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審決分類 審判 全部申立て  登録を維持 W35
管理番号 1420581 
総通号数 39 
発行国 JP 
公報種別 商標決定公報 
発行日 2025-03-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2024-02-16 
確定日 2025-02-04 
異議申立件数
事件の表示 登録第6760931号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 登録第6760931号商標の商標登録を維持する。
理由 第1 本件商標
本件登録第6760931号商標(以下「本件商標」という。)は、「sophoshop」の欧文字を横書きしてなり、令和5年6月5日に登録出願、第35類「電気機械器具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,販売促進のための企画及び実行の代理,広告業,広告場所の貸与,フランチャイズの事業の運営及び管理,事業の管理,事業の管理に関する助言,経営の診断又は経営に関する助言,市場調査又は分析,商品の販売に関する情報の提供,通信販売の受注管理及び発注管理,トレーディングスタンプの発行,広告用具の貸与,輸出入に関する事務の代理又は代行,消費者のための商品及び役務の選択における助言と情報の提供,職業のあっせん,競売の運営,コンピュータデータベースへの情報編集,求人情報の提供,新聞記事情報の提供」を指定役務として、同年11月24日に登録査定、同年12月8日に設定登録されたものである。

第2 引用商標
登録異議申立人(以下「申立人」という。)が、本件商標に係る登録異議の申立ての理由に該当するとして引用する国際登録第1342269号商標(以下「引用商標」という。)は、「SOPHOS」の欧文字を横書きしてなり、2016年4月14日にUnited States of Americaにおいてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条による優先権を主張し、2016年(平成28年)10月13日に国際商標登録出願、第9類、第21類、第25類、第28類、第35類、第37類、第41類、第42類及び第45類に属する別掲のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、平成30年5月11日に設定登録され、現に有効に存続しているものである。

第3 登録異議の申立ての理由
申立人は、本件商標は商標法第4条第1項第11号、同項第15号及び同項第7号に該当するものであるから、その登録は、同法第43条の2第1号の規定により取り消されるべきものである旨申立て、その理由を以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第53号証を提出した。
1 引用商標の周知度について
(1)世界における周知度
申立人は、サイバーセキュリティのためのソフトウェア及びハードウェアを開発・提供するベンダーであり、1985年の創業以来40年近くにわたり、エンドポイント、暗号化、ネットワークセキュリティ、電子メールセキュリティ、モバイルセキュリティ、ファイアウォール、統合脅威管理製品、サポートサービス等のセキュリティソリューションを提供し続けてきた。本社のある英国、米国の他、ドイツ、カナダ、オーストラリア、イタリア、フランス、スペイン、ハンガリー、インド、シンガポール、香港、日本などに拠点を構え、世界150カ国10万以上の企業と1億人以上のユーザーを持っており、企業顧客の中には、世界的企業や世界的有名大学、米国政府機関等が名を連ねている(甲3)。
また、申立人、及び申立人が提供する種々の「SOPHOS」製品・サービスは、本件商標の出願日前に様々な第三者機関から高い評価を得ている。例えば、ITソフトウェアやサービスについて偏りのない評価とレビューを提供するオンライン・プラットフォームであるGartner Peer Insightsにおいて、実際の顧客からの評価を元に選出される「Gartner Peer Insights Customers’Choice」に何度も選ばれ(甲4−1及び2)、世界をリードするビジネスソフトウェアのレビュープラットフォームであるG2により多数の部門でリーダーに選出され(甲5)、あるいは、IT分野での画期的な製品・サービスを称えるCRN Tech Innovator Awardを7年連続受賞している(甲6)。
その他にも、本件商標の出願日以前に多数の賞を受賞し、優れた評価を得ているから(甲7)、本件商標の出願時において、IT分野において申立人並びに「SOPHOS」商標は、世界的に広く知られていた。
申立人は、申立人が提供する製品・サービスのほぼすべてに「SOPHOS」商標又は「SOPHOS」を一部に含む商標を使用し続けており、世界の多数の国々において、サイバーセキュリティ及びデータプロテクションを含むセキュリティソリューション関連の商品・役務を指定して、「SOPHOS」及び「SOPHOS」を一部に含む多数の商標について商標登録を受けている。
特にエンドポイントセキュリティ等のサイバーセキュリティ及びデータプロテクションの分野においては、申立人は老舗の世界的リーディングカンパニーの1つであり、IT業界における市場調査及びコンサルティングを生業とする世界的企業インターナショナル・データ・コーポレーション(IDC)の2021年6月の発表(甲25)では、世界のエンドポイントセキュリティ分野の総市場82億ドル中、5.5%に当たる4億5,390万ドルを申立人が占めている。
