• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効としない Z36
管理番号 1288790 
審判番号 取消2012-670025 
総通号数 175 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2014-07-25 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2012-10-31 
確定日 2013-12-17 
事件の表示 上記当事者間の国際商標登録第770374号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件国際登録第770374号商標(以下「本件商標」という。)は、「BDO」の欧文字を横書きしてなり、2001年8月8日にBeneluxにおいてした商標登録出願に基づいてパリ条約4条による優先権を主張し、同年(平成13年)10月30日に国際商標登録出願、第9類、第16類、第35類、第36類、第41類及び第42類に属する国際登録に基づく商標権に係る商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、平成15年2月21日に設定登録、現に有効に存在しているものである。
なお、本件審判請求の登録は、平成24年11月15日にされている。
第2 請求人の主張
請求人は、商標法第50条第1項の規定により、本件商標に係る指定商品・役務中、第36類「Consultancy relating to financial and fiscal matters(which falls into a banking business or its auxiliary business);Consultancy relating to credit and debt or control(which falls into a banking business or its auxiliary business);Financial and fiscal research (which falls into a banking business or its auxiliary business);Consultancy in the field of(obtaining)financing and loans (which falls into a banking business or its auxiliary business);Consultancy in the field of company financing (which falls into a banking business or its;auxiliary business);and Providing information in the field of insurance,financial matters and fiscal matters (which falls into a banking business or its auxiliary business)」(参考訳;「金融及び財務に関する事項についての助言(銀行業又はその付随業務に該当するもの)」、「債権及び債務の管理に関する助言(銀行業又はその付随業務に該当するもの)」、「金融及び財務に関する研究(銀行業又はその付随業務に該当するもの)」、「資金の貸し付けに関する助言(銀行業又はその付随業務に該当するもの)」、「会社への資金の貸し付けに関する助言(銀行業又はその付随業務に該当するもの)」、「保険・金融及び財務に関する事項についての情報の提供(銀行業又はその付随業務に該当するもの)」(以下、「取消に係る役務」という。また、取消に係る役務、取消に係る各役務(括弧内表示を除いた場合も含む。)及び括弧内表示のみをいうときは、上記参考訳のみの表示とする。)の登録を取り消す、審判費用は、被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第11号証を提出した。
1 請求の理由
本件商標は、その指定役務中、取消に係る役務について、継続して3年以上(本件審判の請求登録日(平成24年11月15日)前3年以内:以下「要証期間内」という。)、日本国内において商標権者、通常使用権者のいずれの者も使用した事実がないことは明らかであるから、その登録は、取消に係る役務について、商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。
(1)請求人は、フィリピン共和国法に基づいて設立された法人であり、「BDO UNIBANK,INC.(ビーディーオー ユニバンク インク)」の商号を有すると共に、「BDO」、「BDO Unibank」、「Banco De Oro」、「Banco De Oro Unibank」及び「BDO Banco De Oro」の各名称にて銀行業務を行っている銀行である(甲1)。
(2)被請求人は、請求人の所有する登録第5310533号商標及び登録第5310534号商標に対して、商標法第4条第1項第11号ほかを申立ての理由として、異議を申し立てた。
そして、特許庁は、「『送金事務の取扱い』と『財政の評価、金融に関する調査、財務に関する調査』は、いずれも銀行等が行う業務であり、業種が同じであって、同一の事業者が提供し得るものであり、商標権者がユニバーサルバンクとしての業務を行なう資格を有するとすれば、『送金事務の取扱い』や『財政の評価、金融に関する調査、財務に関する調査』に限らず、本件商標(審決注:上記2商標)の指定役務中の一切の金融業務を行うことができるはずである。」との理由で、第36類に属する指定役務中、「建物又は土地の情報の提供」以外の指定役務について、商標登録を取り消した。請求人は、当該決定を不服として、知的財産高等裁判所に対して取消訴訟を提起した(平成23年(行ケ)10446号及び同10447号(以下「本取消訴訟」という。))。本取消訴訟は、現在審理中である(審決注:本取消訴訟は、平成24年11月29日に請求棄却の判決言渡がされた。)。
(3)本取消訴訟において、被請求人は、本件商標の指定役務の記載が曖昧であり、表面上は銀行業又はその付随業務を含むかのように解釈できることを奇貨として、本来行うことのできない銀行業及びその付随業務までもが本件商標の指定役務に含まれると主張している。しかし、本件商標が、銀行業又はその付随業務に関して使用されたことはあり得ないのであるから、本件商標の登録は、その指定役務が銀行業又はその付随業務に該当する限度で取り消されるべきである。
