【重要】サービス終了について

  • ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W2528
管理番号 1421606 
総通号数 40 
発行国 JP 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2025-04-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2024-08-08 
確定日 2025-03-12 
異議申立件数
事件の表示 登録第6814007号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第6814007号商標の商標登録を維持する。
理由 第1 本件商標
本件登録第6814007号商標(以下「本件商標」という。)は、「MUTO BEAR」の欧文字を標準文字で表してなり、令和5年12月7日に登録出願、第25類「被服,ガーター,靴下留め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,靴保護具,仮装用衣服,運動用特殊靴,運動用特殊衣服(「水上スポーツ用特殊衣服」を除く。)」及び第28類「遊園地用機械器具,ペット用おもちゃ,おもちゃ,人形,ぬいぐるみ,囲碁用具,将棋用具,歌がるた,さいころ,すごろく,ダイスカップ,ダイヤモンドゲーム,チェス用具,チェッカー用具,手品用具,ドミノ用具,トランプ,花札,マージャン用具,遊戯用器具,ビリヤード用具,運動用具,釣り具,柄付き捕虫網,殺虫管,毒つぼ」を指定商品として、令和6年5月28日に登録査定され、同年6月13日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が引用する商標は、「MUTO BEAR」の欧文字からなる商標であり、申立人が、元プロレスラーの武藤敬司氏を示すキャラクターの名称として著名であると主張するものである。

第3 登録異議の申立ての理由
申立人は、本件商標は商標法第4条第1項第7号、同項第10号、同項第15号及び同項第19号に該当するものであるから、本件商標登録は商標法第43条の2第1号により取り消されるべきである旨申立て、その理由を以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第11号証(枝番号を含む。)を提出した。
なお、以下、証拠の記載に当たっては、「甲第1号証」を「甲1」のように記載し、枝番号をすべて記載する場合は、枝番号を省略して記載する。
1 商標法第4条第1項第15号について
「MUTO BEAR」は、元プロレスラーの武藤敬司氏(以下「武藤氏」という。)を示すキャラクターとして著名であり、本件商標に係る商標登録出願前の武藤氏のキャラクタービールの発売記念イベントのニュース(甲3の1)は、TBS NEWSの全国版であり、ビールの「MUTO BEER」と共にキャラクター名称「MUTO BEAR」が缶表面に印刷されている。同記事が掲載されているTBS NEWS DIGは、月間2.5億PV、4,500万UBのアクセス数があることから、同記事の内容は広く周知されていることは明らかである(甲3の2)。
「MUTO BEAR」の商品が販売された時期や経緯が記されたウェブサイトの情報(甲3の3)により、「MUTO BEAR」の商品が2008年(平成20年)には既に企画販売が開始されていることがわかる。また、人形、携帯ストラップ、ティーシャツ等の販売が当該ウェブサイトの取材の時点で累計2億5000万円以上であることが記されており、商品の単価を仮に1,500円とすれば少なくとも合計15万点以上の商品が販売されたことになる。
商標登録出願前から存在するウェブサイトでの「MUTO BEAR」の検索結果(甲4)のように、多くのウェブサイトで「MUTO BEAR」の名称が武藤氏と紐づいて表示されている。商標登録出願前から存在するウェブサイトでの漢字及び片仮名による「武藤ベアー」の検索結果(甲5)のように、多くのウェブサイトで「武藤ベアー」の名称が武藤氏と紐づいて表示されている。
本件商標に係る商標権者である「株式会社プロレスLOVE」は、現在及び本件商標に係る商標登録出願時においても武藤氏本人又は武藤氏が株式を所有し、かつ、配偶者が代表である申立人(以下「武藤氏等」という)とは異なる者であり、かつ、本件商標の登録出願時において武藤氏等とは何ら取引関係を有さない者である。また、武藤氏等が商標権者又はその代表者に対して武藤氏本人を示す当該キャラクターの名称の使用を許諾している事実はない。商標権者又はその代表者は、武藤氏等との取引関係が以前にあったものの、信頼関係が失われたことから、本件商標の登録出願時には既に取引関係を解消している。武藤氏等が商標権者又はその代表者に何ら許諾等を行った経緯がないことを証するため、武藤氏本人及び申立人の宣誓書を添付する(甲6)。