これは、世界に数多存在する競業企業の中でも、トレンドマイクロ社、クラウドストライク社、マカフィー社、シマンテック社、マイクロソフト社に次ぐ世界第6位のシェアであり、エンドポイントセキュリティの分野において申立人並びにその重要商標である「SOPHOS」が世界的に有名であることを示している。
2023年3月31日に終了した会計年度(以下「2022年度」という。)の「年次報告書兼財務諸表」(抜粋)(甲26)を見ると、2022年度における申立人の収益は6億1,100万ポンドであり、前年の5億2,600万ポンドから16.1%も増加している。
また、申立人がインターネット上で公開しているYouTubeチャンネルの登録者数は2.26万人(甲27)、Xアカウントのフォロワー数は3.6万人(甲28)、Facebookページのフォロワー数は4.8万人(甲29)、インスタグラムのフォロワー数は3.8万人(甲30)も存在する。
さらに、申立人は、Superbrands(スーパーブランド)組織によって、何度も「スーパーブランド」に選出されている(甲31)。
このように、申立人は、本件商標の出願された令和5年6月5日において、老舗にして高度なサイバーセキュリティ・ソリューションを開発・提供する世界的リーダーとして、サイバーセキュリティの分野において諸外国のサイバーセキュリティ関係者に広く知られていた。
(2)日本における周知度
日本においては、1997年に申立人の製品の日本国内販売が開始され、2000年には日本法人であるソフォス株式会社(以下「日本法人」)が設立された(甲3)。ソフォスは、世界中のリセラーパートナー、MSP(マネージドサービスプロバイダ)を通じてソフォス製品とサービスを販売しており、日本でも、日本法人と全国に存在するリセラーパートナー(甲32)とが中心となって製品とサービスの提供が行われてきた。そのかいあって、日本国内でも約3,500以上の企業・組織にソフォスのセキュリティソリューションが導入された実績を持つ(甲3)。現在も導入事例は増え続けており(甲33)、2023年度における日本の総顧客数は5,842社、売上高は24,685,179ドルであった。
また、申立人並びに日本法人の動向については、本件商標の出願日である令和5(2023)年6月5日以前に、「日本経済新聞」(甲34〜甲37)、「ITmedia」(甲38)、「CNET japan」(甲39)、「ZDNet japan」(甲40)、「ASCII.jp」(甲41)等の多数の国内メディアにおいて度々取り上げられていることから、申立人を示す「ソフォス」の名は、IT関係者のみならず、多数の一般の人々の目にも触れていたことと推測される。
よって、本件商標の出願日である令和5年(2023年)6月5日当時、少なくとも日本国内のサイバーセキュリティに携わるIT関係者の間では、申立人もしくは日本法人がサイバーセキュリティ分野におけるソフトウェア及びハードウェアの老舗ベンダーであり、引用商標が申立人のハウスマークあるいはその製品名・サービス名の一部であることが広く知られていた。
このように、申立人の名称の一部であるとともにそのハウスマークでもある引用商標は、本件商標の出願日である令和5年6月5日当時、サイバーセキュリティの分野において世界的に広く知られていたものである。また、国内のサイバーセキュリティ関係者の間でも広く知られていた。
2 商標法第4条第1項第11号について
本件商標は、「sophos」と「shop」を、「s」を重ねる形で結合した結合商標である。後述するように、本件商標権者が出願当時に申立人のリセラーパートナー(「販売パートナー」ともいう)であり(甲52−1〜3)、「SOPHOS」商標が使用された申立人の商品・サービスを取り扱う立場にあったことから、本件商標が「sophos」と「shop」を、「s」を重ねる形で結合した結合商標である。
そして、本件商標の指定役務のうち、「電気機械器具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」は、「wholesale services for computer hardware and computer software(コンピュータハードウェア及びコンピュータソフトウェア等の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供)」を包含する役務であり、商品としてのコンピュータソフトウェア及びコンピュータハードウェアに類似する役務である。
したがって、本件商標の「電気機械器具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,販売促進のための企画及び実行の代理,広告業,広告場所の貸与,フランチャイズの事業の運営及び管理,事業の管理,事業の管理に関する助言,経営の診断又は経営に関する助言,市場調査又は分析,商品の販売に関する情報の提供,通信販売の受注管理及び発注管理,トレーディングスタンプの発行,広告用具の貸与,消費者のための商品及び役務の選択における助言と情報の提供,コンピュータデータベースヘの情報編集」との関係では、本件商標の構成中の「sophos」の文字部分を見た取引者又は需要者は、申立人の商標を示すものとして強く支配的な印象を受ける。
よって、本件商標は引用商標と同一又は類似する商標である。
上述のように、本件商標は、「sophos」と「shop」を、「s」を重ねる形で結合した結合商標であり、本件商標の構成中の「shop」の文字部分は、「小売店、専門店」等を意味する英単語として一般的に認知されているので、当該「shop」部分からは出所識別標識としての称呼や観念が生じない。
