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審決分類 |
審判 全部無効 外観類似 無効とする(請求全部成立)取り消す(申し立て全部成立) W03 |
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管理番号 | 1421591 |
総通号数 | 40 |
発行国 | JP |
公報種別 | 商標審決公報 |
発行日 | 2025-04-25 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2024-06-20 |
確定日 | 2025-01-06 |
事件の表示 | 上記当事者間の登録第6153651号商標の商標登録無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 登録第6153651号の登録を無効とする。 審判費用は被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 本件商標 本件登録第6153651号商標(以下「本件商標」という。)は、別掲1のとおりの構成からなり、平成30年5月2日に登録出願され、第3類「口臭用消臭剤,歯磨き,口内洗口液,化粧品,愛玩動物用歯磨き,ペットの口腔用消臭剤,ジェル状のペットの口腔用消臭剤」を指定商品として、同31年4月16日に登録査定、令和元年6月21日に設定登録されたものである。 第2 請求人が引用する商標 請求人が、本件商標の登録の無効の理由において、本件商標が商標法第4条第1項第11号、同項第15号に該当するとして引用する登録商標は、以下のとおりであり、いずれも現に有効に存続しているものである(以下、引用商標1及び引用商標2をまとめていうときは「引用商標」という。)。 1 登録第5171353号商標(以下「引用商標1」という。)は、「歯が命」の文字を標準文字で表してなり、平成19年10月25日に登録出願、第3類「歯磨き,口内洗浄剤(医薬用のものを除く。),化粧品,せっけん類,香料類」及び第21類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品を指定商品として、同20年10月3日に設定登録されたものである。 2 登録第5830450号商標(以下「引用商標2」という。)は、別掲2のとおりの構成からなり、平成27年8月24日に登録出願、第3類「歯磨き,口内洗浄剤(医療用のものを除く。),口臭用消臭剤」並びに第16類及び第41類に属する商標登録原簿に記載のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、同28年2月26日に設定登録されたものである。 第3 請求人の主張 請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証及び甲第54号証(枝番号を含む。)を提出した。 なお、証拠を表示する場合は、以下、「甲○号証」を「甲○」のように省略して記載し、枝番号を全て表示する場合は、枝番号を省略して記載する。 1 請求の理由 本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に該当するものであるから、同法第46条第1項第1号により、その登録は無効にすべきものである。 2 請求人について 請求人は、昭和49(1974)年9月7日に設立され、薬用ハイドロキシアパタイト配合歯みがき剤など、オーラルケア製品の開発・販売等を事業内容とする法人である(甲4)。また、平成7(1995)年8月から、俳優を採用し、放映されたテレビコマーシャルにより、そのキャッチコピー「芸能人は歯が命」が一世を風靡したことは顕著な事実であると思料する。なお、「芸能人は歯が命」は、請求人の登録商標である(甲5)。 その後、請求人は、これを略して「歯が命」として広告宣伝してきた。さらに、請求人は、平成27(2015)年8月に、8月1日を「「歯が命」の日」として、一般社団法人日本記念日協会に記念日の登録をする(甲6)とともに、様々なイベントを企画・運営している。その一環として、平成27(2015)年以降、「健康的で美しい歯」を持ち、職業や生き方においても輝いている方を表彰する「歯が命アワード」を企画・運営しており、各年で「歯が命アワード」の受賞者を選出している(甲7)。 請求人による広告宣伝の概略について説明すると、当初は、単に「「歯が命」でおなじみの」や「アパガードは「歯が命」です。」及び「アパガード「歯が命」」等と表示していたが、2008年頃から、ターゲットとなる商品の需要者層に合わせ、様々な表現を用いて使用している。