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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) X28
管理番号 1275343 
審判番号 無効2012-680002 
総通号数 163 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2013-07-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-03-22 
確定日 2013-04-18 
事件の表示 上記当事者間の国際商標登録第918411号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 国際商標登録第918411号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件国際登録第918411号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、2010年(平成22年)3月3日に国際登録出願(事後指定)、第28類「Fishing rods,fishing reels,fishing floats,outrigger holders,rod holders,gaff,landing nets,hooks and all fishing eauipments;artificial fishing bait;baits (fishing and hunt ing lures).」を指定商品として,平成23年4月7日に登録査定、同年6月24日に設定登録されたものである。
第2 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第193号証(枝番を含む。)を提出した。
1 請求の理由の要約
本件商標は、その指定商品に使用された場合、これに接する取引者、需要者に、請求人又はこれと緊密な関係にある営業主の業務に係る商品であることを連想、想起させ、その商品の出所について誤認混同を生じさせるものであり、ひいては、請求人の周知著名商標の持つ顧客吸引力へのただ乗り(いわゆるフリーライド)やその希釈化(いわゆるダイリューション)を招来するものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反してされたものであるから、同法第46条第1項の規定により無効とすべきである。
2 具体的理由
(1)請求人商標について
請求人は、光学機器の製造・販売を中心として大正8年(1919年)に創設された「株式会社高千穂製作所」を前身とし、現在、「精密機械器具」の製造・販売を主たる業務としている(甲4)。請求人は、さらに、昭和24年(1949年)に「オリンパス光学工業株式会社」へ、平成15年(2003年)に「オリンパス株式会社」へと社名を変更している(甲5)。
そして、請求人は、平成16年(2004年)に、デジタルカメラやカメラ用レンズ等の「光学機器」事業、内視鏡等をはじめとする「医療用機器」事業について分社化し(甲5)、また、「電子機器」、「新規事業の研究・開発」、「生体材料等の研究開発・製造」、「野菜の生産と販売」、「音楽・映像等のエンターテイメントコンテンツビジネス」等、幅広い分野の業務を担う36の関連会社と請求人とで構成する「オリンパスグループ」(甲6ないし甲40の2)の冠ブランド名「OLYMPUS」の統括的管理業務(ブランド戦略の推進、商標権管理等)を担うものである。
(2)審判請求の利益
商標「OLYMPUS」は、オリンパスグループの冠ブランド名として極めて著名であり、かつ、オリンパスグループは幅広い分野の商品・役務の業務展開を行っていることからすれば、本件商標がその指定商品について使用された場合には、本件商標は、「オリンパスグループ」を示す著名商標「OLYMPUS」と類似することから、その商品の出所につき混同を生じるおそれがある。
また、「OLYMPUS」は、オリンパスグループを示す著名なブランド名であることから、本件商標をその指定商品に使用した場合には、請求人が「光学機器」を中心に築き上げた著名ブランドの顧客吸引力を希釈化する恐れがある。
したがって、請求人は、本件審判を請求することにつき利害関係を有する。
(3)請求人商標「OLYMPUS」の周知・著名性
ア 請求人の使用商標
請求人及びオリンパスグループは、日本において、少なくとも1921年(大正10年)より、請求人の業務に係る商品について、普通書体で表示してなる「OLYMPUS」(以下「請求人商標1」という。)及び「オリンパス」(以下「請求人商標2」という。)の商標、別掲2の構成からなる「OLYMPUS」の商標(以下「請求人商標3」という。以下、これらを一括して「請求人商標」という。)を使用している。