したがって、本件商標と引用商標の類否判断においては、本件商標から「sophos」の文字部分のみを取り出して、引用商標と比較し、その類否が判断されるべきである。
そして、本件商標の構成中の「sophos」の文字部分と引用商標とを比較すると、本件商標の「sophos」から生じる称呼は「ソフォス」であり、引用商標から生じる称呼も「ソフォス」であって、両商標の称呼は同一である。また、本件商標の「sophos」は、欧文字の小文字の「s」「o」「p」「h」「o」「s」を同書同大のセリフ体の文字で隙間なく一連に配置したものである。これに対し、引用商標は欧文字の大文字の「S」「O」「P」「H」「O」「S」を同書同大のサンセリフ体の文字で隙間なく一連に配置したものである。大文字と小文字の相違、及び、使用されている書体の相違という僅かな相違はあるものの、その使用されている文字の種類及び配列が同一であるため、両商標の外観は極めて近似している。そして、文字構成が同一であるため、両商標から生ずる観念は同一である。
このように、本件商標の「sophos」と引用商標とは、外観が近似し、同一の称呼及び観念を生じさせるため、相互に類似する商標である。
そして、本件商標の指定役務は、引用商標の指定商品及び指定役務と同一又は類似の役務を含むものである。
したがって、本件商標は、先願である引用商標と同一又は類似する商標を、引用商標の指定商品・役務と同一又は類似の役務に使用するものであるため、商標法第4条第1項第11号に該当する。
第4条第1項第15号について
(1)本件商標と引用商標との類似性の程度
上述したように、本件商標は、「sophos」と「shop」を、「s」を重ねる形で結合した結合商標であり、「sophos」は、サイバーセキュリティの分野で世界的に周知な引用商標と同一の文字構成及び文字配列であるため、本件商標と引用商標は相互に類似する。
(2)引用商標の周知度
上記1で述べたように、引用商標はサイバーセキュリティの分野で世界的に周知である。
(3)商品間、役務間又は商品と役務間の関連性
本件商標の指定役務のうち、コンピュータソフトウェア及びハードウェア等を取り扱う「電気機械器具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」は、申立人が長年にわたり引用商標を掲げて行ってきた世界的に周知である業務と同一又は類似するものである。また、「販売促進のための企画及び実行の代理,広告業,広告場所の貸与,フランチャイズの事業の運営及び管理,事業の管理,事業の管理に関する助言,経営の診断又は経営に関する助言,市場調査又は分析,商品の販売に関する情報の提供,通信販売の受注管理及び発注管理,トレーディングスタンプの発行,広告用具の貸与,消費者のための商品及び役務の選択における助言と情報の提供,コンピュータデータベースヘの情報編集」は、申立人が世界中に点在する支社及びパートナーに対して提供している業務と同一又は類似する。
(4)役務等の需要者の共通性その他の取引の実情
少なくとも「電気機械器具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」の需要者には、サイバーセキュリティに関心もしくは関係を持つ法人又は個人が含まれると考えられ、そのような需要者像は、申立人の製品・サービスの需要者像とほぼ一致する。また、「販売促進のための企画及び実行の代理,広告業,広告場所の貸与,フランチャイズの事業の運営及び管理,事業の管理,事業の管理に関する助言,経営の診断又は経営に関する助言,市場調査又は分析,商品の販売に関する情報の提供,通信販売の受注管理及び発注管理,トレーディングスタンプの発行,広告用具の貸与,消費者のための商品及び役務の選択における助言と情報の提供,コンピュータデータベースヘの情報編集」の主たる需要者は、「電気機械器具類の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」に関して本件商標権者とフランチャイズ契約を締結するフランチャイジーになると思われる。そのようなフランチャイジーになる可能性のある需要者には、サイバーセキュリティに関するソフトウェア・ハードウェアの小売・卸売の代理店になることを希望する者も含まれる。そして、そのような代理店になることを希望する需要者は、引用商標を掲げる申立人のリセラーパートナーになることを希望する需要者と共通する。
需要者が共通するということは、歴史と実績のある申立人及びその製品・サービスを既に知っている者も少なくないことになる。そのような、既に申立人及びその製品・サービスを知っている需要者ほど、本件商標の「sophos」の文字部分を見て「SOPHOS」の関連商標であると早合点するおそれがある。仮に、最後まで注意深く見て「sophoshop」と認識したとしても、ことサイバーセキュリティに関係した製品・サービスであれば、申立人の新ブランドであると思い込んだり、申立人が展開する申立人の製品・サービスの専門店と勘違いする可能性があることは決して否定できない。他の分野の製品・サービスであったとしても、今日の企業間のM&Aが盛んに行われる状況に鑑みれば、他分野の企業を買収して新たに業務を拡大したものと考えるであろうことが容易に想像される。その結果、本件商標が使用されたサービスを、需要者が申立人提供のサービスであるものと勘違いして購入してしまうおそれが多分にある。
