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審判番号(事件番号) データベース 権利
取消2007300628 審決 商標
審判199830905 審決 商標
取消200530788 審決 商標
審判199830904 審決 商標
審判199831328 審決 商標

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審決分類 審判 全部取消 商53条の2正当な権利者以外の代理人又は代表者による登録の取消し 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y03
管理番号 1193810 
審判番号 取消2008-300167 
総通号数 112 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2009-04-24 
種別 商標取消の審決 
審判請求日 2008-02-06 
確定日 2009-02-09 
事件の表示 上記当事者間の登録第4779185号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4779185号商標の商標登録は取り消す。 審判費用は、被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4779185号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲(1)のとおりの構成よりなり、平成15年8月5日に登録出願、第3類「つや出し剤用剥離剤(床用のもの),床用つや出し剤,床用せっけん類」を指定商品として、平成16年6月18日に設定登録され、その商標権は、現に有効に存続しているものである。

第2 請求人の主張の要点
請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由を次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし甲第12号証(枝番を含む。)を提出した。
1 取消事由
本件商標は、パリ条約の同盟国において商標に関する権利(商標権に相当する権利に限る。)を有する者の当該権利に係る商標又はこれに類似する商標であって、当該権利に係る商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務を指定商品又は指定役務とするものであり、かつ、その商標登録出願が、正当な理由がないのに、その商標に関する権利を有する者の承諾を得ないでその代理人若しくは代表者又は当該商標登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者によってされたものであるから商標法第53条の2の規定により取り消されるべきものである。
2 取消原因
(1)請求人がパリ条約の同盟国において商標に関する権利を有する者であることについて
ア 請求人は、米国において1991年頃創設された「床又はカーペット清掃用化学品」の製造販売を業とする会社であり、その代表者は、創設者であったJoseph E.Roti(以下単に「Joseph」という。)の妻であるKim Roti(以下単に「Kim」という。)である。
請求人は、米国において1991年12月1日より、「HILD」の欧文字をデザイン化した商標(以下「請求人商標」という。別掲(2)参照。)を商品「床又はカーペット清掃用化学品」(以下「請求人商品」という。)について使用を開始し、現在に至るまで継続的に使用している。
イ 甲第3号証(米国商標書誌情報)は、請求人が「HILD」の文字よりなる商標を指定商品「床又はカーペット清掃用化学品」について2004年12月9日に出願した(以下「請求人米国出願」という。)こと及び請求人により、上記指定商品について1991年12月1日より商業的使用が開始されたことを示す。
また、上記書誌情報中、「Filing Basis 1A」は、請求人米国出願が現実の使用に基づくものであり(甲第4号証)、「Register PRINCIPAL-2(F)」は、ランハム法セクション2Fによる主登録であり、少なくとも5年の使用により識別力が獲得されていることを主張して登録を求めるものである(甲第5号証)。
米国における商標出願については、所定期間内に現実に使用している商標見本の提出が義務づけられているが、請求人が2004年12月9日及び2006年8月2日に提出した商標見本(specimen)には、請求人商標が使用されていることが示される(甲第6号証及び甲第7号証)。なお、請求人米国出願は、スタンダードキャラクターでされているが、米国のスタンダードキャラクターは、文字種を指定するものであり、フォントやデザイン等(あまりに重大な変更を除いて)の態様は問われることはない。
ウ 甲第8号証(請求人のウェブサイトのプリントアウト)には、請求人商標が使用され、また、請求人が多数の床及びカーペット清掃用・つや出し用・保護用・剥離用の化学品を製造販売しており、その製品ラベルにも請求人商標が使用されていることが示されている。
エ 請求人米国出願は、未だ登録に至っていないが、米国は使用主義を採用しており、当該商標を米国で最初に商業的に使用した者が(コモンロー上の)商標権を有する。したがって、請求人は、1991年12月1日に、米国において「床又はカーペット清掃用化学品」について、請求人商標に係るコモンロー上の商標権を取得し、現在も有効に保有している。
オ 米国は、パリ条約の同盟国である(甲第9号証)から、請求人はパリ条約の同盟国において商標に関する権利を有する者である。
(2)本件商標が請求人商標と同一であり、その権利に係る商品又はこれと類似する商品を指定商品とすることについて
本件商標は、「HILD」の欧文字をデザイン化してなり、これは請求人が米国において使用し、その商標権を有する請求人商標と同一である。また、請求人商標は、請求人商品に使用されており(甲第8号証)、これは本件商標の指定商品と同一又は類似するものである。
(3)本件商標がその代理人若しくは代表者によってされたものであることについて
ア 甲第10号証の1は、請求人の代表者(Joseph)が、日本での請求人商品の転売について問合せをしてきた日本商社A.Brown Co.,Ltd.のT.モチヅキに宛てた2002年11月24日付け電子メールである。
該電子メールには、「Global Link,Inc.は日本国におけるHild Chemical,Inc.のmaster distributor(総代理店)であり」と明確に書かれ、問合せ対応を被請求人の小島が行うことが記されており、被請求人のKojimaにも、ccで送信されている。
以上のように、被請求人は、請求人の「Master distributor(総代理店)」であった。
イ 甲第10号証の2は、請求人代表者(Kim)の宣誓書である。
(ア)添付書類(EXHIBIT A)は、請求人が被請求人に発行した2002年3月14日?2003年8月19日付けのインボイスである。これらのインボイスには、被請求人が2002年3月?2003年8月頃、請求人から相当量の床用化学品を購入したことが示されている。
