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審決分類 審判 全部無効 商4条1項7号 公序、良俗 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y0305
審判 全部無効 商4条1項8号 他人の肖像、氏名、著名な芸名など 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y0305
審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) Y0305
管理番号 1186004 
審判番号 無効2007-890097 
総通号数 107 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2008-11-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-06-20 
確定日 2008-09-19 
事件の表示 上記当事者間の登録第4862858号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4862858号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4862858号商標(以下「本件商標」という。)は、「オフロート」の文字を標準文字により表してなり、平成15年8月11日に登録出願、第3類「家庭用帯電防止剤,家庭用脱脂剤,さび除去剤,染み抜きベンジン,洗濯用柔軟剤,洗濯用漂白剤,かつら装着用接着剤,つけまつ毛用接着剤,洗濯用でん粉のり,洗濯用ふのり,せっけん類,歯磨き,化粧品,香料類,研磨紙,研磨布,研磨用砂,人造軽石,つや出し紙,つや出し布」及び第5類「薬剤,医療用油紙,衛生マスク,オブラート,ガーゼ,カプセル,眼帯,耳帯,生理帯,生理用タンポン,生理用ナプキン,生理用パンティ,脱脂綿,ばんそうこう,包帯,包帯液,胸当てパッド,歯科用材料,はえ取り紙,防虫紙,乳糖,乳児用粉乳,人工受精用精液」を指定商品として同17年5月13日に設定登録されたものである。

第2 請求人の主張の要点
請求人は、本件商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第146号証を提出している。
1 請求の理由
(1)商標法第4条第1項第15号への該当性
(ア)請求人は、その請求人に係る著名な商標「ロート」を引用し、かかる著名な商標「ロート」と、他の文字「オフ」とを結合した本件商標は、引用商標との間で、商品の出所混同が生ずるおそれがある商標であり、商標法第4条第1項第15号に該当する商標である。
(イ)商標「ロート」が著名性を獲得していることは顕著な事実であるが、下記の事実からもそのことは明らかである。
(a)商標「ロート」は、請求人が製造、販売する商品に係るハウスマークであり、独占的かつ継続的におよそ100年に亘り使用しているものである。商標「ロート」は、明治41年12月5日に商標登録され、翌年の明治42年4月より「ロート目薬」の販売を開始し、ほぼ1世紀の時を経てもなお、その販売は継続されており、取引者、需要者間において、愛用され続けているものである(甲第2号証ないし甲第5号証)。
(b)請求人が提供するテレビ番組等のオープニングテーマ「ロート、ロート、ロート、ロート、ロート、ロート、ロート製薬?」は、昭和37年の商業放送開始以来、現在に至るまで、その軽快なメロディーに変化はなく、多くの人々が一度は耳にし、一度は口ずさんだことがあると思料されるほど、世間一般に知られたフレーズであると認められるものであり、このメロディーだけでも「ロート」を想起するに充分なものである。加えるに、これら「ロート」のフレーズと共に「ロート」、「ロート」の英文字表記である「ROHTO」の文字を配してなる請求人の社屋のまわりを大群の鳩が飛び交う様子を映し出した映像は、お茶の間の人気番組「アップダウンクイズ」(昭和38年10月よりスタート。平均20%を超える高視聴率番組で、22年間に亘り放送され続けた超人気長寿番組。)や、「クイズダービー」(昭和51年1月よりスタート。最高視聴率は、関西地区では、45.8%、関東地区では、40.8%をマーク。今では考えられない高視聴率番組、17年間に亘り放送され続けた超人気長寿番組。)、「SMAP×SMAP」(平成8年4月よりスタート。超人気タレントSMAPを起用。大物ゲストが毎回登場。)など、番組のオープニング時に必ず放送されており、これにより老若男女を問わず、幅広い年代層に親しまれているものである(甲第6号証ないし甲第12号証)。
これらの番組は、全国版で長年に亘って放送され、それ故に商標「ロート」は請求人の製造販売に係る商品を表徴するハウスマーク、なかんずく、グッドウィルの付着したブランドとして、全国的に、誰でもといえる程に著名な商標と認められるに至っている。
(c)請求人は、自らが製造、販売する商品の宣伝広告活動に止まらず、事あるごとに、大規模な企業広告活動を行っており、これにより、世間一般に、「ロート」は、請求人の周知・著名な略称、商標として認められるものである(甲第13号証ないし甲第19号証)。
