• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部取消 商50条不使用による取り消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X25
管理番号 1285569 
審判番号 取消2012-301016 
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2012-12-27 
確定日 2014-02-24 
事件の表示 上記当事者間の登録第5160367号商標の登録取消審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 登録第5160367号商標に係る指定商品中,「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,アイマスク,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い」については、その登録は取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5160367号商標(以下「本件商標」という。)は,別掲に示すとおりの構成からなり,平成20年1月28日に登録出願され,第25類「洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,和服,アイマスク,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,布製幼児用おしめ,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い,ずきん,すげがさ,ナイトキャップ,帽子,防暑用ヘルメット,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,運動用特殊衣服,運動用特殊靴(「乗馬靴」を除く。)」を指定商品として同年7月10日に登録査定,同年8月15日に設定登録されたものである。
そして,本件審判は,商標法第50条第1項により,本件商標の指定商品中の一部商品について商標登録の取消しを請求するものであり,平成24年12月27日に請求され,その予告登録が同25年1月24日になされているものである。

第2 請求人の主張
請求人は,結論同旨の審決を求め,その理由及び答弁に対する弁駁並びに口頭審理陳述要領書による陳述を要旨以下のように述べ,証拠方法として甲1ないし甲11(枝番を含む。)を提出した。
1 請求の理由
本件商標は,その指定商品中「第25類 洋服,コート,セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽,アイマスク,エプロン,えり巻き,靴下,ゲートル,毛皮製ストール,ショール,スカーフ,足袋,足袋カバー,手袋,ネクタイ,ネッカチーフ,バンダナ,保温用サポーター,マフラー,耳覆い」について,継続して三年以上日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれも使用した事実が存しないから商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきものである。
2 弁駁の理由
被請求人は,答弁書において,本件商標に係る使用事実を証明する証拠として乙1ないし乙10を提出しているが,これら乙各は,いずれも商標法第50条第1項の規定による取消を免れるための証拠とはなり得ない。
(1)使用標章について
ア 乙各に示される標章の表示態様は商標的な使用ではない
商標としての使用となるかについては,昭和49年(ワ)第393号大阪地方裁判所昭和51年2月24日判決がある(甲3)。
ここで,被請求人が提出した乙各からすれば,エプロン全面に大きく「ロイズ石垣島」のロゴがデザイン化されていることに加え,Tシャツ(合議体注記:ティーシャツの誤記と認め以下「ティーシャツ」と標記する。)及びベストの右腕部分に「ROYCE’」の文字をやや大きく書したロゴがデザインされていること,ティーシャツ及びベストの背中部分に大きく「ROYCE’」等の文字がデザインされていること,帽子の前面を覆うように「ROYCE’」のロゴが大きくデザインされていることが窺える(以下,「ロイズ石垣島」を使用標章1と,「ROYCE’」を使用標章2という。)。
使用標章1及び2は,エプロン,ティーシャツ,ベスト,帽子に大きく表されているものであり,さらに青色あるいは白色の着色が施されていることも相俟って,エプロン等における一種の装飾であると解すべきである。さらに,乙各からは,エプロン等のタグ,吊り札,包装袋等に使用標章1及び2が使用されている事実は見いだせない。
さらに言えば,被請求人は,答弁書において,「スタッフが乙3に示すティーシャツ,乙1に示すエプロン,乙6示すキャップ,乙5に示すベスト等を着用していたところ,イベント回数が重なるうちに,スタッフが着用しているティーシャツやキャップは販売していないのかという問い合わせや欲しいという顧客が多数あったのが,ティーシャツ,ベスト,キャップ及びエプロンを販売する切っ掛けとなった」旨主張する。
この主張からすれば,当該エプロン等は被請求人が一般消費者に販売する商品として製造されたものではなく,むしろ菓子の売店で販売員に着用させる制服を意図して製造されていたことが窺える。すなわち,当該エプロン等に付された使用標章1及び2は,商標としてその機能を強力に発揮させるためではなく,混雑するイベント会場において,販売されている菓子が被請求人のものであることを判別しやすくする目的や自社の販売する菓子をアピールする目的のために付されたものである。つまり,使用標章1及び2は,ティーシャツ,ベスト,キャップの商品識別標識として付されたものではないから,これらが商標としてその機能を発揮しない態様であることは当然である。
よって,乙各において示された「ティーシャツ,ベスト,帽子,エプロン」における使用標章1及び2の使用は,被服等についての商標的な使用には該当しない。乙1ないし乙10は,被請求人が,対象指定商品について,本件商標の使用をしていた事実を証するものではない。
イ 本件商標と使用標章は同一ではなく,社会通念上同一でもない。
本件商標は「ROYCE’石垣島」であるのに対し,エプロンには「ロイズ石垣島」と記載されている。両者を比較すると前半部が「ROYCE’」であるか「ロイズ」であるかの差異を有しているところ,「ROYCE’」は『ロイズ』と称呼し得るほか,『ロイス』とも称呼できるものである。よって,本件商標と使用標章1は,同一の商標ではなく,商標法第50条第1項にいう「平仮名,片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって同一の称呼及び観念が生ずる商標」ではないから社会通念上同一の商標でもない。
