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審決分類 審判 全部無効 商4条1項19号 不正目的の出願 無効としない X05
審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効としない X05
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効としない X05
審判 全部無効 商4条1項11号一般他人の登録商標 無効としない X05
管理番号 1256369 
審判番号 無効2011-890054 
総通号数 150 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2012-06-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-06-28 
確定日 2012-04-09 
事件の表示 上記当事者間の登録第5403886号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第5403886号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)のとおりの構成からなり、平成22年8月26日に登録出願、第5類「薬剤」を指定商品として、同23年3月15日に登録査定、同年4月1日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。

第2 引用商標
請求人が本件商標の無効の理由に引用する登録商標は、以下の1及び2のとおりである。
1 登録第5047058号商標(以下「引用商標1」という。)
別掲(2)のとおりの構成からなり、平成18年10月25日に登録出願、第5類「薬剤」を指定商品として、同19年5月11日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。
2 登録第5100938号商標(以下「引用商標2」という。)
別掲(3)のとおりの構成からなり、平成19年3月29日に登録出願、第5類「薬剤」を指定商品として、同年12月21日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。
以下、引用商標1及び引用商標2をまとめて「引用各商標」というときがある。

第3 請求人の主張
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第77号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の利益について
本件商標は、引用各商標と類似するものであり、引用各商標は、請求人の製造・販売に係る製品を示すものとして広く認知されている事実があるから、被請求人が本件商標を付した薬剤を販売すれば、請求人の商品との間に出所の混同を生ずることにより、引用各商標に化体した業務上の信用が著しく損なわれるおそれがあり、請求人の不利益は極めて大きい。
したがって、請求人は、本件の審判請求について法律上の利害関係を有する。
2 無効理由
(1)商標法第4条第1項第11号該当性
ア 本件商標及び引用各商標の構成
本件商標は、複数の小円図形により構成され、当該複数の小円図形が、全体として一つの円をなすが如き態様により表されるものであるところ、その一部に、小円が配されない部分を含むことにより、全体として一つの円弧(円の一部)を描くように構成されたものであるほか、当該円弧は、上方をより濃く、下方をより薄く表してなる濃淡のグラデーションをもって表現されてなるものである。
一方、引用商標1は、複数の小円図形により構成され、当該複数の小円図形が、全体として一つの円をなすが如き態様により表されるものであるところ、その一部に、小円が配されない部分を含むことにより、全体として一つの円弧(円の一部)を描くように構成されたものであるほか、当該円弧は、上方をより濃く、下方をより簿く表してなる濃淡のグラデーションをもって表現されてなるものである。
また、引用商標2は、「TRANSINO」及び「[トランシーノ]」の各文字及び各記号並びに図形部分を含むところ、「TRANSINO」の文字部分の上方に配される図形部分は、引用商標1と同一の構成よりなるものであり、また、引用商標2の全体の構成からみて、当該図形部分は、それ自体、単独の自他商品識別標識としても、機能するものである。
イ 本件商標と引用各商標との対比