(イ)添付書類(EXHIBIT B)は、Kimと被請求人代表者(ないし取引権限を有する担当者)小島との間で、2003年8月6日及び7日に交わされた電子メールである(なお、Joey及びCharleyは、それぞれ秘書ないし英文担当者と思われる。)。これによれば、被請求人は、請求人に対して、本件ビジネスの拡大を約し、ビジネスの円滑な遂行のため契約を締結することを希望していた。
(ウ)添付書類(EXHIBIT C)は、Kimから小島に宛てた2003年8月12日付け電子メールである。これによれば、請求人は、被請求人の希望に答えて、被請求人に対して請求人商品の日本における独占的販売代理権を与えることを内容とする独占的販売代理権の契約書案(以下単に「契約書案」という。)を送付した。
(エ)添付書類(EXHIBIT D)は、Kimと小島の間で2003年8月14日?18日にかけて交わされた電子メールである。これによれば、被請求人は、請求人に対して、さらに追加の注文を発注したこと、信用状及び一部商品の梱包についての苦情、契約書案について修正する旨、追加注文のインボイス及び納期を知らせるよう依頼したこと、及び、請求人は、これに対して納期連絡の返信をしたことが示されている。
(オ)添付書類(EXHIBIT E)は、Kimから小島に宛てた2003年10月10日付け電子メールである。この中で、請求人は、出荷等に問題はなかったか尋ねると共に、11月に日本で行われるイベントへの協力の申し出及びその翌週にシカゴで行われるトレードショー(ISSA)への参加について問合せをした。
(カ)添付書類(EXHIBIT F)は、上記メールに対して、小島からKimに宛てた2003年10月13日付け返信メールである。この中で、被請求人は、シカゴのトレードショー(ISSA)には参加しないこと、また、請求人が日本の展示会に来る必要がないことが記されている。
この頃、被請求人は、請求人の取引先である件外Zorro Technologies,Inc.(以下「ゾロ社」という。)から請求人商品を購入し始めた(甲第10号証の2の項目13)。
ウ(ア)商標法第53条の2は、パリ条約6条の7の規定を受けて規定されたものであり、外国商標権者と一定の密接な関係にある者による背信的な登録を排除し、商標の国際的保護を図ることを趣旨とする。かかる趣旨からすれば、本条の代理人、代表者とは、契約上ないし法律上の代理人若しくは代表者といった狭い範囲の者に限られず、当該外国商標権者との間で継続的な取引関係ないし慣行的な信頼関係に入っている者を含むと解すべきである。これらの者は、かかる特別の関係に鑑みて、信義則上、相手方の財産(商標権を含む)等を尊重し、これについてかかる取引関係、信頼関係に付随して安全配慮義務を負うからである。
(イ)これを本件についてみると、被請求人は、本件商標の出願日(2003年8月5日)前1年以内である2002年3月?2003年8月頃にかけて、請求人のmaster distributor(総代理店)の地位にあり、相当の期間にわたって相当量(約650,000米ドル)の請求人商品を購入(輸入)しており、また、被請求人は請求に対して、契約の締結を希望し、これに対して請求人は契約書案を送付した。
そうとすれば、請求人と被請求人は、継続的な取引関係ないし慣行的な信頼関係に入っており、一定の密接な関係にあったといえる。
しかも、被請求人が、2003年8月?10月頃、請求人の取引先であるゾロ社から請求人商品を購入し始めたことからすれば、本件商標の出願は、請求人商標が未だ日本で登録されていないことを奇貨として、正規ルートによらないで請求人商品を輸入し、日本における販売を独占しようという不正な意図から剽窃的にしたものであることは明らかである。これは、まさに前記安全配慮義務に違反する背信的行為であり、商標法第53条の2が規制しようとするものである。
よって、被請求人は、商標法第53条の2の規定する「代理人若しくは代表者又は出願前1年以内に代理人若しくは代表者であった者」に該当する。
(4)商標に関する権利を有する者の承諾を得ないでされたものであることについて
甲第9号証(「甲第10号証の2」の誤記と認める。)中の項目13及び15、契約書案第13条から明らかなように、請求人は被請求人に対して本件商標の出願を承諾していない。
(5)代理人若しくは代表者が、その商標登録出願をすることにつき正当な理由がないことについて
契約書案は、2003年8月12日に送付されており、この13条には、製造業者(請求人)が商標・商号について独占的に使用する権利を有する旨が記載されている。
本件商標の出願時点で、請求人が、被請求人に対して、我が国で商標に関する権利を取得することに関心がないと信じさせたことやその商標を放棄したと信じさせたことはない。
3 答弁に対する弁駁
(1)答弁書に対する認否ないし反論
ア 被請求人は、請求人からccにて被請求人に送信されたT.モチヅキ宛の2002年11月24日付けの電子メールについて、送信が確認できず、T.モチヅキを知らないと主張する。
しかし、本電子メールの立証趣旨は、被請求人が商標法第53条の2に規定する「代理人若しくは代表者」、すなわち「外国商標権者(請求人)との間で継続的な取引関係ないし慣行的な信頼関係に入っている者」であって、請求人の代表者であったJosephが、T.モチヅキから請求人商品を日本で販売することについての問合せに対し、直ちに被請求人を「master distributor(総代理店)」として紹介し、被請求人に対してもその旨をccにて連絡したという事実である。輸入取引に関する問合せに対し、「masterdistributor」でない者を「master distributor」として紹介することは経験則上あり得ないから、上記事実は、被請求人が本電子メールの送信、内容及びT.モチヅキを了知したか否かにかかわらず、被請求人が請求人の「masterdistributor」であったことを証明するものである。
また、被請求人は、上記電子メールが送信された2002年11月24日の時点では、被請求人と請求人との間には、EXCLUSIVE DISTRIBUORSHIP AGREEMENTのような契約書は一切交わされておらず、総代理店ではないと主張する。
しかし、ここで重要なのは、当事者間の関係が実質的に被請求人が「請求人との間で継続的な取引関係ないし慣行的な信頼関係に入っている者」であったか否かであり、契約書の有無や「masterdistributor」の肩書きではない。仮に「EXCLUSIVE DISTRIBUTORSHIP AGREEMENT」といった契約が交わされていないとしても、その契約締結の準備に入っていたという事実や「master distributor」として紹介されていたという事実が、当事者間の関係が実質的に被請求人が「請求人との間で継続的な取引関係ないし慣行的な信頼関係に入っている者」であったことを示すものである。
イ 被請求人は、請求人商品の品質が異なるように思われ、商品の供給も順調ではなくなるなど、これ以上取引関係を維持することは問題があると判断したことから、この事態を改善すべく、請求人に対してビジネスの円滑な遂行のため契約を締結することを希望したにすぎないと主張する。
