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審決分類 審判 全部無効 商4条1項15号出所の混同 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) 024
管理番号 1111550 
審判番号 無効2002-35186 
総通号数 63 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 商標審決公報 
発行日 2005-03-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2002-05-14 
確定日 2005-01-25 
事件の表示 上記当事者間の登録第4220940号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 登録第4220940号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。
理由 第1 本件商標
本件登録第4220940号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲のとおりの構成よりなり、平成8年8月12日登録出願、第24類「織物,メリヤス生地,タオル,手ぬぐい,ハンカチ,その他の布製身の回り品,織物製テーブルナプキン,敷布,布団,布団カバー,布団側,まくらカバー,毛布,テーブル掛け 」を指定商品として、同10年12月11日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
請求人が本件商標の登録無効に引用する登録商標は、以下のとおりであり、いずれも現に有効に存続している。
(a)登録第1297389号商標(以下「引用A商標」という。)は、「VALENTINO GARAVANI」の欧文字を書してなり、昭和49年10月1日登録出願、第16類「織物、編み物、フェルト、その他の布地」を指定商品として、同52年9月5日に設定登録されたものである。
(b)登録第852071号商標(以下「引用B商標」という。)は、「VALENTINO」の欧文字を書してなり、昭和43年6月5日登録出願、第17類「被服(運動用特殊被服を除く)布製身回品(他の類に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)」を指定商品として、同45年4月8日に設定登録され、その後、平成16年7月5日に一部放棄に係る「手袋」についての登録の一部抹消の登録がなされたものである。
(c)登録第1415314号商標(以下「引用C商標」という。)は、「VALENTINO GARAVANI」の欧文字を書してなり、昭和49年10月1日登録出願、第17類「被服(運動用特殊被服を除く)布製身回品(他の類に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)」を指定商品として、同55年4月30日に設定登録されたものである。
(d)登録第1648451号商標(以下「引用D商標」という。)は、「VALENTINO GARAVANI」の欧文字を書してなり、昭和49年10月1日登録出願、第20類「家具、畳類、建具、屋内装置品(書画及び彫刻を除く)屋外装置品(他の類に属するものを除く)記念カツプ類、葬祭用具 」を指定商品として、同59年1月26日に設定登録されたものである。
(e)登録第1402916号商標(以下「引用E商標」という。)は、「VALENTINO GARAVANI」の欧文字を書してなり、昭和49年10月1日登録出願、第27類「たばこ、喫煙用具、マッチ」を指定商品として、同54年12月27日に設定登録されたものである。

第3 請求人の主張
請求人は、結論同旨の審決を求めると申し立て、その理由及び答弁に対する弁駁を要旨次のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第79号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 請求の理由
(1)商標法第4条第1項第8号違反について
(ア) 請求人は、イタリアの服飾デザイナー「VALENTINO GARAVANI」(ヴァレンティノ・ガラヴァーニ)の同意を得て、同人のデザインに係る各種の商品を製作、販売しており、「VALENTINO GARAVANI」あるいは「VALENTINO」の欧文字からなるそれぞれの商標を上記各種商品について使用している者であるところ、上記のヴァレンティノ・ガラヴァーニの氏名は単に「ヴァレンティノ」(VALENTINO)と略称されており、この略称も本件商標の登録出願の日前より著名なものとなっている。
すなわち、ヴァレンティノ・ガラヴァーニは、1932年イタリア国ボグヘラで誕生、17歳の時パリに行き「パリ洋裁学院」でデザインの勉強を開始し、その後フランスの有名なデザイナー「ジーン・デシス」、「ギ・ラ・ロシュ」の助手として働き、1959年ローマで自分のファッションハウスを開設した。1967年にはデザイナーとして最も栄誉ある賞といわれる「ファッションオスカー」(Fashion Oscar)を受賞し、ライフ誌、ニューヨークタイムズ誌、ニューズウィーク誌など著名な新聞、雑誌に同人の作品が掲載された。これ以来、同人は、イタリア・ファッションの第1人者としての地位を確立し、フランスのサンローランなどと並んで世界三大デザイナーとして知られている。同人の作品は、無地の服を得意とし、大胆な「白」と「素材」を特徴とし、その服飾品は芸術に値すると賞賛されており、その顧客にはレオーネ・イタリア大統領夫人、グレース・モナコ王妃、エリザベス・テーラー、オードリ・ヘップバーンなどの著名人も多い。同人のデザイン活動は婦人用、紳士用衣服を中心にネクタイ・シャツ・ハンカチ・マフラー・ショール・ブラウスなどの衣料用小物、バンド・ベルト・ネックレス・ペンダントなどの装身具、バッグ・さいふ・名刺入れその他のかばん類、その他サングラス、傘、スリッパなどの小物からインテリア装飾にも及んでいる。
(イ)我が国においても、ヴァレンティノ・ガラヴァーニの名前は、1967年(昭和42年)のファッションオスカー受賞以来知られるようになり、その作品はVogue(ヴォーグ)誌などにより継続的に日本国内にも紹介されている。昭和49年には三井物産株式会社の出資により同人の日本及び極東地区総代理店として株式会社ヴァレンティノヴティックジャパンが設立され、ヴァレンティノ製品を輸入、販売するに至り、同人の作品は我が国のファッション雑誌にもより数多く掲載されるようになり、同人は我が国においても著名なデザイナーとして一層注目されるに至っている。
以上のとおり、ヴァレンティノ・ガラヴァーニは世界のトップデザイナーとして本件商標が出願された当時には、既に我が国においても著名であった。同人の名前は「VALENTINO GARAVANI」「ヴァレンティノ・ガラヴァーニ」とフルネームをもって紹介されることが多いが、同時に新聞、雑誌の記事や見出し中には、単に「VALENTINO」「ヴァレンティノ」と略称されてとりあげられた(甲第7号証ないし甲第10号証、甲第13号証の2、甲第15号証の2及び3、甲第16号証の2、甲第22号証の2、甲第25号証の3、甲第30号証の2、3及び5、甲第48号証(なお、甲第30号証の3及び5は提出がない。))。
(ウ)本件商標は、その構成が別掲に示すとおりのものであって、楕円の輪郭内に大きく上下二段に横書きされた「valentino」「orlandi」の文字の上段部分である「valentino」の文字が「ヴァレンティノ」と称呼されるものであることは明らかであるから、本件商標は、ヴァレンテイノ・ガラヴァーニの氏名の著名な略称を含む商標であり、その者(他人)の承諾を得ずに登録出願されたことは明らかである。
したがって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第8号の規定に違反してなされたものであるから無効とされるべきである。
(2)商標法第4条第1項第11号違反について
本件商標は、その構成が別掲に示すとおり、「valentino」「orlandi」の欧文字を上限二段に横書きしてなるものであって、「valentino orlandi」の文字は、全体が一つの語として知られているものではなく、その全体を称呼するときは「ヴァレンティノオルランディ」の10音にも及ぶ冗長なものとなるばかりでなく、外観構成上「valentino」の文字と「orlandi」の文字とが上下二段に表示されていることもあって、「ヴァレンテイノ」と「オルランディ」とがそれぞれ段落をもって称呼されるものであり、しかも、上記ヴァレンティノ・ガラヴァーニの氏名が「VALENTINO」(ヴァレンティノ)と略称されて著名なものとなっていることとも相俟って、これに接する取引者、需要者に親しまれている「valentino」の文字に相当する「ヴァレンティノ」の称呼をもって、取引に当たる場合が決して少なくないものとみるのが簡易迅速を尊ぶ取引の経験則に照らして極めて自然である。
したがって、本件商標は、「ヴァレンティノ」の称呼をも生ずるものといわざるを得ない。
一方、引用A商標ないし引用D商標が何れもその指定商品に使用された結果、全世界に著名なものとなっていることは、甲第62号証までの書証によって明らかなところであって、引用B商標は、「VALENTINO」の文字よりなるものであり、その構成上「ヴァレンティノ」の称呼を生ずる。
また、引用A商標、引用C商標及び引用D商標は、「VALENTINO GARAVANI」の文字を書してなるものであるところ、その全体を称呼するときは「ヴァレンティノガラヴァーニ」の称呼を生ずるが、この称呼は冗長なものであるので、上記ヴァレンティノ・ガラヴァーニの氏名が「VALENTINO」(ヴァレンティノ)と略称されて著名なものとなっていることとも相俟って、引用A商標、引用C商標及び引用D商標は、その構成文字中、前半の「VALENTINO」の文字に相応する「ヴァレンティノ」の称呼をもって取引に資されている場合も決して少なくないのが実情である。すなわち、引用A商標、引用C商標及び引用D商標は、「ヴァレンティノ」の称呼をも生ずるものであるといわざるを得ない。
してみると、本件商標は、引用A商標ないし引用D商標と「ヴァレンテイノ」の称呼を共通にする類似の商標であり、また、本件商標の指定商品は各引用商標のそれと抵触するものであることは明らかである。結局、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第11号の規定に違反してなされたものであるから、無効とされるべきものである。