本件商標と引用各商標を対比するに、両商標は、共に複数の小円により構成される点において、互いの図形要素が共通することはもとより、複数の小円が集まって、全体として一つの正円をなすが如き態様により表されるものである点においても、その表現手法の軌を一にするものである。この表現手法をより具体的にみれば、両商標は、中心から円周までの距離が等しい正円を描いた場合、その円周に内接して、すべての各小円を配するものであり、具体的な表現手法の軌を一にするものである。
また、本件商標は、正円の一部に小円が配されない部分を残すことにより、正円の円周における切欠きのように看取されるものであり、全体として、「正円弧」を描くように構成された点でも、引用各商標と一致する。
さらに、本件商標は、切欠きと看取される部分の割合を引用各商標と同じく、全体の円周の長さの一割程にとどめている。しかも、その切欠きと看取される部分は、正円弧状の図形の右側に配されてなる点においても、両者は共通する。
さらにまた、本件商標は、各小円を上方に配されたものをより濃く、下方に配されたものをより薄く表してなる濃淡のグラデーションをもって表現してなる点で、同じく上方に配されたものをより濃く、下方に配されたものをより薄く表してなる濃淡のグラデーションをもって表現した引用各商標と共通する。また、その濃い小円と薄い小円との割合においても、両者は共通する。
以上よりすれば、本件商標は、引用各商標の図形ないし図形部分が特徴とする以下8つの特徴をすべて兼ね備えるものであり、その構成及び表現手法の軌を全く一にするものといわざるを得ない。
(ア)複数の小円図形より構成される特徴
(イ)複数の小円図形が集まって、一つの正円をなすが如き態様において、その一部に小円が配されない部分を含む特徴
(ウ)複数の小円すべてを正円の円周に内接して表した特徴
(エ)複数の小円図形が全体として一つの正円弧状をなす特徴
(オ)切欠きと把握される部分の割合を正円弧状の図形の円周の一割程に相当する割合とした特徴
(カ)切欠きと把握される部分を正円弧状の図形の右側に配した特徴
(キ)正円弧状の図形を、上方をより濃く下方をより薄く表してなる濃淡のグラデーションをもって表現してなる特徴
(ク)濃淡のグラデーションについて、濃い小円と薄い小円とを一定の割合をもって表現してなる特徴
また、現実の取引の場において、商標は、商品や商品の包装容器に使用されるものであるから、必ずしも平面に商標が付されるとは限らず、商標見本と同一色の容器に付されるとも限らない。むしろ、立体的で、様々な材質よりなる容器に付される場合も多く、また、需要者が、常にこれらを正面から看取するということもない。
この点に関して、平成14年(行ケ)第108号において、「商標が実際の取引の場で使用される場合、特に…腕時計に使用された場合に『天地』がなく、いずれの方向から商標が看取されるかについて特定されない場合があることは、…取引の実情として自明のものと認める」とされている。当該判決は、「腕時計」について言及されているものであるが、その趣旨よりすれば、「腕時計」に限らず、商標が実際の取引の場で使用される場合に、通用するものと解される。
そして、本件商標の指定商品「薬剤」については、商標が丸みを帯びた瓶状の容器に付される場合も多く、引用各商標も丸みを帯びた容器に使用されており、また、商標が錠剤に付される場合やPTPシートに使用される場合も多く、引用各商標もPTPシートに使用されている。そのような場合には、「腕時計」より増して「天地」がない状態であり、いずれの方向から商標が看取されるかについて、なお更特定し得ないものといわざるを得ない。
さらに、色彩については、商標法第70条第1項において、色彩を登録商標と同一にすれば、登録商標と同一と認められる商標は登録商標と同一の商標と扱われるとの趣旨が審査又は審判における類否判断においても勘案されるべきものであり、多少程度の濃淡の相違であれば、商標の類否判断に及ぼす影響は極めて限られたものであるといわざるを得ない。
したがって、以上の法の趣旨、判決の趣旨並びに現実の取引の実情に鑑みた場合、本件商標と引用各商標とは、これに接する需要者・取引者が、時と処を異にして、離隔的に観察したときには、互いに相見誤るおそれがある商標であるといわざるを得ない。
以上のとおり、本件商標は、引用各商標の構成における8つの特徴をすべて具備し、当該特徴以外の多少の相違も両商標の主たる印象に与える影響は少ないものといわざるを得ないから、互いに相紛らわしい外観類似の商標と解さざるを得ない。