(4)本件商標の指定役務のうち、「金融及び財務に関する事項についての助言」、「債権及び債務の管理に関する助言」、「金融及び財務に関する研究」、「資金の貸し付けに関する助言」、「会社への資金の貸し付けに関する助言」及び「保険・金融及び財務に関する事項についての情報の提供(オンラインによるか否かを問わない。)」(以下、まとめて「金融及び財務に関する事項についての助言等」という。)は、銀行業の付随業務を明示的に除外していない点で、「銀行業又はその付随業務」に該当する上記「金融及び財務に関する事項についての助言等」を包含している。また、被請求人自身も、本取消訴訟において補助参加人として作成した準備書面において、被請求人の「指定役務に係る『金融及び財務に関する事項についての助言』等もまた、銀行業に付随する業務といえる。」として、本件商標の指定役務の一部が銀行業に付随する業務であることを認めている(甲3)。
(5)しかしながら、被請求人は、銀行業も、その付随業務も、日本国内においては過去に行ったことがないのであるから、本件商標の指定役務中、銀行業又はその付随業務に該当する部分については、不使用取消を免れない。
すなわち、銀行法によれば、同法2条2項に定義される「銀行業」を業として行うためには、銀行業の免許が必要である(同法4条1項、同法47条1項)。また、銀行は、同法10条1項各号に掲げられた業務のほか、銀行業に付随する業務(以下「銀行業の付随業務」という。)を営むことができる(同条2項柱書)。なお、同項にいう「付随業務」とは、銀行の固有業務に伴って当然に生ずる業務とされていることから、銀行業の付随業務は必然的に銀行しか行うことができない業務であるということになる。
(6)被請求人は、国際的な会計事務所であって銀行ではなく、過去3年以内に銀行であったこともない。また、その通常使用権者であると称している三優監査法人を始めとする他の日本法人5社は、いずれも銀行でないことは明らかである。
(7)本件商標の指定役務中の「金融及び財務に関する事項についての助言等」を例にとると、一般に、幅広い分野におけるさまざまな内容の業務が、「金融及び財務に関する事項についての助言等」という分類で提供されている。例えば、銀行が銀行業の一環として資金の貸付けを行う際、それに必然的に付随する業務として、ローンの仕組みの説明や返済プランの説明、より有利な返済方法の助言等をすることがあろう。これらは貸付けという銀行業に付随する銀行業の付随業務といえる。
一方、監査法人が行う法人の会計処理に関するアドバイスは、仮にそれが同じく「金融及び財務に関する事項についての助言等」に分類される業務であるとしても、その内容はあくまでも会計監査サービスや財政評価、金融財政調査が主体であり、銀行業の付随業務に該当する金融及び財務に関する事項についての助言とはまったく異なるものである。
要するに、被請求人の行う業務は、いずれも、法人を対象とした会計監査や財政評価に関連する業務であって、いかなる意味においても、銀行業又はその付随業務にはなり得ないのである。
(8)以上より、本件商標の指定役務中、銀行業の付随業務に該当するものについては、その登録を取り消すべきである。
2 弁駁
(1)「本件審判請求が不適法であること」に対する反論
ア 被請求人は、「銀行業又はその付随業務に該当するもの」がどのような役務を指すのか不明確であると述べる。しかし、本件商標が日本国において登録されたものである以上、その指定役務も日本法に従って解釈されるのは当然のことであり、日本法上は、「銀行業又はその付随業務に該当するもの」の内容は明確である。
イ 請求人は、「金融及び財務に関する事項についての助言等」については、「銀行業又はその付随業務に該当するもの」の範囲で不使用取消請求をしたものであるが、日本で適用される法令上は、「銀行業又はその付随業務に該当するもの」とは、銀行法2条2項に定義される「銀行業」及び同法10条2項に規定される業務を指すことは明らかである。前者の「銀行業」は、一般的に銀行の「固有業務」といわれるものであり、後者が、一般的に銀行の「付随業務」と言われるものである。なお、「付随業務」は、同法10条2項各号に列挙された業務及び後に定義される「その他の付随業務」を含む。
ウ 「銀行業」を定義している銀行法2条2項によると、「銀行業」とは、「預金又は定期預金の受入れと資金の貸付け又は手形の割引とを併せ行うこと」又は「為替取引を行うこと」を営業とするものとなっている。
エ 付随業務とは、銀行の固有業務に伴って当然に生ずる業務(甲7)、又は、銀行が固有業務を行い、その社会的・経済的機能を発揮するうえで、当然生じる業務(甲8)をいうとされている。
銀行法10条2項は、「銀行は、前項各号に掲げる業務のほか、次に掲げる業務その他の銀行業に付随する業務を営むことができる。」として1号から19号まで付随業務を例示することと併せて、同条2項柱書中に「その他の銀行業に付随する業務」という概括的な表現がなされている。
したがって、「付随業務」という場合には、上記2項各号に列挙された業務及び次のオに定義するその他の付随業務を総称している。
オ 付随業務の範囲の要件については、一般的に、付随業務は、銀行業に付随する業務であるから、その性質上、本業(銀行業)との関連あるいは親近性があることが必要であるとされている(甲7及び甲8)。
金融庁の「主要行等向けの総合的な監督指針「(以下「監督指針」という。)(甲9)のV-3-2「『その他の付随業務』の取扱い」によると、銀行法10条2項の業務のうち、同項各号に掲げる業務を除いた業務「その他の付随業務」の解釈について、下記のように述べられている。
(ア)銀行が、従来から固有業務と一体となって実施することを認められてきたコンサルティング業務、ビジネスマッチング業務、M&Aに関する業務、事務受託業務については、取引先企業に対する経営相談・支援機能の強化の観点から、固有業務と切り離してこれらの業務を行う場合も「その他の付随業務」に該当する。
(イ)上記のとおり、「銀行業」及び「その付随業務に関するもの」は、銀行法において定義又は列挙されており、「その他の銀行業に付随する業務」という概括的部分についても、銀行法10条2項の趣旨からその性質が明らかであり、また、監督指針等において詳細な解釈指針が述べられている。