仮に、本件商標が引用商標と類似しないと判断される場合があるとしても、世界における申立人の高い知名度を考慮すれば、ことサイバーセキュリティの分野に関連のある役務との関係で本件商標が使用された場合には、一般需要者のみならず取引者の間でも、申立人と経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る役務であると誤認し、その役務の需要者が出所について混同するおそれは高い。
(5)申立人の商標に化体した信用を害されるおそれ
申立人は、日本でも「SOPHOS」の文字からなる商標について、引用商標の他にも多数の商標登録を保有し管理している(甲42〜甲51)。
したがって、本件商標の登録が維持されると、申立人と何ら関係のない者により、申立人の意図とは無関係に、申立人が現にその商標を付して使用している商品及び提供している役務とその取引者層・需要者層を同一にする役務について、引用商標と類似する商標、すなわち本件商標が、自由に使用されてしまうことになる。その結果として、申立人による品質管理が及ばない役務が引用商標と類似する商標によって提供されるという事態が生じ得ることは否定できない。
確かに、本件商標権者は現在のところは申立人のリセラーパートナーであるが、今後、申立人と本件商標権者の間のリセラーパートナー契約が終了した場合に、申立人の管理の行き届かない役務が引用商標と類似する商標もしくは引用商標を連想させる商標を使用して自由に提供されてしまうことになる可能性は極めて高い。
したがって、本件商標は申立人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標であるから、第4条第1項第15号に該当する。
4 商標法第4条第1項第7号について
本件商標権者は、申立人が日本で提携している多数のリセラーパートナーのうちの1社であり(甲52−1〜3)、申立人のリセラーパートナーになろうとする者は、申立人が運営するWebサイトからパートナーになるための登録(契約)手続きを行う。
この登録(契約)手続きの過程で、登録(契約)希望者は、全世界のパートナーに共通で適用される契約条項(甲53−1及び2)を所定のリンク(https://www.sophos.com/en-us/legal/partner-application-terms-and-conditions)から確認し、内容を理解した上で、権限を有する者が「契約条項に同意する」のチェックボックスをクリックしなければならないが、本件商標権者は、2022年(令和4年)6月12日付けで申立人のパートナーとして登録されている(甲52−1〜3、甲53−1及び2)。
上記契約条項(甲53−1及び2)には、「5 PARTNER’S OBLIGATIONS(訳:5 パートナーの義務)において、契約条項に同意してパートナーとなった者は、申立人の商標及び商号に改変を加えてはならず、自己の社名等の一部として使用してもならない旨、申立人の商標及び商号を、他の商品・サービスに使用してもならない旨定められている。
本件商標権者が、引用商標を小文字に変更し、なおかつ別の文字と組み合わせて本件商標を考案した行為は、「ソフォスがパートナーに書面で通知した登録済の形式、又は方法でのみ使用し、」に反するものであり、明らかに上記契約条項に違反する行為である。また、小売等役務に使用する商標は需要者に商号として認識されやすいため、本件商標権者が「sophos」と「shop」を、「s」を重ねる形で結合して考案した本件商標を小売等役務に使用することは、やはり上記契約条項に違反する行為といわざるを得ない。
特に、本件商標権者は、令和4年に申立人とリセラーパートナー契約を締結した後の令和5年に本件商標を出願しているため、契約内容を熟知しながら「sophos」を含む商標について独占排他権を取得する意思をもっていたことが明らかである。これは、日本における他のリセラーパートナーを出し抜いて自社のみが申立人の正規販売代理店であるかの如き印象を需要者に与えようとするものであり、申立人と契約中の日本における他のリセラーパートナーに不利益を与えるおそれがある。
さらに、上述のように、申立人は、上記契約条項を世界中のリセラーパートナーに適用しており、世界中のリセラーパートナーが申立人商標の改変等を禁じられている。その中で、ひとり本件商標権者だけが本件商標権を取得して「sophos」を一部に含む本件商標を独占的に使用可能な状況を作り出したことは、契約違反にとどまらず、申立人に対する背信行為であるということができる。また、世界中の他のリセラーパートナーのみならず申立人をも出し抜いて「sophos」を一部に含む商標について商標権を取得してしまったリセラーパートナーが存在するという事実は、リセラーパートナー間の公平性を失するものであり、他のリセラーパートナーからの申立人に対する信頼を揺るがしかねない。ひいては、世界中のリセラーパートナーに対する申立人の統率力を脅かしかねない。
このように、本件商標は、上記契約条項に違反するものであるとともに、申立人あるいは他のリセラーパートナーの業務に重大な不利益を与えるおそれが高いものであるにも関わらず、本件商標権者が自己の利益のみを優先して、申立人に断りなく、勝手に商標登録出願したものであり、その出願の背景には、自己の利益のためなら申立人及び他のリセラーパートナーに不利益が及んでも構わないという本件商標権者の意思があったことが容易に推測できる。
つまり、本件商標は、その出願の経緯が社会的相当性を欠くものであるから、商標法第4条第1項第7号に該当する。

第4 当審の判断
1 引用商標の周知著名性について
(1)申立人の提出に係る証拠及び同人の主張によれば、以下のとおりである。