しかし、請求人商品の品質は変更された事実はない(Kimの第2宣誓書:甲第12号証の項目13)。また、商品の供給も順調であった(甲第10号証の2添付のEXHIBIT A)。
そもそも、商品の品質ないし供給に関する事実は、被請求人が本件商標を出願することを何ら正当化するものでなく、本件とは全く無関係である。
また、「これ以上取引関係を維持することは問題があると判断した」のであれば、改善の要望を伝えたり、逆に取引を打ち切って他の商品を販売すればよいのであり、本件商標を出願する必要性も正当性もない。逆に、そのような措置を取ることなく、表面上「契約を締結することを希望」しつつ、その裏で無断で本件商標を出願したことは、信義に反する背信的な行為であることは明らかである。
ウ 被請求人は、「工業所有権法逐条解説」(第16版 社団法人発明協会発行)を引用し、商標法第53条の2に規定する「代理人若しくは代表者」の「代理人」とは、自然人であると法人であるとを問わず商標所有者から何らかの代理権を授与されたものを指すとされている旨主張する。
しかし、「工業所有権法逐条解説」には、「<代理人・代表者>「代表者」は、法人である商標所有者の代表者、「代理人」は、自然人であると法人であるとを問わず商標権者から何らかの代理権を授与された者を指す。通常は、当該商標に係る商品又は役務の取引について、代理権を有する者が問題となろうが、必ずしもこれに限らず、それ以外の事項についての代理権を有する者も含まれる」と解説されており(甲第11号証)、全体としては、むしろ「代理人」は狭い範囲の者に限られず、広く解されるべきであると読むのが素直である。
本件の事実関係においては、被請求人は「請求人との間で継続的な取引関係ないし慣行的な信頼関係に入っている者」であり、また、仮に「代理人若しくは代表者」を「外国の商標権者との関係で何らかの代理権などを授与されたもの」と解したとしても、被請求人は少なくとも事実上の総代理店の地位にあり、何らかの代理権を授与された者に該当する。
また、被請求人は、輸入販売業者が「代理人若しくは代表者であった者」と認められなかった事例として、昭和56年(行ケ)第60号を挙げる。
しかし、該判決は、香港の代理店が米国の商標権者の商標登録をし、これを後に日本の輸入販売業者が譲渡により取得し、これに対して取消審判が請求されたものである。この商標が出願された時点で、日本の輸入販売業者は、当該製品の輸入は一切行なっておらず、後に当該商標権を譲り受けた時点ではともかく、出願時点では、日本の輸入販売業者は、その輸入する製品の米国の商標権者との関係で、取引関係そのものがなく、「代理人若しくは代表者」といえる事情が一切認められない事案である。
これに対し、本件は、既に日本において継続的に商品を輸入販売している者が、その輸入商品にかかる商標を無断で出願したものである。すなわち、行為の背信性といった主観的事情は、当該当事者間において相対的に判断されるべきものであるところ、上記判決では、少なくとも出願時点で商標権者(商標譲受人)には背信性は認められないのに対し、本件では商標権者(出願登録人)に背信性が認められるという点で、事案が全く異なるのである。
よって、上記判決は本件において全く参考になるものではない。
エ 被請求人は、品質が異なる商品の取引を継続し、これら商品を販売することは、被請求人が蓄積した被請求人自身の信用と、被請求人が本件商標に蓄積した業務上の信用とを損なうおそれがあると危倶していた、と主張する。
しかし、商品商標とは、商品に付された商標が自他商品識別機能を発揮することにより、当該商品の品質に基づいて蓄積されるものである。輸入商品については、外国の製造者がその品質を管理するとともに、そのコントロール下において外国において付された商標について信用が蓄積するのである。したがって、被請求人がこれらの商品を販売したとしても、商標に蓄積される信用は、被請求人自身の信用ではなく、商品の出所である請求人の信用である。被請求人がいう危惧があるのであれば、単に取引を中止して、他の商品を独自のブランドで販売すればよく、本件商標を出願する必要性は全くない。
また、被請求人は、請求人と被請求人が揃って商品の製造メーカーであるゾロ社の工場を訪れたことを自認しているが、これは、請求人と被請求人が、両者がビジネス上密接な関係にあり、継続的な取引関係ないし慣行的な信頼関係に入っていたことを証明するものである。
なお、請求人が被請求人に対し、ゾロ社と直接連絡を取らないよう要求したのは、ゾロ社は、請求人商標を使用した製品を請求人にのみ供給し、他に販売しない義務があったからである(甲第12号証の項目12)。
(2)請求人は、被請求人のその余の主張のうち、下記請求人の主張に沿うものは認め、これに反するものは否認する。
ア Daniel Harrigan(以下単に「Harrigan」という。)の宣誓書に対する反論
請求人は Harriganの宣誓書に対して、Kimの第2宣誓書及びJames Rotiの宣誓書を提出し、以下のとおり反論する。
(ア)Harriganは、請求人と被請求人の間の一部取引の通訳及び世話役にすぎず、請求人と被請求人のビジネスに日常的に関与していない。同人の供述は、請求人と被請求人の取引の限られた部分的ないし断片的な知識等に基づく独自の見解にすぎない(甲第12号証の項目2)。
(イ)宣誓書の項目1?3について
これらの事実は、本件とは無関係である。代理店に与えられる「販売権」(distributorship)は、それが「独占的」か否かにかかわらず、その者に商標の所有及び登録をする権利を与えるものではない(甲第12号証の項目3)。「販売権」は「販売」することを許諾するにすぎない。
(ウ)宣誓書の項目4は事実に反する。
被請求人は、請求人の「Master distributor(総代理店)」であった。すなわち、請求人(「被請求人」の誤記と認める。)は、被請求人(「請求人」の誤記と認める。)との間で継続的な取引関係ないし慣行的な信頼関係に入っており、信義則上、相手方の財産(商標権を含む)等を尊重すべき義務を負う者であった。
甲第12号証の項目4及びこれに添付するEXHIBIT A-2(審決注:甲第10号証の1と同一の電子メール)は、日本での請求人商品の転売についての問合せ対応は、被請求人に任されていることが記されている。
(エ)宣誓書の項目5について
Josephは、請求人商品を社内で製造していない事実を隠したことはない。
製品を全て自社製造しているのか、原料メーカーから半製品等を購入しているのかは、本件と無関係である(甲第12号証の項目5)。
(オ)宣誓書の項目6は、単に同人の独自の見解ないし勝手な思い込みにすぎない。請求人は、商標権による保護に常に注意を払っていた。仮にJosephとHarriganが、偶々商標権について話をしたことがなかったからといって、出願人(「請求人」の誤記と認める。)が商標に関心がなかったとはいえないし、まして被請求人が本件商標を登録することを正当化するものではない。
米国においては、コモンロー上の商標権に拠って立つのは普通のことであり、商標の連邦登録は、有効かつ権利行使可能なコモンロー上の商標権が存在するために必須ではない(甲第12号証の項目6)。連邦登録がされていないことは、商標についての関心の有無とは無関係である。
(カ)宣誓書の項目7は事実に反する。