これは、「歯が命」が十分なる自他商品識別機能を有していることから、需要者層又は需要者層に好まれるキャラクターを主体として、「需要者層等+「歯が命」」と銘打つことによって「歯が命」から請求人の製造販売に係る商品「歯磨き」を連想、想起させることを目的としている(甲8〜甲39)。また、その広告宣伝の手段としては、新聞・雑誌等への広告や広告記事の掲載、地下鉄車両内や駅構内における広告記事の掲載、新宿駅や渋谷駅近くの屋外ビジョンやサイネージ、TVCM、ウェブ販売・プレゼント・サンプリング、セミナーの開催等、様々な効果的な広告宣伝活動を行っている。 さらに、「8月1日歯が命の日」のイベントに関しては、上記「歯が命アワード」の他、シンポジウム及びセミナーの開催、アワード関連費用、キッズイベントの開催、一般紙への新聞広告や紙面対談や広告記事等を行っている(甲44〜甲52)。 請求人は、このような広告宣伝活動をするとともに、平成30(2018)年以降、「歯が命」を請求人の主力製品である「アパガード」シリーズの商品パッケージに付して使用している(甲53)。 3 商標法第4条第1項第11号に該当すること (1)本件商標について 本件商標は、上段に「歯は生命(い・の・ち)」を表し、下段に「A tooth is the Life」の欧文字を表してなるものである。 上段の「歯」は、「鳥類を除く脊椎動物の口腔内にあって、食物の摂取・咀嚼、攻撃・防御にあずかる器官。」(「広辞苑」第7版)を意味するものであり、「は」は、「体言・副詞・形容詞や助詞などを受け、それに関して説明しようとする物事を取りあげて示す」係助詞(同上)であり、「生命」は、「生物が生物として存在する本源。栄養摂取・物質代謝・感覚・運動・生長・増殖のような生活現象から抽象される一般概念。いのち。」「物事の存立にかかわるような大切な点・もの。また、活動の原動力。」(同上)を意味するものである。 なお、「いのち」は、「生物の生きてゆく原動力。生命力。」「寿命。」「一生。生涯。」「もっとも大切なもの。命ほどに大切に思うもの。真髄。」を意味するものである(同上)。本件商標の上段「歯は生命」の右方に括弧を付して表された「い・の・ち」は、「生命」が一般に「いのち」と読まれることもあるから、「生命」の読み方を特定するものであって、また、そこに配された「・」(中黒)は、1文字1文字を区切って強調するために使用されているものである。したがって、上段全体として、「ハワイノチ」の称呼を生ずるものである。 また、上段部分は、体言「生命(い・の・ち)」で終止する「体言止め」であって、「余剰・余韻を持たせることができる」等の効果がある。 他方、下段の欧文字は、我が国の一般需要者の見地に立った場合、それが「歯は命である」、すなわち、「歯は、最も大切なもの、命ほどに大切に思うもの(である)」の意味を有するものであること、そして、それが上段の文字を英語で表したものであること、は容易に認識、理解されるものであって、上段部分とほぼ同様の意味合いを看取できる付随的、付記的なものである。換言すれば、本件商標中、下段の英語部分から生ずる称呼「トゥースイズアライフ」をもって、本件商標を記憶し、時を経てこれを再現するとは到底想定できない。 すなわち、本件商標は、その全体構成をもってしても、「歯は「いのち」」、すなわち「歯は、最も大切なもの、命ほどに大切に思うもの(である)」、ひいては、「最も大切なもの、命ほど大切に思うものは歯である」との観念、及び、「ハワイノチ」の称呼を生ずるものである。 (2)引用商標について 引用商標1は、標準文字をもって「歯が命」と表してなり、引用商標2は、別掲2のとおり、図形内に「歯が命」の文字を表し、「歯」と「命」が薄い青色で「が」よりもやや大きく書されているものであって、いずれも「歯が命」の文字を要部とするものである。この構成3文字は、本件商標の上記(1)と同様、体言止めで表されているものであり、「歯が命」、すなわち「歯が、最も大切なもの、命ほどに大切に思うもの(である)」、ひいては、「最も大切なもの、命程大切に思うものが歯である」の観念、及び、「ハガイノチ」の称呼を生ずるものである。 (3)本件商標と引用商標の類否 本件商標は、その全体構成から、「歯は「いのち」」、すなわち「歯は、最も大切なもの、命ほどに大切に思うもの(である)」、ひいては、「最も大切なもの、命ほど大切に思うものは歯である」との観念、及び、「ハワイノチ」の称呼を生ずるものであるのに対し、引用商標は、「歯が命」、すなわち「歯が、最も大切なもの、命ほどに大切に思うもの(である)」、ひいては、「最も大切なもの、命ほど大切に思うものが歯である」の観念、及び、「ハガイノチ」の称呼を生ずるものである。 すなわち、本件商標と引用商標の相違は、助詞が「は」であるか、「が」であるか、の相違でしかない。