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審決分類 |
審判 全部申立て 登録を維持 W093542 |
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管理番号 | 1418370 |
総通号数 | 37 |
発行国 | JP |
公報種別 | 商標決定公報 |
発行日 | 2025-01-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2024-05-02 |
確定日 | 2024-12-13 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 登録第6781693号商標の商標登録に対する登録異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 登録第6781693号商標の商標登録を維持する。 |
理由 |
1 本件商標 本件登録第6781693号商標(以下「本件商標」という。)は、「hifigpt」の欧文字を標準文字で表してなり、令和5年7月4日に登録出願、第9類、第35類及び第42類に属する別掲1のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、同6年1月25日に登録査定され、同年2月26日に設定登録されたものである。 2 引用商標 登録異議申立人(以下「申立人」という。)が引用する登録第6710224号商標(以下「引用商標」という。)は、「GPT」の欧文字を標準文字で表してなり、2022年(令和4年)12月27日にアメリカ合衆国においてした商標登録出願に基づいてパリ条約第4条の規定による優先権を主張し、令和5年2月13日に登録出願、第9類及び第42類に属する別掲2のとおりの商品及び役務を指定商品及び指定役務として、同5年6月21日に設定登録されたものであり、その商標権は、現に有効に存続しているものである。 3 登録異議の申立ての理由 申立人は、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同項第15号及び同項第19号に該当するものであるから、その登録は同法第43条の2第1号により取り消されるべきであるとして、その理由を要旨以下のように述べ、証拠方法として甲第1号証ないし甲第35号証(枝番号を含む。以下、枝番号の全てを示すときは、枝番号を省略する。)を提出した。 (1)本件商標の内容 本件商標は、「hifigpt」の欧文字を標準文字で表してなり、具体的には、「hifi」と「gpt」という二つの用語が結合してなる商標である。 ア 「hifi」について 本件商標の構成要素のうち、「hifi」は、「ハイファイ」と称呼する既成語であり、「(high fidelityの略)ラジオの受信機や録音の再生装置などで再生される音が、原音に極めて近いこと。」(広辞苑第七版)、「ハイファイ装置,ハイファイの;【通信】高忠実度.」(グランドコンサイス英和辞典)を意味する(甲3、甲4)。 「hifi」の文字は、「hifi equipment(ハイファイ装置)」、「hifi speakers(ハイファイスピーカー)」のように、他の語と結合して使用されることも少なくなく、この場合、「原音に忠実であること。」、「原音をリアルに再現していること。」等、商品等の内容を表示するために用いられる。また、上記「高忠実度」という観念から転じて、AI(人工知能)分野において、「生成される動作や音声が非常に高い品質であること。」、「元のデータや入力テキストに忠実であること。」を示すために用いられる。 例えば、ケイデンス・デザイン・システムズ社のケイデンス、AIスピーチ及びオーディオ処理向けに最適された初のDSP(デジタル信号処理)である「Tensilica HiFi DSP」、プリンストン大学の研究者が開発した、ディープラーニングを使用して録音素材を高音質に変換する手法「HiFi−GAN」、フィリップス社の補聴器に備わる音楽をより素晴らしい音質で楽しむための補聴器プログラム「HiFi音楽機能」等が挙げられる(甲5〜甲7)。さらにいえば、後述するとおり、申立人、OpenAI Inc.及びその他の関連会社(以下、「OpenAI社」という。)の商標として我が国においても周知著名な「GPT」に表象される大規模言語モデルを利用し、高音質オーディオの世界で専門的なガイダンスの提供を目的とする「Hifi Advisor」というものもある(甲8)。 このように、「hifi」の文字は、我が国において、「忠実に再現された音」「高音質な音」等を想起させる意味合いで頻繁に使用され、需要者間に広く浸透しているため、該語の自他商品識別力は、造語等の独創的な語に比し、それ程強くないといって差し支えない。 イ 「GPT」について (ア)「GPT」の語意 本件商標のもう一つの構成要素である「gpt(GPT)」については、複数の語意が事実上存在することを認めるにやぶさかではないが、少なくとも、本件商標が指定している第9類及び第42類の商品及び役務との関係では、所定の言語モデルを表す「Generative Pre−trained Transformer」のアクロニム(頭文字)として広く知られている(甲15)。 