(3)商標法第4条第1項第15号違反について
請求人は、上記の各引用商標の指定商品以外の商品についても、多数の登録商標を使用しているところであって、これらのうち引用E商標は前記のとおりである。
しかして、甲第9号証ないし甲第62号証によって、引用C商標は、婦人服、紳士服、ネクタイ等の被服について使用されていること及び引用E商標がライターについて使用されていること、、各引用商標が本件商標の登録出願の日前より全世界に著名なものとなっていることは明らかである。
そして、本件商標と引用A商標、引用C商標及び引用D商標がその称呼を共通にする類似する商標であることは上述のとおりであるから、同様の理由により、本件商標と引用E商標とは、類似する商標である。また、本件商標の指定商品と各引用商標が使用されている上記の商品は、何れも服飾品の範疇に属する密接な関係にある商品、いわゆるファッション関連の商品である。
したがって、本件商標は、これを商標権者がその指定商品に使用した場合、その商品があたかも請求人の製造、販売等の業務に係る商品であるか又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係にある者、すなわち姉妹会社等の関係にある者の業務に係る商品であるかの如く、その出所について混同を生ぜしめるおそれがあるものである。
よって、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第15号の規定に違反して登録されたものであるから、無効とされるべきものである。
2 答弁に対する弁駁
(1)商標法第4条第1項第8号について
被請求人は、「『Valentino』はイタリアではありふれた名前を表すこと及び『Valentino』は既にイタリア生まれの映画俳優『Rudolph Valentino』がヴァレンティノ・ガラヴァーニよりはるか以前に世界中に知れ渡っている。したがって、『VALENTINO』の表示をもって直ちにヴァレンティノ・ガラヴァーニの著名な略称と言うことはできない。」旨主張する。
しかしながら、「VALENTINO」がイタリア系のありふれた男性名ないし氏性であったとしても、「VALENTINO」「ヴァレンティノ」「バレンチノ」は、我が国においてはデザイナーValentino Garavaniの氏名の著名な略称又はそのデザインに係る商品群に使用されるブランドの略称を表すものとして、本件商標の登録出願前より、我が国ファッション関連の商品分野の取引者・需要者の間に広く認識されているものである。
また、被請求人が挙げる無声映画時代の米国の映画俳優ルドルフ・ヴァレンティノが一部の無声映画愛好家の間に知られていることはともかく、同人は今から約80年近くも前の大正15年(1926年)に亡くなった遥か昔の無声映画時代の俳優であり、本件商標の登録出願時(平成8年(1996年)8月12日から登録査定時平成10年(1998年)11月13日)に、服飾品、布製身の回り品等のファッション関連商品分野の取引者、需要者の間に広く認識されている事実はない。
仮に、「Valentino」の名称は、イタリアではありふれた名を表すとしても、イタリアにおけるかかる事由が、我が国におけるヴァレンティノ・ガラヴァーニの著名な略称である事実を何ら妨げる事由となるものでない。
さらに、被請求人は、ヴァレンティノ・ガラヴァーニが我が国において栄誉あるデザイナーであることは認めるところ、通常、著名なデザイナーブランドの場合には、特に外国人の著名なデザイナーにあっては、そのデザイナーの略称により、そのデザイナーのデザインに係る商品を指すとともに、そのデザイナー自身を指すことがファッション関連商品を取り扱う我が国業界においてよくみられる取引の実情である。例えば、「ココ・シャネル」を「シャネル(CHANEL)」、「アンドレ・クレージュ」を「クレージュ(Courreges)」、「ジョルジオ・アルマーニ」を「アルマーニ(ARMANI)」、「マルセル・ロシャス」を「ロシャス(ROCHAS)」、「クリスチャン・ディオール」を「ディオール」等は夙に知られるところである。ヴァレンティノ・ガラヴァーニは、被請求人も認めるとおり、我が国において栄誉あるデザイナーであり、上記著名なデザイナーと同様に、「VALENTINO(ヴァレンティノ)」と略称され、そのデザインに係る商品を指すとともに、デザイナーの略称として我が国の取引者、需要者において周知・著名である。この事実は、請求人の提出した証拠に照らせば、明らかである。
(2)商標法第4条第1項第15号について
(ア) 被請求人は、乙第3号証(「世界ブランド物語」)を援用して、「『ヴァレンティノ』のみからなる表示は、ヴァレンティノ・ガラヴァーニを指呼するものとしては、前置きがなくては説明ができない程度の省略形に過ぎない。本件商標出願日においても、『VALENTINO GARAVANI』の略称としての『VALENTINO』は、立証を要しないほど高度の周知著名性を有するものではなかった」旨主張する。
しかしながら、乙第3号証は、被請求人の引用箇所(下線部分)の後に、「そのほかにもサン・ヴァレンティノというブランドもあるが、いずれにしても、ガラヴァーニには遠く及ばないグレードの商品である。このヴァレンティノが一躍有名になったのは…」とし、ヴァレンティノ・ガラヴァーニが有名になった経緯について「ヴァレンティノ」の語を用いて言及しているところであり、ヴァレンテイノ・ガラヴァーニが「ヴァレンティノ」の略称をもって知られていたことが認められる。このような状況は、乙第3号証が平成13年12月に脱稿したことよりすると、本件商標出願日はもとより、現在においても変化がないというべきである。請求人は乙第3号証を請求人の有利に援用する。
(イ) 被請求人は、引用B商標(商標登録第852071号)について、元来第三者の出願に係る商標であり、これが請求人に移転されたのは平成8年5月8日であり、請求人の「VALENTINO」表示は周知著名性が乏しかったことを示すものである旨主張する。
しかしながら、本件の問題は、本件商標をその指定商品に使用した場合に、その登録出願時(平成8年(1996年)8月12日)から登録査定時(平成10年(1998年)11月13日)において、ヴァレンティノ・ガラヴァーニのデザインに係る商品に使用されるブランドとの間に、出所の混同を生ずるおそれがあったか否かの問題(本件商標の商標法第4条第1項第15号の該当性)である。上記時点において、本件商標「valentino orlandi」が、請求人の周知・著名な「VALENTINO GARAVANI/ヴァレンティノ ガラヴァーニ」「valentino garavani」「VALENTINO GARAVANI」「ヴァレンティノガラヴァーニ」商標若しくは「valentino garavani」「VALENTINO GARAVANI」と「V」を図案化した図形(通常、「オーバルV」と略称されている。)を組み合わせた商標(以下、これらの商標を併せて「VALENTINO(ヴァレンティノ)商標」という。)又は「Valentino Garavani(ヴァレンティノ ガラヴァーニ)」の略称若しくは同人のデザインに係る商品群に使用されるブランドの略称を表すものとして我が国のファッンョン関連の商品分野の取引者、需要者の間に広く認識されていた「VALENTINO」「Valentino」「valentino」「ヴァレンティノ」「バレンチノ」商標と、本件商標とが出所の混同を生ずるおそれがあったか否かの問題である。したがって、被請求人の主張の事実もこの争点への影響という観点から、検討されなければならない。
そして、ヴァレンティノ・ガラヴァーニが周知著名なデザイナーであり、「VALENTINO」が同人の略称又は同人のデザインに係る商品に使用されるブランドであることは、既に、審判請求書で述べたところである。
更に、この点について敷衍するに、我が国においては、三井物産株式会社がイタリアのVALENTINO社と独占輸入契約を締結し、ヴァレンティノ・ガラヴァーニのデザインに係る商品に「VALENTINO」商標を付して昭和45年(1970年)より輸入した。昭和49年(1974年)7月17日に、その商品の国内販売のために、三井物産株式会社他2社の共同出資により、東京都千代田区紀尾井町(設立当初、現在は平河町)に株式会社ヴァレンティノ・ブティック・ジャパンを設立した。同社の直営販売店は、当初、東京都千代田区紀尾井町のホテルニューオータニにあったサンローゼ赤坂店に開店し、その後、約10年前に改装され、現在に至っている。そして、株式会社ヴァレンティノ・ブティック・ジャパンは、直営店ヴァレンティノ・ガラバーニ・ブティックをサンローゼ赤坂、大阪心斎橋、大阪マルビル、神戸大丸、福岡岩田屋に設けるとともに、三越本店(日本橋)、高島屋(日本橋)、名鉄メルサ(銀座)、サンモトヤマ(銀座)、資生堂ザ・ギンザ(銀座)、伊勢丹(新宿)、名鉄百貨店(名古屋)、高島屋(京都)、高島屋ブティック(大阪、ロイヤルホテル)、モデルン洋装店(大阪心斎橋)、サンモトヤマ(大阪、17番街)、カンダ(姫路)、高島屋(岡山)、ひさや(高松)、タナカ(松山)といった全国一流百貨店等に出店(1977年当時)して、遅くとも1977年(昭和52年)頃には、これらの一流百貨店等において、ヴァレンティノ・ガラヴァーニのデザインに係る商品について「VALENTINO」「Valentino」「ヴァレンティノ」を用いて販売していたものである(甲第72号証及び甲第73号証)。かかる状況は現在においても引き続き継続しているところであり、例えば、三越本店(日本橋)、高島屋(日本橋)、伊勢丹(新宿)の各一流百貨店に、シャネル、アクアスキュータム、ディオール、アルマーニ、カルティエ、フェラガモ、イヴ・サンローランなどの有名ブランド店とともに出店している(甲第74号証ないし甲第76号証)。
このような事実に照らすと、遅くとも1977年(昭和52年)頃から現在に至るまで、我が国における服飾等のファッション関連商品分野の取引者、需要者においては、「VALENTINO」「Valentino」「ヴァレンティノ」といえば、周知・著名なデザイナーValentino Garavaniの略称又は同人のデザインに係る商品に使用されるブランドの略称として知られていたものである。
一方、これに対して、引用B商標(「VALENTINO」)が、設定登録時の商標権者であるプレイロード株式会社(乙第4号証)の出所を表示する商標として服飾等のファッション関連商品分野の取引者、需要者間に広く知られている事実はない。