この点に関して、平成12年(行ケ)第147号において判示されているとおり、商品を購入する際には、必ずしも商標の細部を正確に把握するわけではなく、その主たる印象を手がかりとして、商品の出所を認識、把握するのであるから、主たる印象が共通すれば商品の出所の混同が生ずることは明らかである。
ウ 具体的取引実情
引用各商標は、後述のとおり、請求人製品を示す商標として、取引者、需要者の間に広く親しまれている事実があり、当該事実は、商標法第4条第1項第11号の該当性の判断においても十分に参酌されるべき具体的な取引実情に該当するものである。
したがって、当該取引事情に基づけば、本件商標は、請求人の製品を表示するものとして著名な引用各商標と、取引者に与える印象、記憶、連想などにおいて、自他彼此相紛らしい類似の商標であるといわざるを得ない。
エ 指定商品について
本件商標の指定商品は、引用各商標の指定商品「薬剤」と同一である。
オ したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。
(2)商標法第4条第1項第15号該当について
ア 商標の類似性の程度について
本件商標と引用各商標は、前記(1)のとおり、互いに類似するものであり、その類似性の程度は極めて高いものである。
イ 引用各商標の著名性について
店頭向医薬品(OTC医薬品)の取引分野においては、売上が年間で10億円を超えた場合、ヒット商品と称されるにふさわしい商品といえるところ、引用各商標が付された請求人製品「トランシーノ」は、発売後わずか1カ月で14億円、半期余りで36.3億円という、2007年度の我が国の中ベスト100位内にランクする程の驚異的な売上げを果たしたものであり、特大ヒット商品と称されるに値する。
この点、請求人製品「トランシーノ」の登場並びにその驚異的な売り上げは、日本経済新聞、読売新聞などの全国紙、「日経トレンディ」などの有力雑誌、業界紙、地方紙などにおいて、「爆発的」、「衝撃的」、「驚くべき数字」などと表現されており、超特大の新製品として各メディアの話題を独占した。
そして、日本経済新聞社による「2007年ヒット商品番付」においても、「iPODタッチ」などと並ぶ「前頭」とされており、これは、産業分野を問わず、我が国において発売されたすべての商品の中での「ヒット商品」として認定され、極めて高い評価を受けたことを示している。
また、同番付において、請求人製品「トランシーノ」よりも上位の医薬品が存在しないことから、医薬品としては、まさに2007年の最大のヒット商品であるとの評価を受けたことになる。
したがって、取引分野における最大ヒット商品である点のみをもってしても、引用各商標の著名性が認定されて然るべき証左となるものである。
請求人は、請求人製品「トランシーノ」の継続的な製造・販売はもとより、テレビ、新聞、雑誌など様々な媒体を通じて、引用各商標が、指定商品の需要者・取引者において、広く認識されるに至っている事実を立証するため、甲第10号証ないし甲第77号証を提出する。
ウ 引用各商標の独創性について
引用各商標は、前記(1)のとおりの8つの特徴を備えるものであり、それ自体、独創的であるばかりか、これら8つもの特徴を兼ね備えた商標が使用される商品は、請求人製品「トランシーノ」以外に存在しないことからすれば、引用各商標の独創性が極めて高いものであることは明らかである。
エ 商品の性質、用途、目的における関連性の程度、商品などの取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などについて
本件商標は、引用各商標の指定商品と同一の「薬剤」を指定するものであるから、それらの関連性の程度は極めて高いものといわざるを得ない。
また、前記のとおり、引用各商標は、請求人の製造、販売に係る製品の出所を表示するものとして、取引者、需要者の間において広く親しまれたものであることが明らかであるから、これらの引用各商標又はこれに類似する商標が、第三者により使用されるとすれば、取引者、需要者などにおける症例、効能ないし効果などに最適な製品の選択の妨げとなり、ひいては医療過誤などの極めて深刻な事態を招くおそれがある。
オ 国外における関連事例
請求人は、請求人製品に係る「TRANSINO」の名称と類似する台湾における第3類及び第5類の2件の商標権に対して、請求人製品の著名性に基づく無効審判を請求し、いずれも無効審決が確定している。
これは、請求人製品「TRANSINO」の名称についての事案であるが、請求人製品自体が著名であることを証明するための補足として提出するものである。