OpenAI社の開発・提供に係る、この「GPT」を冠する大規模言語モデルについては、本件指定商品等と関連する分野のみならず、様々な分野において、複数の企業が同言語モデルを活用した商品、サービスを取り扱ったり、そのための研究開発を行ったりしている。 その結果、コンピュータやソフトウェアに関連しない分野においても、「GPT」の名は相当程度浸透しているということができる。 「Generative Pre−trained Transformer」とは、「トランスフォーマー(文章の中に含まれる単語のような連続のデータの関係性を追うことで、文脈やその意味を学習するニューラルネットワーク)をベースにした事前学習した大規模言語モデル」を指すが(甲16の1)、該語は、人工知能で利用される言語モデルを指す一般的な用語ではなく、OpenAI社の開発・提供に係る所定の言語モデルを表している。 「GPT」が大規模言語モデルを指す一般的、汎用的な用語でないこと(OpenAI社の開発・提供に係る所定の大規模言語モデルを指すこと)は、例えば、甲第15号証における「Generative Pre−trained Transformer(GPT)は、OpenAIによる言語モデルのファミリーである。」、「2018年6月11日、OpenAIは“Improving Language Understanding by Generative Pre−Training”というタイトルの論文をリリースし、その中でGPT(Generative Pre−trained Transformer)を導入した。」との記載を始め、以下のインターネット情報からも容易に理解することができる。 ・「汎用言語モデルとは、OpenAIが開発した「GPT」や、Googleの「T5」に代表される言語モデルです。」(2020年11月25日付)(甲16の2) ・「GPT−3は「Generative Pre−trained Transformer−3」の略で、OpenAIが開発した事前学習済み(Pre−trained)の文章生成型(Generative)の「Transformer」、その3番目のモデルを指します。」(2021年12月1日付)(甲16の3) ・「OpenAIは、そのGenerative Pretrained Transformer(GPT)により、規模が大きいほど高性能であることを証明しました。」(2022年4月13日付)(甲16の4) ・「GPT(Generative Pretrained Transformer)は、2015年12月に設立された非営利の人工知能研究組織「OpenAI」が開発している「文章生成言語モデル」です。」(2022年6月13日付)(甲16の5) ・「深層学習(Deep Learning)を使ったOpenAIのプロジェクトはいくつか存在するが、代表的なものの1つが「Generative Pre−trained Transformer(GPT)」と呼ばれる自然言語処理(NLP:Natural Language Processing)を想定した学習モデルだ。」(2023年2月2日)(甲16の6) ・「OpenAIが開発した「GPT(Generative Pre−trained Transformer)」は名前の通りTransformerというアーキテクチャをベースにつくられています。」(2023年2月27日付)(甲16の7) ・「GPT(Generative Pre−trained Transformer)とは、OpenAIが開発したAIモデルです。」(2023年3月16日付)(甲16の8) ・「GPT(Generative Pre−trained Transformer)とは、米オープンAI(OpenAI)社が開発・提供している訓練済みの大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)。」(甲16の9) ・「米国OpenAI社による大規模言語モデルのシリーズ。」(甲16の10) ・「OpenAIのGPTモデル」(甲16の11) ・「GPTとは「Generative Pre−trained Transformer」の略であり、OpenAIが開発した大規模言語モデルを指します。」(甲16の12) ・「GPT(ChatGPT)とは、OpenAIが開発した言語モデルで、大量のテキストデータから言語学習を行い、人間にとても近い自然な文章を生成することができるチャットボットです。」(甲16の13) ・「GPTは、ChatGPTの開発元としても知られるOpenAIが開発し、一般に提供している言語モデルの一つです。」(甲16の14) ・「GPT(Generative Pretrained Transformer)とは、米国サンフランシスコの新興人工知能研究所であるOpenAIが開発し、人間のように自然な文章を生成することができる言語モデルです。」(甲16の15) ・「GPTは、OpenAIによって開発された大規模言語モデルファミリーであり、深層学習を使用して、人間が話しているような会話のテキストを生成する。」