なお、提出された証拠のうち甲第8号証ないし甲第24号証及び甲第31号証は、外国語で作成されたものであり、翻訳文の提出がないから、具体的な内容を把握することができない。
ア 申立人は、コンピュータ、モバイルデバイス、ネットワーク等を保護するセキュリティソリューションを提供する企業であり、1985年の英国における創業以来40年近くにわたり、エンドポイント、暗号化、ネットワークセキュリティ、電子メールセキュリティ、モバイルセキュリティ、ファイアウォール、統合脅威管理製品、サポートサービス等のセキュリティソリューション関連の商品及び役務(以下「申立人商品等」という。)について、引用商標を使用している。
イ 申立人は、英国、米国、ドイツ、カナダ、オーストラリア、イタリア、フランス、スペイン、ハンガリー、インド、シンガポール、香港、日本などに拠点を構え、世界150カ国において、10万以上の企業と1億人以上のユーザーを有している(甲3)。
ウ 申立人商品等は、本件商標の出願日前に、サイバーセキュリティ等の分野において、複数の機関から高く評価され、又は賞を受賞した(甲4〜甲6)。
エ 2020年の時点で、世界のエンドポイントセキュリティ分野の総市場82億ドル中、5.5%に当たる4億5千3百90万ドルを申立人が占めている(甲25)。
オ 2022年度における申立人の収益は6億1,100万ポンドであり、前年から16.1%増加した(甲26)。
カ 申立人がインターネット上で公開しているYouTubeチャンネルの登録者数は2.26万人、Xアカウントのフォロワー数は3.6万人、Facebookページのフォロワー数は4.8万人、インスタグラムのフォロワー数は3.8万人である(甲27〜甲30)。
キ 日本においては、1997年に申立人の製品の日本国内販売が開始され、2000年に日本法人であるソフォス株式会社(以下「日本法人」という。また、申立人と日本法人をまとめて「申立人ら」という。)が設立され、企業や官公庁、教育機関等の3500以上のユーザーを有している(甲3)。
ク 申立人は、全国のリセラーパートナーを通じ、申立人商品等を販売ないし提供している(甲32)。
ケ 本件商標の出願日前に、新聞及びインターネット等の国内メディアにおいて、申立人らの動向についての記事が掲載された(甲34〜甲41)。
(2)上記(1)によれば、申立人は、1985年の設立以来、英国をはじめとする諸外国において、申立人商品等について引用商標を使用し、我が国においては、2000年頃から日本法人と全国に存在するリセラーパートナーにより、一定数の企業や官公庁、教育機関等に対し、申立人商品等が販売ないし提供されていることがうかがえるから、引用商標は、サイバーセキュリティ分野の取引者、需要者においては、ある程度知られているといい得る。
しかしながら、引用商標が使用された申立人商品等の我が国における市場シェアは明らかではなく、また、申立人は2023年度における日本での売上高を主張しているものの、その数値を確認できる客観的な資料の提出はなく、宣伝広告の回数や宣伝広告費などの広告実績等、引用商標の周知性を具体的に裏付ける証拠の提出はない。
また、申立人商品等が評価され、賞を受賞したとしても、それらの評価や受賞歴等が取引者、需要者の認識にどの程度の影響を与えているのかは明らかではないから、そのことをもって、引用商標の我が国での知名度の高さを推し量ることはできない。
さらに、上記各SNSのフォロワー数、登録者数はいつの時点のものか不明である上、我が国の取引者、需要者がどの程度含まれているのかも明らかでない。
その他、引用商標が、本件商標の登録出願時及び登録査定時に、申立人商品等を表示するものとして、周知性を獲得していると認めるに足りる証左は見いだせない。
したがって、引用商標は、申立人又は申立人商品等を表示するものとして、我が国の需要者の間に広く認識され、本件商標の登録出願時及び登録査定時に周知著名性を獲得していたものとはいえない。
2 商標法第4条第1項第11号該当性について
(1)本件商標
本件商標は、前記第1のとおり、「sophoshop」の欧文字を横書きしてなるところ、その構成文字に相応して「ソフォショップ」の称呼を生じる。
そして、「sophoshop」の文字は、辞書等に載録がないものであって、かつ、当該文字が、我が国において、特定の意味合いを有する語として親しまれている等の特段の事情は存在しない。
したがって、本件商標は、「ソフォショップ」の称呼を生じ、特定の観念を生じない。
なお、申立人は、本件商標は、「sophos」と「shop」を、「s」を重ねる形で結合した結合商標であり、構成中の「shop」の文字部分は、「小売店、専門店」等を意味する英単語として一般的に認知されているものであり、出所識別標識としての称呼や観念が生じないから、本件商標から「sophos」の文字部分のみを取り出して、引用商標と比較し、その類否が判断されるべきである旨主張している。
しかしながら、本件商標は、同じ書体、同じ大きさ、同じ間隔で、構成上まとまりよく一体的に表されているものであり、該構成から「sophos」の文字部分のみを分離して抽出すべき特別な事情は見いだせないから、本件商標より、その構成中の「sophos」の文字のみを抽出し、「ソフォス」の称呼等が生じるということはできない。
(2)引用商標
引用商標は、前記第2のとおり、「SOPHOS」の欧文字を横書きにしてなり、その構成文字に相応して「ソフォス」の称呼を生じるものである。
そして、「SOPHOS」の文字は、辞書等に載録がないものであって、かつ、当該文字が、我が国において、特定の意味合いを有する語として親しまれている等の特段の事情は存在しない。