そうすると、プレイロード株式会社が本件商標の登録出願時及び登録時に引用B商標を所有していた事実は、本件商標の商標法第4条第1項第15号の該当性を何ら妨げる事由とはならないというべきである。
(ウ) 最高裁判所の判例によれば、商標法第4条第1項第15号については、「本号にいう『他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標』には、当該商標をその指定商品又は指定役務に使用したときに、当該商品又は役務が他人の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標のみならず、当該商品又は役務が上記他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標が含まれる。」(最高裁平成12年(行ヒ)第172号、平成13年7月6日判決)とされ、「広義の混同を生ずるおそれ」がある商標を含むものと解されており、「同号の規定は、周知表示又は著名表示へのただ乗り(いわゆるフリーライド)及び当該表示の希釈化(いわゆるダイリューション)を防止し、商標の自他識別機能を保護することによって、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、需要者の利益を保護することを目的とするものであるところ、その趣旨からすれば、企業経営の多角化、同一の表示による商品化事業を通して結束する企業グループの形成、有名ブランドの成立等、企業や市場の変化に応じて、周知又は著名な商品等の表示を使用する者の正当な利益を保護するためには、広義の混同を生ずるおそれがある商標をも商標登録を受けることができないものとすべきであるからである。そして、『混同を生ずるおそれ』の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として総合的に判断されるべきである。」(最高裁平成10年(行ヒ)第85号、平成12年7月11日判決)とされている。
これを本件についてみると、本件商標は、別掲に示すとおり、楕円の輪郭内に「valentino」と「orlandi」の欧文字を上下二段に横書きしてなるものであって、欧文字部分は16文字であり、比較的長い商標である。また、通常、デザイナーブランドの場合には、特に外国人のデザイナーにあっては、そのデザイナーの氏名の略称により、そのデザイナーのデザインに係る商品を指すことがファッション関連商品を取り扱う我が国業界においてよくみられる取引の実情である。
そうすると、本件商標についても同様の事由により、簡易迅速性を重んずる取引の実際においては、その一部だけによって簡略に表記ないし称呼され得るものであるということができる。
請求人の商標は、周知・著名な「VALENTINO(ヴァレンティノ)商標」又は「VALENTINO」(「Valentino」「valentino」「ヴァレンティノ」「バレンチノ」)ブランドであり、ヴァレンティノ・ガラヴァーニのデザインに係る婦人・紳士物の衣料品、毛皮、革製バッグ、革小物、ベルト、ネクタイ、靴、ライター、傘、ハンカチ等ファッション関連商品について周知、著名な商標である。
仮に、百歩譲って、請求人の商標は、イタリア人の氏姓を連想させるもので、造語による商標に比して、高くないとしても、しかし、本件商標の指定商品は、タオル、ハンカチ、その他の布製身の回り品類等であり、請求人の商標が現に使用されている商品と同一であるか又はこれとの関連性の程度が極めて強いものである。また、このことから、両者の商品の取引者及び需要者が共通することも明らかである。しかも、両者の商品が日常的に消費される性質の商品であることや、その需要者が特別な専門的知識経験を有しない一般大衆であり、これを購入するに際して払われる注意力はさほど高いものではない。そうすると、本件商標の商標法第4条第1項第15号該当性の判断をする上で、請求人の商標の独創性の程度を重視すべきではない。
したがって、請求人の商標の周知著名性の程度の高さや、本件商標と請求人の商標とにおける商品の同一性、関連性並びに取引者・需要者の共通性に照らすと、本件商標がその指定商品に使用されたときには、簡易迅速性を重んずる取引の実際においては、本件商標の構成中の「valentino」の文字部分がこれに接する取引者、需要者に特別な文字として、その注意を特に引くであろうことは容易に予測し得るところである。
以上のとおり、本件商標は、請求人の商標と同一の部分をその構成の一部に含む商標であって、その外観、称呼及び観念上、この同一の部分「valentino」がその余の部分から分離して認識され得るものであることに加え、請求人の「VALENTINO(ヴァレンティノ)商標」又は「VALENTINO」(「Valentino」「valentino」「ヴァレンティノ」「バレンチノ」)ブランドの周知著名性の程度が高く、しかも、本件商標の指定商品と請求人の商標の使用されている商品が重複又は関連性を有し、両者の取引者及び需要者も共通している。これらの事情を総合的に判断すれば、本件商標は、これに接した取引者及び需要者に対し、ヴァレンティノ・ガラヴァーニ若しくはその経営する会社又はこれらと緊密な関係にある営業主の業務に係る商品であることを連想させて、その商品の出所につき誤認混同を生じさせるものであり(広義の混同のおそれ)、本件商標の登録を認めた場合には、請求人の周知・著名な「VALENTINO(ヴァレンティノ)」商標の持つ顧客吸引力へのただ乗り(いわゆるフリーライド)やその希釈化(いわゆるダイリューション)を招来する結果を生じ兼ねない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に違反して登録されたものである。
(エ) 被請求人は、「一般に見出しや記事の固有名称の記載において、文章を簡潔にするためや冗長な記載を避けるため等の目的から繰返しになる当該固有名称の表記を省略する慣行があることは、顕著な事実である。各甲号証の記載の大半も、そうした慣行に従って『ヴァレンティノ』と省略されているに過ぎない。省略形が使用されていることのみをもって、該略称が、特定の主体を想起させるというのは、論理の飛躍がある」旨主張する。
しかしながら、甲号各証には、「バレンティノ」又は「ヴァレンティノ」の記載があり、ヴァレンティノ・ガラヴァーニの略称又は同人のデザインした商品群を表示するブランドを意味するものとして紹介されているところである。「バレンティノ」又は「ヴァレンティノ」との記載は、単なる省略表記に止まらず、前記のとおりヨーロッパ主要国及び米国における服飾等のファッション関連商品分野においては、「VALENTINO」「Valentino」といえば、ヴァレンティノ・ガラヴァーニの略称又は同人のデザインに係る商品に使用されるブランドの略称として知られていることを反映しているものであり、ひいては我が国における取引者、需要者も同様の認識を示していることに他ならない。
(オ) 被請求人は、「一般に、商品の表示に創業者等の特定人の名称を含ませて、その出所表示機能を期待する場合、名だけを用いるのは我が国及び諸外国の常識からして特異である」旨主張する。
通常、デザイナーブランドの場合には、特に外国人のデザイナーにあっては、そのデザイナーの氏名の略称により、そのデザイナーのデザインに係る商品を指すことがファッション関連商品を取り扱う我が国業界においてよくみられる取引の実情であることは前記(ウ)で述べたとおりである。被請求人の挙げる「アルマーニ」ないし「レノマ」に接する取引者・需要者は、これがデザイナーの「姓」である(「名」ではない)と正確に認識しているとは限らず、単に、そのような略称のブランドとして知られているというべきである。「VALENTINO」「Valentino」「ヴァレンティノ」については、我が国における服飾等のファッション関連商品分野の取引者、需要者においてヴァレンティノ・ガラヴァーニの略称又は同人のデザインに係る商品に使用されるブランドの略称として知られていたものであることは既に主張したところである。
(カ) 被請求人は、「『VALENTINO』の文字を使用した商標が多数存在すること、特に『MARIO VALENTINO』商標を挙げて、『VALENTINO』を含む複数の商標が互いに区別されて使用されている」旨主張する。
しかしながら、「VALENTINO」「Valentino」の文字を含む結合商標が他に登録され、使用されていても、それらが、取引者、需要者によりイタリアの服飾デザイナーValentino Garavaniのデザインに係る商品に使用される「VALENTINO」と明確に区別され、ヴァレンティノ・ガラヴァーニとは関係のないものとして取引されているという事実はない。即ち、ヴァレンティノ・ガラヴァーニのデザインに係る商品に使用される「VALENTINO(ヴァレンティノ)商標」又は「VALENTINO」(「Valentino」「valentino」「ヴァレンティノ」「バレンチノ」)の商標が「ヴァレンティノ」と呼ばれて、周知・著名である事実に照らせば、取引者、需要者が、「VALENTINO」の語を含む結合商標について、ヴァレンティノ・ガラヴァーニのデザインに係る商品を示すものであって、その結合商標が付された商品を、周知・著名な「VALENTINO」(「Valentino」「valentino」「ヴァレンティノ」「バレンチノ」)ブランドないしはその兄弟ブランドであるなどと誤解している可能性も十分にあるというべきである。
のみならず、ヴァレンティノ・ガラヴァーニのデザインに係る商品に使用される「VALENTINO(ヴァレンティノ)商標」又は「VALENTINO」(「Valentino」「valentino」「ヴァレンティノ」「バレンチノ」)の商標が「ヴァレンティノ」と呼ばれて、周知・著名である事実に照らせば、「VALENTINO」の文字を含む商標であって、これと区別して認識されているものが、仮にあったとしても(仮に、「MARIO VALENTINO」がヴァレンティノ・ガラヴァーニのデザインに係る商品に使用される「VALENTINO」と明確に区別して認識されていても)そのことは、本件商標とヴァレンティノ・ガラヴァーニのデザインに係る商品の出所の混同のおそれの事実を何ら左右するものではないというべきである。