(甲16の16) ちなみに、ChatGPTに「GPTとは何か?」、「GPTを開発したのは誰か?」と尋ねると、「GPTとは、「Generative Pre−trained Transformer」の略で、自然言語処理(NLP)に用いるAIモデルの一つです」「GPT(Generative Pre−trained Transformer)は、アメリカの人工知能(AI)研究所であるOpenAIによって開発されました。」との回答が得られる(甲17)。 上記を踏まえると、少なくとも、第9類及び第42類の商品及び役務との関係では、「gpt(GPT)」は、OpenAI社の開発・提供に係る大規模言語モデルであって、「ChatGPT」や「GPT−3」「GPT−4」をはじめとする言語モデルシリーズを表象するブランド(商標)として把握、認識されており、該語からは、「OpenAIの開発・提供に係る大規模言語モデル」程度の意味合いないしイメージが容易に想起される。 (イ)「GPT」の周知著名性 上記のとおり、「gpt(GPT)」の語からは、「OpenAIの開発に係る大規模言語モデル」程度の意味合いないしイメージが容易に想起される。 OpenAI社の開発・提供に係る大規模言語モデルはGPT−1が2018年6月にリリースされて以来、「GPT−2」(2019年2月リリース)、「GPT−3」(2020年6月リリース)、「GPT−3.5」(2022年3月リリース)、「GPT−4」(2023年3月リリース)と、新しいバージョンが次々とリリースされ(甲15)、今日に至る。OpenAI社は、「GPT」シリーズをベースに個別の分野や用途に特化した「Codex」(プログラムコード)、「ProtoGPT2」(タンパク質配列)、「BioGPT」(医学文献)なども開発・提供している(甲16の9)。 OpenAI社が2022年11月頃リリースしたGPTモデルの一つであり、特に対話型のアプリケーション向けに設計されたものとしてChatGPTがある。 OpenAI社がChatGPTを他社のソフトウェアと連携できる仕組みを開放した2023年3月以降、ChatGPTの仕組みを活用した新サービスが加速している(甲18)。例えば、エボラニ社は、ChatGPTと無料メッセージアプリ「LINE」を連携させ、顧客の質問に自動で正確な内容を回答するサービスの提供を始めた。また、法人向けのメッセージアプリ「Slack」で利用するチャットボットを提供する企業や、ChatGPTによる誤回答を補完する機能を使いだした企業もある。三井住友銀行は2023年4月から情報漏洩の懸念に注意しながら「GPT」を組み込んだ対話型AIツール「SMBC−GPT」の活用実験を開始している。 「GPT」は、他にも、AIによってロゴデザイン案を作成するロゴデザインサービス(甲19)やリーガルテックサービスでも利用研究されている(甲20)。本件指定商品等に含まれる広告やマーケティング、コンサルティング分野でも、ChatGPTの活用例が認められ(甲21〜甲25。甲16の15)、当該分野の需要者間でも、「GPT」が相当程度広く知られるに至っていることは想像に難くない。 野村総合研究所のレポートによると、「米国OpenAI社が2022年11月30日に公開した生成型AI「ChatGPT」は、猛スピードで世界中に広がり、4日後の12月4日には利用者が世界で100万人を超え、2か月後の2023年1月には1億人を突破したと言われている。ちなみにこれまでの主要SNSを見ても、ユーザー数1億人に到達したのはTikTokで9か月、インスタグラムは2年4か月かかっていることから、ChatGPTの浸透スピードがいかに早いかがわかるだろう。ちなみにChatGPT並みのスピードで広まったものとして新型コロナワクチンがある。同ワクチンの世界全体での接種回数は、ワクチンが登場した2020年12月から、やはり2か月後の2021年1月29日に延べ1億回に達している。」(甲26)。日本での利用率は、「1位米国、2位インドに次いで、日本は3位(6.6%)と上位にいる。日本は人口規模を考えれば、米国、インドよりもChatGPTの利用度合いが高いと言えるだろう。ウェブサイトへのアクセス状況を可視化するSimilarwebによれば、日本から同サイトへのアクセスの平均滞在時間は8分56秒で、米国の6分50秒、インドの6分27秒よりもだいぶ長く、これをみても日本人の関心の高さがうかがえる。」(甲26)とされている。本件商標の出願日前である2023年4月15日から16日に野村総合研究所が関東地方在住の15〜69歳を対象に行ったインターネットアンケート調査では、約61.3%がChatGPTを認知しており、12.1%が実際に利用した経験があるとされている(甲26)。 「ChatGPT」の2024年4月時点の利用者数は、全世界で「1億8050万人に達し」、「この数値は、2023年の1億人からさらに大きく増加しており、その成長が続いていることを示して」いる。我が国のユーザー数は全世界のユーザー数の「6.00%」である(甲27)。よって、日本では、2024年4月の時点で、1000万人超のユーザーがChatGPTを利用していると理解できる。 ChatGPTは、人々と自然で有意義な対話を行うために訓練(pre−trained)されている。