カ 前記(1)で述べた内容を併せ総合的に勘案すれば、本件商標と引用各商標とは、互いに特徴的部分が完全に一致する類似性の程度が極めて高い商標であって、共に「薬剤」について使用されるものであるほか、引用各商標が、請求人の業務に係る製品を表示するものとして、取引者・需要者の間において、極めて広く認識されている事情のもとで、これが使用されるとすれば、本件商標が付された「薬剤」に接した需要者・取引者は、請求人又は請求人と資本関係ないしは業務提携関係にある会社の業務に係る商品と誤認混同を生ずるおそれが高い。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
(3)商標法第4条第1項第19号該当性
前記(1)及び(2)で述べたとおり、引用各商標は、請求人の製造、販売に係る製品の出所を表示するものとして、取引者、需要者の間において広く親しまれたものであることが明らかであるから、これらの引用各商標又はこれに類似する商標が、第三者により使用されるとすれば、永年にわたる営業努力により築き上げてきた引用各商標の出所表示機能を希釈化し、ひいては複数のブランドとしての価値を損なわせしめることにつながるものである。
したがって、請求人に係る著名商標と明らかに類似する本件商標の登録及び使用は、間違いなく引用各商標の出所表示機能を希釈化し、業務上の信用を棄損することにつながり、請求人並びに取引者、需要者に不利益を与える結果となる。
よって、商標法第4条第1項第19号に該当する。
(4)商標法第4条第1項第7号該当性
前記(1)ないし(3)で述べた事実よりすれば、本件商標の登録ないし使用は、引用各商標との関係で、請求人製品の名声を毀損するばかりでなく、請求人の製造・販売に係る純正品であるかの如く需要者を誤認せしめる結果、請求人の製造・販売に係る商品と、他社製品との市場における区別を不可能にせしめるものであり、結果として、市場の混乱を招くばかりか、取引者、需要者などにおける症例、効能ないし効果などに最適な製品の選択の妨げとなり、ひいては医療過誤などの極めて深刻な事態を招くおそれがある。
このような事態は、請求人製品の取引者、需要者に深刻な混乱を招き、健全な競業秩序の維持を目的とする商標法第1条の趣旨に反するばかりでなく、効能、効果などの観点から不適切な製品が誤って選択されることにより、公衆の衛生を損なうおそれがあるものといわざるを得ない。
また、請求人と何ら関係が認められない第三者が、自己の商標として、本件商標を、その指定商品について独占的に使用することは、請求人製品を愛用する多くの需要者感情を害するおそれがあり、公の秩序を害するおそれが高いものといわざるを得ない。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
3 まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同第15号、同第19号又は同第7号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項第1号により、無効とされるべきものである。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べた。
1 答弁の理由
請求人は、本件商標の無効理由として、商標法第4条第1項第11号、同第15号、同第19号及び同第7号を挙げているところ、以下に反論するとおりいずれも理由がないものである。
(1)商標法第4条第1項第11号該当について
ア 本件商標と引用商標1の類否について
本件商標は、黒色系6個、グレー系4個の計10個の同じ大きさの小丸を、左上1個相当分空白として、時計回りに環状に配した図形からなるものである。
本件商標に係る図形の要素の中心、環状に配された小丸の大きさは同じで、環状左斜め上半分の6個は黒色、右斜め下半分の4個はグレーの各小丸が等間隔に整然と配置されているものである。したがって、本件商標は、数珠ないしは腕輪を表した如くの図形の印象を与えるもので、その中で左上の1個相当分の空白はアクセントとして特に印象付けるものである。
これに対して、引用商標1は、時計回りに、黒色小丸を起点として黒色を薄め、かつ、大きさも順次小さくして最後3個程は白色に近い色を付した粒状のもの計13個を、円状に配した図形からなるものである。
引用商標1に係る図形の要素の中心、円形状に配された各小丸ないし粒状のものは、大きさはすべて異なり、しかも、配色も黒色から灰色、白色へとすべてその濃淡が異なるものである。このため、最後の粒状のものは極めて薄く、存在すら希薄な部分である。したがって、引用商標1は、落ち着いて目立たない一方で、大から小へ黒から白への変化を看取させるもので、物事の衰退、消滅過程を表した図形の印象を与えるものである。