したがって、法令や省庁による指針によってこれだけ明確にされている以上、請求の趣旨が不明確であるということもなく、請求人による請求は適法である。
(2)「請求人の主張が成り立たないこと」に対する反論
ア 被請求人は、「銀行業又はその付随業務に該当するもの」が、銀行法2条2項及び同法10条2項各号に列挙された業務(以下「銀行法列挙業務」という。)のみであると不正確に解釈した上で、取消に係る役務には、銀行法列挙業務がそもそも含まれないため、請求人の主張は成り立たないと述べる。
しかし、上記(1)のとおり、請求人が取消を請求している「銀行業又はその付随業務に該当するもの」は、銀行法列挙業務のみならず、「その他の付随業務」も含む。そして、被請求人は、答弁書において自ら「金融及び財務に関する事項についての助言等」が「その他の付随業務」であると主張している。
被請求人は、「金融及び財務に関する事項についての助言等」という文言が曖昧であることを奇貨として、本件においては、実際には行うことのできない銀行の「その他の付随業務」を行っているとし、他方、本取消訴訟においては、「『金融及び財務に関する事項についての助言』等もまた、銀行業に付随する業務といえる。」と指定役務の類似性を主張して、銀行である請求人が、「銀行業及びその付随業務」を指定役務とする商標権を取得するのを妨害している(甲3)。
よって、取消に係る役務は、文言上は本件商標の指定役務に含まれることが明らかであるため、被請求人の反論は意味をなさない。曖昧であるのは、「銀行業又はその付随業務に該当するもの」の内容ではなく、本件商標の指定役務に含まれている「金融及び財務に関する事項についての助言等」である。このような曖昧な文言で表現される役務について、商標権という強い独占権を付与するのは明らかに行き過ぎである。
実際に、被請求人が「『金融及び財務に関する事項についての助言』等もまた、銀行業に付随する業務といえる」と主張して、銀行である請求人が「銀行業又はその付随業務に該当するもの」を指定役務とする商標権を取得するのを妨害している以上、極めて曖昧である「金融及び財務に関する事項についての助言等」という役務の内容を明確にしなくてはならない。本件請求は、正にそのためになされているのである。
イ 被請求人は、「コンサルティング業務は『その他の付随業務』であって、銀行法2条2項各号に列挙された業務ではないため、同項各号に列挙された業務は、取消の対象となっている『金融及び財務に関する事項についての助言等』には含まれない」と述べる。
しかし、取消に係る役務には「その他の付随業務」も含まれるため、上記のような反論は意味をなさない。そして、被請求人は、自己が行うコンサルティング業務が「その他の付随業務」であると明示的に述べているため、取消の対象に、被請求人が行っていると主張する役務が含まれていることを自認している。もちろん、「金融及び財務に関する事項についての助言」、「債権及び債務の管理に関する助言」、「金融及び財務に関する研究」、「資金の貸し付けに関する助言」、「会社への資金の貸し付けに関する助言」及び「保険・金融及び財務に関する事項についての情報の提供」という曖昧な文言上は、あたかも銀行の行う「その他の付随業務」が含まれるように読めるという意味において、かかる役務は「その他の付随業務」と解されるにすぎず、被請求人が行っている業務は、銀行の行う「その他の付随業務」ではない。
したがって、「金融及び財務に関する事項についての助言等」が、文言上、銀行の行う「その他の付随業務」を含む限度において、被請求人が役務を行っていないことは言うまでもない。
ウ 一般的な解釈として、本件商標の指定役務のように「金融及び財務に関する事項についての助言等」と記載した場合、「金融及び財務」、「債権及び債務」及び「資金の貸し付け」といった用語は銀行業を連想させるものであり、これらはいずれも銀行が固有業務又は付随業務として行うことが許されている業務である以上、文言上は、これらに「銀行業又はその付随業務に該当するもの」が含まれていると解釈するのが自然である。
エ 本取消訴訟及び登録第5472913号商標及び登録5472914号商標に対して登録異議の申立てを行った(審決注:後者2件については登録維持の決定がされた。)ように、被請求人は、請求人の所有する4つの商標(いずれも銀行の固有業務又は付随業務のみを指定役務とする。)が被請求人の商標に類似すると主張(指定役務が類似する主張を含む)して、請求人と争い続けているのである。そうであれば、不使用取消請求の手続きにおいてのみ、被請求人の指定役務が銀行業と何ら関係がないと白を切ることが許されるはずがない。上記登録異議の申立てをしている以上、本件商標の指定役務と「銀行業又はその付随業務に該当するもの」が無関係であると主張することはできないはずである。
オ したがって、「金融及び財務に関する事項についての助言等」のうち、銀行法列挙業務及びその他の付随業務を除外すべきであるとの請求人の主張は正当である。
(3)「本件商標の使用について」に対する反論
ア 被請求人の解釈の誤り
被請求人は、銀行法10条2項各号に列挙された付随業務やコンサルティング業務等その他の付随業務については、銀行業の免許がない限り禁止されているのではないと述べ、被請求人や通常使用権者も銀行の付随業務を行うことができると主張する。
請求人は、同法10条2項及び本件請求の解釈を誤っていると考えられる。銀行の「付随業務」という場合、銀行がその固有業務と一体となって実施することを認められてきた業務を指す。また、同条2項は、銀行の固有業務を行っていることを当然の前提として、それに付随する業務を規定しているのである。これに従い、請求人は、あくまでも銀行が提供する固有業務又は固有業務に付随して提供する付随業務について、不使用取消を請求している。なお、例えばコンサルティング会社等の銀行業の免許を有しない者が銀行業の固有業務とはまったく無関係に行うコンサルティング業務については、「付随業務」に該当しないため、請求人の取消請求の範ちゅうにない。
以上のとおり、請求人は、「金融及び財務に関する事項についての助言等」につき、あくまでも「銀行業」又は「付随業務」に該当する業務について被請求人が本件商標を使用していないと主張しているのである。
イ 被請求人の主張する事実及び提出している証拠について
被請求人が述べている本件商標を使用している事実は、いずれも、取消に係る役務についての使用の事実ではなく、また、その証明でもない。被請求人が述べている使用の事実は、「金融及び財務に関する事項についての助言等」の各役務から、「銀行業又はその付随業務に該当するもの」を除外した業務である。