当該商標は、ギリシャ神話で神々が住むというオリンパス山にちなみ光学機器製品のブランド名として採択したものである。そして、現在に至るまで、請求人のハウスマーク、及び、オリンパスグループの冠ブランド名として、オリンパスグループの業務に係る商品・役務について、継続して使用されている。
イ 請求人商標の周知・著名性
(ア)販売高・宣伝広告費・市場占有率
継続して提供される高い品質性とブランド力を背景として、オリンパスグループの業務に係る商品は、日本をはじめとする世界中の光学機器・電子機器・医療機器の分野において高い市場占有率を有する。例えば、平成11年(1999年)光学機器分野において、オリンパスグループの業務に係る商品の出荷台数シェアは世界第1位であり(甲43)、また、医療機器分野における平成21年(2009年)の売上高においても第1位のシェアを有している(甲44)。このことは、オリンパスグループの業務に係る商品の販売高が、約5000億円を超え、近年に至っては、1兆円にものぼることからも容易に理解し得る。
そして、過去10年間の宣伝広告費は、総額にして1700億円を超えている。
(イ)宣伝広告・商品の話題性の実績
宣伝広告活動の一部を掲げると、公共の場における商品の広告看板やポスターの掲示をはじめとして、屋外コンクールで受賞するほどに評価の高いネオン広告塔を新宿、銀座、八王子等に、複数、設置している(甲45ないし甲49)。
また、平成21年(2009年)の1ヶ月間のテレビコマーシャル実績を抽出すると、首都圏における主要民放テレビ放送局全てを網羅しており、その放映回数は、日本テレビ(30回)、TBSテレビ(32回)、フジテレビ(16回)、テレビ朝日(20回)、テレビ東京(16回)と、1ヶ月間で100回を超える数量の15秒と30秒のテレビコマーシャルを放映している(甲50ないし甲55)。当該コマーシャルでは、音声で「オリンパス」と称呼されている上に、画面においても「OLYMPUS」及び「オリンパス」との文字が明確に表示されている。
印刷媒体における宣伝広告実績について、2009年の一部を掲げると、カメラ専門雑誌(甲56ないし甲58)をはじめとして、旅行雑誌(甲59及び甲60)、医学雑誌(甲61ないし甲63)、語学雑誌(甲64ないし甲66)、スポーツイベントのガイドブック(甲67)や、一般新聞の全国紙(甲68)といった幅広い分野の定期刊行物に宣伝広告を展開している。
そして、「OLYMPUS」ブランドの高い顧客吸引力と話題性によって、幅広い分野の雑誌や新聞等において、数多く取り上げられている実績を有し(甲69ないし甲84)、オリンパスグループの商品やサービスは、高い話題性があることが明らかであり、これらのいずれの記事においても、オリンパスグループの冠ブランドを示す「OLYMPUS」又は「オリンパス」が表わされている。
(ウ)幅広い分野との関わり
さらに、オリンパスグループは、「OLYMPUS」ブランドのさらなる浸透化と文化貢献のために、様々な分野の事業に積極的に関わりを持つ活動を行っている。
例えば、2003年には、自動車レースとして人気の高いF1フェラーリチームの公式スポンサーを務め(甲85の1及び甲85の2)、2004年には、U-23サッカー日韓戦のタイトルスポンサーを(甲86)、2005年には、「愛・地球博」の国連館において写真展を開催し(甲87)、2006年には、第30回全日本少年サッカー大会に協賛している(甲88)。また、2004年から継続して「親子の日」イベントを、また、大腸がんに関する市民講座、ウォーキングイベント等の協賛を行っている(甲89ないし甲91)。また、2011年から、市民ホールの名称を「オリンパスホール八王子」として多摩地域における文化・芸術振興への貢献を行っている(甲92)。
いずれの活動においても、オリンパスグループの冠ブランドを示す「OLYMPUS」または「オリンパス」が表示されている。
このように、幅広い分野の事業と関わりを持つことを通じて、商標「OLYMPUS」は、「オリンパスグループ」の冠ブランド名「OLYMPUS」として、幅広い分野の需要者・取引者に理解・浸透している。
(工)防護標章登録及び日本有名商標集における掲載実績
請求人商標3と同一の文字商標「OLYMPUS」(甲93)に基づいて、旧区分制度の第1類から第8類、第12類及び第13類、第15類から第19類、第20類から第42類、現行区分の第35類から第45類までといった幅広い分野の商品・役務について44件もの防護標章登録が認められている(甲94ないし甲138)。
また、請求人商標3と同一の文字商標「OLYMPUS」は、請求人を示す表示として周知・著名であることが認められ、1998年(平成10年)発行の「日本有名商標集」に掲載されている(甲139)。
ウ まとめ
上述のとおり、請求人商標は、多角経営を展開する「オリンパスグループ」を示す冠ブランド名として、日本国内において極めて著名である。