より具体的に観れば、小丸が環状ないしは円状に配されているとしても、本件商標は、大きさが均一のものが10個であるのに対して、引用商標1は、大きさが大から小へとそれぞれすべてが違う大きさのものが13個で、起点の小丸と終点の小丸とで約10倍ほどの大きさの違いがある。
本件商標は、黒色系5個、グレー系5個であるのに対して、引用商標1は黒色系3個、灰色系7個、白色系3個といずれも目立たないもの計13個である。
そして、本件商標は、各小丸間の空白が均等で整然とゆったりと配置されて環状であるのに対して、引用商標1は、13個であるため、密度は濃く、しかも各小丸間の空白はそれぞれ均等ではなく後細り的に連続性があるものである。
そうとすれば、本件商標と引用商標1とを、それぞれ全体的に観察したときは、看者に与える印象は明らかに異なるものである。本件商標は、数珠ないしは腕輪状の図形の印象を与え、一方、引用商標1は、そのような印象とは無縁な落ち着いたもので、大から小へ、黒から白への変化を看取させるもので、物事の衰退、消滅過程を印象付けるものである。加えて、本件商標は左上に、引用商標1は左下に、それぞれ1個相当分の空白があるが、その点、本件商標は、すぐ目に付き顕著なアクセントであるのに対して、引用商標1は、起点と終点に位置して自然な空白を形成している。
したがって、本件商標は、これを指定商品に使用したときは、離隔観察をしても、引用商標1を印象付けることや想起、連想することはなく、引用商標1とは外観上非類似の商標である。
イ 本件商標と引用商標2の類否について
引用商標2は、縦長の長方形の右端一辺に、同一の長さ、幅をもって上から黒色から順次色を薄めて最後は白色に近い色を付した5個の図形を棒状に配した長方形の上半部やや左寄りに、時計回りに、黒色小丸を起点として黒色を薄め、かつ、大きさも順次小さくして最後3個程は白色に近い粒状のもの計13個を、円状に配した図形を配し、その下に、「TRANSINO」「[トランシーノ]」の各文字を二段に表示してなる商標であるところ、本件商標とは明らかに異なり、非類似のものである。
本件請求理由では、引用商標2の上半部分に表示された図形部分を分離して、本件商標と類似と主張するものであるところ、そうとしても、前述したとおり、引用商標1と同様の理由で、両商標は、非類似の商標である。
ウ 小括
以上のとおり、本件商標と引用各商標とは、各構成要素の違い及び相違する各要素の異なる配置、配色による全体構成上の相違、そして、それらに伴う全体的に与える印象に明らかな差異があるものであって、離隔観察においても、互いに相紛れるおそれがない外観上非類似の商標である。
また、両商標は称呼及び観念においても類似するものではない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
(2)商標法第4条第1項第15号該当について
本件商標は、引用各商標とは非類似の別異の商標である上に、引用各商標は、本件商標の登録出願時及び査定時に著名であったとは認められないから、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものではない。
まず、本件商標は、引用各商標とは類似するものではなく、非類似の互いに別異の商標である。前記のとおり、本件商標と引用各商標とは、各構成要素の違い及び相違する各要素の異なる配置、配色による全体構成上の相違、そして、それらに件う全体的に与える印象に明らかな差異があるものであって、離隔観察においても、指定商品に使用しても、互いに印象が異なり、想起、連想もすることはなく、相紛れるおそれがない外観上非類似の別異の商標である。
また、引用各商標は、図形を基本的要素とするものであるが、請求人提出の甲10、12、14、16ないし19及び21号などでは、引用各商標ではなく、「トランシーノ」の文字のみで使用し又は紹介されているものである。そうとすれば、取引者・需要者の間では、「トランシーノ」として知られているとは考えられようが、甲各号証は、引用各商標の著名性を証明するものではなく、少なくとも「トランシーノ」の文字のない引用商標1の著名性を証明するものではない。
また、甲各号証の多くは、新聞や雑誌の広告記事であるが、これらに一度や二度単発的に広告された程度では、著名性を獲得したことにはならない。地域的な広がりも不明な上に、販売数量や販売高も明らかではない(2007年の販売高が示されているのみである。)。