(d)請求人は、自らが製造、販売する商品、例えば、胃腸薬「パンシロン」、酔い止め薬「パンシロン トラベルNOW」、滋養強壮剤「ビバメイト」、目薬「ロートZi:」「なみだロートL」、コンタクトレンズ用剤「ロートCキューブ ベースソリューション」、洗眼薬「ロートジー フラッシュ」、外皮薬「メンソレータムやわらか素肌クリーム」、薬用入浴剤「メンソレータム くすり湯」、ビタミン薬「ビバメイトE錠」、風邪薬「ドリスタン」、鼻炎薬「アルガード鼻炎クールチュアブル」、花粉対策用品「アルガード鼻すっきりスルー」、鎮咳去痰薬「レスパ」、スキンケア化粧品「セバメド」、化粧品「ロート キュアラ 薬用コンシーラー」、リップクリーム「リップオンリップ」、サプリメント「セラシーン」、特定保健薬食品「タクティIS」、コンタクトレンズ「ロートI.Q.」など、多種多様の商品について、テレビCMを主体とする様々なメディアを利用して、かつ、人気タレントを起用して、長年に亘り、活発な宣伝広告活動を行なっている。
これらの宣伝広告には、当然にして請求人のブランドたる「ロート」を直ちに認識させる英文字表記「ROHTO」の文字が必ず使用されており、これらの宣伝広告が、長期に亘り、頻繁に、大量に行われてきた実情からしても、「ロート」が著名な商標としての地位を得ていることは明白である(甲第20号証ないし甲第121号証)。
(e)請求人は、「目薬」のみならず、その他の眼科用剤「洗眼薬」や「コンタクトレンズ用剤」、「胃腸薬」など、多岐にわたる商品を販売しており、近年においては、「医薬品」でも新規分野の商品(便秘薬他)や、「医薬品」にとどまらず「化粧品」や「アロマセラピー用エッセンスオイル」、「コンタクトレンズ」や「サプリメント」など、幅広い分野での商品開発に取り組み、これらの商品の販売実績を着実に伸ばしているところである(甲第122号証ないし甲第129号証)。
(f)請求人は、「目薬」をはじめとする「一般用医薬品」(大衆薬)において、多大な販売実績とシェアの高さを維持しており、そのブランドたる商標「ロート」の著名たることは明らかである(甲第130号証ないし甲第132号証)。
(g)証券取引銘柄として請求人は「ロート」と略称され株価欄に継続的に掲載され商標「ロート」と同一の語が常に目にとまる状況にあり、その著名性を裏付けるものである(甲第133号証ないし甲第135号証)。
(h)請求人は、上述のような「医薬品」「化粧品」「食品」「コンタクトレンズ」「その他の分野の商品」の製造、販売にとどまらず、例えば、Jリーグ「GAMBA OSAKA」の「ユニホームスポンサー」及び「2005年オフィシャルスポンサー」をつとめるなど、事業活動以外でも様々な活動を行なっている。「GAMBA OSAKA」選手のユニホームの背中上部は、「ロート」の英文字表記「ROHTO」の文字が付されており、試合中継時には常に視聴者の目に触れる事情からしても、「ロート」を直ちに認識させる「ROHTO」の文字に接する機会が、請求人の事業範囲を超え、多岐に亘るものであることが明らかで、商標「ロート」の著名性がこの点からも裏付けられる。
このように、商標「ロート」は、「医薬品」「化粧品」「食品」「飲料」「コンタクトレンズ」等々の業において請求人のハウスマークとして実に100年に亘って独占的かつ継続的に使用し、その間、高い売上げ実績と高い占有率を維持し、膨大な広告宣伝実績等と相俟って、いまや請求人の主たるブランドとしての確固たる地位を獲得し、「全国津々浦々、誰でも」とも言うべきほどの著名性をも獲得しているのである(甲第136号証)。
(ウ)本件商標「オフロート」の本規定への該当性
(a)本件商標は請求人の著名な商標「ロート」と、他の文字「オフ」との結合した商標であり、「オフロート」そのものが既成語でないことが明らかであるから、請求人の商品又は役務の出所の混同を生ずるおそれがあるものに相違なく、商標法第4条第1項第15号に該当する商標であることが明らかである。
(b)「オフロート」は、おそらくは成語「off」を表わすであろう「オフ」と請求人の著名な商標「ロート」との結合に係るもので、商標権者によれば造語に相当するとされており、なるほどオ・フ・ロ・ー・トなる片仮名文字を同書同大同間隔に配して成ることだけを捉えれば、称呼ないし外観上一体性が認められなくもないものではある。しかし、前置詞として機能する「off」を表わす「オフ」と請求人の著名な商標「ロート」の結合にあっては、取引上当然に「ロート」部分が要部としてないしは要部的に機能しており、また、「オフロート」全体から当然に請求人の著名な商標「ロート」が想起ないしは連想されるのである。そして、それ故に「オフロート」は、請求人が著名な商標「ロート」を用いて提供する商品、役務と混同を生ずるものである。
(c)商標法第4条第1項第15号の適用を受ける代表的な事例として「パーソニー」と「ソニー」、「アレノマ」と「レノマ」が審査基準に挙げられ、また実際の事例として「ギフトセゾン」と「セゾン」(東京高裁平成8年(行ケ)第202号:甲第137号証)、「ノエルヴォーグ」と「ヴォーグ」(東京高裁平成9年(行ケ)第278号:甲第138号証)、「ILANCELI」と「LANCEL」(東京高裁平成11年(行ケ)第217号:甲第139号証)などが挙げられる。
・「パーソニー」は「Per」を表わすであろう「パー」と「ソニー」の結合商標であり、「パー」と比較して著名商標「ソニー」に要部的機能が認められ、「パーソニー」全体から著名商標「ソニー」が想起される、として「パーソニー」を他人の著名な商標を含み、当該他人の商品と混同を生ずるおそれのある商標と認め、商標法第4条第1項第15号を適用した事例であり、正しく本件「オフロート」と請求人の著名な商標「ロート」との関係を示唆するにふさわしいものである。