また,本件商標は「ROYCE’石垣島」であるのに対し,ティーシャツ,ベスト及び帽子には「ROYCE’」と記載されている。本件商標と使用標章2は「石垣島」の有無において相違するため,同一の商標ではない。なお,被請求人は本件商標構成中「石垣島」は地名であるから「ROYCE’」も本件商標の使用になり得ると主張する。確かに「石垣島」は島の名称であるが,本件商標は「ROYCE’」と「石垣島」の語がまとまりよく一体に表されており,当該構成態様においては,「石垣島」の部分を付記的な部分とみなければならない理由がない。
以上より,使用標章1及び2の使用は,本件商標の使用には該当しない。
(2)使用商品について
ア 株式会社ロイズアドヘ有償提供したティーシャツ等は,商標法上,被請求人の「商品」には該当しない
乙2並びに乙4の1及び2によれば,被請求人が,標章「ロイズ石垣島」を付したエプロン及び標章「ROYCE’」を付したティーシャツ,ベスト,キャップ(以下「本件エプロン等」という。)を株式会社ロイズアドに有償提供したことがわかる。また,株式会社ロイズアドについて調べたところ,同社は被請求人の関係会社であり,広告代理業者であることがわかる(甲4の1及び2)。
しかしながら,株式会社ロイズアドヘ有償提供した本件エプロン等は,被請求人にとって商標法上の「商品」には該当しない。
ここで商標法上の商品とは,一般に,(a)有形のものであって主に動産であること,(b)取引の対象となり得るもの,(c)流通過程にのるもの,(d)量産できる関係にあるものの各要件を満たしているかどうかにより決まると解されている(甲5)。
本件をこれにあてはめるに,上記要件中(a)及び(d)の要件は満たしていると言える。しかしながら,株式会社ロイズアドが被請求人の関係会社であることに加え,株式会社ロイズアドが本件エプロン等を第三者・一般消費者に販売したことを証明する証拠も提出されていないところ,乙9に示される事実及び株式会社ロイズアドが広告代理業者である点を考慮すれば,該社が請け負い執り行う被請求人の為のイベントにおいて,菓子の製造販売業者である被請求人が,自社が製造する菓子についての販売員・スタッフに着用させるために,本件エプロン等を該社に有償提供したと推認できる。
つまり,株式会社ロイズアドヘ有償提供した本件エプロン等は,商標法上の被請求人においてその「商品」としての販売ではなく,イベント運営に携わる該社への菓子販売員・スタッフに着用させるための制服の有償提供であるとみるべきである。すなわち,使用標章1及び2との関係で言えば,“ROYCE’ブランド”に係る「菓子」の広告媒体としてのエプロン等又は「菓子の小売等役務」に用いられる制服の有償提供であるとみるべきである。とすれば,株式会社ロイズアドヘ有償提供した本件エプロン等は,ごく限られた一部の関係者,いわば被請求人の内輪の者のみが使用する目的のものと言うべきであり,一般の市場で流通し,取引の対象となる商品とは言い難く,上記要件中,(b)及び(c)の要件を満たさないから,商標法上の「商品」には該当しない。
したがって,乙2並びに乙4の1及び2は,被請求人が本件商標を商品について使用していた事実を証するものではない。
イ 使用標章1及び2の使用は対象指定商品についてのものではない
被請求人は,本件エプロン等を株式会社ロイズアドの他,顧客へ販売している旨主張するが,この主張を裏付ける証拠は一切提出されていない。
請求人が乙各を観察したところでは,乙9より,イベントにおいて使用標章2を付したベスト及び帽子等を着用した販売員が菓子を販売している事実は推認できる。
乙9については,被請求人はベスト及び帽子等の広告である旨主張するが,請求人が備に観察したところ,乙9では,使用標章を付したベスト及び帽子等が被請求人の商品として販売されている事実を認めることはできなかった。とすれば,一般消費者は,販売員等が着用しているベスト及び帽子等について,それを被請求人の商品であるとは認識せず,単に被請求人がイベントで販売する菓子の販売員・スタッフの着用物であると認識するのが自然である。つまり,乙各におけるエプロン等に示された標章の使用は,対象指定商品それ自体についての商標の使用ではなく,菓子についての商標の使用あるいは菓子の小売等役務についての商標の使用を示すものと言うべきである。すなわち,使用標章1及び2は,本件商標の使用ではなく,同社が所有する登録第5085995号商標等に基づく使用であると解すべきである。
以上より,使用標章1及び2は,対象指定商品の使用には該当しないため,乙1ないし10は,本件商標の使用証拠となり得ない。
(3)使用について
本件商標を対象指定商品について使用している事実につき,一切証明がなされていない
ア 本件商標が付されたエプロン等の販売について
乙1ないし8(枝番を含む。)は,いずれも本件商標を対象指定商品に使用していることを証明する証拠として不適確であり,被請求人が本件商標を付した対象指定商品を販売していることにつき一切証明がなされていない。
(ア)乙1ないし乙3,乙4の1及び2並びに乙6
乙1,乙3,乙6から「ロイズ石垣島」のロゴが入ったエプロン,「ROYCE’」のロゴを付したティーシャツ,ベスト,キャップが認められる。
しかしながら,当該証拠は,いずれも使用標章1及び2を表示したエプロン等が存在する状態を単に撮影したものであることを示すに過ぎず,エプロン等が実際に一般消費者に販売されているものであることを何ら証明するものでない。よって,乙1ないし乙3,乙4の1及び2並びに乙6は,被請求人が本件商標を対象指定商品について使用していた事実を証明するものではない。
(イ)乙7の1ないし3及び乙8の1ないし3
乙7の1ないし3及び乙8の1ないし3は,エプロン等の製造業者が発注者である被請求人の求めに応じて被請求人に販売したエプロン等について,被請求人に宛てた見積書及び請求書であるから,エプロン等の製造業者と発注者の被請求人間の取引に過ぎず,これをもって被請求人が本件商標を使用していたことの証明にはならない。
(ウ)その他の証拠及び被請求人の主張
乙5の1及び2,乙9及び乙10については,被請求人が,指定商品の販売のための展示及び広告していることを示す証拠であると主張するが,本件エプロン等が販売されている事実は見いだせなかった。
さらに,乙9については,菓子を販売していることは推認できるものの,被請求人が本件エプロン等を商品として取引している事実は一切見いだせなかった。