具体的には、GPT−3やGPT−4などのバージョンが対話に使用され、これらのモデルはユーザーの質問に回答したり、会話を進行させたりする能力(機能)を有している。すなわち、ChatGPTは、GPTモデル(特にGPT−3、GPT−4など)を基盤にし、対話型AIアプリケーションに特化して設計されたものであり、ChatGPTの我が国での普及、浸透に伴い、その基盤となるGPTモデルも需要者の間に広く普及、浸透しているといっても過言ではない。だからこそ、甲第16号証のように、「GPTとは」等の見出しと共に該大規模言語モデルを紹介する数多くの記事がインターネット等において認められるのである。 さらにいうと、特許庁においても、「GPT」がOpenAI社の業務に係る商品等を表示する商標として広く知られていること、すなわち、「GPT」が周知著名であることが、審査レベルではあるが、認定されている(甲28)。 以上を踏まえると、「GPT」の語は、本件商標の出願日(令和5(2023)年7月4日)前より周知著名であって、その周知著名性は現在も継続していると考えるのが相当であり、その周知著名性を否定すべき合理的理由は一切見出せない。 (2)商標法第4条第1項第11号について 本件商標は、「hifigpt」の欧文字を標準文字で表してなり、引用商標は、「GPT」の欧文字を標準文字で表してなるものである。 上記(1)アで述べたとおり、本件商標の構成中「hifi」の文字は、「忠実に再現された音」、「高音質な音」を想起させる意味合いで頻繁に使用され、AI(人工知能)の分野においても、「生成される動作や音声が非常に高い品質であること。」、「元のデータや入力テキストに忠実であること」を表示するために、普通に使用される語である。そのため、該語が識別力を有したとしても、それは極めて弱いといわざるを得ない。 他方、「gpt」の文字は、OpenAI社の大規模言語モデルを表示し、周知著名である「GPT」に通じ、故に、商品又は役務の出所識別標識として取引者、需要者に強く支配的な印象を与えるものである。 よって、「gpt」の文字部分を本願商標の要部として抽出し、当該文字部分を他人の商標と比較して商標の類否を判断することは許される(甲32〜甲34)。 したがって、本件商標からは、「ハイファイジーピーティー」という称呼がその全体構成から生ずるほか、上記要部より「ジーピーティー」との称呼が生じ、「OpenAI社の開発・提供に係る大規模言語モデル」程度の観念が生ずる。 上記称呼及び観念は、引用商標から生ずる称呼、観念と同一である。本件商標と引用商標の外観は「hifi」の有無の点で相違するものの、かかる相違が前記称呼及び観念の同一性を凌駕するとは決していえない。むしろ、本件商標の「gpt」が引用商標に通ずる(同一の欧文字から成り、両者の差異は、大文字・小文字の微差にすぎない。)から、両商標は、外観上も類似する。 そうすると、本件商標と引用商標とは、外観において類似し、称呼及び観念を共通にするものであるから、両商標の外観、称呼、観念によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、本件商標は、商品又は役務の出所について誤認混同を生じさせるおそれのある類似の商標であると考えるのが相当である。 そして、本件指定商品等のうち、第9類「データ処理装置,コンピュータ,コンピュータ操作用プログラム(記憶されたもの),コンピュータ周辺機器,監視用コンピュータプログラム,コンピュータプログラム(記憶されたもの),コンピュータ用プログラム(電気通信回線を通じてダウンロードにより販売されるもの),未記録の身分証明書用磁気カード,コンピュータソフトウェア用アプリケーション(電気通信回線を通じてダウンロードにより販売されるもの),記録された又はダウンロード可能なコンピュータソフトウェアプラットフォーム,小型電子翻訳機,ダウンロード可能なアプリケーションソフトウェア」、第35類「コンピュータデータベースへの情報編集,コンピュータデータベースへの情報構築,コンピュータデータベース内のデータの更新及び保守,レジストリ内での情報の更新及び保守,商業用又は広告用情報の索引の編集」及び第42類「科学に関する研究,電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,コンピュータソフトウェアの設計,コンピュータソフトウェアの保守,コンピュータプログラムの複製,データ又は文書の物理媒体から電子媒体への変換,文書のデジタル変換(スキャニングによるもの),情報技術(IT)に関する助言(ソフトウェアプログラムのトラブルシューティング),ウェブサイト経由によるコンピュータ技術及びコンピュータプログラミングに関する情報の提供,コンピュータ技術に関する助言,オンラインによるアプリケーションソフトウェアの提供(SaaS),検索エンジンの提供,コンピュータソフトウェアの貸与,受託によるウェブサイトにおける情報インデックスの作成及び設計(情報技術の提供),データセキュリティに関する助言,電子商取引のための技術を利用したユーザー認証,シングルサインオンの技術を利用したオンラインソフトウェアアプリケーションのためのユーザー認証,コンピュータソフトウェアプラットフォームの提供(PaaS)」は、引用商標に係る指定商品等と類似する。 