(4)請求人商標を使用する商品と本件商標の指定商品との関連性
請求人及び「オリンパスグループ」は、光学機器・電子機器・医療機器をはじめとして、「テレビゲーム関連」、「教材」、「調理用品」、「医薬品」、「エンターテイメント」、「食品」等、幅広い分野の商品・役務に携わっている。また、「オリンパスグループ」は、新素材の研究開発や新分野の研究開発を行っていることから、オリンパスグループが「釣りざお、リール、浮き、舷外浮材用ホルダー、釣竿用ホルダー、魚かぎ、たも網、釣針及び釣り用具、釣り用疑似餌、疑似餌(つり用ルアー及び狩猟用ルアー)」やこれらに関連する商品を製造・販売することは想像に難くない。
このことは、「釣り具」についての防護登録標章(甲113)が認められ、2010年(平成22年)の更新出願に対しても登録の査定がなされている点からも明らかである(甲94)。
したがって、本件商標の指定商品は、オリンパスグループの業務に係る商品・役務と密接な関連性を有している。
(5)本件商標と請求人商標の類似性
ア 本件商標について
本件商標は、ストライプ模様で形作った魚図形を上段に配し、欧文字「O」の上部に王冠を配した欧文字「OLYMPUS」を下段に配した構成からなり、その構成文字から「オリンパス」との称呼が生じる。
「OLYMPUS」は、ギリシャ神話の山の名称ではあるものの、日本においては、オリンパスグループの「冠ブランド名」として広く親しまれていることから、本件商標は、需要者等に「オリンパスグループ」を想起させるものである。
イ 本件商標と請求人商標の対比
本件商標と請求人商標1及び請求人商標3とは、欧文字「OLYMPUS」の構成及び配列並びに「オリンパス」との称呼を共通にし、本件商標は横縞模様からなる魚図形と「O」の文字上部に冠図形が配されている「OLYMPUS」の文字の2つの要素から構成されている点において差異がある。
また、本件商標はその構成文字が欧文字であるのに対し、請求人商標2は片仮名であり、「オリンパス」の称呼を共通にするものの、構成文字に差異がある。
そして、本件商標は、魚図形と文字の2つの構成要素からなるところ、各要素は、それぞれに異なるデザイン処理がなされており、また、その他、不可分一体とみるべく特別の事情が見受けられないことから、当該図形と文字「OLYMPUS」は、分離して理解・把握されるとみるのが自然である。
したがって、本件商標は、請求人商標「OLYMPUS」又は「オリンパス」と、外観「OLYMPUS」が近似し、また、称呼「オリンパス」が共通する、互いに類似する商標である。
ウ 審査における認定
本件商標は、原審査において、「オリンパス」の文字を含む又は「OLYMPUS」の文字(を含む)からなる引用商標に類似することを理由に、商標法第4条第1項第11号に該当する旨の認定を受け(甲188)、被請求人は、これらと抵触する商品を削除する補正を行っている。
エ 出所の誤認混同について
商標法第4条第1項第15号に規定する「『混同を生ずるおそれの有無』は、(a)当該商標と他人の表示との類似性の程度、(b)他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、(c)当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに(d)商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべき」(最高裁平成10年(行ヒ)第85号同12年7月11日第三小法廷判決)としている。
かかる点を本件に当てはめると、(a)上記イのとおり、本件商標の要部「OLYMPUS」は、請求人商標1及び3と共通する文字配列であって、かつ、請求人商標と称呼が共通するものである。また、(b)「OLYMPUS」は、ギリシヤ神話に登場する山の名称ではあるものの、「OLYMPUS」は、オリンパスグループを示す商標として極めて著名である。(c)オリンパスグループは、複数の異なる分野において、日本及び世界において高いシェアを占め、かつ、幅広い分野において業務を展開している実績がある。(d)オリンパスグループは、釣り具にも用いられる可能性のある新素材の研究開発や新事業の開発を積極的に行っており、需要者・取引者は共通する。これらを総合的に考慮すると、本件商標は、請求人商標との関係で、本号の「他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標」に該当するものである。
オ まとめ
本件商標は請求人の著名商標「OLYMPUS」又は「オリンパス」と相紛らわしいほどに近似し、また、その使用に係る商品が密接に関連することから、本件商標は、オリンパスグループの業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある。
(6)「オリンパス」の信用力の希釈化