「機械」に関する請求人商標の使用権は、サンディエゴのMytee Productsに移転されたが、フロアケア用の化学品に関する請求人商標の商標権は請求人に移転された(甲第12号証の項目7)。このことは、甲第12号証に添付するJames Rotiの宣誓とその添付書類である「化学品」に関する請求人商標を1万米ドルでJosephに譲り渡す旨を述べた1999年8月21日付けの契約書で証明される(EXHIBIT B‐2)。
(キ)宣誓書の項目8は事実に反する。
Josephは、死亡前に、Kimに請求人の取引について詳しく知らせており、同人は、彼の死後、社長として自ら会社を切り盛りしている(甲第12号証の項目8)。
(ク)宣誓書の項目9は事実に反する。
請求人からゾロ社への支払いに滞りはなかった(EXHIBIT C‐2)。EXHIBIT C‐2によれば、請求人は、2003年6月1日から同年8月31までの間に、合計190,666.35米ドルをゾロ社に支払ったことが示されている。
(ケ)宣誓書の項目10は事実に反する。
請求人及びその代表者はビジネスを継続している(甲第12号証)。また、請求人と被請求人との間でも2003年8月以降、同年10月まで取引が続いていた。これは被請求人から請求人への複数の電子メールによって証明される(甲第4号証(「甲第10号証の2」の誤記と認める。)に添付のEXHIBIT A?F)。
イ Peter Fox(以下単に「Fox」という。)の宣誓書に対する反論
(ア)宣誓書の項目2は事実に反する。
本件商標を創案し、製品用のラベルをデザインしたのは、Josephである(甲第12号証の項目11)。ゾロ社は、半製品ないし原材料を製造して、最終メーカーに供給している原料メーカーにすぎず、かかる者が最終製品の販売者の商標を創案することは常識的に考えてもあり得ないことである。本件商標を商業上最初に使用した者は請求人であるから、請求人が本件商標のコモンロー上の商標権者であることに変わりはない。
(イ)宣誓書の項目3は事実に反する。
確かに、請求人が顧客に対し、ゾロ社と直接連絡を取らないように求めた。しかし、これは、請求人とゾロ社は、最終メーカーとその原材料ないし半製品を製造して供給する原料メーカーの関係にあり、ゾロ社は、請求人商品を、請求人にのみ提供する義務があり、請求人以外のいかなる者に対しても、これを直接販売する権限はなかったからである(甲第12号証の項目12)。
(ウ)宣誓書の項目4は事実に反する。
請求人商品が意図的に利益を増やすため過度に薄められたという事例は一つもない。(甲第12号証の項目13)。
(エ)宣誓書の項目5に関して
ゾロ社が、「formulary right」(配合ないし処方権)を有するとしても、これは本件審判とは無関係である。仮に、ゾロ社が請求人商品の成分の配合ないし処方を考案し、「formulary right」(配合ないし処方権)を有するとしても、そのことは、被請求人はいうに及ばず、ゾロ社に対しても請求人商標を所有し使用する権利を付与するものではないし、また、仮に、ゾロ社が請求人商品の「formulary right」(配合ないし処方権)を有するとしても、そのことは、請求人又はその余の第三者が、かかる配合ないし処方を実施又はその実施品である化学品等を製造した場合に問題となり得るとしても、その製品に付された商標の問題とは無関係である。
(3)証人尋問申出書について
被請求人は、Harriganの証人尋問を申請しているが、その尋問事項は宣誓書に記載された内容を超えるものではなく、本件取消要件とは無関係の内容である。
すなわち、尋問事項(1)?(3)は、形式的な事項である。
尋問事項(4)中、被請求人が請求人から独占契約を打診されたことがないとの点は、そもそも第三者が証言により証明できる性質のものではないうえに、契約書案が送付されているのであるから(甲第10号証の1のEXHIBIT C(甲第10号証の2の誤記と認める。))、この書証をもって打診があったことは明らかである。そもそも、被請求人が契約締結を希望したことは自認しているのであるから、この尋問事項は全く不合理かつ不必要である。また、同(4)中、請求人は、契約を交わしていない点については、請求人は争わない。本件で重要なことは「被請求人が請求人との間で継続的な取引関係ないし慣行的な信頼関係に入っている者」であったか否かであり、契約書の有無自体にはない。よって、この尋問も必要性はない。
尋問事項(5)の、商品の製造元が誰であるかは本件の取消要件と全く関係がないことは、上記のとおりである。
尋問事項(6)は、趣旨が不明であるが、Josephが日本国内で商標の登録を受けることを証人が知っているか否かとは、本件の取消要件とは全く関係がない。
そもそも証人は、請求人と被請求人の取引に直接関係する者ではなく、Josephや請求人の本件商標に関する方策等について知り得る立場にもない。
以上のように、本尋問事項はいずれも本件取消要件と直接にも間接にも関係がなく、審判経済の無駄と審理遅延を生じさせるにすぎない。よって、申請は却下されるべきである。

第3 被請求人の答弁の要点
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めると答弁し、その理由を次のとおり述べ、証拠方法として、乙第1号証及び乙第2号証を提出し、Harriganの証人尋問の申請をした。
1 取消事由について
「その商標登録出願が、正当な理由がないのに、その商標に関する権利を有する者の承諾を得ないでその代理人若しくは代表者又は当該商標登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者によってされたものであるから商標法第53条の2の規定により取り消されるべきものである。」との主張については争う。その理由は後述する。
2 取消原因について
(1)取消原因(1)について
ア 「ア」は不知である。
イ 「イ」の請求人が米国において、「HILD」の欧文字からなる商標を商品「床又はカーペット清掃用化学品」に商業的使用を開始した時期は不知である。その余は認める。
ウ 「ウ」の請求人が床及びカーペット清掃用・つや出し用・保護用・剥離用の化学品を販売及び製造していることは不知である。その余は認める。
エ 「エ」において、請求人が米国において請求人商標に係るコモンロー上の商標権を取得し、現在も有効に保有していることは不知である。
オ 「オ」は争わない。
(2)取消原因(2)は争わない。
(3)取消原因(3)について
ア 「ア」(甲第10号証の1)について
2002年11月24日付けの電子メール(甲第10号証の1)は不知である。
請求人は、被請求人が日本における請求人の「master distributor(総代理店)」であると記載された電子メールを件外A.Brown Co.,Ltd.のT.モチヅキに送信し、また、ccで被請求人にも送信していることから、被請求人が日本における請求人の総代理店であると主張する。
しかしながら、被請求人は、上記電子メールが被請求人にccで送信されたことを確認できない。また、被請求人は、電子メールの内容を確認できないし、また、件外A.Brown Co.,Ltd.のT.モチヅキについても知らない。