以上より、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当する。 (3)商標法第4条第1項第15号について 上記(1)イ(イ)で述べたとおり、「GPT」は、本件商標の出願日(令和5(2023)年7月4日)の前より現在に至るまで、OpenAI社の開発・提供に係る大規模言語モデルを表示するものとして、様々な分野における取引者、需要者の間で広く認識されており、本件商標を構成する「gpt」は、前記「GPT」に通ずるものである。 本件商標は、その構成中の「gpt」を要部とするものであり、そのため、本件商標と引用商標からは、同一の称呼「ジーピーティー」及び観念「OpenAI社の開発・提供に係る大規模言語モデル」が生じ、外観上も類似する。そのため、両商標の類似性の程度は高い。 「GPT」の語は、「グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼの略称。」等の意味も有するようであるが、それらの観念が我が国において親しまれているとは到底いえない。よって、「GPT」は、OpenAI社の商標として、一定程度の独創性を有するものであるといえる。 「GPT」は、OpenAI社の開発・提供に係る大規模言語モデルを表示する商標として広く知られているが、それは、コンピュータ、ソフトウェア等の分野に限られたものではない。甲第16号証の15、甲第19号証、甲第21号証ないし甲第25号証が示すとおり、「GPT」は広告、マーケティング、コンサルティング、ロゴ作成等にも活用されており、上記(2)で挙げた指定商品等以外の商品等とも、一定の関連性を有する。 以上を踏まえると、本件商標を、その指定商品等に使用した場合、これに接する取引者、需要者は、その商品又は役務が、あたかもOpenAI社又はOpenAI社と組織的若しくは経済的に何らかの関係がある者の業務に係る役務であるかのように、商品又は役務の出所について混同を生ずるおそれがあるというのが相当である。 以上より、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。 (4)商標法第4条第1項第19号について 上記(2)及び(3)で述べたとおり、本件商標は、引用商標に類似する。 また、上記(1)イ(イ)で述べたとおり、「GPT」は、本件商標の出願日(令和5(2023)年7月4日)前より現在に至るまで、OpenAI社の開発・提供に係る大規模言語モデルを表示するものとして、様々な分野における取引者、需要者の間で広く認識されている。 付言すると、「GPT」の周知著名性は、我が国に限られるものではなく、世界中で極めて広く知られ、活用されている。「GPT」モデルを基盤とするChatGPTは、リリース日から4日後の2022年12月4日には利用者が世界で100万人を超え、2か月後の2023年1月には1億人を突破したと言われている(甲26)。TikTokが1億人に到達するのに9ヶ月、LINEが19ヶ月、Instagramが30ヶ月かかったのに比べると、その普及スピードの驚異的な速さが分かる(甲26)。 「GPT」の周知著名性が本件商標の出願日前から現在に至るまで認められること、及び「GPT」には一定程度の独創性が認められることは、甲第35号証の1及び甲第35号証の2をはじめとし、特許庁も認めるところである(甲28)。 してみれば、本件商標については、不正の目的をもって使用するものである。 以上を踏まえると、本件商標は、OpenAI社の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内及び外国における需要者の間に広く認識されている引用商標と類似し、不正の目的をもって使用するものと考えるのが相当である。 以上より、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。 4 当審の判断 (1)引用商標の周知性について ア 申立人の主張及び提出された証拠によれば、以下のとおりである。 (ア)「GPT(Generative Pre−trained Transformer)」は、申立人であるOpenAI社の開発・提供にかかる大規模言語モデルの名称であり(甲16)、初期タイプである「GPT−1」が2018年6月にリリースされて以来、「GPT−2」(2019年2月リリース)、「GPT−3」(2020年6月リリース)、「GPT−3.5」(2022年3月リリース)、「GPT−4」(2023年3月リリース)と、新しいバージョンがリリースされている(甲15)。 (イ)「IT用語辞典e−Words」の「GPT【Generative Pre−trained Transformer】」の概要(2023年9月27日更新)には、申立人がGPTシリーズをベースに個別の分野や用途に特化した「CodeX」(プログラムコード)、「ProtoGPT2」(タンパク質配列)、「BioGPT」(医学文献)なども開発・提供していると記載されている(甲16の9)。 (ウ)申立人は、2023年3月にGPTを有料で各企業に開放し、これにより、自動で質問に答えるチャットボット(自動会話プログラム)のサービスを提供していた企業がGPTの導入を進めている(甲18)。 (エ)申立人が2022年11月に公開した、GPTを技術基盤とするAIチャットボットサービス「ChatGPT」は、公開2か月で世界のユーザー数が1億人に達し、2022年11月から2023年4月の国別の利用度合いは、米国、インドに次いで日本が3位であり、また、我が国において2023年4月に実施された調査によれば、ChatGPTの認知率は61.3%であった(甲26、甲27)。 イ 以上によれば、申立人は、2018年6月に、「GPT」と称する大規模言語モデルを開発し、以降、GPTの新しいバージョンのプログラムや、それを活用したプログラムなどに「GPT」の文字を含む名称を使用している実情はうかがい知ることができる。 そして、GPTの技術基盤を用いた「ChatGPT」は、その認知率や利用度合いなどから、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、需要者の間に一定程度知られていたとはいい得る。 しかしながら、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、引用商標が単独で使用された申立人の業務に係る商品及び役務についての我が国及び外国における市場占有率(販売シェア等)、売上高、宣伝広告の詳細など、使用の事実を量的に把握することができる資料は提出されておらず、客観的な使用事実に基づいて引用商標の使用状況を把握することができない。 そうすると、申立人提出の証拠によっては、引用商標「GPT」の文字のみが、申立人の業務に係る商品及び役務を表示するものとして、我が国及び外国の需要者の間に広く認識され、本件商標の登録出願時及び登録査定時に周知著名性を獲得していたとは認められない。 (2)商標法第4条第1項第11号該当性について ア 本件商標 本件商標は、上記1のとおり、「hifigpt」の欧文字を標準文字で表してなるところ、その構成文字は、同じ書体、同じ大きさ、等間隔に、まとまりよく一体的に表され、外観上、いずれかの文字部分が強調されて表現されているものではない。 そして、当該文字は、直ちに特定の意味を有しない一種の造語として看取されるものであって、全体が一連一体のものとして、取引者、需要者に理解されるというのが相当である。 また、特定の意味を有しない造語にあっては、我が国において広く親しまれている英語読み又はローマ字読みに倣って発音されるのが自然であり、全体としても格別冗長ではなく、よどみなく一連に称呼し得るから、当該欧文字より「ハイフィグプト」又は「ハイファイジーピーティー」の称呼を生ずるというのが相当である。 そうすると、本件商標は、その構成文字に相応して「ハイフィグプト」又は「ハイファイジーピーティー」の称呼を生じ、特定の観念を生じない。 イ 引用商標 引用商標は、上記2のとおり、「GPT」の欧文字を標準文字で表してなるところ、その構成文字に相応して、「ジーピーティー」の称呼を生じ、当該文字は、一般の辞書等に掲載されておらず、特定の意味合いをもって親しまれた語でもないから、特定の意味を有しない造語として理解される。 そうすると、引用商標は、その構成文字に相応して「ジーピーティー」の称呼を生じ、特定の観念を生じない。 ウ 本件商標と引用商標との類否について 本件商標と引用商標を比較すると、上記1並びに上記2のとおりの構成からなるところ、外観においては、「gpt」及び「GPT」の文字部分のつづりが共通するとしても、本件商標の構成中の「hifi」の文字部分が、語頭に位置し全体として一連一体のものと理解されることからすると、両者の全体の構成態様は、当該文字の有無の差異などにより、視覚上、異なる印象を与えるものであるから、外観上、相紛れるおそれはない。 次に、称呼においては、本件商標は「ハイフィグプト」又は「ハイファイジーピーティー」の称呼を生ずるのに対し、引用商標は、「ジーピーティー」の称呼を生ずるところ、両者は格別冗長な音構成ではなく、両者をそれぞれ一連に称呼しても語調語感が相違するから、相紛れるおそれはない。 そして、観念においては、本件商標と引用商標は、特定の観念は生じないから、観念において比較することはできない。 そうすると、本件商標と引用商標とは、観念において比較することはできないとしても、外観及び称呼において相紛れるおそれはなく、これらを総合的に勘案すると、両者は相紛れるおそれのない非類似の商標といえる。 なお、申立人は、本件商標の構成中「hifi」の文字部分は、「忠実に再現された音」等を想起させ、AI(人工知能)の分野においても普通に使用される語であるから、該文字が識別力を有したとしても、それは極めて弱い部分であり、他方、「gpt」の文字部分は、申立人の周知著名な「GPT」に通じ、商品又は役務の出所識別標識として取引者、需要者に強く支配的な印象を与えるから、これを要部として抽出し他人の商標と比較し商標の類否を判断することが許されるものであって、両者は外観において類似し、称呼及び観念を共通にする類似の商標である旨主張する。 