いずれも銀行でない主体が提供している業務であることからもわかるように、銀行の固有業務との関連性・親近性のない業務である。特に銀行が兼業を禁止されている監査法人が、銀行業の付随業務を行うはずがないのであるから、監査法人が本件商標を使用していることを主張することは、本件においては意味をなさない。
したがって、被請求人は、取消に係る役務のいずれについても使用の事実を主張することができていない。
(4)被請求人による使用の事実の不存在
被請求人が、「銀行業」又は「付随業務」に該当する「金融及び財務に関する事項についての助言等」につき、本件商標を使用していないことについて下記に述べる。
ア 被請求人が本件商標を銀行法列挙業務に使用していないこと
被請求人は、「金融及び財務に関する事項についての助言等」には銀行法列挙業務が含まれないと主張する以上、本件商標を上記助言等に使用することはあり得ない。よって、銀行法列挙業務について、要証期間内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれによっても使用された事実がないということである。
仮に、「金融及び財務に関する事項についての助言等」に、銀行法列挙業務が含まれるとしても、被請求人はその事実を証明していないし、後に述べる「その他の付随業務」の場合と同様に、被請求人がこれを使用した事実がないことは明白である。
以上から、本件商標の「金融及び財務に関する事項についての助言等」の各指定役務は、少なくとも銀行法列挙業務の範囲で不使用による取り消しを免れない。
イ 被請求人が本件商標を「その他の付随業務」に使用していないこと
被請求人は、通常使用権者が行うコンサルティング業務等が、「その他の付随業務」に該当すると主張しているが、次のとおり、被請求人又はその通常使用権者(以下「被請求人等」という。)が「その他の付随業務」を行っている事実はない。
「その他の付随業務」は、「付随業務」の一部であり、したがって、銀行の固有業務に伴って当然に生ずる業務であり、質的に固有業務との関連性ないし親近性があることが必要とされている。銀行法10条2項各号はこのような付随業務の基本的なものを例示的に列挙しているもの(甲7)であるから、「その他の付随業務」は、同条1項各号及び同2項各号に掲げられる業務に準ずるものであるとされる(監督指針V-3-2(3)(甲9)。
例えば、被請求人が「その他の付随業務」に該当すると主張するコンサルティング業務であるが、これについては、上記指針V-3-2(1)において、「銀行が、従来から固有業務と一体となって実施することを認められてきたコンサルティング業務、ビジネスマッチング業務、M&Aに関する業務、事務受託業務については、取引先企業に対する経営相談・支援機能の強化の観点から、固有業務と切り離してこれらの業務を行う場合も『その他の付随業務』に該当する。」と述べられている(甲9)。
以上から明らかであるように、監督指針がその他の付随業務に該当すると述べているのは、あくまでも「銀行が、従来から固有業務と一体となって実施することを認められてきたコンサルティング業務、ビジネスマッチング業務、M&Aに関する業務、事務受託業務」に限定されている。コンサルティング業務やビジネスマッチング業務であれば、どのような内容であっても「その他の付随業務」に該当するという趣旨ではないことは明らかである。
被請求人等は、いずれも銀行ではなく、固有業務を行っている事実もない。そうであれば、固有業務に伴って当然に生ずる業務を行っているはずもなく、またそのような事実は主張されていない。
よって、被請求人等が、取消に係る役務のいずれについても、本件商標を使用した事実は存在しない。
ウ 被請求人の主張する業務について
被請求人の提出に係る、乙第7号証ないし乙第12号証は、被請求人の通常使用権者がその顧客に提出した財務調査報告書等であるが、これらの書類を顧客に提出することが「銀行業又はその付随業務に該当するもの」であることは何ら述べていないし、これらとの関連性すら述べていない。一般的に、財務調査は、監査法人等が顧客のために財務リスク等を調査する業務であって、銀行が行っている例は見当たらないし、銀行法列挙業務ともいえず、固有業務に伴って当然に生ずる業務ともいえない。
マネージメント・レター、業務結果報告書及びIPOショート・レビュー報告書については、それぞれ「財務会計上の問題を指摘」、「内部管理上及び会計上の問題点を抽出」及び「会計処理上の課題を提示」と記載されているとおり、いずれも「会計」又は「監査」に関するものである。銀行は他業禁止により監査・会計業務を行うことができないのであるから、「監査」又は「会計」に関する業務が「その他の付随業務」に該当することはあり得ない。
また、乙第13号証ないし乙第30号証のBDO三優監査法人が発行している「BDO三優ジャーナル」は、あくまでも監査法人が行う業務に関連した内容であり、監査法人と銀行は相容れない業種なので、監査法人が行う業務が銀行の固有業務に伴って当然に生じる業務には当たり得ないことは、上記と同様である。
乙第32号証ないし乙第34号証のセミナーのパンフレットについても、セミナーの内容が監査法人の業務に関するものであるため、上記と同様である。甲第4号証ないし甲第6号証は、銀行業又はその付随業務とは何ら関わりのない業務を記載している。
以上から、被請求人は、被請求人等が、「その他の付随業務」に該当する業務、すなわち銀行の固有業務に伴って当然に生じる業務を行っていることは立証できておらず、したがって、本件商標を「その他の付随業務」に使用していることも立証できていない。
(5)まとめ
被請求人等は、監査法人等であって銀行は含まれないし、それらが固有業務を行っている事実もない。そうであれば、固有業務は当然のことながら、固有業務に伴って当然に生ずる業務であるところの付随業務を行う可能性も存在し得ない。
被請求人が、監査法人として、また、コンサルティング会社等として、財務調査や財務・会計に関する助言を行うことは、いずれも銀行の固有業務ではなく、固有業務に伴って当然に生ずる業務又は固有業務と関連ないし親近性のある業務でもない。