・「アレノマ」は著名商標「レノマ」と「ア」の結合に係り、著名商標「レノマ」部分が要部としての機能を果すものである。
・「ギフトセゾン」は著名商標「セゾン」と「ギフト」の結合に係り、取引者、需要者は「セゾン」の文字に注意、関心を引かれる。
・「ノエルヴォーグ」は著名商標「ヴォーグ」と「ノエル」の結合に係り、「ノエルヴォーグ」の付された被服製品に接すれば、商標構成上の相違に係わらず著名商標「ヴォーグ」の部分に着目し、著名商標「ヴォーグ」を連想する。
・「ILANCELI」は著名商標「LANCEL」の前後に「I」及び「I」を結合させて成るもので、「ILANCELI」から「イランチェリ」等の称呼のみが生じたとしても、全体として特定の意味を有さず、取引者・需要者は「ILANCELI」に含まれる著名商標「LANCEL」の文字を認識し「LANCEL」商品との間に混同を生ずる。
そして何よりも商標法第4条第1項第15号においては登録商標と先行商標とが称呼・観念・外観について類似するか否かは問題とされず、登録商標から著名先行商標が想起され商品等の出所の混同が生ずるか否かのみが問題とされるのである。
ただ、登録商標である既成語中に著名商標を含む場合にあっては、当該著名商標を想起させるとしても混同を生ずるおそれがないとされた事例(「POLAROID」と「POLA」の例)があるが、本件商標は全体として何らかの概念をも生ずることのない造語であることは本件審査時における商標権者の主張からも明らかであり、既成語でないので、そのような事例には該当せず、商標法第4条第1項第15号の適用を受けることもまた明らかである。
(2)商標法第4条第1項第8号への該当性
(ア)請求人は、請求人「ロート製薬株式会社」の著名な略称である「ロート」を引用し、本件商標は、他人の名称の著名な略称を含む商標であり請求人の承認を得たものではないので、商標法第4条第1項第8号に該当するものである。
(イ)本件商標は「ロート」なる語を含んでいるが、かかる「ロート」は、前述せる如く請求人「ロート製薬株式会社」の全商品を表徴する著名なブランドであり、且つ、「ロート製薬株式会社」の著名な略称でもある。
・商標法第4条第1項第8号は、人格権の保護を趣旨とするもので、他人の略称についてもその対象とするのは、著名性を有する略称であればこれを使用する者が恣意的に選択する余地があるが故であり、そのような著名な略称へのフリーライド(只乗り)を許して当該人格権を侵害されるのを防止するがためである。
・本件商標は、前述せる如く「オフ」と「ロート」の結合商標であり、全体として特定の既成概念を生ずるものではなく、前述せる如く、略称「ロート」が請求人「ロート製薬株式会社」を表示するものとして世間一般に広く知られていることから、正しく、商標法第4条第1項第8号にいう他人の著名な略称を含む商標に相違なく、その登録を無効とされるべきものである。
・実際、一体性のある造語と理解され得る商標「SONYAN」ですら、他人「ソニー株式会社」の著名な略称「ソニー」を含む商標としてその登録が否定されているのである(東京高裁昭和52年(行ケ)第133号:甲第140号証)。
・また、商標「カロンソニー」についても他人「ソニー株式会社」の著名な略称「ソニー」を含む商標として登録が否定されており(昭和42年審判第7860号:甲第141号証)、更に商標「Intelbee」にあっては、拒絶査定不服審判において全体が一体不可分の造語として認定されることにより商標法第4条第1項第8号の適用が排されてその登録が認められたものの(平成7年審判第28037号:甲第142号証)、その後、無効審判において他人「Intel Corporation」の著名な略称「Intel」を含むことが明らかであるとしてその登録が無効にされているのである(平成10年審判第35254号:甲第143号証)。
(3)商標法第4条第1項第7号への該当性
(ア)請求人は、本件商標は、英語「off」の表音「オフ」と、請求人の著名なブランドであり、著名な略称である「ロート」を結合させた商標であって、「off」の語意ないしは語感からして「ロート」を否定することを表わす可能性があり、請求人「ロート製薬株式会社」を差別するものであって、かかる「オフロート」を使用して行う取引行為は、競争の在り方としては不当である。したがって、本件商標は所謂公序良俗を害するおそれがある商標に該当するものである。
(イ)本件商標は、英語「off」を想起させる「オフ」と請求人の著名な略称「ロート」を結合させて成るものである。ここにおいて「off」なる語は、日本においても親しまれた語で、前置詞、副詞、形容詞、動詞として機能するものであり、「…を離れて」「…をはずれて」、「離れて」「質が落ちて」「わきへはいった」、「差し控えて」、「去る」「死ぬ」等の意味で使用されるもので(甲第144号証)、これに後続する語に対して否定的ないしは打消的に用いられ、後続する語の印象を悪くするかの如くに働くものである。かかる「off」の表音「オフ」からも同等の意味が認識されるので、「オフ」と「ロート」の結合した、本件商標は正に「ロート」を否定するないしは打消す語として機能するのであり、かかる「オフロート」を商標として機能させる、即ち商標取引の目的として流通の場に置くことは、「ロート」を著名な略称とする請求人「ロート製薬株式会社」を否定し、差別せんとするもので、取引社会における競争の在り方としては正に不当であり、許されざるものである。
したがって、本件商標は、公序良俗を害するおそれがある商標といわねばならず、商標法第4条第1項第7号に該当するものである。
(4)結論