しかしながら、本件商標と引用商標は、構成全体をもって、一種の造語と理解されるものであり、また、上記(1)のとおり、引用商標は、我が国の取引者、需要者の間に広く認識されていたとはいえないことからすると、本件商標の構成中の「gpt」の文字部分は、申立人の大規模言語モデルの名称を理解させるとはいえず、申立人の主張は採用できない。 エ 小括 以上のとおり、本件商標の指定商品及び指定役務が、引用商標の指定商品及び指定役務と同一又は類似であるとしても、本件商標と引用商標とは、非類似の商標であるから、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当しない。 (3)商標法第4条第1項第15号該当性について 引用商標は、上記(1)イのとおり、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る商品及び役務を表示するものとして、我が国における需要者の間に広く認識されているものではない。 また、本件商標と引用商標とは、上記(2)ウのとおり、相紛れるおそれのない非類似の商標であって、類似性の程度は低い。 そうすると、本件商標は、申立人の業務に係る商品及び役務に係る需要者をして、引用商標を連想又は想起させるものとは認められず、その商品及び役務が他人(申立人)又は同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係るものであるかのごとく、その商品及び役務の出所について混同を生じさせるおそれはない。 したがって、本件商標は、他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標ではないから、商標法第4条第1項第15号に該当しない。 (4)商標法第4条第1項第19号該当性 引用商標は、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、申立人の業務に係る商品及び役務を表示するものとして、我が国又は外国の需要者の間で広く認識されていたものとは認めることができないものであり、上記(2)ウのとおり、本件商標と引用商標は、非類似の商標である。 そして、申立人提出に係る証拠からは、本件商標の登録出願時及び登録査定時において、本件商標権者が引用商標にフリーライドするなど不正の目的をもって本件商標を使用するものであると認めるに足りる証拠は見いだせない。 そうすると、本件商標は、本件商標権者が引用商標の名声を毀損させることを認識し、あるいは、不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をもって使用するものとはいえない。 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。 (5)むすび 以上のとおり、本件商標は、商標法第4条第1項第11号、同項第15号及び同項第19号のいずれにも該当するものではなく、その登録は、同項に違反してされたものとはいえない。 他に本件商標の登録が商標法第43条の2各号に該当するというべき事情も見いだせないから、同法第43条の3第4項の規定に基づき、その登録を維持すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
別掲 |
別掲1(本件商標の指定商品及び指定役務) 第9類「データ処理装置,コンピュータ,コンピュータ操作用プログラム(記憶されたもの),コンピュータ周辺機器,インターネットを利用して受信し及び保存することができる画像ファイル,監視用コンピュータプログラム,コンピュータプログラム(記憶されたもの),コンピュータ用プログラム(電気通信回線を通じてダウンロードにより販売されるもの),未記録の身分証明書用磁気カード,携帯電話用のダウンロード可能な画像,コンピュータソフトウェア用アプリケーション(電気通信回線を通じてダウンロードにより販売されるもの),携帯電話用のダウンロード可能なエモティコン(絵文字),記録された又はダウンロード可能なコンピュータソフトウェアプラットフォーム,小型電子翻訳機,電子出版物(電気通信回線を通じてダウンロードにより販売されるもの),ダウンロード可能なビデオファイル,ダウンロード可能なアプリケーションソフトウェア」 第35類「広告,コンピュータネットワークにおけるオンラインによる広告,商業に関する情報の提供,事業の調査,競売の運営,コンピュータによるファイルの管理,コンピュータデータベースへの情報編集,コンピュータデータベースへの情報構築,コンピュータデータベース内のデータの更新及び保守,レジストリ内での情報の更新及び保守,商業用又は広告用情報の索引の編集,会計監査及び業務監査,事業に関する情報の提供,ウェブサイト経由による事業に関する情報の提供,事業の管理に関する助言,商品・役務の買い手及び売り手のためのオンライン市場の提供,マーケティング,販売促進のための検索エンジンの検索結果の最適化,商業用又は広告用のユーザーによるレビュー情報の提供,商業用又は広告用のユーザーによるランキング情報の提供」 