そもそも、上記電子メールが送信された2002年11月24日の時点では、被請求人と請求人との間には、EXCLUSIVE DISTRIBUTORSHIP AGREEMENT(甲第10号証の2 EXHIBIT C)のような契約書は一切交わされていない。
したがって、請求人の一方的な記載に基づく電子メールをもって、被請求人が請求人の日本における総代理店であるとの請求人の主張は否認する。
一方、仮に、被請求人がこの電子メールが自身に送信されたことを知っており、また、電子メールの内容及びT.モチヅキを知っていたとしても、上記電子メールの請求人の一方的な記載をもって、被請求人が日本における請求人の総代理店であるとは認められない。
イ 「イ」(甲第10号証の2及び添付書類)について
(ア)Kimの宣誓書(甲第10号証の2)は、西暦の記載がなく宣誓書の成否に疑問を持たざるを得ない。その宣誓内容のうち項目13については争う。理由は後述する。また、項目14及び15については確認できない。
(イ)「(イ)」の「被請求人は、請求人に対して、本件ビジネスの拡大を約し、ビジネスの円滑な遂行のため契約を締結することを希望していた。」ことは認める。
被請求人は、請求人の代表者であったJosephの死亡(2003年3月)後、請求人から供給される請求人商品が、従来の商品と品質が異なるように思われ、また、商品の供給も順調ではなくなるなど、これ以上取引関係を維持することは問題があると判断したことから、この事態を改善すべく、請求人に対してビジネスの円滑な遂行のため契約を締結することを希望したにすぎない(「We hope to exchange a contract for the future smooth business.」:EXHIBIT Bの1頁下から4行目)。
(ウ)「(ウ)」?「(カ)」は認める。
ウ 「ウ」について
(ア)の「かかる趣旨からすれば、本条の代理人、代表者とは、契約上ないし法律上の代理人若しくは代表者といった狭い範囲の者に限られず、当該外国商標権者との間で継続的な取引関係ないし慣行的な信頼関係に入っている者を含むと解すべきである。これらの者は、かかる特別の関係に鑑みて、信義則上、相手方の財産(商標権を含む)等を尊重し、これについてかかる取引関係、信頼関係に付随して安全配慮義務を負うからである」との主張は否認し、その余は認める。
商標法第53条の2に規定する「代理人若しくは代表者」の「代理人」とは、自然人であると法人であるとを問わず商標所有者からなんらかの代理権を授与されたものを指すとされており、「代表者」とは、法人である商標所有者の代表者と解説されている(工業所有権法逐条解説 第16版)。
また、昭和56年(行ケ)第60号判決は、当時の商標権者は、製品の単なる輸入販売業者であったというにとどまり、当時の商標権者と被告人との間に、代理人として製品を販売する法律上の関係ないしは特約店、輸入総代理店等日本において製品を販売するについての特別の契約上慣行上の関係が存在したものと到底認めることはできず、その間に格別の信頼関係が形成されていたものともいえないから、商標法第53条の2に規定する「被告の代理人若しくは代表者であった者」と認めることはできないと判断している。
以上のことから、商標法第53条の2に規定する「代理人若しくは代表者」は、請求人が主張する「当該外国商標権者との間で継続的な取引関係ないし慣行的な信頼関係に入っている者を含むと解すべき」ではなく、外国の商標所有者との関係で何らかの代理権などを授与されたもの、特別の契約上慣行上の関係が存在し、格別の信頼関係が形成されている状態をいうと解すべきである。
(イ)は否認する。被請求人は、請求人と2002年3月から2003年8月頃にかけて継続的な取引関係にあったにすぎないから、単なる得意先又は顧客であったとしても、請求人のmaster distributor(総代理店)の地位にあったことはない。
また、前記のとおり、2003年3月にJosephの死亡後、請求人から供給される請求人商品は、従来の商品と品質が異なるように思われ、また、商品の供給も順調ではなくなるなど、請求人はこれ以上取引関係を維持することは問題があると判断したことから、ビジネスの円滑な遂行のために契約を締結することを希望したのである。
このことから、被請求人と請求人との関係は、継続的な取引関係にあったとしても、特別の契約上慣行上の関係が存在したとはいえず、格別の信頼関係が形成されていなかったといえる。
さらに、被請求人が本件商標を不正な意図から剽窃的に出願したものであるとの主張は否認する。
被請求人は、前記のとおり、品質が異なる商品の取引を継続し、これら商品を販売することは、被請求人が蓄積した被請求人自身の信用と、被請求人が本件商標に蓄積した業務上の信用とを損なうおそれがあると危倶していた。
そこで、被請求人は本件商標の出願をすると共に、前後して、請求人に対して上述のとおり、ビジネスの円滑な遂行のための契約を締結することを希望したにすぎない。
また、同時期に、被請求人は、請求人から供給される商品の品質が異なるように思っていたことから、請求人商品の製造元であるゾロ社のFoxに連絡を取った。すなわち、この頃、被請求人は、請求人商品を製造しているのは請求人ではなく、ゾロ社であることを知ったので、商品の安定した供給を維持すべく、ゾロ社からも製品の輸入を開始した。
しかしながら、請求人は、被請求人とゾロ社を訪れた際に、被請求人が同社に直接連絡を取らないよう被請求人に要求し、さらに後日改めて念を押している(EXHIBIT D 2003年8月18日付けメールの2段落)。請求人の上記要求に対して、被請求人は商品の品質が異なるように思っていたことから、当事者間の信頼を基礎とする商取引において請求人に対する信頼関係の維持に問題があると判断したので、被請求人は請求人の申出でを拒否した。
上記事情を勘案すれば、被請求人と請求人とは継続的な取引関係にあったとしても、特別の契約上慣行上の関係を維持できない状況だったといえるから、格別の信頼関係が形成されていなかったといえる。
エ 被請求人は、以下の(ア)の事実を主張し、証人Foxの宣誓及び証言により立証する。
(ア)(a)2000年に、ゾロ社は、請求人の代表者であったJosephから、請求人商品とその関連製品を製造するように依頼された。すなわち、請求人が自ら請求人商品を製造していないことは明らかであり、請求人は被請求人に事実を伝えずに取引を継続していた。
(b)2003年3月26日に、Josephの死亡後、請求人の現在の代表者であるKimと被請求人とがゾロ社を訪れ、今後の商品の製造及び新商品の開発について確認した。そして会議の際、請求人代表者は、被請求人に対し、どんな状況であれ、Foxに直接連絡しないよう念を押した。このことから、請求人は、被請求人がゾロ社に商品に関する一切の問合せをしないことを要求しているので、被請求人は請求人を信頼できなくなった。
(c)ゾロ社は、2003年7月下旬に請求人代表者との関係に問題が生じていることを被請求人に伝えた。そして、被請求人と直接取引をすることになり、2003年10月に被請求人に商品の初回発送をした。すなわち、請求人とゾロ社との関係から、被請求人に対する商品の供給が順調でなくなった。
(イ)以上のことから、被請求人と請求人とは継続的な取引関係にあったといえ、被請求人は請求人の日本における得意先又は顧客であったとしても、特別の契約上慣行上の関係を維持できない状況だったといえるから、格別の信頼関係が形成されていなかったといえる。