したがって、被請求人等は、「銀行業又はその付随業務に該当する業務」を行っていないにもかかわらず、本件商標の指定役務は、「金融及び財務に関する事項についての助言等」のような曖昧極まりない役務であり、文言上は「銀行業又はその付随業務に該当する業務」を含んでいるように読めることから、これらの指定役務から、銀行業又はその付随業務に該当する業務を除外することは、他の者の営業に関する自由な活動を不当に制限するおそれを排除するために必須である。
よって、本件商標の指定役務中、「銀行業又はその付随業務に該当する業務」は除外されるべきであるから、「金融及び財務に関する事項についての助言等」の各役務につき、「銀行業又はその付随業務に該当する業務」の範囲で本件商標の指定役務が取り消されるべきである。
第3 被請求人の主張
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第35号証を提出した。
1 理由の要旨について
取消に係る役務について、「銀行業又はその付随業務に関するもの」という表示は、指定役務の範囲を曖昧にするものであり、請求の趣旨が不明確であるから、不適法な審判請求であって、却下されるべきである。請求人が主張する「銀行業又はその付随業務に関するもの」については、本件商標の指定役務のうち、「金融及び財務に関する事項についての助言等」には含まれない。
本件商標は、通常使用権者により、「金融及び財務に関する研究」「保険・金融及び財務に関する事項についての情報の提供(オンラインによるか否かを問わない。)」などについて、要証期間内に日本国内において使用されている。したがって、本件商標が取り消されるべき理由はない。
2 本件審判請求が不適法であること
(1)請求人は、「金融及び財務に関する事項についての助言等」のうち、「銀行業又はその付随業務に関するもの」については、使用の事実がないため、取り消されるべきと主張する。
しかしながら、「銀行業又はその付随業務に関するもの」がどのような指定役務を指すのか不明確である。
(2)「銀行業」につき、銀行法2条2項に定義される銀行業と解釈した場合であっても、銀行業の「付随業務に関するもの」については、その範囲が不明確であって、指定役務の範囲を曖昧にするものとして許されない。
仮に、「(銀行業の)付随業務」について、同法10条2項各号の記載を参酌したとしても、その範囲は必ずしも明確ではない。
例えば、「資金の貸し付けに関する助言」(コンサルティング業務)は、銀行法2条2項各号(審決注:同法10条2項各号の誤りと思われる。)に列挙された業務ではないが、監督指針では、コンサルティング業務は、列挙された業務以外の「その他の付随業務」に該当すると解釈しているため、このようなものまで、「(銀行業の)付随業務」に含まれると解釈するのか否かによって指定役務の範囲が異なることとなる。
したがって、「(銀行業の)付随業務」について銀行法を参酌して解釈したとしても、登録商標の効力の及ぶ指定役務の範囲は不明確であるから、このような取消請求は許されない。かかる記載は削除されるべきであり、削除されずに残るのであれば、商標法第56条1項で準用する特許法第135条の規定により本件請求について審決をもって却下すべきである。
3 請求人の主張が成り立たないこと
(1)「銀行業」につき、銀行法2条2項に定義される銀行業と解釈し、「銀行業の付随業務」について、同法第10条2項各号に列挙された業務と解釈した場合であっても、取消に係る役務である助言、研究及び情報提供は、上記列挙されたいずれの号にも該当しないから、「金融及び財務に関する事項についての助言等」は、銀行法列挙業務に含まれない。したがって、請求人の主張は成り立たない。
(2)被請求人も、銀行が「資金の貸し付けに関する助言」等のコンサルティング業務を行うことができることを否定しないが、仮に、金融庁が解釈する「その他の付随業務」も「(銀行業)の付随業務」に含まれると解釈しても、請求人の主張は誤りである。なぜなら、指定役務は、役務を特定すべきものであって、主体を特定すべきものでないから、請求人の主張は意味をなさない。
(3)したがって、本件商標の指定役務「金融及び財務に関する事項についての助言等」が、「銀行業又はその付随業務に関するもの」を除外していないとの請求人の主張は成り立たない。
4 本件商標の使用について
(1)本件商標は、通常使用権者により、「金融及び財務に関する事項についての助言等」について、本件審判の要証期間内に日本国内において使用されている。
なお、請求人は、被請求人等は、いずれも銀行業を行っていない以上、銀行業に伴って当然に生ずる業務であるところの銀行の付随業務を行うこともできないと主張する。しかしながら、銀行法は、同法2条2項に定義される銀行業については銀行業の免許が必要であると規定しているのみであり(同法4条1項)、同法10条2項各号に列挙された付随業務やコンサルティング業務等のその他の付随業務についてまで、銀行業の免許が必要であるとは規定していない。したがって、被請求人等は、銀行の付随業務を行うこともできないと主張する請求人の主張は誤りである。
(2)乙第1号証ないし乙第4号証
乙第1号証は、商標権者からライセンスを受けたBDO BVとBDO三優監査法人等との間で、本件商標の使用のライセンスを含めたメンバーファームライセンス契約書であり、2008年(平成16年)4月1日付で締結されたものである。
乙第2号証及び乙第3号証は、商標権者からライセンスを受けたBDO IP LIMITED(以下「BDO IP」という。)とBDO三優監査法人との間で、本件商標の使用のライセンスを含めたメンバーファームライセンス契約書であり、それぞれ、2010年(平成18年)1月1日付及び2011年(同19年)1月4日付で締結されたものである。これらの証拠から明らかなように、BDO三優監査法人は、日本における本件商標の通常使用権者である。
なお、BDO三優監査法人が、BDOのメンバーファームであることは、乙第4号証に示すとおり、BDOのホームページにも掲載されており、BDO三優監査法人のほか、BDO東陽監査法人(乙5)、BDOコンサルティング株式会社(乙6)、BDO税理士法人、BDOアドバイザリー株式会社、株式会社BDO人事総合研究所がBDOグループに所属し、BDO三優監査法人と同様に本件商標の通常使用権者となっている。
(3)乙第7号証ないし乙第12号証
ア 乙第7号証ないし乙第12号証は、BDO三優監査法人が顧客に、それぞれ平成22年6月1日、同年10月4日、同23年6月6日、同年9月30日、同年11月24日に提出した財務調査報告書、マネージメント・レター、業務結果報告書、IPOショート・レビュー報告書の抜粋である。これら頁の左下(乙7ないし乙9)、中央(乙10)、及び右下(乙11及び乙12)に示された商標が本件商標と同一であることは明らかである。