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号、同項第8号及び同項第7号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきである。
2 弁駁の理由
(1)商標法第4条第1項第15号への該当性
(ア)商標「ロート」の著名性について
被請求人は、特許電子図書館の「日本国周知・著名商標検索」における「ロート」の検索結果(乙第1号証)に基づき、『商標「ロート」の著名性は顕著な事実でないことは明白である。』などと主張している。
しかしながら、請求人の商標「ロート」は、特許庁における周知・著名商標の審査にも利用されている「FAMOUS TRADEMARKS IN JAPAN日本有名商標集」(AIPPI・JAPAN提供)にも掲載されており(甲第145号証)、また甲第3号証ないし甲第136号証の各証拠からも、著名であることに疑いを挟む余地はない。
実際、被請求人のいう「日本国周知・著名商標検索」は「防護標章として登録されている商標及び異議決定・審判・判決において周知・著名な商標と認定された登録商標に係る書誌的事項を、商標名等で検索することができる」ものであって、特許庁で周知・著名と認定された商標のみが掲げられているにすぎず、これに掲げられた商標が周知・著名であることが云えるとしても、これに掲げられていない商標が周知・著名ではないと云えるものではない。したがって、「検索結果0件」をもって商標「ロート」の著名性を否定する被請求人の主張は当を得ないものである。
また、被請求人は商標登録第1597347号や商標登録第106685号に係る商標「ロート」が第一石鹸株式会社の所有に係る商標であったことだけを根拠に、これらの商標が第一石鹸株式会社の商標として長年に亘り独占的かつ継続的に使用されていたものであると主張しているが、これも当を得たものではない。
第一石鹸株式会社が長年に亘って「ロート」に係る商標権を所有していたことに異論はないとしても、その故をもって何故に「第一石鹸株式会社の商標として長年に亘り独占的かつ継続的に使用されていた」ことに結びつくのか理解に苦しむところである。第一石鹸株式会社の当該商標権所有期間中に指定商品のいずれかに商標「ロート」を使用したであろうことは想像に難くないが、請求人の「ロート」が著名性を獲得していた2003年8月頃までに、請求人の商標「ロート」の著名性獲得を阻害する程度に継続的に使用されていたことについては、何らの根拠もなく、甲第3号証から甲第136号証にて立証されるように、商標「ロート」を独占的かつ継続的に使用して著名性を形成してきた事実を否定できるものではない。
なお、著名性を獲得するに際して、独占的使用を要求される場合があるが、これは「100%」を意味するものではなく、商標使用により化体するであろうグッドウィルを当該商標に集中させる程度の独占性ないしは独占的使用で足りるのであって、被請求人ですら把握できない第一石鹸株式会社の商標「ロート」の使用程度をもって、請求人の商標「ロート」の「独占的使用」を否定する被請求人の主張は当を得たものではないことが明らかである。
(イ)本件商標「オフロート」について
(a)被請求人は、本件商標が外観、称呼上一連一体であると主張し、これを根拠として『敢えて「ロート」のみに着眼すべき格別の理由はない』と主張している。そして、本件商標に係る異議申立事件(異議2005-90409号)の異議決定より『本件商標は、一体不可分の造語よりなるものであり、「ロート」の文字部分のみが分離して観察されるべき特段の事情は見出せない』旨の記載を引用している。更には、「凡そ類似性のない商標において出所の混同が生ずることはあり得ないというべきである。」等と主張している。
しかし、これらは、商標法第4条第1項第15号のなんたるかを誤解して為された主張であり、当を得ないものである。
(b)第一に、本規定(同法第4条第1項第15号)は、同法第4条第1項第10号ないし同法第4条第1項第14号の規定の適用を受けるものを除いて適用される独立したものであり、然るが故に、スタティックに「類似するか否か」ではなく、ダイナミックに「混同を生ずるおそれ」が問われるのである。
実際、「商標審査基準第3 十三 2」において、「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」に該当するか否かの判断要素として、(イ)その他人の標章の周知度(広告、宣伝等の程度又は普及度)、(ロ)その他人の標章が創造標章であるかどうか、(ハ)その他人の標章がハウスマークであるかどうか、(二)企業における多角経営の可能性、(ホ)商品間、役務間又は商品と役務間の関連性等が挙げられ、これらを総合的に考慮するものとされ、「類似するか否か」は直接的には一切問われるものではない。
被請求人は、本件商標の一連一体性を主張し、これを根拠に「ロート」が着目され分離して観察されるものではないと主張しているが、かかる主張は、本件商標が請求人の商標「ロート」と「類似するか否か」を判断する場合の争点であって、本規定における「混同を生ずるおそれ」を判断する場合の直接の争点ではないのである。
更に、被請求人は「類似」を「混同」の必要要件の如くに断じているが、前述の商標審査基準に明らかな如く、「混同」は「類似」を要件とすることなく判断されるべきものであり、被請求人の主張は明確に誤ったものである。