加えて、新聞や雑誌の広告記事などは、いずれも2007年、2008年まで掲載のものであって、その後の広告などを証明するものは一切なく、本件商標の登録出願時及び登録時前後のものは皆無である。
そうとすれば、引用各商標は、商標法第4条第1項第15号の判断時期においては、その著名性が証明されていないものであり、少なくとも本件商標の登録時に著名であったとは認められない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
(3)商標法第4条第1項第19号及び同第7号該当について
引用各商標は、前記したとおり、周知・著名とは認められない上に、本件商標は引用各商標とは類似するものではなく、また、被請求人には、何ら不正の目的は存在しない。請求人の商標法第4条第1項第19号に関する主張も、商標法第4条第1項第15号に係る主張と変わりはないもので、本件商標や被請求人に係る具体的な主張や立証はなく、いずれも抽象的な事柄を述べるに止まるものである。
また、本件商標は、公序良俗を害するおそれがあるような商標でないことは明らかであって、請求人の商標法第4条第1項第7号に関する主張も、本件商標や被請求人に係る具体的な主張や立証はなく、いずれも抽象的な事柄を述べるに止まり、商標法第4条第1項第19号などに係る主張と変わりはないものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号及び同第7号に該当しない。
2 まとめ
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号、同第15号、同第19号又は同第7号のいずれにも違反してなされたものではない。

第5 当審の判断
1 商標法第4条第1項第11号について
(1)本件商標と引用各商標の構成について
本件商標は、別掲(1)のとおり、黒色系とグレー系とから構成される同じ大きさの10個の小丸を等間隔に環状(一部に空白部を有する。)に配した構成からなる図形であって、本件商標を構成する10個の小丸は、左斜め上方の小丸一個分の配置スペースと認識される程度の空白部の左右に位置する最も濃い黒色の二個の小丸をそれぞれ基点とし、それぞれ小丸の黒色を右斜め下に向かって徐々に薄めて表してなるものである。
そして、本件商標は、これを構成する図形が特定の事物や事象を表したものではないから、なんらの称呼、観念も生じない。
一方、引用商標1は、別掲(2)のとおり、色の濃淡と大きさの異なる13個の小丸を環状に配した図形からなるものであるところ、その図形を構成する13個の小丸は、向かって左側のものを最も大きい濃い黒色とし、それを起点に時計回りに、小丸の大きさを順次小さく、かつ、黒色を徐々に薄め最後は白色に近く、粒状にみえるほど小さく表してなるものであって、最も大きな小丸と最も小さな小丸の間には、最も小さい小丸一個分(14個目)の配置スペースと認識される程度の隙間を有するものである。
そして、引用商標1は、これを構成する図形が特定の事物や事象を表したものではないから、なんらの称呼、観念も生じない。
また、引用商標2は、別掲(3)のとおり、縦長の長方形の右端に、長方形図形(ほぼ同じ長さ幅をもって上から黒色から順次色を薄めて最後は白色に近い色を付した5個の棒状の図形を連結したもの)を配し、その上半部やや左寄りに、引用商標1と同一の図形を配し、その下に、「TRANSINO(Aは内側の横線が無くVを反転した様な形状である。以下同じ。)」の文字を大きく、「[トランシーノ]」の文字を小さく、上下二段に表示してなるものである。
そうすると、引用商標2は、「TRANSINO」「トランシーノ」の文字部分から、「トランシーノ」の称呼を生じるが、これらは、特定の意味を有しない造語といえるから観念は生じない。また、図形部分は、特定の事物や事象を表したものではないから、なんらの称呼、観念も生じない。
(2)本件商標と引用各商標の類否について
本件商標と引用商標1の外観を比較すると、両者は、複数の無彩色の小丸から構成される点、その小丸が円を描くように環状に配された点、その環状の一部に空白部分を有する点において、共通するということができる。
しかしながら、本件商標を構成する同じ大きさの10個の小丸は、左斜め上方の空白部の左右に位置する最も濃い黒色の二個の小丸をそれぞれ基点とし、それぞれ小丸の黒色を右斜め下方に向かって徐々に薄めて整然と配置してなるのに対して、引用商標1は、大きさの異なる13個の小丸を、左側の大きく、色の濃いものから時計回りに、後細り的に連続性があるように配してなるものであるなど、両者は、図形の構成要素である小丸の数や大きさ、色の濃淡の変化の仕方が異なることから、全体から受ける印象は明らかに異なるものといえる。