したがって、本件商標は、「ソフォス」の称呼を生じ、特定の観念は生じない。
(3)本件商標と引用商標との比較
ア 外観
本件商標と引用商標は、上記(1)及び(2)のとおりの構成からなるところ、両者は大文字と小文字の差異を有するばかりでなく、「hop」の文字の有無において明らかに相違するから、外観上、相紛れるおそれはない。
イ 称呼
本件商標から生じる「ソフォショップ」の称呼と引用商標から生じる「ソフォス」の称呼とは、「ソフォ」の音が共通するとしても、両者は語尾において「ショップ」と「ス」の音の差異を有し、構成音数及び音構成において明らかに相違するから、称呼上相紛れるおそれはない。
ウ 観念
本件商標と引用商標は、いずれも特定の観念を生じないから、観念において比較することができない。
エ 小括
以上から、本件商標と引用商標とは、観念において比較することができないとしても、その外観及び称呼において相紛れるおそれはないから、これらを総合して判断すれば、両者は相紛れるおそれのない非類似の商標というのが相当である。
(4)まとめ
したがって、本件商標と引用商標とは、非類似の商標であるから、たとえ、本件商標の指定役務と引用商標の指定商品及び指定役務とが同一又は類似するとしても、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。
3 商標法第4条第1項第15号該当性について
上記1のとおり、引用商標は、申立人の業務に係る商品及び役務を表示するものとして、本件商標の登録出願時及び登録査定時に、我が国の需要者の間に広く認識されていたものではなく、また、上記2のとおり、本件商標と引用商標は、非類似の商標であって、別異の商標であるから、その類似性の程度は低い。
そうすると、本件商標は、本件商標権者が、これをその指定役務について使用しても、これに接する取引者、需要者が、引用商標を連想又は想起することはなく、その役務が申立人あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのように、その役務の出所について混同を生ずるおそれはない。
その他、本件商標が出所の混同を生じさせるおそれがあるというべき事情も見いだせない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。
4 商標法第4条第1項第7号該当性について
申立人は、本件商標権者は申立人のリセラーパートナーのうちの1社であるところ、本件商標は、申立人と本件商標権者との間の、申立人の商標等について定めたリセラーパートナー契約に違反して取得されたものであり、さらに、本件商標権者は、申立人との上記契約の締結後に本件商標を出願しているため、契約内容を熟知しながら、本件商標を取得しようという意思があったことが明らかであるから、本件商標は、その出願の経緯が社会的相当性を欠くものである旨を主張する。
しかしながら、上記2及び3のとおり、本件商標は、引用商標とは非類似の商標であり、別異の商標というべきものであって、本件商標の取得が直ちに上記契約に違反するものであるとまではいい難い。加えて、申立人は、本件商標が不正の目的をもって登録出願された旨を主張するも、そのことを証明する具体的かつ客観的な証拠の提出はない。
してみれば、本件商標の登録出願及びその経緯が、著しく社会的相当性を欠き、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして容認し得ない場合に該当するとはいえない。
その他、本件商標は、その構成自体がきょう激、卑わい、差別的又は他人に不快な印象を与えるような文字からなるものではない。
そうすると、本件商標は、その登録を維持することが商標法の予定する秩序に反し、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれのある商標とはいえない。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第7号に該当しない。
5 むすび
以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第7号、同項第11号及び同項第15号のいずれにも該当するものではなく、他に同法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定により、その登録を維持すべきである。
よって、結論のとおり決定する。
別掲

別掲(引用商標の指定商品及び指定役務)
第9類「Computer hardware; wireless access points; computer software, computer programs, and downloadable mobile applications for use in managing, monitoring, protecting, authenticating, and securing data, endpoints, computer systems, computer networks, servers, the Internet, and mobile devices; computer software, computer programs, and downloadable mobile applications for enforcing data policies; computer anti-virus software; computer anti-malware software; computer