(c)商標審査基準は、前記した「第3 十三 2」に基づく具体的判断基準として「第3 十三 5」を掲げている。同基準によれば、「他人の著名な商標と他の文字又は図形等と結合した商標は、その外観構成がまとまりよく一体に表されているもの又は観念上の繋がりがあるものなどを含め、原則として、商品又は役務の出所の混同を生ずるおそれがあるものと推認して、取り扱うものとする。ただし、その他人の著名な商標の部分が既成の語の一部となっているもの、又は、指定商品若しくは指定役務との関係において出所の混同のおそれのないことが明白なものを除く。」取り扱いが為されることになっている。
本基準は、出願商標の構成が一連一体不可分の構成であることのみを理由として、出所の混同のおそれなしとの結論が導かれる事例を排する目的で設けられたもので、スタティックな商標の構成よりも、ダイナミックな商標の出所表示性を重視したものであり、その適用事例として「arenoma/アレノマ」と「renoma」「レノマ」、「パーソニー」と「ソニー」、「ILANCELI」と「LANCEL」等の他、「MEIVOGUE/メイボーク」と「VOGUE」(東京高裁平成10年(行ケ)第162号:甲第146号証)等も挙げられる。
本件商標は、将に本基準を適用されるべき典型的な事例であると確信する。
本件商標は、著名な「ロート」を含み、既成語を為すものではなく、取引の実情を鑑みても本件商標の指定商品は、同じ店内、同じ商品棚に陳列され、流通経路も合致しており、商標「ロート」を使用する商品との関係において出所の混同のおそれのないことが明白なものでは「ない」からである。
(d)本件商標は、被請求人も主張するように、「ロート」の語に先行させて語頭に「オフ」を位置させたものである。かかる「オフ」は、英文字「off」の片仮名表記であって、我が国にあっても、「…を離れて」「…をはずれて」、「離れて」「質が落ちて」「わきへはいった」、「差し控えて」、「去る」「死ぬ」等を意味するものであることが容易に理解され、「ロート」の著名性と相俟って「オフ」に後続する「ロート」が想起され、実際の取引の場にあっては、取引者・需要者をして混同を生ぜしめるおそれが多分に存在するのである。
このように、実際の取引の場にあっても、前記した商標審査基準「第3 十三 5」における「出所の混同を生ずるおそれがあるものとの推認」から除かれる事情も一切存在せず、本件商標は商標法第4条第1項第15号に該当する商標と云わざるを得ないのである。
(e)なお、被請求人は「ノービゲン」と「ビゲン」の例等の出願商標側の一連-体性に基づく引用商標との非類似性を根拠として、本件商標が本規定の適用を受けない旨の主張をしている。しかし、例えば「ノービゲン」事案は、その後の「ILANCELI」判決(甲第139号証)において、『ノービゲン判決は、「染毛剤」についての著名な商標であると主張された「ビゲン」と、指定商品を「せっけん類、歯みがき、化粧品、香料類」とするが、取引の実情においては「ビニールシート用洗浄剤」ないし「ビニールハウスの洗浄剤」に付されて使用されている「NOVIGEN」のローマ字と「ノービゲン」の片仮名文字を上下二段に横書きしてなる商標について、商品の出所の混同を生じるおそれがないとしたものであって』として、「NOVIGEN」側の指定商品に鑑み、実際の使用商品との関係で、出所混同を生ずるおそれがないものであったことを明らかにした上で、『本件とは、商標の構成も商品の関連性も異なり、事案を異にするというべきである。』として、本件において被請求人の主張するところと同様の「ILANCELI」側の主張が斥けられており、被請求人の主張の不当性が裏付けられている。
(f)因みに、本件商標についての登録公報(甲第1号証)によれば、その参考情報である「称呼」欄に「オフロート」に続いて「ロート」と「オフ」が掲載されており、特許庁においても、本件商標から「ロート」の称呼が生ずるとされ、少なくとも本件商標から「ロート」が想起され、「ロート」部分が着目される存在であることに疑いはないものと確信している。
また、これに関連して付記すれば、被請求人は「オフロート」は「ロート」と比して、語頭において「オフ」を存在させることで差異を有し称呼が異なるとの主張、また両者は外観において異なり、更に観念においても類似しないとの主張をしているが、これはいずれもが「オフロート」が「ロート」と類似するか否かを判断する場合の手法にすぎないのである。
しかも、それ故に「オフロート」をもって「ロート」の関連性に想いを致すことなどあり得ず等と主張しているが、実際、特許庁において「オフロート」に「ロート」の称呼が付されている事実からしても、両者の類否はともかく、「オフロート」から「ロート」が想起され、「オフロート」が「ロート」との混同要素を含むことが明白であるから、被請求人の主張は根拠なきものにすぎないのである。
(g)このように、本件商標が著名な商標「ロート」とは非類似であると主張し、非類似であることのみをもって混同を生ずるものではないとする被請求人の主張は当を得ないものであり、本件商標が著名な商標「ロート」を含み、本件商標自体既成語でもなく、指定商品との関係で出所混同のおそれのないことが明白なものでもないので、本件商標は、請求人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標に該当することは明らかである。
(2)商標法第4条第1項第8号の該当性