被請求人が本件商標をその指定商品について使用する行為は、請求人が長年に亘る莫大な研究開発と営業努力によって培ってきた「OLYMPUS」及び「オリンパス」に蓄積する顧客吸引力(ブランド価値)にただ乗りするものであり、かかる顧客吸引力を希釈化させるものである。かかる行為は、競業秩序の維持の観点からも容認されるべきではないものである。
(7)結語
上述のとおり、本件商標をその指定商品について使用すると、需要者は、それがあたかもオリンパスグループの業務に係る商品であるか、又は、これと何らかの関連性を有する商品であるかの如く誤認し、あるいは、その商品の出所について、組織的又は経済的に請求人と何らかの関係を有する者の業務に係る商品、関連商品やシリーズ商品であるかの如く誤信し、その出所について混同するおそれがある。
したがって、本件登録は商標法第4条第1項第15号に違反してされたものであるから、同法第46条第1項第1号により無効にすべきものである。
第3 被請求人の主張
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第9号証を提出した。
1 要旨
請求人が述べるような商品の出所についての誤認混同は生じないこと、及び顧客吸引力へのただ乗り(フリーライド)やその希釈化(ダイリューション)が招来されるものではないことは明らかであることから、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反するものではなく、同法第46条第1項の規定により無効とされるべきものではない。
2 具体的理由
ア 取引者・需要者の特徴及びその非共通性について
本件商標の指定商品は、魚を釣るための道具であり(以下「釣り具」という。)、その取引者及び需要者(以下「需要者等」という。)を想起してみると、基本的には、漁師かあるいは釣りを趣味とする一般人といえる。漁師は、魚釣り・漁獲のプロフェツショナルであり、一方、釣りを趣味とする一般人は、それにより生計を維持していないという意味においてはアマチュアではあるが、「釣りキチ」(乙1)あるいは「釣りバカ」(乙2)なる言葉が示すように、釣りを趣味とする人は、それに伴う労苦をいとわないマニアが多い。
そうとすると、プロたる漁師や釣りマニアは、釣り具については当然に熟知しているとともに、常日頃より、知り合いを通じて、または情報媒体等により釣り具についての情報収集を図っており、請求人グループが「OLYMPUS」又は「オリンパス」を冠して釣り具を製造・販売していないことは十分承知である。換言すれば、これらの者にとって釣り具は、生計上あるいは趣味上大変重要な意味を持ち、かつ相応の資産価値を有する長期所有物なのである。
したがって、仮に、「OLYMPUS」又は「オリンパス」の文字を含む商標が付された釣り具がショップに並んだとして、本件商標に係る指定商品「釣り具」の需要者等がそれらに接したとしても、請求人グループが製造・販売する釣り具でないことは認識しており、ましてや、下記に述べるように、「OLYMPUS」の欧文字を含むものの外観において大きく異なる本件商標が付された釣り具においては、出所の混同など生じ得ないというべきである。なお、仮にこれから釣りを始める初心者を想定したとしても、それらは、まず知り合いや各種媒体から情報を人手するであろうし、もし購入の場面においても知識がなければショップの店員に尋ねる等するであろうが、当該店員は、当然自己が扱う商品については製造者を含めた商品情報を把握しているのであって、同じく出所の混同は生じないというべきである。
一方、当該商品が、釣り具ではなく、老若男女を問わない全くの一般人を需要者層とする、たとえば、スーパーマーケットやコンビニエンスストアで日々購入する食料品や日用品、つまりその場でぱっと見て判断し、購入するような消耗品であれば、事前情報の収集なく気軽に購入するという消費行動は想定し得るので、相応の注意や確認を行うことなく、出所を混同した状況で購入する場合もあり得るとはいえるが、本件はそれとは事情を異にするものである。
この点、請求人は「オリンパスグループは、複数の異なる分野において、日本及び世界において高いシェアを占め、かつ、幅広い分野において業務を展開していて、釣り具にも用いられる可能性のある新素材の研究開発や新事業の開発を積極的に行っており、需要者・取引者は共通するから、本件商標は、請求人商標との関係で、本号の『他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標』に該当するものである。」と主張するが、本件商標の指定商品「釣り具」やその需要者等の実態及びその取引の実情を考えた場合、請求人がいうような「需要者・取引者は共通する。」という結論は到底導き出し得ない。
イ 本件商標と請求人商標との非類似性について