イ 財務調査報告書(乙7及び乙8)は、乙第7号証4頁に記載のように、財政状態、経営成績を把握し、財務リスクを判断するために作成されたものであり、財務に関するアドバイスや研究、情報の提供が含まれることから、「金融及び財務に関する事項についての助言」、「金融及び財務に関する研究」「保険・金融及び財務に関する事項についての情報の提供(オンラインによるか否かを問わない。)」について、本件商標が使用されていることを示すものである。
ウ 財務調査報告書(乙9)は、過年度の損益及びキャッシュ・フローを分析・検討し、財務状況を報告するものであって、財務に関するアドバイスや研究、情報の提供に加えて、資産及び負債(債権及び債務の管理)に関する事項も含まれる。また、マネージメント・レター(乙10)は、財務会計上の問題を指摘するものであり、業務結果報告書(乙11)は、販売プロセスにかかる内部管理上及び会計上の問題点の抽出と改善案を提示するものであり、IPOショート・レビュー報告書(乙12)は、会計処理上の課題を提示するものであり、財務に関するアドバイスや研究、情報の提供に関する事項が含まれる。
そうすると、上記乙各号証(乙9ないし乙12)は、「金融及び財務に関する事項についての助言」、「債権及び債務の管理に関する助言」、「金融及び財務に関する研究」及び「保険・金融及び財務に関する事項についての情報の提供(オンラインによるか否かを問わない。)」について、本件商標が使用されていることを示すものである。
(4)乙第13号証ないし乙第30号証
BDO三優監査法人が、顧客や見込顧客の企業、金融機関等を対象に、隔月で150部ないし200部程度印刷、発送している機関誌「BDO三優ジャーナル」は、それぞれ平成21年12月から同24年10月にかけて配布されたものである(乙13ないし乙30)。なお、最近発行のものについては、インターネットからもアクセス可能となっている(乙31)。これらの表紙等に示された商標「BDO(Sanyu&Co)」が本件商標と同一であることは明らかであり、財務に関する情報や助言が掲載されていることから、「金融及び財務に関する事項についての助言」、「金融及び財務に関する研究」「保険・金融及び財務に関する事項についての情報の提供(オンラインによるか否かを問わない。)」について、本件商標が使用されていることを示すものである。
(5)甲第4号証
BDO三優監査法人の業務内容を記載したホームページの写し(甲4)の中央に示された商標が、本件商標と同一であることは明らかである。そして、金融や財務に関するアドバイス、研究、情報の提供を行う「ファイナンシャルアドバイザリーサービス」を行うことが広告されていることから、「金融及び財務に関する事項についての助言」、「金融及び財務に関する研究」「保険・金融及び財務に関する事項についての情報の提供(オンラインによるか否かを問わない。)」について、本件商標が使用されていることを示すものである。
(6)乙第32号証ないし乙第34号証
BDO三優監査法人が主催した特別セミナーのパンフレットの写し(乙32ないし乙34)に示された商標が、本件商標と同一であることは明らかである。これらには、金融や財務に関するアドバイス、研究、情報の提供を行うことが記載されていることから、「金融及び財務に関する事項についての助言」、「金融及び財務に関する研究」及び「保険・金融及び財務に関する事項についての情報の提供(オンラインによるか否かを問わない。)」について、本件商標が使用されていることを示すものである。
(7)乙第5号証及び甲第5号証
乙第5号証は、BDO IPとBDO東陽監査法人との間で、本件商標の使用のライセンスを含めたメンバーファームライセンス契約書であり、2011年(平成23年)1月4日に締結されたものであるから、BDO東陽監査法人は、日本における本件商標の通常使用権者である。そして、同法人の業務内容を記載したホームページの写し(甲5)の中央に示された商標が本件商標と同一であることは明らかである。当該ホームページには、財務に関する調査を行うことが広告されていることから、「金融及び財務に関する事項についての助言」、「金融及び財務に関する研究」「保険・金融及び財務に関する事項についての情報の提供(オンラインによるか否かを問わない。)」について、本件商標が使用されていることを示すものである。
(8)乙第6号証及び乙第35号証
乙第6号証は、BDO IPとBDOコンサルティング株式会社との間で、本件商標の使用のライセンスを含めたメンバーファームライセンス契約書であり、2011年(平成23年)1月4日に締結されたものであるから、BDOコンサルティング株式会社は、日本における本件商標の通常使用権者である。そして、同社の業務内容を記載したホームページの中央に示された商標が本件商標と同一であることは明らかであり、財務に関するコンサルティングを行うことが広告されていることから、「金融及び財務に関する事項についての助言」、「金融及び財務に関する研究」「保険・金融及び財務に関する事項についての情報の提供(オンラインによるか否かを問わない。)」について、本件商標が使用されていることを示すものである。
(9)甲第6号証
通常使用権者であるBDOアドバイザリー株式会社(乙4)の業務内容を記載したホームページの中央に示された商標が本件商標と同一であることは明らかであり、財務に関するコンサルティングを行うことが広告されていることから、「金融及び財務に関する事項についての助言」、「金融及び財務に関する研究」「保険・金融及び財務に関する事項についての情報の提供(オンラインによるか否かを問わない。)」について、本件商標が使用されていることを示すものである。
(10)小括
したがって、上記(2)ないし(9)にしめす乙各号証(一部甲各号証を含む)は、本件商標が、通常使用権者により上述の指定役務について、要証期間内に日本国内において使用されていることを立証するものである。
5 まとめ
以上のとおり、本件商標は、請求に係る指定役務「金融及び財務に関する事項についての助言等」に含まれる役務について、要証期間内に日本国内において使用されている。
第4 当審の判断
1 本件審判請求の適否について