そうすると、本件商標と引用商標1は、これらを時と所を異にして離隔的に観察した場合においても誤認混同のおそれはないから、外観上類似するものとはいえない。
また、本件商標と引用商標1は、何らの称呼、観念も生ずるものではないから、称呼、観念において類似するということもできない。
したがって、本件商標と引用商標1は、外観、称呼及び観念のいずれにおいても、類似するものとはいえない。
次に、本件商標と引用商標2の外観についてみると、本件商標は、前記(1)のとおり、黒色系とグレー系とから構成される同じ大きさの10個の小丸を等間隔に環状(一部に空白部を有する。)に配した構成からなる図形であるのに対し、引用商標2は、棒状の長方形図形と色の濃淡と大きさの異なる13個の小丸を環状に配した図形及び「TRANSINO」「[トランシーノ]」の組み合わせからなるものであるから、両者の外観は、明らかに相違するものである。
また、本件商標からは何らの称呼、観念も生じないから、本件商標と引用商標2とが称呼、観念において類似するということもできない。
これに対し、請求人は、引用商標2から引用商標1と同一の図形部分を分離、抽出して、これが本件商標と外観上類似する旨主張するが、仮に、引用商標2から当該図形部分を分離、抽出して対比したとしても、前記において、本件商標と引用商標1を対比したと同様に両者は類似するものではない。
したがって、本件商標は、引用各商標と同一又は類似するものではないから、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
(3)その他の請求人の主張について
請求人は、「引用各商標は、薬剤について使用するものであり、薬剤において商標が丸みを帯びた瓶状の容器や錠剤に使用される状況から、引用各商標がこれらに使用された場合、本件商標と同一視される。また、商標法第70条第1項の色彩を登録商標と同一にすれば、登録商標と同一と認められる商標は登録商標と同一の商標と扱われるとの趣旨は、審査又は審判における類否判断においても勘案されるべきものである」旨主張する。
しかしながら、商標法第27条において「登録商標の範囲は、願書に記載した商標に基づいて定めなければならない。」とされているとおり、商標の類否は、願書に記載した商標に基づいて判断すべきであって、使用の状況によって変化する登録商標の態様を参酌する必要はない。また、商標法第4条第1項第11号の判断において商標法第70条を勘案する必要もない。そもそも商標法第70条は、「…色彩を登録商標と同一にするものとすれば登録商標と同一の商標であると認められるもの・・・」としているのであって、本件商標と引用商標1のような、形状が同一でないものは対象としていない。
したがって、前記の請求人の主張は、いずれも採用することはできない。
(4)以上のとおり、本件商標は、引用各商標と商標において同一又は類似するものではないから、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
2 商標法第4条第1項第15号について
(1)引用各商標の周知、著名性について
甲各号証及び請求人の主張によれば、請求人は、2007年9月にシミ(肝斑)の改善薬「トランシーノ」(以下「請求人製品」という。)の発売を開始し、その発売開始当初パッケージ(外箱とボトル)、PTPシート、説明書などに「TRANSINO」又は「トランシーノ」の文字と共に引用商標1と同一の標章(以下「使用商標」という。)を使用していたことが認められる。
そして、請求人製品は、発売後1カ月で10億円超、9月の発売から年度末までの半期余りで36.3億円を売り上げ、日経MJが行う2007年商品番付の前頭にランク付け、同2007年に株式会社ドラッグマガジンと八千代会主催の第20回「ヒット商品大賞」及び「話題商品大賞」を受賞するほか、請求人製品に関する記事が、日本経済新聞、読売新聞などの全国紙、「日経トレンディ」などの雑誌、業界紙などにおいて紹介されたことが認められ、また、請求人も、テレビ、新聞、雑誌などの媒体を通じて、請求人製品の広告・宣伝を行っていたことが認められる。
しかしながら、請求人が、本件商標との類似を主張するのは、引用商標1及び引用商標2の図形部分、すなわち、使用商標であるところ、甲第10、12、14、17、22号証などにおける新聞記事などには、請求人製品を表示するものとして「トランシーノ」の文字のみが紹介され、使用商標の表示はない。また、雑誌における請求人製品の紹介記事に使用商標が表示されているとしても、主として、使用商標が「TRANSINO」又は「トランシーノ」などの請求人製品の商品名と共に表示された商品パッケージとして紹介されているのであって、これらの使用状況は、使用商標が単独で需要者の間において広く認識されていたことを立証するに足るものではない。