なお,被請求人は,スタッフが着用しているティーシャツ等は販売していないのかという問い合わせや欲しいという顧客が多数あったのが,当該ティーシャツ等を販売する切っ掛けとなった旨主張しているが,かかる主張を裏付ける証拠は何も提出されていない。
イ エプロン等の販売のための展示又は広告について
乙5の1及び2,乙9及び乙10については,被請求人は,本件エプロン等の販売のための展示及び広告を行っていることを示す証拠であると主張するが,当該乙各に示される行為はいずれも,対象指定商品の販売のための展示には該当せず,また,対象指定商品の広告にも該当しない。
(ア)乙5の1及び2
乙5の1及び2は,「ロイズ石垣島」のロゴが入ったエプロン,「ROYCE’」のロゴを付したティーシャツ,ベスト,キャップが菓子販売の店舗に存在する状態を撮影した写真であることを示すに過ぎず,被請求人が本件エプロン等の販売のための展示及び広告を行っていることを何ら立証していない。
一般に,生菓子が販売されているスペースにおいて被服が展示されているのは不自然である。また,展示の態様もエプロン等の被服を単にハンガーにかける,単にマネキンに着せる等の簡易なものであり,本件エプロン等の販売(譲渡)のための展示及び広告として体をなしていないと言わざるを得ない。
さらに言えば,上述のとおり,そもそも本件エプロン等を一般消費者に販売している事実を証明できていないから,乙5の1及び2は,本件エプロン等についての販売(譲渡)のための展示及び広告には該当し得ない。さらに,被請求人は,当該展示を平成24年4月から実施している旨主張しているが,これを証明する証拠は何も提出されていない。
(イ)乙9及び乙10
乙9及び乙10により,菓子の販売は認められるものの,本件エプロン等を販売していることは確認できない。
被請求人の主張によれば,乙9は対象指定商品の広告に該当するとのことであるが,当該イベントにおいて本件エプロン等が販売されていることは認識できないことから,一般消費者は販売員・野球選手が着用しているベスト及び帽子等を「商品」だとは認識し得ない。むしろ,イベントにおいて販売されている菓子が被請求人のものであること及び当該イベントの主催者が菓子の製造販売業者である被請求人であることをアピールするための菓子の広告媒体としての制服又は菓子の小売等役務に用いられる制服であると認識するのが自然である。
よって,乙9で示されるベスト及び帽子等の着用は,対象指定商品についての広告ではなく,ベスト及び帽子等を広告媒体とする被請求人の製造販売にかかる菓子についての広告であり,当該広告に使用標章2を付して展示等をする行為と解すべきである。
以上より,乙各を確認した限りでは,対象指定商品について,被請求人が本件商標を使用していることの証明が一切なされていない。
(4)使用の時期について
乙1,乙3,乙6については,単に本件エプロン等を撮影したに過ぎず,被請求人が審判の対象となっている指定商品について使用標章1及び2を使用している日付を特定できない。これについては,被請求人は,乙2及び乙4を提出してエプロン等については,平成24年12月10日付近で取引があった旨主張するが,上述のとおり,株式会社ロイズアドヘ有償提供した当該エプロンは,商標法上の商品には該当しないから,乙2及び乙4の1及び2は,使用証拠としての適確性を欠く。
被請求人は,乙5の1及び2を提出し,少なくとも平成23年4月から販売のための展示を行っている旨,またこれが商品の広告ともなっている旨主張するが,乙5の1及び2には日付を特定できるものが何もなく,平成23年4月から販売のための展示を行っている旨を証明できていない。
また,乙9,乙10及びその他の証拠を詳細に確認しても本件商標を付したベスト等が販売されている事実を確認することができず,その他,菓子の販売員及び野球選手による当該ベスト等の着用が商品「ベスト,帽子」の広告であるとみなければならない証拠は提出されていない。よって,乙9及び乙10は,対象指定商品について,被請求人が,本件商標を使用した事実を証明する証拠とはなり得ない。
以上より,答弁書において提出された乙各は,被請求人が対象指定商品について,本件商標を使用していた時期を何ら証明していない。
3 口頭審理期日(平成25年8月22日付け口頭審理陳述要領書)における陳述
(1)審理事項通知書で示された審理事項の説明について
ア 被請求人と株式会社ロイズアドとの関係について
被請求人は,株式会社ロイズアドは被請求人の宣伝活動,販促活動を行っている会社である旨説明しているが,それを証明する証拠の提出がなされなかったため,請求人は被請求人及び株式会社ロイズアド等の履歴事項全部証明書を取り寄せた(甲6の1ないし3)。
これらの甲6の1ないし3によれば,株式会社ロイズアドは,被請求人とは同一グループ内企業であり,被請求人の宣伝活動,販促活動のために設立された会社であることが明確になった。株式会社ロイズアドは,被請求人とはたとえ別法人であるとしても,被請求人の一機関であると同視できるくらい密接・特別な関係にあることが明らかになったと考える。また,株式会社ロイズアドは,被請求人の発注を受けて被請求人のために被請求人の商品の宣伝活動,販促活動をする会社であるから,株式会社ロイズアドと被請求人とは,被請求人の商品の流通市場における,被請求人の願客の関係にないことが明らかである。
さらに,株式会社ロイズアドのハウスマークと思われる商標「ROYCE’AD/ロイズアド」に係る商標権は全て被請求人が取得しているから,株式会社ロイズアドは,被請求人と同一グループ企業であり,被請求人の宣伝活動,販促活動を行うために存在している会社であることが窺える(甲7の1ないし4)。
イ ふと美工場直営店で,一般の顧客に商品を販売した事実及び商品の展示事実について
(ア)被請求人は,ふと美工場直営店で一般の顧客に販売した事実を示す書類はないと陳述している。
この陳述により,被請求人が,ふと美工場直営店で一般の顧客に対し,標章「ロイズ石垣島/ROYCE’ISHIGAKIJIMA」を付したエプロン(以下「本件エプロン」という。)を販売した事実を証明できないか,又はふと美工場直営唐で一般の顧客にそれらを販売した事実は存在しない。
(イ)乙5の1及び2の写真について
被請求人は,審理事項通知書において,審判官より「乙5の1及び2の写真について,これらを撮影した日付を確認できる証拠を示されたい。また,その撮影者を明らかにされたい。」と指摘されている。これに対し,被請求人は,撮影日の日付と撮影者の住所・氏名を述べている。
しかしながら,撮影日及び撮影者を表明してはいるものの,単に述べているだけであって,「撮影した日付を確認できる証拠」を何等提出していない。さらに,被請求人が撮影日として述べている2013年(平成25年)3月12日は,本件審判の請求の登録の日より後である。よって,乙5の1及び2は,審判の請求の登録前三年の期間内における展示の証明とはなり得ず,使用証拠としての価値はない。