被請求人は、本件審判の取消に係る指定役務中の「銀行業又はその付随業務に該当するもの」の表示は明確でなく、また、「金融及び財務に関する事項についての助言等」の役務に含まれないことを理由として、取消に係る役務の表示は、補正をされるか、又は、本件審判の請求は、却下されるべきであると主張する。
そこで検討するに、銀行法及び監督指針(甲9)によると、以下の事実が認められる。
(1)監督指針における「銀行の他業禁止規制の趣旨」の項には、「銀行には、銀行法上他業禁止規制が課せられているところ、その趣旨は、銀行が銀行業以外の業務を行うことによる異種のリスクの混入を阻止する等の点にある。」と記載されている。(甲9)。
(2)銀行法において、銀行業とは、「預金又は定期預金の受入れと資金の貸付け又は手形の割引とを併せ行うこと。」又は「為替取引を行うこと。」のいずれかの行為を行う営業をいう(銀行法第2条 以下「固有業務」という。)。
(3)銀行は、銀行法第10条第2項各号に列挙する業務及びその他の銀行業に付随する業務を営むことができる(銀行法第10条第2項)。
(4)上記(3)に述べるその他の銀行業に付随する業務(以下「その他の付随業務」という。)について、監督指針は、「銀行が従来から固有業務と一体となって実施することを認められてきたコンサルティング業務、ビジネスマッチング業務、M&Aに関する業務、事務受託業務については、取引先企業に対する経営相談・支援機能の強化の観点から、固有業務と切り離してこれらの業務を行う場合も『その他の付随業務』に該当する。」としている(甲9)。
(5)監督指針では、上記(4)に定められているコンサルティング業務等以外の業務(余剰能力の有効活用を目的として行う業務を含む。)が、「その他の付随業務」の範ちゅうにあるかどうかの判断にあたっては、「銀行法第12条において他業が禁止されていることに十分留意し、以下のような観点を総合的に考慮した取扱いとなっているか。」としている(甲9)。
ア 当該業務が銀行法第10条第1項各号及び第2項各号に掲げる業務に準ずるか。
イ 当該業務の規模が、その業務が付随する固有業務の規模に比して過大なものとなっていないか。
ウ 当該業務について、銀行業務との機能的な親近性やリスクの同質性が認められるか。
エ 銀行が固有業務を遂行する中で正当に生じた余剰能力の活用に資するか。
(6)当審における職権調査によると、日本における銀行グループにおいては、以下のようなサービスを提供している事実を確認できる。
ア 三井住友銀行のウェブサイトにおいて、「経営者・資産家・従業員の皆さまへのサービス」のタイトルのもと、「・・・資産家の皆さまの金融資産に関してそれぞれのニーズにあわせた総合的な金融サービスの提供を行う『資産運用・管理サポート業務』、法人のお客さまの人事・財務戦略の一環として、・・・確定拠出年金制度の構築・運営をサポートする『職域取引業務』があります。」の記載がある。
http://www.smbc.co.jp/aboutus/business/bumon/kigyou.html
イ みずほフィナンシャルグループのウェブサイトにおいて、「<みずほ>の事業一覧」のタイトルのもと、「<みずほ>では、銀行業務、証券業務、信託・資産運用業務等のさまざまな金融機能を結集して、お客さまの多様なニーズにお応えしています。」の記載、その下の「その他の業務」欄に「みずほ総合研究所」表示があり、「みずほ総合研究所の概要」のタイトルのもと、「主な事業内容」として、「リサーチ(内外の経済、金融、・・・分野にわたる調査・研究、各種刊行物等による情報発信)」の記載がある。
http://www.mizuho-fg.co.jp/company/group/outline/index.html
http://www.mizuho-fg.co.jp/company/group/outline/mhri.html
ウ 三菱UFJリサーチ&コンサルティングのウェブサイトにおいて、「ソリューション」のタイトルのもと、「コンサルティング、・・・、政策研究・調査・・・」の表示及び「シンクタンクレポート」のタイトルのもと、「・・・政策研究レポート・・・」の表示がある。
http://www.murc.jp/
(7)上記(1)ないし(6)を総合すると、銀行の行う「その他の付随業務」には、コンサルティング業務(助言)のほかに、銀行業務との機能的な親近性を有する業務として、「金融及び財務に関する研究」及び「金融及び財務に関する事項についての情報の提供」も含まれるといえる。そして、これら業務は、銀行の固有業務と切り離して行うことができるものである(甲9)。
(8)まとめ
そうすると、「金融及び財務に関する事項についての助言等」は、銀行が業務として行うことができるもの、つまり、“銀行業又はその付随業務に該当するもの”といえるから、取消に係る役務の表示は適切といえる。
したがって、本件審判の請求は適法なものと認める。
2 本件商標の使用について
(1)取消に係る役務について
請求人は、取消に係る役務は、銀行が提供する固有業務又は固有業務に付随して提供する付随業務であり、銀行業の免許を有しない者が銀行業の固有業務とまったく無関係に行うコンサルティング業務については、「付随業務」に該当しないため、請求人の取消請求の範ちゅうに属しないと主張する。
他方、被請求人は、銀行法第10条第2項各号に列挙された付随業務やコンサルティング業務等のその他の付随業務は、銀行業の免許がない限り禁止されているものではないから、商標権者や通常使用権者も銀行の付随業務を行うことができると主張する。
そこで、取消に係る役務における「銀行業又はその付随業務に該当するもの」について検討する。
ア 銀行法第10条第2項は、その柱書きにおいて「銀行は、前項各号に掲げる業務のほか、次に掲げる業務その他の銀行業に付随する業務を営むことができる。」として、同項1号から19号に具体的な業務を列挙している。また、上記柱書きの「その他の銀行業に付随する業務」については、上記1(4)のとおり、銀行が従来から固有業務と一体となって実施することを認められてきたコンサルティング業務等については、固有業務と切り離してこれらの業務を行う場合も「その他の付随業務」に該当するとなっている(甲9)。
イ 上記アのとおり、「その他の付随業務」には、銀行の固有業務と切り離したコンサルティング業務も該当するとなっているところ、上記1(6)で示すように、銀行(グループ)が、その固有業務と切り離してコンサルティング業務や調査・研究を行っている実情がある。