なぜならば、仮に、他の結合商標が、周知・著名な「VALENTINO(ヴァレンティノ)商標」又は「VALENTINO」(「Valentino」「valentino」「ヴァレンティノ」「バレンチノ」)ブランドと区別され、出所を異にするものとして理解されているとするならば、そのことは、「VALENTINO」の文字を含む商標が、「VALENTINO」とそれ以外の他の特定の文字とが結合したものとしてよく知られ、かつ、ヴァレンティノ・ガラヴァーニとは関係のないものとしてよく知られるに至っている等の特段の事情があることを意味するのであって、そのような場合にこそ、ヴァレンティノ・ガラヴァーニのデザインに係る商品に使用される「VALENTINO(ヴァレンティノ)商標」又は「VALENTINO」(「Valentino」「valentino」「ヴァレンティノ」「バレンチノ」)の商標と区別されると言い得るからであるところ、本件商標についてはそのような特段の事情がないからである。
本件商標に関して、被請求人提出の証拠によっては、本件商標登録出願時(平成8年(1996年)8月12日)から登録査定時(平成10年(1998年)11月13日)に、本件商標が、「valentino」とそれ以外の他の特定の文字「orlandi」とが結合したものとして取引者、需要者においてよく知られ、かつ、ヴァレンティノ・ガラヴァーニとは関係のないものとしてよく知られるに至っている等の特段の事情は、全く認められない。
したがって、前記「VALENTINO」の文字を商標中の構成に取り入れている多数の商標が登録され、使用されていること及び「MARIO VALENTINO」商標の存在によって、本件商標についてヴァレンティノ・ガラヴァーニのデザインに係る商品との出所の混同のおそれが減少するものということはできない。
(キ) 被請求人は、「乙第11号証を援用して、本件商標は、我が国ファッション業界でもよく知られたブランドとなっている」旨主張する。
しかしながら、本件の問題は、本件商標をその指定商品に使用した場合に、本件商標登録出願時(平成8年(1996年)8月12日)から登録査定時(平成10年(1998年)11月13日)において、ヴァレンティノ・ガラヴァーニの「VALENTINO(ヴァレンティノ)商標」を使用した商品との間に、出所の混同を生ずるおそれがあったか否かの問題である。
しかるに、本件商標が周知商標であることを立証する被請求人提出の証拠は、乙第11号証の1は「valentino orlandi」商標リスト、乙第11号証の2及び3は2002年8月15日のホームページ、乙第11号証の4は「VALENTINO ORLANDI社」と称する会社及びブランドの紹介であり、いつ発行されたか不明、乙第11号証の5は平成10年(1998年)7月30日「valentino orlandi」ブランド広告である。乙第11号証の6(繊研新聞記事)、乙第11号証の7(日本繊維新聞記事)及び乙第11号証の8(日経新聞記事)は、1997年1月22日に住金物産が被請求人会社とライセンス契約を結んだことを報じる新聞記事であり、乙第11号証の9(日本繊維新聞記事)及び乙第11号証の10(繊研新聞記事)は、被請求人のライセンス商品の販売計画である(実際に販売されたか否かは不明)。乙第11号証の11は、1997年度売上報告書書簡である。これらの証拠によって本件商標が、その登録出願時から査定時において、周知商標となったものということはできない。
(3)結語
以上のとおり、被請求人の答弁は、何れも理由がなく、失当である。

第4 被請求人の答弁
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として乙第1号証ないし乙第11号証(枝番号を含む。)を提出した。
1 商標法第4条第1項第8号違反に基づく理由に対して
第4条第1項第8号は、他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標についての不登録理由である。そして、本号の規定は、略称については、「著名」であることが要件とされている。
しかしながら、第1にヴァレンティノ・ガラヴァーニが、かくフルネームで表示され、このフルネームをもって紹介されることが多いことは、請求人の自認するところである(審判請求書第4頁6行)。
一方、本件商標は、欧文字により、我が国における外国人の氏名の表記法に従って、登録権利者ペレッテリア バレンチノ オルランディ社の代表者である「バレンチノ オルランディ」(名-姓)という特定人の氏名を楕円状の輪郭内に配した登録商標である。なお、「ペレッテリア」(Pelletteria)は「毛皮商」の意味であり同人の業を冠したものである。
我が国においても、「Valentino」は、イタリアのごくありふれた名前、或いは、少なくとも外国人の名前を表すものであることは既によく知られている。「バレンチノ」を名乗る有名人としては、例えば、イタリア生まれの映画俳優「Rudolph Valentino」(ルドルフ・バレンチノ)(乙第1号証の1)が我が国の一般的な百科事典にも「バレンチノ」との表題をもって大きなスペースをさいて記載されており、1895年から1926年の間存命、ヴァレンティノ・ガラヴァーニの活躍より、はるか以前より「Valentino」の名は世界中に知れ渡っている。後には、この映画俳優の名をとって「78年にはハリウッドのアービング大通りの一区画がルドルフ・バレンチノ街と命名された」との記載もある。
そもそも「Valentino」なる男性名ないし氏姓は、ラテン語の「Valens;強い、強力な、健康な」に由来し(乙第1号証の2)、英語圏においては、「Valentine」;略称「Val」、ドイツ国、フランス国等においては、「Valentin」と表記される世界的にもありふれた名である(乙第1号証の3及び4)。更に、「Valentino」は聖ヴァレンティーノ(英語では、聖バレンタイン)という3世紀ローマのキリスト教殉教者としても名高い名前でもある(乙第1号証の5)。
したがって、「Valentino」なる略称は、その名前だけでは、前記映画俳優を指呼するのか、いかなる者を指すのか、不明確であり、ヴァレンティノ・ガラヴァーニが我が国において、栄誉あるデザイナーであると紹介された事実は認めるとしても、同人のファーストネームの「Valentino」が、特定の「Valentino Garavani」を表示するものとして周知著名であるとは、到底認められない。むしろ、「Valentino」は「イタリア」を示す共通代名詞の役割をも果たしており、仮に、請求人自らが述べるように、ヴァレンティノ・ガラヴァーニが著名人であったとしても、「VALENTINO」の名を含む商標すべてを同人の独占とすべき言われは全くなく、同人以外の人の登録はすべて無効であるとの論は成り立たない。
さらに言えば、「VALENTINO」は、上述のとおりごくありふれたイタリアの名前であるので、各々に「MARIO」、「GARAVANI」 、「Rudy」、「orlandi」、「GIANNI」等を付加することにより、まさにこれをもって十分、区別されているところ、ヴァレンティノ・ガラヴァーニのみが、「Valentino」を名乗り、他を排除すべきであるとの理由はどこにもない。
以上のとおり、請求人の主張は、マスコミ等に見られる著名人・有名人の姓又は名を含んだ登録商標のすべてが本号に該当するというに等しく、本件商標が、商標法第4条第1項第8号に基づき無効とされる請求人の理由は全く根拠がない。
2 商標法第4条第1項第11号に基づく理由に対して
(1)請求人は、本件商標について、ヴァレンティノ・ガラヴァーニの氏名が「VALENTINO」と略称されて著名なものとなっていることとも相俟って、取引者、需要者が「ヴァレンチノ」の称呼をもって、取引に当たる場合が少なくないと主張している。一方、引用商標のうち、「VALENTINO」は当然として、「VALENTINO GARAVANI」も冗長であるので「VALENTINO」と略称されて、その称呼は「ヴァレンチノ」となるとしている。請求人は、故に両者は類似の商標であり、商標法第4条第1項第11号の規定に違反して登録されたものであるので無効とされるべきであると、本件の登録無効を申し立てている。
本件商標は、別掲に示す構成のとおり、横長の楕円内の上段に「valentino」の欧文字を配し、同じく下段に「orlandi」の欧文字を配した構成となっている。前記欧文字は、同じ大きさで、同じ字体であり、全体として、前記楕円の輪郭の存在と相俟って、まとまりよく一体的に表されている。したがって、ことさら、構成中の「valentino」の文字部分のみが分離・独立して称呼、観念しなければならない特段の事由も認められない。そして、「VALENTINO」の文字は、イタリアのごくありふれた名前を表し、また、これらの文字を含むイタリアファッション界の著名な「MARIO VALENTINO」等も特定の氏名を表すものとして、一連に称呼、観念されていることはよく知られている。したがって、本件商標は、「ヴァレンティノオルランディ」とのみ、称呼され、その称呼どおりのイタリアの特定の氏名を表しているとの観念を生じさせるものである。なお、前記「orlandi」なる欧文字は、指定商品分野の需要者の一般的な語学力から察すれば、固有名称以外の如何なる観念を生じさせるものではないというべきである。
これに対して、請求人は、引用商標として、「VALENTINO」、「VALENTINO GARAVANI」なる登録商標を挙げているが、その文字よりは、それぞれ「バレンチノ」、「バレンチノガラバーニ」ないし「バレンチノガラヴァニ」の各称呼を生じ、「VALENRINO」は、前記ルドルフ・バレンチノなる有名な映画俳優又はイタリアのありふれた男性名ないし氏性を、「VARENTINO GARAVANI」は、イタリアの特定人の氏名「バレンチノガラヴァーニ」を観念させるというのが相当である。
そして、「バレンチノオルランディ」の称呼と、「バレンチノ」、「バレンチノガラバーニ」ないし「バレンチノガラヴァニ」の称呼とは、その構成配列音を著しく異にするものであるから、両商標を称呼上十分に区別して聴取し得るものである。
また、外観においては、前記楕円内に文字を配した構成と大文字の欧文字のみからなる構成との相違はもちろん、その構成文字よりみて、明らかに相違するものである。
さらに、観念については、本件商標は、別個の特定人を表すものであり、引用商標のいずれとも相紛れることはない。
したがって、請求人所有の商標「VALENTINO」或いは「VALENTINO GARAVANI」と本件商標から看取される「valentino orlandi」とは、称呼、外観、観念のいずれについても非類似であり、本件商標と引用A商標ないし引用D商標とのいずれとも非類似であることは明らかである。故に、本件商標中に「valentino」の欧文字が含まれることのみをもって、商標法第4条第1項第11号に該当するとする請求人の理由は、全くもって成り立たない。