被請求人は、その答弁書において『「オフロート」全体としてまとまった一つの造語商標を構成している本件商標から敢えて「ロート」の部分に着目すべき格別の理由は存在せず、「ロート」を含んだ商標であるという認識は到底生ずるものではない。』などと主張しているが、被請求人自身が認めているように、本件商標は、「ロート」に先行して語頭に「オフ」を配してなるもので、「ロート」の著名性と相俟って「ロート」部分が着目されるものであり、被請求人の主張の不当性は明らかである。また、本件は、被請求人が挙げた審判決例とは全て事案を異にするもので、本規定の主旨に立ちかえって、その該当性が判断されるべきものであるが、その場合、「オフ」なる語を語頭に置いて、「ロート」なる著名商標にフリーライドするが如き構成を採る本件商標が本規定に該当することは明らかである。
(3)商標法第4条第1項第7号の該当性
被請求人は、本件商標が一連・一体であることを理由に請求人の主張のような観察がなされる余地が皆無であると主張しているが、本件商標が「オフ」と「ロート」の結合商標であることは、前記せる被請求人の主張を待つまでもなく明らかであり、一連一体であるか否かを問わず、そのような結合から公序良俗に違反する事情が読みとれるか否かで本規定への適用が検討されるべきものである。
そのような立場からすれば、本件商標にあって、著名な「ロート」に先行する「オフ」は「off」の片仮名表示であることが明らかで、しかも当該「off」は前述せる如く、否定的な意味合いで使用されるものであるから、「オフ」に後続する「ロート」が否定される関係にあり、本件商標は、まさしく、請求人のたゆまぬ営業乃至は事業努力の結果得た「ロート」の著名性、当該「ロート」に化体せしめたGoodwillを冒とくするものに他ならないのである。
被請求人は、「ノービゲン」の例を挙げ、本件商標の本規定の適用はない、と主張しているが、「ノービゲン」の場合は「ビゲン」に係る商品との関係で、関連性が否定され「異なる事案」とされたもので、請求人の業務に係る商品を含んで指定商品とする本件商標案件について、文字通り事案が異なり、参考とするに足るものではないのである。
本件商標は請求人の著名な商標「ロート」の価値を減殺するものであり、まさしく公序良俗違反の典型であると信ずるものである。
(4)むすび
以上のとおり、被請求人の主張は当を得ないものであり、本件商標は商標法第4条第1項第15号、同項第8号及び同項第7号に違反して登録されたものであるから、登録を無効とされるべきものであると確信する次第である。

第3 被請求人の答弁の要点
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第9号証を提出している。
請求人は、本件商標は、商標法第4条第1項第15号、同法第4条第1項第8号及び同法第4条第1項第7号に該当し、同法第46条の規定に基づいて無効にされるべきものであると主張しているが、到底承服し難く、以下のとおり答弁する。
1 商標法第4条第1項第15号への該当性
(1)商標「ロート」の著名性について
請求人は、商標「ロート」を引用して、その著名性を根拠に、商品の出所の混同が生ずるおそれがある旨主張している。
しかしながら、特許電子図書館における「日本国周知・著名商標検索」において「ロート」を検索すると、乙第1号証に示すとおり、「検索結果0件」の回答が得られる。すなわち、商標「ロート」の著名性は顕著な事実でないことは明白である。
請求人は、商標「ロート」を独占的かつ継続的におよそ100年に亘り使用していると主張しているが、商標登録第1597347号(昭和58年6月30日登録)「ロート」は、平成16年5月28日に移転登録される以前は第一石鹸株式会社の所有に係るものであり、「洗剤、洗い粉、シャンプー、髪洗い粉、ドライクリーニング剤、クレンザー、みがき粉」について21年間に亘って独占的且つ継続的に使用されていたものである。また、商標登録第106685号(大正8年8月29日登録)「ロート」も、平成16年5月28日に移転登録される以前は第一石鹸株式会社の所有に係るものであり、「せっけん(日本薬局方の薬用せっけんを除く。)」について85年間に亘って独占的かつ継続的に使用されていたものである。すなわち、商標「ロート」は、請求人の使用に係る商標のみならず第一石鹸株式会社の商標として長年に亘り独占的かつ継続的に使用されていたものであり、商標「ロート」といえば請求人の商標という図式は成り立ち得ないものである。
(2)本件商標「オフロート」について
(ア)本件商標は片仮名標準文字で一連一体に表してなるものであり、全体として「オフロート」の称呼が生じる造語商標である。本件商標は外観上においてもまとまりがあり、一字、一字が密接状態で「オフロート」なるまとまった語を形成しており、また「オフロート」全体を称呼した場合においても一気に滑らかに「オフロート」と称呼可能であり、敢えて「ロート」のみに着眼すべき格別の理由はないというべきである。
請求人は『「オフロート」は、おそらくは成語「off」を表わすであろう「オフ」と請求人の著名な商標「ロート」との結合に係るもの』であると主張しているが、「OFFロート」と表したものではなく、あくまでも片仮名標準文字で一連・一体に表されている「オフロート」を「オフ」と「ロート」に分断し、しかも「オフ」は「off」であろうとの推断に基づいて「ロート」を抽出しようとするものであるが、このような商標の観察方法をとるべき格別の根拠はないというべきである。本件商標は、例えば、「オフロ」と「フロート」を結合して合成された造語商標と認識することも可能であり、いずれにしても「オフ」を「off」と認識することなど到底あり得ないといえる。
(イ)因みに、本件商標に関する異議2005-90409における異議決定において乙第2号証のような判断が示されている。