(ウ)ふと美工場直営店での本件エプロンの販売・展示についての纏め
答弁書によれば,ふと美工場直売店での販売のための展示は少なくとも平成23年4月頃から実施しているとのことであるが,その事実を証明する証拠は何等提出されていない。なお,請求人が調べたところ,平成24年8月頃には当該展示場所に本件エプロンが展示されている形跡はない(甲8)。
さらに,乙5の1及び2を詳細に確認したところ,当該写真中,菓子が入ったショーケースの隣り,及び青色エプロンの左下に絵画の額縁と思しき枠が立て掛けられている。そして,甲8を備に確認すると,乙5の1及び2に示される本件エプロン等の展示場所には,もともと絵画が飾られていたことがわかる。そして,ふと美工場直営店では,絵画を展示し,店舗をギャラリーのようにすることで集客を図っている事実がある(甲10の1及び2)。 これらの事実を総合的に勘案すれば,乙5の1及び2に示される本件エプロンの展示場所には,絵画が展示される状態が常だと考える。
以上よりすれば,審判の請求の登録前三年以内に,ふと美工場直営店で,本件エプロン等を一般の顧客に販売した事実,本件エプロンを展示していた事実そのものがないと言わざるをえない。
(2)弁駁書に対する答弁(再答弁)について
ア 被請求人は,乙11ないし乙13を提出し,使用標章が商標法第2条第3項第1号及び同第2号による「商標の使用」に該当する旨陳述している。
しかしながら,提出されている判決では,標章が付されているものは商標法上の商品である事案なのに対し,本件エプロンは請求人における商標法上の商品ではない点で大きく異なる。
「スタッフが着用しているティーシャツやエプロンは販売していないのかという問い合わせや欲しいという顧客が多数あったのが,ティーシャツ等を販売する切っ掛けとなった」との被請求人の主張よりすれば,本件エプロンは菓子の販売員に着用させる制服を意図して製造されていたことは明白である。すなわち,使用標章1は,商品「エプロン」についての商標としての機能を発揮させるためではなく,混雑するイベント会場において,販売されている菓子が被請求人のものであることを判別しやすくする目的や自社の販売する菓子を宣伝広告する目的のために付されたものである。
以上より,使用標章1は,商品としての「エプロン」についての「商標」には該当しない。また,当然,「エプロン」について,使用標章1を付する行為は,商標法第2条第3項第1号に定める「使用」には該当しないというべきである。
イ 被請求人は,乙1,乙5の1及び2について,一般の顧客に本件エプロンを販売している事実を証明するものを何等提出していないところ,提出されている証拠資料よりすれば,本件エプロンは,被請求人が製造・販売する菓子の販売員に着用させる制服あるいは菓子の広告媒体であるとみる他なく,またそのように解するのが相当である。
使用標章1を乙1に示されるエプロンに付する行為は,菓子の小売等役務に従事する販売員の制服に商標を付する行為(商標法第2条第3項3号)あるいは菓子の広告に商標を付する行為(商標法第2条第3項第8号)に該当すると考える。すなわち,被請求人が所有する登録商標の使用であると解すべきである(甲9の1及び2)。
さらに,仮に使用標章1が商標法第2条第3項各号に該当するとしても,使用標章は,本件商標と同一ではなく,社会通念上同一の商標でもない。
ウ 被請求人は,「このエプロン等が乙5の1及び2に示すように展示され,乙2のように取引されている事実からすれば,エプロン等は,本件の指定商品であると理解できる。」と陳述しているが,前述のとおり,ふと美工場直営店で本件エプロンを展示していた事実は証明されていない。
また,被請求人が株式会社ロイズアドに有償提供した事実は,たった一回,かつ,たった2点である。かかる取引にあっては,反復,継続してなされた業としての商品取引の形態とみることはできない(甲10)。
よって,被請求人が株式会社ロイズアドヘ有償提供した本件エプロンに付されている標章は,商標法上の「商品」ではないエプロンに付されたものであるから,エプロンについての,商標法第2条第1項第1号に定める「商標」には該当しない。
したがって,乙2は本件商標を指定商品に使用していたことの証拠とはならない。
エ 被請求人は,株式会社ロイズアドは本件商標の通常使用権者であり,本件商標を使用している旨陳述するが,株式会社ロイズアドが本件エプロンを購入希望者に対して販売した事実は一切証明されていない。
4 結語
以上のとおり,被請求人及び通常使用権者である株式会社ロイズアドは,本件商標を本件審判請求の登録前三年以内に日本国内において,取消請求に係る指定商品について使用していたとは認められない。

第3 被請求人の答弁
被請求人は,本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。との審決を求めると答弁し,その理由及び口頭審理陳述要領書による陳述を要旨以下のように述べ,証拠方法として乙1ないし乙14(枝番を含む。)を提出した。
1 答弁の理由
被請求人は,取消請求に係る指定商品について,審判の請求の登録前三年以内に,日本国内において,商標権者が登録商標の使用をしている。したがって,前記指定商品についての登録を取り消されるべき理由はない。
(1)使用者
使用者は,株式会社ロイズコンフェクトであり,本件審判の請求に係る商標権についての商標権者である。
(2)使用の態様
使用の態様は,乙各に示すとおり,商標権者による指定商品の販売及び広告である。
ア 乙1は,商標権者が販売しているエプロンの写真である。このエプロンには,ロイズ石垣島のロゴが表示されているので,これは登録商標の使用に当たる。
乙2は,株式会社ロイズコンフェクト(商標権者)が発行した請求書の写しであり,商標権者が,株式会社ロイズアドにエプロンを販売したことが判る。この請求書には,品名として,ROYCE’ロゴ入りエプロンと明記され,ここでの取引商品は,乙1に示すエプロンと同様のエプロンであることが判る。この請求書の日付は,2012年12月10日であり,この日付の近い以前の取引であることが判る。これは,本件審判の請求の登録前三年以内における日本国内での商標権者による指定商品に対する登録商標の使用である。
イ 本件商標「ROYCE’石垣島」では,「石垣島」は島の名称であって地名であるから,ROYCE’も本件商標の使用である。
乙3は,商標権者が販売しているティーシャツの写真である。このティーシャツには,ROYCE’のロゴが表示されているので,商標「ROYCE’」の使用にあたる。