商標権者の名称について補足すると、「プロレスLOVE」のスローガンは、武藤氏本人が試合やイベント等において継続的に使用した結果、プロレスファンの間で武藤氏本人の提唱するプロレス人気を向上させるためのスローガンとして認知されるに至ったものである(甲7)。これに対し、商標権者の代表者は法人の名称として「プロレスLOVE」を使用しているが、武藤氏本人からの承諾を受けた事実はない。このため、「プロレスLOVE」の名称を社名として使用していることをもって、「MUTO BEAR」の使用の承諾を得ているものとはいえない。
このように、商標権者に対して武藤氏等は何ら関係のない者であるから、商標法第4条第1項第15号に係る「他人」に該当するものである。
以上から、商標権者又は本件商標の使用許諾を受けた者が当該登録商標を使用した場合、需要者又は取引者は、武藤氏等による商品又は武藤氏と何等かの取引関係を有する者による商品として誤って認識することは明らかであり、出所の混同を生じさせるものである。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。
2 商標法第4条第1項第7号について
上記のように、本件商標に係る「MUTO BEAR」は、元プロレスラーの武藤氏を示すキャラクターとして著名である。この名称「MUTO BEAR」は、武藤氏本人を示すものとして本人の利益保護及び需要者・取引者の誤認混同による不利益を防止するため、法的に保護すべきものであることは明らかである。また、上記のとおり、武藤氏等が商標権者又はその代表者に何ら許諾等を行っている事実はない。
かかる状況で、商標権者は本件商標を武藤氏本人に無断で商標登録出顧をして当該登録商標を取得したものであり、上記のとおり、商標登録出願時には商標権者と武藤氏等との間での信頼関係は既に失われている。
このため、本件商標は、いわばひょう窃的になされ、かつ、その出願の経緯にも社会的相当性を欠くものがあり、商標法が予定している法的秩序に反するものである。また、かかる登録商標を維持することは、一般需要者の出所混同を招く結果となり社会の公益に反するものとなる。
よって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。
3 商標法第4条第1項第10号について
本件商標に係る「MUTO BEAR」は、少なくとも本件商標に係る指定商品のうち、「被服,履物,おもちゃ,人形」について本件商標の登録出願時までに広く販売されている。
武藤ベアーの商品は、上記のとおり、平成20年ごろから開始され(甲3の3)、「MUTO BEAR」のキャラクター画像のデザイナーが著者となる本には、「MUTO BEAR」を使用した商品が掲載され、インタビューにおいても販売が継続されていることが掲載されている(甲8)。
2011年から2020年までの商品販売価格を記載した資料によれば、約2億2千万円の販売実績があり、この商品の平均単価を4,000円としても5万5千点の商品が1つの販売者から販売されていることになる(甲10)。2022年度の被服について販売数量を示す資料によれば、2022年では「MUTO BEAR」ブランドの衣類約6千5百点がこの販売業者から販売されている(甲11)。
また、「MUTO BEAR」は、商品に付されて販売されていることを含めて大変話題性に富んだものである。さらに、購入者が着て外出することで公衆への露出度が高まり、その結果、周知性が更に高まっているものである。
プロレスファンは、全国のプロレス興行の数から100万人以上存在すると推定される(甲9)。プロレスファンであれば武藤氏の名前を知らないものはいないと言っても過言ではなく、武藤氏をモチーフにしたブランドである「MUTO BEAR」の商品が以前から販売されていることも相当数のプロレスファンの知るところである。全国でTV放送されているプロレスラーのC氏と出演する番組でも、「MUTO BEAR」の帽子等を着用し出演している。
このように「MUTO BEAR」の付された商品は長期にわたって継続的に販売・広告・周知されており、いずれも武藤氏を直接連想させる形態で行われていることから、当該「MUTO BEAR」は商品の販売業者を示すものではなく武藤氏本人を示す商標として機能していることは明らかである。
上記のとおり、商標権者に対して武藤氏等は他人である。
よって、本件商標は、他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であって、その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするものであるから、商標法第4条第1項第10号に該当する。
4 商標法第4条第1項第19号について
上記のとおり、「MUTO BEAR」は、プロレスラーの武藤氏を示すキャラクターの名称であり、この名称は、シャツ等の商品に使用され本件商標の出願時に需要者の間に広く認識されるものとなっている。
上記のとおり、商標権者に対して武藤氏等は他人である。