したがって、被請求人は、請求人の代理人の地位になかったといえるので、被請求人は商標法第53条の2に規定する「代理人若しくは代表者、または、出願前1年以内に代理人若しくは代表者であった者」に該当しないことは明らかである。
(4)取消原因(4)について
取消原因(4)について否認する。請求人は、甲第10号証の2の項目13及び15、契約書案第13条から明らかと主張するが、Kimn宣誓書(甲第10号証の2)は、前記のとおり、西暦の記載がなく宣誓書の成否に疑問を持たざるを得ないが、その項目13については否認し、同15については確認できない。
Kimの宣誓書の項目13において、請求人は、2003年から被請求人が請求人の許可なくゾロ社から請求人商品を購入し、被請求人の認知や承諾なしに、日本において「HILD」の商標を付した商品を販売したと主張する。
しかしながら、被請求人は、請求人の当時の代表者であったJosephから、請求人商品に関する独占契約について一度も打診されていないし、両者は契約も交わしていない。また、被請求人は、取引の当初には請求人が商品の製造元でないことを伝えられず、請求人と取引を行っていた。
上記の事実については、証人Harriganの宣誓書及び証言により立証する。
このような事情の下、被請求人は、請求人商品を製造しているのは請求人ではなく、ゾロ社であることを2003年に知ったので、商品の安定した供給を維持すべく、ゾロ社からも製品の輸入を開始したのである。
一方、契約書案は、被請求人が本件商標を出願した2003年8月5日以降の、2003年8月12日に電子メールで送信されたものであって、被請求人と請求人との間で締結に至っていないものである。
したがって、上記事実を勘案すると、契約書案第13条にいかなる内容が記載されていようと本件審判に関係なく、また、宣誓書及び契約書案を根拠として本件商標の出願について承諾の有無を主張すること自体失当である。
(5)取消原因(5)について
取消原因(5)について否認する。2003年8月12日に被請求人に送信された契約書案は、上述のとおり、本件商標の出願日以降のものであり、さらに、被請求人と請求人との間で締結に至っていないから、いかなる内容が記載されていようと本件審判に関係がない。
また、請求人は、本件商標の出願時点で、請求人が被請求人に対して、我が国で商標に関する権利を取得することに関心がないと信じさせたことやその商標を放棄したと信じさせたことはないと主張するが、請求人の当時の代表者であったJosephは、日本国内において本件商標の登録を受けることについて検討していたことはない。この事実は、証人Harriganの宣誓書及び証言により立証する。
以上の事実からすれば、請求人が商標の権利を取得する関心がないことを信じさせた場合に該当するので、商標法第53条の2に規定する「正当な理由」に該当する。

第4 当審の判断
1 商標法第53条の2は、「登録商標がパリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国若しくは商標法条約の締結国において商標に関する権利(商標権に相当する権利に限る。)を有する者の当該権利に係る商標又はこれに類似する商標であって、当該権利に係る商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務を指定商品又は指定役務とするものであり、かつ、その商標登録出願が、正当な理由がないのに、その商標に関する権利を有する者の承諾を得ないでその代理人若しくは代表者又は当該商標登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者によってされたものであるときは、その商標に関する権利を有する者は、当該商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。」と規定し、パリ条約6条の7の規定を実施するため、すなわち、他の同盟国等で商標に関する権利を有する者の保護を強化し、公正な国際的取引を確保するために設けられた規定と解される。
そこで、本件商標の登録が上記条項の要件を満たすものであるか否かについて検討する。
2 本件商標がパリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国若しくは商標法条約の締結国において商標に関する権利(商標権に相当する権利に限る。)を有する者の当該権利に係る商標又はこれに類似する商標であって、当該権利に係る商品又はこれらに類似する商品を指定商品とするものであるか否かについて
(1)パリ条約の同盟国等において商標に関する権利を有する者
甲第3号証ないし甲第9号証によれば、請求人は、パリ条約の同盟国であるアメリカ合衆国において、「HILD」(通常の活字体よりなる。)の文字よりなり、国際分類第3類「Chemicals for use in cleaning floors and carpets」を指定商品とする商標を2004年12月9日に出願した(請求人米国出願)こと、請求人米国出願に係る商標の最初の商業的使用は、1991年(平成3年)12月1日であり、その態様は、別掲(2)のとおりであること、請求人米国出願は、2008年3月17日の時点において、未だ登録されていないこと、等が認められる。
ところで、アメリカ合衆国の商標法は、商標の使用が商標保護の基礎となる使用主義を採用しているところから、登録主義を採用している我が国の商標法と異なり、登録されていなくても、取引上使用されている限り、一定の地域内において権利として保護されるから、その使用に係る商標について排他的な権利が認められている者は、「商標に関する権利を有する者」に含まれるとみるのが相当である。
そして、請求人は、1991年12月1日から請求人商標の使用を開始したものと推認することができるから、商標法第53条の2でいう「パリ条約の同盟国において商標に関する権利(商標権に相当する権利に限る。)を有する者」に該当するとみて差し支えがなく、この点について、被請求人は争うことを明らかにしていない。
(2)商標及び指定商品についての同一又は類似
本件商標は、別掲(1)のとおり、「Hild」の文字を図案化して表してなるものであり、その指定商品は、前記のとおり、第3類「つや出し剤用剥離剤(床用のもの),床用つや出し剤,床用せっけん類」とするものである。そして、本件商標の登録出願がグローバルリンク株式会社によって、平成15年8月5日にされ、その設定登録が平成16年6月18日にされたことは、商標登録原簿の記載より認めることができる。
これに対し、請求人商標は、別掲(2)のとおり、「Hild」の文字を図案化して大きく表し、該文字中、長く伸ばされた「H」の左ステムと「d」のステムの間に、「CHEMICAL」の文字を小さく横書きしてなるものであるところ、その構成中、「CHEMICAL」の文字部分は、指定商品との関係及び表示態様から、格別看者に印象づけられない部分であるのに対し、図案化された「Hild」の文字部分は、その表示態様及び創造語であると認められるところから、看者の注意を強く引く部分であるといえる。