乙4の1は,株式会社ロイズアドの注文により商標権者が発行したティーシャツの見積書の写し,乙4の2は同請求書の写しであり,商標権者が株式会社ロイズアドにティーシャツを販売したことが判る。これらの書類には,品名としてROYCE’ロゴ入りティーシャツと明記されているので,ここでの取引商品は,乙3に示すティーシャツと同様のティーシャツであることが判る。また,この書類の日付は,見積書が平成24年11月15日,請求書が2012年12月10日であるから,平成24年11月15日から同年12月10日の間の取引であることが判る。
ウ 乙5の1及び2は,商標権者のふと美工場直売店での販売のための展示風景である。乙3に示すティーシャツの他にベスト,エプロン及び帽子(以下,キャップと称す。)も取り扱っている。エプロンは乙1の写真,キャップは乙6の写真,ベストは乙5の2の下段の写真にそれぞれ示すとおりです。これらのキャップ及びベストにも商標「ROYCE’」のロゴが表示され,特に,エプロンには,ロイズ石垣島と表示されている。
したがって,ここでの販売のための展示も指定商品に対する登録商標の使用であり,少なくとも平成23年4月頃から実施している。また,この販売のための展示は,商品の広告にもなっている。
エ これらのエプロン,ベスト及びキャップが少なくとも平成24年12月10日以前から取引されていたことは,乙2の請求書の写しから理解できる。この請求書も品名に,ROYCE’ロゴ入りベスト,ROYCE’ロゴ入りキャップ,ROYCE’石垣島ロゴ入りエプロンと記載されており,この取引された商品も乙1,乙6及び乙5の2に示すエプロン,キャップ及びベストと同様のROYCE’のロゴが表示されたものと判る。
オ 商標権者は,販売促進のために種々のイベントを開催しており,その際にスタッフは,乙3に示すティーシャツ,乙1に示すエプロン,乙6に示すキャップ及び乙5の2に示すベスト等を着用していたところ,イベント回数が重なるうちに,スタッフが着用しているティーシャツやキャップは販売していないのかという問い合わせや欲しいという顧客が多数あったのが,エプロン等を販売する切っ掛けになり,少なくとも平成18年頃には取引していた(乙7の1ないし乙8の3参照)。
乙9は,イベントの一例を示すイベントの様子を示す写真であり,スタッフはROYCE’のロゴが表示されたベスト及びキャップを着用している。このイベントは,乙10に示すように平成24年5月4日に北海道日本ハムファイターズとオリックス・バッファローズ戦の野球試合が行われた時に札幌ドームで行ったものである。このようなイベントでのティーシャツ等の着用がこれらの着衣の販売促進の広告になっていることは,ティーシャツ等の販売の切っ掛けになったことでも判る。したがって,スタッフのティーシャツ等の着用も指定商品の広告としての登録商標の使用にあたる。
カ 結論
以上のように,指定商品について,本件審判の請求の登録前三年以内に,日本国内において,商標権者が登録商標の使用をしている。
2 口頭審理期日(平成25年8月9日付け口頭審理陳述要領書)における陳述
(1)審理事項通知書で示された審理事項の説明
ア 被請求人と株式会社ロイズアドとの関係について
株式会社ロイズアドは,被請求人の宣伝活動,販促活動を行っている会社である。両会社は,通常の企業間でのやり取りと変わりなく,互いに毎月請求書を発行し,精算している。
イ 乙2の請求書の下段部にある,「[確認事項]2013年2月末日お支払い分より相殺いたします。」との具体的な記載内容
株式会社ロイズアドから被請求人には,乙2の請求書に示すように,ROYCE’ロゴ入りティーシャツやROYCE’ロゴ入りベスト,同キャップ等が間隔の長短はあっても継続して発注されているので,この時,株式会社ロイズアドから被請求人に対する支払いが生じる。一方,株式会社ロイズアドは,被請求人の宣伝活動や販促活動を行っているので,これにより被請求人から株式会社ロイズアドに対する支払いが生じる。この互いの支払い時に相殺するとしている。
ウ ふと美工場直営店で一般の顧客に販売した事実を示す書類について
ふと美工場直営店で一般の顧客に販売した事実を示す書類はない。
エ 乙1,乙5の1及び2の写真について
撮影日:2013年3月12日
撮影者:住所 北海道札幌市北区あいの里4条9丁目1番1号 株式会社ロイズコンフェクト内 氏名 岡田仁行
オ エプロンの部分拡大写真について
乙1の写真等に写された「エプロン」の「ロイズ石垣島」の文字及びその下に表示された欧文字部分を拡大した写真を乙1の1として提出する。その写真の撮影日は,2013年8月1日で,撮影者は前記と同じである。
(2)弁駁に対する答弁
ア 請求人は,平成25年4月26日付の審判事件弁駁書において,昭和49年(ワ)第393号大阪地方裁判所判決「アンダーシャツ」事件を挙げ,商標的使用ではない旨を主張しているが,これは,昭和58年(ワ)第27号大阪地方裁判所判決「マフラー」事件(乙9)・昭和61年(ワ)第4147号「かばん」事件(乙10)等により覆されており,その後,ゴルフシャツ等のワンポイントマークの進展(パーマー傘,ニクラウス熊)や,立体商標制度創設からも「商標」となっている等の流れにより,これらが「商標の使用」であることは明らかである。また,平成14年(行ケ)第500号東京高等裁判所判決によれば,「本件使用標章がそれ自体としての,あるいは他の文字や図形との組合せに係る意匠的な機能を果たしているからといって,標章としての自他識別力が当然に否定されるものではなく,これが同時に商標にも該当するということは何ら妨げられるものではない。」と明確に判示している(乙11)。
したがって,本件商標がティーシャツの商標として胸に又は背に表示されている状況(乙1の1)は,商標法第2条第3項第1号及び同第2号による「商標の使用」に該当することは明らかである。
イ とすれば,乙1,乙5の1及び2に示すエプロンは,本件指定商品に対する本件商標の使用である。
また,このエプロンが乙5の1及び2に示すように展示され,乙2に示すように取引されている事実からすれば,エプロン等は本件の指定商品であると理解できる。
ウ 株式会社ロイズアドは,被請求人の宣伝活動,販促活動,商品企画,商品外装の企画制作などを行っている会社であり,株式会社ロイズアドは,被請求人から長短の間隔はあっても継統してROYCE’石垣島入りのエプロン等を有償で購入し,購入希望者に対し販売すると共に宣伝活動,販促活動の際に着用して活動しているのであるから,株式会社ロイズアドは,本件商標権に対する通常使用者と解され,通常使用権者の本件指定商品に対する本件商標の使用である。
(3)口頭審理期日における求釈明事項について
本件審判事件における平成25年9月6日の口頭審理において,補完及び釈明を求められた事項については,次のとおりである。