また、商標権者が指定商品に「MUTO BEAR」を使用することにより、武藤氏等の信用、名声、顧客吸引力が毀損されることは明らかである。商標権者の出願行為は武藤氏の名声にフリーライドするものであることは経験則上明らかであり、上記のとおり、商標権者は武藤氏等から取引関係を解消されており、かつ、当該名称の使用の許諾を得ていないから、本件商標は、不正の利益を得る目的をもって使用するものに他ならない。
よって、本件商標は、他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であって、不正の目的をもって使用をするものであるから、商標法第4条第1項第19号に該当する。

第4 当審の判断
1 引用商標の周知性について
申立人の提出に係る証拠及び同人の主張によれば、以下のとおりである。
(1)2008年5月22日付けのウェブサイト記事によれば、元プロレスラーの武藤氏が、デザイン会社に協力を依頼したことがきっかけで「武藤ベアー」というキャラクターが2005年8月に誕生し、「武藤ベアー」人形のほか、ティーシャツ、携帯ストラップが販売され、「武藤ベアー」商品の売上げは、累計で約2億5000万円とされる(甲3の3)。
(2)ウェブサイトにおいて、武藤氏の氏名又は写真とともに、「武藤ベアー(MUTO BEAR)」の文字が使用されているTシャツなどの商品が掲載されていることが認められる(甲4、甲5)。
「武藤ベアー」商品の2011年度から2020年度の商品販売価格は、合計223,357,208円とされ(甲10)、「武藤ベアー(MUTO BEAR)」ブランドの2022年度の被服の販売数量は、合計6,445個とされるが、当該各数値を裏付ける具体的な証拠は提出されていない。
(3)武藤氏をモチーフにしたキャラクターのクラフトビールが2023年8月16日に発売され、当該ビールのラベルには、「MUTO BEER」の文字の表示とともに武藤氏のキャラクターの名称として「MUTO BEAR」の文字が使用されていることが認められる(甲3の1)。
上記ビールの発売に際し、2023年8月16日開催された記念イベントの様子を紹介した「TBS NEWS DIG」のニュース媒体のアクセス数は、月間2.5億PV、4500万UBであった旨の記載がある(甲3の2)が、申立人が主張する上記数値の多寡について、同業他社の数値等、比較すべき客観的な証拠の提出はない。
(4)上記(1)ないし(3)から、武藤氏をモチーフとした「武藤ベアー」が2005年8月に誕生して以降、人形のほか、「MUTO BEAR」の文字が使用されているティーシャツなどの商品(以下、これらを「本件商品」という。)が販売されたこと、「MUTO BEAR」の文字が使用されているクラフトビールが2023年8月16日に発売されたことは認められるが、「武藤ベアー」商品の2011年度から2020年度の商品販売価格とされる数値及び「武藤ベアー(MUTO BEAR)」ブランドの2022年度の被服の販売数量とされる数値を裏付ける具体的な証拠は確認できない。
そして、上記の他に、本件商品の我が国又は外国における売上高、販売量などの販売実績及び広告宣伝の期間・規模・頻度等など、引用商標の周知性を数量的に判断し得る具体的な証拠が提出されていない。
よって、申立人提出の証拠からは、引用商標が、我が国及び外国の需要者にどの程度認識されているのか把握、評価することができない。
その他、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、引用商標が本件商品を表示するものとして、我が国及び外国の需要者の間に広く知られていることを認めるに足りる証拠の提出はなく、引用商標の周知性を認め得る事情は見いだせない。
したがって、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、引用商標が、申立人の業務に係る商品を表示するものとして、我が国又は外国の需要者の間に広く認識されているものと認めることはできない。
2 商標法第4条第1項第10号該当性について
(1)本件商標と引用商標の類否について
本件商標は、上記第1のとおり、「MUTO BEAR」の欧文字を標準文字で表してなるところ、これよりは、「ムトウベアー」の称呼が生じる。
そして、「MUTO BEAR」の文字は、一般的な辞書に載録された語ではなく、特定の意味を有しない一種の造語として認識、理解されるものである。
したがって、本件商標は、その構成文字に相応して、「ムトウベアー」の称呼を生じ、特定の観念を生じない。
他方、引用商標も、「MUTO BEAR」の欧文字を表してなるから、本件商標と同様に、その構成文字に相応して、「ムトウベアー」の称呼を生じ、特定の観念を生じない。
そこで、本件商標と引用商標を比較すると、両者は、ともに同じ綴りよりなるものであるから、両商標は、観念において比較できないとしても、外観及び称呼において、相紛れるおそれのある類似の商標といえる。
(2)引用商標の周知性について
上記1のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、引用商標が申立人の業務に係る商品を表示するものとして、我が国の需要者の間で広く認識されていたものと認めることはできないものである。