そして、助詞「は」、「連用修飾する語句に続き、前の語句の表す内容を強調する」ものであるから、単に強調しているにすぎない。つまり、本件商標と引用商標は、「歯」=「命(命ほどに大切に思うもの)」であることに相違がなく、本件商標と引用商標に接する需要者、取引者にとっても、「歯=命」として記憶にとどめ、時を経て処を変えて再現する際、それが「歯は命」であるのか、「歯が命」であるのか、が曖昧となり、彼此誤認混同することは必至である。 したがって、本件商標は、引用商標との間で、彼此相紛れやすく、商品の出所について誤認混同を生じさせるおそれがあり、類似するものである。 また、本件商標の指定商品は、引用商標1の指定商品中、第3類「歯磨き,口内洗浄剤(医薬用のものを除く。),化粧品」及び引用商標2の指定商品及び指定役務中、第3類「歯磨き,口内洗浄剤(医薬用のものを除く。),口臭用消臭剤」に類似するものである。 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものである。 4 商標法第4条第1項第15号に該当すること (1)引用商標の周知性について 上記2において主張、立証したとおり、引用商標は、請求人の登録商標「芸能人は歯が命」(甲5)に関する業務上の信用、及び、顧客吸引力を引き継ぎ、商品「歯磨き」との関係において、十分な周知性、著名性を獲得しているものである。 (2)本件商標と引用商標の類似性について 上記3(3)において述べたとおり、本件商標の要部である「歯は生命(い・の・ち)」と引用商標「歯が命」は、助詞「は」と「が」の相違でしかなく、類似性が極めて高いものであり、仮に商標法第4条第1項第11号の「類似」に該当しないものであるとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第15号にいう他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある程度に類似性が高いものである。 (3)出所混同のおそれについて 本件商標と引用商標との類似性が高く、引用商標には周知著名性があり、本件商標の指定商品と請求人の業務に係る商品との間には密接な関係があり、用途又は目的における関連性も高く、商品の取引者及び需要者の共通性もある。 したがって、本件商標がその指定商品に使用された場合、その指定商品は、いずれも「口」に関して使用されるものであることもあり、少なくとも、引用商標に関するライセンス契約を締結して事業を営むグループに属する関係にあると誤信されるおそれがある、といわざるを得ない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。 第4 被請求人の主張 被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求めると答弁し、その理由を要旨次のように述べ、証拠方法として、乙第1号証を提出した。 1 被請求人が本件商標を採択した経緯 被請求人は、本件商標を「動物用の歯ブラシ」の商標として採択して使用したものであり、被請求人としては、本件商標は他人の先行商標と抵触するものはなく、第三者の登録商標等とは出所の混同を生ずるおそれはないとの特許庁判断に基づいて、被請求人の業務に係る商品に使用したものである。 被請求人は、商標を採択使用する場合、慎重を期して採択していることから、第三者の登録商標等と抵触するおそれのある商標の場合には、採択するものではない。しかして、本件商標の場合、本件無効審判事件が提起されたことを契機として、被請求人は、「動物用の歯ブラシ」への本件商標の使用を中止することとした。 2 本件商標の構成態様について (1)被請求人は、1994年8月、OEM化粧品、健康食品のOEM開発会社として設立し、1999年3月に社名を「株式会社ソーシン」に変更した。そして、2015年6月「動物用医薬部外品製造業許可証」及び「動物用医薬部外品製造販売業許可証」を取得した後、2017年2月には、犬の歯周病予防のための、犬用口腔ケアジェルを新発売した(乙1)。 犬は歯周病を罹患することが多く、悪化した場合、あごの骨や心臓などの臓器にまで悪影響を及ぼすことがあるが、当然のことながら犬は自分では歯磨きは出来ず、歯の異常を言葉で伝えることもできないため、飼い主には、飼い犬に対して毎日の歯磨きや歯や歯茎の状態の確認という義務がある。 被請求人は、ペットは家族の一員であるという強い思いから、ペットの歯を守るべく、創業以来蓄積してきた技術的な知見を基に、ペット用口腔ケア商品の開発を行うに至っているが、その根底にあるのは、「一本の歯を残すことが生命(健康な人生)そのもの」という信念に基づいている。 (2)本件商標の上段の「歯は生命」の部分は上記記載に基づくものであり、「(い・の・ち)」の部分の「い」は、「いのち」、「の」は、「のばす」、「ち」は、「ちから」という各言葉の頭文字を表して「(い・の・ち)」としたものである。中黒「・」は、各言葉の頭文字を表す意味で用いたものである。 また、英文字部分は「一本の歯」という意味合いが印象付けられるよう、「A tooth(ア トゥース)」と表示し、「生命(人生)そのものである」という意味合いの英文字「is the Life(イズ ザ ライフ)」を続け、「A tooth is the Life」の全体から「一本の歯は生命(人生)そのものである」との意味合いを表現したものである。 以上のとおり、本件商標からは、「ハワセイメイ、イ、ノ、チ、ア トゥース イズ ザ ライフ」という一連の称呼が生ずる他、本件商標の構成中の「歯は生命」部分からは「ハワセイメイ」、「(い・の・ち)」部分からは「イ、ノ、チ」、「A tooth is the Life」部分からは「ア トゥース イズ ザ ライフ」の夫々の称呼が生ずるものである。 3 引用商標について (1)引用商標1は、漢字と平仮名で「歯が命」と横書きされてなり、この構成からは「ハガイノチ」の称呼が生ずるものである。 (2)引用商標2は、歯を模した青色の特徴的な図形と、当該歯図形の下端部近傍に横断する金色のリボン状図形が配された構成であって、当該歯図形の上部には「歯が命」という文字(「歯」と「命」は水色、「が」は黒色で表されている。)、「命」の右肩には輝きを表現した図形が配されており、図形と文字との結合商標である。 4 本件商標と引用商標の類否について (1)外観 本件商標は、上段に漢字と平仮名で「歯は生命」、平仮名で「(い・の・ち)」、下段に英文字で「A tooth is the Life」と2段で書され、全体として3つの部位からなる商標であるのに対して、引用商標1は漢字と平仮名で「歯が命」と横書きしてなる商標であり、引用商標2は、上記3(2)のとおりの構成からなる結合商標であるから、本件商標と引用商標とが、外観上非類似の商標であることは詳細に論ずるまでもなく明らかである。 (2)称呼 本件商標の上記構成からは、「ハワセイメイ、イ、ノ、チ、ア トゥース イズ ザ ライフ」の一連の称呼が生ずる他、「ハワセイメイ」、「イ・ノ・チ」、「ア トゥース イズ ザ ライフ」の夫々の称呼が生ずるものである。 他方、引用商標からは「ハガイノチ」の称呼が生ずるものである。 本件商標の「ハワセイメイ」、「イ、ノ、チ」、「ア トゥース イズ ザ ライフ」の称呼に対して、引用商標の「ハガイノチ」の称呼とは、全体の構成音数、構成音並びに発音構成において顕著な差異を有するものであるから、全体として本件商標と引用商標とは、彼此誤認混同を生ずるおそれのない称呼上非類似の商標である。 なお、請求人は、「歯は生命」、「(い・の・ち)」、の構成から、「「生命」の読み方を特定するものである」と主張するが、読み方の特定であれば、本件商標「歯は生命」の説明が必要になるはずであり、請求人も引用した広辞苑第7版には、はっきりと「せい・めい【生命】」と読み仮名が記載されている上、日本国憲法第13条中の「生命」は「いのち」と読まれることはない。また、「生命」が用いられる用語は「生命線」、「生命保険」等数多あるが、いずれも「セイメイ」と読まれるものであって、「生命」を「いのち」と読むことが一般的というのは根拠のない主張である。また、広辞苑第7版の「せい・めい【生命】」の欄には、「いのち」以外の意味合いをも含むものである。したがって、本件商標に接する需要者や取引者においては、「歯は生命(い・の・ち)」部分からは、そのまま文字の通りに「ハワセイメイ」、「イ、ノ、チ」と読まれるものであって、引用商標の称呼とは、構成音数や語順語調を異にし、明らかに称呼上非類似の商標として判断されるものである。 (3)観念 本件商標には「一本の歯を残すことが生命(健康な人生)そのもの」という被請求人の思いが込められている。「歯は生命」、「(い・の・ち)」部分から「歯は生命と同様に大事なもの」との暗示的な意味合いの他、英文字部分は「一本の歯」という意味合いが印象付けられるよう、「A tooth(ア トゥース)」と表示し、「生命(人生)そのものである」という意味合いの英文字「is the Life(イズ ザ ライフ)」を続け、「A tooth is the Life」の全体から「一本の歯は生命(人生)そのものである」との意味合いを表現したものである。 他方、引用商標は「歯が命」との文字部分から、「歯が大切」程の意味合いが生ずるものであって、本件商標と引用商標とは観念上も相違する非類似の商標である。 (4)以上のとおり、本件商標と引用商標とは外観・称呼・観念のいずれにおいても相違し、彼此相紛れることのない非類似の商標であるから、本件商標は商標法第4条第1項第11号に該当するものではない。 