被請求人と株式会社ロイズアドとの相殺に関し,乙2及び乙4の2に記載された相殺は,乙14の1に示す説明書のとおりである。この説明書は,株式会社ロイズコンフェクトの株式会社ロイズアドに対する債権・債務の状況と2013年2月末日の決済(相殺)の状況を記載している。
決済(相殺)状況を証明するため補助元帳(乙14の2)と仕訳日記帳(乙14の3)を添付する。この補助元帳及び仕訳日記帳は,会計ソフトから直接印刷したもののコピーである(2013年2月末日の決済(相殺)に関係ない部分は塗りつぶしてある。)。
また,被請求人と株式会社ロイズアドの取引の整合性を証明するために,株式会社ロイズアドの補助元帳(乙14の4)及び仕訳日記帳(乙14の5)を添付する。これは会計ソフトから直接印刷したもののコピーである。
さらに,2013年2月末日の相殺後の代金振込を証明するために,ネットバンキングのデータ振込書類のコピー(乙14の6)を添付する。

第4 第1回口頭審理調書の要旨
平成25年9月6日の口頭審理期日において,請求人及び被請求人は,要旨以下の陳述をし,これが口頭審理調書に記載された。
1 請求人
被請求人の提出する上申書に対して反論がある場合は,上申書として提出する。
2 被請求人
(1)乙5の撮影日は,口頭審理陳述要領書に記載された日時に相違ないことを認める。
(2)乙2に関して,株式会社ロイズアドは商品を他人に無料で配布していたが,有料での販売はしていない。また,他人に無料で配布した証拠はなく,販売した証拠もない。
(3)乙2に関して,被請求人と株式会社ロイズアドが相互に有する商取引上の債権,債務の関係をどのように相殺しているかを明らかにする書面を提出する。

第5 当審の判断
被請求人は,本件商標が本件審判の請求前三年以内に使用されたと主張して,乙各を提出している。
そこで,以下,請求人の各主張の是非について,乙各及び甲各に基づいて検討する。
1 乙各について
(1)乙1,乙3及び乙6について
被請求人は,乙1,乙3及び乙6をもって,本件商標が使用されていると主張しているが,乙6は,商品「帽子(キャップ)」に使用されているものであり,これは本件審判の取消対象以外の商品であるから,本件取消対象商品の使用の事実を示すものということはできない。
また,本件商標は,「ROYCE’石垣島」と,同一書体でまとまり良く表示されているところ,乙3のティーシャツに示された「ROYCE’」の標章は,「石垣島」の文字がないことから,本件商標とその構成態様が明らかに異なり,これをもって,本件商標が使用されているということはできない。これに対し,被請求人は「石垣島」は地名であるから「ROYCE’」も本件商標の使用にあたる旨主張するが,「石垣島」が地名であるとしても,登録商標が「ROYCE’石垣島」である以上,その構成の一部である「ROYCE’」の使用をもって登録商標の使用ということはできない。
したがって,本件においては,乙1のエプロンに表示された「ロイズ石垣島」が本件商標の使用といえるか否かが争点といえる。
この点については,以下の「2 使用されている商標について」において検討する。
(2)乙2及び乙4について
乙2は,被請求人が株式会社ロイズアド(以下「ロイズアド」という。)に宛てた「ROYCE’ロゴ入りベスト,同キャップ,ROYCE’石垣島ロゴ入りエプロン」の記載のある請求書である。ここに示された日付(同年12月10日)は,本件審判の請求の登録日(同25年1月24日)前三年以内(以下「本件要証期間」という。)のものであるから,乙1に示されたエプロンが,本件要証期間内に,被請求人からロイズアドに譲渡されたと認めることができる。
そして,乙2の請求書の下部にある「[確認事項]2013年2月末日お支払い分より相殺いたします。」との記載については,乙14(枝番を含む。)によれば,当該取引の代金の決済は,相殺取引によりなされたことが確認できる。
そして,この乙2により譲渡されたと認められるエプロンが,本件取消審判の対象としての商品といえるか否かについては,以下の「5 本件商標が付されたエプロンの商品性について」において検討する。
なお,乙4の1及び2は,被請求人がロイズアドに宛てた見積書及び請求書であるが,これらにはエプロンの記載はない。
(3)乙5について
当審は,被請求人に対して,平成25年7月5日(発送)の審理事項通知書により,「乙5の1及び2の写真について,これらを撮影した日付を確認できる証拠を示されたい。」との通知をした。
これに対して,被請求人は,口頭審理陳述要領書において,同写真の撮影日は2013年3月12日であるとの陳述を行った。
そして,この撮影日は,本件要証期間後のものであるから,乙5(枝番を含む。)をもって,本件要証期間内に本件商標が使用されたと認めることはできない。
なお,被請求人は,ふと美工場直売店では,乙1のエプロン等を販売のために展示・広告しており,これは指定商品に対する登録商標の使用であり,少なくとも平成23年4月頃から実施している旨主張しているので,ふと美工場直売店において,乙5(枝番を含む。)に示されているようなエプロンの展示行為があったかについて,念のため検討する。
乙5の1及び2の写真を見ると,ここに示された展示方法は,エプロン等をハンガーに掛けて,上部から下がったフック付のワイヤーで吊し,あるいはマネキンにベストを着せて展示した状態のものであり,その周囲には,当該商品を販売している旨の表示等がなく,また,当該エプロン等には,正札等が付されておらず,販売を目的とする商品の展示方法としては不自然なものといえる。
そして,甲8である平成24年8月20日の状態を表示したものと認められるインターネット情報(http://tabelog.com)によれば,ふと美工場直売店にはエプロン等が展示されている形跡は認められず,かえって同展示場所の,乙5の1においてエプロンが展示されているところには絵画が飾られていることが確認でき,さらに,被請求人のウェブサイトと認められる甲11の1及び2によれば,同人が,エプロン等を展示していると主張する展示場所は,ギャラリーとして絵画の展示を行っていることが記述されている。
加えて,乙5の1の上の写真のエプロンの下には,絵画用の額と思しき物品が立て掛けて置かれているのが確認でき,また,同写真のハンガーに掛けられた商品は,前に掛かっていたものを外した位置にそのまま商品を掛けたかのようにエプロンとティーシャツが高さを違えて配置されており,さらに,乙5の1の下の写真の右端には,壁に絵画用の額と思しき物品が掛けられていることが観てとれ,床には絵画用の額と思しき物品が立て掛けて置かれていることも確認できる。