また、同様の商標「おふろーと」に関する異議2004-90157における異議決定においても乙第3号証のような判断が示されている。
(3)請求人は、「商標法第4条第1項第15号においては登録商標と先行商標とが称呼・観念・外観について類似するか否かは問題とされず、登録商標から著名先行商標が想起され商品等の出所の混同が生ずるか否かのみが問題とされるのである。」と主張している。しかしながら、凡そ類似性のない商標において出所の混同が生ずることはあり得ないというべきである。例えば、乙第4号証ないし乙第8号証のような審決例・判例からも明らかである。
(4)なお、商標法第4条第1項第15号における「混同を生ずるおそれ」の有無については、最高裁判所が既に判断基準を示すところであり、『「混同を生ずるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等と間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきである。』(平成10年(行ヒ)85号最高裁判所第三小法廷)としている。すなわち、「当該商標と他人の表示との類似性の程度」は「混同を生ずるおそれ」の有無を判断する際の基準の一つであることは論を待たないところである。
(5)以上のとおり、本件商標は外観上まとまりよく一体的に表現されていて、しかも、全体をもって称呼してもよどみなく一連に称呼し得るものであり、また、「オフ」と「ロート」の文字部分の間に特に間隔があるわけではなく、その書体の大きさや表示態様に区別があるわけでもないから、本件商標は、該構成全体をもって一体不可分の造語よりなるものと認識し把握されるものである。
他方、引用商標「ロート」は、その構成文字に相応して「ロート」の称呼を生ずることは明らかであり、本件商標から生ずる「オフロート」とは、称呼における識別上重要な要素を占める語頭において「オフ」の有無という顕著な差異を有するものであり、この差異が比較的短い音構成よりなる両称呼の全体に及ぼす影響は大きく、それぞれ一連に称呼した場合においても語調、語感を異にし聴き誤るおそれはないものである。
また、本件商標と引用商標が外観において異なることは明らかである上、本件商標及び引用商標ともに造語であって、特定の観念が生ずるものと認めることはできないため観念において類否を検討する余地はない。
このように、両者は全く類似性がなく、「ロート」という文字が「オフロート」という全体構成の中に埋没して個性を失っていると見れる以上、「オフロート」に接した取引者・需要者が「ロート」の関連性に想をいたすことなどはあり得ず、出所の混同が生ずる余地はない。
2 商標法第4条第1項第8号への該当性
(1)請求人は、「ロート製薬株式会社」の著名な略称である「ロート」を引用し、本件商標は、他人の名称の著名な略称を含む商標であり請求人の承認を得たものではないので、商標法第4条第1項第8号に該当するものであると主張している。
しかしながら、上述のとおり、「オフロート」全体としてまとまった一つの造語商標を構成している本件商標から敢えて「ロート」の部分に着目すべき格別の理由は存在せず、「ロート」を含んだ商標であるという認識は到底生ずるものではない。
(2)前記異議決定においても乙第2号証及び乙第4号証の判断が示されている。
3 商標法第4条第1項第7号への該当性
(1)請求人は、本件商標は、英語「off」の表音「オフ」と、「ロート」を結合させた商標であって、「ロート製薬株式会社」を否定し、差別せんとするもので、公序良俗を害するおそれがある商標といわねばならないと主張している。
しかしながら、前述の通り、本件商標は「OFFロート」と表したものではなく、片仮名の標準文字で「オフロート」と一連・一体に表したものであり、請求人主張のような観察がなされる余地は皆無である。
また、商標法第4条第1項第7号に関する審査基準の説明によれば、『「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、その構成自体がきょう激、卑わい、差別的若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合及び商標の構成自体がそうでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するような場合も含まれるものとする。』とされているが、請求人主張のような理由が、これに該当しないことは明白である。
(2)平成6年(行ケ)第157号判決(乙第8号証)、平成14年(行ケ)616号、平成16年(行ケ)108号及び平成17年(行ケ)10336号の判決においても、商標法第4条第1項第7号の適用について判断のあやまりが示されている。
4 商標構成中に「ロート」を含む登録商標
商標構成中に「ロート」を含む登録商標は、乙第9号証に示す通り、数多く確認することができる。このことは商標構成中に「ロート」の文字を含むが故に請求人を連想させるという図式が成り立たないことを示すものである。
5 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号、同項第8号及び同項第7号のいずれにも該当するものではなく、無効にされるべきいわれはない。

第4 当審の判断
1 商標法第4条第1項第15号の該当性について