5 商標法第4条第1項第15号について 上記4で述べたとおり、本件商標と引用商標は、外観・称呼・観念のいずれにおいても異なる非類似の商標であるから、本件商標は、商標法第4条第1項第15号にいう他人の業務に係る商品と混同が生ずるおそれはない。 6 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同項第15号に該当するものではない。 第5 当審の判断 請求人が本件審判を請求することの利害関係の有無については、当事者間に争いがなく、当審は請求人が本件審判の請求について利害関係を有するものと認める。 以下、本案に入って審理する。 1 商標法第4条第1項第11号該当性について (1)本件商標 本件商標は、別掲1のとおり、「歯は生命(い・の・ち)」の文字と「A tooth is the Life」の欧文字とを上下二段に表してなる構成からなるところ、上段と下段の文字種は相違し、上段と下段の間には一定程度のスペースを有しているものである。そして、下段の欧文字が上段の文字を英語表記したものと想起されるものの、英語の「A tooth(一本の歯)」や「Life(人生、等)」が、上段の「歯」や「生命(い・の・ち)」と必ずしも同じ意味合いの英語を表したものと理解されない場合があることからすれば、上段の文字と下段の欧文字とは必ずしも観念的なつながりがあるものとはいえない。そうすると、上段の文字部分と下段の欧文字部分とを常に一体として把握しなければならないものということはできない。 そして、本件商標全体から生じる称呼は、「ハワイノチ ア トゥース イズ ザライフ」の15音であるから、冗長といえる。 以上よりすれば、簡易迅速を尊ぶ取引の実際にあっては、かかる構成からなる本件商標に接する我が国の取引者、需要者は、上段の親しまれた漢字と平仮名からなる文字部分のみをとらえて、認識することが十分にあり得るものであり、これより生ずる称呼や観念をもって取引に資する場合も決して少なくないと判断するのが相当である。 してみれば、本件商標は、構成文字全体より「ハワイノチ ア トゥースイズ ザライフ」の称呼を生ずるほか、要部の一つたり得る上段文字部分「歯は生命(い・の・ち)」の文字に相応して、単に「ハワイノチ」の称呼をも生じ、「生命」の文字は「生物が生物として存在する本源。いのち。物事の存立にかかわるような大切な点・もの。」(出典[広辞苑 第七版])を意味する語であるから、「歯は大切なもの」ほどの観念を生ずるものといわなければならない。 なお、被請求人は、本件商標の「歯は生命(い・の・ち)」の部分からは、「ハワセイメイ」「イノチ」の称呼がそれぞれ生じる旨主張しているが、「生命」の文字を熟字訓によって読む場合は「イノチ」となることに加え(職権調査 https://reading-dictionary.com/%E3%80%8C%E7%94%9F%E5%91%BD%E3%80%8D%E3%81%AE%E8%AA%AD%E3%81%BF%E6%96%B9%E3%81%A8%E6%84%8F%E5%91%B3%E3%81%A8%E3%81%AF%EF%BC%9F%E3%80%8C%E3%81%84%E3%81%AE%E3%81%A1%E3%80%8D%E3%81%A8%E3%80%8C%E3%81%9B/)、例えば、新聞等においては、「電力が逼迫(ひっぱく)」「病気が蔓延(まんえん)」等(職権調査 2024年9月12日 東京読売新聞朝刊12ページ、「[18歳成人 成美、成彦のなるほど!]テーマ「ルビと共生社会」(1)」の見出しの記事には、「新聞記事の場合、「電力が逼迫(ひっぱく)している」とか「病気が蔓延(まんえん)している」など、難しい漢字にもルビを振っています。」の記載がある。)のように漢字に直接読み仮名を付らず、当該漢字の後に、括弧で正しい読み方や難しい漢字の読み方を記載して表すことも一般的に行われていることからすれば、本件商標の上段文字部分においても「生命」の後に括弧書きで表されている「いのち」の平仮名は、中黒の点を有するとしても前に記載された漢字「生命」の読み方を表したものと理解されるのが自然であるといえる。したがって、本件商標の上段文字部分よりは、「ハワイノチ」の称呼が生じると判断するのが相当である。 (2)引用商標 前記第2のとおり、引用商標1は、「歯が命」の標準文字を表してなるものである。引用商標2は別掲2のとおり、歯を模したような青色の図形と、当該図形の下端部に横断する金色のリボン状図形が配され、「歯」の文字の右上には輝きを表す図形も配されている。