さらに,被請求人の主張によれば,当該商品の展示は,平成23年4月頃から実施しているとのことであるが,その頃以降,本件要証期間までの間で,「ふと美工場直売店で一般の顧客に販売した事実を示す書類はない。」との被請求人の口頭審理陳述要領書での陳述も合わせて検討すれば,ふと美工場直売店において,エプロンが販売を目的として展示されていたとする事実を認めることは極めて困難であるといわざるを得ない。
したがって,ふと美工場直売店で,平成23年4月頃からエプロンを販売のために展示・広告している旨の被請求人の主張は採用することはできない。
(4)乙7及び乙8について
乙7の1ないし3は,キャップ及びベストを被請求人に納品した,株式会社エムズトラスティーによる商品の見積書,納品書及び請求書であり,また,乙8の1ないし3は,ティーシャツを納品した有限会社プリネームによるティーシャツ等の見積書,納品書及び請求書であり,そもそも,エプロンに関するものでない上に,商品の納品者と発注者である被請求人との間において取引があったことを証明する書類にすぎないから,これらをもって,被請求人が本件商標を使用していたことの証明にはならない。
(5)乙9及び乙10について
被請求人は,答弁書において,被請求人は販売促進のために種々のイベントを開催しており,このようなイベントでのスタッフによるティーシャツ等の着用は,これら着衣の販売促進の広告になっており,登録商標の使用にあたる旨主張し,乙9及び乙10を提出している。
しかしながら,これらイベントで,スタッフによるエプロンの着用は認められないところ,ティーシャツ等についてみても,乙9の写真からは,ティーシャツ等が販売のために展示されている様子は観てとれず,このイベントにおいて販売スタッフが着用しているティーシャツ等は,被請求人の商品であるチョコレート等の販売を促進するために着用する制服とみるのが自然であり,商品であるティーシャツ等の販売促進の広告行為であるいうことはできない。
また,乙10は,平成24年5月4日の北海道日本ハムファイターズとオリックス・バッファローズ戦の野球試合が行われた時に札幌ドームで行われた被請求人のイベントに向けての広告(ちらし)であり,これからは,本件商標が,取消対象の商品に使用されている事実は認められない。
したがって,上記の被請求人の主張は採用することはできない。
2 使用されている商標について
請求人は,エプロンに表示された「ロイズ石垣島」は,本件商標「ROYCE’石垣島」と同一の称呼を生じるものではなく,商標法第50条第1項にいう「平仮名,片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって同一の称呼及び観念が生ずる商標」ではないから社会通念上同一の商標でもない旨主張している。
そこで,「ロイズ石垣島」と「ROYCE’石垣島」とを対比すると,確かに,両者の対比においては,本件商標中の「ROYCE’」は「ロイズ」のほかに「ロイス」の読みが可能であって,その読みを「ロイズ」と特定することはできない。しかしながら,エプロンの「ロイズ石垣島」の表示に下に,文字は小さいものの「ROYCE’ISHIGAKIJIMA」の文字が表示されていることから,これら二段の表示をもって,被請求人の使用する標章を,本件商標と社会通念上同一の商標と認められるものとみるのが相当である。
また,請求人は,エプロンに表された「ロイズ石垣島」やティーシャツ等に表示された「ROYCE’」の文字は,イベント会場において販売されている菓子が被請求人のものであることを判別しやすくする目的や自社の販売する菓子をアピールする目的のために付されたものであり,エプロン等の商品識別標識として付されたものではなく,これらエプロン等の商標としての機能を発揮しない態様であり,被服等についての商標的な使用には該当しない旨主張している。
しかして,被請求人の商品である菓子の宣伝等を目的に付される,本件商標と社会通念上同一の構成からなる標章が,エプロンに表示されることがあるからといって,その表示が,需要者により当該エプロンの商標を表示したものと認識されるのであれば,その自他商品識別力が否定されるものではなく,当該標章が商標の使用に該当するとみることに何ら不都合はないというべきである(乙11及び乙12参照)。
これを本件についてみると,前記のとおり,乙1,乙1の1並びに乙5の1及び2のエプロンには,「ロイズ石垣島」が大きく表示され,その下に小さく「ROYCE’ISHIGAKIJIMA」の文字が表示されている(以下,この二段書き商標を「使用標章」という。)。
しかして,使用標章は,文字からなるものであるから,これが大きく顕著に表示されているからといって,エプロンのデザイン(意匠)と認識されるというよりも,当該エプロンが商品として一般の取引市場に供されているという実情にあれば,使用標章について当該エプロンの商標を表示したと,需要者によって認識されるとみることは何ら不都合はないというべきである。
そして,乙1に示された本件エプロンが,商品として一般の取引市場に供されているという実情にあるか否かについては,以下の「5 本件商標が付されたエプロンの商品性について」で検討する。
3 本件商標は通常使用権者により使用されたか
被請求人は,答弁書において,本件商標の使用者は被請求人である株式会社ロイズコンフェクトであると主張しているところ,口頭審理陳述要領書においては,ロイズアドは本件商標権に対する通常使用者と解され,本件商標の使用であるとの新たな主張をしている。
しかして,証拠及び両者の主張の全趣旨によれば,ロイズアドは,被請求人商品の宣伝活動,販促活動を行っている会社であり,同一グループ内の企業であるということができる。
そうであれば,両者間における通常使用権の契約書などの証拠の提出はないものの,本件商標がロイズアドにより使用された事実が確認できれば,ロイズアドは,黙示の許諾に基づく通常使用権者として本件商標を使用したとみて差し支えないということができる。
そこで,ロイズアドが本件商標を,本件要証期間内に,商標法第2条第3項所定の使用行為をしたか否かについて検討する。
(1)ロイズアドによる商品の販売行為について
この点について,被請求人は,口頭審理陳述要領書において,ロイズアドは被請求人から長短の間隔はあっても継続してROYCE’石垣島ロゴ入りのエプロンを有償で購入し,購入希望者に対し販売していると主張しているところ,他方で,口頭審理期日において,「乙2に関して,株式会社ロイズアドは商品を他人に無料で配布していたが,有料での販売はしていない。また,他人に無料で配布した証拠はなく,販売した証拠もない。」との陳述をしており,ロイズアドがエプロンを購入希望者に対し販売しているとの主張を,事実上撤回している。
したがって,ロイズアドが通常使用権者としてエプロンを販売している事実は認められない。