ウ 上記ア及びイからすると、「銀行業又はその付随業務に該当するもの」の表示において、「その付随業務に該当するもの」には、銀行がその固有業務と一体となって行うコンサルティング業務にとどまらず、固有業務と切り離して提供されるコンサルティング業務も含まれると解するのが相当である。
したがって、銀行業の免許を有しない者が銀行業の固有業務と無関係に行うコンサルティング業務については、「その付随業務」に該当しないとする請求人の主張を採用することはできず、取消に係る役務は、銀行以外の者により提供される「金融及び財務に関する事項についての助言等」も該当するものと認められる。
(2)被請求人の答弁及び提出された乙各号証から次の事実が認められる。
ア BDO三優監査法人(BDO Sanyu & Co.)は、2008年(平成20年)4月1日に、BDOグローバルコーディネーションBV(以下「BDO BV」という。)とメンバーファーム契約を締結した(乙1)。
そして、上記契約においては、「BDOの頭文字」について、「BDO BVにより・・・表示されたBDOの文字及びロゴ・・・」と、「財団」について、「Stichting BDO」とそれぞれ定義し、「BDO BVは、・・・BDOの頭文字を使用する権利を付与するため、財団法人からサブライセンス権及び他の権限を付与されている。」及び「BDO BVは、メンバーファームに対し、・・・BDOの頭文字、BDOテクニカルマニュアル・・・ライセンスをここに許諾する。」の記載がある(乙1)。
イ 三優監査法人は、「BDO三優ジャーナル」と題する冊子を、2009年(平成21年)12月1日(通巻第72号)から2012年(平成24年)10月1日(同第89号)の間、隔月で発行し、顧客等に頒布している(乙13ないし乙30)。
そして、平成21年12月1日に発行された同冊子(乙13)の表紙には、その中央右側の赤塗りの横長長方形内に、白抜きでデザイン化された「BDO」の文字と通常書体の「三優ジャーナル」の文字が上段に、同じく白抜きで「2009.December.No.72」の文字が下段に表示され、表紙下部には、太い縦線と横線を若干の空白部を設けて直角に繋げた図形を「BDO」の文字の左側にこれら文字全体に沿って配してなる標章及びその右側に「三優監査法人」の文字及び「BDO Sanyu & Co.」の文字が2段に表示されている。
また、当該冊子には、「三優監査法人統括代表社員○○による<視点> 上場企業の前年度決算に見る企業の決算処理と財務戦略の現状」、「IFRS会計処理のポイントと留意点(第2回)」及び「株式上場と対応(第4回)」などが掲載されている。
(3)上記(2)の認定事実から、以下のとおり、判断できる。
ア 商標の使用について
平成21年12月1日に発行された冊子の「BDO三優ジャーナル」(乙13)の表紙にある「BDO」の文字(以下「使用標章」という。)は、別掲のとおり、デザイン化された特徴ある書体であって、その右側にある通常書体の「三優ジャーナル」の文字とは、視覚上、分離して看取されることから、当該使用標章部分が独立し、識別標識として機能しているものとみて差し支えない。そして、使用標章は、本件商標「BDO」の文字の書体のみを変更したものであるから、本件商標と社会通念上同一の商標と認められる。
また、冊子に掲載されている内容は、上記(2)イのとおりであるところ、これらは金融及び財務に関する情報の一つといい得るものであり、これら情報を掲載した冊子を定期的に顧客等に頒布することは、「金融及び財務に関する事項についての情報の提供」の役務といえる。
そして、当該冊子に使用標章を付すことは、上記役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物(冊子)に標章を付したものを用いて役務を提供する行為(商標法第2条3項第4号)に相当するものと認められる。
イ 商標の使用者について
上記アの冊子(乙13)は、三優監査法人により発行されているものである。そして、上記(2)アのとおり、商標権者から「BDOの頭文字」を使用するサブライセンス権を付与されているBDO BVと、「BDOの頭文字」の使用契約を締結しているのは、BDO三優監査法人(邦訳)であるところ(乙1)、これは、三優監査法人の英語名称であるBDO Sanyu & Co.を直訳したものといえるから、三優監査法人とBDO三優監査法人は同一法人と推認し得る。
よって、三優監査法人は、日本における本件商標「BDO」の通常使用権者ということができる。
ウ 使用標章の使用時期について
三優監査法人は、要証期間内の平成21年12月1日、金融及び財務に関する情報が掲載され、表紙に使用標章を付した冊子「BDO三優ジャーナル」を発行し、当該冊子を顧客等に頒布することにより、「金融及び財務に関する事項についての情報の提供」の役務を行ったものと認められる。
(4)小括
以上からすると、本件商標の通常使用権者である三優監査法人は、要証期間内の平成21年12月1日に、役務の提供を受ける者の利用に供する物(冊子)に本件商標と社会通念上同一と認められる商標を付したものを用いて、「金融及び財務に関する事項についての情報の提供(銀行業又はその付随業務に該当するもの)」の役務を行ったということができる。
3 まとめ
以上のとおり、被請求人は、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、通常使用権者が、その請求に係る指定役務中の「金融及び財務に関する事項についての情報の提供(銀行業又はその付随業務に該当するもの)」について、本件商標の使用をしていたことを証明したものということができる。
したがって、本件商標は、商標法第50条第1項の規定により、その請求に係る指定役務についての登録を取り消すべきでない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 【別記】

審理終結日 2013-07-30 
結審通知日 2013-08-01 
審決日 2013-08-13 
審決分類 T 1 32・ 1- Y (Z36)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 亨子 
特許庁審判長 水茎 弥
特許庁審判官 村上 照美
梶原 良子
登録日 2001-10-30 
商標の称呼 ビイデイオオ 
代理人 鈴木 秀彦 
代理人 窪田 英一郎 
代理人 莇 智子 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