被請求人は、本件商標の原審査における暫定的拒絶通報に対して、本件商標と各引用商標との類似性を認めたうえで指定商品の削除補正を行ったわけではなく、たまたま競合する指定商品が被請求人の主たる商品である釣り具ではなく、運動・スポーツ用品及びゲーム・遊戯用具であったことから、非類似を主張するよりも、審査官の指摘どおりそれら非主力商品を削除補正し、早期に登録に導く方が簡便で合理的と判断したためである。
本件商標は、ストライプ模様で表され、魚をイメージした図形が上段に相対的に大きく描かれ、その下段に欧文字「O」の上部に王冠を描いた欧文字「OLYMPUS」を配した構成からなるのに対し、請求人商標は、単に欧文字「OLYMPUS」又は片仮名「オリンパス」を横に一連に書してなる構成である。
そうとすると、本件商標には請求人商標の欧文字「OLYMPUS」が含まれるものの、欧文字「O」の上部に配された王冠が印象的であることから「OLYMPUS」の欧文字のみの場合とは異なるイメージを看者に与え、かつ上段の相対的に大きな魚の図も大きなインパクトを有することから、本件商標に接した需要者等は、「OLYMPUS」の欧文字のみの商標とはまったく別異の印象を受けるといえる。
したがって、造語標章ならいざ知らず、請求人も自認するようにギリシア神話で神々が住むという固有名詞としてのオリンポス山を指称する「OLYMPUS」の欧文字を、本件商標が一部に含んだとしても、それに接した需要者等には、請求人商標と相紛れることのない固有の識別力を持つ商標として十分に認識されるものである。
よって、本件商標と請求人商標とは非類似の商標である。
ただ乗り(フリーライド)及び希釈化(ダイリューション)について
請求人商標の「OLYMPUS」及び「オリンパス」は、造語標章でないことは明らかであり、独創性は一切ない。この事実がまず、フリーライド性を否定する方向で働く。
次に、それは、そもそもギリシアに実在する山の名前であり、ギリシア神話で神々が住むといわれる場所であることから欧州の人々にとって身近な存在である。したがって、被請求人が所在するイタリアを含めて欧州各国における企業が「OLYMPUS」を含む商標をてことしてビジネス展開を図ることは何ら不思議でないばかりか、むしろ当然にとり得る商標戦略のひとつである。
また、被請求人は、その海外戦略に沿って、マドリッドプロトコルに基づく国際出願を、アジアでは日本、中国、韓国、ベトナムで、また欧州ではスイス、ロシア、ウクライナ、クロアチア、セルビア、トルコにおいて申請したのである(乙3)。このうち、日本、ベトナム、スイス、クロアチア、セルビア、ウクライナ及びトルコにおいて登録を受けている(乙4)。
以上の事実及び状況をかんがみれば、被請求人が請求人の信用へのただ乗りを主観的に企図したものでないことは明らかである。さらにいえば、請求人は「釣り具」についての製造経験・ノウハウを持ち合わせていないと思われることから、「釣り具」の需要者等との関係において何らのメリットを期待し得るものではなく、あくまで被請求人が「釣り具」についてイタリア国内他において長年培ってきた経験・ノウハウ及びそれに基づく品質並びに評判に依拠して営業展開を図る次第である。つまり、この事実は、フリーライド性を客観的に否定するものである。
また、上記アで述べたとおり、「釣り具」に係る需要者等の実態及びその取引の実情をかんがみれば出所の混同は生じ得ないことから、必然的に希釈化の問題も生じ得ないといえるものである。
エ 結語
以上より、本件商標に対する請求人による無効の中立には理由がないことは明らかである。
第4 当審の判断
1 請求人が本件審判を請求する法律上正当な利益を有することについては、当事者間に争いがないので、本案に入って審理する。
2 商標法第4条第1項第15号について
商標法第4条第1項第15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には、当該商標をその指定商品又は指定役務(以下「指定商品等」という。)に使用したときに、当該商品等が他人の商品又は役務(以下「商品等」という。)に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず、当該商品等が右他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれ(以下「広義の混同を生ずるおそれ」という。)がある商標を含むものと解するのが相当である。けだし、同号の規定は、周知表示又は著名表示へのただ乗り(いわゆるフリーライド)及び当該表示の希釈化(いわゆるダイリューション)を防止し、商標の自他識別機能を保護することによって、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、需要者の利益を保護することを目的とするものであるところ、その趣旨からすれば、企業経営の多角化、同一の表示による商品化事業を通して結束する企業グループの形成、有名ブランドの成立等、企業や市場の変化に応じて、周知又は著名な商品等の表示を使用する者の正当な利益を保護するためには、広義の混同を生ずるおそれがある商標をも商標登録を受けることができないものとすべきであるからである。また、同号にいう「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきである(平成12年7月11日最高裁判所第三小法廷判決、平成10年(行ヒ)第85号 参照)。