また、前記の新聞や雑誌の広告記事などは、いずれも2007年、2008年のものであって、本件商標の登録出願時及び登録査定時前後のものはない。
そうすると、請求人の提出した証拠によっては、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、使用商標及び引用各商標が請求人の業務に係る商品(請求人製品)を表示するものとして、需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできず、かつ、著名性を獲得していたものということもできない。
(2)出所混同のおそれ
前記(1)のとおり、使用商標及び引用各商標は、請求人の業務に係る商品(請求人製品)を表示するものとして、需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできず、かつ、著名性を獲得していたものということもできない。
加えて、前記1のとおり、本件商標は、使用商標又はその構成中に使用商標を含む引用各商標とは、同一又は類似するものではなく、明らかに区別し得る別異の商標といえるから、商標権者が本件商標をその指定商品に使用しても、これに接する需要者が、引用各商標もしくは使用商標を連想又は想起するとはいえず、その商品が請求人又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのごとく、その商品の出所について混同を生じさせるおそれはない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第19号及び同第7号について
前記2のとおり、引用各商標及び使用商標は、請求人製品を表示するものとして本件商標の登録出願時及び登録査定時において、日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標ということはできない。
また、前記1のとおり、本件商標と引用各商標はその称呼、観念及び外観のいずれの点においても、互いに紛れるおそれのない非類似の商標である。
そうである以上、本件商標の使用は、引用各商標の出所表示機能を希釈化し、業務上の信用を棄損することにつながり、請求人並びに取引者、需要者に不利益を与える結果となるものとはいえず、結局、本件商標が不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の目的)で出願し、登録を受けたものともいえない。また、本件商標が、公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標ということもできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号及び同第7号に該当しない。
4 むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項11号、同第15号、同第19号及び同第7号に違反して登録されたものでないから、商標法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲(1)
本件商標



別掲(2)
引用商標1



別掲(3)
引用商標2



審理終結日 2012-02-09 
結審通知日 2012-02-14 
審決日 2012-02-27 
出願番号 商願2010-67257(T2010-67257) 
審決分類 T 1 11・ 26- Y (X05)
T 1 11・ 222- Y (X05)
T 1 11・ 271- Y (X05)
T 1 11・ 22- Y (X05)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡辺 航平堀内 真一 
特許庁審判長 小林 由美子
特許庁審判官 森山 啓
小川 きみえ
登録日 2011-04-01 
登録番号 商標登録第5403886号(T5403886) 
代理人 工藤 莞司 
代理人 小暮 君平 
代理人 長谷川 芳樹 
代理人 谷山 尚史 
代理人 黒川 朋也 
代理人 大房 孝次 

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