第42類「科学に関する研究,工業デザインの考案,電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守,コンピュータソフトウェアの設計,コンピュータソフトウェアの保守,コンピュータプログラムの複製,データ又は文書の物理媒体から電子媒体への変換,文書のデジタル変換(スキャニングによるもの),情報技術(IT)に関する助言(ソフトウェアプログラムのトラブルシューティング),ウェブサイト経由によるコンピュータ技術及びコンピュータプログラミングに関する情報の提供,コンピュータ技術に関する助言,グラフィックアートデザインの考案,オンラインによるアプリケーションソフトウェアの提供(SaaS),検索エンジンの提供,コンピュータソフトウェアの貸与,受託によるウェブサイトにおける情報インデックスの作成及び設計(情報技術の提供),データセキュリティに関する助言,電子商取引のための技術を利用したユーザー認証,シングルサインオンの技術を利用したオンラインソフトウェアアプリケーションのためのユーザー認証,コンピュータソフトウェアプラットフォームの提供(PaaS)」 別掲2(引用商標の指定商品及び指定役務) 第9類「言語モデルを利用するためのダウンロード可能なコンピュータプログラム及びコンピュータソフトウェア,人語の人工生産用のダウンロード可能なコンピュータプログラム及びコンピュータソフトウェア,自然言語の処理・生成・理解・分析用のダウンロード可能なコンピュータプログラム及びコンピュータソフトウェア,機械学習に基づく言語及び音声処理用のダウンロード可能なコンピュータプログラム及びコンピュータソフトウェア,ある言語から他の言語への文章及び音声の翻訳用のダウンロード可能なコンピュータプログラム及びコンピュータソフトウェア,機械学習・予測分析・言語モデル構築を目的とするデータセット共有用のダウンロード可能なコンピュータプログラム及びコンピュータソフトウェア,音声データファイルの文章への変換用のダウンロード可能なコンピュータプログラム及びコンピュータソフトウェア,音声認識用のダウンロード可能なコンピュータプログラム及びコンピュータソフトウェア,文章作成及び生成用のダウンロード可能なコンピュータプログラム及びコンピュータソフトウェア,データに接することにより分析・分類・作用することを習得できるアルゴリズムの開発・運用・分析用のダウンロード可能なコンピュータプログラム及びコンピュータソフトウェア,人工ニューラルネットワークの開発・実装用のダウンロード可能なコンピュータプログラム及びコンピュータソフトウェア」 第42類「言語モデルを利用するためのダウンロード不可能なソフトウェアを特徴とするオンラインによるアプリケーションソフトウェアの提供(SaaS),オンラインによるダウンロード不可能な人語の人工生産用コンピュータソフトウェアの提供,オンラインによるダウンロード不可能な自然言語の処理・生成・理解・分析用コンピュータソフトウェアの提供,オンラインによるダウンロード不可能な機械学習に基づく言語及び音声処理用コンピュータソフトウェアの提供,オンラインによるダウンロード不可能なある言語から他の言語への文章及び音声の翻訳用コンピュータソフトウェアの提供,オンラインによるダウンロード不可能な機械学習・予測分析・言語モデル構築を目的とするデータセット共有用コンピュータソフトウェアの提供,オンラインによるダウンロード不可能な音声データファイルの文章への変換用コンピュータソフトウェアの提供,オンラインによるダウンロード不可能な音声認識用コンピュータソフトウェアの提供,オンラインによるダウンロード不可能な文章作成及び生成用コンピュータソフトウェアの提供,オンラインによるダウンロード不可能なデータに接することにより分析・分類・作用することを習得できるアルゴリズムの開発・運用・分析用コンピュータソフトウェアの提供,オンラインによるダウンロード不可能な人工ニューラルネットワークの開発・実装用コンピュータソフトウェアの提供,アプリケーションプログラミングインターフェース(API)ソフトウェアを特徴とするアプリケーションサービスプロバイダによるコンピュータソフトウェアの提供,人工知能に関する研究・開発,コンピュータプログラム及びコンピュータソフトウェアの研究・設計・開発」 (この書面において著作物の複製をしている場合の御注意) 本複製物は、著作権法の規定に基づき、特許庁が審査・審判等に係る手続に必要と認めた範囲で複製したものです。本複製物を他の目的で著作権者の許可なく複製等すると、著作権侵害となる可能性がありますので、取扱いには御注意ください。 |
異議決定日 | 2024-12-05 |
出願番号 | 2023074318 |
審決分類 |
T
1
651・
261-
Y
(W093542)
|
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
旦 克昌 |
特許庁審判官 |
小林 裕子 大島 康浩 |
登録日 | 2024-02-26 |
登録番号 | 6781693 |
権利者 | 北京金堤科技有限公司 |
商標の称呼 | ハイフィプト、ヒフィプト、ハイフィグプト、ヒフィグプト、フィプト、フィグプト |
代理人 | 北口 貴大 |
代理人 | 亀山 夏樹 |
代理人 | 篠森 重樹 |