以上を踏まえ本件を検討する。
3 請求人の使用する商標の著名性及び独創性
請求人の提出した証拠及び職権調査によれば以下の事実が認められる。
(1)請求人は、大正8年(1919年)10月に、主に光学機器の製造販売を行う「株式会社高千穂製作所」として設立され、その後、社名を、昭和24年1月に「オリンパス光学工業株式会社」とし、さらに、平成15年(2003年)10月に「オリンパス株式会社」と改称した(甲41)。また、平成16年10月にデジタルカメラや録音機等の製造販売事業を「オリンパスイメージング株式会社」に、医療用内視鏡等の医療機器の製造販売事業を「オリンパスメディカルシステムズ株式会社」に分社化し(甲5及び甲6)、また、関連会社と請求人とで構成する「オリンパスグループ」は、「電子機器」、「新規事業の研究・開発」、「生体材料等の研究開発・製造」、「化粧品」、「医療材料」、「野菜の生産と販売」、「音楽・映像等のエンターテイメントコンテンツビジネス」等、幅広い分野の業務の多角化が行われている(甲6ないし甲40の2)。
(2)請求人は、1921年ころから、顕微鏡やカメラなどに「OLYMPUS」の文字を含む商標を採用し、その後、「オリンパス」をブランド名として使用し、昭和45年(1970年)から別掲2のとおりの構成からなる請求人商標3を、請求人及びそのグループ会社のハウスマーク及びその業務に係る商品等の出所を表示するものとして継続して使用してきたことが認められる(甲42)。
(3)請求人の主力商品であるデジタルカメラ(甲46)は、「産業構造審議会第5回新成長政策部会(第3期)」(平成14年7月29日)の資料によれば、1999年における「デジタルカメラの出荷台数シェア」が世界第1位(甲43)であり、その市場規模のほぼ25%を占める。
そして、請求人の業務に係るカメラの宣伝広告について、2009年から本件商標の登録出願日(2010年3月3日)ころの実情をみると、たとえば、2009年8月の1ヶ月間において首都圏の主要なテレビ放送局で100回以上のコマーシャルを放映している(甲50ないし甲55)。また、カメラ専門雑誌、旅行雑誌、スポーツイベントのガイドブック、商品情報誌、女性誌、新聞などの幅広い分野の刊行物(甲56ないし甲60、甲67ないし甲73)に、「オリンパス」及び「OLYMPUS」の文字が使用され、また、「OLYMPUS」の文字が商品本体に表示された写真等が紹介されて、請求人のカメラ又はレンズの宣伝広告及び特集記事が掲載された。
(4)また、我が国の平成21年の売上高において第1位のシェアを有している(甲44)請求人らの医療機器についても、医学雑誌(甲61ないし甲63)に、同様に宣伝広告が行われた。
(5)さらに、仕事用だけでなく、語学学習や楽器演奏用など使い道が広がっている「ICレコーダー」は、「オリンパス」が主カメーカーの一つとなっている(甲76)。
(6)請求人は、商品の販売、宣伝広告など直接的な営業活動にどどまらず、2003年にF1フェラーリチームの公式スポンサー(甲85の1及び2)、2004年にU-23サッカー日韓戦のタイトルスポンサー(甲86)を務め、2006年に第30回全日本少年サッカー大会(甲88)、2004年から継続して「親子の日」イベント、2008年に都内8病院が実施した大腸がんに関する市民講座、2009年に行われた大腸がん撲滅キャンペーンのウォーキングイベント(東京都)等に協賛し(甲85ないし甲92(枝番号を含む。))、社会や文化への貢献活動も積極的に行っている。
(7)上記(1)ないし(6)の事実によれば、請求人は、昭和45年(1970年)ころから「カメラ」などに請求人商標(「OLYMPUS」及び「オリンパス」)の使用を開始し、1999年における請求人のデジタルカメラの世界の出荷台数が世界一であること、及び本件商標の登録出願前における各種雑誌及びテレビ放送などにより継続的に広告を行ってきたことからすれば、請求人商標は、本件商標の登録出願時には既に我が国において取引者、需要者の間に広く認識されていたものというべきであり、その状態は本件商標の登録査定時においても継続していたものと認められる。
そして、「OLYMPUS」(オリンポス)の語は、ギリシャの神々が住んだとされるギリシャの山の名前であるが、上記山を意味するものとして、我が国において知られているとするべき事情は認められないから、請求人商標を構成する「OLYMPUS」「オリンパス」の文字は、相当程度高い独創性を有するものと認められる。