anti-spam software; computer anti-adware software; computer anti-spyware software; computer software for encryption; downloadable computer data-security programs; computer software for use in threat-reduction scanning of data, e-mails, electronic files, instant messages, web sites, software, programs, computer systems, and endpoints; computer compliance software; computer software for use in Internet content filtering, secure Internet content management, Internet content-checking, and data content checking; downloadable electronic publications and data in the field of data security and security of endpoints, computer systems, computer networks, servers, the Internet and mobile devices; mouse pads, webcam covers, USB hardware, mobile phone battery chargers, mobile phone cases.」
第21類「Household containers; drinking vessels and containers; water bottles; lunch boxes; food storage containers.」
第25類「Clothing, footwear, headgear.」
第28類「Games and playthings; gymnastic and sporting articles; surfboards; skateboards; flying discs.」
第35類「Business management; administration of a program for enabling participants to obtain discounts on goods and receive improved services, namely administration of customer loyalty programmes; business administration services; customer service management for others; business intermediary services for resellers; business intermediary services in the field of computer hardware and computer software; database management; on-line commercial ordering services, provided via a website, in the field of computer hardware and computer software; wholesale services for computer hardware and computer software.」
第37類「Installation, maintenance and repair of computer hardware; technical support services, namely, technical advice related to installation and repair of computer hardware; troubleshooting in the nature of the repair of computer hardware.」
第41類「Education; providing of training; educational services; conducting educational technical demonstrations, presentations, workshops, and training seminars, all in the fields of information technology, computers, data security, computer security, and network security and distribution of training materials in connection therewith.」