(2)ロイズアドによるその他の使用行為について
次に,ロイズアドが,(a)商品又は商品の包装に標章を付する行為(商標法第2条第3項第1号),(b)商品又は商品の包装に標章を付したものを・・・譲渡若しくは引渡しのための展示・・・する行為(同2号)及び(c)商品・・・に関する広告,価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し,若しくは頒布し,又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為(同8号)に定める行為をしたかについて検討するに,被請求人からは,その事実を示す証拠が提出されていないので,ロイズアドが当該行為を行ったと認めることはできない。
したがって,ロイズアドが,通常使用権者として本件商標を使用したということはできない。
なお,附言するに,乙14の4の(RA-2)との帳票(補助元帳)によれば,ロイズアドは,乙4のティーシャツ等を「消耗品費」として会計上の処理をしていることから,同人は,これらの商品を自己の事業に使用する用具として被請求人から譲渡を受けたものと判断され,自身が通常使用権者として本件商標を使用するために,エプロンの仕入れ(譲渡)を受けたとはいえないというべきである。
4 小括
以上によれば,被請求人がロイズアドに本件要証期間内に乙1のエプロンを譲渡した行為を立証するものは乙2のみであって,それ以外の乙各は,被請求人ないし通常使用権者が本件商標が付された取消対象商品を市場に提供して,本件要証期間内に使用したことを証明するものとはいえない。
そこで,乙2による,被請求人がロイズアドに,本件要証期間内にエプロンを譲渡した行為が,本件商標の使用に該当するかについて,以下検討する。
5 本件商標が付されたエプロンの商品性について
この点について,請求人は,「『エプロンが乙2に示すように取引されている』事実については,被請求人の発注を受けて同社の宣伝活動,販促活動を行うロイズアドは,被請求人のいわば代理人というべきであり,市場における顧客ではないのは明らかである。ロイズアドヘ有償提供した本件エプロンは,ごく限られた一部の関係者,いわば被請求人の内輪の者のみが使用する目的のものと言うべきであり,一般の市場で流通し,取引の対象となる商品とは言い難いことから,商標法上の『商品』には該当しない。」と主張している。
しかして,商標法上の商品については,以下の点を判示した判決がある。
「商標法は,この商標を保護することによつて,商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り,もつて産業の発展に寄与し,あわせて需要者の利益を保護することを目的とする(同法第1条)ものであるから,商標法における『商品』とは,商取引の目的物として流通性のあるもの,すなわち,一般市場で流通に供されることを目的として生産され又は取引される有体物であると解すべきである。」(東京高等裁判所 平成1年11月7日判決 平成1年(行ケ)第139号)
「商標法50条の適用上,『商品』というためには,市場において独立して商取引の対象として流通に供される物でなければならず,また,『商品についての登録商標の使用』があったというためには,当該商品の識別表示として同法2条3項,4項所定の行為がされることを要するものというべきである」(東京高等裁判所 平成13年2月28日判決 平成12年(行ケ)第109号)
これを本件についてみると,被請求人が提出した乙各によっては,本件のエプロンが一般市場で流通に供されたと認めることができないと判断したことは前記のとおりである。
そして,上記の被請求人とロイズアドとの取引についてみると,ロイズアドは,被請求人商品の宣伝活動,販促活動を行っている会社であり,同一グループ内の企業であることが認められる。しかも,乙14の4の(RA-2)との帳票(補助元帳)によれば,ロイズアドは,乙2により譲渡されたといえるエプロン等を「消耗品費」として会計上の処理をしていることが認められるところである(伝票No.704は,摘要欄と貸方欄(金額)の記載から乙2の請求書と認めることができる)。
したがって,ロイズアドが被請求人から譲渡を受けたエプロンは,被請求人が同人の商品である菓子の販売を目的として,同一グループ内の企業であるロイズアドの販売員が着用する制服(ロイズアドの使用する消耗品)として,ロイズアドに譲渡されたとみるのが相当である。
そうであれば,被請求人とロイズアドとは,被請求人の商品の一般の流通市場における商品の販売者と顧客の関係にあるとはいえず,かつ,本件商標の使用を証明する証拠として提出したエプロンに付されている使用標章は,被請求人の商品である菓子の販売促進を目的とした表示とみるべきであり,商品としてのエプロンの出所を識別するための機能を果たすものとして表示されているものとはいえない。
したがって,本件エプロンは,被請求人の同一グループ内の企業であるロイズアドという特定の者に対して,被請求人の商品である菓子の販売促進を行うための制服として使用するという特定の目的のためにのみ譲渡されたというべきものであって,当該エプロンは,一般市場で流通に供されることを目的として生産され又は取引される有体物であるということはできず,これを,商標法が保護の対象とする商標法上の商品ということはできない。
6 むすび
以上のとおり,被請求人は,本件審判の請求の登録前三年以内に日本国内において,商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれかが,その取消請求に係る指定商品について,本件商標の使用をしていることを証明したとは認められず,また,本件商標を使用していないことについて,正当な理由があることを明らかにしていない。
したがって,本件商標の登録は,商標法第50条の規定により,その指定商品中「結論掲記の指定商品」について,取り消すべきである。
別掲 別掲
本件商標





審理終結日 2013-12-12 
結審通知日 2013-12-16 
審決日 2014-01-15 
出願番号 商願2008-5238(T2008-5238) 
審決分類 T 1 32・ 1- Z (X25)
最終処分 成立  
前審関与審査官 吉沢 恵美子山田 忠司 
特許庁審判長 小林 由美子
特許庁審判官 渡邉 健司
前山 るり子
登録日 2008-08-15 
登録番号 商標登録第5160367号(T5160367) 
商標の称呼 ロイズイシガキジマ、ロイズ、ロイス 
代理人 松田 治躬 
代理人 特許業務法人原謙三国際特許事務所 
代理人 清水 定信 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