そうすると、請求人商標は、その構成中の「Hild」の文字部分が自他商品の識別機能を強く発揮する部分であるというべきである。
したがって、本件商標と請求人商標は、実質的に同一の商標と認めることができる。
また、本件商標の指定商品は、請求人商標が使用される商品「床又はカーペット清掃用化学品」とは、同一又は類似の商品と認められる(この点については当事者間に争いのない事実。)。
(3)まとめ
前記(1)及び(2)によれば、本件商標は、パリ条約の同盟国において商標に関する権利(商標権に相当する権利に限る。)を有する者の当該権利に係る商標と同一であって、その指定商品は、当該権利に係る商品と同一又は類似の商品というべきである。
3 本件商標の登録出願が、正当な理由がないのに、その商標に関する権利を有する者の承諾を得ないでその代理人若しくは代表者又は当該商標登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者によってされたものであるか否かについて
(1)甲第10号証の1及び甲第10号証の2に添付のEXHIBIT A?Fによれば、以下の事実が認められる。
ア 大阪市西区に所在のAR.Brown Co.,Ltd.のTokushi Mochizukiは、請求人の代表者であったJosephに対し、2002年11月22日付け電子メールで、概略、「私たちは日本の商事会社であり、日本の業者が請求人商品を日本市場で独自のブランドで販売したいといっているが、あなたと詳細について話し合いたい。」旨伝え、これに対し、Josephは、2002年11月24日付け電子メールで、概略、「請求人は、被請求人及びKojimaとの間で、日本におけるmaster distributorの契約の締結をしており、上記2002年11月22日付けの電子メールの質問をKojimaに転送する。」と回答した(甲第10号証の1)。
イ 請求人と被請求人は、2002年において、3月14日、4月22日、6月13日、7月8日、8月20日、10月15日、10月25日、12月2日、12月4日、12月10日の10回にわたり、また、2003年において、1月27日、3月4日、4月24日、5月28日、7月10日、8月19日の6回にわたり、請求人商品の取引をしたこと、それぞれの取引金額は、10,000米ドルを下ることはなく、多いときには、50,000米ドル以上であり、16回の取引金額を平均すると、1回の取引金額は約40,367米ドルであった(EXHIBIT A)。
ウ “Charley”Kojima(CharleyないしKojimaが被請求人の関係者であることについては、当事者間に争いがない。)は、請求人の現在の代表者であるKimに対し、2003年8月6日及び同7日付けの電子メールで、被請求人は、請求人に対して、請求人商品の取引の拡大を約し、ビジネスの円滑な遂行のために契約を締結することを希望する旨を伝え、これに対し、Kimは、何の問題もないとの回答をした(EXHIBIT B)。
エ Kimは、Kojimaに対し、2003年8月12日付け電子メールで契約書案を送付した(EXHIBIT C)。
オ “Charley”Kojimaは、Kimに対し、2003年8月14日付け電子メールで、次回の注文をする共に、前回の注文において最初に送られたインボイスの金額と二回目に送られたインボイスの金額が違っていること、洗浄剤の箱をもっと丈夫なものに替えることを伝えると共に、信用状等についての苦言を述べ、さらに、契約書案についてもっと簡素なものがよいこと、次回納期を知らせること等を伝えた。これに対し、Kimは、納期連絡を2003年8月18日付け電子メールで伝えた(EXHIBIT D)。
カ Kimは、Kojimaに対し、2003年10月10日付け電子メールで、前回の出荷等に問題はなかったか等を尋ねると共に、11月に日本で行われるイベントの協力の申し出とその翌週にシカゴで行われるISSA(トレードショー)への参加についての問合せをした(EXHIBIT E)。
これに対し、Kojimaは、2003年10月13日付け電子メールで、シカゴで行われるISSAには参加できないこと、11月に日本で行われるイベントに請求人が来る必要がないことを伝えた(EXHIBIT F)。
(2)代理人若しくは代表者
前記(1)で認定した事実によれば、請求人の代表者であったJoseph が日本の商事会社であるAR.Brown Co.,Ltd.のTokushi Mochizukiに伝えた、「請求人と被請求人及びKojimaとの間における、日本における請求人商品のmaster distributor契約の締結」は、契約書などの提出がなく、他に上記契約の締結があったと認めるに足る客観的証拠は見出せない(この点に関して、請求人は、被請求人の証人尋問申出に対する反論において、契約を締結していないことについて争わない旨述べた。)。
しかしながら、少なくとも2002年3月14日から2003年8月19日にかけて、請求人と被請求人の間には、請求人商品についての取引が継続して行われていたところであり、また、その取引高も決して少量であったとはいえず、むしろ単なる得意先又は顧客の範囲を超えた取引高であるといえる。そして、その取引の継続性及び取引高の多さ故に、請求人の代表者であったJosephは、被請求人について、日本における請求人商品のmaster distributorであるとして、日本の他の貿易業者に紹介をしていたものと推測できるのであり、また、現在の請求人の代表者にあっても、請求人と被請求人との間の取引状況からみて、被請求人が希望していた「契約の締結」をすることにより、両者間の取引関係をより強固なものにするために、上記被請求人の提案を快諾し、契約書案を作成したものと推察することができる。
そうすると、請求人と被請求人との間には、継続的な取引により慣行上の信頼関係が形成され、被請求人は、請求人の請求人商品の販売体系に組み込まれるような立場にあった者とみることができる。そして、商標法第53条の2が、他の同盟国等で商標に関する権利を有する者の代理人若しくは代表者又は代理人若しくは代表者であった者がその権利者との間に存する信頼関係に違背して正当な理由がないのに同一又は類似の商標登録をした場合にその取消について審判を請求できる旨の規定であることにかんがみれば、同条項に規定する「代理人若しくは代表者」は、必ずしも他の同盟国等の商標権者と代理店契約を締結した者など契約上特別な関係、あるいは、法的関係にある者に限定されることなく、広く商標権者の商品を継続的に輸入し販売する又は販売していた者など、継続的な取引により慣行上の信頼関係が形成されていた関係にあった者をも指すと解すべきである。
この点に関し、被請求人は、被請求人と請求人とは継続的な取引関係にあったとしても、請求人との間には総代理店等の契約の締結はなく、また、Josephの死亡後における請求人商品の品質の低下や供給の滞り、製造元を明らかにしなかったことなどを挙げ、特別の契約上慣行上の関係を維持できない状況だったといえるから、格別の信頼関係が形成されていなかった旨主張する。