第42類「Computer programming services for the protection of software; operation of data security systems; computer software technical support services; installation, maintenance and repair of computer software; computer security consultancy; computer consulting services; computer software, hardware, firmware, network, and computer security consulting services; providing on-line, non-downloadable software for use in managing, monitoring, protecting, authenticating, and securing data, endpoints, computer systems, computer networks, servers, the Internet, and mobile devices; providing on-line, non-downloadable software for enforcing data policies; providing on-line, non-downloadable software for encryption; providing on-line, non-downloadable computer compliance software; providing on-line, non-downloadable software for use in Internet content filtering, secure Internet content management, Internet content-checking, and data content checking; software as a service (SAAS) services featuring software for use in managing, monitoring, protecting, authenticating, and securing data, endpoints, computer systems, computer networks, servers, the Internet, and mobile devices; platform as a service (PAAS) services featuring software for use in managing, monitoring, protecting, authenticating, and securing data, endpoints, computer systems, computer networks, servers, the Internet, and mobile devices; cloud computing featuring software for use in managing, monitoring, protecting, authenticating, and securing data, endpoints, computer systems, computer networks, servers, the Internet, and mobile devices; computer development services; computer programming services; computer virus protection services; computer security consultancy; providing information on data security, and computer security; troubleshooting of computer software problems; technical advice related to computer and computer network security; computer software technical support services.」
第45類「Providing online information in the field of development of privacy, security and data governance law; monitoring of computer systems for security purposes; providing information in the field of security via a website; security consultancy services in the nature of providing information on privacy of business information and of individuals.」
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異議決定日 2025-01-20 
出願番号 2023061127 
審決分類 T 1 651・ 22- Y (W35)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 旦 克昌
特許庁審判官 大島 勉
小林 裕子
登録日 2023-12-08 
登録番号 6760931 
権利者 アシストアップ株式会社
商標の称呼 ソフォショップ、ソポショップ、ソフォ、ソポ 
代理人 大渕 美千栄 
代理人 布施 行夫 

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