請求人の提出に係る甲第3号証及び甲第4号証によれば、明治時代の発売当初及び昭和初期に発行されたものと推認される「目薬」の新聞広告の記事において、その商品の特徴と共に「ロート目薬」の文字が表示されていることが確認できる。甲第11号証及び甲第12号証によれば、請求人が昭和38年?平成17年までの期間に提供した複数のテレビ放送番組が認められ、甲第6号証ないし甲第10号証では、その番組でコマーシャルとして放送されるオープニングに係る請求人のテーマソング「ロート、ロート、ロート、ロート、ロート、ロート、ロート製薬」が確認ができ、かつ、これらの番組は、一般視聴者において著名な番組であったことから、このオープニングのテーマソングは、視聴者において相当程度知られていたということができる。甲第13号証ないし甲第129号証によれば、請求人に係る「目薬、胃薬等」について「ロート」(以下、引用商標という。)の文字を使用した宣伝広告が新聞等に掲載されていることが確認でき、甲第130号証では、請求人に係る「目薬」について、その市場占有率は、我が国において2001年度(2003年版)では第1位であることが認められ、甲第132号証では、2004年度の請求人に係る大衆薬品の売上高は海外子会社分を含めると国内第2位であったことが認められる。また、甲第133号証では、日経会社情報2004春号の社名索引頁に請求人の社名の略称「ロート製薬」が掲載され、甲第134号証及び甲第135号証では、日本経済新聞の株式相場欄において大阪第1部及び東京第1部に銘柄として引用商標の掲載が認められる。
以上の甲各号証及び請求人の主張を総合すれば、引用商標は、本件商標の登録出願前から我が国において、請求人の業務に係る商品「薬剤」等を表示する商標として、取引者・需要者の間に広く認識されていたものと認められ、その状態は本件商標の登録査定時においても継続していたものと認められる。
そして、本件商標は、全体として特定の意味をもつものとは認められないものである。
そうすると、本件商標の指定商品及び引用商標の商品のほとんどが共にドラッグストアで販売されている取引の実情等を総合勘案すれば、構成中に「ロート」の文字を含む本件商標は、商標権者がこれをその指定商品について使用した場合において、これに接する取引者・需要者をして、引用商標を連想又は想起させるものであって、その商品が請求人又は同人と経済的又は組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如く、その商品の出所について混同を生じさせるおそれがあるものといわなければならない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
2 商標法第4条第1項第7号及び同項第8号の該当性について
請求人は、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当すると主張しているが、本件商標の構成中の「オフ」の文字部分が直ちに英語の「off」を想起するものとはいい難いから、本件商標が「ロート」を「off」するものということはできず、本件商標が請求人「ロート製薬株式会社」を否定し差別するものとはいえない。
したがって、本件商標は、公正な取引秩序を乱し、社会一般の道徳観念ないしは公の秩序を害するものとは認められない。そして、これを認めるに足る証拠もない。
また、請求人は、引用商標が請求人の名称の略称であるとして商標法第4条第1項第8号に該当すると主張しているが、請求人の名称は、「ロート製薬株式会社」であり、その略称である「ロート製薬」が著名であるとしても、引用商標である「ロート」は、上記1のとおり、請求人の使用に係る商標としての著名性は認められるが、請求人の名称の略称としての著名性を認めるに足る証拠はないから、本件商標の構成中に「ロート」の文字を含んでいることをもって、本件商標は、他人の名称の著名な略称を含む商標であるということはできない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号び同項第8号に該当するものではない。
3 被請求人の主張について
被請求人が援用する判決例、審決例等は、いずれも本件とは商標の構成、態様等において事案を異にするものであり、本件の判断に影響を及ぼすものではないから、この点に関する請求人の主張は採用の限りでない。
また、被請求人は、商標「ロート」が長年に亘り第一石鹸株式会社の所有に係る商標であったとして、その著名性を否定しているが、引用商標の著名性については、前記1のとおりであり、この点についても被請求人の主張は採用できない。
4 まとめ
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定によりその登録を無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審理終結日 2008-07-18 
結審通知日 2008-07-25 
審決日 2008-08-06 
出願番号 商願2003-68354(T2003-68354) 
審決分類 T 1 11・ 22- Z (Y0305)
T 1 11・ 271- Z (Y0305)
T 1 11・ 23- Z (Y0305)
最終処分 成立  
前審関与審査官 大塚 順子 
特許庁審判長 林 二郎
特許庁審判官 小畑 恵一
杉山 和江
登録日 2005-05-13 
登録番号 商標登録第4862858号(T4862858) 
商標の称呼 オフロート、ロート、オフ 
代理人 小原 順子 
代理人 川瀬 幹夫 
代理人 稗苗 秀三 
代理人 大島 泰甫 
代理人 後藤 誠司 
代理人 小谷 悦司 

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