なお、「VALENTINO/valentino」という共通部分が存在するとしても、いかなる者が見ても名又は氏姓である共通構成部分を有する対象が複数存在する場合には、これに接する取引者、需要者において、両者の非共通部分が着目され、区別に用いられることは、我が国においても、姓を同一にする者同士の区別の際に、名前が用いられる例を挙げるまでもなく経験則の示すところでもある。「バレンチノ」なる氏姓又は男性名においても、かかる経験則が妥当することは、例えば、請求人製品を含む服飾製品を取り扱う販売代理業者が、請求人商標とともに「MARIO VALENTINO」なる商標を併記した広告を行っている点に照らしてみても、容易に類推できるものである(甲第47号証の下段プレゼント欄、乙第10号証の3)。
また、請求人は、「VALENTINO GARAVANI」が新聞等の記事や見出しに略称「VALENTINO」をもって報道されることが多いことを述べている。しかしこれらの記事を見た場合、大部分、「ヴァレンチノ ガラヴァ一ニ」の大前提があり、その上で、文中において「ヴァレンチノ」と省略形を用いているのである(甲第7号証の4ないし32、甲第30号証の2等)。こうした状況において、省略形が用いられたとしても本件商標「valentino orlandi」と相紛れることは有り得ない。また、「ヴァレンチノ ガラヴァーニ」を指すものとして天下り的に「ヴァレンチノ」が用いられたとしても、これは読者が予め「ヴァレンチノガラヴァ一ニ」であることを承知しての場合である。当然に、それらが本件商標と相紛れることなど有り得ない。
また、請求人は本類においては、既述のとおり、「VALENTINO/valentino」が請求人に係る「バレンチノガラヴァーニ」を一義的に指すことを述べるが、むしろ、「VALENTINO」を含む多数の登録商標が存在し、使用されていること(詳しくは、後述する。)、「VALENTINO」自体イタリアにおいてごくありふれた名前であること等を考え合わせると、「VALENTINO」なる表示の識別力は、極めて弱いものということができる。とすると、本件商標は、その構成下段に配された「orlandi」の文字により、他の「VALENTINO/valentino」を含む商標に対する十分な自他識別機能を発揮するものと考えることができ、単に「valentino」なる部分が共通する程度では、両商標を類似するものとは到底認められない。
更に、請求人は、本件商標の称呼について「ヴァレンチノ」の称呼をもって取引に当たる場合が決して少なくないであろうとも推定している。しかしながら、無数にあるファッションブランドの中から「valentino orlandi」を指呼するにあたって、上述のとおり識別力の弱い「VALENTINO」の部分で「valentino orlandi」を指呼することは、不可能というに近い。簡易迅速を尊ぶ取引の経験則に照らしてみても、識別力の弱い「VALENTINO」部分のみで取引に当たるというのは不自然というべきである。
同様に、ヴァレンティノ以外の商標においても「PIERRE CARDIN」「PIERRE BALMAIN」(乙第9号証の370頁)、「シマダジュンコ」「コシノジュンコ」等、一部が共通していても需要者間で十分区別されているものが見られる。これらのブランドは、一般にフルネームで称呼されて区別されており、前記取引の経験則に照らしても、冗長だからといって省略されることはないのと同様に、「VALENTINO」においても共通しない部分で十分区別でき、また取引者、需要者間でもそのように区別して使用されているというべきである。
以上のとおり、その他の事情を参照しても、本件商標が引用商標と類似するという請求人の主張は、失当であり、全く根拠がない。
3 商標法第4条第1項第15号について
被請求人は、請求人の無効理由は後述のとおり根拠がないと確信する。
(1)第一に、乙第3号証の、元大手百貨店の進物相談課、営業部、専任本部長を勤めた鈴木良明の著書の「ヴァレンティノ・ガラヴァーニ」についての説明の、「いま、日本でヴァレンティノというと、三つのブランドが混沌と入り混じって間違った理解のされ方をしているようである。ここでお話するヴァレンティノとは、イタリアのオートクチュールデザイナー、ヴァレンティノ・ガラヴァーニのことである。おそらく大多数の人たちはマリオ・ヴァレンティノの方をヴァレンティノだと思っているらしい。」との記載に表れているように、「ヴァレンティノ」のみからなる表示は、ヴァレンティノ・ガラヴァーニを指呼するものとしては、前置きがなくては、読者に想起させることができない程度の省略形にすぎない。乙第3号証の巻末の鈴木良明の経歴並びに144頁のあとがきの日付によれば、本著者は昭和35年(1950年)に百貨店業界に入っており、平成13年(2002年)12月に本書籍を著述していることが示されており、これらを考え合わせれば、このような状況は、ヴァレンティノ・ガラヴァーニが我が国に紹介されて以来継続していると考えるのが相当であり、本件商標出願日(平成8年8月12日)並びに登録査定時(平成10年12月11日)においても、周知著名性の立証を要しないほど高度の周知著名性を有するものではない。
また、請求人の提出した各書証の如き、広告の類のみによっては、いわゆる周知著名性を十分に獲得するに至らない場合が存在すること、或いは、いわゆる死語化して需要者の心象の及ばない状態に至る現象があることは、旧国鉄の「E電」、東京ドームの「BIGEGG」の例を挙げるまでもなく、顕著な事実である。また、甲第7号証に至っては本件商標出願時から起算しても20年以上も前のものであるうえ、その内容も年代・著者不詳の紹介文や、いわゆる記事広告を含む前述の広告の類であり、請求人の表示の周知著名性の発生の起点を認定するに十分な客観性を有していない。また、甲第8号証ないし甲第12号証の他の「VALENTINO」を含む商標権の取消決定又は無効審決の写しの類は、本件事案と直接が関係がないというべきである。むしろ全く同様の構成からなる登録第4096742号商標及び登録第4131789号商標が、本件請求人による、同一理由、同様の証拠に基づく商標登録異議申立てを受けて、複数の審判官による合議体の審理の結果、意見書の提出を求められることもなく、「登録を取り消す理由なし」として本件商標の登録を維持する旨の決定を受けている(平成10年異議第90909号及び平成10年異議第91575号)ことからすれば、本件商標と各引用商標との関係において、請求人の表示の周知著名性は、我が国に紹介されてから、現在に至るまで乏しいものであったことが首肯される。
また、前記各主張を補強すべく、引用B商標を援用する。引用B商標は、昭和43年(1968年)6月5日に出願され、昭和44年(1969年)9月1日に公告された元来第三者の出願に係る商標であり、何ら異議申立を受けることなく登録されるに至っている(乙第4号証の1)。請求人の「我が国において、ヴァレンティノ・ガラヴァーニの名前は、1967年(昭和42年)のファッションオスカー受賞以来知られるようになり」との主張は、自ら譲渡を受けて所有する前記引用B商標の存在と矛盾しており、少なくとも引用B商標の査定登録処分の際には、請求人の表示の周知著名性が乏しかったことを示している。
「VALENTINO GARAVANI」なる引用A商標、引用C商標及び引用E商標が登録された後、引用B商標が請求人に移転される平成8年5月8日までの期間は、引用B商標と引用A商標、引用C商標及び引用E商標とは、商標権者を異にする状態で互いに抵触することなく区別されて並存していたことになる。そして、上記引用B商標の登録原簿に見ることのできる商標権の移転の経緯等に鑑みれば、そもそも引用B商標の「VALENTINO」は、元来少なくともヴァレンチノガラヴァーニに由来するものではないことは明らかであり(その書体の相違において元より顕著である)、請求人が、「VALENTINO」なる既登録商標が存在することを奇貨として、これを譲り受けて、本件商標を無効化せんと企図したものであるという見方も可能である。
(2)最高裁判決平成12年7月11日判決(平成10年(行ヒ)85)の判示事項によれば、商標法第4条第1項第15号にいう「混同を生ずるおそれ」の有無は、(a)当該商標と他人の表示との類似性の程度、(b)他人の表示の周知著名性及び(c)独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の関連性の程度、取引者及び需要者の共通性(d)その他取引の実状などに照らし、(e)右指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として(f)総合的に判断されるべきであるので、この点について以下検討する。
(ア)当該商標と他人の表示(請求人商標)との類似性の程度は、いかなる角度から検討しても、両者が非類似であることは既に述べたとおりである。
(イ)請求人商標の周知著名性についても、既に述べたとおりであるが、一般に見出しや記事の固有名称の記載において、文章を簡潔にするためや冗長な記載を避けるため等の目的から繰返しになる当該固有名称の表記を省略する慣行があることは、顕著な事実である。各甲号証の記載の大半も、そうした慣行に従って「ヴァレンティノ」と省略されているに過ぎない。
そしてまた、複数の固有名称に共通する部分がある場合には、当該共通部分以外の相違部分で識別されることも良く知られた事実である。例えば、我が国の産業界において「日清食品」、「日清製粉」、「日清製油」、「日清紡績」なる各社が存在するが、媒体の種類や紙面構成・文脈によって明らかな場合は、上記の慣行どおり単に「日清」と省略することもあるが、それぞれの区別が必要とされる場合は、株式市況欄の表示の如く、必ず、「食(品)」、「(製)粉」、「(製)油」、「紡(績)」といった表示が付され、看者は、その相違部分に着目して区別しているのである。同様に、共通する文字部分を有する複数のブランドが存在する「バレンチノ」においても、「バレンチノ」以外の相違点によって、需要者において、自他識別されているというべきであって、前記省略形が使用されていることのみをもって、該略称が、一意に特定の主体を想起させる状況が発生しているというのは、明らかに論理の飛躍がある。