(3)小括
以上からすると、本件商標と引用商標は類似の商標ではあるものの、引用商標が、我が国の需要者の間に広く認識されたものとは認められないものであるから、商標法第4条第1項第10号を適用するための要件を欠くものである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第10号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)引用商標の周知性について
上記1のとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、引用商標が申立人の業務に係る商品を表示するものとして、我が国の需要者の間で広く認識されていたものと認めることはできないものである。
(2)本件商標と引用商標の類似性の程度について
上記2のとおり、本件商標と引用商標は、相紛れるおそれのある類似の商標であるから、類似性の程度は高いというべきである。
(3)本件商標の指定商品と本件商品との関連性及び需要者の共通性について
本件商標の指定商品は、「被服,おもちゃ,人形」などを含むところ、本件商品もティーシャツ、人形などであるから、それら関連商品において両者の商品の関連性及び需要者の共通性は高いといえる。
(4)出所の混同のおそれについて
上記(2)及び(3)のとおり、本件商標と引用商標とは、類似性の程度が高く、本件商標の指定商品と本件商品の関連性及び需要者の共通性が高いとしても、上記(1)のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る商品を表示するものとして、我が国の需要者の間で広く認識されていたものとは認めることができないものである。
そうすると、本件商標は、本件商標の商標権者がこれを指定商品について使用しても、これに接する需要者が、引用商標を連想又は想起することはなく、その商品が他人(申立人)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その商品の出所について混同を生ずるおそれはないというべきである。
その他、本件商標が出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情も見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第19号該当性について
上記2のとおり、本件商標と引用商標は、相紛れるおそれのある類似の商標であるとしても、上記1のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る商品を表示するものとして、我が国又は外国の需要者の間で広く認識されていたものとは認めることができないものである。
そして、申立人提出の証拠からは、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、本件商標権者が不正の利益を得る目的など不正の目的をもって本件商標を使用するものであると認めるに足りる証拠は見いだせない。
そうすると、本件商標権者が引用商標の名声を毀損させることを認識し、本件商標を不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をもって使用するものとはいえない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。
5 商標法第4条第1項第7号該当性について
(1)引用商標について
上記2のとおり、本件商標と引用商標は、相紛れるおそれのある類似の商標であるとしても、上記1のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る商品を表示するものとして、我が国又は外国の需要者の間で広く認識されていたものと認めることができないものである。
そうとすれば、引用商標が申立人の業務に係る商品であることを表示するものとして我が国における需要者の間に広く認識されていることを理由とした本件商標が商標法第4条第1項第7号に該当するとする申立人の主張については、採用できない。
(2)商標法第4条第1項第7号の意義
商標法第4条第1項第7号でいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、(ア)その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、(イ)当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合、(ウ)他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合、(エ)特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合、(オ)当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合、などが含まれるというべきである(平成17年(行ケ)第10349号判決)。