり、売上高に対する宣伝広告費は、平成2年度は27%、平成12年度は31.5%、平成23年度は24.3%と記載されている。
(2)まとめ
以上によれば、慶長7年(1602年)から創始者である塩沢宗閑が、薬草を原料として請求人商品の製造を開始し、これを「養命酒」と名付けたといえるところ、それ以降、請求人は、15号引用商標1を請求人商品に使用して、その製造・販売を行っており、1992年には、薬酒の分野で90%近いシェアをもち、また、1990年度には、テレビを中心に48億円の広告費を投入し、2000年には、マレーシア、香港、シンガポール、台湾へ輸出を行い、その後も雑誌、新聞等において15号引用商標1に関する記事が継続して掲載されていることなどから、15号引用商標1は、本件商標の登録出願時以前から、請求人商品に使用されて、取引者、需要者の間において著名なものとなっていたことが認められる。
2 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)商標法第4条第1項第15号について
商標法第4条第1項第15号に関して、「『混同を生ずるおそれ』の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべき」とされている(平成12年7月11日 最高裁第三小法廷判決 平成10年(行ヒ)第85号)。
そこで、以下、かかる観点から、15号引用商標の周知著名性について検討する。
(2)15号引用商標1
15号引用商標1は、前記第2の2のとおり、ややデザイン化した「養命酒」の文字を横書きしてなるところ、請求人の主張及び甲各号証によれば「養命酒」の文字は、請求人が400年以上に渡り、請求人商品に使用しているものであり、その構成中の「養命」の文字部分は、特定の意味を有する既成語とは認められないものであるところ、その全体として特定の熟語的意味合いを看取させるような事情は見いだし得ない一方で、その構成中の後半部の「酒」の文字部分は、請求人商品を表す普通名称といえるものであり、それのみでは、自他商品の識別標識として機能するということができないものであるから、15号引用商標1は、構成中の「養命」の文字が基幹部分として記憶されるといえるものである。
そうすると、15号引用商標1は、「養命」の文字と商品の普通名称によって構成されるものとして把握されるのであって、たとえ、全体として使用され、著名になったものであっても、これに接する取引者、需要者は、前半部の「養命」の文字部分にも着目して、15号引用商標1を請求人商品を表すものとして認識しているとみるのが相当である。
(3)本件商標
本件商標は、前記第1のとおり、「養命青汁」の文字を標準文字により表してなるものであるところ、その構成中「養命」の文字部分は、特定の意味を有する既成語とは認められないものであり、その全体として特定の熟語的意味合いを看取させるような事情は見いだし得ない一方で、その構成中の後半部の「青汁」の文字部分が「緑色の生野菜をしぼった汁[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]」の意味を有する普通名称として親しまれたものであり、その指定商品は、第5類、第29類及び第32類に属する前記第1のとおりの商品であるところ、本件商標において「青汁」の文字部分は、商品の普通名称や、品質(原材料)を想起させる場合が少なくない語であることから、自他商品の識別標識として強力に機能するということはできないものである。
そうすると、本件商標は、「養命」の文字と商品の普通名称等の文字によって構成されるものとして把握されるといえるものであって、このような商標に接する取引者、需要者は、本件商標の全体をもって取引に資するほか、前半部の「養命」の文字部分にも着目することが少なくないといえる。
(4)本件商標の指定商品と15号引用商標1の請求人商品との関係
本件商標の指定商品は、前記第1のとおり、野菜を原料とする加工食品及びサプリメント等を含むものであり、他方、請求人商品は、薬草等を原料とするいわゆる薬酒であり、いずれも健康の維持や回復を目的とする商品であり、本件商標の指定商品と請求人商品は、健康の維持という用途又は目的において関連性があるといえるものである。また、双方の商品とも、昨今の健康志向ブームに伴って、健康維持に関心のある者を需要者層とするものであり、これらの商品は、薬局や、薬品を中心に雑貨などを取り扱うドラッグストアにおいて取り扱われる商品であるから、販売店すなわち取引者層を共通にするものであり、本件商標の指定商品と請求人商品とは密接な関係を有するといえる。
(5)本件商標の出所の混同のおそれについて
15号引用商標1は、上記1のとおり、本件商標の登録出願前から、請求人商品に使用されて、取引者、需要者の間において著名なものとなっており、それが本件商標の登録査定時においても継続しているものであり、その商品の出所を識別する際に基幹部分として、取引者、需要者の注目を集めているのが「養命」の文字部分といえる。
そして、本件商標と15号引用商標1は、いずれも「養命」の文字と商品の普通名称の文字によって構成されているものと把握されるものであって、しかも、商品の出所を識別する場合には、構成中の「養命」の文字部分に取引者、需要者が着目することが少なくないといえるものである。さらに、本件商標の指定商品と15号引用商標1の請求人商品とは、上記(4)のとおり、その用途、目的、需要者、販売場所等を共通にする場合が少なくない密接な関係を有するといえるものである。
そうとすれば、本件商標をその指定商品に使用した場合、それに接する取引者、需要者は、本件商標があたかも、請求人等の業務に係る商品であるかのように誤認、混同し、その出所について混同を生ずるおそれがあるというべきである。
(6)小活
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(7)被請求人の主張について
被請求人は、「本件商標の登録出願前より取引者、需要者間に広く認識されている商標『養命酒』があっても、その構成中の『養命(称呼「ヨーメイ」を含む)』に関して登録されている例がある」と主張している(乙56ないし乙60)。
しかしながら、商品の出所の混同についてのおそれの有無の判断は、上記2(1)の観点から検討し、個別具体的に判断されるべきものであり、被請求人が示す乙各号証の事例と本件とは事案を異にするものであって、その事例を直ちに本件に適用して、出所の混同のおそれの有無を判断すべきものとはいえないから、上記の被請求人の主張は採用することはできない。
また、被請求人は、「実際の取引の場等においては、養命の語を含んでいる商標が、乙第42号証ないし乙第51号証に示すとおり、請求人又は請求人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者との間で出所の混同を生ずることなく使用されている。」とも主張している。
しかしながら、仮に、実際の取引の場において「養命」の文字を含む商標が使用されているとしても、それをもって直ちに本件商標の商標法第4条第1項第15号該当性が否定されるわけではなく、そのことをもって本件商標について、商標法第4条第1項第15号の適用を阻却する理由とすることはできないものであるから、上記の被請求人の主張は、採用することはできない。
3 むすび
本件商標は、以上のとおり、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるから、同第11号及び同第19号について判断するまでもなく、同法第46条第1項の規定により、その登録は無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲1(11号引用商標3)




別掲2(11号引用商標5ないし7)



別掲3(15号引用商標1)



別掲4(15号引用商標2)



審理終結日 2015-02-24 
結審通知日 2015-02-27 
審決日 2015-03-27 
出願番号 商願2012-36913(T2012-36913) 
審決分類 T 1 11・ 271- Z (W052932)
最終処分 成立  
前審関与審査官 荻野 瑞樹浦辺 淑絵 
特許庁審判長 林 栄二
特許庁審判官 梶原 良子
中束 としえ
登録日 2014-02-14 
登録番号 商標登録第5649775号(T5649775) 
商標の称呼 ヨーメーアオジル、ヨーメー 
代理人 入江 一郎 
代理人 特許業務法人 松原・村木国際特許事務所 

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