しかし、前記認定のとおり、請求人と被請求人の間には、少なくとも2002年3月14日から2003年8月19日にかけて、得意先又は顧客の範囲を超えた請求人商品の取引があったのであり、その間に被請求人が請求人に対し、請求人商品の取引に関する契約の締結を希望する旨表明していたのであるから、その事実をもってすれば、請求人と被請求人とは、継続的な取引により慣行上の信頼関係が形成されていた関係にあったとみるべきであり、仮に被請求人が請求人ないし請求人商品に対し、取引上の不満があったのであれば、取引関係を解消すればことが足りるのであって、本件商標を登録出願する必要性は存在せず、被請求人の本件商標を登録出願する行為は、その地位を悪用し、請求人との間の取引上の信頼関係に違背するものであって、社会的にみても容認し難いところであるから、上記主張は理由がない。
したがって、被請求人は、商標法第53条の2にいう「当該商標登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者」に該当するといわざるを得ない。
(3)正当な理由
被請求人は、本件商標を登録出願するにつき正当な理由があるとして、請求人の代表者であったJosephは、日本国内において本件商標の登録を受けることについて検討していたことはない旨主張し、乙第1号証(Harriganの宣誓書)を提出する。
乙第1号証によれば、Harriganは、Josephが死亡した2003年3月25日まで、請求人のエージェントとして日本とのビジネスに加わっていた旨の記載があり、また、宣誓書の項目6には、「私の記憶によれば、Mr.Roti氏は、商標については、興味もなかった。この件については、私はMr.Roti氏と話したことが一度もない。」との記載がある。
しかし、上記記載のみをもって、請求人が被請求人に対し、日本において請求人商標の権利を取得することを放棄した、又は取得する関心がないことを信じさせた場合に該当するものとは直ちには認め難いところであり、請求人と被請求人との取引が行われていた2003年8月12日付け電子メールで送付した契約書案第13条には、「販売業者(審決注:請求人)は、製造業者(審決注:被請求人)が使用する又は権利を主張する商標・商号について製造業者が独占的に使用する権利に異議のないものとする。」とあり、さらに、同第17条には、「本契約の終了と同時に、販売業者は、『Hild,P Team』を含む製造業者の商号・ロゴ・商標を含む表示を削除し、以後使用しない。」とあるところからみると、請求人は、日本において請求人商標等の使用、すなわち、請求人商標の権利の取得を希望していたと窺うこともできる。他に請求人が被請求人に対し、日本において請求人商標の権利を取得することを放棄した、又は取得する関心がないことを信じさせた場合に該当すると認めるに足る客観的な裏付け証拠の提出はない。
してみれば、被請求人の本件商標の登録出願をする行為は、正当な理由があったものと認めることはできない。
(4)承諾
被請求人は、本件商標の登録出願についての承諾の有無について、以下のように主張する。
被請求人は、請求人の代表者であったJosephから、請求人商品に関する独占契約について一度も打診されていないし、両者は契約も交わしていない。また、被請求人は、請求人商品を製造しているのは請求人ではなく、ゾロ社であることを2003年に知ったので、商品の安定した供給を維持すべく、ゾロ社からも製品の輸入を開始したのである。一方、2003年8月12日付け電子メールで送付された契約書案は、被請求人が本件商標を出願した2003年8月5日以降のものであって、被請求人と請求人との間で締結に至っていない契約書案にすぎない。したがって、これらの事実を勘案すると、契約書案第13条にいかなる内容が記載されていようと本件事件に関係なく、また、宣誓書及び契約書案を根拠として本件商標の出願について承諾の有無を主張すること自体失当である。
しかしながら、前記(2)認定のとおり、被請求人は、商標法第53条の2にいう「当該商標登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者」に該当するというべきである。そして、被請求人は、請求人との取引において、請求人商標が請求人商品を表示するためのものとして使用されていることを知り得る立場にあった者である(このことは、甲第10号証の2に添付のインボイスに請求人商標が表示されていた事実からも明らかである。)。
一方、被請求人の主張及び乙第2号証(Foxの宣誓書)によれば、2003年3月にJosephが死亡した後は、請求人から供給される請求人商品の品質が落ち、供給も順調ではなかったことや請求人が請求人商品の製造者を知らせなかったことなど、被請求人の請求人に対する取引上の不信感が深まり、被請求人は、請求人との間の取引が継続している期間内に、ゾロ社との間で、ゾロ社が製造する請求人商品の取引の準備をしつつ(2003年10月に商品の初回発送)、平成15年(2003年)8月5日に本件商標の登録出願を行ったものと認められる。
そうすると、請求人商標が請求人商品を表示するものとして、請求人により使用されていた事実を知っていた被請求人が、請求人との間の取引を終止させ、ゾロ社との間の新しい取引のために請求人商標と実質的に同一の本件商標を日本国において登録出願し、登録を得たものと推測せざるを得ず、本件商標の登録出願には、請求人の承諾がなかったものと判断せざるを得ない。他に上記認定を覆すに足る証拠の提出はない。
したがって、本件商標の登録出願は、請求人の承諾を得ないでされたものというべきであるから、上記被請求人の主張は採用することができない。
(5)まとめ
前記(2)ないし(4)によれば、本件商標の登録出願が、正当な理由がないのに、請求人の承諾を得ないで本件商標の登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者と同等の地位にあった被請求人によってされたものと認めることができる。
4 むすび
以上によれば、本件商標は、商標法第53条の2に規定する要件をすべて満たしているものと認められるから、その登録は、同規定により、取り消すべきものである。
なお、被請求人は、証人尋問申出書を提出し、Harriganの証人尋問を申請するが、尋問事項によれば、乙第1号証(Harriganの宣誓書)と符合するものが多くあり、また、請求人は、被請求人との間に独占契約を締結した事実はないと認めているところであるから、これらを総合すれば、改めてHarriganに対する証人尋問を行う必要はないものと認められ、したがって、証人尋問の申出では採用しない。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 別掲(1) 本件商標



別掲(2) 請求人商標



審理終結日 2008-12-03 
結審通知日 2008-12-11 
審決日 2008-12-24 
出願番号 商願2003-66123(T2003-66123) 
審決分類 T 1 31・ 6- Z (Y03)
最終処分 成立 
特許庁審判長 林 二郎
特許庁審判官 杉山 和江
小畑 恵一
登録日 2004-06-18 
登録番号 商標登録第4779185号(T4779185) 
商標の称呼 ヒルド 
代理人 恩田 誠 
代理人 山田 哲也 
代理人 樺澤 襄 
代理人 樺澤 聡 
代理人 恩田 博宣 
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