しかしながら、先願主義を採用している日本の商標法の制度趣旨などからすれば、商標法第4条第1項第7号の「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれ」を私的領域にまで拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは、商標登録の適格性に関する予測可能性及び法的安定性を著しく損なうことになるので、特段の事情のある例外的な場合を除くほか、許されないというべきである。そして、特段の事情があるか否かの判断に当たっても、出願人と、本来商標登録を受けるべきと主張する者との関係を検討して、例えば、本来商標登録を受けるべきであると主張する者が、自らすみやかに出願することが可能であったにもかかわらず、出願を怠っていたような場合や、契約等によって他者からの登録出願について適切な措置を採ることができたにもかかわらず、適切な措置を怠っていたような場合は、出願人と本来商標登録を受けるべきと主張する者との間の商標権の帰属等をめぐる問題は、あくまでも、当事者同士の私的な問題として解決すべきであるから、そのような場合にまで「公の秩序や善良な風俗を害する」特段の事情がある例外的な場合と解するのは妥当でない(平成19年(行ケ)第10391号判決)。
(3)上記判示に照らし、本件商標の商標法第4条第1項第7号該当性を判断すると、以下のとおりである。
ア 本件商標は、上記第1のとおり、「MUTO BEAR」の欧文字を標準文字で表してなるところ、その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう激又は他人に不快な印象を与えるような文字等からなるものではない。
イ そして、本件商標は、これをその指定商品について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するものともいえず、さらに、他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されているものではないし、特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反するものでもない。
ウ また、本件商標の登録出願日は、上記第1のとおり、2023年(令和5年)12月7日であるところ、申立人の主張によれば、「武藤ベアー(MUTO BEAR)」商品は、2008年(平成20年)には既に販売が開始されていたとされる。
そうとすれば、申立人は、本件商標の登録出願日前に、我が国に引用商標を商標登録出願する機会は十分にあったにもかかわらず、それをしていなかったといえる。
そうすると、本件商標は、かかる観点からもみても「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」に該当するものといえない。
エ さらに、申立人の主張及び同人の提出に係る甲各号証を総合してみても、商標法の先願登録主義を上回るような、本件商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合に該当すると認めるに足りる具体的事実を見いだすことができない。
オ その他、本件商標が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標と認めるに足りる証拠の提出はない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
6 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第10号、同項第15号及び同項第19号に該当するとはいえず、他に本件商標の登録が同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定に基づき、その登録を維持すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

別掲
(この書面において著作物の複製をしている場合の御注意)
本複製物は、著作権法の規定に基づき、特許庁が審査・審判等に係る手続に必要と認めた範囲で複製したものです。本複製物を他の目的で著作権者の許可なく複製等すると、著作権侵害となる可能性がありますので、取扱いには御注意ください。
異議決定日 2025-02-25 
出願番号 2023135551 
審決分類 T 1 651・ 22- Y (W2528)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 板谷 玲子
特許庁審判官 小田 昌子
馬場 秀敏
登録日 2024-06-13 
登録番号 6814007 
権利者 株式会社プロレスLOVE
商標の称呼 ムトーベア、ムトベア、ムトー、ムト 
代理人 松下 恵三 

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