(ウ)我が国において、「VALENTINO GARAVANI」、「ヴァレンティノ ガラヴァーニ」は、「ヴァレンチノ」、「ヴァレンティーノ」、「VALENTINO」と略されて表示されているとするが、同文書院発行の「田中千代服飾事典」の全面改訂版である「新・田中千代服飾事典」(1991年発行)においては、旧版の「ヴァレンチノ」単独の見出しは廃されて、新たに「ヴァレンティノガラヴァーニ」と、「マリオ・ヴァレンティーノ」の語が追加されている(乙第5号証の1)。また、株式会社研究社1990年発行「英和商品名辞典」にも「ヴァレンティノガラヴァーニ」の他に、元来「マリオバレンチノ」の語が採録されている(乙第5号証の2)。また、文化出版局発行の「ファッション辞典」(1999年発行)においては、「ヴァレンティノガラヴァーニ」は、「ガラヴァーニ,ヴァレンティノ」との見出しが付されており、更に、併せて掲載されている同人の写真には、「ガラヴァーニ」との説明が付されている(乙第5号証の3)。
(エ)一般に、商品の表示に創業者等の特定人の名称を含ませて、その出所表示機能を期待する場合、名だけを用いることは極めて稀であり、氏姓単独又は氏姓と名の組合せを用いることが一般的であることは、顕著な事実である。このことは、我が国特異の事情ではなく、氏名を名・姓の順で表す諸外国においても、等しく当てはまり、多くの創業者等特定人の名称を含む外国ブランド名が、氏姓単独又は氏姓と名の組合せからなっていることからも窺える。服飾関連分野に限ってみても、以下のとおり殆どの創業者が氏姓を採用しているのである。
「アルマーニ(Armani)」(Giorgio Armani)、「エルメス(Hermes)](Thierry Hermes)、「カルティエ(Cartier)」(Louis Francois Cartier)、「グッチ(Gucci)」(Guccio Gucci)、「シャネル(Chanel)」(Gabrielle Chanel)、「ジパンシー(Givency)」(Hubert de Givency)、「ダンヒル(Dunhill)」(Alfred Dunhill)、「ティファニー(Tiffany)」(Charles Lewis Tiffany)、「トラサルディ(Trussardi)」(Dante Trussardi)、「ピアジェ(Piaget)」(George E.Piaget)、「バーバリー(Burberry)」(Thomas Burberry)、「フェラガモ(Ferragamo)」(Salvatore Ferragamo)、「プラダ(Prada)」(Mario Prada)、「ベネトン(Benetton)」(Luciano Benetton)、「ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)」(Louis Vuitton)、「レノマ(Renoma)」(Morris Renoma)
請求人の提出した各書証の文中に「ヴァレンティノ」、「VALENTINO」なる名前のみからなる省略形が用いられていること自体を否認するものではないが、ヴァレンティノ・ガラヴァーニを表す略記方法としては、「マツモトキヨシ」のことを「キヨシ」、「ジャンニ・ベルサーチ」のことを「ジャンニ」と略記・略称するが如く、我が国及び諸外国の常識からしても特異であり、また、いかにその識別力が弱いものであるかは、十分考慮されてしかるべき事項である。
(オ)「VALENTINO」を含む登録商標は、本件商標の指定商品と同じくする類に限って見ても、以下のとおり、多数のものが認められる(乙第6号証の3ないし23)。
1.登録第1866584号「VALENTINO DONNA」、2.登録第2073033号「OSCAR VALENTINO」、3.登録第2215112号「MARIO VALENTINO」、4.登録第2221148号「ValentinoRudy」、5.登録第2680184号「ValentinoMoradei」、6.登録第2681591号「§ValentinoRudy」、7.登録第2695594号「§GIANNI VALENTINO」、8.登録第2695595号「§GIANNI VALENTINO」、9.登録2716673号「PERVALENTINO」、10.登録第2719626号「§GIOVANNI VALENTINO」、、11.登録第2724220号「RODOLFO VALENTINO」、12.登録第3370872号「Valente valentino」、13.登録第3370903号「§Valentino Gaudi」、14..登録第4226095号「CALROVALENTINO/カルロバレンティノ」、15.登録第4228979号「VALENTINO/COUPEAU」、16.登録第4238189号「PERVALENTINO」、17.登録第4241273号「§VALENTINO/COUPEAU」、18.登録第4247200号「VALENTINO GIMALO」、19.登録第4247222号「fortunavalentino」、20.登録第4256418号「VALENTINOD GEVARIS」、21.登録第4286837号「CALRO/VALENTINO」、22.登録第4297206号「CALRO/VALENTINO§」
また、乙第6号証の24は、人名と看取される商標で、VALENTINO/valentinoを含むものを、本件商標及び本件商標権者が有する関連商標の指定商品について、商標権者毎に区分けして、マッピングしたものである。
これらの既登録商標の存在は、出願時における他人の表示(請求人商標)の周知著名性の判断に当たって、積み上げるべき重要な事実と考える。その理由は、専門官庁たる特許庁の専門別に組織化された当該商品分野の審査官・審判官合議体は、我が国唯一の公的機関ということができ、これらに属する多数の専門職の公務員がこぞって、「VALENTINO」を含む商標登録出願の商標法第4条第1項第15号の該当性を認定しないということは、本来的・制度的にありえないからである。その周知著名性ゆえ審査の段階で明らかであるはずの請求人商標(特に「VALENTINO」)との混同可能性を問題とされることなく登録された上記多数の各登録商標が併存していている事実は、請求人商標の周知著名性を否定する十分な根拠となり得る。また、本件商標を含む上記各登録商標の中には、商標法第4条第1項第15号を理由とする異議申立審理を経たものが少なからず存在することに照らせば、一応は疑いを持った上で(もちろん、それぞれの時点で、各登録商標との関係ではあるが)請求人商標の周知著名性が否定されたことを意味し、その信頼性は、限りなく大きいものということができる。
(カ)乙第7号証の1及び2、乙第8号証の1ないし3によれば、我が国において、少なくとも本件商標の出願時を含む現在に至るまで、「VALENTINO」を含む複数の商標が互いに区別されて使用されている。また、乙第9号証の読売新聞社1991年5月発行の「The一流品PART6」には、目次欄に「ヴァレンティノ・ガラヴァーニ」と、「マリオ・ヴァレンティーノ」とがそれぞれフルネームで記載されているほか、「ブランド・サクセス・ストーリー」なる小欄には、「マリオ・ヴァレンティーノ」のみが紹介されている。また、乙第10号証の1ないし3に示すように、請求人が提出した各書証の「世界の一流品大図鑑」ないし「男の一流品大図鑑」のその他の頁には、他の「VALENTINO」を含む登録商標が複数しかも請求人商標よりも多くの頁にわたって使用されている。そして、乙第10号証の4ないし7に示す、1991年度以降の「世界の一流品大図鑑」においても、他の「VALENTINO/valentino」を含む登録商標が多くの頁にわたって使用されている。
こうした複数の「VALENTINO/valentino」を含む商標が、従来から正当に使用されている事実は、上記した山愛書院の「世界ブランド物語」の記載のとおり、「VALENTINO」を含むブランドが混沌と入り混じりながらもそれぞれの相違部分によって区別されている状況を物語っており、「VALENTINO」なる表示が、「VALENTINO GARAVANI」のみを唯一無二に指し示すものではないことをよく表している。そして、上記した「VALENTINO」なる登録商標(引用B商標)が第三者の登録商標であった事実も、上記事実と符合する。したがって、「VALENTINO」なる部分が、ヴァレンティノ・ガラヴァーニ又はそのブランドないし作品群を想起させるとして取引者、需要者間に周知著名であるとした主張は、明らかに妥当性を欠いたものである。
(キ)請求人商標のうち「VALENTINO」の文字は、イタリアのありふれた男性名ないし氏姓を表すものに過ぎず、また、「VALENTINO GARAVANI」も、名一姓の順の諸外国の通例に従って記された、特定人の氏名そのものであり、前記最高裁判例が求める独創性は全くないといえる。
(ク)まして、イタリア国が、フランス国と並んでファッション関連製品の世界的な流行発信地であることを考慮すれば、なおさら、特定のファーストネームを特定の個人に独占させるに適さないというべきである。先述した「新・田中千代服飾事典」に取り上げられたデザイナーに限ってみても、同一の名前を有する者が、以下のとおり多数存在している。
・エマニエル・ウンガロ、エマニエル・カーン
・エリザベス・ドゥ・セヌヴィル、エリザベス・バーン
・クリスチャン・オジャール、クリスチャン・ディオール、クリスチャン・バイイ、クリスチャン・ラクロワ
・クレア・ボッター、クレア・マッカデール
・ジャック・エステレル、ジャック・グリフ、ジャック・テイフォー、ジャック・ドゥーゼ、ジャック・ドラエイ、ジャック・ファット、ジャック・ローネイ
・ジャン・エルセー、ジャン・クロード・ドゥ・リュカ、ジャン・デセー、ジャン・パトー、ジャン・バルテ、ジャン・ポマレード、ジャン・ポール・ゴルティエ、ジャン・マリ・アルマン、ジャン・ルイ・シェレル
・ジャンヌ・ラフォリ、ジャンヌ・ランヴァン
・ジョルジョ・アルマーニ、ジョルジョ・デイ・サンタンジェロ
・ジョン・アンソニー、ジョン・ワイツ
・ピエール・.カルダン、ピエール・バルマン
・ルイ・ヴィトン、ルイ・フェロー
・ルイス・エステヴエ、ルイス・スタンバレー 等
仮に、「自己の氏名」がデザイナーとしての個性を端的かつ明瞭に表示する数少ない手段であるファッション関連分野において、独創性を欠く請求人商標をもって、安易に本規定を適用した場合には、「Valentino」なる名又は氏姓を持つ者は、「自己の氏名」に化体するであろう未必の信用についての保護を、将来永劫にわたって受けられない結果となり、当業界の健全な競争秩序を歪めることにもなり、甚だ不合理である。