4 本件商標と請求人商標「OLYMPUS」との類似性
本件商標は、別掲1のとおり、ストライプ模様で表された図形部分及び「O」の文字部分の上部に王冠のような図形を配した「OLYMPUS」の文宇部分からなるものであると看取されるところ、その構成中、王冠のような図形を配した「OLYMPUS」の文字部分は、独立して自他商品の識別標識としての機能を有するものと認められるものであり、また、その構成全体として特定の称呼及び観念を生ずるものとは認められないものであるから、その構成中に顕著に表された「OLYMPUS」の文字に着目し取引に資される場合も決して少なくないというのが相当である。
してみると、本件商標に接する需要者等は、「OLYMPUS」の文字を商品の出所を表示するものとして認識するというべきである。
そうすると、本件商標の要部「OLYMPUS」と請求人商標「OLYMPUS」とは、書体を異にするものの、同じ綴りで文字配列を共通にすることから、外観上近似した印象を与えるものであり、また、本件商標の要部と請求人商標「OLYMPUS」の構成文字が同一であるから、本件商標と請求人商標「OLYMPUS」は、そこから生じる称呼及び観念を共通にすること、明らかである。
5 本件商標の指定商品と請求人の業務に係る商品等の関連性
本件商標の指定商品に係る「釣り具」と請求人の業務に係る「カメラ」等の光学機器とは、その用途を異にするため、需要者を共通にするとはいえないし、生産部門が一致する等の事情は、見受けられないものの、「カメラ」は、老若男女を問わず一般世人にとって身近なありふれた商品であり、一般に自己の趣味について写真を撮ることは普通に行われており、釣りを趣味にする者が釣った魚を撮影する等の場面で使用する場合も少なくない。
6 出所の混同のおそれ
以上のとおり、請求人商標は、請求人及び請求人のグループがハウスマークとして使用しているものであり、需要者に広く知られていること、請求人商標に係る「OLYMPUS」、「オリンパス」の独創性が高いこと、本件商標と請求人商標の類似性は高いこと、本件指定商品と請求人商標に係る商品とが同じ場面で使用されることが少なくないこと、更に、経営の多角化が行われていること等を総合的に考慮するならば、本件商標の登録出願の日及び登録査定時において、本件商標をその指定商品に使用するときは、これに接する需要者は、本件商標から、請求人らの業務に係る著名な請求人使用商標を連想・想起し、該商品が請求人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのごとく、その商品の出所について混同を生じるおそれがあるものといわなければならない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
7 被請求人の主張について。
(1)被請求人は、釣り具の需要者は釣り具について熟知しているし、情報収集を図っているので、請求人及びそのグループが「OLYMPUS」等の商標を冠して釣り具を製造していないことは承知し、「OLYMPUS」等の文字を含む商標が付された釣り具に接しても、請求人及びそのグループが製造・販売する釣り具でないことは認識しているから、出所の混同など生じ得ない旨主張する。
しかしながら、仮に、請求人及びそのグループが釣り具を製造・販売していないとしても、本件商標は、「OLYMPUS」を含むものであり、前記のとおり、請求人商標の著名性、「OLYMPUS」の語の独創性、企業経営の多角化が一般に行われ、請求人も幅広い分野にグループ企業を有し、経営の多角化を行っていることからすると、本件商標に接する需要者は、釣り具に精通している者を含めて、請求人商標を想起し、本件商標を使用する商品が請求人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品と広義の混同を生ずるおそれがあるというべきである。
したがって、被請求人の主張は採用できない。
8 むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第15号に違反してされたものといわざるを得ないから、同法第46条第1項第1号に基づき、無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 【別記】


審理終結日 2012-11-26 
結審通知日 2012-11-28 
審決日 2012-12-13 
審決分類 T 1 11・ 271- Z (X28)
最終処分 成立  
前審関与審査官 八木橋 正雄 
特許庁審判長 内山 進
特許庁審判官 豊瀬 京太郎
堀内 仁子
登録日 2010-03-03 
商標の称呼 オリンパス、オリムパス 
代理人 津国 肇 
代理人 村松 由布子 
代理人 山村 大介 
代理人 杉村 憲司 

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