そして、当該青色図形内には「歯」及び「命」の文字を水色で、「が」を黒色で、「歯が命」と一連に横書きしてなるものであるところ、青色図形の中の「歯が命」の文字は顕著に表されており、青色図形やリボン図形等の図形は、「歯が命」の文字を囲むように、又は文字を装飾するように配されているから、これらの図形部分は単に文字の装飾図形と捉えられるものであり、当該図形部分から特定の称呼及び観念が生ずるとはいえない。 そうとすれば、引用商標1及び引用商標2よりは、それぞれの構成文字部分に相応して「ハガイノチ」の称呼を生じ、「命」の文字は、「生物の生きてゆく原動力。寿命。一生。もっとも大切なもの。」などの意味を有する語(前掲書)であるから、「歯は大切なもの」ほどの観念を生じるものである。 (3)本件商標と引用商標の類否 本件商標と引用商標を比較すると、両者は、商標全体の比較において区別できるとしても、本件商標中、独立して識別標識としての機能を果たし得る「歯は生命(い・の・ち)」の文字部分と引用商標との比較においては、同じ「歯」と「命」の漢字を有するという共通性があり、似通った印象を与えるものといえる。また、当該文字部分から生ずる「ハワイノチ」の称呼と引用商標から生ずる「ハガイノチ」の称呼は、二音目の「ワ」と「ガ」に差異を有するものの、両文字は「ア」の母音を共通にし、比較的聴取しがたい中間に位置することから、両称呼をそれぞれ一連に称呼するときは、音調、音感が近似したものとなり、相紛れるおそれがあるというのが相当である。そして、観念においては、両者はともに「歯は大切なもの」との観念を共通にするものである。 そうすると、本件商標と引用商標とは、その外観、称呼及び観念等によって、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、外観は似通った印象を与えるものであり、称呼において相紛らわしく、観念を共通にするから、両商標は、商品の出所について誤認混同を生じさせるおそれのある類似する商標と判断するのが相当である。 (4)本件商標の指定商品と引用商標の指定商品の類否 本件商標の指定商品、第3類「口臭用消臭剤,歯磨き,口内洗口液,化粧品,愛玩動物用歯磨き,ペットの口腔陽消臭剤,ジェル状のペットの口腔用消臭剤」は、引用商標1の指定商品中、56y第3類「歯磨き,口内洗浄剤(医療用のものを除く。),化粧品」及び引用商標2の第3類「歯磨き,口内洗浄剤(医療用のものを除く。),口臭用消臭剤」と同一又は類似の商品である。 (5)小括 以上のとおり、本件商標は、引用商標に類似する商標であり、かつ、引用商標の指定商品と同一又は類似の商品に使用されるものであるから、商標法第4条第1項第11号に該当する。 2 商標法第4条第1項第15号該当性について 商標法第4条第1項第15号は、「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標(第10号から前号までに掲げるものを除く。)」と規定されている。 したがって、本件商標は、上記1のとおり、商標法第4条第1項第11号に該当するものであるから、同項第15号かっこ書きの規定により同号に該当するものとはいえない。 3 むすび 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するものであり、その登録は同条第1項の規定に違反してされたものであるから、同法第46条第1項の規定により、本件商標について、その登録を無効とすべきである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
別掲1 本件商標 ![]() 別掲2 引用商標2(色彩は原本参照。) ![]() (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。 (この書面において著作物の複製をしている場合の御注意) 本複製物は、著作権法の規定に基づき、特許庁が審査・審判等に係る手続に必要と認めた範囲で複製したものです。本複製物を他の目的で著作権者の許可なく複製等すると、著作権侵害となる可能性がありますので、取扱いには御注意ください。 |
審理終結日 | 2024-10-29 |
結審通知日 | 2024-11-05 |
審決日 | 2024-11-21 |
出願番号 | 2018063355 |
審決分類 |
T
1
11・
261-
Z
(W03)
|
最終処分 | 01 成立 |
特許庁審判長 |
大森 友子 |
特許庁審判官 |
清川 恵子 白鳥 幹周 |
登録日 | 2019-06-21 |
登録番号 | 6153651 |
商標の称呼 | ハワイノチイノチ、ハワセーメーイノチ、ハワイノチ、ハワセーメー、アトゥースイズザライフ、トゥースイズザライフ |
代理人 | 小野 博喜 |
代理人 | 大木下 香織 |
代理人 | 上代 義剛 |
代理人 | 羽切 正治 |
代理人 | 仲村 圭代 |
代理人 | 古関 宏 |