(ケ)本件商標は、添付リスト(乙第11号証の1)に示すとおり、イタリア本国を初め各国においても登録されており、我が国のみならず、欧米を含め各国においても認められている商標である。また、本件商標と同一又は類似の商標は、日本においても本類のみならず、他のいくつかの類でも登録されている。また、乙第11号証の2は、「住金物産株式会社」なる我が国代理店業者の「valentino orlandi」ブランドを紹介するホームページの写しであり、乙第11号証の3は、同人の本国の事業内容を案内する公式ホームページの写しである。また、乙第11号証の4は、前記代理店業者の、「valentino orlandi」の販促資料である。また、乙第5号証ないし10は、「valentino orlandi」ブランドを取り上げた新聞記事並びに広告であり、乙第11号証の11によれば、上記代理店の売上高(卸価格ベース)が、トータルで3億円弱に至っていることが認められる。このように「valentino orlandi」は、我が国ファッション業界でもよく知られたブランドとなっている。
(コ)また、世界中で広く、「VALENTINO/valentino」を含む商標が登録され、お互いがそのデザイナーの感性を奮って、自由・公平な競争をしている中で、我が国においてのみ、特定の「VALENTINO」のみに排除効を認めて保護することは、奇異ですらある。
例えば、前述の「世界の一流品大図鑑」ないし「男の一流品大図鑑」には、「MARIO VALENTINO」、「SANVALENTINO」、「Valentino Rudy」といった商標を掲げた広告が多数掲載されている(甲第47号証の下段プレゼント欄、乙第10号証の1ないし7)。このような事実に照らせば、当該「VALENTINO/valentino」以外の部分の相違によって、取引者、需要者がこれらの商標を自他識別できたことは明らかであり、「VALENTINO/valentino」の部分が共通することを以って、ヴァレンティノ・ガラヴァーニの業務に係る商品とその出所について混同を生ずるおそれがあるとするのは不自然である。
むしろ、服飾品を主とするこの種商品の取引者、需要者間においては、本件商標の出願前から現在に至るまで、前記各登録商標にみられる構成の商標に接する場合、全体を不可分一体のものとして把握しその相違部分に着目することにより、それぞれ十分に自他商品の識別をしているものとするのが相当である。
(サ)先述したとおり、「Valentino」なる人名は、イタリア系の男性名又は氏姓としてありふれたものであり、また、上記「VALENTINO/valentino」を含む商標が、本件商標出願時から現在に至るまで、多数登録されると共に、使用されている。上記各事情に鑑みれば、「VALENTINO/valentino」を含む商標が付された指定商品に接した取引者、需要者は、その区別を行うべく、「VALENTINO/valentino」以外の部分により注意を払った上で、これを識別判断していると考えるのが相当である。
(シ)更に付言すれば、請求人商標が用いられる商品は、ブランドコンセプト、販売場所、販売方法等の商標以外の部分で差別化が図られていること、そして、いわゆる真正品の流通ルートも限定されており、また、これを過去から現在に渡って変更した経緯もないという事情も考慮すべきである。いわゆる模倣品は別として、本件商標のような明らかに請求人商標と異なる商標の差異を、本件商標の指定商品等の取引者、需要者が見誤ることは、なおさら無いというべきである。
(ス)上記最高裁判決によれば、「総合的に判断」とあるので、上記最高裁判示の基準に示された各事項のいずれかの充足性を欠いていても、他の要件の充足性がこれを補う程顕著であれば、「混同が発生するおそれ」が生じうることを判示したものと解される。しかしながら、既に述べたとおり、いずれも「混同が発生するおそれ」を認めるに充分なものでなく、又は、これを少なく見積もっても、他の事項の不充足を補うに余りある程のものであるとは、到底認められない。
(3)請求人は、本件商標はいわゆる広義の混同を生ずるおそれがあるとしているが、少なくとも本件商標は、特定の一個人(デザイナー)の氏名を、名-姓の順の我が国における外国人の氏名の表記の通例に従って示したものであり、さらにその指定商品の分野では、氏名が商標として用いられた場合に、アーティストたるデザイナーの感性・作風を一意に表示するデザイナーブランドとして、取引者、需要者に認識される事実は当然に参酌されてしかるべきである。
即ち、名又は氏姓のいずれかが異なれば、その人物ではないことは明らかであり、本件商標を含むデザイナーの氏名を冠した商標に接した取引者、需要者は、全く異なる創作性が発揮された商品を予見・期待しているというべきであって、いわゆる広義の混同が生ずるおそれはないというべきである。
4 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第8号、同第11号及び同第15号の規定に違反して登録されたものではなく、本件商標が同法第46条の規定により無効とされるべきであるとする請求人の理由は成り立たない。

第5 当審の判断
1 「VALENTINO」(ヴァレンティノ)標章の著名性について
本件審判請求の理由及び甲第7号証の4ないし32、甲第13号証ないし甲第20号証、甲第22号証及び甲第23号証、甲第25号証ないし甲第44号証、甲第47号証ないし甲第55号証、甲第59号証、甲第63号証、甲第64号証、甲第66号証ないし73号証を総合してみると、以下の事実が認められる。
(1)ヴァレンティノ・ガラヴァーニ(1932年生まれ)は、17才の時パリに行き、洋裁学院でデザインの勉強を開始し、フランスの有名デザイナー「ジャン・デッセ」及び「ギ・ラローシュ」の助手として働き、1959年ローマで自分のファッションハウスを開設し、コレクションを発表した。1967年(昭和42年)に白一色のコレクションを発表し、このコレクションは、「ニューズウイーク」、「ライフ」、「ニューヨークタイムズ」等の雑誌でも報道された。これにより、同人は、デザイナーとして最も栄誉ある賞といわれる「ファッションオスカー(FashionOscar)」を受賞し、これ以来、同人は、ファッション界において世界的に著名なデザイナーとなった。
ヴァレンティノ・ガラヴァーニは、1969年にミラノにブティックを開き、その後、20以上のブティックを世界各地に開設した。
我が国においても、「ヴァレンティノガラヴァーニ」の名前は、前記「ファッションオスカー」受賞以来知られるようになった。その後、「株式会社ヴァレンティノヴティックジャパン」が設立され、同人のデザインに係る作品の我が国におけるファッションショーに関する記事が昭和51年9月から11月にかけて一般新聞、雑誌にも数多く掲載された(甲第7号証の4ないし32。なお、甲第7号証の4と同15、同5と同9及び同18と同19は重複している。)。上記新聞には、「ヴァレンティノ・コレクション発表」、「ヴァレンチノのショーから」、「ヴァレンチノ秋冬ショー」、「バレンチノのトータルファッション」、「バレンチノの作品」、「無地が売り物のヴァレンティノ」、「バレンチノの秋冬新作」等というように「ヴァレンティノ・ガラバーニ」の他、単に「ヴァレンティノ」、「バレンチノ」と表示しているものも多い。また、その後もヴァレンティノ・ガラバーニを「バレンチノ」として新聞で報道している事実がある(平成3年7月29日付報知新聞(甲第48号証)及び昭和57年11月20日付朝日新聞(甲第71号証))。
さらに、同人のデザインに係るバッグ、ベルト、婦人服、紳士服、靴、ネクタイ、万年筆、眼鏡フレーム、ライター、傘等が、「VALENTINO GARAVANI」「ヴァレンティノ・ガラヴァーニ」とフルネームで表示される一方、「ヴァレンティノ」と略称してファッション雑誌に掲載されている(「世界の一流品大図鑑(昭和51年6月発行)」(甲第66号証)、「EUROPE一流ブランドの本(昭和52年12月発行)」(甲第67号証)、「nonno1989年12月5日号」(甲第68号証)、「世界の一流品大図鑑81年版」(甲第13号証)、「同’85年版」(甲第15号証)、「男の一流品大図鑑’85年版」(甲第16号証)、「25ans1987年10月号」(甲第22号証)、「同1994年4月号」(甲第25号証)、「ミス家庭画報1990年5月号」(甲第30号証)、「同1990年7月号」(甲第31号証)、「同1994年6月号」(甲第33号証))。
同人のデザインに係る商品は、平成2年頃には、新宿伊勢丹、小田急百貨店、三越本店、西武百貨店、東急本店、そごう、松坂屋本店、名鉄百貨店、高島屋、阪急百貨店等一流百貨店において販売されている。
請求人のパンフレット「’77 Spring & Summer Collection」(甲第72号証)、「’77 FALL & WINTER COLLECTION」(甲第73号証)には、「Valentino」、「VALENTINO」、「ヴァレンティノ」の表示を使用し、「VALENTINO BOUTIQUE COLLEZIONE PURIMAVERA ESTATE 1996」(甲第59号証)には、単に「VALENTINO」と表示している。また、ローマ、フィレンツェ、ミラノにある請求人の店の名称は、「Valentino」(「V」は小文字の場合もある。)である(甲第64号証)。
(2)前記(1)で認定した事実によれば、ヴァレンティノ・ガラヴァーニは、遅くとも、同人のファッションショーが我が国で開催され、その模様が新聞紙上で広く取り上げられた昭和51年頃には世界的に著名なデザイナーとして、我が国のファッション関連商品の取引者・需要者の間に広く知られるようになり、また、同人のデザインに係る被服、バッグ、靴等のファッション関連商品におけるデザイナーブランドとして、本件商標の出願日である平成8年8月12日には、既に我が国においても著名であったと認め得るところである。
また、同人及びそのデザインに係る商品群に表示される商標は、雑誌、新聞において、「VALENTINO GARAVANI」、「ヴァレンティノ・ガラヴァーニ」として紹介されることも多いが、単に「VALENTINO 」、「valentino」、「ヴァレンティノ」「バレンチノ」(以下これらをまとめて「請求人略記ブランド」という。)と紹介していることも少なくなく、同人及びそのデザインに係る商品群に表示される「VALENTINO GARAVANI」、「ヴァレンティノ・ガラヴァーニ」の著名性及び請求人がパンフレットや直営店の名称に「Valentino」(「V」は小文字の場合もある。)との表示を用いてきたこと同人の氏名及びそのデザインに係る商品に単に「valentino」と表示しているものもあることを考慮すれば、請求人略記ブランドも同人の氏名及びそのデザインに係る商品群のブランドとして取引者・需要者に広く認識されるに至っているものというべきであり、その状況は本件商標の登録査定時においても引き続き継続していたものと認め得る。
(3)被請求人は、「Valentino」は、イタリア人のごくありふれた名であり、映画俳優ルドルフ・ヴァレンティノが著名であることから、「Valentino」なる略称は、前記映画俳優を指呼するのか、いかなる者を指すのか不明確であり、「Valentino」が特定のヴァレンティノ・ガラヴァーニを表示するものとして周知著名であるとは、到底認められない、と主張する。
しかし、「VALENTINO」、「ヴァレンティノ」が、イタリア人のありふれた名であるとしても、これらの語が識別力を獲得することが、それによって不可能となるわけではない。まして、日本においては、「VALENTINO」、「ヴァレンティノ」は、ありふれた名であるとは認められないから、これらが使用等一定の事実の蓄積に伴い、周知となり、識別力を獲得したと考えることは何ら不自然でなはい。また、ルドルフ・ヴァレンティノは、本件商標の登録出願時ないしその登録査定時において、没後70年近く経っており、日本のファッション関連商品の取引者・需要者が、「VALENTINO」、「ヴァレンティノ」の標章に接したとき、前記認定のとおり相当程度周知な請求人略記ブランドを差し置いて、映画俳優であるルドルフ・ヴァレンティノが真っ先に想起されるとは認められない。
2 出所の混同のおそれについて
(1)本件商標は、別掲に示す構成のとおり、楕円輪郭内に「valentino」及び「orlandi」の欧文字を二段に横書きしてなり、第24類「織物,メリヤス生地,タオル,手ぬぐい,ハンカチ,その他の布製身の回り品,織物製テーブルナプキン,敷布,布団,布団カバー,布団側,まくらカバー,毛布,テーブル掛け 」を指定商品とするものである。
本件商標の文字部分は、構成上「valentino」と「orland」とに、2分されており、取引者・需要者が本件商標のうち「valentino」の部分を可分な部分として認識することは容易である。そして、本件商標中の文字部分は、全体をもって、我が国においてよく知られた氏名等を表すものとはいい難いのみならず、全体を称呼した場合の「バレンチノオルランディ」の称呼も10音とやや冗長にわたるものである。
そして、本件商標の指定商品は、前記のとおり、織物、布製身の回り品等の商品であって、ファッション化する傾向の商品といえるものであって、ファッション関連商品というべきものであり、その需要者も一般大衆というべきものである。
そうすると、前記1で認定したとおり、請求人略記ブランドは、婦人服、紳士服、バッグ等のファッション関連商品に関して、取引者・需要者間に広く知られたブランド名であることから、上記構成の本件商標をその指定商品に用いるときは、取引者・需要者が「valentino」の部分に着目するということは、十分にあり得ると認めることができる。
以上の状況を総合すれば、本件商標をその指定商品に使用した場合、これに接する需要者は、前記各事情よりして、その構成上段にあって、請求人の著名なブランド名と綴り字を同じくする「valentino」の文字部分に着目し、容易に請求人略記ブランドを連想・想起するとともに、これをデザイナーヴァレンティノ・ガラヴァーニまたは請求人に係る一連のデザイナーブランド又はその兄弟ブランドないしはファミリーブランドであるかの如く誤認し、或いはこれら者と事業上何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如く、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるといわなければならない。
してみれば、本件商標は、他人の業務に係る商品とその出所について混同を生ずる商標というべきであるから、その登録は、商標法第4条第1項第15号に違反してされたものといわざるを得ない。
(2)被請求人の主張について
被請求人は、「混同を生ずるおそれ」の有無は、最高裁平成12年7月11日判決における判示事項に照らして判断されるべきであるとして、以下の主張をしている。
(ア)被請求人は、新聞等の表記は、単に文章を簡潔にするための略記にすぎず、また、共通する部分を有する固有名称は共通する部分以外の相違部分で識別される、と主張する。
しかしながら、「VALENTINO」「valentino」「ヴァレンティノ」の語が、それぞれ単独に用いられていることは、前記認定のとおりであり、これを、略記のためだけに用いられたものと認めることはできない。そして、使用の結果、それ自体が特定の個人ないしそのデザイナーブランドを示すものとして著名となり識別力を有するものとなったと認めることに、何らの支障もない。
(イ)被請求人は、特定人の名を含ませてその出所表示を期待する場合、名だけを用いるのは異例であり、氏姓単独または氏姓と名の組み合わせを用いるのが一般的である、と主張する。
しかしながら、仮にデザイナーが氏姓ではなく名をブランド名とすることが異例であったとしても、そのことは、名が識別力を獲得し得ないことに結び付くわけではない。
(ウ)被請求人は、「VALENTINO」を含む商標が本件商標の指定商品と同じくする類に限ってみても多数登録されていることは、請求人商標の周知著名性の判断に当たって、積み上げるべき重要な事実である、また、我が国において、「VALENTINO」を含む複数の商標が互いに区別され使用されている、と主張する。
しかしながら、当該登録事例の存在及び「VALENTINO」を含む複数の商標が使用されている事実は認めるとしても、それらが請求人略記ブランドとの関係で混同を惹起させるものかどうかは、個別・具体的に決せられるものであって、本件事案とは直接関係がないから、請求人の主張する上記理由をもって本件における混同可能性を否定する根拠とするのは適切でなく、前記認定を左右するに足りない。
(エ)被請求人は、「VALENTINO」は、イタリアのありふれた男性名ないし氏姓を表すにすぎず、また、「VALENTINO GARAVANI」の文字は、特定人の氏名そのものであるから独創性はない、旨主張する。
しかしながら、「VALENTINO」、「ヴァレンティノ」がイタリア系のありふれた氏姓ないし名であるとしても、これらの語が識別力を獲得することがそれによって不可能となるわけではない。まして、日本においては、「VALENTINO」、「ヴァレンティノ」は、ありふれた氏姓ないし名であるとは認められないから、これらが使用等一定の事実の蓄積に伴い、周知となり、識別力を獲得したと考えることは何ら不自然でなはい。
(オ)被請求人は、「valentino orlandi」は、我が国ファッション界でよく知られたブランドとなっている、と主張する。
しかしながら、被請求人が提出した、我が国における本件商標の使用に関する証拠は、住金物産ホームページ(乙第11号証の2)、イタリア語及び英語によるバレンチノ・オルランディのホームページ(乙第11号証の3)、valentino orlandi代理店(住金物産株式会社)作成の同ブランドの展開・戦略に関するライセンシー向けと認められる紹介パンフレット(乙第11号証の4)及び1998年7月30日繊研新聞8頁の藤井株式会社による複数列記されたブランドの一つとして同ブランドが記載された広告記事(乙第11号証の5)、住金物産が同ブランドを導入し、1997年春から商品販売を行う旨のいずれも1997年(平成9年)1月23日付けの新聞記事(乙第11号証の6ないし8)、トリイが1997年秋から同ブランドの商品を発売する旨の1997年5月14に付け新聞記事(乙第11号証の9)、藤井株式会社がブランド戦略強化として同ブランドのメンズカジュアルを販売する旨の1997年2月18日付け新聞記事、(乙第11号証の10)及び1997年1月から12月までのサブライセンシー8社の同ブランド売上高と集計(乙第11号証の11)であるが、特に新聞記事は、主に住金物産等が本件商標の出願時(平成8年(1996年)8月12日)以降である1997年春から同ブランド商品を展開する旨の新聞記事であり、これらの証拠によっては、本件商標の出願時に「valentino orlandi」は、我が国ファッション界でよく知られたブランドとなっているとは、到底認められないし、登録査定時においても同様である。なお、乙第11号証の11により同ブランドによる商品が一定程度販売されたことは認められ、仮に本件商標(同ブランド)に接した需要者が本件商標が請求人の請求人略記ブランド等とは、別異の商標(ブランド)と認識したとしても、請求人と何らかの関係のあるいわゆる兄弟ブランド等として認識されることはないとは、提出された証拠をもってしては認めることはできない。
(カ)被請求人は、請求人の商品は、ブランドコンセプト、販売場所、販売方法等の商標以外の部分で差別化が図られている、と主張する。
しかしながら、請求人略記ブランドは、ファッション関連商品に使用され著名であり、本件商標の指定商品は、前記のとおり、ファッション関連商品を含むものであって、ファッション関連商品の主たる需要者は、一般の消費者といえるから、被請求人主張のブランドコンセプト、販売場所、販売方法に差別化が図られていたとしても混同を生ずるおそれがあることを否定するものではないし、被請求人の主張及び提出された証拠からは、混同を生ずるおそれの有無に繋がるような具体的な差異を見出せない。
(キ)以上の被請求人の主張の他、本件で述べる被請求人の主張及びその提出に係る乙号証をもってしては、先の認定を覆すに足りない。
3 むすび
以上のとおり、本件商標の登録は、商標法第4条第1項第15号に違反してなされたものであるから、同法第46条第1項の規定により無効とすべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
別掲 (別掲)

審理終結日 2004-08-27 
結審通知日 2004-08-30 
審決日 2004-09-14 
出願番号 商願平8-90895 
審決分類 T 1 11・ 271- Z (024)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山内 周二 
特許庁審判長 茂木 静代
特許庁審判官 津金 純子
内山 進
登録日 1998-12-11 
登録番号 商標登録第4220940号(T4220940) 
商標の称呼 バレンティノオルランディ、バレンチノオルランディ 
代理人 末野 徳郎 
代理人 廣田 米男 
代理人 加藤 朝道 
代理人 杉村 興作 

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